(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】ケーブル端末構造およびその形成方法
(51)【国際特許分類】
H02G 15/064 20060101AFI20240426BHJP
H02G 15/02 20060101ALI20240426BHJP
H01R 4/70 20060101ALI20240426BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20240426BHJP
H01R 4/18 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
H02G15/064
H02G15/02
H01R4/70 L
H01R43/048 Z
H01R4/18 A
(21)【出願番号】P 2021207411
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000117010
【氏名又は名称】古河電工パワーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】飯島 晃一
(72)【発明者】
【氏名】平野 順士
(72)【発明者】
【氏名】関野 基一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158263(JP,A)
【文献】特開2001-327028(JP,A)
【文献】特開2013-005617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/064
H02G 15/02
H01R 4/70
H01R 43/048
H01R 4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体、前記導体を被覆する絶縁層、および前記絶縁層を被覆する外部半導電層を少なくとも有する電力ケーブルと、前記電力ケーブルの端側から、前記導体、前記絶縁層および前記外部半導電層が順に露出するように皮剥ぎして形成した前記電力ケーブルの端部を構成する前記導体の皮剥部分に接続される接続部を有する端子と、前記外部半導電層の皮剥部分から前記端子の前記接続部までの範囲を少なくとも被覆する、絶縁材料からなる筒状の絶縁被覆部材と、を有し、前記絶縁被覆部材が、少なくとも前記外部半導電層の皮剥部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部と、少なくとも前記電界緩和部の外面から前記端子の前記接続部の外面までのケーブル部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮と、を有し、前記電界緩和部の弾性収縮力は、前記絶縁外皮の弾性収縮力よりも大きいケーブル端末構造の形成方法であって、
前記電力ケーブルの端側から、前記導体、前記絶縁層および前記外部半導電層が順に露出するように皮剥ぎして、前記電力ケーブルの端部に、前記導体、前記絶縁層および前記外部半導電層のそれぞれの皮剥部分を形成する剥離工程と、
前記弾性収縮力を有する電界緩和材料を、前記電力ケーブルの端部の外面に沿って、挿入する際に生じる挿入反発力よりも大きな挿入力を作用させながら移動させることによって、少なくとも前記外部半導電層の皮剥部分を、前記電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部を弾性収縮させて密着被覆する電界緩和部被覆工程と、
前記電力ケーブルの端部を構成する前記導体の皮剥部分に、接続部を有する端子を接続する端子接続工程と、
前記弾性収縮力を有する絶縁材料を、挿入する際の挿入反発力がほとんど生じないように予め拡径方向に弾性変形させて拡径状態にしてから、前記電力ケーブルの端部の外面に沿って、小さな挿入力を作用させながら移動させた後に、前記拡径状態を解除することによって、少なくとも前記電界緩和部の外面から前記端子の前記接続部の外面までのケーブル部分を、前記絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮を弾性収縮させて密着被覆する絶縁外皮被覆工程と、
を有する、ケーブル端末構造の形成方法。
【請求項2】
前記絶縁外皮被覆工程の前に、少なくとも前記絶縁層および前記端子の外面に、絶縁テープを巻回する絶縁テープ巻回工程をさらに有する、請求項
1に記載のケーブル端末構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル端末構造およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧電力ケーブルなどの電力ケーブルの端末部は、端末部の耐電圧特性を向上させるために、電界集中などが生じないような端末処理を施す必要がある。このようケーブル端末構造として、テープ巻きを用いたものや、ストレスコーンを用いたもの、高誘電率層を用いたものを挙げることができる。
【0003】
このうち、テープ巻きを用いた電力ケーブルの端末構造として、例えば、ケーブル終端部を段剥ぎしてケーブル導体、絶縁層、外部半導電層および遮蔽層をそれぞれ露出させ、該露出部上に、半導電テープ及び絶縁テープを用いてストレスコーン部並びに保護層を形成するものが知られている。
【0004】
また、ストレスコーンを用いた電力ケーブルの端末構造として、例えば特許文献1には、ストレスコーン内蔵型常温収縮チューブを差込式端末として用いたケーブル端末部が記載されている。より具体的には、ケーブル終端部を段剥ぎしてケーブル導体、絶縁層、外部半導電層及び遮蔽層をそれぞれ露出させ、露出部上を絶縁性の常温収縮型チューブで被覆した端末構造が記載されており、このうち、常温収縮型チューブは、その一部を厚肉とし、該厚肉部に半導電層の立上り部を内蔵させたストレスコーン部と、一端が該半導電層立上り部の立上り端に連設され内周壁の長手方向に所定長露出した半導電層を有する導電部とを備え、導電部の半導電層が段剥ぎされたケーブルの外部半導電層及び遮蔽層に当接するように、ストレスコーン部の半導電層の立上り部が絶縁層上に位置するものが記載されている。
【0005】
また、高誘電率層を用いた電力ケーブルの端末構造として、例えば特許文献2には、高誘電率テープまたは高誘電率チューブで形成された電界緩和層と、圧縮端子と、接地金具とを取り付けたケーブル端末部に対して、端末本体を所定の位置に固定し、端末本体の拡径状態を解除して収縮させることで組み立てられる端末構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-333357号公報
【文献】特開2017-184322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、テープ巻きを用いて形成した電力ケーブルの端末構造は、テープ巻き作業が必要になるため、多くの作業時間を必要とするものであり、さらに、高品質に仕上げるには作業者の熟練が必要であった。
【0008】
また、特許文献1に記載されるような、ストレスコーン内蔵型常温収縮チューブを差込式端末として用いた電力ケーブルの端末構造でも、依然として多くのテープ巻き作業が必要になるとともに、ケーブル終端部を段剥ぎする部分が長く、また、差込式端末をケーブル終端部の全長に端子側から挿入するために力作業を必要とし、多くの作業時間を必要としていた。
【0009】
また、特許文献2に記載されるような、高誘電率層を用いた電力ケーブルの端末構造では、電界緩和層を高誘電率テープで構成した場合は高品質に仕上げるために作業者の熟練が必要であり、他方で、電界緩和層を高誘電率チューブで構成した場合は、電界緩和層と電力ケーブルの外部半導電層との間に空隙が生じやすい問題点があった。
【0010】
本発明は、作業者の熟練を必要とすることなく、簡便に電界緩和部と絶縁外皮を装着することが可能であり、かつ電界緩和部と電力ケーブルの外部半導電層との間に空隙が生じ難い、ケーブル端末構造およびその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電力ケーブルの外部半導電層の皮剥部分から端子の接続部までの範囲を少なくとも被覆する絶縁被覆部材として、少なくとも外部半導電層の皮剥部分に密着して被覆する電界緩和部と、少なくとも電界緩和部の外面から端子の接続部の外面までのケーブル部分に密着して被覆する絶縁外皮を有することで、作業者の熟練を必要とすることなく、簡便に電界緩和部と絶縁外皮を装着することが可能になり、かつ、電界緩和部の弾性収縮力を、絶縁外皮の弾性収縮力よりも大きくすることで、電界緩和部と電力ケーブルの外部半導電層との間に空隙が生じ難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)導体、前記導体を被覆する絶縁層、および前記絶縁層を被覆する外部半導電層を少なくとも有する電力ケーブルと、前記電力ケーブルの端側から、前記導体、前記絶縁層および前記外部半導電層が順に露出するように皮剥ぎして形成した前記電力ケーブルの端部を構成する前記導体の皮剥部分に接続される接続部を有する端子と、前記外部半導電層の皮剥部分から前記端子の前記接続部までの範囲を少なくとも被覆する、絶縁材料からなる筒状の絶縁被覆部材と、を有するケーブル端末構造であって、前記絶縁被覆部材が、少なくとも前記外部半導電層の皮剥部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部と、少なくとも前記電界緩和部の外面から前記端子の前記接続部の外面までのケーブル部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮とを有し、前記電界緩和部の弾性収縮力は、前記絶縁外皮の弾性収縮力よりも大きい、ケーブル端末構造。
【0013】
(2)前記絶縁外皮の内面側に位置し、前記端子の前記接続部の外面から前記絶縁層の皮剥部分の外面に到達する範囲にかけて防水テープを巻き付けて形成した防水層をさらに有する、上記(1)に記載のケーブル端末構造。
【0014】
(3)前記絶縁外皮は、前記電界緩和部の外面と一体に形成される筒状の第1絶縁外皮部と、前記第1絶縁外皮部以外の前記絶縁外皮の部分である第2絶縁外皮部とが別体として構成される、上記(1)または(2)に記載のケーブル端末構造。
【0015】
(4)前記絶縁外皮は、前記電界緩和部の外面に密着して被覆する筒状の第1絶縁外皮部と、前記第1絶縁外皮部以外の前記絶縁外皮の部分である第2絶縁外皮部とが一体として構成される、上記(1)または(2)に記載のケーブル端末構造。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のケーブル端末構造の形成方法であって、導体、前記導体を被覆する絶縁層、および前記絶縁層を被覆する外部半導電層を少なくとも有する電力ケーブルの端側から、前記導体、前記絶縁層および前記外部半導電層が順に露出するように皮剥ぎして、前記電力ケーブルの端部に、前記導体、前記絶縁層および前記外部半導電層のそれぞれの皮剥部分を形成する剥離工程と、弾性収縮力を有する電界緩和材料を、前記電力ケーブルの端部の外面に沿って、挿入する際に生じる挿入反発力よりも大きな挿入力を作用させながら移動させることによって、少なくとも前記外部半導電層の皮剥部分を、前記電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部を弾性収縮させて密着被覆する電界緩和部被覆工程と、前記電力ケーブルの端部を構成する前記導体の皮剥部分に、接続部を有する端子を接続する端子接続工程と、弾性収縮力を有する絶縁材料を、挿入する際の挿入反発力がほとんど生じないように予め拡径方向に弾性変形させて拡径状態にしてから、前記電力ケーブルの端部の外面に沿って、小さな挿入力を作用させながら移動させた後に、前記拡径状態を解除することによって、少なくとも前記電界緩和部の外面から前記端子の前記接続部の外面までのケーブル部分を、前記絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮を弾性収縮させて密着被覆する絶縁外皮被覆工程と、を有する、ケーブル端末構造の形成方法。
【0017】
(6)前記絶縁外皮被覆工程の前に、少なくとも前記絶縁層および前記端子の外面に、絶縁テープを巻回する絶縁テープ巻回工程をさらに有する、上記(5)に記載のケーブル端末構造の形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業者の熟練を必要とすることなく、簡便に電界緩和部と絶縁外皮を装着することが可能であり、かつ電界緩和部と電力ケーブルの外部半導電層との間に空隙が生じ難い、ケーブル端末構造およびその形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係るケーブル端末構造の構成の一例を示すものであって、
図1(a)が正面図、
図1(b)が
図1(a)のI-I断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態に係る、端子の接続部の外面から絶縁層の皮剥部分の外面に到達する範囲に防水テープを設けない態様の、ケーブル端末構造の構成の一例を示すものであって、
図2(a)が正面図、
図2(b)が
図2(a)のII-II断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の実施形態に係る、絶縁外皮の第1絶縁外皮部33と第2絶縁外皮部34とが一体として構成されている態様の、ケーブル端末構造の構成の一例を示すものであって、
図3(a)が正面図、
図3(b)が
図3(a)のIII-III断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に従う一の実施形態のケーブル端末構造の形成方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明に従う一の実施形態のケーブル端末構造の形成方法において、ケーブル端末構造を形成する際のケーブル端末の端部の状態を示す図であって、
図5(a)が剥離工程における皮剥ぎ後の電力ケーブルの端部を示す図、
図5(b)および(c)が電界緩和部被覆工程において外部半導電層の皮剥部分の外周面を電界緩和部で被覆する状態を示す図、
図5(d)が端子接続工程において導体の皮剥部分に端子を接続する状態を示す図、
図5(e)が絶縁外皮被覆工程において絶縁外皮で電界緩和部の外面から端子の接続部の外面までのケーブル部分を被覆する状態を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明に従う一の実施形態のケーブル端末構造の形成方法において、絶縁外皮収縮工程において絶縁外皮を収縮させる前後の状態を示す図であって、
図6(a)が収縮前の状態を示す図、
図6(b)が収縮後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
<ケーブル端末構造の実施形態について>
図1は、本発明の一の実施形態に係るケーブル端末構造の構成の一例を示すものであって、
図1(a)が正面図、
図1(b)が
図1(a)のI-I断面図である。
【0022】
ケーブル端末構造1は、
図1に示すように、導体11、導体11を被覆する絶縁層12、および絶縁層12を被覆する外部半導電層13を少なくとも有する電力ケーブル10と、電力ケーブル10の端側から、導体11、絶縁層12および外部半導電層13が順に露出するように皮剥ぎして形成した電力ケーブル10の端部10aを構成する導体11の皮剥部分に接続される接続部21を有する端子2と、外部半導電層13の皮剥部分から端子2の接続部21までの範囲を少なくとも被覆する、絶縁材料からなる筒状の絶縁被覆部材3と、を有する。このケーブル端末構造1は、絶縁被覆部材3が、少なくとも外部半導電層13の皮剥部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部31と、少なくとも電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮32とを有し、電界緩和部31の弾性収縮力は、絶縁外皮32の弾性収縮力よりも大きい。
【0023】
図1に示すように、絶縁被覆部材3として、少なくとも外部半導電層13の皮剥部分に密着して被覆する電界緩和部31と、少なくとも電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分に密着して被覆する絶縁外皮32を有することで、テープ巻きを要することなく、電界緩和部31を有する絶縁被覆部材3を電力ケーブル10の端部10aに設けることが可能になるため、作業者の熟練を必要とすることなく、簡便に電界緩和部と絶縁外皮を装着することが可能になる。
【0024】
また、電界緩和部31の弾性収縮力を、絶縁外皮32の弾性収縮力よりも大きくなるように構成することで、端子2を設ける前に、弾性収縮力が大きい電界緩和部31を、電力ケーブル10の所定位置に被覆することが可能になることで、電界緩和部31による電力ケーブル10の外部半導電層13への密着力を向上させることができる。その結果、電界緩和部31と外部半導電層13との間に空隙が生じ難くなる。
【0025】
さらに、電界緩和部31の弾性収縮力を、絶縁外皮32の弾性収縮力よりも大きくなるように構成することで、弾性収縮力が小さい絶縁外皮32を用いて電力ケーブル10の端部10aを被覆して収縮させることで、電力ケーブル10の端部10aに対して余裕を持った大きさに拡径した絶縁外皮32で電力ケーブル10の端部10aを被覆することが可能になるため、絶縁外皮32をより簡便に装着することが可能になる。
【0026】
したがって、本実施形態のケーブル端末構造1によることで、作業者の熟練を必要とすることなく、簡便に電界緩和部31と絶縁外皮32を装着することが可能であり、かつ電界緩和部31と電力ケーブル10の外部半導電層13との間に空隙が生じ難いケーブル端末構造を提供することができる。
【0027】
本実施形態のケーブル端末構造1は、
図1に示すように、電力ケーブル10と、端子2と、絶縁被覆部材3とを有する。
【0028】
(電力ケーブル)
電力ケーブル10は、導体11、導体11を被覆する絶縁層12、および絶縁層12を被覆する外部半導電層13を少なくとも有する。ここで、電力ケーブル10は、外部半導電層13の外面に、銅テープなどによって形成され、電気的に接地された遮蔽層14を有してもよい。さらに、電力ケーブル10は、外部半導電層13や遮蔽層14の外面に、最外層となるケーブルシース15を有してもよい。なお、電力ケーブル10は、導体11と絶縁層12との間に、内部半導電層を有してもよい(図示せず)。
【0029】
導体11は、典型的には電力ケーブル10の中心部に設けられ、電力の流通路となる。ここで、導体11は、例えば、電気規格調査会標準規格(JEC-0222-2009)で規定される公称電圧が35kV以下の電力が流通するように構成される。そのため、導体11を流通する電力には、高圧電力(750V超7000V以下の直流、600V超7000V以下の交流)や、それより高い電圧である特別高圧電力の一部が含まれうる。絶縁層12は、導体11を被覆する層であり、導体11と後述する外部半導電層13とを電気的に絶縁する層である。また、外部半導電層13は、絶縁層12を被覆するように構成される層であり、電力ケーブル10の通電時に発生する電界を遮蔽する。
【0030】
電力ケーブル10の端部10aは、端側から、少なくとも導体11、絶縁層12および外部半導電層13が順に露出するように、皮剥ぎして形成される。これにより、導体11への端子2の接続を容易にするとともに、電力ケーブル10の端部10aを絶縁被覆部材3で被覆する際に、導体11と外部半導電層13との電気的な絶縁を確保しながら、絶縁被覆部材3の電界緩和部31と外部半導電層13とを、容易に電気的に接続することができる。
【0031】
電力ケーブル10の材質は、特に限定されず、必要とされる通電容量や定格電圧、ケーブル端末構造1において発生しうる熱量に応じて決定される。
【0032】
(端子)
端子2は、電力ケーブル10の端側から、導体11、絶縁層12および外部半導電層13が順に露出するように皮剥ぎして形成した電力ケーブル10の端部10aを構成する導体11の皮剥部分に接続される接続部21を有する。
【0033】
ここで、端子2としては、例えば、導体材料からなる筒状の内部空間を有する接続部21と、この接続部21から導体11と反対方向に延びる端部導体22とを有するものを用いることができる。また、端部導体22に連結孔23が形成されたものを用いてもよく、このときボルト(図示せず)などで端部導体22を接続対象物に固定することができる。
【0034】
電力ケーブル10の導体11が露出する部分に端子2を設ける手段としては、特に限定されず、例えば、圧縮端子の内部空間(スリーブ部分)に導体11を挿入し、圧縮工具で挟み込むとともに周囲から強い圧力を掛けることで、端子2と導体11を密接に接続させることができる。
【0035】
(絶縁被覆部材)
絶縁被覆部材3は、電力ケーブル10の外部半導電層13の皮剥部分(電力ケーブル10の皮剥によって外部半導電層13が露出する部分)から、端子2の接続部21までの範囲を少なくとも被覆する、絶縁材料からなる筒状の部材である。
【0036】
ここで、絶縁被覆部材3は、少なくとも外部半導電層13の皮剥部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部31と、少なくとも電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分に密着して被覆する、弾性収縮力を有する絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮32と、を有する。このような電界緩和部31と絶縁外皮32を設けることで、外部半導電層13や電界緩和部31と導体11や端子2との電気的な絶縁が絶縁外皮32によって確保されるとともに、外部半導電層13の皮剥部分における電界集中が電界緩和部31によって緩和されるため、電力ケーブル10の端部10aにおける耐電圧特性を向上させることができる。また、このような弾性収縮力を有する電界緩和部31と絶縁外皮32を設けることで、収縮前の状態の電界緩和部31や絶縁外皮32で電力ケーブル10の端部10aの所定位置を被覆するように配置した後で、電界緩和部31を収縮させて電力ケーブル10の端部10aの所定位置に密着させることができるため、テープ巻きのような作業者の熟練を要することなく、電界緩和部31を有する絶縁被覆部材3を電力ケーブル10の端部10aに簡便に設けることができる。
【0037】
また、絶縁被覆部材3は、電界緩和部31の弾性収縮力が、絶縁外皮32の弾性収縮力よりも大きくなるように構成する。これにより、ケーブル端末構造1を作製する際、端子2を設ける前の端部10aの横断面の断面積が小さいときに、弾性収縮力が大きい電界緩和部31を、電力ケーブル10の端部10aの所定位置に被覆できるため、電界緩和部31による電力ケーブル10の外部半導電層13への密着力をより向上させることができる。それとともに、端子2を設けた後に、弾性収縮力が小さい絶縁外皮32を用いて電力ケーブル10の端部10aを被覆して収縮させることで、電力ケーブル10の端部10aに対して余裕を持った大きさに拡径した絶縁外皮32で電力ケーブル10の端部10aを被覆することが可能になるため、より簡便に絶縁外皮32を電力ケーブル10の端部10aに装着することができる。
【0038】
絶縁被覆部材3のうち、電界緩和部31は、外部半導電層13の皮剥部分における電界集中を緩和させる観点から、少なくとも、電界が集中する部分である、外部半導電層13の皮剥部分に接する部分やその近傍が、シリコーンゴムなどの高誘電率材料からなることが好ましい。また、電界緩和部31は、電力ケーブル10の端部10aへの差込式であることが好ましく、このとき、少なくとも電界が集中する部分に高誘電率材料を用いるとともに、この部分から離隔した部分に伸縮性のある伸縮材料を用いることがより好ましい。これにより、常温収縮性を有する高誘電率材料を用いた場合と比べて、材料コストを低減することができるとともに、伸縮材料の収縮率や伸張率の管理を容易にすることができる。
【0039】
絶縁被覆部材3のうち、絶縁外皮32は、電気的絶縁性を有しかつ伸縮性を有する、シリコーンゴムやエチレンプロピレンゴムなどの材料からなることが好ましい。また、絶縁外皮32は、常温収縮材料および熱収縮材料のうち一方または両方によって構成されてもよい。特に、絶縁外皮32として第1絶縁外皮部33および第2絶縁外皮部34が別体に構成される場合、第2絶縁外皮部34は、端子2が接続された電力ケーブル10の端部10aを挿入した後の収縮量を大きくする観点から、常温収縮材料によって構成されることが好ましい。
【0040】
本実施形態のケーブル端末構造1は、絶縁外皮32が、電界緩和部31の外面と一体に形成される筒状の第1絶縁外皮部33と、第1絶縁外皮部33以外の絶縁外皮32の部分である第2絶縁外皮部34とが別体として構成される。これにより、電界緩和部31が設けられており弾性収縮力が大きい第1絶縁外皮部33が、電力ケーブル10の延在方向について短くなるため、電力ケーブル10の端部10aを、第1絶縁外皮部33と一体に形成された電界緩和部31に、挿入しやすくすることができる。それとともに、端子を導体11に接続する前に第1絶縁外皮部33を設けるとともに、端子を導体11に接続した後に第2絶縁外皮部34を設けることが可能になるため、電界緩和部31と外部半導電層13との間に、より空隙を生じ難くすることができる。
【0041】
なお、絶縁被覆部材3の電界緩和部31から、電力ケーブル10の基部側に隣接する位置に、電界緩和部31を被覆する位置を案内する案内部4を有してもよい。ここで、案内部4は、例えば絶縁材料のテープ巻きによって構成することができるが、テープを巻く範囲は電界緩和部31の被覆位置近傍の狭い範囲でよい。
【0042】
(防水層)
ケーブル端末構造1は、絶縁外皮32の内面側に位置し、端子2の接続部21の外面から絶縁層12の皮剥部分の外面に到達する範囲にかけて、絶縁テープである防水テープを巻き付けて形成した、防水層5をさらに有することが好ましい。ここで、防水層5は、防水テープのテープ巻きによって構成することができるが、テープを巻く範囲は端子2の接続部21と絶縁層12とが隣接する狭い範囲でよい。
【0043】
加えて、案内部4および防水層5を構成するテープは、電界緩和作用を有しないため、テープ巻きに作業者の熟練を要しない。
【0044】
なお、上述の
図1に示すケーブル端末構造1では、端子2の接続部21の外面から絶縁層12の皮剥部分の外面に到達する範囲にかけて防水テープを巻き付けて形成した、防水層5を有する構成を示したが、これに限定されない。例えば、
図2に示すケーブル端末構造1Aのように、防水テープを有しなくてもよい。
【0045】
また、上述の
図1に示すケーブル端末構造1では、絶縁外皮32が、電界緩和部31の外面と一体に形成される筒状の第1絶縁外皮部33と、第1絶縁外皮部33以外の絶縁外皮32の部分である第2絶縁外皮部34とが別体として構成される態様を示したが、これに限定されない。例えば、
図3に示すケーブル端末構造1Bのように、絶縁被覆部材3の絶縁外皮32Bは、電界緩和部31の外面に密着して被覆する筒状の第1絶縁外皮部33と、第1絶縁外皮部以外の絶縁外皮32Bの部分である第2絶縁外皮部34とが一体として構成されてもよい。
【0046】
<ケーブル端末構造の形成方法について>
図4は、本発明に従う一の実施形態のケーブル端末構造の形成方法のフローチャートである。また、
図5は、本発明に従う一の実施形態のケーブル端末構造の形成方法において、ケーブル端末構造を形成する際のケーブル端末の端部の状態を示す図であって、
図5(a)が剥離工程における皮剥ぎ後の電力ケーブルの端部を示す図、
図5(b)および(c)が電界緩和部被覆工程において外部半導電層の皮剥部分の外周面を電界緩和部で被覆する状態を示す図、
図5(d)が端子接続工程において導体の皮剥部分に端子を接続する状態を示す図、
図5(e)が絶縁外皮被覆工程において絶縁外皮で電界緩和部の外面から端子の接続部の外面までのケーブル部分を被覆する状態を示す図である。また、
図6は、本発明に従う一の実施形態のケーブル端末構造の形成方法において、絶縁外皮収縮工程において絶縁外皮を収縮させる前後の状態を示す図であって、
図6(a)が収縮前の状態を示す図、
図6(b)が収縮後の状態を示す図である。
【0047】
本発明のケーブル端末構造の形成方法は、上述のケーブル端末構造1の形成方法であって、剥離工程S1と、電界緩和部被覆工程S2と、端子接続工程S3と、絶縁外皮被覆工程S4とを有する。
【0048】
(i)剥離工程S1
剥離工程S1は、導体11、導体11を被覆する絶縁層12、および絶縁層12を被覆する外部半導電層13を少なくとも有する電力ケーブル10の端側から、導体11、絶縁層12および外部半導電層13が順に露出するように皮剥ぎして、電力ケーブル10の端部10aに、導体11、絶縁層12および外部半導電層13のそれぞれの皮剥部分を形成する工程である。これにより、
図5(a)に示すように、電力ケーブル10のうち少なくとも導体11、絶縁層12および外部半導電層13が段剥ぎされた状態になるため、段剥ぎされた導体および各層と、筒状の絶縁被覆部材3の内面との密着性を高めることができる。
【0049】
電力ケーブル10の端側から、導体11、絶縁層12および外部半導電層13がそれぞれ露出するように皮剥ぎした後、露出した外部半導電層13の外面上の、電界緩和部31の被覆位置より電力ケーブル10の基部側に隣接する位置に、
図5(b)に示すように、電界緩和部31を被覆する位置を案内する案内部4を設けてもよい。案内部4は、例えば絶縁材料のテープ巻きによって構成することができる。
【0050】
(ii)電界緩和部被覆工程S2
電界緩和部被覆工程S2は、弾性収縮力を有する電界緩和材料を、電力ケーブル10の端部10aの外面に沿って、挿入する際に生じる挿入反発力よりも大きな挿入力を作用させながら移動させることによって、少なくとも外部半導電層13の皮剥部分を、電界緩和材料からなる筒状の電界緩和部31を弾性収縮させて密着被覆する工程である。このとき、
図5(b)および(c)に示すように、電力ケーブル10の端部10aを、未収縮または拡径状態にある筒状の電界緩和部31に挿入し、外部半導電層13の皮剥部分の外周面と電界緩和部31の内周面とを対向させた状態で、電界緩和部31を弾性収縮させることで、電界緩和部31の内周面を、外部半導電層13の外周面に密着させることができる。
【0051】
ここで、電力ケーブル10の端部10aを筒状の電界緩和部31に挿入する際に、電界緩和部31として、外面に筒状の第1絶縁外皮部33が一体に形成されたものを用いてもよい。これにより、電界緩和部31が第1絶縁外皮部33によって保護されるとともに、絶縁外皮32が第1絶縁外皮部33と第2絶縁外皮部34とで別体に構成されるため、電界緩和部31が設けられており弾性収縮力が大きい第1絶縁外皮部33を、電力ケーブル10の延在方向について短くすることができる。その結果、電力ケーブル10への電界緩和部31の装着を、より簡便にすることができる。
【0052】
このとき、電界緩和部31に電力ケーブル10の端部10aを挿入しやすくするため、
図5(b)に示すように、第1絶縁外皮部33よりケーブルシース15の側になる部分を折り返した状態で電力ケーブル10の端部10aを電界緩和部31に挿入してもよい。電力ケーブル10の端部10aを電界緩和部31に挿入した後、
図5(c)に示すように、第1絶縁外皮部33の折り返した部分を戻すことで、第1絶縁外皮部33をケーブルシース15側に延在させることができる。
【0053】
(iii)端子接続工程S3
端子接続工程S3は、電力ケーブルの端部10aを構成する導体11の皮剥部分に、接続部21を有する端子2を接続する工程である。より具体的には、
図5(d)に示すように、筒状の内部空間を有する接続部21を用いるとともに、接続部21の内部空間に導体を挿入した後、導体11の径方向について圧縮することで、導体11の皮剥部分に接続部21を接続することができる。これにより、
図5(e)に示すように、端子2が導体11の皮剥部分に接続部21を介して接続することができる。
【0054】
端子接続工程S3を行なった後、絶縁外皮被覆工程S4を行なう前に、少なくとも絶縁層12および端子2の外面に絶縁テープを巻回する、図示しない絶縁テープ巻回工程をさらに有してもよい。ここで、端子2の接続部21の外面から絶縁層12の皮剥部分の外面に到達する範囲にかけて、絶縁テープである防水テープを巻き付けることで、防水層5を形成することができる。これにより、端子2の接続部21と絶縁層12との間からの水分の浸入が抑えられるため、ケーブル端末構造1の防水性を高めることができる。
【0055】
(iv)絶縁外皮被覆工程S4
絶縁外皮被覆工程S4は、弾性収縮力を有する絶縁材料を、挿入する際の挿入反発力がほとんど生じないように予め拡径方向に弾性変形させて拡径状態にしてから、電力ケーブル10の端部10aの外面に沿って、小さな挿入力を作用させながら移動させた後に、拡径状態を解除することによって、少なくとも電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分を、絶縁材料からなる筒状の絶縁外皮32を弾性収縮させて密着被覆する工程である。このとき、電力ケーブル10の端部10aを、未収縮の筒状の絶縁外皮32に挿入し、電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分の外周面と、絶縁外皮32の内周面とを対向させた状態で、絶縁外皮32を弾性収縮させることで、絶縁外皮32の内周面を、電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分の外周面に密着させることができる。
【0056】
特に、電界緩和部31として、外面に筒状の第1絶縁外皮部33が一体に形成されたものを用いる態様では、
図5(f)に示すように、弾性収縮力を有する絶縁材料からなる筒状の第2絶縁外皮部34で、電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分を被覆してもよい。
【0057】
この絶縁外皮被覆工程S4で被覆する、絶縁外皮32のうち少なくとも第2絶縁外皮部34は、弾性収縮力を小さくする観点から、常温収縮材料からなるものを用いることが好ましい。その一例として、
図6(a)に示すような、拡径支持部材7(スパイラルコア)によって予め内周面を拡径状態にしておいた第2絶縁外皮部34を用いることができる。このとき、第2絶縁外皮部34に電力ケーブル10の端部10aを挿入し、電界緩和部31の外面から端子2の接続部21の外面までのケーブル部分の外周面と、第2絶縁外皮部34の内周面とを対向させた状態で、拡径支持部材7を除去することにより、
図6(b)に示すように、第2絶縁外皮部34を弾性収縮させることができる。
【符号の説明】
【0058】
1、1A,1B ケーブル端末構造
10 電力ケーブル
10a 電力ケーブルの端部
11 導体
12 絶縁層
13 外部半導電層
14 遮蔽層
15 ケーブルシース
2 端子
21 接続部
22 端部導体
3 絶縁被覆部材
31 電界緩和部
32、32B 絶縁外皮
33 第1絶縁外皮部
34 第2絶縁外皮部
4 案内部
5 防水層
7 拡径支持部材
S1 剥離工程
S2 電界緩和部被覆工程
S3 端子接続工程
S4 絶縁外皮被覆工程