(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法及び製造装置、並びにセメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/36 20060101AFI20240430BHJP
C04B 7/26 20060101ALI20240430BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C04B7/36
C04B7/26
C04B18/08 Z
(21)【出願番号】P 2020061849
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】門田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】針貝 貴浩
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-196276(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077251(WO,A1)
【文献】特開昭54-143437(JP,A)
【文献】特開2018-087111(JP,A)
【文献】特開2019-131433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物の製造方法であって、
演算工程及び混合工程を備え、
前記演算工程においては、フライアッシュのNa
2O含有率(質量%)、K
2O含有率(質量%)、SO
3含有率(質量%)及び比表面積(cm
2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値「(N+K×0.658+S)×B」を算出し、
前記混合工程においては、前記物性値が6400以上である前記フライアッシュをセメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末と混合することにより、前記セメント組成物を製造することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程においては、前記物性値が6700以上9600以下である前記フライアッシュを前記セメントクリンカ粉末、前記石膏粉末及び前記石灰石粉末と混合することにより、前記セメント組成物を製造することを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項3】
前記セメントクリンカ粉末のSO
3含有率は、1.0質量%以上であることを特徴とする請求項2に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記セメントクリンカ粉末に含まれるSO
3をクリンカSO
3と定義し、前記石膏粉末に含まれるSO
3を石膏SO
3と定義し、前記セメント組成物の全量に対する前記クリンカSO
3の割合をS1質量%と定義し、前記セメント組成物の全量に対する前記石膏SO
3の割合をS2質量%と定義した場合、
前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.00質量%以上2.50質量%以下であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が0.80以上1.20以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
セメント組成物の製造装置であって、
制御装置、混合装置及び回収装置を備え、
前記制御装置は、演算部及び切替部を有しており、
前記演算部は、フライアッシュのNa
2O含有率(質量%)、K
2O含有率(質量%)、SO
3含有率(質量%)及び比表面積(cm
2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値「(N+K×0.658+S)×B」を算出し、
前記混合装置は、前記物性値が6400以上である前記フライアッシュをセメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末と混合することにより、前記セメント組成物を製造するものであり、
前記切替部は、前記物性値が6400未満である前記フライアッシュを前記回収装置に排出することを特徴とするセメント組成物の製造装置。
【請求項6】
セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物であって、
前記セメントクリンカ粉末及び前記石膏粉末は、前記混合物において合計で90.0質量%以上の割合で含まれており、
前記フライアッシュのNa
2O含有率(質量%)、K
2O含有率(質量%)、SO
3含有率(質量%)及び比表面積(cm
2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値「(N+K×0.658+S)×B」が
6766以上
9565以下であり、
前記セメントクリンカ粉末に含まれるSO
3をクリンカSO
3と定義し、前記石膏粉末に含まれるSO
3を石膏SO
3と定義し、前記混合物の全量に対する前記クリンカSO
3の割合をS1質量%と定義し、前記混合物の全量に対する前記石膏SO
3の割合をS2質量%と定義した場合、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が
2.307質量%以上
2.403質量%以下であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が
0.998以上
1.084以下であることを特徴とするセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の製造方法及び製造装置、並びにセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物は、一般的には、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び混合材粉末を混合することにより製造される。下記特許文献1(実施例14)には、この混合材粉末として石灰石粉末及びフライアッシュを用いることが開示されている。
【0003】
ところで、近年では、セメント焼成装置からの二酸化炭素排出量を少なく抑えるため、セメント焼成装置におけるセメントクリンカ製造量を低減し、セメント組成物においてセメントクリンカ粉末含有量を低減してフライアッシュ含有量を増加させることが検討されている。しかし、このようにセメント組成物においてフライアッシュ含有量が増加すると、セメント組成物の組成によってはセメント組成物の強度発現性が充分に高くならないおそれがある。
【0004】
そこで、セメント組成物の強度発現性を充分に高くするために、セメント焼成工程においてセメントクリンカの品質(例えば、セメントクリンカにおける複数の鉱物それぞれの組成)を調整することが考えられる。しかし、このような調整を行う場合には、セメントキルンにさらに多くの燃料を投入する必要が生じるため、セメント焼成装置におけるセメントクリンカ製造量を低減しても、セメント焼成装置からの二酸化炭素排出量が増加するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含むセメント組成物であって、フライアッシュによって強度発現性が高まるセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一項目は、次のようなセメント組成物の製造方法に係るものである。この製造方法は、演算工程及び混合工程を備える。前記演算工程においては、フライアッシュのNa2O含有率(質量%)、K2O含有率(質量%)、SO3含有率(質量%)及び比表面積(cm2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値「(N+K×0.658+S)×B」を算出する。前記混合工程においては、前記物性値が6400以上(好ましくは6410以上)である前記フライアッシュをセメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末と混合することにより、セメント組成物を製造する。
【0008】
上記第一項目によれば、セメント組成物を水と混練すると、まず石膏粉末からSO3が溶出される。このSO3によりセメントクリンカ粉末中のアルミネートの急激な水和(瞬結)が抑制され、セメントクリンカ粉末に含まれるアルミネートが石灰石粉末と反応することにより、セメントクリンカ粉末からもSO3が溶出される。一方、フライアッシュは、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末により形成される隙間を充填する。したがって、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュが一体となった状態において、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末から溶出されるSO3によりフライアッシュの水和が促進されるため、高強度のセメント混練物を製造することができる。つまり、上記第一項目によれば、フライアッシュによってセメント組成物の強度発現性を高めることができる。
【0009】
本発明の第二項目は、上記第一項目において次の内容を含むものである。すなわち、前記混合工程においては、前記物性値が6700以上9600以下(好ましくは6766以上9565以下)である前記フライアッシュを前記セメントクリンカ粉末、前記石膏粉末及び前記石灰石粉末と混合することにより、前記セメント組成物を製造する。
【0010】
上記第二項目によれば、セメント組成物を水と混練すると、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末により形成される隙間をフライアッシュがさらに効率よく充填し、かつ、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末から溶出されるSO3によりフライアッシュの水和がさらに効率よく促進されるため、さらに高強度のセメント混練物を製造することができる。つまり、上記第二項目によれば、フライアッシュによってセメント組成物の強度発現性をさらに高めることができる。
【0011】
本発明の第三項目は、上記第二項目において次の内容を含むものである。すなわち、前記セメントクリンカ粉末のSO3含有率は1.0質量%以上(好ましくは1.06質量%以上)である。
【0012】
上記第三項目によれば、セメント組成物を水と混練すると、セメントクリンカ粉末からさらに多くのSO3が溶出されるため、このSO3によりフライアッシュの水和がさらに効率よく促進され、さらに高強度のセメント混練物を製造することができる。つまり、上記第三項目によれば、フライアッシュによってセメント組成物の強度発現性をさらに高めることができる。
【0013】
本発明の第四項目は、前記セメントクリンカ粉末に含まれるSO3をクリンカSO3と定義し、前記石膏粉末に含まれるSO3を石膏SO3と定義し、前記セメント組成物の全量に対する前記クリンカSO3の割合をS1質量%と定義し、前記セメント組成物の全量に対する前記石膏SO3の割合をS2質量%と定義した場合、上記第二項目又は上記第三項目において次の内容を含むものである。すなわち、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.00質量%以上2.50質量%以下(好ましくは2.209質量%以上2.403質量%以下)であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が0.80以上1.20以下(好ましくは0.998以上1.084以下)である。
【0014】
上記第四項目によれば、セメント組成物において、多くのクリンカSO3と多くの石膏SO3とが互いに均衡して含まれている。このため、このセメント組成物を水と混練すると、混練初期段階においては石膏粉末からSO3を溶出させ、かつ、混練初期段階経過後においてはセメントクリンカ粉末からSO3を溶出させることができる。このため、混練段階全体において、石膏粉末及びセメントクリンカ粉末から途切れることなく連続的にSO3を溶出させ、このSO3により途切れることなく連続的にフライアッシュの水和を促進させることができる。つまり、上記第四項目によれば、フライアッシュによってセメント組成物の強度発現性をさらに高めることができる。
【0015】
本発明の第五項目は、次のようなセメント組成物の製造装置に係るものである。この製造装置は、制御装置、混合装置及び回収装置を備える。前記制御装置は、演算部及び切替部を有している。前記演算部は、フライアッシュのNa2O含有率(質量%)、K2O含有率(質量%)、SO3含有率(質量%)及び比表面積(cm2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値「(N+K×0.658+S)×B」を算出する。前記混合装置は、前記物性値が6400以上(好ましくは6410以上)である前記フライアッシュをセメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末と混合することにより、セメント組成物を製造するものである。前記切替部は、前記物性値が6400未満(前記物性値が6410以上の前記フライアッシュを前記混合装置において混合する場合には6410未満)である前記フライアッシュを前記回収装置に排出する。
【0016】
上記第五項目によれば、上記第一項目と同様、フライアッシュによってセメント組成物の強度発現性を高めることができる。
【0017】
本発明の第六項目は、次のようなセメント組成物に係るものである。このセメント組成物は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなる。前記セメントクリンカ粉末及び前記石膏粉末は、前記混合物において合計で90.0質量%以上の割合で含まれている。前記フライアッシュのNa2O含有率(質量%)、K2O含有率(質量%)、SO3含有率(質量%)及び比表面積(cm2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値「(N+K×0.658+S)×B」が6700以上9600以下(好ましくは6766以上9565以下)である。前記セメントクリンカ粉末に含まれるSO3をクリンカSO3と定義し、前記石膏粉末に含まれるSO3を石膏SO3と定義し、前記混合物の全量に対する前記クリンカSO3の割合をS1質量%と定義し、前記混合物の全量に対する前記石膏SO3の割合をS2質量%と定義した場合、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.00質量%以上2.50質量%以下(好ましくは2.209質量%以上2.403質量%以下)であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が0.80以上1.20以下(好ましくは0.998以上1.084以下)である。
【0018】
上記第六項目によれば、上記第四項目と同様、フライアッシュによってセメント組成物の強度発現性を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含むセメント組成物であって、フライアッシュによって強度発現性が高まるセメント組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセメント組成物の製造装置を示す全体構成図である。
【
図2】
図1に示す製造装置が備える制御装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の一実施形態に係るセメント組成物の製造装置について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るセメント組成物の製造装置を示す全体構成図である。
図1に示すように、この製造装置1は、いわゆるセメント仕上装置であって、クリンカサイロ2、仕上ミル3、分級装置4、混合装置5、セメントサイロ6、制御装置7及び回収装置8を備える。
【0022】
クリンカサイロ2は、セメント焼成装置(不図示)から排出されるクリンカ(不図示)を貯蔵する。仕上ミル3は、クリンカサイロ2から排出されるクリンカCを石膏Gと共に粉砕して粉砕物Dを製造する。分級装置4は、仕上ミル3から排出される粉砕物Dを分級して粗粉Rと微粉Fとに分離する。混合装置5は、分級装置4から排出される微粉Fを石灰石粉末L及びフライアッシュAと共に混合し、混合物M(セメント組成物)を製造する。セメントサイロ6は、混合装置5から排出される混合物Mを貯蔵する。また、分級装置4は、粗粉Rを仕上ミル3に戻す。仕上ミル3は、分級装置4から粗粉Rを戻された場合には、クリンカCを石膏G及び粗粉Rと共に粉砕して粉砕物Dを製造する。
【0023】
図2は、
図1に示す製造装置1が備える制御装置7の模式図である。
図2に示すように、制御装置7は、分析部7a、演算部7b及び切替部7cを有する。ここで、フライアッシュAのNa
2O含有率(質量%)、K
2O含有率(質量%)、SO
3含有率(質量%)及び比表面積(cm
2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義する。分析部7aは、フライアッシュAのN、K、S及びBを測定して測定データS1を取得する。そして、分析部7aは、この測定データS1を演算部7bに送信する。演算部7bは、物性値(混合材物性値)「(N+K×0.658+S)×B」を測定データS1に基づいて算出する。そして、演算部7bは、この物性値の算出データS2を切替部7cに送信する。切替部7cは、算出データS2に基づいて制御装置7の内部におけるフライアッシュAの搬送ルート(不図示)を切り替える。
【0024】
具体的には、切替部7cは、フライアッシュAの上記物性値が6400以上(好ましくは6410以上)の範囲にある場合、より好ましくは、フライアッシュAの上記物性値が6700以上9600以下(さらに好ましくは6766以上9565以下)の範囲にある場合、制御装置7の内部におけるフライアッシュAの搬送ルートを、フライアッシュAが制御装置7から混合装置5に供給されるように維持する。一方、切替部7cは、このような範囲にフライアッシュAの上記物性値がない場合、上記搬送ルートを切り替えることにより、フライアッシュAが制御装置7から回収装置8に排出されるようにする。
【0025】
次に、本発明の一実施形態に係るセメント組成物の製造方法について説明する。ここでは、この製造方法として、
図1に示す製造装置1を使用する場合を例にとって説明する。
【0026】
この製造方法は、演算工程(
図2に示す演算部7bによる演算工程)及び混合工程(
図1に示す混合装置5による混合工程)を備える。前記演算工程において、フライアッシュ(
図1に示すフライアッシュA)の上記物性値を算出する。前記フライアッシュの上記物性値が6400以上(好ましくは6410以上)である場合、より好ましくは、前記フライアッシュの上記物性値が6700以上9600以下(さらに好ましくは6766以上9565以下)である場合に、前記混合工程において、前記フライアッシュをセメントクリンカ粉末(
図1に示す微粉Fに含まれるクリンカCの粉末)、石膏粉末(
図1に示す微粉Fに含まれる石膏Gの粉末)及び石灰石粉末(
図1に示す石灰石粉末L)と混合してセメント組成物(
図1に示す混合物M)を製造する。
【0027】
さらに、好ましくは、前記セメントクリンカ粉末のSO3含有率は1.0質量%以上(好ましくは1.06質量%以上)である。ここで、前記セメントクリンカ粉末に含まれるSO3をクリンカSO3と定義し、前記石膏粉末に含まれるSO3を石膏SO3と定義し、前記セメント組成物の全量に対する前記クリンカSO3の割合をS1質量%と定義し、前記セメント組成物の全量に対する前記石膏SO3の割合をS2質量%と定義した場合、好ましくは、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.00質量%以上2.50質量%以下(好ましくは2.209質量%以上2.403質量%以下)であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が0.80以上1.20以下(好ましくは0.998以上1.084以下)である。さらに好ましくは、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.307質量%以上2.347質量%以下であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が1.046以上1.084以下である。
【0028】
さらに、本発明の一実施形態に係るセメント組成物について説明する。ここでは、このセメント組成物として、
図1に示す製造装置1によって製造された混合物Mを例にとって説明する。
【0029】
このセメント組成物は、セメントクリンカ粉末(
図1に示すクリンカCの粉末)、石膏粉末(
図1に示す石膏Gの粉末)、石灰石粉末(
図1に示す石灰石粉末L)及びフライアッシュ(
図1に示すフライアッシュA)を含む混合物(
図1に示す混合物M)からなる。前記フライアッシュのNa
2O含有率(質量%)、K
2O含有率(質量%)、SO
3含有率(質量%)及び比表面積(cm
2/g)をそれぞれN、K、S及びBと定義した場合の物性値(混合材物性値)「(N+K×0.658+S)×B」は、6410以上(好ましくは6410以上)であり、より好ましくは、6700以上9600以下(さらに好ましくは6766以上9565以下)である。好ましくは、前記セメントクリンカ粉末及び前記石膏粉末は、前記混合物において合計で90.0質量%以上の割合で含まれている。
【0030】
好ましくは、前記セメントクリンカ粉末のSO3含有率は1.0質量%以上(より好ましくは1.06質量%以上)である。前記セメントクリンカ粉末に含まれるSO3をクリンカSO3と定義し、前記石膏粉末に含まれるSO3を石膏SO3と定義し、前記混合物の全量に対する前記クリンカSO3の割合をS1質量%と定義し、前記混合物の全量に対する前記石膏SO3の割合をS2質量%と定義した場合、好ましくは、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.00質量%以上2.50質量%以下(好ましくは2.209質量%以上2.403質量%以下)であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が0.80以上1.20以下(好ましくは0.998以上1.084以下)である。さらに好ましくは、前記S1質量%と前記S2質量%との合計値が2.307質量%以上2.347質量%以下であり、かつ、前記S1質量%に対する前記S2質量%の割合が1.046以上1.084以下である。
【0031】
なお、本発明に係るセメント組成物は、
図1に示す製造装置1とは異なる構成の装置により製造されるものであってもよい。また、上記実施形態において、石灰石粉末Lを混合装置5に供給することに代えて/と共に、石灰石(不図示)をクリンカC及び石膏Gと共に仕上ミル3に供給してもよい。
【0032】
次に、本発明に係るセメント組成物、並びに、セメント組成物の製造方法及び製造装置の実験例について説明する。この実験例は、セメントクリンカ粉末(Cli1~Cli8)、石膏粉末及び混合材粉末(石灰石粉末、フライアッシュ及び高炉スラグ粉末)を様々な割合で混合して様々なセメント組成物を製造し、これらセメント組成物それぞれから製造したセメント混練物の「材齢28日の圧縮強さ」を測定したものである。表1~表6は、この実験例において使用したセメント組成物の原料の組成又は物性を原料ごとに示している。表7~表11は、この実験例において製造したセメント組成物の組成と強度発現性との関係を実験例ごとに示している。表12は、この実験例において製造したセメント組成物の物性値を実験例ごとに示している。
【0033】
表1及び表2は、上記実験例において使用したセメントクリンカ粉末(
図1に示すクリンカCの粉末に相当)における各化合物の含有率(質量%)を示している。表1及び表2において、ig.loss(Ignition Loss)は、強熱原料(揮発性物質)を意味している。Na
2Oeqは、全アルカリを意味している。全アルカリは、式「Na
2O+0.658×K
2O」により算出される値である。f.CaOは、遊離酸化カルシウムを意味している。遊離酸化カルシウムとは、セメント原料を焼成した時に二酸化ケイ素や酸化アルミニウムと反応せずに残った酸化カルシウムをいう。
【0034】
【0035】
【0036】
表3及び表4は、上記実験例において使用したセメントクリンカ粉末のモジュラスを示している。表3及び表4において、HM(Hydraulic Modulus)は水硬率を示しており、SM(Silica Modulus)はケイ酸率を示しており、IM(Iron Modulus)は鉄率を示しており、AI(Activity Index)は活動係数を示している。HMは、(SiO2+Al2O3+Fe2O3)に対するCaOの割合である。SMは、(Al2O3+Fe2O3)に対するSiO2の割合である。IMは、Fe2O3に対するAl2O3の割合である。AIは、Al2O3に対するSiO2の割合である。
【0037】
また、表3及び表4は、上記実験例において使用したセメントクリンカ粉末の鉱物組成も示している。表3及び表4に示す鉱物組成は、ボーグ式(Bogue式)により算出したものである。表3及び表4において、C3Sはケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)であり、C2Sはケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)であり、C3Aはアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3)であり、C4AFは鉄アルミン酸四カルシウム(4CaO・Al2O3・Fe2O3)である。
【0038】
さらに、表3及び表4は、上記実験例において使用したセメントクリンカ粉末の強度発現指標値及び強度発現促進指標値も示している。強度発現指標値は、セメントクリンカ粉末における強度発現促進指標値に対する強度発現阻害指標値の割合を示している。強度発現促進指標値は、セメントクリンカ粉末における全アルカリの含有率である。強度発現阻害指標値は、セメントクリンカ粉末におけるTiO2、MnO及びP2O5の合計含有率(質量%)である。
【0039】
【0040】
【0041】
表5は、上記実験例において使用したフライアッシュの化学組成、物性値(混合材物性値)、比表面積(ブレ-ン比表面積)及び活性度指数を示している。この活性度指数は、材齢28日の時点におけるものである。
【0042】
【0043】
表6は、上記実験例において使用した石灰石粉末及び高炉スラグ粉末の化学組成、物性値(混合材物性値)、比表面積(ブレーン比表面積)及び活性度指数を示している。この活性度指数は、材齢28日の時点におけるものである。
【0044】
【0045】
表7は、セメント組成物の組成及び比表面積とセメント混練物の圧縮強さとの関係を示している。具体的には、表7は、セメント組成物において使用したセメントクリンカ粉末の種類、セメント組成物のSO3換算石膏粉末含有率(質量%)、セメント組成物の石灰石粉末含有率(質量%)、セメント組成物の比表面積(ブレーン比表面積:cm2/g)、並びに、製造したセメント組成物から製造したセメント混練物の「材齢28日における圧縮強さ(N/mm2)」の関係を示している。実験例R1~R8においては、セメント組成物は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末のみを含んでおり、フライアッシュや高炉スラグ粉末を含んでいない。
【0046】
【0047】
表8及び表9は、セメント組成物の組成とセメント混練物の圧縮強さ及び圧縮強さ比との関係を示している。具体的には、表8及び表9は、セメント組成物において使用したセメントクリンカ粉末の種類、セメント組成物の石灰石粉末含有率(質量%)、セメント組成物において使用したフライアッシュの種類、セメント組成物のフライアッシュ含有率(質量%)、並びに、製造したセメント組成物から製造したセメント混練物の「材齢28日における圧縮強さ(N/mm2)」及び圧縮強さ比の関係を示している。セメント組成物は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含むものである。
【0048】
表8において、実験例A1~A8におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R1におけるセメント組成物に石灰石粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。実験例A9~A14におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R2におけるセメント組成物に石灰石粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。実験例A15~A20におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R3におけるセメント組成物に石灰石粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。実験例A21~A24におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R4におけるセメント組成物に石灰石粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。実験例A25~A28におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R5におけるセメント組成物に石灰石粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。
【0049】
表8において、実験例A1~A8における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R1における「圧縮強さ」に対する実験例A1~A8における「圧縮強さ」の比(百分率)である。実験例A9~A14における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R2における「圧縮強さ」に対する実験例A9~A14における「圧縮強さ」の比(百分率)である。実験例A15~A20における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R3における「圧縮強さ」に対する実験例A15~A20における「圧縮強さ」の比(百分率)である。実験例A21~A24における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R4における「圧縮強さ」に対する実験例A21~A24における「圧縮強さ」の比(百分率)である。実験例A25~A28における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R5における「圧縮強さ」に対する実験例A25~A28における「圧縮強さ」の比(百分率)である。
【0050】
表5に示すように、FA1の混合材物性値は6410であり、FA2の混合材物性値は6766であり、FA3の混合材物性値は7896であり、FA4の混合材物性値は9565である。
【0051】
表8において、実験例A1~A4の組、実験例A5~A8の組は、次のことを示している。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)、6766(FA2)、7896(FA3)と増加するにつれてセメント混練物の圧縮強さが強くなる。しかし、このフライアッシュの混合材物性値が9565(FA4)まで増加してしまうと、このフライアッシュの混合材物性値が7896(FA3)である場合に比較してセメント混練物の圧縮強さが弱くなる。ただし、このフライアッシュの混合材物性値が9565(FA4)であっても、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)である場合に比較すればセメント混練物の圧縮強さは強くなる。
【0052】
表8において、実験例A9~A14の組、実験例A15~A20の組、実験例A21~A24の組、実験例A25~A28の組は、次のことを示している。すなわち、実験例A1~A8の組においてセメントクリンカ粉末の種類を変えた場合であっても、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値が6766以上9565以下(FA2、FA4)である場合、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)である場合に比較してセメント混練物の圧縮強さが強くなる。
【0053】
一方、表8において、実験例A1~A28の組は、次のことを示している。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)であっても、このフライアッシュの混合材物性値が6766以上9565以下(FA2~FA4)である場合と同様、セメント混練物の圧縮強さ比が100を超える(すなわち、セメント混練物にフライアッシュが含まれない場合に比較してセメント混練物の圧縮強さが強くなる。)。
【0054】
つまり、表8における実験例A1~A28から次のことを導出することができる。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値を6400以上(厳格には6410以上)とすれば、このフライアッシュによってセメント組成物の強度発現性を高めることができ、このフライアッシュの混合材物性値を6700以上9600以下(厳格には6766以上9565以下)とすれば、このフライアッシュによってセメント組成物の強度発現性を最大限高めることができる。
【0055】
この原理を次のように考えることができる。すなわち、このようなセメント組成物を水と混練すると、まず石膏粉末からSO3が溶出される。このSO3によりセメントクリンカ粉末中のアルミネートの急激な水和(瞬結)が抑制され、セメントクリンカ粉末に含まれるアルミネートが石灰石粉末と反応することにより、セメントクリンカ粉末からもSO3が溶出される。一方、フライアッシュは、セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び石灰石粉末により形成される隙間を充填する。したがって、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュが一体となった状態において、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末から溶出されるSO3によりフライアッシュの水和が促進されるため、高強度のセメント混練物を製造することができる。
【0056】
【0057】
表9において、実験例B1~B6におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R6におけるセメント組成物に石灰石粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。表9において、実験例B1~B6における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R6における「圧縮強さ」に対する実験例B1~B6における「圧縮強さ」の比(百分率)である。
【0058】
表9において、実験例B1~B6の組は、次のことを示している。すなわち、表8に示す実験例A1~A28の組においてセメントクリンカ粉末の種類をcli1~cli5からcli6に変えると、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値が6766以上9565以下(FA2、FA4)であっても、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)である場合に比較してセメント混練物の圧縮強さがわずかにしか強くならない。
【0059】
ここで、表1及び表2に示すように、Cli1~Cli5のSO3含有率は1.06質量%以上であり、Cli6のSO3含有率は0.56質量%である。
【0060】
つまり、表9における実験例B1~B6から次のことを導出することができる。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値を6700以上9600以下(厳格には6766以上9565以下)とする場合、このセメントクリンカ粉末のSO3含有率を1.0質量%以上(厳格には1.06質量%以上)とすることにより、このフライアッシュによってセメント組成物の強度発現性を効果的に高めることができる。
【0061】
この原理を次のように考えることができる。すなわち、このようなセメント組成物を水と混練すると、セメントクリンカ粉末からさらに多くのSO3が溶出されるため、このSO3によりフライアッシュの水和がさらに効率よく促進され、さらに高強度のセメント混練物を製造することができる。
【0062】
【0063】
表10は、セメント組成物の組成とセメント混練物の圧縮強さ及び圧縮強さ比との関係を示している。具体的には、表10は、セメント組成物において使用したセメントクリンカ粉末の種類、セメント組成物の石灰石粉末含有率(質量%)、セメント組成物の高炉スラグ粉末含有率(質量%)、セメント組成物において使用したフライアッシュの種類、セメント組成物のフライアッシュ含有率(質量%)、並びに、製造したセメント組成物から製造したセメント混練物の「材齢28日における圧縮強さ(N/mm2)」及び圧縮強さ比の関係を示している。セメント組成物は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末、高炉スラグ粉末及びフライアッシュを含むものである。
【0064】
表10において、実験例C1~C6におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R7におけるセメント組成物に石灰石粉末、高炉スラグ粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。実験例C7~C12におけるセメント組成物は、表7に示す実験例R8におけるセメント組成物に石灰石粉末、高炉スラグ粉末及びフライアッシュを添加することにより製造したものである。表10において、実験例C1~C6における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R7における「圧縮強さ」に対する実験例C1~C6における「圧縮強さ」の比(百分率)である。実験例C7~C12における「圧縮強さ比」は、表7に示す実験例R8における「圧縮強さ」に対する実験例C7~C12における「圧縮強さ」の比(百分率)である。
【0065】
表10において、実験例C1~C6の組、実験例C7~C12の組は、次のことを示している。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、さらに高炉スラグ粉末が含まれていても、このフライアッシュの混合材物性値が6766以上9565以下(FA2、FA4)である場合、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)である場合に比較してセメント混練物の圧縮強さが強くなるし、このフライアッシュの混合材物性値が6410(FA1)である場合であっても、このフライアッシュの混合材物性値が6766以上9565以下(FA2、FA4)である場合と同様、セメント混練物の圧縮強さ比が100を超える(すなわち、セメント組成物に高炉スラグ粉末及びフライアッシュが含まれない場合に比較してセメント混練物の圧縮強さが強くなる)。
【0066】
つまり、表10における実験例C1~C12から次のことを導出することができる。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、さらに高炉スラグ粉末が含まれていても、このフライアッシュの混合材物性値を6400以上(厳格には6410以上)とすれば、このフライアッシュ及び高炉スラグ粉末によってセメント組成物の強度発現性を高めることができ、このフライアッシュの混合材物性値を6700以上9600以下(厳格には6766以上9565以下)とすれば、このフライアッシュ及び高炉スラグ粉末によってセメント組成物の強度発現性を最大限高めることができる。
【0067】
この原理を次のように考えることができる。すなわち、このようなセメント組成物を水と混練すると、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュが一体となった状態において、セメントクリンカ粉末及び石膏粉末から溶出されるSO3によりフライアッシュの水和と高炉スラグの水和とが促進されるため、高強度のセメント混練物を製造することができる。
【0068】
【0069】
表11は、セメント組成物のフライアッシュ含有率の増加に伴うセメント混練物の圧縮強さの変化を示している。具体的には、表11は、表8~表10に示す実験例A1~A28、B1~B6及びC1~C12において、同一のセメントクリンカ粉末及び同一のフライアッシュを使用した2つの実験例を1組としてまとめ、各組を構成する2つの実験例における「セメント混練物の圧縮強さ」の差を「圧縮強さの変化」として示している。
【0070】
表11に示されている各組の2つの実験例においては、セメントクリンカ粉末の種類、石灰石粉末含有率、高炉スラグ粉末含有率、フライアッシュの種類が同一であるが、フライアッシュ含有率が2.5質量%であるか5.0質量%であるかが異なっている。例えば、実験例A1及びA5の組においては、表8及び表11に示されているように、セメントクリンカ粉末の種類がCli1、石灰石粉末含有率が5.0質量%、フライアッシュの種類がFA1である点では共通しており、フライアッシュ含有率が2.5質量%であるか5.0質量%であるかが異なっている。そして、表8に示すように、実験例A1(フライアッシュ含有率2.5質量%)の「圧縮強さ」は57.2N/mm2であり、実験例A5(フライアッシュ含有率5.0質量%)の「圧縮強さ」は57.7N/mm2であるため、表11に示すように、実験例A1及びA5の組における「圧縮強さの変化」は57.7 N/mm2-57.2 N/mm2=0.5 N/mm2である。
【0071】
【0072】
上述したように、FA2、FA3及びFA4は、FA1に比較してセメント組成物の強度発現性を高めることができるものである。そして、実験例A1~A8の組、実験例A15~A20の組においては、FA2、FA3及びFA4を使用する場合、FA1を使用する場合に比較して「セメント組成物におけるフライアッシュ含有率の増加に伴うセメント混練物の圧縮強さの増加量」(圧縮強さの変化)も非常に大きい。
【0073】
一方、実験例A9~A14の組、実験例A21~A24の組においては、FA4を使用する場合であれば、FA1を使用する場合に比較して上記圧縮強さの変化がある程度大きくなる。
【0074】
しかし、実験例A25~A28の組、実験例B1~B6の組、実験例C1~C6の組、及び、実験例C7~C12の組においては、FA2及びFA4のいずれを使用する場合であっても、FA1を使用する場合に比較して上記圧縮強さの変化はわずかに大きくなるだけである。
【0075】
上述したように、FA2、FA3及びFA4がFA1に比較してセメント組成物の強度発現性を効果的に高めるには、セメント組成物におけるセメントクリンカ粉末のSO3含有率が1.06質量%以上である必要がある。しかし、実験例A9~A14の組においては、実験例A1~A8の組、実験例A15~A20の組よりもセメントクリンカ粉末のSO3含有率が高いにもかかわらず上記圧縮強さの変化が小さいことに鑑みると、FA2、FA3及びFA4を使用する場合に上記圧縮強さの変化を効果的に大きくするには、単にセメントクリンカ粉末のSO3含有率を高めるのではなく、セメント組成物においてセメントクリンカ粉末に含まれるSO3と石膏粉末に含まれるSO3との合計値及び比の両方を所定範囲内にする必要があると考えられる。
【0076】
そこで、FA2~FA4を使用することにより上記圧縮強さの変化を非常に大きくすることができる実験例群(実験例A1~A8、実験例A15~A20)を実験例X1群とし、FA4を使用することにより上記圧縮強さの変化をある程度大きくすることができる実験例群(実験例A9~A14、実験例A21~A24)を実験例X2群とし、FA2~FA4を使用しても上記圧縮強さの変化をわずかにしか大きくすることができない実験例群(実験例A25~A28、実験例B1~B6、実験例C1~C6、及び、実験例C7~C12)を実験例Y群とし、表12において実験例X1群、X2群及びY群におけるセメント組成物の物性を比較した。
【0077】
表12は、実験例X1群、X2群及びY群におけるセメント組成物の物性、すなわち、次のように定義される「S1+S2」及び「S2/S1」を示している。ここで、セメントクリンカ粉末に含まれるSO3をクリンカSO3と定義し、石膏粉末に含まれるSO3を石膏SO3と定義し、セメント組成物の全量に対するクリンカSO3の割合をS1質量%と定義し、セメント組成物の全量に対する石膏SO3の割合をS2質量%と定義する。この場合において、「S1+S2」はS1質量%とS2質量%との合計値であり、「S2/S1」はS1質量%に対するS2質量%の比(割合)である。
【0078】
実験例X1群において、「S1+S2」は2.307質量%以上2.347質量%以下であり、「S2/S1」は1.046以上1.084以下である。また、実験例X1群及びX2群全体においては、「S1+S2」は2.209質量%以上2.403質量%以下であり、「S2/S1」は0.998以上1.084以下である。実験例Y群においては、「S1+S2」が2.252質量%以上2.398質量%以下であり、「S2/S1」が0.568以上3.730以下である。
【0079】
つまり、セメント組成物において、「S1+S2」が2.209質量%以上2.403質量%以下であり、かつ、「S2/S1」が0.998以上1.084以下であると、FA4(混合材物性値がFA3の7896を超えるフライアッシュ)を使用することにより上記圧縮強さの変化を効果的に大きくすることができる。そして、セメント組成物において、「S1+S2」が2.307質量%以上2.347質量%以下であり、かつ、「S2/S1」が1.046以上1.084以下であると、FA2~FA4を使用することにより上記圧縮強さの変化をさらに効果的に大きくすることができる。
【0080】
以上により、表11及び表12に示す実験例から次のことを導出することができる。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値が6700以上9600以下(厳格には6766以上9565以下)であり、「S1+S2」が2.307質量%以上2.347質量%以下であり、かつ、「S2/S1」が1.046以上1.084以下であれば、セメント組成物におけるフライアッシュによりセメント混練物の強度を効果的に高めることができる。
【0081】
また、表11及び表12に示す実験例から次のことを導出することができる。すなわち、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、石灰石粉末及びフライアッシュを含む混合物からなるセメント組成物において、このフライアッシュの混合材物性値が7896を超えており、「S1+S2」が2.00質量%以上2.50質量%以下(厳格には2.209質量%以上2.403質量%以下)であり、かつ、「S2/S1」が0.80以上1.20以下(厳格には0.998以上1.084以下)であれば、セメント組成物におけるフライアッシュによりセメント混練物の強度を効果的に高めることができる。
【0082】
この原理を次のように考えることができる。すなわち、このようなセメント組成物においては、多くのクリンカSO3と多くの石膏SO3とが互いに均衡して含まれている。このため、このセメント組成物を水と混練すると、混練初期段階においては石膏粉末からSO3を溶出させ、かつ、混練初期段階経過後においてはセメントクリンカ粉末からSO3を溶出させることができる。このため、混練段階全体において、石膏粉末及びセメントクリンカ粉末から途切れることなく連続的にSO3を溶出させ、このSO3により途切れることなく連続的にフライアッシュの水和を促進させることができる。
【0083】
【符号の説明】
【0084】
1 セメント組成物の製造装置
2 クリンカサイロ
3 仕上ミル
4 分級装置
5 混合装置
6 セメントサイロ
7 制御装置
7a 分析部
7b 演算部
7c 切替部
8 回収装置
A フライアッシュ
C クリンカ
D 粉砕物
F 微粉
G 石膏
L 石灰石粉末
M 混合物
R 粗粉
S1 測定データ
S2 算出データ