(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240430BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240430BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20240430BHJP
C12N 15/24 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
C12Q1/02
C07K14/54
C12N15/24
(21)【出願番号】P 2020538488
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033056
(87)【国際公開番号】W WO2020040293
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018157175
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019068459
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506364400
【氏名又は名称】株式会社ステムリム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】玉井 克人
(72)【発明者】
【氏名】新保 敬史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 尊彦
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533961(JP,A)
【文献】特開2016-140346(JP,A)
【文献】特表2016-518107(JP,A)
【文献】特開2017-221438(JP,A)
【文献】玉井克人,末梢循環間葉系細胞の生体損傷組織再生メカニズムを利用した再生誘導医薬開発,BIO Clinica,2016年09月10日,Vol. 31, No. 10,pp. 34-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞および骨髄由来のCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
【請求項2】
間葉系幹細胞および骨髄由来のCD45陽性細胞を含む細胞集団が、骨髄由来の間葉系幹細胞および/または骨髄由来の付着性CD45陽性細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
間葉系幹細胞および骨髄由来のCD45陽性細胞を含む細胞集団を、CD45陽性細胞を活性化させる物質の存在下で培養する、請求項1または2に記載の方法
であって、
CD45陽性細胞を活性化させる物質が、IL-5、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子、リポ多糖、もしくはIL-33、またはこれらの組み合わせである、
方法。
【請求項4】
CD45陽性細胞を活性化させる物質がIL-33である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
IL-33が、
a)配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)配列番号2、3、5、6、7および8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号1または4のアミノ酸配列の一部からなるポリペプチド、
c)配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列を含み、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
d)配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
e)配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、および、
f)配列番号9~16のいずれかの核酸配列と90%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド
からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
IL-33が、配列番号2、3、5、6、7および8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、且つ、配列番号1または4のアミノ酸配列の一部からなるポリペプチドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
間葉系幹細胞を分離する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
間葉系幹細胞を分離する工程が、a)1回以上の継代培養、および/または、b)間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティングを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
間葉系幹細胞を、IL-33の存在下で骨髄由来のCD45陽性細胞と共培養する工程を含む、間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項11】
骨髄由来のCD45陽性細胞を含有する、間葉系幹細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤。
【請求項12】
IL-33をさらに含有する、請求項11に記載の培地または培地添加剤。
【請求項13】
IL-33を含有する、間葉系幹細胞と骨髄由来のCD45陽性細胞の共培養に用いるための培地または培地添加剤。
【請求項14】
以下の工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法:
1)対照培地を用いて間葉系幹細胞を骨髄由来のCD45陽性細胞と共培養する工程、
2)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて間葉系幹細胞を骨髄由来のCD45陽性細胞と共培養する工程、および、
3)工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
【請求項15】
1’)対照培地にIL-33を添加した培地を用いて間葉系幹細胞を骨髄由来のCD45陽性細胞と共培養する工程をさらに含み、工程3)において、工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多く、且つ、工程1’)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
以下の工程を含む、骨髄由来のCD45陽性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法:
1)対照培地を用いて骨髄由来のCD45陽性細胞を培養する工程、
2)IL-33を対照培地に添加した培地を用いて骨髄由来のCD45陽性細胞を培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて骨髄由来のCD45陽性細胞を培養する工程、および、
4)工程2)によって得られた骨髄由来のCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られた骨髄由来のCD45陽性細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られた骨髄由来のCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られた骨髄由来のCD45陽性細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、骨髄由来のCD45陽性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2018-157175号および第2019-068459号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、それらの全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本開示は、間葉系幹細胞の製造方法もしくは培養方法、これらの方法に用いる培地もしくは培地添加剤、または、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法に関する。本開示は、また、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄液等に含まれている間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、神経、上皮等、種々の組織に分化できる能力(多分化能)を有していることから、近年、間葉系幹細胞を用いて再生医療(細胞移植治療)を行う試みが広くなされている。間葉系幹細胞を治療に用いるには大量の細胞が必要になるが、生体内における間葉系幹細胞の存在量は極めて少なく、間葉系幹細胞のソースとして代表的な骨髄においても、その存在頻度は骨髄細胞1万~10万個あたり1個程度である。また、骨髄液の採取はドナーへの負担が大きいため、大量には採取できない。そこで、骨髄液に含まれる間葉系幹細胞を取得し、培養によって増殖させてから治療に用いるのが通常であるが、間葉系幹細胞は体外で継代培養を続けると次第に増殖能力や分化能を低下させてしまうことが知られている。かかる背景から、効率良く間葉系幹細胞を増殖させる方法の開発が望まれている。
【0003】
インターロイキン-33(interleukin-33、IL-33)は、IL-1ファミリーのメンバーとして同定されたサイトカインであり、細胞の傷害または壊死が起こると細胞外に放出され、免疫細胞を活性化してTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)および/または炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6、IFN-γ)の分泌を誘発する。間葉系幹細胞の培養効率の改善を目的として特定のサイトカイン(bFGF)を培地に添加する方法が提案されているが(特許文献1)、IL-33に関しては間葉系幹細胞の増殖に対する作用等は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公報第02/22788号
【文献】国際公報第2012/113927号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nat Rev Immunol. 2010 Feb;10(2):103-10.
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Jan 31;109(5):1673-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的の1つは、インビトロで間葉系幹細胞の増殖を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養することにより、間葉系幹細胞の増殖が促進されることを見出した。
【0008】
ある態様において、本開示は、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法を提供する。
ある態様において、本開示は、間葉系幹細胞を、IL-33の存在下でCD45陽性細胞と共培養する工程を含む、間葉系幹細胞の培養方法を提供する。
ある態様において、本開示は、CD45陽性細胞を含有する、間葉系幹細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤を提供する。
ある態様において、本開示は、IL-33を含有する、間葉系幹細胞とCD45陽性細胞の共培養に用いるための培地または培地添加剤を提供する。
ある態様において、本開示は、以下の工程:
1)対照培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、
2)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、および、
3)工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程、
を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法を提供する。
ある態様において、本開示は、以下の工程:
1)対照培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、
2)IL-33を対照培地に添加した培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、および、
4)工程2)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程、
を含む、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、インビトロで間葉系幹細胞の増殖を促進することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】マウスの大腿骨および椎骨から採取した骨髄細胞を、成熟IL-33タンパク質を含有する培地で固相培養した結果を示す写真である(培養開始後10日目)。
【
図2】培養開始8日目における骨髄由来付着性細胞の数を示すグラフである。
【
図3】培養開始8日目における骨髄由来付着性細胞のFACS解析結果を示す図である。横軸はPDGFRαの発現量(GFPの蛍光で検出)、縦軸はCD45の発現量(APC(Allophycocyanin)標識された抗CD45抗体で検出)をそれぞれ表す。4つの象限に記されている数値は、解析した細胞全体の細胞数に占める、各象限に対応する細胞のパーセンテージを示す。
【
図4】培養開始8日目における骨髄由来付着性細胞のうち、PDGFRα
+CD45
-の細胞と、PDGFRα
-CD45
+の細胞の数を示すグラフである。
【
図5】IL-33添加培地で骨髄細胞を10日間培養したときの培養プレートの1ウェルあたりの細胞数(a)、PDGFRα
+CD45
-細胞数(b)、CD45
+細胞数(c)およびコロニーアッセイの結果(d)を示す。
【
図6】PDGFRα
+細胞を分取しIL-33添加培地で培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
【
図7】
図7aは、PDGFRα
+細胞(Pα
+)を分取した後、骨髄細胞とIL-33添加培地で共培養するか、または、PDGFRα
+細胞を、Transwell上に分取した骨髄細胞の存在下、IL-33添加培地で培養し、コロニーアッセイを行った結果を示す。
図7bは、PDGFRα
+細胞とCD45
-細胞またはCD45
+細胞をIL-33添加培地で共培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
【
図8】
図8aは、MyD88KOマウスの骨髄細胞をIL-33添加培地で培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
図8bは、MyD88KOマウスの骨髄細胞をIL-33添加培地で10日間培養したときのFACSでの解析結果を示す。
【
図9】骨髄細胞をIL-33/p38MAPK阻害剤またはIL-33/NF-κB阻害剤添加培地で培養したときのコロニーアッセイの結果を示す。
【
図10】
図10aは、骨髄細胞をIL-33/DAPT添加培地で培養したときの、コロニーアッセイの結果を示す。
図10bおよびcは、骨髄細胞をIL-33/DAPT添加培地で10日間培養したときの、FACSで解析したPDGFRα
+CD45
-細胞数およびCD45
+細胞数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0012】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0013】
本開示において、「細胞」は、文脈に応じて1個の細胞または複数の細胞を意味する。複数の細胞を「細胞集団」と呼ぶ場合もあり、細胞集団は、文脈に応じて一種類の細胞からなる細胞集団または複数種の細胞を含む細胞集団であり得る。
【0014】
本開示において、「間葉系幹細胞」は、「間葉系間質細胞」と区別なく用いられ、「MSC」と略記される場合もある。一般に、幹細胞とは、単一の細胞から一または複数の組織または細胞種へ分化できる能力と、自己複製能とを併せ持つ細胞を意味する。本開示の間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系組織の内、一または複数の間葉系組織への分化能を有する。間葉系幹細胞は、中胚葉性間葉系組織に加えて、胚葉を超えて上皮系組織、神経組織、心・血管組織への分化能を有してもよい。ある実施形態では、間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞の内の複数の細胞へ分化できる能力を有する。ある実施形態では、間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞の内の複数の細胞へ分化できる能力を有する。ある実施形態では、間葉系幹細胞は、骨芽細胞および脂肪細胞へ分化できる能力を有する。ある実施形態では、間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞および脂肪細胞へ分化できる能力を有する。ある実施形態では、間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞の内の少なくともいずれか一つに分化できる能力を有する。
【0015】
「間葉系幹細胞」の用語を細胞集団の意味で使用する場合、間葉系幹細胞のみで構成される細胞集団であってもよく、細胞集団が間葉系幹細胞と同等の分化能力を示す限り、間葉系幹細胞および間葉系幹細胞と間葉系組織の中間の分化段階にある細胞を含む不均一な細胞集団であってもよい。
【0016】
間葉系幹細胞は、骨髄、血液、例えば末梢血または臍帯血、皮膚、脂肪、歯髄等の組織から取得し得る。間葉系幹細胞は、固相、例えば、培養皿への付着細胞として培養・増殖可能である。従って、ある実施形態では、骨髄または血液に含まれる付着性細胞から間葉系幹細胞を取得し得る。ある実施形態では、コロニー形成能を有することを指標として間葉系幹細胞を判別できる。間葉系幹細胞を含む組織、例えば骨髄から、少なくとも1つの間葉系幹細胞のマーカーを指標とするセルソーティング(FACS、MACS等)により、間葉系幹細胞を分離してもよい。あるいは、多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞、または、樹立された間葉系幹細胞株を使用してもよい。
【0017】
ヒト間葉系幹細胞のマーカーとしては、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、Lin陰性、CD45陰性、CD44陽性、CD90陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD105陽性、CD73陽性、CD90陽性、CD71陽性、Stro-1陽性、CD106陽性、CD166陽性、CD31陰性、CD271陽性、CD11b陰性が例示できるが、これらに制限されるものではない。ある実施形態では、ヒト間葉系幹細胞のマーカーは、PDGFRα陽性である。ある実施形態では、ヒト間葉系幹細胞のマーカーは、PDGFRα陽性且つCD45陰性である。
【0018】
マウス間葉系幹細胞のマーカーとしては、CD44陽性、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、CD45陰性、Lin陰性、Sca-1陽性、c-kit陰性、CD90陽性、CD105陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD271陽性、CD11b陰性が例示できるが、これらに制限されるものではない。ある実施形態では、マウス間葉系幹細胞のマーカーは、PDGFRα陽性である。ある実施形態では、マウス間葉系幹細胞のマーカーは、PDGFRα陽性且つCD45陰性である。
【0019】
本開示において、CD45を発現している細胞を「CD45陽性細胞」と称する。CD45は、膜貫通ドメインを有するI型糖タンパク質であって、白血球共通抗原としても知られており、多くの有核の造血系細胞に発現するチロシンホスファターゼである。CD45は、細胞増殖、分化、有糸分裂、癌化等の様々な細胞プロセスを調節するシグナル伝達分子として知られている。様々な動物種におけるCD45のアミノ酸配列は公知である。
【0020】
CD45陽性細胞としては、例えば、ヒト白血球、すなわちリンパ球、単球、好酸球、好塩基球、好中球、樹状細胞、マクロファージが例示されるがこれに限られるものではない。
【0021】
CD45陽性細胞は、骨髄、血液、リンパ節等の組織から取得し得る。CD45陽性細胞は、通常、浮遊細胞として培養・増殖可能であるが、これに限られるものではなく、一部のCD45陽性細胞は付着性細胞として培養・増殖可能である。CD45陽性細胞を含む組織、例えば骨髄から、CD45を指標とするセルソーティング(FACS、MACS等)により、CD45陽性細胞を分離してもよい。あるいは、多能性幹細胞から分化誘導されたCD45陽性細胞、または、樹立されたCD45陽性細胞株を使用してもよい。
【0022】
「間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団」は、少なくとも1つの間葉系幹細胞および少なくとも1つのCD45陽性細胞を含む細胞集団であり、これらの細胞の他に、いかなる細胞を含んでもよい。また、細胞集団は間葉系幹細胞とCD45陽性細胞のみを含むものであってもよい。当該細胞集団には、間葉系幹細胞とCD45陽性細胞が接触可能な状態で含まれる。例えば、当該細胞集団は、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む組織から採取した細胞集団であってもよく、分離された間葉系幹細胞と、分離されたCD45陽性細胞の混合物であってもよい。間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞は、同じ組織に由来してもよく、異なる組織に由来してもよい。
【0023】
間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団として、骨髄由来細胞を使用し得る。「骨髄由来細胞」とは、骨髄内から骨髄外に取り出された骨髄細胞(骨髄内に存在する細胞集団)を意味する。骨髄細胞は、生体から骨髄穿刺等の方法により取り出すことができる。動物から取り出された骨のサンプルがある場合は、骨を破砕して内容物を回収する、または、骨の断面を露出させ、シリンジの針を骨髄内に挿してバッファーと共に押し出す等の方法も可能である。ある実施形態では、本開示の製造方法は、動物から骨髄細胞を採取する工程を含み得る。
【0024】
骨髄由来細胞の中には、固相に付着して増殖することができる細胞の集団(付着性細胞)とできない細胞の集団(非付着性細胞)が含まれる。本開示において、骨髄由来細胞を固相上で培養することにより得られる細胞集団を、「骨髄由来付着性細胞」と称する。実施例により立証される通り、骨髄由来付着性細胞は間葉系幹細胞を含み、CD45陽性細胞を含み得る。
【0025】
本開示に関して、固相とは、細胞が付着できる固体の支持体を意味し、例えば、プラスチック製またはガラス製の培養皿、フラスコ、マルチウェルプレートなどが含まれる。固相はコーティングされていてもよく、コーティング用の物質としては、例えば、コラーゲンI、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリL-リジン、ポリL-オルニチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態では、固相はコラーゲンIでコーティングされている。
【0026】
骨髄細胞を採取する生物種としては、ヒト、および非ヒト動物、例えばマウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが挙げられるが、これらに限定されない。骨髄細胞を採取する骨の種類としては、大腿骨、椎骨、胸骨、腸骨、脛骨等が挙げられるが、特に限定されない。ある実施形態では、骨髄細胞は、大腿骨または椎骨から採取される。
【0027】
骨髄由来細胞から、間葉系幹細胞および/またはCD45陽性細胞を分離して使用してもよい。分離は、例えば、上記の表面マーカーを指標とするセルソーティング(FACS、MACS等)により行い得る。
【0028】
本開示において、「細胞を分離する」とは、細胞集団における目的の細胞が30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%以上になるように操作することを意味する。
【0029】
本開示において、「CD45陽性細胞を活性化させる物質」とは、CD45陽性細胞から他の細胞へのシグナル伝達を亢進する物質を意味し、ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物などであり得る。シグナル伝達の亢進は、シグナル伝達に関する反応、例えば、p38MAPKシグナル経路における反応の増加によるものであってもよく、CD45陽性細胞の数の増加によって生じるものであってもよい。即ち、CD45陽性細胞を活性化させる物質には、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質が含まれる。また、シグナル伝達の亢進には、シグナル伝達の惹起および促進が含まれる。CD45陽性細胞を活性化させる物質として、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質、例えば、IL-5、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、リポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS)またはIL-33を使用し得るが、これらに限定されない。また、これらは単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
【0030】
IL-33は、IL-1ファミリーのメンバーとして同定されたサイトカインであり、生物種により異なるが全長270残基前後のアミノ酸配列からなる核タンパク質である。IL-33は、細胞の傷害または壊死が起こると細胞外に放出され、免疫細胞を活性化してTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)および/または炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6、IFN-γ)の分泌を誘発する。全長のIL-33タンパク質も活性を有するが、全長IL-33タンパク質が生体内でプロテアーゼ(例えばカテプシンG(Accession No. P08311等)や好中球エラスターゼ(Accession No. P08246等))によって切断されて生じるC末端側のポリペプチド断片が成熟IL-33タンパク質として機能することが知られている。
【0031】
本開示において、「IL-33」は、全長IL-33タンパク質、成熟IL-33タンパク質またはそれらと機能的に同等なポリペプチドであり得る。
【0032】
本開示において、IL-33の起源となる生物種としては、ヒト、および非ヒト動物、例えばマウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
全長IL-33タンパク質とは、IL-33をコードするmRNAから翻訳された後、プロテアーゼによるプロセシングを受ける前のIL-33タンパク質を意味する。本開示において、全長IL-33タンパク質としては、全長マウスIL-33タンパク質(配列番号1、Accession No. Q8BVZ5)、全長ヒトIL-33タンパク質(配列番号4、Accession No. O95760)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
成熟IL-33タンパク質とは、全長IL-33タンパク質がプロテアーゼによるプロセシングを受けて生じることが確認または示唆されているC末端側のポリペプチドであって、生物学的活性を有するものを意味する。
【0035】
成熟IL-33タンパク質の例としては、全長マウスIL-33タンパク質の102番目から266番目のアミノ酸配列(配列番号2)からなるポリペプチド、全長マウスIL-33タンパク質の109番目から266番目のアミノ酸配列(配列番号3)からなるポリペプチド、全長ヒトIL-33タンパク質の95番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号5)からなるポリペプチド、全長ヒトIL-33タンパク質の99番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号6)からなるポリペプチド、全長ヒトIL-33タンパク質の109番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号7)からなるポリペプチド、および全長ヒトIL-33タンパク質の112番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号8)からなるポリペプチドが知られている。これらのタンパク質はいずれも、本開示の方法等において用い得る。ある実施形態では、成熟IL-33タンパク質は配列番号3または8のアミノ酸配列を有する。
【0036】
例えば、全長マウスIL-33タンパク質の109番目から266番目のアミノ酸配列(配列番号3)からなるポリペプチドは、TNF-αの産生を誘導する活性を有することが確認されている(Bae et al, J Biol Chem. 2012 Mar 9;287(11):8205-13)。また、全長ヒトIL-33タンパク質の112番目から270番目のアミノ酸配列(配列番号8)からなるポリペプチドは、全長ヒトIL-33タンパク質と同等の生物学的活性(例えばST2との結合を介したNF-κBシグナル伝達経路の活性化)を有することが知られている(Cayrol and Girard, PNAS 2009 Jun 2;106(22):9021-6)。
【0037】
全長もしくは成熟IL-33タンパク質と「機能的に同等」とは、当該タンパク質と同質の生物学的活性を有することをいい、ここにいう「同質」とは定性的評価において同じであることを意味する。本開示における全長もしくは成熟IL-33タンパク質の生物学的活性としては、例えば、p38MAPKシグナル経路の活性化、免疫細胞からのTh2サイトカインおよび/または炎症性サイトカイン分泌の誘発、ST2(IL-33の受容体)との結合を介したNF-κBシグナル伝達経路の活性化、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖促進、CD45陽性細胞の活性化の促進等が挙げられる。一つの実施形態において、全長もしくは成熟IL-33タンパク質の生物学的活性は、CD45陽性細胞を活性化させることである。
【0038】
例えば、IL-33は、以下のa)~g)から選択されるポリペプチドであり得る:
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個、例えば、1~10個、1~5個、1~3個または1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約70%以上、例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド。
【0039】
本開示において、アミノ酸配列または核酸配列の同一性とは、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド間の配列の一致の程度を意味し、比較対象の配列の領域にわたって最適な状態(アミノ酸またはヌクレオチドの一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一のアミノ酸またはヌクレオチドを決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸またはヌクレオチドの総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定され得る。
【0040】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983) 等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%ホルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)、および、それと同等のストリンジェンシーをもたらす条件を挙げることができる。
【0041】
全長もしくは成熟IL-33タンパク質またはそれらと機能的に同等なポリペプチドの入手方法は特に限定されず、例えば組換え発現(哺乳類細胞、酵母、大腸菌、昆虫細胞等)、無細胞系を用いた合成等によって製造できるほか、市販品を購入することも可能である。
【0042】
間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本開示の間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養することを特徴とする。この製造方法は、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養することにより、細胞集団に含まれる間葉系幹細胞を増殖させるものである。これらの細胞を培養する培地は、動物細胞(例えば間葉系幹細胞)の培養に用いることが可能なものであれば特に限定されない。例えば、MEM、MEMα、DMEM、GMEM、RPMI 1640、MesenCultTM(STEMCELL Technologies)が挙げられる。
【0043】
培養方法は、細胞の利用目的等に応じて適宜調整できる。培養条件は、間葉系幹細胞の生存を可能にするものであれば特に限定されず、例えば、一般的なインキュベーター内で、「37℃、5%O2、5%CO2」、「37℃、5%CO2」等の条件下で、固相上で培養(接着培養)または浮遊培養(例えば、撹拌培養または振盪培養)し得る。なお、好適には接着培養が用いられる。
【0044】
培養する間葉系幹細胞の密度は、培養可能な範囲であれば特に限定されないが、例えば1個~約1×1010個/mL、10個~約1×109個/mL、約1×102個~約1×108個/mL、約1×103個~約1×107個/mL、約1×104個~約1×107個/mLであり得る。培養するCD45陽性細胞の密度は、例えば約1×102個~約1×1010個/mL、約1×103個~約1×109個/mL、約1×103個~約1×108個/mL、約1×104個~約1×108個/mL、約1×104個~約1×107個/mLであり得る。培地の交換は、典型的には1~7日に1回、例えば4日または5日に1回、行えばよい。培養の期間は、間葉系幹細胞を含む細胞集団のコロニーが形成されるのに十分な期間であればよく、数日間~数ヵ月間、例えば、3日間~3ヵ月間、4日間~1ヵ月間、5日間~3週間または7日間~14日間であり得る。
【0045】
培地は、間葉系幹細胞の増殖またはCD45陽性細胞の増殖(活性化)を阻害しない限り、さらに他の成分を含んでもよい。ある実施形態では、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を、CD45陽性細胞を活性化させる物質の存在下で培養する。培養培地に当該物質を添加してもよく、または、含有させてもよい。
【0046】
ある実施形態では、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団をIL-33の存在下で培養する。IL-33を含有する培地中で細胞集団を培養してもよく、細胞集団を培養中の培地にIL-33を添加してもよい。培地中のIL-33の濃度は、例えば、約0.01~100ng/mL、約0.1~10ng/mLまたは約0.5~5ng/mLであり得る。
【0047】
間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を、Notch活性化剤の存在下で培養してもよい。Notch活性化剤としては、例えば、特表2013-518588に記載のdelta-like 1、delta-like 3、delta-like 4、Jagged 1、Jagged 2、Dlk1/Pref1、Contactin1、Contactin6、CCN3/NOV、MAGP1およびMAGP2;特表2017-516486に記載のNotch1アゴニストおよびNotch2アゴニスト;特表2009-502962に記載のPDGF受容体キナーゼ阻害剤(例えば、AG-370又はAG-1296(6,7-ジメトキシ-3-フェニルキノキサリン))、K+及びH+イオノフォア(例えば、ナイジェリシン・Na)、アクチン重合の阻害剤(例えば、サイトカラサンD)、ナトリウム・ポンプ(Na+/K+ATPアーゼ)の阻害剤(例えば、ウアバイン)、ミトコンドリアによる酸化的リン酸化の阻害剤(例えば、FCCP(カルボニルシアニド-4-(トリフルオロメトキシ)-フェニルヒドラゾン)、及びc-Jun N末端キナーゼ(JNK)阻害剤(例えば、SP600125)が挙げられるが、これらに限定されない。かかるNotch活性化剤の中から、適宜選択して使用することができる。これらNotch活性化剤は、CD45陽性細胞を活性化させる物質、例えばIL-33と共に用いても良い。
【0048】
CD45陽性細胞を活性化させる物質によってCD45陽性細胞を活性化した後、活性化されたCD45陽性細胞と間葉系幹細胞とを共培養してもよい。ここで、CD45陽性細胞を活性化させた後に、当該物質とCD45陽性細胞とを分離し、CD45陽性細胞を間葉系幹細胞と共培養してもよい。CD45陽性細胞を活性化させる物質がCD45陽性細胞の増殖を促進する物質である場合、活性化したCD45陽性細胞と間葉系幹細胞との共培養は、増殖したCD45陽性細胞と間葉系幹細胞との共培養を意味する。
【0049】
ある実施形態では、培地は分化誘導剤を含まない。換言すれば、当該培地は、分化用途ではなく、細胞の増殖または維持のために使用される培地である。本開示において、分化誘導剤とは、特定の細胞種への分化を誘導する物質を意味し、特に、間葉系の細胞種への分化を誘導する物質である。分化誘導剤の例には、骨芽細胞への分化誘導剤としてデキサメタゾン、β-グリセロリン酸、L-アスコルビン酸2-リン酸が含まれ、脂肪細胞への分化誘導剤として、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、デキサメタゾン、インスリン、インドメタシンが含まれ、軟骨細胞への分化誘導剤として、デキサメタゾン、インスリン、L-アスコルビン酸2-リン酸、L-プロリン、ピルビン酸塩、形質転換増殖因子(TGF-b3)、骨形成タンパク質2(BMP-2)、インスリン様成長因子(IGF)が含まれる。なお、「分化誘導剤を含まない」とは、培地が分化誘導剤を実質的に含まないこと、すなわち、分化を誘導するレベルまたは量で含まないことを意味する。
【0050】
上記製造方法により得られる間葉系幹細胞を含む細胞集団は、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞以外の他のいかなる細胞を含んでもよく、例えば、非幹細胞を例示できる。
【0051】
上記製造方法において、培養後の間葉系幹細胞を分離してもよい。例えば、間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を固相上で培養することにより、間葉系幹細胞を分離し得る。間葉系幹細胞を分離するための固相上の培養においては、例えば、1回以上の継代培養を行ってもよく、継代後の培地はCD45陽性細胞を活性化させる物質を含まない培地としてもよい。培養終了後に、固相に付着している細胞を、間葉系幹細胞を含む細胞集団として回収し得る。例えば、非付着性細胞を含む培地を除去することにより、間葉系幹細胞を含む細胞集団を回収し得る。さらに、トリプシンなどの酵素処理により付着性細胞を固相から剥離させてもよい。
【0052】
あるいは、間葉系幹細胞の分離は、間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティング(FACS、MACS等)により行ってもよい。間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティングは、例えば間葉系幹細胞の表面マーカーに対する抗体を用いて行うことができる。得られた間葉系幹細胞を含む細胞集団を、他の細胞、例えばCD45陽性細胞の生存または増殖を抑制する薬剤(例えば、Mesenpure(STEMCELL Technologies))の存在下で培養することにより、間葉系幹細胞を分離(精製)してもよい。
尚、間葉系幹細胞の分離に際しては、継代培養とセルソーティングの一方のみを行ってもよく、両方行ってもよい。
【0053】
間葉系幹細胞の培養方法
本開示はまた、間葉系幹細胞を、CD45陽性細胞を活性化させる物質(例えばIL-33)の存在下でCD45陽性細胞と共培養する工程を含む、間葉系幹細胞の培養方法を提供する。この培養方法は、間葉系幹細胞の増殖を促進する。「共培養」とは、間葉系幹細胞とCD45陽性細胞の細胞間接触が可能な状態で細胞を培養することを意味する。共培養は、上記の間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法における培養に準じて実施し得る。
【0054】
CD45陽性細胞の培養方法または製造方法
本開示はまた、CD45陽性細胞をIL-33の存在下で培養する工程を含む、CD45陽性細胞の培養方法を提供する。この培養方法は、CD45陽性細胞の増殖を促進する。この培養方法は、上記の間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団の培養に準じて、IL-33の存在下でCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養することにより、実施し得る。ここで、細胞集団は、間葉系幹細胞を含んでも含まなくてもよい。また、この培養方法によりCD45陽性細胞を増殖させる工程を含む、CD45陽性細胞を含む細胞集団の製造方法が提供される。
【0055】
当該CD45陽性細胞の培養方法または製造方法は、間葉系幹細胞との共培養または間葉系幹細胞を培養するための培地もしくは培地添加剤のために使用されるCD45陽性細胞を製造する方法として適用されるものであってよい。
【0056】
培地または培地添加剤
ある実施形態では、本開示は、上記の方法のいずれかに用いることができる培地または培地添加剤を提供する。例えば、CD45陽性細胞を含有する、間葉系幹細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤;CD45陽性細胞およびCD45陽性細胞を活性化させる物質(例えばIL-33)を含有する、間葉系幹細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤;CD45陽性細胞を活性化させる物質(例えばIL-33)を含有する、間葉系幹細胞とCD45陽性細胞の共培養に用いるための培地または培地添加剤;IL-33を含有する、CD45陽性細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤が提供され得る。ある実施形態では、培地または培地添加剤は、間葉系幹細胞の増殖を促進するための培地または培地添加剤である。
【0057】
培地は、例えば、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法について先に記載した一般的な動物細胞培養用の培地に、CD45陽性細胞および/またはCD45陽性細胞を活性化させる物質を添加したものであり得る。培地のCD45陽性細胞および/またはCD45陽性細胞を活性化させる物質以外の成分組成は、当該培地が動物細胞(例えば間葉系幹細胞)の培養に用いることが可能なものである限り、特に限定されない。培地は、間葉系幹細胞またはCD45陽性細胞の増殖を阻害しない限り、さらに他の成分を含んでもよく、例えば、Notch活性化剤を含み得る。また、例えば、培地は分化誘導剤を含まないものとしてもよい。培地はいかなる形態で提供されてもよく、例えば、そのまま使用できる液体培地、希釈または溶解して使用するための濃縮物、固形物または凍結乾燥物として提供され得る。培地は、いかなる容器中に提供されてもよい。
【0058】
培地添加剤は、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法について先に記載したCD45陽性細胞および/またはCD45陽性細胞を活性化させる物質を、動物細胞の培養に許容し得る任意の成分と共に含み得る。培地添加剤は、間葉系幹細胞の増殖またはCD45陽性細胞の増殖(活性化)を阻害しない限り、さらに他の成分を含んでもよく、例えば、Notch活性化剤を含み得る。培地添加剤はいかなる剤形で提供されてもよく、例えば、顆粒、粉末、錠剤などの固体、溶液、懸濁液、乳濁液などの液体、あるいは、固体、半固体または液体を封入したカプセルとして提供され得るが、これらに限定されない。培地添加剤は、いかなる容器中に提供されてもよい。培地添加剤は、例えば、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法について先に記載した一般的な動物細胞培養用の培地に添加し得る。
【0059】
間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法
ある態様では、本開示は、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法を提供する。
具体的には、工程1)にて、対照培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養し、工程2)にて、対照培地に被験物質を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する。そして、工程3)において、工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する。
【0060】
本開示のスクリーニング方法の工程1)および2)は、上記の間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法および培養方法を参照して実施し得る。
「被験物質」には、ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物などの、あらゆる物質が包含される。被験物質は、典型的には、精製、単離されているものを使用できるが、未精製または未単離の粗精製品、または、被験物質を生成する生細胞であってもよい。被験物質は、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ランダムペプチドライブラリーなどの形態で提供されてもよく、また、天然物として提供されてもよい。
【0061】
本開示の間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法の工程3)では、コロニー数を計数して細胞数とみなしてもよく、細胞数を計数してもよい。細胞を固相上で培養した場合は、細胞を固相に付着したままの状態で計数してもよく、細胞を酵素処理等により固相から剥離させ、細胞数を計数してもよい。細胞数の計数には、当業者に周知の方法を用いることができる。「間葉系幹細胞の数」は、例えば間葉系幹細胞の代表的な表面マーカーの発現(例えばPDGFRα陽性、且つCD45陰性)を指標にしたFACS解析等により決定し得る。あるいは、免疫蛍光染色等を行い、間葉系幹細胞の表面マーカーを発現する細胞を固相に付着したままの状態で計数して間葉系幹細胞の数とみなしてもよい。ここで、「細胞の数が多い」とは、細胞の数が比較対象よりも少なくとも3%、5%または10%多いことを意味し、少なくとも10%多いことが好ましい。
【0062】
本開示のスクリーニング方法では、陽性対照として、IL-33を使用してもよい。IL-33を添加した培地において間葉系幹細胞の増殖が促進されれば、実験系が機能していることが担保される。従って、本開示のスクリーニング方法は、1’)対照培地にIL-33を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程をさらに含み得、工程3)において、工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多く、且つ、工程1’)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択し得る。
【0063】
従って、ある実施形態では、以下の工程を含む、陽性対照を用いて間葉系幹細胞の増殖を促進する物質をスクリーニングする方法が提供される:
1)対照培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、
1’)対照培地にIL-33を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、
2)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、および、
3)工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多く、且つ、工程1’)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
【0064】
ある態様では、以下の工程を含む、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法が提供される:
1)対照培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、
2)IL-33を対照培地に添加した培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、および
4)工程2)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
この方法は、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質をスクリーニングする方法に準じて実施し得る。
【0065】
本開示により、例えば、下記の実施形態が提供される。
[1]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
[2]間葉系幹細胞の増殖を促進するために間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
[3]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する方法。
[4]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団が、骨髄由来の間葉系幹細胞を含む、第1項~第3項のいずれかに記載の方法。
[5]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団が、骨髄由来のCD45陽性細胞を含む、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
[6]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団が、骨髄由来細胞である、第1項~第5項のいずれかに記載の方法。
[7]得られる間葉系幹細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を分離する工程をさらに含む、第1項~第6項のいずれかに記載の方法。
[8]間葉系幹細胞を分離する工程が、a)1回以上の継代培養、および/または、b)間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティングを含む、第7項に記載の方法。
【0066】
[9]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を固相上で培養する、第1項~第8項のいずれかに記載の方法。
[10]培養後に固相に付着している細胞を間葉系幹細胞を含む細胞集団として回収する工程をさらに含む、第9項に記載の方法。
[11]固相がコーティングされている、第9項または第10項に記載の方法。
[12]固相がコラーゲンI、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリL-リジンまたはポリL-オルニチンでコーティングされている、第9項~第11項のいずれかに記載の方法。
[13]固相がコラーゲンIでコーティングされている、第9項~第12項のいずれかに記載の方法。
[14]得られる間葉系幹細胞を含む細胞集団が、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞である、第9項~第13項のいずれかに記載の方法。
【0067】
[15]間葉系幹細胞およびCD45陽性細胞を含む細胞集団を、CD45陽性細胞を活性化させる物質の存在下で培養する、第1項~第14項のいずれかに記載の方法。
[16]CD45陽性細胞を活性化させる物質がIL-33である、第15項に記載の方法。
[17]間葉系幹細胞を、IL-33の存在下でCD45陽性細胞と共培養する工程を含む、間葉系幹細胞の培養方法。
[18]間葉系幹細胞を、IL-33の存在下でCD45陽性細胞と共培養する工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する方法。
[19]CD45陽性細胞をIL-33の存在下で培養する工程を含む、CD45陽性細胞の培養方法。
【0068】
[20]IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個、例えば、1~10個、1~5個、1~3個または1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約70%以上、例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド
からなる群から選択される、第16項~第19項のいずれかに記載の方法。
【0069】
[21]IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約90%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド
からなる群から選択される、第16項~第20項のいずれかに記載の方法。
【0070】
[22]IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第16項~第21項のいずれかに記載の方法。
[23]IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第16項~第22項のいずれかに記載の方法。
[24]IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第16項~第23項に記載の方法。
[25]IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第16項~第24項のいずれかに記載の方法。
[26]IL-33をコードする核酸配列が、配列番号9~16のいずれかの核酸配列を含む、第16項~第25項のいずれかに記載の方法。
[27]IL-33が、配列番号3または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第16項~第26項のいずれかに記載の方法。
[28]IL-33が、配列番号3または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第16項~第27項のいずれかに記載の方法。
[29]IL-33をコードする核酸配列が、配列番号11または16の核酸配列を含む、第16項~第28項のいずれかに記載の方法。
[30]IL-33が、配列番号3のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第16項~第29項のいずれかに記載の方法。
[31]IL-33が、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第16項~第30項のいずれかに記載の方法。
[32]IL-33をコードする核酸配列が、配列番号11の核酸配列を含む、第16項~第31項のいずれかに記載の方法。
[33]IL-33の濃度が約0.01~100ng/mLである、第16項~第32項のいずれかに記載の方法。
[34]IL-33の濃度が約0.1~10ng/mLである、第16項~第33項のいずれかに記載の方法。
[35]IL-33の濃度が約0.5~5ng/mLである、第16項~第34項のいずれかに記載の方法。
[36]骨髄由来細胞をIL-33の存在下において固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法。
【0071】
[37]CD45陽性細胞を含有する、間葉系幹細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤。
[38]CD45陽性細胞を含有する、間葉系幹細胞の増殖を促進するための培地または培地添加剤。
[39]IL-33をさらに含有する、第37項または第38項に記載の培地または培地添加剤。
[40]IL-33を含有する、間葉系幹細胞とCD45陽性細胞の共培養に用いるための培地または培地添加剤。
[41]IL-33を含有する、CD45陽性細胞の培養に用いるための培地または培地添加剤。
[42]IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個、例えば、1~10個、1~5個、1~3個または1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約70%以上、例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、全長もしくは成熟IL-33タンパク質と機能的に同等なポリペプチドからなる群から選択される、第39項~第41項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
【0072】
[43]IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド、
b)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
c)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなり、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約90%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされ、CD45陽性細胞を活性化させるポリペプチド
からなる群から選択される、第39項~第42項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
【0073】
[44]IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第39項~第43項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[45]IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第39項~第44項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[46]IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第39項~第45項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[47]IL-33が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第39項~第46項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[48]IL-33をコードする核酸配列が、配列番号9~16のいずれかの核酸配列を含む、第39項~第47項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[49]IL-33が、配列番号3または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第39項~第48項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[50]IL-33が、配列番号3または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第39項~第49項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[51]IL-33をコードする核酸配列が、配列番号11または16の核酸配列を含む、第39項~第50項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[52]IL-33が、配列番号3のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第39項~第51項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[53]IL-33が、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第39項~第52項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[54]IL-33をコードする核酸配列が、配列番号11の核酸配列を含む、第39項~第53項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[55]培地中のIL-33の濃度が約0.01~100ng/mLである、第39項~第54項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[56]培地中のIL-33の濃度が約0.1~10ng/mLである、第39項~第55項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
[57]培地中のIL-33の濃度が約0.5~5ng/mLである、第39項~第56項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
【0074】
[58]以下の工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法:
1)対照培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、
2)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程、および、
3)工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
[59]工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも少なくとも10%多い場合に、当該被験物質を間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する、第58項に記載のスクリーニング方法。
[60]1’)対照培地に第39項~第57項のいずれかに記載の培地添加剤を添加した培地を用いて間葉系幹細胞をCD45陽性細胞と共培養する工程をさらに含み、工程3)において、工程2)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多く、且つ、工程1’)によって得られた間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する、第58項または第59項に記載のスクリーニング方法。
【0075】
[61]以下の工程を含む、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法:
1)対照培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、
2)第39項~第57項のいずれかに記載の培地添加剤を対照培地に添加した培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いてCD45陽性細胞を培養する工程、および、
4)工程2)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、CD45陽性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
[62]工程3)によって得られたCD45陽性細胞の数が工程1)によって得られたCD45陽性細胞の数よりも少なくとも10%多い場合に、当該被験物質をCD45陽性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する、第61項に記載のスクリーニング方法。
【0076】
間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法
ある態様では、本開示は、骨髄由来細胞をIL-33の存在下において固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法を提供する。
【0077】
この方法では、骨髄由来付着性細胞を効率良く取得することができる。骨髄由来付着性細胞には、間葉系幹細胞と、間葉系幹細胞以外の付着性細胞が含まれるが、IL-33の存在下における固相培養により、間葉系幹細胞および間葉系幹細胞以外の付着性細胞、両方の増殖が促進される。この方法によれば、少量の骨髄組織から高効率で間葉系幹細胞を含む付着性細胞を取得し得る。また、初代培養の段階で多くの間葉系幹細胞を含む付着性細胞が得られるため、短い培養期間で目的の細胞数を達成し、培養による間葉系幹細胞の能力低下を回避することも期待される。
【0078】
この方法では、IL-33を含有する培地中で骨髄由来細胞を培養してもよく、骨髄由来細胞を培養中の培地にIL-33を添加してもよい。培地中のIL-33の濃度は、例えば、約0.01~100ng/mL、約0.1~10ng/mLまたは約0.5~5ng/mLであり得る。
【0079】
骨髄由来細胞を培養する培地は、動物細胞(例えば間葉系幹細胞)の培養に用いることが可能なものであれば特に限定されない。例えば、MEM、MEMα、DMEM、GMEM、RPMI 1640、MesenCultTM(STEMCELL Technologies社)が挙げられる。培地は、骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を阻害しない限り、さらに他の成分を含んでもよい。また、例えば、培地は分化誘導剤を含まないものとしてもよい。
【0080】
培養の条件および期間は、細胞の利用目的等に応じて適宜調整できる。培養条件は、骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の生存を可能にするものであれば特に限定されず、例えば、一般的なインキュベーター内で、「37℃、5%O2、5%CO2」、「37℃、5%CO2」等の条件下で実施し得る。培養する骨髄由来細胞の密度は、例えば約1×104個~約1×107個/mlであり得る。培地の交換は、典型的には1~7日に1回、例えば4日または5日に1回、行えばよい。培養の期間は、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞のコロニーが形成されるのに十分な期間であればよく、数日間~数ヵ月間、例えば、3日間~3ヵ月間、4日間~1ヵ月間、5日間~3週間または7日間~14日間であり得る。
【0081】
培養終了後に、固相に付着している細胞を、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞として回収し得る。例えば、非付着性細胞を含む培地を除去することにより、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞を回収し得る。さらに、トリプシンなどの酵素処理により付着性細胞を固相から分離させてもよい。
【0082】
上記製造方法において、培養後の間葉系幹細胞を分離してもよい。間葉系幹細胞の分離は、例えば、a)1回以上の継代培養、および/または、b)間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティング(FACS、MACS等)により行ってもよい。間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティングは、例えば間葉系幹細胞の表面マーカーに対する抗体を用いて行うことができる。得られた間葉系幹細胞を含む細胞集団を、他の細胞、例えばCD45陽性細胞の生存または増殖を抑制する薬剤(例えば、Mesenpure(STEMCELL Technologies))の存在下で培養することにより、間葉系幹細胞を分離(精製)してもよい。
【0083】
間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養方法
ある態様では、本開示は、骨髄由来細胞をIL-33の存在下において固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養方法を提供する。この培養方法は、上記の間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法に準じて実施し得る。当該培養方法によれば、効率良く間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞を増殖させることができる。当該培養方法によれば、骨髄由来付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞および間葉系幹細胞以外の付着性細胞の増殖が共に促進され得る。
【0084】
間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に用いるための培地
ある態様では、本開示は、IL-33を含有することを特徴とする、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に用いるための培地を提供する。当該培地は、例えば、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法について先に記載した一般的な動物細胞培養用の培地にIL-33を添加したものであり得る。
【0085】
培地のIL-33以外の成分組成は、当該培地が動物細胞(例えば間葉系幹細胞)の培養に用いることが可能なものである限り、特に限定されない。培地は、骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を阻害する成分を含まないことが好ましい。培地はいかなる形態で提供されてもよく、例えば、そのまま使用できる液体培地、希釈または溶解して使用するための濃縮物、固形物または凍結乾燥物として提供され得る。培地は、いかなる容器中に提供されてもよい。
【0086】
間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に用いるための培地添加剤
ある態様では、本開示は、IL-33を含有することを特徴とする、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に用いるための培地添加剤を提供する。
【0087】
培地添加剤は、IL-33を動物細胞の培養に許容し得る任意の成分と共に含み得る。培地添加剤は、骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を阻害する成分を含まないことが好ましい。培地添加剤はいかなる剤形で提供されてもよく、例えば、顆粒、粉末、錠剤などの固体、溶液、懸濁液、乳濁液などの液体、あるいは、固体、半固体または液体を封入したカプセルとして提供され得るが、これらに限定されない。培地添加剤は、いかなる容器中に提供されてもよい。培地添加剤は、例えば、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法について先に記載した一般的な動物細胞培養用の培地に添加することにより、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に使用し得る。
【0088】
骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法
ある態様では、本開示は、以下の工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法を提供する:
1)対照培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
2)IL-33を対照培地に添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
4)工程1)~3)によって得られた付着性細胞の数を各々計数する工程、および
5)工程2)によって得られた付着性細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られた付着性細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
【0089】
別の態様では、本開示は、以下の工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法を提供する:
1)対照培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
2)IL-33を対照培地に添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
4)工程1)~3)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数を各々計数する工程、および
5)工程2)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
【0090】
一般的に、対照培地における骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖と、被験物質を添加した培地における骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を比較することにより、被験物質の活性の有無を評価することは可能である。しかし、被験物質を添加した培地において骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖促進が見られない場合、被験物質に活性が無いのか、実際には活性があるが細胞の状態や実験条件等に問題があって活性が検出できないのかを判別することができない。これは、陽性対照となる物質を用いていないことが原因である。
【0091】
上記の両スクリーニング方法では、陽性対照として、IL-33を使用する。IL-33を添加した培地において骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖が促進されれば、実験系が機能していることは担保される。従って、陽性対照であるIL-33による骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖促進を確認した上で被験物質を添加した培地の評価を行うことにより、スクリーニングの精度および効率を向上させることができる。
【0092】
本開示の両スクリーニング方法の工程1)、2)および3)は、上記の間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法または培養方法を参照して実施し得る。「対照培地」は、IL-33を含まない培地を意味する。
【0093】
本開示の骨髄由来付着性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法の工程4)では、コロニー数を計数して細胞数とみなしてもよく、コロニーに含まれる細胞を固相に付着したままの状態で計数してもよく、細胞を酵素処理等により固相から分離させ、細胞数を計数してもよい。細胞数の計数には、当業者に周知の方法を用いることができる。
【0094】
本開示の間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法の工程4)において、「付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数」は、例えば間葉系幹細胞の代表的な表面マーカーの発現(例えばPDGFRα陽性、且つCD45陰性)を指標にしたFACS解析等により決定することができる。あるいは、免疫蛍光染色等を行い、間葉系幹細胞の表面マーカーを発現する細胞を固相に付着したままの状態で計数して間葉系幹細胞の数とみなしてもよい。
【0095】
本開示の両スクリーニング方法の工程5)において、「細胞の数が多い」とは、細胞の数が比較対象よりも少なくとも3%、5%または10%多いことを意味し、少なくとも10%多いことが好ましい。
【0096】
本開示により、例えば、下記の実施形態が提供される。
(1)IL-33を含有する、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に用いるための培地添加剤。
(2)IL-33を含有する、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養に用いるための培地。
(3)IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチド
b)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
c)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個、例えば、1~10個、1~5個、1~3個または1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約70%以上、例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされるポリペプチド
からなる群から選択され、かつ、骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を促進する活性を有するポリペプチドである、第1項に記載の培地添加剤または第2項に記載の培地。
(4)IL-33が、
a)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチド
b)全長もしくは成熟IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
c)成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含み、且つ、全長IL-33タンパク質の一部のアミノ酸配列からなるポリペプチド
d)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
e)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列と約90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または当該アミノ酸配列からなるポリペプチド
f)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるポリペプチド、および
g)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列と約90%以上の配列同一性を有する核酸配列によりコードされるポリペプチド
からなる群から選択され、かつ、骨髄由来付着性細胞または間葉系幹細胞の増殖を促進する活性を有するポリペプチドである、第1項~第3項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(5)IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、第1項~第4項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(6)IL-33が、全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、第1項~第5項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
【0097】
(7)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列である、第3項~第6項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(8)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列が、配列番号9~16のいずれかの核酸配列である、第3項~第7項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(9)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3または8のアミノ酸配列である、第3項~第8項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(10)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列が、配列番号11または16の核酸配列である、第3項~第9項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(11)全長もしくは成熟IL-33タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3のアミノ酸配列である、第3項~第10項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
(12)全長もしくは成熟IL-33タンパク質をコードする核酸配列が、配列番号11の核酸配列である、第3項~第11項のいずれかに記載の培地添加剤または培地。
【0098】
(13)IL-33の濃度が約0.01~100ng/mLである、第2項~第12項のいずれかに記載の培地。
(14)IL-33の濃度が約0.1~10ng/mLである、第2項~第13項のいずれかに記載の培地。
(15)IL-33の濃度が約0.5~5ng/mLである、第2項~第14項のいずれかに記載の培地。
(16)間葉系幹細胞を増殖させるための第1項~第15項のいずれかに記載の培地または培地添加剤。
【0099】
(17)骨髄由来細胞を、第2項~第16項のいずれかに記載の培地中、固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法。
(18)間葉系幹細胞の増殖を促進するために、骨髄由来細胞を、第2項~第16項のいずれかに記載の培地中、固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の製造方法。
(19)骨髄由来細胞を、第2項~第16項のいずれかに記載の培地中、固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する方法。
(20)培養後に固相に付着している細胞を間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞として回収する工程をさらに含む、第17項~第19項のいずれかに記載の方法。
(21)1)骨髄由来細胞を、第2項~第16項のいずれかに記載の培地中、固相上で培養する工程、ならびに2)工程1)によって得られた付着性細胞に対してa)1回以上の継代培養および/またはb)間葉系幹細胞をターゲットとしたセルソーティングを行って間葉系幹細胞を分離する工程を含む、間葉系幹細胞の製造方法。
(22)骨髄由来細胞を、第2項~第16項のいずれかに記載の培地中、固相上で培養する工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の培養方法。
(23)固相がコーティングされている、第17項~第22項のいずれかに記載の方法。
(24)固相がコラーゲンI、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリL-リジンまたはポリL-オルニチンでコーティングされている、第17項~第23項のいずれかに記載の方法。
(25)固相がコラーゲンIでコーティングされている、第17項~第24項のいずれかに記載の方法。
【0100】
(26)以下の工程を含む、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法:
1)対照培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
2)対照培地に第1項および第3項~第11項のいずれかに記載の培地添加剤を添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
4)工程1)~3)によって得られた付着性細胞の数を各々計数する工程、および
5)工程2)によって得られた付着性細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られた付着性細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
(27)工程3)によって得られた付着性細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞の数よりも少なくとも10%多い場合に、当該被験物質を間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する、第26項に記載のスクリーニング方法。
【0101】
(28)以下の工程を含む、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質のスクリーニング方法:
1)対照培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
2)対照培地に第1項および第3項~第11項のいずれかに記載の培地添加剤を添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
3)対照培地に被験物質を添加した培地を用いて骨髄由来細胞を固相上で培養する工程、
4)工程1)~3)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数を各々計数する工程、および
5)工程2)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数よりも多く、且つ、工程3)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する工程。
(29)工程3)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数が工程1)によって得られた付着性細胞に含まれる間葉系幹細胞の数よりも少なくとも10%多い場合に、当該被験物質を間葉系幹細胞の増殖を促進する物質の候補として選択する、第28項に記載のスクリーニング方法。
【0102】
本開示で引用するすべての文献は、出典明示により本開示の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例】
【0103】
実施例1
IL-33含有培地による間葉系幹細胞の増殖促進
(1)材料および方法
C57BL/6マウス(6~7週齢、メス)から大腿骨および椎骨を切り出し、周囲に付着した他の組織を取り除いた後、乳鉢内で骨を細かく破砕し、PBS(2%FBS含有)を加えて細胞を回収した。次いで40μmナイロンメッシュに通し、細胞塊や筋組織を除去した。300gで5分間遠心し、上清を捨て、沈殿した細胞をRBC Lysis buffer(Biolegend)に懸濁し、室温で5分間反応させて赤血球を溶解(溶血)させた。RBC Lysis bufferと等量のPBS(2%FBS含有)を加えて反応を停止させた後、300gで5分間遠心した。上清を捨て、沈殿した細胞を骨髄由来細胞として得た。骨髄由来細胞を下記の培地AまたはBに懸濁し、コラーゲンIでコートされたプラスチック製の6ウェルプレート(Corning Inc., Cat No.356400)に1×106細胞/ウェルの密度で播種して、培地3mL中、37℃、5%O2、5%CO2の条件下で10日間培養した(培養4または5日目に一度、同じ組成の新鮮な培地に交換した)。
【0104】
・培地A(対照):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、下記培地Bに添加される成熟マウスIL-33タンパク質溶液と同容量のPBSを添加したもの)
・培地B(IL-33含有):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、成熟マウスIL-33タンパク質(配列番号3)を終濃度2ng/mLになるよう添加したもの)
培養開始10日目に培地を除去し、プレート上に付着している細胞をディフ・クイック(シスメックス)を用いて染色し、観察した。
【0105】
(2)結果
大腿骨および椎骨のいずれから採取した骨髄由来細胞についても、IL-33を含む培地を用いて培養することにより、プレート上にコロニーとして得られる細胞の数が著しく増大した(
図1)。また、骨髄由来細胞の培養にコラーゲンIコーティングなしの6ウェルプレート(costar, Cat No.3516)を用いた点を除いて上記と同じ方法および条件で実験を行った場合でも、同様の結果が得られた。
【0106】
骨髄由来細胞を固相上で培養すると、間葉系幹細胞を含む付着性の細胞が固相に付着してコロニーを形成することが良く知られている。従って、当該実施例における実験結果は、IL-33存在下での培養によって間葉系幹細胞を含む骨髄由来付着性細胞の増殖が促進されることを示すものである。
【0107】
実施例2
IL-33含有培地を用いて培養した骨髄由来細胞の解析
(1)材料および方法
PDGFRαプロモーターの下流にH2B-GFP融合タンパク質の遺伝子(cDNA)がノックインされたマウス(Hamilton TG, Mol Cell Biol. 2003 Jun;23(11):4013-25)から大腿骨および椎骨を切り出し、周囲に付着した他の組織を取り除いた後、乳鉢内で骨を細かく破砕し、PBS(2%FBS含有)を加えて細胞を回収した。次いで40μmナイロンメッシュに通し、細胞塊や筋組織を除去した。300gで5分間遠心し、上清を捨て、沈殿した細胞をRBC Lysis buffer(Biolegend)に懸濁し、室温で5分間反応させて赤血球を溶解(溶血)させた。RBC Lysis bufferと等量のPBS(2%FBS含有)を加えて溶血反応を停止させた後、300gで5分間遠心した。上清を捨て、沈殿した細胞を骨髄由来細胞として得た。骨髄由来細胞を下記の培地C(対照)または培地D(IL-33含有)に懸濁し、コラーゲンIでコートされたプラスチック製の6ウェルプレート(Corning Inc., Cat No.356400)に1×106細胞/ウェルの密度で播種して、培地3mL中、37℃、5%O2、5%CO2の条件下で8日間培養した(培養4または5日目に一度、同じ組成の新鮮な培地に交換した)。
【0108】
・培地C(対照):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、下記培地Dに添加される成熟マウスIL-33タンパク質溶液と同容量のPBSを添加したもの)
・培地D(IL-33含有):MEMα(Gibco)(15%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有;L-Glutamineを終濃度4mMになるように添加し、且つ、成熟マウスIL-33タンパク質(配列番号3)を終濃度1ng/mLになるよう添加したもの)
【0109】
培養開始8日目に、プレートに付着している細胞をトリプシン処理により剥がして回収し、間葉系幹細胞の代表的なポジティブマーカーであるPDGFRαと代表的なネガティブマーカーであるCD45の発現をFACSで解析した。
【0110】
(2)結果
大腿骨および椎骨のいずれから採取した骨髄由来細胞についても、IL-33を含む培地を用いて培養することにより、プレート上でコロニーを形成する付着性細胞の数が著しく増大した(
図2)。また、表面マーカーの発現パターン別に細胞数を調べたところ、PDGFRα陽性CD45陰性(PDGFRα
+CD45
-)細胞と、PDGFRα陰性CD45陽性(PDGFRα
-CD45
+)細胞が有意に増加していた(
図3および4)。IL-33存在下での培養により、間葉系幹細胞の代表的なマーカー発現パターンである「PDGFRα
+CD45
-」の付着性細胞が顕著に増えていることから、この実験結果は、IL-33の作用によって間葉系幹細胞の増殖が促進されたことを示すものと考えられる。
【0111】
実施例3
材料と方法
マウス
本実施例では、野生型マウスとしてC57BL/6jjcl(CLEA Japan)を使用した。PDGFRαGFPノックインマウスとしてB6.129S4-Pdgfratm11(EGFP)Sor (Jackson Laboratory, 007669)を使用した。MyD88ノックアウトマウス(C57BL/6)(Adachi, O. et al. Targeted Disruption of the MyD88 Gene Results in Loss of IL-1- and IL-18-Mediated Function. Immunity 9, 143-150, doi:10.1016/S1074-7613(00)80596-8 (1998))はオリエンタルバイオサービスから購入した。マウスは、自動給水下に固形飼料を用いて明暗各12時間に維持された動物飼育室で飼育した。
【0112】
骨髄由来細胞の単離
マウスから大腿骨を採取し、2%ウシ胎児血清(FBS)を添加したPBS(PBS/2%FBS)中で、乳鉢・乳棒を用いて細胞を取り出した。細胞懸濁液を40μm Cell Strainer(Falcon)に通し、骨などの凝集塊を取り除いた。遠心後、RBC lysis buffer(Biolegend)で溶血して赤血球を取り除き、骨髄由来細胞を得た。
【0113】
骨髄由来細胞の培養
骨髄由来細胞は、コラーゲン被覆6ウェルプレート(Corning Inc.)で15%FBS、1×GlutaMAXTM Supplement(Gibco, Cat No. 35050061)、1×MEM非必須アミノ酸溶液(Nacalai Tesque)、10mM HEPES緩衝液(Nacalai Tesque)、1×モノチオグリセロール溶液(Wako)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液を添加したαMEM(3mL/ウェル)で、低酸素インキュベーターを用いて培養した。分取をせず全骨髄由来細胞を培養するときには、5×105個/ウェルで培養した。骨髄由来細胞からFACSを用いて間葉系間質細胞(MSC)を分取するときには、PDGFRα+細胞を800個/ウェルで分取した。共培養実験においては、さらに骨髄由来細胞を5×105個/ウェル、CD45+細胞を4.75×105個/ウェル、CD45-細胞を2.5×103個/ウェルで分取し、それぞれをMSCと共培養した。Transwell(Corning Inc.)を用いた培養時には、コラーゲン被覆6ウェルプレート上に分取したPDGFRα+細胞800個を播種すると共に、骨髄由来細胞を5×105個分取してTranswell上に播種し培養した。IL-33(Biolegend)(配列番号3)は1ng/mLで添加し、コントロールには等量のPBSを添加した。DAPT(TCI)は終濃度1μMまたは10μMで添加し、コントロールには等量のDMSO(ジメチルスルホキシド)を添加した。p38MAPK阻害剤(SB203580, AdipoGen)、NK-κB阻害剤(BAY-11-7082, Cayman Chemical)は終濃度5μMで添加し、コントロールには等量のDMSOを添加した。培地は4日毎に交換した。分取操作をしていない細胞は10日間、FACSにて分取した細胞は12日間培養し、FACSでの解析または Diff-Quick溶液(Sysmex)で染色しコロニー数の解析を行った。
【0114】
FACSによる細胞の解析、細胞分取
FACSによる細胞の解析、細胞分取は、FACSAriaTMIIIμ(BD Bioscience)またはFACSCantoTMII(BD Bioscience)を、データ解析はFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて行った。PDGFRαの発現解析にはPDGFRαGFPノックインマウスを用いた。培養細胞の解析時における培養プレートからの細胞剥離には、AccutaseTM(Nacalai Tesque)を用いた。抗体添加時には、Fc受容体への非特異な結合を阻害するため細胞懸濁液にTrustain FcXTM(Biolegend)を添加し5分間4℃でインキュベートした後、APC-結合CD45抗体(Biolegend, 103112)、PerCP/cy5.5-結合CD45抗体(Biolegend, 103132)、PerCP/cy5.5-結合TER119抗体(Biolegend, 116228)を添加し20分間4℃でインキュベートした。FACS解析前に、死細胞を取り除くためSYTOXTM Blue Dead Cell Stain(Thermo Fisher Scientific)で染色した。細胞分取時には、15%FBS、1×GlutaMAXTM、1×MEM非必須アミノ酸溶液、10mM HEPES緩衝液、1×モノチオグリセロール溶液、1%ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液を添加したαMEMへ分取した。
【0115】
実施例3-1:IL-33は骨髄由来MSCのコロニー形成活性を増強する
PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄由来細胞を5×10
5細胞ずつ6ウェルプレートの各ウェルに播種し、培地3mL中、10日間IL-33添加培地で培養し、フローサイトメトリー(FACS)により解析したところ、IL-33添加による有意な骨髄由来細胞の増加が確認できた(
図5a)。MSCはPDGFRαを発現し、血球系のマーカーであるCD45を発現しないことが知られるため、本実施例においてはPDGFRα
+CD45
-細胞をMSC分画とした。FACSにより、IL-33が骨髄由来MSCを有意に増加させることが明らかになった(
図5b)。また同時に、IL-33はMSCのみでなくCD45
+細胞も有意に増加させており(
図5c)、IL-33は骨髄内の複数の細胞集団に作用している可能性が示唆された。
【0116】
骨髄由来MSCは、培養において線維芽細胞様のコロニーを形成するため、線維芽細胞様コロニー形成単位(Colony forming unit-fibroblast; CFU-F)を測定することにより、MSCの存在率、増殖率を評価できる。IL-33添加培地で10日間培養後にコロニーアッセイを施行したところ、IL-33添加によりコロニー数が約7倍有意に増加し(
図5d)、IL-33が骨髄由来MSCのコロニー形成活性を増強することが示された。
【0117】
実施例3-2:IL-33はCD45
+
細胞とMSCの細胞間接触を介して骨髄由来MSCのCFU-F活性を増強する
IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強メカニズムについて、IL-33が直接骨髄由来MSCに作用し、そのCFU-F活性を増強させるか、あるいは他の細胞のシグナルを介しているのかを検討した。PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄由来細胞から、FACSによりMSC(PDGFRα
+細胞)を分取し、IL-33添加培地で培養した。しかし、MSC単独の培養条件下では、IL-33によってCFU-F活性は変化しなかった(
図6)。このことから、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強は、骨髄中に存在するMSC以外の細胞によって間接的に制御されている可能性が示唆された。
【0118】
IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強が、MSCと他の骨髄由来細胞との細胞間接触に依拠しているか調べた。Transwellを用いて、骨髄由来細胞と骨髄由来MSCが培地を共有するが細胞同士の接触は起こらない培養条件を作り出し、骨髄由来MSCのCFU-F活性を調査した。骨髄由来MSCを骨髄由来細胞と共培養(Co-culture)するとIL-33によりCFU-F活性が増加したが、骨髄由来MSCと骨髄由来細胞の細胞間接触を抑制した条件下(Transwell)ではIL-33によるCFU-F活性に変化は見られず、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強には、MSC以外の他の細胞とMSCとの細胞間接触が必須であることが示された(
図7a)。なお、IL-33存在下で骨髄由来細胞を培養すると、液性因子としてCCL2、CCL22、オステオポンチンの分泌が促進されることが明らかとなったため(データ非開示)、これらの物質を、それぞれ培地に添加して骨髄由来細胞を培養したが、いずれの物質の添加によってもCFU-F活性は変化しなかった(データ非開示)。
【0119】
さらに骨髄中に存在するどの細胞との接触が骨髄由来MSCのCFU-F活性を増強させるのか検討した。実施例3-1においてIL-33が骨髄由来細胞中のCD45陽性(CD45
+)細胞を増加させたことから(
図5c)、CD45陽性細胞との細胞間接触が必要なのではないかと予想し、CD45陽性細胞とCD陰性(CD45
-)細胞をそれぞれFACSにより分取し、IL-33存在下で骨髄由来MSCと共培養した。CD45
-細胞にはPDGFRα
+細胞が含まれたが、無視できる量であった。CD45
+細胞との共培養でのみ骨髄由来MSCのCFU-F活性の増強が確認でき、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強は、CD45
+細胞との細胞間接触を介して誘導されることが示された(
図7b)。
【0120】
実施例3-3:IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強はMyD88シグナル経路依存的である
IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強の分子メカニズムをさらに詳細に検討した。IL-33が細胞膜受容体であるST2/IL-1受容体アクセサリータンパク質(IL-1RAP)複合体に結合すると、この受容体にアダプタータンパク質であるミエロイド系分化因子(Myeloid differentiation primary response)88(MyD88)が誘導され、MyD88は、NF-κB、p38、ERKやJNKの活性化を介して、目的遺伝子の活性を制御することが知られている。そこで、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強におけるMyD88シグナル経路の影響を調べるために、MyD88ノックアウト(KO)マウス大腿骨から調製した骨髄由来細胞を、IL-33添加培地で培養した。MyD88KOマウスの骨髄由来細胞では、IL-33添加によるCFU-F活性に変化は認められず、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強にはMyD88シグナル経路が必須であるがことが示された(
図8a)。さらに、MyD88KOマウスの骨髄由来細胞では、IL-33によるCD45
+細胞の増加も認められず(
図8b)、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強は、CD45
+細胞におけるMyD88シグナル経路に依存する可能性が示唆された。
【0121】
さらに、MyD88の下流で働くことが知られるp38MAPK経路およびNF-κB経路の関与を検討した。PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄由来細胞において、DMSO添加コントロール群とNF-κB阻害剤(BAY-11-7082)添加群ではIL-33によるCFU-F活性の増強が見られたが、p38MAPK阻害剤(SB203580)添加群ではIL-33によるCFU-F活性の変化は認められなかった(
図9)。これらの結果により、IL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性増強は、MyD88シグナル経路依存的であり、さらにp38MAPK経路を介することが明らかになった。
【0122】
IL-33によってMyD88シグナル経路依存的に活性化されたCD45
+細胞が、骨髄由来MSCのCFU-F活性増強を誘導する分子メカニズムを検討すべく、MSCの増殖や維持において重要であることが報告されているNotchシグナル経路の影響を調べた。具体的には、PDGFRαGFPノックインマウス大腿骨から調製した骨髄由来細胞において、Notchシグナル経路の一部であるγ-セクレターゼを阻害するDAPT((3,5-ジフルオロフェニルアセチル)-L-アラニル-L-2-フェニルグリシンtert-ブチルエステル)が、IL-33添加によるMSC増殖に与える影響を検討した。その結果、DAPT存在下ではIL-33による骨髄由来MSCのCFU-F活性の増強が抑制された(
図10a)。さらに、DAPT/IL-33添加培地で培養した骨髄由来細胞をFACSで解析すると、DAPTの濃度依存的にMSC数が減少した(
図10b)。一方で、DAPT/IL-33を添加しても、CD45
+細胞数の増加は抑制されなかった(
図10c)。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本開示により、間葉系幹細胞の取得効率の向上が可能になり、ドナーの負担軽減、間葉系幹細胞を用いる再生医療のコスト低減、間葉系幹細胞を利用した基礎研究や医薬品開発の促進等が期待される。
【配列表】