(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】γδT細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240430BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240430BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240430BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240430BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240430BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/62 Z
A61K35/17
A61P35/00
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020530276
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2019027697
(87)【国際公開番号】W WO2020013315
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018133727
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019117891
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】入口 翔一
(72)【発明者】
【氏名】上田 樹
(72)【発明者】
【氏名】葛西 義明
(72)【発明者】
【氏名】林 哲
(72)【発明者】
【氏名】中山 和英
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/010155(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076415(WO,A1)
【文献】特表2012-528599(JP,A)
【文献】国際公開第2017/075389(WO,A1)
【文献】特表2017-535284(JP,A)
【文献】特開2010-017134(JP,A)
【文献】国際公開第2014/165707(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/143243(WO,A1)
【文献】特表2020-506713(JP,A)
【文献】Stem Cells Translational Medicine,2017年11月,Vol.7,pp.34-44
【文献】Journal of Leukocyte Biology,Vol.96,2014年,pp.1165-1175
【文献】渡邉大輔 他,iPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞を用いる新規消化器がん治療法の開発,第24回日本消化器関連学会週間,2016年,消P-413
【文献】青井貴之,同種iPS細胞由来γδT細胞を用いたがん免疫療法の可能性,医学のあゆみ,2017年12月,Vol.263, Nos.11,12,pp.915-919
【文献】Cell Stem Cell,2018年12月,Vol.23,pp.850-858
【文献】Stem Cell Reports,2023年04月,Vol.18,pp.853-868
【文献】WATANABE, D. et al.,Development of ipsc-based γδT-cell immunotherapy for digestive cancer,Gastroenterology,2017年04月,Vol.152, No.5, Supplement 1,p.S641,ISSN: 0016-5085, 全文
【文献】Stem Cells,2015年,Vol.33,pp.3174-3180
【文献】Nature Biotechnology,2013年,Vol.31, No.10,pp.928-933, ONLINE METHODS
【文献】PLOS ONE, 2014, Vol.9, No.5, e97335
【文献】渡邉大輔 他,iPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞を用いる新規消化器がん治療法の開発,第24回日本消化器関連学会週間,2016年,消P-413,全文
【文献】青井貴之,同種iPS細胞由来γδT細胞を用いたがん免疫療法の可能性,医学のあゆみ,2017年12月,Vol.263, Nos.11,12,pp.915-919,ISSN: 0039-2359, 特にp.916左欄第2段落, p.917右欄第4段落, p.918右欄第2段落,
図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工多能性幹細胞からγδT細胞を製造する方法であって、前記人工多能性幹細胞が、αβT細胞以外の細胞由来であり、
以下の工程を含む、方法
:
(1)αβT細胞以外の細胞から人工多能性幹細胞を樹立する工程
(2-1)工程(1)で樹立された人工多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程、及び
(2-2)工程(2-1)で得られた造血前駆細胞を、フィーダー細胞を用いずに培養してCD3陽性T細胞に分化させ
、γδT細胞またはγδT細胞を含む細胞集団を得る工程、
ここで、αβT細胞以外の細胞は単球である。
【請求項2】
前記(1)、(2-1)および(2-2)のいずれかの工程中に得られる細胞に、腫瘍特異的抗原若しくは腫瘍関連抗原を認識し結合する
(ii)γTCRをコードする核酸およびδTCRをコードする核酸、並びに/または
(iii)CARをコードする核酸
を導入する工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記γTCRがVγ9TCRであり、且つ前記δTCRがVδ2TCRである、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記(1)、(2-1)および(2-2)のいずれかの工程中に得られる細胞に、IL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質をコードする核酸を導入する工程を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法により製造されたγδT細胞。
【請求項6】
前記γδT細胞が、CARを発現している、請求項
5に記載の細胞。
【請求項7】
前記γδT細胞が、IL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質を発現している、請求項
5または6に記載の細胞。
【請求項8】
少なくとも全細胞の90%以上がγδT細胞である細胞集団であって、前記γδT細胞が、αβT細胞以外の細胞由来の人工多能性幹細胞から分化した細胞であり、
αβT細胞以外の細胞は単球であり、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法により製造された、細胞集団。
【請求項9】
請求項
5若しくは6に記載の細胞または請求項
8に記載の細胞集団を含む医薬。
【請求項10】
腫瘍の予防又は治療に使用するための、請求項
9に記載の医薬。
【請求項11】
請求項
5若しくは6に記載の細胞または請求項
8に記載の細胞集団を含む、細胞の殺傷剤。
【請求項12】
腫瘍の予防又は治療に使用するための、請求項
5若しくは6に記載の細胞または請求項
8に記載の細胞集団。
【請求項13】
腫瘍の予防剤又は治療剤の製造における、請求項
5若しくは6に記載の細胞または請求項
8に記載の細胞集団の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞からγδT細胞を製造する方法、人工多能性幹細胞から分化したγδT細胞および該細胞を含む細胞集団などに関する。
【0002】
(発明の背景)
近年、がんに対する治療法として免疫細胞治療が注目されている。免疫細胞治療とは、患者の体外で増殖および活性化させた免疫細胞を患者に投与し、その免疫細胞にがん細胞を攻撃させる治療法である。免疫細胞治療は、従来の外科治療、放射線治療、化学治療の三大療法に比べて副作用がほとんどないという利点を有している。免疫細胞治療には様々な種類の治療法があるが、その中でも、自然免疫を担い、がん細胞に対して細胞傷害活性を有するγδT細胞を用いた治療が注目されている。
【0003】
γδT細胞治療では、該細胞治療を実現するにあたり、該細胞を効率よく製造し、安定供給するための製造方法の開発が望まれるところ、患者の血液中のγδT細胞のみを選択する手法(血液細胞をゾレドロン酸およびIL-2含有培地で培養する方法(特許文献1))は知られているものの、本発明者らが知る限り幹細胞からγδT細胞を製造する手法は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/006720号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、幹細胞からγδT細胞を製造する方法を提供することを課題とする。また本発明は、幹細胞から分化したγδT細胞および該細胞を含む細胞集団を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、αβT細胞以外の細胞から人工多能性幹細胞を誘導し、さらに該細胞をT細胞に誘導することにより、γδT細胞を効率良く取得できることを見出した。また、このようにして得られたγδT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入することで、該CARを発現するγδT細胞を作製したところ、該γδT細胞は、導入前のγδT細胞では認識および傷害が難しいがん細胞に対しても高い細胞傷害性を示すことが示された。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]人工多能性幹細胞からγδT細胞を製造する方法であって、前記人工多能性幹細胞が、αβT細胞以外の細胞由来である、方法。
[2]以下の工程を含む、[1]に記載の方法。
(1)αβT細胞以外の細胞から人工多能性幹細胞を樹立する工程
(2)工程(1)で樹立された人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程
[3]前記αβT細胞以外の細胞が、αβT細胞以外の単核細胞である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記αβT細胞以外の細胞が単球である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記(1)および(2)のいずれかの工程中に得られる細胞に、腫瘍特異的抗原若しくは腫瘍関連抗原を認識し結合する
(i)αTCRをコードする核酸およびβTCRをコードする核酸、
(ii)γTCRをコードする核酸およびδTCRをコードする核酸、並びに/または
(iii)CARをコードする核酸を導入する工程を含む、[2]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]前記γTCRがVγ9TCRであり、且つ前記δTCRがVδ2TCRである、[5]に記載の方法。
[7]前記(1)および(2)のいずれかの工程中に得られる細胞に、IL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質をコードする核酸を導入する工程を含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]人工多能性幹細胞由来のγδT細胞であって、前記人工多能性幹細胞が、αβT細胞以外の細胞由来である、細胞。
[9][1]~[7]のいずれか一つに記載の方法により製造されるγδT細胞。
[10]前記αβT細胞以外の細胞が、αβT細胞以外の単核細胞である、[8]または[9]に記載の細胞。
[11]前記αβT細胞以外の細胞が単球である、[8]~[10]のいずれか一つに記載の細胞。
[12]前記γδT細胞が、Vγ9TCRおよびVδ2TCRを発現している、[8]~[11]のいずれか一つに記載の細胞。
[13]前記γδT細胞が、CARを発現している、[8]~[12]のいずれか一つに記載の細胞。
[14]前記γδT細胞が、IL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質を発現している、[8]~[13]のいずれか一つに記載の細胞。
[15]少なくとも全細胞の90%以上がγδT細胞である細胞集団であって、前記γδT細胞が、αβT細胞以外の細胞由来の人工多能性幹細胞から分化した細胞である、細胞集団。
[16][8]~[14]のいずれか一つに記載の細胞または[15]に記載の細胞集団を含む医薬。
[17]腫瘍の予防又は治療に使用するための、[16]に記載の医薬。
[18][8]~[14]のいずれか一つに記載の細胞または[15]に記載の細胞集団を含む、細胞の殺傷剤。
[19]腫瘍の予防又は治療に使用するための、[8]~[14]のいずれか一つに記載の細胞または[15]に記載の細胞集団。
[20]腫瘍の予防剤又は治療剤の製造における、[8]~[14]のいずれか一つに記載の細胞または[15]に記載の細胞集団の使用。
[21][8]~[14]のいずれか一つに記載の細胞または[15]に記載の細胞集団を投与することを含む、腫瘍の予防又は治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人工多能性幹細胞からγδT細胞を製造する方法、人工多能性幹細胞から分化したγδT細胞および該細胞を含む細胞集団などを提供することができる。さらに、上記方法により製造されたγδT細胞のうち、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞では、CARが認識する抗原特異的に高い細胞傷害活性を、in vitroおよびin vivoで示し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、抗体セット(Vδ1 Myltenyi FITC、Vδ2 Myltenyi APC、γδTCR BD BV510、CD3 BioLegend APC/Cy7およびαβTCR eBioscience FITC)を用いて、取得した細胞を染色した結果を示す。塗りつぶしのピークは、非染色群の結果を示し、ブランクのピークは各抗原特異的な抗体を用いた染色結果をそれぞれ示す。
【
図2】
図2は、抗体セット(Vδ1 Myltenyi FITC、Vδ2 Myltenyi APC、γδTCR BD BV510、CD3 BioLegend APC/Cy7およびαβTCR eBioscience FITC)を用いて、取得した細胞を染色したフローサイトメトリーの結果を示す。
【
図3】
図3は、取得したγδT細胞の細胞傷害活性の測定結果を示す。縦軸は細胞傷害活性(%)を示し、横軸は、標的細胞数に対する混和したγδT細胞数の割合を示す。
【
図4】
図4は、iPS細胞由来γδT細胞(iγδT細胞)の細胞増殖の測定結果を示す。縦軸は細胞増殖率を示し、横軸は抗CD3抗体(UCHT1)および抗CD30抗体による刺激を開始した日からの経過日数を示す。
【
図5】
図5は、iPS細胞に、Vγ9Vδ2TCR遺伝子を導入して分化させたγδT細胞(iγ9δ2T細胞)の細胞膜表面上でのCD3およびγδTCR分子の発現を示す。
【
図6】
図6は、iPS細胞由来の造血前駆細胞(HPC)に、Vγ9Vδ2TCR遺伝子を導入して分化させたγδT細胞(iHγ9δ2T細胞)の細胞膜表面上でのCD3およびγδTCR分子の発現を示す。
【
図7】
図7は、抗CD19-CAR遺伝子を発現させたiγδT細胞(iCD19CAR/IL-15γδT細胞)の細胞増殖の測定結果を示す。縦軸は細胞数を示し、横軸は抗CD3抗体(UCHT1)および抗CD30抗体による刺激を開始した日からの経過日数を示す。
【
図8】
図8は、抗CD19-CAR遺伝子を発現させたiHγ9δ2T細胞(iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T)の細胞増殖の測定結果を示す。縦軸は細胞数を示し、横軸は抗CD3抗体(UCHT1)による刺激を開始した日からの経過日数を示す。
【
図9】
図9は、抗CD19-CAR遺伝子を発現させたiγδT細胞(iCD19CAR/IL-15γδT細胞)の細胞傷害活性の測定結果を示す。縦軸は標的細胞傷害率(%)を示し、横軸は、標的細胞数に対する混和したiCD19CAR/IL-15γδT細胞数の割合を示す。
【
図10】
図10は、抗CD19-CAR遺伝子を発現させたiHγ9δ2T細胞(iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞)の細胞傷害活性の測定結果を示す。縦軸は標的細胞傷害率(%)を示し、横軸は、標的細胞数に対する混和したiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞数の割合を示す。
【
図11】
図11は、抗CD19-CAR遺伝子を発現させたiγδT細胞(iCD19CAR/IL-15γδT細胞)のin vivo投与による、ヒトCD19陽性腫瘍担がんマウスの生存日数への効果を示す。縦軸はマウスの生存率を示し、横軸はがん細胞を移植した日からの経過日数を示す。
【
図12】
図12は、抗CD19-CAR遺伝子を発現させたiHγ9δ2T細胞(iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T)のin vivo投与による、ルシフェラーゼ発現ヒト腫瘍移植マウスに対する抗腫瘍効果を示す。
【0010】
(発明の詳細な説明)
本明細書において、「遺伝子の発現」には、該遺伝子の特定のヌクレオチド配列からmRNAが合成されること(転写又はmRNAの発現ともいう)及び該mRNAの情報に基づきタンパク質が合成されること(翻訳又はタンパク質の発現ともいう)の両方が包含されるものであるが、特に断らない限り、「遺伝子の発現」又は単なる「発現」はタンパク質の発現を意味するものとする。
【0011】
本明細書において、「陽性」とは、タンパク質又はmRNAが当該分野で公知の手法による検出可能量で発現していることを意味する。タンパク質の検出は、抗体を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、免疫染色、フローサイトメトリーを利用して行うことができる。また、細胞内に発現し、細胞表面には現れないタンパク質(例えば転写因子またはそのサブユニットなど)の場合は、当該タンパク質とともにレポータータンパク質を発現させ、当該レポータータンパク質を検出することによって対象とするタンパク質を検出できる。mRNAの検出は、例えば、RT-PCR、マイクロアレイ、バイオチップ及びRNAseq等の核酸増幅方法及び/又は核酸検出方法を利用して行うことができる。
【0012】
本明細書において、「陰性」とは、タンパク質又はmRNAの発現量が、上記のような公知手法の全てあるいはいずれかによる検出下限値未満であることを意味する。タンパク質又はmRNAの発現の検出下限値は、各手法により異なりえる。
【0013】
本明細書において、陽性であることを「タンパク質又はmRNAの発現が有る」ともいい、陰性であることを「タンパク質又はmRNAの発現が無い」ともいう。よって、「発現の有無」の調整とは、細胞を、検出対象のタンパク質又はmRNAの発現量が検出下限値以上(陽性)の状態及び検出下限値未満(陰性)の状態のいずれかの状態とすることを意味する。
【0014】
本明細書において、「培養」とは、細胞をインビトロ環境において維持し、増殖させ(成長させ)、かつ/又は分化させることを指す。「培養する」とは、組織外又は体外で、例えば、細胞培養プレート、ディッシュ又はフラスコ中で細胞を維持し、増殖させ(成長させ)、かつ/又は分化させることを意味する。
【0015】
本明細書において、「濃縮させる」とは、細胞の組成物などの組成物中の特定の構成成分の割合を増加させることを指し、「濃縮された」とは、細胞の組成物、例えば、細胞集団を説明するために使用される場合、特定の構成成分の量が、濃縮される前の細胞集団におけるそのような構成成分の割合と比較して増加している細胞集団を指す。例えば、細胞集団などの組成物を、標的細胞型に関して濃縮することができ、したがって、標的細胞型の割合は、濃縮される前の細胞集団内に存在する標的細胞の割合と比較して増加する。細胞集団は、当技術分野で公知の細胞選択及び選別方法によって、標的細胞型について濃縮することもできる。細胞集団は、本明細書に記載した特定の培養方法、選別又は選択プロセスによって濃縮することもできる。本発明の特定の実施形態では、標的細胞集団を濃縮する方法により、細胞集団が標的細胞集団に関して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%濃縮される。
【0016】
本明細書において、「拡大培養」とは、所望の細胞集団を増殖させ、細胞数を増加させることを目的として培養することを意味する。細胞数の増加は、細胞の増殖による増数が死滅による減数を超えることによって達成されるものであればよく、細胞集団の全ての細胞が増殖することを要さない。細胞数の増加は、拡大培養の開始前に比して1.1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、300倍、500倍、1000倍、3000倍、5000倍、10000倍、100000倍、1000000倍以上でありうる。
【0017】
本明細書において、「刺激」とは、ある物質が種々の受容体等に結合してその下流のシグナル経路を活性化することを意味する。
【0018】
本明細書において、「細胞集団」とは、同じ種類又は異なる種類の2以上細胞を意味する。「細胞集団」は、同じ種類又は異なる種類の細胞の一塊(mass)をも意味する。
【0019】
1.人工多能性幹細胞からγδT細胞を製造する方法
本発明は、人工多能性幹細胞からγδT細胞、および該γδT細胞を含む細胞集団を製造する方法(以下「本発明の製法」と略記する)を提供する。本発明の製法は、人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程を含む。本発明の製法に用いる人工多能性幹細胞は、既に樹立され、ストックされた細胞であってもよく、αβT細胞以外の細胞から樹立された人工多能性幹細胞であってもよい。従って、本発明の一実施態様において、本発明の製法は、(1)αβT細胞以外の細胞から人工多能性幹細胞を樹立する工程、および(2)工程(1)で樹立された人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程を含む。
【0020】
本発明において「T細胞受容体(TCR)」とは、TCR鎖(α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖)のダイマーから構成される。「γδT細胞」とは、CD3を発現し、かつTCRγ鎖(γTCR)およびTCRδ鎖(δTCR)から構成されるTCR(以下、「γδTCR」と称する場合がある)を発現する細胞を意味する。「αβT細胞」とは、CD3を発現し、かつTCRα鎖(αTCR)およびTCRβ鎖(βTCR)から構成されるTCR(以下、「αβTCR」と称する場合がある)を発現する細胞を意味する。ほとんどのαβT細胞は、αβTCRにより抗原ペプチド- MHC(主要組織適合遺伝子複合体、ヒトの場合はHLA:ヒト白血球型抗原)複合体を認識する(これをMHC拘束性と呼ぶ)。これに対しγδT細胞は、γδTCRにより、MHC分子とは無関係に、細胞が発現する多様な分子を認識する。各TCR鎖は可変領域と定常領域から構成され、可変領域には、3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、CDR3)が存在する。TCR遺伝子は、ゲノム上では多数のV (variable)、D (diversity)、J (joining)およびC (constant) の遺伝子断片から構成される。T細胞の分化、成熟の過程で遺伝子再構成が行なわれ、β鎖遺伝子では、DとJのそれぞれ1つずつがランダムに選ばれて結合し、続いて、V-DJ間で遺伝子再構成が行われる。その過程で、V-D間およびD-J間にランダムに塩基の挿入や欠失が起こり、遺伝子の多様性が高まる。TCRのmRNA前駆体で、VDJ領域と共通領域であるC領域でRNAスプライシングが起こり、機能的TCR遺伝子として発現される。
【0021】
γTCRとしては、例えば、Vγ1TCR、Vγ2TCR、Vγ3TCR、Vγ4TCR、Vγ5TCR、Vγ6TCR、Vγ7TCR、Vγ8TCR、Vγ9TCRが挙げられ、δTCRとしては、Vδ1TCR、Vδ2TCR、Vδ3TCR、Vδ4TCR、Vδ5TCR、Vδ6TCR、Vδ7TCR、Vδ8TCR、Vδ9TCRが挙げられる。また、具体的なγTCRとδTCRの組み合わせとしては、限定されないが、例えば、Vγ3Vδ1TCR、Vγ4Vδ1TCR、Vγ9Vδ1TCR、Vγ9Vδ2TCRが挙げられる。
【0022】
(1)人工多能性幹細胞を樹立する工程
本発明において「人工多能性幹細胞」(以下「iPS細胞」と称する場合がある)とは、体細胞に初期化因子を導入することにより樹立される、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞を意味し、少なくとも本発明で使用される造血前駆細胞に誘導される任意の細胞が包含される。人工多能性幹細胞は哺乳動物(例:マウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒト)由来であることが好ましく、ヒト由来であることがより好ましい。
【0023】
人工多能性幹細胞の樹立方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することによって樹立され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat. Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0024】
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。さらに、前述した細胞は、健康な細胞であってもよく、疾患性の細胞であってもよい。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血前駆細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(例:末梢血細胞、臍帯血細胞等)、単核細胞(例:リンパ球(NK細胞、B細胞、αβT細胞以外のT細胞(例:γδT細胞等)、単球、樹状細胞等))、顆粒球(例:好酸球、好中球、好塩基球)、巨核球)、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(例:皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(例:膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。中でも、αβT細胞以外の単核細胞が好ましく、より具体的には、単球またはγδT細胞が好ましい。
【0025】
初期化因子を体細胞に導入する方法としては、初期化因子がDNAの形態の場合、例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456 (1973)、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.), 第119巻 (第6号), 345-351 (2002)などに記載の方法を用いることができる。ウイルスベクターを用いる場合には、核酸を適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させることで、細胞に導入することができる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が国際公開第2007/69666号、Cell, 126, 663-676 (2006) および Cell, 131, 861-872 (2007)などに開示されている。特に、レトロウイルスベクターを用いる場合には、組換えフィブロネクチンフラグメントであるCH-296(タカラバイオ社製)を用いることにより、各種細胞に対して、高効率な遺伝子導入が可能となる。
【0026】
初期化因子をRNAの形態で直接細胞に導入し、細胞内で該初期化因子を発現させてもよい。RNAの導入方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、リポフェクション法や電気穿孔法などが好適に使用できる。また、初期化因子がタンパク質の形態の場合、例えば、リポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法等により細胞に導入することができる。
【0027】
基礎培地としては、例えば、ダルベッコ培地(例:IMDM)、イーグル培地(例:DMEM、EMEM、BME、MEM、αMEM)、ハム培地(例:F10培地、F12培地)、RPMI培地(例:RPMI-1640培地、RPMI-1630培地)、MCDB培地(例:MCDB104、107、131、151、153培地)、フィッシャー培地、199培地、霊長類ES細胞用培地(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、マウスES細胞用培地(TX-WES培養液、トロンボX社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology者)、ReproFF、StemSpan(登録商標)SFEM、StemSpan(登録商標)H3000、StemlineII、ESF-B培地、ESF-C培地、CSTI-7培地、Neurobasal培地(ライフテクノロジー社)、StemPro-34培地、StemFit(登録商標)(例:StemFit AK03N, StemFit AK02N)などが挙げられるがこれに限定されるものではない。さらに、これらの培地は、必要に応じて、混合等して使用することもでき、例えば、DMEM/F12培地等が挙げられる。
【0028】
基礎培地には、10%~20%の血清(ウシ胎仔血清(FBS)、ヒト血清、ウマ血清)または血清代替物(KSRなど)、インスリン、各種ビタミン、L-グルタミン、非必須アミノ酸等の各種アミノ酸、2-メルカプトエタノール、各種サイトカイン(インターロイキン類(IL-2、IL-7、IL-15等)、幹細胞因子(SCF (Stem cell factor))、アクチビンなど)、各種ホルモン、各種増殖因子(白血病抑制因子(LIF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TGF-β等)、各種細胞外マトリックス、各種細胞接着分子、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン等の抗生物質、フェノールレッド等のpH指示薬などを適宜添加することができる。
【0029】
培養は、例えば、1%~10%、好ましくは2%~5% CO2の雰囲気下、例えば、37℃~42℃程度、好ましくは37℃~39℃程度で、25~50日間程度行うことが好ましい。
【0030】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物は特に制限されないが、好ましくはヒトである。拒絶反応が起こらないという観点から、自家細胞、HLAの型が同一若しくは実質的に同一である他家細胞、HLAの発現の有無および/または発現量を調整した他家細胞等であることが好ましい。HLAとしてはクラスIおよび/またはクラスIIに含まれる少なくとも一部のサブユニットについて、発現の有無および/または発現量が調整されることが好ましい。
【0031】
(2)人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程
人工多能性幹細胞からT細胞への分化方法としては、人工多能性幹細胞をγδT細胞へ分化できる限り特に制限されないが、本発明の一実施態様において、人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程は、(2-1)人工多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程、および(2-2)該造血前駆細胞をCD3陽性T細胞に分化させる工程を含み得る。
【0032】
(2-1)人工多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程
本発明において、「造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cell(s)(HPC))」とは、CD34陽性細胞を意味し、好ましくは、CD34/CD43両陽性(DP)細胞である。本発明において、造血前駆細胞と造血幹細胞は、区別されるものではなく、特に断りがなければ同一の細胞を示す。
【0033】
人工多能性幹細胞から造血前駆細胞への分化方法としては、造血前駆細胞へ分化できる限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2013/075222号、国際公開第2016/076415号およびLiu S. et al., Cytotherapy, 17 (2015);344-358などに記載されているように、造血前駆細胞への誘導培地中で多能性幹細胞を培養する方法が挙げられる。
【0034】
本発明において、造血前駆細胞への誘導培地は、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地には、上記工程(1)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどが含まれていてもよい。
【0035】
本発明においてビタミンC類とは、L-アスコルビン酸およびその誘導体を意味し、L-アスコルビン酸誘導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。本発明に用いるアスコルビン酸の誘導体として、リン酸ビタミンC(例:Ascorbic acid 2-phosphate)、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸アスコビルおよびアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸が例示される。好ましくは、リン酸ビタミンC(例:Ascorbic acid 2-phosphate)であり、例えば、リン酸-L-アスコルビン酸Naまたはリン酸-L-アスコルビン酸Mgなどのリン酸-L-アスコルビン酸塩が挙げられる。
【0036】
ビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、4日毎、3日毎、2日毎、または1日毎に、別途添加(補充)することが好ましく、1日毎に添加することがより好ましい。ある実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 ng/ml~500 ng/mlに相当する量(例:5 ng/ml、10 ng/ml、25 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200 ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/mlに相当する量)が添加される。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0037】
工程(2-1)で用いる培地は、BMP4 (Bone morphogenetic protein 4)、VEGF (vascular endothelial growth factor)、SCF (Stem cell factor)、TPO(トロンボポエチン)、FLT-3L (Flt3 Ligand)、bFGF(basic fibroblast growth factor)からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインがさらに添加されていてもよい。より好ましくは、BMP4、VEGFおよびbFGFが添加された培養であり、さらに好ましくは、BMP4、VEGF、SCFおよびbFGFが添加された培養である。
【0038】
サイトカインを用いる場合、培地中の濃度としては、例えば、BMP4は5 ng/ml~500 ng/mlであり、VEGFは5 ng/ml~500 ng/mlであり、SCFは5 ng/ml~100 ng/mlであり、TPOは1 ng/ml~100 ng/mlであり、FLT-3Lは1 ng/ml~100 ng/mlであり、bFGFは5 ng/ml~500 ng/mlであり得る。
【0039】
また、前記培地には、TGFβ阻害剤が添加されてもよい。TGFβ阻害剤とは、TGFβファミリーのシグナル伝達に干渉する低分子阻害剤であり、例えばSB431542、SB202190(以上、R.K. Lindemann et al., Mol. Cancer 2:20(2003))、SB505124 (GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276 (Lilly Research Laboratories)などが包含される。例えば、TGFβ阻害剤がSB431542である場合、培地中の濃度は、0.5 μM~100 μMであることが好ましい。
【0040】
人工多能性幹細胞の培養は、接着培養または浮遊培養であってもよい。接着培養の場合、細胞外基質成分でコーティングした培養容器を用いて行ってもよく、またフィーダー細胞と共培養してもよい。フィーダー細胞としては、特に限定されないが、例えば、線維芽細胞(マウス胎仔線維芽細胞(MEF)、マウス線維芽細胞(STO)など)が挙げられる。フィーダー細胞は自体公知の方法、例えば放射線(ガンマ線など)照射や抗癌剤(マイトマイシンCなど)処理などで不活化されていることが好ましい。細胞外基質成分としては、マトリゲル(Niwa A, et al. PLoS One.6(7):e22261, 2011)、ゼラチン、コラーゲン、エラスチンなどの繊維性タンパク質、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などのグルコサミノグリカンやプロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどの細胞接着性タンパク質などが挙げられる。
【0041】
浮遊培養とは、細胞を培養容器へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)または非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)によるコーティング処理)した培養容器を使用して行うことができる。浮遊培養の際には、胚様体(EB)を形成させて培養することが好ましい。
【0042】
本発明では、造血前駆細胞は、多能性幹細胞を培養することで得られるネット様構造物(ES-sacまたはiPS-sacとも称する)から調製することもできる。ここで、「ネット様構造物」とは、多能性幹細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含む構造体である。
【0043】
培養温度の条件は、特に制限されないが、例えば、37℃~42℃程度、37℃~39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば造血前駆細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。造血前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも6日間以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上であり、好ましくは14日である。培養期間が長いことについては、造血前駆細胞の製造においては通常問題とされないが、例えば35日以下が好ましく、21日以下がより好ましい。また、低酸素条件で培養してもよく、本発明において低酸素条件とは、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%またはそれら以下の酸素濃度が例示される。
【0044】
(2-2)造血前駆細胞をCD3陽性T細胞に分化させる工程
造血前駆細胞からCD3陽性T細胞への分化方法としては、造血前駆細胞をCD3陽性T細胞へ分化できる限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2016/076415号または国際公開第2017/221975号などに記載されているような、造血前駆細胞からT細胞を誘導する方法と同様の培養条件で、造血前駆細胞を培養する方法が挙げられる。
【0045】
本発明において、CD3陽性T細胞への分化誘導培地としては、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地には、上記工程(1)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどが含まれていてもよい。
【0046】
工程(2-2)でビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、工程(2-1)で記載したものと同様のものが挙げられ、同様に添加することができる。ある実施形態では、培地中または培養液におけるビタミンC類の濃度は、5 μg/ml~200 μg/mlであることが好ましい。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0047】
工程(2-2)において、p38阻害剤および/またはSDF-1(Stromal cell-derived factor 1)を用いることが好ましい。本発明において「p38阻害剤」とは、p38タンパク質(p38MAPキナーゼ)の機能を阻害する物質を意味し、例えば、p38の化学的阻害剤、p38のドミナントネガティブ変異体もしくはそれをコードする核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明に用いるp38の化学的阻害剤としては、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルホニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、およびその誘導体、SB202190(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)およびその誘導体、SB239063(trans-4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-4-ピリミジニル)-1H-イミダゾール-1-イル]シクロヘキサノール)およびその誘導体、SB220025およびその誘導体、PD169316、RPR200765A、AMG-548、BIRB-796、SClO-469、SCIO-323、VX-702、FR167653が例示されるが、これらに限定されない。これらの化合物は市販されており、例えばSB203580、SB202190、SC239063、SB220025およびPD169316についてはCalbiochem社、SClO-469およびSCIO-323についてはScios社などから入手可能である。P38の化学的阻害剤としては、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルホニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、およびその誘導体が好ましい。
【0049】
本発明に用いるp38のドミナントネガティブ変異体は、p38のDNA結合領域に位置する180位のスレオニンをアラニンに点変異させたp38T180A、ヒトおよびマウスにおけるp38の182位のチロシンをフェニルアラニンに点変異させたp38Y182Fなどが挙げられる。p38阻害剤は、約1 μM~約50 μMの範囲で培地に含有される。P38阻害剤としてSB203580を用いる場合には、1 μM~50 μM、5 μM~30 μM、10 μM~20 μMの範囲で培地に含有され得る。
【0050】
本発明に用いるSDF-1は、SDF-1αまたはその成熟型だけでなく、SDF-1β、SDF-1γ、SDF-1δ、SDF-1εもしくはSDF-1φ等のアイソフォームまたはそれらの成熟型であってもよく、またこれらの任意の割合の混合物等であってもよい。好ましくは、SDF-1αが使用される。なお、SDF-1は、CXCL-12またはPBSFと称される場合もある。
【0051】
本発明において、SDF-1は、そのケモカインとしての活性を有する限り、そのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されていてもよい(このようなアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入がされたSDF-1を、「SDF-1変異体」ともいう)。また同様に、SDF-1又はSDF-1変異体において、糖鎖が置換、欠失および/または付加されていてもよい。上記SDF-1の変異体としては、例えば、少なくとも4つのシステイン残基(ヒトSDF-1αの場合、Cys30、Cys32、Cys55およびCys71)が保持されており、かつ天然体のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するものなどが挙げられるが、このアミノ酸変異に限定されるものではない。SDF-1は、哺乳動物、例えば、ヒトや、例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等の非ヒト哺乳動物のものであってもよい。例えば、ヒトのSDF-1αとして、GenBank登録番号:NP_954637で登録されているタンパク質が使用でき、SDF-1βとして、GenBank登録番号:NP_000600で登録されているタンパク質が使用できる。
【0052】
SDF-1は、市販のものを使用してもよいし、天然から精製されたものを使用してもよいし、あるいはペプチド合成や遺伝子工学的手法によって製造されたものを使用してもよい。SDF-1は、例えば、約10 ng/mlから約100 ng/mlの範囲で培地に含有される。また、SDF-1に代えて、SDF-1様の活性を有するSDF-1代替物を使用することもできる。このようなSDF-1代替物としてはCXCR4アゴニストが例示され、CXCR4アゴニスト活性を有する低分子化合物などをSDF-1の代わりに培地に添加してもよい。
【0053】
工程(2-2)で用いる培地には、SCF、TPO(トロンボポエチン)、FLT-3LおよびIL-7から成る群より選択されるサイトカインの少なくとも1種、好ましくは全てをさらに培養液に添加してもよい。これらの濃度は、例えば、SCFは10 ng/mlから100 ng/mlであり、TPOは10 ng/mlから200 ng/mlであり、IL-7は1 ng/mlから100 ng/mlであり、FLT-3Lは1 ng/mlから100 ng/mlである。
【0054】
工程(2-2)において、造血前駆細胞を接着培養または浮遊培養してもよく、接着培養の場合、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい。共培養するフィーダー細胞として、骨髄間質細胞株OP9細胞(理研BioResource Centerより入手可能)が例示される。当該OP9細胞は、好ましくは、DLL4またはDLL1を恒常的に発現するOP9-DL4細胞またはOP9-DL1細胞である(例えば、Holmes R1 and Zuniga-Pflucker JC. Cold Spring Harb Protoc. 2009(2))。本発明において、フィーダー細胞としてOP9細胞を用いる場合、別途用意したDLL4若しくはDLL1、あるいはDLL4若しくはDLL1とFc等との融合タンパク質を適宜培地に添加することにより行ってもよい。フィーダー細胞を用いる場合、当該フィーダー細胞を適宜交換して培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。当該交換は、5日毎、4日毎、3日毎、または2日毎にて行い得る。また、胚様体を浮遊培養して造血前駆細胞を得た場合は、これを単細胞に解離させたのちに、接着培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞と共培養してもよいが、好ましくはフィーダー細胞を用いずに培養を行う。
接着培養の場合であって、培養容器をコーティングする場合のコーティング剤としては、例えば、マトリゲル(Niwa A, et al. PLos One, 6(7):e22261, 2011))、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、レトロネクチン(登録商標)、DLL4若しくはDLL1、あるいはDLL4若しくはDLL1と抗体のFc領域(以下、Fcと称することがある)等との融合タンパク質(例:DLL4/Fc chimera)、エンタクチン、および/またはこれらの組み合わせが挙げられ、レトロネクチンおよびDLL4とFc等との融合タンパク質の組み合わせが好ましい。
【0055】
工程(2-2)において、培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37℃~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればγδT細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。γδT細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、典型的には少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、又は20日以上であり、好ましくは21日である。また、90日以下が好ましく、42日以下がより好ましい。
【0056】
以上の工程によって得られるCD3陽性T細胞集団には、γδT細胞が含まれるが、工程(2)はさらに、以下の工程(2-3)を含んでいてもよい。
【0057】
(2-3) CD3陽性T細胞を濃縮させる工程
CD3陽性T細胞を濃縮させる方法としては、γδT細胞が濃縮される限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2016/076415号および国際公開第2017/221975号などに記載されているような、CD4CD8両陽性T細胞からCD8陽性T細胞を誘導する工程と同様の培養条件で、CD3陽性T細胞を培養する方法が挙げられる。
【0058】
本発明において、CD3陽性T細胞の濃縮に用いる培地としては、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地には、上記工程(1)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカイン、ホルモンなどが含まれていてもよい。本発明の一態様において、アスコルビン酸などのビタミンC類、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)およびIL-7 などのサイトカインが含有されていてもよい。
【0059】
工程(2-3)でビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、工程(2-1)で記載したものと同様のものが挙げられ、同様に添加することができる。ある実施形態では、培地中または培養液におけるビタミンC類の濃度は、5 μg/ml~200 μg/mlであることが好ましい。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0060】
工程(2-3)でホルモンを用いる場合、ホルモンとしては、副腎皮質ホルモンが挙げられる。副腎皮質ホルモンは、糖質コルチコイドあるいはその誘導体であり、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンが例示される。好ましくは、デキサメタゾンである。副腎皮質ホルモンが、デキサメタゾンである場合、培地中におけるその濃度は、1 nM~100 nMである。
【0061】
工程(2-3)では培地中にCD3/TCR複合体アゴニストが含まれる。CD3/TCR複合体アゴニストは、CD3/TCR複合体に特異的に結合することによって、CD3/TCR複合体からCD3陽性細胞内にシグナルを伝達することができる分子であれば特に制限されない。CD3/TCR複合体アゴニストとしては、例えば、CD3アゴニストおよび/またはTCRアゴニストが挙げられる。CD3アゴニストとしては抗CD3アゴニスト抗体(単に「抗CD3抗体」ともいう)またはその結合断片、TCRアゴニストとしては抗TCRアゴニスト抗体(単に「抗TCR抗体」ともいう)またはその結合断片、MHC/抗原ペプチド複合体またはその多量体およびMHC/スーパー抗原複合体またはその多量体からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられる。抗CD3抗体を用いる場合、抗CD3抗体はポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をともに包含するが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、当該抗体は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEのいずれの免疫グロブリンクラスに属するものであってもよいが、好ましくはIgGである。抗CD3抗体としては、例えば0KT3クローンから産生される抗体(OKT3)およびUCHT1クローンから産生される抗体(UCHT1)などが挙げられ、好ましくはUCHT1である。抗CD3抗体の培地中における濃度は、例えば、10 ng/ml~1000 ng/mlであり、好ましくは50 ng/ml~800 ng/mlであり、より好ましくは250 ng/ml~600 ng/mlである。上記CD3/TCR複合体アゴニストは、市販のものを使用してもよいし、天然から精製されたものを使用してもよいし、あるいはペプチド合成、遺伝子工学的手法又は化学的合成法によって製造されたものを使用してもよい。例えば、OKT3及びUCHT1は、ThermoFisher社やGeneTex社などから購入できる。
【0062】
工程(2-3)でサイトカインを用いる場合、サイトカインとしては、IL-2およびIL-7等が挙げられる。サイトカインが、IL-2である場合、培地中におけるその濃度は、10 U/ml~1000 U/mLであり、IL-7である場合、培地中におけるその濃度は、1 ng/ml~1000 ng/mLである。
【0063】
工程(2-3)において、培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37℃~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればγδT細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。γδT細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上であり、好ましくは6日である。また、28日以下が好ましく、14日以下がより好ましい。
【0064】
以上の工程によって得られるCD3陽性T細胞集団には、γδT細胞が含まれ、さらに濃縮され得るが、工程(2)はさらに、以下の工程(2-4)を含んでいてもよい。
【0065】
(2-4)γδT細胞を含むCD3陽性T細胞を拡大培養する工程
γδT細胞を含むCD3陽性T細胞を拡大培養する方法としては、γδT細胞が増殖する限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2016/076415号および国際公開第2018/135646号などに記載されているような、CD8α+β+細胞傷害性T細胞を拡大培養する工程と同様の培養条件で、γδT細胞を含むCD3陽性T細胞を培養する方法が挙げられる。
【0066】
本発明において、γδT細胞を含むCD3陽性T細胞を拡大培養に用いる培地としては、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、上記工程(2-3)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清で使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール(例:α-モノチオグリセロール(MTG))、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン(例:Glutamax(登録商標))非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例:ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカイン、ホルモンなどが含まれていてもよい。本発明の一態様において、アスコルビン酸などのビタミンC類、インスリン、トランスフェリン、セレン化合物(例:亜セレン酸ナトリウム)およびIL-7 などのサイトカインが含有されていてもよい。
【0067】
工程(2-4)でビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、工程(2-1)で記載したものと同様のものが挙げられ、同様に添加することができる。ある実施形態では、培地中または培養液におけるビタミンC類の濃度は、5 μg/ml~200 μg/mlであることが好ましい。別の実施形態では、当該ビタミンC類は、培養液において、5 μg/ml~500 μg/mlに相当する量(例:5 μg/ml、10 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/ml、200 μg/ml、300 μg/ml、400 μg/ml、500 μg/mlに相当する量)が添加される。
【0068】
工程(2-4)では培地中にCD3/TCR複合体アゴニストが含まれる。CD3/TCR複合体アゴニストは、CD3/TCR複合体に特異的に結合することによって、CD3/TCR複合体からCD3陽性細胞内にシグナルを伝達することができる分子であれば特に制限されない。CD3/TCR複合体アゴニストとしては、例えば、CD3アゴニストおよび/またはTCRアゴニストが挙げられる。CD3アゴニストとしては抗CD3アゴニスト抗体(単に「抗CD3抗体」ともいう)またはその結合断片、TCRアゴニストとしては抗TCRアゴニスト抗体(単に「抗TCR抗体」ともいう)またはその結合断片、MHC/抗原ペプチド複合体またはその多量体およびMHC/スーパー抗原複合体またはその多量体からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられる。抗CD3抗体を用いる場合、抗CD3抗体はポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をともに包含するが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、当該抗体は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEのいずれの免疫グロブリンクラスに属するものであってもよいが、好ましくはIgGである。抗CD3抗体としては、例えば0KT3クローンから産生される抗体(OKT3)およびUCHT1クローンから産生される抗体(UCHT1)などが挙げられ、好ましくはUCHT1である。抗CD3抗体の培地中における濃度は、例えば、0.3 ng/ml~10000 ng/mLであり、好ましくは50 ng/ml~5000 ng/mlであり、より好ましくは200 ng/ml~4000 ng/mlである。上記CD3/TCR複合体アゴニストは、市販のものを使用してもよいし、天然から精製されたものを使用してもよいし、あるいはペプチド合成、遺伝子工学的手法又は化学的合成法によって製造されたものを使用してもよい。例えば、OKT3及びUCHT1は、ThermoFisher社やGeneTex社などから購入できる。
【0069】
工程(2-4)では、培地中にフィブロネクチンまたはその改変体が存在することが好ましい。かかるフィブロネクチンは、CD3陽性細胞に結合することができる分子であれば特に制限されない。フィブロネクチンの改変体は、CD3陽性細胞表面のVLA-5およびVLA-4に結合することができる分子であれば特に制限されず、例えば、レトロネクチンが挙げられる。フィブロネクチンまたはその改変体は、培地中でのその存在の態様を問わない。例えば、培養の際に培地に含有されていてもよいし、培養容器に固相化されていてもよいが、好ましくは、培養容器に固相化されている。
【0070】
フィブロネクチンまたはその改変体が培地に含有される場合、培地は、CD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。また、血清、添加物等の有無もCD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。フィブロネクチンまたはその改変体が培地に含有される場合、フィブロネクチンまたはその改変体の濃度は、下限としては、10 ng/ml以上、好ましくは100 ng/ml以上であり、上限としては、10000 μg/ml以下、好ましくは1000 μg/ml以下であり得る。
【0071】
工程(2-4)では、培地中にCD30アゴニストが存在することも好ましい。かかるCD30アゴニストは、CD30に特異的に結合することによって、CD30から細胞内にシグナルを伝達することができる分子であれば特に制限されない。CD30アゴニストとしては、例えば、抗CD30アゴニスト抗体(単に「抗CD30抗体」ともいう)またはその結合断片およびCD30リガンドまたはその結合断片からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられる。
【0072】
工程(2-4)で用いるCD30アゴニストは、CD3/TCR複合体アゴニストと同様、培養の際にCD30に接触できるように存在できれば、その存在の態様を問わない。例えば、培養の際に培地に含有されていてもよいし、培養容器に固相化されていてもよいが、好ましくは、培地に含有されている。
【0073】
CD30アゴニストが培地に含有される場合、培地は、CD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。また、血清、添加物等の有無もCD3/TCR複合体アゴニストが含有される培地と同様であってよい。CD30アゴニストが培地に含有される場合、培地におけるCD30アゴニストの濃度は、CD30アゴニストに応じて当業者が適宜決定してよい。例えば、CD30アゴニストが抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片である場合は、培地における抗CD30アゴニスト抗体またはその結合断片の濃度は、通常、1 ng/ml~10000 ng/mlであり、好ましくは30 ng/ml~300 ng/mlである。
【0074】
また、CD30アゴニストが培養容器に固相化される場合、培養容器は、CD3/TCR複合体アゴニストが固相化される培養容器と同一であってよい。また、CD30アゴニストを培養容器へ固相化する方法も、CD3/TCR複合体アゴニストの固相化方法と同様であってよい。CD30アゴニストを培養容器へ固相化させる際のCD30アゴニストの溶液の濃度は、下限としては、0.1 ng/ml以上、好ましくは1 ng/ml以上であり、上限としては、10000 ng/ml以下、好ましくは1000 ng/ml以下であり得る。
【0075】
工程(2-4)でサイトカインを用いる場合、サイトカインとしては、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21等が挙げられ、これらは1種類のみを用いてもよく、または複数種類(好ましくは全種類)用いてもよい。サイトカインが、IL-2である場合、培地中におけるその濃度は、10 U/ml~1000 U/mlであってもよく、IL-7である場合、培地中におけるその濃度は、1 ng/ml~1000 ng/mlであってもよい。また、IL-12の培地中の濃度は、5 ng/ml~500 ng/mlであってもよく、IL-15の培地中の濃度は、1 ng/ml~100 ng/mlであってもよく、IL-18の培地中の濃度は、5 ng/ml~500 ng/mlであってもよく、IL-21の培地中の濃度は、2 ng/ml~200 ng/mlであってもよい。
【0076】
工程(2-4)ではさらに、サイトカインとしてTNFファミリーサイトカインが培地に含まれていてもよい。TNFファミリーサイトカインとしては、例えば、TNF-α、TNF-β、リンフォトキシンα、Fasリガンド、TRAIL、TWEAK、TL1A、RANKリガンド、OX40リガンド、APRIL、AITRL、BAFF、4-1BBLおよびCD40リガンドなどが挙げられ、TL1Aが好ましい。TL1Aを用いる場合、その培地中の濃度としては、5 ng/ml~500 ng/mlであり得、10 ng/ml~300 ng/mlが好ましく、20 ng/ml~200 ng/mlがより好ましい。
【0077】
また、工程(2-4)ではさらに、アポトーシス阻害剤が培地に含まれていてもよい。アポトーシス阻害剤としては、プロテアーゼ阻害剤が挙げられ、例えば、カスパーゼ阻害剤が挙げられる。カスパーゼ阻害剤としては、Pan Caspase FMK inhibitor Z-VAD(N-ベンジルオキシカルボニル-Val-Ala-Asp(O-Me) フルオロメチルケトン)(以下、「Z-VAD-FMK」と称することがある)が好ましく、その培地中の濃度としては、1 μM~1000 μMであり得、1 μM~500 μMが好ましく、1 μM~200 μMがより好ましく、1 μM~50 μMが特に好ましい。
【0078】
本発明において、得られたγδT細胞は、単離して用いても良く、そのまま(即ち、他の細胞種が含有され得る細胞集団として)用いても良い。単離する場合、γTCR、δTCRおよびCD3から成る群から選択される少なくとも一つの分子を指標として用いて単離することができ、当該単離の方法は、当業者に周知の方法を用いることができる。例えば、(必要に応じて磁気ビーズ等が結合させた)γTCR、δTCRおよびCD3の抗体を使用し、フローサイトメトリーにより、あるいは磁気細胞分離法により単離する方法、所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法が挙げられるが、これらに限定されない。
またそのまま用いる場合、当業者に周知の方法を用いて、γδT細胞が細胞集団に占める割合を増やしても良い。細胞集団に占めるγδT細胞の割合を増やす方法としては、Front. Immunol., 5:636 (2014)、特表2017-537625、特表2003-529363などの方法が挙げられるがこれに限定されない。
【0079】
また、本発明の製法に用いる細胞は、抗原または該抗原-HLA複合体を認識し結合する外因性のTCRおよび/またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を有していてもよい。従って、本発明の一実施態様において、(1)αβT細胞以外の細胞から人工多能性幹細胞を樹立する工程、および(2)工程(1)で樹立された人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程の任意の時に得られる細胞(例えば、多能性幹細胞、造血前駆細胞など)に、前記TCR(即ち、(i)αTCRおよびβTCR、(ii)γTCRおよびδTCR)をコードする核酸、並びに/または(iii)前記CARをコードする核酸を導入する工程が含まれ得る。このうち、(i)αTCRおよびβTCRをコードする核酸は、人工多能性幹細胞をT細胞に分化させる工程のいずれかの工程中に得られるγδT細胞に導入する。本明細書において、TCRをコードする核酸とは、TCRを形成する片方の鎖をコードする塩基配列と、他方の鎖をコードする塩基配列を含む核酸を意味する。また、TCRをコードする核酸とは、TCRを形成する片方の鎖をコードする塩基配列を含む核酸と、他方の鎖をコードする塩基配列を含む核酸との組み合わせも意味する。すなわち、TCR((i) αTCRおよびβTCR)をコードする核酸を細胞に導入する場合、αTCRをコードする塩基配列とβTCRをコードする塩基配列の両方を含む1つの核酸を導入してもよく、αTCRをコードする塩基配列を含む核酸とβTCRをコードする塩基配列を別個に導入してもよい。別個に導入する場合、これの核酸を同時に導入してもよく、逐次的に導入してもよい。(ii)γTCRおよびδTCRの場合も同様である。
【0080】
本発明で用いるTCRには、TCRのα鎖とβ鎖とがヘテロダイマーを構成するもの(即ち、αβTCR)、あるいはTCRのγ鎖とδ鎖とがヘテロダイマーを構成するもの(即ち、γδTCR)だけでなく、ホモダイマーを構成するものも包含される。さらに、定常領域の一部若しくは全部を欠損したものや、アミノ酸配列を組み換えたものを用いてもよい。中でも、γδTCRが好ましく、特にVγ9Vδ2TCRが好ましい。
【0081】
また、上記のTCR鎖の定常領域は、その由来の細胞傷害性T細胞(CTL)クローンのTCR鎖の定常領域において、所定の改変が施されていてもよい。この改変としては、例えば、CTLクローンのTCRの定常領域の特定のアミノ酸残基をシステイン残基に置換することで、TCR鎖間のジスルフィド結合によるダイマー発現効率を亢進することなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
上記TCRが標的とする抗原としては、例えば腫瘍抗原が挙げられるが、これに限定されない。腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原(TSA)であっても、腫瘍関連抗原(TAA)であってもよい。かかる腫瘍抗原としては、具体的には、MART-1/MelanA(MART-I)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、WT1、Glypican-3、MAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15などの腫瘍特異的多系列抗原、CEAなどの胎児抗原、p53、Ras、HER-2/neuなどの過剰発現される腫瘍遺伝子または突然変異した腫瘍抑制遺伝子、BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなどの染色体転座に起因する固有の腫瘍抗原、並びに、エプスタイン・バーウイルス抗原EBVA並びにヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7などのウイルス抗原からなる群から選択される1種以上の抗原が挙げられる。その他の腫瘍抗原としては、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4、Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791Tgp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3\CA 27.29\BCAA、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLPおよびTPSが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
下述の実施例で示す通り、一実施態様において、本発明の製法により得られたγδT細胞のうち、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞では、CARの標的抗原を発現する細胞に対する特異的な細胞傷害活性及び抗腫瘍活性(本明細書では単に「細胞傷害活性」ともいう)が示された。従って、抗原特異的な細胞傷害活性の観点からは、本発明の製法で得られたγδT細胞は、CARを発現していることが好ましい。細胞が細胞傷害活性を有することの確認は公知の方法により評価することができ、好適な方法として、例えばクロム放出アッセイなどにより、CARの標的抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を測定する方法が挙げられる。
【0084】
本発明において「キメラ抗原受容体(CAR)」とは、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含む融合タンパク質を意味する。CARの抗原結合ドメインは、抗体の可変領域の軽鎖(VL)と重鎖(VH)を、リンカー(例:GとSからなるリンカー(GSリンカー)(例えば、GGGS、GGGGSまたはこれらを組み合わせたリンカー(例:配列番号4または5等)など)などのスペーサーを介して直列に結合させた短鎖抗体(scFv)を含む。CARを発現させたγδT細胞は、scFV領域で抗原を認識した後、その認識シグナルを細胞内シグナル伝達ドメインを通じてT細胞内に伝達する。γδT細胞にCARを導入することにより、目的の抗原に対する特異性を付与することが可能となる。また、CARはHLAクラスI又はクラスIIに依存せずに抗原分子を直接認識することができるため、HLAクラスI又はクラスII遺伝子の発現が低下した細胞に対しても高い免疫反応を起こすことが可能である。前記CARが標的とする抗原としては、前記TCRが標的とする上記の抗原と同じ抗原が挙げられる。
【0085】
CARの膜貫通ドメインとしては、例えば、TCRのα鎖、β鎖若しくはζ鎖、CD28、CD3ε鎖、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、4-1BB(CD137)およびCD154からなる群から選択される1種以上のタンパク質に由来する膜貫通ドメインなどが挙げられるが、これらに限定されない。抗原結合ドメインに連結される最初の細胞内シグナル伝達ドメインが由来する分子の膜貫通ドメインを使用してもよく、例えば、抗原結合ドメインに連結される最初の細胞内シグナル伝達ドメインが由来する分子がCD28である場合、膜貫通ドメインもまたCD28に由来してもよい。あるいは、人為的に設計した膜貫通ドメインを用いてもよい。
【0086】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインとしては、例えば、CD3ζ鎖(TCRζ鎖)、FcRγ鎖、FcRβ鎖、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dからなる群から選択される1種以上のタンパク質に由来する細胞内ドメインが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、CD3ζ鎖に由来する細胞内シグナル伝達ドメインが好ましい。また、細胞内シグナル伝達ドメインには、さらに共刺激分子の細胞内ドメインが含まれていてもよく、かかる共刺激分子としては、例えば、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83からなる群から選択される1種以上のタンパク質の細胞内ドメインが挙げられる。結合させる共刺激分子の種類や数を選択することにより、CARの活性の強さや持続時間をコントロールすることができる(例えば、Mol Ther. 2009;17:1453-1464.)。
【0087】
CARの抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCARの細胞内シグナル伝達ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサーを組み入れてもよく、該スペーサーとしては、通常300アミノ酸以下、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸からなるペプチドを用いることができる。具体的には、IgG1由来のヒンジ領域や、免疫グロブリンのCH2CH3領域とCD3の一部を含むペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
具体的なCARとしては、scFVと、CD3ζ鎖とをスペーサーを介して結合した第1世代のCAR、T細胞に対する活性化能を増強するため、第1世代のCARのscFVとCD3ζ鎖との間に、CD28に由来する膜貫通ドメインと細胞内ドメインが組み込まれた第2世代のCAR、並びに、第2世代のCARのCD28の細胞内ドメインとCD3ζ鎖との間に、CD28とは異なる共刺激分子(4-1BBまたはOX40)の細胞内ドメインが組み込まれた第3世代のCARが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本発明で用いるCARとしては、より具体的には、抗原結合ドメインとしてCD19を認識するscFv、膜貫通ドメインとしてCD8の膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインとしてCD28に由来する細胞内ドメイン、CD30に由来する細胞内ドメイン、4-1BBに由来する細胞内ドメイン、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体が挙げられる。細胞内シグナル伝達ドメインに含まれる上記の各細胞内ドメインの順番は特に制限されないが、例えば、CD28に由来する細胞内ドメイン、CD30に由来する細胞内ドメインまたは4-1BBに由来する細胞内ドメイン、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインの順番に含まれる。より具体的には、本発明のキメラ抗原受容体は、例えば、配列番号1または2によって表されるアミノ酸配列、又は配列番号1または2で表されるアミノ酸において、1または2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入したアミノ酸配列からなる。
【0090】
また、CD30に由来する細胞内ドメインとしては、例えば、配列番号3で表されるアミノ酸において、1または2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入したアミノ酸配列などが挙げられる。上記のようにアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されている場合、その置換、欠失、付加および/または挿入の位置は、CD30の細胞内ドメインの機能が保持される限り特に限定されない。
【0091】
上記のTCRおよび/またはCAR(以下「TCR等」と省略する場合がある)が抗原を特異的に認識し、結合し得ることは公知の方法によって確認することができ、好適な方法としては、例えばデキストラマーアッセイまたはELISPOTアッセイなどが挙げられる。ELISPOTアッセイを行うことにより、TCR等を細胞表面に発現しているT細胞が、該TCR等より標的抗原を認識し、そのシグナルが細胞内に伝達されたことを確認することができる。
【0092】
さらに、本発明者らは、上記CARと共にIL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質(以下「IL-15/IL-15Rα」と省略する場合がある)を発現する細胞では、CARのみを発現する細胞と比較して、細胞傷害活性が上昇することを見出した。従って、細胞傷害活性の観点からは、本発明の製法で得られたγδT細胞は、IL-15/IL-15Rαを発現していることが好ましく、さらに上記CARを発現していることがより好ましい。従って、IL-15/IL-15Rαを発現するγδT細胞を得るため、本発明の製法は、上記1.の工程(1)および(2)のいずれかの工程中に得られる細胞(例えば、工程(2-2)により得られたCD3陽性T細胞、工程(2-3)により濃縮されたCD3陽性T細胞など)に、IL-15/IL-15Rαをコードする核酸を導入する工程を含んでいてもよい。
【0093】
IL-15によるシグナル伝達系では、通常、抗原提示細胞上に発現しているIL-15RαがIL-15と結合し、CD8陽性CD4陰性細胞上のIL-15Rβと共通γ鎖(γc)からなるIL-15受容体にIL-15を提示すること(trans-presentation)により、CD8陽性CD4陰性細胞の細胞傷害活性が維持される。従って、IL-15/IL-15Rαを発現するCD3陽性細胞は、該細胞がCD8陽性CD4陰性である場合、IL-15受容体を介して自己の細胞内にIL-15シグナルを伝えることができる。あるいは、IL-15/IL-15Rαを発現するCD3陽性細胞は、IL-15受容体を介して他のCD8陽性CD4陰性細胞内にIL-15シグナルを伝えることができる。以上の通り、IL-15/IL-15Rαは、CD8陽性CD4陰性細胞の細胞傷害活性を維持可能であるため、CARの標的となる細胞に対する継続的な細胞傷害効果を期待できる。
【0094】
IL-15/IL-15Rαは、膜貫通型タンパク質であっても分泌型タンパク質であってもよい。IL-15Rαは、成熟型タンパク質のN末端から1-65アミノ酸のIL-15結合ドメインが、IL-15と結合するための責任領域であることが知られている(Wei X. et al., J. Immunol., 167:277-282, 2001)。従って、膜貫通型タンパク質は、IL-15結合ドメインを保持し、かつIL-15Rαの膜貫通ドメインを保持するタンパク質であればよい。一方、分泌型タンパク質としては、IL-15結合ドメインを保持し、かつIL-15Rαの膜貫通ドメインを欠失したタンパク質(例えば、IL-15Rαの1-65アミノ酸残基、1-85アミノ酸残基、または1-182アミノ酸残基からなるタンパク質や、該アミノ酸配列と85%以上同一なアミノ酸配列を含むペプチドなど)であればよい。
【0095】
IL-15/IL-15Rαは、IL-15とIL-15Rαとの間にスペーサーを組み入れてもよく、該スペーサーとしては、通常300アミノ酸以下、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは20~50アミノ酸からなるペプチドを用いることができる。具体的には、上述のGSリンカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
IL-15/IL-15Rαとしては、IL-15とIL-15Rαとを融合したタンパク質であれば特に制限されないが、具体的には配列番号6からなるペプチドが挙げられる。あるいは、IL-15/IL-15Rαとしては、IL-15受容体と結合し、IL-15シグナルを細胞内に伝達できる限り制限されないが、例えば、配列番号6に示されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。ここで「相同性」または「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基(同一性の場合は、同一アミノ酸残基)の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247:1306-1310 (1990)を参照)。本明細書におけるアミノ酸配列の相同性または同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
【0097】
本明細書で用いる「結合し得る(capable of binding)」という用語は、「結合する能力を有すること(having an ability to bind)」を意味し、1つまたはそれ以上の他の分子と非共有結合複合体を形成する能力を指す。結合能を決定するための様々な方法およびアッセイは、当技術分野で公知である。結合は、通常、高親和性を有する結合であり、KD値で測定される親和性は、好ましくは1 μM未満、より好ましくは100 nM未満、さらにより好ましくは10 nM未満、さらにより好ましくは1 nM未満、さらにより好ましくは100 pM未満、さらにより好ましくは10 pM未満、さらにより好ましくは1 pM未満である。「KD」または「KD値」という用語は、当技術分野で公知の平衡解離定数に関連する。
【0098】
上記のTCR等は、TCR等をコードする核酸の形態で、細胞に導入される。また、IL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質も、該融合タンパク質をコードする核酸の形態で、細胞に導入される。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。核酸がRNAである場合は、RNAの配列については、TをUと読み替えることとする。また、該核酸は、in vitroまたは細胞中で、ポリペプチドを発現できる限り、天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、またはこれらの混合物を含んでもよい。
【0099】
上記の核酸は、自体公知の方法により構築することができる。例えば、公知のTCRまたはCARのアミノ酸配列または核酸配列に基づき、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法やGibson Assembly法を利用して接続することにより、TCRまたはCARの全長または一部をコードするDNAを構築することが可能である。IL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質をコードする核酸も、同様にして構築することができる。
【0100】
上記の核酸は、発現ベクターに組み込むことができる。該ベクターは、標的細胞のゲノムに組み込まれるベクターでもよいし、組み込まれないベクターでもよい。一実施態様において、ゲノムに組み込まれないベクターは、標的細胞のゲノムの外側で複製し得る。ベクターは、標的細胞のゲノムの外側に複数のコピーで存在してもよい。本発明の別の実施態様において、ベクターは標的細胞のゲノムに組み込まれる。好ましい実施態様において、ベクターは、標的細胞のゲノムのあらかじめ決められた位置に組み込まれる。
【0101】
上記のベクターに使用されるプロモーターとしては、例えば、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、TCR V α遺伝子プロモーター、TCR Vβ遺伝子プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーター等が好ましい。
【0102】
上記のベクターは、上記プロモーターの他に、所望により、転写および翻訳調節配列、リボソーム結合部位、エンハンサー、複製起点、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などを含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0103】
本発明の一実施態様において、TCRのα鎖をコードする核酸と、β鎖をコードする核酸とを含む発現ベクターを標的細胞内に導入し、標的細胞内や細胞表面にTCRのα鎖とβ鎖のヘテロダイマーを構成することができる。この場合において、TCRのα鎖をコードする核酸と、β鎖をコードする核酸は、別々の発現ベクターに組み込んでもよいし、1つの発現ベクターに組み込んでもよい。1つの発現ベクターに組み込む場合には、これら2種類の核酸は、ポリシストロニック発現を可能にする配列を介して組み込むことが好ましい。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、2A配列(例:口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2A配列(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2A配列(E2A)、Porcine teschovirus(PTV-1)由来の2A配列(P2A)、Thosea asigna virus(TaV)由来の2A配列(T2A配列)(PLoS ONE 3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、内部リボソームエントリー部位(IRES)(U.S. Patent No. 4,937,190)などが挙げられるが、均一な発現量の観点からは、P2A配列及びT2A配列が好ましい。TCRのγ鎖をコードする核酸と、δ鎖をコードする核酸を含む発現ベクターを用いる場合も、同様である。
【0104】
上記の発現ベクターとしては、細胞に導入された場合に、疾患の予防または治療に十分な期間TCR等を発現できれば特に限定されないが、ウイルスベクターやプラスミドベクターなどが挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターやシュードタイプベクターを含む)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルス、エピソーマルベクターなどが挙げられる。また、トランスポゾン発現システム(PiggyBacシステム)を用いてもよい。プラスミドベクターとしては、動物細胞発現プラスミド(例えば、pa1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo)などが挙げられる。
【0105】
上記の核酸またはベクターを細胞に導入する方法に特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。核酸やプラスミドベクターを導入する場合には、上記1.(1)の工程で記載した方法と同様の方法を用いることができる。あるいは、ゲノム編集(例えば、CRISPRシステム、TALEN、ZFNなど)により上記の核酸を細胞のゲノムに導入してもよい。
【0106】
上記の核酸はまた、RNAの形態で直接細胞に導入し、細胞内でTCR等を発現するために用いてもよい。RNAの導入方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、リポフェクション法や電気穿孔法などが好適に使用できる。
【0107】
上述の(1)および(2)の工程において、上記の核酸を導入するタイミングは、γδT細胞で導入されたTCR等が発現し得る限り特に制限はないが、例えば、iPS細胞、HPC(CD34+/CD43+)、ProT細胞(CD4-/CD8-)、CD3+/CD4+/CD8+T細胞、CD3+/CD4-/CD8+T細胞、あるいはその他の細胞(例:CD3-/CD4+/CD8+細胞等)の段階で導入することができる。
【0108】
上記の核酸を細胞に導入する場合には、導入したTCRの発現上昇、ミスペアTCRの出現の抑制、または非自己反応性の抑制の観点から、該細胞が本来発現する内在性のTCR鎖の発現をsiRNAによって抑制することが好ましい。前記の核酸を当該方法に適用する場合には、TCRに対するsiRNAの効果を避けるため、該TCRをコードする核酸の塩基配列を、内在性のTCR鎖の発現を抑えるsiRNAが作用するRNAに対応する塩基配列とは異なる配列(コドン変換型配列)とすることが好ましい。これらの方法は、例えば国際公開第2008/153029号に記載されている。前記の塩基配列は、天然から取得されたTCRをコードする核酸へのサイレント変異の導入や、人為的に設計した核酸を化学的に合成することで作製することができる。あるいは、内在性のTCR鎖とのミスペアを避けるため、導入したTCRをコードする核酸の定常領域の一部または全部を、ヒト以外の動物、例えばマウス由来の定常領域に置換してもよい。
【0109】
2.γδT細胞または該γδT細胞を含有する細胞集団
本発明はまた、γδT細胞、または該γδT細胞を含む細胞集団であって、該γδT細胞が、αβT細胞以外の細胞由来の人工多能性幹細胞から分化した細胞である、細胞または細胞集団を提供する。上記細胞集団中に含まれるγδT細胞の割合(該細胞集団に含まれるγδT細胞数/該細胞集団に含まれる全細胞数)は、90%以上(例:90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%)であることが好ましい。このような細胞集団は、例えば、本発明の製法により得ることができる。該割合は、γTCR、δTCRおよびCD3を発現する細胞の割合を、フローサイトメトリーにより測定することで算定することができる。従って、一実施態様において、本発明は、本発明の製法により製造されるγδT細胞および/または該γδT細胞を含む細胞集団を提供する。前記γδT細胞は、上記1.で記載した外因性のTCRをコードする核酸、CARをコードする核酸ならびに/またはIL-15およびIL-15Rαを含む融合タンパク質をコードする核酸を含んでいてもよい。ここで言及したγδT細胞、または該γδT細胞を含む細胞集団を、以下「本発明の細胞等」と略記する場合がある。
【0110】
3.本発明の細胞等を含む医薬
本発明は、本発明の細胞等を有効成分として含む医薬(以下、「本発明の医薬」と称する場合がある)を提供する。本発明の細胞等は、例えば、がん細胞、がん幹細胞、腫瘍細胞等に対して細胞傷害活性を示し得るため、本発明の細胞等を含む医薬は、がんなどの腫瘍の予防または治療のために用いることができ、例えば哺乳動物(例:マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)、好ましくはヒトに投与することができる。従って、本発明の一態様において、腫瘍の予防又は治療に使用するための、本発明の細胞等が提供される。また、本発明の細胞等を、好ましくは該細胞等を含む医薬の形態で、投与することを含む、腫瘍の予防又は治療方法が提供される。
【0111】
本発明の医薬又は本発明の細胞等により予防または治療されるがんなどの腫瘍は、例えば、“Daniel Baumhoer et al., Am J. Clin Pathol, 2008, 129, 899-906”などに記載されており、腫瘍には、良性の腫瘍、悪性の腫瘍(「がん」ともいう)、および、良性または悪性と診断または判定され得る腫瘍が包含される。腫瘍としては、具体的には、肝臓癌(例:肝細胞癌)、卵巣癌(例:卵巣明細胞腺癌)、小児癌、肺癌(例:扁平上皮癌、肺小細胞癌)、精巣癌(例:非セミノーマ胚細胞腫瘍)、軟部腫瘍(例:脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫)、子宮癌(例:子宮頚部上皮内腫瘍、子宮頸部扁平上皮癌)、メラノーマ、副腎腫瘍(例:副腎の腺腫)、神経性腫瘍(例:シュワン腫)、胃癌(例:胃の腺癌)、腎臓癌(例:グラヴィッツ腫瘍)、乳癌(例:浸潤性小葉性癌、粘液性癌)、甲状腺癌(例:髄様癌)、喉頭癌(例:扁平上皮癌)、膀胱癌(例:浸潤性移行上皮癌)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
本発明の医薬に含まれる細胞は、対象に投与する前に適切な培地および/または刺激分子を使用して培養および/または刺激を行ってもよい。刺激分子としては、サイトカイン類、適当なタンパク質、その他の成分などが挙げられるが、これらに限定されない。サイトカイン類としては、例えばIL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IFN-γ等が例示され、好ましくは、IL-2を用いることができる。IL-2の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば、好適には0.01 U/ml~1×105 U/ml、より好適には1 U/ml~1×104 U/mlである。また、適当なタンパク質としては、例えばCD3リガンド、CD28リガンド、抗IL-4抗体が例示される。また、この他、レクチン等のリンパ球刺激因子を添加することもできる。さらに、培地中に血清や血漿を添加してもよい。これらの培地中への添加量は特に限定はないが、0体積%~20体積%が例示され、また培養段階に応じて使用する血清や血漿の量を変更することができる。例えば、血清または血漿濃度を段階的に減らして使用することもできる。血清または血漿の由来としては、自己または非自己のいずれでも良いが、安全性の観点からは、自己由来のものが好ましい。
【0113】
本発明の医薬は、非経口的に対象に投与して用いることが好ましい。非経口的な投与方法としては、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、および皮下投与などの方法が挙げられる。投与量は、対象の状態、体重、年齢等応じて適宜選択されるが、通常、細胞数として、体重60kgの対象に対し、1回当り、通常1×106~1×1010個となるように、好ましくは1×107~1×109個となるように、より好ましくは5×107~5×108個となるように投与される。また、1回で投与してもよく、複数回にわたって投与してもよい。本発明の医薬は、非経口投与に適した公知の形態、例えば、注射または注入剤とすることができる。本発明の医薬は、適宜、薬理学的に許容できる賦形剤を含んでいてもよい。本発明の医薬は、細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含んでもよい。培地としては、特に限定するものではないが、RPMI、AIM-V、X-VIVO10などの培地が挙げられるが、これらに限定されない。また該医薬には医薬的に許容される担体(例:ヒト血清アルブミン)、保存剤等が安定化の目的で添加されていてもよい。
【0114】
さらに、本発明の細胞等は、上述の腫瘍抗原などの標的抗原を発現する細胞を殺傷し得るため、該抗原を発現する細胞(例:がん細胞、がん幹細胞、腫瘍細胞等)の殺傷剤として用いることができる。かかる殺傷剤は、前記医薬と同様にして作製し、使用することができる。
【0115】
また、本発明には、本発明の細胞等を含有してなる医薬に準じて、腫瘍の予防剤又は治療剤の製造における、本発明の細胞等の使用の実施態様も包含される。腫瘍の予防剤又は治療剤は、自体公知の方法により製造することができる。例えば、上記の本発明の医薬の調製方法と同様に、非経口投与に適した公知の形態、例えば、注射または注入剤などとして製造することができる。
【0116】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれら実施例に限定されない。
【実施例】
【0117】
[実施例1]γδTCRを発現する細胞の製造方法の検討
造血前駆細胞を含む細胞集団として、京都大学iPS細胞研究所から供与されたiPS細胞(Ff-I01s04株:健常人末梢血単核球由来)を公知の方法(例えば、Cell Reports 2(2012)1722-1735や国際公開第2017/221975号に記載された方法)に準じて分化させた浮遊細胞集団を用いた。具体的には、超低接着処理された6 well plateにFf-I01s04株を3 x 105 cells/wellで播種し(Day0)、EB培地(StemPro34に10 μg/mlヒトインスリン、5.5 μg/mlヒトトランスフェリン、5 ng/ml 亜セレン酸ナトリウム、2 mM L-グルタミン、45 mM α-モノチオグリセロール、および50 μg/ml Ascorbic acid 2-phosphate を添加)に10 ng/ml BMP4、50 ng/ml bFGF、15 ng/ml VEGF、2 μM SB431542、を加えて、低酸素条件下(5% O2) にて5日間 培養を行った(Day5)。続いて、50 ng/ml SCF、30 ng/ml TPO、10 ng/ml FLT-3Lを添加し、さらに5~9日間培養を行い(~Day14)、浮遊細胞集団を得た。なお、培養期間中は2日または3日ごとに培地交換を行った。HPCを含む上記浮遊細胞集団を、以下の抗体セットを用いて染色した。
【0118】
【0119】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。得られた細胞分画を、公知の方法(例えば、Journal of Leukocyte Biology 96(2016)1165-1175や国際公開第2017/221975号に記載された方法)に準じて、リンパ球系細胞へ分化させた。具体的には、造血前駆細胞集団を、2000 cells/wellで、Recombinant h-DLL4/Fc chimera(SinoBiological)とRetronectin(タカラバイオ)をコートした48-well-plateに2000 cells/wellで播種し、5% CO2、37℃条件下に培養した。培養期間中は2日または3日ごとに培地交換を行った。なお、培地には、15% FBSと2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン、100 ng/mlストレプトマイシン、55 μΜ 2-メルカプトエタノール、50 μg/ml Ascorbic acid 2-phosphate、10 μg/mlヒトインスリン、5.5 μg/mlヒトトランスフェリン、 5 ng/ml亜セレン酸ナトリウム、50 ng/ml SCF、50 ng/ml IL-7、50 ng/ml FLT-3L、100 ng/ml TPO、15μM SB203580、30 ng/ml SDF-1αを添加したαMEM培地を用いた。培養開始から7日目および14日目に同様のコートをした48-well-plateに継代した。培養開始21日目(Day35)にすべての細胞を回収し、CD45(+)、CD3(+)分画が存在することをフローサイトメーター(BD FACSAriaTM Fusion、BD Biosciences社製)により確認した。得られた細胞を24-well-plateに播種し、5% CO2、37℃条件下に培養した。培地としては、15% FBSと2mΜ L-グルタミン、100 U/ml ペニシリン、100ng/ml ストレプトマイシン、50 μg/ml Ascorbic acid 2-phosphate、10 μg/mlヒトインスリン、5.5μg/ml ヒ卜卜ランスフェリン、5 ng/mL 亜セレン酸ナ卜リウム、500 ng/mL抗CD3抗体(0KT3)、10 nΜ デキサメタゾン(富士製薬工業株式会社:10171-H02H)、100 U/ml IL-2、10 ng/mL IL-7を含むαΜΕΜ培地を用いた。培養開始27日目(Day41)にすべての細胞を回収し、血球板を用いて細胞数を数えた後、以下の抗体セットを用いて染色した。
【0120】
【0121】
染色の結果、iPS細胞(Ff-I01s04株)由来造血前駆細胞より、γδTCRを発現する細胞(γδTCR陽性細胞)が調製可能であることが示された(
図1)。
【0122】
さらに、該γδTCR陽性細胞はVδ1陽性γδT細胞、およびVδ2陽性γδT細胞を含んでいることから、Vδ1型およびVδ2型のγδT細胞を調製可能であることが示された(
図2)。
【0123】
[実施例2]γδT細胞の細胞傷害活性の検討
[実施例1]で得られたiPS細胞(Ff-I01s04株)由来γδT細胞の細胞傷害活性を評価した。中皮腫細胞株NCI-H226を標的細胞として、DELFIA BATDA Reagent (Perkin Elmer) を37℃、30分反応させた。反応液を洗浄後に、Vδ1陽性γδT細胞、およびVδ2陽性γδT細胞を含むiPS細胞(Ff-I01s04株)由来γδT細胞の細胞集団を、標的細胞に対して0.5, 1, 2, 4, 8, 16倍の割合で混和して、2時間後における標的細胞死をもとに、iPS細胞(Ff-I01s04株)由来γδT細胞の細胞傷害活性を評価した。
【0124】
評価の結果、iPS細胞(Ff-I01s04株)由来γδT細胞が、腫瘍細胞株NCI-H226に対して細胞傷害活性を有することが示された(
図3)。
【0125】
(iγδT細胞の拡大培養と機能評価)
[実施例3] iγδT細胞の製造
抗CD3抗体として、UCHT1(GeneTex社製)を用いたことを除き、実施例1と同様の方法により、iPS細胞(Ff-I01s04株)由来γδT細胞(iγδT細胞)を製造した。
【0126】
[実施例4] iγδT細胞の拡大培養
[実施例3]で得たiγδT細胞を、15% FBSを含むα-MEM培地に表3のサイトカインを含む添加剤を加えた培地で2,000,000 cells/mLで懸濁し、抗CD3抗体(UCHT1)とレトロネクチンが固相化されたプレートに播種して、5% CO2/37℃下で3日間培養した。培養3日目にプレートから細胞を回収し、NucleoCounter(登録商標) NC-200(ChemoMetec)を用いて細胞数を計測すると共に、15% FBSを含むα-MEM培地に表4のサイトカインを含む添加剤を加えた培地で適量に懸濁し、固相化されていないG-Rex (登録商標) 6 穴プレート(WILSONWOLF)に添加し、5% CO2/37℃下で培養した。その後培養5、6、7、8、9、10、11、14、17日目のいずれか4-6回、一部の細胞をプレートから回収して細胞数を血球計数板を用いて計測した。
抗CD3抗体およびレトロネクチンの培養プレートへの固相化は、以下の方法で行った。必要な濃度でPBSに溶解した抗CD3抗体(UCHT1、最終濃度3000 ng/mL)およびレトロネクチン(最終濃度150 μg/mL)をプレートに添加した後、4℃下一晩静置した。PBSで洗浄した後に試験に供した。
【0127】
【0128】
【0129】
抗CD3抗体(UCHT1)および抗CD30抗体の刺激により、iγδT細胞の細胞増殖が認められた(
図4)。
【0130】
[実施例5] iPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞の製造
1.iPS細胞の準備
iPS細胞には、[実施例1]と同様に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から供与されたFf-I01s04株を使用した。iPS細胞培養は、CiRAが配布するプロトコール「フィーダーフリーでのヒトiPS 細胞の培養」に準じて行った。
【0131】
2.iPS細胞のHPCへの分化
iPS細胞の造血前駆細胞(HPC)への分化は、[実施例1]と同様に公知の方法(WO2017/221975)に準じて行った。
【0132】
3.Vγ9Vδ2遺伝子
G115γδT細胞クローン由来のVγ9Vδ2 T細胞受容体(Vγ9Vδ2TCR G115)を用いた。Vγ9Vδ2TCR G115をコードする遺伝子を含む核酸として、N末から表5の順番で並ぶように設計したポリペプチド(配列番号7)をコードするオリゴDNAを人工合成した。
【0133】
【0134】
4.Vγ9Vδ2遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターの作製
レンチウイルスベクターには、pLVSIN-CMV Neo(クロンテック社)からネオマイシン耐性遺伝子をコードする配列を除去し、CMVプロモーターをヒトユビキチンプロモーターに置換したpLVSIN-Ubを用いた。[実施例5]3.で合成した人工オリゴDNAをpLVSIN-Ubレトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに組込んだ。このプラスミドとクロンテック社のLenti-XTM 293T細胞株およびLenti-XTMPackaging Single Shots (VSV-G)を用いてレンチウイルスベクターを作製した。
【0135】
5.iPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞の製造
[実施例5]4.で作製したVγ9Vδ2遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターを、[実施例5]1.で準備したiPS細胞および実施例[実施例5]2.で作製したiPS細胞由来造血前駆細胞(HPC)に感染させた。これらの細胞を、[実施例1]と同様に公知の方法(WO2017/221975)に準じてT細胞へ分化させ、iPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞を作製した。分化の工程において使用する抗CD3抗体としては、500 ng/mL UCHT1(GeneTex社製)を用いた。(以下、iPS細胞から作製したiPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞を「iγ9δ2T細胞」と称し、iPS細胞由来HPCから作製したiPS細胞由来Vγ9Vδ2T細胞を「iHγ9δ2T細胞」と称することがある。)得られたiγ9δ2T細胞およびiHγ9δ2T細胞について、細胞膜表面上のCD3、γδTCR、Vγ9およびVδ2の発現をフローサイトメーター(BD FACSAria
TM Fusion、BD Biosciences社製)で測定した(
図5および6)。
【0136】
[実施例6] iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の製造
1.抗CD19-CAR遺伝子
抗CD19-CAR遺伝子を含む核酸として、N末から表6の順番で並ぶように設計したポリペプチド(配列番号2)をコードするオリゴDNAを人工合成した。
【0137】
【0138】
2.抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターの作製
[実施例6]1.で合成した人工オリゴDNAをpMYレトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに組込んだ。レトロウイルスベクター産生用のFRY-RD18細胞を用いてウイルスベクターを作製した。
【0139】
3.IL-15Rα/IL-15遺伝子
IL-15Rα/IL-15遺伝子を含む核酸として、N末から表7の順番で並ぶように設計したポリペプチド(配列番号6)をコードするオリゴDNAを人工合成した。
【0140】
【0141】
4.IL-15Rα/IL-15遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターの作製
[実施例6]3.で合成した人工オリゴDNAをpMYレトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに組込んだ。レトロウイルスベクター産生用のFRY-RD18細胞を用いてウイルスベクターを作製した。
【0142】
5.iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の製造
[実施例6]2.で作製した抗CD19-CAR遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターおよび[実施例6]4.で作製したIL-15Rα/IL-15遺伝子を搭載したレトロウイルスベクターを、[実施例4]で得たiγδT細胞および[実施例5]5.で作製したiHγ9δ2T細胞に感染させて、iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞を作製した。(以下、iγδT細胞から作製したiPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞を「iCD19CAR/IL-15γδT細胞」と称し、iHγ9δ2T細胞から作製したiPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞を「iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞」と称することがある。)
【0143】
[実施例7] iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の拡大培養
1.iCD19CAR/IL-15γδT細胞の拡大培養
[実施例6]で得たiCD19CAR/IL-15γδT細胞を[実施例4]と同様の方法で拡大培養した。ただし、表3のサイトカインを含む添加剤の代わりに表8のサイトカインを含む添加剤を、表4のサイトカインを含む添加剤の代わりに表9のサイトカインを含む添加剤をそれぞれ加えた培地を使用した。
【0144】
【0145】
【0146】
抗CD3抗体(UCHT1)および抗CD30抗体の刺激により、iCD19CAR/IL-15γδT細胞の増殖が認められた(
図7)。
【0147】
2.iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞の拡大培養
[実施例6]で得たiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞を[実施例7]1.と同様の方法で拡大培養した。ただし、抗ヒトCD30抗体(human CD30 Antibody)は添加していない。
抗CD3抗体(UCHT1)の刺激により、iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞の増殖が認められた(
図8)。
【0148】
[実施例8] iPS細胞由来抗CD19-CAR/IL-15γδT細胞の細胞傷害活性の検討
[実施例7]で得られたiCD19CAR/IL-15γδT細胞およびiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞の細胞傷害活性を評価した。CD19陽性Raji細胞およびCD19陰性CCRF-CEN細胞を標的細胞として、iCD19CAR/IL-15γδT細胞またはiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞を、標的細胞に対して0.5, 1, 2, 4, 8, 16倍の割合で混和して、2時間後における標的細胞死の割合をもとに、iCD19CAR/IL-15γδT細胞およびiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞の細胞傷害活性を評価した。
【0149】
評価の結果、iCD19CAR/IL-15γδT細胞およびiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞が、CD19陽性Raji細胞に対して細胞傷害活性を有し、CD19陰性CCRF-CEN細胞に対しては有さないことが示された(
図9および10)。
【0150】
[実施例9] iCD19CAR/IL-15γδT細胞による生存日数延長効果
NOD/Shi-scid,IL-2RγKO (NOG) マウス(実験動物中央研究所、雌性、7-8週齢)に5x10
5 個(cells)のNalm6細胞(ATCC)を尾静脈移植してNalm6ゼノグラフトマウスを作製した。移植後4日目に、[実施例6]で製造したiCD19CAR/IL-15γδT細胞(5x10
6個(cells))を0.1 mLのHBSS-緩衝液に懸濁した懸濁液または等量のHBSS-緩衝液(コントロール)を尾静脈投与した後、生存日数を確認した。
CD19陽性Nalm6がん細胞を経尾静脈移植したマウスは、コントロール投与群では3週間以内に全例死亡したのに対して、iCD19CAR/IL-15γδT細胞投与群では、少なくとも6週間後まで全例において生存していた。(
図11)。
【0151】
[実施例10] iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞によるin vivo抗腫瘍効果
NOD/Shi-scid,IL-2RγKO (NOG) マウス(実験動物中央研究所、雌性、7-8週齢)に5x10
5 個(cells)のルシフェラーゼ発現Nalm6細胞(ATCC)を尾静脈移植してルシフェラーゼ発現Nalm6ゼノグラフトマウスを作製した。移植後4日目に、[実施例6]で製造したiHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞(5x10
6 個(cells))を0.1 mLのHBSS-緩衝液に懸濁した懸濁液または等量のHBSS-緩衝液(コントロール)を尾静脈投与した。投与2週間後にルシフェリンを尾静脈投与して、Nalm6細胞が発現するルシフェラーゼの活性をIVIS Imaging System(IVIS LUMINA II、CaliperLS社製)を用いて測定した。
コントロール投与群では、全身にNalm6細胞由来の発光が確認されたのに対して、iHCD19CAR/IL-15γ9δ2T細胞投与群では、ほとんど発光は検出されなかった(
図12)。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明により、γδT細胞を効率良く取得することができ、このようにして取得された細胞は、腫瘍等の疾患の予防または治療に有用である。
【0153】
本出願は、日本国で出願された特願2018-133727(出願日:2018年7月13日)及び特願2019-117891(出願日:2019年6月25日)を基礎としており、ここで言及することにより、それらの内容は本明細書に全て包含される。
【配列表】