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特許7478731有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料及び該化学蒸着用原料を用いた化学蒸着法
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  • 特許-有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料及び該化学蒸着用原料を用いた化学蒸着法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料及び該化学蒸着用原料を用いた化学蒸着法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/18 20060101AFI20240425BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20240425BHJP
   C07C 291/10 20060101ALN20240425BHJP
   C07F 17/00 20060101ALN20240425BHJP
   C07F 13/00 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/285 C
C07C291/10
C07F17/00
C07F13/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021528211
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023378
(87)【国際公開番号】W WO2020255913
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019111737
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 了輔
(72)【発明者】
【氏名】津川 智広
(72)【発明者】
【氏名】重冨 利幸
(72)【発明者】
【氏名】李 承俊
(72)【発明者】
【氏名】カットカー ケタン ババン
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/191065(WO,A1)
【文献】特表2013-508979(JP,A)
【文献】特開2019-31508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/18
H01L 21/285
C07C 291/10
C07F 17/00
C07F 13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着法によりマンガン薄膜又はマンガン化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、
マンガンに、シクロペンタジエニル配位子(L1)とイソシアニド配位子(L2)が配位した、下記化1の式で示される有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料。
【化1】
(上記の式中、シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基R~Rは、それぞれ、水素又は直鎖、分岐、若しくは環状の炭素数1以上4以下のアルキル基である。イソシアニド配位子(L2)の置換基Rは、直鎖、分岐、若しくは環状の炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項2】
シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基R~Rの全てが水素である請求項1記載の化学蒸着用原料。
【請求項3】
シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基Rがメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基のいずれかであって、R~Rの全てが水素である請求項1記載の化学蒸着用原料。
【請求項4】
イソシアニド配位子(L2)の置換基Rが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基のいずれかである請求項1~請求項3のいずれかに記載の化学蒸着用原料。
【請求項5】
有機マンガン化合物からなる原料を気化して原料ガスとし、前記原料ガスを反応ガスと共に基板表面に導入しつつ加熱するマンガン薄膜又はマンガン化合物薄膜の化学蒸着法において、
前記原料として請求項1~請求項3のいずれかに記載の化学蒸着用原料を用い、前記反応ガスとして還元性ガスを用いる化学蒸着法。
【請求項6】
反応ガスとして水素を適用し、
原料ガスを前記反応ガスと共に基板表面に導入して加熱する請求項5記載の化学蒸着法。
【請求項7】
成膜温度を150℃以上400℃以下とする請求項5又は請求項6記載の化学蒸着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学蒸着法によりマンガン薄膜又はマンガン化合物薄膜を製造するための有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料に関する。詳しくは、構造中に酸素原子を含まず、水素等の還元性ガスによってマンガン成膜を可能とする有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
銅配線が適用される各種半導体デバイスの製造プロセスにおいては、エレクトロマイグレーション抑制のために銅配線層の下地にバリア層が形成されることが多い。バリア層としては、Ta膜やTaN膜等が適用されてきたが、近年では信頼性向上のため、Mn膜やCuMn合金膜によるバリア層の適用が検討されている。そして、近年のMn膜の成膜方法もスパッタリングから、CVD法(化学気相蒸着法)、ALD法(原子層蒸着法)といった化学蒸着法の適用例が増加しつつある。近年の半導体デバイスの小型化や高集積化による、配線幅やホール径の更なる微細化に対応するためには、ステップカバレッジに優れる化学蒸着法が有利だからである。
【0003】
マンガン薄膜又はマンガン含有薄膜を化学蒸着法で成膜するための原料(プリカーサー)としては、いくつかの有機マンガン化合物が従来から知られている。化学蒸着用原料としての有機マンガン化合物としては、例えば、マンガンにβ-ジケトナト配位子である、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナトが3つ配位した化1に示すトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト)マンガンが知られている(非特許文献1及び非特許文献2)。また、マンガンにシクロペンタジエニル配位子とカルボニルが配位した、化2の(η-1-メチル-シクロペンタジエニル)トリカルボニルマンガンも化学蒸着用原料としての有機マンガン化合物として有用であるとされている(非特許文献3)。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ruiqiang Yan, Weiya Huang, Qingfeng Wang, Yinzhu Jiang. Ionics. 2009, 15, 627-633.
【文献】Toshihiro Nakamura, Ryusuke Tai, Takuro Nishimura, Kunihide Tachibana. J. Electrochem. Soc. 2005, 152, C584-C587.
【文献】Huaxing Sun, Francisco Zaera. J. Phys. Chem. C 2012, 116, 23585-23595.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の有機マンガン化合物を例とする従来の化学蒸着用原料は、マンガン薄膜形成の可否という基本的特性に関しては充足している。しかし、半導体デバイスにおける更なる高密度化を見据えて、化学蒸着用原料となる有機マンガン化合物にも多様な特性が要求されるようになっている。例えば、従来の有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料は、反応ガスとして酸素を適用するものが多く、下地である基板の酸化の問題があった。そのため、水素等の還元性ガスを反応ガスとして成膜できる有機マンガン化合物が求められつつある。
【0008】
また、マンガン薄膜の純度や品質に対する要求も高くなっており、この観点からも化学蒸着用原料の改善が検討される。この点に関し、従来の化学蒸着用原料を構成する有機マンガン化合物には、構造中に酸素原子を含むものが多い。上記した化1及び化2の有機マンガン化合物は、構造中に酸素原子を含む。これらの酸素原子を含む有機マンガン化合物は、成膜時にマンガン酸化物を生成させることがある。高純度のマンガン薄膜成膜のためには、上述の反応ガスの問題を含めて、構成元素の観点からの改良も必要である。
【0009】
そして、新たな有機マンガン化合物を見出すとしても、化学蒸着用原料に本来要求される特性を有することが前提となる。化学蒸着法では、原料化合物を気化して原料ガスとし、これを基板に輸送して基板上で分解して薄膜を形成する方法である。この成膜プロセスにおいては、原料化合物の速やかな気化が必要であるので、適度に蒸気圧が高い化合物が好適である。また、適度な熱的安定性を有し、基板表面以外では容易に分解しない取扱い性に優れた化合物が好ましい。こうした基本的特性が前提として要求される。
【0010】
以上のように、これまで化学蒸着用原料として適用可能な有機マンガン化合物は、多様化する要求特性に対して必ずしも対応できるものではない。そこで本発明は、化学蒸着用原料としての基本特性を具備しつつ、水素等の還元性ガスを反応ガスとして高品位のマンガン薄膜を成膜できる有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、化学蒸着法によりマンガン薄膜又はマンガン化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、マンガンに、シクロペンタジエニル配位子(L1)とイソシアニド配位子(L2)が配位した、下記化3の式で示される有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料である。
【0012】
【化3】
(上記の式中、シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基R~Rは、それぞれ、水素又は直鎖、分岐、若しくは環状の炭素数1以上4以下のアルキル基である。イソシアニド配位子(L2)の置換基Rは、直鎖、分岐、若しくは環状の炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
【0013】
本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機マンガン化合物は、配位子としてイソシアニド配位子とシクロペンタジエニル配位子が適用されている点において特徴を有する。
【0014】
上記式からわかるように、イソシアニド配位子は、炭素と水素と窒素から構成される配位子である。また、シクロペンタジエニル配位子は炭素と水素から構成される配位子である。いずれの配位子も酸素原子を含んでいない。そして、本発明では、イソシアニド配位子及びシクロペンタジエニル配位子以外の配位子がマンガンに配位していない。従って、本発明の有機マンガン化合物は、構造中に酸素原子を含まない。そのため、本発明の有機マンガン化合物は、酸化物(酸化マンガン)を生成することなく、純マンガン薄膜の成膜を可能とする。また、本発明の有機マンガン化合物にいては、比較的低炭素数の配位子(イソシアニド配位子及びシクロペンタジエニル配位子)を適用すると共に、それらの置換基の炭素数についても制限がなされている。この点からも本発明の有機マンガン化合物によれば、高品位のマンガン薄膜の成膜が可能となる。
【0015】
そして、本発明者等によれば、イソシアニド配位子を適用する本発明に係る有機マンガン化合物は、適度な熱安定性を有し、従来化合物に対して水素に対する反応性が高い。よって、反応ガスとして水素を適用することができ、還元性雰囲気のもとでマンガン薄膜を生成できる。本発明に係る有機マンガン化合物は、上記した酸素原子を含まない錯体の構造的利点と、還元性雰囲気での反応性の利点とから、基板及びマンガン薄膜の酸化を高度に抑制することができる。
【0016】
上記のような利点を有する本発明に係る化学蒸着用原料となる有機マンガン化合物に構成について、以下のとおり、詳細に説明する。
【0017】
本発明の有機マンガン化合物は、配位子としてイソシアニド配位子と共にシクロペンタジエニル配位子(L1)が配位する。シクロペンタジエニル配位子は、従来の有機マンガン化合物においても良く知られた配位子であり、マンガンに安定して結合する。そして、イソシアニド配位子と協同して、化合物の熱安定性の好適化に寄与する。
【0018】
シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基R~Rは、それぞれ、水素、又は直鎖、分岐、若しくは環状の炭素数1以上4以下のアルキル基である。置換基の炭素数を制限するのは、有機マンガン化合物の気化特性を好適にするためである。炭素数1以上4以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。置換基R~Rは、全てが同じ置換基であっても良いし、異なる置換基にしても良い。本発明におけるシクロペンタジエニル配位子の特に好ましい態様は、R~Rの全てが水素であるシクロペンタジエニル配位子、若しくは、Rがメチル基又はエチル基であって、R~Rの全てが水素であるシクロペンタジエニル配位子である。
【0019】
そして、本発明の有機マンガン化合物は、マンガンへの配位子としてイソシアニド配位子(L2)を適用することを特徴とする。本発明において、イソシアニド配位子は、化合物の反応性向上と熱安定性の適正化に寄与する。
【0020】
本発明の有機マンガン化合物において、イソシアニド配位子の置換基であるRは、直鎖、分岐、若しくは環状の炭素数1以上4以下のアルキル基である。アルキル基とするのは、マンガンに配位する配位子の構成を炭素、水素および窒素に限定しつつ分子量を適切にするためである。また、炭素数を制限するのは、化合物の分子量を適切にし、気化特性及び分解特性を好適にするためである。過度に炭素数の多い置換基は分子量を増大させ、有機マンガン化合物の気化特性に影響を及ぼす恐れがある。
【0021】
イソシアニド配位子(L2)の置換基であるRの好ましい具体的態様は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、sec-ブチル基、n-ブチル基、tert-ブチル基(2-メチルプロピル基)のいずれかである。
【0022】
以上説明した本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機マンガン化合物について、好ましい具体例の構造式を下記に示す。
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
【化10】
【0030】
【化11】
【0031】
発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機マンガン化合物は、製造目的となる化合物のシクロペンタジエニル配位子(L1)と同じシクロペンタジエニル配位子を有するマンガンのメタロセン(マンガノセン:Mn(L1))を原料とすることで製造可能である。当該マンガノセンに、製造目的となる化合物のイソシアニド(L2)と同じイソシアニド(L2)を化学量論量で反応させることで、本発明の有機マンガン化合物が合成される。
【0032】
発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機マンガン化合物は、1価のマンガンの錯体(有機化合物)である。この合成反応は、2価のマンガンの錯体であるマンガノセンから、1価のマンガンの錯体を合成する反応である。但し、この合成反応においては、反応系に触媒や還元剤等の添加剤は不要である。つまり、マンガノセンと当量のイソシアニドのみからなる反応系で合成反応を進行させることができる。具体的な方法としては、必要に応じて溶媒を使用しつつ、マンガノセンと当量のイソシアニドとを混合することで合成反応が進行する。この合成反応は常温で進行する。溶媒を使用する場合、溶媒はエーテル(ジエチルエーテル等)、テトラヒドロフラン、アルカン(n-ヘキサン、n-ペンタン等)が好ましい。
【0033】
次に、本発明に係る化学蒸着用原料を適用した、マンガン薄膜又はマンガン化合物薄膜の化学蒸着法について説明する。本発明に係る化学蒸着法では、これまで説明した有機マンガン化合物からなる原料を、加熱することにより気化させて原料ガスを発生させ、この原料ガスを基板表面上に輸送して有機マンガン化合物を熱分解させてマンガン薄膜を形成させるものである。
【0034】
この化学蒸着法における原料の形態に関し、本発明で適用される有機マンガン化合物は、その置換基に応じて常温で固体状態又は液体状態となる。本発明の有機マンガン化合物からなる化学蒸着用原料は、蒸留あるいは昇華法にて容易に気化することができる。従って、原料である有機マンガン化合物をそのまま加熱して使用することができる。また、適宜の溶媒に溶解して溶液化して、溶液を加熱して原料ガスを得ることもできる。原料を気化する際の加熱温度としては、50℃以上120℃以下とするのが好ましい。
【0035】
気化した原料は、適宜のキャリアガスと合流して基板上に輸送される。本発明の有機マンガン化合物は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)をキャリアガスとし、反応ガスを使用せず加熱のみでもマンガンの成膜が可能である。本発明の有機マンガン化合物は、構造中に酸素を含んでいないことから、加熱分解しても酸化物が生成し難く、加熱のみでもマンガン薄膜が生成できる。
【0036】
但し、マンガン薄膜の効率的な成膜のためには、反応ガスの適用が必要である。そのため、上記した原料ガスは、反応ガスと共に基板上に輸送されることが好ましい。原料ガスは、反応ガスと共に基板表面で加熱されマンガン薄膜を形成する。本発明に係る化学蒸着用原料によるマンガンの製膜については、水素等の還元性ガスが反応ガスとして使用可能である。反応ガスは、水素の他、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸等の還元性ガスが適用の可能性がある。これらの反応ガスは、キャリアガスを兼ねることもできるので、上記した不活性ガス等からなるキャリアガスの適用は必須ではない。
【0037】
尚、本発明の有機マンガン化合物の分解反応自体は、酸素を反応ガスとしても進行させることができる。また、本発明の有機マンガン化合物によりマンガン酸化物の生成することを禁じる理由は一切ない。従って、本発明に係る化学蒸着用原料を用いて酸化マンガン等のマンガン化合物薄膜を製造する要求があるときには、酸素ガスを反応ガスとして適用できる。半導体デバイスの分野等においては、酸化マンガン薄膜が適用される場合がある。そのような要請にも、本発明に係る化学蒸着用原料は応えることができる。
【0038】
成膜時の成膜温度は、150℃以上400℃以下とするのが好ましい。150℃未満では、有機マンガン化合物の分解反応が進行し難く、効率的な成膜ができなくなる。一方、成膜温度が400℃を超えて高温となると均一な成膜が困難となると共に、基板へのダメージが懸念される等の問題がある。尚、この成膜温度は、通常、基板の加熱温度により調節される。成膜温度は、200℃以上400℃以下がより好ましく、200℃以上300℃以下が更に好ましい。
【発明の効果】
【0039】
以上の通り、本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機マンガン化合物は、マンガンに配位する配位子の好適化により水素等に対する反応性が向上している、そのため、水素等の還元性ガスを反応ガスとして、マンガン薄膜を成膜可能である。本発明によれば、基板の酸化と薄膜への酸素混入を高次元で抑制することができる。そして、酸素及び酸化物含有量が極めて低減された高品位のマンガン薄膜の成膜が可能となる。
【0040】
本発明の有機マンガン化合物は、化学蒸着用原料に対して従来から要求されている気化特性及び分解特性も良好である。以上から、本発明に係る化学蒸着用原料は、近年の高度に微細化された半導体デバイスのバリア層やシード層の形成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】第1実施形態の実施例1の有機マンガン化合物のTG-DTA曲線。
図2】第1実施形態の実施例2の有機マンガン化合物のTG-DTA曲線。
図3】第1実施形態の実施例3の有機マンガン化合物のTG-DTA曲線。
図4】第1実施形態の実施例4の有機マンガン化合物のTG-DTA曲線。
図5】第1実施形態で成膜したマンガン薄膜(No.5)のXPSによる分析結果を示す図。
図6】第1実施形態で成膜したマンガン薄膜(No.3、No.5)のXPSのマンガン原子濃度と酸素原子濃度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
第1実施形態:以下、本発明における最良の実施形態について説明する。本実施形態では、シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基R~Rを水素又は一つのみエチル基に設定し、イソシアニド配位子(L2)の置換基Rをiso-プロピル基又はtert-ブチル基とする4種の有機マンガン化合物を合成し、その分解特性を評価すると共に、水素ガスによるマンガン成膜の可否を検討した。
【0043】
実施例1:(η-シクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)マンガンの合成
ビス(η-シクロペンタジエニル)マンガン0.185 g(1.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 10 mLに、2-イソシアノ-2-メチルプロパン0.263 g(3.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 10 mLを加え、25℃で30分撹拌した。
【0044】
その後、溶媒を減圧留去し、n-ヘキサン/ジエチルエーテル(v/v,15:1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムで精製を行なった。得られた溶液の溶媒を減圧留去すると、目的物である(η-シクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)マンガン(R~R=水素、R=tert-ブチル基)を橙黄色固体として0.28 g(0.76 mmol)得た(収率76%)。この実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0045】
【化12】
【0046】
実施例2:(η-シクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノプロパン)マンガンの合成
ビス(η-シクロペンタジエニル)マンガン0.185 g(1.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 10 mLに、2-イソシアノプロパン)0.207 g(3.0 mmolのジエチルエーテル溶液 10 mLを加え、25℃で30分撹拌した。
【0047】
その後、溶媒を減圧留去し、n-ヘキサン/ジエチルエーテル(v/v,15:1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムで精製を行なった。得られた溶液の溶媒を減圧留去すると、目的物である(η-シクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノプロパン)マンガン(R~R=水素、R=iso-プロピル基)を橙黄色液体として0.18 g(0.55 mmol)得た(収率55%)。この実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0048】
【化13】
【0049】
実施例3:(η-1-エチルシクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)マンガンの合成
ビス(η-1-エチルシクロペンタジエニル)マンガン7.24 g(30.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 70 mLに、2-イソシアノ-2-メチルプロパン7.48 g(90.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 30 mLを加え、25℃で30分撹拌した。
【0050】
その後、溶媒を減圧留去し、n-ヘキサン/ジエチルエーテル(v/v,15:1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムで精製を行なった。得られた溶液の溶媒を減圧留去すると、目的物である(η-1-エチルシクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)マンガン(R=エチル基、R~R=水素、R=tert-ブチル基)を橙黄色液体として10.8 g(29.2 mmol)得た(収率97%)。この実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0051】
【化14】
【0052】
実施例4:(η-1-エチルシクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノプロパン)マンガンの合成
ビス(η-1-エチルシクロペンタジエニル)マンガン0.241 g(1.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 10 mLに、2-イソシアノプロパン0.207 g(3.0 mmol)のジエチルエーテル溶液 10 mLを加え、25℃で30分撹拌した。
【0053】
その後、溶媒を減圧留去し、n-ヘキサン/ジエチルエーテル(v/v,15:1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムで精製を行なった。得られた溶液の溶媒を減圧留去すると、目的物である(η-1-エチルシクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノプロパン)マンガン(R=エチル基、R~R=水素、R=iso-プロピル基)を橙黄色液体として0.19 g(0.54 mmol)得た(収率54%)。この実施例における合成反応は、下記のとおりである。
【0054】
【化15】
【0055】
気化特性及び分解特性の検討:上記の各実施例で製造した有機マンガン化合物について、気化特性と分解特性を検討するため、熱重量-示唆熱分析(TG-DTA)を行った。TG-DTAは、BRUKER社製TG-DTA2000SAにて、サンプル重量10mgをアルミニウム製セルに充填し、昇温速度5℃/min、測定温度範囲室温~500℃、窒素雰囲気(大気圧下)として、熱量変化及び重量変化を観察した。図1図4は、各実施例の有機マンガン化合物のTG-DTA曲線を示す。
【0056】
図1図4より、本実施形態で製造した実施例1~4の有機マンガン化合物は、DTA曲線において200℃度近傍に化合物の分解による吸熱ピーク又は発熱ピークが観測される。尚、実施例1の65℃近傍の吸熱ピークは、固体化合物の融解によるものと推定される。実施例1~4の有機マンガン化合物の分解温度は、187℃(実施例1)、195℃(実施例2)、187℃(実施例3)、209℃(実施例4)であった。
【0057】
そして、図1図4のTG曲線によれば、各実施例の有機マンガン化合物は、分解が開始してからスムーズに分解が進行することが確認される。この分解後の残渣として15質量%前後の金属マンガンが生じていた。以上のTG-DTAによる分解温度の測定結果を分解後の質量変化の検討から、本実施形態で製造した有機マンガン化合物は、200℃近傍の温度で分解可能であり、分解後はスムーズにマンガンを析出し得ることが確認できた。
【0058】
成膜試験:本実施形態で製造した実施例3の有機マンガン化合物((η-1-エチルシクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)マンガン)を原料として、CVD装置(ホットウォール式CVD成膜装置)によりマンガン薄膜を形成させた。成膜試験は、下記の成膜条件を組み合わせて実施した。
【0059】
基板:Si又はSiO
成膜温度:200℃又は300℃
試料温度(気化温度):80℃
キャリアガス:窒素(50sccm)
反応ガス:なし(0sccm)又は水素(50sccm)
チャンバー圧力:5torr、15torr、50torr
成膜時間:15min
【0060】
尚、この成膜試験では比較例として、従来の化学蒸着用の有機マンガン化合物であるトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト)マンガンを使用した成膜試験も行った。この有機マンガン化合物は、市販試薬の硝酸マンガン(II)と2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオンの50%エタノール水溶液を混合し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整することで合成した。成膜試験の条件は上記と同様として水素ガスを反応ガスとした。
【0061】
成膜試験後、SEM(走査型電子顕微鏡)による観察結果若しくはXRF(X線反射蛍光法)により、複数箇所のマンガン薄膜の膜厚を測定し、その平均値を算出した。成膜試験の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1のとおり、本実施形態の実施例3の有機マンガン化合物((η-1-エチルシクロペンタジエニル)-トリス(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)マンガン)からなる原料によって、マンガン薄膜を成膜できることが確認された。この本実施形態の有機マンガン化合物によれば、水素ガスを反応ガスとしてマンガン膜の成膜が可能である。また、水素ガス(反応ガス)を使用せず、加熱のみでもマンガン薄膜を成膜できることも確認できた。
【0064】
ここで、本実施形態で成膜したマンガン薄膜について、その純度をXPS(X線光電子分光分析)により検討した。XPSでは、成膜されたマンガン薄膜をエッチングしながら、厚さ方向における各種元素(Mn、O、C、N,Si)の原子濃度を測定した。エッチングを行ったのは、CVD装置からXPS分析装置へ基板を移送する際、大気によりマンガン薄膜が表面酸化することを考慮したからである。
【0065】
このXPSによる分析結果の一例として、表1のNo.5のマンガン薄膜の分析結果を図5に示す。図5からわかるように、No.3のマンガン薄膜は、極表面は酸化しているが、薄膜内部は純マンガンで構成されていることがわかる。図6は、XPSの結果より得られた表1のNo.3とNo.5のマンガン薄膜についてのXPSにおいて、1500秒のエッチングを行った後の薄膜内部のマンガン濃度(原子濃度)と酸素濃度(原子濃度)を対比したグラフである。図6からも、これらのマンガン薄膜が純マンガンで構成されていることがわかる。これらの分析結果は、他のマンガン薄膜でも同様に見られた。以上のXPSの結果から、本発明に係る有機マンガン化合物によれば、純マンガン薄膜の成膜が可能であることが確認された。また、純マンガン薄膜の成膜においては、水素を反応ガスとして成膜した場合(No.3)及び反応ガスを使用せず加熱のみで成膜した場合(No.5)のいずれでも可能であることが確認された。
【0066】
以上の本実施形態に係る有機マンガン化合物の結果に対し、比較例である従来の有機マンガン化合物(トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト)マンガン)からなる原料では、水素ガスによってマンガン薄膜を成膜できなかった。また、窒素ガス中の加熱のみでも成膜不可であった。この比較例との対比から、水素ガスによる成膜が可能な本実施形態の有機マンガン化合物の効果がより明確となる。
【0067】
第2実施形態:この実施形態では、シクロペンタジエニル配位子(L1)の置換基R~Rを水素、メチル、n-ブチル、tert-ブチルに設定し、イソシアニド配位子(L2)の置換基Rをメチル、iso-プロピル、tert-ブチルとする複数の有機マンガン化合物を合成し、その分解特性を評価した。また、一部の化合物による成膜試験も実施した。
【0068】
第1実施形態と同様に、ジエチルエーテルを溶媒として、対応する置換基を有するマンガノセンの溶液を製造し、これにイソシアニド溶液を添加し、25℃で30分間攪拌して有機マンガン化合物を合成した。そして、第1実施形態と同様にしてTG-DTAを行って、各化合物の分解温度を測定した。この結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から、第2実施形態で製造した各実施例の有機マンガン化合物も、180℃~220℃の温度で分解可能である。また、分解後はスムーズにマンガンを析出し、残渣としてマンガンが発生することが確認された。
【0071】
そして、上記実施例のうち、実施例9、実施例11について成膜試験を行った。成膜試験の成膜条件は、第1実施形態と同様とし、SEM及びXRFから膜厚(平均値)測定した。その結果、この実施形態の有機マンガン化合物においても、高純度のマンガン薄膜を成膜できることが確認された。成膜されたマンガン薄膜の膜厚は、いずれも10~40nmの範囲内の十分な厚さを有していた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る化学蒸着用の原料を構成する有機マンガン化合物は、熱安定性が高く、水素等を還元性反応ガスのもとでマンガンの成膜が可能である。また、化学蒸着用の原料として好適な気化特性を有する。本発明は、各種半導体デバイスのシード層やバリア層の形成に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6