(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ビニル化合物およびビニルポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 20/60 20060101AFI20240425BHJP
C08F 20/36 20060101ALI20240425BHJP
C07D 263/57 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C08F20/60
C08F20/36
C07D263/57 CSP
(21)【出願番号】P 2020023375
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/200394(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/200401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/60
C08F 20/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1
)で表されるビニル化合物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R
1~
R
4
は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、mは、1~13の整数を
表す。)
【請求項2】
下記式(1a-1)
または(1a-2
)で表される請求項1記載のビニル化合物。
【化2】
(式中、R
およびmは、上記と同じである。)
【請求項3】
請求項1記載のビニル化合物を付加重合させてなる下記式(3
)で表される繰り返し単位を有するビニルポリマー。
【化3】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R
1~
R
4
は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、mは、1~13の整数を
表す。)
【請求項4】
下記式(3a-1)
または(3b-1
)で表される繰り返し単位を有する請求項3記載のビニルポリマー。
【化4】
(式中、R
およびmは、上記と同じである。)
【請求項5】
請求項3または4記載のビニルポリマーからなるフィルム。
【請求項6】
請求項5記載のフィルムの液晶構造を固定化させてなる放熱フィルム。
【請求項7】
下記式(2)で表されるビニル化合物を付加重合させてなる下記式(4)で表される繰り返し単位を有するビニルポリマーからなるフィルムの液晶構造を固定化させてなる放熱フィルム。
【化5】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R
1
~R
8
は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、nは、2~14の整数を表す。)
【化6】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R
1
~R
8
は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、nは、2~14の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾオキサゾール構造単位を有するビニルモノマーおよびこれをラジカル重合して得られ、良好な熱伝導性を有するビニルポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・光学機器の小型化、高性能化に伴い、高密度集積回路や発光ダイオード等の各種半導体素子から発生する熱の放熱が重要な課題となっている。
【0003】
放熱が不十分な場合、半導体素子の温度が上昇し、例えば、高密度集積回路では大幅なエネルギー効率の低下や機能低下が生じるだけでなく、素子周辺の樹脂材料の発火による火災事故が発生するおそれもある。また、パーソナルコンピューター等のハードディスクを備えた装置では、放熱が不十分であると、ハードディスクの暴走といった電子デバイスに重大な悪影響を及ぼす現象が発生するおそれもある。
【0004】
電子基板上に実装された半導体素子から発生する熱量が非常に高い場合は、半導体素子の封止樹脂面から放熱シートを介してアルミニウム製ヒートシンクに放熱する方法や、場合によってはさらに冷却ファンを設置して効率的に放熱する場合がある。この場合、放熱シートは電気絶縁性である必要はないため、放熱シートに使用する樹脂中に高熱伝導性の金属フィラーやグラファイト等の炭素材料を分散させて放熱シートの熱伝導率を高める方法や、放熱シートとして高熱伝導性のグラファイトシートを用いる方法も採用できる。
【0005】
一方、基板上に実装された半導体素子から発生する熱を、熱伝導率が極めて高い銅配線や基板側へ放熱する経路もある。この場合、半導体素子と基板との間に挿入される放熱材料には、電子回路の電気的ショートを避けるために電気絶縁性が求められ、さらに加工性や柔軟性も必要となる。
【0006】
このような観点から、銅配線・基板側へ放熱するために使用される放熱材料は、元来電気絶縁性で柔軟性、加工性に優れた有機高分子材料(以下、単に高分子材料または樹脂材料と称する)が必然的に選択される。しかしながら、樹脂材料は、金属とは異なり自由電子を有していないため、熱に対しても通常は絶縁性である。このように電気絶縁性と熱伝導性を併せ持つ高分子材料を得ることは原理的に極めて困難である。
【0007】
電気絶縁性を確保しながら、熱伝導性を改善するための方策として、樹脂より高い熱伝導率を有する電気絶縁性無機フィラー(例えば、アルミナ等のセラミックス紛体)を樹脂中に分散させる方法がしばしば適用される。
【0008】
フィラー/樹脂複合フィルムの熱伝導率を高める方法としては、熱伝導率のできるだけ高いフィラーの使用、フィラー含有率の増加、および熱伝導率のできるだけ高いマトリックス樹脂の使用の3つの方法が挙げられるが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の高熱伝導性無機フィラーを用いたとしても、マトリックス材として熱伝導率の低い一般の高分子材料(熱伝導率λ=0.1~0.2W/(m・K))を用いた場合、フィラー/樹脂複合フィルムの熱伝導率増加に対する効果はあまり大きくないことが知られている(非特許文献1参照)。しかも、これらの高熱伝導性無機フィラーは非常に高価であり、コストの点で実用的なフィラーはアルミナにほぼ限定される。
【0009】
また、フィラーの含有率を増加する方法では、その含有率が高すぎると、フィラー/樹脂複合フィルムが急激に脆弱になるばかりか、フィラーがマトリックス樹脂から脱離して電子デバイスを汚染するおそれもあるため、この方法にも限界がある。
【0010】
一方、連続相であるマトリックス樹脂自身の熱伝導率を高める方策は、熱伝導率のより高いフィラーを選択する方法よりも、複合フィルムの熱伝導率向上に対する効果がはるかに高いことが知られている(非特許文献1参照)。この観点から、現在では、熱伝導率が少しでも高いマトリックス材として有機高分子素材の探索が広範囲で行われている。
【0011】
自由電子を持たない樹脂材料では、セラミック材料と同様に、格子振動(フォノン)によって熱が伝わると考えられている。ほとんどの合成樹脂は、結晶性が低いか完全な非晶性であり、熱伝導率も0.1~0.2W/(m・K)の低い値に留まっている。一方、高密度ポリエチレンは、樹脂材料の中で最も結晶性の高いものの1つであり、実際に非晶性樹脂よりはやや高い熱伝導率を示す。非特許文献2によれば、高密度ポリエチレンでは、ポリエチレンの密度、すなわち、結晶化度の増加に伴って熱伝導率も増加する。このように、熱伝導は結晶のように秩序の高い相において有利となることから、液晶相においても非晶相より熱伝導が有利になることが期待される。
【0012】
また、非特許文献2、3によれば、ポリエチレンフィルムの一軸延伸倍率の増加と共に、延伸方向に沿った方向の熱伝導率は増加し、逆に延伸方向と垂直方向の熱伝導率は減少する。すなわち、高分子主鎖に沿った方向への熱伝導の方が、高分子鎖間の熱伝導よりもずっと有利であるといえる。この結果は、電場、磁場あるいは機械的流動場を印加して、当初ランダム配向であった結晶や液晶ドメインを一定方向、例えば、膜厚方向に揃えることができれば、膜厚方向の熱伝導率を飛躍的に高められることを示唆している。
【0013】
ところで、高分子繊維は高分子フィルムとは異なり、高分子鎖が一定方向に最大限配向しており、さらに結晶化度も最も高い状態にある。そのため、高分子繊維の延伸方向に沿った熱伝導率は、その高分子系における最大値となると推測されるので、各種高分子繊維の繊維方向熱伝導率を比較することで、熱伝導性に有利な化学構造についての情報を把握することは可能である。非特許文献4では、ポリエチレン、ケブラー、ポリベンゾチアゾール等の各種繊維材料の繊維方向熱伝導率を比較した結果、東洋紡(株)製の主鎖中にベンゾオキサゾール(BO)基を有するポリベンゾオキサゾール(PBO)繊維(ザイロン)が、これらの中で最も高い熱伝導率を示すことが報告されている。
【0014】
しかし、PBO繊維は熱ポリリン酸やメタンスルホン酸等の不揮発性の強酸にかろうじて溶けるのみで、通常の有機溶媒には全く不溶であり、また、それ自身溶融もしないため、フィルム状に成形することは容易ではない。ましてPBO繊維を膜厚方向に揃えてフィルム状に成形することは困難を極める。
【0015】
PBO繊維を用いる代わりに、PBOにサーモトロピック液晶性を付与し、流動性のある液晶形成温度で膜厚方向に強磁場を印加してPBO主鎖を膜厚方向に配向させ、膜厚方向熱伝導率を飛躍的に高める技術も公開されている(例えば、非特許文献5参照)。しかしながら、この液晶性PBO(主鎖型)では、剛直な構造単位(以下、メソゲンと称する)が主鎖中に共有結合により組み込まれているため、メソゲンの運動性に乏しく、必然的に溶融粘度や液晶転移温度が高くなるという問題があった。液晶転移温度が高すぎると、実際の放熱層形成工程条件が大きな制約を受けることになり、その材料を適用することが不可となる。
【0016】
一方、主鎖ではなく、側鎖にベンゾオキサゾール(BO)構造単位を有するビニルポリマーは、主鎖型の液晶性PBOに比べて主鎖および側鎖の屈曲性に富み、分子運動が許されているため溶融粘度が低く、液晶形成温度も主鎖型に比べて大幅に低減することが可能である。
【0017】
上記のBO基含有液晶性ビニルポリマーは、イオン種や金属成分を一切含まないため、優れた電気絶縁性を有する。さらに、液晶状態から室温に急冷して液晶構造を固定化することで、高い熱伝導性の発現も期待される。このため、BO基含有液晶性ビニルポリマーは、電気絶縁性放熱フィルムへの応用が期待される。しかしながら、BO構造を側鎖に含む液晶性ビニルポリマーはこれまで検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】高分子, 26, 557-561 (1977).
【文献】Polym. Eng. Sci, 12, 204-208 (1972).
【文献】Polymer, 19, 155-162 (1978).
【文献】Macromolecules. 46, 4937-4943 (2013).
【文献】Polym. Int., 60, 1240-1247 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、半導体素子等から発生する熱を放熱するための電気絶縁材料として有用なフィルムを与えるビニルポリマーの原料となるビニル化合物、および該ビニル化合物を重合させることにより得られるビニルポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、BO構造を有する特定のビニル化合物を重合させることにより得られる側鎖にBO構造を有するビニルポリマーが、液晶状態から室温に急冷して液晶構造を固定化することにより良好な熱伝導性を有する放熱フィルムを与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、下記のビニル化合物およびビニルポリマーを提供する。
1. 下記式(1)または(2)で表されるビニル化合物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R
1~R
8は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、mは、1~13の整数を表し、nは、2~14の整数を表す。)
2. 下記式(1a-1)、(1a-2)または(2-1)で表される1のビニル化合物。
【化2】
(式中、R、mおよびnは、上記と同じである。)
3. 1のビニル化合物を付加重合させてなる下記式(3)または(4)で表される繰り返し単位を有するビニルポリマー。
【化3】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R
1~R
8は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、mは、1~13の整数を表し、nは、2~14の整数を表す。)
4. 下記式(3a-1)、(3b-1)または(4-1)で表される繰り返し単位を有する3のビニルポリマー。
【化4】
(式中、R、mおよびnは、上記と同じである。)
5. 3または4のビニルポリマーからなるフィルム。
6. 5のフィルムの液晶構造を固定化させてなる放熱フィルム。
【発明の効果】
【0022】
本発明のBO基含有ビニル化合物を付加重合して得られるビニルポリマーは、良好な熱伝導性と電気絶縁性を有しているため、半導体素子等から発生する熱を銅配線・基板側に効率的に放熱することができる。このようなビニルポリマーは、半導体素子と基板との間に挿入する放熱材等として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係るビニル化合物は、下記式(1)または(2)で表される。
【0024】
【0025】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R1~R8は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、mは、1~13の整数を表し、nは、2~14の整数を表す。
【0026】
上記Rとしては、メチル基が好ましい。
【0027】
炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
炭素数1~6のハロアルキル基としては、上記アルキル基中の水素原子の少なくとも1つをハロゲン原子で置換した基等が挙げられる。なお、ハロゲン原子は、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素原子のいずれでもよい。中でも、フルオロアルキル基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましい。
【0029】
その具体例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、ノナフルオロブチル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキソキシ基等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、R1~R8としては、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、または炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子がより一層好ましい。
【0032】
上記mとしては、5~13の整数が好ましく、7~13の整数がより好ましく、9~13の整数がより一層好ましい。
【0033】
上記nとしては、4~12の整数が好ましく、5~11の整数がより好ましく、6~10の整数がより一層好ましい。
【0034】
式(1)で表されるビニル化合物の好適な態様としては、例えば、下記式(1-1)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【化6】
(式中、Rおよびmは、上記と同じである。)
【0035】
式(1)で表されるビニル化合物のより好適な態様としては、例えば、下記式(1a-1)および(1b-1)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
【化7】
(式中、Rおよびmは、上記と同じである。)
【0037】
式(1)で表されるビニル化合物の好適な具体例としては、例えば、下記式で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
【0039】
式(2)で表されるビニル化合物の好適な態様としては、例えば、下記式(2-1)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
【0041】
また、式(2)で表されるビニル化合物の好適な具体例としては、下記式(2-2)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0042】
【0043】
式(1)または(2)で表されるビニル化合物を付加重合させてなるビニルポリマーは、下記式(3)または(4)で表される繰り返し単位を含むものである。
【0044】
【0045】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R1~R8は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基を表し、mは、1~13の整数を表し、nは、2~14の整数を表す。
【0046】
上記Rとしては、メチル基が好ましい。
【0047】
炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基および炭素数1~6のアルコキシ基としては、上記で例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0048】
これらの中でも、R1~R8としては、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、または炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子がより一層好ましい。
【0049】
上記mとしては、5~13の整数が好ましく、7~13の整数がより好ましく、9~13の整数がより一層好ましい。
【0050】
上記nとしては、4~12の整数が好ましく、5~11の整数がより好ましく、6~10の整数がより一層好ましい。
【0051】
式(3)で表されるビニルポリマーの好適な態様としては、例えば、下記式(3-1)で表される繰り返し単位を含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0052】
【化12】
(式中、Rおよびmは、上記と同じである。)
【0053】
式(3)で表されるビニルポリマーのより好適な態様としては、例えば、下記式(3a-1)および(3b-1)で表される繰り返し単位を含むものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
【化13】
(式中、Rおよびmは、上記と同じである。)
【0055】
式(3)で表されるビニルポリマーの好適な具体例としては、下記式で表される繰り返し単位を含むものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
【0057】
式(4)で表されるビニルポリマーの好適な態様としては、例えば、下記式(4-1)で表される繰り返し単位を含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0058】
【0059】
また、式(4)で表されるビニルポリマーの好適な具体例としては、例えば、下記式(4-2)で表される繰り返し単位を含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0060】
【0061】
式(3)または(4)で表される繰り返し単位を含むビニルポリマーの重量平均分子量は、1,000~1,000,000が好ましく、5,000~100,000がより好ましく、10,000~50,000がより一層好ましい。重量平均分子量を下限以上とすることで、フィルムが著しく脆弱になることを避けることができ、上限以下とすることで、溶媒に対する溶解性が向上する。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0062】
本発明に係るビニルポリマーには、式(3)または(4)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでもよい。上記ビニルポリマーは、高い放熱性を有する薄膜を再現性よく得る観点から、式(3)または(4)で表される繰り返し単位は、全繰り返し単位中50~100mol%含まれることが好ましく、70~100mol%がより好ましく、90~100mol%がより一層好ましく、100mol%が最も好ましい。
【0063】
以下、本発明に係るビニル化合物の製造方法の例として、式(1-1)および(2-1)で表されるビニル化合物(モノマー)の製造方法について具体的に説明する。
【0064】
<BO基含有ビニル化合物(モノマー)の製造方法>
式(1-1)で表されるBO基含有ビニル化合物の製造方法は、特に限定されるものではないが、公知の方法を適用することができ、例えば、以下に示すようにして合成することできる。
【0065】
まず、4-アセトキシ安息香酸に触媒量のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、塩化チオニルで塩素化させることにより得られる式(5)で表される塩素化物と、式(6)で表される2-アミノ-5-ニトロフェノール(以下、2A5NPと称する)または2-アミノ-4-ニトロフェノール(以下、2A4NPと称する)とを、脱酸剤である塩基の存在下、0~50℃で2~12時間撹拌することでアミド化反応を行う。次に、得られたアミド化体に酸触媒を加えて溶媒の沸点で2~12時間還流してBO環を形成する閉環反応を行う。これにより、原理的には下記式(7)で表される化合物が得られる。この反応の際、この化合物中のアセトキシ基が酸触媒により大部分が加水分解を受けて、式(8)で表される化合物が生成するが、この加水分解生成物(ヒドロキシ体)は、次の反応工程に使用するものであるので、加水分解が起こっても何ら問題はない。
【0066】
なお、未加水分解物(式(7))と加水分解物(式(8))とが混在していても、そのまま次の工程に供することができるが、未加水分解物(式(7))が多い場合は、未加水分解物(式(7))と加水分解物(式(8))との混合物をアンモニア水溶液またはNaOH希薄水溶液で処理して加水分解を完結させてもよい。
【0067】
【0068】
続いて、式(8)で表される化合物と、1-ブロモアルカンを溶媒に溶かし、塩基の存在下、50~150℃で2~24時間還流して式(9)で表されるニトロ化合物が得られる。この化合物のニトロ基をアミノ基へ還元して式(10)で表されるアミン化合物が得られる。
【0069】
【0070】
次いで、式(10)で表されるアミン化合物と、式(11)で表される酸クロリドを脱酸剤の存在下でアミド化反応させることで、目的とする式(1-1)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)が得られる。
【化19】
(式中、Rおよびmは、上記と同じである。)
【0071】
式(5)および式(6)で表される出発原料よりアミド化反応を行う際に添加される塩基(酸受容剤)として有機3級アミンが使用可能である。このような有機3級アミンとしては、特に限定されるものではないが、ピリジン、ピコリン、キノリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。本発明では、毒性やコストの観点から、これらの中でも特にピリジンが好適に用いられる。
【0072】
また、上記(5)と(6)のアミド化反応と引き続いてBO環形成反応を行う際、使用可能な溶媒は、反応原料を十分に溶解するものであればよく、特に限定されるものではないが、BO環形成反応完結の観点から沸点は高いほど好ましい。上記溶媒の具体例としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明では、反応原料の溶解性や沸点の観点から、これらの中でも特にγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチル-2-ピロリドンが好適に用いられる。
【0073】
上記BO環形成反応の際には、反応を促進するために酸触媒を添加することができる。使用可能な酸触媒としては、特に限定されるものではないが、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ポリ燐酸等が挙げられる。これらの中でも特に、生成物の収率の観点から、p-トルエンスルホン酸が好適に用いられる。
【0074】
式(7)で表される化合物のアセトキシ基を加水分解する際に使用可能な溶媒は、非プロトン性で、添加する塩基を溶解するものであればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒の具体例としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明では、反応原料の溶解性や後工程での除去のしやすさの観点から、これらの中でも特にN,N-ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0075】
また、上記加水分解反応の際に使用可能な塩基は、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液のほか、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等の弱アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液等が挙げられる。本発明では、BO環の加水分解等の副反応を抑制するという観点から、これらの中でも特にアンモニア水溶液が好適に用いられる。
【0076】
加水分解を完結させて得られた式(8)で表される化合物を、適当な溶媒から再結晶して精製することもできるが、特に精製せずに次の工程に使用してもよい。
【0077】
式(8)で表される化合物と1-ブロモアルカンより、式(9)で表されるニトロ体を得るエーテル化反応の際に使用可能な溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点から、N,N-ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0078】
また、上記エーテル化反応の際に使用可能な塩基としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム等の弱塩基が挙げられる。
【0079】
得られたニトロ体は、適当な溶媒から再結晶して精製することができるが、特に精製せずに次の還元工程にそのまま使用してもよい。
【0080】
式(9)で表される化合物のニトロ基をアミノ基に変換して式(10)で表される化合物を得る還元反応の方法としては、公知の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。その方法としては、例えば、水素雰囲気中触媒としてPd/Cを用いる方法、塩酸酸性中スズ、亜鉛、鉄等の金属粉末用いる接触還元法や塩化スズ二水和物のエタノール溶液を用いる方法も適用可能である。反応効率や後処理のしやすさの観点から、水素雰囲気中触媒としてPd/Cを用いる方法が好適に用いられる。
【0081】
水素雰囲気中Pd/Cを触媒として行う上記接触還元反応の際に使用可能な溶媒としてはニトロ化合物が溶解するものであればよく、特に限定されるものではないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;γ-ブチロラクトン、酢酸エチル等のエステル系溶媒;トルエン、キシレン等が挙げられる。また、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明では、反応原料や生成物の溶解性や後工程における除去のしやすさの観点から、これらの中でも特にN,N-ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0082】
上記還元反応の際に使用する溶媒は、生成物であるアミン化合物に対しても高い溶解性を有していることが好ましい。溶解性が高い場合、還元反応終了後、反応溶液を室温に冷却してもアミン化合物が溶液中に溶けた状態が保持されるため、熱濾過して触媒を除去する必要がなくなり、触媒の濾過・分離が容易になる。
【0083】
得られたアミン化合物は必要に応じて適当な溶媒から再結晶して精製することができるが、特に精製せずにそのまま次のアミド化反応工程に使用してもよい。
【0084】
このアミン化合物と式(11)で表される酸クロリドとのアミド化反応の際に添加される塩基(酸受容剤)としては、特に限定されるものではないが、有機3級アミンが好ましい。上記有機3級アミンとしては、例えば、ピリジン、ピコリン、キノリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンが挙げられる。本発明では、毒性やコストの観点から、これらの中でも特にピリジンが好適に使用される。
【0085】
また、このアミド化反応で使用可能な溶媒は、反応原料を十分に溶解するものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明では、反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点から、これらの中でも特にテトラヒドロフランが好適に用いられる。
【0086】
次に、下記式(2-1)で表されるBO基含有ビニル化合物(アクリレートモノマー)の製造方法について説明する。
【0087】
【0088】
その製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、以下の方法により合成することできる。
【0089】
まず、下記式(5)で表される塩素化物と、下記式(12)で表される2-アミノフェノール(以下、2APと称する)を出発原料とし、式(8)で表される化合物を合成する方法と同様の方法、すなわち、アミド化、BO環形成反応および末端アセトキシ基の加水分解を行う。これにより、下記式(13)で表されるヒドロキシ体が得られる。
続いて、式(13)で表されるヒドロキシ体と、下記式(14)で表されるアクリレート化合物をエステル化反応させることで、式(2-1)で表される、本発明のBO基含有アクリレートが得られる。
【0090】
【0091】
上記のエステル化反応の方法としては、公知の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。その方法としては、例えば、式(14)で表される化合物の末端カルボキシ基を酸クロリドに変換し、ピリジン等の酸受容剤の存在下、式(13)で表されるヒドロキシ体と反応させてエステル化する方法、および、脱水縮合剤を使用する方法が挙げられる。好適な縮合剤としては、カルボジイミドと4-ジメチルアミノピリジンとの組み合わせが挙げられる。上記カルボジイミドとしては、反応収率や副生成物の除去のしやすさの観点から、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド等が好ましい。
【0092】
上記のようにして得られた式(1-1)および式(2-1)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)は、適当な溶媒から再結晶により更に精製してもよい。また、これらの溶液をシリカゲルカラムに通すか、または、これらをトルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル等の水と混和しない溶媒に溶かし、アルカリ水溶液を用いて分液操作を行って痕跡量のアルカリ可溶性重合禁止剤を除去する操作を行ってもよい。
【0093】
<BO基含有ビニル化合物(モノマー)の付加重合>
次に、BO基含有ビニル化合物(モノマー)を付加重合して、BO基を側鎖に有する本発明のポリマーを得る方法について説明する。付加重合の方法としては、公知の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。その方法としては、例えば、BO基含有ビニル化合物(モノマー)を適当な溶媒に溶解し、ラジカル重合開始剤を添加し、窒素雰囲気中で加熱還流して付加重合反応を行う方法が挙げられる。得られた均一なポリマー溶液を場合によっては同一溶媒で適度に希釈し、大量の貧溶媒に攪拌しながらゆっくりと滴下してポリマーを析出させ、濾過・洗浄・乾燥することでポリマー粉末を単離することができる。
【0094】
上記のラジカル重合の際に使用可能な溶媒は、モノマーや生成するポリマーを十分に溶解し、かつ溶媒の沸点が重合温度よりも高いものであればよい。また、製膜するのに十分な重合度を有するポリマーを得る観点から、連鎖移動定数の低い溶媒がより好ましい。これらの観点から、重合溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;酢酸エチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明では、モノマーおよび生成するポリマーの溶解性、毒性、連鎖移動定数およびコストの観点から、これらの中でも特にトルエンが好ましい。
【0095】
上記ラジカル重合時の溶液中の初期モノマー濃度は、5~50質量%が好ましく、生成するポリマーの溶解性と十分な重合度を得るという観点から、10~30質量%がより好ましい。
【0096】
上記重合開始剤は、特に限定されるものではないが、用いた溶媒に溶解し、かつ溶媒の沸点以下で効率的にラジカルを発生するものであればよい。このような重合開始剤としては、例えば、アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤が挙げられる。また、重合溶液中の初期重合開始剤濃度は、モノマーに対して0.1~10mol%が好ましく、重合反応速度および十分な重合度のポリマーを得るという観点から、1~5mol%がより好ましい。
【0097】
上記重合反応の反応条件は、選択した溶媒や重合開始剤にもよるが、通常40~150℃で1~24時間とすることが好ましく、重合反応速度および十分な重合度のポリマーを得るという観点から、50~80℃で2~12時間とすることがより好ましい。
【0098】
上記重合反応は、窒素などの不活性ガスの雰囲気中で行うか、または溶液中に不活性ガスをバブリングしながら行うことが好ましいが、不活性ガスを導入せずに行ってもよい。また、不活性ガスの導入により、重合反応溶液中の溶媒が系外に排出され、溶媒が徐々に減少する場合は、適宜溶媒を追加してもよい。
【0099】
<液晶構造を固定化したポリマーフィルムの作製>
(1)ポリマーフィルムの作製
上記のようにして得られたBO基含有ポリマーの製膜は、次のようにして行う。
まず、BO基含有ポリマーを有機溶媒に固形分濃度5~30質量%で溶解し、均一なワニスとする。次いで、このワニスをガラス基板、シリコン基板、銅箔等の支持体(基板)上に塗布し、得られた塗膜を適宜な手段により加熱して溶媒を除去することで、ポリマーフィルムが得られる。
【0100】
ワニスの調製に用いる溶媒は、BO基含有ポリマーを十分溶解し、加熱により気化するものであればよく、特に限定されるものではない。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;酢酸エチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明では、ポリマーの溶解性、毒性およびコストの観点から、これらの中でも特にトルエンが好ましい。
【0101】
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられ、塗布方法に応じてワニスの粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0102】
塗膜の乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレート、オーブンを用いて、大気、窒素等の不活性ガス、真空中等の適切な雰囲気下で蒸発させればよい。
【0103】
乾燥条件は、用いた溶媒の沸点にもよるが、好ましくは30~200℃で10分~4時間、より好ましくは40~180℃で30分~2時間である。
【0104】
(2)液晶構造の固定化
上記(1)で得たフィルム付き基板をブロックヒーターのスリット部に挿入し、偏光顕微鏡観察であらかじめ確認済の液晶形成温度で2~20分間保持して液晶を形成させる。その後、これをブロックヒーターから室温のウォーターバス中に落下させて急冷することで、液晶構造を固定化したポリマーフィルムを得ることができる。急冷後、このフィルム付き基板を温水中に浸漬してフィルムを基板上から剥離することにより自立膜を得ることができる。ここで温水の温度は、フィルムを基板上から損傷することなく剥離することができる温度であればよく、特に限定されるものではないが、50~90℃程度が好ましい。また、支持体として銅箔を用いた場合は、得られたフィルム付き基板を塩化鉄(III)水溶液に浸漬して銅箔を溶解除去することにより自立膜を得ることもできる。本発明では、このようにしてフィルムの液晶構造を固定化することにより良好な熱伝導性を有する放熱フィルムを得ることができる。なお、本発明において、室温とは、25℃±5℃を意味し、好ましくは25℃である。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0106】
(1)赤外線吸収(FT-IR)スペクトル
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光(株)製、FT-IR4100)を用い、KBr法で測定した。
(2)1H-NMRスペクトル
重水素化クロロホルム(CDCl3)または重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒として、NMR分光装置(日本電子(株)製、ECP400)を用いて測定した。
(3)示差走査熱量分析(DSC)
示差走査熱量分析装置(ネッチ・ジャパン(株)製、DSC3100)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
(4)固有粘度
BO基含有ポリマーの粉末をトルエンに溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で還元粘度(ηred)を測定した。この値は、実質的に固有粘度と見なすことができ、この値が高いほど分子量が高いことを表す。
(5)ゲル侵透クロマトグラフィー(GPC)
BO基含有ポリマーがテトラヒドロフラン(THF)に高い溶解性を示す場合、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量を測定した。サンプルを0.05質量%の濃度でTHFに溶解し、テフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、GPCカラム(昭和電工(株)製、Shodex KF-806L)およびUV検出器(日本分光(株)製、UV-2075、検出波長:300nm)付きGPCシステム(日本分光(株)製、LC-2000 Plus)を用いて溶出速度1mL/分でGPC曲線を求めた。標準ポリスチレン(Shodex、SM-105)を基準にして得られたGPC曲線を解析し、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めた。
(6)熱伝導率
BO基含有ポリマーフィルムの熱伝導率(λ)は、熱拡散率(α)、比熱(C)および密度(ρ)より、λ=α×C×ρの関係から求めた。熱拡散率は、熱拡散率測定装置((株)アイフェイズ製、ai-Phase Mobile 1u)を用いて室温で測定した。BO基含有ポリマーフィルムの比熱は、質量が等しい3つのアルミニウム製パンを用意し、空のパン(ブランク)、アルミナ(標準物質)を入れたパン、測定用サンプルを入れたパンを組み合わせたDSC曲線より上記示差走査熱量分析装置を用いて求めた。
(7)密度
BO基含有ポリマーフィルムの密度は、フィルムが浮き沈みしない濃度に調整した30℃のNaCl水溶液、すなわち、フィルムと同じ密度を持つNaCl水溶液を調製し、この水溶液の密度から求めた。
(8)光学異方性組織の観察
温度制御装置(メトラー・トレド(株)製、FP90)でコントロールされたホットステージ(メトラー・トレド(株)製、FP82HT)に試料をセットし、デジタルカメラ((株)ニコン製、Coolpix950)を備えた偏光顕微鏡(オリンパス(株)製、BX51)を用いて観察・撮影した。
【0107】
[1]BO基含有ビニル化合物(モノマー)の製造
[実施例1-1]BO基含有ビニル化合物(20)の合成
【化22】
【0108】
三口フラスコ内に、4-アセトキシ安息香酸40.64g(248mmol、東京化成工業(株)製)に適当量の塩化チオニルを入れ、窒素雰囲気中、80℃で3時間環流した。反応後、ベンゼンを適当量添加して塩化チオニルを減圧しながら共沸留去し、30℃で12時間真空乾燥し、式(5)で表される塩素化物(4-アセトキシベンゾイルクロリド、以下、AcBCと称する)を無色液体として得た。
【0109】
反応容器内で、得られた塩素化物AcBC2.20g(11.1mmol)を、十分に脱水したγ-ブチロラクトン(GBL)5.0mLに溶かし、セプタムキャップで密栓してA液とした。次に、別の容器内で、式(15)で表される2A5NP 2.40g(15.7mmol)をGBL5.0mLに溶かし、さらに脱酸剤としてピリジン2.3mL(28.8mmol)を加えて同様に密栓してB液とした。
【0110】
A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、A液にB液をシリンジにてゆっくりと滴下し、数時間撹拌した後、室温で12時間撹拌してアミド化を行った。この溶液に酸触媒としてp-トルエンスルホン酸2.16g(11.0mmol)を加え、窒素雰囲気中、200℃で10時間環流した。反応終了後、過剰な溶媒をエバポレーターで留去・濃縮し、これを大量の水中に滴下し沈殿を析出させた。析出物を濾別し、濾過物を水およびメタノールで洗浄して120℃で12時間真空乾燥し、黒色粉末を得た(収率:31%)。この生成物は、式(16)で表されるアセトキシ体と式(17)で表されるヒドロキシ体(アセトキシ体の加水分解物)であったが、そのほとんどが式(17)で表されるヒドロキシ体であった。
【0111】
続いて、三口フラスコ内で、得られたヒドロキシ体1.10g(3.92mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)22mLに溶かし、この溶液に炭酸カリウム0.83gおよび1-ブロモドデカン1.68g(6.74mmol)を入れ、窒素雰囲気中、120℃で5時間還流した。反応後、室温まで冷却し、大量の水中に反応混合物をゆっくり滴下して沈殿を析出させた。析出物を濾別し、濾過物をヘキサンで洗浄し、60℃で12時間真空乾燥して、式(18)で表されるニトロ体(茶色粉末、融点91℃)を得た(収率:74%)。
【0112】
次に、反応容器内で、得られたニトロ体1.954g(4.36mmol)にDMF30mLを加えて溶解し、Pd/Cを0.212g加え、水素バブリングしながら120℃で6.5時間還流した。熱濾過により、触媒残渣を除去し、濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して沈殿を析出させた。析出物を濾別し、濾過物をメタノールで洗浄し、70℃で12時間真空乾燥して、銀色粉末(融点:163℃)を得た(収率:65%)。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(19)で表されるアミン体であることが確認された。
【0113】
FT-IR(KBr、cm-1):3,396/3,311/3,209(アミン、N-H伸縮振動)、2,922/2,848(脂肪族C-H伸縮振動)、1,633(C=N伸縮振動)、1,494(1,4-フェニレン)、1,249/1,055(C-O-C伸縮振動)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,δ,ppm):8.13(d、2H(実測積分強度1.99H)、J=8.8Hz、O-Phの3,5-プロトン)、7.52(d、1H(0.99H)、J=8.5Hz、BO基の4-プロトン)、7.02(d、2H(2.04H)、J=8.8Hz、O-Phの2,6-プロトン)、6.89(s、1H(0.93H)、BO基の7-プロトン)、6.72(dd、1H(1.00H)、J=8.5、2.1Hz、BO基の5-プロトン)、4.06(t、2H(2.16H)、J=6.6Hz、Ph-O-CH
2
)、3.84(s、2H(2.02H)、アミン)、1.88-1.30(m、23H(23.15H)、Ph-O-CH2-(CH
2
)
10
-CH
3
(末端のC11H23))
【0114】
反応容器内で、得られた式(19)で表されるアミン体1.19g(2.84mmol)を脱水したテトラヒドロフラン(THF)12mLに溶かし、ピリジン2.4mL(29.8mmol)を加え、セプタムキャップで密栓しA液とした。次に、別の反応容器内で、メタクリル酸クロリド1.8mL(20.3mmol)を脱水THF20mLに溶かし、セプタムキャップで密栓しB液とした。B液を氷浴で冷却しながら、B液にA液をシリンジでゆっくり滴下し、滴下後、室温で12時間攪拌した。反応混合物を濾過してピリジン塩酸塩を分離・除去し、濾液を大量の水中に滴下して沈殿を析出させた。析出物を濾別し、水、エタノールで洗浄後、70℃で12時間真空乾燥し、銀白色の結晶を得た(収率:58%)。これをメタノールから再結晶して精製し、銀白色結晶を得た(融点:140℃、再結晶収率:76%)。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(20)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)であることが確認された。
【0115】
FT-IR(KBr、cm-1):3,294(アミド、N-H伸縮振動)、2.923/2,851(脂肪族C-H伸縮振動)、1,656/1,541(アミド、C=O伸縮振動)、1,619(C=N伸縮振動)、1,501(1,4-フェニレン)、1,269/1,057(C-O-C伸縮振動)
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):10.05(s、1H(1.05H)、アミドプロトン)、8.25(sd、1H(1.08H)、J=1.5Hz、BO基の7-プロトン)、8.10(d、2H(2.36H)、J=8.9Hz、O-Phの3,5-プロトン)、7.68(d、1H(1.07H)、J=8.6Hz、BO基の4-プロトン)、7.58(dd、1H(1.00H)、J=8.6、1.9Hz、BO基の5-プロトン)、7.14(d、2H(2.35H)、J=8.9Hz、O-Phの2,6-プロトン)、5.84(s、1H(0.90H)、C=CHa)、5.56(s、1H(1.03H)、C=CHb)、4.07(t、2H(2.09H)、J=6.5Hz、Ph-O-CH
2
)、1.98(s、3H(3.02H)、C=C-CH
3
)、1.48-1.24(m、23H(23.15H)、Ph-O-CH2-(CH
2
)
10
-CH
3
(末端のC11H23))
元素分析(C29H38O3N2、分子量462.63):推定値C;75.29%、H;8.28%、N;6.06%、分析値C;75.00%、H;8.06%、N;5.94%
【0116】
[実施例1-2]BO基含有ビニル化合物(21)の合成
【化23】
【0117】
1-ブロモドデカンの代わりに1-ブロモテトラデカン(6.74mmol)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、アルキル鎖の炭素数が14のBO基含有ビニル化合物(モノマー)を合成した。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(21)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)であることが確認された。
【0118】
FT-IRスペクトル(KBr、cm-1):3,269(アミド、N-H伸縮振動)、3,068(芳香族C-H伸縮振動)、2,919/2,849(脂肪族C-H伸縮振動)、1,658/1,542(アミド、C=O伸縮振動)、1,622(C=N伸縮振動)、1,503(1,4-フェニレン)、1,256/1,059(C-O-C伸縮振動)。
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):10.04(s、1H(0.92H)、アミドプロトン)、8.25(sd、1H(1.02H)、J=1.7Hz、BO基の7-プロトン)、8.10(d、2H(2.10H)、J=8.8Hz、O-Phの3,5-プロトン)、7.67(d、1H(1.00H)、J=8.6Hz、BO基の4-プロトン)、7.58(dd、1H(0.91H)、J=8.6、1.8Hz、BO基の5-プロトン)、7.12(d、2H(2.02H)、J=9.0Hz、O-Phの2,6-プロトン)、5.84(s、1H(0.95H)、C=CHa)、5.56(s、1H(0.93H)、C=CHb)、4.05(t、2H(2.13H)、J=6.4Hz、Ph-O-CH
2
)、1.98(s、3H(2.84H)、C=C-CH
3
)、1.78-1.68(m、2H(2.24H)、Ph-O-CH2-CH
2
)、1.44-1.16(m、22H(23.90H)、Ph-O-CH2-CH2-(CH
2
)
11
)、0.84(t、3H(3.21H)、J=6.5Hz、アルキル鎖末端CH3)。
融点:135℃。
【0119】
[実施例1-3]BO基含有ビニル化合物(22)の合成
【化24】
【0120】
1-ブロモドデカンの代わりに1-ブロモデカン(6.74mmol)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法でアルキル鎖の炭素数が10のBO基含有ビニル化合物(モノマー)を合成した。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(22)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)であることが確認された。
【0121】
FT-IR(KBr、cm-1):3,273(アミド、N-H伸縮振動)、2,921/2,851(脂肪族C-H伸縮振動)、1,657/1,543(アミド、C=O伸縮振動)、1,621(C=N伸縮振動)、1,501(1,4-フェニレン)、1,257/1,059(C-O-C伸縮振動)
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):10.05(s、1H(0.99H)、アミドプロトン)、8.26(sd、1H(1.00H)、BO基の7-プロトン)、8.09(d、2H(2.00H)、J=8.8Hz、O-Phの3,5-プロトン)、7.67(d、1H(0.99H)、J=8.6Hz、BO基の4-プロトン)、7.58(d、1H(1.00H)、J=8.6Hz、BO基の5-プロトン)、7.12(d、2H(2.02H)、J=8.8Hz、O-Phの2,6-プロトン)、5.84(s、1H(1.04H)、C=CHa)、5.56(s、1H(1.01H)、C=CHb)、4.09(t、2H(2.06H)、J=6.5Hz、Ph-O-CH
2
)、1.98(s、3H(2.99H)、C=C-CH
3
)、1.75-1.71(m、2H(2.03H)、Ph-O-CH2-CH
2
)、1.41-1.22(m、14H、Ph-O-CH2-CH2-(CH
2
)
7
)、0.84(t、3H(3.12H)、J=6.8Hz、アルキル鎖末端CH3)
融点:132℃
【0122】
[実施例1-4]BO基含有ビニル化合物(23)の合成
【化25】
【0123】
2A5NPの代わりに、その異性体である2-アミノ-4-ニトロフェノール(2A4NP)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法でBO基含有ビニル化合物(モノマー)を合成した。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(23)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)であることが確認された。
【0124】
FT-IR(KBr、cm-1):3,268(アミド、N-H伸縮振動)、2,919/2,850(脂肪族C-H伸縮振動)、1,657/1,543(アミド、C=O伸縮振動)、1,621(C=N伸縮振動)、1,504(1,4-フェニレン)、1,258/1,062(C-O-C伸縮振動)
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):9.94(s、1H(1.00H)、アミドプロトン)、8.13(sd、1H(0.97H)、J=2.0Hz、BO基の4-プロトン)、8.11(d、2H(2.07H)、J=8.8Hz、O-Phの3,5-プロトン)、7.68(d、1H(1.14H)、J=8.8Hz、BO基の7-プロトン)、7.62(dd、1H(1.02H)、J=8.8、2.0Hz、BO基の6-プロトン)、7.13(d、2H(2.19H)、J=8.9Hz、O-Phの2,6-プロトン)、5.84(s、1H(0.99H)、C=CHa)、5.54(s、1H(0.99H)、C=CHb)、4.07(t、2H(2.14H)、J=6.5Hz、Ph-O-CH
2
)、1.98(s、3H(3.02H)、C=C-CH
3
)、1.75-1.70(m、2H(2.05H)、Ph-O-CH2-CH
2
)、1.42-1.20(m、18H(21.2H)、Ph-O-CH2-CH2-(CH
2
)
9
)、0.85(t、3H(3.18H)、J=6.8Hz、アルキル鎖末端CH3)
融点:124℃
【0125】
[実施例1-5]BO基含有アクリレート化合物(25)の合成
【0126】
【0127】
実施例1-1で合成した式(5)で表されるAcBC4.69g(23.6mmol)を反応容器中で脱水したGBL10mLに溶かし、セプタムキャップで密栓しA液とした。次に、別の容器中、式(12)で表される2AP2.92g(26.7mmol)を脱水GBL10mLに溶かし、さらに脱酸剤としてピリジン4.0mL(50.0mmol)を加えてセプタムキャップで密栓しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、A液にB液をシリンジにてゆっくりと滴下し、数時間撹拌した後、さらに室温で12時間撹拌してアミド化を行った。この溶液に酸触媒としてp-トルエンスルホン酸5.17g(30.0mmol)を加え、窒素雰囲気中、200℃で7時間環流した。反応終了後、大量の水中にゆっくり滴下して沈殿を析出させた。析出物を濾別し、濾過物を水およびメタノールで洗浄して100℃で12時間真空乾燥し、式(13)で表されるヒドロキシ体(白色粉末、融点:251℃)を得た(収率:65%)。
【0128】
次いで、得られたヒドロキシ体0.720g(3.8mmol)および式(24)で表される末端にカルボキシ基を有するアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)0.813g(3.1mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)1.551g(7.0mmol)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.642g(5.0mmol)を脱水THF15mLに溶かし、氷浴中で1時間、さらに室温で12時間攪拌した。反応混合物をエバポレーターで濃縮後、大量の水中にゆっくり滴下して沈殿を析出させた。析出物を濾別し、濾過物を水および少量のアセトンで洗浄後、80℃で12時間真空乾燥し、白色粉末を得た(収率:66%)。これをアセトンで再結晶して精製し、白色結晶を得た(再結晶収率:75%)。この生成物の分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(25)で表されるBO基含有アクリレート化合物であることが確認された。
【0129】
FT-IR(KBr、cm-1):3,063(芳香族C-H伸縮振動)、2,943/2,868(脂肪族C-H伸縮振動)、1,720(エステル、C=O)、1,606(C=N伸縮振動)、1,510/1,493(1,4-フェニレン)、1,259/1,052(C-O-C伸縮振動)
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):8.30(d、2H(2.00H)、J=8.8Hz、COO-Phの3,5-プロトン)、8.12-8.10(m、2H(1.99H)、RO-Phの3,5-プロトン)、7.85-7.81(m、2H(1.97H)、BO基の7+4-プロトン)、7.54(d、2H(1.94H)、J=8.8Hz、COO-Phの2,6-プロトン)、7.46-7.43(m、2H(2.01H)、BO基の5+6-プロトン)7.14(d、2H(1.98H)、J=8.9Hz、O-Phの2,6-プロトン)、6.33(dd、1H(1.05H)、J=17.2、1.6Hz、CHa=C-COO)、6.21-6.14(m、1H(0.96H)、C=CH-COO)、 5.94(dd、1H(1.05H)、CHb=C-COO)、4.14-4.09(m、4H(4.10H)、COO-CH
2
-(CH2)4-CH
2
-O-Ph(Oに隣接するメチレン基2つ)、1.79-1.41(m、8H(7.87H)、O-CH2-(CH2)4-CH2-O(アルキレン基の中央メチレン基4つ)
元素分析(C29H27O6N、分子量485.54):推定値C;71.74%、H;5.61%、N;2.88%、分析値C;71.71%、H;5.34%、N;3.11%
【0130】
[2]BO基を側鎖に含むビニルポリマーの製造
[実施例2-1]BO基含有ポリマー(26)の合成
【化27】
【0131】
梨型二口フラスコ内で、実施例1-1で得られた式(20)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)1.28gをトルエン10mLに溶かし、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.0247g(モノマーに対して5mol%)を加えた。この溶液を窒素バブリングしながら、70℃で24時間還流し、粘性のある黄色溶液を得た。これを大量のメタノール中にゆっくり滴下してポリマーを析出させた。析出物を濾別し、濾過物をメタノールで洗浄後、50℃で12時間真空乾燥して、白色繊維状のポリマー粉末を得た。得られたポリマーの1H-NMRスペクトルを測定したところ、δ5.84および5.56ppmに現れるモノマー中のC=C上のプロトンシグナルが完全に消失していた。このことから、得られた生成物が、式(20)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)が付加重合して生成したポリマーであることが確認された。このポリマーの元素分析結果を以下に示す。これらの分析結果より、得られた生成物が、式(26)で表される繰り返し単位を有するBO基含有ポリマーであることが確認された。また、MnおよびMwの測定結果から、当該ポリマーが、製膜するのに十分な重合度を有する高分子量体であることが確認された。
【0132】
繰返し単位C29H38O3N2、分子量462.63、推定値C;75.29%、H;8.28%、N;6.06%、分析値C;75.00%、H;8.05%、N;6.11%。
固有粘度:0.21dL/g
Mn:1.73×104
Mw:1.10×105
【0133】
[実施例2-2]BO基含有ポリマー(27)の合成
【化28】
【0134】
実施例1-5で得られた式(25)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)を用いて、実施例2-1と同様の方法でラジカル重合を行った。得られた白色繊維状粉末の1H-NMRスペクトルには、δ6.33および5.94ppmに現れるモノマー中のC=C上のプロトンシグナルが見られなかった。このことから、得られた生成物が、式(25)で表されるBO基含有ビニル化合物(モノマー)が付加重合して生成した式(27)で表される繰り返し単位を有するBO基含有ポリマーであることが確認された。このポリマーの固有粘度は0.28dL/gであった。
【0135】
[3]BO基含有ポリマーの液晶性と熱伝導性
[実施例3-1]
実施例2-1で得られたポリマー粉末をホットステージに入れて温度変化させながら偏光顕微鏡観察した。その結果、昇温過程では194℃で流動性が見られ始め、194~223℃の間で流動性のある光学異方性組織(液晶相)が観察された。また、降温過程では206~185℃の間で流動性のある光学異方性組織が観察された。結果を表1にまとめた。
このポリマー粉末をトルエンに溶かし、基板である電解銅箔上に塗布し、熱風循環オーブン中、40℃で1時間、さらに100℃で1時間乾燥してフィルムを形成することでフィルム付き基板を得た。次に、得られたフィルム付き基板を自作のブロックヒーターのスリット中に入れて、窒素雰囲気中、223℃で10分間保持して液晶相を形成した後、室温の水を入れた容器の中に瞬時に落として急冷し、液晶構造を固定化した。これを塩化鉄(III)水溶液に浸漬して銅箔を溶解除去し、さらに水で十分に洗浄した後、乾燥して自立性のあるフィルムを得た。このフィルムを偏光顕微鏡観察したところ、光学異方性の組織が固定化されていることが確認された。
得られたフィルムについて、熱拡散率、密度、比熱および熱伝導率を測定した。測定結果より、フィルムの熱伝導率を求めたところ、当該フィルムが、高い熱伝導率〔λ=0.602W/(m・K)〕を有することが確認された。結果を表2にまとめた。
【0136】
[実施例3-2]
実施例2-2で得られたポリマー粉末を用い、実施例3-1と同様の方法で偏光顕微鏡観察した。その結果、実施例2-1で得られたポリマーと同様に、昇温・降温過程で光学異方性組織(液晶相)が観察された。結果を表1にまとめた。
このポリマー粉末を用いて、実施例3-1と同様の方法でフィルム付き基板を作製した。次に、ブロックヒーターでの保持温度を130℃に変更したこと以外は、実施例3-1と同様の方法で液晶構造を固定化、および銅箔の溶解除去を行い、自立性のあるフィルムを得た。このフィルムを偏光顕微鏡観察したところ、光学異方性の組織が固定化されていることが確認された。
得られたフィルムについて、熱拡散率、密度、比熱および熱伝導率を測定した。測定結果より、フィルムの熱伝導率を求めたところ、当該フィルムが、高い熱伝導率〔λ=0.510W/(m・K)〕を有することが確認された。結果を表2にまとめた。
【0137】
[実施例3-3]
実施例2-2で得られたポリマー粉末を用いて、実施例3-1と同様の方法でフィルム付き基板を作製した。次に、ブロックヒーターでの保持温度を160℃に変更したこと以外は、実施例3-1と同様の方法で液晶構造を固定化、および銅箔の溶解除去を行い、自立性のあるフィルムを得た。このフィルムを偏光顕微鏡観察したところ、光学異方性の組織が固定化されていることが確認された。
得られたフィルムについて、熱拡散率、密度、比熱および熱伝導率を測定した。測定結果より、フィルムの熱伝導率を求めたところ、当該フィルムが、高い熱伝導率〔λ=0.626W/(m・K)〕を有することが確認された。結果を表2にまとめた。
【0138】
[比較例1-1]
市販のポリイミドフィルム(宇部興産(株)製、ユーピレックスS、膜厚約25μm)について、熱拡散率を測定した。また、密度および比熱は、宇部興産(株)のウェブサイトにおいて公開されているユーピレックスSデーターシートに記載のカタログ値を参照した。ユーピレックスSの密度および比熱のカタログ値は、以下のとおりである。これらの値より、フィルムの熱伝導率を算出したところ、0.118W/(m・K)と低い値であった。結果を表2にまとめた。
密度:1.47×103kg/m3(25℃、測定方法:ASTM D1505)
比熱:1.13kJ/(kg・K)
【0139】
【0140】