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特許7479051プラスチック粒子の検出方法およびプラスチック粒子の検出キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】プラスチック粒子の検出方法およびプラスチック粒子の検出キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
G01N21/64 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020148398
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2021056214
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019177544
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 丈
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141988(WO,A1)
【文献】特表2002-525579(JP,A)
【文献】特開2018-155608(JP,A)
【文献】特開2003-066037(JP,A)
【文献】特表2010-503847(JP,A)
【文献】特開2014-174018(JP,A)
【文献】特開2011-137830(JP,A)
【文献】特表2009-535060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子と、前記プラスチック粒子に結合するペプチドと、前記ペプチドと結合する蛍光色素と、を混合する混合工程と、
前記プラスチック粒子と、前記ペプチドと、前記蛍光色素との第1の複合体を検出する検出工程と、を含むプラスチック粒子の検出方法;
【化1】
(前記式(1)中、Rは、水素、塩素または炭素数6以下の有機基のいずれかであり、nは、2以上の整数である)。
【請求項2】
前記プラスチック粒子は、長径が360nm以下である、請求項1に記載のプラスチック粒子の検出方法。
【請求項3】
前記混合工程では、前記ペプチドと、前記蛍光色素との第2の複合体を含む標識用組成物を、前記プラスチック粒子と混合する、請求項1または2に記載のプラスチック粒子の検出方法。
【請求項4】
前記ペプチドは、ビオチンが結合しており、前記蛍光色素は、ストレプトアビジンが結合している、請求項1から3の何れか1項に記載のプラスチック粒子の検出方法。
【請求項5】
前記蛍光色素としてCy3を用いる、請求項1から4の何れか1項に記載のプラスチック粒子の検出方法。
【請求項6】
前記ペプチドは、以下の(a)または(b)の何れかに示すペプチドであり、
前記プラスチック粒子は、ポリスチレン粒子である、請求項1から5の何れか1項に記載のプラスチック粒子の検出方法;
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ前記ポリスチレン粒子と結合する活性を有するペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドは、以下の(c)または(d)の何れかに示すペプチドであり、
前記プラスチック粒子は、ポリプロピレン粒子である、請求項1から5の何れか1項に記載のプラスチック粒子の検出方法;
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むペプチド、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ前記ポリプロピレン粒子と結合する活性を有するペプチド。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の前記ペプチドおよび前記蛍光色素を含む、下記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子の検出キット;
【化2】
(前記式(1)中、Rは、水素、塩素または炭素数6以下の有機基のいずれかであり、nは、2以上の整数である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック粒子の検出方法およびプラスチック粒子の検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄されたプラスチックごみは、紫外線または摩擦等で分解されることにより、小さなプラスチック粒子となる。該プラスチック粒子の中でも、長径が5mm以下のプラスチック粒子は、マイクロプラスチック粒子と呼ばれる。マイクロプラスチック粒子は、世界中の海中に存在することが知られている。海洋生物がマイクロプラスチック粒子を摂取することで、該マイクロプラスチック粒子に含まれている化学物質が、海洋生物の生体内にとりこまれる虞がある。
【0003】
プラスチックの中には、性能改善のために添加剤として種々の化学物質が含まれている。例えば、耐候性を向上するための紫外線防止剤、酸化防止剤、着色のための顔料または可塑性を調整するための可塑剤等である。これらの化学物質の中には、過去に有害性が認められたため使用が禁止になった化学物質が含まれている。しかし現在でも、このような有害な化学物質を使用して生産されたプラスチックが、長い年月を経て海洋中を漂っている。実際、魚や貝にマイクロプラスチック粒子を摂食させると、生物的・物理的な様々な影響が見られることが明らかになった。近年、海洋生物の生体への、マイクロプラスチック粒子が与える影響が懸念されている。また、海洋のみでなく、ペットボトル飲料水からもマイクロプラスチック粒子が検出されており、問題が世界レベルで深刻化している。
【0004】
さらに、マイクロプラスチック粒子に比べて、より微細な長径を有するナノプラスチック粒子もまた、海洋中に存在する。ナノプラスチック粒子は、長径が極めて小さい。そのため、ナノプラスチック粒子は、食物連鎖の下位に位置するプランクトンに摂取されやすい。ナノプラスチック粒子を摂取したプランクトンを魚等が食べることによって、ナノプラスチック粒子に含まれる化学物質、およびナノプラスチック粒子の表面に吸着した化学物質等の濃縮が食物連鎖の過程で生じる。それ故、食物連鎖において、魚よりも上位に位置する人類の生体への影響が懸念されている。
【0005】
マイクロプラスチック粒子およびナノプラスチック粒子により生じる、上述の懸念を解消するために、マイクロプラスチック粒子およびナノプラスチック粒子の検出・分析技術の向上が求められている。マイクロプラスチック粒子を検出する方法として、非特許文献1、2および3に記載されているように、顕微鏡を用いての、フーリエ変換赤外分光法またはラマン分光法が広く用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Brigitte Voit et. al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 408, p.8377-8391, 2016
【文献】Jesus J Ojeda et. al., Analytical Chemistry, 87, p.6032-6040, 2015
【文献】Torkel Gissel Nielsen et. al., Marine Pollution Bulletin, 100, p.82-91, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の方法を用いたとしても、各顕微鏡の分解能以下の長径を有するプラスチック粒子は検出できず、例えば、長径が500nmより小さなプラスチック粒子は検出が困難である。それ故、例えば、可視光の波長360nm以下の長径を有するナノプラスチック粒子の検出には、上述の方法を用いることができない。
【0008】
本発明の目的は、微小なプラスチック粒子の高感度な検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記方法を実現するために鋭意検討を重ねた結果、プラスチック粒子を暗視野で観察することにより、例えば可視光の波長以下の長径を有するプラスチック粒子の存在を検出・可視化することに成功した。すなわち、本発明の本発明の一実施形態は、以下の構成を包含する。
【0010】
<1>下記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子と、前記プラスチック粒子に結合するペプチドと、前記ペプチドと結合する蛍光色素と、を混合する混合工程と、前記プラスチック粒子と、前記ペプチドと、前記蛍光色素との第1の複合体を検出する検出工程と、を含むプラスチック粒子の検出方法;
【0011】
【化1】
【0012】
なお、前記式(1)中、Rは、水素、塩素または炭素数6以下の有機基のいずれかであり、nは、2以上の整数である。
【0013】
<2>前記プラスチック粒子は、長径が360nm以下である、〔1〕に記載のプラスチック粒子の検出方法。
【0014】
<3>前記混合工程では、前記ペプチドと、前記蛍光色素との第2の複合体を含む標識用組成物を、前記プラスチック粒子と混合する、<1>または<2>に記載のプラスチック粒子の検出方法。
【0015】
<4>前記ペプチドは、ビオチンが結合しており、前記蛍光色素は、ストレプトアビジンが結合している、<1>から<3>の何れかに記載のプラスチック粒子の検出方法。
【0016】
<5>前記蛍光色素としてCy3を用いる、<1>から<4>の何れかに記載のプラスチック粒子の検出方法。
【0017】
<6>前記ペプチドは、以下の(a)または(b)の何れかに示すペプチドであり、前記プラスチック粒子は、ポリスチレン粒子である、<1>から<5>の何れかに記載のプラスチック粒子の検出方法;
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ前記ポリスチレン粒子と結合する活性を有するペプチド。
【0018】
<7>前記ペプチドは、以下の(c)または(d)の何れかに示すペプチドであり、前記プラスチック粒子は、ポリプロピレン粒子である、<1>から<5>の何れかに記載のプラスチック粒子の検出方法;
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むペプチド、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ前記ポリプロピレン粒子と結合する活性を有するペプチド。
【0019】
<8><1>から<7>の何れかに記載の前記ペプチドおよび前記蛍光色素を含む、下記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子の検出キット;
【0020】
【化2】
【0021】
なお、前記式(1)中、Rは、水素、塩素または炭素数6以下の有機基のいずれかであり、nは、2以上の整数である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、微小なプラスチック粒子の高感度な検出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のペプチドと本発明の蛍光色素との第2の複合体の一例を示す概略図である。
図2】実施例1における、ポリスチレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。
図3】実施例1における、ポリスチレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。
図4】実施例1における、ポリスチレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。
図5】実施例1における、ポリプロピレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。
図6】実施例2における、長径の異なるポリスチレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。
図7】実施例3における、ポリスチレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。本発明はまた、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0025】
本明細書中では、用語「ペプチド」は、「ポリペプチド」と交換可能に使用され、ペプチド結合によってアミノ酸2個以上が結合した化合物を意味する。本明細書中では、アミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0026】
〔1.プラスチック粒子の検出方法〕
本発明の一実施形態に係るプラスチック粒子の検出方法(以降、「本発明の検出方法」と称する)は、長径が360nm以下であり、かつ下記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子(以降、「本発明のプラスチック粒子」と称する)と、前記プラスチック粒子に結合するペプチド(以降、「本発明のペプチド」と称する)と、前記ペプチドと結合する蛍光色素(以降、「本発明の蛍光色素」と称する)と、を混合する混合工程と、前記プラスチック粒子と、前記ペプチドと、前記蛍光色素との第1の複合体を検出する検出工程と、を含む。
【0027】
【化3】
【0028】
前記構成によれば、本発明のプラスチック粒子が、本発明のペプチドを介して本発明の蛍光色素と第1の複合体を形成することにより蛍光標識される。そのため、蛍光標識された本発明のプラスチック粒子を暗視野で観察することにより、本発明のプラスチック粒子の存在を検出・可視化できる。特に、蛍光標識により、可視光の波長以下の長径を有するプラスチック粒子であっても、一般的な蛍光顕微鏡を用いての検出・可視化が可能となる。それ故、可視光の波長以下の長径のプラスチック粒子の検出方法を提供できる。
【0029】
以下では、本発明の一実施形態に係るプラスチック粒子の検出方法に用いられる材料についてまずは説明し、続いて、プラスチック粒子の検出方法の各工程について説明する。
【0030】
<1-1.材料>
(プラスチック粒子)
本発明の検出方法により検出されるプラスチック粒子は、下記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子である。
【0031】
【化4】
【0032】
前記式(1)中、Rは、水素、塩素または炭素数6以下の有機基のいずれかであり、nは、2以上の整数である。前記有機基は、例えば、メチル基、フェニル基、ヒドロキシ基およびニトリル基等が挙げられる。
【0033】
前記式(1)で示される構造を有する本発明のプラスチック粒子は、例えば、下記式(2)に示されるポリエチレン、下記式(3)に示されるポリプロピレン、下記式(4)に示されるポリスチレン、下記式(5)に示されるポリ塩化ビニルおよび下記式(6)に示されるポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
また、本発明の検出方法により検出されるプラスチック粒子には、前記式(1)で示される構造が、構造式の一部として含まれるようなプラスチック粒子が含まれる。このようなプラスチック粒子として、例えば、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂等の粒子が挙げられる。
【0040】
本発明の検出方法は、可視光の波長(すなわち、360nm)以下の長径を有するプラスチック粒子を検出できる。このようなプラスチック粒子として、例えば、長径が50nm以上360nm以下のプラスチック粒子が挙げられる。
【0041】
本発明のプラスチック粒子は、例えば、海水、下水、海中または河川の堆積物、砂への混在、魚等の水中生物の消化器官およびプランクトン等の生体等に含まれる。それ故、海水、下水、海中または河川の堆積物、砂への混在、魚等の水中生物の消化器官およびプランクトン等の生体等を採取し、前記プラスチック粒子を検出するための試料とすることができる。
【0042】
(ペプチド)
本発明のペプチドは、本発明のプラスチック粒子が有する、上述の各構造に対して結合するアミノ酸配列を含む。本発明のペプチドのアミノ酸配列は、検出対象のプラスチック粒子を構成するプラスチックの種類に応じて、適宜決定される。
【0043】
例えば、検出対象のプラスチック粒子がポリスチレン粒子である場合、本発明のペプチドは、以下の(a)または(b)の何れかに示すペプチドである;
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ前記ポリスチレン粒子と結合する活性を有するペプチド。
【0044】
前記(a)に示すペプチドは、文献(Michimasa Kishimoto et al., Biotechnology Journal. 2009, 4, 1178-1189)に開示されている通り、ポリスチレンに結合することが証明されている。また、前記(a)に示すペプチドは、該文献に開示の方法によって得られる。また、該文献に開示されている通り、配列番号2、配列番号3、および配列番号4に示すアミノ酸配列を含むペプチドもまた、ポリスチレンに結合する。配列番号2に示すアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列の、2番目および4番目の残基をアラニンに置換したものである。配列番号3に示すアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列の、2番目および4番目の残基をアラニンに置換し、2番目の残基と3番目の残基との間にフェニルアラニンを挿入し、4番目の残基と5番目の残基との間にセリンを挿入し、さらに末尾にプロリンを付加したものである。配列番号4に示すアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列の、2番目および4番目の残基をアラニンに置換し、8番目の残基をリジンに置換し、2番目の残基と3番目の残基との間にフェニルアラニンを挿入し、4番目の残基と5番目の残基との間にセリンを挿入し、さらに末尾にプロリンを付加したものである。
【0045】
このように、配列番号1に示すアミノ酸配列の2番目、4番目、または8番目の残基を置換したアミノ酸配列を含むペプチドは、ポリスチレンに結合するといえる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列の、2番目の残基と3番目の残基との間にアミノ酸を挿入したアミノ酸配列を含むペプチドまたは4番目の残基と5番目の残基との間にアミノ酸を挿入したアミノ酸配列を含むペプチドについても、ポリスチレンに結合するといえる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列の末尾にアミノ酸を付加したアミノ酸配列を含むペプチドについても、ポリスチレンに結合するといえる。
【0046】
したがって、前記(b)に示すペプチドも、ポリスチレンに結合することが証明されている。それ故、前記(b)に示すペプチドも、本発明の一実施形態に係るペプチドとして採用できる。
【0047】
また、検出対象のプラスチック粒子が、ポリプロピレン粒子である場合、本発明のペプチドは、以下の(c)または(d)の何れかに示すペプチドである;
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むペプチド、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ前記ポリプロピレン粒子と結合する活性を有するペプチド。
【0048】
前記(c)に示すペプチドは、文献(米国特許公報US7928076号公報)に開示されている通り、ポリプロピレンに結合することが証明されている。また、該文献に開示されている通り、配列番号6に示すアミノ酸配列を含むペプチドもまた、ポリプロピレンに結合する。配列番号6に示すアミノ酸配列は、配列番号5に示すアミノ酸配列と同様に、配列番号11に示すアミノ酸配列を含んでいる。すなわち、配列番号5に示すアミノ酸配列の1番目、5番目および7番目のセリン以外の残基を置換したアミノ酸配列を含むペプチドについても、ポリプロピレンに結合するといえる。したがって、前記(d)に示すペプチドも、ポリプロピレンに結合することが証明されている。それ故、前記(d)に示すペプチドも、本発明の一実施形態に係るペプチドとして採用できる。
【0049】
前記構成によれば、ポリスチレンまたはポリプロピレンに結合するペプチドを用いることにより、可視光の波長以下の長径の、ポリスチレン粒子またはポリプロピレン粒子を検出する検出方法を提供できる。
【0050】
なお、前記「1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(例えば10個以下であってもよく、9個以下であってもよく、8個以下であってもよく、7個以下であってもよく、6個以下であってもよく、5個以下であってもよく、4個以下であってもよく、3個以下であってもよく、2個以下であってもよく、1個であってもよい)のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されていることを意味する。また本発明のペプチドは、糖鎖またはイソプレノイド基等のペプチド以外の構造をさらに含む複合ペプチドであってもよい。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸は修飾されていてもよい。また本発明のペプチドに含まれるアミノ酸はL型であっても、D型であってもよい。
【0051】
本発明のペプチドは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、ペプチドの発現ベクターが導入された形質転換体によって発現されても、化学合成されてもよい。すなわち、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明の範囲内である。化学合成法としては、固相法または液相法を挙げることができる。固相法において、例えば、市販の各種ペプチド合成装置(Model MultiPep RS(Intavis AG)等)を利用することができる。
【0052】
(蛍光色素)
本発明の蛍光色素は、本発明のペプチドと結合して複合体を形成することにより、本発明のペプチドを標識する。当該複合体の形成については後述する。本発明の蛍光色素としては特に限定されず、適宜、公知の蛍光色素を用いることが可能である。本発明の蛍光色素としては、例えば、Cy3、Cy5、PE(phycoerythrin)、FITC(fluorescein isothiocyanete)、フルオロセイン、DyLight(登録商標)488、AlexaFluor(登録商標)488、ATTO(登録商標)488、CF(登録商標)488、CF(登録商標)488A、DyLight(登録商標)550、CF(登録商標)555、Cy2、ローダミングリーン、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標) 568、Alexa Fluor(登録商標)594、CF(登録商標)568、CF(登録商標)594、DY547等を挙げることができる。また、ストークシフトの大きい蛍光色素であるDY480XL、DY485XLおよびDyLight(登録商標)510-LS等は、自然界には殆ど存在しない特徴的な蛍光波長を有する。そのためこれらの蛍光色素は、自然界の物質が有する自家蛍光と識別が容易である。したがって、本発明のプラスチック粒子を検出するための試料に自家蛍光を発する粒子が多く含まれている場合に、これらのストークシフトの大きい蛍光色素が、本発明の蛍光色素として好ましい。なお、本発明の蛍光色素はこれらに限定されない。
【0053】
これらの蛍光色素は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。蛍光顕微鏡を用いて目視により前記プラスチック粒子を検出する場合、検出対象を見易くするという観点から、本発明の蛍光色素は、可視光領域の蛍光を発することが好ましい。このような蛍光色素として、特にCy3またはCF(登録商標)488を用いることが好ましい。前記構成によれば、フィルターを介してCy3またはCF(登録商標)488の蛍光発色を目視により観察し易く、かつ蛍光発色の強度も十分強い。そのため、長径が360nm以下の微小なプラスチック粒子であっても、検出が容易となる。
【0054】
(ペプチドおよび蛍光色素の複合体)
ここで、図1を用いて、本発明のペプチドおよび本発明の蛍光色素の一例を簡潔に説明する。図1は、本発明のペプチドと本発明の蛍光色素との第2の複合体の一例を示す概略図である。図1に示すように、例えば、ビオチンを結合させた本発明のペプチド(プラスチック結合ペプチド)と、ストレプトアビジンとを結合させた本発明の蛍光色素を用いることで、ビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して、本発明のペプチドと本発明の蛍光色素との第2の複合体を形成することが可能である。ストレプトアビジンは4量体を形成する性質を有しているため、1つの「蛍光色素と結合したストレプトアビジン」に対して4つの「ペプチドに結合したビオチン」が結合して第2の複合体を形成する。1つの第2の複合体は、4つのペプチドを介してプラスチック粒子に結合することができるので、第2の複合体とプラスチック粒子との間の結合力が極めて高くなる。したがって、第2の複合体を用いれば、極めて高感度にてプラスチック粒子を検出することができる。
【0055】
ペプチドにビオチンを結合する方法は特に限定されない。例えば、ビオチンとペプチドとを直接結合させても間接的に結合させてもよい。ペプチドの構造をできるだけ正常に維持するという観点からは、ビオチンとペプチドとを間接的に結合させることが好ましいといえる。ビオチンとペプチドとを間接的に結合させる場合には、例えば、本発明のペプチドに任意のリンカーを連結した後に、ペプチドと連結したリンカーに対してビオチンを結合させればよい。
【0056】
リンカーは、ポリペプチドからなるリンカー(本明細書中では、「ペプチドリンカー」ともいう。)であってもよいし、ビオチンとペプチドとを連結することが可能な周知の架橋剤またはスペーサーアーム等であってもよい。
【0057】
ペプチドリンカーの場合、リンカーの長さおよびそれを構成するアミノ酸の種類は、当業者により適宜設定され得る。ペプチドリンカーの長さは、別段限定されるものではなく、通常、1~20個、好ましくは、1~10個(例えば、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個)のアミノ酸からなるリンカーが使用される。また、ペプチドリンカーに用いられるアミノ酸の種類も、別段限定されるものではないが、例えば、グリシン(G)、セリン(S)、スレオニン(T)等が使用され得る。とりわけ、GGS、GGGS(配列番号7)、GGGGS(配列番号8)等のペプチドリンカー、および、これらが複数回繰り返されたペプチドリンカー(例えば、GGGSGGGS(配列番号9)、GGGSGGGSGGGS(配列番号10)等)が好ましく用いられる。なお、上述の配列番号10に示すペプチドリンカーは、文献(WO2019/039179)に開示される配列である。
【0058】
リンカーにビオチンを結合する方法は特に限定されず、例えば、ペプチドリンカーのC末端側に、ポリエチレングリコール基を介して、リンカーにビオチンを結合させてもよい。
【0059】
前記「蛍光色素と結合したストレプトアビジン」は、例えば、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Streptavidin Cy3 Conjugate(Thermo Fisher Scientific社)等が挙げられる。また、ストレプトアビジンに、公知の蛍光標識試薬(例えば、ラベル化剤等)を添加することにより、ストレプトアビジンに本発明の蛍光色素を結合させてもよい。
【0060】
また、本発明のペプチドと本発明の蛍光色素との結合は、ビオチンおよびストレプトアビジンを介した結合に限られない。例えば、本発明のペプチドへ、公知の蛍光標識試薬(例えば、ラベル化剤等)を添加することにより、本発明のペプチドと本発明の蛍光色素とを直接結び付けるような結合等であってもよい。
【0061】
なお、上述の通り、極めて高感度にてプラスチック粒子を検出するという観点からは、本発明のペプチドと本発明の蛍光色素との結合は、4量体を形成する性質を有するストレプトアビジンと、ビオチンとを介した結合であることが好ましい。
【0062】
<1-2.工程>
(混合工程)
混合工程では、本発明のプラスチック粒子と、該プラスチック粒子に結合するペプチドと、前記ペプチドと結合する蛍光色素と、を混合し、前記プラスチック粒子と、前記ペプチドと、前記蛍光色素との、第1の複合体を形成させる。
【0063】
本工程において、本発明のプラスチック粒子と、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素とをそれぞれ添加して混合してよい。この場合、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素との第2の複合体は、本発明のプラスチック粒子の存在下で形成される。そして、本発明のプラスチック粒子と第2の複合体とが接触し、第1の複合体が形成される。または、本発明のプラスチック粒子と本発明のペプチドとが接触し、さらに本発明の蛍光色素が接触して、第2の複合体を経ずに第1の複合体が直接形成されてもよい。
【0064】
また、本工程において、まず本発明のペプチドと本発明の蛍光色素とを混合し、本発明のペプチドと本発明の蛍光色素との第2の複合体を含む標識用組成物を調製してもよい。その後、第2の複合体を含む標識用組成物と、本発明のプラスチック粒子とを混合する。この場合、本発明のプラスチック粒子と、第2の複合体とが接触して第1の複合体が形成される。
【0065】
本発明のプラスチック粒子と、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素とを混合する方法は特に限定されるものではないが、両者を効率よく接触させることができることから、液体中で、本発明のプラスチック粒子と、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素とを混合することが好ましい。
【0066】
前記「液体」としては、本発明のプラスチック粒子と、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素との結合を阻害または低下させたり、結合の特異性を低下させたりするものでない限り、特に限定されない。このような液体としては、例えば、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液およびトリス緩衝液等を挙げることができる。なお、検出対象が本発明のプラスチック粒子を含む海水等の液体であった場合、当該検出対象中に直接、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素とを添加して混合してもよい。
【0067】
本発明のプラスチック粒子と混合する本発明のペプチドの量は特に限定されるものではないが、本発明のプラスチック粒子以外の物質と非特異的な結合を生じ難く、かつ本発明のプラスチック粒子に対して十分に結合し得る量の本発明のペプチドを、本発明のプラスチック粒子に対して接触させることが好ましい。本発明のペプチドの量は、例えば、該ペプチドが含有された溶液の終濃度が、1μM以上となるような量であることが好ましく、5μMとなるような量であることがより好ましく、10μMとなるような量であることがより好ましく、15μMとなるような量であることがより好ましく、20μMとなるような量であることがより好ましい。また、プラスチック粒子以外の物質との非特異的な結合を防止するため、本発明のペプチドの量は、該ペプチドが含有された溶液の終濃度が、300μM以下となるような量であることが好ましく、290μM以下となるような量であることがより好ましく、280μM以下となるような量であることがより好ましく、270μM以下となるような量であることがより好ましく、260μM以下となるような量であることがより好ましく、250μM以下となるような量であることがより好ましく、240μM以下となるような量であることがより好ましく、230μM以下となるような量であることがより好ましく、220μM以下となるような量であることがより好ましく、210μM以下となるような量であることがより好ましく、200μM以下となるような量であることがより好ましく、190μM以下となるような量であることがより好ましく、180μM以下となるような量であることがより好ましく、170μM以下となるような量であることがより好ましく、160μM以下となるような量であることがより好ましく、150μM以下となるような量であることがより好ましく、140μM以下となるような量であることがより好ましく、130μM以下となるような量であることがより好ましく、120μM以下となるような量であることがより好ましく、110μM以下となるような量であることがより好ましく、100μM以下となるような量であることがより好ましい。
【0068】
また、本発明のプラスチック粒子および本発明のペプチドと混合する本発明の蛍光色素の量は特に限定されるものではないが、本発明のペプチド以外の物質と非特異的な結合を生じ難く、かつ本発明のペプチドに対して十分に結合し得る量の本発明の蛍光色素を、本発明のペプチドに対して接触させることが好ましい。そのため、本発明の蛍光色素の量は、本発明のペプチドの量に対して適切な量が、適宜決定されればよい。
【0069】
本発明のプラスチック粒子と、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素とを混合させる条件(例えば、温度、時間等)については、両者が充分に混合し第1の複合体を形成できる条件であれば特に限定されるものではなく、適宜検討の上、好ましい条件を採用すればよい。
【0070】
(検出工程)
検出工程では、前記混合工程において形成された、本発明のプラスチック粒子と、本発明のペプチドと、本発明の蛍光色素との第1の複合体を検出する。本工程において、蛍光顕微鏡等を用いて、第1の複合体を検出することができる。
【0071】
本工程では、第1の複合体が有している本発明の蛍光色素が発する蛍光を、蛍光顕微鏡等を用いて検出することによって、混合工程において本発明のペプチドに結合したプラスチック粒子を容易に検出することができる。すなわち、本工程において、蛍光顕微鏡下で蛍光発色が認められた物質は、該物質がプラスチック粒子であると判断できる。一方、蛍光顕微鏡下で蛍光発色が認められなかった物質は、該物質がプラスチック粒子でない(すなわち、プラスチック粒子でない)と判断できる。
【0072】
蛍光顕微鏡を用いた蛍光色素の検出方法については、特に限定されるものではなく、用いる蛍光色素に応じた検出方法(励起波長等)を適宜検討の上、好ましい条件を採用すればよい。本工程を行なうために用いられる蛍光顕微鏡の構成は特に制限されず、用いる蛍光色素に応じた検出方法(励起波長等)に応じて適宜決定される。
【0073】
また、本工程において用いられる、蛍光を検出するための方法は、蛍光顕微鏡に限られず、蛍光を検出できる公知の方法(蛍光マイクロプレートリーダー等)が用いられてよい。
【0074】
〔2.ナノプラスチック粒子の判別方法〕
本発明の一実施形態に係る、長径が360nm以下のプラスチック粒子の判別方法(以降、適宜「本発明の判別方法」という)は、上述した本発明の検出方法により検出されたプラスチック粒子が明視野の光学顕微鏡下で観察可能か否かにより、検出されたプラスチック粒子の長径が360nm以下であるか否かを判別する判別工程を含んでいてもよい。なお、本発明の判別方法は、該判別工程に加え、上述した本発明の検出方法に含まれる混合工程および検出工程を含む。判別工程は、該検出工程により検出されたプラスチック粒子に対して行われる。混合工程および検出工程については、〔1.プラスチック粒子の検出方法〕で説明しているため、説明を繰り返さない。
【0075】
例えば長径が360nm以下のプラスチック粒子のようなナノプラスチック粒子は、それよりも大きなマイクロプラスチック粒子等に比べ、粒子の長径が小さいために生体の細胞内に取り込まれやすい。それ故、生体内へナノプラスチック粒子が取り込まれた場合、該生体の各臓器へナノプラスチック粒子が入り込むことによる、生体への影響が懸念される。この点は、マイクロプラスチック粒子に比べて、ナノプラスチック粒子に対して特に懸念されている。前記構成によれば、マイクロプラスチック粒子に比べて、生体への影響がより大きなナノプラスチック粒子と、マイクロプラスチック粒子等の可視光においても視認できる長径を有するプラスチック粒子とを判別できる。判別工程により、検出対象中にナノプラスチック粒子が含まれているか否かを容易に判別できる。
【0076】
(判別工程)
判別工程の一例を、以下に簡潔に説明する。まず、上述の検出工程において、蛍光装置を備えた光学顕微鏡により、第1の複合体を検出する。このような顕微鏡として、明視野での分解能を最大限に確保する観点から、例えば位相差顕微鏡用コンデンサおよび蛍光装置を備えた光学顕微鏡(位相差蛍光顕微鏡)または両者を備えた偏光顕微鏡等を用いることが好ましい。暗視野での蛍光検出による第1の複合体の検出後、蛍光から明視野観察用の透過光へと、上述の顕微鏡の光路を切り換える。切り換え後、暗視野で蛍光発色が認められたが、明視野では視認できなかった物質は、長径360nm以下のプラスチック粒子であると判別できる。一方、暗視野で蛍光発色が認められ、かつ明視野でも視認された物質は、マイクロプラスチック粒子等の可視光においても視認できる長径を有するプラスチック粒子であると判別できる。
【0077】
判別工程は、上述の顕微鏡に限られず、明視野観察および蛍光観察が可能ないかなる光学顕微鏡を用いて行ってもよい。また、暗視野での蛍光発色および明視野での粒子の検出、並びに、暗視野および明視野での検出結果の比較は、目視に限られず、例えば一般的な画像解析プログラム等により行ってもよい。
【0078】
〔3.プラスチック粒子を検出するためのキット〕
本発明の一実施形態に係る、プラスチック粒子の検出キット(以降、「本発明のキット」と称する)は、本発明のペプチドおよび本発明の蛍光色素を含む、長径が360nm以下であり、かつ前記式(1)で示される構造を有するプラスチック粒子を検出する。〔1.プラスチック粒子の検出方法〕で説明した事項については、本実施形態においてこれを援用する。
【0079】
本発明のキットは、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ、スライドグラス等)を備えた包装物が意図される。本発明のキットは、それに含まれる各材料が独立して存在している形態であってもよく、複数の材料が混在している形態(例えば、組成物の形態)であってもよい。すなわち、本発明のキットに含まれる本発明のペプチドおよび本発明の蛍光色素は、予め混合された標識用組成物の状態で本発明のキットに含まれていてもよいし、それぞれが別体として含まれていてもよい。
【0080】
また本発明のキットは、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。本発明のキットの説明において使用される用語「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図され得る。
【0081】
また本発明のキットは、本発明の検出方法または本発明の判別方法を実施するための説明書を備えていてもよい。
【実施例
【0082】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
(プラスチック粒子の検出方法)
<A:混合工程>
ポリスチレン粒子に結合するペプチドとして、アミノ酸配列RIIIRRIRR(配列番号1)を含むペプチドを採用した。また、ポリプロピレン粒子に結合するペプチドとして、アミノ酸配列SMKYSHSTAPAL(配列番号5)を含むペプチドを採用した。上述の各配列のC末端側に、リンカーとなるアミノ酸配列GGGSGGGSGGGS(配列番号10)を付加し、さらにそのC末端側にビオチンを付加したペプチドを化学合成により作製した。
【0084】
前記合成ペプチドと、Cy3により蛍光標識されたストレプトアビジン(Streptavidin Cy3 Conjugate; Thermo Fisher Scientific社)とを、それぞれ終濃度が20μMと1μMとになるように、前記合成ペプチドと前記ストレプトアビジンとを、10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中に添加した。添加後に得られた溶液を室温で20分間穏やかに混合し、ビオチンとストレプトアビジンとの結合を促すことで、第2の複合体を含む標識用組成物を調製した。
【0085】
該標識用組成物を含む溶液を、0.01%(v/v)のTween 20(ナカライテスク社)を含むリン酸緩衝生理食塩水(ナカライテスク社)を用いて20倍希釈した。希釈後の前記溶液を、プラスチック粒子(ポリスチレン粒子またはポリプロピレン粒子)と室温(約28℃)下で20分間混合することにより、第1の複合体を含む溶液を得た。
【0086】
<B:検出工程>
第1の複合体を含む溶液をスライドガラス上に滴下した後、カバーガラスをスライドガラス上に載せ、蛍光顕微鏡BZ-9000(Keyence社)を用いて、蛍光観察を行った。なおこの際、用いた蛍光色素に合わせて適切な蛍光フィルターを使用して、蛍光観察を行った。
【0087】
<C:結果>
結果を図2から図5に示す。図2から図4は、ポリスチレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。図5は、ポリプロピレン粒子の、顕微鏡観察の結果を示す図である。なお、図2から図5の、符号1、3、5および7は明視野の像を示す。一方、図2から図5の、符号2、4、6および8は暗視野の像を示す。
【0088】
図2から図5に示す通り、暗視野では第1の複合体が蛍光発色により検出された。ここで、図2および図4に示されるポリスチレン粒子の長径は3000nm、図3に示されるポリスチレン粒子の長径は50nm、図5に示されるポリプロピレン粒子の長径は1000nm~3000nmであった。すなわち、明視野では可視光の波長360nmより短い長径のプラスチック粒子は検出できなかったが、暗視野では蛍光発色を検出することで、可視光の波長360nmよりも短い長径のプラスチック粒子を検出できた。
【0089】
[実施例2]
(ナノプラスチック粒子の判別方法)
実施例1の<A:混合工程>と同様の手順で、第2の複合体を含む標識用組成物を調製した。続いて、実施例1の<A:混合工程>と同様の手順で、該標識用組成物を含む溶液を希釈し、希釈後の溶液と、長径が3μmのポリスチレン粒子および50nmのポリスチレン粒子とを混合し、第1の複合体を含む溶液を得た。同様に、希釈後の溶液と長径が3μmのポリスチレン粒子とを混合し、第1の複合体を含む溶液を得た。また、比較例として、ポリスチレン粒子を含まない溶液を作製した。そして、実施例1の<B:検出工程>と同様の手順で、それぞれ蛍光観察を行った。
【0090】
結果を図6に示す。図6の符号13および14は、長径が3μmのポリスチレン粒子および50nmのポリスチレン粒子の顕微鏡観察の結果である。図6の符号9および10は、プラスチック粒子を含まない溶液の顕微鏡観察の結果であり、図6の符号11および12は、長径が3μmのポリスチレン粒子の顕微鏡観察の結果である。図6の符号9、11および13は、明視野の像を示し、図6の符号10、12および14は、暗視野の像を示す。
【0091】
図6の符号13および14に示す通り、明視野では3μmのポリスチレン粒子のみが検出されたが、暗視野では3μmのポリスチレン粒子および50nmのポリスチレン粒子の蛍光発色が検出された。図6の符号14で検出された50nmのポリスチレン粒子の蛍光発色は、図6の符号10および12では検出されなかったため、顕微鏡観察において検出されるノイズではないことが示された。したがって、明視野および暗視野での顕微鏡観察を行うことによって、マイクロプラスチック粒子とナノプラスチック粒子とを判別することができた。
【0092】
[実施例3]
(第2の複合体を用いたプラスチック粒子の検出方法の感度評価)
実施例1の<A:混合工程>と同様の手順で、アミノ酸配列RIIIRRIRR(配列番号1)を含むペプチドを用いた、第2の複合体を含む標識用組成物を調製した。さらに、実施例1の<A:混合工程>と同様の手順で、該標識用組成物を含む溶液を希釈し、ポリスチレン粒子と混合することにより、第1の複合体を含む溶液(標識用組成物サンプル)を得た。
【0093】
つづいて、アミノ酸配列RIIIRRIRR(配列番号1)のC末端側に、リンカーとなるアミノ酸配列GGGS(配列番号7)を付加し、さらにそのC末端側にシステイン残基を付加したペプチドを化学合成により作製した。13nmolの前記合成ペプチドと、製品マニュアルに従った量(バイアル1本分)のCy3 Maleimide Mono-reactive Dye(GE Healthcare社)とを、2.6mMのTris(2-carboxyethyl)phosphine hydrochloride(ナカライテスク社)を含むリン酸緩衝生理食塩水500μLに添加した。これにより、前記合成ペプチドのシステイン残基側鎖のチオール基をCy3で標識し、蛍光標識ペプチドを調製した。
【0094】
該蛍光標識ペプチドを含む溶液を、0.01%(v/v)のTween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水を用いて20倍希釈した。希釈後の前記溶液を、ポリスチレン粒子と室温(約28℃)下で20分間混合し、第1の複合体(蛍光標識サンプル)を含む溶液を得た。そして、実施例1の<B:検出工程>と同様の手順で、標識用組成物サンプルおよび蛍光標識サンプルの蛍光観察を行った。
【0095】
結果を図7に示す。図7の符号15および16は、標識用組成物サンプルの顕微鏡観察の結果である。図7の符号17および18は、蛍光標識サンプルの顕微鏡観察の結果である。図7の符号15および17は、明視野の像を示し、図7の符号16および18は、暗視野の像を示す。
【0096】
図7の符号16に示す通り、標識用組成物サンプルではポリスチレン粒子が明瞭な蛍光発色により検出された。一方、図7の符号18に示す通り、蛍光標識サンプルでは蛍光強度が、標識用組成物サンプルの蛍光強度よりも低いことが示された。これは、標識用組成物サンプルでは、第2の複合体が4つのペプチドを介してポリスチレン粒子に結合することができるため、第2の複合体はポリスチレン粒子に対する結合力が高くなり、高感度に検出できたと考えられる。
【0097】
このように、第2の複合体は、4量体を形成する性質を有するストレプトアビジンを含むことから、4つのペプチドを介してポリスチレン粒子に強固に結合できる。このような第2の複合体を用いることで、単に蛍光標識ペプチドを用いる場合と比較して、検出感度が極めて高くなることを実験的に確認したのは、本発明者らによる新規な知見である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、環境中に存在するナノプラスチック粒子の検出に利用することができる。また本発明は、プラスチック粒子の研究において広範囲に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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