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特許7478704熱伝導性複合シート及び発熱性電子部品の実装方法
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  • 特許-熱伝導性複合シート及び発熱性電子部品の実装方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】熱伝導性複合シート及び発熱性電子部品の実装方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240425BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240425BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240425BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240425BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240425BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240425BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B32B27/00 101
B32B27/36
B32B7/027
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/22
C08K5/56
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021070317
(22)【出願日】2021-04-19
(65)【公開番号】P2022165108
(43)【公開日】2022-10-31
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】石原 靖久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】依田 昌弘
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147600(JP,A)
【文献】特開2015-231012(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139240(WO,A1)
【文献】特開2011-178821(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025600(WO,A1)
【文献】特開2019-071380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
H01L23/29
23/34-23/36
23/373-23/427
23/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性複合シートであって、
硬さがアスカーC硬度30以下、表面タック力が30gf以上、及び厚さ0.3mm以上で熱伝導率が0.8W/mK以上であり、オルガノポリシロキサンエラストマーと熱伝導性充填材を含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの片面に、厚さ10μm以上50μm以下(ただし、10μm以上35μm以下を除く)であり弾性率が1GPa以上の絶縁性樹脂フィルムとを積層してなるものであることを特徴とする熱伝導性複合シート。
【請求項2】
前記絶縁性樹脂フィルムがポリエステル樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項3】
前記熱伝導性シートの熱伝導率が3.0W/mK以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項4】
前記熱伝導性シートが、下記(A)~(D)成分
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍となる量、
(C)熱伝導性充填材:1,200~6,500質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
を含有する熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項5】
前記(C)成分の熱伝導性充填材が、
(C-i)平均粒径10~30μmである不定形アルミナ:500~1,500質量部、
(C-ii)平均粒径30~85μmである球状アルミナ:150~4,000質量部、
(C-iii)平均粒径0.1~6μmである絶縁性無機フィラー:500~2,000質量部
の3種からなるものであることを特徴とする請求項4に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項6】
前記(C)成分が、下記(F)表面処理剤
(F-1)下記一般式(1)
Si(OR4-a-b (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、Rは独立に炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
で表されるアルコキシシラン化合物、及び
(F-2)下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる1種以上
で処理されたものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項7】
前記(F)成分の配合量が前記(A)成分100質量部に対し0.01~300質量部であることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の熱伝導性複合シートの前記絶縁性樹脂フィルム上で発熱性電子部品を滑らせて目的の位置に合わせた後に、前記発熱性電子部品を固定することを特徴とする発熱性電子部品の実装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性複合シート及び発熱性電子部品の実装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良、破壊を引き起こす。また近年では電気自動車の電池にも熱対策が必要で、温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
発熱性電子部品とヒートシンクや筐体などの冷却部品の間にある程度空間がある場合に、熱伝導性シートが良く用いられる。また発熱素子(発熱性電子部品)とヒートシンクや筐体との間は電気的に絶縁状態を確保しなければならない場合が多く、熱伝導性シートにも絶縁性が求められる事が多い。またこのような場合、発熱性電子部品とヒートシンクや筐体などの冷却部品の厚さ公差などを吸収するために熱伝導性シートに厚さを持たせて、さらに硬度を低く設定する場合が多い。そうすることで、部品の公差を効率よく吸収し、さらに圧縮された時の応力を小さくすることができる。
【0004】
熱伝導性シートの実装方法としては、冷却部品に熱伝導性シートを貼り付けた後に、発熱性電子部品を熱伝導性シートに対し垂直方向から設置し、ネジなどで圧力を掛けて固定する方法が一般的である。
【0005】
しかし、実装工程の都合や、発熱性電子部品の構造上、発熱性電子部品を熱伝導性シートに対して垂直方向から設置する事が困難な場合がある。そのような場合は、熱伝導性シートを冷却部品に設置した後に、熱伝導性シート上で発熱性電子部品を滑らせるように実装しなければならないことがある。しかし、一般的な熱伝導性シートは柔らかいため、シート上で発熱性電子部品を滑らせようとすると、熱伝導性シートが変形したり、破損したりする。これは熱伝導性シートが柔らかいため強度が不足していることと、柔らかいが故にシート表面にタック感があるため摺動性に乏しいためである。実装工程の都合や発熱性電子部品の構造上の問題とは、例えば、電子機器の構造が複雑で、発熱性電子部品を実装する方向が限定されてしまう場合や、発熱性電子部品の構造の問題で実装の際に応力を掛けられる方向が限定される場合などである。このような場合、冷却部品に熱伝導性シートを貼り付けた後に、発熱性電子部品を設置するためにシート上を滑らせる必要がある。
【0006】
摺動性を向上させるためには、表面摩擦を低減すればよく、シリコーン材料ではゴム架橋構造に関わらない相溶性の悪いオイルを添加することでシート表面にオイルが滲み出すことで摩擦係数を下げられることが知られている(特許文献1)。しかし、熱伝導性シートは柔らかくタック感があるために効果的ではない。また、シリコーンベースポリマーのアルケニル基の含有量を調整して摩擦係数を下げる方法が知られているが、この方法はミラブル型シリコーンゴム材料についてであり、硬化後のシートの硬さを柔らかく仕上げるのは困難である(特許文献2)。
【0007】
他の方法として、硬度の高いゴムシートを低硬度シートの片面に積層させる(特許文献3)方法が考えられるが、発熱性電子部品を滑らせる際にゴムシートの削れが発生してしまう。
【0008】
シート表面に打粉するという方法も考えられる。打粉は確かにシート表面の滑り性を向上させられるが、これは一時的で打粉の効果は徐々に低減してしまう。またシート表面の強度は変わらないのでシートの破れは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-185254号公報
【文献】特開2016-164281号公報
【文献】特開2019-071380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、表面の摺動性が高く、発熱性電子部品の実装が容易であり、かつ熱伝導性にも優れた熱伝導性複合シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、
熱伝導性複合シートであって、
硬さがアスカーC硬度30以下、表面タック力が30gf以上、及び厚さ0.3mm以上で熱伝導率が0.8W/mK以上であり、オルガノポリシロキサンエラストマーと熱伝導性充填材を含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの片面に、厚さ10μm以上50μm以下であり弾性率が1GPa以上の絶縁性樹脂フィルムとを積層してなるものである熱伝導性複合シートを提供する。
【0012】
このような熱伝導性複合シートは、表面の摺動性が高く、発熱性電子部品の実装が容易であり、かつ熱伝導性にも優れたものである。
【0013】
また、前記絶縁性樹脂フィルムがポリエステル樹脂フィルムであることが好ましい。
【0014】
このようなものであれば、入手が容易でありコストも抑えられる。
【0015】
更に、前記熱伝導性シートの熱伝導率が3.0W/mK以上であることが好ましい。
【0016】
このようなものであれば、発熱性電子部品から発生した熱をより効率的に冷却部材に伝えることができる。
【0017】
加えて、前記熱伝導性シートが、下記(A)~(D)成分
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記ケイ素原子に直接結合した水素原子のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍となる量、
(C)熱伝導性充填材:1,200~6,500質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
を含有する熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であることが好ましい。
【0018】
このような組成物の硬化物であれば、熱伝導性シートとして好適に用いることができる。
【0019】
また、前記(C)成分の熱伝導性充填材が、
(C-i)平均粒径10~30μmである不定形アルミナ:500~1,500質量部、
(C-ii)平均粒径30~85μmである球状アルミナ:150~4,000質量部、
(C-iii)平均粒径0.1~6μmである絶縁性無機フィラー:500~2,000質量部
の3種からなるものであることが好ましい。
【0020】
上記配合割合で(C)成分を用いることで、上記した本発明の効果がより有利にかつ確実に達成できる。
【0021】
更に、前記(C)成分が、下記(F)表面処理剤
(F-1)下記一般式(1)
Si(OR4-a-b (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、Rは独立に炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
で表されるアルコキシシラン化合物、及び
(F-2)下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる1種以上
で処理されたものであることが好ましい。
【0022】
このような(F)成分で(C)成分を疎水化処理することにより、(A)成分であるオルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させ、(C)成分である熱伝導性充填材を(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることができる。
【0023】
加えて、前記(F)成分の配合量が前記(A)成分100質量部に対し0.01~300質量部であることが好ましい。
【0024】
このような割合であれば、オイル分離を誘発しない。
【0025】
また、本発明は、上記の熱伝導性複合シートの前記絶縁性樹脂フィルム上で発熱性電子部品を滑らせて目的の位置に合わせた後に、前記発熱性電子部品を固定する発熱性電子部品の実装方法を提供する。
【0026】
このような発熱性電子部品の実装方法であれば、電子機器内の発熱性電子部品を実装する際に、熱伝導性シートの片面が摺動性に優れているので、シートの剥がれや破れがなく、発熱性電子部品を滑らせて実装することが可能になり、実装方法の幅を広げることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、例えば電子機器内の発熱性電子部品を実装する際に、熱伝導性シートの片面が摺動性に優れているので、発熱性電子部品を滑らせて実装することが可能になる。具体的には、アスカーC硬度30以下で、表面タック力が30gf以上で、厚さが0.3mm以上で熱伝導率が0.8W/mK以上のシリコーンポリマーと熱伝導性充填材からなる熱伝導性シートの片面に厚さ10μm以上50μm以下である弾性率が1GPa以上の絶縁性樹脂フィルムを積層させてなる、片側が摺動性に優れる熱伝導性複合シートは、片面の摺動性が優れ、熱伝導性複合シート上で発熱部品を滑らせても、シートの剥がれや破れがなく、実装方法の幅を広げることができ、また熱抵抗の上昇を極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の熱伝導性複合シートの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述のように、表面の摺動性が高く、発熱性電子部品の実装が容易であり、かつ熱伝導性にも優れた熱伝導性複合シートの開発が求められていた。
【0030】
そこで本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、熱伝導性シートの片面に厚さ10μm以上50μm以下で弾性率1GPa以上の絶縁性樹脂フィルムを積層させることで、摺動性が改善し、熱伝導性シート表面を傷つけることもなく、発熱性電子部品を滑らせるように実装させることを見出した。
【0031】
即ち、本発明は、
熱伝導性複合シートであって、
硬さがアスカーC硬度30以下、表面タック力が30gf以上、及び厚さ0.3mm以上で熱伝導率が0.8W/mK以上であり、オルガノポリシロキサンエラストマーと熱伝導性充填材を含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの片面に、厚さ10μm以上50μm以下であり弾性率が1GPa以上の絶縁性樹脂フィルムとを積層してなるものである熱伝導性複合シートである。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[熱伝導性複合シート]
本発明の熱伝導性複合シートは、例えば図1のように示されるものである。図1において、熱伝導性複合シート1は、絶縁性樹脂フィルム2が熱伝導性シート3の片面に積層されたものである。熱伝導性シート3は熱伝導性複合シート1に熱伝導性を与える役割を持つ。絶縁性樹脂フィルム2は絶縁性樹脂フィルム2が積層された面に摺動性を与える役割を持つ。
【0034】
[熱伝導性シート]
熱伝導性シートとしては硬さ、表面タック力、厚さ、熱伝導性が下記の範囲内であれば特に限定されないが、例えば後述の熱伝導性シリコーン組成物をシート状にして硬化させて得られる硬化物とすることができる。また、市販の熱伝導性シートを使用することもできる。
【0035】
[熱伝導性シートの硬さ]
熱伝導性シートの硬さはJIS K 7312:1996 附属書2記載の方法で測定したアスカーC硬度計で30以下であることを特徴とし、好ましくは20以下である。硬さの下限は特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは5以上とすることができる。硬さが30を超えると、発熱性電子部品を熱伝導性シートに固定する際に圧縮しづらくなり、発熱性電子部品に応力が掛かり破損の原因となる。
【0036】
[熱伝導性シートの厚さ]
熱伝導性シートの厚さは0.3mm以上であることを特徴とし、好ましくは0.4mm以上である。厚さの上限は特に限定されないが、例えば5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下とすることができる。0.3mm未満だと上述のように電子部品の公差が吸収できない場合が多くなる。
【0037】
[熱伝導性シートの表面タック力]
熱伝導性シートの表面タック力は30gf以上であることを特徴とし、好ましくは60gf以上である。タック力の上限は特に限定されないが、好ましくは500gf以下、より好ましくは200gf以下、更に好ましくは100gf以下の値とすることができる。30gf未満だと、被着体と十分に密着させることが難しくなる上、絶縁性樹脂フィルムと積層させる場合にも剥がれやすくなるためである。本発明においては、タック力はタッキネステスター(マルコム製)で定圧侵入方式を用いて測定した値とすることができる。
【0038】
[熱伝導性シートの熱伝導率]
熱伝導性シートの熱伝導率は0.8W/mK以上である。好ましくは1.5W/mK以上、より好ましくは3.0W/mK以上である。熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば10W/mK以下、好ましくは5W/mK以下とすることができる。熱伝導率が0.8W/mK未満だと発熱性電子部品から発生した熱を効率的に冷却部材に伝えることができない。本発明においては、熱伝導率はホットディスク法を用いて測定した値とすることができる。
【0039】
[絶縁性樹脂フィルム]
絶縁性樹脂フィルムは、有機骨格を持ち、重合反応によって高分子量化した、有機樹脂をフィルム状に成型したものを指す。製造方法は、熱軟化点以上で熱を掛けて軟化させ引き延ばす方法や、支持基材上で塗布し加熱硬化させる方法などが挙げられる。例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PI(ポリイミド)などが挙げられる。
【0040】
特性、入手容易性やコストを考えると、ポリエステル樹脂由来のものが好ましく、具体的にはPETフィルムがより好ましいが、熱伝導性複合シートが用いられる環境によって使い分ける事も必要で例えば150℃を超えるような環境で長期間使用されるのであれば耐熱性の観点からPPSフィルムやPIフィルムなどを選択する方がよい。
【0041】
[絶縁性樹脂フィルムの厚さ]
絶縁性樹脂フィルムの厚さは10μm以上50μm以下であることを特徴とし、好ましくは20μm以上40μm以下である。厚さが10μm未満だと十分な摺動性が与えられない。一方50μmを超える場合、発熱性電子部品の熱を効率的に冷却部品に伝えることができない。というのも絶縁性樹脂フィルムは一般的に熱伝導率が低く、熱の伝達の妨げとなるため、出来るだけ薄い方がよい。しかしながら薄すぎても十分な摺動性を与えることができない。
【0042】
[絶縁性樹脂フィルムの弾性率]
絶縁性樹脂フィルムの弾性率は、1GPa以上であり、好ましくは2GPa以上であり、より好ましくは3GPa以上である。上限は特に限定されないが、例えば10GPa以下、好ましくは7GPa以下、より好ましくは5GPa以下とすることができる。1GPa未満であると樹脂フィルムの強度が不足し、十分な摺動性を与える事はできない。本発明においては、弾性率は、ASTM D882に準拠し測定した値とすることができる。
【0043】
[熱伝導性複合シートの成型方法]
熱伝導性複合シートの成型方法は、例えば熱伝導性シート上に絶縁性樹脂フィルムを積層することで得られる。その際には熱伝導性シートの絶縁性樹脂フィルムの界面に空気層が混入しないようにすることが好ましい。他には絶縁性樹脂フィルム上に未硬化の熱伝導性シリコーン組成物を塗布して、加熱硬化させる方法であってもよい。しかし熱伝導性複合シートの成型方法は特にこれらに限定されるものではない。また熱伝導性シートと絶縁性樹脂フィルムの密着性を向上させるために、絶縁性樹脂フィルム上にプライマー処理やプラズマ処理を施してもよい。
【0044】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本発明に用いられる熱伝導性シートを形成するための熱伝導性シリコーン組成物は、特に限定されないが以下の(A)~(D)成分を含むものであることが好ましい。以下、各成分について詳細を述べる。
【0045】
[(A)オルガノポリシロキサン]
(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、本組成物の硬化物の主剤となるものである。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0046】
ケイ素原子に結合したアルケニル基としては、炭素原子数2~8個のアルケニル基が挙げられ、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が例示できる。中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特にビニル基が好ましい。
【0047】
また、ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の官能基としては、炭素数1~12、好ましくは1~7のアルキル基、炭素数6~15、好ましくは6~12のアリール基、炭素数7~15、好ましくは7~12のアラルキル基から選ばれる1価炭化水素基が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などが挙げられ、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基も含んでよい。アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基が挙げられる。アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等が挙げられる。中でも、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、及びフェニル基である。また、これらの官能基は全てが同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
このオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、好ましくは、10~30,000mm/s、より好ましくは50~1,000mm/sの範囲である。動粘度がこの範囲内のオルガノポリシロキサンを用いると、得られる組成物の流動性が損なわれず、熱伝導性充填材の充填が容易になる。なお、本明細書中で動粘度とは、JIS Z 8803:2011記載のキャノン-フェンスケ粘度計を用いて測定した25℃における動粘度を指す。
【0049】
この(A)成分のオルガノポリシロキサンは1種単独でも、粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に平均で2個以上、好ましくは2~100個のケイ素原子に直接結合する水素原子(ヒドロシリル基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のヒドロシリル基と(A)成分中のアルケニル基とが、後述する(D)成分の白金族金属系硬化触媒により促進されるヒドロシリル化反応により付加して、架橋構造を有する3次元網目構造を与える。なお、ヒドロシリル基の数が2個未満の場合、硬化しない。
【0051】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均構造式(4)で示されるものが用いられることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【化2】
(式中、Rは独立に水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~15のアリール基、及び炭素数7~15のアラルキル基から選ばれる基であり、Rの2個以上、好ましくは2~10個は水素原子であり、eは1以上の整数、好ましくは10~200の整数である。)
【0052】
式(4)中、Rの水素原子以外の基としては、炭素数1~12、好ましくは1~7のアルキル基、炭素数6~15、好ましくは6~12のアリール基、炭素数7~15、好ましくは7~12のアラルキル基が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられ、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基を含んでもよい。アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、及びフェニル基である。また、Rは全てが同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
(B)成分の添加量は、(B)成分由来のヒドロシリル基が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して好ましくは0.1~5.0モルとなる量、より好ましくは0.3~2.0モルとなる量、更に好ましくは0.5~1.0モルとなる量である。(B)成分由来のヒドロシリル基の量が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1モル以上であれば硬化し、硬化物の強度が十分で成形体としての形状を保持でき取り扱いが容易となる。また5.0モル以下であれば硬化物の柔軟性が保たれ、硬化物が脆くならない。
【0054】
[(C)熱伝導性充填材]
(C)成分である熱伝導性充填材は、主にアルミナを含有するものであることが好ましく、例えば、下記(C-i)~(C-iii)成分からなるものである。
(C-i)平均粒径10~30μmである不定形アルミナ、
(C-ii)平均粒径30~85μmである球状アルミナ、
(C-iii)平均粒径0.1~6μmである絶縁性無機フィラー
【0055】
なお、本発明において、上記平均粒径は、マイクロトラック・ベル(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXを用い、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0056】
(C-i)成分の不定形アルミナは、熱伝導率を優位に向上させることができる。不定形アルミナの平均粒径は好ましくは10~30μmであり、15~25μmであることがより好ましい。平均粒径が10μm以上であれば、熱伝導性を向上させる効果が十分に高くなり、また、組成物粘度が上昇せず、加工性が良好になる。また、平均粒径が30μm以下であれば、反応釜や撹拌翼の磨耗が起こりにくく、組成物の絶縁性が低下する恐れがない。(C-i)成分の不定形アルミナとしては1種又は2種以上を複合して用いてもよい。なお、不定形アルミナは、通常の市販品を使用することができる。
【0057】
(C-ii)成分の球状アルミナは、組成物の熱伝導率を向上させるとともに、不定形アルミナと反応釜や撹拌翼との接触を抑制し、機器の磨耗を抑えるバリア効果を提供する。平均粒径は30~85μmであることが好ましく、40~80μmであることがより好ましい。平均粒径が30μm以上であれば、十分なバリア効果が得られ、不定形粒子による反応釜や撹拌翼の磨耗を低減できる。一方で平均粒径が85μm以下であれば、組成物においてアルミナが沈降して組成物の均一性を損なうことがない。(C-ii)成分の球状アルミナとしては1種又は2種以上を複合して用いてもよい。なお、球状アルミナは、通常の市販品を使用することができる。
【0058】
(C-iii)成分の絶縁性無機フィラーは、組成物の熱伝導率を向上させる役割も担うが、その主な役割は組成物の粘度調整、沈降防止、滑らかさ向上、充填性向上である。また、着色、難燃性の向上、強度の向上、圧縮永久歪の向上などの役割も担う。組成物の絶縁性を確保するため、フィラーは絶縁性を有することが好ましい。(C-iii)成分の平均粒径は0.1~6μmであることが好ましく、0.5~4μmであることが、上記した特性発現のためにより好ましい。平均粒径が0.1μm以上であれば、組成物の粘度が十分に低くなり、成形性が良好になる。また、平均粒径が6μm以下であれば、組成物の滑らかさが損なわれず、またフィラーの沈降が急速に進行しないため、成形体の熱伝導性及び組成物の成形性が良好となる。
【0059】
(C-iii)成分の絶縁性無機フィラーとしては、例えば、上記(C-i)、(C-ii)成分以外のアルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の金属窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、人工ダイヤモンドなどを用いることができ、これらの形状は球状であっても不定形であってもよく、更にこれらの1種又は2種以上を複合して用いてもよい。なお、絶縁性無機フィラーは、通常の市販品を使用することができる。
【0060】
(C-i)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して好ましくは500~1,500質量部であり、より好ましくは700~1,200質量部である。500質量部以上であれば熱伝導率の向上が十分であり、1,500質量部以下であれば組成物の流動性が失われず、成形性が保たれる。また、反応釜や撹拌翼の磨耗が起こりにくく、組成物の絶縁性が低下する恐れがない。
【0061】
(C-ii)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して好ましくは150~4,000質量部であり、より好ましくは200~3,000質量部である。150質量部以上であれば熱伝導率の向上が十分であり、4,000質量部以下であれば組成物の流動性が失われず、成形性が保たれる。
【0062】
(C-iii)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して好ましくは500~2,000質量部であり、より好ましくは600~1,800質量部である。500質量部以上であれば組成物の滑らかさが損なわれたり、またフィラーの沈降が急速に進行したりしないため、成形体の熱伝導性及び組成物の成形性が保たれる。2,000質量部以下であれば組成物の粘度が顕著に大きくならないため、成形性が保たれる。
【0063】
更に、(C)成分の配合量(即ち、上記(C-i)~(C-iii)成分の合計配合量)は、(A)成分100質量部に対して1,200~6,500質量部であることが好ましく、より好ましくは1,500~5,500質量部である。この配合量が1,200質量部以上であれば、得られる組成物の熱伝導率が良好であり、組成物粘度が低くなりすぎず、保存安定性が十分なものとなり、6,500質量部以下であれば、組成物の伸展性が十分で、硬度が高すぎず、また強度が十分な成形物となる。
【0064】
上記配合割合で(C)成分を用いることで、上記した本発明の効果がより有利にかつ確実に達成できる。
【0065】
[(D)白金族金属系硬化触媒]
(D)成分の白金族金属系硬化触媒は、(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のSi-H基の付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。
【0066】
その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、HPtCl・nHO、HPtCl・nHO、NaHPtCl・nHO、KaHPtCl・nHO、NaPtCl・nHO、KPtCl・nHO、PtCl・nHO、PtCl、NaHPtCl・nHO(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
【0067】
(D)成分の使用量は、(A)成分に対して白金族金属元素の質量換算で好ましくは0.1~2,000ppmであり、より好ましくは50~1,000ppmである。
【0068】
[(E)反応制御剤]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、更に(E)成分として付加反応制御剤を使用することができる。付加反応制御剤は、特に限定されないが通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を用いることができる。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノール等のアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0069】
(E)成分を配合する場合の使用量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~1質量部が好ましく、特に0.1~0.8質量部程度がより好ましい。配合量が1質量部以下であれば硬化反応がよく進むので、成形効率も良好なものとなる。
【0070】
[(F)表面処理剤]
また、前記(C)成分は、(F)表面処理剤によって表面を疎水化処理していることが好ましい。(C)成分を疎水化処理することにより、(A)成分であるオルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させ、(C)成分である熱伝導性充填材を(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることができる。前記(F)成分としては、特に下記に示す(F-1)成分及び(F-2)成分からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0071】
(F-1)成分は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物である。
Si(OR4-a-b (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、Rは独立に炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
【0072】
上記一般式(1)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このRで表されるアルキル基の炭素原子数が6~15の範囲を満たすと(A)成分の濡れ性が十分に向上し、取り扱い性がよく、組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0073】
で表される1価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~5、好ましくは1~3のアルキル基、炭素原子数6~15、好ましくは6~12のアリール基、炭素原子数7~15、好ましくは7~12のアラルキル基が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等が挙げられる。中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、及びフェニル基が挙げられる。
【0074】
としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0075】
(F-2)成分は、下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。
【化3】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
【0076】
上記一般式(2)において、Rで表されるアルキル基としては、上記一般式(1)中のRで表されるアルキル基と同様のものが例示できる。cは好ましくは5~70、特に好ましくは10~50の整数である。
【0077】
(F)成分の表面処理剤としては、(F-1)成分と(F-2)成分のいずれか一方でも両者を組み合わせて配合しても差し支えない。
【0078】
(F)成分を配合する場合の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~300質量部が好ましく、特に0.1~200質量部であることが好ましい。本成分の割合が300質量部以下であればオイル分離を誘発することがない。
【0079】
[(G)オルガノポリシロキサン]
本発明で用いられる熱伝導性シリコーン組成物には、熱伝導性シリコーン組成物の粘度調整等の特性付与を目的として、(G)成分として、下記一般式(3)
【化4】
(式中、Rは独立に炭素原子数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基、dは5~2,000の整数である。)
で表される23℃における動粘度が10~100,000mm/sのオルガノポリシロキサンを添加することができる。(G)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0080】
上記一般式(3)において、Rは独立に炭素原子数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基が挙げられ、代表的なものは炭素原子数が1~10、特に代表的なものは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が挙げられるが、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0081】
上記dは要求される粘度の観点から、好ましくは5~2,000の整数で、特に好ましくは10~1,000の整数である。
【0082】
また、(G)成分の23℃における動粘度は、好ましくは10~100,000mm/sであり、特に100~10,000mm/sであることが好ましい。該動粘度が10mm/s以上であれば、得られる組成物の硬化物がオイルブリードを発生しにくくなる。該動粘度が100,000mm/s以下であれば、得られる熱伝導性シリコーン組成物の柔軟性が十分に保たれる。
【0083】
(G)成分を熱伝導性シリコーン組成物に添加する場合、その添加量は特に限定されず、所望の効果が得られる量であればよいが、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは1~50質量部である。該添加量がこの範囲にあると、硬化前の熱伝導性シリコーン組成物に良好な流動性、作業性を維持し易く、また(C)成分の熱伝導性充填材を該組成物に充填するのが容易である。
【0084】
[発熱性電子部品の実装方法]
また、本発明は熱伝導性複合シートの前記絶縁性樹脂フィルム上で発熱性電子部品を滑らせて目的の位置に合わせた後に、上記発熱性電子部品を固定する発熱性電子部品の実装方法を提供する。
【0085】
このような発熱性電子部品の実装方法であれば、電子機器内の発熱性電子部品を実装する際に、熱伝導性シートの片面が摺動性に優れているので、シートの剥がれや破れがなく、既存の熱伝導性シートでは不可能であった、発熱性電子部品を滑らせて実装することが可能になり、実装方法の幅を広げることができる。
【実施例
【0086】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0087】
実施例、比較例で用いた熱伝導性シート及び絶縁性樹脂フィルムを以下に示す。
【0088】
[熱伝導性シート]
1 TC-100CAD-10(信越化学工業製、1mm厚、3.2W/mK、アスカーC硬度10、タック力85gf)
2 TC-100CAS-10(信越化学工業製、1mm厚、1.8W/mK、アスカーC硬度10、タック力94gf)
3 TC-50CAD-10(信越化学工業製、0.5mm厚、3.2W/mK、アスカーC硬度10、タック力90gf)
4 以下に示す組成物を下記熱伝導性複合シートの成型方法2で硬化させて得られるシートであり、熱伝導率3.2W/mK、アスカーC硬度10、タック力90gfの1mm厚の熱伝導性シート
5 TC-80TA-1(信越化学工業製、0.8mm厚、1W/mK、アスカーC硬度90、タック力10gf)
【0089】
熱伝導性シート4の組成物の(A)~(G)成分は以下の通りである。
A)下記式(5)に示す、動粘度600mm/sであるオルガノポリシロキサン:100質量部
【化5】

(式中、fは上記動粘度の値を満たす数である)
B)下記式(6)で示すオルガノハイドロジェンポリシロキサン:11質量部
【化6】
C)
C-1)平均粒径が1μmの不定形アルミナ:230質量部
C-2)平均粒径が5μmの不定形アルミナ:470質量部
C-3)平均粒径が20μmの不定形アルミナ:800質量部
C-4)平均粒径が45μmの球状アルミナ:120質量部
C-5)平均粒径が70μmの球状アルミナ120質量部
D)5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液:1質量部
E)エチニルメチリデンカルビノール:0.4質量部
F)下記式(7)で示されるオルガノポリシロキサン:40質量部
【化7】

G)下記式(8)示されるオルガノポリシロキサン:15質量部
【化8】
からなる組成物。
【0090】
上記組成物から得られる熱伝導性シート4については、物性値は以下のようにして評価した。
[評価方法]
熱伝導率:得られた組成物を6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚用いて、熱伝導率計(TPA-501、京都電子工業株式会社製の商品名)を用いて、該シートの熱伝導率を測定した。
硬度:得られた組成物を6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
【0091】
[絶縁性樹脂フィルム]
1 ルミラーS10(東レ製、PET、厚さ:38μm、弾性率:4.7GPa)
2 ルミラーS10(東レ製、PET、厚さ:24μm、弾性率:4.7GPa)
3 アピカル(カネカ製、PI、厚さ:24μm、弾性率:3.2GPa)
4 カプトン(東レ・デュポン製、PI、厚さ:7.5μm、弾性率:3.1GPa)
5 TC-20TA-1(信越化学工業製、熱伝導性シリコーンゴム、厚さ:0.2mm、弾性率:13MPa)
6 トレファン(東レ製、ポリプロピレン、厚さ:30μm、弾性率:0.15GPa)
7 ルミラーS10(東レ製、PET、厚さ:50μm、弾性率:4.7GPa)
8 カプトン(東レ・デュポン製、PI、厚さ:12.5μm、弾性率:3.1GPa)
9 ルミラーS10(東レ製、PET、厚さ:75μm、弾性率:4.7GPa)
【0092】
[実施例1~7、比較例1~7]
下記表1に示す組み合わせで熱伝導性シートと絶縁性樹脂フィルムを積層して熱伝導性複合シートを形成した。熱伝導性複合シートの成型方法は以下の通りである。
【0093】
[熱伝導性複合シートの成型方法1]
熱伝導性シートの片面に、絶縁性樹脂フィルムを端部から2kgのゴムローラーを0.5m/minで動かし、熱伝導性シートと絶縁性樹脂フィルムを隙間なく貼り合わせた。この手法は上記熱伝導性シート1~3、5を用いた例で適用した。
【0094】
[熱伝導性複合シートの成型方法2]
未硬化のシリコーンポリマーと熱伝導性充填剤からなる組成物を絶縁性樹脂フィルム上にコンマコーターで塗布し、120℃、20分かけて硬化させた。この手法は上記熱伝導シート4を用いた例で適用した。
【0095】
得られたフィルムの摺動性の評価を行い、結果を表1にまとめた。評価方法は下記の通りである。
【0096】
[評価方法]
摺動性:十分大きなアルミ板上に熱伝導性複合シート200×500mmサイズを2kgゴムローラーで0.5m/minの速さで貼り合わせたのち、絶縁性樹脂フィルム上に幅200mm、長さ40mm、高さ150mm、重さ2kgのステンレスの塊を1m/minの速さで500mm移動させたときに、シートの破れ、剥がれがあるかどうかを確認した。シートに破れ、剥がれがおこらなければ合格、シートに破れ剥がれが起こった場合は、不合格とした。
熱抵抗上昇値:熱伝導性シートの熱抵抗と絶縁性樹脂フィルムを積層させた熱伝導性複合シートの熱抵抗の差とする。測定方法はASTM D5470に準拠し、測定条件は50℃/40psiとする。
【0097】
【表1】
【0098】
本発明の熱伝導性複合シートを用いた実施例1~7は、優れた摺動性を示しシートやフィルムが破れることがなく、本発明の熱伝導性複合シートは発熱性電子部品の実装に好適に用いることができることが確認された。
【0099】
また、比較例1のように、絶縁性樹脂フィルムを複合しないと、シートのべたつきもあり、シートが破れてしまい、摺動性不合格となった。比較例2では絶縁性樹脂フィルムが薄すぎるため、フィルムに破れが生じた。比較例3ではシリコーンゴムの弾性率が不十分で、TC- 20TA-1が破れてしまった。比較例4では、弾性率の低いポリプロピレンフィルムが伸びてしまったのちに、破れ、摺動性不合格となった。比較例5では、熱伝導性シートの硬度が高く、タック力が十分でないため、絶縁性樹脂フィルムが剥がれてしまった。比較例6では、熱伝導性シートの両面に絶縁性樹脂フィルムを積層させたが、アルミ板上に貼り付けることができず、摺動性評価自体が実施できなかった。比較例7では、厚い絶縁性樹脂フィルムを用いたために摺動性テストは合格するものの、熱抵抗上昇値が大きい結果になった。
【0100】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0101】
1…熱伝導性複合シート、 2…絶縁性樹脂フィルム、 3…熱伝導性シート。
図1