(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ダイヤモンドの加工方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20240425BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20240425BHJP
【FI】
C30B29/04 V
C01B32/28
(21)【出願番号】P 2020093193
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物 2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会 予稿集「20p-E312-1」,発行日 2019年9月4日 2.集会名 2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会,開催日 令和1年9月20日,開催場所 北海道大学 札幌キャンパス(北海道札幌市北区北8条西5丁目 3.刊行物 The 2nd International Forum on Quantum Metrology and Sensing PROCEEDINGS,第40ページ 4.集会名 The 2nd International Forum on Quantum Metrology and Sensing,開催日 令和1年12月17日,開催場所 京都ブライトンホテル(京都府京都市上京区仕丁町330新町通中立売下る) 5.刊行物 Hasselt Diamond Workshop 2020-SBDD XXV 予稿集,発行日 令和2年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 翼
(72)【発明者】
【氏名】莨谷 平
(72)【発明者】
【氏名】長井 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇斗
(72)【発明者】
【氏名】坂内 和斗
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宙光
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-281488(JP,A)
【文献】特開2000-281489(JP,A)
【文献】特開2018-140354(JP,A)
【文献】特表昭56-500371(JP,A)
【文献】特開2017-092356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C01B 32/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が所定の構造に形成された炭素固溶性基材をダイヤモンドの表面に接触させた状態で加熱することで、
前記ダイヤモンドの表面に前記炭素固溶性基材の表面構造が転写成形される
ものであり、
前記加熱は不活性ガス又は真空下、所定の濃度の水素ガス又は/及び水蒸気が含有された状態で行われ、
前記炭素固溶性基材は水素含有不活性ガス中にて表面を還元処理したニッケル基材であることを特徴とするインプリントによるダイヤモンドの加工方法。
【請求項2】
前記加熱は800~1200℃の範囲であることを特徴とする請求項1記載のインプリントによるダイヤモンドの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドの加工方法に関し、特にインプリント技術を応用した加工方法に係る。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物質の中で最も硬い分類に属し、所望する形状や構造への加工が難しい。
ダイヤモンドは大きなバンドギャップを有するために半導体材料として優れていることから、各種半導体・量子デバイス、センサーへの応用が期待されている。
また、宝飾品としての高い価値も有している。
このようなニーズから、ダイヤモンドの精度が高く、安価な加工方法が期待されている。
従来、ダイヤモンドを半導体デバイスとしてパターニングを行う場合に、ダイヤモンドの表面を所定のパターンにマスキングし、プラズマ等によりドライエッチングする方法が行われている。
しかしながら、特殊な装置が必要で高価であるとともに、マスキングパターンを垂直方向にエッチングすることが難しいために加工精度も高くない。
例えば、特許文献1に誘導結合プラズマエッチング方法を開示するが、同技術もエッチング技術であることから上記と同様の技術的課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、加工精度が高く、低コスト化が可能なインプリントによるダイヤモンドの加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るインプリントによるダイヤモンドの加工方法は、表面が所定の構造に形成された炭素固溶性基材をダイヤモンドの表面に接触させた状態で加熱することで、前記ダイヤモンドの表面に前記炭素固溶性基材の表面構造が転写成形されることを特徴とする。
【0006】
ここで、炭素固溶性基材とは、ダイヤモンドの表面に接触させた状態で加熱すると接触部でダイヤモンドを構成する炭素を固溶化し、固溶エッチングが進行する基材をいう。
このような炭素固溶性基材としては、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、クロム、銅及びそれらの酸化物又は合金等が例として挙げられる。
その中でもニッケルは、炭素の最大固溶濃度が2.7at%と高く、高温でも炭化物を形成しにくい優れた性質を有している。
ダイヤモンドの表面に接触した基材への炭素固溶を促進するには、800℃以上の加熱が好ましい。
加熱温度が高い方が固溶化反応は速くなるが、高温になり過ぎると基材の表面に炭化物が形成され易く、逆に固溶化の阻害要因となるため1200℃以下が好ましい。
【0007】
加熱は、基材の炭化を抑えるために不活性ガス又は真空下において行うのが好ましい。
不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が例として挙げられ、真空下とは、ダイヤモンドの表面の固溶化に影響を与えない範囲に減圧されていることをいう。
ダイヤモンドの表面の固溶化に伴い、この表面にグラファイト層が形成されるため、ダイヤモンドの加工後に熱混酸でこのグラファイト層を除去洗浄してもよい。
また、不活性ガス又は真空下で加熱する際に加熱雰囲気中に2~10vol%の水素ガスを含有させると、グラファイトをメタンガスとして除去させることもできる。
また、この加熱雰囲気中に水蒸気を2~10vol%含有させると、ニッケル基材の表面に酸化膜を形成し、これがニッケル中の固溶炭素と反応することで一酸化炭素又は/及び二酸化炭素として除去することができる。
なお、不活性ガス中の場合は、大気圧又はそれ以上の圧力でもよく、固溶エッチングが促進される。
【0008】
本発明において、炭素固溶性基材は、ニッケル、鉄、コバルト及びチタン、クロム、銅及びそれらの酸化物又は合金のうちいずれかであることが好ましい。
これらの炭素固溶性基材は、ダイヤモンドよりもはるかに加工しやすく、インプリント成形のいわば転写鋳型としてデバイスパターンや複雑な微細構造に加工ができる。
また、宝飾ダイヤモンドとしての転写鋳型形状に加工することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ニッケル等の基材による炭素固溶反応を利用して、基材の表面に形成した構造にならってダイヤモンドの表面が固溶化及びエッチングされるため、基材の表面構造が精度高く転写成形される。
本発明は、不活性ガス下又は真空下で加熱できる加熱装置があればよく、従来のプラズマ装置よりも構造が簡単で大型化も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図1の基材の構造を転写したダイヤモンド表面構造例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るインプリントによるダイヤモンドの加工方法の実施例を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
図1に、ニッケル基材を用いて表面に微小の凹部形状を形成した転写鋳型の例を示す。
本実施例では、ニッケル基材の表面を水素含有アルゴンガス下で約1100℃、約10分の還元処理を行った。
次に、
図1に示したニッケル基材の上にダイヤモンドの表面が重なるように積み重ね、その上に所定の重さの重しを乗せ、適度にニッケル基材の表面とダイヤモンドの接触状態が維持されるようにした。
この状態で赤外線加熱方式のアニール炉に投入し、不活性ガスとしてアルゴンガスを用いて水素ガスを約4vol%混合させた。
図2に、約800℃以上1200℃以下の範囲に加熱し、所定時間経過後に炉から取り出し、ニッケル基材を取り外したダイヤモンドの表面写真を示す。
図1に示したニッケル基材の表面構造が精密に転写されているのが分かる。