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特許7479204ベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20240426BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 L
F28D15/04 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020098035
(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公開番号】P2021188888
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢吾
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003957(WO,A1)
【文献】特開2020-051689(JP,A)
【文献】特開2016-188734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0040726(US,A1)
【文献】特開2019-207076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0295486(US,A1)
【文献】特開2001-091172(JP,A)
【文献】特開2017-083042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属シートと第2金属シートとの間に形成される内部空間に作動流体を有するベーパーチャンバであって、
前記第1金属シートは、凹部流路と、少なくとも1つ以上の突出部と、少なくとも1つ以上の流路溝とを備えており、
前記凹部流路は、前記第1金属シートの内面に設けられており、
前記突出部は、前記第1金属シートの内面から前記第2金属シートの内面に向かって突出しており、かつ前記突出部の頂面が前記第2金属シートの前記内面に当接しており、
前記流路溝は、底面溝部、側面溝部、および頂面溝部を有しており、
前記底面溝部は、前記凹部流路の底面に設けられており、
前記側面溝部は、前記突出部の側面に設けられ、かつ前記底面溝部に連結されており、
前記頂面溝部は、前記突出部の前記頂面に設けられ、かつ前記側面溝部に連結されている、ことを特徴とするベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記流路溝は、溝幅wよりも溝深さdが長い、請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記第1金属シートの前記凹部流路におけるシート厚みt1に対する、前記第1金属シートの前記突出部におけるシート厚みt2の比(t2/t1)は、0.1以上10.0以下である、請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記第1金属シートは、前記流路溝を複数備えており、かつ前記複数の流路溝が交差する交差部を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のベーパーチャンバの製造方法であって、
前記第1金属シートの前記流路溝のうち、少なくとも前記側面溝部をレーザーで形成するレーザー加工工程を有することを特徴とするベーパーチャンバの製造方法。
【請求項6】
前記レーザー加工工程において、前記流路溝をレーザーで形成する、請求項5に記載のベーパーチャンバの製造方法。
【請求項7】
前記レーザー加工工程の前に、前記第1金属シートの前記凹部流路および前記突出部をプレス成形で形成するプレス加工工程をさらに有する、請求項5または6に記載のベーパーチャンバの製造方法。
【請求項8】
前記レーザー加工工程の後に、前記第1金属シートと前記第2金属シートとをレーザーで溶接するレーザー溶接工程をさらに有する、請求項5~7のいずれか1項に記載のベーパーチャンバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電気・電子機器に搭載されている半導体素子などの電子部品は、高性能化に伴う高密度搭載などによって、発熱量が増大する傾向にある。電気・電子機器を長時間にわたって正常に駆動するためには、電子部品を効率よく冷却する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1金属シートと第2金属シートとを備え、第1金属シートが第1流路凹部、第1底面溝および第1流路突出部を有するベーパーチャンバが記載されている。特許文献1のベーパーチャンバでは、第1底面溝は、第1底面溝の長手方向に沿って見たときに、第1底面溝の幅方向の一側において第1底面溝に隣り合う第1流路突出部と、他側において第1底面溝に隣り合う第1流路突出部との間のギャップよりも小さい幅を有している。
【0004】
特許文献1のベーパーチャンバは、所定の関係を有する第1底面溝および第1流路突出部によって熱輸送効率の向上を図っている。しかしながら、近年増大している電気・電子機器における冷却性能の要求に対しては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-128208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、優れた熱輸送特性を有するベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 第1金属シートと第2金属シートとの間に形成される内部空間に作動流体を有するベーパーチャンバであって、前記第1金属シートは、凹部流路と、少なくとも1つ以上の突出部と、少なくとも1つ以上の流路溝とを備えており、前記凹部流路は、前記第1金属シートの内面に設けられており、前記突出部は、前記第1金属シートの内面から前記第2金属シートの内面に向かって突出しており、かつ前記突出部の頂面が前記第2金属シートの前記内面に当接しており、前記流路溝は、底面溝部、側面溝部、および頂面溝部を有しており、前記底面溝部は、前記凹部流路の底面に設けられており、前記側面溝部は、前記突出部の側面に設けられ、かつ前記底面溝部に連結されており、前記頂面溝部は、前記突出部の前記頂面に設けられ、かつ前記側面溝部に連結されている、ことを特徴とするベーパーチャンバ。
[2] 前記流路溝は、溝幅wよりも溝深さdが長い、上記[1]に記載のベーパーチャンバ。
[3] 前記第1金属シートの前記凹部流路におけるシート厚みt1に対する、前記第1金属シートの前記突出部におけるシート厚みt2の比(t2/t1)は、0.1以上10.0以下である、上記[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[4] 前記第1金属シートは、前記流路溝を複数備えており、かつ前記複数の流路溝が交差する交差部を有する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[5] 上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバの製造方法であって、前記第1金属シートの前記流路溝のうち、少なくとも前記側面溝部をレーザーで形成するレーザー加工工程を有することを特徴とするベーパーチャンバの製造方法。
[6] 前記レーザー加工工程において、前記流路溝をレーザーで形成する、上記[5]に記載のベーパーチャンバの製造方法。
[7] 前記レーザー加工工程の前に、前記第1金属シートの前記凹部流路および前記突出部をプレス成形で形成するプレス加工工程をさらに有する、上記[5]または[6]に記載のベーパーチャンバの製造方法。
[8] 前記レーザー加工工程の後に、前記第1金属シートと前記第2金属シートとをレーザーで溶接するレーザー溶接工程をさらに有する、上記[5]~[7]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、優れた熱輸送特性を有するベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態のベーパーチャンバの一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、図1のB-B線断面図である。
図4図4は、図1のC-C線断面図である。
図5図5は、実施形態のベーパーチャンバの他の例を示す斜視図である。
図6図6は、実施形態のベーパーチャンバの他の例を示す斜視図である。
図7図7は、図6のA-A線断面図である。
図8図8は、図6のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、液相の作動流体の流れの乱れを抑制することによって、ベーパーチャンバ内の液相および気相の作業流体を効率的に循環させて、熱輸送特性の向上を図った。
【0012】
実施形態のベーパーチャンバは、第1金属シートと第2金属シートとの間に形成される内部空間に作動流体を有するベーパーチャンバであって、前記第1金属シートは、凹部流路と、少なくとも1つ以上の突出部と、少なくとも1つ以上の流路溝とを備えており、前記凹部流路は、前記第1金属シートの内面に設けられており、前記突出部は、前記第1金属シートの内面から前記第2金属シートの内面に向かって突出しており、かつ前記突出部の頂面が前記第2金属シートの前記内面に当接しており、前記流路溝は、底面溝部、側面溝部、および頂面溝部を有しており、前記底面溝部は、前記凹部流路の底面に設けられており、前記側面溝部は、前記突出部の側面に設けられ、かつ前記底面溝部に連結されており、前記頂面溝部は、前記突出部の前記頂面に設けられ、かつ前記側面溝部に連結されている。
【0013】
図1は、実施形態のベーパーチャンバの一例を示す斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図4は、図1のC-C線断面図である。図1では、便宜上、ベーパーチャンバの内部構造がわかるように部分的に透過した状態を示している。また、図1では、液相の作動流体F(L)の流れる方向を黒塗り矢印で示し、気相の作動流体F(G)の流れる方向を白抜き矢印で示している。
【0014】
図1~4に示すように、実施形態のベーパーチャンバ1は、第1金属シート10および第2金属シート20を有する。第1金属シート10の内面10aおよび第2金属シート20の内面20aが対向するように、第1金属シート10および第2金属シート20が接合される。すなわち、第1金属シート10および第2金属シート20は内部が閉じられている。また、ベーパーチャンバ1は、第1金属シート10および第2金属シート20の間に形成される内部空間Sに作動流体を有する。内部空間Sは、第1金属シート10および第2金属シート20によって密閉されている。ベーパーチャンバ1の内部に設けられる内部空間Sには、作動流体が封入されている。
【0015】
内部空間Sに封入されている作動流体は、ベーパーチャンバ1の冷却性能の観点から、純水、エタノール、メタノール、アセトンなどが挙げられる。
【0016】
ベーパーチャンバ1を構成する第1金属シート10は、凹部流路11と、少なくとも1つ以上の突出部12と、少なくとも1つ以上の流路溝13とを備える。
【0017】
図1に示すように、凹部流路11は、第1金属シート10の内面10aに設けられている。内面10a側に設けられる凹部流路11は、第1金属シート10の外縁10cから内面10aの中央に亘って凹んでいる。例えば、凹部流路は、内部空間Sから突出部12および流路溝13を除く空間である。凹部流路11には、主に気相の作動流体が流れる。
【0018】
突出部12は、第1金属シート10の内面10aから第2金属シート20の内面20aに向かって突出する。突出部12の頂面12aは、第2金属シート20の内面20aに当接する。
【0019】
突出部12の頂面12aが第2金属シート20の内面20aに当接できる限りにおいて、突出部12の形状は特に限定されるものではない。また、第1金属シート10が複数の突出部12を備える場合、突出部12の形状は、全て同じでもよいし、異なってもよい。ここでは、全ての突出部12が円柱状である例を示している。
【0020】
流路溝13は、底面溝部14と側面溝部15と頂面溝部16とを有する。
【0021】
図1および図4に示すように、流路溝13を構成する底面溝部14は、凹部流路11の底面11aに設けられる。また、図1に示すように、流路溝13を構成する側面溝部15は、突出部12の側面12bに設けられ、かつ底面溝部14に連結されている。また、図1~3に示すように、流路溝13を構成する頂面溝部16は、突出部12の頂面12aに設けられ、かつ側面溝部15に連結されている。流路溝13には、液相の作動流体が流れる。
【0022】
突出部12の側面12bに設けられる側面溝部15は、側面12bの底面側から頂面側まで、全長に亘って延在する。このように、突出部12の高さ方向に延在する側面溝部15は、第1金属シート10の内面10aから第2金属シート20の内面20aまで、内部空間Sにおけるベーパーチャンバ1の厚み方向の全長に亘って延在する。また、側面溝部15の底面側端部は、底面溝部14に連結される。側面溝部15の頂面側端部は、頂面溝部16に連結される。
【0023】
流路溝13の溝幅wは、凹部流路11の幅に比べて非常に小さい。凹部流路11の最短幅は、隣接する突出部12の最短距離、または突出部12と第1金属シート10の外縁10cとの最短距離である。
【0024】
流路溝13の溝深さdは、凹部流路11の深さに比べて非常に小さい。凹部流路11の深さは、外縁10cの内面10aから凹部流路の底面までの距離である。
【0025】
液相の作動流体は、矢印F(L)で示すように、流路溝13を伝って流れる。ベーパーチャンバ1の厚み方向に亘って延在する側面溝部15、ならびに側面溝部15に連結される底面溝部14および頂面溝部16を有する流路溝13が内部空間Sに設けられると、底面溝部14および頂面溝部16によって、ベーパーチャンバ1の面内方向に沿って流れる液相の作動流体の流れの乱れが抑制されることに加えて、側面溝部15によって、ベーパーチャンバ1の厚み方向に沿って流れる液相の作動流体の流れの乱れが抑制されて、液相の作動流体がベーパーチャンバ1の厚み方向にも良好に流れる。ベーパーチャンバ1の厚み方向にも液相の作動流体が良好に流れると、液相の作動流体が蒸発部41に存在しない状態、いわゆるドライアウトを抑制でき、液相および気相の作動流体の循環の流れが良好になり、内部空間S内での熱輸送が向上する。そのため、ベーパーチャンバ1は優れた熱輸送特性を有することができる。
【0026】
さらに、流路溝13が内部空間Sに設けられると、作動流体は、ベーパーチャンバ1の厚み方向およびベーパーチャンバ1の厚み方向と垂直な方向である面内方向に沿って、良好に流れる。例えば図1に示すベーパーチャンバ1が紙面上で90度傾く状態や上下反対になる状態など、ベーパーチャンバ1がどのような姿勢であっても、凝縮部42で気相から液相になった作動流体は蒸発部41に容易に戻る。このように、ベーパーチャンバ1の配置状態に依存せずに、液相および気相の作動流体の循環の流れが良好であるため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性は優れている。
【0027】
さらに、流路溝13が内部空間Sに設けられると、内部空間Sにおける作動流体の蒸発面積が増えて、作動流体の蒸発量が増加する。その結果、内部空間S内での熱輸送量が向上するため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性は増加する。
【0028】
また、図1に示すように、底面溝部14について、側面溝部15と連結する端部(底面溝部の側面溝部側端部ともいう)と異なる端部同士が互いに連結されることが好ましい。底面溝部14の側面溝部15側端部と異なる端部同士が連結されると、隣り合う底面溝部14同士が連結される。第1金属シート10の内面10aに沿った液相の作動流体の流れが向上する。そのため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性が向上する。
【0029】
また、図1に示すように、頂面溝部16について、側面溝部15と連結する端部(頂面溝部の側面溝部側端部ともいう)と異なる端部同士が互いに連結されることが好ましい。頂面溝部16の側面溝部15側端部と異なる端部同士が連結されると、隣り合う頂面溝部16同士が連結される。第2金属シート20の内面20aに沿った液相の作動流体の流れが向上する。そのため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性が向上する。
【0030】
また、流路溝13は、溝幅wよりも溝深さdが長いことが好ましい。流路溝13の溝深さdが流路溝13の溝幅wよりも長いと、液相の作動流体に対する流路溝13の毛細管現象が発揮されやすくなる。液相の作動流体は、流路溝13の毛細管現象によって、流路溝13内を良好に流れる。そのため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性はさらに向上する。
【0031】
また、流路溝13の溝幅wは、好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下である。流路溝13の溝深さdと溝幅wは、好ましくはd/wが2.0以上20.0以下である。流路溝13の溝幅wや溝深さdが上記下限値以上であると、流路溝13を容易に形成できる。流路溝13の溝幅wや溝深さdが上記上限値以下であると、流路溝13の毛細管現象が作動流体に作用しやすい。
【0032】
また、第1金属シート10が複数の流路溝13を備える場合、複数の流路溝13は、互いに平行に延在することが好ましい。複数の流路溝13が平行に延在する場合、隣り合う流路溝13の溝間隔pは、好ましくは40μm以上400μm以下、より好ましくは100μm以上200μm以下である。流路溝13の溝間隔pは、隣り合う流路溝13の溝幅の中心線間の距離である。流路溝13の溝間隔pが40μm以上であると、流路溝13を容易に形成できる。流路溝13の溝間隔pが400μm以下であると、内部空間S内を作動流体が良好に流れるため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性が向上する。また、溝間隔pは溝幅wより50μm以上100μm以下大きいことが好ましい。溝間隔pおよび溝幅wがこのような関係であると、流路溝13を容易に形成できる。また単位面積あたりの流路溝内の作動流体量が多く保てるため、作動流体が消失するドライアウトが発生しにくくなり、ベーパーチャンバ1の熱輸送量性能が向上する。
【0033】
また、流路溝13を構成する底面溝部14の溝幅wは、好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下である。底面溝部14の溝深さdと溝幅wは、好ましくはd/wが2.0以上20.0以下である。底面溝部14の溝幅wや溝深さdが上記下限値以上であると、底面溝部14を容易に形成できる。底面溝部14の溝幅wや溝深さdが上記上限値以下であると、底面溝部14の毛細管現象が作動流体にさらに作用しやすい。
【0034】
また、側面溝部15の溝幅wは、好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下である。側面溝部15の溝深さdと溝幅wは、好ましくはd/wが2.0以上20.0μm以下である。側面溝部15の溝幅wや溝深さdが上記下限値以上であると、側面溝部15を容易に形成できる。側面溝部15の溝幅wや溝深さdが上記上限値以下であると、側面溝部15の毛細管現象が作動流体にさらに作用しやすい。
【0035】
また、頂面溝部16の溝幅wは、好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下である。頂面溝部16の溝深さdと溝幅wは、好ましくはd/wが2.0以上20.0μm以下である。頂面溝部16の溝幅wや溝深さdが上記下限値以上であると、頂面溝部16を容易に形成できる。頂面溝部16の溝幅wや溝深さdが上記上限値以下であると、頂面溝部16の毛細管現象が作動流体にさらに作用しやすい。
【0036】
このようなベーパーチャンバ1の熱輸送特性を向上する流路溝13の形成、特に上記所定の溝幅w、溝深さ、溝間隔pを有する流路溝13や側面溝部15の形成には、レーザーを用いた加工が好ましく、その中でもファイバレーザーを用いた加工がより好ましい。レーザーによる加工では、側面溝部15を含む流路溝13を所望の形状に短時間で形成することができる。一方で、従来のベーパーチャンバで採用されているエッチング液を用いたエッチング加工では、流路溝13の形状の制御が困難、側面溝部15の形成自体が困難など、レーザー加工に比べて加工性が非常に低い。
【0037】
また、第1金属シート10および第2金属シート20を構成する材料は、高い熱伝導率やレーザーによる加工容易性などの観点から、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼が好ましい。その中でも、軽量化を図る目的のためには、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましく、機械的強度を高める目的のためには、ステンレス鋼がより好ましい。また、使用環境に応じて、第1金属シート10および第2金属シート20には、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などを使用してもよい。
【0038】
また、図2図4に示すように、第1金属シート10の凹部流路11におけるシート厚みt1に対する、第1金属シート10の突出部12におけるシート厚みt2の比(t2/t1)は、好ましくは0.1以上10.0以下、より好ましくは0.2以上5.0以下、さらに好ましくは0.5以上2.0以下、最も好ましくは1.0、すなわち凹部流路11におけるシート厚みt1と突出部12におけるシート厚みt2とが同じである。比(t2/t1)が上記範囲内であると、第1金属シート10のシート厚みのばらつきが抑制されるため、ベーパーチャンバ1を軽量化することができる。このような所定の比(t2/t1)を有する第1金属シート10の形成には、プレス成形による加工が好適である。
【0039】
また、第1金属シート10は、図1に示すように、流路溝13を複数備えており、かつ複数の流路溝13が交差する交差部17を有することが好ましい。複数の流路溝13が交差する状態としては、図1に示すように、複数の流路溝13が直角に交差してもよいし、複数の流路溝13が直角以外の角度で交差してもよい。交差部17は、複数の底面溝部14が交差することによって構成されてもよいし、複数の側面溝部15が交差することによって構成されてもよいし、図1に示すように複数の頂面溝部16が交差することによって構成されてもよい。複数の底面溝部14で構成される交差部17は、凹部流路11の底面11aに設けられる。複数の側面溝部15で構成される交差部17は、突出部12の側面12bに設けられる。複数の頂面溝部16で構成される交差部17は、突出部12の頂面12aに設けられる。
【0040】
第1金属シート10が交差部17を有すると、流路溝13の毛細管現象に加えて交差部17の毛細管現象が作用流体に作用し、内部空間S内での熱輸送がさらに向上する。そのため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性がさらに向上する。
【0041】
また、図1および図4に示すように、第2金属シート20の外面20bに発熱体30を装着すると、第2金属シート20の内面20aにおける発熱体30の背面の位置が凝縮部42となり、液相の作動流体が底面溝部14から側面溝部15を介して頂面溝部16に良好に流れる。液相および気相の作動流体の循環がさらに向上するため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性はさらに向上する。発熱体30は、例えば半導体素子など、稼動中に熱を発生する電子部品のような部材である。
【0042】
また、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性の向上の観点から、頂面溝部16を備える突出部12は蒸発部41を除く位置に配置されることが好ましい。
【0043】
ベーパーチャンバ1は、主に以下の冷却経路によって発熱体30を冷却する。
【0044】
まず、第2金属シート20の外面20bと熱的に接続される発熱体30で発生した熱は、第2金属シート20の内面20aに位置する蒸発部41に伝達される。蒸発部41は、発熱体30から受けた熱によって、頂面溝部16を流れている液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる。蒸発によって加熱された気相の作動流体は、矢印F(G)で示すように、蒸発部41から離れた位置の凝縮部42に流れる。気相の作動流体が凝縮部42に向かって流れる過程で、作動流体の温度が低下する。凝縮部42では、温度の低下した気相の作動流体が凝縮されて液相の作動流体に相変化する。相変化で生じる潜熱は、第1金属シート10や第2金属シート20に伝達されて、ベーパーチャンバ1の外部に放出される。凝縮された液相の作動流体は、矢印F(L)で示すように、底面溝部14に沿って、ベーパーチャンバ1の面内方向に良好に流れる。底面溝部14を流れる液相の作動流体が側面溝部15に伝わると、液相の作動流体は側面溝部15に沿ってベーパーチャンバ1の厚み方向に良好に流れる。ベーパーチャンバ1の厚み方向に流れる液相の作動流体は、頂面溝部16を介して、再び蒸発部41に戻る。このような液相および気相の作動流体の良好な循環によって、ベーパーチャンバ1は発熱体30を冷却できる。
【0045】
次に、上記のベーパーチャンバ1の製造方法について説明する。
【0046】
ベーパーチャンバ1の製造方法は、第1金属シート10の流路溝13のうち、少なくとも側面溝部15をレーザーで形成するレーザー加工工程を有する。レーザー加工工程では、ファイバレーザーで側面溝部15を形成することが好ましい。レーザー加工では、側面溝部15を所望の形状に加工制御しやすく、側面溝部15を短時間で形成できる。さらに、レーザーの中でも、ファイバレーザーは、加工制御および短時間加工がさらに優れている。一方で、従来のベーパーチャンバで採用されているエッチング液を用いたエッチング加工では、側面溝部15の形成自体が困難である。
【0047】
また、レーザー加工工程において、流路溝13をレーザーで形成することが好ましい。すなわち、流路溝13を構成する底面溝部14、側面溝部15および頂面溝部16をレーザーで形成することが好ましい。レーザーを用いると、側面溝部15を含む流路溝13を所望の形状に短時間で形成できる。一方、従来のエッチング加工では、側面溝部15を含む流路溝13を所望の形状に加工制御することが困難である。
【0048】
また、ベーパーチャンバ1の製造方法は、レーザー加工工程の前に、第1金属シート10の凹部流路11および突出部12をプレス成形で形成するプレス加工工程をさらに有することが好ましい。第1金属シート10をプレス成形することによって、凹部流路11および突出部12を容易に形成できる。
【0049】
また、ベーパーチャンバ1の製造方法は、レーザー加工工程の後に、第1金属シート10と第2金属シート20とをレーザーで溶接するレーザー溶接工程をさらに有することが好ましい。第1金属シート10および第2金属シート20をレーザーで溶接することによって、内部空間Sを内部に備えるベーパーチャンバ1を容易に製造できる。
【0050】
具体的には、凹部流路11、突出部12、流路溝13などを備える第1金属シート10の内面10aと第2金属シート20の内面20aとが互いに対向し、第1金属シート10の外縁10cと金属シート20の内面20aとが接触している状態の第1金属シート10および第2金属シート20に対して、レーザーを照射する。例えば、第1金属シート10側から第1金属シート10および第2金属シート20の接触部分にレーザーを照射してもよいし、第2金属シート20側から第1金属シート10および第2金属シート20の接触部分にレーザーを照射してもよいし、ベーパーチャンバ1の面内方向から第1金属シート10および第2金属シート20の接触部分にレーザーを照射してもよし、これらレーザーの照射を組み合わせてもよい。
【0051】
また、上記のベーパーチャンバ1は、様々な姿勢であっても良好な熱輸送特性を求められている、携帯電話などの電子機器に好適に用いられる。ベーパーチャンバ1を備える電子機器は、様々な使用状態であっても、ベーパーチャンバ1の高い熱輸送特性を有する。
【0052】
以上説明した実施形態によれば、ベーパーチャンバの内部空間内の液相の作動流体は、流路溝に沿ってベーパーチャンバの厚み方向にも良好に流れる。液相の作動流体の流れの乱れが抑制されるので、液相および気相の作動流体の循環の流れが向上し、ベーパーチャンバの内部空間内での熱輸送が増加する。そのため、ベーパーチャンバは優れた熱輸送特性を有することができる。
【0053】
なお、上記では、図1に示すように第2金属シート20の外面20bに発熱体30を装着する例について示したが、発熱体30は第1金属シート10の外面10bに装着してもよい。
【0054】
また、上記では、第2金属シート20の内面20aが平面である例について示したが、第1金属シート10に加えて、第2金属シート20の内面20aについても、底面溝部14を有してもよい。第2金属シート20が底面溝部14を有すると、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性はさらに向上する。
【0055】
また、上記では、第2金属シート20の内面20aが平面である例について示したが、第2金属シート20の内面20aは、第1金属シート10の内面10aと同様に、凹部流路、少なくとも1つ以上の突出部および少なくとも1つ以上の流路溝のいずれかの構成を有してもよい。第2金属シート20が凹部流路、少なくとも1つ以上の突出部または少なくとも1つ以上の流路溝を有すると、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性はさらに向上する。
【0056】
また、上記では、図1に示すように突出部12が円柱形である例について示したが、突出部12の形状は、頂面12aが第2金属シート20の内面20aに当接できればよい。例えば、突出部12の形状は、図5に示すように四角柱形でもよい。
【0057】
また、上記では、図1~4に示すように、第1金属シート10のシート厚みの均一性が高い例について示したが、図6~8に示すように、第1金属シート10の突出部12におけるシート厚みが凹部流路11におけるシート厚みよりも明確に大きくてもよい。この場合、底面溝部14は、突出部12の一部に進入してもよく、好ましくは図示するように突出部12を貫通する。底面溝部14が突出部12の一部に進入するまたは突出部12を貫通すると、液相の作動流体がさらに良好に流れるため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性はさらに向上する。
【0058】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 ベーパーチャンバ
10 第1金属シート
10a 第1金属シートの内面
10b 第1金属シートの外面
10c 第1金属シートの外縁
11 凹部流路
11a 凹部流路の底面
12 突出部
12a 突出部の頂面
12b 突出部の側面
13 流路溝
14 底面溝部
15 側面溝部
16 頂面溝部
17 交差部
20 第2金属シート
20a 第2金属シートの内面
20b 第2金属シートの外面
30 発熱体
41 蒸発部
42 凝縮部
S 内部空間
F(L) 液相の作動流体の流れ
F(G) 気相の作動流体の流れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8