(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】反射材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/08 20060101AFI20240430BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240430BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240430BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240430BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G02B5/08 A
C23C14/06 R
C23C14/14 B
C23C16/42
C23C16/505
G02B5/08 C
(21)【出願番号】P 2020063675
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】柳原 英人
(72)【発明者】
【氏名】持田 光範
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-277631(JP,A)
【文献】特開2009-101548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 16/56
G02B 5/00 - 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に反射層、保護層が積層された反射材において、
前記保護層が、同一素材で少なくとも2層以上連続して積層されており、
前記反射層が
金属元素の蒸着層であり、
前記保護層が無機含有薄膜
であり、
前記保護層の総膜厚が15nm以上50nm以下である反射材。
【請求項2】
85℃、85%の恒温恒湿機に1000時間保管した後の、反射材100cm
2あたりの以下の方法により測定したピンホール数が、200個以下である請求項1に記載の反射材。
ピンホールの測定方法:面光源上に反射材を保護層を上にして配置し、反射材から45cm離れた位置に輝度計を設置し、輝度の測定値を二次元データ解析することで測定した。
【請求項3】
前記保護層がケイ素酸化物薄膜である、請求項1または2に記載の反射材。
【請求項4】
前記反射層がアルミニウム膜である、請求項1~3のいずれかに1項に記載の反射材。
【請求項5】
前記基材が樹脂製である、請求項1~4のいずれかに1項に記載の反射材。
【請求項6】
車載用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の反射材。
【請求項7】
ヘッドアップディスプレイ用である、請求項6に記載の反射材。
【請求項8】
樹脂製の基材に対して、反射層と保護層とを順に成膜する反射材の製造方法であって、
前記保護層が、第1の保護層と第2の保護層とを備え、
前記第1の保護層と前記第2の保護層は、同一素材からなり、
樹脂製の基材をチャンバー内に設置する設置工程、
前記チャンバー内を減圧する減圧工程、
前記反射層をスパッタリングにより成膜する反射層成膜工程、
前記第1の保護層をプラズマCVD法により成膜する第1保護層成膜工程、および、
前記第1の保護層上に、前記第2の保護層をプラズマCVD法により成膜する第2保護層成膜工程、を少なくとも備え、
前記第1保護層成膜工程後、前記チャンバーを大気解放することなく、前記第2保護層成膜工程を行う、反射材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射材およびその製造方法に関する。具体的には、プロジェクターや光学機器に使用される反射材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクターや光学機器において、映像を反射させて映写面に投影するミラーなどに、樹脂製の基材の表面に金属膜を形成し、この金属膜を保護するために誘電体膜で覆った製品が製造されている。これらミラー等の反射部材は、蒸着装置を用いて薄膜を積層させたものが使われており、また、該薄膜を成膜する装置も提案されている。
【0003】
特許文献1には、樹脂製のワークを、このワークを構成する樹脂の軟化温度以下の温度まで加熱する工程を含む、高速にスパッタリングを実行する場合においても、金属薄膜の反射率を向上可能な成膜方法および成膜装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、発光素子の保護膜蒸着方法に関し、所定の膜厚比で、シリコン窒化物の第1の保護膜を蒸着し、その後、シリコン酸化物の第2の保護膜を蒸着する方法により、従来に類似した低い水分透過量を有しながらも、従来の保護膜に比べて、顕著に薄い厚さを有する保護膜を蒸着することができる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-82291号公報
【文献】特表2019-512874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、反射部材成膜のための装置とプロセス、反射率向上の成膜方法について述べられているが、反射層に経時的に発生するピンホールを低減することに関しては述べられていない。
また、特許文献2では、発光素子の保護のために、発光素子上に保護層を積層することが述べられているが、保護層によってピンホールの発生の抑制することについては記載されていない。また、異種の膜を積層することにより反射特性が変化し、膜の厚み設計の自由度が低下するという問題がある。
【0007】
そこで本発明では、反射膜上に成膜する保護層を複雑化することなく、経時的な反射層のピンホールの増加を抑制できる反射材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の発明を完成するに至った。
第1の本発明は、基材に反射層、保護層が積層された反射材において、保護層が、同一素材で少なくとも2層以上連続して積層されている反射材である。
【0009】
第1の本発明において、85℃、85%の恒温恒湿機に1000時間保管した後の、反射材100cm2あたりの以下の方法により測定したピンホール数が、200個以下であることが好ましい。
<ピンホールの測定方法>
面光源上に反射材を保護層を上にして配置し、反射材から45cm離れた位置に輝度計を設置し、輝度の測定値を二次元データ解析することで測定した。
【0010】
第1の本発明において、前記保護層がケイ素酸化物薄膜であることが好ましい。
【0011】
第1の本発明において、前記保護層の総膜厚が15nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0012】
第1の本発明において、前記保護層が化学気相成長法により成膜されたことが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、前記反射層がアルミニウム膜であることが好ましい。
【0014】
第1の本発明において、前記反射層がスパッタ法により成膜されたことが好ましい。
【0015】
第1の本発明において、前記基材が樹脂製であることが好ましい。
【0016】
第1の本発明の反射材は、車載用であることが好ましい。
【0017】
第1の本発明の反射材は、ヘッドアップディスプレイ用であることが好ましい。
【0018】
第2の本発明は、樹脂製の基材に対して、反射層と保護層とを順に成膜する反射材の製造方法であって、前記保護層が、第1の保護層と第2の保護層とを備え、樹脂製の基材をチャンバー内に設置する設置工程、前記チャンバー内を減圧する減圧工程、前記反射層をスパッタリングにより成膜する反射層成膜工程、前記第1の保護層をプラズマCVD法により成膜する第1保護層成膜工程、および、前記第1の保護層上に、前記第2の保護層をプラズマCVD法により成膜する第2保護層成膜工程、を少なくとも備え、前記第1保護層成膜工程後、前記チャンバーを大気解放することなく、前記第2保護層成膜工程を行う、反射材の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の反射材は、ピンホールの経時的増加が抑制されており、反射特性を維持したままの反射材の寿命を延ばすことが可能であり、その工業的価値は高い。また、本発明の反射材の製造方法によれば、特別なプロセスの追加なく、本発明の反射材を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)は、実施例1、2の反射材の層構成を示し、(b)は、比較例1の反射材の層構成を示し、(c)は、比較例2の反射材の層構成を示し、(d)は、比較例3の反射材の層構成を示し、(e)は、比較例4の反射材の層構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態の一例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明が次に説明する実施形態に何ら限定されるものではない。
【0022】
<反射材>
本発明の反射材は、基材の表面に、反射層、保護層の膜が積層された構成からなり、保護層は同一素材で少なくとも2層以上連続して積層されている。以下に説明するように、基材としては樹脂製基材が好ましく、反射層としてはアルミニウム膜などの金属膜が好ましく、保護層としてはケイ素酸化物から構成された薄膜であることが好ましい。また、密着向上層を基材と反射層との間に形成してもよい。
【0023】
本発明では、真空を破ることなく、同じ膜を複数回成膜することにより、保護膜を成膜している。これにより、一度に成膜する場合と比較し、外部からの水蒸気等の侵入を効果的に低減することができ、反射層に酸化等による経時的なピンホールが発生するのを効果的に抑制することができる。
【0024】
ピンホールは、種々の原因で発生するが、経時的に増えるピンホールは、反射材の外からの水や酸素などが侵入することにより、反射層の金属が酸化物等に変化し、透明になる、もしくは膜が減ずることにより発生すると考えられる。
【0025】
本発明においては、複数の保護層の成膜と成膜との間の無成膜の時間に、表面のごく薄い層が極わずかに酸化されて変化し表面状態が変わり、異種の膜の積層と同じ効果が得られ、水や酸素などのバリア性向上に寄与する。
また、無成膜の時間においては酸素が少ない状態であるので、酸化の影響を受ける層の厚みが極めて薄く、また、さらに同じ条件の膜を成膜するため、複数の層でありながら、機能面では全体で一つの層と見なすことが可能となる。
薄膜は、ある程度の厚みがないとその機能を発現することが難しいため、異種の膜を積層する場合、それぞれの膜をある程度の厚みにする必要があり、全体の膜厚を薄くすることが困難である。
これに対して、本発明においては、膜と膜との間の酸化の影響を受けた層が極めて薄いため、層を重ねる効果を得つつ、全体の厚みを薄くすることができ、反射体外部からの影響による、経時的なピンホールの増加を減ずることができ、かつ、膜厚の増加による反射率の低下も防ぐことができたと考えられる。
【0026】
また、層と層との間に極薄い酸化層が存在することにより、該極薄い酸化層が層の欠陥(膜の欠損、例えば異物があったとき)の成長を止めてくれ、新たな層を均一に成膜することができる。また、各層にピンホールがあったとしても位置がずれるため、各層が薄くてもピンホール欠陥を抑えることができる。
【0027】
また、同種の膜を複数回成膜する場合は、異種の膜を積層する場合と比べて、成膜時の条件変更がなく、装置の追加等の必要もないため、簡便に成膜を行うことができる。また、単層の保護層と比べて、複数の層からなる本発明の保護層は、全体の膜厚が薄膜であっても効果を得ることができるため、反射率などの反射特性の向上が期待できる。
【0028】
以上の効果より、本発明においては、保護層として異種の膜を積層することなく、同一素材の層を複数積層することにより、簡便かつ容易に経時的ピンホールの増加を抑制することが可能になる。
【0029】
なお、保護層が、「同一素材で少なくとも2層以上」積層されるとは、保護層の成膜過程において、層と層の成膜の間に、無成膜の時間があることをいう。
また、保護層が「連続して」積層されるとは、同一素材からなる層と層との間に、別素材からなる層が存在しないことを意味する。なお、上記において、層と層との成膜の間の無成膜の時間に、保護層の表面のごく薄い層が極わずかに酸化されて変化し表面状態が変わると述べたが、このようなごく薄い酸化層がごくわずかに存在する場合も、連続してと解釈する。
【0030】
(基材)
本発明の反射材に用いられる基材は、特に限定されず、フィルム、シート、成形体、のいずれでも良く、表面に成膜が可能な基材であれば特に限定されない。
本発明の基材としては、樹脂製の基材が好ましく、樹脂製の成形体がより好ましい。
【0031】
基材として用いられる材料は、樹脂製、ガラス製等、表面に成膜可能な材質であればいずれでも良く、材質は限定されない。また、基材は、2種類以上の材質を積層させた多層構成であってもよい。
【0032】
基材として樹脂を使用する場合は、その樹脂として例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンテレフタレート系共重合樹脂(ポリエステルのアルコール成分にエチレングリコールの代わりに、シクロヘキサンジメタノール等を使用した共重合樹脂等)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合体)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP)、アイオノマー樹脂、ポリ-4-メチルペンテン-1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスルホン樹脂、4フッ化エチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂等が挙げられ、これらの中でも、汎用性、および成形性の面でポリカーボネート樹脂(PC)が好ましい。
【0033】
基材の大きさは、反射材の用途に応じて様々であり、特に限定されない。基材の厚みは、反射材に所定の強度を付与する観点から、1~10mmとすることが好ましい。
【0034】
(密着向上層)
本発明の反射材において、基材と反射層との間に、反射層の剥離低減のための密着向上層があってもよい。密着向上層は、成膜した層に限定されるものではなく、プラズマ処理等の基材を表面処理したものであってもよい。また、基材および反射層の材質によっては、密着向上層がなくとも実用上問題のない密着力を得られる場合は、密着向上層を省略することも可能である。
【0035】
密着向上層を成膜する場合はケイ素酸化物などの薄膜が好ましいが、材質、膜厚、製法ともに、限定されるものではない。例えば、製造工程の簡略化などを鑑みた場合、保護層で使われる膜と、同原料、同手法で成膜することが好ましい。成膜手法としては、物理気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)の何れも可能であるが、プラズマを用いた成膜手法であるプラズマCVD法が望ましい。また、PVD、CVDにこだわらず、ウェットコートによる塗布を行って形成してもよい。
【0036】
密着向上層の膜厚としては、好ましくは8nm以上15nm以下であり、より好ましくは9nm以上13nm以下である。8nm以上であれば膜として成膜可能であり、15nm以下であれば、成膜時の熱負荷を低減可能である。
【0037】
成膜以外の処理をする場合は、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等、特に手法を選ぶものではない。また、反射層を成膜する装置と別プロセスでの処理を行ってもよい。
【0038】
<反射層>
反射層として、金属元素の蒸着が望ましい。アルミニウムをはじめとして、銀、金、銅、ニッケル、プラチナなど反射特性を示すものであれば、何れであってもよく、制限されるものではないが、反射性能と価格の観点からアルミニウムが好ましい。成膜手法は、特に制限されるものではないが、真空加熱蒸着、電子線ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタ法などいずれの手法も適用可能である。原料の扱いと反射性能の観点から、スパッタ法による成膜が望ましい。
【0039】
反射層の膜厚は、特に限定されるものではないが、光の透過による反射率の低下を防ぐために、90nm以上が好ましく、100nm以上であることがより好ましく、110nm以上であることが更に好ましい。成膜時間が長くなると、熱負荷がかかるので、基材が変形することがあるために、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下であることが更に好ましい。
【0040】
<保護層>
保護層として、成膜する場合はケイ素酸化物などの無機含有薄膜が好ましいが、材質、膜厚、製法ともに、特に限定されるものではない。例えば、製造工程の簡略化などを鑑みた場合、密着向上層を設ける場合は、密着向上層で使われる膜と、同原料、同手法で成膜可能な膜とすることが好ましい。
無機含有薄膜として、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の無機化合物を含有する薄膜が好ましい。また、金属酸化物又は金属窒化物としては、有機化合物をプラズマ分解して得られるものを用いてもよい。保護特性、透明性を鑑みた場合、ケイ素酸化物、アルミ酸化物などの金属酸化物系膜が好ましく、特にケイ素酸化物が好ましい。
【0041】
保護層をプラズマCVD法で成膜する場合における、ケイ素酸化物薄膜を形成するための原料としては、ケイ素化合物であれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても使用できる。気体の場合にはそのまま放電空間に導入することもできる。液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用することができる。また、溶媒希釈してから使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n-ヘキサン等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0042】
上記ケイ素化合物としては、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4-ビストリメチルシリル-1,3-ブタジイン、ジ-t-ブチルシラン、1,3-ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1-(トリメチルシリル)-1-プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、メチルシリケート(例えば、コルコート株式会社製「メチルシリケート51」)等を挙げることができる。
【0043】
保護層は、同条件で、複数回に分けて成膜する必要がある。ただし、この場合、成膜と成膜の間は真空を破らないことが好ましい。
【0044】
保護層の厚みは、厚すぎると、経時的なピンホール増加を抑制する効果はあるが、反射率低下の原因となる。また、薄すぎると、膜としての機能が得られないため、経時的なピンホールの増加の抑制に寄与しない。
複数の層で構成される保護層のそれぞれの単層の厚みとしては、好ましくは8nm以上15nm以下であり、より好ましくは9nm以上13nm以下である。保護層の単層膜厚が、8nm以上であれば、膜として成膜できる。15nm以下であれば、成膜時の熱負荷を低減できる。
保護層全体の総厚みとしては、好ましくは16nm以上50nm以下であり、より好ましくは17nm以上40nm以下であり、更に好ましくは19nm以上30nm以下である。保護層全体の総厚みが、16nm以上であれば、保護層として機能する。50nm以下であれば、光学特性の低下を引き起こさない。
【0045】
<反射材の特性>
(耐ピンホール性)
本発明の反射材は、耐ピンホール性を備えており、成膜後の反射材100cm2あたりのピンホール数(成膜後ピンホール個数)は、10個以下であることが好ましく、5個以下がより好ましく、0個がさらに好ましい。
85℃、85%の恒温恒湿機に1000時間保管した後の、反射材100cm2あたりのピンホール数(保管後ピンホール個数)は、300個以下であることが好ましく、250個以下であることがより好ましく、200個以下であることがさらに好ましく、150個以下であることが特に好ましい。
ピンホールの測定方法は、面光源上に反射材を保護層を上にして配置し、反射材から45cm離れた位置に輝度計を設置し、輝度の測定値を二次元データ解析することで行った。
【0046】
<反射材の製造方法>
本発明の反射材の製造方法は、樹脂製の基材に対して、反射層と保護層とを順に成膜する反射材の製造方法であって、前記保護層が、第1の保護層と第2の保護層とを備え、
樹脂製の基材をチャンバー内に設置する設置工程、
前記チャンバー内を減圧する減圧工程、
前記反射層をスパッタリングにより成膜する反射層成膜工程、
前記第1の保護層をプラズマCVD法により成膜する第1保護層成膜工程、および、
前記第1の保護層上に、前記第2の保護層をプラズマCVD法により成膜する第2保護層成膜工程、を少なくとも備え、
前記第1保護層成膜工程後、前記チャンバーを大気解放することなく、前記第2保護層成膜工程を行う。
【0047】
本発明の反射材の製造方法において、反射層成膜工程の前に、基材の表面に密着向上層を形成する密着向上層成膜工程を備えていてもよい。
【0048】
樹脂製の基材をチャンバー内に設置する際には、基材表面への水分の付着を防止すべく、樹脂基材を射出成形した後、すぐにチャンバー内に設置して、成膜を始めることが好ましい。
【0049】
減圧工程においては、好ましくは10Pa以下、より好ましくは5Pa以下、更に好ましくは1Pa以下に減圧する。導入する不活性ガスとしては、キセノン、アルゴン、ネオン、ヘリウム等を使用することができ、中でも、経済性と、スパッタ収率の観点から、原子量が大きいアルゴンがより好ましい。
【0050】
なお、上記においては、第1の保護層と第2の保護層の二層の保護層を形成する形態について説明したが、保護層は二層以上であれば、層数は特に限定されず、各保護層の層間において、チャンバーを大気開放することなく成膜すればよい。
【0051】
反射材作製のための成膜装置としては、基材上に、反射層、保護層が大気開放されることなく成膜できるように(好ましくは、さらに、基材と反射層との間に密着向上層が成膜できるように)、一つの成膜チャンバー内で、複数の成膜ができる装置が好ましい。ただし、複数のチャンバーが大気開放することなく接続できる複数の装置を用いて成膜することも可能である。
【0052】
<反射材の用途>
本発明の反射材は車載用として好適に使用可能であり、中でも、ヘッドアップディスプレイ用反射材として好適に使用可能である。高温となる過酷な状況となりうる車載用として使用したとしても、本発明の反射材は経時的なピンホール増加を抑制可能であり、反射材の寿命を長期間に延ばすことが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
<成膜装置>
反射材の作製は、高速スパッタリング成膜装置を用いて行った。本装置は、プラズマCVD室とスパッタ成膜室とを備えており、両成膜室間を基材を載せたワーク載置部が移動することにより、大気開放することなく、密着性向上層、反射層、および、保護層を成膜することが可能である。
【0055】
<成膜方法>
反射材の作製おいて、大気開放後、基材をワーク載置部におき、真空排気を実施した。0.5Paまで減圧したのち、密着性向上層および保護層を成膜の場合はプラズマCVD室に、反射層を成膜の場合はスパッタ成膜室にワーク載置部を移動させ、成膜のためのガスを導入し、プラズマを発生させ、成膜を実施した。成膜後、装置を大気開放したのち、ワーク載置部よりサンプルを取り出した。
【0056】
(基材)
反射材を構成する基材として、ポリカーボネート製の成形体を使用した。成形体の大きさは、145mm×58mm×5mmである。射出成形にて基材を成形したのち、該基材をすぐに成膜装置のワーク載置部に載せて以下の成膜処理を行った。
【0057】
(密着向上層)
基材を挿入した真空装置を、0.5Paまで排気を行った。その後、アルゴン(Ar)を100sccm、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を5sccmずつ同時に供給し、圧力が一定になったところでRFパワーを800Wに設定し、放電および成膜を実施した。成膜時間は60秒とした。
【0058】
(反射層)
密着向上層成膜後、ワーク載置部をスパッタ成膜室に移動させた。Arを270sccm導入し、圧力が一定になったところで、DCパワーを35kWとしてAlターゲットをスパッタすることで、反射層を成膜した。成膜時間を8秒とした。
【0059】
(保護層)
反射層を成膜後、ワーク載置部を密着向上層を成膜したプラズマCVD室に移動させた。その後、HMDSOのみを60sccm供給し、圧力が一定になったところでRFパワーを500Wに設定し、放電および成膜を実施した。表1に示す所定の膜厚になるように、成膜時間、成膜回数を変化させた。
【0060】
<反射材の評価>
(ピンホール)
成膜後のピンホール(成膜後ピンホール個数)を以下の方法にて測定した。また、測定後、反射材を85℃、85%の恒温恒湿機に保管し、1000時間後に、同じサンプルのピンホール数を測定(保管後ピンホール個数)し、ピンホールの増加を評価した。
ピンホールの評価は、一様な光強度を発する面光源(株式会社トライテック製、トレビュアーA4-500)を水平に置き、その上に作製した反射材サンプルを保護層側を上にして載せ、反射材サンプルの面光源側とは反対側の表面から45cm離れた位置に輝度計(コニカミノルタ株式会社製、型式:CA-2000)のレンズを設置し、輝度を測定した。得られた輝度測定値の二次元データ(x、yがフィルム座標、zが輝度の絶対値)を解析し、輝度値が一定の閾値(輝度が一番明るいところ100とした時の、1以上のもの)を超えるものをカウントした。
【0061】
(膜厚の評価)
基材の成膜時に、シリコンウェハを基材の横に配置し、シリコンウェハ上にも反射材と同じ膜を成膜した。成膜後、取り出したシリコンウェハ上に堆積している全膜厚を高精度微細形状測定器(小坂研究所株式会社製、製品名「サーフコーダET4000A」)を用いて測定した。また、各層の膜厚は、同様の手法にて、各層単層の膜を成膜し、同じ高精度微細形状測定器にて測定した。
【0062】
上記の成膜方法に従って、各実施例および各比較例の反射材を作製し、上記評価方法に従って評価した。各実施例および各比較例の各膜厚、および、評価結果を表1に示す。また、
図1(a)に、実施例1、2の反射材の層構成を、
図1(b)に、比較例1の反射材の層構成を、
図1(c)に、比較例2の反射材の層構成を、
図1(d)に、比較例3の反射材の層構成を、および、
図1(e)に比較例4の反射材の層構成を示す。なお、図中の各層の厚みは、正確な各層厚の比率を示すものではない。
<実施例1>
上記手法、条件にてポリカーボネート製基材に、密着向上層、反射層を成膜し、保護層1を10nm成膜し、一度放電を止めて、保護層2を同じガス流量、RFパワーにて10nm成膜した。
【0063】
<実施例2>
保護層2の厚みを11nmとした以外は、実施例1と同様にして成膜した。
【0064】
<比較例1>
20nmの保護層を1層成膜した以外は、実施例1と同様にして成膜した。
【0065】
<比較例2>
比較例1において、保護層の厚みを60nmとした以外は、比較例1と同様にして成膜した。
【0066】
<比較例3>
比較例1において、保護層の厚みを10nmとした以外は、比較例1と同様にして成膜した。
【0067】
<比較例4>
比較例3において、反射層の厚みを60nmとし、成膜が完了した後、ワーク載置部をプラズマCVD室に移動させ、保護層1の厚みを10nmで成膜した。その後、スパッタ成膜室に移動させ、反射層と同一の挿入層を厚み60nmで成膜した。次に、ワーク載置部をプラズマCVD室に移動させ、保護層2を再度10nm成膜した。
【0068】
【0069】
<考察>
実施例1と比較例1を比較した場合、同じ膜厚であるが、同じ保護層を2回に分けて成膜した実施例1のピンホールの数は約1/2程度となり、ピンホールの増加抑制が見られた。
実施例2では、2回目の保護層の厚みを厚くしているが、保護層を厚くすることで、更なるピンホールの増加の抑制が見られた。ピンホールの増加は、種々要因が考えられるが、その一つに、反射材表面からの水や酸素の侵入により、反射層の金属が透明の酸化物を作り、光が抜けることによるものが考えられる。そのため、保護層を成膜する場合に、一度で成膜するのではなく、複数回に分けて成膜することで、成膜時の割れや、保護層が持つピンホールがキャンセルされて、結果的にバリア性能が上がり、経時的なピンホールの増加が抑制されたと考えられる。
【0070】
また、比較例2では、保護層の膜厚を厚くしたことで、ピンホール増加の抑制効果が見られているが、膜厚の増加とともに、光の吸収などにより反射率の低下が起こるため、高反射率を望む場合には、実施例1、2のように薄膜としつつ、ピンホール増加抑制を図る必要がある。
【0071】
比較例3では保護層を10nmと薄くしたが、膜厚が薄い場合、膜としての機能が十分発揮できず、ピンホールの増加を抑制できなかったと考えられる。
比較例4では、積極的に保護層を分割し成膜した。つまり、保護層が同一素材で連続して形成されえておらず、二層の保護層の間に挿入層が形成されている。この場合、保護層を3層としたにもかかわらず、ピンホールが増加している。これは比較例3でも示したように、各ケイ素酸化物膜の膜厚が薄いため、十分に保護膜としての機能が発揮されず、反射層が化合物を作り、ピンホールの増加につながったと考えられる。
【0072】
以上より、本発明の反射材およびその製造方法によると、高い反射率を保ったまま成膜後のピンホールの増加を抑制することができ、保護層の膜厚を薄くしたまま、ピンホール増加抑制効果を得られるため、有用である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の反射材は、経時的なピンホールの増加を抑制することが可能であるので、反射材を長期間に亘り利用することが可能となるため、産業上有用である。