(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】麺皮用小麦粉組成物、麺皮、麺皮の製造方法、ならびに麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20240425BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20240425BHJP
【FI】
A23L7/109 D
A23L7/10 Z
(21)【出願番号】P 2019113763
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 創
(72)【発明者】
【氏名】川村 悠貴
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-013032(JP,A)
【文献】Journal of Applied Biological Science,2018年,Vol.12, No.3,pp.4-9
【文献】PR TIMES [オンライン], 2018.12.01 [検索日 2023.05.12], インターネット:<URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000207.000015834.html>
【文献】横浜ウォッチャー [オンライン], 2018.11.30 [検索日 2023.05.12], インターネット:<URL:https://travelyokohama.hatenablog.jp/entry/2018/11/30/163000>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
A23L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランス産小麦
Apache種由来の小麦粉を1質量%以上含有する、加熱調理後の保形性を向上するための麺皮用小麦粉組成物。
【請求項2】
前記フランス産
Apache種小麦由来の小麦粉を50質量%以下含有する、請求項1に記載の麺皮用小麦粉組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の麺皮用小麦粉組成物を含む、麺皮。
【請求項4】
請求項1または2に記載の麺皮用小麦粉組成物を使用することを特徴とする、麺皮の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の麺皮用小麦粉組成物を使用することを特徴とする、麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺皮の製造に用いられる麺皮用小麦粉組成物、それを用いた麺皮、麺皮の製造方法、ならびに麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類の茹で伸び、歯ごたえの改善、チルド麺や冷凍麺の粘弾性低下を抑制するための手法として、増粘安定剤、エーテル化澱粉、アセチル化澱粉、α化澱粉、微細セルロース含有複合体、卵白、卵黄、鶏卵(全卵)、小麦蛋白(小麦グルテン)などを添加する技術が知られている(たとえば特許文献1~3)。
また、麺類に粘弾性や滑らかさ、しなやかさを付与する目的で、加工澱粉を配合する技術が知られている(たとえば特許文献4,5)。
しかしながら、様々な麺類における、様々な喫食形態(調理後すぐ喫食、チルドおよび冷凍流通後電子レンジ加熱を行って喫食など)において、特に麺類の粘弾性に関る最適な食感を具現化するために、従来技術は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-335893号公報
【文献】特開2003-289818号公報
【文献】特開2004-24155号公報
【文献】特開2005-27643号公報
【文献】特開2015-218201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、麺類の茹で伸びが抑制され、麺類の加熱調理後の粘弾性が向上され、麺皮の加熱調理後の保形性が向上される、とともに、良好な風味やしなやかさも有する麺類を製造することができる麺皮用小麦粉組成物、それを用いた麺皮および麺皮の製造方法、ならびに、麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(1)~(2)の麺皮用小麦粉組成物、(3)の麺皮、(4)の麺皮の製造方法、ならびに(5)の麺皮の麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法に関する。
(1)フランス産小麦Apache種由来の小麦粉を1質量%以上含有する、加熱調理後の保形性を向上するための麺皮用小麦粉組成物。
(2)前記フランス産小麦Apache種由来の小麦粉を50質量%以下含有する、上記(1)に記載の麺皮用小麦粉組成物。
(3)上記(1)または(2)に記載の麺皮用小麦粉組成物を含む、麺皮。
(4)上記(1)または(2)に記載の麺皮用小麦粉組成物を使用することを特徴とする、麺皮の製造方法。
(5)上記(1)または(2)に記載の請求項1または2に記載の麺皮用小麦粉組成物を使用することを特徴とする、麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、麺類の茹で伸びが抑制され、麺類の加熱調理後の粘弾性が向上され、麺皮の加熱調理後の保形性が向上される、とともに、良好な風味やしなやかさも有する麺類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る麺皮用小麦粉組成物、麺皮、麺皮の製造方法、ならびに麺皮の加熱調理後の保形性の向上方法について説明する。
【0008】
(麺類用小麦粉組成物)
本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、フランス産小麦のうち特定品種由来の小麦粉を1質量%以上含有し、当該麺類用小麦粉組成物を使用して麺類を製造した場合に、麺類の茹で伸びが抑制され、麺類の加熱調理後の粘弾性が向上され、麺皮の加熱調理後の保形性が向上されることを特徴とする。このようなフランス産小麦の特定品種としては、Apache種、Aigle種、Allezy種、Aprilio種、Arezzo種、Bienfait種、Boregar種、Calabro種、Calumet種、Cellule種、Descartes種、Foxyl種、Fructidor種、Goncourt種、Hybello種、Hydrock種、Hypodrom種、Hywin種、Iilico種、Ionesco種、Laurier種、Lg Absalon種、Lg Armstrong種、Maori種、Matheo種、Nemo種、Oregrain種、Pibrac種、Rgt Kilimanjaro種、Rgt Tekno種、Rgt Venezio種、Rubisko種、Scenario種、Sepia種、Soissons種、Sy Mattis種、Sy Moisson種、およびTerroir種が挙げられる。本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、これら特定品種から選ばれる1種以上の品種の小麦粉を1質量%以上含有しており、たとえば上記特定品種のうち1種の小麦粉だけを1質量%以上含有していてもよいし、上記特定品種のうち2種以上の品種の小麦粉を合計で1質量%以上含有していてもよい。
【0009】
また、本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉を1質量%以上含有していればよいが、好ましくは2質量%以上75質量%以下、より好ましくは3質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉を含有することがよい。
【0010】
また、本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉だけを含有していてもよいし(すなわち、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉を100質量%含有していてもよいし)、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉に加えて、麺類の種類に応じて適宜、上記特定品種以外の小麦由来の小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム小麦粉など)を含有していてもよい。上記特定品種以外の小麦としては、特に限定されないが、たとえば日本産小麦である、きたほなみ、春よ恋、ゆめちから、キタノカオリ、はるゆたか、はるきらり、さとのそら、農林61号、あやひかり、つるぴかり、イワイノダイチなど、アメリカ産の小麦であるDNS(ダーク・ノーザン・スプリング)、WW(ウエスタン・ホワイト)など、カナダ産の小麦である1CW(NO1カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング)など、あるいは、オーストラリア産の小麦であるASW(オーストラリア・スタンダード・ホワイト)などが挙げられる。また、本発明に係る麺類用小麦粉組成物として、フランス産小麦のうち特定品種由来の小麦粉と、他の小麦由来の小麦粉とを混合する場合、これら2種以上の小麦を粉砕前に混合し、その後、混合した2種以上の小麦を一度に粉砕して調製してもよいし、それぞれ別々に小麦を粉砕した後に粉砕した2種以上の小麦粉を混合して調製してもよい。
【0011】
本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、中位径が、20μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは25μm以上90μm以下であり、さらに好ましくは30μm以上80μm以下である。中位径は、レーザー解析式中度分布測定装置「HEROS&RODOS」(株式会社日本レーザー製)を用いて、体積基準分布(頻度分布)から累積50%粒径を測定して求めたものである。
また、本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、灰分が、0.30質量%以上0.50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.32質量%以上0.48質量%以下であり、さらに好ましくは0.34質量%以上0.46質量%以下である。
また、本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、粗蛋白質含量が、5質量%以上15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは6質量%以上14質量%以下であり、さらに好ましくは7質量%以上13質量%以下である。
【0012】
(麺類)
本発明に係る麺類用小麦粉組成物を使用して、本発明に係る麺類を製造することができる。本発明に係る麺類の種類は、特に限定されず、うどん、冷や麦、素麺、中華麺、パスタ類、日本そばに加えて、麺皮が挙げられる。また、本発明に係る麺皮も、特に限定されず、餃子、焼売、春巻、ワンタンの皮などが含まれる。また、麺類の形態としても、特に限定されず、生麺、乾麺(半乾燥麺を含む)、茹で麺、蒸し麺および即席麺のいずれにも適用できるが、茹で又は蒸し処理された後、冷蔵又は冷凍で保存および/又は流通される冷蔵麺(チルド麺)又は冷凍麺であることが好ましく、冷蔵麺がより好ましい。本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、麺類の茹で伸びが抑制され、麺類の加熱調理後の粘弾性が向上され、麺皮の加熱調理後の保形性が向上される効果があり、とくに麺類の茹で伸びや加熱調理後の粘弾性が課題となる冷蔵麺又は冷凍麺において、より効果を発揮することができるためである。
【0013】
(麺類の製造方法)
本発明に係る麺類の製造方法は、特に限定されず、公知の製造方法にて、各種麺類を製造することができる。たとえば、本発明に係る麺類用小麦粉組成物に、食塩水、かんすい、その他の副原料を加え、常圧下又は減圧下において混練して生地を調製し、この生地を製麺ロールにより、複合・圧延して麺帯を得て、この麺帯を切刃等を用いて切り出して麺線を得るか、抜型を用いて打ち抜いて麺皮を得るか、あるいは、生地から押し出し成型により麺線を得るか、一定量に分割した生地を延ばして麺皮(餃子、焼売、ワンタンなどの皮)を得るか、あるいはバッターを焼成して麺皮(春巻皮)を得ることにより麺類用生地を製造することができる。得られた麺類用生地は必要に応じて、茹で処理、蒸し処理した後、冷蔵又は冷凍するか、熱風乾燥や油揚げし、所望の麺類とすることができる。
【0014】
また、本発明に係る麺類を製造する際に、本発明に係る麺類用小麦粉組成物の他に、米粉、コーンフラワー、大麦粉、そば粉などの小麦粉以外の穀粉類、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉などの澱粉類、およびこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の加工澱粉類を適宜配合することができる。また、本発明に係る麺類を製造する際に、食塩;かんすい;卵白粉、卵黄粉、全卵粉等の卵粉や液卵;キサンタンガム、ウェランガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸およびその塩やエステル、寒天、ゼラチン、ペクチン、タラガム、メチルセルロース類やその誘導体、マンナン、カードラン等の増粘剤;動植物油脂、乳化油脂、ショートニング等の油脂類;レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤;炭酸塩、リン酸塩等の無機塩類;普通小麦由来の小麦蛋白、大豆蛋白質、カゼイン等の蛋白類;その他ソルビットや糖類、デキストリン(難消化性含む)、食物繊維、エチルアルコール、pH調整剤、保存剤、酵素剤、酸化還元剤、色粉などの副原材料を添加することもできる。
【実施例】
【0015】
本発明に係る麺類用小麦粉組成物の実施例について説明する。本実施例では、茹で中華麺、生中華麺、茹でうどん、および焼餃子の麺皮を、本発明に係る麺類類用小麦粉組成物を使用して製造し、評価した。
【0016】
(茹で中華麺)
まず、茹で中華麺の実施例について説明する。本実施例では、後述する各試験区の麺類用小麦粉組成物に練水(塩、かんすい、水を混合したもの)を添加し、ミキサー(関東混合機工業株式会社製)で混合し、そぼろ状とした。そして、製麺機を用いて、実測1.5mm厚の麺帯を得、これを切刃(角刃20番)でカットして麺線を製造した。製造した麺線(生麺)を熱湯に投入し1分間茹で、湯から引き揚げて1分間水冷し、茹で中華麺を製造した。そして、製造した茹で中華麺を熱湯で1分茹でた後、スープに投入して、茹で中華麺を使用したラーメンを調理した。そして、製造したラーメンを喫食し、各試験区の麺類用小麦粉組成物を用いた茹で中華麺について、茹で伸び、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、しなやかさの4項目について評価した。
【0017】
評価は、専門の訓練を受けた10名のパネルにて以下の評価基準で行い、評価結果は、評価点の平均値で示した。具体的には、「茹で伸び」は、スープに投入直後の麺の食感とスープに投入してから10分後の麺の食感とを比べてその劣化の度合いで評価した。具体的には、コントロールを基準として、コントロールよりも明らかに茹で伸びがしにくい場合は5.0点、コントロールよりも茹で伸びしにくい場合は4.0点、コントロールと茹で伸びが同程度の場合は3.0点、コントロールよりも茹で伸びしやすい場合は2.0点、コントロールよりも明らかに茹で伸びしやすい場合は1.0点として評価した。また、「粘弾性」は、加熱調理後に食した際のもちもち感や弾力性を意味し、一般に麺類の「こし」とも表現される。粘弾性が高いほど優れているとして評価した。具体的には、後述するコントロールを3.0点として基準に置き、コントロールよりも粘弾性が強い場合は5.0点、コントロールよりも粘弾性がやや強い場合は4.0点、コントロールと粘弾性が同程度の場合は3.0点、コントロールよりも粘弾性がやや弱い場合は2.0点、コントロールよりも粘弾性が弱い場合は1.0点として評価した。
【0018】
さらに、「小麦由来の風味」の評価は、コントロールを3.0点として基準に置き、コントロールよりも小麦由来の風味が強い場合は5.0点、コントロールよりも小麦由来の風味がやや強い場合は4.0点、コントロールと小麦由来の風味が同程度の場合は3.0点、コントロールよりも小麦由来の風味がやや弱い場合は2.0点、コントロールよりも小麦由来の風味が弱い場合は1.0点として評価した。また、「しなやかさ」は、麺線の柔軟性や麺線のつるみを意味し、しなやかさが高いほど優れているとして評価した。具体的には、コントロールを3.0として基準に置き、コントロールよりもしなやかさが強い場合は5.0点、コントロールよりもしなやかさがやや強い場合は4.0点、コントロールとしなやかさが同程度の場合は3.0点、コントロールよりもしなやかさがやや弱い場合は2.0点、コントロールよりもしなやかさが弱い場合は1.0点として評価した。
【0019】
表1に、本実施例で製造した茹で中華麺の配合と、評価結果とを示す。なお、表1においては、麺類用小麦粉組成物、他原料、練水の各原料の配合量を質量部で表示している(後述する表2~5においても同様)。たとえば、比較例2では、小麦粉「金蘭」98.5質量部、粉末グルテン1質量部、卵白粉末0.5質量部、塩1.5質量部、かんすい1.5質量部、水35質量部を加えて、茹で中華麺を製造した。また、実施例1では、小麦粉「金蘭」99質量部、Apache種由来の小麦粉1質量部、塩1.5質量部、かんすい1.5質量部、水35質量部を加えて、茹で中華麺を製造した。
【表1】
【0020】
表1に示すように、コントロール1は、本発明に係る麺類用小麦粉組成物ではない、小麦粉「金蘭(商品名、昭和産業株式会社製)」のみを使用して製造した茹で中華麺の例である。また、比較例1,2は、小麦粉「金蘭」に、粉末グルテン、卵白粉末を表1に示す割合にて配合して茹で中華麺を製造した例である。一方、実施例1~8では、Apache種由来の小麦粉を含有する、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を使用して茹で中華麺を製造した例であり、麺類用小麦粉組成物全体に対するApache種由来の小麦粉の割合は、実施例1では1質量%、実施例2では2質量%、実施例3では5質量%、実施例4では10質量%、実施例5では20質量%、実施例6では50質量%、実施例7では75質量%、実施例8では100質量%となっている。なお、実施例1~8では、粉末グルテンおよび卵白粉末は添加していない。また、コントロール1、比較例1,2および実施例1~8は、麺類用小麦粉組成物および他原料の配合のみを変えており、練水(塩、かんすい、水を含む)や製造方法については同一条件として、茹で中華麺を製造した。なお、粉末グルテンはA-グルG(商品名、グリコ栄養食品株式会社製)、卵白粉末はMタイプNo.200(商品名、キューピータマゴ株式会社製)、かんすいはかんすい赤(商品名、オリエンタル酵母工業株式会社製)をそれぞれ使用した。
【0021】
表1に示すように、コントロール1の各評価を3.0点として基準に置き、比較例1,2および実施例1~8を5段階で評価した。その結果、卵白粉末を添加した比較例1では、コントロール1と比べて、茹で伸びは改善されたが、加熱調理後の粘弾性が低下した。一方、粉末グルテンおよび卵白粉末を添加した比較例2では、コントロール1と比べて、茹で伸びおよび加熱調理後の粘弾性は改善したが、小麦由来の風味やしなやかさは低下した。
【0022】
これに対して、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた実施例1~8では、コントロール1に対して、茹で伸びを抑制することができたとともに、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、およびしなやかさを向上させることができた。特に、Apache種由来の小麦粉の含有量が多いほど、茹で伸び、小麦由来の風味、および、しなやかさが改善されることが分かった。一方で、加熱調理後の粘弾性については、Apache種由来の小麦粉の含有量が10質量%の実施例4が最も評価が高く、Apache種由来の小麦粉の含有量が50質量%以上の場合には10質量%の場合と比べて加熱調理後の粘弾性が低下することが分かった。このことから、茹で伸び、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、および、しなやかさの全てを向上(改善)するためには、Apache種由来の小麦粉を1質量%以上含有すればよく、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上含有することが好適であると考えられる。また、本実施例では、加熱調理後の粘弾性の評価は、Apache種由来の小麦粉の含有量が10質量%である実施例4で最も高くなったが、茹で伸び、小麦由来の風味、しなやかさについては、Apache種由来の小麦粉の含有量が20質量%以上である場合も、Apache種由来の小麦粉の含有量が多いほど改善される傾向にあるため、加熱調理後の粘弾性と、茹で伸び、小麦由来の風味、しなやかさとのバランスを考慮して、麺類用小麦粉組成物におけるApache種由来の小麦粉の割合を決定することが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた麺線(生麺)を熱湯に投入し1分間茹で、湯から引き揚げて1分間水冷した後に、中華麺を水切りし包装して5℃で24時間冷蔵保管しチルド流通用茹で中華麺を得た。冷蔵されたスープと、チルド流通用茹で中華麺を器に入れ、ラップフィルムをかけて、電子レンジ(500W)で6分温め、チルド流通用茹で中華麺を使用したラーメンを調理した。このような態様の試験においても、上記と同様の結果が得られ、チルド流通用麺類においても、Apache種由来の小麦粉を1質量%以上含有することで、茹で伸び、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、および、しなやかさの全てを向上させることができることが分かった。
【0024】
また、本実施例では、表2に示すように、本発明に係る麺類用小麦粉組成物であって、Apache種、Oregrain種、Fructidor種およびRubisko種由来の小麦粉を使用して製造した茹で中華麺についても評価した。
【表2】
【0025】
具体的には、実施例4は、Apache種由来の小麦粉を10質量%含有する麺類用小麦粉組成物を、実施例9は、Oregrain種由来の小麦粉を10質量%含有する麺類用小麦粉組成物を、実施例10は、Fructidor種由来の小麦粉を10質量%含有する麺類用小麦粉組成物を、実施例11は、Rubisko種由来の小麦粉を10質量%含有する麺類用小麦粉組成物を、それぞれ使用して茹で中華麺を製造した例である。なお、麺類用小麦粉組成物の組成以外は、表1の実施例と同様に茹で中華麺を製造し、調理した。
【0026】
表2に示すように、コントロール1の各評価を3.0点として基準に置き、実施例9~11を5段階で評価した結果、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた実施例9~11では、Apache種由来の小麦粉を10質量%含有する麺類用小麦粉組成物を使用した実施例4と同様に、茹で伸びを抑制することができるとともに、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味およびしなやかさを向上させることができた。このことから、Oregrain種、Fructidor種、Rubisko種などのフランス産小麦由来の小麦粉でも、Apache種と同様に、本発明に係る麺類用小麦粉組成物の効果が得られることが分かった。また、フランスで生産され、同様の組成を有する、Aigle種、Allezy種、Aprilio種、Arezzo種、Bienfait種、Boregar種、Calabro種、Calumet種、Cellule種、Descartes種、Foxyl種、Goncourt種、Hybello種、Hydrock種、Hypodrom種、Hywin種、Iilico種、Ionesco種、Laurier種、Lg Absalon種、Lg Armstrong種、Maori種、Matheo種、Nemo種、Pibrac種、Rgt Kilimanjaro種、Rgt Tekno種、Rgt Venezio種、Scenario種、Sepia種、Soissons種、Sy Mattis種、Sy Moisson種、およびTerroir種由来の小麦粉を含む、本発明に係る麺類用小麦粉組成物でも、同様の効果が得られるものと推測される。
【0027】
(生中華麺)
次に、生中華麺の実施例について説明する。本実施例では、上述した茹で中華麺の実施例と同様に、麺線を生中華麺として製造した。そして、製造した生中華麺を熱湯に投入し2分30秒間茹でた後、スープに投入して、生中華麺を使用したラーメンを調理した。そして、製造したラーメンを喫食し、上述した茹で中華麺の実施例と同様に、茹で伸び、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、しなやかさの4項目について評価した。
【0028】
下記表3に、本実施例で製造した生中華麺の組成と、評価結果とを示す。
【表3】
【0029】
表3に示すように、コントロール2は、本発明に係る麺類用小麦粉組成物ではない、小麦粉「金蘭」のみを使用した生中華麺の例である。また、実施例12は、Apache種由来の小麦粉を10質量%含有する、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を使用して製造した生中華麺の例である。表3に示すように、コントロール2の各評点を3.0点として基準に置き、実施例12を5段階で評価した結果、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた実施例12では、茹で伸びを抑制することができるとともに、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味およびしなやかさを向上させることができた。このように、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いることで、茹で中華麺だけではなく、生中華麺についても、茹で伸びを抑制し、かつ、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、しなやかさを向上させることができることがわかった。
【0030】
(茹でうどん)
次に、茹でうどんの実施例について説明する。本実施例では、後述する各試験区の麺類用小麦粉組成物に練水(塩、水を混合したもの)を添加し、ミキサー(関東混合機工業株式会社製)で混合し、そぼろ状とした。そして、製麺機を用いて、実測2.5mm厚の麺帯を得、これを切刃(薄刃10番)でカットして麺線を製造した。製造した麺線(生麺)を熱湯に投入し、8.5分間茹で、湯から引き揚げて1分間水冷し、茹でうどんを製造した。その後、製造した茹でうどんを熱湯で1分茹で、湯から引き揚げてスープに投入し喫食した。そして、各試験区の麺類用小麦粉組成物を用いた茹でうどんについて、茹で伸び、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、しなやかさの4項目について評価した。
【0031】
下記表4に、本試験で製造した茹でうどんの組成と、評価結果とを示す。
【表4】
【0032】
表4に示すように、コントロール3は、本実施形態に係る麺類用小麦粉組成物ではない、小麦粉「白蓮(商品名、昭和産業株式会社製)」のみを使用した茹でうどんの例である。また、実施例13は、Apache種由来の小麦粉を10質量%含有する、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた茹でうどんの例である。表4に示すように、コントロール3の各評価を3.0点として基準に置き、実施例13を5段階で評価した結果、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた実施例13では、茹で伸びを抑制することができるとともに、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味およびしなやかさを向上させることができた。このことから、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いることで、中華麺だけではなく、うどんについても、茹で伸びを抑制することができ、加熱調理後の粘弾性、小麦由来の風味、しなやかさを向上させることができることがわかった。
【0033】
(焼餃子の麺皮)
次に、焼餃子の麺皮の実施例について説明する。本実施例では、後述する各試験区の麺類用小麦粉組成物に練水を添加し、ミキサー(関東混合機工業株式会社製)で混合し、そぼろ状とした。そして、製麺機を用いて、実測1mm厚の麺帯を得、直径90mmの円型で型抜きを行うことで、焼餃子の麺皮を製造した。また、ひき肉と刻み野菜とを混合し一定時間後に水分を搾った餡を製造し、製造した麺皮で餡を約17g包み、餃子を製造した。そして、餃子10個を、200℃まで加熱したフライパンで1分間加熱した後、水140mlを加え蓋をして4分間加熱し、さらに蓋を外して1分間加熱して、焼餃子を調理した。そして、各試験区の麺類用小麦粉組成物を使用して製造した焼餃子を喫食し、焼餃子の麺皮について、加熱調理後の粘弾性、加熱調理後の保形性、小麦由来の風味、焼餃子の耳部分の歯切れの良さの4項目について評価した。加熱調理後の保形性は、焼餃子の、焼き上げ直後の形状の保ちやすさを意味し、焼き上げ直後の焼餃子と、焼き上げてから10分後の焼餃子の状態を比較し評価したものである。焼餃子の耳部分の歯切れの良さは、適度な柔軟性とヒキの弱さを意味する。
【0034】
なお、「保形性」の評価は、コントロール4の評価を3.0点として基準に置き、コントロール4よりも保形性が良い場合は5.0点、コントロール4よりも保形性がやや良い場合は4.0点、コントロール4と保形性が同程度の場合は3.0点、コントロール4よりも保形性がやや悪い場合は2.0点、コントロール4よりも保形性が悪い場合は1.0点として評価を行った。また、「耳部分の歯切れの良さ」の評価は、コントロール4の評価を3.0点として基準に置き、コントロール4よりもヒキが弱く、歯切れが良い場合は5.0点、コントロール4よりもヒキがやや弱く、歯切れがやや良い場合は4.0点、コントロール4とヒキおよび歯切れの良さが同程度の場合は3.0点、コントロール4よりもヒキがやや強く、やや歯切れが悪い場合は2.0点、コントロール4よりもヒキが強く、歯切れが悪い場合は1.0点として評価を行った。
【0035】
下記表5に、本実施例で製造した焼餃子の麺皮の組成と、評価結果とを示す。
【表5】
【0036】
表5に示すように、コントロール4は、本発明に係る麺類用小麦粉組成物ではない、小麦粉「N龍舟(商品名、昭和産業株式会社製)」のみを使用した焼餃子の例である。また、比較例3として、小麦粉「N龍舟」に、粉末グルテンを表5に示す割合にて配合した焼餃子を製造した。また、実施例14~16では、Apache種由来の小麦粉を含有する、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を使用して焼餃子を製造しており、実施例14では1質量%、実施例15では10質量%、実施例16では100質量%のApache種由来の小麦粉を含有する。なお、実施例14~16では、粉末グルテンは添加していない。また、コントロール4、比較例3および実施例14~16は、麺類用小麦粉組成物および他原料の配合のみを変えており、練水の組成や製造方法については同一条件とした。
【0037】
表5に示すように、コントロール4の各評価を3.0点として基準に置き、比較例3および実施例14~16を5段階で評価した。その結果、粉末グルテンを添加した比較例3では、コントロール4と比べて、加熱調理後の粘弾性と保形性は向上したが、小麦由来の風味および耳部分の歯切れの良さは低下した。これに対して、本発明に係る麺類用小麦粉組成物を用いた実施例14~16では、コントロール4と比べて、加熱調理後の粘弾性および保形性を向上することができるとともに、小麦由来の風味および耳部分の歯切れの良さも向上させることができた。特に、Apache種由来の小麦粉の含有量が多いほど、加熱調理後の保形性および小麦由来の風味は向上することが分かった。一方で、加熱調理後の粘弾性および耳部分の歯切れの良さについては、Apache種由来の小麦粉の含有量が10質量%である実施例15で最も評価が高くなり、また、Apache種由来の小麦粉の含有量が1質量%である実施例14と比べて、Apache種由来の小麦粉の含有量が100質量%である実施例16では、加熱調理後の粘弾性および耳部分の歯切れの良さの評価が高いことが分かった。このことから、加熱調理後の粘弾性、保形性、小麦由来の風味、および、耳部分の歯切れの良さの全てを向上(改善)するためには、Apache種由来の小麦粉を1質量%以上含有すればよく、好ましくは10質量%以上含有することが好適であると考えられる。また、本実施例では、加熱調理後の粘弾性および耳部分の歯切れの良さの評価は、Apache種由来の小麦粉の含有量が10質量%である実施例15で最も高くなったが、加熱調理後の保形性および小麦由来の風味については、Apache種由来の小麦粉の含有量が100質量%である実施例16の方が高くなったため、加熱調理後の粘弾性と、保形性、小麦由来の風味、耳部分の歯切れの良さのバランスを考慮して、麺類用小麦粉組成物におけるApache種由来の小麦粉の割合を決定することが好ましい。
【0038】
以上のように、本発明に係る麺類用小麦粉組成物は、フランス産小麦由来の小麦粉を1質量%以上含有する、麺類を製造するための小麦粉であって、上記フランス産小麦が、Apache種、Aigle種、Allezy種、Aprilio種、Arezzo種、Bienfait種、Boregar種、Calabro種、Calumet種、Cellule種、Descartes種、Foxyl種、Fructidor種、Goncourt種、Hybello種、Hydrock種、Hypodrom種、Hywin種、Iilico種、Ionesco種、Laurier種、Lg Absalon種、Lg Armstrong種、Maori種、Matheo種、Nemo種、Oregrain種、Pibrac種、Rgt Kilimanjaro種、Rgt Tekno種、Rgt Venezio種、Rubisko種、Scenario種、Sepia種、Soissons種、Sy Mattis種、Sy Moisson種、およびTerroir種から選ばれる1種以上の小麦であることを特徴とする。このように本発明に係る麺類用小麦粉組成物を原料として麺類を製造した場合に、小麦グルテン、卵製剤、増粘剤などの副原料を添加しなくても、主原料となる小麦粉組成物自体が、麺類の茹で伸びを抑制し、麺類の加熱調理後の粘弾性を向上し、又は、麺皮の加熱調理後の保形性を向上することができるとともに、良好な風味やしなやかさも有する麺類を提供することができる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態例の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。