(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 F
H01L21/78 Y
(21)【出願番号】P 2018092807
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-03-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】原田 成規
(72)【発明者】
【氏名】松澤 稔
(72)【発明者】
【氏名】木内 逸人
(72)【発明者】
【氏名】淀 良彰
(72)【発明者】
【氏名】荒川 太朗
(72)【発明者】
【氏名】上里 昌充
(72)【発明者】
【氏名】河村 慧美子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】宮井 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】大前 巻子
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】中野 浩昌
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-191297(JP,A)
【文献】特開2010-147343(JP,A)
【文献】特開2007-250598(JP,A)
【文献】特開2012-119670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイスが、分割予定ラインによって区画された表面の各領域に形成されたウェーハを個々のデバイスチップに分割するウェーハの加工方法であって、
ウェーハの裏面に糊層を備えないポリオレフィン系シートを配設するポリオレフィン系シート配設工程と、
該ポリオレフィン系シートを加熱し押圧して該ウェーハと、該ポリオレフィン系シートと、を熱圧着により一体化させる一体化工程と、
該一体化工程の前または後に、ウェーハを収容できる大きさの開口を有する内枠と、該内枠の外径に対応した径の開口を有する外枠と、で構成されるフレームを使用して、該内枠の外周壁と、該外枠の内周壁と、の間にポリオレフィン系シートの外周を挟持することでポリオレフィン系シートを該フレームで支持するフレーム支持工程と、
切削ブレードを回転可能に備えた切削装置を用いて該ウェーハを分割予定ラインに沿って切削して該ウェーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、
該ポリオレフィン系シートから個々のデバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、
を備え
、
該ポリオレフィン系シートは、加熱しなければ該ウェーハと一体化できないことを特徴とするウェーハの加工方法。
【請求項2】
該ピックアップ工程において、該ポリオレフィン系シートを拡張して各デバイスチップ間の間隔を広げ、該ポリオレフィン系シート側から該デバイスチップを突き上げることを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【請求項3】
該ポリオレフィン系シートは、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリスチレンシートのいずれかであることを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【請求項4】
該一体化工程において、該ポリオレフィン系シートが該ポリエチレンシートである場合に加熱温度は120℃~140℃であり、該ポリオレフィン系シートが該ポリプロピレンシートである場合に加熱温度は160℃~180℃であり、該ポリオレフィン系シートが該ポリスチレンシートである場合に加熱温度は220℃~240℃であることを特徴とする請求項3記載のウェーハの加工方法。
【請求項5】
該ウェーハは、Si、GaN、GaAs、ガラスのいずれかで構成されることを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画された表面の各領域に形成されたウェーハを個々のデバイスに分割するウェーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップの製造工程では、まず、半導体等の材料からなるウェーハの表面に複数の交差する分割予定ライン(ストリート)を設定する。そして、該分割予定ラインで区画される各領域にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスを形成する。
【0003】
その後、開口を有する環状のフレームに該開口を塞ぐように貼られたダイシングテープと呼ばれる粘着テープを該ウェーハの裏面に貼着し、ウェーハと、粘着テープと、環状のフレームと、が一体となったフレームユニットを形成する。そして、フレームユニットに含まれるウェーハを該分割予定ラインに沿って加工して分割すると、個々のデバイスチップが形成される。
【0004】
ウェーハの分割には、例えば、切削装置が使用される。切削装置は、粘着テープを介してウェーハを保持するチャックテーブル、ウェーハを切削する切削ユニット等を備える。切削ユニットは、円環状の砥石部を備える切削ブレードと、該切削ブレードの中央の貫通孔に突き通され切削ブレードを回転させるスピンドルと、を備える。
【0005】
ウェーハを切削する際には、チャックテーブルの上にフレームユニットを載せ、粘着テープを介してチャックテーブルにウェーハを保持させ、スピンドルを回転させることで切削ブレードを回転させ、切削ユニットを所定の高さ位置に下降させる。そして、チャックテーブルと、切削ユニットと、をチャックテーブルの上面に平行な方向に沿って相対移動させ分割予定ラインに沿って切削ブレードにウェーハを切削させる。すると、ウェーハが分割される。
【0006】
その後、切削装置からフレームユニットを搬出し、粘着テープに紫外線を照射する等の処理を施して粘着テープの粘着力を低下させ、デバイスチップをピックアップする。デバイスチップの生産効率が高い加工装置として、ウェーハの分割と、粘着テープへの紫外線の照射と、を一つの装置で連続して実施できる切削装置が知られている(特許文献1参照)。粘着テープ上からピックアップされたデバイスチップは、所定の配線基板等に実装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粘着テープは、基材層と、該基材層上に配設された糊層と、を含む。切削装置では、ウェーハを確実に分割するために、切削ブレードの下端がウェーハの下面よりも低い位置に達するように切削ユニットが所定の高さに位置付けられる。そのため、ウェーハを切削する切削ブレードは、粘着テープの糊層をも切削する。したがって、ウェーハの切削時には、ウェーハに由来する切削屑とともに糊層に由来する切削屑が発生する。
【0009】
ウェーハの切削時にはウェーハや切削ブレードに切削液が供給されるが、切削により発生した該切削屑が該切削液に取り込まれてウェーハの表面に拡散される。ここで、糊層に由来する切削屑はデバイスの表面に再付着しやすい上、その後のウェーハの洗浄工程等で除去するのも容易ではない。そのため、糊層に由来した切削屑が付着すると、デバイスチップの品質の低下が問題となる。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削屑がデバイスの表面に付着しにくく、デバイスチップの品質の低下が抑制されたウェーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、複数のデバイスが、分割予定ラインによって区画された表面の各領域に形成されたウェーハを個々のデバイスチップに分割するウェーハの加工方法であって、ウェーハの裏面に糊層を備えないポリオレフィン系シートを配設するポリオレフィン系シート配設工程と、該ポリオレフィン系シートを加熱し押圧して該ウェーハと、該ポリオレフィン系シートと、を熱圧着により一体化させる一体化工程と、該一体化工程の前または後に、ウェーハを収容できる大きさの開口を有する内枠と、該内枠の外径に対応した径の開口を有する外枠と、で構成されるフレームを使用して、該内枠の外周壁と、該外枠の内周壁と、の間にポリオレフィン系シートの外周を挟持することでポリオレフィン系シートを該フレームで支持するフレーム支持工程と、切削ブレードを回転可能に備えた切削装置を用いて該ウェーハを分割予定ラインに沿って切削して該ウェーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、該ポリオレフィン系シートから個々のデバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、を備え、該ポリオレフィン系シートは、加熱しなければ該ウェーハと一体化できないことを特徴とするウェーハの加工方法が提供される。
【0012】
また、好ましくは、該ピックアップ工程において、該ポリオレフィン系シートを拡張して各デバイスチップ間の間隔を広げ、該ポリオレフィン系シート側から該デバイスチップを突き上げる。
【0013】
また、好ましくは、該ポリオレフィン系シートは、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリスチレンシートのいずれかである。
【0014】
さらに、好ましくは、該一体化工程において、該ポリオレフィン系シートが該ポリエチレンシートである場合に加熱温度は120℃~140℃であり、該ポリオレフィン系シートが該ポリプロピレンシートである場合に加熱温度は160℃~180℃であり、該ポリオレフィン系シートが該ポリスチレンシートである場合に加熱温度は220℃~240℃である。
【0015】
また、好ましくは、該ウェーハは、Si、GaN、GaAs、ガラスのいずれかで構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法では、フレームユニットに糊層を有する粘着テープを使用せず、糊層を備えないポリオレフィン系シートを用いてフレームと、ウェーハと、を一体化する。ポリオレフィン系シートと、ウェーハと、を一体化させる一体化工程は、加熱及び押圧により実現される。
【0017】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法では、ウェーハを収容できる大きさの開口を有する内枠と、該内枠の外径に対応した径の開口を有する外枠と、で構成されるフレームが使用される。そして、フレーム支持工程において、該外枠の該開口内に該内枠を挿入し、このとき、該内枠の外周壁と、該外枠の内周壁と、の間にポリオレフィン系シートを挟むことで該ポリオレフィン系シートをフレームで支持できる。
【0018】
すなわち、ポリオレフィン系シートが糊層を備えていなくても、該一体化工程及びフレーム支持工程を実施することで、ウェーハと、ポリオレフィン系シートと、フレームと、を一体化させてフレームユニットを形成できる。
【0019】
その後、切削ブレードによりウェーハを切削してウェーハを個々のデバイスチップに分割し、ポリオレフィン系シートからデバイスチップをピックアップする。ピックアップされたデバイスチップは、それぞれ、所定の実装対象に実装される。
【0020】
ウェーハを切削する際、ウェーハの下のポリオレフィン系シートにも切削ブレードが切り込むため、ポリオレフィン系シートに由来する切削屑が発生する。しかし、ポリオレフィン系シートは糊層を備えないため、該切削屑が切削水に取り込まれてウェーハの表面上に拡散されても該切削屑は比較的ウェーハに接着しにくい。また、ウェーハに切削屑が付着しても、その後の洗浄工程等により容易に除去される。
【0021】
すなわち、本発明の一態様によると、糊層を備えないポリオレフィン系シートを用いたフレームユニットの形成が可能となり、ウェーハの切削時に粘着力の高い切削屑が発生せず、該切削屑によるデバイスチップの品質低下が抑制される。
【0022】
したがって、本発明の一態様によると、切削屑がデバイスの表面に付着しにくく、デバイスチップの品質の低下が抑制されたウェーハの加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】チャックテーブルの保持面上にウェーハを位置付ける様子を模式的に示す斜視図である。
【
図3】ポリオレフィン系シート配設工程を模式的に示す斜視図である。
【
図4】一体化工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)は、フレーム支持工程を模式的に示す斜視図であり、
図5(B)は、形成されたフレームユニットを模式的に示す斜視図である。
【
図7】ピックアップ装置へのフレームユニットの搬入を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8(A)は、フレーム支持台の上に固定されたフレームユニットを模式的に示す断面図であり、
図8(B)は、ピックアップ工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る加工方法で加工されるウェーハについて説明する。
図1は、ウェーハ1を模式的に示す斜視図である。ウェーハ1は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(窒化ガリウム)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。
【0025】
ウェーハ1の表面1aは格子状に配列された複数の分割予定ライン3で区画される。また、ウェーハ1の表面1aの分割予定ライン3で区画された各領域にはIC(Integrated Circuit)やLED(Light Emitting Diode)等のデバイス5が形成される。本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、ウェーハ1を分割予定ライン3に沿って切削して分割することで、個々のデバイスチップを形成する。
【0026】
ウェーハ1は、切削装置で切削される。ウェーハ1を該切削装置に搬入する前に、ウェーハ1と、ポリオレフィン系シートと、フレームと、が一体化され、フレームユニットが形成される。ウェーハ1は、フレームユニットの状態で切削装置に搬入され、切削される。形成された個々のデバイスチップはポリオレフィン系シートに支持される。その後、ポリオレフィン系シートを拡張することでデバイスチップ間の間隔を広げ、ピックアップ装置によりデバイスチップをピックアップする。
【0027】
環状のフレーム7(
図5(A)等参照)は、例えば、金属等の材料で形成され、ウェーハ1を収容できる大きさの開口を有する内枠7cと、該内枠7cの外径に対応した径の開口を有する外枠7aと、の2つの部材で構成される。内枠7cと、外枠7aと、は略同一の高さを備える。
【0028】
ポリオレフィン系シート9(
図3等参照)は、柔軟性を有する樹脂系シートであり、表裏面が平坦である。そして、フレーム7の内枠7cの外径よりも大きい径を有し、糊層を備えない。ポリオレフィン系シート9は、アルケンをモノマーとして合成されるポリマーのシートであり、例えば、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、または、ポリスチレンシート等の可視光に対して透明または半透明なシートである。ただし、ポリオレフィン系シート9はこれに限定されず、不透明でもよい。
【0029】
ポリオレフィン系シート9は、粘着性を備えないため室温ではウェーハ1に貼着できない。しかしながら、ポリオレフィン系シート9は熱可塑性を有するため、所定の圧力を印加し押圧しながらウェーハ1と接合させた状態で融点近傍の温度まで加熱すると、部分的に溶融してウェーハ1に接着できる。
【0030】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、加熱及び押圧によりウェーハ1の裏面1b側にポリオレフィン系シート9を接着し、ポリオレフィン系シート9の外周部を内枠7cの外周壁7eと、該外枠7aの内周壁7bと、の間に挟持してフレームユニットを形成する。
【0031】
次に、本実施形態に係るウェーハ1の加工方法の各工程について説明する。まず、ウェーハ1と、ポリオレフィン系シート9と、を一体化させる準備のために、ポリオレフィン系シート配設工程を実施する。
図2は、チャックテーブル2の保持面2a上にウェーハ1を位置付ける様子を模式的に示す斜視図である。
図2に示す通り、ポリオレフィン系シート配設工程は、上部に保持面2aを備えるチャックテーブル2上で実施される。
【0032】
チャックテーブル2は、上部中央にウェーハ1の外径よりも大きな径の多孔質部材を備える。該多孔質部材の上面は、チャックテーブル2の保持面2aとなる。チャックテーブル2は、
図3に示す如く一端が該多孔質部材に通じた排気路を内部に有し、該排気路の他端側には吸引源2bが配設される。排気路には、連通状態と、切断状態と、を切り替える切り替え部2cが配設され、切り替え部2cが連通状態であると保持面2aに置かれた被保持物に吸引源2bにより生じた負圧が作用し、被保持物がチャックテーブル2に吸引保持される。
【0033】
ポリオレフィン系シート配設工程では、まず、
図2に示す通り、チャックテーブル2の保持面2a上にウェーハ1を載せる。この際、ウェーハ1の表面1a側を下方に向ける。次に、ウェーハ1の裏面1b上にポリオレフィン系シート9を配設する。
図3は、ポリオレフィン系シート配設工程を模式的に示す斜視図である。
図3に示す通り、ウェーハ1を覆うようにウェーハ1の上にポリオレフィン系シート9を配設する。
【0034】
なお、ポリオレフィン系シート配設工程では、ポリオレフィン系シート9の径よりも小さい径の保持面2aを備えるチャックテーブル2が使用される。後に実施される一体化工程でチャックテーブル2による負圧をポリオレフィン系シート9に作用させる際に、保持面2aの全体がポリオレフィン系シート9により覆われていなければ、負圧が隙間から漏れてしまい、ポリオレフィン系シート9に適切に圧力を印加できないためである。
【0035】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、次に、ポリオレフィン系シート9を加熱し押圧してウェーハ1と、該ポリオレフィン系シート9と、を一体化する一体化工程を実施する。
図4は、一体化工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図4では、可視光に対して透明または半透明であるポリオレフィン系シート9を通して視認できるものを破線で示す。
【0036】
一体化工程では、まず、チャックテーブル2の切り替え部2cを作動させて連通状態とし吸引源2bをチャックテーブル2の上部の多孔質部材に接続し、吸引源2bによる負圧をポリオレフィン系シート9に作用させる。すると、大気圧によりポリオレフィン系シート9がウェーハ1に対して密着する。
【0037】
次に、吸引源2bによりポリオレフィン系シート9を吸引しながらポリオレフィン系シート9を加熱し押圧する。ポリオレフィン系シート9の加熱及び押圧は、例えば、所定の温度に加熱された部材でウェーハ1を上方から押圧することで実施する。一体化工程では、例えば、内部に熱源を備えるヒートローラー4を使用する。
【0038】
ヒートローラー4を所定の温度に加熱して、チャックテーブル2の保持面2aの一端に該ヒートローラー4を載せる。そして、ヒートローラー4を回転させ、該一端から他端にまでチャックテーブル2上でヒートローラー4を転がす。すると、ポリオレフィン系シート9がウェーハ1に熱圧着される。この際、ヒートローラー4によりポリオレフィン系シート9を押し下げる方向に力を印加すると、大気圧より大きい圧力で熱圧着が実施される。尚、ヒートローラー4の表面をフッ素樹脂で被覆することが好ましい。
【0039】
また、内部に熱源を備え、平たい底板を有するアイロン状の押圧部材をヒートローラー4に代えて使用してポリオレフィン系シート9の加熱及び押圧を実施してもよい。この場合、該押圧部材を所定の温度に加熱して熱板とし、チャックテーブル2に保持されたポリオレフィン系シート9を該押圧部材で上方から押圧する。
【0040】
ポリオレフィン系シート9を熱圧着した後は、切り替え部2cを作動させてチャックテーブル2の多孔質部材を吸引源2bから切り離し、チャックテーブル2による吸着を解除する。
【0041】
なお、熱圧着を実施する際にポリオレフィン系シート9は、好ましくは、その融点以下の温度に加熱される。加熱温度が融点を超えると、ポリオレフィン系シート9が溶解してシートの形状を維持できなくなる場合があるためである。また、ポリオレフィン系シート9は、好ましくは、その軟化点以上の温度に加熱される。加熱温度が軟化点に達していなければ熱圧着を適切に実施できないためである。すなわち、ポリオレフィン系シート9は、その軟化点以上でかつその融点以下の温度に加熱されるのが好ましい。
【0042】
さらに、一部のポリオレフィン系シート9は、明確な軟化点を有しない場合もある。そこで、熱圧着を実施する際にポリオレフィン系シート9は、好ましくは、その融点よりも20℃低い温度以上でかつその融点以下の温度に加熱される。
【0043】
また、例えば、ポリオレフィン系シート9がポリエチレンシートである場合、加熱温度は120℃~140℃とされる。また、該ポリオレフィン系シート9がポリプロピレンシートである場合、加熱温度は160℃~180℃とされる。さらに、ポリオレフィン系シート9がポリスチレンシートである場合、加熱温度は220℃~240℃とされる。
【0044】
ここで、加熱温度とは、一体化工程を実施する際のポリオレフィン系シート9の温度をいう。例えば、ヒートローラー4等の熱源では出力温度を設定できる機種が実用に供されているが、該熱源を使用してポリオレフィン系シート9を加熱しても、ポリオレフィン系シート9の温度が設定された該出力温度にまで達しない場合もある。そこで、ポリオレフィン系シート9を所定の温度に加熱するために、熱源の出力温度をポリオレフィン系シート9の融点よりも高く設定してもよい。
【0045】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、該一体化工程の前または後に、ポリオレフィン系シート9をフレーム7で支持するフレーム支持工程を実施する。
図5(A)は、フレーム支持工程を模式的に示す斜視図である。フレーム支持工程では、フレーム7の内枠7cの外周壁7eと、フレーム7の外枠7aの内周壁7bと、の間にポリオレフィン系シート9の外周を挟持することでポリオレフィン系シート9を該フレーム7で支持する。
【0046】
まず、内枠7cの上にポリオレフィン系シート9を載せる。この際、内枠7cの上面のすべての領域がポリオレフィン系シート9に覆われるようにポリオレフィン系シート9の位置を決める。次に、外枠7aをポリオレフィン系シート9の上方に載せる。この際、内枠7cの外周壁7eと、外枠7aの内周壁7bと、が概略重なるように外枠7aの位置を決める。
【0047】
その後、ポリオレフィン系シート9の上方に載る外枠7aを下方に押し下げ、外枠7aの開口中に内枠7cを収容させる。このとき、ポリオレフィン系シート9の外周部は外枠7aにより折り曲げられ、内枠7cの外周壁7eと、外枠7aの内周壁7bと、の間に挟持される。すると、
図5(B)に示す通り、ウェーハ1と、ポリオレフィン系シート9と、フレーム7と、が一体となったフレームユニット11が形成される。該フレームユニット11では、フレーム7の内枠7cの上面の上にポリオレフィン系シート9が配される。
【0048】
なお、一体化工程の後にフレーム支持工程を実施する場合について説明したが、本実施形態に係るウェーハの加工方法はこれに限定されない。例えば、フレーム支持工程の後に一体化工程を実施してもよい。この場合、一体化工程における加熱によりポリオレフィン系シート9のフレーム7の内枠7c及び外枠7aの間に挟まれた部分が内枠7cの外周壁7eと、外枠7aの内周壁7bと、に接着されて、ポリオレフィン系シート9がより強い力でフレーム7に支持される。
【0049】
また、フレーム7の内枠7cの上にポリオレフィン系シート9を配し、その上に外枠7aを配してフレーム支持工程を実施する場合について説明したが、本実施形態に係るウェーハの加工方法では、内枠7cと、外枠7aと、を入れ替えてもよい。
【0050】
すなわち、外枠7aの上にポリオレフィン系シート9を配し、その上に内枠7cを配し、内枠7cを上から押圧して外枠7aの開口に内枠7c収容させてもよい。この場合、形成されるフレームユニットでは、内枠7cの下面にポリオレフィン系シート9が接し、内枠7cの内周壁7dで囲まれた開口内にウェーハ1が配される。
【0051】
次に、本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、フレームユニット11の状態となったウェーハ1を切削ブレードで切削して分割する分割工程を実施する。分割工程は、例えば、
図6に示す切削装置で実施される。
図6は、分割工程を模式的に示す斜視図である。
【0052】
切削装置6は、被加工物を切削する切削ユニット8と、被加工物を保持するチャックテーブル(不図示)と、を備える。切削ユニット8は、円環状の砥石部を備える切削ブレード12と、該切削ブレード12の中央の貫通孔に先端側が突き通され切削ブレード12を回転させるスピンドル(不図示)と、を備える。切削ブレード12は、例えば、中央に該貫通孔を備える環状基台と、該環状基台の外周部に配設された環状の砥石部と、を備える。
【0053】
該スピンドルの基端側は、スピンドルハウジング10の内部に収容されたスピンドルモータ(不図示)に接続されており、スピンドルモータを作動させると切削ブレード12を回転できる。
【0054】
切削ブレード12により被加工物を切削すると、切削ブレード12と、被加工物と、の摩擦により熱が発生する。また、被加工物が切削されると被加工物から切削屑が発生する。そこで、切削により生じた熱及び切削屑を除去するため、被加工物を切削する間、切削ブレード12及び被加工物に純水等の切削水が供給される。切削ユニット8は、例えば、切削ブレード12等に切削水を供給する切削水供給ノズル14を切削ブレード12の側方に備える。
【0055】
ウェーハ1を切削する際には、チャックテーブルの上にフレームユニット11を載せ、ポリオレフィン系シート9を介してチャックテーブルにウェーハ1を保持させる。そして、チャックテーブルを回転させウェーハ1の分割予定ライン3を切削装置6の加工送り方向に合わせる。また、分割予定ライン3の延長線の上方に切削ブレード12が配設されるように、チャックテーブル及び切削ユニット8の相対位置を調整する。
【0056】
次に、スピンドルを回転させることで切削ブレード12を回転させる。そして、切削ユニット8を所定の高さ位置に下降させ、チャックテーブルと、切削ユニット8と、をチャックテーブルの上面に平行な方向に沿って相対移動させる。すると、回転する切削ブレード12の砥石部がウェーハ1に接触しウェーハ1が切削され、分割予定ライン3に沿った切削痕3aがウェーハ1及びポリオレフィン系シート9に形成される。
【0057】
一つの分割予定ライン3に沿って切削を実施した後、チャックテーブル及び切削ユニット8を加工送り方向とは垂直な割り出し送り方向に移動させ、他の分割予定ライン3に沿って同様にウェーハ1の切削を実施する。一つの方向に沿った全ての分割予定ライン3に沿って切削を実施した後、チャックテーブルを保持面に垂直な軸の回りに回転させ、同様に他の方向に沿った分割予定ライン3に沿ってウェーハ1を切削する。ウェーハ1のすべての分割予定ライン3に沿ってウェーハ1を切削すると、分割ステップが完了する。
【0058】
切削装置6は、切削ユニット8の近傍に洗浄ユニット(不図示)を備えてもよい。切削ユニット8により切削されたウェーハ1は、該洗浄ユニットに搬送され、該洗浄ユニットにより洗浄されてもよい。例えば、洗浄ユニットはフレームユニット11を保持する洗浄テーブルと、フレームユニット11の上方を往復移動できる洗浄水供給ノズルと、を備える。
【0059】
洗浄テーブルを保持面に垂直な軸の回りに回転させ、洗浄水供給ノズルから純水等の洗浄液をウェーハ1に供給しながら、洗浄水供給ノズルを該保持面の中央の上方を通る経路で往復移動させると、ウェーハ1の表面1a側を洗浄できる。
【0060】
分割ステップを実施すると、ウェーハ1は個々のデバイスチップに分割される。形成されたデバイスチップは、ポリオレフィン系シート9に支持される。ウェーハ1を切削する際は、ウェーハ1を確実に分割するために、切削ブレード12の下端の高さ位置がウェーハ1の裏面1bよりも低い高さ位置となるように切削ユニット8が所定の高さに位置付けられる。そのため、ウェーハ1を切削すると、ポリオレフィン系シート9も切削され、ポリオレフィン系シート9に由来する切削屑が発生する。
【0061】
フレームユニット11にポリオレフィン系シート9ではなく粘着テープを使用する場合、粘着テープの糊層に由来する切削屑が発生する。この場合、切削水供給ノズル14から噴射される切削水に該切削屑が取り込まれ、ウェーハ1の表面1a上に拡散される。糊層に由来する切削屑はデバイス5の表面に再付着しやすい上、切削後に実施されるウェーハ1の洗浄工程等で除去するのも容易ではない。糊層に由来した切削屑が付着すると、形成されるデバイスチップの品質の低下が問題となる。
【0062】
これに対して、本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、フレームユニット11に糊層を備えた粘着テープではなく、糊層を備えないポリオレフィン系シート9を使用する。ポリオレフィン系シート9に由来する切削屑が発生し、切削水に取り込まれてウェーハの表面上に拡散されても、該切削屑は比較的ウェーハ1に接着しにくい。また、ウェーハ1に切削屑が付着しても、その後の洗浄工程等により容易に除去される。したがって、該切削屑によるデバイスチップの品質低下が抑制される。
【0063】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、次に、ポリオレフィン系シート9から個々の該デバイスチップをピックアップするピックアップ工程を実施する。ピックアップ工程では、
図7下部に示すピックアップ装置16を使用する。
図7は、ピックアップ装置16へのフレームユニット11の搬入を模式的に示す斜視図である。
【0064】
ピックアップ装置16は、ウェーハ1の径よりも大きい径を有する円筒状のドラム18と、フレーム支持台22を含むフレーム保持ユニット20と、を備える。フレーム保持ユニット20のフレーム支持台22は、該ドラム18の径よりも大きい径の開口を備え、該ドラム18の上端部と同様の高さに配設され、該ドラム18の上端部を外周側から囲む。さらに、フレーム支持台22は、フレームユニット11のフレーム7を構成する内枠7cの開口の径に対応する大きさの外径を備える。
【0065】
また、フレーム支持台22の外周壁には、例えば、複数の吸引孔22aが設けられる。フレーム支持台22は、該フレーム支持台22の外周側に位置付けられたフレーム7の内枠7cに該吸引孔22aを通じて負圧を作用できる。フレーム支持台22の上にフレームユニット11を載せ、フレーム7の内枠7cに負圧を作用させると、フレームユニット11がフレーム支持台22に固定される。
【0066】
フレーム支持台22は、鉛直方向に沿って伸長する複数のロッド24により支持され、各ロッド24の下端部には、該ロッド24を昇降させるエアシリンダ26が配設される。複数のエアシリンダ26は、円板状のベース28に支持される。各エアシリンダ26を作動させると、フレーム支持台22がドラム18に対して引き下げられる。
【0067】
ドラム18の内部には、ポリオレフィン系シート9に支持されたデバイスチップを下方から突き上げる突き上げ機構30が配設される。また、ドラム18の上方には、デバイスチップを吸引保持できるコレット32(
図8(B)参照)が配設される。突き上げ機構30及びコレット32は、フレーム支持台22の上面に沿った水平方向に移動可能である。また、コレット32は、切り替え部32b(
図8(B)参照)を介して吸引源32a(
図8(B)参照)に接続される。
【0068】
ピックアップ工程では、まず、ピックアップ装置16のドラム18の上端の高さと、フレーム支持台22の上面の高さと、が一致するように、エアシリンダ26を作動させてフレーム支持台22の高さを調節する。次に、切削装置6から搬出されたフレームユニット11をピックアップ装置16のドラム18の上に載せる。このとき、フレーム7の内枠7cの開口にフレーム支持台22を挿入させ、該内枠7cの内周壁7dをフレーム支持台22の外周壁に対面させる。
【0069】
その後、フレーム支持台22の吸引孔22aからフレーム7の内枠7cに負圧を作用させてフレーム支持台22の上にフレームユニット11のフレーム7を固定する。
図8(A)は、フレーム支持台22の上に固定されたフレームユニット11を模式的に示す断面図である。ウェーハ1には、分割ステップにより切削痕3aが形成され分割されている。
【0070】
次に、エアシリンダ26を作動させてフレーム保持ユニット20のフレーム支持台22をドラム18に対して引き下げる。すると、
図8(B)に示す通り、ポリオレフィン系シート9が外周方向に拡張される。
図8(B)は、ピックアップ工程を模式的に示す断面図である。
【0071】
ポリオレフィン系シート9が外周方向に拡張されると、ポリオレフィン系シート9に支持された各デバイスチップ1cの間隔が広げられる。すると、デバイスチップ1c同士が接触しにくくなり、個々のデバイチップ1cのピックアップが容易となる。そして、ピックアップの対象となるデバイスチップ1cを決め、該デバイスチップ1cの下方に突き上げ機構30を移動させ、該デバイスチップ1cの上方にコレット32を移動させる。
【0072】
その後、突き上げ機構30を作動させてポリオレフィン系シート9側から該デバイスチップ1cを突き上げる。そして、切り替え部32bを作動させてコレット32を吸引源32aに連通させる。すると、コレット32により該デバイスチップ1cが吸引保持され、デバイスチップ1cがポリオレフィン系シート9からピックアップされる。ピックアップされた個々のデバイスチップ1cは、その後、所定の配線基板等に実装されて使用される。
【0073】
以上に説明する通り、本実施形態に係るウェーハの加工方法によると、粘着テープを使用することなくウェーハ1を含むフレームユニット11を形成できる。そのため、ウェーハ1を切削しても粘着テープの糊層に由来する切削屑が発生せず、該切削屑がデバイスチップ1cに付着することもない。そのため、デバイスチップ1cの品質を低下させることがない。
【0074】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、ポリオレフィン系シート9が、例えば、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、または、ポリスチレンシートである場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、ポリオレフィン系シートは、他の材料が使用されてもよく、プロピレンとエチレンとのコポリマーや、オレフィン系エラストマー等でもよい。
【0075】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0076】
1 ウェーハ
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン
3a 切削痕
5 デバイス
7 フレーム
7a 外枠
7b,7d 内周壁
7c 内枠
7e 外周壁
9 ポリオレフィン系シート
11 フレームユニット
2 チャックテーブル
2a 保持面
2b,32a 吸引源
2c,32b 切り替え部
4 ヒートローラー
6 切削装置
8 切削ユニット
10 スピンドルハウジング
12 切削ブレード
14 切削水供給ノズル
16 ピックアップ装置
18 ドラム
20 フレーム保持ユニット
22 フレーム支持台
22a 吸引孔
24 ロッド
26 エアシリンダ
28 ベース
30 突き上げ機構
32 コレット