IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7478679低誘電金属張フッ素樹脂基板及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】低誘電金属張フッ素樹脂基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20240425BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B32B15/082 B
H05K1/03 610H
H05K1/03 610T
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021010623
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114351
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307611(JP,A)
【文献】特開平08-012783(JP,A)
【文献】特開2000-015747(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192718(WO,A1)
【文献】特開2009-263569(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241902(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第19856227(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層された低誘電金属張フッ素樹脂基板であって、
前記フッ素樹脂基板が、その中に10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満である石英ガラスクロス単独、又は前記石英ガラスクロスと10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満であるシリカ粉体の両方を含み、
前記フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面であり、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さが0.5kN/m以上のものであることを特徴とする低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項2】
前記フッ素樹脂基板の表面の純水との接触角が100°以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項3】
前記石英ガラスクロスの引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.1N/25mm以上であることを特徴とする請求項又は請求項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項4】
前記石英ガラスクロスがシランカップリング剤で表面処理されたものであることを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項5】
前記石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0008以下であり、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.7N/25mm以上であることを特徴とする請求項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、アミノ系シランカップリング剤、不飽和基含有シランカップリング剤、若しくはアミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーのうちのいずれか、又はこれらの2つ以上の組み合わせであることを特徴とする請求項又は請求項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項7】
前記フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の誘電正接が10GHzで0.0008以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板。
【請求項8】
フッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層された低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法であって、
前記フッ素樹脂基板として、10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満である石英ガラスクロスを単独で含むか、又は前記石英ガラスクロスと10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満であるシリカ粉体の両方を含むフッ素樹脂基板を用い、
前記フッ素樹脂基板の表面にアミノ基と水酸基を導入して前記フッ素樹脂基板の表面を親水化処理し、前記親水化処理した表面に、前記金属箔を前記フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の溶融温度以上で熱圧着して、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さを0.5kN/m以上にすることを特徴とする低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項9】
前記親水化処理において、前記フッ素樹脂基板にアンモニア水共存の雰囲気中でエキシマレーザーを照射することで、前記フッ素樹脂基板の表面にアミノ基と水酸基を導入することを特徴とする請求項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項10】
前記親水化処理において、前記フッ素樹脂基板の表面の純水との接触角を100°以下にすることを特徴とする請求項又は請求項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項11】
前記石英ガラスクロスとして、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.1N/25mm以上である石英ガラスクロスを用いることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項12】
前記石英ガラスクロスとして、シランカップリング剤で表面処理された石英ガラスクロスを用いることを特徴とする請求項から請求項11のいずれか1項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項13】
前記石英ガラスクロスとして、その誘電正接が10GHzで0.0008以下であり、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.7N/25mm以上である石英ガラスクロスを用いることを特徴とする請求項12に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項14】
前記シランカップリング剤として、アミノ系シランカップリング剤、不飽和基含有シランカップリング剤、若しくはアミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーのうちのいずれか、又はこれらの2つ以上の組み合わせを用いることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項15】
前記フッ素樹脂基板として、誘電正接が10GHzで0.0008以下であるフッ素樹脂を含むフッ素樹脂基板を用いることを特徴とする請求項から請求項14のいずれか1項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【請求項16】
更に前記親水化処理した表面をアルコキシシラン含有プライマーで処理することを特徴とする請求項から請求項15のいずれか1項に記載の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波やマイクロ波といった高周波を使用する高速通信用のプリント配線基板に用いられる低誘電金属張フッ素樹脂基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、5Gなどの高速通信化に伴い、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。またスマートフォン等の情報端末においては配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。
【0003】
5Gなどの高速通信向けにはDガラス、NEガラス、Lガラスなどの低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂、更には低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させたプリント基板が広く使用されている。しかし、いずれの基板も誘電正接はいずれのガラスにおいても10G以上の高周波領域において0.002~0.005程度と大きく、通信にミリ波などの高周波を使用した場合、伝送損失が大きく正確な情報を送れなくなる。
【0004】
なお、信号の伝送損失はEdward A. Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られている。
【0005】
一般に、ミリ波帯にまでなると、誘電正接が低く伝送損失の小さいポリテトラフロオロエチレン(PTFE)といったフッ素樹脂基板が用いられる。
【0006】
ここで、プリント基板に用いる銅張積層基板への銅箔の形成は、銅箔、ガラスクロス入りのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基板、銅箔を順に積層し、熱圧着することによって行われる(特許文献1)。しかし、特許文献1では誘電正接が0.001以上であり、ガラスクロスに石英ガラスクロスを使用していない。
【0007】
石英ガラスクロスと熱硬化性樹脂からなる低誘電樹脂基板(特許文献2)が開発されているが、PTFEなどの熱可塑性フッ素樹脂は使用しておらず、10GHzで測定した誘電正接は0.0009が限界であり、更に誘電正接が低い樹脂基板が求められている。
【0008】
今後高速通信において使用する波長が70~100GHz帯になってくると樹脂表面と銅配線の界面が平たんである必要がある。
【0009】
しかし、一般に、フッ素樹脂は撥水性があり、銅箔の密着強度が確保できないため、従来、PTFE表面を物理的または化学的に改質して、薄膜の密着性を上げる方法が提案されている(特許文献3~5)。例えば、フッ素樹脂フィルムを水存在雰囲気下でエキシマレーザーを照射して親水化する方法(特許文献3)や、水の代わりに希アンモニア水溶液を用いてエキシマレーザーを照射して親水化する方法(非特許文献1)が報告されているが金属張樹脂基板としての評価はない。また、アミノ基含有ガス雰囲気中でプラズマ化によりフッ素樹脂の表面にアミノ基付加反応を起こさせ、フッ素樹脂を親水化する方法(特許文献4)などが知られている。このほか、PTFE表面に極性基を導入する工程と続いて行われるエッチングにより表面に凹凸を形成する工程を併用して密着性を向上する方法(特許文献5)などがある。
【0010】
しかし、表面を化学的に改質する事によって親水性は付与できるが、親水性の経時変化による低下や親水化のバラツキから依然密着性は十分ではない。いずれにおいても改質した表面に凹凸を形成し、アンカー効果によって銅箔とフッ素樹脂基板の密着信頼性を確保することが必須の処理となっている。
【0011】
一方、伝送信号は表皮効果によりミリ波などの高周波になればなるほど導体表面を伝搬するようになり、導体表面の粗度が大きくなればなるほど伝送損失が増大する。このため、PTFE上の薄膜の密着強度をあげるために、いくつかの表面改質方法が提案されている(特許文献6)が、その効果は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-307825号公報
【文献】特開2009-263569号公報
【文献】特開平5-306346号公報
【文献】特開2005-343949号公報
【文献】特開2003-201571号公報
【文献】国際公開第2018/212345号
【非特許文献】
【0013】
【文献】高分子論文集、Vol.52,No.1(1995),pp.66-68「エキシマレーザーを用いたテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の表面改質」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記点に鑑み、誘電特性や引張強さに優れ、銅箔などの金属箔との引きはがし強さが向上した、ミリ波などの高周波用に最適な低誘電金属張フッ素樹脂基板とその製造方法の提供を目的とする。なお、本発明で言う「引きはがし強さ」とは、JIS C 6481:1996に記載の方法で測定した引きはがし強さの値を指すものとする。以下において「引きはがし強さ」を「密着強度」ということもある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明では、
フッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層された低誘電金属張フッ素樹脂基板であって、
前記フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面であり、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さが0.5kN/m以上のものであることを特徴とする低誘電金属張フッ素樹脂基板を提供する。
【0016】
このような低誘電金属張フッ素樹脂基板であれば、誘電特性に優れ、銅箔などの金属箔との引きはがし強さが向上しているため、ミリ波などの高周波用に最適である。
【0017】
本発明では、前記フッ素樹脂基板の表面の純水との接触角が100°以下であることが好ましい。
【0018】
このようなものであれば、金属箔との密着強度がより向上する。
【0019】
本発明では、更に前記フッ素樹脂基板中に石英ガラスクロス単独、又は石英ガラスクロスとシリカ粉体の両方を含むものであることができる。
【0020】
このようなものであれば、強度に優れ、耐久性、信頼性に優れる低誘電金属張フッ素樹脂基板となる。
【0021】
この場合、前記石英ガラスクロスの10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満であることが好ましい。
【0022】
このような石英ガラスクロスを含有する低誘電金属張フッ素樹脂基板であれば、より誘電特性に優れる。
【0023】
また、前記石英ガラスクロスの引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.1N/25mm以上であることが好ましい。
【0024】
このような石英ガラスクロスを含有する低誘電金属張フッ素樹脂基板であれば、より強度に優れ、基板を製造する際に加えられる外力に対する耐性が向上する。
【0025】
また、前記シリカ粉体の10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満であることが好ましい。
【0026】
フッ素樹脂基板中に石英ガラスクロスとシリカ粉体の両方を含む場合、このようなシリカ粉体を含むことで、低誘電金属張フッ素樹脂基板は誘電特性に優れ、熱膨張率が小さく強度が強くなる。
【0027】
また、前記石英ガラスクロスがシランカップリング剤で表面処理されたものであることが好ましい。
【0028】
このように石英ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆(表面処理)することで石英ガラスクロスの滑り性や濡れ性を高め、ガラスクロスの引張強さを高める効果がある。
【0029】
この場合、前記石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0008以下であり、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.7N/25mm以上であることが好ましい。
【0030】
このような石英ガラスクロスを含むものであれば、誘電特性と強度が共に優れ、より一層信頼性に優れる金属張フッ素樹脂基板となる。
【0031】
また、前記シランカップリング剤が、アミノ系シランカップリング剤、不飽和基含有シランカップリング剤、若しくはアミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーのうちのいずれか、又はこれらの2つ以上の組み合わせであることが好ましい。
【0032】
石英ガラスクロスをこのようなシランカップリング剤で表面処理することにより、石英ガラスクロスの滑り性や濡れ性をより高め、ガラスクロスの引張強さをより一層高めることができる。
【0033】
また、本発明では、前記フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の誘電正接が10GHzで0.0008以下であることが好ましい。
【0034】
このようなフッ素樹脂は、誘電正接が低く、ミリ波などの高周波用に特に適している。
【0035】
また、本発明は、フッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層された低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法であって、
前記フッ素樹脂基板の表面にアミノ基と水酸基を導入して前記フッ素樹脂基板の表面を親水化処理し、前記親水化処理した表面に、前記金属箔を前記フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の溶融温度以上で熱圧着して、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さを0.5kN/m以上にすることを特徴とする低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法を提供する。
【0036】
このような低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法であれば、誘電特性や引張強さに優れ、銅箔などの金属箔との密着強度が向上しているため、ミリ波などの高周波用に最適な低誘電金属張フッ素樹脂基板を得ることができる。
【0037】
本発明では、前記親水化処理において、前記フッ素樹脂基板にアンモニア水共存の雰囲気中でエキシマレーザーを照射することで、前記フッ素樹脂基板の表面にアミノ基と水酸基を導入することが好ましい。
【0038】
このように親水化処理することで、効率よくフッ素樹脂基板の表面をアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面とすることができる。
【0039】
本発明では、前記親水化処理において、前記フッ素樹脂基板の表面の純水との接触角を100°以下にすることが好ましい。
【0040】
このようにすることで、金属箔とフッ素樹脂基板の密着強度がより向上できる。
【0041】
また、前記フッ素樹脂基板として、石英ガラスクロス単独、又は石英ガラスクロスとシリカ粉体の両方を含むフッ素樹脂基板を用いることができる。
【0042】
このような部材を用いることで、強度に優れ、耐久性、信頼性に優れる低誘電金属張フッ素樹脂基板を好適に製造することができる。
【0043】
また、前記石英ガラスクロスとして、10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満である石英ガラスクロスを用いるが好ましい。
【0044】
このような石英ガラスクロスを用いると、より誘電特性に優れる低誘電金属張フッ素樹脂基板を得ることができる。
【0045】
また、前記石英ガラスクロスとして、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.1N/25mm以上である石英ガラスクロスを用いることが好ましい。
【0046】
このような石英ガラスクロスを用いれば、より強度に優れ、基板を製造する際に加えられる外力に対する耐性が向上した低誘電金属張フッ素樹脂基板を得ることができる。
【0047】
前記シリカ粉体として、10GHzで測定した誘電正接が0.0010未満であるシリカ粉体を用いることが好ましい。
【0048】
石英ガラスクロスとシリカ粉体の両方を含むフッ素樹脂基板を用いる場合、このようなシリカ粉体を用いることで、より誘電特性に優れた低誘電金属張フッ素樹脂基板を得ることができる。
【0049】
また、前記石英ガラスクロスとして、シランカップリング剤で表面処理された石英ガラスクロスを用いることが好ましい。
【0050】
このように石英ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆(表面処理)することで石英ガラスクロスの滑り性や濡れ性を高め、ガラスクロスの引張強さを高めることができる。
【0051】
この場合、前記石英ガラスクロスとして、その誘電正接が10GHzで0.0008以下であり、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.7N/25mm以上である石英ガラスクロスを用いることが好ましい。
【0052】
このような石英ガラスクロスを用いると、誘電特性と強度が共に優れ、より一層信頼性に優れる金属張フッ素樹脂基板を好適に製造することができる。
【0053】
前記シランカップリング剤として、アミノ系シランカップリング剤、不飽和基含有シランカップリング剤、若しくはアミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーのうちのいずれか、又はこれらの2つ以上の組み合わせを用いることが好ましい。
【0054】
石英ガラスクロスをこのようなシランカップリング剤で表面処理することにより、石英ガラスクロスの滑り性や濡れ性をより高め、ガラスクロスの引張強さをより一層高めることができる。
【0055】
前記フッ素樹脂基板として、誘電正接が10GHzで0.0008以下であるフッ素樹脂を含むフッ素樹脂基板を用いることが好ましい。
【0056】
このようなフッ素樹脂基板を用いることで、誘電正接が低く、ミリ波などの高周波用に特に適したものとすることができる。
【0057】
また、本発明は、更に前記親水化処理し、アミノ基と水酸基を持ったフッ素樹脂基板表面をアルコキシシラン含有プライマーで処理することが好ましい。
【0058】
このようにアルコキシシラン含有プライマーで処理(塗布)することで銅などの金属箔との密着強度が更に増加して耐久性、信頼性により一層優れる金属張フッ素樹脂基板を好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0059】
以上のように、本発明の低誘電金属張フッ素樹脂基板であれば、誘電特性や引張強さに優れ、銅箔などの金属箔との密着強度が向上しているため、ミリ波などの高周波用途として最適である。また、本発明の低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法によれば、上記基板を構成するフッ素樹脂表面に、アミノ基及び水酸基を同時に導入することで銅箔などの金属箔との密着強度を効率よく向上させことができ、ミリ波などの高周波用に最適な低誘電金属張フッ素樹脂基板を効率よく製造することができる。特に、寸法精度、誘電特性や引張強さに優れた石英ガラスクロスを含有することで、上記用途において利用価値が高いものとなる。
【0060】
また、本発明の方法で作製した低誘電金属張フッ素樹脂基板は、プリント基板などに用いることができ、特に表面が親水化処理されているために平滑な面を持った銅箔などの金属と強固な密着性が得られることから、表皮効果による伝送損失が少なく、ミリ波などの高周波を使用した高速通信用に最適な低誘電金属張フッ素樹脂基板となる。
その上、本発明で使用可能なフッ素樹脂基板としては、高周波でも低誘電正接の特性を持つ石英ガラスクロスやシリカ粉体を更に含んでもよく、このような部材を用いることで、強度に優れ、耐久性、信頼性に優れる低誘電金属張フッ素樹脂基板となる。
【発明を実施するための形態】
【0061】
上述のように、誘電特性や引張強さに優れ、金属箔との密着強度が向上した、高周波用に最適な低誘電金属張フッ素樹脂基板の開発が求められていた。
【0062】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意努力を重ねた結果、フッ素樹脂の表面処理として、アンモニア水雰囲気中でエキシマレーザーを照射させフッ素樹脂の表面にアミノ基と水酸基を生成させて親水化処理を行い、金属箔と密着させることを見出して本発明を完成させた。
【0063】
即ち、本発明は、フッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層された低誘電金属張フッ素樹脂基板であって、前記フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面であり、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さが0.5kN/m以上のものであることを特徴とする低誘電金属張フッ素樹脂基板である。
【0064】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
-低誘電金属張フッ素樹脂基板-
本発明の低誘電金属張フッ素樹脂基板は、フッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層されたものであって、前記フッ素樹脂基板の金属箔が積層された側の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面となっている。このとき、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さが0.5kN/m以上であることを特徴とする。
【0066】
-フッ素樹脂基板-
フッ素樹脂基板としては、フッ素樹脂で構成された基板であれば特に限定されず、フッ素樹脂単独からなる基板でもよいが、フッ素樹脂基板中に補強材を含んでもよい。補強材は、フッ素樹脂基板の引張強さなどの機械的強度を向上させるとともに低誘電特性に優れるものであれば、その材質、形状などは特に限定されないが、その誘電特性と強度のバランスを考慮すると、酸化ケイ素系補強材が好ましい。例えば、本発明で使用可能なフッ素樹脂基板は、ミリ波やマイクロ波といった高周波でも低誘電正接の特性を持つ石英ガラスクロスやシリカ粉体を含んでもよい。
【0067】
上記フッ素樹脂基板の一方又は両方の表面には金属箔が積層されている。フッ素樹脂基板の表面のうち金属箔が積層される側の表面(フッ素樹脂基板と金属箔が接触する面)は親水化処理表面となっており、その表面はアミノ基と水酸基を有する。つまり、フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面となっている。前記親水化処理表面は、親水化処理されていると共にアミノ基と水酸基を有していればよく、親水化処理の態様は特に限定されない。具体的には、例えば後述する親水化処理によってアミノ基と水酸基が表面に導入されている。
【0068】
本発明では、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さが0.5kN/m以上であり、0.8kN/m以上であることが好ましい。引きはがし強さが0.5kN/m未満では、低誘電金属張フッ素樹脂基板と金属箔との引きはがし強さが不足しており、フッ素樹脂基板と金属箔の密着信頼性を確保できない。
【0069】
-フッ素樹脂-
ここで「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオ口アルコキシ基、フルオ口ポリエーテル基等を挙げることができる。
【0070】
「フルオロアルキル基」とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味し、「パーフルオロアルキル基」を含む。具体的には、「フルオロアルキル基」は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、アルキル基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基等を含む。
【0071】
「フルオロアルコキシ基」とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基を意味し、「パーフルオロアルコキシ基」を含む。具体的には、「フルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、アルコキシ基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基等を含む。
【0072】
「フルオロポリエーテル基」とは、繰り返し単位としてオキシアルキレン単位を有し、末端にアルキル基又は水素原子を有する1価の基であって、このアルキレンオキシド鎖又は末端のアルキル基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された1価の基を意味する。「フルオロポリエーテル基」は、繰り返し単位として複数のパーフルオロアルキレンオキシド鎖を有する「パーフルオロポリエーテル基」を含む。
【0073】
フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・へキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、並びにテトラフルオロエチレン、へキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性フッ素樹脂(THV)及びフルオロエラストマーを挙げることができる。また、これら化合物を含む混合物やコポリマーも、フッ素樹脂として使用できる。
【0074】
中でも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・へキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)は誘電正接が低く、本用途に好ましいフッ素樹脂である。
【0075】
フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の誘電正接は10GHzで0.0008以下であることが好ましい。
このようなフッ素樹脂は、誘電正接が低く、ミリ波などの高周波用に特に適している。
【0076】
-金属箔-
本発明で用いる金属箔としては特に限定されない。銅、ニッケル、スズ、金、銀、これらの合金などの箔が挙げられるが、電気的、経済的に銅箔が好ましく用いられる。
【0077】
上述したように高速通信において使用する波長が70~100GHz帯ではフッ素樹脂樹脂表面と銅配線の界面が平たんである必要がある。一方、通常は界面を平たんにすると、アンカー効果を得られないため両者の密着信頼性を確保することができない。しかし、本発明では、フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面であるため、金属箔の粗度(粗さ)が低くとも両者の密着信頼性を確保することができる。
【0078】
伝送信号は表皮効果によりミリ波などの高周波になればなるほど導体表面を伝搬するようになり、導体(金属箔)表面の粗度が大きくなればなるほど伝送損失が増大してしまうが、本発明では、金属箔の粗度を低くすることができるため、金属箔表面の粗さに起因する伝送損失を抑えることが可能である。このため、本発明では、金属箔の粗度(Rx)を0.8μmとすることができる。なお、本発明では、金属箔の粗度(Rx)は、JIS-C-6481:1996に準拠して測定した値である。
【0079】
-石英ガラスクロス-
上述したようにフッ素樹脂基板中に補強材を含んでもよいが、その誘電特性と強度のバランスを総合的に考慮すると、補強材としては石英ガラスクロスが好ましい。
本発明で使用可能な石英ガラスクロスは、例えば、誘電正接が10GHzで0.0010未満、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.1N/25mm以上である石英ガラスクロスである。好ましくは誘電正接が0.0008以下、更に好ましくは0.0005以下の石英ガラスクロスである。なお、引張強さの測定は、JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定する。
【0080】
この種の高性能石英ガラスクロスを得るには、高温で加熱処理し、石英ガラス中に存在する水酸基(シラノール基)を除去した後、石英ガラス表面に発生した歪層を溶解除去(エッチング処理)し、必要に応じて更にカップリング剤などで石英ガラス表面を処理することができる。
【0081】
この工程により誘電正接を本来の石英のレベルである0.0010未満、より好ましくは0.0008以下、更には0.0005以下にすることができる。
【0082】
本発明では、更に、石英ガラスクロスの表面をカップリング剤処理することが好ましい。このように石英ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆することでガラスクロスやヤーンの滑り性や濡れ性を高め、石英ガラスクロスの引張強さを高める効果がある。適切に表面処理することで、石英ガラスクロスの引張強さはクロス重量(g/m)当たり2.7N/25mm以上、最適なシランカップリング剤を選択することで3.5N/25mm以上となる。
【0083】
特に、その誘電正接が10GHzで0.0008以下であり、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.7N/25mm以上である石英ガラスクロスを用いることが好ましい。このような石英ガラスクロスを用いると、誘電特性と強度が共に優れ、より一層信頼性に優れる金属張フッ素樹脂基板とすることができる。
【0084】
また後述するようにプリプレグ等を製造する際にも、フッ素樹脂と石英ガラスクロス表面との接着を強固にするためシランカップリング剤による表面処理を行うことができる。
【0085】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、アルコキシシランが好ましく、代表的なシランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-903)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-603)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-603)などのアミノ系シランカップリング剤、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-1003)、ビニルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-1003)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-503)、p-スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-1403)などの不飽和基含有シランカップリング剤、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-7103)、パーフルオロポリエーテル含有トリアルコキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:X-71-195、KY-1901、KY-108)などのフッ素原子含有シランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-403)、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-403)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-803)、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-9007)、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(信越化学工業(株)製;商品名:X-12-967C)、ベンゾトリアゾー基含有トリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:X-12-1214A)などの上記以外の官能基、有機基を含有するシランカップリング剤、または上記アミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーなどの群から選択される1種又は2種以上が好ましく、アミノ系シランカップリング剤、不飽和基含有シランカップリング剤、若しくはアミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーのうちのいずれか、又はこれらの2つ以上の組み合わせがより好ましく、特にアミノ系シランカップリング剤や不飽和基含有シランカップリング剤がより好ましい。
【0086】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.1質量%~5質量%の間の希薄水溶液で使用されるが、特に0.1質量%~1質量%の間で使用するのが効果的である。本発明による石英ガラスクロスを用いることで、上記シランカップリング剤が均一に付着しガラスクロス表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、石英ガラスクロスの引張強さを向上させるとともに、プリプレグを製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない塗布が可能となる。
【0087】
-シリカ粉体-
本発明では、補強材として更にシリカ粉体を用いることもできる。つまり、更に上記フッ素樹脂基板中に石英ガラスクロス単独、又は石英ガラスクロスとシリカ粉体の両方を含むことができる。このようなものであれば、強度に優れ、耐久性、信頼性に優れる低誘電金属張フッ素樹脂基板となる。
【0088】
本発明で使用可能なシリカ粉体は、特に限定されないが、平均粒径が30μm以下であってよく、誘電正接が10GHzで0.0010以下、好ましくは0.0010未満であってよい。更に、望ましくは0.0008以下であることが好ましい。
【0089】
シリカ粉体は内部及び表面の一部又は全面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属及び/又はその酸化物が金属換算で200ppm以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下含まれることを特徴とする低誘電シリカ粉体である。
【0090】
更に、前記したシリカ粉体中のBが1ppm以下、Pが1ppm以下、UおよびThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下であるシリカ粉体も低誘電シリカ粉体として使用可能である。本発明で使用するシリカ粉体も石英ガラスクロスと同様に500℃~1500℃の温度で加熱処理することで低誘電化したもので、更には前記シリカ粉体表面をエッチング処理した低誘電シリカ粉体であることが好ましい。
【0091】
本発明において好ましいシリカ粉体は、水酸基(Si-OH)含有量が300ppm以下のもので、これよりも含有量が多いと低誘電正接が得られない。上記加熱処理により、シリカ粉体が含有する水酸基量が300ppm以下、好ましくは280ppm以下、更に好ましくは150ppm以下となり、低誘電正接の特性を有するシリカ粉体となる。
【0092】
本発明で使用する低誘電シリカ粉体は、例えば、平均粒径0.1~30μmで、好ましくは最大粒径が100μm以下のシリカ粉体であり、高速通信基板、アンテナ基板の充填剤として使用する場合は平均粒径が0.1~5μmで最大粒径が20μm、より望ましくは0.1~3μmで最大粒径が10μm以下である。
【0093】
シリカ粉体は500℃以上の温度で熱処理すると粒子表面に歪層ができて強度が低下する場合がある。そのため、本発明で使用するシリカ粉体はこの歪層を除去したものを使用するほうが望ましい。シリカ粉体の歪層の除去は前述した石英ガラスクロスと同様にエッチング液などにシリカ粉体を浸漬することで容易に歪層を除去することができる。
【0094】
シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で被覆することでプリプレグを製造する際に、樹脂とガラスクロスやシリカ粉体表面の接着を強固にすることができる。
シランカップリング剤としては、前記した石英ガラスクロスで使用する公知のシランカップリング剤を用いることができる。
【0095】
シリカ粉体の添加量は、樹脂成分の総和100質量部に対し0~1000質量部、好ましくは10~950質量部、特に50~850質量部がより好ましい。フッ素樹脂の種類及び用途によっては未添加でよいが、添加することによって硬化物の熱膨張率(CTE)が小さくなり、十分な強度を得ることができる。1000質量部以下とすると、プリプレグ製造時に柔軟性が失われたり、外観不良が発生したりすることもない。なお、このシリカ粉体は、樹脂全体の10~90質量%、特に35~85質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0096】
このシリカ粉体は前記した石英ガラスクロスと併用することで高速通信基板、アンテナ基板などの基板向け充填剤として好適である。
本シリカ粉体は流動性や加工性など特性向上のため、異なる平均粒径のシリカ粉体をブレンドしても良い。
【0097】
-フッ素樹脂基板の製造法-
上記フッ素樹脂基板の製造方法については、特に限定されないが、例えば、上述したフッ素樹脂と、必要に応じて石英ガラスクロスやシリカ粉体などの補強材や、その他の成分を使用して常法により製造することができる。
フッ素樹脂(マトリックス樹脂)が溶剤に溶解も分散も不可能、若しくは、溶解困難である場合には、薄膜のフッ素樹脂フィルムと、必要に応じて、石英ガラスクロス等とを加熱圧着することでフッ素樹脂基板を作製することもできる(製法1)。フッ素樹脂が溶剤に溶解又は分散可能である場合は、フッ素樹脂組成物を調製し、これを用いてプリプレグを得た後、これを加圧加熱硬化させることによりフッ素樹脂基板を得ることができる(製法2)。以下、これらの製法について例を挙げて説明する。
【0098】
(製法1)
フッ素樹脂基板の製造は、薄膜のフッ素樹脂フィルム、石英ガラスクロスを加熱圧着することでフッ素樹脂基板を作製することができる。フッ素樹脂フィルムはシリカ粉体などを予め含有していてもよい。例えば、フッ素樹脂フィルム/石英ガラスクロス/フッ素樹脂フィルムを積層し、加熱下で圧着することで作製出来る。加熱下での熱圧着は通常250~400℃の範囲内で、1~20分間、0.1~10MPaの圧力で熱圧着することでフッ素樹脂と石英ガラスクロス、あるいはシリカ粉体を含有するフッ素樹脂基板が出来る。
【0099】
熱圧着温度に関しては、フッ素樹脂の軟化温度によるが、高温になると樹脂のしみ出しや、厚みの不均一化が起こる懸念があり、一般には340℃未満であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。熱圧着はプレス機を用いてバッチ式に行うこともでき、また高温ラミネーターを用いて連続的に行うこともできる。プレス機を用いる場合は空気の挟み込みを防ぎ、フッ素樹脂がガラスクロス内へ入り込みやすくするために、真空プレス機を用いることが好ましい。
【0100】
(製法2)
フッ素樹脂基板の製造は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂と界面活性剤からなる水溶液又は分散液(以下、「分散液等」ともいう)を用いることも可能である。その場合は、必要に応じてシリカ粉体等をあらかじめ分散液等に所定量混合しスラリー化した後、石英ガラスクロスに含浸処理、乾燥することでフッ素樹脂と必要に応じてシリカ粉体を含んだ石英ガラスクロスのプリプレグが得られる。
【0101】
フッ素樹脂微粉末を含む分散液には有機系の界面活性剤などが含まれていることから、350℃以上の温度で熱処理をかけることで界面活性剤を除去し、フッ素樹脂基板が保有する低誘電正接特性とすることができる。
以上の製造方法で本発明の出発材料であるフッ素樹脂基板を作製することができる。
【0102】
-フッ素樹脂基板の親水化工程-
フッ素樹脂基板の親水化処理は、特に限定されないが、これによりフッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面となる必要がある。このような親水化処理により、金属箔とフッ素樹脂基板との引きはがし強さを0.5kN/m以上にすることが可能となる。上記親水化処理によって金属箔とフッ素樹脂基板との引きはがし強さ、即ち密着信頼性が向上することは、本発明者らによって初めて見出されたものである。
【0103】
アミノ基と水酸基を有する親水化処理表面において金属箔とフッ素樹脂基板との引きはがし強さが上記のように向上する理由としては、アミノ基と水酸基のいずれもが親水性を持つことと、アミノ基と金属箔との間の親和性が水酸基と金属箔との間よりも強いこととの相乗効果によるものと考えられる。
【0104】
このような処理の例としては、PTFEなどのフッ素樹脂をアルゴン-アンモニア-水蒸気の混合気体のラジオ波低圧非平衡プラズマで処理することにより親水化処理したり、フッ素樹脂にアンモニア水等のアミノ基と水酸基源の存在下にArFエキシマレーザーやKrFエキシマレーザーなどの波長250nm以下の紫外レーザー光を照射し、フッ素樹脂の表面を親水化させる処理(例えば、非特許文献1参照)などが挙げられる。
【0105】
特に、本発明の親水化処理は、フッ素樹脂基板にアンモニア水共存の雰囲気(アンモニア水雰囲気)中でエキシマレーザーを照射することで、容易にフッ素樹脂表面にアミノ基と水酸基を同時に生成させることができる。ここで、アンモニア水共存の雰囲気とは、アンモニア(NH)と水(HO)の両方が雰囲気として存在する環境を意味し、これらは、フッ素樹脂基板の表面上の雰囲気に液体として存在しても、気体として存在してもよい。本発明の親水化処理では、アンモニア水(液体)をフッ素樹脂基板に接触させた状態でレーザー光を照射するよりも、アンモニアと水の両方が気体として存在する環境でレーザー光を照射する方が、親水化の程度が大きくなるうえ、処理装置の構造も簡単になるので好ましい。
上記エキシマレーザーとしては、ArFエキシマレーザー(193nm)やKrFエキシマレーザー(248nm)などを用いることができるが、アンモニア水が190nm付近に吸収ピークを持つため、ArFエキシマレーザーを用いた方が親水化は効率よく起こるので好ましい。
【0106】
このように、アンモニア水共存の雰囲気中でエキシマレーザーを照射することで容易にフッ素樹脂表面にアミノ基と水酸基を生成させることができ、レーザー光の照射時間によりアミノ基及び水酸基の生成量が変化し、照射時間を長くすることでアミノ基及び水酸基の生成量を増加させることができる。その結果、フッ素樹脂表面がより親水性化する。例えば、親水化したフッ素樹脂基板の純水に対する接触角は、JIS R 3257:1999の静滴法により測定される接触角で100°以下が好ましく、90°以下がより好ましく、80°以下が更に好ましい。また、フッ素樹脂基板表面のアミノ基や水酸基の生成量は誘電正接を測定することで容易に見積もることができる。
【0107】
フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有することは、公知の表面分析法により確認することができる。例えば、X線光電子分光法(XPS)、赤外分光法(特に、ATR-IR)、静的二次イオン質量分析法(Static-SIMS)、和周波発生(SPG)分光法などが挙げられる。本発明では、XPSによりアミノ基と水酸基の存在を確認した。
【0108】
<プライマーによる表面処理>
本発明では、更に前記親水化処理した表面をアルコキシシラン含有プライマーで処理することが好ましい。
このようにアルコキシシラン含有プライマーで処理(塗布)することで金属箔との密着強度が更に増加して耐久性、信頼性により一層優れる金属張フッ素樹脂基板を好適に得ることができる。
【0109】
例えば、フッ素樹脂を石英ガラスクロスやシリカ粉体と複合化した親水化処理品は、線膨張率が十分下がり、さらに樹脂の染み出しも低減し、表面粗度Raが0.2μm未満である銅などの金属箔に対しても密着性に優れ、高い接着性を発現する。また、親水化処理したフッ素樹脂基板はフッ素樹脂表面にアミノ基と水酸基を含有することから、アルコキシシラン含有プライマーを塗布することで銅などの金属箔との密着強度が更に増加して耐久性、信頼性に優れる金属張フッ素樹脂基板となる。
【0110】
-低誘電金属張フッ素樹脂基板の製造方法-
本発明のフッ素樹脂基板の表面に金属箔が積層された低誘電金属張フッ素樹脂基板は、前記フッ素樹脂基板の表面にアミノ基と水酸基を導入して前記フッ素樹脂基板の表面を親水化処理し、前記親水化処理した表面に、前記金属箔を前記フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の溶融温度以上で熱圧着して、前記金属箔と前記フッ素樹脂基板との引きはがし強さを0.5kN/m以上にすることにより製造する。
上述したようにフッ素樹脂基板を製造し、親水化処理などを行った後、親水化処理した表面に、前記金属箔を前記フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂の溶融温度以上で熱圧着して低誘電金属張フッ素樹脂基板とする。
【0111】
低誘電金属張フッ素樹脂基板(積層基板)の構成は特に限定されないが、例えば、2枚の銅などの金属箔の間に、フッ素樹脂と石英ガラスクロスを交互に積層したものからなる場合には、積層枚数は8以下が好ましく、6以下が更に好ましい。フッ素樹脂基板中のフッ素樹脂含有量や石英ガラスクロスの種類、シリカ粉体の含有量及び積層枚数を変えることによってフッ素樹脂基板のX-Y方向の線膨張率を変えることが出来るが、線膨張率の値は5~50ppm/℃の範囲内が好ましく、10~40ppm/℃の範囲内が更に好ましい。フッ素樹脂基板の線膨張率が50ppm/℃以下であれば銅箔とフッ素樹脂基板との密着性が十分であり、また銅箔エッチング後に基板の反りや波打ちなどの不具合を生じることもない。
【0112】
本発明の低誘電金属張フッ素樹脂基板をサブトラクト法や穴あけ加工などの通常用いられる方法により加工することで印刷配線板を得ることができる。積層基板の電極パターンは、公知の方法で作製すればよく、例えば、本発明の低誘電金属張フッ素樹脂基板と、前記積層基板の片面または両面に設けられた銅などの金属箔とを有する金属張積層基板に対してエッチング等を行うことにより作製することができる。
【0113】
本発明の低誘電金属張フッ素樹脂基板はフッ素樹脂と銅などの金属箔との密着性、即ち引きはがし強さに優れ、かつミリ波などの高周波信号の伝送特性に優れた低誘電率、低誘電正接の特性を保有する基板である。
【0114】
そのため、70GHz以上の高周波を用いる自動運転や遠隔治療など安全にかかわる領域において信号を伝達する実装基板やアンテナ基板など高度な信頼性が必要とされる基板用として最適なものである。
【実施例
【0115】
以下に実施例、比較例、調製例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下における誘電正接(10GHz)、引きはがし強さ、純水接触角、銅箔の粗度の測定、親水化したフッ素樹脂基板表面の分析は以下の方法で行った。
【0116】
1.誘電正接の測定
特に明示した場合を除いて、ネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR誘電体共振器(キーサイトテクノロジー社製)を接続し、10GHzの誘電正接を測定した。
2.引きはがし強さの測定
JIS C 6481:1996に準拠して測定した。
3.純水接触角の測定
JIS R 3257:1999に準拠して測定した。
4.銅箔の粗度(Rx)
JIS C 6481:1996に準拠して測定した。
5.親水化したフッ素樹脂基板表面の分析
親水化したフッ素樹脂基板表面がアミノ基と水酸基を有することは、X線光電子分光(XPS)により確認した。
6.引張強さの測定
JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定した。
【0117】
(調製例1)石英ガラスクロスの製造例
石英ガラス糸を高温で延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.045mm、クロス重量が42.5g/mであった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去して、幅1.3mで長さ2,000mの石英ガラスクロスを製造した。次に、上記で製造した幅1.3mで長さ2,000mの石英ガラスクロスを700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、冷却した石英ガラスクロスを40℃に加熱したpH13のアルカリ電解水に入れ48時間浸漬しエッチング処理を行った。エッチング後、イオン交換水で洗浄し、乾燥することで低誘電、高強度の石英ガラスクロスを作製した。
次いで、加熱、エッチング処理の石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。本石英ガラスクロスの誘電正接は0.0002で引張強さは120N/25mm、クロス重量(g/m)当たり2.82N/25mmであった。
【0118】
(調製例2)低誘電シリカ粉体の調製例
平均粒径1.5μm、誘電正接0.0011(10GHz)のシリカ(アドマテックス社製 SO-E5)を5Kgアルミナ容器に入れ、マッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却しシリカを得た。加熱処理後のシリカをpH13のアルカリ電解水20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することでシリカ粉体表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカを分離した後、メタノールで洗浄して乾燥した。乾燥したシリカをボールミルで解砕したシリカの誘電正接は0.0002(10GHz)であった。ここで得られた低誘電シリカ粉体をシランカップリング剤、KBM-503(信越化学工業(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行ない、フッ素樹脂基板の製造に使用した。
【0119】
(調製例3)フッ素樹脂基板(1)
誘電正接が10GHzで0.0002のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子が60質量%、非イオン界面活性剤が6質量%、水が34質量%からなるポリテトラエチレン微粒子水系分散液(PTFE水系分散液)を、調製例1で示した石英ガラスクロスに付着量が46質量%になるように調整し含浸して塗布した後、100℃の乾燥炉で10分乾燥させ水分を飛ばした。次いで、作製したプリプレグを真空減圧プレス機で380℃、1.5MPaで5分間成形した。更に380℃の乾燥機で5分間放置してフッ素樹脂基板(1)を作製した。
フッ素樹脂基板(1)は成型不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0002と優れた誘電特性を有するものであった。
【0120】
(調製例4)フッ素樹脂基板(2)
厚さ50μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)フィルム(ダイキン製 誘電正接:0.0008)を2枚、調製例1で示した石英ガラスクロスを1枚用意し、それぞれPFAフィルム/石英ガラスクロス/PFAフィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃、1.5MPaで30分間熱プレスすることによりフッ素樹脂からなるフッ素樹脂基板(2)を作製した。
フッ素樹脂基板(2)は成型不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0005と優れた誘電特性を有するものであった。
【0121】
(調製例5)シリカ含有フッ素樹脂基板(3)
調製例3のPTFE水系分散液100質量部に、調製例2で作製した低誘電シリカ粉体を40質量部添加混合してシリカ含有PTFE分散液を調製した。この分散液を調製例1で示した石英ガラスクロスに付着量が46質量%になるように調整し含浸して塗布した後、100℃の乾燥炉で10分乾燥させ水分を飛ばした。次いで、作製したプリプレグを真空減圧プレス機で380℃、1.5MPaで5分間成形した。更に380℃の乾燥機で5分間放置してフッ素樹脂基板(3)を作製した。
フッ素樹脂基板(3)は成型不良もなく、熱膨張率の小さく強度が強いフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0003と優れた誘電特性を有するものであった。
【0122】
(調製例6)プライマー組成物1の調製例
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-903)1質量部、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-803)1質量部、テトラ-n-ブトキシチタン0.5質量部をn-ヘキサン97.5質量部に溶解混合してプライマー組成物1を調製した。
【0123】
(調製例7)プライマー組成物2の調製例
ベンゾトリアゾール基含有トリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:X-12-1214A)2質量部をn-ヘキサン98.0質量部に溶解混合してプライマー組成物2を調製した。
【0124】
<銅張フッ素樹脂基板の作製>
(実施例1~3、比較例1)
エキシマ照射装置(M・D・COM社製;MEIRA-M-1-152-H3)の照射エリア内に28~30%アンモニア水溶液約20mlを入れた容器と、その容器内でアンモニア水に触れない位置に10cm角のフッ素樹脂基板(1)を設置した。照射エリア内を密閉化してエキシマレーザー(波長:172nm、照度:80mW/cm)を表1に示したように2分、5分、10分と異なる時間で照射し、表面親水化したフッ素樹脂基板F11、F21、F31を作製した。尚、エキシマレーザー未照射の表面親水化していないフッ素樹脂基板をF01とした。照射後、フッ素樹脂基板を取り出し純水で表面を洗浄し、室温で乾燥した後、純水との接触角をJIS-R-3257:1999の静滴法により測定した。親水化処理したフッ素樹脂基板F11、F21、F31の表面がアミノ基と水酸基を有することをXPSにより確認した。
更に、F01、F11、F21、F31の基板を用いて低粗度銅箔(粗度(Rx):1.5μm、厚み:35μm)を片面に積層して真空加圧プレス機を用いて325℃、1.5MPaで30分間熱プレスすることによりフッ素樹脂基板に銅箔を積層し銅張フッ素樹脂基板を作製した。
銅箔を325℃で積層した後の誘電正接をフッ素樹脂基板の銅箔をエッチング除去し、純水で洗浄、乾燥させた面を用い10GHzで測定した。
銅張フッ素樹脂基板の銅箔とフッ素樹脂基板との引きはがし強さを測定するため、幅1cm、長さ5cmとなるように銅箔をエッチングして引きはがし強さ測定用の試験片とした。
測定は90°ピール測定で行った。結果を表1に示した。
【0125】
【表1】
*1 銅箔積層後の誘電正接
【0126】
表1から明らかなように、親水化処理により水接触角が小さくなり、その大きさは親水化処理時間が長いほど小さくなる。つまり、レーザー光の照射時間によりアミノ基及び水酸基の生成量が変化し、照射時間を長くすることでアミノ基及び水酸基の生成量を増加させることができる。その結果、フッ素樹脂表面がより親水性化する。
また、極性基であるアミノ基及び水酸基の導入量が増えるにつれて、誘電正接が大きくなる傾向がある。このため、フッ素樹脂基板表面のアミノ基や水酸基の生成量は誘電正接を測定することで容易に見積もることができる。
また、フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面である実施例1~3における銅箔との引きはがし強さは、親水化処理のない(即ち、フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有さない)比較例1よりも優れている。
【0127】
(実施例4~5、比較例2~3)
エキシマ照射装置(M・D・COM社製)の照射エリア内に28~30%アンモニア水溶液20mlを入れた容器と、その容器内でアンモニア水に触れない位置に調製例4、5で作製した10cm角のフッ素樹脂基板(2)と(3)を設置した。照射エリア内を密閉化してエキシマレーザー(波長:172nm、照度:80mW/cm)を5分間照射し、表面親水化したフッ素樹脂基板F22、F32を作製した。なお、表面親水化していないフッ素樹脂基板をF02、F03とした。照射後、フッ素樹脂基板を取り出し純水で表面を洗浄し、室温で乾燥した後、純水との接触角をJIS-R-3257:1999の静滴法により測定した。親水化処理したフッ素樹脂基板F22、F32の表面がアミノ基と水酸基を有することをXPSにより確認した。
【0128】
更に、F02、F03、F22、F32の基板を用いて低粗度銅箔((粗度(Rx):1.5μm、厚み:35μm)を片面に積層して真空加圧プレス機を用いて325℃、1.5MPaで30分間熱プレスすることによりフッ素樹脂基板に銅箔を積層した銅張フッ素樹脂基板を作製した。
銅箔を325℃で積層した後の誘電正接もフッ素樹脂基板の銅箔をエッチング除去し、純水で洗浄、乾燥させた面を用い10GHzで測定した。
銅張フッ素樹脂基板の銅箔とフッ素樹脂基板との引きはがし強さを測定するため、幅1cm、長さ5cmとなるように銅箔をエッチングして引きはがし強さ測定用の試験片とした。
測定は90°ピール測定で行った。結果を表2に示した。
【0129】
【表2】
*1 銅箔積層後の誘電正接
【0130】
表1,2から明らかなように、親水化処理により水接触角が小さくなり、フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有する親水化処理表面である実施例1~5における銅箔との引きはがし強さは、親水化処理のない(即ち、フッ素樹脂基板の表面がアミノ基と水酸基を有さない)比較例1~3よりも優れている。このように、親水化処理がないと銅箔との引きはがし強さが弱く、ミリ波用高速通信低誘電基板としての信頼性に欠ける。特に本発明では、低粗度金属箔を用いても、接着シートなどの接着材を介することなく熱圧着するのみで、十分な密着性を有する金属張フッ素樹脂基板を作製でき、基板全体を薄くすることができることから、ミリ波などに用いる高速通信低誘電基板として利用価値が高い。
【0131】
<プライマー処理の効果>
(実施例6)
実施例1で作製した表面親水化したフッ素樹脂基板F11の表面に、調製例6で作製したプライマー組成物1を塗布した。次いで25℃で30分間風乾して溶剤を除去したプライマー処理フッ素樹脂基板を作製した。このプライマー処理フッ素樹脂基板を用い、実施例1と同様にして銅張フッ素樹脂基板を作製した。実施例1と同様にして測定した誘電正接(10GHz)は、0.0003、銅箔との引きはがし強さは1.0kN/mであった。
【0132】
(実施例7)
実施例1と同様にして、実施例1で作製した表面親水化したフッ素樹脂基板F11と銅箔の表面に調製例7で作製したプライマー組成物2を塗布した。次いで25℃で30分間風乾して溶剤を除去したプライマー処理銅箔を作製した。このプライマー処理銅箔を用い、実施例1と同様にして銅張フッ素樹脂基板を作製した。実施例1と同様にして測定した誘電正接(10GHz)は、0.0003であり、銅箔との引きはがし強さは1.2kN/mであった。
【0133】
実施例1,6,7から明らかなように、表面親水化したフッ素樹脂基板と銅箔の少なくともいずれかの表面を更にプライマー処理することにより、銅箔との引きはがし強さが向上する。
【0134】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。