IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

特許7478907高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置
<>
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図1
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図2
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図3
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図4
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図5
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図6
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図7
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図8
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図9
  • 特許-高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/065 20060101AFI20240425BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H01J37/065
H01J37/248 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023522003
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2021018601
(87)【国際公開番号】W WO2022244054
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰周
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】大西 崇
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊一
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-115262(JP,A)
【文献】特開2002-270125(JP,A)
【文献】特開昭61-39353(JP,A)
【文献】実開昭59-17552(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧が印加され軸方向に伸びる導電部を絶縁体で取り囲む高電圧絶縁構造体であって、
前記絶縁体は、第1の絶縁体と、前記軸方向において前記第1の絶縁体とは反対側に位置する第2の絶縁体と、前記第1の絶縁体と前記第2の絶縁体との間に位置する第3の絶縁体と、を備え、
前記第3の絶縁体の電気抵抗率は、前記第1および第2の絶縁体の電気抵抗率よりも小さく、
前記第3の絶縁体における前記軸方向の厚みは、前記導電部から遠い外側の第1肉厚が、前記導電部に近い内側の第2肉厚よりも薄い、高電圧絶縁構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3の絶縁体は、前記第2肉厚の部位から前記第1肉厚の部位にかけての肉厚が、径方向に連続的または段階的に薄くなっている、高電圧絶縁構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3の絶縁体の径方向における中腹部の沿面の電界値が、前記第1肉厚の部位における電界値および前記第2肉厚の部位における電界値よりも低い、高電圧絶縁構造体。
【請求項4】
請求項1に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3の絶縁体は、さらに、前記第1肉厚の部位および第2肉厚の部位の間に、前記第1肉厚よりもさらに薄い第3肉厚の部位を有する、高電圧絶縁構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3肉厚の部位から前記第1肉厚の部位にかけての肉厚と、前記第3肉厚の部位から前記第2肉厚の部位にかけての肉厚が、径方向に連続的または段階的に変化する、高電圧絶縁構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3肉厚の部位における沿面の電界値が、前記第1肉厚の部位における電界値および前記第2肉厚の部位における電界値よりも高い、高電圧絶縁構造体。
【請求項7】
請求項1に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3の絶縁体に接触する前記第1の絶縁体および前記第2の絶縁体の面は、各々、前記第3の絶縁体の肉厚の変化に応じた面形状を有している、高電圧絶縁構造体。
【請求項8】
請求項1に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第3の絶縁体は、平面リング形の弾性体であって、前記第1の絶縁体と前記第2の絶縁体とによって押圧保持されている、高電圧絶縁構造体。
【請求項9】
請求項1に記載の高電圧絶縁構造体において、
前記第1および第2の絶縁体の間に、前記第3の絶縁体よりも電気抵抗率が大きい第4の絶縁体を有する、高電圧絶縁構造体。
【請求項10】
請求項1に記載の高電圧絶縁構造体を備える荷電粒子銃であって、
前記導電部は、荷電粒子源に前記高電圧を印加するための導電体である、荷電粒子銃。
【請求項11】
請求項10に記載の荷電粒子銃を備えた荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子顕微鏡やX線装置などの荷電粒子を用いて対象物の観察や分析等を行う装置では、電子をビーム状に発生させる荷電粒子銃(一般には電子銃と呼ばれる)が備えられている。そして、これらの装置では、電子銃の内部に配置されたカソードに、数kVから数百kVの非常に高い電圧を印加することで、電子ビーム(荷電粒子ビーム)を加速させながらアノードの方向に放出する。
【0003】
このような高電圧(High Voltage、以下、「HV」と略称する)をHV電源からカソードに供給するためには、典型的に、HV電力ケーブルが使用される。ここで、HV電力ケーブルの両端には、各々、HVコネクタアセンブリが取り付けられる。そして、HVコネクタアセンブリの一方はHV電源に接続され、他の一方は、電子銃のハウジングのコネクタ部に接続されるのが一般的である。
【0004】
また、HV電位となるHV導電体が、HVコネクタアセンブリとハウジングコネクタ部との各々の中心部に備え付けられ、そのHV導電体の周囲は、HV導電体と接地部位とを電気的に遮蔽するため、絶縁物で充填される。HVコネクタアセンブリとハウジングコネクタ部を連結することで、それぞれのHV導電体部同士が電気的に接触し、カソードに電力を供給することができる。
【0005】
さらに、HVコネクタアセンブリとハウジングコネクタ部との連結部には、かかる連結部の密着性の確保ないし増加を図るために、絶縁ガスケットが挟み込まれる。空気の絶縁破壊電圧は固体絶縁材料に比べ低いことから、連結部間の空気層での放電が問題になる。そこで、絶縁ガスケットを入れることにより、この空気層を無くし、高耐電圧化が実現できる。さらに、一般的にはガスケットの表面にグリースを塗布することで、密着性をさらに増加させる。
【0006】
上述のようにして、HV電位であるHV導電体部と、接地電位である筐体部とを電気的に絶縁することで、電子銃を破壊するような放電の発生を抑制している。加えて、電子銃は、その性能に不具合をもたらすような微小な放電の発生を抑制する必要もある。そのため、電子銃には、電界を低減するための種々の施策がなされている。
【0007】
典型的には、HVケーブルの内部やコネクタの連結部などのHV導電体の周辺は、HV導電体を軸中心とした軸対称の形状となっている。このような軸対称空間における径方向の電界Eは、下記の式(1)に示すガウスの法則に従う。
【0008】
【数1】
【0009】
ここで、VはHV導電体に印加するHV電圧、rは中心軸からの距離(R≦r≦R)、Rは内周部のHV導電体(HV電位)の径、Rは外周部の筐体(接地電位)の径である。式(1)より、電界Eは中心軸からの距離rに反比例し、即ち中心部に近いほど電界が高くなる。その結果、電界が最大となる箇所はHV導電体の表面(r=R)に位置する。このようにして電界が高くなる中心部近傍は、特に放電が発生する可能性が高い部位である。式(1)によると、外周部の半径R2-や内周部の半径Rを大きくすることで、電界Eは小さくなる。
【0010】
電界を低減するための施策として、例えば筐体を大型化すれば半径Rを大きくすることができる。また半径Rを大きくするために、例えば、特許文献1に記載のHVコネクタシステムにおいては、HVコネクタアセンブリはHV導電体を囲うように配置されたファラデーカップを有する。特許文献1によると、「本発明の1つの利点は、ファラデーカップがHV配線結合部近傍における局所的な電界の実質的解除をもたらし、そのことによって部分放電活動を低下させることである。」との記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-165167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載のHVコネクタシステムでは、例えばHV導電体を覆うようにしてファラデーカップを配置することで、HV電位である内周部の径を拡大し、電界の集中を一定程度軽減している。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、依然として、軸中心に近いほど電界の値が大きくなるという望ましくない性質を有している。
【0013】
本発明の目的は、高電圧が印加される導電部の周辺における電界を低減することが可能な高電圧絶縁構造体、荷電粒子銃および荷電粒子ビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0015】
本発明の代表的な実施の形態による高電圧絶縁構造体は、
高電圧が印加され軸方向に伸びる導電部を絶縁体で取り囲む高電圧絶縁構造体であって、
前記絶縁体は、第1の絶縁体と、前記軸方向において前記第1の絶縁体とは反対側に位置する第2の絶縁体と、前記第1の絶縁体と前記第2の絶縁体との間に位置する第3の絶縁体とを備え、
前記第3の絶縁体の電気抵抗率は、前記第1および第2の絶縁体の電気抵抗率よりも小さく、
前記第3の絶縁体における前記軸方向の厚みは、前記導電部から遠い外側の第1肉厚が、前記導電部に近い内側領域の第2肉厚よりも薄い。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、高電圧に対する絶縁特性が良好な構造体が得られる。かかる高電圧絶縁構造体によれば、軸中心部に位置する導電部の周辺における電界を低減し、部分放電が発生する可能性を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態1に係る電子銃の構成を示す図である。
図2】HVコネクタと金属ハウジングとの接合部を詳細に示した断面図である。
図3】ガスケット周辺の電位分布を示した断面図である。
図4】従来例として、テーパー部分を排除して円盤状にしたガスケット周辺の電位分布を示した断面図である。
図5】ガスケットと第2絶縁体の接合面における電位分布のグラフである。
図6】ガスケットと第2絶縁体の接合面における電界分布のグラフである。
図7】実施の形態2に係る電子銃における、HVコネクタと金属ハウジングとの接合部を詳細に示した断面図である。
図8】実施の形態3に係る電子銃における、HVコネクタと金属ハウジングとの接合部を詳細に示した断面図である。
図9】実施の形態3におけるガスケットと第2絶縁体の接合面における電界分布のグラフである。
図10】荷電粒子ビーム装置の一例としての透過電子顕微鏡の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。なお、実施例において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
【0020】
最初に、図10を参照して、各実施形態に共通して適用される荷電粒子ビーム装置の一例を説明する。ここで、図10は、荷電粒子ビーム装置の一例としての透過電子顕微鏡の構成を示す図である。
【0021】
図10に示すように、本開示に係る透過電子顕微鏡は、電子ビーム109を出力する電子銃101と、電子ビーム109が照射される対象物である試料1001を支持する試料ホルダ1002と、電子ビーム109を試料1001に照射するための照射レンズ1003と、試料1001に焦点を合わせ、かつ試料1001を透過した電子ビームを拡大するための対物レンズ1004と、電子顕微鏡像を結像する結像レンズ1005と、前記電子顕微鏡像を検出する検出器1006と、加速電圧を発生する高圧電源1007と、上記の各レンズおよび高圧電源1007を制御する制御部1008と、種々の演算制御を行うコンピュータ1009を備える。なお、透過電子顕微鏡を構成する各部のうち、電子銃101以外の構成は、公知であるため、その詳細な説明を割愛する。
【0022】
透過電子顕微鏡において、電子銃101は、金属製の筐体部である金属ハウジング104、金属ハウジング104内に備えられた第1絶縁体105、カソード106、電子源107、およびアノード108を有する。また、電子銃101は、高圧電源1007から出力される高電圧(HV)を金属ハウジング104内に導入して電子源(この例ではカソード106および電子源107)に印加するためのHVケーブル103およびHVコネクタ102を有する。
【0023】
上記のうち、カソード106および電子源107は、電子銃101の軸中心部に位置する導電体の一部をなし、接地電位をなす金属ハウジング104とは電気的に絶縁されている。また、カソード106は、HVケーブル103およびHVコネクタ102と電気的に接続され、高圧電源1007で発生した高電圧(HV)が加えられることにより、高温の電子源107から放出される電子ビーム(荷電粒子ビーム)を、アノード108の方向に加速させる役割を担う。なお、電子銃101を構成する他の構成および特徴部分については、図1以下の説明で後述する。
【0024】
図10に示す透過電子顕微鏡において、電子銃101の電子源107から放出され加速しながらアノード108の位置を通過した電子ビーム109は、照射レンズ1003を通過した後に試料1001に照射される。また、試料1001を通過(透過)した電子ビームは、対物レンズ1004および結像レンズ1005を通過して拡大および結像された後に検出器1006に到達することで、試料1001の電子顕微鏡像として検出することができる。
【0025】
このような透過電子顕微鏡(荷電粒子ビーム装置)では、電子銃101を破壊するような放電の発生の防止のみならず、その性能に不具合をもたらすような微小な放電を抑制することも重要な課題となる。具体的には、例えば金属ハウジング104内で微小な放電が発生した場合、電子銃101から出力された電子ビーム109、ひいては検出器1006で検出される試料1001の電子顕微鏡像の画像の乱れや解像度の劣化などが発生するおそれがある。
【0026】
次に、上述の課題を解決するための電子銃101の具体的な構成例について、図1以下を参照して説明する。
【0027】
(実施の形態1)
【0028】
図1は、実施形態1に係る電子銃の構成を示す図である。図10および図1に示すように、電子銃101は、HVコネクタ102と、HVケーブル103と、金属ハウジング104と、カソード106と、カソード106を支持し金属ハウジング104とカソード106を電気的に絶縁する第1絶縁体105と、電子源107と、アノード108を備える。
【0029】
この電子銃101では、カソード106および電子源107に数kV~数百kVの負の高電圧(HV電圧)を印加することで、接地電位であるアノード108との間にHV電圧分の電位差を生じさせる。電子銃101の内部は真空となっており、電子源107から放出される電子ビーム109は、空間中の気体分子と衝突することなく、上記の電位差により加速されながら、アノード108の方向に放射される。HV電圧は、HVケーブル103、HVコネクタ102および第1絶縁体105の内部に埋め込まれている導電体を通じて、カソード106および電子源107に供給される。電子源107の交換時や、電子銃101の内部の圧力の低減のために行うベーキング時における作業性を向上するため、HVコネクタ102と金属ハウジング104は分割できる構造となっていることが一般的である。
【0030】
図2は、HVコネクタと金属ハウジングとの接合部を詳細に示した断面図である。図2に示すように、HVコネクタ102は、導電体201と、ファラデーカップ202と、導電体201とファラデーカップ202の周囲に充填された第2絶縁体203と、を備える。第1絶縁体105の内部には、カソード106および電子源107と電気的に接続された導電体204が包埋されている。金属ハウジング104とHVコネクタ102の接合部、即ち、第1絶縁体105と第2絶縁体203の間には、ファラデーカップ202を収容するための開口を中央に有する、ガスケット205が配置される。ガスケット205は、平面視でリング形の外形を有する弾性体であり、HVコネクタ102と金属ハウジング104を固定具206(例えばネジ)によって締結することで、第1絶縁体105と第2絶縁体203の間で押圧保持される。この例では、ガスケット205の内周面がファラデーカップ202の外面と接触し、ガスケット205の外周面(外縁)は、金属ハウジング104の内面と接触するように配置されている。さらに、ガスケット205の接合面に沿って各々の絶縁体105,203と密接に接触させ、かつ絶縁体105,203等との間の空隙を排除して電気的な絶縁性能の強化および向上を図るべく、ガスケット205の接合面にグリースの薄い層を施してもよい。
【0031】
導電体201および204は、例えば片方は凸形状もう片方は凹形状であり、HVコネクタ102と金属ハウジング104を連結したとき、前記凸部が前記凹部に差し込まれることで、導電体201および204は安定的に接触して電気的に接続される。また、図2には示していないが、これらの導電体は、一般的に複数の導電部材で構成され、それぞれに印加されるHV電圧は数V~数kV程度ずつ異なる。ファラデーカップ202は、これらの導電部材のうちの1つと電気的に接続されている。ファラデーカップ202によって中央部の導電体201を囲うことで、導電体201の近傍に対する電界の遮蔽をもたらし、そのことによって導電体201の近傍における望ましくない放電の発生を減少させる。ファラデーカップ202の内部は、この例では第2絶縁体203が充填されているが、他の例として空気層が存在していてもよい。
【0032】
上記のHV電位となる部位と接地電位となる部位は、第1絶縁体105と第2絶縁体203およびガスケット205により、電気的に絶縁される。第1絶縁体105および第2絶縁体203は、例えばエポキシ樹脂やセラミックなどで構成され、電気抵抗率が1014~1018Ωcm程度の高い電気的絶縁性能を有する。また、ガスケット205も電気的な絶縁性能を有する物質であり、接合部分における密着性の確保および増加を図るため、例えばゴムなどの弾性を有する絶縁物質が使用される。
【0033】
図2に参照されるように、電子銃101において、上述した導電体201、導電体201に電気的に接続されたファラデーカップ202、およびファラデーカップ202のほぼ下端の高さ位置で導電体201に接続された導電体204は、各々、軸方向(図1および図2では上下方向)に伸びるように配置されることで、本開示の導電部を形成する。そして、電子銃101では、この導電部を種々の絶縁体で取り囲むことで、導電部に印加される高電圧と金属ハウジング104とを絶縁する絶縁構造体が構成される。
【0034】
図2に示す実施形態1では、導電部を取り囲む絶縁体として、下側(この例では金属ハウジング104内)に位置する第1絶縁体105と、第1絶縁体105の上方(この例ではHVコネクタ102内)に位置する第2絶縁体203と、第1および第2絶縁体105,203の間に位置するガスケット205と、を備える。
【0035】
言い換えると、第2絶縁体203は、軸方向すなわち導電部の伸びる方向において、第1絶縁体105とは反対側に対抗するように位置する。また、ガスケット205は、軸方向(上下方向)において、第1絶縁体105と第2絶縁体203との間に挟み込まれるように設けられる。
【0036】
本開示の実施の形態1において、ガスケット205は、第3の絶縁体としての役割を担うものであり、周囲の絶縁体、即ち第1絶縁体105と第2絶縁体203よりも、電気抵抗率が小さい物質で構成される。例えば、第1および第2絶縁体105,203の電気抵抗率が1014~1018Ωcm程度であった場合、ガスケット205は、その電気抵抗率が1014Ωcmよりも小さい物質で構成される。このような物質の例としては、電気抵抗率1010~1012Ωcmを有するクロロプレン(ネオプレン)ゴムが挙げられる。
【0037】
一般に、従来の技術では、第1絶縁体105と第2絶縁体203との連結部に介在されるガスケットは、高耐電圧化の観点から、できるだけ電気抵抗率が大きい物質で構成されるべきと考えられており、実際そのような構成が用いられてきた。
【0038】
一方で、上述した従来構成では、電子銃を破壊するような大電流による放電を防止することはできるが、電子銃の性能に影響を与え得る他の放電、すなわち局所的ないし部分的な放電(以下、「部分放電」という)まで抑制することは難しいものと考えられる。
【0039】
本発明者らは、電子銃の構造について種々の研究および実験を行った結果、大電流による放電を防止しつつ部分放電をも抑制するためには、従来とは逆の発想、すなわち、ガスケットの電気抵抗率を周囲の絶縁体(105,203)よりも小さくした方がよいことを見出した。また、かかる効果を得るためには、ガスケットの厚みを内径側と外径側とで以下のように異ならせることが必要であることを見出した。
【0040】
本開示において、ガスケット205は、外径側の第1肉厚(厚み)が、内径側の第2肉厚よりも薄い構成とされる。より詳細には、実施の形態1のガスケット205は、第2肉厚の部位から第1肉厚の部位にかけて肉厚が径方向に連続的に薄くなる形状、例えばテーパー形状となっている。図示しないが、他の例として、第2肉厚の部位から第1肉厚の部位にかけて、肉厚が径方向に段階的に(例えば、階段状、波状などの断面形状で)薄くなる構成としてもよい。あるいは、第2肉厚の部位から第1肉厚の部位にかけて、肉厚が曲線状に変化してもよい。さらに、第1肉厚と第2肉厚の間は、肉厚の変化しない平らな領域が存在してもよい。
【0041】
本発明者らは、上述のような構成とすることにより、金属ハウジング104の内部で導電体201またはファラデーカップ202から発生する部分放電を、ガスケット205の作用(第3の絶縁体の電気的特性)によって顕著に抑制できることが分かった。
【0042】
なお、上記のように、ガスケット205の外径側と内径側とで厚みを異ならせる構成としたことに伴い、ガスケット205と接触する第1絶縁体105および第2絶縁体203の面は、ガスケット205の形状に沿った形状に加工されることが望ましい。例えば、図2に示す例では、ガスケット205の下面をテーパー状の斜面としたことから、第1絶縁体105の上面にテーパー加工が施されている。図示しない他の例として、ガスケット205の上面をテーパー状の斜面としてもよく、この場合は、第2絶縁体203の下面にテーパー加工を施せばよい。さらに他の例として、ガスケット205の上面および下面の両方をテーパー状の斜面としてもよく、この場合、第1絶縁体105の上面および第2絶縁体203の下面に各々、テーパー加工を施せばよい。
【0043】
図2に示すように、ガスケット205の片側(この例では下面側)のみをテーパー形状とする構成の場合、かかる絶縁構造体を製造する工程が比較的単純となる利点がある。
【0044】
上述のように、ガスケット205を保持する第1絶縁体105および第2絶縁体203の面(ガスケット205に接触する上面および下面)を、対応するガスケット205の接触面(下面および上面)の形状に対応した面形状とすることにより、ガスケット205は、押圧保持された状態においても元々の形状が保たれる。したがって、ガスケット205と絶縁体105,203とを密接に接触させて、電気的な絶縁性能の向上を図ることができる。
【0045】
図3は、ガスケット周辺の電位分布を示した断面図である。本発明者らは、図2に示す電子銃101におけるガスケット205の周辺の電位分布、言い換えると、電子銃101の稼働時に絶縁構造体において不可避的に発生する微小なリーク電流の電位分布を、シミュレーションにより求めた。シミュレーション結果の電位分布を示す図3において、ガスケット205の内径側の端部はHV電位(-100kV)、外径側の端部は接地電位(0kV)である。-100kVと0kVの間には、10kV間隔の等電位線を示す。ガスケット205の内周部と外周部の半径はそれぞれ、12.5mmと35mmであり、内周部から外周部までの距離は22.5mmである。また、ガスケット205の第1肉厚と第2肉厚は、それぞれ、1.6mmと4.7mmである。第1絶縁体105と第2絶縁体203の電気抵抗率は、1016Ωcmに設定し、ガスケット205の電気抵抗率はより低い値である1012Ωcmに設定して計算を行った。
【0046】
図4は、従来例として、テーパー部分を排除して円盤状にしたガスケット周辺の電位分布を示した断面図である。本発明者らは、上述したガスケット205の代わりに、ガスケット205の内径側から外径側に亘って厚みが均一な円盤状にしたガスケット401を配置し、ガスケット401の周辺の電位分布をシミュレーションにより同様に求めた。ガスケット401の肉厚は4.7mmである。その他の条件は図3と同様である。
【0047】
図3図4とを比較して分かるように、実施の形態1のガスケット205を用いた絶縁構造体によれば、従来構成のガスケット401を用いた絶縁構造体と比較して、内径側(高電圧側)の等電位線の間隔が広くなり、逆に、外径側(低電圧側)の等電位線の間隔が狭くなっていることが分かる。このように、高電圧側の等電位線の間隔を従来よりも広くすることにより、電子銃を破壊するような大電流による放電を防止するとともに、電子銃の性能に影響を与え得る部分放電を顕著に抑制することができる。
【0048】
図5は、ガスケットと第2絶縁体の接合面における電位分布のグラフである。すなわち、図5に示すグラフは、図3および図4中に点線で示した評価線上、すなわち、ガスケットと絶縁体(この例では第2絶縁体203)とが接合する沿面上の電位分布を表している。このグラフにおいて、縦軸は電位(単位kV)である。また、横軸は、評価線上の距離(単位mm)であり、評価線の左側の端点(ガスケットの内径側の端点)が0mmである。グラフ内の実線(テーパー)および破線(円盤)は、それぞれ、図3に示したテーパー付きのガスケット205、および図4に示した円盤状のガスケット401、に対応するプロットである。
【0049】
図6は、ガスケットと第2絶縁体の接合面における電界分布のグラフである。すなわち、図6に示すグラフは、図5に示した電位プロットの変化率、即ち沿面の電界分布のプロットである。縦軸は電界(単位kV/mm)であり、横軸は図5と同様である。
【0050】
ここで、再び図3図4とを参照して、実施の形態1と従来構成との違いをより詳細に説明する。図4に示すように、円盤状のガスケット401を使用した場合では、ガスケットの内径側ほど(特に、-60kV以下の電位において)、等電位線の間隔が狭くなっている。これは、ガスケットの内径側ほど電界が高くなっていることを表す。一方で、図3に示すように、テーパーを付与したガスケット205を使用した場合では、等電位線の間隔は概ね等しく、内径側の電界が低減されている。
【0051】
この効果の違いは、図6に示した電界のグラフにおいてより顕著に示される。従来構成による円盤状のガスケット401(以下、円盤型と称する場合がある)のプロット(破線)では、式(1)に示したガウスの法則に従い、ガスケットの内径側(0mm)に近付くほど電界の値が高くなり、0mmにおいて最大値7.8kV/mmとなっている。これに対して、テーパーを付与したガスケット205のプロット(実線)では、電界の値は、径方向距離12mm以下においては円盤型よりも低く、12mm以上では円盤型よりも高い。その結果、ガスケットの両端部(0mmと22.5mm)の電界値がほぼ等しく、それらよりも電界値が低い領域が中央部に存在している。このように、実施の形態1の構成では、電界の最大値と最小値の差を小さくすること、即ちガスケットの径方向の電界分布を均すことによって、0mm地点における電界の最大値は、5.4kV/mmにまで低減されている。
【0052】
以上に述べた電界の集中を低減する効果は、本開示における以下の特徴によって達成することができる。
特徴1:周囲の絶縁体よりも電気抵抗率が低い物質を第3の絶縁体(この例ではガスケット)として使用することで、電子銃の稼働時に導電部から不可避的に漏れ出る微小な電流(リーク電流)が、第3の絶縁体(ガスケット)に優先的に流れるようになる。
特徴2:;第3の絶縁体(ガスケット)の外径側の肉厚を内径側の肉厚よりも薄くすることで、第3の絶縁体(ガスケット)の径方向の単位距離当たりの抵抗値を制御し、図3等に示すリーク電流の電流密度を均一化している。
【0053】
以上のように、本開示の電子銃101および透過電子顕微鏡によれば、第3の絶縁体(ガスケット)の径方向にわたって発生する電界の分布を均すことで、局所的な電界の集中を低減させることがき、これによって望ましくない部分放電の発生を低減することができる。これに付随する効果として、第3の絶縁体(ガスケット)の表面の電界が低減されることによって、耐電圧性能を改善するために塗布していたグリースを除去することができ、これによってグリース塗布の組立工程が削除され、メンテナンス性の改善も期待できる。
【0054】
(実施の形態2)
本開示の実施の形態2では、電子銃101が備える各部に関する変形例を説明する。その他の構成は実施の形態1と同様であるので、以下は主として実施の形態1との差異点について説明する。
【0055】
図7は、実施の形態2に係る電子銃における、HVコネクタと金属ハウジングとの接合部を詳細に示した断面図である。上述した実施の形態1においては、第1絶縁体105および第2絶縁体203が、ガスケット205(第3の絶縁体)と接触していたが、ガスケット205に接触する絶縁体(105,203)の片方または両方を、第2のガスケット(第4の絶縁体)に置き換えてもよい。
【0056】
例えば、図7に示す実施の形態2の構成例では、第1絶縁体105とガスケット205の間に、第4の絶縁体としての第2ガスケット701を配置している。この場合においても、ガスケット205は周囲の絶縁体(ここでは第2ガスケット701と第2絶縁体203)よりも電気抵抗率は低くなっている。例えば、第2ガスケット701は、1014-1018Ωcm程度の電気抵抗率を有するシリコンゴムである。
【0057】
このように追加のガスケットを配置することで、実施形態1と同等の効果を維持しながら、HVコネクタ102もしくは金属ハウジング104を構成する絶縁体に対して、テーパー形状等の加工を施す必要が無くなるという利点が生じる。したがって、電子銃101の製造工程におけるコスト低減を図ることができる。
【0058】
〔実施の形態3〕
本開示の実施形態3では、電子銃101が備える各部に関する変形例を説明する。その他構成は実施形態1と同様であるので、以下では主として実施形態1との差異点について説明する。
【0059】
図8は、本実施の形態3に係る電子銃101における、HVコネクタと金属ハウジングとの接合部を詳細に示した断面図である。図8に示す実施の形態3では、図2で上述した実施の形態1と同様に、第1絶縁体105と第2絶縁体203との接合部に第3の絶縁体としてのガスケットが配置される。
【0060】
一方、実施の形態3で用いられるガスケット801は、図8に示すように、内径側の第2肉厚と、第2肉厚よりも薄い外径側の第1肉厚の間に、第1肉厚よりもさらに薄い第3肉厚を有している。
【0061】
ガスケット801における第1肉厚と第3肉厚との間、および第2肉厚と第3肉厚との間にかけての肉厚は、径方向に連続的に変化している。図示しない他の例として、第1肉厚と第3肉厚との間、および第2肉厚と第3肉厚との間にかけての肉厚は、径方向に段階的に(例えば、階段状、波状などの断面形状で)変化する構成としてもよい。また、肉厚の変化の態様については、実施の形態1で説明したような種々の変形例を採用することができる。
【0062】
また、図8に示す例では、ガスケット801の下面を曲面状(径方向における中腹部を凹状)としたことから、第1絶縁体105の上面が、対応する曲面状(径方向における中腹部を凸状)となるように加工が施されている。他の例として、実施の形態1で説明したような種々の変形例を採用することができ、あるいは実施の形態2で説明したように、第4の絶縁体(第2のガスケット)を追加する構成としてもよい。
【0063】
図9は、実施の形態3におけるガスケットと第2絶縁体の接合面における電界分布のグラフである。すなわち、図9に示すグラフは、上述した図6と同様にしてプロットした、ガスケット801と第2絶縁体203との接合部沿面における電位の変化率、すなわち沿面の電界分布のグラフである。ガスケット801の第1肉厚、第2肉厚および第3肉厚は、それぞれ、1.7mm、4.7mmおよび0.9mmである。その他の計算条件は、図6と同様である。電界の値は、ガスケット801の内径側の端部(0mm)で3.5kV/mm、外径側の端部(22.5mm)で2.6kV/mm、中間部(10mm近傍)で5.4kV/mmである。図9を参照すると、ガスケット801の径方向における内外の両端部よりも、中腹部の方に、電界値が高い領域が存在していることが分かる。
【0064】
このようにして、実施の形態3によれば、一般に部分放電が発生しにくいガスケットの中腹部に電界を偏らせることで、相対的に部分放電が発生しやすい領域となるガスケットの両端部の電界をさらに低減することが可能となる。なお、実施の形態3では、ガスケット(第3の絶縁体)の肉厚の変化の極点が3つ存在する例としたが、他の例として、肉厚の変化の極点が4つ以上存在する構成としてもよい。
【0065】
なお、本発明は上述した実施形態1、2および3に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために、電子顕微鏡の分野に特化するように適用した電子銃に関して詳細に説明したものである。したがって、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。
【0066】
また、上述した実施形態における第3の絶縁体の構成は、X線装置の電子銃に適用できることは勿論のこと、例えば特開2007-14070号公報に記載されているようなガス絶縁装置にも適用することができる。具体的には、上述した第3の絶縁体の構成は、ガス絶縁電気機器において、絶縁性ガスを充填した密閉容器内で高電圧導体に取り付けられる「絶縁スペーサ」に適用することができる。この場合、上述した第1の絶縁体および第2の絶縁体は、いずれも絶縁性ガスが対応し、また、第3の絶縁体は、板状部材あるいは弾性部材である必要はない。他の側面からは、第1の絶縁体および第2の絶縁体の相(phase)は、特に限定されるものではなく、固体、気体、液体のいずれであってもよい。また、第3の絶縁体の相も必ずしも固体である必要はない。例えば、第1の絶縁体および第2の絶縁体が固体である場合、第3の絶縁体は、固体のみならず、液体または気体であってもかまわない。
【符号の説明】
【0067】
101:電子銃(荷電粒子銃)、102:HVコネクタ、104:金属ハウジング、105:第1絶縁体、201:導電体、202:ファラデーカップ、203:第2絶縁体、205,801:ガスケット(第3の絶縁体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10