(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】データ補正装置、測定システム、プログラム、および補正方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/34 20200101AFI20240424BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240424BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20240424BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
G01S17/34
G01B11/00 B
G01B11/24 A
G01C3/06 120Z
(21)【出願番号】P 2020145594
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大希
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184967(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153453(WO,A1)
【文献】特開2020-046368(JP,A)
【文献】特表2019-537012(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0064116(US,A1)
【文献】特許第3583906(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
G01S 13/00 - 13/95
G01S 17/00 - 17/95
G01B 11/00
G01C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調レーザ光を用いて基準位置から計測対象物までの距離を測定する測定装置であって、前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ前記距離を定期的に測定可能な前記測定装置から、前記距離の第1測定結果が時系列に並び、かつ前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した第2測定結果が前記第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記測定データを前記測定装置の測定結果の時間微分に基づく漸化式に適用して、前記測定データに含まれている前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させたことに基づく誤差を補正する補正部と
を備える、データ補正装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記測定装置が用いる前記周波数変調レーザ光の単位時間当たりの周波数の変化率に基づくチャープレートの正負に対応して、異なる漸化式を用いる、請求項1に記載のデータ補正装置。
【請求項3】
前記チャープレートが負の場合、
前記取得部は、前記第2測定結果が前記第1測定結果の先頭に配置された前記測定データを取得し、
前記補正部は、前記取得部が取得した時系列に並ぶ前記測定データを時系列に並ぶ順に補正する漸化式を用いる、
請求項2に記載のデータ補正装置。
【請求項4】
前記チャープレートが正の場合、
前記取得部は、前記第2測定結果が前記第1測定結果の末尾に配置された前記測定データを取得し、
前記補正部は、前記取得部が取得した時系列に並ぶ前記測定データを時系列に並ぶ順の逆順に補正する漸化式を用いる、
請求項2に記載のデータ補正装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した前記第2測定結果が先頭からm個または末尾からm個の第2データとして配置されるように、前記測定データを取得し、
前記補正部は、m個の前記第2データと前記第1測定結果に含まれているp個の第1データとを含む前記測定データを前記漸化式に適用して、p個の前記第1データに含まれている前記誤差を補正する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のデータ補正装置。
【請求項6】
基準位置から前記計測対象物までの前記距離を測定する前記測定装置であって、
前記周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光を、前記周波数変調レーザ光の一部の参照光と、残りの少なくとも一部の測定光とに分岐させる分岐部と、
前記測定光を前記計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、
前記周波数解析部が前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記基準位置および前記計測対象物の間の前記距離を算出する算出部と
を備える前記測定装置と、
請求項1から5のいずれか一項に記載の前記データ補正装置と
を備え、
前記測定装置は、前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ前記距離を定期的に測定した前記第1測定結果が時系列に並び、かつ前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した前記第2測定結果が前記第1測定結果の先頭または末尾に配置された前記測定データを生成する、測定システム。
【請求項7】
コンピュータにより実行されると、前記コンピュータを請求項1から5のいずれか一項に記載の前記データ補正装置として機能させる、プログラム。
【請求項8】
コンピュータが実行する、
周波数変調レーザ光を用いて基準位置から計測対象物までの距離を測定する測定装置から、前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち、少なくとも一方を移動させつつ前記距離を定期的に測定した第1測定結果が時系列に並び、かつ前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した第2測定結果が前記第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを取得するステップと、
前記測定データを前記測定装置の測定結果の時間微分に基づく漸化式に適用して、前記測定データに含まれている前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させたことに基づく誤差を補正するステップと
を有する補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ補正装置、測定システム、プログラム、および補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する周波数シフト帰還レーザ(FSFL:Frequency Shifted Feedback Laser)が知られている。また、このような周波数シフト帰還レーザを用いた光学式の距離計が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】原武文,「FSFレーザによる距離センシングとその応用」,オプトニューズ,Vol.7,No.3,2012年,pp.25-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学式距離計は、周波数シフト帰還レーザを参照光と測定光とに分岐して、測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と参照光とを混合してビート信号を発生させていた。そして、光学式距離計は、ビート信号の周波数を特定することにより、当該光学式距離計から計測対象物までの距離を測定していた。このような光学式距離計で、例えば、計測対象物を移動させながら距離の測定を継続させることで、計測対象物の三次元形状を測定することができる。しかしながら、光は波の性質を有し、光源と計測対象物との間の相対的な速度によってドップラーシフトが生じるので、計測対象物から反射された反射光の周波数が変化してしまうことがある。この場合、ビート信号の周波数が変化してしまうので、光学式距離計の測定精度が低下してしまうという問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、光学式距離計で測定精度が低下することを抑制しつつ計測対象物の三次元形状を容易に測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、周波数変調レーザ光を用いて基準位置から計測対象物までの距離を測定する測定装置であって、前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ前記距離を定期的に測定可能な前記測定装置から、前記距離の第1測定結果が時系列に並び、かつ前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した第2測定結果が前記第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを取得する取得部と、前記取得部が取得した前記測定データを前記測定装置の測定結果の時間微分に基づく漸化式に適用して、前記測定データに含まれている前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させたことに基づく誤差を補正する補正部とを備える、データ補正装置を提供する。
【0008】
前記補正部は、前記測定装置が用いる前記周波数変調レーザ光の単位時間当たりの周波数の変化率に基づくチャープレートの正負に対応して、異なる漸化式を用いてもよい。
【0009】
前記チャープレートが負の場合、前記取得部は、前記第2測定結果が前記第1測定結果の先頭に配置された前記測定データを取得し、前記補正部は、前記取得部が取得した時系列に並ぶ前記測定データを時系列に並ぶ順に補正する漸化式を用いてもよい。
【0010】
前記チャープレートが正の場合、前記取得部は、前記第2測定結果が前記第1測定結果の末尾に配置された前記測定データを取得し、前記補正部は、前記取得部が取得した時系列に並ぶ前記測定データを時系列に並ぶ順の逆順に補正する漸化式を用いてもよい。
【0011】
前記取得部は、前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した前記第2測定結果が先頭からm個または末尾からm個の第2データとして配置されるように、前記測定データを取得し、前記補正部は、m個の前記第2データと前記第1測定結果に含まれているp個の第1データとを含む前記測定データを前記漸化式に適用して、p個の前記第1データに含まれている前記誤差を補正してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、基準位置から前記計測対象物までの前記距離を測定する前記測定装置であって、前記周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光を、前記周波数変調レーザ光の一部の参照光と、残りの少なくとも一部の測定光とに分岐させる分岐部と、前記測定光を前記計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、前記周波数解析部が前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記基準位置および前記計測対象物の間の前記距離を算出する算出部とを備える前記測定装置と、第1の態様の前記データ補正装置とを備え、前記測定装置は、前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ前記距離を定期的に測定した第1測定結果が時系列に並び、かつ前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した第2測定結果が前記第1測定結果の先頭または末尾に配置された前記測定データを生成する、測定システムを提供する。
【0013】
本発明の第3の態様においては、コンピュータにより実行されると、前記コンピュータを第1の態様の前記データ補正装置として機能させる、プログラムを提供する。
【0014】
本発明の第4の態様においては、コンピュータが実行する、周波数変調レーザ光を用いて基準位置から計測対象物までの距離を測定する測定装置から、前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち、少なくとも一方を移動させつつ前記距離を定期的に測定した第1測定結果が時系列に並び、かつ前記計測対象物および前記測定装置が静止している状態で前記距離を測定した第2測定結果が前記第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを取得するステップと、前記測定データを前記測定装置の測定結果の時間微分に基づく漸化式に適用して、前記測定データに含まれている前記計測対象物と前記測定装置の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させたことに基づく誤差を補正するステップとを有する補正方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光学式距離計で測定精度が低下することを抑制しつつ計測対象物の三次元形状を容易に測定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る測定システム1000の構成例を計測対象物10と共に示す。
【
図2】本実施形態に係る測定装置100およびデータ補正装置400の構成例を示す。
【
図3】本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
【
図4】本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[測定システム1000の構成例]
図1は、本実施形態に係る測定システム1000の構成例を計測対象物10と共に示す。測定システム1000は、ドップラーシフトによる測定精度の低下を抑制しつつ、計測対象物10の三次元形状を測定する。測定システム1000は、測定装置100と、データ補正装置400とを備える。
【0018】
測定装置100は、基準位置から計測対象物10までの距離を光学的に測定する。そして、測定装置100は、計測対象物10と当該測定装置100の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ距離を定期的に測定して、計測対象物10の三次元的な形状を計測可能な装置である。ここで、基準位置は、例えば、測定装置100内部の位置である。基準位置は、一例として、距離を測定するために計測対象物10にレーザ光を照射する光ヘッド部140のレーザ光の出射端である。
【0019】
例えば、測定装置100は、光ヘッド部140が計測対象物10の表面を照射する位置を走査させるように、光ヘッド部140を移動させる。この場合、光ヘッド部140は、計測対象物10に対して平行に移動できるように設けられていることが望ましい。
【0020】
光ヘッド部140は、例えば、互いに直交するX方向、Y方向、およびZ方向に移動可能である。また、光ヘッド部140は、X方向、Y方向、およびZ方向のうち少なくとも1つの方向を軸として回転可能に設けられている。これに代えて、または、これに加えて、光ヘッド部140は、ミラー、レンズ等の光学部品が移動することにより、計測対象物10にレーザ光を照射する位置を走査させてもよい。
【0021】
これに代えて、または、これに加えて、測定装置100が移動可能に構成されていてもよい。この場合、測定装置100は、当該測定装置100を搭載する装置ステージを更に備え、装置ステージを移動させることにより、計測対象物10にレーザ光を照射する位置を走査する。装置ステージは、例えば、測定装置100をX方向、Y方向、およびZ方向に移動させる。また、装置ステージは、X方向、Y方向、およびZ方向のうち少なくとも1つの方向を軸として測定装置100を回転できてもよい。
【0022】
これに代えて、または、これに加えて、計測対象物10が移動可能であってもよい。この場合、測定装置100は、計測対象物10を搭載する対象物ステージを更に備え、対象物ステージを移動させることにより、計測対象物10にレーザ光を照射する位置を走査する。対象物ステージは、例えば、計測対象物10をX方向、Y方向、およびZ方向に移動させる。また、対象物ステージは、X方向、Y方向、およびZ方向のうち少なくとも1つの方向を軸としてステージを回転できてもよい。
【0023】
以上のように測定装置100は、計測対象物10と当該測定装置100の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させて計測対象物10に照射するレーザ光の位置を走査しつつ距離の測定を継続させることで、計測対象物10の三次元形状を測定する。そして、データ補正装置400は、測定装置100の測定結果を補正する。このような測定装置100およびデータ補正装置400の詳細について次に説明する。
【0024】
[測定装置100の構成例]
図2は、本実施形態に係る測定装置100およびデータ補正装置400の構成例を示す。測定装置100は、レーザ装置110と、分岐部120と、光サーキュレータ130と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、周波数解析部160と、算出部170と、表示部180と、制御部190とを備える。
【0025】
レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。レーザ装置110は、共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する。レーザ装置110は、一例として、周波数シフト帰還レーザである。周波数シフト帰還レーザについては後述する。
【0026】
分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光を、周波数変調レーザ光の一部の参照光と、残りの少なくとも一部の測定光とに分岐させる。分岐部120は、一例として、1入力2出力の光ファイバ型の光カプラである。
図2の例において、分岐部120は、測定光を光サーキュレータ130に供給し、参照光をビート信号発生部150に供給する。
【0027】
光サーキュレータ130は、複数の入出力ポートを有する。光サーキュレータ130は、例えば、一のポートに入力した光を次のポートから出力させ、当該次のポートから入力する光を更に次のポートから出力させる。
図2は、光サーキュレータ130が3つの入出力ポートを有する例を示す。この場合、光サーキュレータ130は、分岐部120から供給される測定光を光ヘッド部140に出力する。また、光サーキュレータ130は、光ヘッド部140から入力する光をビート信号発生部150へと出力する。
【0028】
光ヘッド部140は、光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10に向けて照射する。光ヘッド部140は、一例として、コリメータレンズを有する。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光をコリメータレンズでビーム状に調節してから出力する。
【0029】
また、光ヘッド部140は、計測対象物10に照射した測定光の反射光を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光をコリメータレンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合、光ヘッド部140は、共通の1つのコリメータレンズを有し、当該コリメータレンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。なお、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離をLとする。
【0030】
これに代えて、光ヘッド部140は、集光レンズを有してもよい。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10の表面に集光する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10の表面で反射した反射光の少なくとも一部を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光を集光レンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合においても、光ヘッド部140は、共通の1つの集光レンズを有し、当該集光レンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。
【0031】
ビート信号発生部150は、測定光を計測対象物10に照射して反射された反射光を光サーキュレータ130から受けとる。また、ビート信号発生部150は、分岐部120から参照光を受けとる。ビート信号発生部150は、光カプラ等を有し、反射光および参照光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、光電変換素子を有し、ビート信号を電気信号に変換して出力する。また、ビート信号発生部150は、反射光および参照光を直交検波してもよい。
【0032】
ここで、反射光は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離を往復しているので、参照光と比較して少なくとも距離2Lに応じた伝搬距離の差が生じることになる。レーザ装置110が出力する光は、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化するので、参照光および反射光の発振周波数は、当該伝搬距離の差に対応する伝搬遅延に応じた周波数差が生じる。ビート信号発生部150は、このような周波数差に対応するビート信号を発生させる。
【0033】
周波数解析部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数解析する。周波数解析部160は、例えば、ビート信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を周波数信号に周波数変換する。そして、周波数解析部160は、周波数変換した周波数信号を解析してビート信号の周波数を検出する。周波数解析部160は、例えば、ビート信号のピーク周波数を検出する。ここで、ビート信号の周波数をνBとする。
【0034】
算出部170は、周波数解析部160がビート信号を周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。算出部170は、ビート信号の周波数νBに基づき、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離Lを算出する。
【0035】
表示部180は、算出部170の算出結果を表示する。表示部180は、ディスプレイ等を有し、算出結果を表示してよい。また、表示部180は、記憶部等に算出結果を記憶させてもよい。表示部180は、ネットワーク等を介して外部に算出結果を供給してもよい。
【0036】
制御部190は、測定装置100内の各部を制御する。制御部190は、例えば、レーザ装置110を制御して、周波数変調レーザ光を出力させる。また、制御部190は、周波数解析部160および算出部170を制御して、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離Lを算出させる。制御部190は、表示部180を制御して距離Lの算出結果を表示させてもよい。また、制御部190は、データ補正装置400と測定データを授受してもよい。例えば、制御部190は、データ補正装置400に測定データを供給する。また、制御部190は、データ補正装置400が補正した測定データを受け取る。
【0037】
周波数解析部160、算出部170、および制御部190の少なくとも一部は、集積回路等で構成されていることが望ましい。周波数解析部160、算出部170、および制御部190の少なくとも一部は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、および/またはCPU(Central Processing Unit)を含む。また、周波数解析部160、算出部170、および制御部190は、一体に形成されていてもよい。このような制御部190は、記憶部を有する。
【0038】
記憶部は、周波数解析部160、算出部170、および制御部190が動作の過程で生成する、または動作の過程で利用する、中間データ、算出結果、設定値、閾値、およびパラメータ等を記憶してもよい。記憶部は、測定装置100内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0039】
記憶部は、CPU等が周波数解析部160、算出部170、および制御部190の少なくとも一部として動作する場合、周波数解析部160、算出部170、および制御部190として機能するOS(Operating System)、およびプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、コンピュータは、記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって、周波数解析部160、算出部170、および制御部190として機能する。
【0040】
記憶部は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等を更に備えてもよい。
【0041】
以上の測定装置100は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、参照光との間の周波数差を解析することにより、測定装置100および計測対象物10の間の距離Lを測定可能とする。即ち、測定装置100は、非接触および非破壊の光学式距離計を構成できる。
【0042】
[レーザ装置110の構成例]
図3は、本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
図3のレーザ装置110は、周波数シフト帰還レーザの一例を示す。レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、当該レーザ共振器内でレーザ光を発振させる。レーザ装置110のレーザ共振器は、周波数シフタ112と、増幅媒体114と、WDMカプラ116と、ポンプ光源117と、出力カプラ118とを含むレーザ共振器を有する。
【0043】
周波数シフタ112は、入力する光の周波数を略一定の周波数だけシフトする。周波数シフタ112は、一例として、音響光学素子を有するAOFS(Acousto-Optic Frequency Shifter)である。ここで、周波数シフタ112による周波数シフト量を+νsとする。即ち、周波数シフタ112は、共振器を周回する光の周波数を、1周回毎にνsだけ周波数が増加するようにシフトさせる。
【0044】
増幅媒体114は、ポンプ光が供給され、入力光を増幅する。増幅媒体114は、一例として、不純物が添加された光ファイバである。不純物は、例えば、エルビウム、ネオジウム、イッテルビウム、テルビウム、ツリウム等の希土類元素である。また、増幅媒体114は、WDMカプラ116を介してポンプ光源117からポンプ光が供給される。出力カプラ118は、共振器内でレーザ発振した光の一部を外部に出力する。
【0045】
即ち、
図3に示すレーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有するファイバリングレーザを構成する。レーザ装置110は、共振器内にアイソレータを更に有することが望ましい。また、レーザ装置110は、予め定められた波長帯域の光を通過させる光バンドパスフィルタを共振器内に有してもよい。このようなレーザ装置110が出力するレーザ光の周波数特性について次に説明する。
【0046】
図4は、本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図4は、時刻t
0においてレーザ装置110が出力するレーザ光の光スペクトルを左側に示す。当該光スペクトルにおいては、横軸が光強度、縦軸が光の周波数を示す。また、光スペクトルの複数の縦モードを番号qで示す。複数の縦モードの周波数は、略一定の周波数間隔で並ぶ。ここで、光が共振器を1周する時間をτ
RT(=1/ν
C)とすると、複数の縦モードは、次式のように1/τ
RT(=ν
C)間隔で並ぶことになる。なお、ν
0は、時刻t
0における光スペクトルの初期周波数とする。また、ν
Cは、レーザ共振器の共振周波数ν
cである。
【数1】
【0047】
図4は、レーザ装置110が出力する複数の縦モードの時間経過にともなう周波数の変化を右側に示す。
図4の右側においては、横軸が時間、縦軸が周波数を示す。即ち、
図4は、レーザ装置110が出力するレーザ光の周波数の時間的な変化を右側に示し、当該レーザ光の時刻t
0における瞬時周波数を左側に示したものである。
【0048】
レーザ装置110は、共振器内の光が共振器を1周する毎に、周波数シフタ112が周回する光の周波数をν
sだけ増加させる。即ち、時間がτ
RT経過する毎に、各モードの周波数はν
sだけ増加するので、周波数の時間変化dν/dtは、ν
s/τ
RTと略等しくなる。したがって、(数1)式で示した複数の縦モードは、時間tの経過に伴って、次式のように変化する。
【数2】
【0049】
[距離測定処理の詳細]
本実施形態に係る測定装置100は、(数2)式で示すような周波数成分を出力するレーザ装置110を用いて、例えば、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離Lを測定する。ここで、参照光および反射光の間の光路差が、距離Lを往復した距離2Lだけであり、距離2Lに対応する伝搬遅延をΔtとする。即ち、時刻tにおいて、測定光が計測対象物10から反射して戻ってきた場合、戻ってきた反射光は、時刻tよりも時間Δtだけ過去の周波数と略一致するので、次式で示すことができる。
【数3】
【0050】
一方、時刻tにおける参照光は、(数2)式と同様に次式で示すことができる。ここで、参照光をν
q’(t)とした。
【数4】
【0051】
ビート信号発生部150は、このような反射光および参照光を重畳させるので、(数3)式の複数の縦モードと(数4)式で示す複数の縦モードとの間の複数のビート信号が発生することになる。このようなビート信号の周波数をν
Bとすると、ν
Bは、(数3)式および(数4)式より次式で示すことができる。なお、Mを縦モード番号の間隔(=q-q’)とし、Δt=2L/c、c=c
0/n、1/τ
RT=ν
Cとした。なお、γ(=ν
S・ν
C)は周波数変調レーザ光の単位時間当たりの周波数の変化率に基づくパラメータであり、チャープレートと呼ぶ。また、nは空気の屈折率、c
0は真空長の光の速度である。また、簡単のため、M=0の場合について説明する。
【数5】
【0052】
(数5)式より、距離Lは、次式のように示される。
【数6】
【0053】
(数6)式より、ビート信号の周波数νBの観測結果から距離Lを算出できることがわかる。なお、間隔Mが0でない場合は、レーザ装置110の周波数シフト量νsを変化させた場合のビート信号の変化を検出することで、Mの値を特定して距離Lを算出することができる。このような間隔Mの判別方法は、特許文献1等に記載されているように既知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0054】
以上のように、測定装置100は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離Lを測定することができる。また、測定装置100は、距離Lに基準位置に対応するオフセット値を加算して、基準位置から計測対象物10までの距離を算出して出力してもよい。
【0055】
このような測定装置100を用いて、上述のように計測対象物10の三次元形状を測定することができる。しかしながら、レーザ光は波の性質を有するので、光ヘッド部140と計測対象物10との間の相対的な速度によってドップラーシフトが生じ、計測対象物10から反射された反射光の周波数が変化してしまうことがある。この場合、測定装置100は、上述のように、参照光と反射光との周波数差に基づいて距離を測定するので、反射光の周波数が変化すると測定精度が低下してしまう。
【0056】
一般的に、光の周波数のドップラーシフト量ν
Dは、次式のように示される。ここで、Vは光源と観測者との間の相対速度であり、光源と観測者とが近づく方向を正の値としている。また、λは光の波長である。
【数7】
【0057】
測定装置100は、周波数シフト帰還レーザを光ヘッド部140および計測対象物10の間を往復させているので、反射光の周波数のドップラーシフト量ν
Dは、次式のように示される。
【数8】
【0058】
ここで、ドップラーシフトが生じている場合のビート信号の周波数をν
B’とすると、ν
B’は次式で示される。
【数9】
【0059】
ここで、(数9)式に(数6)式および(数8)式を代入して整理することにより、次式を得る。ここで、L’はドップラーシフトの影響を受けた場合の測定装置100の測定結果を示し、k=2c
0/λnγとした。
【数10】
【0060】
以上のように、計測対象物10と測定装置100の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させて、測定装置100による距離の測定を実行すると、測定結果にはドップラーシフトに基づく誤差が含まれてしまうことがわかる。このような誤差を低減すべく、計測対象物10、測定装置100の少なくとも一部等の移動速度を検出し、検出結果に基づいてドップラーシフト量を算出して補正することが考えられる。しかしながら、測定装置100が速度計等を更に搭載することはコストが上がり、装置規模が増加してしまう。
【0061】
[データ補正装置400の構成例]
そこで、本実施形態に係るデータ補正装置400は、速度系統の測定結果を用いることなく、ドップラーシフトに基づく測定装置100の測定結果に含まれている誤差を補正する。データ補正装置400は、例えば、測定装置100に組み込まれており、測定装置100と一体に形成されている。この場合、データ補正装置400は、制御部190等と同様に、集積回路等で構成されていることが望ましい。また、データ補正装置400は、制御部190等と一体に形成されていてもよい。この場合、例えば、測定装置100は、測定装置100の記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって、算出部170、制御部190、およびデータ補正装置400として機能する。
【0062】
これに代えて、データ補正装置400は、測定装置100とは別個独立の装置であってもよい。この場合、データ補正装置400は、プロセッサを有するコンピュータで構成されていることが望ましい。データ補正装置400は、
図1に示すように、取得部410と、記憶部420と、補正部430とを備える。
【0063】
取得部410は、測定装置100が計測対象物10と当該測定装置100の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ、基準位置から計測対象物10までの距離を定期的に測定した測定データを取得する。なお、測定装置100が距離を測定する時間間隔をΔtとする。また、測定装置100が当該測定装置100および計測対象物10の相対位置を移動させた期間を含む測定期間中に、測定装置100が出力する距離の測定結果を第1測定結果とする。
【0064】
ここで、取得部410が取得する測定データの先頭および末尾の少なくとも一方のデータは、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離を測定した結果を示すデータとする。このように、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で測定装置100が距離を測定した結果を第2測定結果とする。そして取得部410は、第1測定結果が時系列に並び、かつ第2測定結果が第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを取得する。
【0065】
言い換えると、測定装置100は、計測対象物10と測定装置100の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させつつ距離を定期的に測定した第1測定結果が時系列に並び、かつ計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離を測定した第2測定結果が第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを生成する。取得部410は、このような測定データを測定装置100から取得してもよく、これに代えて、外部のデータベース等から取得してもよい。この場合、取得部410は、ネットワークを介してデータベースに接続されていることが望ましい。
【0066】
記憶部420は、データ補正装置400が動作の過程で生成する、および動作の過程で利用する、中間データ、算出結果、設定値、閾値、およびパラメータ等の少なくとも一部を記憶する。記憶部420は、例えば、取得部410が取得した測定データを記憶する。記憶部420は、データ補正装置400内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0067】
記憶部420は、CPU等が取得部410および補正部430の少なくとも一部として動作する場合、取得部410および補正部430として機能するOS(Operating System)、およびプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部420は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、コンピュータは、記憶部420に記憶されたプログラムを実行することによって、取得部410および補正部430として機能する。
【0068】
記憶部420は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等を更に備えてもよい。なお、記憶部420は、測定装置100の記憶部の少なくとも一部の機能を有してもよい。例えば、測定装置100とデータ補正装置400とが一体に形成されている場合、記憶部420は、測定装置100の記憶部として動作することが望ましい。
【0069】
[補正部430による誤差の補正例]
補正部430は、取得部410が取得した測定データを漸化式に適用して、測定データに含まれている計測対象物10と測定装置100の少なくとも一部とのうち少なくとも一方を移動させたことに基づく誤差を補正する。補正部430が用いる予め定められた漸化式について、説明する。一般に、関数f(x)のxについての微分は、前進差分法により次式のように近似できる。
【数11】
【0070】
また、関数f(x)のxについての微分は、後退差分法により次式のようにも近似できる。
【数12】
【0071】
(数11)式を用いることにより、n番目の距離の測定データL
nの時間微分データdL
n/dΔtは、次式のように示される。
【数13】
同様に、(数12)式を用いることにより、時間微分データdL
n/dΔtは、次式のように示される。
【数14】
【0072】
(数13)式および(数14)式をそれぞれ(数10)式に代入して整理することにより、次式を得る。
【数15】
【数16】
【0073】
ここで、チャープレートγ>0の場合、s=k/Δtとして(数15)式および(数16)式をそれぞれ整理することで次式を得る。なお、(数18)式は、n→n+1の置換を用いた結果を示す。
【数17】
【数18】
【0074】
補正部430は、(数17)式および(数18)式のように、測定装置100の測定結果の時間微分に基づく漸化式を用いて、測定データに含まれている誤差を補正する。(数17)式および(数18)式に示す漸化式は、n+1番目の距離の測定データLn+1を用いて、n番目の距離の測定データLnを補正するために用いられる式である。ある測定データの補正をするために、次の測定データが用いられるので、測定データのうち少なくとも最後の1点のデータは、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離を測定した第2測定結果であることが望ましい。
【0075】
言い換えると、チャープレートγが正の場合、取得部410は、第2測定結果が第1測定結果の末尾に配置された測定データを取得し、補正部430は、取得部410が取得した時系列に並ぶ測定データを時系列に並ぶ順の逆順に補正する漸化式を用いる。この場合、データ補正装置400は、測定装置100が全ての測定データを生成してから当該測定データを補正する。
【0076】
補正部430が(数17)式を漸化式として測定データを補正する場合のより具体的な例を次式に示す。なお、次式のL
n’は、第2測定結果である例を示す。
【数19】
【0077】
以上のように、本実施形態に係るデータ補正装置400は、測定データを予め定められている漸化式に適用することで、ドップラーシフトに基づく誤差を低減できる。したがって、データ補正装置400は、速度計等を用いることなく、簡便に誤差を低減できる。なお、第1測定結果には、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離を測定した測定結果、計測対象物10および測定装置100の相対速度の方向が変化した場合の測定結果等が含まれてもよいことは言うまでもない。
【0078】
以上のデータ補正装置400において、チャープレートγが正である例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、チャープレートγが負の場合(γ<0)、s=-k/Δtとして(数15)式および(数16)式をそれぞれ整理することで次式を得る。なお、(数20)式は、n→n-1の置換を用いた結果を示す。
【数20】
【数21】
【0079】
補正部430は、(数20)式および(数21)式のように、測定装置100の測定結果の時間微分に基づく漸化式を用いて、測定データに含まれている誤差を補正する。このように、補正部430は、測定装置100が用いる周波数変調レーザ光のチャープレートの正負に対応して、異なる漸化式を用いる。(数20)式および(数21)式に示す漸化式は、n-1番目の距離の測定データLn-1を用いて、n番目の距離の測定データLnを補正するために用いられる式である。ある測定データの補正をするために、一つ前の測定データが用いられるので、測定データのうち少なくとも最初の1点のデータは、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離を測定した第2測定結果であることが望ましい。
【0080】
言い換えると、チャープレートγが負の場合、取得部410は、第2測定結果が第1測定結果の先頭に配置された測定データを取得し、補正部430は、取得部410が取得した時系列に並ぶ測定データを時系列に並ぶ順に補正する漸化式を用いる。この場合、データ補正装置400は、例えば、測定装置100が全ての測定データを生成してから当該測定データを取得して補正する。
【0081】
これに代えて、測定装置100は距離を測定しつつ測定結果を生成し、データ補正装置400は、測定装置100が生成済みの測定結果を取得して順次補正してもよい。これにより、データ補正装置400は、測定装置100が複数回の距離の測定をしている間に測定結果を順次補正することができるので、測定開始から補正結果を出力するまでの間の時間を短縮することができる。
【0082】
補正部430が(数21)式を漸化式として測定データを補正する場合のより具体的な例を次式に示す。なお、次式のL
1’は、第2測定結果である例を示す。
【数22】
【0083】
以上の本実施形態に係るデータ補正装置400は、(数13)式および(数14)式に示す時間微分データdL
n/dΔtに基づく漸化式を用いる例を説明したが、これに限定されることはない。データ補正装置400は、m次精度差分法を用いて時間微分データdL
n/dΔtを近似の精度をより高くしてもよい。m次精度差分法は、関数f(x)のxについての微分を次式のように近似する。
【数23】
または
【数24】
【0084】
係数(a0,a1,・・・,am,b)の組み合わせは一般的に知られており、例えば、m=2の場合、(-3,4,-1,2)である。補正部430は、(数23)式および(数24)式に基づく漸化式を用いることにより、ドップラーシフトによる誤差をより精度よく補正できる。(数23)式および(数24)式に基づく漸化式は、上述のように、チャープレートγの正負に対応して、それぞれ異なる漸化式となる。
【0085】
例えば、チャープレートγが正の場合、対応する漸化式は、(数23)式を(数10)式に代入して整理することで次式のように示される。ここで、s=k/Δtとした。
【数25】
【0086】
また、チャープレートγが負の場合、対応する漸化式は、(数24)式を(数10)式に代入して整理することで次式のように示される。ここで、s=-k/Δtとした。
【数26】
【0087】
以上のm次精度差分法を用いる場合、取得部410は、第2測定結果が先頭からm個または末尾からm個の第2データとして配置されるように、測定データを取得する。例えば、測定装置100は、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離をm回測定して、m個の第2データが第1測定結果の先頭または末尾に配置された測定データを生成する。そして、取得部410は、このような測定データを取得する。
【0088】
より具体的には、チャープレートγが正の場合、取得部410は、m個の第2データが第1測定結果の末尾に配置された測定データを取得し、補正部430は、取得部410が取得した時系列に並ぶ測定データを時系列に並ぶ順の逆順に補正する漸化式を用いる。また、チャープレートγが負の場合、取得部410は、m個の第2データが第1測定結果の先頭に配置された測定データを取得し、補正部430は、取得部410が取得した時系列に並ぶ測定データを時系列に並ぶ順に補正する漸化式を用いる。
【0089】
補正部430が(数25)式を漸化式として測定データを補正する場合のより具体的な例を次式に示す。なお、次式は、m=2とし、次式のL
n’およびL
n-1’は、第2測定結果である例を示す。
【数27】
【0090】
補正部430が(数26)式を漸化式として測定データを補正する場合のより具体的な例を次式に示す。なお、次式は、m=2とし、次式のL
1’およびL
2’は、第2測定結果である例を示す。
【数28】
【0091】
なお、測定装置100は、計測対象物10および測定装置100が静止している状態で距離をm回未満のm’回だけ測定して(0<m’<m)、m’個の第2データを含む測定データを生成してもよい。この場合、取得部410は、例えば、m’個の第2データに含まれているデータをm-m’個だけ複製し、合計m個のデータを第1測定結果の先頭または末尾に配置した測定データを生成する。
【0092】
ここで、測定装置100は、p個の第1データを含む第1測定データの末尾に1個の第2データを配置した測定データを生成する例を説明する。この場合、制御部190は、1個の第2データが測定データの末尾に位置することを取得部410に通知してもよい。取得部410は、1+p個のデータを含む測定データを測定装置100から取得し、末尾の1個の第2データを4個だけ複製し、合計5個の第2データを第1測定結果の末尾に配置した5+p個のデータを含む測定データを生成する。
【0093】
これにより、補正部430は、m(=5)個の第2データと第1測定結果に含まれているp個の第1データとを含む測定データを(数25)式のm=5とした場合の漸化式に適用して、p個の第1データに含まれている誤差を補正できる。言い換えると、測定装置100が第2測定結果に含まれる第2データの個数を2以上に増加させなくても、データ補正装置400は、第2データを複製することにより、m次精度差分法を用いてより補正の精度を高めることができる。
【0094】
補正部430は、補正した測定データを測定装置100に供給する。測定装置100は、補正後の測定データを表示部180に表示する。また、データ補正装置400は、表示装置を更に備え、補正した測定データを表示してもよい。
【0095】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0096】
10 計測対象物
100 測定装置
110 レーザ装置
112 周波数シフタ
114 増幅媒体
116 WDMカプラ
117 ポンプ光源
118 出力カプラ
120 分岐部
130 光サーキュレータ
140 光ヘッド部
150 ビート信号発生部
160 周波数解析部
170 算出部
180 表示部
190 制御部
400 データ補正装置
410 取得部
420 記憶部
430 補正部
1000 測定システム