(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/142 20140101AFI20240430BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20240430BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B23K26/142
B23K26/36
H01L21/78 B
(21)【出願番号】P 2020125481
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】吉井 俊悟
(72)【発明者】
【氏名】九鬼 潤一
(72)【発明者】
【氏名】相田 花菜
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100170(JP,A)
【文献】特開2017-35714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックテーブルで保持された被加工物に対して、該被加工物に吸収される波長を有するレーザービームを照射してアブレーション加工を行うレーザー加工装置であって、
該レーザービームを集光する集光レンズを有する集光器と、
該集光器の下部に固定された加工ノズルと、を備え、
該加工ノズルは、
該集光レンズによって集光された該レーザービームを該被加工物に向けて通過させるレーザービーム通過口が設けられた上壁と、
該上壁の一部の下部に接続された下壁であって、上部が該レーザービーム通過口に接続され、且つ、該レーザービームによってアブレーション加工された該被加工物から飛散するデブリを取り込む開口を下部に有するデブリ捕獲チャンバを含む該下壁と、
該上壁の他の一部と該下壁との間に設けられ、該開口から該デブリ捕獲チャンバに取り込まれた該デブリを吸引するための吸引口と、
該下壁に設けられ、該レーザービーム通過口を通過する該レーザービームの光路に対して直交する所定方向において該デブリ捕獲チャンバを横断し、該吸引口に向かってエアを噴射する第1のエア噴射口と、
該下壁において該第1のエア噴射口より下方に設けられ、該所定方向において該デブリ捕獲チャンバを横断し、該吸引口に向かってエアを噴射する第2のエア噴射口と、を有し、
該第1のエア噴射口は、該加工ノズルの筐体に接続されている一の管部に接続しており、該第1のエア噴射口には、該一の管部と、該一の管部に接続された一の流量調整ユニットと、を介して、エア供給源からエアが供給され、
該第2のエア噴射口は、該加工ノズルの該筐体に接続されている他の管部に接続しており、該第2のエア噴射口には、該他の管部と、該他の管部に接続され該一の流量調整ユニットとは異なる他の流量調整ユニットと、を介して、該エア供給源からエアが供給され、
該第2のエア噴射口から噴射されるエアの流量は、該第1のエア噴射口から噴射されるエアの流量よりも小さいことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該下壁のうち該上壁の該一部の下部に位置する一部は、
該デブリ捕獲チャンバに接し、該筐体の長手方向において該吸引口とは反対側に位置する第1内面と、
該筐体の該長手方向において該第1内面とは反対側に位置する第1外面と、
を有し、
該上壁の該一部は、
該加工ノズルの該筐体の高さ方向において該デブリ捕獲チャンバと接続している空洞部に接し、該下壁の該第1内面の上方に位置する第2内面と、
該筐体の該長手方向において該第2内面とは反対側に位置する第2外面と、
を有し、
該下壁の該一部の該第1外面と、該上壁の該一部の該第2外面とは、開口を有さず、
該第1のエア噴射口及び該第2のエア噴射口は、該下壁の該一部の該第1内面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該集光器は、該筐体の高さ方向において該デブリ捕獲チャンバと接続している空洞部に接続する貫通孔を有し、
該集光器は、
該貫通孔に設けられ、該集光レンズと、該貫通孔の下端と、の間に位置するカバーガラスと、
該カバーガラスと、該貫通孔の下端と、の間に位置し、該空洞部に接する内周側面に設けられ、エアを噴射するための環状溝と、
を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に吸収される波長を有するレーザービームを被加工物に照射して、アブレーション加工を行うレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の板状の被加工物を加工する方法として、被加工物に吸収される波長を有するレーザービームを集光させた状態で被加工物に照射して、被加工物の一部を昇華させるアブレーション加工が知られている。例えば、レーザービームの集光点と、被加工物と、を相対的に所定の方向に移動させることで、被加工物には線状の加工溝が形成される。
【0003】
アブレーション加工中には、集光点近傍の加工点からデブリと呼ばれる加工屑が飛散する。飛散したデブリが被加工物に付着すると、被加工物の加工後の品質が悪化する。また、デブリが加工点の上方に飛散すると、加工点に届くレーザービームのパワーが低下するので、所定の加工に要する時間が長くなる。
【0004】
そこで、レーザービームを下方に導くレーザービーム通過口と、レーザービームの進行方向に対して直交する方向でエアを噴射する1つのエア噴射口とを、加工ノズルに設け、エアによりデブリを除去しながら、被加工物に対してアブレーション加工を施すレーザー加工装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
加工ノズルの筐体の底面には、レーザービーム通過口よりも大きな開口が形成されており、エア噴射口と対面する位置には、デブリを吸引する吸引口が形成されている。底面の開口、吸引口及びレーザービーム通過口で囲まれる空間は、飛散したデブリが一時的に取り込まれるデブリ捕獲チャンバとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-77568号公報
【文献】特開2017-35714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、エア噴射口からエアを噴射すると、加工ノズルの筐体の下壁にエアの流れが衝突し、エアの流れが上下方向で分岐して、下壁の下方を流れるエアの流れに沿って加工ノズルの下壁の底面側にデブリが付着することがある。
【0008】
加工ノズルの下壁の底面側にデブリが付着すると、デブリが底面側から落下して被加工物に付着し、被加工物の加工後の品質が悪化する恐れがあるので、加工ノズルの清掃等を行うメンテナンスの頻度が高くなり、更には、レーザー加工装置のダウンタイムが長くなる。
【0009】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、加工点から効率的にデブリを除去しつつ、加工ノズルの筐体の底面へのデブリの付着を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、チャックテーブルで保持された被加工物に対して、該被加工物に吸収される波長を有するレーザービームを照射してアブレーション加工を行うレーザー加工装置であって、該レーザービームを集光する集光レンズを有する集光器と、該集光器の下部に固定された加工ノズルと、を備え、該加工ノズルは、該集光レンズによって集光された該レーザービームを該被加工物に向けて通過させるレーザービーム通過口が設けられた上壁と、該上壁の一部の下部に接続された下壁であって、上部が該レーザービーム通過口に接続され、且つ、該レーザービームによってアブレーション加工された該被加工物から飛散するデブリを取り込む開口を下部に有するデブリ捕獲チャンバを含む該下壁と、該上壁の他の一部と該下壁との間に設けられ、該開口から該デブリ捕獲チャンバに取り込まれた該デブリを吸引するための吸引口と、該下壁に設けられ、該レーザービーム通過口を通過する該レーザービームの光路に対して直交する所定方向において該デブリ捕獲チャンバを横断し、該吸引口に向かってエアを噴射する第1のエア噴射口と、該下壁において該第1のエア噴射口より下方に設けられ、該所定方向において該デブリ捕獲チャンバを横断し、該吸引口に向かってエアを噴射する第2のエア噴射口と、を有し、該第1のエア噴射口は、該加工ノズルの筐体に接続されている一の管部に接続しており、該第1のエア噴射口には、該一の管部と、該一の管部に接続された一の流量調整ユニットと、を介して、エア供給源からエアが供給され、該第2のエア噴射口は、該加工ノズルの該筐体に接続されている他の管部に接続しており、該第2のエア噴射口には、該他の管部と、該他の管部に接続され該一の流量調整ユニットとは異なる他の流量調整ユニットと、を介して、該エア供給源からエアが供給され、該第2のエア噴射口から噴射されるエアの流量は、該第1のエア噴射口から噴射されるエアの流量よりも小さいレーザー加工装置が提供される。
好ましくは、該下壁のうち該上壁の該一部の下部に位置する一部は、該デブリ捕獲チャンバに接し、該筐体の長手方向において該吸引口とは反対側に位置する第1内面と、該筐体の該長手方向において該第1内面とは反対側に位置する第1外面と、を有し、該上壁の該一部は、該加工ノズルの該筐体の高さ方向において該デブリ捕獲チャンバと接続している空洞部に接し、該下壁の該第1内面の上方に位置する第2内面と、該筐体の該長手方向において該第2内面とは反対側に位置する第2外面と、を有し、該下壁の該一部の該第1外面と、該上壁の該一部の該第2外面とは、開口を有さず、該第1のエア噴射口及び該第2のエア噴射口は、該下壁の該一部の該第1内面に設けられている。
また好ましくは、該集光器は、該筐体の高さ方向において該デブリ捕獲チャンバと接続している空洞部に接続する貫通孔を有し、該集光器は、該貫通孔に設けられ、該集光レンズと、該貫通孔の下端と、の間に位置するカバーガラスと、該カバーガラスと、該貫通孔の下端と、の間に位置し、該空洞部に接する内周側面に設けられ、エアを噴射するための環状溝と、を更に有する。
【発明の効果】
【0011】
エアの流れが上下方向で分岐することを防ぐために、例えば、1つのエア噴射口からのエアの流量を下げることが考えられる。しかし、この場合、デブリ捕獲チャンバ内のデブリにはエアの流れが及び難くなり、吸引口へデブリを排出する排出性能が低下することが懸念される。
【0012】
また、エアの流れが上下方向で分岐しない様に、1つのエア噴射口の位置を上方に移動して流量を下げずにエアを噴射すると、エアの流れが分岐しないので、下壁の底面側にデブリは付着しなくなると考えられる。しかし、デブリ捕獲チャンバのうち加工点に近い領域では、エアの効果が及び難くなるので、この場合も、レーザー加工時におけるデブリの排出性能が低下する。
【0013】
これに対して、本発明の一態様に係る加工ノズルは、第1のエア噴射口と、第1のエア噴射口より下方に配置された第2のエア噴射口と、を有し、第2のエア噴射口から噴射されるエアの流量は、第1のエア噴射口から噴射されるエアの流量よりも小さい。これにより、下壁の底面側へのデブリの付着を防止しつつ、且つ、デブリの排出性能の低下を防止できる。つまり、デブリの付着防止と、デブリの排出性能の低下防止と、を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、レーザー加工装置2の斜視図である。なお、
図1では、レーザー加工装置2の構成要素の一部を機能ブロックで示している。
【0016】
また、以下において、X軸方向(加工送り方向、左右方向)、Y軸方向(割り出し送り方向、前後方向)、及び、Z軸方向(高さ方向、上下方向)は、互いに直交する方向である。レーザー加工装置2の前面側には、操作パネル4が設けられている。
【0017】
オペレーターは、例えば、操作パネル4を介して所定の入力を行うことにより、レーザー加工装置2に対して加工条件を設定できる。レーザー加工装置2の前面側の側面には、液晶ディスプレイ等の表示装置6が設けられている。
【0018】
レーザー加工装置2では、被加工物11に対してアブレーション加工を行う。被加工物11は、例えば、シリコン等の半導体ウェーハで形成されており、被加工物11の表面11a側には、格子状に複数の分割予定ライン(不図示)が設定されている。
【0019】
複数の分割予定ラインで区画される各領域には、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイス(不図示)が形成されている。被加工物11の裏面11b側には、樹脂で形成された円形のダイシングテープ(粘着テープ)13が貼り付けられる。
【0020】
ダイシングテープ13の径は、被加工物11の径よりも大きく、ダイシングテープ13の中央部には被加工物11が貼り付けられ、ダイシングテープ13の外周部には金属で形成された環状のフレーム15の一面が貼り付けられる。
【0021】
被加工物11、ダイシングテープ13及びフレーム15は、フレームユニット17を構成する。複数のフレームユニット17は、1つのカセット8に収容され、当該カセット8は、レーザー加工装置2の前方の角部に設けられた矩形板状のカセットテーブル10に載置される。
【0022】
カセットテーブル10の下方には、カセットテーブル10を上下に移動させるカセットエレベータ12が連結されている。カセットテーブル10の後方には、フレームユニット17を搬送するプッシュプルアーム14が設けられている。
【0023】
プッシュプルアーム14は、フレームユニット17のフレーム15を把持した状態でカセット8から加工前の被加工物11を搬出する。また、プッシュプルアーム14は、フレーム15を押すことで加工後の被加工物11をカセット8へ搬入する。
【0024】
プッシュプルアーム14の移動経路の両脇には、一対の位置決め部材(ガイドレール)16が設けられている。一対の位置決め部材16は、フレームユニット17のX軸方向の位置を調整する。
【0025】
一対の位置決め部材16の近傍には、フレームユニット17を搬送する第1の搬送ユニット18が設けられている。第1の搬送ユニット18は、アームと、アームの一端側に設けられた吸着パッドと、アームの他端側に設けられた旋回機構と、を有する。
【0026】
第1の搬送ユニット18は、フレーム15を吸着機構で吸着した状態で、旋回機構によりアームを所定角度回転させることで、フレームユニット17を一対の位置決め部材16から円盤状のチャックテーブル20へ搬送する。
【0027】
チャックテーブル20は、X軸方向において、カセットテーブル10及びカセットエレベータ12に隣接して配置されている。チャックテーブル20は、金属で形成された円盤状の枠体を有する。
【0028】
枠体の上面側には、円盤状の凹部(不図示)が形成されており、この凹部には円盤状の多孔質プレートが固定されている。多孔質プレートの下面側には、枠体の内部に形成されている流路(不図示)の一端が接続されている。
【0029】
この流路の他端には、エジェクタ等の吸引源(不図示)が接続されている。吸引源を動作させると、多孔質プレートの上面には負圧が発生する。枠体の上面と、多孔質プレートの上面とは、略平坦な面一の保持面20aとして機能する。
【0030】
被加工物11は、表面11aが露出する態様で保持面20aに配置され、ダイシングテープ13を介してその裏面11b側が保持面20aで保持される。このとき、フレーム15は、チャックテーブル20の外周部に設けられた複数のクランプ20bで挟持される。
【0031】
チャックテーブル20の下方には、Z軸方向に略平行な所定の回転軸の周りにチャックテーブル20を回転させるモーター等の回転駆動源(不図示)が連結されている。回転駆動源の下方には、チャックテーブル20及び回転駆動源をX軸方向に沿って移動させる加工送りユニット(不図示)が連結されている。
【0032】
加工送りユニットは、回転駆動源を支持するX軸移動テーブル(不図示)を有する。X軸移動テーブルは、X軸に平行に配置された一対のX軸ガイドレール(不図示)上にスライド可能な態様で設けられている。
【0033】
一対のX軸ガイドレールの間には、X軸方向に沿ってボールねじ(不図示)が配置されている。ボールねじの一端には、ボールねじを回転させるためのパルスモーター等の駆動源(不図示)が連結されている。
【0034】
ボールねじには、X軸移動テーブルの下面に設けられたナット部(不図示)が回転可能な態様で連結している。パルスモーター等の駆動源を駆動させれば、チャックテーブル20は、回転駆動源と共にX軸方向に沿って移動する。
【0035】
チャックテーブル20の移動経路の上方には、保持面20aに対面する撮像ユニット22が設けられている。撮像ユニット22は、対物レンズを含む所定の光学系や、イメージセンサ等を有しており、例えば、保持面20aで保持された被加工物11の表面11a側を撮像する。
【0036】
撮像により取得された画像は、例えば、表示装置6に表示される。撮像ユニット22に対してX軸方向の一方側には、レーザービーム照射ユニット24が設けられている。レーザービーム照射ユニット24は、レーザービーム形成ユニット26を有する。
【0037】
レーザービーム形成ユニット26は、レーザービームを発振するレーザー発振器(不図示)を有する。レーザー発振器は、例えば、Nd:YAG又はNd:YVO4で形成されたロッド状のレーザー媒質を含む。レーザー発振器は、例えば、出力がパルス状であるレーザービームを外部に出射する。
【0038】
また、レーザービーム形成ユニット26は、例えば、レーザービームの出力を調整する出力調整部(不図示)を有する。出力調整部は、例えば、減衰器(アッテネータ)を含む。レーザービーム形成ユニット26は、レーザー発振器から出射されたレーザービームを、例えば、平均出力6.0Wに調整する。
【0039】
レーザー発振器から出射されるレーザービームL(
図2等参照)は、被加工物11に吸収される波長(例えば、波長355nm)を有するパルス状のレーザービームであり、加工ヘッド28の集光器30に入射する。
【0040】
ここで、
図2及び
図3を参照し、集光器30等の構造について説明する。
図2は、集光器30等の底面斜視図であり、
図3は、集光器30等の一部断面側面図である。集光器30は、直方体状の筐体32を有する。
【0041】
図3に示す様に、筐体32には、略円柱状の貫通孔34が形成されている。貫通孔34の上部には、レーザービームLを集光する集光レンズ36が固定されている。集光レンズ36の光軸36aは、Z軸方向と略平行に配置されている。
【0042】
集光レンズ36と、貫通孔34の下端と、の間には、円盤状のカバーガラス36bが固定されている。カバーガラス36bは、レーザービームLを透過させる。筐体32の下部には、Y軸方向に沿って延伸する態様で管部38が固定されている。
【0043】
管部38には、エア供給源40から第1の流量調整ユニット42を介して、エアが供給される。エア供給源40は、エアを圧縮して送り出すコンプレッサ、圧縮されたエアを貯留するタンク等を有する。
【0044】
第1の流量調整ユニット42は、流量調整弁(不図示)を有し、管部38に供給するエアの流量を調整する。貫通孔34を規定する筐体32の内周側面の所定の高さ位置には、当該内周側面の周方向に沿って環状溝38aが形成されている。
【0045】
環状溝38aには、流路38bの一端が接続され、この流路38bの他端には、管部38が接続されている。環状溝38aには、流路38bを介してエアが供給される。環状溝38aからは、例えば、10L/分でエアが噴射され、噴射されたエアは、下方へ流れる気流を形成する。
【0046】
この気流は、後述する筐体52に形成されている下部開口56bを通じて、筐体52の外部へ流れ出る。当該気流により、デブリ19等のゴミがカバーガラス36bへ付着することが低減される。
【0047】
集光器30の下部には、加工ノズル50が固定されている。加工ノズル50は、筐体32よりもX軸方向に長い略直方体形状の筐体52を有する。筐体52は、上部に位置する上壁54を含む。上壁54には、逆円錐台状の空洞部56が形成されている。
【0048】
なお、
図3では、空洞部56の+X側に位置する上壁54を+X側上壁54a(上壁54の一部)とし、空洞部56の-X側に位置する上壁54を-X側上壁54b(上壁54の他の一部)としている。
【0049】
空洞部56の高さ方向は、Z軸方向と略平行である。筐体52の位置は、空洞部56が貫通孔34と同心状になり、且つ、空洞部56の上部開口56aと貫通孔34の下端とが連続的に接続する様に、調整されている。
【0050】
空洞部56の下端には、上部開口56aよりも小さい径を有する円形の下部開口56bが位置している。下部開口56bは、集光レンズ36によって集光されたレーザービームLが通過するレーザービーム通過口として機能する。レーザービームLは、下部開口56bから、加工ノズル50の下方に位置する被加工物11に向けて照射される。
【0051】
下部開口56bに対して+X側上壁54aの下部には、下壁58を構成する+X側下壁58aが接続されている。
図3では、便宜的に、+X側上壁54aと、+X側下壁58aとの境界を破線で示すが、+X側上壁54aと、+X側下壁58aとは、一体的に形成されている。
【0052】
下部開口56bに対して+X側下壁58aとは反対側、且つ、-X側上壁54bに対向する位置には、下壁58を構成する-X側下壁58bが配置されている。下壁58の下部の一部には、アブレーション加工時に被加工物11から飛散するデブリ19を取り込むための開口60が形成されている。
【0053】
開口60は、
図2で示す様に筐体52の底面52a側から見た場合に、略五角形の形状を有する。ところで、-X側上壁54bと、-X側下壁58bと、の間には、デブリ19等を吸引するための吸引路62が形成されている。
【0054】
吸引路62の+X側の端部には、吸引口62aが位置しており、吸引路62の-X側の端部には、エジェクタ等の吸引源64が接続されている。吸引源64は、吸引路62を、例えば、-10kPa以上-1kPa以下の所定のゲージ圧とすることで、吸引口62aからデブリ19等を吸引する。
【0055】
下部開口56b及び開口60と、+X側下壁58aの-X側の側面及び吸引口62aと、に囲まれた空間は、デブリ捕獲チャンバ66として機能する。アブレーション加工時に被加工物11から飛散するデブリ19は、開口60からデブリ捕獲チャンバ66に取り込まれ、その後、吸引路62へ吸引される。
【0056】
なお、デブリ捕獲チャンバ66の上部は、下部開口56bに接続しており、デブリ捕獲チャンバ66の一部は、下部開口56bから出射されるレーザービームLを被加工物11に向けて通過させる機能も有する。
【0057】
+X側下壁58aには、第1のエア噴射部70が設けられている。第1のエア噴射部70は、Y軸方向に沿って延伸し、筐体52に接続している管部72を有する。管部72には、エア供給源40から第2の流量調整ユニット44を介して、エアが供給される。
【0058】
第2の流量調整ユニット44は、流量調整弁を有し、管部72に供給するエアの流量を調整する。+X側下壁58aのデブリ捕獲チャンバ66側の側面(即ち、-X側の表面)には、第1のエア噴射口72aが形成されている。
【0059】
第1のエア噴射口72aには、X軸方向に沿って+X側下壁58aに形成されている流路72bを介して、管部72からエアが供給される。第1のエア噴射口72aは、これをX軸方向に沿って見た場合に、Y軸方向において幅広の長穴形状を有する。
【0060】
第1のエア噴射口72aは、例えば、Y軸方向に約2.5mmの幅を有し、Z軸方向に1.0mmの幅を有する。第1のエア噴射口72aは、下部開口56bを通過するレーザービームLの光路に対して直交するX軸方向(所定方向)においてデブリ捕獲チャンバ66を横断する様に、吸引口62aに向かってエアを噴射する。
【0061】
Y軸方向に幅広の第1のエア噴射口72aからエアを噴射することで、Y軸方向の幅が狭い第1のエア噴射口72aを用いる場合に比べて、カバーガラス36bへのデブリ19の付着をより確実に低減できる。
【0062】
第1のエア噴射部70の下方における+X側下壁58aには、第2のエア噴射部74が設けられている。第2のエア噴射部74は、Y軸方向に沿って延伸し、筐体52に接続している管部76を有する。管部76には、エア供給源40から第3の流量調整ユニット46を介して、エアが供給される。
【0063】
第3の流量調整ユニット46は、流量調整弁を有し、管部76に供給するエアの流量を調整する。第1のエア噴射口72aの下方において、+X側下壁58aの-X側のデブリ捕獲チャンバ66側の側面には、第2のエア噴射口76aが形成されている。
【0064】
第2のエア噴射口76aには、X軸方向に沿って+X側下壁58aに形成されている流路76bを介して、管部76からエアが供給される。第2のエア噴射口76aは、X軸方向で見た場合に円形形状を有する。
【0065】
第2のエア噴射口76aは、例えば、約1.5mmの直径を有する。しかし、第2のエア噴射口76aは、第1のエア噴射口72aと同様の長穴形状を有してもよい。第2のエア噴射口76aの中心は、第1のエア噴射口72aの中心から、所定距離だけ離れた下方に配置される。
【0066】
例えば、第1のエア噴射口72aの中心から開口60までの第1距離は、第2のエア噴射口76aの中心から開口60までの第2距離の、1.05倍以上3.34倍以下の所定値に調整される(即ち、1.05≦第1距離/第2距離≦3.34)。
【0067】
第2のエア噴射口76aも、第1のエア噴射口72aと同様に、X軸方向(所定方向)においてデブリ捕獲チャンバ66を横断する様に、吸引口62aに向かってエアを噴射する。本実施形態において第2のエア噴射口76aから噴射されるエアの流量は、第1のエア噴射口72aから噴射されるエアの流量よりも小さい。
【0068】
第2のエア噴射口76aからのエアの流量は、第1のエア噴射口72aからのエアの流量の1/2以下、1/3以下、1/4以下等に調整される。例えば、第1のエア噴射口72aからは、70L/分以上100L/分以下の所定値でエアが噴射され、第2のエア噴射口76aからは、20L/分以上30L/分以下の所定値でエアが噴射される。
【0069】
デブリ捕獲チャンバ66へ取り込まれたデブリ19は、第1のエア噴射口72a及び第2のエア噴射口76aからのエアにアシストされて吸引口62aに吸引された後、加工ヘッド28から排出される。
【0070】
この様に、デブリ捕獲チャンバ66、吸引口62a、第1のエア噴射口72a及び第2のエア噴射口76a等は、デブリ19を吸引し除去するデブリ除去ユニットとして機能する。
【0071】
ここで、比較例として、+X側下壁58aに1つのエア噴射口が設けられている場合を考える。この場合、デブリ捕獲チャンバ66に取り込まれたデブリ19を確実に吸引口62aへ飛ばすために所定の流量でエアを噴射すると、-X側下壁58bにエアの流れが衝突する可能性がある。
【0072】
-X側下壁58bにエアの流れが衝突すると、エアの流れが上下方向で分岐し、下壁58の下方を流れるエアの流れに沿って-X側下壁58bの底面52a側(例えば、後述するシャッタ86)にデブリ19が付着することがある。
【0073】
これに対して、-X側下壁58bの底面52a側にデブリ19が付着することを防ぐために、1つのエア噴射口からのエアの流量を所定の流量よりも下げた場合、エアの流れがデブリ捕獲チャンバ66内のデブリ19には及び難くなり、吸引口62aへデブリ19を排出する排出性能が低下することが懸念される。
【0074】
また、エアの流れが上下方向で分岐しない様に、1つのエア噴射口の位置を上方に移動して流量のエアを所定の流量で噴射すると、エアの流れが分岐しないので、-X側下壁58bの底面52a側にデブリ19は付着しなくなると考えられる。しかし、デブリ捕獲チャンバ66のうち加工点Pに近い領域ではエアの効果が及び難くなる。それゆえ、この場合も、レーザー加工時におけるデブリ19の排出性能が低下する。
【0075】
これに対して、本実施形態では、第1のエア噴射口72aと、第1のエア噴射口72aより下方に位置する第2のエア噴射口76aと、を加工ノズル50に設け、第2のエア噴射口76aから噴射されるエアの流量を、第1のエア噴射口72aから噴射されるエアの流量よりも小さくする。
【0076】
これにより、-X側下壁58bの底面52a側へのデブリ19の付着を防止しつつ、且つ、デブリ19の排出性能の低下を防止できる。つまり、デブリ19の付着防止と、デブリ19の排出性能の低下防止と、を両立できる。それゆえ、加工点Pから効率的にデブリ19を除去しつつ、-X側下壁58bの底面52aへのデブリ19の付着を抑制できる。
【0077】
-X側上壁54bの底部であって吸引口62aの近傍には、洗浄部80が設けられている。洗浄部80は、Y軸方向に沿って延伸し、筐体52に接続している管部82を有する。管部82には、第4の流量調整ユニット(不図示)を介して純水等の洗浄水が供給される。
【0078】
第4の流量調整ユニットは、流量調整弁を有し、管部82に供給する洗浄水の流量を調整する。-X側上壁54bの底面には、洗浄水供給口82aが形成されている。洗浄水は、レーザー加工後にデブリ捕獲チャンバ66を洗浄する際に利用される。
【0079】
下壁58の底面52aには、開口60を開閉するためのシャッタ機構84が設けられている。なお、
図2では、便宜上、シャッタ機構84を省略している。シャッタ機構84は、開口60を覆う十分な面積を有するシャッタ86を含む。
【0080】
シャッタ86は、シャッタ移動装置(不図示)により、X軸方向に沿って移動可能である。シャッタ機構84は、レーザー加工時には、開口60を開ける様にシャッタ86を-X側に移動させ、レーザー加工終了後には、開口60を閉じる様にシャッタ86を+X側に移動させる。
【0081】
ここで、
図1に戻り、レーザー加工装置2の他の構成要素について説明する。レーザービーム照射ユニット24には、Y軸Z軸移動機構(不図示)が連結されている。Y軸Z軸移動機構により、レーザービーム照射ユニット24は、Y軸及びZ軸方向に移動可能である。
【0082】
なお、レーザー加工装置2においてチャックテーブル20がX軸方向及びY軸方向の両方向に移動可能に構成されている場合、レーザービーム照射ユニット24には、レーザービーム照射ユニット24をZ軸方向に移動させるZ軸移動機構(不図示)が連結されてもよい。
【0083】
チャックテーブル20の後方(+Y側)には、フレームユニット17を搬送する第2の搬送ユニット88が設けられている。第2の搬送ユニット88の下方には、塗布洗浄ユニット90が設けられている。
【0084】
塗布洗浄ユニット90は、フレームユニット17を吸引保持するスピンナテーブル(不図示)を有する。スピンナテーブルの上方には、スピンナテーブルの保持面に向けて純水等の洗浄水を噴射する洗浄ノズル(不図示)が設けられている。
【0085】
洗浄ノズルと異なる位置には、保持面に向けて水溶性樹脂を噴射する樹脂塗布ノズル(不図示)が設けられている。水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール、エチレングリコール等である。
【0086】
被加工物11の表面11aに水溶性樹脂を塗布した後、乾燥させることで、表面11aには、水溶性の保護膜21(
図3参照)が形成される。保護膜21を形成することで、表面11aにデブリ19が直接付着することを防止できる。
【0087】
また、レーザー加工後に、洗浄ノズルから表面11aに洗浄水を出した状態でスピンナテーブルを回転させることで、保護膜21を除去できる。これにより、表面11aから、保護膜21及びデブリ19を併せて除去できる。
【0088】
カセットエレベータ12、プッシュプルアーム14、位置決め部材16、第1の搬送ユニット18、チャックテーブル20、撮像ユニット22、レーザービーム照射ユニット24、第2の搬送ユニット88、塗布洗浄ユニット90等の動作は、制御部92により制御される。
【0089】
制御部92は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ(処理装置)と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0090】
補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、制御部92の機能が実現される。制御部92は、被加工物11に対するレーザー加工を自動的に実行する。
【0091】
次に、レーザー加工の手順について説明する。まず、プッシュプルアーム14等で、カセット8からフレームユニット17を搬出し、次いで、第1の搬送ユニット18でフレームユニット17を塗布洗浄ユニット90へ搬送する。
【0092】
そして、塗布洗浄ユニット90で表面11a側に保護膜21を形成する(保護膜形成工程S10)。保護膜形成工程S10の後、第1の搬送ユニット18でフレームユニット17をチャックテーブル20へ搬送する。
【0093】
保持面20aで裏面11b側を吸引保持し、次いで、撮像ユニット22等を用いて分割予定ラインをX軸方向と略平行に位置合わせする。また、下部開口56bの直下の領域を一の分割予定ラインの延長線上に位置付ける。
【0094】
そして、集光点を表面11a近傍に位置付けた状態でレーザービームLを照射しながら、チャックテーブル20と加工ヘッド28とをX軸方向に沿って相対的に加工送りする。被加工物11の表面11a側は、集光点の移動経路に沿ってアブレーション加工されて、レーザー加工溝23が形成される(
図3参照)。
【0095】
一の方向における全ての分割予定ラインに沿って被加工物11をアブレーション加工した後、チャックテーブル20を90度回転させる。そして、一の方向と直交する他の方向における全ての分割予定ラインに沿って同様に被加工物11をアブレーション加工する(レーザー加工工程S20)。
【0096】
一般的に、被加工物11及び保護膜21に対してアブレーション加工を行う場合には、保護膜21が形成されていない被加工物11のみに対してアブレーション加工を行う場合と比べて、デブリ19が-X側下壁58bの底面52a側に付着しやすい。
【0097】
しかし、本実施形態では、上述の様に、-X側下壁58bの底面52a側へのデブリ19の付着を防止しつつ、且つ、デブリ19の排出性能の低下を防止できる。それゆえ、保護膜21が形成された被加工物11をアブレーション加工する場合であっても、デブリ19の底面52aへの付着を低減できる。従って、加工点Pから効率的にデブリ19を除去しつつ、底面52aへのデブリ19の付着を抑制できる。
【0098】
レーザー加工工程S20の後、第2の搬送ユニット88が、チャックテーブル20から塗布洗浄ユニット90へフレームユニット17を搬送し、スピンナテーブルの保持面で被加工物11の裏面11b側を保持する。
【0099】
塗布洗浄ユニット90では、スピンナテーブルを回転させた状態で、被加工物11の表面11a側へ、洗浄ノズルから洗浄水を噴射する。これにより、デブリ19及び保護膜21を洗浄により除去する。その後、洗浄ノズルからの洗浄水の噴射を止め、スピンナテーブルを回転させることで、被加工物11を乾燥させる(洗浄乾燥工程S30)。
【0100】
洗浄乾燥工程S30の後、第1の搬送ユニット18、プッシュプルアーム14等が、フレームユニット17をカセット8へ搬入する。その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0101】
2:レーザー加工装置、4:操作パネル、6:表示装置
8:カセット、10:カセットテーブル
11:被加工物、11a:表面、11b:裏面
12:カセットエレベータ、14:プッシュプルアーム、16:位置決め部材
13:ダイシングテープ、15:フレーム、17:フレームユニット
18:第1の搬送ユニット、22:撮像ユニット
19:デブリ、21:保護膜、23:レーザー加工溝
24:レーザービーム照射ユニット、26:レーザービーム形成ユニット
28:加工ヘッド、30:集光器、32:筐体、34:貫通孔
36:集光レンズ、36a:光軸、36b:カバーガラス
38:管部、38a:環状溝、38b:流路
40:エア供給源、42:第1の流量調整ユニット
44:第2の流量調整ユニット、46:第3の流量調整ユニット
50:加工ノズル、52:筐体、52a:底面
54:上壁、54a:+X側上壁、54b:-X側上壁
56:空洞部、56a:上部開口、56b:下部開口(レーザービーム通過口)
58:下壁、58a:+X側下壁、58b:-X側下壁
60:開口、62:吸引路、62a:吸引口、64:吸引源、66:デブリ捕獲チャンバ
70:第1のエア噴射部、72:管部、72a:第1のエア噴射口、72b:流路
74:第2のエア噴射部、76:管部、76a:第2のエア噴射口、76b:流路
80:洗浄部、82:管部、82a:洗浄水供給口
84:シャッタ機構、86:シャッタ、88:第2の搬送ユニット、90:塗布洗浄ユニット、92:制御部、L:レーザービーム、P:加工点