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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】放射性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/08 20060101AFI20240430BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20240430BHJP
   G21H 5/02 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G21G4/08 G
G21F9/00 A
G21G4/08 T
G21H5/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020087511
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021181932
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [刊行物] 「Electrowetting on Dielectric(EWOD)Device with Dimple Structures for Highly Accurate Droplet Manipulation(高精度な液滴操作のためのディンプル構造を有するEWOD装置)」,Applied Sciences,第9巻,第12号,第2406番(全9頁) [発行日] 令和1年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】508319602
【氏名又は名称】学校法人京都薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】茂木 克雄
(72)【発明者】
【氏名】夏目 徹
(72)【発明者】
【氏名】足達 俊吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 朋也
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0181195(US,A1)
【文献】特表2017-528509(JP,A)
【文献】特開2008-012490(JP,A)
【文献】特表2008-505747(JP,A)
【文献】特表2015-518478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 4/08
G21F 9/00
G21H 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面上に配置される複数の電極と、前記複数の電極を覆うように前記基板の表面上に配置される絶縁膜とを備え、前記絶縁膜が、前記基板の表面を向く裏面と、前記絶縁膜の裏面に対して前記絶縁膜の厚さ方向の反対側に位置する表面とを有し、前記絶縁膜が、前記複数の電極にそれぞれ対応して位置し、かつ前記絶縁膜の表面から前記絶縁膜の裏面に向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプルを有し、各電極が、それに対応して位置する前記ディンプルと一緒になって前記凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部を有する、液体操作装置を用いた放射性組成物の製造方法であって、
前記絶縁膜の表面上にて、前記複数のディンプルのうち少なくとも2つに、放射性核種を含む少なくとも1つの第1の液滴と、ラベリング物質を含む少なくとも1つの第2の液滴とをそれぞれ配置する工程と、
前記複数の電極に印加する電圧を変化させることによって生じる静電気力の変化を用いて、前記少なくとも1つの第1の液滴と、前記少なくとも1つの第2の液滴とを前記複数のディンプルのうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させることによって、混合液を得る工程と
を含み、前記静電気力の変化を用いて前記混合液を前記複数のディンプルのうち隣り合う2つの間にて移動させることを少なくとも1回行うことによって、前記混合液を撹拌する工程をさらに含む、放射性組成物の製造方法。
【請求項2】
基板と、前記基板の表面上に配置される複数の電極と、前記複数の電極を覆うように前記基板の表面上に配置される絶縁膜とを備え、前記絶縁膜が、前記基板の表面を向く裏面と、前記絶縁膜の裏面に対して前記絶縁膜の厚さ方向の反対側に位置する表面とを有し、前記絶縁膜が、前記複数の電極にそれぞれ対応して位置し、かつ前記絶縁膜の表面から前記絶縁膜の裏面に向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプルを有し、各電極が、それに対応して位置する前記ディンプルと一緒になって前記凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部を有する、液体操作装置を用いた放射性組成物の製造方法であって、
前記絶縁膜の表面上にて、前記複数のディンプルのうち少なくとも2つに、放射性核種を含む少なくとも1つの第1の液滴と、ラベリング物質を含む少なくとも1つの第2の液滴とをそれぞれ配置する工程と、
前記複数の電極に印加する電圧を変化させることによって生じる静電気力の変化を用いて、前記少なくとも1つの第1の液滴と、前記少なくとも1つの第2の液滴とを前記複数のディンプルのうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させることによって、混合液を得る工程と
を含み、
前記配置する工程にて、前記少なくとも1つの第1の液滴及び前記少なくとも1つの第2の液滴をそれぞれ配置した前記少なくとも2つのディンプルとは異なる前記複数のディンプルのうち少なくとも1つに、pH調整剤を含む少なくとも1つの第3の液滴をさらに配置し、
前記混合液を得る工程にて、前記静電気力の変化を用いて、前記少なくとも1つの第1の液滴と、前記少なくとも1つの第2の液滴と、前記少なくとも1つの第3の液滴とを前記複数のディンプルのうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させる、放射性組成物の製造方法。
【請求項3】
可撓性基板と、前記可撓性基板の表面上に配置される複数の電極と、前記複数の電極を覆うように前記可撓性基板の表面上に配置される絶縁膜とを備え、前記絶縁膜が、前記可撓性基板の表面を向く裏面と、前記絶縁膜の裏面に対して前記絶縁膜の厚さ方向の反対側に位置する表面とを有し、前記絶縁膜が、前記複数の電極にそれぞれ対応して位置し、かつ前記絶縁膜の表面から前記絶縁膜の裏面に向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプルを有し、各電極が、それに対応して位置する前記ディンプルと一緒になって前記凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部を有する、液体操作装置を用いた放射性組成物の製造方法であって、
前記絶縁膜の表面上にて、前記複数のディンプルのうち少なくとも2つに、放射性核種を含む少なくとも1つの第1の液滴と、ラベリング物質を含む少なくとも1つの第2の液滴とをそれぞれ配置する工程と、
前記複数の電極に印加する電圧を変化させることによって生じる静電気力の変化を用いて、前記少なくとも1つの第1の液滴と、前記少なくとも1つの第2の液滴とを前記複数のディンプルのうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させることによって、混合液を得る工程と
を含む、放射性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の液滴に含まれる放射性核種が、99mTc、111In、67Ga、123I、68Ga、64Cu、89Zr、18F、63Zn、44Sc、124I、90Y、223Ra、211At、225Ac、177Lu、131I、89Srから選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の放射性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体操作装置を用いた放射性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ、医療、創薬等の技術分野においては、個別医療の発展に伴って、薬剤の多品種少量生産が行われることが多くなってきている。薬剤の多品種少量生産においては、希少な試薬、危険な薬品等を扱うことがあり、かつ様々な薬剤を調製することが欠かせないため、調製の自動化が求められている。
【0003】
例えば、調製においては、PCRラベリング等を目的として、放射性同位体を含む2種類の液体試薬を混合することがある。このような混合を自動化するための技術の一例としては、非特許文献1に開示された装置が挙げられる。かかる装置は、2つの注入口と、1つの出口と、2つの注入口からY字形状を成すように合流した後に1つの出口まで蛇行しながら延びる閉鎖空間から成る経路とを有するマイクロリアクターチップと、シリンジポンプと、このシリンジポンプによって駆動され、かつ2つの注入口にそれぞれ接続される2つのマイクロシリンジとを含み、2つのマイクロシリンジによって2種類の液体試薬が2つの注入口からそれぞれ投入され、これら2種類の液体試薬が上記経路を通過するときに混合され、これによって、反応混合液が得られて、さらに、反応混合液が1つの出口から収集されるようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hidekazu Kawashima, 他8名, "Application of Microreactor to the Preparation of C-11-Labeled Compounds via O-[11C]Methylation with [11C]CH3I: Rapid Synthesis of [11C]Raclopride", Chemical and Pharmaceutical Bulletin, Volume 63, No. 9, p. 737 - 740, accepted June 18, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術の一例のように、マイクロリアクターチップ、シリンジポンプ、及び2つのマイクロシリンジを有する装置は、大型かつ煩雑であり、このような技術を用いた場合、希少な試薬、危険な薬品等が扱い難くなり、その結果、液滴の操作精度が低くなる。また、各装置に残存し得る放射性同位体の適切な処理のための費用が膨大となる問題がある。さらに、上記技術を用いた場合、効能劣化が早いRI試薬等を速やかに扱うことが難しくなる。
【0006】
このような実情を鑑みれば、放射性同位体を含む反応混合液、特に、放射性組成物の製造方法においては、放射性物質による装置の汚染を最小限とし、液滴の混合を高速化かつ高精度化することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、「Katsuo Mogi,他4名,"Electrowetting on Dielectric (EWOD) Device with Dimple Structures for Highly Accurate Droplet Manipulation", Applied Sciences. 2019, Volume 9, Issue 12, 2406, 9 pages, published June 13, 2019」の文献に開示されるような開放空間型の液体操作装置を用いた放射性組成物の製造方法を発明した。かかる液体操作装置は、EWOD(Electro Wetting On Dielectric)を利用して液滴を操作するように構成されている。より具体的には、当該液体操作装置は、紙等から構成される基板と、この基板の表面上に配置される複数の電極と、これら複数の電極を覆うように基板の表面上に配置される絶縁膜とを有し、絶縁膜が、基板の表面を向く裏面と、絶縁膜の裏面に対して絶縁膜の厚さ方向の反対側に位置する表面とを有し、絶縁膜が、複数の電極にそれぞれ対応して位置し、かつ絶縁膜の表面から絶縁膜の裏面に向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプルを有し、各電極が、それに対応して位置するディンプルと一緒になって凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部を有し、複数の電極への電圧印加に基づいて得られる静電気力を変化させることによって、液滴をディンプルにて停止させることができ、かつ液滴を複数のディンプル間で移動させることができるようになっている。
【0008】
このような本発明の一態様に係る放射性組成物の製造方法は、基板と、前記基板の表面上に配置される複数の電極と、前記複数の電極を覆うように前記基板の表面上に配置される絶縁膜とを備え、前記絶縁膜が、前記基板の表面を向く裏面と、前記絶縁膜の裏面に対して前記絶縁膜の厚さ方向の反対側に位置する表面とを有し、前記絶縁膜が、前記複数の電極にそれぞれ対応して位置し、かつ前記絶縁膜の表面から前記絶縁膜の裏面に向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプルを有し、各電極が、それに対応して位置する前記ディンプルと一緒になって前記凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部を有する、液体操作装置を用いた放射性組成物の製造方法であって、前記絶縁膜の表面上にて、前記複数のディンプルのうち少なくとも2つに、放射性核種を含む少なくとも1つの第1の液滴と、ラベリング物質を含む少なくとも1つの第2の液滴とを配置する工程と、前記複数の電極に印加する電圧を変化させることによって生じる静電気力の変化を用いて、前記少なくとも1つの第1の液滴と、前記少なくとも1つの第2の液滴とを前記複数のディンプルのうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させることによって、混合液を得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
一態様に係る放射性組成物の製造方法においては、第1の液滴と、第2の液滴との混合を高速化でき、かつ高精度化し、第1の液滴に含まれる化合物と、第2の液滴に含まれる化合物との反応を促進することができる。また、当該製造方法においては、ごく微量の放射性組成物を、最小限の汚染で製造可能であるため、経済性及び安全性の観点からも極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る放射性組成物の製造方法に用いられる液体操作装置を概略的に示す平面図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
図3図3(a)、(b)、及び(c)は、それぞれ、液滴の移動前、液滴の移動中、及び液滴の移動後における液体操作装置を図1のB-B線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図4図4は、一実施形態に係る放射性組成物の製造方法における一例にて、1つの第1の液滴と、1つの第2の液滴とを配置する工程を実施した状態の液体操作装置を概略的に示す平面図である。
図5図5は、一実施形態に係る放射性組成物の製造方法における一例にて、1つの第1の液滴と、1つの第2の液滴とを混合することによって混合液を得る工程を実施した状態の液体操作装置を概略的に示す平面図である。
図6図6は、一実施形態に係る放射性組成物の製造方法における一例にて、混合液を撹拌する工程を実施した状態の液体操作装置を概略的に示す平面図である。
図7図7は、一実施形態に係る放射性組成物の製造方法における別の一例にて、2つの第1の液滴と、2つの第2の液滴と、2つの第3の液滴とを配置する工程を実施した状態の液体操作装置を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態に係る放射性組成物の製造方法について以下に説明する。
【0012】
「放射性組成物の製造方法の概略」
図1~7を参照して、本実施形態に係る放射性組成物の製造方法の概略について説明する。すなわち、本実施形態に係る放射性組成物の製造方法は概略的には次のようなものになっている。
【0013】
かかる製造方法においては、液体操作装置1を用いて放射性組成物を製造する。ここで、図1及び2を参照して液体操作装置1を概略的に説明しておく。液体操作装置1は基板2を有する。基板2は、裏面2aと、この裏面2aに対して基板2の厚さ方向の反対側に位置する表面2bとを有する。液体操作装置1は、基板2の表面2b上に配置される複数の電極3を有する。液体操作装置1は、複数の電極3を覆うように基板2の表面2b上に配置される絶縁膜4を有する。
【0014】
絶縁膜4は、基板2の表面2bを向く裏面4aと、この裏面4aに対して絶縁膜4の厚さ方向の反対側に位置する表面4bとを有する。絶縁膜4はまた、絶縁膜4の表面4bから絶縁膜4の裏面4aに向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプル5を有する。複数のディンプル5は、それぞれ複数の電極3に対応して配置される。各電極3は、それに対応して位置するディンプル5と一緒になって上記凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部6を有する。
【0015】
図1及び3(a)~(c)に示すように、このような液体操作装置1においては、複数の電極3への電圧印加に基づいて得られる静電気力を変化させることによって、液滴L及び後述する混合液Mのそれぞれを各ディンプル5にて停止させることができ、かつ上記静電気力を変化させることによって、液滴L及び混合液Mのそれぞれを複数のディンプル5のうち隣り合う2つの間で移動させることを少なくとも1回行うことができる。
【0016】
なお、本明細書において、単に「液滴」という場合、この「液滴」は、後述する第1~第3の液滴及びその他の液滴を総称するものとする。また、図1と、後述する図4~7とにおいては、移動前の液滴Lは実線によって示され、かつ移動後の液滴Lは仮想線、すなわち、二点鎖線によって示されている。
【0017】
図4に示すように、このような液体操作装置1を用いた放射性組成物の製造方法は、絶縁膜4の表面4b上にて、複数のディンプル5のうち少なくとも2つに、放射性核種を含む少なくとも1つの第1の液滴L1と、ラベリング物質を含む少なくとも1つの第2の液滴L2とをそれぞれ配置する工程(配置工程)を含む。図4及び5に示すように、かかる製造方法はまた、複数の電極3に印加する電圧を変化させることによって生じる静電気力の変化を用いて、少なくとも1つの第1の液滴L1と、少なくとも1つの第2の液滴L2とを複数のディンプル5のうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させることによって、混合液Mを得る工程(混合工程)を含む。
【0018】
ここで、本明細書において、「混合液」は、2種類以上の液滴を混合した溶液を指し、かつ必要に応じて、このような「混合液」に符号Mを付す。そのため、「混合液M」は、第1及び第2の液滴L1,L2を混合した溶液と、後述する第1~第3の液滴L1~L3を混合した溶液と、第1~第3の液滴L1~L3及びこれら以外の液滴を混合した溶液とを総称するものとする。本発明の製造方法においては、例えば、第1の液滴L1中の出発物質と、第2の液滴L2中の出発物質とが反応し、反応生成物である放射性医薬物質を含む組成物を生成する場合に、混合液M中の組成は、反応の経過により経時的に変化し得るが、本明細書において、混合液Mは、このような組成の変化に関わらず、上記混合後の溶液をいうものとする。
【0019】
さらに、本実施形態に係る放射性組成物の製造方法は概略的には次のようなものとすることができる。図5及び6に示すように、放射性組成物の製造方法は、静電気力の変化を用いて混合液Mを複数のディンプル5のうち隣り合う2つの間にて移動させることを少なくとも1回行うことによって、混合液Mを撹拌する工程(撹拌工程)をさらに含む。
【0020】
放射性組成物は、放射性医薬物質を含む溶液である。第1の液滴L1は、放射性核種を含む溶液から構成される。第1の液滴L1は、放射性組成物の製造に用いられる出発物質の1つを含むか又は出発物質の1つそのものとすることができる。第2の液滴L2は、ラベリング物質を含む溶液から構成される。第2の液滴L2は、放射性組成物の調製に用いられる別の出発物質を含むか又は出発物質の1つそのものとすることができる。第1の液滴L1中に含まれる放射性核種を含む化合物と、第2の液滴L2中に含まれるラベリング物質とが反応し、目的物質(反応生成物)である放射性医薬物質を生成する。放射性組成物は、放射性医薬物質を含み、添加剤や溶媒等の成分を含み得る。
【0021】
図7に示すように、配置工程では、少なくとも1つの第1の液滴L1及び少なくとも1つの第2の液滴L2をそれぞれ配置した少なくとも2つのディンプル5とは異なる複数のディンプル5のうち少なくとも1つに、pH調整剤を含む少なくとも1つの第3の液滴L3をさらに配置する。さらに、図5及び7に示すように、混合工程では、静電気力の変化を用いて、少なくとも1つの第1の液滴L1と、少なくとも1つの第2の液滴L2と、少なくとも1つの第3の液滴L3とを複数のディンプル5のうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させる。
【0022】
「液体操作装置の詳細」
図1~3を参照すると、液体操作装置1は詳細には次のように構成することができる。図1及び2に示すように、液体操作装置1の基板2は、可撓性を有するようにシート状又はフィルム状に形成されている。ここで、「フィルム」は、約200μm(マイクロメートル)以下の厚さを有する膜状物体を指し、かつ「シート」は、約200μmを超える厚さを有する膜状物体を指す。例えば、基板2は、インクジェットプリンタ等の印刷機を用いて、かかる基板2上に電極3を載せることができるように構成することができる。
【0023】
基板2は、紙、樹脂等を用いて構成されるとよい。ここで、「紙」は、植物繊維、その他の繊維等を膠着(こうちゃく)させることによって製造したものをいい、多孔質体などの無機物や、合成分子等の有機分子を添加したものであってもよい。「樹脂」は、天然及び/又は合成高分子化合物材料を主成分とするものであって、繊維や無機物等をさらに含む複合材料であってもよく、特には、熱による加工が容易な熱可塑性樹脂であるとよい。特に、基板2は、折り曲げ可能であるとよく、基板2はまた、はさみ、カッター等の刃物を用いて容易に切断可能であるとよい。基板2は、樹脂から成る射出成形品とすることもできる。
【0024】
さらに、基板2の厚さは、基板2が可撓性を有するように設定される。例えば、基板2が、紙を用いて構成されるか、又は紙である場合において、基板2の厚さは、約100μm~約200μmとすることができる。基板2が、樹脂を用いて構成されるか、又は樹脂である場合において、基板2は、その厚さを約200μm以下とするフィルムであってもよく、又はその厚さを約200μmよりも大きくしたシートであってもよい。基板2は、ガラスやシリコンを用いて構成されないことが好ましい。しかしながら、本発明の基板の材料及び厚さの関係は、これに限定されない。
【0025】
液体操作装置1の電極3は、導電材料から構成される。導電材料は、金属、カーボン、金属酸化物、これらの材料のうち少なくとも1つを含有する材料等であるとよい。電極3はまた膜状に形成されている。一例として、導電インクにより電極3を形成することができる。かかる電極3の厚さは、ディンプル形成加工等によって、電極3が絶縁膜4と一緒に塑性変形可能となるように設定される。
【0026】
各電極3は、それに対応するディンプル5よりも大きく形成されている。複数の電極3は、基板2の表面2b上で互いに間隔を空けて配置されている。さらに、複数の電極3は、基板2の表面2b上でm行かつn列の行列状に配置されている。なお、mは1以上の整数であると共にnは2以上の整数であるか、又はmは2以上の整数であると共にnは1以上の整数である。図1においては、一例として、18個の電極3が2行かつ5列の行列状に配置されている。しかしながら、複数の電極の配置は、行列状に限定されず、複数の電極は、液体を移動させることを意図した所望の移動経路をもたらすことができるように配置されていればよい。例えば、複数の電極は、これらの形状を略六角形状に限定しないハニカム行列状に配置することができる。
【0027】
図3(a)~(c)に示すように、このような複数の電極3は回路Cに接続されており、回路Cは、複数の電極3に対して各別に電圧を印加できるようになっている。図1においては、回路Cは基板2の外部に配置されている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、回路の少なくとも一部が基板に配置されてもよい。例えば、回路の一部である配線等が基板に配置されてもよい。
【0028】
なお、図3(a)~(c)においては、複数の電極3に対して各別に電圧を印加する状態を説明するために、一例として、スイッチ、電源、接地等を含む回路Cを模式的に示している。しかしながら、複数の電極に接続される回路は、図3~7の回路Cに限定されず、第1~第3の液滴等の液滴及び混合液のそれぞれを停止及び移動させるための静電気力を発生可能とするように複数の電極に対して各別に電圧を印加できれば、あらゆる構成とすることができる。
【0029】
図1及び2に示すように、液体操作装置1の絶縁膜4の表面4bは外部に開放されている。そのため、液体操作装置1は開放型となっている。また、絶縁膜4は電気絶縁性を有するとよく、かつ絶縁膜4、特に、絶縁膜4の表面4bは疎水性を有するとよい。そのため、絶縁膜4は、電気絶縁性及び疎水性を有する材料を用いて構成されるとよい。かかる材料は、電気絶縁性及び疎水性を有する樹脂等、例えば、フッ素系樹脂等であるとよい。なお、絶縁膜の表面を、疎水性を有する材料又は電気絶縁性及び疎水性を有する材料を用いて構成し、かつ絶縁膜の表面以外の部分を、電気絶縁性を有する材料を用いて構成することもできる。
【0030】
絶縁膜4のディンプル5は、絶縁膜4の表面4bで開口する開口部5aと、この開口部5aを囲むように開口部5aの周縁に位置する開口縁部5bとを有する。開口縁部5bは、略円形形状に形成されている。しかしながら、開口縁部の形状は、略円形形状に限定されない。例えば、開口縁部は、略四角形状、略六角形状等の略多角形状、略楕円形形状等に形成することができる。なお、開口縁部は湾曲した角を有するように形成することもできる。
【0031】
ディンプル5はまた、開口部5aと絶縁膜4の厚さ方向に対向すると共に開口部5aに対して絶縁膜4の裏面4a側に位置する底部5cを有する。ディンプル5は、開口縁部5bと底部5cとの間で延びる周壁部5dを有する。底部5cは、凹方向に凹む略円弧形状に形成されている。しかしながら、底部の形状は、略円弧形状に限定されない。例えば、底部は、略平坦形状に形成することができる。底部は、凹方向に凹む略錐体形状に形成することもできる。
【0032】
周壁部5dは、開口縁部5bから底部5cに向かうに従って狭まるように形成されている。周壁部5dは、凹方向に凹む略円弧形状形成されている。しかしながら、周縁部の形状は、このような略円弧形状に限定されない。例えば、周壁部は、開口縁部と底部との間で略直線状に延びるように形成することができる。
【0033】
ディンプル5において、凹方向に凹む略円弧形状の底部5c及び周壁部5dの曲率は実質的に等しくなっている。しかしながら、略円弧形状の底部及び周壁部の曲率は互いに異ならせることもできる。さらに、ディンプル5の最大深さ、ディンプル5の開口縁部5bの大きさ、ディンプル5の形状等は、液体、特に、液滴Lを、ディンプル5を配置した位置に一定かつ安定的に保持できる一方で、ディンプル5に嵌合した液体、特に、液滴Lをスムーズに移動させることができるように定められる。
【0034】
「液体の移動操作」
図3(a)~(c)を参照して、液体操作装置1における液滴Lの移動操作について説明する。最初に、図3(a)に示すように、液体操作装置1は、1つの電極3に電圧を印加し、かつ残りの電極3又は当該1つの電極3の周囲における電極3に、当該1つの電極3の電圧よりも低い電圧を印加するか又は電圧を印加しない電圧印加状態となっている。この電圧印加状態で生じる静電気力と、上記1つの電極3に対応する1つのディンプル5への液滴Lの嵌合とによって、液滴Lが、かかる1つのディンプル5を配置した1つの停止位置で一定かつ安定的に保持されている。
【0035】
次に、図3(b)に示すように、液体操作装置1を、上記1つの電極3に隣接する別の1つの電極3に電圧を印加し、かつ残りの電極3又は当該別の1つの電極3の周囲における電極3に、当該別の1つの電極3の電圧よりも低い電圧を印加するか又は電圧を印加しない別の電圧印加状態とする。このとき、上記1つの停止位置にある液滴Lが、別の電圧印加状態で生じる静電気力によって、片側矢印R(図1に示す)に示すように、上記別の1つの電極3に対応する別の1つのディンプル5を配置した別の1つの停止位置に引き寄せられ、かつ1つの停止位置から別の1つの停止位置に移動する。
【0036】
その後、図3(c)に示すように、別の電圧印加状態で生じる静電気力と、上記別の1つのディンプル5への液滴Lの嵌合とによって、液滴Lが、別の1つの停止位置で確実に停止し、かつ別の1つの停止位置で一定かつ安定的に保持される。特に、1つの停止位置から別の1つの停止位置に向かう液滴Lは、上記別の1つのディンプル5によって、この液滴Lの慣性力に抗するように確実に別の1つの停止位置に停止させることができる。なお、混合液Mもまた液滴Lと同様に移動操作することができる。
【0037】
「放射性組成物の詳細」
本発明の製造方法により得られる放射性組成物について説明する。放射性組成物は、先に説明した第1の液滴L1に含まれる放射性核種と、第2の液滴L2に含まれるラベリング物質との反応物生成物である放射性医薬物質を含み、任意選択的に、溶媒、反応停止剤、添加剤、及び/又は第3の液滴L3に含まれるpH調整剤をも含む組成物であってよい。具体的な放射性医薬物質としては、ヒドロキシメチレンジホスホン酸テクネチウム(99mTc)注射液、メチレンジボスホン酸テクネチウム(99mTc)注射液、テトロホスミンテクネチウム(99mTc)注射液、[N,N’-エチレンジ-L-システイネート(3-)]オキソテクネチウム(99mTc)ジエチルエステル注射液、テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液、メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)注射液、ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液、フィチン酸テクネチウム(99mTc)注射液、過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液、エキサメタジムテクネチウム(99mTc)注射液、ジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液、ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液、テクネチウムスズコロイド(99mTc)注射液、テクネチウム人血清アルブミン(99mTc)注射液、人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液、N-ピリドキシル-5-メチルトリプトファンテクネチウム(99mTc)注射液、ピロリン酸テクネチウム(99mTc)注射液、ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液、クエン酸ガリウム(67Ga)注射液、塩化インジウム(111In)注射液、塩化インジウム(111In)溶液(イブリツモマブチウキセタン用、ペンテトレオチド用)、ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(111In)注射液、インジウム(111In)オキシキノリン液、塩化イットリウム(90Y)溶液、イットリウム(90Y)イブリツモマブチウキセタンが挙げられるが、これらには限定されない。本発明の方法により製造された放射性組成物は、そのままで、或いは適宜希釈して、PET又はSPECT診断用医薬やRI内用療法用医薬として、注射液や溶液等の形態で用いることができる。
【0038】
「第1~第3の液滴及び混合液の詳細」
第1~第3の液滴L1~L3及び混合液Mの詳細について説明する。第1の液滴L1は、放射性核種を含む溶液である。第1の液滴L1に含まれる放射性核種は、その使用目的により決定され、特に限定されるものではない。例えば、H、11C、14C、13N、15O、18F、32P、44Sc、51Cr、59Fe、60Co、63Zn、64Cu、67Ga、68Ga、81mKr、89Sr、89Zr、90Y、99mTc、111In、123I、124I、125I、131I、133Xe、137Cs、192Ir、198Au、201Tl、223Ra、226Ra、211At、225Ac、177Lu等が挙げられる。これらのうち、99mTc、111In、67Ga、123Iは、SPECT核種として、68Ga、64Cu、89Zr、11C、18F、63Zn、44Scは、PET核種として、90Y、223Ra、211At、225Ac、177Lu、131I、89SrはRI内用療法用核種として、H、14Cは半減期の長い核種として有用である。これらの中でも、99mTc、111In、67Ga、123I、68Ga、64Cu、89Zr、18F、63Zn、44Sc、124I、90Y、223Ra、211At、225Ac、177Lu、131I、89Srが好適に用いられる。常温で混合することで容易に反応させることができるためである。
【0039】
第1の液滴L1は、反応の出発物質となる放射性核種を含む化合物(塩)を、適当な溶媒に溶解することにより調製することができる。溶媒は、純水、注射用水、生理食塩水、各種バッファー、エタノール、ジメチルスルホキシド、その他の有機溶媒等が挙げられるが、それらには限定されない。有機溶媒を用いる場合には、反応終了後に必要に応じて除去することができる。第1の液滴L1には、さらに任意選択的な添加物を含めることができる。添加物としては界面活性剤が挙げられ、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、同液、ポリオキシエチレン(40)モノステアレート(ステアリン酸ポリオキシル40)、ソルビタンセスキオレエート(セスキオレイン酸ソルビタン)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)、グリセリルモノステアレート(モノステアリン酸グリセリン)、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ラウロマクロゴール)等を含むものが挙げられるが、それらには限定されない。第1の液滴L1における放射性核種の濃度は、目的に応じて適宜設定することができる。本発明の方法によれば、従来、人体の被爆の危険性から不可能であった高濃度の出発物質であっても用いることが可能となる。
【0040】
第2の液滴L2は、ラベリング物質を含む液体からなる。ラベリング物質としては、キレート剤、例えば、1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid(DOTA)、1,4,7-Triazacyclononane-1,4,7-triacetic acid(NOTA)、Diethylene triamine pentaacetic acid(DTPA)、Triazacyclononane(TACN)、Diaminedithiols (DADT)、Diamidedithiols (DADS)、Monoaminomonoamido-dithiols(MAMA)、Mercaptoacetyltriglycine (MAG)、Hexamethylpropylene amine oxime(HMPAO)、N,N’-ethylenebis(salicylaldimine)(salen)、N,N’-ethylenebis(acetylacetone imine)(acacen)、N,N’-ethylene-bis(acetylacetone thioimine)(sacacen)、N, N’-bis(2-mercaptoethyl)-2-(ethylthio)-ethylamine、4-Methoxythiophenol、l-[(4-Methoxyphenyl)amino]-2-methylpropane-2-thiol and 2-(mercaptomethyl)pyridine、Glucoheptate、Dimercaptosuccinic acid、N,N’,N’’,N’’’-tetra-(tert-butoxycarbonyl)-6-(carboxy)-1,4,8,11-tetraazaundecane、(4,4-Bis [-bis-hydroxymethyl-phosphonyl-propylcarbarmoyl]-butyric acid)、N-methyl S-methyl dithiocarbazate Hydrazine-2-pyridine(HYPY)、6‐Hydrazino‐4‐nicotinic acid(HYNIC)、Tris(2-mercaptoethyl)amine and isocyanide、Hexakis(2-methoxy-isobutyl-isocyanide)、Histidine、Iminodiacetic acid、2-Picolylamine-N-acetic acid、2-Picolylamine-N,N-diacetic acid、Histamine、2-Picolinic acid、2,4-Dipicolinic acid、Thiele’s acid、Dicarba-closododecaborane、Arenes (benzene and toluene)などが挙げられるが、これらには限定されない。ラベリング物質は、上記以外にも、放射性組成物、特には診断用や治療用の放射性組成物の分野で用いられる任意の試薬であってよい。
【0041】
第2の液滴L2は、ラベリング物質を適当な溶媒に溶解することにより調製することができる。溶媒は、第1の液滴L1を構成する溶媒と同様の選択肢から選択することができる。また、第2の液滴L2にも、さらに任意選択的な添加物を含めてもよく、第1の液滴と同様の界面活性剤を含んでもよいが、それらには限定されない。
【0042】
第2の液滴L2に含まれるラベリング物質は、第1の液滴L1に含まれる放射性核種との関係で決定される。放射性核種とラベリング物質との組み合わせとしては、上記に例示した放射性組成物を構成する組み合わせの他、放射性組成物を構成する放射性核種とラベリング物質の公知の組み合わせであってよく、特には限定されない。
【0043】
このような第1の液滴L1や、第2の液滴L2としては、ポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)や単一光子放射断層撮影(Single photon emission computed tomography:SPECT)診断用試薬の注射液のキットとして市販されているものを利用して調製することもできる。
【0044】
また、第1の液滴L1の液量と、第2の液滴L2の液量は同一であっても同じであってもよく、混合後の混合液Mの液量が、ディンプル5に収容可能な量であればよい。一例として、直径が2mm程度のディンプル5には、5μL~30μL程度の液滴Lを収容し、かつ、移動させることができる。
【0045】
本明細書において、1つの液滴Lとは、1つのディンプル5上に配置される液滴Lをいうものとする。そのため、1つのディンプル5上に少なくとも1つの液滴Lを配置することができる。また、2つ以上のディンプル5上に2つ以上の液滴Lを配置することができる。例えば、1つの第1の液滴L1とは、1つのディンプル5上に配置される液滴をいうものとする。本発明においては、1つのディンプル5上に少なくとも1つの第1の液滴L1を配置することができる。また、2つ以上のディンプル5上に2つ以上の第1の液滴L1を配置することができる。2つ以上の第1の液滴L1は、一般的に同じ種類の物質を含むことができ、かつ同じ組成とすることができる。
【0046】
さらに、1つの第2の液滴L2、1つの第3の液滴L3、及び第1~第3の液滴L1~L3以外である1つの液滴についても同様に定義することができる。例えば、2つ以上のディンプル5上に2つ以上の第2の液滴L2を配置することができる。しかしながら、例えば、1つ又は2つ以上の第1の液滴L1、及び1つ又は2つ以上の第2の液滴L2の総液量は、これらを混合後の混合液Mが1つのディンプル5上に収容可能で、かつ移動可能な液量によって制限され得る。2つ以上の液滴を配置し、混合することで、大容量化を図るといったなどの利点が得られる。
【0047】
第3の液滴L3は、pH調整剤を含む液体からなる。第3の液滴L3は、目的とする放射性組成物の種類により、使用しない場合もあり、使用する場合もある。第3の液滴L3は、一般的には、第1の液滴L1と第2の液滴L2とを混合した後にこれらの混合物にさらに追加する混合される。pH調整剤として用いられる物質には、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸等が挙げられるが、これらには限定されない。また、本発明の製造方法は、必要に応じて、第1~第3の液滴L1~L3とは種類の異なる化合物を含む第4の液滴、第5の液滴、或いはそれ以上の液滴を配置し、混合する工程を含んでもよい。混合される液滴の数及び種類は、混合液Mが、1つのディンプル5上に収容可能で、かつ移動可能である限り、限定されるものではない。
【0048】
「放射性組成物の製造方法の詳細」
図4~7を参照して、本実施形態に係る放射性組成物の製造方法における一例及び別の一例について詳細に説明する。すなわち、放射性組成物の製造方法は、その一例及び別の一例として詳細には次のようなものとすることができる。
【0049】
放射性組成物の製造方法における一例では、図4に示すように、配置工程において、絶縁膜4の表面4b上にて異なる2つのディンプル5に、放射性核種を含む1つの第1の液滴L1と、ラベリング物質を含む1つの第2の液滴L2とをそれぞれ配置する。第1の液滴L1及び第2の液滴L2の配置は、シリンジ等を用いて実施することができる。またこの操作は機械により自動化することもできる。図4及び5に示すように、混合工程において、上述のような静電気力の変化を用いて、1つの第1の液滴L1と、1つの第2の液滴L2とを1つのディンプル5にて混合するように相対的に移動させることによって、1つの混合液Mを得る。
【0050】
図5及び6に示すように、撹拌工程において、静電気力の変化を用いて1つの混合液Mを移動させることによって、1つの混合液Mを撹拌する。図6に示すように、放射性組成物の製造方法は、撹拌工程の後において1つのディンプル5にて、任意選択的に撹拌後の溶液を静置する工程を含むことができる。さらに、ディンプル5から1つの反応生成物を回収する工程(回収工程)を含むことができる。回収工程は、配置工程と同様にシリンジ等を用いて実施することができ、この操作は機械により自動化することもできる。
【0051】
図4においては、混合工程にて第1及び第2の液滴L1,L2を混合する1つのディンプル5は、配置工程にて第1及び第2の液滴L1,L2をそれぞれ配置した2つのディンプル5とは異なっている。しかしながら、混合工程にて第1及び第2の液滴を混合する1つのディンプルは、配置工程にて第1及び第2の液滴をそれぞれ配置した2つのディンプルの一方と同じものにすることができる。この場合、混合工程においては、同2つのディンプルの一方に配置される第1又は第2の液滴を移動させないことができる。
【0052】
図4及び5においては、混合工程にて、第1及び第2の液滴L1,L2のそれぞれが、隣り合う2つのディンプル5間における移動を2回行うことによって、第1及び第2の液滴L1,L2を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。この混合工程において、第1及び第2の液滴L1,L2は、それぞれ片側矢印R1,R2に示すように略L字状に移動している。しかしながら、混合工程にて、上述のように第1及び第2の液滴の一方を移動させないこともできる。混合工程にて、第1及び第2の液滴のそれぞれは、略直線状、略L字状、略コ字状、略ジグザグ状等に移動させることができる。
【0053】
図5及び6においては、撹拌工程にて、混合液Mが、隣り合う2つのディンプル5間における移動を9回行うことによって、混合液Mを回収工程にて回収するための1つのディンプル5に向かって移動している。この撹拌工程において、混合液Mは、片側矢印Nに示すように略渦巻状に移動している。しかしながら、撹拌工程において、混合液は、隣り合う2つのディンプル間の往復移動を少なくとも1回行うことができる。撹拌工程において、混合液を、略直線状、略L字状、略コ字状、略ジグザグ状等に移動させることもできる。
【0054】
放射性組成物の製造方法における別の一例では、図7に示すように、配置工程において、絶縁膜4の表面4b上にて異なる6つのディンプル5に、放射性核種を含む2つの第1の液滴L1と、ラベリング物質を含む2つの第2の液滴L2と、pH調整剤を含む2つの第3の液滴L3とをそれぞれ配置する。図5及び7に示すように、混合工程において、上述のような静電気力の変化を用いて、2つの第1の液滴L1と、2つの第2の液滴L2と、2つの第3の液滴L3とを1つのディンプル5にて混合するように相対的に移動させることによって、1つの混合液Mを得る。上記放射性組成物の製造方法における一例と同様に、撹拌工程及び回収工程を実施する。
【0055】
図7においては、混合工程にて第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5は、配置工程にて計6つの第1~第3の液滴L1~L3をそれぞれ配置した6つのディンプル5とは異なっている。しかしながら、混合工程にて第1~第3の液滴を混合する1つのディンプルは、配置工程にて計6つの第1~第3の液滴L1~L3をそれぞれ配置した6つのディンプルのうち1つと同じものにすることができる。この場合、混合工程においては、同6つのディンプルのうち1つに配置される第1~第3の液滴の1つを移動させないことができる。
【0056】
図5及び7においては、混合工程にて、2つの第1の液滴L1のうち一方が、隣り合う2つのディンプル5間における移動を2回行うことによって、第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。2つの第1の液滴L1のうち他方が、隣り合う2つのディンプル5間における移動を1回行うことによって、第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。
【0057】
2つの第2の液滴L2のうち一方が、隣り合う2つのディンプル5間における移動を2回行うことによって、第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。2つの第2の液滴L2のうち他方が、隣り合う2つのディンプル5間における移動を1回行うことによって、第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。
【0058】
2つの第3の液滴L3のうち一方が、隣り合う2つのディンプル5間における移動を2回行うことによって、第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。2つの第3の液滴L3のうち他方が、隣り合う2つのディンプル5間における移動を2回行うことによって、第1~第3の液滴L1~L3を混合する1つのディンプル5に向かって移動している。なお、第3の液滴L3は、第1及び第2の液滴L1,L2の混合が完了した後に、これらを混合した溶液にさらに添加する態様にて移動させることが好ましい。
【0059】
この混合工程において、2つの第1の液滴L1は、それぞれ片側矢印R11,R12に示すように略L字状に移動している。2つの第2の液滴L2は、それぞれ片側矢印R21,R22に示すように略直線状に移動している。2つの第3の液滴L3は、それぞれ片側矢印R31,R32に示すように略L字状に移動している。しかしながら、混合工程にて、上述のように計6つの第1~第3の液滴のうち1つを移動させないこともできる。混合工程にて、計6つの第1~第3の液滴のそれぞれは、略直線状、略L字状、略コ字状、略ジグザグ状等に移動させることができる。
【0060】
以上、本実施形態に係る放射性組成物の製造方法においては、上述のような液体操作装置1を用い、かかる液体操作装置1は、基板2と、この基板2の表面2b上に配置される複数の電極3と、これら複数の電極3を覆うように基板2の表面2b上に配置される絶縁膜4とを有し、絶縁膜4が、基板2の表面2bを向く裏面4aと、絶縁膜4の裏面4aに対して絶縁膜4の厚さ方向の反対側に位置する表面4bとを有し、絶縁膜4が、複数の電極3にそれぞれ対応して位置し、かつ絶縁膜4の表面4bから絶縁膜4の裏面4aに向かう凹方向に凹むように曲がる複数のディンプル5を有し、各電極3が、それに対応して位置するディンプル5と一緒になって凹方向に凹むように曲がるディンプル対応部6を有する。
【0061】
かかる製造方法は、絶縁膜4の表面4b上にて、複数のディンプル5のうち少なくとも2つに、放射性核種を含む少なくとも1つの第1の液滴L1と、ラベリング物質を含む少なくとも1つの第2の液滴L2とを配置する工程を含む。さらに、当該製造方法は、複数の電極3に印加する電圧を変化させることによって生じる静電気力の変化を用いて、少なくとも1つの第1の液滴L1と、少なくとも1つの第2の液滴L2とを複数のディンプル5のうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させることによって、混合液Mを得る工程を含む。そのため、静電気力の変化を用いて液体操作装置1の絶縁膜4の表面4b上で、第1及び第2の液滴L1,L2をディンプル5にて停止させることと、第1及び第2の液滴L1,L2の少なくとも一方を複数のディンプル5間で移動させることとによって、第1及び第2の液滴L1,L2等の液滴Lの混合を高精度化することができ、かつ高速化することができる。
【0062】
本実施形態に係る放射性組成物の製造方法は、静電気力の変化を用いて混合液Mを複数のディンプル5のうち隣り合う2つの間にて移動させることを少なくとも1回行うことによって、混合液Mを撹拌する工程をさらに含む。
【0063】
このような製造方法においては、混合液Mを複数のディンプル5間で移動させることによって、混合液Mを効率的に撹拌することができる。そのため、第1の液滴L1と、第2の液滴L2との混合を高精度化し、第1の液滴L1に含まれる化合物と、第2の液滴L2に含まれる化合物との反応を促進することができる。
【0064】
本実施形態に係る放射性組成物の製造方法においては、第1の液滴L1に含まれる放射性核種が、99mTc、111In、67Ga、123I、68Ga、64Cu、89Zr、18F、63Zn、44Sc、124I、90Y、223Ra、211At、225Ac、177Lu、131I、89Srから選択される。そのため、常温における反応による合成に適した放射性組成物のオンサイト製造において有利である。
【0065】
本実施形態に係る放射性組成物の製造方法においては、配置する工程にて、少なくとも1つの第1の液滴L1及び少なくとも1つの第2の液滴L2をそれぞれ配置した少なくとも2つのディンプル5とは異なる複数のディンプル5のうち少なくとも1つに、pH調整剤を含む少なくとも1つの第3の液滴L3をさらに配置し、混合液Mを得る工程にて、静電気力の変化を用いて、少なくとも1つの第1の液滴L1と、少なくとも1つの第2の液滴L2と、少なくとも1つの第3の液滴L3とを複数のディンプル5のうちいずれか1つにて混合するように相対的に移動させる。そのため、放射性核種とラベリング物質に加えて、pH調整のための物質が必要な反応を経て最終目的物を生成する場合であっても、液体操作装置1上にてpHの調製を実施することが可能である。
【0066】
本発明の製造方法によれば、放射性組成物の完全な自動化による製造が可能となり、従来、人体の被爆の危険性があって使用不可能であった高濃度の出発物質を用いて、微量かつ高濃度の放射性医薬物質を含有する放射性組成物を調製することができる。特には、半減期が短い核種や高価なラベリング物質を出発物質として用いる、医療現場でのオンサイトの製造に有利である。また、本発明の製造方法は、従来法と比較して、バルブやチューブ等の使用機器を使用することなく、デッドボリュームをなくすことができる。使用する液体操作装置は使い捨てとすることができ、かつ捨てるごみの量も少ないため、機器の放射能による汚染を最小限とし、従来法では必須であった機器の管理や廃棄の手間を大幅に減らすことができる。より具体的には、従来の放射性組成物の合成は被ばくの防護のためにホットセル内で行われてきたが、ホットセル内のサイズに制限があり大きな装置を設置することはできなかった。また、臨床では一つの薬剤で一つの合成装置を用い、複数合成する場合はそれだけ装置が必要になるという問題があった。本発明の製造方法によれば、放射性物質が接触した部分だけを使い捨てとすることができる小型の装置を用いるため、ホットセル内で、異なる複数の組成物を並行して合成することも可能であり、従来の問題を解決することができる。さらには、本発明の製造方法によれば、少量の放射性組成物の合成が可能であるため、一人の個体に投与する量を簡単に合成することができ、個別医療に対応することができる。また、ヒトと比較して投与量が大幅に少ない、マウス等の実験用動物への投与のための放射性組成物の製造にも対応可能である。
【0067】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【実施例
【0068】
実施例として、図1~6に概要を示した液体操作装置1を用いて放射性組成物の製造を行った。放射性組成物としては、ジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(テクネチウム[99mTc]-DTPA)を放射性医薬物質として含む注射液を調製した。この注射液は、腎臓疾患の診断において、シンチグラフィー試薬として一般的に用いられており、ラベリング物質としてのジエチレントリアミン五酢酸溶液と、放薬基としての過テクネチウム酸ナトリウム溶液とを混合することにより調製することが知られている。
【0069】
第1の液滴L1として、10μLの過テクネチウム酸ナトリウム溶液(4.89MBq/mL)を用いた。また、第2の液滴L2として、10μLのジエチレントリアミン五酢酸溶液(0.05mg/μL、テクネ(登録商標)DTPAキット、富士フイルム富山化学製)を用いた。放射線量は、IGC-8 ALOKA キュリーメーター(日立アロカメディカル株式会社製)を用いて測定した。
【0070】
液体操作装置1は、図1~6に示す構成のものを用いた。300μmの紙製の基板2の上に、電極3パターンは10個の凹凸のあるタイルから構成し、導電インクによる配線をインクジェットプリンタによって形成した。本実施例では、5μL及び30μLの液滴を操作するために、タイルの寸法は2×2mmとし、タイルの間隔は300μmとした。絶縁膜4は10μmの厚さのフッ素系絶縁フィルムにより形成した。ディンプル5は、紙製の基板2、導電インクから成る電極3、及びフッ素系絶縁フィルムにより形成される絶縁膜4の積層体にエンボス加工することにより形成した。ディンプル5の直径は2mm、最大深さは47μmとした。
【0071】
実施例における第1の液滴L1及び第2の液滴L2の配置工程及び混合工程は、図4に示した装置を用いた実施形態と同様に行った。第1及び第2の液滴L1,L2の移動は、300Vにて1秒間隔で電圧を印可することによって実施した。最初に10μLの第1の液滴L1を1つのディンプル5に配置し、10μLの第2の液滴L2を別の1つのディンプル5に配置した。そして、第1の液滴L1を、図4において片側矢印R1によって示すように移動させた。次いで、第2の液滴L2を図4において片側矢印R2によって示すように移動させ、2つの液滴L1,L2を混合した。次に、混合液Mを、図5において片側矢印Nによって示すように9つのディンプル5の間で移動させることによって撹拌した。すなわち、撹拌工程を行った。図6に示すように撹拌工程が終了してから5分後に、1つのディンプル5上の混合液Mを回収した。
【0072】
テクネチウム[99mTc]-DTPAの合成の効率は、薄層クロマトグラフィー(Thin-layer chromatography:TLC)により評価した。生成物のオートラジオグラフは、Amersham Typhoon scanner(GEヘルスケア製)によりスキャンすることにより得た。TLCによる測定の結果、テクネチウム[99mTc]-DTPAの合成効率は薬99.3%であった(図示せず)。また、使用済の液体操作装置1のオートラジオグラフを得た結果、液滴を移動させたディンプル5上にも放射性物質の付着はほとんどみられなかった。よって、本発明に係る製造方法によれば、このような高い合成率が達成可能となり、従来法で必要であった未反応の薬剤を取り除く作業が将来的に不要になることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る放射性組成物の製造方法は、臨床上使用可能な診断用医薬及び実験用診断医薬の合成において有利である。特には少量の診断用医薬の合成に有利である。
【符号の説明】
【0074】
1…液体操作装置
2…基板、2b…表面
3…電極
4…絶縁膜、4a…裏面、4b…表面
5…ディンプル
6…ディンプル対応部
L1…第1の液滴、L2…第2の液滴、L3…第3の液滴
M…混合液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7