(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-25
(45)【発行日】2024-05-08
(54)【発明の名称】液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/00 20060101AFI20240426BHJP
C08F 255/00 20060101ALI20240426BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
C08G77/00
C08F255/00
C08J3/24 A CES
(21)【出願番号】P 2023051409
(22)【出願日】2023-03-28
【審査請求日】2023-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】山崎 崇範
(72)【発明者】
【氏名】松本 花奈
(72)【発明者】
【氏名】白井 友之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏来
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】桜井 貴裕
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-024912(JP,A)
【文献】特開昭61-246215(JP,A)
【文献】特開平09-059317(JP,A)
【文献】特開2001-031719(JP,A)
【文献】特開昭61-200136(JP,A)
【文献】特表2001-503813(JP,A)
【文献】特開2022-153157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00
C08F 6/00-246/00、255/00、301/00
C08C 19/00-19/44
C08J 3/00-3/28、99/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状オレフィン重合体100質量部と、前記液状オレフィン重合体にグラフト化反応する部位を有するシランカップリング剤3~30質量部とを、有機過酸化物0.1~2質量部の存在下、50~200℃の温度で反応させて得られる液状シラングラフトオレフィン組成物であって、前記液状オレフィン重合体に対して
前記シランカップリング剤
がグラフト
化結合した液状シラングラフトオレフィンを含有する液状シラングラフトオレフィン組成物
のシラン架橋硬化物。
【請求項2】
前記液状シラングラフトオレフィン組成物の、100℃における動粘度が1,000mm
2/s以下である、請求項1に記載の
シラン架橋硬化物。
【請求項3】
前記液状シラングラフトオレフィン組成物が、前記シランカップリング剤及び前記有機過酸化物を、50~200℃の温度の前記液状オレフィン重合体に添加して、前記液状オレフィン重合体と前記シランカップリング剤とを反応させて得られる、請求項1又は2に記載のシラン架橋硬化物。
【請求項4】
液状オレフィン重合体100質量部と前記液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応する部位を有するシランカップリング剤3~30質量部とを有機過酸化物0.1~2質量部の存在下に50~200℃の温度で反応させて得た液状シラングラフトオレフィン組成物と、水とをシラノール縮合触媒の存在下で接触させて、液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物を製造する、シラン架橋硬化物の製造方法。
【請求項5】
前記液状シラングラフトオレフィン組成物を、前記シランカップリング剤及び前記有機過酸化物を50~200℃の温度の前記液状オレフィン重合体に添加して、前記液状オレフィン重合体と前記シランカップリング剤とを反応させて得る、請求項4に記載のシラン架橋硬化物の製造方法。
【請求項6】
前記液状シラングラフトオレフィン組成物を得る前記反応を、攪拌可能な密閉型反応装置で行う、請求項4又は5に記載のシラン架橋硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状シラングラフトオレフィン組成物及びそのシラン架橋硬化物、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器分野や産業分野に使用される、絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバー心線又は光ファイバーコード(光ファイバーケーブル)等の配線材に設けられる被覆層(絶縁体、シース等)として、また、パッキン、シート等の各種成形体として、種々の樹脂成形体又はゴム成形体が使用されている。
このような成形体を形成する材料として、架橋性樹脂組成物、架橋性ゴム組成物等の架橋性組成物が多用されている。例えば、特許文献1には、「液状変性エチレン系ランダム共重合体(A)とゴム成分(B)とを含有し、前記液状変性エチレン系ランダム共重合体(A)が、エチレン系ランダム共重合体(a0)に不飽和シラン化合物成分がグラフト共重合された共重合体」であって特定の要件(a-1)~(a-5)を満たすゴム組成物(要件(a-1)~(a-5)は省略する)、及び、この「ゴム組成物を架橋して得られる成形体」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の成形体を形成する材料としては、通常、高分子量で固体状のポリマー(樹脂又はゴム)を主成分として含有する固体状の架橋性組成物が用いられる。例えば、特許文献1に記載のゴム組成物は、ゴム組成物の改質剤として液状変性エチレン系ランダム共重合体(A)を含有しているものの、主成分はゴム成分(B)であるため、組成物全体として固体状となっている。このような固体状の架橋性組成物は、溶融状態になる温度に加熱した後に成形して、最終的な架橋反応を行う。このように、固体状の架橋性組成物は、成形時に可塑化のための加熱工程を必要とするため、押出成形機や射出成型機といった製造設備を用いて溶融状態にして取り扱わなければならない点で、作業性に劣る。しかも、製造コストの増大等をも招くことになる。
一方、上述の成形体を形成する材料として、低分子量のポリブタジエン等を含有する液状の架橋性組成物も知られている。このような液状の架橋性組成物は、成形時に加熱して溶融状態にする必要がないものの、最終的な架橋反応を熱や光等の外力によって行う必要がある。そのため、液状の架橋性組成物においても、やはり、特別な架橋装置(例えば架橋管等)を必要とし、作業性に劣るうえ、製造コストの増大等をも招くことになる。また、液状の架橋性組成物は、混合状態等が不均一になって変色しやすくなることがあり、変色した架橋性組成物を最終架橋反応(シラノール縮合反応)させると、得られる架橋硬化物の外観を損なうことになる。更に、混合状態の不均一性から、最終架橋反応後の成形体の機械特性が低下する問題も発生する。
【0005】
上述のように、成形体を形成する材料として、従来の架橋性組成物においては、固体状組成物であっても液状組成物であっても、成形時又は最終架橋反応時に、加熱工程及び加熱装置若しくは特別な架橋装置を必要として作業性に劣るうえ、良好な外観の架橋硬化物を得られないことがある。しかし、特許文献1では、このような観点からの検討はされていない。
【0006】
本発明は、成形時に加熱工程及び加熱装置を不要とし、かつ最終架橋反応時においても架橋管等の架橋装置を不要としながらも最終架橋反応を速やかに進行させて外観に優れたシラン架橋硬化物を製造可能な、変色等がなく作業性にも優れた液状シラングラフトオレフィン組成物、並びに、外観に優れた架橋成形体として液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物(シラノール縮合硬化物)を提供することを課題とする。また、本発明は、上記液状シラングラフトオレフィン組成物及びそのシラン架橋硬化物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、成形体を形成する材料について鋭意検討したところ、液状のオレフィン重合体に対して特定量のシランカップリング剤をグラフト化反応させると、変色等の発生を抑制しながら液状シラングラフトオレフィン組成物を調製することができ、この液状シラングラフトオレフィン組成物を、シラン架橋性の組成物としたうえで、組成物全体としても液状を維持した架橋性液状組成物とすることにより、成形時に加熱工程も加熱装置も必要とせず、優れた作業性を実現できることを見出した。しかも、この架橋性液状組成物は、シラノール縮合触媒の存在下において、優れた作業性で、すなわち、架橋管等の架橋装置を不要としながらも、温和な条件で、しかも簡便な操作で、最終架橋反応(シラノール縮合反応)が速やかに進行して、優れた外観を示す固体状のシラン架橋硬化物となることを見出した。このように、本発明者らは、上述の架橋性液状組成物により、従来の固体状組成物と液状組成物との両欠点を一挙に解決できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>液状オレフィン重合体100質量部に対して、前記液状オレフィン重合体にグラフト化反応する部位を有するシランカップリング剤3~30質量部をグラフト化反応させて得られる液状シラングラフトオレフィン組成物。
<2>100℃における動粘度が1,000mm2/s以下である、<1>に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物。
<3>前記液状オレフィン重合体100質量部と前記シランカップリング剤3~30質量部とを、有機過酸化物0.1~2質量部の存在下、50~200℃の温度で反応させて得られる、<1>又は<2>に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物。
<4>前記シランカップリング剤及び前記有機過酸化物を、50~200℃の温度の前記液状オレフィン重合体に添加して、前記液状オレフィン重合体と前記シランカップリング剤とを反応させて得られる、<3>に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物。
<5>上記<1>~<4>のいずれか1項に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物。
<6>液状オレフィン重合体100質量部と、前記液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応する部位を有するシランカップリング剤3~30質量部とを、有機過酸化物0.1~2質量部の存在下、50~200℃の温度で反応させる、<1>~<4>のいずれか1項に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法。
<7>前記シランカップリング剤及び前記有機過酸化物を、50~200℃の温度の前記液状オレフィン重合体に添加して、前記液状オレフィン重合体と前記シランカップリング剤とを反応させる、<6>に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法。
<8>前記反応を、攪拌可能な密閉型反応装置で行う、<6>又は<7>に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法。
<9>上記<6>~<8>のいずれか1項に記載の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法で得た液状シラングラフトオレフィン組成物をシラノール縮合触媒の存在下で水と接触させて、液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化を製造する、シラン架橋硬化の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、成形時に加熱工程及び加熱装置を不要とし、かつ最終架橋反応時においても架橋管等の架橋装置を不要としながらも最終架橋反応を速やかに進行させて外観に優れたシラン架橋硬化物を製造可能な、変色等がなく作業性にも優れた液状シラングラフトオレフィン組成物、並びに、外観に優れた架橋成形体として液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物を提供できる。また、本発明は、上記液状シラングラフトオレフィン組成物及びそのシラン架橋硬化物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、成分の含有量、物性等について、数値範囲を示して説明する場合において、数値範囲の上限値及び下限値を別々に説明するときは、いずれかの上限値及び下限値を適宜に組み合わせて、特定の数値範囲とすることができる。一方、「~」を用いて表される数値範囲を複数設定して説明するときは、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。なお、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[液状シラングラフトオレフィン組成物]
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、後述する液状シラングラフトオレフィンを含有し、かつ、組成物全体としても液状を維持している。
本発明において、「液状」とは、常温(25℃)常圧(1atm)において液状を示すこと、すなわち液体であることを意味し、具体的には、常温常圧において、ブルックフィールド粘度計で測定した(絶対)粘度が100Pa・s以下であることを意味する。本発明において、好ましくは、常温常圧における粘度が3Pa・s以下である。
一方、本発明において、「固体(状)」というときは、常温常圧において流動性を示さない状態をいい、例えば、常温常圧において、ブルックフィールド粘度計で測定した(絶対)粘度が10,000Pa・s以上であることをいう。
【0012】
液状シラングラフトオレフィン組成物は、液状オレフィン重合体100質量部に対して、この液状オレフィン重合体にグラフト化反応する部位を有するシランカップリング剤3~30質量部をグラフト化反応させて得られる組成物である。この液状シラングラフトオレフィン組成物は、液状オレフィン重合体にシランカップリング剤がグラフト化結合した液状シラングラフトオレフィンを含有する、シラン架橋性の液状組成物である。この液状シラングラフトオレフィン及び液状シラングラフトオレフィン組成物は、好ましくは、後述する、本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法により調製される。
【0013】
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、常圧下での100℃における動粘度が、1,000mm2/s以下であることが好ましく、10mm2/s以下であることがより好ましい。液状シラングラフトオレフィン組成物が上記範囲の動粘度を示すと、反応後の容器からの取り出し性や分液による精製の作業の効率が向上する。
【0014】
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、常温常圧環境下で液状を示し、後述するように、シラン架橋法により水と接触させることで、硬化して固体組成物(シラン架橋硬化物)となる。そのため、この液状シラングラフトオレフィン組成物は、液状という特性を利用して、成形時に加熱工程及び加熱装置を不要とし、優れた作業性を示す。また、本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、架橋管等の架橋装置を用いた高温での過度な加熱工程を不要としたうえで温和な条件で水と接触させるという高い作業性でありながらも、最終架橋反応(シラノール縮合反応)が速やかに進行して、十分な架橋構造が構築され、外観にも優れた架橋硬化物となる。
【0015】
[液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物]
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物(以下、本発明のシラン架橋硬化物という。)は、本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物、特に液状シラングラフトオレフィンのシランカップリング剤におけるシラノール縮合可能な反応部位について、シラノール縮合反応させて架橋させた架橋硬化物(シラノール縮合硬化物)である。このシラン架橋硬化物は、液状オレフィン重合体がシランカップリング剤を介して架橋された架橋オレフィン重合体を含有している。本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、シラン架橋法、すなわち、シラノール縮合触媒の存在下で水と接触させることにより、液状組成物(液体組成物)から固体組成物(架橋硬化物)となる。
本発明のラン架橋硬化物は、通常、成形体であるが、形状のない(未成形の)バルク状態であってもよい。
【0016】
以下に、本発明に用いる各成分について説明する。
各成分は、それぞれ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
<液状オレフィン重合体>
液状オレフィン重合体は、オレフィン化合物の(共)重合体であって常温常圧下で液状を示す重合体であればよく、公知の(共)重合体を特に制限されることなく用いることができる。
本発明において、オレフィン化合物は、エチレン性不飽和基を有する化合物をいい、エチレン、プロピレン等の分子内にエチレン性不飽和基を1つ有するアルケン化合物に加えて、分子内に2つ以上のエチレン性不飽和基を有するポリエン化合物を包含する。
ポリエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物が挙げられる。
【0018】
液状オレフィン重合体は、有機過酸化物から発生するラジカルによって、後述するシランカップリング剤のグラフト化反応する部位とグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有するものが好ましい。グラフト化反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。
【0019】
液状オレフィン重合体としては、特に制限されず、例えば、エチレン系ランダム共重合体、液状ジエン系重合体、有機鉱物油、更に、これらの水素添加物若しくは変性物が挙げられる。液状ジエン系重合体としては、例えば、液状ブタジエン重合体、液状イソプレン重合体、液状スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。なかでも、エチレン系ランダム共重合体、液状ブタジエン重合体、液状イソプレン重合体が好ましい。変性物としては、例えば、酸変性物が挙げられる。
【0020】
(エチレン系ランダム共重合体)
エチレン系ランダム共重合体としては、エチレンから導かれる構成成分とα-オレフィンから導かれる構成成分とを有する共重合体が挙げられる。
α-オレフィンとしては、特に制限されないが、炭素数が3~20のα-オレフィンが好ましく、炭素数が3~10のα-オレフィンがより好ましく、プロピレンが更に好ましい。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
エチレン系ランダム共重合体は、α-オレフィンから導かれる構成成分を1種又は2種以上有していてもよい。
【0021】
エチレン系ランダム共重合体は、極性基含有化合物、芳香族ビニル化合物、環状オレフィンから選択される少なくとも1種の他のモノマーから導かれる構成成分を有していてもよい。
【0022】
極性基含有化合物としては、特に制限されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物、及びこれらのナトリウム塩等の金属塩化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル等のα,β-不飽和カルボン酸エステル化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和グリシジル化合物等が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、特に制限されず、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、p-クロロスチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、アリルベンゼン等が挙げられる。
環状オレフィンとしては、特に制限されず、炭素数3~30の環状オレフィンが好ましく、炭素数3~20の環状オレフィンがより好ましい。環状オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン等が挙げられる。
【0023】
エチレン系ランダム共重合体中における全構成成分に対するエチレンから導かれる構成成分の含有率(エチレン含有率ともいう。)は、特に制限されず、エチレン系ランダム共重合体の結晶性や液状を維持できる範囲を考慮して適宜に設定される。エチレン含有率は、例えば、30~90モル%であることが好ましく、30~80モル%であることがより好ましく、40~75モル%であることが更に好ましく、40~60モル%であることが特に好ましい。エチレン含有率は特許文献1に記載の方法で求めることができる。
エチレン系ランダム共重合体中における全構成成分に対するα-オレフィンから導かれる構成成分の含有率(α-オレフィン含有率ともいう。)は、特に制限されず、エチレン含有率等を考慮して適宜に設定される。
なお、エチレン系ランダム共重合体中における他のモノマーから導かれる構成成分の含有量は、特に制限されず、例えば、エチレンから導かれる構成成分及びα-オレフィンから導かれる構成成分の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることができ、10質量部以下であることが好ましい。
【0024】
エチレン系ランダム共重合体の分子量(数平均分子量、重量平均分子量等)は、特に制限されず、液状を維持できる範囲内において、適宜に設定される。また、エチレン系ランダム共重合体の分子量分布も特に制限されず適宜に設定される。
【0025】
エチレン系ランダム共重合体としては、市販品を用いてもよく、また適宜に合成してもよい。
市販品としては、例えば、ルーカント(商品名、三井化学社製、エチレン-α-オレフィンオリゴマー)等が挙げられる。
エチレン系ランダム共重合体を合成する場合、エチレンとα-オレフィンとを公知の重合方法により重合することができる。例えば、特許文献1に記載の内容を適宜参照することができ、その内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
【0026】
(液状ジエン系重合体)
液状ジエン系重合体としては、特に制限されないが、少なくとも共役ジエン化合物を重合して得られ、必要に応じて共役ジエン化合物とビニル置換芳香族化合物との両方を共重合して得られる重合体が挙げられる。
液状ジエン系重合体は共役ジエン化合物に由来する構成成分を1種有していても、2種以上を有していてもよい。また、液状ジエン系重合体は、ビニル置換芳香族化合物に由来する構成成分を有していなくてもよく、ビニル置換芳香族化に由来する構成成分を有している場合、1種でも2種以上でもよい。
【0027】
共役ジエン化合物としては、重合可能な単量体化合物であれば特に限定されず、炭素数4~12の共役ジエン化合物が好ましく、炭素数4~8の共役ジエン化合物がより好ましい。このような共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエンが挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。
ビニル置換芳香族化合物としては、共役ジエン化合物と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、モノビニル芳香族化合物が好ましい。モノビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレンが挙げられ、工業的入手の容易さの観点から、スチレンが好ましい。
【0028】
液状ジエン系重合体としては、1,3-ブタジエンの単独重合体、イソプレンの単独重合体、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体(SBR)、イソプレンとスチレンとの共重合体、またこれらの水素化物等が好ましい。
【0029】
1,3-ブタジエンの単独重合体及びイソプレンの単独重合体において、1,3-ブタジエン又はイソプレンに由来する構成成分中のビニル基量は、特に制限されず、適宜に設定される。
【0030】
1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体は、ランダム共重合でもブロック共重合体でもよいが、ランダム共重合が好ましい。
1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体において、スチレンに由来する構成成分の含有率は、特に限定されないが、例えば、共重合体の全構成成分100質量%中において、0質量%を超え、50質量%以下であることが好ましく、0質量%を超え、20質量%以下であることがより好ましい。また、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体において、1,3-ブタジエンに由来する構成成分中のビニル基量は、特に制限されず、適宜に設定される。
【0031】
液状ジエン系重合体の分子量(数平均分子量、重量平均分子量等)は、特に制限されず、液状を維持できる範囲内において、適宜に設定される。また、液状ジエン系重合体の分子量分布も特に制限されず適宜に設定される。
【0032】
液状ジエン系重合体としては、市販品を用いてもよく、また適宜に合成してもよい。
市販品としては、例えば、LBR(商品名、クラレ社製、液状ブタジエン)、LIR(商品名、クラレ社製、液状イソプレン)、LSBR(商品名、クラレ社製、液状スチレンブタジエン)等が挙げられる。
液状ジエン系重合体を合成する場合、共役ジエン化合物と、適宜にビニル置換芳香族化合物とを公知の重合方法により重合することができる。
【0033】
有機鉱物油としては、樹脂組成物等に通常用いられるものが挙げられ、例えば、パラフィン系オイル、その他各種の合成オイル等が挙げられる。
【0034】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で液状オレフィン重合体のグラフト化反応可能な部位等にグラフト化反応しうるグラフト化反応する部位(基又はエチレン性不飽和基等の官能基)を有している。また、シランカップリング剤は、シラノール縮合可能な反応部位として加水分解性シリル基(例えばアルコキシシリル基)を有している。
【0035】
シランカップリング剤としては、特に制限されず、従来、シラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシラン又はビニルトリエトキシランが特に好ましい。
シランカップリング剤の液状オレフィン重合体に対するグラフト化率(液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応して液状オレフィン重合体にグラフト化結合しているシランカップリング剤量)は、特に制限されず、後述する本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法によるグラフト化反応で達成される範囲となる。
【0036】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤の液状オレフィン重合体へのラジカル反応によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、特に制限はなく、従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。このような有機過酸化物としては、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が挙げられる。
【0037】
<シラノール縮合触媒>
本発明においては、液状シラングラフトオレフィン組成物は、シラノール縮合触媒を含有していてもよく、シラノール縮合触媒を含有していなくてもよい。シラノール縮合触媒を含有していない液状シラングラフトオレフィン組成物はシラノール縮合反応時に水と共にシラノール縮合触媒と接触される。
本発明に用いるシラノール縮合触媒は、液状オレフィン重合体にグラフト化反応したシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位を、水分の存在下でシラノール縮合反応(脱水縮合反応)を促進させる働きがある。この縮合反応により、シランカップリング剤を介して液状オレフィン重合体が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられ、有機スズ化合物が好ましい。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
液状シラングラフトオレフィン組成物がシラノール縮合触媒を含有する場合、液状シラングラフトオレフィン組成物中の、シラノール縮合触媒の含有量は、特に制限されず、適宜に決定され、例えば、液状オレフィン重合体100質量部に対して、0.0001~0.5質量部が好ましく、0.001~0.2質量部がより好ましい。
【0038】
<その他の成分>
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、任意成分として、上述の各成分以外の成分(その他の成分)を含有していてもよい。
その他の成分としては、樹脂組成物に一般的に使用される添加剤等の各種成分が挙げられ、例えば、液状オレフィン重合体以外の(共)重合体、無機フィラー、難燃剤、難燃助剤、老化防止剤(酸化防止剤)、滑剤、架橋剤、架橋助剤等が挙げられる。
液状シラングラフトオレフィン組成物中の、その他の成分の含有量は、特に制限されず、本発明の目的を損なわない範囲、特に液状を損なわない範囲において、適宜に設定される。
【0039】
[液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法]
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物は、適宜の方法で調整でき、例えば、液状シラングラフトオレフィン、適宜にその他の成分を混合又は溶融混合して製造することができるが、調製時に変色等の発生を抑制して、優れた外観を示すシラン架橋硬化物を製造できる点で、以下に説明する、本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法で製造することが好ましい。
本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法(単に、本発明の液状組成物製造方法ということがある。)は、液状オレフィン重合体100質量部と、液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応する部位を有するシランカップリング剤3~30質量部とを、有機過酸化物0.1~2質量部の存在下、50~200℃の温度で反応させる工程を有する。
【0040】
本発明の液状組成物製造方法には、攪拌可能な反応装置を用いることができ、例えば、開放型反応装置、密閉型反応装置(密閉可能な反応装置)が挙げられる。本発明においては、グラフト化反応を均一に進行させて、変色や着色の発生が抑制され、かつ粘度が均一な液状シラングラフトオレフィン組成物を製造でき、ひいては優れた外観を有するシラン架橋硬化物を製造できる点で、密閉型反応装置が好ましい。反応装置としては、例えば、一般的な反応容器、オートクレーブ、攪拌機付きオートクレーブ等が挙げられ、一般的な密閉型反応容器又は攪拌機付きオートクレーブが好ましい。
【0041】
本発明の液状組成物製造方法において、シランカップリング剤の混合量(使用量)は、液状オレフィン重合体100質量部に対して、3~30質量部である。シランカップリング剤の混合量が上記範囲にあると、グラフト化反応が均一に進行して変色等がなく、しかも温和な条件でシラノール縮合反応が速やかに進行して、十分な架橋構造を構築可能な液状シラングラフトオレフィン組成物を調製できる。シランカップリング剤の混合量は、変色等の発生抑制とシラノール縮合反応の速やかな進行とを高い水準で両立できる点で、液状オレフィン重合体100質量部に対して、10~30質量部がより好ましく、20~25質量部が更に好ましい。
【0042】
本発明の液状組成物製造方法において、有機過酸化物の混合量(使用量)は、液状オレフィン重合体100質量部に対して、0.1~2質量部である。有機過酸化物の混合量が上記範囲にあると、グラフト化反応を効率よく進行させて、変色等の発生を抑えながら、温和な条件でシラノール縮合反応が速やかに進行して、十分な架橋構造を構築可能な液状シラングラフトオレフィン組成物を調製できる。有機過酸化物の混合量は、変色等の発生抑制とシラノール縮合反応の速やかな進行とを高い水準で達成できる点で、液状オレフィン重合体100質量部に対して、0.5~1.5質量部がより好ましく、1.0~1.5質量部が更に好ましい。
【0043】
本発明の液状組成物製造方法においては、上記混合量で、液状オレフィン重合体とシランカップリング剤とを50~200℃の温度で反応させる。この反応は、有機過酸化物の存在下で行うことができればよく、上記混合量で、液状オレフィン重合体とシランカップリング剤と有機過酸化物とを50~200℃の温度で混合して行うことが好ましい。上記反応は、50~200℃に設定された反応装置(好ましくは密閉型反応装置)に液状オレフィン重合体を注入(投入)し、50~200℃の液状オレフィン重合体、好ましくは50~200℃に加熱された液状オレフィン重合体に、シランカップリング剤及び有機過酸化物を一緒に又は別々に反応装置に注入(投入、添加)して、液状オレフィン重合体シランカップリング剤及び有機過酸化物を混合することにより行うことが、より好ましい。より好ましい混合方法において、シランカップリング剤及び有機過酸化物の注入時間(注入速度)は、用いる装置によって一義的に決定できず、装置の種類、性能等に応じて適宜に設定される。例えば、液状オレフィン重合体100g当たり、2~10mL/分とすることが好ましい。
シランカップリング剤及び有機過酸化物を一緒に反応装置に注入する場合、シランカップリング剤及び有機過酸化物の混合物を調製する。シランカップリング剤及び有機過酸化物の混合は、公知の混合機等を用いて、通常、非加熱条件又は低温加熱条件、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~35℃)で、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法及び条件が挙げられる。好ましくは、非加熱条件又は低温加熱条件下で乾式混合(ドライブレンド)する。
【0044】
本発明の液状組成物製造方法においては、反応温度は、50~200℃であり、有機過酸化物の1時間半減期温度以上、1分半減期温度以下の温度範囲で設定される。反応温度は、反応装置の設置温度としてもよいが、液状オレフィン重合体の温度、通常加熱温度とすることが好ましい。
反応時間は、グラフト化反応の進行度に応じて適宜に設定されるが、例えば、10分以上であることが好ましく、30分以上2時間以下であることがより好ましく、45分以上1時間以下であることが更に好ましい。なお、反応時間は、液状オレフィン重合体、シランカップリング剤及び有機過酸化物が所定温度で混合された時(始点)からの経過時間とする。
なお、反応時は攪拌を続けるが、攪拌速度等は適宜に設定される。
液状オレフィン重合体とシランカップリング剤との反応においては、シラノール縮合触媒を実質的に存在させないことが好ましい。ここで、シラノール縮合触媒を実質的に存在させないとは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、例えば、液状オレフィン重合体100質量部に対して0.01質量部以下であれば存在していてもよい。
【0045】
本発明の液状組成物製造方法において、シラノール縮合触媒を含有する液状シラングラフトオレフィン組成物を製造する場合、液状シラングラフトオレフィン組成物とシラノール縮合触媒とを、例えば、上記シランカップリング剤及び有機過酸化物の混合物を調製する際の条件で、混合する。このときのシラノール縮合触媒の混合量(使用量)は、特に制限されず、適宜に設定される。温和な条件でシラノール縮合反応を速やかに進行させることができる点で、シラノール縮合触媒の混合量は、上述の液状シラングラフトオレフィン組成物中の、シラノール縮合触媒の含有量と同じ範囲に設定できる。
【0046】
このようにして、液状シラングラフトオレフィンを含有する液状シラングラフトオレフィン組成物を製造できる。
【0047】
[シラン架橋硬化物の製造方法]
本発明のシラン架橋硬化物(シラノール縮合硬化物)は、液状シラングラフトオレフィン組成物におけるシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位をシラノール縮合反応させる適宜の方法で製造でき、十分な架橋構造と優れた外観とを有するシラン架橋硬化物を製造できる点で、以下に説明する、本発明のシラン架橋硬化物の製造方法で製造することが好ましい。
本発明のシラン架橋硬化物の製造方法(単に、本発明の硬化物製造方法ということがある。)は、本発明の液状シラングラフトオレフィン組成物の製造方法で得た液状シラングラフトオレフィン組成物をシラノール縮合触媒の存在下で水と接触させる工程を有する。
【0048】
この工程において、シラノール縮合触媒の使用量は、特に制限されず、例えば、液状シラングラフトオレフィン組成物中の液状オレフィン重合体100質量部に対して、0.0001~0.5質量部が好ましく、0.001~0.2質量部がより好ましい。
この工程において、シラノール縮合触媒の存在下で液状シラングラフトオレフィン組成物(後述する成形体を含む。)と水とを接触させる方法は、特に制限されず、例えば、シラノール縮合触媒を含有する液状シラングラフトオレフィン組成物と水とを接触させる方法、シラノール縮合触媒を含有しない液状シラングラフトオレフィン組成物とシラノール縮合触媒と水とを接触させる方法が挙げられる。
液状シラングラフトオレフィン組成物と水との接触は、シラン架橋法における通常の方法によって行うことができる。シラノール縮合反応は、水分存在下であれば常温、例えば20~25℃程度の温度環境下で放置するという温和な条件でも進行するため、架橋管等の特別な架橋装置を用いる必要はなく、また水と積極的に接触させる必要はない。シラノール縮合反応(架橋反応)を促進させる観点からは、液状シラングラフトオレフィン組成物と水とを積極的に接触させることが好ましい。接触方法としては、シラン架橋法に通常適用される方法(条件)を挙げることができ、例えば、常圧環境下において温和な条件で水と接触させる方法が挙げられ、具体的には、飽和水蒸気雰囲気への暴露、高湿度環境への暴露、常温水若しくは温水(例えば、50~90℃)への浸漬、湿熱槽への投入等が挙げられる。
なお、水との接触効率を上げるため攪拌下で接触させることもでき、また接触の際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけることもできる。
【0049】
本発明の硬化物製造方法においては、液状シラングラフトオレフィン組成物と水とを接触させる工程の前に、液状シラングラフトオレフィン組成物を適宜の形状に成形することもがきる。成形方法及び成形条件は、成形後の形状や形態に応じて、適宜の方法及び条件が選択される。例えば、成形方法としては、型成形法、塗布法(スプレー塗布法、刷毛塗布法)、その他にも、繊維等に含侵させる方法、他の成形物をディップする方法等が挙げられる。なお、塗布法においては、膜状若しくは板状の成形体を成形できる。
成形条件は、特に限定されないが、液状シラングラフトオレフィン組成物は常温常圧下で液状を示すため、例えば固体状の架橋性組成物を溶融させるのに必要となるほどの高温に加熱する加熱工程及び加熱装置を不要とし、非加熱条件又は低温加熱条件とすることができる。例えば、成形温度として、0~60℃とすることができ、5~40℃とすることが好ましい。液状シラングラフトオレフィン組成物を上記成形条件で成形すると、シランカップリング剤のシラノール縮合反応を効果的に抑制する(成形中の硬化、固体化を抑制する)ことができ、外観に優れたシラン架橋硬化物を製造できる。
【0050】
このようにして、液状シラングラフトオレフィン組成物から、十分な架橋構造と優れた外観とを有する固体状のシラン架橋硬化物を製造できる。
このシラン架橋硬化物は、液状オレフィン重合体にグラフト化結合しているシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤(シロキサン結合)を介して架橋した架橋重合体、すなわち、液状シラングラフトオレフィン組成物がシロキサン結合を介して縮合した架橋重合体を含んでいると考えられる。
【0051】
<シラン架橋硬化物の用途>
本発明のシラン架橋硬化物は、樹脂成形体又はゴム成形体が通常用いられる各種の用途に用いることができる。例えば、具体的には、配線材の絶縁被覆層(シースを含む。)、モールド材、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、フィルム、パッキン、ガスケット、クッション材、防震材等の樹脂成形体代替品が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0053】
実施例及び比較例に用いた各化合物の詳細を以下に示す。
<液状オレフィン重合体>
ルーカントLX004(商品名):エチレンとα-オレフィンとの共重合体、粘度0.82Pa・s、三井化学社製
ルーカントLX200(商品名):エチレンとα-オレフィンとの共重合体、粘度52Pa・s、三井化学社製
LBR-302(商品名):液状ブタジエン、粘度0.6Pa・s、クラレ社製
<シランカップリング剤>
KBM-1003(商品名、トリメトキシビニルシラン、信越シリコーン社製)
<有機過酸化物>
パーヘキサ25B(商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ-tert-ブチルパーオキシ-ヘキサン、1時間半減期温度138.1℃、1分半減期温度179.8℃、日油社製)
<シラノール縮合触媒>
アデカスタブOT-1(商品名、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製)
【0054】
[実施例1~8及び比較例1~2]
実施例1~8及び比較例1~2は表1に示す成分を用いてそれぞれ実施した。具体的には、下記製造方法により、表1に示す組成の液状シラングラフトオレフィン組成物をそれぞれ調製し、これらをシラノール縮合触媒及び水と接触させてシラン架橋硬化物をそれぞれ製造した。
表1において、各例の混合量(含有量)に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の混合量が0質量部であることを意味する。
【0055】
<実施例1>
まず、シランカップリング剤と有機過酸化物とを、表1に示す質量割合で、室温(25℃)下で、1分間攪拌して、混合物を得た。
次いで、攪拌装置を備えた密閉型反応容器(容量1Lの攪拌機付きオートクレーブ)に、液体オレフィン重合体(ルーカントLX004)100gを導入し、回転数200rpmで攪拌しながら、加熱を開始した。密閉型反応容器内の液体オレフィン重合体の温度が設定温度の160℃に到達した後に、シランカップリング剤及び有機過酸化物の混合物を5mL/分の注入速度で密閉型反応容器内に注入した。混合物を全量注入した後に、設定温度で1時間、攪拌を続けた。こうして、有機過酸化物の存在下で液体オレフィン重合体とシランカップリング剤とを反応させて、実施例1の液状シラングラフトオレフィン組成物を調製した。
【0056】
<実施例2>
実施例1において、液体オレフィン重合体の加熱開始前にシランカップリング剤及び有機過酸化物の混合物を注入したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の液状シラングラフトオレフィン組成物を調製した。
【0057】
<実施例3~6、8及び比較例1、2>
実施例2において、液体オレフィン重合体の種類及び混合量、シランカップリング剤の混合量、及び有機過酸化物の混合量を表1に示した内容に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3~6、8及び比較例1、2の液状シラングラフトオレフィン組成物をそれぞれ調製した。
【0058】
<実施例7>
実施例2において、攪拌装置を備えた密閉型反応容器(容量1Lのオートクレーブ)に代えて、攪拌装置(マグネチックスターラー)と開放型反応容器(容量1Lのビーカー)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例7の液状シラングラフトオレフィン組成物を調製した。
【0059】
実施例1~8及び比較例1、2で製造した各液状シラングラフトオレフィン組成物は、いずれも、常温常圧において液状を示していた。
製造した各液状シラングラフトオレフィン組成物について、下記試験をして、その結果を表1に示した。
【0060】
<評価1:100℃での動粘度測定>
各実施例及び比較例において製造した液状シラングラフトオレフィン組成物について、常圧下、100℃での動粘度をブルックフィールド粘度計(型番:RVDV2T、ブルックフィールド社製)で測定した。
本試験は、反応後の生成物を、取り扱い可能な範囲での最高の温度において、どの程度の作業性を持つかを評価する参考試験である。
100℃での粘度は、1,000mm2/s以下であった場合を「〇」(合格)とし、1,000mm2/sを超えていた場合を「×」(不合格)とした。
【0061】
<評価2:作業性試験>
各実施例及び比較例において、有機過酸化物の存在下で液体オレフィン重合体とシランカップリング剤とを反応させた後、反応容器内での液状シラングラフトオレフィン組成物の温度が50℃に下がった時点で、反応容器を垂直方向に対して90°傾斜(横転)させた。
反応容器を横倒させてから1分経過後に、横転させた反応容器の上方に位置する容器内面に液状シラングラフトオレフィン組成物が付着(残存)しているかを確認した。
本試験は、調製した液状シラングラフトオレフィン組成物が液状を維持しているかを評価する試験であり、本試験に合格すると、成形時に高温への加熱工程及び加熱装置を不要としながらも、成形が可能となって、高い作業性(取扱容易性)を実現することができる。
作業性試験の評価は、反応容器を横倒させてから1分以内に、横転させた反応容器の上方に位置する容器内面に液状シラングラフトオレフィン組成物が付着(残存)していなかった場合を「〇」(合格)とし、反応容器を横倒させてから1分を経過しても横転させた反応容器の上方に位置する容器内面に液状シラングラフトオレフィン組成物が付着(残存)していた場合を「△」(合格)とし、全く形状が変わらず、反応容器から流出しなかった場合を「×」(不合格)とした。
【0062】
<評価3:変色の有無試験>
各実施例及び比較例において製造した液状シラングラフトオレフィン組成物を目視にて確認し、変色(通常黄変)の有無を評価した。
本試験は、液状シラングラフトオレフィン組成物の調製時におけるグラフト化反応や混合状態の均一性等を評価する試験であり、本試験に合格すると、外観に優れたシラン架橋硬化物を製造することができる。
変色の有無試験の評価は、製造した液状シラングラフトオレフィン組成物に変色が確認できなかった場合を「〇」(合格)とし、変色が確認できた場合を「×」(不合格)とした。
【0063】
<評価4:硬化性試験>
各実施例及び比較例において製造した液状シラングラフトオレフィン組成物を、各液状シラングラフトオレフィン組成物の製造に用いた液状オレフィン重合体100質量部に対してシラノール縮合触媒0.1質量部の存在下、60℃、相対湿度80%の環境に24時間放置して、水と接触させた。
シラノール縮合触媒の存在下で水と接触させる方法としては、各液状シラングラフトオレフィン組成物に常温常湿(25℃、50RH%)環境下で所定量のシラノール縮合触媒を添加し、100rpmの条件で1分間攪拌して調製した混合物を、上記の環境に放置する方法を採用した。
本試験は、架橋管等の特別な架橋装置を用いた高温での過度な加熱工程及び架橋装置を必要とせず、温和な条件でシラノール縮合反応を生起、進行させ、液状シラングラフトオレフィン組成物のシラン架橋硬化物(固体組成物)を製造できるかを評価する試験である。
硬化性試験の評価は、製造した液状シラングラフトオレフィン組成物がシラノール縮合反応して、(液状を喪失して)固体状態の組成物(シラン架橋硬化物)に変化した場合を「〇」(合格)とし、液状を喪失せずに液状組成物のままであった場合を「×」(不合格)とした。
【0064】
<評価5:均一性試験>
各実施例及び比較例において製造した液状シラングラフトオレフィン組成物(任意の箇所)から10mLの試験液を5検体採取し、各試験体の粘度をブルックフィールド粘度計(型番:RVDV2T、ブルックフィールド社製)で測定した。
本試験は、液状シラングラフトオレフィン組成物が均一な液状を維持しているかを評価する参考試験の1つであり、本試験に合格すると、最終架橋反応を均一に進行させて外観や特性がほぼ一定のシラン架橋硬化物を得ることができる。
均一性試験の評価は、5検体の粘度の平均値(ρAV)と、各検体の粘度(ρM)との差の絶対値(|ρAV-ρM|)を取った際に、5検体すべての絶対値(|ρAV-ρM|)が平均値(ρAV)の5%以下の範囲に含まれていた場合を「◎」(合格)、5検体すべての絶対値(|ρAV-ρM|)が5%を超え10%以下の範囲に含まれていた場合を「○」(合格)、少なくとも1検体の絶対値(|ρAV-ρM|)が10%を超えていた場合を「×」(不合格)とした。
【0065】
【0066】
表1において、「反応容器」欄の、「密閉」は密閉型反応容器(オートクレーブ)を用いたことを、「解放」は開放型反応容器(ビーカー)を用いたことを示す。また、「注入」欄の、「最中」は液状オレフィン重合体が設定温度に到達してから混合物を注入したことを、「最初」は液状オレフィン重合体を加熱する前に混合物を注入したことを示す。
【0067】
表1に示す結果から次のことが分かる。
すなわち、液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応させるシランカップリング剤の量が多すぎる比較例1の液状シラングラフトオレフィン組成物は、液状シラングラフトオレフィン組成物自体に変色が発生しており、外観に優れたシラン架橋硬化を製造できない。一方、液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応させるシランカップリング剤の量が少なすぎる比較例2の液状シラングラフトオレフィン組成物は、十分な架橋構造が構築されたシラン架橋硬化物とならない。
これに対して、液状オレフィン重合体に対してグラフト化反応させるシランカップリング剤の量を所定量に設定した実施例1~8の液状シラングラフトオレフィン組成物は、いずれも、常温常圧で液状を示して成形時に加熱工程及び加熱装置を不要とするうえ、変色の発生もない。しかも、架橋管等の特別な架橋装置を用いることなく、温和な条件で最終架橋反応であるシラノール縮合反応が進行して十分な架橋構造を有するシラン架橋硬化物を製造できる。特に、密閉型反応容器を用いて調製した実施例1~6及び8の液状シラングラフトオレフィン組成物は、いずれも、均一な液状にあり、外観や特性がほぼ一定のシラン架橋硬化物を製造できる。
【要約】
【課題】成形時に加熱工程及び加熱装置を不要とし、かつ最終架橋反応時においても架橋管等の架橋装置を不要としながらも最終架橋反応を速やかに進行させて外観に優れたシラン架橋硬化物を製造可能な、変色等がなく作業性にも優れた液状シラングラフトオレフィン組成物と、そのシラン架橋硬化物、並びに、これらの製造方法を提供する。
【解決手段】液状オレフィン重合体100質量部に対してシランカップリング剤3~30質量部をグラフト化反応させて得られる液状シラングラフトオレフィン組成物、及びそのシラン架橋硬化物、並びに、液状オレフィン重合体100質量部とシランカップリング剤3~30質量部とを有機過酸化物0.1~2質量部の存在下、50~200℃の温度で反応させる工程を有する製造方法。
【選択図】なし