(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】リポ多糖、リポ多糖製造方法及びリポ多糖配合物
(51)【国際特許分類】
C12P 1/04 20060101AFI20240430BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20240430BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20240430BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240430BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240430BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240430BHJP
C05G 3/00 20200101ALI20240430BHJP
【FI】
C12P1/04 Z
C12P19/04 C
C08B37/00 P
A23L33/125
A61Q1/00
A61K8/73
A61Q19/10
C05G3/00 Z
(21)【出願番号】P 2023575490
(86)(22)【出願日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2023033994
【審査請求日】2023-12-13
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03839
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03840
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03841
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03842
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03843
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(73)【特許権者】
【識別番号】508098394
【氏名又は名称】自然免疫応用技研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
(72)【発明者】
【氏名】阪野 優佳
(72)【発明者】
【氏名】大池 正樹
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/090359(WO,A1)
【文献】特表2023-537960(JP,A)
【文献】特開昭63-316738(JP,A)
【文献】特開2017-075150(JP,A)
【文献】国際公開第2012/173163(WO,A1)
【文献】Chem. Pharm. Bull.,1992年,Vol.40, No.4,p.994-997
【文献】Food science and nutirition,2021年,Vol.9,p.6406-6420
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/04
A23L 33/125
C08B 37/00
A61Q 1/00
A61K 8/73
A61Q 19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE BP-03839、NITE BP-03840、NITE BP-03841、NITE BP-03842、又はNITE BP-03843である細菌から得られることを特徴とするリポ多糖。
【請求項2】
受託番号NITE BP-03839、NITE BP-03840、NITE BP-03841、NITE BP-03842、又はNITE BP-03843である細菌からリポ多糖を得ることを特徴とするリポ多糖製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のリポ多糖が配合されていることを特徴とするリポ多糖配合物。
【請求項4】
ビーツ内の0.5kDa未満の物質が更に配合されていることを特徴とする
請求項3記載のリポ多糖配合物。
【請求項5】
請求項1記載のリポ多糖が配合されていることを特徴とする食用植物加工品。
【請求項6】
ビーツ内の0.5kDa未満の物質が更に配合されていることを特徴とする
請求項5記載の食用植物加工品。
【請求項7】
前記食用植物加工品がビーツ加工品であることを特徴とする
請求項5記載の食用植物加工品。
【請求項8】
前記食用植物加工品が乾燥野菜又は乾燥食用植物粉末であることを特徴とする
請求項5記載の食用植物加工品。
【請求項9】
請求項5乃至請求項8のいずれか一項に記載の食用植物加工品が配合されていることを特徴とする食品。
【請求項10】
前記リポ多糖配合物が、医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、肥料、又は浴用剤であることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のリポ多糖配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポ多糖、リポ多糖製造方法及びリポ多糖配合物に関し、特に、ビーツに特有に共生する細菌由来のリポ多糖(LPS)に関連する。
【背景技術】
【0002】
ビーツは栄養価が高く、機能性がある野菜と考えられている。ビーツにはカリウム、マグネシウム、鉄などのミネラルが豊富に含まれている。その他、ビーツに含まれるニトライトは体内で一酸化窒素に変わり、血管を拡張させる効果があり、ベタラインは抗酸化作用による細胞の老化を防ぐ効果、食物繊維は腸内環境を整え、肌荒れの改善にも役立つとされているように機能性も高い(非特許文献1)。ビーツについては、一般的な野菜が持つポリフェノールやビタミンCによる免疫細胞の機能維持作用が知られており、ビーツの色素成分であるベタシアニンは、抗炎症作用が知られていると共に、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)の発現を低下させる作用が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、ビーツが自然免疫細胞であるマクロファージを活性化し、抗炎症性サイトカイン(IL-10)の発現を高めることについては知られていない。
【0003】
我々は、植物には共生細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)が付着しており(非特許文献3)、このLPSが体内に摂取されて、ヒトの自然免疫を活性化することを見出している(非特許文献4)。したがって、ビーツの免疫調節作用の一部は、ビーツに特有に共生する細菌由来のLPS(以下「ビーツLPS」という)が関与することも考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】L. Chen et al., “Beetroot as a functional food with huge health benefits: Antioxidant, antitumor, physical function, and chronic metabolomics activity”, Food Sci Nutr., 2021.11, 9(11), p.6406-6420
【文献】S. Saito et al., “Metabolic engineering of betacyanin in vegetables for anti-inflammatory therapy”, Biotechnol Bioeng, 2023.05, 120(5), p.1357-1365
【文献】H. Inagawa et al., “Homeostasis as regulated by activated macrophage. II. LPS of plant origin other than wheat flour and their concomitant bacteria”, Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1992.04, 40(4), p.994-997.
【文献】H. Inagawa et al., “Usefulness of Oral Administration of Lipopolysaccharide for Disease Prevention Through the Induction of Priming in Macrophages”, Anticancer Res., 2014.08, 34(8), p.4497-4501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ビーツの抗炎症作用に係る新規の物質・因子を明らかにして提供する。これにより、慢性炎症を抑制するための、医薬品、食品、及び化粧品等ヘルスケア製品の開発が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される内容を含む。
【0007】
[1]受託番号NITE BP-03839、NITE BP-03840、NITE BP-03841、NITE BP-03842、又はNITE BP-03843である細菌から得られることを特徴とするリポ多糖。
[2]受託番号NITE BP-03839、NITE BP-03840、NITE BP-03841、NITE BP-03842、又はNITE BP-03843である細菌からリポ多糖を得ることを特徴とするリポ多糖製造方法。
[3]上記[1]記載のリポ多糖が配合されていることを特徴とするリポ多糖配合物。
[4]ビーツ内の0.5kDa未満の物質が更に配合されていることを特徴とする上記[1]又は上記[3]記載のリポ多糖配合物。
[5]上記[1]及び上記[3]乃至上記[4]のいずれか一項に記載のリポ多糖が配合されていることを特徴とする食用植物加工品。
【0008】
[6]ビーツ内の0.5kDa未満の物質が更に配合されていることを特徴とする上記[1]及び上記[3]乃至上記[5]のいずれか一項に記載の食用植物加工品。
[7]前記食用植物加工品がビーツ加工品であることを特徴とする上記[5]又は上記[6]に記載の食用植物加工品。
[8]前記食用植物加工品が乾燥野菜又は乾燥食用植物粉末であることを特徴とする上記[5]乃至上記[7]のいずれか一項に記載の食用植物加工品。
[9]上記[5]乃至上記[8]のいずれか一項に記載の食用植物加工品が配合されていることを特徴とする食品。
[10]前記リポ多糖配合物が、医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、肥料、又は浴用剤であることを特徴とする上記[3]又は上記[4]記載のリポ多糖配合物。
【発明の効果】
【0009】
ビーツから単離した菌体由来のビーツLPSは、マクロファージを活性化するが、公知のパントエア・アグロメランスLPSと比較し、抗炎症性サイトカインIL-10の誘導能が高いなど特殊なマクロファージ活性化を示すこと、その作用はポリミキシンBの作用により確かにLPSであることを示した。また、そのマクロファージ活性化は、ビーツLPS単独の作用ではなく、ビーツ内の低分子物質との相互作用であることを示した。これにより、慢性炎症を抑制するための、医薬品、食品、及び化粧品等ヘルスケア製品の開発が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書におけるビーツとは、日本食品標準成分表2020年版(八訂)に記載のビーツをさす。
【0011】
本明細書における「食用植物」とは、ヒトの飲食に供される植物である。本明細書における食用植物としては、ヒトの飲食に供されるものであれば何ら制限されるものではないが、野菜類、穀類、イモ類、豆類、種実類、果実類、きのこ類、藻類等が挙げられ、野菜類が好ましく、特にビーツが好ましい。食用植物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。また、食用植物は、そのまま用いてもよく、各種の処理(例えば乾燥、加熱、灰汁抜き、皮むき、種実抜き、追熟、塩蔵、果皮加工等)を加えてから使用してもよい。なお、一部の可食部(エダマメ、グリーンピースなど)が野菜として取り扱われる食材についても、非可食部(鞘など)と合わさった植物全体の状態(ダイズ、エンドウなど)で豆類かどうかを判断することができる。また、食用植物の分類は、非可食部と合わせた植物全体から判断することができる。具体的には、たとえば、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年」(厚生労働省が定めている食品成分表、特に第236頁表1参照)に記載された分類のうち、野菜類、穀類、イモ類、豆類、種実類、果実類、きのこ類、藻類を参照することで、いかなる食品が本発明における食用植物に該当するかを理解することができる。
【0012】
本発明における食用植物加工品の性状は、制限されないが、食用植物の粉末、食用植物のペースト、又は食用植物の水系抽出物から選ばれる1種以上であることが好ましい。例えば、食用植物に対して乾燥処理、ロースト処理、熱水抽出処理等の加熱処理(例えば80℃以上)を加えた加工品であることが好ましい。本発明における食用植物加工品は、乾燥野菜又は乾燥食用植物粉末であることが好ましい。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0013】
[ビーツ熱水抽出液のマクロファージ活性化評価]
(1)方法
1)ビーツ抽出液の調製
【0014】
皮つきのビーツを水で洗浄し、包丁で1cm四方のダイスカットにした。そのカット済みのビーツを、蒸し器を用いて温度90℃以上、15分間加熱を行った。そして、加熱済みのビーツを穴の開いたトレイに重ならないように広げ、70℃に設定した熱風乾燥機にトレイをセットし、水分値が6%以下になるまで乾燥させ(7~8時間)ビーツチップを作成した。その後、粉砕機(大阪ケミカル)を用いて粉砕し、355μmのメッシュを通してビーツ乾燥粉末を作成した。
【0015】
上記で作成したビーツ乾燥粉末を約2g秤量し50mLチューブに移し、100mg/mLになるように蒸留水を加え、オートクレーブにて90℃、20分加熱した。放熱後、ボルテックスミキサー(Vortex-genie2、Scientific Industries)にて30秒、10回攪拌、続いて37℃、15分超音波処理した。超音波処理後、遠心して回収した上清をビーツ抽出液とした。
【0016】
2)LPS量測定方法
LPS量をトキシノメーター(富士フイルム和光純薬)でリムルス値(リムルステストによって得られる値、コントロールスタンダードエンドトキシン大腸菌UKT-B製のLPSの換算値)として測定した。
【0017】
3)ビーツ抽出液によるマクロファージ活性化評価サンプルの調整
RAW264.7細胞は、10%の牛胎児血清、100 U/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシンを含有するRPMI1640培地にて継代培養したものを用いた。培養はT25培養フラスコを用い、3日あるいは4日毎に0.25×105cells/mLで植え継いだ。37℃の5%CO2インキュベーター(以下、インキュベーター)内で培養した。試験操作は全てクリーンベンチ内で行った。T25培養フラスコにて前培養した細胞をピペッティングにより壁から剥がし、得られた細胞の懸濁液をコニカルチューブに移した。チューブを室温で1000rpm、5分間遠心分離し、上清をデカンテーションで捨て、細胞を回収した。タッピングにより細胞をほぐした後、培養液を加え、ピペッティングによって細胞を均一に懸濁した。このRAW264.7細胞を24ウェルプレートに5×105 cells/0.5mL/wellとなるように播種し、37℃のインキュベーター内で3時間培養した。その後、2倍濃度の各被験物質を含むまたは含まない培養液をウェルに0.5mL添加した。陽性対照としてパントエア・アグロメランス由来のLPS (LPSp:フナコシ、mac0001)を用いた。培地以外のサンプルは、LPS濃度が10ng/mLになるように培地で希釈した。添加後37℃の5%CO2インキュベーター内で培養し、4時間後に培養液を回収した。
【0018】
4)IL-10遺伝子発現解析方法
培養液を除いた細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて説明書の方法に従って総RNA抽出液(40μL)を調整した。RNA抽出液 10μLを用いてNanoVue Plus(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)により吸光度およびRNA濃度を測定した。回収した総RNAの2μg分について、ReverTra Ace(R) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (東洋紡株式会社)を用い、キットの説明書に従いDNase処理により染色体DNAの分解処理を行って、その後逆転写によりcDNAを合成した。qPCRによりGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)とIL-10の発現解析を行った。
【0019】
(2)結果
各サンプルのRAW264.7細胞におけるIL-10遺伝子発現の結果を表1に示す。なお、表中の平均は、各サンプルのIL-10発現倍率の算術平均値を表す。
培地:培地のみ
LPSp:培地にLPSpを添加
ビーツ抽出液:培地にビーツ抽出液を添加
ビーツ抽出液はLPSpよりも高いIL-10発現倍率を示した。
【0020】
【0021】
LPSの阻害剤であるポリミキシンB (PB)をRAW264.7細胞に添加してLPSpとビーツ抽出液のIL-10遺伝子発現を測定した。また、PB添加によって阻害されたIL-10発現倍率をPB添加前と比較することで、PBによる阻害率を算出した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
*PB(-):PB添加なし。PB(+):PB添加あり。
両サンプルともにPB添加により90%以上阻害されることが示され、本活性はLPSによるものであることが示された。
【0023】
LPSはグラム陰性菌の細胞外膜に存在するリポ多糖である。以上の結果から、ビーツに含まれるマクロファージの特徴的な活性化作用を持つ物質はビーツに共生するグラム陰性菌に由来するLPSであることが推定された。
【実施例2】
【0024】
[ビーツ熱水抽出物の特徴を持つ物質の探索]
次に、LPS以外のビーツ由来成分による効果があるか分子分画で調べた。
(1)方法
1)ビーツ抽出液の作成
実施例1に記載のとおり。
【0025】
2)抽出液の分画
上記のビーツ熱水抽出液を、遠心式10kDa限外ろ過フィルター(Merck Millipore Ltd)を用いて、10kDa以上の分子量分画(LPSを含む)内液(限外濾過内液)と10kDa未満の分子量分画(LPSを含まない)外液(限外濾過外液)に遠心分離して分けた。限外濾過内液に蒸留水を添加し、遠心操作(洗浄操作)を5回繰り返した。洗浄に使用した蒸留水を含む各画分を凍結乾燥処理し、蒸留水を加えた。
【0026】
さらに、0.5kDa透析膜(フナコシ)を用いて限外濾過外液(10kDa未満)を蒸留水で透析した。透析を5回行い、透析膜内液(0.5~10kDa)と、透析膜外液(0.5kDa未満)を回収した。透析膜外液は、凍結乾燥後、蒸留水で調製した。
3)IL-10遺伝子発現解析
サンプルを追加して実施例1に記載のとおりに行った。
【0027】
(2)結果
各サンプルをRAW264.7細胞に添加し、IL-10遺伝子発現を調べた結果を表3に示す。なお、表中の平均は、各サンプルのIL-10発現倍率の算術平均値を表す。
LPSp:培地にLPSpを添加
ビーツ抽出液:培地にビーツ抽出液を添加
限外濾過内液:培地に限外濾過内液を添加
限外濾過外液:培地に限外濾過外液を添加
限外濾過内液+限外濾過外液:培地に限外濾過内液及び限外濾過外液を添加
【0028】
【0029】
以上の結果から、限外濾過内液のIL-10遺伝子発現は、ビーツ抽出液に比べ著しく低下したことが分かった。また、限外濾過外液にはIL-10遺伝子発現はほとんど見られなかった。限外濾過外液中の何らかの物質がビーツ抽出液の特徴をもたらしていることについて、限外濾過内液と限外濾過外液を再構成されることで確認できた。このことから、限外濾過外液にビーツ抽出液の特徴を誘導する物質が含まれていることを見出した。
【0030】
ここで、LPSの阻害剤であるポリミキシンB (PB)をRAW264.7細胞に添加して限外濾過内液のIL-10遺伝子発現を測定し、その結果を表4に示した。なお、PBによる阻害率は実施例1と同様の方法で算出した。
LPSp:培地にLPSpを添加
LPSp+限外濾過外液:培地にLPSp及び限外濾過外液を添加
ビーツ抽出液:培地にビーツ抽出液を添加
限外濾過内液:培地に限外濾過内液を添加
限外濾過内液+限外濾過外液:培地に限外濾過内液及び限外濾過外液を添加
【0031】
【表4】
*PB(-):PB添加なし。PB(+):PB添加あり。
上記のとおり、PB添加によりIL-10発現倍率が90%以上阻害されることが示され、本活性はLPSによるものであることが示された。
【0032】
さらに、10kDa限外濾過外液に含まれる低分子物質の分子量を限定するために0.5kDaの透析膜を用いて透析膜内液(0.5~10kDa)と、透析膜外液(0.5kDa未満)を作成し、その効果を調べた。その結果を表5示す。なお、表中の平均は、各サンプルのIL-10発現倍率の算術平均値を表す。
LPSp:培地にLPSpを添加
ビーツ抽出液:培地にビーツ抽出液を添加
限外濾過内液:培地に限外濾過内液を添加
限外濾過内液+透析膜外液:培地に限外濾過内液及び透析膜外液を添加
【0033】
【0034】
限外濾過内液と透析膜外液を再構成させることでIL-10発現倍率が高くなるというビーツ抽出液の特徴を示した。以上のことから、限外濾過外液に含まれるIL-10発現倍率を高くする何らかの低分子物質は0.5kDa未満の物質に絞られた。
【実施例3】
【0035】
[ビーツ熱水抽出液の特徴を持つ微生物の単離]
(1)ビーツ常在細菌の単離方法
【0036】
1)ビーツ寒天培地(ビーツエキス25, 75%、イーストエクストラクト0.5%、アンホテリシン5μg/mL、バンコマイシン10μg/mL、寒天1.5%)の調製方法
【0037】
(1):北海道産ビーツを1cm角程度にカットし、ビーツ重量と等量の注射用水(株式会社大塚製薬)を加えた。ホモジナイザーで粉砕後、遠心(3500rpm、10分間)し上清を回収した(50%ビーツエキス)。50%ビーツエキスを68℃で30分間加熱した後、凍結乾燥した。この凍結乾燥品に元の50%ビーツエキスに対して同量になるように蒸留水を加え、50%ビーツエキスと同濃度(50%)、および3倍濃度(150%)ビーツエキスとなるように調整した。これにアンホテリシンB(富士フイルム和光純薬株式会社)を終濃度10μg/mL、バンコマイシン(富士フイルム和光純薬株式会社)を終濃度20μ/mLとなるように加えた。
【0038】
(2):別の容器に、寒天(粉末、富士フイルム和光純薬株式会社)とイーストエクストラクト(ナカライテスク株式会社)がそれぞれ終濃度3%と1%になるように蒸留水に加え、121℃で20分間オートクレーブを行った。
【0039】
(3):(2)の溶液が60℃程度になったら、(1)と等量混合し、終濃度25%と75%ビーツ培地を調整した。これを25mLずつ10cmシャーレに分注した。
【0040】
2)菌の分離方法
以下の操作はクリーンベンチ内で無菌的に行った。
注射用水を含ませたキムワイプでビーツの表面を擦り洗浄した。洗浄した部分の皮を採取し、ハサミで細切した。ビーツ3玉の皮を混合し、重量と等量の注射用水を加えボルテックスミキサーで攪拌した(懸濁液)。この懸濁液を生理食塩水で5×103倍と5×104倍に希釈した。希釈した懸濁液をビーツ寒天培地(ビーツエキス25、75%)とLB寒天培地に100μLずつ撒いた。
【0041】
3)菌の培養方法
各培地に撒いたプレートを好気と嫌気の条件で培養した。好気培養は、5×104倍希釈で撒いたプレートを25℃に設定した恒温槽で3~5日間培養した。嫌気培養は、5×103倍希釈で撒いたプレートを嫌気環境にしたパウチ(アネロパウチ・ケンキ:株式会社スギヤマゲン)に入れて25℃に設定した恒温槽で3日間培養した。培養開始から2時間後、嫌気指示薬が酸素なし(0.1%以下)の状態を示したことを確認した。
【0042】
(2)結果
ビーツ培地(25, 75%)で好気培養を5日間、嫌気培養を3日間行った。得られたコロニー数は表6に示した。
ビーツエキス25%培地:濃度25%のビーツエキス培地
ビーツエキス75%培地:濃度75%のビーツエキス培地
【0043】
各プレートのコロニーをセルスクレーパーでかき取り、湿菌体重量10~100mg/mLになるように注射用水を加え、90℃で20分間加熱した(培養菌群の熱水抽出液)。各培養菌群の熱水抽出液のLPS含量測定結果については表6に示した。各培養菌群にはリムルスで測定できるLPSが存在した。
【0044】
【0045】
次に、培養菌群の熱水抽出物をPB添加有無でのIL-10遺伝子発現を調べ、本活性がLPS由来である確認を行った。その結果は表7に示すように、LPSpを基準として、ビーツエキス25%培地で嫌気培養、75%好気及び嫌気培養でIL-10発現倍率が有意に高いことがわかった。(T検定で危険率P<0.05)また、PBによる阻害率が90%を超えているのは、ビーツエキス25%培地の好気と嫌気培養、75%培地の好気培養であった。以上から、ビーツエキス25%培地の嫌気培養(コロニー数:6個)、75%の好気培養(コロニー数:13個)を選択した。なお、PBによる阻害率は実施例1と同様の方法で算出した。
【0046】
【表7】
*PB(-):PB添加なし。PB(+):PB添加あり。
*:T検定で危険率P<0.05
【実施例4】
【0047】
[ビーツ熱水抽出液の特徴を持つ微生物の同定]
ビーツをビーツエキス25%培地の嫌気培養、75%の好気培養をして出現する菌群から、菌株を選出し、菌属を16SrRNA法で同定し、菌寄託した。
(1)同定方法
1)LB寒天培地の調製方法
【0048】
LB培地に寒天を1.5%になるように加え、121℃で20分間オートクレーブを行った。60℃程度に冷めたらアンホテリシンB終濃度5μg/mL、バンコマイシン 終濃度10μg/mLとなるように試薬を加え、25mLずつシャーレに分注した。
【0049】
2)菌の同定
25%ビーツ培地(嫌気培養)と75%ビーツ培地(好気培養)のレプリカ(4℃保存)から選択した19個のコロニーを新しいLB培地に画線培養した。25℃で好気培養(2日間)後、シングルコロニーを新しい培地に画線培養した。25℃で2日間培養し、コロニーを確認後、外注先である株式会社テクノスルガ・ラボにプレートを送り、16s rDNA部分塩基配列解析データを得た。
【0050】
3)熱フェノール水抽出
熱フェノール水抽出は、ウエストファールらの方法でフェノール抽出を行った。湿菌体に100mg/mLになるように注射用水を加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。懸濁液と等量の90%フェノールを加え、ボルテックスミキサーで混合した。68℃に設定したウォーターバスで20分間加熱した。加熱中は、5分毎に約10秒間撹拌した。室温まで放熱した後、遠心分離(3500rpm、20分間、室温)を行い、水層を回収した。回収した水層と等量の注射水を加え、再度フェノール抽出を行った。
【0051】
回収した水層に注射水を加え、10倍希釈した。この溶液からフェノールを除去するために、遠心式10kDa限外濾過フィルターを用いて限外濾過を行い、LPSを回収し、この溶液のLPS量をリムルス法で測定した。
【0052】
4)IL-10遺伝子発現解析方法
各サンプルについて実施例1に記載のとおりにIL-10遺伝子の発現解析を行った。ここでの低分子物質としては、限外濾過外液を用いたが、上記のとおり、実際にIL-10発現倍率を高くする何らかの低分子物質は0.5kDa未満の物質である。
【0053】
(2)結果
上記で得られた19菌株の16s rDNA部分塩基配列をテクノスルガ・ラボに委託して決定し、その配列データを、国際塩基配列データベースにてBLAST検索し、菌の属を同定した。その中から、25%ビーツ培地(嫌気培養)から3菌株と、75%ビーツ培地(好気培養)から2菌株を独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。表8に各菌の属と受託番号を示す。
【0054】
【0055】
寄託した菌体のIL-10遺伝子発現を測定し、サンプル単独に低分子物質を添加した場合の、低分子物質添加前と比較した増加倍率を算出した。その結果を表9、表10に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
以上の結果から、サンプル単独でのIL-10発現倍率がLPSpより高い(BR-4、BR-6、BR-15、BR-19菌株由来LPS)か、低分子物質(10kDa未満の限外濾過外液を用いたが、実際には0.5kDa未満の物質が効いている。)が入ることでIL-10発現倍率が上がり、サンプル単独に比べて増加倍率が20倍以上に増加する(BR-1、BR-15菌株由来LPS)ビーツ単離菌由来のLPSが明らかになった。
【0059】
これらのことから、ビーツには、ビーツ特有の細菌に由来するLPSと、LPSの作用を変化させる低分子物質の相互作用により抗炎症作用を持つことが明らかとなり、ビーツの免疫調節機能に係る新規の物質により、慢性炎症を抑制するための、医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、肥料、及び浴用剤並びに野菜や果物、穀物などの食用植物、特に根菜類を処理して得られる食用植物加工品を配合する食品等ヘルスケア製品の開発が可能となる。
【0060】
本明細書で引用したすべての刊行物は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
【受託番号】
【0061】
寄託機関の名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
寄託機関のあて名:〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
寄託日:2023年 3月 2日
受託番号:
(1). NITE BP-03839
(2). NITE BP-03840
(3). NITE BP-03841
(4). NITE BP-03842
(5). NITE BP-03843
【要約】
ビーツの抗炎症作用に係る新規の物質・因子を明らかにして提供する。これにより、慢性炎症を抑制するための、医薬品、食品、及び化粧品等ヘルスケア製品の開発が可能となる。受託番号NITE BP-03839、NITE BP-03840、NITE BP-03841、NITE BP-03842、又はNITE BP-03843である細菌から得られることを特徴とするリポ多糖。そのリポ多糖が配合されている医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、肥料、又は浴用剤。