IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧 ▶ DOWAエコシステム株式会社の特許一覧

特許7479883リチウム水溶液の製造方法及びリチウム水溶液の製造装置
<>
  • 特許-リチウム水溶液の製造方法及びリチウム水溶液の製造装置 図1
  • 特許-リチウム水溶液の製造方法及びリチウム水溶液の製造装置 図2
  • 特許-リチウム水溶液の製造方法及びリチウム水溶液の製造装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】リチウム水溶液の製造方法及びリチウム水溶液の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20240430BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240430BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240430BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20240430BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B3/12
H01M10/54
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020046505
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147637
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 正太
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 太
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】本間 善弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 千尋
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-229481(JP,A)
【文献】特開2016-191143(JP,A)
【文献】特許第6647667(JP,B1)
【文献】特開2019-178395(JP,A)
【文献】特開2002-167626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/12
C22B 7/00
C22B 1/02
C22B 3/12
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと、アルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素と、を含むリチウム含有物と、
アルカリ性水溶液と、を少なくとも一の流動層を有する流動層式混合槽を用いて混合して混合物を得ること、並びに
前記混合物をろ過すること、
を含むリチウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム含有物が、リチウム単体及びその酸化物から選ばれる少なくとも一種と、前記元素の単体及びその酸化物から選ばれる少なくとも一種と、を含む請求項1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム含有物が、更に炭素又は炭酸塩から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1又は2に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム含有物が、リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パック及びこれらの焙焼物から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記リチウム含有物が、前記焙焼物を含む請求項4に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム含有物1kgに対する前記アルカリ性水溶液の使用量が、3L以上40L以下である請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記混合物をpH10超とする請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記混合物を50℃以上に加温する請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記ろ過により、前記混合物から前記元素を除去する請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カルシウムから選ばれる少なくとも一種である請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項11】
前記混合を繰り返して行う請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項12】
前記流動層式混合槽の下方より前記アルカリ性水溶液を供給し、上方より前記リチウム含有物を供給して、前記流動層において前記混合を行い、上方から排出される流体1をろ過する、請求項11に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項13】
前記流動層式混合槽の下方より排出される流体2をろ過する請求項12に規定のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項14】
前記流体2をろ過して得られたろ液2を、前記流体1をろ過して得られたろ液1に加える請求項13に記載のリチウム水溶液の製造方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のリチウム水溶液の製造方法に用いられる、前記リチウム含有物と前記アルカリ性水溶液とを混合して混合物を得る流動層式混合槽と、前記混合物をろ過するろ過手段と、を備えるリチウム水溶液の製造装置。
【請求項16】
前記流動層式混合槽が、前記リチウム含有物が充填され、前記混合して混合物を得る流動層室を少なくとも1室を有し、
前記流動層式混合槽は上方と下方とに排出口を有し、
前記ろ過手段が、
前記上方の排出口から排出される流体1をろ過する第一ろ過手段と、
前記下方の排出口から排出される流体2をろ過する第二ろ過手段と、
を有する、
請求項15に記載のリチウム水溶液の製造装置。
【請求項17】
前記流動層式混合槽が、上方に前記リチウム含有物を供給する供給口を有し、下方に前記アルカリ性水溶液を供給する供給口を有する、請求項15又は16に記載のリチウム水溶液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム水溶液の製造方法及びリチウム水溶液の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
上記用途には、リチウム二次電池等が使用されており、近年では炭酸ガス排出規制への対応のために開発されているハイブリッドカー及び電気自動車への使用も検討されている。そのため、これまで以上にリチウム源を確保することが急務となっている。
電池に用いられる金属源を回収する技術は従来から行われており、例えばコバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属を含む廃電池の処理方法等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、リチウム源を確保すべく、リチウムを効率よく回収するための方法として、特許文献2には、リチウム含有液にリン酸塩を添加するリン酸化工程等を含む高濃度リチウム溶液の製造方法が提案されている。さらに特許文献3には、リチウムイオン電池の焙焼物を粉砕し、これを篩分けした粉粒体をアルカリ金属塩水溶液中で水熱処理するリチウム抽出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-265736号公報
【文献】特開2011-168461号公報
【文献】特開2016-191143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される技術は、より具体的には、酸化性酸と過酸化水素とを含む酸化性処理溶液、更にはアルカリ性溶液を用いて、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属を無機塩として分離するものであり、プロセスが煩雑となる。また、あくまでコバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属を回収する技術であり、リチウムを回収する技術ではない。また、特許文献2は、リチウム溶液を製造し、リチウムを回収しようとする技術を開示するものであるが、リン酸塩を用いてリン酸リチウムを沈殿物として回収した後、当該沈殿物を酸性溶液、さらには水酸化アルカリを用いてリチウム浸出を行うものであり、特許文献1と同様に、プロセスが煩雑となる。特許文献3は、水熱処理によるバッチ式のため効率的に製造することはできず、また量産するには不向きである。
リチウムの需要が高まる中、リチウムより容易に、かつ高い収率で回収する、すなわちより効率的にリチウムを回収することが、これまで以上に求められるようになっている。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、より効率的にリチウム水溶液を製造する方法及びリチウム水溶液の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0008】
1.リチウムと、アルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素と、を含むリチウム含有物と、
アルカリ性水溶液と、を混合して混合物を得ること、並びに
前記混合物をろ過すること、
を含むリチウム水溶液の製造方法。
2.前記リチウム含有物が、リチウム単体及びその酸化物から選ばれる少なくとも一種と、前記元素及びその酸化物から選ばれる少なくとも一種と、を含む上記1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
3.前記リチウム含有物が、更に炭素又は炭酸塩から選ばれる少なくとも一種を含む上記1又は2に記載のリチウム水溶液の製造方法。
4.前記リチウム含有物が、リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パック及びこれらの焙焼物から選ばれる少なくとも一種を含む上記1~3のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
5.前記リチウム含有物が、前記焙焼物を含む上記4に記載のリチウム水溶液の製造方法。
6.前記リチウム含有物1kgに対する前記アルカリ性水溶液の使用量が、3L以上40L以下である上記1~5のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
7.前記混合物をpH10超とする上記1~6のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
8.前記混合物を15℃以上に加温する上記1~7のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
9.前記ろ過により、前記混合物から前記元素を除去する上記1~8のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
10.前記アルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カルシウムから選ばれる少なくとも一種である上記1~9のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
11.前記混合を繰り返して行う上記1~10のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
12.前記混合を、少なくとも一の流動層を有する流動層式混合槽を用いて行う上記1~11のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法。
13.前記流動層式混合槽の下方より前記アルカリ性水溶液を供給し、上方より前記リチウム含有物を供給して、前記流動層において前記混合を行い、上方から排出される流体1をろ過する、上記11又は12に記載のリチウム水溶液の製造方法。
13.前記流動層式混合槽の下方より前記アルカリ性水溶液を供給し、上方より前記リチウム含有物を供給して、前記流動層において前記混合を行い、上方から排出される流体1をろ過する、請求項11又は12に記載のリチウム水溶液の製造方法。
14.前記流動層式混合槽の下方より排出される流体2をろ過する上記13に規定のリチウム水溶液の製造方法。
15.前記流体2をろ過して得られたろ液2を、前記流体1をろ過して得られたろ液1に加える上記14に記載のリチウム水溶液の製造方法。
16.上記1~15のいずれか1に記載のリチウム水溶液の製造方法に用いられる、前記リチウム含有物と前記アルカリ性水溶液とを混合して混合物を得る混合槽と、前記混合物をろ過するろ過手段と、を備えるリチウム水溶液の製造装置。
17.前記混合槽が、前記リチウム含有物が充填され、前記混合して混合物を得る流動層室を少なくとも1室を有し、
前記混合槽は上方と下方とに排出口を有し、
前記ろ過手段が、
前記上方の排出口から排出される流体1をろ過する第一ろ過手段と、
前記下方の排出口から排出される流体2をろ過する第二ろ過手段と、
を有する、
上記16に記載のリチウム水溶液の製造装置。
18.前記混合槽が、上方に前記リチウム含有物を供給する供給口を有し、下方に前記アルカリ性水溶液を供給する供給口を有する、上記16又は17に記載のリチウム水溶液の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より効率的にリチウム水溶液を製造する方法及びリチウム水溶液の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造方法の一実施形態を示すプロセスフロー図である。
図2】本発明の製造方法の一実施形態を示すプロセスフロー図である。
図3】本発明の製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[リチウム水溶液の製造方法]
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と称する。)のリチウム水溶液の製造方法について説明する。なお、本発明の一実施形態のリチウム水溶液の製造方法は、あくまで本発明のリチウム水溶液の製造方法の一実施形態であり、本発明は本発明の一実施形態のリチウム水溶液の製造方法に限定されるものではない。また、本明細書においては、リチウムとはリチウム又はリチウムイオンの両方を意味するものとし、技術的に矛盾が生じない限り、適宜解釈されるものとする。
【0012】
本実施形態のリチウム水溶液の製造方法は、リチウムと、アルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素と、を含むリチウム含有物と、アルカリ性水溶液と、を混合して混合物を得ること、並びに前記混合物をろ過すること、を含むことを特徴とするものである。
本実施形態のリチウム水溶液の製造方法は、リチウムと、リチウム以外の多種の元素を含むリチウム含有物からリチウムを回収する技術ともいえる。リチウムを回収する対象物としては、既にリチウムが用いられた材料、部材、製品等、例えば、リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックが挙げられる。よって、リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックからリチウムを回収する場合、リチウムと他の元素とを含むリチウム含有物からリチウムを選択的に回収することが必要となる。本実施形態の製造方法においては、リチウムを選択的に回収するにあたり、上記特許文献1及び2に記載される方法のような煩雑な工程を経ることなく、すなわちアルカリ性水溶液と混合し、ろ過するという極めて平易な工程を経るだけで、高い収率でリチウムを回収する、すなわちより効率的にリチウム水溶液を製造し、リチウムを回収することを可能とした。
【0013】
(リチウム含有物)
リチウム含有物は、リチウムと、アルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素と、を含むものである。これらの元素の態様には特に制限はなく、これらの元素単体でもよいし、これらの元素の酸化物、窒化物、硫化物等のいずれであってもよい。
【0014】
リチウム含有物は、リチウムイオン電池に用いられるリチウムを回収し、リチウム源を確保する観点から、例えば、リチウムを含む材料、部材、製品、具体的にはリチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックを含むものであることが好ましい。
【0015】
リチウムイオン電池材料は、リチウムを含む固体電解質、電極活物質、これらの物質の前駆体、中間体等の原料、材料のことであり、リチウムを含む固体電解質は主にリチウム、リンの他、ケイ素、ゲルマニウム等が含み得るものである。また電極活物質としては、例えばマンガン酸リチウム(LMO)、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケルコバルト酸リチウム(LNCO)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)等のオリビン型化合物(LiMePO、Me=Fe、Co、Ni、Mn)等の酸化物系電極活物質、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化ニッケル(Ni)等の硫化物系電極活物質、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー等の炭素、ケイ素、リチウムの電極活物質、導電助剤として炭素等、電解液にはフッ素含む化合物が一般的に汎用されており、リチウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等を含み得るものである。
【0016】
リチウムイオン電池部材は、上記リチウムイオン電池材料として挙げた固体電解質、電極活物質とともに、リチウムイオン電池パックを構成する各種部材のことであり、例えば、正極・負極集電体、電極シート、セパレータ及びこれらを収容する金属製の電池ケース等が挙げられる。これらの部材には、例えばアルミニウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、銅等の元素が含まれ得る。
【0017】
リチウムイオン電池パックは、上記のリチウムイオン電池材料として挙げた固体電解質、電極活物質等と、リチウムイオン電池部材と、から構成される、例えば車載用電池、民生用角型電池等といった電池として用いられる状態のものであり、含まれ得る元素は上記の通りである。
【0018】
リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材の場合は、既にリチウムイオン電池パックから分解、破砕等がされた状態であるため、そのままアルカリ性水溶液と混合することが可能である。他方、リチウムイオン電池パックの場合は、リチウムイオン電池材料及びリチウムイオン電池部材により構成された製品であるため、破砕した破砕物とした方が、アルカリ性水溶液と混合させやすくなり、リチウムの抽出、回収が行いやすくなるので収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られることとなる。
【0019】
リチウム含有物は、上記リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックの焙焼物を用いることが好ましい。焙焼物を用いることで、後述するアルカリ性水溶液との混合によりリチウムの抽出、回収が行いやすく、収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られる。
【0020】
リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックの中でも、リチウムイオン電池パックをリチウム含有物として採用する場合、焙焼物とすることが効果的である。リチウムイオン電池材料及びリチウムイオン電池部材により構成された製品であるため、焙焼物とした方が、アルカリ性水溶液と混合させやすくなり、リチウムの抽出、回収が行いやすくなるので収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られることとなる。
【0021】
リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材は、リチウムイオン電池パックから分解、破砕等がされた状態であるといえるため、リチウムイオン電池パックに比べて、焙焼物としなくてもアルカリ性水溶液と混合し、混合物としやすい。焙焼物とすることで、リチウムの抽出、回収が行いやすくなるので収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液を得られるが、より平易な工程を経ることで容易にリチウム水溶液を得ること(焙焼を省略できること)を考慮すると、焙焼物としなくてもよい。焙焼による収率の向上と平易な工程による容易さとのバランスを考慮して、適宜選択すればよい。
【0022】
焙焼物は、リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックを焙焼して得られるものである。焙焼する方法は、これらのリチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックが焙焼できれば特に制限はなく、いかなる方法を採用することも可能であるが、例えば固定床又は流動床の炉、ストーカー炉、トンネル炉、マッフル炉、またロータリーキルン等の各種加熱炉を用いることができる。また、熱源としては電気であってもよいし、重油等の燃料であってもよい。
【0023】
焙焼温度は、被焙焼物に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、例えば400℃以上であり、好ましくは500℃以上、より好ましくは600℃以上、更に好ましくは650℃以上、より更に好ましくは700℃以上であり、上限として好ましくは1800℃以下、より好ましくは1400℃以下、更に好ましくは1000℃以下である。上記範囲であると、焙焼物が得られやすくなるため、より効率的にリチウム水溶液を製造することが可能となる。
また焙焼時間としては、より効率的にリチウム水溶液を製造する観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは1時間以上であり、上限として好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下、更に好ましくは24時間以下である。
【0024】
焙焼は、大気雰囲気下で行ってもよいし、還元雰囲気下で行ってもよい。還元雰囲気とするには、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で焙焼を行えばよく、また水素等の還元ガスを同時に供給してもよい。また、例えば低酸素雰囲気下(例えば酸素濃度が15体積%以下、10体積%以下、5体積%以下等)で行ってもよく、この場合は例えば上記の不活性ガスを用いて酸素濃度を調整すればよい。
いずれの雰囲気下で焙焼するかは、被焙焼物に応じて適宜選択すればよく、大気雰囲気下で行うことが好ましい。リチウムと他の元素を反応させることができるため、アルカリ性水溶液に溶解しやすくし、リチウムの抽出、回収が行いやすくすることで収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られる。
【0025】
リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックは、主にリチウム、またアルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素が含まれるが、これらの元素は、必ずしも元素単体又はその酸化物の状態として含まれるものではない。本実施形態では、リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックの焙焼物とすることで、これらに含まれるリチウム、またアルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素は、単体又はその酸化物となる。よって、本実施形態の製造方法におけるリチウム含有物は、これらの元素単体及びその酸化物の少なくともいずれかを含むものとすることで、アルカリ性水溶液との混合によりリチウムの抽出、回収が行いやすく、収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られる、ともいえる。
【0026】
リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックには、上記のように、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー等の炭素材が含まれる場合がある。この場合、焙焼して得られる焙焼物には、炭素及び当該炭素と上記金属とにより形成する炭酸塩の少なくともいずれかが含まれることとなる。
【0027】
上記リチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パックを焙焼する場合、とりわけリチウムイオン電池パックを焙焼する場合、予め破砕、切断により各々破砕物、切断物の形態として焙焼してもよい。より均質な焙焼物が得られるため、アルカリ性水溶液と混合させやすくし、リチウムの抽出、回収が行いやすくすることで収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られる。
【0028】
本実施形態の製造方法では、上記のリチウム、またアルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素、更に、好ましくは炭素を含むリチウムイオン電池材料、リチウムイオン電池部材、リチウムイオン電池パック等の多様なものをリチウム含有物とし、当該リチウム含有物からリチウムを回収することが可能である。よって、本実施形態の製造方法は、極めて汎用性が高い製造方法である、といえる。
【0029】
(アルカリ性水溶液)
本実施形態の製造方法において用いられるアルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム(II)、水酸化タリウム(I)、グアニジン等のアルカリ成分を含む水溶液が好ましく挙げられる。これらのアルカリ成分は、単独又は複数種を組み合わせて採用することができる。
アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムがより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムが更に好ましい。これらのアルカリ成分は、リチウム含有物に含まれるリチウムの抽出、回収が行いやすくすることで収率を向上させることができ、より効率的にリチウム水溶液が得られ、また安価に入手が容易である。
【0030】
アルカリ性水溶液におけるアルカリ成分の濃度は、特に制限ないが、後述する混合物のpHを調整しやすくし、より効率的にリチウム水溶液を得ることを考慮すると、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上、より更に好ましくは3.5質量%以上であり、上限として好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である。
また、一度アルカリ性水溶液を用いて混合物が調製されていれば、混合物のpHの調整のため、アルカリ性水溶液を更に添加してもよいし、上記アルカリ成分自体をそのまま(粉状、粒状)添加してもよい。
【0031】
(混合物を得ること)
本実施形態の製造方法は、上記のリチウム含有物と、アルカリ性水溶液と、を混合して混合物を得ることを含む。これにより、リチウム含有物に含まれるリチウムがアルカリ性水溶液中に選択的に抽出され、回収することとなり、平易な工程を経るだけで、また高い収率でリチウムを回収できるため、より効率的にリチウム水溶液が得られることとなる。本実施形態の製造方法の典型的な一例の一つについて、そのプロセスフロー図を図1に示す。図1には、リチウム含有物とアルカリ性水溶液を混合槽等において混合し、得られた混合物をろ過することで、ろ液(リチウム水溶液)とろ過物が得られることが示されている。
【0032】
本実施形態の製造方法において、混合物はpH10超とすることが好ましく、pH11.0以上とすることがより好ましく、pH12.0以上とすることが更に好ましい。pH10超とすることで、リチウム含有物に含まれるリチウムをアルカリ性水溶液中に選択的に抽出、回収しやすくなり、収率を向上させることができるので、より効率的にリチウム水溶液が得られる。なお、例えばpH10超とするのは調節目標であり、混合物のpHは変動しやすいため、実際の混合物のpHとしては、調節目標値から±0.3の変動は許容されるものとする。
本実施形態においては、アルカリ性水溶液の種類、濃度、使用量等により、混合物のpHが上記範囲内となるように、調節することができる。アルカリ性水溶液のアルカリ成分、濃度は上記のとおりである。またリチウム含有物1kgに対する使用量は、好ましくは3L以上、より好ましくは5L以上、更に好ましくは10L以上、より更に好ましくは15L以上であり、上限としては特に制限はないが、アルカリ性水溶液の使用量に対して得られる効果を考慮すると、好ましくは40L以下、より好ましくは30L以下、更に好ましくは25L以下である。
【0033】
リチウム含有物と、アルカリ性水溶液との混合温度(混合物の温度)は、特に制限はなく、室温(23℃)で、また室温以下、室温以上のいずれとしてもよいが、より効率的にリチウム水溶液を得る観点から、好ましくは15℃以上、より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上であり、上限として好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下である。なお、本明細書における混合物の温度は、調節する温度の設定値を意味し、実際の混合物等の温度は当該設定値を中心に上下にぶれる場合があるため、現実の混合物の温度として±2.0℃未満まで含まれるものとする。
また、混合する時間は、例えば1分以上24時間以下程度で行えばよく、好ましくは10分以上18時間以下、より好ましくは30分以上10時間以下である。
【0034】
混合は、例えば攪拌機、必要に応じて加熱手段を備えた混合槽を用いて行えばよい。攪拌しながら混合することで、より効率的にリチウム水溶液が得られる。攪拌機としては特に制限なく各種攪拌機を使用することが可能であり、例えばアンカー翼、マックスブレンド翼、ヘリカル翼、パドル翼、タービン翼、マリンプロペラ翼、リボン翼等の各種翼を有する攪拌機が挙げられる。
加熱手段としては、混合温度を上記範囲に調節できるものであれば特に制限なく、例えば電気、熱媒体等によるヒートジャケット、ヒータータイプ、また熱媒体を用いたシェルチューブ式熱交換器等を採用できる。
【0035】
(ろ過すること)
本実施形態の製造方法は、上記混合物をろ過することを含む。ろ過により、混合物中のアルカリ性水溶液に溶解しなかった、主にリチウム以外の他の元素、すなわちアルミニウム、ケイ素、リン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を除去し、また炭素を含む場合は当該元素及び炭素をろ過残渣として除去し、ろ液としてリチウム水溶液が得られる。
【0036】
ろ過を行うろ過手段は、例えば各種フィルターを用いて行えばよく、また予めデカンテーションにより固液分離した後、得られた液体を更にろ過してもよい。
また、ろ過は複数回行ってもよく、例えば目の粗いフィルターでろ過した後、より目の細かいフィルターでろ過することを繰り返すような方法を採用してもよい。
【0037】
フィルターを用いる場合、フィルターの材質には特に制限はなく、混合物の性状等を考慮して適宜選択すればよく、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/エチレンとの共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種オレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂等及びこれらの共重合体等の耐アルカリ性樹脂が好ましく挙げられ、中でもフッ素樹脂が好ましく、これらの樹脂で構成されるメンブレンフィルター等の各種フィルターを好ましく用いることができる。
【0038】
また、例えば耐アルカリ性に優れる材質、例えばガラス繊維、また鋳鉄、ステンレス(例えば、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等)、ニッケル合金(例えば、インコネル、モネル、ハステロイ等)等の金属が好ましく挙げられ、中でもステンレス、ニッケルが好ましく、ニッケル合金がより好ましく、これらの材質により構成されるフィルター(不織布等も使用可能である。)が好ましく用いられる。
【0039】
ろ過に用いるフィルターの孔径は、ろ過残渣をより確実に除去し、かつろ過効率を考慮すると、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.10μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、上限として好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、より更に好ましくは3μm以下である。
【0040】
本実施形態の製造方法において、ろ過することで、リチウム以外の元素が除去されるが、除去される元素は、アルカリ性水溶液に溶解しなかった元素であり、当該元素には、元素単体だけでなく、当該元素の酸化物等も含まれる。すなわち、ろ過したろ過残渣は、上記アルカリ性水溶液に溶解しなかった元素、当該元素の酸化物等が含まれる。また、リチウムも、その一部はアルカリ性水溶液に溶解せずに、リチウム単体、リチウム酸化物等の形態で、リチウム以外の元素とともに除去され、ろ過残渣に含まれることがある。
ろ過した残渣は、そのまま廃棄処分としてもよいが、アルカリ性水溶液に溶解せずにろ過残渣に含まれることとなったリチウムを回収するため、ろ過残渣をリチウム含有物としてリサイクルして、当該残渣をアルカリ性水溶液と混合して混合物を得て、当該混合物をろ過して、リチウムを回収することもできる。
【0041】
(混合を繰り返して行うこと)
前記混合は、繰り返して行うことができる。混合を繰り返すことは、例えば流動層を有する流動層式混合槽を用いて行うことができる。本実施形態の製造方法において、混合を繰り返して行うことの典型的な一例の一つについて、そのプロセスフロー図を図2に示す。図2には、リチウム含有物とアルカリ性水溶液を複数の流動層(流動層1~3)を有する混合槽において、当該混合槽の上方からリチウム含有物を供給し、下方からアルカリ性水溶液を供給し、当該混合槽においてこれらの混合物が得られること、上方から排出された流体1は、第一ろ過手段でろ過されてろ液1が得られ、リチウム水溶液として回収され、下方から排出された流体2は、第一ろ過手段でろ過されてろ液2が得られ、当該ろ液2がろ液1に加えられること、が記載されている。なお、図2に示される複数の流動層を備える混合槽は、流動層式多段混合槽とも称される。
【0042】
当該混合槽の上方よりリチウム含有物を供給し、下方よりアルカリ性水溶液を供給して、定常状態に入ると、各々の流動層はリチウム含有物が充填された状態となり、当該流動層の下方から上方方向にアルカリ性水溶液が通過することで、各々の流動層において、リチウム含有物が流動しながらリチウム含有物とアルカリ性水溶液とが混合されて、混合物が得られる。よって、この場合の混合は、上記(混合物を得ること)において説明したような、攪拌機を用いなくても、行うことが可能である。
【0043】
複数の流動層を有することで、アルカリ性水溶液は下段の流動層から上段の流動層に徐々に移動するため、当該混合が繰り返して行われることとなる。そして、当該混合を繰り返して行うことにより、リチウム含有物に含まれるリチウムは、徐々にアルカリ性水溶液中に選択的に抽出されることとなり、より効率的にリチウム水溶液が得られる。
【0044】
図2は、複数の流動層を有する流動層式多段混合槽を用い、混合を繰り返すことについて説明するものであるが、混合を繰り返さない場合は、図2において流動層を1つ有するような形態で混合とろ過を行うことも可能である。よって、本実施形態の製造方法においては、1つの流動層を有する流動層式混合槽を用いてもよいし、2つ以上の流動層を有する流動層式混合槽を用いてもよい。また、混合槽を複数設けてもよく、混合槽同士を直列に連結しても、並列に連結してもよい。並列の場合には、複数の混合槽から同時にろ過手段に流体を供給してもよく、また混合槽を切り替えてろ過手段に流体を供給してもよい。
【0045】
このようにしてリチウムが選択的に抽出されたアルカリ性水溶液は、混合槽の上方より流体1として排出され、混入したリチウム含有物の微粉等を除去するため、第一ろ過手段でろ過を行った後、ろ液1が得られ、リチウム水溶液として回収される。
また、混合液の下方からは、主にリチウムが回収されたリチウム含有物を含む流体2が排出される。流体2は第二ろ過手段でろ過を行った後、得られたろ液2はリチウムが抽出されたアルカリ性水溶液であるため、ろ液1に加えられ、リチウム水溶液として回収することができる。
【0046】
これらの第一ろ過手段及び第二ろ過手段におけるろ過については、上記の(ろ過すること)にて説明した方法のいずれかを採用して行えばよい。
【0047】
(リチウム水溶液の用途)
本実施形態の製造方法により得られるリチウム水溶液は、例えばリチウム選択透過膜を備えたリチウム回収装置に供することで、リチウムを水酸化リチウム、炭酸リチウム等の形態により回収することができる。リチウム選択透過膜を備えたリチウム回収装置としては、例えば特開2019-81953号公報に示される装置が挙げられ、本実施形態の製造方法により得られるリチウム水溶液は当該装置で用いられるリチウムイオン抽出液として用い得るものとなる。当該装置ではリチウムイオン抽出液のpHを12以上14以下としており、例えば、リチウムイオンが回収され、リチウムイオン濃度が低くなった後のリチウムイオン抽出液をアルカリ性水溶液として用い、これにリチウム含有物を溶解させることで、リチウムイオン抽出液をリサイクルしながら効率よくリチウムを回収することができる。
よって、本実施形態の製造方法により得られるリチウム水溶液は、リチウム回収のための装置の原料として好適に用いられる。
【0048】
[リチウム水溶液の製造装置]
本実施形態のリチウム水溶液の製造装置は、上記の本実施形態のリチウム水溶液の製造方法に用いられるものであり、リチウム含有物とアルカリ性水溶液とを混合して混合物を得る混合槽と、前記混合物をろ過するろ過手段と、を備えることを特徴とするものである。
混合槽、ろ過手段は、既述の(混合物を得ること)、(ろ過すること)にて説明した混合、ろ過を行い得るものを適宜選択して採用すればよい。
【0049】
本実施形態の製造装置の好ましい一例を、図3に示す。図3には、本実施形態の製造装置が、混合槽とろ過手段とを備えており、混合槽が複数の流動層室1~3を有しており、その上方と下方には排出口を有しており、上方の排出口から排出される流体1をろ過する第一ろ過手段、下方の排出口から排出される流体2をろ過する第2ろ過手段を有することが示されている。また、混合槽の上方にリチウム含有物を供給する供給口、下方にアルカリ性水溶液を供給する供給口を有することも示されている。
図3に示される混合槽は流動層室を有することから流動層式混合槽と称されるものであり、流動層室を複数有するものであることから、流動層式混合槽の中でも流動層式多段混合槽と称され、混合を繰り返して行う場合に好ましく用いられるものである。
【0050】
混合を繰り返して行う場合、本実施形態の製造装置において、混合槽は流動層室を少なくとも2室を有していることが好ましい。既述のように、流動層室には、リチウム含有物が充填されており、リチウム含有物とアルカリ性水溶液とが混合して混合物が得られるとともに、リチウム含有物に含まれるリチウムが徐々にアルカリ性水溶液中に選択的に抽出され、リチウムが回収される。
【0051】
流動層室を少なくとも2室以上有する場合、各流動層室は仕切り板等により仕切られていればよく、各流動層室におけるリチウム含有物の流動によるアルカリ性水溶液とリチウム含有物との混合を促進し、また流動層室間のアルカリ性水溶液の移動を円滑に行う観点から、図3に示されるように、多孔支持板等の孔を有する支持板で仕切られていることが好ましい。多孔支持板が有する孔の径は、特に制限はなく、リチウム含有物の粒径等に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
流動層室の室数としては、所望のリチウムの収率、混合槽の設置場所、混合槽の製造上の都合等を考慮して決定すればよく、通常2以上10以下程度とすればよく、好ましくは3以上8以下である。
また、混合を繰り返して行わない場合には、図3に示される混合槽としては、流動層室が1つの流動層式混合槽を用いればよい。
【0053】
前記混合槽は上方と下方とに排出口を有しており、前記ろ過手段が、前記上方の排出口から排出される流体1をろ過する第一ろ過手段と、前記下方の排出口から排出される流体2をろ過する第二ろ過手段と、を有していることが好ましい。
流体1、流体2は各々既述の(混合を繰り返して行うこと)にて説明した通りである。
【0054】
本実施形態の製造装置は、前記混合槽が、上方に前記リチウム含有物を供給する供給口を有し、下方に前記アルカリ性水溶液を供給する供給口を有するものであることが好ましい。
【0055】
また、図3に示されるように、第二ろ過手段で得られたろ液2を、第一ろ過手段で得られたろ液1に加えるためのラインを有していてもよい。
【実施例
【0056】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0057】
(焙焼物の作製例)
アルミニウム箔の正極集電体に正極活物質(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NCM111))を塗布した正極と、銅箔の負極集電体に炭素剤が塗布された負極とを有し、アルミニウムフィルムを容器とするラミネート型リチウムイオン電池を、マッフル炉にて大気雰囲気下で焙焼温度800℃、24時間焙焼した。次いで、切断処理及び粉砕処理を行ったものを篩にかけて、目開き50mmの篩下のものをリチウムイオン電池パックの焙焼物とした。得られた焙焼物の元素材料及び活物質の質量を100としたときの各種元素の含有量は以下の通りである。なお、各種元素の含有量は、ICP発光分析装置(「ICPS-8100(型番)」、島津製作所社製)を用いて、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)にて行った。
リチウム:3質量%
アルミニウム:9質量%
マンガン:9質量%
鉄:2質量%
コバルト:7質量%
ニッケル:7質量%
銅:26質量%
その他:主に炭素
【0058】
(実施例1)
上記焙焼物の作製例で得られた焙焼物1.0gと、水酸化ナトリウム水溶液(1M)20mLと、をPFA製容器に入れて、50℃に保持しながら、スターラーを用いて1時間攪拌(回転数:100rpm)して、焙焼物と水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、混合物を得た。混合物のpHは、14であった。また得られた混合物を、メンブレンフィルター(孔径:0.2μm、材質:PTFE、「JAWP02500(型番)」、Merck社製)を用いてろ過した。ろ液を採取して、硝酸を用いて酸分解した試料を、ICP発光分析装置(「Agilent 5100 ICP-OES(型番)」、Agilent Technologies社製)を用いて測定し、リチウムの含有量を定量したところ、420mg/Lとなった。また、リチウム抽出率は29%となった。リチウムの含有量及びリチウム抽出率を表1に、またリチウムの含有量を表2に示す。なお、Li抽出率は、以下の方法により算出した値である。
(リチウム抽出率の算出)
リチウム抽出率=(ろ液のリチウムの含有量)/(全て抽出できた場合の理論リチウム含有量)×100
【0059】
(実施例2)
上記実施例1において、室温(23℃)に保持しながら混合物を得た以外は、実施例1と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、350mg/Lであり、リチウム抽出率は24%となった。リチウムの含有量及びリチウム抽出率を表1に、またリチウムの含有量を表2に示す。
【0060】
(比較例1)
上記実施例1において、水酸化ナトリウム水溶液を純水に代えた以外は実施例1と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、260mg/Lとなり、Li抽出率は18%となった。リチウムの含有量及びリチウム抽出率を表1に、またリチウムの含有量を表3に示す。
【0061】
(比較例2)
上記実施例2において、水酸化ナトリウム水溶液を純水に代えた以外は実施例2と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、250mg/Lとなり、Li抽出率は17%となった。リチウムの含有量及びリチウム抽出率を表1に、またリチウムの含有量を表3に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例3)
上記実施例1において、焙焼物を、正極活物質(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NCM111、LiNi1/3Co1/3Mn1/3))に代えた以外は実施例1と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、33mg/Lとなった。リチウムの含有量を表2に示す。
【0064】
(実施例4)
上記実施例2において、焙焼物を、正極活物質(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NCM111))に代えた以外は実施例2と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、33mg/Lとなった。リチウムの含有量を表2に示す。
【0065】
(実施例5)
上記実施例1において、焙焼物を、正極活物質(リン酸鉄リチウム(LiFePO))に代えた以外は実施例1と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、420mg/Lとなった。リチウムの含有量を表2に示す。
【0066】
(実施例6)
上記実施例2において、焙焼物を、正極活物質(リン酸鉄リチウム(LiFePO))に代えた以外は実施例2と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、190mg/Lとなった。リチウムの含有量を表2に示す。
【0067】
(比較例3~6)
上記実施例3~6において、水酸化ナトリウム水溶液を純水に代えた以外は実施例3~6と同様とし、得られたろ液についてリチウムの含有量を定量したところ、各々27、26、43及び28mg/Lとなった。リチウムの含有量を表3に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1と比較例1との対比から、リチウム含有物としてリチウムイオン電池パックの焙焼物を用いる場合、リチウム含有量(及び抽出量)は61%程度の向上効果がみられ、実施例2と比較例2との対比から、リチウム含有量(及び抽出量)は40%程度の向上効果がみられることが確認された。よって、本実施形態の製造方法によれば、より効率的にリチウム水溶液を製造し、回収できることが確認された。また、混合温度は室温(23℃)に比べて50℃とした方がより効率的に回収できることも確認された。
また、リチウムイオン電池材料について、実施例3及び4と比較例3及び4との対比から、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NCM111、LiNi1/3Co1/3Mn1/3)をリチウム含有物として用いた場合は、リチウム含有量は22~27%程度の向上効果がみられ、また実施例5及び6と比較例5及び6との対比から、リン酸鉄リチウム(LiFePO)をリチウム含有物として用いた場合は、リチウム含有量は580~980%程度の向上効果がみられ、特にオリビン型化合物の一つであるリン酸鉄リチウム(LFP、LiFePO)から効率的に回収できることが確認された。なお、混合温度については、リン酸鉄リチウム(LiFePO)をリチウム含有物とした場合も50℃の方がより効率的であり、混合温度は室温(23℃)に比べて50℃とした方がより効率的に回収できることが確認された。
図1
図2
図3