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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】光検出装置、光検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021570009
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048526
(87)【国際公開番号】W WO2021140943
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020002107
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム事業 「光融合科学から創生する「命をつなぐ早期診断・予防技術」研究イニシアティブ」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三沢 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝将
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/089531(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/205413(WO,A2)
【文献】特開2010-48805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源パルス光を発生するレーザ光源と、
前記光源パルス光を第1のパルス光、第2のパルス光、および第3のパルス光に分岐する分岐部と、
前記第1のパルス光を振幅変調するとともに前記振幅変調の実行、停止が切り替え可能とされた第1の変調部と、
前記第2のパルス光を位相変調するとともに前記位相変調の実行、停止が切り替え可能とされた第2の変調部と、
光を検出する第1の検出部および第2の検出部と、
振幅変調が実行された前記第1のパルス光および位相変調が停止された前記第2のパルス光が合波された第1の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第1の画像を取得する第1の光検出モード、
振幅変調が停止された前記第1のパルス光、位相変調が実行された前記第2のパルス光、および前記第3のパルス光が合波された第2の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第2の画像を取得する第2の光検出モード、
および、振幅変調が実行された前記第1のパルス光を試料に照射して発生した共焦点反射光を前記第2の検出部で検出して第3の画像を取得する第3の光検出モード、のうちの少なくとも2つを切り替えて実行し、取得された少なくとも2つの画像を合成して合成画像を生成する制御部と、
を含む光検出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1の光検出モードにおいて、励起光としての前記第2のパルス光に含まれる誘導ラマン信号をロックイン検出して前記第1の画像を取得し、
前記第2の光検出モードにおいて、前記第1のパルス光を第1のプローブ光とし、前記第2のパルス光を第2のプローブ光とし、前記第3のパルス光を励起光とし、前記第1のプローブ光で発生した誘導ラマン信号光と前記第2のプローブ光によるヘテロダイン干渉の結果、前記第1のプローブ光に施された振幅変調信号を誘導ラマン散乱信号に対応する信号としてロックイン検出することにより前記第2の画像を取得し、
前記第3の光検出モードにおいて、前記第1のパルス光に施された変調信号をロックイン検出して前記第3の画像を取得する
請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記第1の光検出モードにおいて、前記第3のパルス光を遮断する第1のシャッターと、
前記第3の光検出モードにおいて、前記第2のパルス光を遮断する第2のシャッターと、前記第3のパルス光を遮断する第3のシャッターと、をさらに含む
請求項1または請求項2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記第1の光検出モードにおいて、前記第1の合波光から前記第1のパルス光を除去して前記第2のパルス光を前記第1の検出部に導く第1のフィルタと、
前記第2の光検出モードにおいて、前記第2の合波光から前記第2のパルス光および前記第3のパルス光を除去して第1のパルス光を前記第1の検出部に導く第2のフィルタと、
前記第3の光検出モードにおいて、前記共焦点反射光を分岐して取り出す偏光ビームスプリッタと、前記共焦点反射光を絞るアパチャーと、をさらに含む
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光検出装置。
【請求項5】
前記第1のパルス光が通過する第1の光路および前記第2のパルス光が通過する第2の光路の少なくとも一方に配置された、前記第1の光路の累積分散と前記第2の光路の累積分散との差分を補正する分散補正部と、
前記第1の光路および前記第2の光路の少なくとも一方に配置された、前記第1の光路の累積遅延と前記第2の光路の累積遅延との差分を補正する遅延補正部と、をさらに含む 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光検出装置。
【請求項6】
光源パルス光を発生するレーザ光源と、前記光源パルス光を第1のパルス光、第2のパルス光、および第3のパルス光に分岐する分岐部と、前記第1のパルス光を振幅変調するとともに前記振幅変調の実行、停止が切り替え可能とされた第1の変調部と、前記第2のパルス光を位相変調するとともに前記位相変調の実行、停止が切り替え可能とされた第2の変調部と、光を検出する第1の検出部および第2の検出部と、を含む光検出装置を用いた光検出方法であって、
振幅変調が実行された前記第1のパルス光および位相変調が停止された前記第2のパルス光が合波された第1の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第1の画像を取得する第1の光検出モード、
振幅変調が停止された前記第1のパルス光、位相変調が実行された前記第2のパルス光、および前記第3のパルス光が合波された第2の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第2の画像を取得する第2の光検出モード、
および振幅変調が実行された前記第1のパルス光を試料に照射して発生した共焦点反射光を前記第2の検出部で検出して第3の画像を取得する第3の光検出モード、のうち少なくとも2つを切り替えて実行し、取得された少なくとも2つの画像を合成して合成画像を生成する
光検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラマン散乱を検出する光検出装置、および光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン散乱を検出する光検出装置として、コヒーレントラマン散乱顕微鏡が知られている。コヒーレントラマン散乱顕微鏡とは、2つ以上のパルスレーザ光を試料に照射し、その結果試料から発せられるラマン散乱光を観察することにより、試料内の物質を分析する装置である。このような技術は一般に、ラマン分光技術と総称され、ラマン分光技術による微量物質の検出は、分析装置における基本技術としての重要性が高く、多くの技術開発が行われてきた。一方、昨今の医療技術の進歩と共に、微量物質検出技術の医療診断技術への応用が試みられており、当該医療診断技術の分野においてもより一層の微量物質の検出感度の向上が求められようになってきている。
【0003】
従来、コヒーレントラマン散乱顕微鏡は、観察に用いる入射レーザ光の振幅を変調して試料に入射させ、入射光に対する透過光または反射散乱光を光検出器で検出し、それを復調することでラマン信号を検出する振幅変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡が一般的である。
【0004】
振幅変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡に関連する従来技術として、例えば特開2010-048805号公報に開示された顕微撮像システムが知られている。特開2010-048805号公報に係る顕微撮像システムは、コヒーレントラマン効果のひとつとして知られる誘導ラマン散乱(Stimulated Raman Scattering:SRS)を用いた光検出装置である。特開2010-048805号公報に係る顕微撮像システム10は、ポンプ(励起)ビームとして使用される中心周波数ω1のレーザパルス列20と、ストークスビームとして使用される中心周波数ω2のレーザパルス列16の2つのレーザパルス列を用いている。ストークスビームは変調器で振幅変調され、励起ビームとストークスビームは結合器25で結合された後、サンプル22に照射される。サンプル22を透過した透過光は光検知器36に送られ、光検知器36からの検知信号から振幅変調成分を検知することによって、誘導ラマン散乱に基づく画像を取得する。
【0005】
これに対し、誘導ラマン散乱の検知手段として位相変調を用いる位相変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡という考え方もある。図8は、位相変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡として構成された比較例に係る光検出装置100を示している。図8に示すように、光検出装置100は、光源111、パルス光生成部150、および顕微鏡125を備えて構成されている。
【0006】
光源111は、SRS過程に基づく信号(SRS信号)を生成させるための励起光とプローブ光を発生するレーザ光源である。光検出装置100ではパルス状の励起光(励起パルス光)、およびプローブ光(プローブパルス光)を用いており、光源111はこれらのパルス光の元となる光源パルス光Psを発生する。光検出装置100では、光源パルス光Psとしてフェムト秒パルスを用いている。また、光検出装置100では、励起光Leに加え、プローブ光として、リファレンス(参照)プローブ光Lrおよび位相変調プローブ光Lpの2つを用いる。顕微鏡125は、励起光Leおよびプローブ光Lr、Lpを試料に照射させる部位であり、後段には図示を省略する受光部、制御部が接続される。
【0007】
光検出装置100では、光源111の出力を、励起光Le、位相変調プローブ光Lpおよびリファレンスプローブ光Lrの3つに分け、励起パルス光Pe、位相変調プローブパルス光Pp、リファレンスプローブパルス光Prの時間的な関係を図8に示すように設定している。すなわち、励起パルス光Peを時間的に先に入射させ、その後に続けて時間的に重なった位相変調プローブパルス光Ppとリファレンスプローブパルス光Prを入射させる。そして、位相変調プローブパルス光Ppとリファレンスプローブパルス光Prとの間の相対位相を変調し、その結果生じたラマン信号光とリファレンスプローブパルス光Prとの干渉による光強度の変調を光検出器で検出して復調する。
【0008】
より詳細には、パルス光生成部150が光源パルス光Psを用いて、励起パルス光Pe、および2つのプローブパルス光、すなわち、リファレンスプローブパルス光Pr、位相変調プローブパルス光Ppを生成する。そのため、光源111からのレーザ光は、励起光Le、リファレンスプローブ光Lr、および位相変調プローブ光Lpの3つに分割される。光検出装置100の光源パルス光Ps、そして励起パルス光Peは超短パルス光とされている。また、リファレンスプローブパルス光Pr、および位相変調プローブパルス光Ppは、立ち上がりが速く立下りが遅い非対称の波形とされ、励起パルス光Peから予め定められた時間だけ遅延するように配置される。光検出装置100では、リファレンスプローブパルス光Prと位相変調プローブパルス光Ppとは中心波長が異なる略同一の波形(互いに近似した波形)とされるとともに、時間的に重畳されている。図8に示すように、リファレンスプローブ光Lrの光路には波形整形のためのバンドパスフィルタ118およびエンドミラー120を含む構成が配置されている。一方、位相変調プローブ光Lpの光路には光変調器121とともに、波形整形のためのバンドパスフィルタ116が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-048805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、振幅変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡(以下、「AM(Amplitude Modulation)-SRS顕微鏡」)と、位相変調型コヒーレントラマン顕微鏡(以下、「PM(Phase Modulation)-SRS顕微鏡」)とには、各々の構成に起因する特徴がある。すなわち、AM-SRS顕微鏡では、水や脂質などの生体自身に含まれる分子振動持続時間の短い、強いラマン信号を検出することで、細胞や組織等の形態情報を高速に画像化できるという特徴がある。一方、PM-SRS顕微鏡では、励起光とプローブ光の相対的な時間差を利用することにより、分子振動の持続時間が比較的長い低分子量の物質を高いコントラストで選択的に検出できるという特徴がある。
【0011】
すなわち、従来、AM-SRS顕微鏡、あるいはPM-SRS顕微鏡においては、観察の目的、観察対象の特質等を勘案し、それぞれの観察内容に応じて使い分けられていた。
例えば、細胞や組織等を観察したい場合はAM-SRS顕微鏡が選択され、生体中に分布する低分子量の物質等を観察したい場合にはPM-SRS顕微鏡が選択されていた。
【0012】
例えば医療等の分野では、皮膚に対する薬剤の浸透の状態の観察のように、生体の構造と物質の分布を同時に画像化できれば至便である。しかしながら、これまでは上記のAM-SRS顕微鏡あるいはPM-SRS顕微鏡を単独で使用することのみ検討され、そのため、細胞や組織などの生体そのものの構造と、その中にある小分子の空間分布との対応が可視化できず、生体内における分子の局在や輸送、代謝の動態解析などには不向きであった。
【0013】
本開示の実施形態は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、細胞や組織などの生体構造と、生体構造中に含まれる物質の空間分布を可視化し、生体内における分子の局在や、輸送、代謝等の動態解析を行うことが可能な光検出装置、および光検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、第1態様に係る光検出装置は、光源パルス光を発生するレーザ光源と、前記光源パルス光を第1のパルス光、第2のパルス光、および第3のパルス光に分岐する分岐部と、前記第1のパルス光を振幅変調するとともに前記振幅変調の実行、停止が切り替え可能とされた第1の変調部と、前記第2のパルス光を位相変調するとともに前記位相変調の実行、停止が切り替え可能とされた第2の変調部と、光を検出する第1の検出部および第2の検出部と、振幅変調が実行された前記第1のパルス光および位相変調が停止された前記第2のパルス光が合波された第1の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第1の画像を取得する第1の光検出モード、振幅変調が停止された前記第1のパルス光、位相変調が実行された前記第2のパルス光、および前記第3のパルス光が合波された第2の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第2の画像を取得する第2の光検出モード、および、振幅変調が実行された前記第1のパルス光を試料に照射して発生した共焦点反射光を前記第2の検出部で検出して第3の画像を取得する第3の光検出モード、のうちの少なくとも2つを切り替えて実行し、取得された少なくとも2つの画像を合成して合成画像を生成する制御部と、を含むものである。
【0015】
また、第2態様に係る光検出装置は、第1態様に係る光検出装置において、前記制御部は、前記第1の光検出モードにおいて、励起光としての前記第2のパルス光に含まれる誘導ラマン信号をロックイン検出して前記第1の画像を取得し、前記第2の光検出モードにおいて、前記第1のパルス光を第1のプローブ光とし、前記第2のパルス光を第2のプローブ光とし、前記第3のパルス光を励起光とし、前記第1のプローブ光で生じた誘導ラマン信号光と前記第2のプローブ光によるヘテロダイン干渉の結果、前記第1のプローブ光に施された振幅変調信号を誘導ラマン散乱信号に対応する信号としてロックイン検出することにより前記第2の画像を取得し、前記第3の光検出モードにおいて、前記第1のパルス光に施された変調信号をロックイン検出して前記第3の画像を取得するものである。
【0016】
また、第3態様に係る光検出装置は、第1態様または第2態様に係る光検出装置において、前記第1の光検出モードにおいて、前記第3のパルス光を遮断する第1のシャッターと、前記第3の光検出モードにおいて、前記第2のパルス光を遮断する第2のシャッターと、前記第3のパルス光を遮断する第3のシャッターと、をさらに含むものである。
【0017】
また、第4態様に係る光検出装置は、第1態様から第3態様のいずれかの態様に係る光検出装置において、前記第1の光検出モードにおいて、前記第1の合波光から前記第1のパルス光を除去して前記第2のパルス光を前記第1の検出部に導く第1のフィルタと、前記第2の光検出モードにおいて、前記第2の合波光から前記第2のパルス光および前記第3のパルス光を除去して第1のパルス光を前記第1の検出部に導く第2のフィルタと、前記第3の光検出モードにおいて、前記共焦点反射光を分岐して取り出す偏光ビームスプリッタと、前記共焦点反射光を絞るアパチャーと、をさらに含むものである。
【0018】
また、第5態様に係る光検出装置は、第1態様から第4態様のいずれかの態様に係る光検出装置において、前記第1のパルス光が通過する第1の光路および前記第2のパルス光が通過する第2の光路の少なくとも一方に配置された、前記第1の光路の累積分散と前記第2の光路の累積分散との差分を補正する分散補正部と、前記第1の光路および前記第2の光路の少なくとも一方に配置された、前記第1の光路の累積遅延と前記第2の光路の累積遅延との差分を補正する遅延補正部と、をさらに含むものである。
【0019】
上記目的を達成するために、第6態様に係る光検出方法は、光源パルス光を発生するレーザ光源と、前記光源パルス光を第1のパルス光、第2のパルス光、および第3のパルス光に分岐する分岐部と、前記第1のパルス光を振幅変調するとともに前記振幅変調の実行、停止が切り替え可能とされた第1の変調部と、前記第2のパルス光を位相変調するとともに前記位相変調の実行、停止が切り替え可能とされた第2の変調部と、光を検出する第1の検出部および第2の検出部と、を含む光検出装置を用いた光検出方法であって、振幅変調が実行された前記第1のパルス光および位相変調が停止された前記第2のパルス光が合波された第1の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第1の画像を取得する第1の光検出モード、振幅変調が停止された前記第1のパルス光、位相変調が実行された前記第2のパルス光、および前記第3のパルス光が合波された第2の合波光を試料に照射して、発生した誘導ラマン散乱信号を前記第1の検出部で検出して第2の画像を取得する第2の光検出モード、および振幅変調が実行された前記第1のパルス光を試料に照射して発生した共焦点反射光を前記第2の検出部で検出して第3の画像を取得する第3の光検出モード、のうち少なくとも2つを切り替えて実行し、取得された少なくとも2つの画像を合成して合成画像を生成するものである。
【発明の効果】
【0020】
本開示の実施形態によれば、細胞や組織などの生体構造と、生体構造中に含まれる物質の空間分布を可視化し、生体内における分子の局在や、輸送、代謝等の動態解析を行うことが可能な光検出装置、および光検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態に係る光検出装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る光検出装置の共焦点モードにおける構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態に係る光検出装置の、各モードにおける設定を示す図である。
図4】実施の形態に係るAM-SRSモードの動作を説明するブロック図である。
図5】実施の形態に係るPM-SRSモードの動作を説明するブロック図である。
図6】実施の形態に係る共焦点モードの動作を説明するブロック図である。
図7】実施の形態に係る光検出処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図8】比較例に係る光検出装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。以下で説明する本実施の形態に係る光検出装置は、AM-SRS顕微鏡による観察と、PM-SRS顕微鏡による観察が同じ観察装置で行うことができ、かつ両顕微鏡で取得した画像を合成できるように、AM-SRS顕微鏡の構成とPM-SRS顕微鏡の構成とを切り替える機構を備えている。本実施の形態に係る光検出装置は、形態情報の観察機能を高めるために、さらに共焦点(Confocal:コンフォーカル)顕微鏡の機能も併せ持つように構成されている。
【0023】
ここで、共焦点顕微鏡とは、サンプル表面からの反射光を、検出器で受光する光学系である。共焦点顕微鏡では、点光源から照射された照明光がサンプル表面に焦点を結ぶ際、その反射光も検出器上で焦点が合うように設計されていることから、共焦点光学系と呼ばれている。共焦点顕微鏡では、焦点位置だけの情報がピンホールを通過して検出器に到達し、焦点位置以外の光はピンホールでカットされるため、深さ方向に分解能が生じ、光学的断層像を得ることができる。
【0024】
ここで、AM-SRS顕微鏡、あるいはPM-SRS顕微鏡を単独で使用する場合では、細胞や組織などの生体そのものの構造と、その中にある小分子の空間分布との対応が可視化できず、生体内における分子の局在や輸送、代謝の動態解析などが可能ではなかった。より具体的には、実際の薬剤分子の測定では、背景の成分含めて同じ基準点を用いての測定ができないと、実測したい小分子がどこに存在するのか判然としない場合がある。つまり、生体組織の撮像では、コヒーレントラマン散乱の情報だけでは構造の区別が不明瞭な場合がある。そのような場合には共焦点顕微鏡による共焦点反射等の別のコントラスト情報を付加することが有効である。
【0025】
しかしながら、共焦点反射の信号を取得する場合において、PMT(Photomultiplier Tube:光電子増倍管)などの高感度検出器を使用すると、迷光を防止するために顕微鏡を遮光しなければならない。その一方で、通常のフォトダイオードでは感度が不足し、オフセット電圧も揺らぐため、構造情報がノイズに埋もれてしまうという問題がある。これに対し、AM-SRS顕微鏡、あるいはPM-SRS顕微鏡は、基本的に変調を用いた技術であるため、遮光を要しない。そこで、本実施の形態では、共焦点顕微鏡において、AM-SRSで使用する光変調器を使用し、試料に照射する光を振幅変調し、変調された共焦点反射光をロックイン検出するようにしている。このため、煩雑な遮光設備は不要となっている。
【0026】
以上のように、本実施の形態に係る光検出装置は、例えば小分子の薬剤がある界面から浸透していく場合に、その界面がどこに存在するか共焦点反射でとらえ、背景となる組織や細胞の状態をAM-SRSモードで高速に画像情報として取得し、組織内にある分子振動の長い小分子をPM-SRSモードで検出するように構成されている。本実施の形態に係る光検出装置は、以上の構成を備えることによって、例えば生体試料を対象に、生体構造中における分子をその分子種を同定しながら無標識で濃度分布を可視化することができる。その結果、コヒーレントラマン散乱顕微鏡の有用性を飛躍的に高めた光検出装置を実現している。
【0027】
<光検出装置の構成>
図1を参照して、本実施の形態に係る光検出装置10について説明する。図1に示すように、光検出装置10は、光源11、波形整形部12、PBS(Polarizing Beam Splitter:偏光ビームスプリッタ)13、励起パルス光調整部40、第1プローブパルス光調整部41、第2プローブパルス光調整部42、顕微鏡25、受光部43、および制御部44を含んで構成されている。光検出装置10は、上記のように、AM-SRS顕微鏡、PM-SRS顕微鏡、および共焦点顕微鏡として構成可能であるが、以下図1を参照して、AM-SRS顕微鏡、PM-SRS顕微鏡の構成について説明し、共焦点顕微鏡については別途図2を参照して説明する。また、以下の説明では、AM-SRS顕微鏡、PM-SRS顕微鏡、および共焦点顕微鏡の構成として動作させることを各々、「AM-SRSモード」、「PM-SRSモード」、「共焦点モード」といい、「AM-SRSモード」および「PM-SRSモード」を総称する場合は、「SRSモード」という。
【0028】
光源11は、SRS信号を生成させるための励起光Leとプローブ光(第1プローブ光L1、および第2プローブ光L2)を発生するレーザ光源である。励起光Le、第1プローブ光L1、第2プローブ光L2は、光検出装置10のモードに応じて選択される。本実施の形態では、パルス状の励起光(励起パルス光Pe)、およびプローブ光(第1プローブパルス光P1、および第2プローブパルス光P2)を用いており、光源11はこれらのパルス光の元となる光源パルス光Psを発生する。本実施の形態では、光源パルス光Psとしてフェムト秒パルスを用いている。そのため、光源11からのレーザ光は、励起光Le、第1プローブ光L1、および第2プローブ光L2の3つに分割される。本実施の形態に係る光源パルス光Ps、そして励起パルス光Peは超短パルス光とされている。
【0029】
励起パルス光調整部40は、入射された励起パルス光Peの調整を行う部位、第1プローブパルス光調整部41は、入射された第1プローブパルス光P1の調整を行う部位、第2プローブパルス光調整部42は、入射された第2プローブパルス光P2の調整を行う部位である。顕微鏡25は、励起光およびプローブ光を試料に照射させる部位である。受光部43は、試料で発生したラマン信号光を受光し、制御部44は光検出装置10の全体を統括制御する。以下、各々の部位について詳細に説明する。なお、以下の説明では、図1に示された全ての構成について説明するために、全ての構成を用いるPM-SRSモードを念頭において説明する。従って、以下の説明は、図8の構成をより詳細に説明するものであり、第1プローブ光L1は図8におけるリファレンスプローブ光Lrに、第2プローブ光L2は図8における位相変調プローブ光Lpに相当する。
【0030】
本実施の形態に係る光検出装置10では、光源11に広帯域の光源パルス光Psを発生する超短パルスレーザを用いている。本実施の形態では光源11の一例として、近赤外の広帯域フェムト秒レーザを用いている。より具体的には、図1に示すように、光源11の一例として、中心波長が790nmのチタンサファイアレーザを用い、パルス幅を15fs(femtosecond)以下としている。ただし、光源11の波長、パルス幅はこれに限定されるものではなく、光検出装置10の設計内容等に応じて適切な値に設定してよい。なお、本実施の形態では、光源11から出射される光源パルス光Psを予め定められた方向の直線偏光としている。しかしながら、光源パルス光Psの偏光態様はこれに限られず、例えば円偏光、楕円偏光等であってもよい。
【0031】
波形整形部12は、光源パルス光Psを補償して所望の特性を満たすようにする部位である。すなわち波形整形部12は、一例として図示を省略する分散補償光学素子、SLM(Spatial Light Modulator:空間光変調器)等を含んで構成され、後述する対物レンズ32下での照射光のパルス幅が光源11から出射される最短のパルス幅と等しくなるように適切に分散補償される。なお、本実施の形態では、分散補償光学素子の一例として、誘電体多層膜により高い反射率と負の2次分散補償を与えるチャープミラーを用い、SLMの一例として液晶空間光変調器を用いている。
【0032】
PBS13は、光源11で発生したレーザ光を励起光Leとプローブ光(第1プローブ光L1、第2プローブ光L2)に2分割する光学素子である。
【0033】
励起パルス光調整部40は、λ/4波長板14、およびエンドミラー15を備えている。図1において、励起光Leの光路は、光源11→波形整形部12→PBS13→1/4波長板14→エンドミラー15→1/4波長板14→PBS13→ミラー29となっている。1/4波長板14は、励起光Leを一旦円偏光に変換し、エンドミラー15で反射させた後の偏光方向を光源パルス光Psの偏光方向とは異なる方向とすることによりPBS13で反射されるようにしている。エンドミラー15は励起光Leの光軸方向に可動とされ、励起パルス光Peに与える遅延時間を調整し、プローブパルス光との間の時間差を設定する。
【0034】
第1プローブパルス光調整部41は、光変調器17(図1では、「EOM2」と表記)、分散補償器36(図1では、「DW」と表記)、および波長走査部24を備え、波長走査部24はバンドパスフィルタ18、1/4波長板19、およびエンドミラー20を含んで構成されている。第1プローブ光L1の光路は、光源11→波形整形部12→PBS13→バンドパスフィルタ16(図1では、「DM」と表記)→光変調器17→分散補償器36→バンドパスフィルタ18→1/4波長板19→エンドミラー20→1/4波長板19→バンドパスフィルタ18→分散補償器36→光変調器17→バンドパスフィルタ16→PBS13→ミラー29となっている。
【0035】
1/4波長板19の機能は1/4波長板14と同様である。光変調器17は、AM-SRSモードおよび共焦点モードにおいて、第1プローブ光L1を振幅変調する変調器であり、本実施の形態では、一例としてEOM(Electro Optic Modulator:電気光学変調器)を用いている。光変調器17は図示を省略する駆動回路に接続され、該駆動回路は制御部44に接続されている。
【0036】
図1に示すように、バンドパスフィルタ18は予め定められた回転軸を中心に回転可能とされた、第1プローブパルス光P1の中心周波数を設定するチューナブルフィルタである。エンドミラー20は、主として、バンドパスフィルタ18の回転に伴う第1プローブパルス光P1の遅延の変動を補償する。波長走査部24は、後述する制御部44に接続され、バンドパスフィルタ18、およびエンドミラー20は制御部44によって制御される。
【0037】
第2プローブパルス光調整部42は、光変調器21(図1では、「EOM1」と表記)、バンドパスフィルタ35(図1では、「BPF1」と表記)、1/4波長板22、およびエンドミラー23を含んで構成されている。第2プローブ光L2の光路は、光源11→波形整形部12→PBS13→バンドパスフィルタ16→光変調器21→バンドパスフィルタ35→1/4波長板22→エンドミラー23→1/4波長板22→バンドパスフィルタ35→光変調器21→バンドパスフィルタ16→PBS13→ミラー29となっている。すなわち、本実施の形態では、PBS13により励起光Leとプローブ光(第1プローブ光L1、第2プローブ光L2)に分割され、バンドパスフィルタ16により第1プローブ光L1と第2プローブ光L2とに分割される。
【0038】
光変調器21は、第2プローブ光L2を位相変調する位相変調器であり、本実施の形態では、一例としてEOMを用いている。光変調器21は図示を省略する駆動回路に接続され、該駆動回路は制御部44に接続されている。バンドパスフィルタ35は、第2プローブパルス光P2の中心周波数を設定するチューナブルフィルタである。1/4波長板22の機能は1/4波長板14と同様である。また、エンドミラー23は、第1プローブパルス光P1と第2プローブパルス光P2との間の時間的な配置関係を調整する。なお、本実施の形態ではエンドミラー15、20、23によって遅延を調整する形態を例示して説明するが、これに限られず光学遅延を可変にできる機構であれば他の光学素子、例えば光遅延線等を用いた形態としてもよい。
【0039】
ここで、第1プローブパルス光P1、および第2プローブパルス光P2は、立ち上がりが速く立下りが遅い非対称の波形とされ、励起パルス光Peから予め定められた時間だけ遅延するように配置される。本実施の形態では、第1プローブパルス光P1と第2プローブパルス光P2とは中心波長が異なる略同一の波形(互いに近似した波形)とされるとともに、時間的に重畳されている。
【0040】
図1に示すように、上述の励起光Le、第1プローブ光L1、および第2プローブ光L2はミラー29で折り返された後同軸上に合波されて合波光Lgとされ、ミラー37、38を介して、顕微鏡25に導入される。この際、励起パルス光Peとプローブパルス光の相対遅延時間は、励起パルス光調整部40のエンドミラー15の光軸方向位置により調整が可能である。ここで、ミラー29、37、および38は光路を変換するための素子であり、図1に示す構成に限定されるものではない。
【0041】
顕微鏡25は光学顕微鏡であり、対物レンズ32、ステージ34、および折り返し用のミラー30、31を含んで構成されている。ステージ34には試料33が載置され、対物レンズ32に入射された合波光Lgが試料33に照射される。試料33は例えば薬剤が浸透された生体細胞である。試料33に合波光Lgが照射されると、SRS過程に基づいて、例えば薬剤分子の分子振動に起因するSRS信号が生成される。なお、本実施の形態に係る光検出装置10では、深さ方向(Z軸方向、図1の紙面の上下方向)のスキャン(走査)機能を備えている。本実施の形態に係る光検出装置10では、ステージ34のZ軸方向の移動によって深さ方向のスキャンを行っている。
【0042】
受光部43は、偏光子(ポラライザ)26、ロングパスフィルタ27、受光器28を含んで構成されている。
【0043】
偏光子26は励起光Leの偏光方向と異なる方向(例えば、直交する方向)の偏光軸を有し、合波光Lgから励起光Leを除去する。ロングパスフィルタ27は、励起光Leが除去され、第1プローブ光L1、第2プローブ光L2を含む合波光Lgから第2プローブ光L2を除去するフィルタである。これは、本実施の形態では第1プローブ光L1の波長の方が第2プローブ光L2の波長よりも長く設定されていることによる。受光器28は第1プローブ光L1を受光して電気信号に変換する。受光器28には、例えばフォトダイオードが用いられる。受光器28は制御部44に接続されており、受光器28における受光信号は制御部44に送られる。なお、本実施の形態でロングパスフィルタ27を用いるのは、上記のように第1プローブ光L1の波長を第2プローブ光L2の波長より長く設定しているからである。第1プローブ光L1の波長と第2プローブ光L2の波長の関係に特に制限はないので、第1プローブ光L1の波長を第2プローブ光L2の波長より短く設定した場合にはロングパスフィルタ27の代わりにショートパスフィルタを用いればよい。
【0044】
すなわち、顕微鏡25を通過した後は、励起パルス光Pe、第1プローブパルス光P1、および第2プローブパルス光P2のレーザパルスのうち、励起パルス光Peは偏光子26で、第2プローブパルス光P2はロングパスフィルタ27で各々ブロックされ、第1プローブパルス光P1だけが受光器28まで通過する。第1プローブパルス光P1の光強度は光検出器で電流に変換され、第1プローブパルス光P1に重畳された光強度変調成分がロックインアンプで検出される。ロックインアンプで検出された光強度変調成分が試料33におけるラマン散乱に由来する信号成分、すなわちSRS信号である。SRS信号はサンプル(本実施の形態では、一例として薬剤)の濃度に比例した信号となる。なお、図1では偏光子26、ロングパスフィルタ27の順で配置する形態を例示して説明したが、この順序は逆であってもよい。ただし、実用上は現状の順とし、励起パルス光Peを最初に除去するのが好ましい。
【0045】
制御部44は光検出装置10を統括制御する部位であり、図示を省略するCPU(Central Processing Unit、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。制御部44はまた、試料33において発生したSRS光を含む第1プローブ光L1から、SRS光の周波数成分を抽出する光検出処理を行う。当該光検出処理は、CPUが、ROM等に格納された光検出処理プログラムを読み出し、RAM等に展開して実行する。
【0046】
制御部44は、さらに、光変調器17、光変調器21の駆動回路(信号発生器を含む。図示省略)、受光器28、および波長走査部24等に接続されている。制御部44の内部に、あるいは外付けで、光変調器17の駆動電圧を変えて振幅変調を行うための電気信号を発生する信号発生器(シグナルジェネレータ)や高電圧アンプが、光変調器21の駆動電圧を変えて位相変調を行うための電気信号を発生する信号発生器や高電圧アンプが設けられる場合もある。この場合制御部44は、当該信号発生器を制御して、光変調器17、および光変調器21を変調するための駆動電圧の波形制御等を行う。制御部44は、一般的なパーソナル・コンピュータ等を用いて構成することができる。制御部44は駆動回路を介して光変調器17、および光変調器21を駆動するとともに受光器28からの振幅変調信号を受けてロックインアンプを構成し、ヘテロダイン干渉により振幅変調された第1プローブパルス光P1からSRS信号を抽出する。より具体的には、第1プローブ光L1および第2プローブ光L2によるヘテロダイン干渉の結果、第1のプローブパルス光Plに施された振幅変調信号をSRS信号に対応する信号としてロックイン検出する。
【0047】
制御部44にはさらに波長走査部24が接続され、制御部44は波長走査部24に含まれるバンドパスフィルタ18の回転、およびエンドミラー20の移動を制御している。
【0048】
以上のように、本実施の形態に係る光検出装置、および光検出方法では、励起光Leによって励起された分子振動により発生する物質応答(瞬時的な屈折率変化)を時間遅延したプローブ光の強度変調に変換し、変調周波数に同期した光強度変調成分をロックインアンプなどの復調器を用いて検出している。
【0049】
<共焦点モード時の構成>
次に、図2を参照して、光検出装置10の共焦点モード時における構成について説明する。図2に示すように、共焦点モードでは、第1プローブパルス光調整部41が接続され、PBS45、1/4波長板46、ミラー58、レンズ47、アパチャー48、マルチモードファイバ49、および受光器39が付加されている。図2において、光源11から出射された光源パルス光Psの、共焦点モードにおける光路は、光源11→波形整形部12→PBS13→バンドパスフィルタ16→光変調器17→分散補償器36→波長走査部24→分散補償器36→光変調器17→バンドパスフィルタ16→PBS13→ミラー29→PBS45→1/4波長板46→ミラー37→ミラー38→顕微鏡25→ミラー38→ミラー37→1/4波長板46→PBS45→ミラー58→レンズ47→アパチャー48→マルチモードファイバ49→受光器39となっている。受光器39は制御部44に接続されている。マルチモードファイバ49は、アパチャー48を透過した共焦点反射光を受光器39に伝達する機能を有する。ここで、ミラー29、37、38、および58は光路を変換するための素子であり、図2に示す構成に限定されるものではない。なお、PBS45は、SRSモードから共焦点モードに切り替える場合に挿入される素子であり、本実施の形態ではキューブ型PBSを用いている。
【0050】
以上のような光学系を有する共焦点モードでは、PM-SRSモードで用いられる2つのプローブ光のうちの一方である第1プローブ光L1を用い、光路に共焦点ピンホールに相当するアパチャー(開口)48を配置して共焦点反射光Lcを得ている。共焦点モードにおける試料33への照射光は、SRSモードにおける照射光と同じ対物レンズ32によって試料33に集光され、試料33への入射光路と試料33からの検出光路の相対的な光軸が一致するように調整されている。試料33に照射する光は円偏光としてもよい。また、上述したように、深さ方向のスキャン(走査)は、ステージ34のZ軸方向の移動によって行っている。そして、共焦点モードによる検出信号は、SRSモードによる検出信号とともに記録、保存され、最終的に重ねて表示される。
【0051】
つまり、光検出装置10では、AM-SRS顕微鏡およびPM-SRS顕微鏡が同じ装置で構成されていることにより、細胞や生体組織構造とその中にある小分子の空間分布の相関が得られるため、分子の局在や輸送、代謝の動態解析がより容易になる。さらに、共焦点顕微鏡による形態情報が、コヒーレントラマン信号による分子構造の情報と同時に得られるため、分子濃度の組織内空間分布の情報が高い精度で得られる。
【0052】
ここで、本実施の形態に係る共焦点顕微鏡の特徴は以下のとおりである。すなわち、本実施の形態に係る共焦点顕微鏡による共焦点信号の検出と、SRS顕微鏡によるSRS信号の検出において、共通のパルスレーザ光源、光変調器、ロックインアンプを使用している。このことにより、装置のコストが低減されるとともに、低域ノイズの影響を受けずに、高いSN比で生体組織構造の情報の取得が可能となっている。また、対物レンズ32の移動ではなく、ステージ34のZ軸方向の移動による深さ方向のスキャン機能を備えているので、SRS顕微鏡の透過型検出系と共焦点顕微鏡の反射型検出系とを両立させることができる。さらに、共焦点モードへの切り替えにキューブ型のPBS45を用いているので、SRSモードの測定系との相対的な光軸ずれが抑制される。また、試料33に照射する光の偏光を円偏光としているので、共焦点反射信号を効率よく取得できる。
【0053】
<各モードの動作>
次に、図3から図6を参照して、AM-SRSモード、PM-SRSモード、および共焦点モードの各モードにおける光検出装置10の動作についてより詳細に説明する。図3は各モードにおける各構成の設定を示す図、図4はAM-SRSモードにおける接続を示すブロック図、図5はPM-SRSモードにおける接続を示すブロック図、図6は共焦点モードにおける接続を示すブロック図である。図1に対して図4から図6では一部の構成を省略し、また図1に対して図4から図6では、分散制御デバイス50、51、シャッター52、53、56が追加されているが、基本的な動作は図1と同様である。
【0054】
(AM-SRSモードの動作)
まず、AM-SRSモードでは、図4に示すように光源11(図4では「Pulsed laser」と表記)から出射した光源パルス光Psは、波形整形部12(図4では「Disp Ctrl 0」と表記)、PBS13(図4では「BS1」と表記)を通過し、バンドパスフィルタ16(図4では、「BS2」と表記)で2分岐される。この2分岐は、第1プローブ光L1と、第2プローブ光L2の分岐に対応する。AM-SRSモードでは、図1に示す励起光Le側には分岐されていない。ただし、実際の動作では、後述のシャッター56によって励起光Leが遮断される。2分岐された一方の光源パルス光Psは、光変調器17(図4では「AM」と表記)、バンドパスフィルタ18(図4では「F1」と表記)、分散制御デバイス50(図4では「Disp Ctrl 1」と表記)、シャッター52を通過して、バンドパスフィルタ16(図4では「BC2」と表記)、PBS13(図4では「BC1」と表記)へと進行する。一方、2分岐された他方の光源パルス光Psは、光変調器21(図4では「PM」と表記)、バンドパスフィルタ35(図4では「F2」と表記)、分散制御デバイス51(図4では「Disp Ctrl 2」と表記)、シャッター53を通過して、バンドパスフィルタ16、PBS13へと進行する。
【0055】
第1プローブ光L1と第2プローブ光L2はバンドパスフィルタ16で合波され合波光Lgaとなる。合波光Lgaは、PBS45(図4では「BS3」と表記)、対物レンズ32(図4では「L1、L2」と表記)を通過した後試料33を透過し、試料33を透過した光はロングパスフィルタ27(図4では「F3」と表記)を通過して、受光器28(図4では「PD1」と表記)へ入射される。ここで、分散制御デバイス50、51は、通過する光の分散を調整するデバイスであり、第1プローブ光L1側の分散と、第2プローブ光L2側の分散との関係を調整する(一例として等しくする)。シャッター52、53は、例えば、光の通過/遮断を制御する光スイッチである。
【0056】
AM-SRSモードの設定は、図3に示すように、励起光Leがオフ、第1プローブ光L1がオン、第2プローブ光L2がオンとなる。ここで、本実施の形態において「オン」とは光を通過させることをいい、「オフ」とは光を遮断することをいう。また、振幅変調器である光変調器17の変調動作を有効とし(オンとし)、位相変調器である光変調器21の変調動作を無効とする(オフ)とする。従って、図3に示すように、RF変調は第1プローブ光L1を被変調光とする振幅変調となる。そして、受光器28で受光する際には第1プローブ光L1をカットし、第2プローブ光L2を検出光とする。図4に示す検出方式は透過方式であるが、むろん反射方式としてもよい。図3に示すように、本AM-SRSモードで取得される情報は主として薬品の濃度マップのような化学的情報である。ここで、本実施の形態に係る光検出装置10では、本AM-SRSモードにおけるRF変調信号の波形を一例として正弦波としている。
【0057】
(PM-SRSモードの動作)
次に、図3および図5を参照して、PM-SRSモードの動作について説明する。図5に示すように、PM-SRSモードでは、光源11から出射した光源パルス光Psは、波形整形部12を通過後、PBS13で2分岐される。PBS13で2分岐された光源パルス光Psのうち一方は、励起光Leとして、エンドミラー15(図5では「Delay」と表記)、シャッター56(図5では「S0」と表記)を通過し、PBS13に導かれる。また、PBS13で2分岐された光源パルス光Psのうち他方は、バンドパスフィルタ16で2分岐される。この2分岐は、第1プローブ光L1と、第2プローブ光L2の分岐に対応し、各々のプローブ光の経路は上記AM-SRSモードと同様なので、詳細な説明を省略する。
【0058】
バンドパスフィルタ16で2分岐された一方の光源パルス光Psは、光変調器17、バンドパスフィルタ18、分散制御デバイス50、シャッター52を通過して、バンドパスフィルタ16、PBS13へと進行する。一方、2分岐された他方の光源パルス光Psは、光変調器21、バンドパスフィルタ35、分散制御デバイス51、シャッター53を通過して、バンドパスフィルタ16、PBS13へと進行する。第1プローブ光L1と第2プローブ光L2はバンドパスフィルタ16で合波され、該合波光はPBS13でさらに励起光Leと合波され、合波光Lgpとなる。合波光Lgpは、PBS45、対物レンズ32を通過した後試料33を透過し、試料33を透過した透過光はロングパスフィルタ27を通過して、受光器28へ入射される。
【0059】
PM-SRSモードの設定は、図3に示すように、励起光Leがオン、第1プローブ光L1がオン、第2プローブ光L2がオンとなる。また、位相変調器である光変調器21の変調動作を有効とし(オンとし)、振幅変調器である光変調器17の変調動作を無効とする(オフ)とする。従って、図3に示すように、RF変調は第2プローブ光L2を被変調光とする位相変調となる。なお、本実施の形態に係る光検出装置10では、本PM-SRSモードにおけるRF変調信号の波形を一例としてのこぎり(鋸歯状)波としている。そして、受光器28で受光する際には、励起光Le、および第2プローブ光をカットし、第1プローブ光を検出光とする。図5に示す検出方式は透過方式であるが、むろん反射方式としてもよい。図3に示すように、本PM-SRSモードで取得される情報は主として薬品の濃度マップのような化学的情報である。なお、PM-SRSモードで取得される濃度マップは、AM-SRSモードで取得される濃度マップよりも背景雑音が抑制されている。
【0060】
ここで、AM-SRSモードと、PM-SRSモードとの間における分散補正について説明する。PM-SRSモードでは、バンドパスフィルタ18およびバンドパスフィルタ35を使った非線形分散の効果により、プローブ光(第1プローブ光L1、第2プローブ光L2)は非対称波形となっている(図8参照)。従って、AM-SRSモードにおいて非線形効果の影響が出ないように、第1プローブパルス光調整部41のバンドパスフィルタ18および分散制御デバイス50と、第2プローブパルス光調整部42のバンドパスフィルタ35および分散制御デバイス51によって、双方における分散の違いを補正している。
【0061】
(共焦点モードの動作)
次に、図3および図6を参照して、共焦点モードの動作について説明する。図6に示すように、共焦点モードでは、光源11から出射した光源パルス光Psは、波形整形部12を通過後、PBS13、バンドパスフィルタ16、光変調器17、バンドパスフィルタ18、分散制御デバイス50、シャッター52、バンドパスフィルタ16、PBS13を通過し、PBS45へと導かれる。PBS45を通過した光源パルス光Psは、L1と表記された対物レンズ32によって試料33に照射され、試料33で反射された光は再度対物レンズ32(L1)、PBS45を通過する。PBS45を通過した光は、共焦点反射光Lcとしてアパチャー48を介し、受光器39に入射する。すなわち、共焦点モードでは第1プローブ光L1のみが使用され、図6において、第2プローブ光L2はシャッター53によって、励起光Leはシャッター56によって各々遮断される。
【0062】
共焦点モードの設定は、図3に示すように、励起光Leがオフ、第1プローブ光L1がオン、第2プローブ光L2がオフとなる。また、振幅変調器である光変調器17の変調動作を有効とする(オンとする)。従って、図3に示すように、RF変調は第1プローブ光L1を被変調光とする振幅変調となり、検出方式は反射方式となる。また、検出光は第1プローブ光L1である。ここで、図3に示すように、本共焦点モードで取得される情報は主として光散乱に基づく形態情報である。
【0063】
<光検出処理>
次に、図7を参照して、本実施の形態に係る光検出装置10において実行される光検出処理について説明する。図7は当該光検出処理において実行される光検出処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。本光検出処理プログラムは光検出装置10の図示しないROM等の記憶手段に記憶されており、光検出装置10の図示を省略するユーザインタフェース部等を介して実行開始の指示を受け付けると、図示しないCPUがROM等の記憶手段から本光検出処理プログラムを読み込み、RAM等に展開して実行する。
【0064】
ステップS100では、光検出装置10の構成を、図6に示す共焦点モードの構成に設定する。この際、光変調器17の振幅変調動作をオンとする(有効とする)。
【0065】
ステップS101で、共焦点モードによる検出画像Gcを取得する。検出画像Gcは、主として、奥行き方向の組織構造情報を含む画像である。
【0066】
ステップS102で、光検出装置10の構成を、図5に示すPM-SRSモードの構成に設定する。この際、光変調器21の位相変調動作をオンとし(有効とし)、光変調器17の振幅変調動作をオフとする(無効とする)。また、励起光Leと、プローブ光(第1プローブ光L1、第2プローブ光L2)との間の相対的な遅延時間を予め設定しておく。
【0067】
ステップS103で、PM-SRSモードによる検出画像Gpを取得する。検出画像Gpは、主として、奥行き方向の分子濃度情報を含む画像である。
【0068】
ステップS104で、光検出装置10の構成を、図4に示すAM-SRSモードの構成に設定する。この際、光変調器17の振幅変調動作をオンとし(有効とし)、光変調器21の位相変調動作をオフとする(無効とする)。
【0069】
ステップS105で、AM-SRSモードによる検出画像Gaを取得する。検出画像Gaは、主として、奥行き方向の分子濃度情報を含む画像である。
【0070】
ステップS106で、検出画像Gc、Gp、およびGaを合成して合成画像Gtを生成する。その後、本光検出処理プログラムを終了する。生成した合成画像Gtは、図示を省略する液晶ディスプレイ等の表示部に表示させてもよいし、RAM等の記憶部に記憶させてもよい。
【0071】
なお、本実施の形態では、共焦点モード、PM-SRSモード、AM-SRSモードの順で検出画像を取得する形態を例示して説明したが、これに限られず、いずれの順番であってもよい。
【0072】
<本実施の形態に係る光検出装置の特徴>
本実施の形態に係る光検出装置10の基本的な特徴は、以下のとおりである。すなわち、PM-SRS顕微鏡では励起光、プロープ光の相対的な時間差を利用することにより、分子振動の持続時間の比較的長い分子を高いコントラストで選択的に検出できる。一方、AM-SRS顕微鏡では、水や脂質などの生体自身に含まれる分子振動持続時間の短い、強いラマン信号を検出することで、細胞や組織の形態情報を高速に画像化できる。本実施の形態に係る光検出装置10では、AM-SRS顕微鏡およびPM-SRS顕微鏡を共焦点顕微鏡と同じ装置に組み込むことにより、コヒーレントラマン信号による分子構造の情報と共焦点反射による形態情報が同時に得られるため、分子濃度の組織内空間分布の情報が高い精度で得られる。また、細胞や生体組織構造とその中にある小分子の空間分布の相関が得られるため、分子の局在や輸送、代謝の動態解析がより容易になる。
【0073】
また、本実施の形態に係る光検出装置10のその他の特徴は以下のとおりである。すなわち、振幅変調系(第1プローブパルス光調整部41)と、位相変調系(第2プローブパルス光調整部42)の光路を分割し、振幅変調系の光路に振幅変調器を、位相変調系の光路に位相変調器を各々配置している。このことにより、2つのプローブ光の役割が予め分けられる、つまり変調方式で光学系を固定される。その結果振幅変調系と位相変調系との間の空間的な位置ずれが抑制され、さらにラマンピークの波数が相対的にずれることが抑制されるため、光検出装置10の調整は大幅に簡素化されている。
【0074】
さらに、振幅変調系の光路と、位相変調系の光路とは相対的に分散補償され、ほぼ同じ遅延量、ほぼ同じ分散量になるように調整されている。つまり、光変調器の違いによる時間遅延量を補償するための補正素子(エンドミラー20、23)、および分散量を補償するための補正素子(分散制御デバイス50、51)が用いられている。そのため、光検出感度、あるいは波数分解能を向上させることができる。
【0075】
なお、本実施の形態では、共焦点顕微鏡、AM-SRS顕微鏡、およびPM-SRS顕微鏡の3種類の顕微鏡を組み合わせる形態を例示して説明したが、これに限られず、共焦点顕微鏡、AM-SRS顕微鏡、およびPM-SRS顕微鏡の少なくとも2種類の顕微鏡を組み合わせる形態としてもよい。例えば、上述したような、共焦点顕微鏡、AM-SRS顕微鏡、およびPM-SRS顕微鏡の各々の特質を比較、検討し組み合わせを決定してもよい。
【0076】
また、本実施の形態では、振幅変調器および位相変調器として別々の光変調器を用いる形態を例示して説明したが、振幅変調、位相変調の双方が切り替えて行える光変調器であれば、1つの光変調器を共用する形態としてもよい。
【0077】
2020年1月9日に出願された日本国特許出願2020-002107号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0078】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0079】
10 光検出装置
11 光源
12 波形整形部
13 PBS
14 1/4波長板
15 エンドミラー
16 バンドパスフィルタ
17 光変調器
18 バンドパスフィルタ
19 1/4波長板
20 エンドミラー
21 光変調器
22 1/4波長板
23 エンドミラー
24 波長走査部
25 顕微鏡
26 偏光子
27 ロングパスフィルタ
28 受光器
29、30、31 ミラー
32 対物レンズ
33 試料
34 ステージ
35 バンドパスフィルタ
36 分散補償器
37、38 ミラー
39 受光器
40 励起パルス光調整部
41 第1プローブパルス光調整部
42 第2プローブパルス光調整部
43 受光部
44 制御部
45 PBS
46 1/4波長板
47 レンズ
48 アパチャー
49 マルチモードファイバ
50、51 分散制御デバイス
52、53、56 シャッター
58、59 ミラー
100 光検出装置
111 光源
116 バンドパスフィルタ
118 バンドパスフィルタ
120 エンドミラー
121 位相変調器
125 顕微鏡
150 パルス光生成部
Gc、Gp、Ga 検出画像、Gt 合成画像、Le 励起光、L1 第1プローブ光、L2 第2プローブ光、Lr リファレンスプローブ光、Lp 位相変調プローブ光、Lg、Lga、Lgp 合波光、Lc 共焦点反射光、P1 第1プローブパルス光、P2 第2プローブパルス光、Ps 光源パルス光、Pe 励起パルス光、Pp 位相変調プローブパルス光、Pr リファレンスプローブパルス光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8