(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】予測装置、予測システム、予測方法、制御プログラム、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
G16H 20/10 20180101AFI20240430BHJP
【FI】
G16H20/10
(21)【出願番号】P 2022193808
(22)【出願日】2022-12-02
(62)【分割の表示】P 2022182127の分割
【原出願日】2022-11-14
【審査請求日】2022-12-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健一
(72)【発明者】
【氏名】本多 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】亀井 研太郎
(72)【発明者】
【氏名】船元 望補
(72)【発明者】
【氏名】茂呂 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄
【審査官】梅岡 信幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-517433(JP,A)
【文献】特開2001-078773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報、および骨に対する作用を有する薬剤の名称および作用機
序に関する情報を含む薬剤情報を取得する取得部と、
前記薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報および前記薬剤情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測部と、を備え、
前記薬効予測モデルは、複数の被検体の各々に投与された前記薬剤の名称および作用機
序に関する情報を含む前記薬剤情報を説明変数として含む教師データを用いて学習されている、
予測装置。
【請求項2】
対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報、および骨に対する作用を有する薬剤に関する情報を含む薬剤情報を取得する取得部と、
前記薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報および前記薬剤情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測部と、を備え、
前記薬効予測モデルは、複数の被検体の各々に投与された前記薬剤に関する前記薬剤情報を説明変数として含む教師データを用いて学習されており、
前記骨代謝情報は、前記対象の、骨芽細胞に関する骨形成マーカー情報、破骨細胞に関する骨吸収マーカー情報、および、骨質に関する骨マトリックス関連マーカー情報、のうちの少なくともいずれかを含む、
予測装置。
【請求項3】
前記薬効予測モデルは、前記薬剤が投与された複数の被検体の各々に関する被検体情報、および前記被検体の各々に投与された前記薬剤に関する前記薬剤情報を説明変数とし、前記被検体の各々における前記薬剤の効果を目的変数とする教師データを用いて学習されている、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記薬剤情報は、骨形成に対する作用、および骨吸収に対する作用の少なくともいずれかを有する薬剤に関する情報を含む、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項5】
前記薬剤情報は、前記対象の骨の状態を変化させ得る複数種の薬剤の組合せの各々に関する情報を含み、
前記予測部は、前記複数種の薬剤の組合せの各々について前記薬効予測情報を出力する、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項6】
前記薬剤情報は、前記薬剤の投与期間に関する情報を含み、
前記予測部は、前記対象への前記薬剤の投与を所定期間継続した後における該対象の骨の状態を示す情報、または、該対象の骨に生じる前記所定期間前後での変化を示す情報を前記薬効予測情報として出力する、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項7】
前記薬剤情報は、前記薬剤の投与期間に関する情報を含み、
前記予測部は、前記対象への投与を所定期間継続した後における該対象の骨の状態を変化させ得る薬剤に関する情報を前記薬効予測情報として出力する、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項8】
前記予測部は、前記対象の骨の、将来における骨密度の予測結果を前記薬効予測情報として出力する、
請求項4に記載の予測装置。
【請求項9】
前記予測部は、前記対象の骨の、現在の骨密度の予測結果を前記薬効予測情報として出力する、
請求項4に記載の予測装置。
【請求項10】
前記予測部は、前記対象の骨の、将来における骨密度と現在の骨密度との差異を示す予測結果、および、前記対象の骨の骨密度の現在からの変化を示す予測推定結果、の少なくともいずれかを前記薬効予測情報として出力する、
請求項4に記載の予測装置。
【請求項11】
前記予測部は、前記対象の骨折箇所に関する予測結果を前記薬効予測情報として出力する、
請求項4に記載の予測装置。
【請求項12】
前記予測部は、前記対象が将来骨折する可能性を示す予測結果を前記薬効予測情報として出力する、
請求項4に記載の予測装置。
【請求項13】
前記対象情報は、前記対象の、種別、年齢、性別、体重、身長、骨折の有無、骨折箇所、骨折歴、家族の骨折歴、糖質コルチコイド、関節リウマチ、続発性骨粗しょう症、基礎疾患、喫煙歴、飲酒習慣、職業歴、運動歴、既往歴、血液検査の結果、尿検査の結果、服用している薬剤、遺伝子配列、に関する情報のうち少なくとも1つの情報を含む、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項14】
前記骨密度情報は、前記対象の所定部位の骨の骨密度を測定した測定値、である、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項15】
前記骨代謝情報は、前記対象の、骨芽細胞に関する骨形成マーカー情報、破骨細胞に関する骨吸収マーカー情報、および、骨質に関する骨マトリックス関連マーカー情報、のうちの少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項16】
前記骨形成マーカー情報は、アルカリホスファターゼ、およびI型プロコラーゲン-N-プロペプチドのうちの少なくとも何れかに関する情報であり、
前記骨吸収マーカー情報は、デオキシピリジノリン、I型コラーゲン架橋N-テロペプチドおよび、I型コラーゲン架橋C-テロペプチド、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b、のうちの少なくともいずれかに関する情報であり、
前記骨マトリックス関連マーカー情報は、低カルボキシル化オステオカルシン、ペントシジン、およびホモシステインのうちの少なくともいずれかに関する情報である、
請求項1
5に記載の予測装置。
【請求項17】
前記医用画像は、前記対象の身体を撮像したX線画像、CT(Computed Tomography)画像、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像、PET(Positron Emission Tomography)画像、および超音波画像のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項18】
請求項1または2に記載の予測装置と、
前記予測装置と通信可能に接続された端末装置であって、前記薬効予測情報を提示する端末装置と、を含む、
予測システム。
【請求項19】
コンピュータが、対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報、および骨に対する作用を有する薬剤の名称および作用機
序に関する情報を含む薬剤情報を取得する取得ステップと、
コンピュータが、前記薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報および前記薬剤情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測ステップと、を含み、
前記薬効予測モデルは、複数の被検体の各々に投与された前記薬剤の名称および作用機
序に関する情報を含む前記薬剤情報を説明変数として含む教師データを用いて学習されている、
予測方法。
【請求項20】
コンピュータが、対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報、および骨に対する作用を有する薬剤に関する情報を含む薬剤情報を取得する取得ステップと、
コンピュータが、前記薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報および前記薬剤情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測ステップと、を含み、
前記薬効予測モデルは、複数の被検体の各々に投与された前記薬剤に関する前記薬剤情報を説明変数として含む教師データを用いて学習されており、
前記骨代謝情報は、前記対象の、骨芽細胞に関する骨形成マーカー情報、破骨細胞に関する骨吸収マーカー情報、および、骨質に関する骨マトリックス関連マーカー情報、のうちの少なくともいずれかを含む、
予測方法。
【請求項21】
請求項1または2に記載の予測装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部および前記予測部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項22】
請求項2
1に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、骨に作用する薬剤の効果を予測する予測装置、予測システム、制御方法、制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、抗がん剤の効果を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象の骨の状態を改善するための薬剤には、骨形成に作用する薬剤、および骨吸収に作用する薬剤がある。これらの薬剤は、単独で、あるいは複数種類の薬剤を組合せて、対象に投与される。
【0005】
本開示の一態様は、対象に薬剤を投与した場合の当該薬剤の効果を精度良く予測する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る予測装置は、対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報を取得する取得部と、骨に対する作用を有する薬剤に関する薬剤情報に基づき該薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測部と、を備える。
【0007】
また、本開示の一態様に係る制御方法は、対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報を取得する取得ステップと、骨に対する作用を有する薬剤に関する薬剤情報に基づき該薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測ステップと、を含む。
【0008】
また、本開示の各態様に係る予測装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記予測装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記予測装置をコンピュータにて実現させる予測装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本開示の範疇に入る。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、対象に薬剤を投与した場合の当該薬剤の効果を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一態様に係る予測システムの構成例を示す図である。
【
図2】本開示の別の態様に係る予測システムの構成例を示す図である。
【
図3】本開示の一態様に係る予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】予測部が実行する薬効予測モデルの構成の一例を示す図である。
【
図5】学習部による学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】予測装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】予測装置によって実現する医療サービスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示について詳細に説明する。
【0012】
対象の骨の状態は、骨形成と骨吸収とのバランス、食事および運動等の生活習慣、および遺伝等によって影響され得る。例えば、骨粗しょう症(骨粗鬆症)は、骨を形成している組織が吸収され減少し脆くなった状態であり、老人および閉経後の女性に多く見られる。骨粗しょう症は、局所の循環障害、カルシウム代謝異常等によっても生じ得る。
【0013】
対象の骨の状態の悪化により、運動機能において重要な部位の骨折等を生じた場合、手術および入院が必要となる可能性があり、対象のQOL(quality of life)を著しく低下させ得る。対象のQOLの低下を低減するためには、できるだけ早期に対象の骨の状態の悪化傾向を発見し、適切な薬剤の投与を含む適切な方法での介入を開始することが重要である。
【0014】
以下、本開示に係る各実施形態について説明する。なお、以下の説明では、対象がヒトである場合(すなわち、「対象者」)を例に挙げて説明するが、対象はヒトには限られない。対象は、例えば、ウマ科、ネコ科、イヌ科、ウシ科またはブタ科等のヒト以外の哺乳動物であってもよい。そして、本開示は、下記の実施形態のうち、これらの動物に対しても適用可能な実施形態であれば、「対象者」を「動物」と言い換えた実施形態も含むものである。
【0015】
〔実施形態1〕
(予測装置1の概要)
本開示の一態様に係る予測装置1は、対象者(以下、「対象」ということがある)に関する情報である対象情報、および薬剤に関する薬剤情報から、対象者に薬剤を投与した場合の当該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する。
【0016】
対象情報は、対象者の骨の骨密度を示す骨密度情報、対象者の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、対象者の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む。
【0017】
対象情報は、対象者の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、対象者の骨の骨密度を示す骨密度情報、対象者の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、対象者の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む。本開示において、対象者の骨は、胸部、腰部、頸部、股関節、頭部、脚部、腕部、手指および足等の対象者の身体の各部位に含まれる複数の骨であってもよい。あるいは、本開示において、対象者の骨は、対象者の脊椎、胸椎、腰椎、骨盤、頚椎、頭蓋骨、大腿骨、腓骨、脛骨、橈骨、中手骨、指骨、踵骨、中足骨、および趾骨等の特定の骨であってもよい。
【0018】
対象情報は、対象者の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報を含んでいてもよい。骨折危険因子情報は、下記の情報群Aのうち少なくとも1つの情報を含んでいてもよい。
(情報群A):種別(例えば、人種)、年齢、性別、体重、身長、骨折の有無、骨折箇所、骨折歴、家族(例えば両親)の骨折歴、糖質コルチコイド、関節リウマチ、続発性骨粗しょう症、基礎疾患(例えば、食物および/または薬剤アレルギー、骨粗しょう症の発症と関係がある疾患および関係のない疾患等)、喫煙歴、飲酒習慣(例えば、飲酒頻度および飲酒量等)、職業歴、運動歴、既往歴(例えば骨疾患の既往歴)、月経(例えば、周期および有無など)、閉経(例えば、可能性および有無など)、人工関節(例えば、脊椎インプラント又は膝関節などの種類、有無、および置換手術の時期)、血液検査の結果、尿検査の結果、服用している薬剤、遺伝子配列。
情報群Aは、対象者の骨密度、骨代謝、骨折の可能性、および、骨形成と骨吸収とのバランス等を判断する上で参考となる情報である。それゆえ、情報群Aのうち少なくとも1つの情報を含む対象情報を用いることにより、予測装置1は、対象者に投与する薬剤の効果をより精度良く予測することができる。
【0019】
骨折の有無に関する情報は、対象者を撮像した医用画像に基づいて検知されてもよい。骨折箇所は、対象者を撮像した医用画像に基づいて推定される対象者の骨折箇所に関する情報であってもよい。あるいは、骨折の有無に関する情報は、対象者の、将来骨折する可能性が高いことが予測される箇所に関する情報であってもよい。
【0020】
血液検査の結果に関する情報は、例えば、生化学検査、糖代謝系検査、内分泌系検査の少なくともいずれかの結果に関する情報であってもよい。
【0021】
生化学検査には、例えば、下記の血液検査群Bのうち少なくとも1つの検査結果に関する情報を含んでいてもよい。
(血液検査群B):総蛋白(TP)、アルブミン(ALB)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、骨型ALP、クレアチニン(Cre)、カルシウム(Ca)、無機リン(IP)、総コレステロール(T-Cho)、高比重リポタンパク質-コレステロール(HDL-C)、中性脂肪(TG)、低比重リポタンパク質-コレステロール(calculated LDL-C)、C反応性タンパク質(CRP)。
【0022】
糖代謝系検査には、例えば、下記の糖代謝系検査群Cのうち少なくとも1つの検査結果に関する情報を含んでいてもよい。
(糖代謝系検査群C):グルコース(Glu)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)。
【0023】
内分泌系検査には、例えば、下記の内分泌系検査群Dのうち少なくとも1つの検査結果に関する情報を含んでいてもよい。
(内分泌系検査群):完全型副甲状腺ホルモン(intact PTH)、25ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)、1.25ヒドロキシ2ビタミンD(1.25(OH)2D)、甲状腺刺激ホルモン(YSH)、CS、エストラジオール(E2)、遊離型テストステロン(free-TST)。
【0024】
血液検査の結果に関する情報は、例えば、下記の尿検査群Eのうち少なくとも1つの検査結果に関する情報を含んでいてもよい。
(尿検査群E):カルシウム(Ca)、リン(P)、クレアチニン(Cre)。
【0025】
服用している薬剤に関する情報は、例えば、薬剤名、服用している量、服薬している期間等の情報が含まれてよい。服用している薬剤に関する情報は、使用しているステロイド剤に関する情報を含んでいてもよい。
【0026】
骨密度情報は、対象者の所定部位の骨の骨密度を測定した測定値であってもよい。骨密度は、DXA(dual-energy X-ray absorptiometry)法、超音波法、およびMD(micro densitometry)法等によって測定され得る。また、骨密度は、対象者の骨が写っている単純X線画像、MRI(magnetic resonance imaging)画像、およびCT(computed tomography)画像、超音波画像、PET画像から推定され得る。DXA法は、2種類の異なるエネルギーのX線を使用して骨密度を測定する方法である。DXA法は、一般に腰椎、大腿骨近位部、橈骨遠位部を対象として測定され得る。DXA法を用いて骨密度を測定するDXA装置では、腰椎の骨密度が測定される場合、対象者の腰椎に対してその正面からX線が照射される。また、DXA装置では、大腿骨近位部の骨密度が測定される場合、対象者の大腿骨近位部に対してその正面からX線が照射される。超音波法は、腰椎、大腿骨、踵および脛等の骨に超音波を当てて骨密度を測定する方法である。ここで、「腰椎に対してその正面」および「大腿骨近位部に対してその正面」とは、腰椎および大腿骨近位部等の撮影部位に正しく向き合う方向を意図しており、対象者の体の腹側であってもよいし、対象者の背中側であってもよい。MD法は、X線を用いて手の骨およびアルミニウム板を同時に撮像し、撮像された画像の濃淡を比較することによって骨密度を測定する方法である。MD法によって骨密度を測定する場合、両手の甲の側からX線が照射される。MD法によって測定される骨の場所は、例えば、手の第2中手骨である。測定精度が高いDXA法によって測定された骨密度を示す骨密度情報を用いることによって、予測装置1から出力される薬効予測情報の精度を向上させることができる。
【0027】
骨密度情報は、対象者の骨が写っている医用画像から予測装置1によって推定された、当該対象者の骨の骨密度であってもよい。または、骨密度情報は、対象者の骨が写っている医用画像から予測装置1が予測した、当該対象者の将来の骨の骨密度であってもよい。このように、予測装置1が、対象者の骨が写っている医用画像から当該対象者の骨の骨密度を推定および/または予測する構成であってもよい。この場合、予測装置1は、対象者の骨が写っている医用画像を説明変数とし、当該医用画像が撮影された対象者の骨の骨密度の測定値を目的変数として学習済の骨密度予測モデルを備えていてもよい。
【0028】
ここで、予測装置1は、医用画像の代替として、DXA装置、MD法、超音波法等によって測定された対象者の骨の骨密度を骨密度情報として用いる構成であってもよい。この場合、対象者が、例えば、DXA装置で1年以内に測定した骨密度を骨密度情報として用いることができる。または、骨密度情報は、DXA装置で測定された骨密度と、骨折危険因子情報、および骨代謝情報のうちの少なくとも1つから予測装置1が予測した当該対象者の骨の将来の骨密度であってもよい。
【0029】
骨代謝情報は、対象者の、骨芽細胞に関する骨形成マーカー情報、破骨細胞に関する骨吸収マーカー情報、および、骨質に関する骨マトリックス関連マーカー情報、のうちの少なくともいずれかを含んでいてもよい。ここで、骨形成マーカー情報は、アルカリホスファターゼ、およびI型プロコラーゲン-N-プロペプチドのうちの少なくとも何れかに関する情報であってもよく、骨吸収マーカー情報は、デオキシピリジノリン、I型コラーゲン架橋N-テロペプチドおよび、I型コラーゲン架橋C-テロペプチド、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b、のうちの少なくとも何れかに関する情報であってもよく、骨マトリックス関連マーカー情報は、低カルボキシル化オステオカルシン、ペントシジン、およびホモシステインのうちの少なくとも何れかに関する情報であってもよい。
【0030】
予測装置1は、予測対象となる対象者の骨の骨密度、骨の形状、および骨の周囲の組織(例えば、腱等)の状態等が解析可能な任意の医用画像を利用することができる。それゆえ、医用画像は、例えば、単純X線画像、CT(Computed Tomography)画像、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像、PET画像、および超音波画像のうちの少なくとも1つを含んでいればよい。医用画像として単純X線画像を用いる場合、単純X線画像の撮影部位は、特に限定されない。医用画像として利用する単純X線画像には、例えば、対象者の、頭部、頚部、胸部、腰部、股関節、膝関節、足関節、足部、足趾、肩関節、肘関節、手関節、手部、手指あるいは、顎関節の少なくともいずれかが写っていればよい。また、対象者の骨の骨密度、および骨折箇所等を推定するために利用される推定用単純X線像は、対象部位が正面から写る正面像であってもよいし、対象部位が側面から写る側面像であってもよい。医用画像としてCT画像を利用する場合、例えば、3次元画像、頭部と脚部とを結ぶ体軸に垂直な方向の断面画像(例えば、水平断)、および体軸に平行な方向の断面画像(例えば、矢状断又は冠状断など)の少なくとも1つを用いることができる。
【0031】
対象情報には、対象情報に含まれる各情報に対応する時間情報が含まれていてもよい。時間情報は、対象情報に含まれる各情報が取得された時期または時点、対象者の検査を実施した検査日、対象者を診断した診断日、および各情報が電子カルテ等に入力された日付等であってもよい。
【0032】
対象情報は、上記のような時間情報を含む情報であってもよいし、実質的に現時点の対象者に関する情報であってもよい。「実質的に現時点」とは、所定の期間を現時点と同じと見做すことを意図している。ここで、所定の期間は、任意に設定可能であってもよい。例えば、過去3か月以内、過去半年以内または過去1年以内を、所定の期間として設定可能である。より具体的には、対象情報の1つを取得した時点と、他の対象情報を取得した時点が、所定の期間内ずれていた場合でも同じ時点と見做すことができる。対象情報は、例えば、対象者の骨密度情報および骨代謝情報を取得した時点、あるいは、対象者の骨を撮像した医用画像が撮像された時点における、対象者に関する情報であってもよい。
【0033】
対象情報は、現時点ではなく、過去の、あるいは将来の対象者に関する情報であってもよい。例えば、対象情報は、対象者の骨密度情報および骨代謝情報を過去に取得した時点、あるいは、対象者の骨を撮像した医用画像が過去に撮像された時点における、対象者に関する情報であってもよい。
【0034】
薬剤情報は、骨形成に対する作用、および骨吸収に対する作用の少なくともいずれかを有する薬剤に関する情報を含んでいてもよい。薬剤情報は、少なくとも薬剤の名称および作用機序に関する情報を含んでいてもよい。このような薬剤情報を用いることにより、予測装置1は、対象者に投与する薬剤の効果をより精度良く予測することができる。薬剤情報は、各薬剤の、化学構造式および物性に関する情報を含んでいてもよい。
【0035】
薬剤の名称は、例えば、有効成分の化学名、一般名および慣用名を用いることができる。薬剤の名称として、薬剤メーカー、治験機関または/および医療機関等の開発コードを用いてもよい。これらの薬剤の名称は、1つだけに限られず、複数の名称を保持してもよく、この場合、データの活用性を向上させることができる。作用機序に関する情報としては、例えば、薬剤に含まれる薬効成分が標的分子に作用する機構に関する生化学的な情報、薬効成分が標的分子に作用するために重要な条件に関する生理学的および薬理学的な情報等である。
【0036】
また、薬剤情報は、各薬剤の、剤形、製造元、ロット番号、製造番号、投与方法、投与条件、投与期間、投与間隔、禁忌情報、副作用情報、薬価、価格、および承認国に関する補助情報を含んでいてもよい。投与方法には、例えば、経口投与または注射等が含まれていてもよい。また、投与方法における注射には、静脈内、筋肉内、髄腔内または皮下等の注射部位に関する情報が含まれていてもよい。これらの補助情報も含む薬剤情報を用いる場合、予測装置1は、各薬剤に関する補助情報と共に薬効予測情報を出力し、薬効予測情報および補助情報を医療関係者に提示してもよい。もしくは、予測装置1は、各補助情報に関して、薬剤を投与した場合の当該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力してもよい。これにより、予測装置1は、対象者に対する薬剤投与を含む治療計画を決定する医療関係者を支援することができる。なお、薬剤の効果とは、薬剤を対象に投与した場合の対象に与える影響であり、影響の程度又は有無を含む。
【0037】
薬効予測情報は、対象者の骨が骨折するリスクが、対象者への薬剤の投与によって、どの程度低下するかに関する情報であってもよい。あるいは、薬効予測情報は、対象者の骨の、将来における骨密度の予測結果であってもよい。あるいは、薬効予測情報は、対象者の骨の、現在の骨密度の予測結果であってもよい。薬効予測情報は、対象者への投与が検討されている薬剤が、対象者の骨の状態を改善させ得るか否かに関する情報であってもよい。あるいは、薬効予測情報は、対象者への投与が検討されている薬剤が、対象者の骨の状態をどの程度改善させ得るかに関する情報であってもよい。薬効予測情報は、対象者への薬剤の投与を所定期間継続した後における当該対象者の骨の状態を示す情報、または、当該対象者の骨に生じる所定期間前後での変化を示す情報であってもよい。骨の状態に作用する薬剤には、即効性を有しておらず、所定期間の投与の後に効果が発現するものがある。上記の構成によれば、予測装置1は、即効性を有さない薬剤であっても、当該薬剤の効果を示す薬効予測情報を出力することができる。
【0038】
薬効予測情報は、対象への投与を所定期間継続した場合、当該対象の骨の状態を変化させ得る薬剤に関する情報対象者への投与を検討すべき薬剤に関する予測情報であってもよい。この場合、薬効予測情報は、骨形成に対する作用を有する薬剤に関する情報、および、骨吸収に対する作用を有する薬剤に関する情報の少なくともいずれかを含んでいてもよい。薬効予測情報が、上記の両方の薬剤に関する情報を含んでいる場合、薬効予測情報に含まれる各薬剤について、骨形成に作用する薬剤か、骨形成に作用する薬剤かを示す作用情報が対応付けられていてもよい。
【0039】
骨形成に対する作用を有する薬剤は、これに限定されるものではないが、例えば、活性型ビタミンD3製剤(例えば、カルシトリオール、エルデカルシトール、またはアルファカルシドール等)、テリパラチド酢酸塩、およびテリパラチド(遺伝子組換え)等を挙げることができる。また骨吸収に対する作用を有する薬剤は、これに限定されないが、例えば、カルシトニン製剤、ビスホスホネート製剤、および抗RANKLモノクローナル抗体等を挙げることができる。
【0040】
薬効予測情報は、より具体的に、所定の薬剤が対象者に対する改善度合いをパーセンテージで示す情報であってもよいし、骨密度の改善比率をパーセンテージで示す情報であってもよい。
【0041】
また、薬効予測情報は、例えば、対象者に薬剤を投与する投与期間等に応じた薬効に関する予測情報を複数含んでいてもよい。具体的には、薬効予測情報は、対象者に薬剤を投与する投与期間が、例えば、3か月、6か月間、1年間、および3年後等である場合のそれぞれにおける薬効に関する予測情報を2以上含んでいてもよい。
【0042】
また、薬効予測情報は、投与する薬剤によって、対象者の骨がどのように変化するのかに関する予測結果を示す予測画像を含んでいてもよい。このような薬効予測情報は、対象の骨が写っている医用画像を含む対象情報が利用される。予測画像は、対象者の骨の変化を示す予測結果のほかに、当該骨の周囲の組織等への影響を示す予測結果を示していてもよい。また、予測画像は、投与期間の経過とともに予測画像を複数表示させてもよいし、1つの画像領域で予測画像を動画のように変化させてもよい。予測画像の複数表示は、例えば、複数の投与期間に応じた予測画像の並列表示等であってよい。
【0043】
また、薬効予測情報として、対象者に薬剤を投与した場合に予測される副作用に関する副作用予測情報を含んでもよい。副作用予測情報は、例えば、以下の副作用群のうち少なくとも1つの副作用に関する情報であってもよい。
(副作用群)倦怠感、アレルギー反応、アナフィラキシーショック、頭痛、嘔吐、胃腸障害、便秘、血管障害、胸やけ、腎臓障害、肝障害、黄疸、高Ca血症、低Ca血症、顎骨壊死、顎骨骨髄炎、外耳道骨壊死、尿路結石、痙攣、動悸、食欲不振、および高尿酸血症。
【0044】
副作用予測情報は、薬剤を投与された対象者に発生する可能性のある具体的な副作用に関する予測情報を含んでいてもよいし、当該対象者に1または複数の副作用が発生する可能性を示す情報(発生確率等)を含んでいてもよい。副作用予測情報は、対象者に薬剤を投与する投与期間等に応じた副作用の発生に関する予測情報を複数含んでいてもよい。さらに、副作用予測情報は、予測対象の薬剤とは異なる他の薬剤の摂取、食事、または日常行動によって、対象者に副作用が発生する確率がどのように変化するのかを予測した予測情報を含んでいてもよい。例えば、副作用予測情報は、予測対象の薬剤とは異なる薬剤をどの程度(例えば、摂取期間および摂取量)摂取すると、対象者に副作用が発生する確率がどのように変化するのかを示す予測情報を含んでいてもよい。
【0045】
予測装置1は、対象者に薬剤を投与した場合に、当該薬剤の効果を精度良く予測した薬効予測情報を出力する。これにより、予測装置1は、対象者の骨の状態が、薬剤の投与によってどのように変化し得るのかを、該薬剤を投与していない時点で、対象者および対象を担当する医療関係者等に提示することができる。
【0046】
(予測システム100aの構成)
まず、本開示の一態様に係る予測システム100aの構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、予測装置1を導入した医療施設8における予測システム100aの構成例を示す図である。以下では、対象情報として、対象者の骨が撮像された医用画像を取得する予測装置1を例に挙げて説明する。
【0047】
予測システム100aは、予測装置1と、予測装置1と通信可能に接続された1以上の端末装置7とを含んでいる。予測装置1は、対象者の骨が写っている医用画像から薬効予測情報を出力し、当該薬効予測情報を端末装置7に送信するコンピュータである。端末装置7は、予測装置1から薬効予測情報を受信し、当該薬効予測情報を提示する。端末装置7は、医療施設8に所属する医師等の医療関係者が使用するコンピュータである。端末装置7は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等である。端末装置7は、他装置とのデータ送受信を行う通信部、キーボードおよびマイク等の入力部、薬効予測情報に含まれる情報を表示可能な表示部、スピーカ等の出力部等を有している。
図1に示す医療施設8内には、LAN(local area network)が配設されており、予測装置1および端末装置7がLANに接続されている例を示しているが、これに限定されない。例えば、医療施設8内のネットワークは、インターネット、電話通信回線ネットワーク、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワーク等が適用されていてもよい。
【0048】
医療施設8内のLANには、予測装置1および端末装置7の他、医用画像管理装置6が通信可能に接続されていてもよい。医用画像管理装置6は、医療施設8にて撮像された医用画像を管理するためのサーバとして機能するコンピュータである。この場合、予測装置1は、医用画像管理装置6から対象者の骨が写っている医用画像を取得してもよい。
【0049】
医療施設8内のLANは、外部の通信ネットワークと通信可能に接続されていてもよい。医療施設8において、予測装置1と端末装置7とがLANを介さずに直接接続されていてもよい。
【0050】
(予測装置1の構成)
続いて、
図1に示す予測システム100aに適用された予測装置1の構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、予測装置1の構成例の一例を示すブロック図である。
【0051】
予測装置1は、予測装置1の各部を統括的に制御する制御部2、および、制御部2が使用する各種データを記憶する記憶部3を備える。制御部2は、取得部21、薬剤情報適用部22、予測部23、出力制御部24、および学習部25を備える。記憶部3には、予測装置1の各種制御を行うためのプログラムである制御プログラム31に加え、教師データ32、薬剤データベース33、および学習済薬効予測モデル34(薬効予測モデル)が格納されている。
【0052】
<取得部21>
取得部21は、対象者の骨折危険因子に関する危険因子情報、対象の骨密度を示す骨密度情報、当該対象の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、当該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報を取得する。例えば、
図3に示す取得部21は、電子カルテ管理装置5から、対象の骨折危険因子に関する危険因子情報、対象者の骨密度を示す骨密度情報、および骨代謝状態を示す骨代謝情報を取得可能であってもよい。
図3に示す取得部21は、医用画像管理装置6から、対象者の骨が写った画像である医用画像を取得可能であってもよい。対象情報は、予測部23に入力される入力データである。
【0053】
<薬剤情報適用部22>
薬剤情報適用部22は、骨形成に対する作用、および骨吸収に対する作用の少なくともいずれかを有する薬剤に関する薬剤情報を取得する。例えば、
図3に示すように、薬剤情報適用部22は、記憶部3の薬剤データベース33を読み出して薬剤情報を取得してもよい。あるいは、薬剤情報適用部22は、インターネット等のネットワークを介して、外部の薬剤情報管理装置から薬剤情報を取得してもよい。薬剤情報は、予測部23に入力される入力データとなり得る。
【0054】
<予測部23>
予測部23は、骨に対する作用を有する薬剤に関する薬剤情報に基づき当該薬剤の効果を予測する学習済薬効予測モデル34に、対象情報を入力することにより、対象者に薬剤を投与した場合の当該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する。予測部23は、対象者の骨の、将来における骨密度と現在の骨密度との差異を示す予測結果、および、対象者の骨の骨密度の現在からの変化を示す予測推定結果、の少なくともいずれかを薬効予測情報として出力してもよい。
【0055】
予測部23は、例えば、対象情報として対象者の医用画像および骨代謝情報等が入力された場合、当該対象者に投与予定の薬剤に関する薬剤情報が入力されなくとも、当該対象者への投与を検討すべき薬剤に関するリスト、および当該リストに含まれる各薬剤の効果に関する薬効情報(後述)とを出力する構成であってもよい。すなわち、予測部23が薬効情報を出力するために、薬剤情報の入力は必須ではない。
【0056】
予測部23は、対象者の骨折箇所に関する予測結果を出力してもよい。あるいは、予測部23は、対象者が将来骨折する可能性を示す予測結果を出力してもよい。予測部23から出力される情報の具体例については後に説明する(
図7参照)。
【0057】
学習済薬効予測モデル34は、薬剤が投与された複数の被検体の各々に関する被検体情報、および被検体の各々に投与された薬剤に関する薬剤情報を説明変数とし、被検体の各々における薬剤の効果を目的変数とする教師データ32を用いて学習されていてもよい。学習済薬効予測モデル34は、例えば、未学習のニューラルネットワークに対して、後述の学習部25が学習処理を行った結果得られるモデルである。被検体は、対象と同じ生物種であればよく、以下では、被検体がヒトである場合を例に挙げて説明する。
【0058】
予測部23は、対象情報(例えば、医用画像)および薬効情報が、入力層231(
図4参照)へ入力されたことに応じて、学習済薬効予測モデルに基づいて演算を行い、薬効予測情報を出力層232(
図4参照)から出力する。予測部23は、一例として、対象情報および薬効情報から特徴量を抽出し、入力データとして用いる構成であってもよい。当該特徴量の抽出には、以下に挙げるような公知のアルゴリズムが適用され得る。
・畳み込みニューラルネットワーク(CNN:convolutional neural network)
・オートエンコーダ(auto encoder)
・リカレントニューラルネットワーク(RNN:recurrent neural network)
・LSTM(Long Short-Term Memory)
・ConvLSTM(Convolutional Long Short-Term Memory)
学習済薬効予測モデル34は、予測部23が入力データに基づいて演算を行う際に用いる演算モデルである。未学習のニューラルネットワークに対して、後述する教師データ32を用いた機械学習を実行することによって、学習済薬効予測モデル34が生成される。教師データ32、ニューラルネットワークの構成、および学習処理の具体例については後述する。
【0059】
<出力制御部24>
出力制御部24は、予測部23から出力された薬効予測情報を、端末装置7に送信する。予測装置1が表示部(図示せず)を備える構成であってもよい。その場合、出力制御部24は、表示部に第1予測情報を表示させる。
【0060】
<学習部25>
学習部25は、未学習のニューラルネットワークに対する学習処理を制御する。学習部25は、未学習のニューラルネットワークに対する学習処理を実行することにより、当該ニューラルネットワークから予測部23として機能するニューラルネットワークを作成する。この学習には、教師データ32(後述)が用いられる。学習部25が行う学習の具体例については後述する。
【0061】
(教師データ32)
教師データ32は、未学習のニューラルネットワークから学習済薬効予測モデル34を生成するための機械学習に用いられる、説明変数および目的変数を含むデータである。教師データ32において、薬剤が投与された複数の被検体の各々に関する被検体情報、および被検体の各々に投与された薬剤に関する薬剤情報が説明変数であり、被検体の各々における薬剤の効果が目的変数である。
【0062】
ここで、被検体情報は、被検体の骨折危険因子に関する危険因子情報、被検体の骨密度を示す骨密度情報、被検体の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、被検体の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む情報である。被検体情報は、被検体の骨折危険因子に関する危険因子情報を含んでいてもよい。骨折危険因子情報は、下記の前出の情報群Aのうち少なくとも1つの情報を含んでいてもよい。ここで、骨密度情報は、被検体の所定部位の骨密度を測定した測定値であってもよい。骨密度は、DXA(dual-energy X-ray absorptiometry)法、超音波法、およびMD(micro densitometry)法等によって測定されたものであってもよい。あるいは、骨密度は、対象者の骨が写っている単純X線画像、MRI(magnetic resonance imaging)画像、PET(Positron Emission Tomography)画像およびCT(computed tomography)画像から推定されたものであってもよい。
【0063】
被検体の各々における薬剤の効果は、各被験者に投与された薬剤が、各被験者の骨の状態を改善させた程度の大きさであってもよい。あるいは、被検体の各々における薬剤の効果は、所定期間継続して薬剤を投与された後の各被験者の骨の状態、または、所定期間継続して薬剤を投与された期間の前後における骨の状態の変化、を示す情報であってもよい。
【0064】
(予測部23の構成)
以下、予測部23の構成について
図4に基づいて説明する。
図4に示す構成は一例であり、予測部23の構成はこれに限定されない。
【0065】
図4に示すように予測部23は、入力層231に入力される入力データに対して、学習済薬効予測モデル34に基づく演算を行って、出力層232から薬効予測情報を出力する。
【0066】
図4の予測部23は、入力層231と出力層232とを有するニューラルネットワークを備える。ニューラルネットワークは、時系列情報を扱うことに適したニューラルネットワークであればよい。例えば、LSTM等であればよい。ニューラルネットワークは、時系列情報と位置情報を複合して扱うことに適したニューラルネットワークであればよい。例えば、ニューラルネットワークは、CNNとLSTMを組み合わせたConvLSTMネットワーク等であればよい。入力層231は、入力データの時間変化の特徴量を抽出することができる。出力層232は、入力層231で抽出した特徴量、入力データの時間変化および初期値に基づいて、新たな特徴量を算出することができる。入力層231および出力層232は、複数のLSTM層を有している。入力層231および出力層232のそれぞれは、3つ以上のLSTM層を有していてもよい。
【0067】
(学習部25による学習処理)
以下、学習済薬効予測モデル34を生成するための学習処理について、
図5を用いて説明する。
図5は、学習部25による学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0068】
学習部25は、記憶部3から教師データ32を取得する(ステップS1)。教師データ32には、入力層231に入力する説明変数が含まれている。ここで、説明変数は、薬剤が投与された複数の被検体の各々に関する被検体情報、および被検体の各々に投与された薬剤に関する薬剤情報である。
【0069】
続いて、学習部25は、ある被検体Aに関する被検体情報、および被検体Aに投与された薬剤に関する薬剤情報を、入力層231に入力する(ステップS2)。
【0070】
次に、学習部25は、出力層232から被検体Aに投与された薬剤の効果に関する出力データを取得する(ステップS3)。この出力データは、教師データ32の目的変数と同じ内容を含んでいる。
図5において、ステップS2とステップS3の順番は逆であってもよい。あるいは、
図5において、ステップS2とステップS3とを同時に実行する構成であってもよい。
【0071】
続いて、学習部25は、教師データ32に含まれる、被検体Aに関する目的変数を取得する。そして、学習部25は、ステップS3において取得した出力データと、被験者Aに関する目的変数とを比較し、誤差を算出し(ステップS4)、当該誤差が小さくなるように、学習中の薬効予測モデルを調整する(ステップS5)。
【0072】
学習中の薬効予測モデルの調整には、任意の公知の方法が適用可能である。例えば、薬効予測モデルの調整方法として、誤差逆伝播法を採用してもよい。調整後の薬効予測モデルが新たな薬効予測モデルとなり、以降の演算では、予測部23は新たな薬効予測モデルを用いる。薬効予測モデルの調整段階では、予測部23で使用されるパラメータ(例えば、フィルタ係数、重み付け係数等)が調整され得る。
【0073】
学習部25は、誤差が所定の範囲内に納まっていない場合、および、教師データ32に含まれるすべての被験者に関する説明変数を入力していない場合(ステップS6にてNO)、ステップS2に戻り、学習処理を繰り返す。学習部25は、誤差が所定の範囲内に納まっている場合、および、教師データ32に含まれるすべての被験者に関する説明変数を入力済である場合(ステップS6にてYES)、学習処理を終了する。
【0074】
上記のような学習処理を採用した場合、予測部23は、対象情報および薬剤情報から、該対象者に投与する薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力することができる。また、上記のような学習処理を採用した場合、予測部23は、対象情報から、当該対象者に投与する薬剤の候補となる1または複数の薬剤に関する薬効予測情報を出力することができる。
【0075】
(変形例)
教師データ32は、被験者に投与された複数種の薬剤の組合せの各々に関する情報を説明変数として含み、被検体の各々における当該複数種の薬剤の効果に関する情報を目的変数として含んでいてもよい。このような教師データ32を用いた学習処理を採用した場合、予測部23は、対象者に投与する複数種の薬剤の組合せの各々について薬効予測情報を出力することができる。
【0076】
(予測装置1が行う処理)
以下、予測装置1が行う処理の流れについて、
図6を用いて説明する。
図6は、予測装置1が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6には、対象情報から薬効予測情報を出力する処理の例を示している。
【0077】
まず、取得部21は、対象情報を取得し(ステップS11:取得ステップ)、予測部23に入力する。
【0078】
予測部23は、対象情報を学習済薬効予測モデル34に入力することにより、対象者に薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する(ステップS12:予測ステップ)。
【0079】
ステップ12において、骨形成に対する作用、および骨吸収に対する作用の少なくともいずれかを有する薬剤に関する薬剤情報を対象情報と共に学習済薬効予測モデル34に入力してもよい。
【0080】
(予測装置1によって実現する医療サービス)
図7は、予測装置1によって実現する医療サービスの一例を示す図である。
【0081】
定期健康診断の結果または骨折の疑い等の自覚症状に基づいて、医療施設8にて対象者の診察が行われた場合、診察において、対象者に関する対象情報がユーザ(例えば、医療関係者)によって収集され得る。対象情報は、取得骨の骨密度を示す骨密度情報、当該対象者の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む情報である。
【0082】
ユーザが、取得した対象情報を予測装置1に入力すると、予測装置1は、対象者に投与する薬剤(および/またはその候補)に関する薬効予測情報を出力する。あるいは、ユーザが、取得した対象情報と、対象者に投与する薬剤(および/またはその候補)に関する薬剤情報とを予測装置1に入力する構成であってもよい。
【0083】
予測装置1は、対象者が薬剤投与を受けなかった場合の将来における骨密度と、薬剤の投与を受けた場合の将来における骨密度とを、薬効予測情報として出力してもよい。ここで、出力される骨密度は、単位面積当りの骨ミネラル密度(g/cm2)、単位体積当りの骨ミネラル密度(g/cm3)、YAM、Tスコア、およびZスコアの少なくとも1種類によって表されてよい。YAMは、“Young Adult Mean”の略であって、若年成人平均パーセントと呼ばれることがある。例えば、出力層230からは、単位面積当りの骨ミネラル密度(g/cm2)で表された骨密度と、YAMで表された骨密度とが出力されてもよいし、YAMで表された骨密度と、Tスコアで表された骨密度と、Zスコアで表された骨密度とが出力されてもよい。また、出力される骨密度は、クラス分類(例えば、SD-1.0以上、-1.0未満、-2.5以下の分類、およびYAM 80%以上、80%未満、等)であってもよい。
【0084】
図7には、「このままだとX年後 骨密度〇%」、「A薬を使うとX年後 骨密度〇%」、および「B薬を使うとX年後 骨密度〇%」という薬効予測情報が示されている。このような薬効予測情報を得たユーザは、薬効予測情報に基づいて、対象者に薬剤を投与するべきか否か、および、A薬とB薬とではどちらを投与することがより好ましいかを、適切に検討し、判断することができる。予測装置1は、
図7における薬効予測情報として、骨密度に替えて将来の骨折の確率を提示してもよいし、骨密度に加えて将来の骨折の確率を提示してもよい。
【0085】
図7は一例を示しているにすぎない。例えば、薬剤予測情報として、「A薬とB薬とを併用するとX年後 骨密度〇%」、「A薬とB薬とC薬と、・・・を併用するとX年後 骨密度〇%」等の薬効予測情報が含まれていてもよい。また、薬剤予測情報として、「A薬をP mg/日投与するとX年後 骨密度〇%」、「A薬をQ mg/日投与するとX年後
骨密度〇%」等の薬効予測情報が含まれていてもよい。投与する期間の長さが限定されている薬剤もあるため、薬剤予測情報として、「最初のK年間はA薬を、以降はB薬を投与するとX年後 骨密度〇%」等の薬効予測情報が含まれていてもよい。また、薬剤予測情報として、骨密度ではなく、「M年間に骨折を発症する可能性は〇%」など、骨折リスクに関する情報が含まれていてもよい。
【0086】
予測装置1は、
図7に示す(1)~(6)に示す薬効予測情報を出力可能であってもよい。
図7において、「対象薬剤」とは、1または複数の、対象者に投与する薬剤、および/または、その候補となる薬剤を意図している。
(1)対象者に薬剤を投与した場合における、当該薬剤の効果の程度。
(2)対象薬剤が有効に作用する可能性がある対象者か否かに関する情報。
(3)対象薬剤が有効に作用する可能性がある種類。
(4)対象薬剤を組合せることによる薬剤効果の程度。
(5)対象者の骨粗しょう症の原因。
(6)併用薬剤との関係性。
例えば、上記(5)に示す薬効予測情報は、例えば、骨形成単独が原因なのか、骨吸収単独が原因か、もしくは骨形成および骨吸収の双方が原因なのか、を示す情報であってもよい。
【0087】
予測装置1は、対象者に関する様々な付加情報が入力された場合、当該対象者に適した薬剤の種類を出力してもよい。
【0088】
骨量が著しく低い対象者、すでに骨折が発生している対象者、および骨折リスクが高い対象者に対して、予測装置1は、骨密度上昇の効果が高い薬剤の種類を出力してもよい。骨密度上昇の効果が高い薬剤としては、例えば、副甲状腺ホルモン薬等が挙げられる。ここで、骨量の情報は、DXA等の骨密度測定装置によって測定された情報でもよいし、X線画像から学習済みパラメータを用いて骨密度を推定した情報を用いてもよい。骨折リスクについては、FRAX(登録商標)による骨折危険因子の情報を用いてもよいし、X線像から学習済みパラメータを用いて予測された情報を用いてもよい。
【0089】
骨折のリスクが高い対象者に対して、予測装置1は、骨折の抑制に効果を有する薬剤の種類に応じた薬効予測情報を出力してもよい。骨折の抑制に効果を有する薬剤としては、例えば、ビスホスホネート製剤やデノスマブ等が挙げられる。予測装置1は、例えば、特定部位の骨折リスクの高い対象者に対して、特定部位の骨折に効果的な薬剤の種類を抽出し、当該薬剤に応じた薬効予測情報を出力してもよい。より具体的には、例えば、特定部位が大腿骨近位部であった場合に、予測装置1は、大腿骨近位部の骨折治癒に効果的な薬剤の種類を抽出し、当該薬剤に応じた薬効予測情報を出力してもよい。
【0090】
骨代謝マーカーの測定により、骨吸収が亢進していると思われる対象者に対して、予測装置1は、骨吸収抑制剤に該当する薬剤の種類を出力してもよい。骨吸収抑制剤に該当する薬剤としては、例えば、カルシトニン薬、ビスホスホネート製剤、抗RANKL抗体、選択的エストロゲン受容体調整薬(SERM(Selective Estrogen Receptor Modulator)製剤)、女性ホルモン製剤等が挙げられる。
【0091】
骨形成が低下していると思われる対象者に対して、予測装置1は、骨形成促進薬に該当する薬剤の種類を出力してもよい。骨形成促進薬に該当する薬剤としては、例えば、活性型ビタミンD3、副甲状腺ホルモン薬、およびビタミンK2製剤等が挙げられる。
【0092】
予測装置1が出力する薬効予測情報に含まれる薬剤に関する情報は、投与の期間、嚥下、費用に関する情報を元に選出されていてもよい。ここで、投与の期間は、対象者の年齢および閉経に関する情報を少なくとも1つ含んでもよい。長期に服用が必要な対象者に対して、予測装置1は、長期投与に適した薬剤に該当する薬剤の種類を出力してもよい。長期投与に適した薬剤に該当する薬剤としては、例えば、SERM製剤等が挙げられる。
【0093】
薬剤の内服に問題がないと思われる対象者に対して、予測装置1は、経口剤に該当する薬剤の種類を出力してもよい。一方、薬の内服が困難と思われる対象者に対して、予測装置1は、静注製剤および皮下注製剤に該当する薬剤の種類を出力してもよい。骨折リスクおよび骨粗しょう症の症状が進行している対象者に対しては、予測装置1は、費用が高い薬剤に該当する薬剤の種類を出力してもよい。費用が高い薬剤に該当する薬剤としては、例えば、副甲状腺ホルモン薬等が挙げられる。
【0094】
予測装置1は、対象者にとって薬剤が禁忌や不適となる疾患および症状等に関する情報に基づいて、当該対象者に適した薬剤の種類を出力してもよい。例えば、腎不全を罹患している対象者に対して、予測装置1は、ビスホスホネート製剤およびSERM製剤等の薬剤に関する情報を出力しない構成であってもよい。例えば、腎機能が低下している対象者に対して、予測装置1は、活性型ビタミンD3製剤に関する情報を出力しない構成であってもよい。これに限定されず、予測装置1は、対象者にとって薬剤が禁忌または不適であっても、薬効予測情報を提示してもよい。この場合、この薬剤が禁忌または不適であることを明示してもよく、それがユーザにとってわかりやすいように表示してもよい。また、予測装置1は、対象者にとって薬剤が禁忌または不適である理由をユーザが理解できるように表示してもよい。
【0095】
予測装置1は、対象者の骨について予測された、将来の骨密度に対応する仮想画像、および仮想画像を出力する構成であってもよい。例えば、対象者の胸部単純X線画像が対象情報として利用された場合、当該胸部単純X線画像に写っている骨の像を、将来の骨密度に対応する写り方を反映させた画像であってもよい。予測装置1は、対象情報の胸部単純X線画像と仮想画像との差異(すなわち、骨密度の変化)を示す画像および/または動画を出力することが可能であってもよい。例えば、このような画像および/または動画を対象者に視認させることにより、対象者に、自身の骨に骨折が発生するリスクおよび自身の骨粗しょう症発症リスク等を明確に示すことができる。よって、自覚症状のない対象者に対しても、骨折が発生するリスクおよび骨粗しょう症発症リスク等への対策の必要性を効果的に伝え、早期介入につなげることができる。
【0096】
上記(1)~(6)の少なくともいずれかの情報を薬効予測情報として出力することにより、予測装置1は、対象者に投与すれば効果が見込まれる薬剤か否かをユーザに知らせることができる。このような薬効予測情報を得たユーザは、対象者に投与する薬剤を適切に検討し、選択することができる。
【0097】
〔実施形態2〕
(予測システム100bの構成)
予測装置1は、所定の医療施設8に設置されているコンピュータではなく、通信ネットワーク9を介して複数の医療施設8の各々に配設されたLANと通信可能に接続されていてもよい。
図2は、本開示の別の態様に係る予測システム100bの構成例を示す図である。
【0098】
医療施設8a内のLANには、1以上の端末装置7aの他、電子カルテ管理装置5a、医用画像管理装置6aが通信可能に接続されていてもよい。また、医療施設8b内のLANには、端末装置7bの他、電子カルテ管理装置5b、医用画像管理装置6bが通信可能に接続されていてもよい。以下において、医療施設8aと8bとを特に区別しない場合、「医療施設8」と記す。また、端末装置7aと7b、および、医用画像管理装置6aと6bについても、特に区別しない場合、それぞれ「端末装置7」、および「医用画像管理装置6」と記す。
【0099】
図2では、医療施設8aおよび医療施設8bのLANが、通信ネットワーク9に接続されている例を示している。予測装置1は、通信ネットワーク9を介して、各医療施設内の装置と通信可能に接続されていればよく、
図2に示された構成に限定されない。例えば、医療施設8a内あるいは医療施設8b内に、予測装置1が設置されていてもよい。
【0100】
このような構成を採用した予測システム100bにおいて、予測装置1は、医療施設8aにて診察を受けた対象者Paの医用画像を、医療施設8aの医用画像管理装置6aから取得することが可能である。そして、予測装置1は、医療施設8aに設置された端末装置7aに対象者Paへの投与が検討されている薬剤の効果に関する薬効予測情報を送信する。同様に、予測装置1は、医療施設8bにて診察を受けた対象者Pbの医用画像を取得し、医療施設8bに設置された端末装置7bに対象者Pへの投与が検討されている薬剤の効果に関する薬効予測情報を送信することができる。
【0101】
この場合、各対象者の医用画像には、各対象者を診察している医療施設8毎に付与された各医療施設8に固有の識別情報(例えば、施設ID)、対象者毎に付与された各対象者に固有の識別情報(例えば、患者ID)が含まれていればよい。予測装置1は、これらの識別情報に基づいて、対象者に関する医療画像から出力した第1予測情報を、該対象者が診察を受けた各医療施設8の端末装置7に正しく送信することができる。
【0102】
〔ソフトウェアによる実現例〕
予測装置1の制御ブロック(特に取得部21、薬剤情報適用部22、予測部23、出力制御部24、学習部25)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0103】
後者の場合、予測装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。本開示の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0104】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【0105】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る予測装置は、対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報を取得する取得部と、骨に対する作用を有する薬剤に関する薬剤情報に基づき該薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測部と、を備える。
【0106】
本開示の態様2に係る予測装置は、上記態様1において、前記薬剤情報は、骨形成に対する作用、および骨吸収に対する作用の少なくともいずれかを有する薬剤に関する情報を含んでいてもよい。
【0107】
本開示の態様3に係る予測装置は、上記態様1または2において、前記薬効予測モデルは、前記薬剤が投与された複数の被検体の各々に関する被検体情報、および前記被検体の各々に投与された前記薬剤に関する前記薬剤情報を説明変数とし、前記被検体の各々における前記薬剤の効果を目的変数とする教師データを用いて学習されていてもよい。
【0108】
本開示の態様4に係る予測装置は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記薬剤情報は、少なくとも前記薬剤の名称および作用機序に関する情報を含んでいてもよい。
【0109】
本開示の態様5に係る予測装置は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記薬剤情報は、前記対象の骨の状態を変化させ得る複数種の薬剤の組合せの各々に関する情報を含み、前記予測部は、前記複数種の薬剤の組合せの各々について前記薬効予測情報を出力してもよい。
【0110】
本開示の態様6に係る予測装置は、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象への前記薬剤の投与を所定期間継続した後における該対象の骨の状態を示す情報、または、該対象の骨に生じる前記所定期間前後での変化を示す情報を前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0111】
本開示の態様7に係る予測装置は、上記態様1から6のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象への投与を所定期間継続した後における該対象の骨の状態を変化させ得る薬剤に関する情報を前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0112】
本開示の態様8に係る予測装置は、上記態様1から7のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象の骨の、将来における骨密度の予測結果を前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0113】
本開示の態様9に係る予測装置は、上記態様1から8のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象の骨の、現在の骨密度の予測結果を前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0114】
本開示の態様10に係る予測装置は、上記態様1から9のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象の骨の、将来における骨密度と現在の骨密度との差異を示す予測結果、および、前記対象の骨の骨密度の現在からの変化を示す予測推定結果、の少なくともいずれかを前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0115】
本開示の態様11に係る予測装置は、上記態様1から10のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象の骨折箇所に関する予測結果を前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0116】
本開示の態様12に係る予測装置は、上記態様1から11のいずれかにおいて、前記予測部は、前記対象が将来骨折する可能性を示す予測結果を前記薬効予測情報として出力してもよい。
【0117】
本開示の態様13に係る予測装置は、上記態様1から12のいずれかにおいて、前記対象情報は、前記対象の、種別、年齢、性別、体重、身長、骨折の有無、骨折箇所、骨折歴、家族の骨折歴、糖質コルチコイド、関節リウマチ、続発性骨粗しょう症、基礎疾患、喫煙歴、飲酒習慣、職業歴、運動歴、既往歴、血液検査の結果、尿検査の結果、服用している薬剤、遺伝子配列、に関する情報のうち少なくとも1つの情報を含んでいてもよい。
【0118】
本開示の態様14に係る予測装置は、上記態様1から13のいずれかにおいて、前記骨密度情報は、前記対象の所定部位の骨の骨密度を測定した測定値、であってもよい。
【0119】
本開示の態様15に係る予測装置は、上記態様1から14のいずれかにおいて、前記骨代謝情報は、前記対象の、骨芽細胞に関する骨形成マーカー情報、破骨細胞に関する骨吸収マーカー情報、および、骨質に関する骨マトリックス関連マーカー情報、のうちの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0120】
本開示の態様15に係る予測装置は、上記態様15において、前記骨形成マーカー情報は、アルカリホスファターゼ、およびI型プロコラーゲン-N-プロペプチドのうちの少なくとも何れかに関する情報であってもよく、前記骨吸収マーカー情報は、デオキシピリジノリン、I型コラーゲン架橋N-テロペプチドおよび、I型コラーゲン架橋C-テロペプチド、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b、のうちの少なくとも何れかに関する情報であってもよく、前記骨マトリックス関連マーカー情報は、低カルボキシル化オステオカルシン、ペントシジン、およびホモシステインのうちの少なくとも何れかに関する情報であってもよい。
【0121】
本開示の態様16に係る予測装置は、上記態様1から16のいずれかにおいて、前記医用画像は、前記対象の身体を撮像したX線画像、CT(Computed Tomography)画像、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像、PET(Positron Emission Tomography)画像、および超音波画像のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0122】
本開示の態様18に係る予測システムは、上記態様1から17のいずれかに記載の予測装置と、前記予測装置と通信可能に接続された端末装置であって、前記薬効予測情報を提示する端末装置と、を含む。
【0123】
本開示の態様19に係る予測方法は、対象の骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、該対象の骨の骨密度を示す骨密度情報、該対象の骨の骨代謝状態を示す骨代謝情報、および、該対象の骨が写っている医用画像、の少なくともいずれかを含む対象情報を取得する取得ステップと、骨に対する作用を有する薬剤に関する薬剤情報に基づき該薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに前記対象情報を入力することにより、前記対象に前記薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する予測ステップと、を含む。
【0124】
本開示の態様20に係る制御プログラムは、上記態様1から17のいずれかに記載の予測装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部および前記予測部としてコンピュータを機能させるための制御プログラムである。
【0125】
本開示の態様21に係る記録媒体は、上記態様20に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【符号の説明】
【0126】
1 予測装置
21 取得部
22 薬剤情報適用部
23 予測部
24 出力制御部
25 学習部
32 教師データ
34 学習済薬効予測モデル
100a、100b 予測システム
S11 取得ステップ
S12 予測ステップ
【要約】
【課題】対象に薬剤を投与した場合の当該薬剤の効果を精度良く予測する。
【解決手段】予測装置は、取得部と、予測部と、を備える。取得部は、対象者の、骨折危険因子に関する骨折危険因子情報、骨密度、骨代謝状態、および、医用画像の少なくともいずれかを含む対象情報を取得する。予測部は、骨に対する作用を有する薬剤に関する薬剤情報に基づき該薬剤の効果を予測する薬効予測モデルに対象情報を入力することにより、対象に薬剤を投与した場合の該薬剤の効果に関する薬効予測情報を出力する。
【選択図】
図3