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特許7479810液体金属イオン源及び集束イオンビーム装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】液体金属イオン源及び集束イオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/26 20060101AFI20240430BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240430BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H01J27/26
H01J37/08
H01J37/317 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019172506
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2021051844
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】麻畑 達也
(72)【発明者】
【氏名】清原 正寛
(72)【発明者】
【氏名】楊 宗翰
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-208652(JP,A)
【文献】特開2006-004780(JP,A)
【文献】特開2007-172862(JP,A)
【文献】特開2011-210489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00-27/26
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体金属をなすイオン材料を保持するリザーバと、
前記リザーバから供給される前記イオン材料で表面が覆われるニードル電極と、
前記ニードル電極の先端から前記イオン材料のイオンを放出させる引出し電極と、
前記引出し電極の下流側に配置され、前記イオンのビーム径を制限するビーム絞りと、
これらを収容して真空に保持する真空室と、を備えた液体金属イオン源において、
さらに、前記イオン材料で表面を覆われているニードル電極の周囲に水蒸気を導入する水蒸気導入部を有し、
前記水蒸気導入部は、少なくとも前記ニードル電極と前記引出し電極との間に電圧が印加されているときに、前記真空室に前記水蒸気を導入させ、
前記液体金属イオン源は、前記水蒸気導入部からの前記水蒸気により前記ニードル電極の表面に酸化膜が形成された状態で、前記電圧の印加により前記ニードル電極から前記イオンを放出することを特徴とする液体金属イオン源。
【請求項2】
前記真空室に前記水蒸気が導入された状態での真空度が1.0×10-5~3.0×10-5Paである請求項1に記載の液体金属イオン源。
【請求項3】
前記真空室を目標真空度まで排気する最終排気系を有し、前記最終排気系の流路と、前記水蒸気導入部の流路とは、前記イオンのビームの照射方向に垂直な方向に少なくとも一部がニードルとそれぞれ対向する請求項1又は2に記載の液体金属イオン源。
【請求項4】
前記ニードル電極と前記引出し電極との間に電圧が印加されているときにのみ、前記真空室に前記水蒸気を導入させる水蒸気導入制御部をさらに有する請求項1~3のいずれか一項に記載の液体金属イオン源。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の液体金属イオン源を備えてなる集束イオンビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば集束イオンビーム装置のイオン源として好適に用いることができる液体金属イオン源及び集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集束イオンビーム(FIB)装置のイオン源として液体金属イオン源が用いられている。
この液体金属イオン源は、液体金属を加熱してニードル電極を濡らし、このニードル電極と引出し電極との間に電圧を印可すると、ニードル電極先端の液体金属がテーラーコーンと呼ばれる円錐状となり、この円錐の先端から電界蒸発が生じてイオンを放出させるものである。
ところが、溶融金属が酸化してイオン放出が不安定になることがある。そこで、ニードル電極付近に還元ガスを導入する技術(特許文献1)や、ニードル電極先端の液体金属にイオンを照射する技術(特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-22537号公報
【文献】特開平7-153403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、イオンビームの広がりや集束レンズの汚染を抑制するため、引出し電極の下流側にイオンのビーム径を制限するビーム絞りを配置することがある。
しかしながら、ビーム絞りにイオンが照射されてスパッタリング現象を引き起こし、ビーム絞りを構成するタングステンやモリブデンなどの高融点材料がスパッタリング粒子として飛散してニードル電極に付着するという問題がある。この付着物は液体金属の流れに乗ってニードル電極先端に凝集し、液体金属の流れを阻害してイオンビームの放出を不安定化させる。
この対策として、一時的にイオンビームの放出量を増やすヒーティングやフラッシングを行っても効果が限定的であった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、イオンビームを長期間安定して放出できる液体金属イオン源及び集束イオンビーム装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の液体金属イオン源は、液体金属をなすイオン材料を保持するリザーバと、前記リザーバから供給される前記イオン材料で表面が覆われるニードル電極と、前記ニードル電極の先端から前記イオン材料のイオンを放出させる引出し電極と、前記引出し電極の下流側に配置され、前記イオンのビーム径を制限するビーム絞りと、これらを収容して真空に保持する真空室と、を備えた液体金属イオン源において、さらに、前記イオン材料で表面を覆われているニードル電極の周囲に水蒸気を導入する水蒸気導入部を有し、前記水蒸気導入部は、少なくとも前記ニードル電極と前記引出し電極との間に電圧が印加されているときに、前記真空室に前記水蒸気を導入させ、前記液体金属イオン源は、前記水蒸気導入部からの前記水蒸気により前記ニードル電極の表面に酸化膜が形成された状態で、前記電圧の印加により前記ニードル電極から前記イオンを放出することを特徴とする。
【0007】
この液体金属イオン源によれば、ニードル電極の周囲に水蒸気を導入すると、ニードル電極の表面の液体金属が積極的に酸化されて最表面に酸化膜が形成される。そして、ニードル電極に飛来したビーム絞りからのスパッタリング粒子は、この酸化膜にトラップされ、内部の溶融体まで到達せず、ニードル電極の先端に向かう溶融体の流れを阻害しないと考えられる。その結果、イオンビームの放出が安定になる
【0008】
本発明の液体金属イオン源において、前記酸化性ガスが水蒸気であるとよい。
水は酸素よりも酸化能力が高く、水蒸気とすることで効率よく酸化反応する。
【0012】
請求項の液体金属イオン源において、前記真空室に前記水蒸気が導入された状態での真空度が1.0×10-5~3.0×10-5Paであってもよい。
【0014】
請求項1又は2の液体金属イオン源において、前記真空室を目標真空度まで排気する最終排気系を有し、前記最終排気系の流路と、前記水蒸気導入部の流路とは、前記イオンのビームの照射方向に垂直な方向に少なくとも一部がニードルとそれぞれ対向してもよい。
この液体金属イオン源によれば、水蒸気導入部から水蒸気がニードルへ向かって流れ易くなる。
【0015】
本発明の液体金属イオン源において、前記ニードル電極と前記引出し電極との間に電圧が印加されているときにのみ、前記真空室に前記水蒸気を導入させる水蒸気導入制御部をさらに有してもよい。
この液体金属イオン源によれば、電圧が印加されてイオンビームを放出しているときにのみ水蒸気を導入するので、水蒸気の効果が無い電圧非印加のときに水蒸気を導入する無駄を抑制できる。
【0016】
本発明の集束イオンビーム装置は、前記液体金属イオン源を備えてなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イオンビームを長期間安定して放出できる液体金属イオン源及び集束イオンビーム装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体金属イオン源を含む集束イオンビーム装置の全体構成を示す図である。
図2】通常のニードル電極からイオンビームが放出される状態を示す模式図である。
図3】ビーム絞りの材料がスパッタリングされたときの、ニードル電極からイオンビームが放出される状態を示す模式図である。
図4】ニードル電極0の周囲に酸化性ガスを導入したときの、ニードル電極からイオンビームが放出される状態を示す模式図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る液体金属イオン源を含む集束イオンビーム装置の全体構成を示す図である。
図6】第1の実施形態に係る液体金属イオン源において、酸化性ガスの導入量とイオンビーム放出の安定性との関係を示す図である。
図7】第2の実施形態に係る液体金属イオン源において、酸化性ガスの導入量とイオンビーム放出の安定性との関係を示す図である。
図8】第1の実施形態に係る液体金属イオン源において、真空室へ酸化性ガスを導入しなかったときのサプレッサー電極の電圧の時間変化を示す図である。
図9】第1の実施形態に係る液体金属イオン源において、真空室へ酸化性ガスを1.0×10-5Pa導入したときのサプレッサー電極の電圧の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る液体金属イオン源50を含む集束イオンビーム装置100の全体構成を示すブロック図である。
図1において、液体金属イオン源50は、液体金属をなすイオン材料(Ga等)を保持するリザーバ10と、ニードル電極20と、引出し電極22と、ビーム絞り24と、これらを収容して真空に保持する真空室30とを備えている。
【0020】
リザーバ10は、1本のワイヤの一端側をコイル状に巻いた内部空間を備え、他端側(図1の先端側)には先鋭化されたニードル電極20を備えている(図1の後端側)。フィラメントヒータ14は一本の線状ヒータを側面視V字に加工してなり、そのV字の先端部位がワイヤのコイル状に巻かれた部分付近に接続されている。
フィラメントヒータ14の後端側の両端部はそれぞれ一対の電極端子11、12に電気的に接続されている。そして、電極端子11、12に通電することによりリザーバ10に貯留された液体金属状のイオン材料がフィラメントヒータ14で加熱されて、溶融物の粘性が低下する。そして、ニードル電極20に液体金属が流れてその表面を覆う。なお、電極端子11、12は絶縁体からなる支持部13に支持されている。
【0021】
そして、ニードル電極20の下流側の引出し電極22に電圧を印可すると、ニードル電極20先端にある、溶融しているイオン材料(液体金属)の表面張力と、引出し電極22への電圧印可により形成された電界の引力により、液体金属がテーラーコーンと呼ばれる円錐状となる。そして、この円錐の先端から電界蒸発が生じてイオンのビームIBを放出させる。放出されたイオンはニードル電極20と引出し電極22により形成された電界によって加速され、以下の集束レンズ70に向かって進行する。
ビーム絞り24は、引出し電極22の下流側に配置され、イオンのビーム径を制限する。これにより、イオンビームの広がりや、以下の集束レンズ70の汚染を抑制することができる。
なお、ニードル電極20と、引出し電極22との間にサプレッサー電極(抑制電極)26を配置すると、サプレッサー電極26に印可される電圧によりイオンビームの放出量を制御でき、イオンビームが放出しやすいときは電圧を上げてイオンビームを抑制し、イオンビームが放出しにくいときは電圧を下げてイオンビームの放出を促進させる。
そして、液体金属イオン源50を構成するリザーバ10、ニードル電極20、引出し電極22、ビーム絞り24は、真空室30に収容されて真空に保持されている。
【0022】
又、本発明の第1の実施形態に係る集束イオンビーム装置100は、上述の液体金属イオン源50の各構成要素に加え、ビーム絞り24で絞られたイオンビームIBを集光するための集束レンズ70を、ビーム絞り24の下流側に備えている。集束レンズ70も真空室30に収容されて真空に保持されている。
【0023】
さらに、真空室30には、ニードル電極20の周囲に酸化性ガスを導入する酸化性ガス導入部40が連通するとともに、真空室30を真空に保持する為のイオンポンプ45及び排気系46が連通している。
排気系46はバルブ46aを介して真空室30に接続され、真空室30をイオンポンプ(最終排気系)45が作動するまでの大まかな(低い)真空度に排気する。具体的には、排気系46がイオンポンプが動作する真空度まで排気した後、しばらくイオンポンプ45を動作させてからバルブ46aを閉じ、イオンポンプ45を動作継続する。これにより、イオンポンプ45にて真空室30をさらに高い目標真空度に排気する。排気系46とイオンポンプ45との流路は合流し、真空室30に1カ所の流路F1にて連通している。
【0024】
なお、第1の実施形態においては、酸化性ガス導入部40は、排気系46及びイオンポンプ45の流路F1と水平方向(イオンビームIBの照射方向に垂直な方向)に少なくとも一部が対向する位置で真空室30に別の流路F2にて連通している。又、各流路F1,F2は水平方向にニードル電極20と少なくとも一部が対向する位置に配置されている。
【0025】
又、図1に示すように、第1の実施形態においては、酸化性ガス導入部40から流路F2を介して真空室30に導入された酸化性ガスGは、ニードル電極20を通って別の流路F1からイオンポンプ45により排気される。
このように、流路F1、F2を異ならせることで、酸化性ガスGは流路F2から流路F1に流れるので、酸化性ガスGの流量が小さくても効率的に酸化反応を進行させることができる。
【0026】
本例では、酸化性ガス導入部40は、酸化性ガスを貯留するシリンダ41と、酸化性ガスの流量を制限する流量調整部42とを有し、シリンダ41内の酸化性ガスを流量調整部42を介して真空室30のニードル電極20の周囲に導入する。
酸化性ガスの材料としては、水、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素などが挙げられ、液体でもよい。液体の場合、シリンダ41内には酸化性ガスの蒸気(シリンダ41の温度に応じた蒸気圧)と液体の二相が存在し、その蒸気(例えば水蒸気)が供給される。また、硝酸銅、硫酸銅、ヨウ化鉄のように、結晶内に水を保持している水和物を用いてもよい。水は酸素よりも酸化能力が高く、効率よく酸化反応する。
流量調整部42は、バリアブルバルブやオリフィスやマスフローコントローラや酸化性ガスを透過させる材料などが使用可能である。また、コントロールバルブを用いて真空室30の真空度に応じて供給流量をフィードバック制御することも可能である。
【0027】
次に、図2図4を参照し、本発明の特徴部分である、真空室30内のニードル電極20の周囲に酸化性ガスを導入する理由について説明する。
まず、図2に示すように、通常、ニードル電極20の表面を覆ったイオン材料の溶融体Mは、ニードル電極20の先端20tに向かって流れてイオンビームIBとして放出される。
ところが、ビーム絞り24がイオンビームIBでスパッタリングされると、図3に示すように、ビーム絞り24の材料がスパッタリング粒子24sとしてニードル電極20に付着する。スパッタリング粒子24sは溶融体Mの流れに乗ってニードル電極20の先端20tに凝集し、溶融体Mの流れを阻害してイオンビームIBの放出を不安定化させる。
【0028】
そこで、ニードル電極20の周囲に酸化性ガスを導入すると、図4に示すように、ニードル電極20の表面の溶融体Mが積極的に酸化されて最表面に酸化膜Oxが形成される。そして、ニードル電極20に飛来したスパッタリング粒子24sは、この酸化膜Oxにトラップされ、内部の溶融体Mまで到達せず、ニードル電極20の先端20tに向かう溶融体Mの流れを阻害しないと考えられる。その結果、イオンビームIBの放出が安定になる。
なお、ニードル電極20の先端20tの酸化膜Oxは薄く、又、先端20tには引出し電極22の印加電圧が集中するので、先端20tの溶融体Mは酸化膜Oxを容易に破ってイオンビームIBになると考えられる。
【0029】
以上のことから、導入される酸化性ガスの量が少なすぎると、スパッタリング粒子24sがニードル電極20に付着し、イオンビームIBの放出を不安定化させる。
一方、導入される酸化性ガスの量が多過ぎると、ニードル電極20の先端20tの酸化膜Oxが厚くなってイオンビームの放出を不安定化させる。
但し、真空室30に導入される酸化性ガスの量は、排気系46及びイオンポンプ45の排気速度や真空室30の容積により変化するので、個々の装置毎に実際のイオンビームの放出が安定化するよう、適切な範囲を求めればよい。
【0030】
図1に示すように、液体金属イオン源50は、ニードル電極20と引出し電極22との間に電圧が印加されているときにのみ、真空室30に酸化性ガスを導入させる酸化性ガス導入制御部48をさらに有してもよい。
酸化性ガス導入制御部48はマイコン等のコンピュータからなり、例えばニードル電極20と引出し電極22の間の電圧をモニタし、ニードル電極20と引出し電極22の間に電圧が印加されている間は、流量調整部42を所定の開度で開け、ニードル電極20と引出し電極22の間の電圧がゼロであると検知すると、流量調整部42を閉じる制御を行うことができる。
【0031】
酸化性ガスによる効果は、ニードル電極20と引出し電極22の間に電圧が印加され、溶融体Mがニードル電極20の表面で流れているときに発揮される。従って、このようにすると、ニードル電極20と引出し電極22の間の電圧がゼロであるときに酸化性ガスを無駄に導入することが抑制され、酸化性ガスの使用量を低減することができる。
なお、導入したガスは真空室内の表面に吸着され、そこから徐々に真空室内に放出される。これにより、高圧が印加されていない時にガスを吸着させておき、そこからの供給でも同様の効果が得られる。
【0032】
次に図5を参照し、本発明の第2の実施形態に係る液体金属イオン源50Bを含む集束イオンビーム装置100Bについて説明する。
第2の実施形態に係る液体金属イオン源50Bを含む集束イオンビーム装置100Bは、真空室30への酸化性ガス導入部40の連通流路が異なること以外は、第1の実施形態と構成が同一であり、第1の実施形態と同一構成部分については図1と同一符号を付して説明を省略する。
すなわち、第2の実施形態においては、排気系46と酸化性ガス導入部40との流路はF3にて合流し、さらに流路F3とイオンポンプ45との流路は合流し、真空室30に1カ所の流路F4にて連通している。排気系46とイオンポンプ45の動作は第1の実施形態と同様である。
流路F4は水平方向にニードル電極20と少なくとも一部が対向する位置に配置されている。
【0033】
第2の実施形態においては、酸化性ガス導入部40用の流路F2(図1)を設けなくてよいので、既設の液体金属イオン源に後付けで酸化性ガス導入部を設置したい場合に、設置の自由度が増すという利点がある。
一方、図5に示すように、第2の実施形態においては、酸化性ガス導入部40から流路F3を介して導入された酸化性ガスGは、流路F4を通って真空室30側は流れるだけでなく、イオンポンプ45側へも二手に分かれる。従って、分子流的には均等に別れると仮定すると、酸化反応に有効に働くための酸化性ガスGの導入量が第1の実施形態の2倍程度必要になると考えられる。
そして、真空室30に入った酸化性ガスGも結局はイオンポンプ45で排気されるので、真空度が第1の実施形態より低下する。
第2の実施形態においても、ニードル電極20の周囲に酸化性ガスを導入することで、ニードル電極20の表面の溶融体Mを積極的に酸化させ、イオンビームIBの放出が安定になる。
【0034】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
第1の実施形態において、流路F1、F2が水平方向(イオンビームIBの照射方向に垂直な方向)に対向しなくてもよい。
又、第1の実施形態における流路F1、F2、及び第2の実施形態における流路F4が(イオンビームIBの照射方向に垂直な方向)にニードル電極20と対向する位置に配置されていなくてもよい。
【実施例
【0035】
図1及び図5に示す液体金属イオン源(集束イオンビーム装置)をそれぞれ用い、真空室30への酸化性ガスの導入の有無によるイオンビーム放出の安定性を評価した。
なお、排気系46は、イオンポンプ45が動作する真空度まで引いた後は系から分離される。イオンポンプ45の排気能力を30L/mmとし、真空室30の容積を2Lとした。
【0036】
イオンビーム放出の安定性は、サプレッサー電極26に印可される電圧の変動により評価した。後述する図8に示すように、イオンビームの放出しにくくなると、サプレッサー電極26の電圧が低下する。
具体的には、ニードル電極20と引出し電極22の間に電圧印加を開始してから50時間以上、サプレッサー電極26の電圧が0.1kv以上を維持した場合を評価〇(イオンビーム放出が安定)とし、開始から50時間未満でサプレッサー電極26の電圧が0.1kv未満に低下した場合を評価×(イオンビーム放出が不安定)とした。
【0037】
得られた結果を図6図9に示す。
図6に示すように、第1の実施形態に係る液体金属イオン源50の場合、真空室30に酸化性ガスが導入された状態での真空度が5.0×10-6~1.5×10-5Paの範囲で、イオンビーム放出が安定することがわかった。
一方、図7に示すように、第2の実施形態に係る液体金属イオン源50の場合、真空室30に酸化性ガスが導入された状態での真空度が1.0×10-5~3.0×10-5Paの範囲で、イオンビーム放出が安定することがわかった。第2の実施形態に係る液体金属イオン源50の方が真空度が低い(酸化性ガスの導入量を多くする)理由は、上述のように酸化性ガスの一部は排気系46で排気されて真空室30に到達できないためと考えられる。
【0038】
図8は、第1の実施形態に係る液体金属イオン源50において、真空室30へ酸化性ガスを導入しなかったときのサプレッサー電極26の電圧の時間変化を示す。開始から14時間でサプレッサー電極26の電圧が0.1kv未満に低下した。
図9は、第1の実施形態に係る液体金属イオン源50において、真空室30へ酸化性ガスを1.0×10-5Pa導入したときのサプレッサー電極26の電圧の時間変化を示す。開始から50時間時間以上、サプレッサー電極26の電圧が0.1kv以上を維持した。
【符号の説明】
【0039】
10 リザーバ
20 ニードル電極
22 引出し電極
24 ビーム絞り
26 サプレッサー電極
30 真空室
40 酸化性ガス導入部
45 イオンポンプ(最終排気系)
48 酸化性ガス導入制御部
50、50B 液体金属イオン源
70 集束レンズ
100、100B 集束イオンビーム装置
IB イオンビーム
M イオン材料(液体金属)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9