(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】含水油性食品
(51)【国際特許分類】
A23G 1/32 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
A23G1/32
(21)【出願番号】P 2022528883
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021112
(87)【国際公開番号】W WO2021246468
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2020096661
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 和也
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 正道
(72)【発明者】
【氏名】西山 由梨
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05965179(US,A)
【文献】特開平04-248950(JP,A)
【文献】特開平09-009870(JP,A)
【文献】特開平01-043150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/32
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含有量が3質量%以上20質量%以下であり、水系の連続相及び油系の連続相
が混在する構造を含有する、含水油性食品であって、
前記水系の連続相が、前記含水油性食品が導通を有することにより判定され、
前記油系の連続相が、下記条件A及び条件Bの少なくとも一方を満たすことにより判定される、含水油性食品。
条件A:前記含水油性食品の薄片を作成し、油脂を染色可能な染色液で染色し、油脂の存在状態を共焦点レーザー顕微鏡で観察した場合に、油脂の染色部の外縁が合一により不定形な雲状又は網目状に連なっている状態となって観察されること。
条件B:前記含水油性食品の薄片を作成し、油脂を染色可能な染色液で染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察し、観察画像(染色画像)を16bitコントラスト比のモノクロ画像に変換し、次いで、前記モノクロ画像を画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、分析方法:粒子解析、サイズ:200pixel^2の条件を選択して解析し、前記解析により得られる「area fraction」、即ち、解析画像全体の面積に対する、200pixel^2(200×200pixel)以上の面積を有する対象(隣り合う油滴同士が合一している油脂)の面積の比率が10%以上であること。
【請求項2】
23℃において製造直後から1日保存後も前記水系の連続相及び前記油系の連続相が保持される、請求項1に記載の含水油性食品。
【請求項3】
含水チョコレートである、請求項1又は2に記載の含水油性食品。
【請求項4】
気泡を含有しない、請求項1~3のいずれかに記載の含水油性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水油性食品に関する。
具体的には、本発明は、油脂の分離を防止でき、良好な口どけを有する含水油性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~5には含水チョコレートが開示されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、相の連続相が油脂である乳化組成物であって、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを含む水中油型乳化物を、その内相として含む乳化組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ココアバターを含む脂肪相を準備すること、水、砂糖若しくは甘味料又は両方、及びココアタンパク質を含有する1つ又は複数のココア製品、デンプン、又はセル壁材料を含む水相を準備すること、両相を混合すること、混合された両相を加熱してココアタンパク質及び/又はココアデンプン成分からなるゲルネットワークを形成させること、を含み、加熱後に懸濁物の粘度が上昇する、ココア系水中油型懸濁物を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、水相中に油脂が分散したO/W型エマルジョンをチョコレート中に分散混合させたことを特徴とする耐熱性チョコレートが開示されている。
【0006】
特許文献4には、油脂性菓子生地、糖液、乳製品などを混ぜたガナッシュ生地を25~35℃とし、含気装置にて冷却しながら気泡を含ませることにより、当初の温度より5~10℃低い15~25℃で、しかもその比重が1.0以下の含気ガナッシュ生地となし、これを成形することを特徴とするガナッシュを用いた菓子の製造法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、微結晶セルロースと親水性高分子からなるセルロース複合体を配合してなることを特徴とする含水チョコレート組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-62397号公報
【文献】特表2008-522622号公報
【文献】特開平3-228647号公報
【文献】特開平5-111350号公報
【文献】特開2003-9770号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、水分含有量が3質量%以上20質量%以下である、含水チョコレート等のような含水油性食品においては、油脂の分離を防止することと、良好な口どけを付与することとを両立することが困難であることを見出した。
【0010】
特許文献1~5をはじめとする従来技術には、そのような課題を解決する観点で、さらなる改善の余地が見出された。
【0011】
本発明の目的の1つは、油脂の分離を防止でき、良好な口どけを有する含水油性食品を提供することである。
【0012】
本発明によれば、以下の含水油性食品等を提供できる。
1.水分含有量が3質量%以上20質量%以下であり、水系の連続相及び油系の連続相を含有する、含水油性食品。
2.23℃において製造直後から1日保存後も前記水系の連続相及び前記油系の連続相が保持される、1に記載の含水油性食品。
3.含水チョコレートである、1又は2に記載の含水油性食品。
【0013】
本発明によれば、油脂の分離を防止でき、良好な口どけを有する含水油性食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の共焦点顕微鏡像(×40)を示す図である。
【
図2】実施例1の昇温後撹拌による油脂の分離を示す図である。
【
図3】実施例2の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【
図4】実施例3のエクストルーダー成形品を示す図である。
【
図5】実施例4の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【
図6】実施例4(対照:市販の生チョコレート)の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【
図7】実施例4の昇温後撹拌による再乳化を示す図である。
【
図8】実施例5の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【
図9】実施例6の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【
図10】実施例7の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【
図11】実施例8の共焦点顕微鏡像(×20)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の含水油性食品について詳述する。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
また、以下に記載される本発明の個々の形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の形態である。
【0016】
1.含水油性食品
本発明の一態様に係る含水油性食品は、水分含有量が3質量%以上20質量%以下であり、水系の連続相及び油系の連続相を含有する。
【0017】
かかる含水油性食品によれば、油脂の分離を防止でき、良好な口どけを有するという効果が得られる。
【0018】
通常、チョコレートに水分を加えたガナッシュは、水分、油分、その他固形分の配合比により、その乳化安定性が大きく変化する。とりわけ水分含有量が3質量%以上20質量%以下である含水チョコレートは乳化安定性が低く、増粘や分離が発生する為、均一に混合して、安定的に成形することが極めて困難であった。
【0019】
上記の問題に対して、油脂組成の調整や、乳化剤あるいはゲル化剤を添加する方法があるが、低水分領域での乳化型は油中水滴型となってしまうため、水中油滴型の含水チョコレートと比較して口どけが劣る。一方低水分領域でも、溶解度の高い糖原料などを多く配合することで分離を抑えたプラスチックチョコレートを製造することが可能であるが、チョコレート本来の風味品質が得られにくくなる。
【0020】
水分含有量が3質量%以上20質量%以下である含水チョコレートについて安定した乳化状態を保つために、原料を混合した後、油中水滴型あるいは水中油滴型の乳化状態にした上で成形をすることが考えられる。しかし、油中水滴型は水中油滴型のものと比べ口どけが劣り、水中油滴型のものは一般的に日持ちしにくく、耐熱性が低いことから流通、保存条件が限られてしまう。
【0021】
本発明者らは、含水チョコレート等のような含水油性食品に含有される水分及び油脂の構造(相構造)に着目した。通常のガナッシュは、水系の連続相を含有しているが、油脂が油滴として分散しており、油系の連続相を含有していない。つまり、水系の連続相を主体とする構造である。これに対して、本態様に係る含水油性食品は、水系の連続相及び油系の連続相を含有することによって、原料が本来的に乳化物であるか非乳化物であるかに依拠することなく(特に非乳化物であっても)、油脂の分離を防止できる効果が得られる。また、本態様に係る含水油性食品は、例えば水中油滴型に乳化された含水油性食品のような、優れた口どけを有する。さらに、通常の水中油滴型のものと比べ、日持ちが良く、耐熱性を向上できるため、流通や保存への適性を改善できる。
【0022】
水分含有量が3質量%以上20質量%以下である含水油性食品において、水系と油系の両方の連続相を有する構造は知られていない。このような水分含有量は、従来、均一な混合乳化が困難な水分範囲であることから、乳化剤の添加が必須と考えられてきたが、本態様に係る含水油性食品は乳化剤を必須とせず、乳化剤に依拠することなく(乳化剤の使用を省略又は低減しても)本発明の効果を発揮できる。そのため、乳化剤に由来する風味への影響が抑制された食品を提供することができる。また、本態様に係る含水油性食品は、油系の連続相を有しながらも口どけがよい。また、本態様に係る含水油性食品は、配合の自由度が高く、水系の連続相を有しながらも日持ちがよい食品を得ることができる(保存性が良好である)。
【0023】
以下に、本発明について、特許文献1~5の技術との対比で説明する。
【0024】
特許文献1及び2の技術は、水中油滴型の乳化物(水系の連続相を主体とする構造)に係るものであり、これは本発明とは異なる構造であると考えられる。
【0025】
特許文献3の技術は、水分含有量を3質量%未満にしている。従って、水分含有量を3質量%以上20質量%以下にすることによって優れた口どけを付与するものではなく、また、水分含有量が3質量%以上20質量%以下である場合に問題となる油脂の分離を解決するものでもない。
【0026】
特許文献4の技術は、水分含有量が3質量%以上20質量%以下の範囲において、乳化状態が悪化することが記載されていることから、本発明のような水系の連続相及び油系の連続相を含有するものではないと考えられる。
【0027】
特許文献5の技術は、予めセルロース複合体を水系原料に混合していることから、得られる含水チョコレートは油中水滴型であるものと推察され、本発明のような水系の連続相及び油系の連続相を含有するものではないと考えられる。
【0028】
本態様に係る含水油性食品の形態(種類)は格別限定されず、例えば含水チョコレート等であり得る。含水チョコレートは、例えば一般社団法人全国公正取引協議会連合会が規定する公正競争規約における「チョコレート類」であり得るが、これに限定されず、カカオ由来成分を含むものであればよい。
【0029】
カカオ由来成分としては、カカオ豆、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアパウダー、ココアケーキ等が挙げられる。カカオニブは、カカオ豆を破砕し豆の殻及び胚を除去して得られる胚乳部である。カカオマスは、カカオニブを磨砕して得られる。カカオマスを常法に従って加工することによって、ココアバター、ココアパウダー、ココアケーキが得られる。
【0030】
含水油性食品は、含水チョコレートに限定されるものではなく、例えば、アーモンドペーストに糖原料と生クリームを加えたものであってもよいし、中鎖脂肪酸(MCT)に糖原料とピューレを加えたものでもよい。この場合、通常は含水チョコレートと同様に水分含有量が3質量%以上20質量%以下の領域において油脂の分離が発生するが、水系の連続相及び油系の連続相を含有することによって、油脂の分離が防止された成形品を製造することが可能である。このような場合の耐熱保形性は、通常はココアバターを主成分とする含水チョコレートとは異なり、例えば10℃以下であり得る。
【0031】
含水油性食品が水系の連続相及び油系の連続相を含有することは、以下に説明する方法によって判定する。
【0032】
水系の連続相については、含水油性食品が導通を有する場合は、水系の連続相を含有していると判定し、含水油性食品が導通を有しない場合は、水系の連続相を含有していないと判定する。
【0033】
油系の連続相については、下記条件A及び条件Bの少なくとも一方を満たす場合に、油系の連続相を含有していると判定し、下記条件A及び条件Bのいずれも満たさない場合に、油系の連続相を含有していないと判定する。
【0034】
(条件A)
含水油性食品の薄片をカッターにて作成し、油脂を染色可能な染色液(インビトロジェン社製「BODIPY(登録商標)」)で染色し、油脂の存在状態を共焦点レーザー顕微鏡で観察した場合に、油脂の染色部の外縁が合一により不定形な雲状又は網目状に連なっている状態となって観察されること。
例えば、ほとんどの油脂が油滴として分散した状態では、条件Aを満たさないと判定する。
【0035】
(条件B)
以下に説明する「連続相を形成する油脂の面積比率」が10%以上であること。
含水油性食品の薄片をカッターにて作成し、油脂を染色可能な染色液(インビトロジェン社製「BODIPY(登録商標)」)で染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察し、観察画像(染色画像)を16bitコントラスト比のモノクロ画像に変換する。次いで、前記モノクロ画像を画像解析ソフト「ImageJ」(フリーソフト、以下URLからダウンロードが可能:https://imagej.net/Welcome)を用いて、下記の条件を選択して解析する。
分析方法:粒子解析
サイズ:200pixel^2
上記の解析により得られる「area fraction」、即ち、解析画像全体の面積に対する、200pixel^2(200×200pixel)以上の面積を有する対象(隣り合う油滴同士が合一している油脂)の面積の比率を「連続相を形成する油脂の面積比率」とする。
【0036】
含水油性食品の水分含有量は、例えば、20質量%未満、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下又は8質量%以下であり得、また、例えば、4質量%以上又は5質量%以上であり得る。
尚、水分含有量は実施例に記載の方法により測定される値である。
【0037】
含水油性食品における油脂の含有量は、例えば、3質量%以上97質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
尚、油脂の含有量は実施例に記載の方法により測定される値である。
【0038】
一実施形態において、含水油性食品に含まれる油脂の総量のうちの30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、さらには95質量%以上が、チョコレート原料に由来する。
【0039】
一実施形態において、含水油性食品は、水分含有量が3~15質量%、好ましくは5~12質量%、さらに好ましくは5~10質量%であり、油脂の含有量が3~50質量%、好ましくは20~50質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0040】
一実施形態において、含水油性食品は、水分含有量が3~15質量%、好ましくは5~12質量%、さらに好ましくは5~10質量%であり、油脂の含有量が3~50質量%、好ましくは3~40質量%、さらに好ましくは3~30質量%であり、ここで、油脂の総量を100質量%としたときに、23℃での固形脂が0質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上配合されていることが望ましい。
【0041】
一実施形態において、含水油性食品は成形品である。
【0042】
一実施形態において、含水油性食品は可塑性を有する。
本明細書でいう「可塑性」は、20℃環境下において、押圧変形可能であり、かつ押圧解除後にその形状を維持可能であることを意味する。尚、押圧解除後の形状は、肉眼では変化が認められない程度に維持可能であればよい。そのような可塑性を有する混合物は、手指で自由な形状に成形することができる。そのような可塑性を有する混合物は、例えば成形性等に優れる効果を奏する。
【0043】
一実施形態において、含水油性食品は、製造直後から、常温(23℃)で保存中及び常温で24ヶ月保存した後においても可塑性を有する。そのため、成形加工が容易である。また、固形分が多くてもソフトな食感を実現できる。
【0044】
一実施形態において、含水油性食品は、主体とする油脂の融点未満の温度(例えば常温(23℃))において、1日、5日、10日、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月又は24ヶ月保存後も水系の連続相及び油系の連続相が保持される。尚、1ヶ月は30日で換算する。
【0045】
一実施形態において、含水油性食品は、耐熱保形性、耐熱非付着性を有する。これにより、常温(23℃)での流通を好ましく適用できる。従って、本実施形態によれば、含水油性食品を常温で流通する方法が提供される。
【0046】
本態様に係る含水油性食品を製造する方法は格別限定されない。
【0047】
一実施形態において、本態様に係る含水油性食品は、例えば、乳化物(例えばガナッシュ等)を冷却混練することにより製造することができる。
【0048】
一実施形態において、本態様に係る含水油性食品は、例えば、非乳化物を冷却混練することにより製造することができる。ここで、非乳化物は、水系原料と油系原料を配合した原料であり、通常のガナッシュの製造方法では油脂が分離して均一な乳化混合と成形が困難な原料であり得る。このような原料であっても、水系の連続相及び油系の連続相が形成されることによって、本発明の効果が奏され、また、均一な混合と安定的な成形が可能になる。
【0049】
尚、非乳化物を原料として得られる含水油性食品は、該含水油性食品が含有する油脂が融解する温度以上の温度帯(例えば、70℃~80℃)に昇温した後、撹拌した場合は、油脂の分離を生じる非乳化物に戻り得る。このとき、水系の連続相及び油系の連続相が共存する状態は破壊され得る。
一方、乳化物を原料として得られる含水油性食品は、上記のような昇温、撹拌を施した後、乳化された状態であり得る。但し、水系の連続相及び油系の連続相が共存する状態は破壊され得る。そのため、上記のような昇温、撹拌を施した後の乳化物は、本発明の含水油性食品において得られる食感の軟化という効果が得られにくくなる。
含水油性食品の食感の軟化は、専門パネルによる官能評価による評価や、応力の測定により評価できる。応力の測定は、実施例に記載の方法により行われる。
【0050】
一実施形態において、本態様に係る含水油性食品は、油系原料と、水系原料とを、冷却しながら混合することにより製造することができる。
【0051】
一実施形態において、本態様に係る含水油性食品は、油系原料と水系原料とを予め混合して得られた混合物を、冷却しながら混合することにより製造することができる。
【0052】
水系原料は、水を含む原料であれば格別限定されない。例えば、水、水溶液、水分散液、抽出液(抽出用溶媒は水、アルコール等の親水性溶媒であれば限定されない)等が挙げられる。具体的には、生クリーム、牛乳、濃縮乳、果汁、糖液、アルコール、香料、果実片、果実ピューレ等が挙げられる。あるいはこの水系原料に溶解あるいは分散する性質を有する固体原料を加えたペーストでもよい。固体原料としては、例えば、糖類(ショ糖、果糖、乳糖、糖アルコール類、オリゴ糖等)、乳原料(全脂粉乳、脱脂粉乳、乳タンパク質等)、植物粉末(果汁粉末、野菜粉末、植物抽出粉末等)、ココアパウダー、増粘剤(増粘多糖類、ゼラチン、グミ等)等が挙げられる。
【0053】
油系原料は、油脂又は油を連続相とする乳化物であり得る。例えば、ココアバター、カカオマス、ナッツペースト、ココアバター代替脂、植物油脂、ショートニング、各種スプレッド等が挙げられる。
【0054】
これら水系原料と油系原料との混合物は、通常は、水分含有量が3質量%以上20質量%以下では油脂が分離しやすくなり、乳化状態を保つことが困難であるが、水系の連続相及び油系の連続相が形成されることによって、本発明の効果が奏され、また、均一な混合と安定的な成形が可能になる。
【0055】
上述した原料を冷却しながら混合する方法は格別限定されない。
一実施形態において、水系原料と油系原料とを混合する際に(あるいは油系原料と水系原料とを予め混合して得られた混合物をさらに混合する際に)、主体とする油脂の融点以下(好ましくは融点未満)の温度に冷却する。例えばココアバターを主体とする場合、好ましくは30℃以下、より好ましくは28℃以下で冷却しながら混合する。このような温度の範囲内とすることにより、油脂の分離が抑制された混合物(含水油性食品)を調製できる。
【0056】
原料を冷却しながら混合するための手段は格別限定されない。例えば、冷却手段を備えた混合手段を好ましく用いることができる。冷却手段としては例えばジャケット等が挙げられる。混合手段としては例えばエクストルーダーやミキサー等が挙げられる。エクストルーダーを用いる場合は、冷却混合から押出成形までを連続的に行うことができる。ミキサーを用いる場合は、冷却混合後の生地を、別の工程で成形することができる。
【0057】
以上のように、本態様に係る含水油性食品は、水系原料と油系原料との混合物であり得る。言い換えれば、本態様に係る含水油性食品は、水分と油脂とを含む混合物であり得る。前記混合物において、前記水分と前記油脂とは互いに混ざり合っている。ここで、前記混合物中の前記水分が水系の連続相を形成し、前記混合物中の前記油脂が油系の連続相を形成し得る。言い換えれば、油系の連続相を形成する前記油脂と、水系の連続相を形成する前記水分とが、互いに混ざり合った状態であり得る。前記混合物において、前記水系の連続相と前記油系の連続相とは目視では判別できないものであり得、また、前記水系の連続相と前記油系の連続相との境界も目視では判別できないものであり得る。
本態様に係る含水油性食品は、該含水油性食品単独で最終的な製品(流通時の形態)としてもよいし、該含水油性食品と他の食品との組み合わせである加工食品(複合食品)としてもよい。他の食品として、例えば、ココアパウダー、チョコレート、ホワイトチョコレート、クリーム、ソース、ナッツ(アーモンド等)、パン生地、パイ生地、ビスケット生地、果実(ラムレーズン等)、チーズ等が挙げられる。他の食品の形態として、例えば、含水油性食品の表面の少なくとも一部を被覆する被覆材、含水油性食品の内部に内包される内包物等が挙げられる。被覆材は、例えば、粉末状、層状等の形態を有し得る。また、本態様に係る含水油性食品を、他の食品に対して、上述した被覆材又は内包物として用いてもよい。例えば、本態様に係る含水油性食品を、他の食品にトッピングしてもよい。複数の食品の組み合わせによって構成される任意の複合食品において、少なくとも1つの食品を、本態様に係る含水油性食品とすることができる。
【0058】
本明細書に記載の物性や測定値等は、特に断りのない限り、20℃環境下で観察されるものである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載には限定されない。尚、以下の実施例において、「%」は、特に断りのない限り「質量%」を表す。
【0060】
[測定方法]
まず、以下の実施例及び比較例において測定される水分含有量及び油脂含有量の測定方法について説明する。
【0061】
(1)水分含有量
日本国消費者庁による食品表示関連通知「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/food_labeling_cms101_200327_11.pdf)における「5.炭水化物、イ 水分、(3)減圧加熱乾燥法」に準拠して測定した。具体的には下記のとおりである。
底部の直径が50mmである秤量皿(蓋付き)の恒量(W0(g))を求める。次いで、秤量皿に2gの試料を採取し、秤量(W1(g))する。次いで、秤量皿の蓋をずらした状態で、100℃に調節した真空乾燥器に入れ、真空ポンプで吸引しながら、減圧度を25mmHgに設定する。2時間、減圧乾燥した後に、真空ポンプを止め、除湿空気を真空乾燥器内に静かに導入して常圧に戻し、秤量皿を取り出し、蓋をして恒量(W2(g))を求める。試料中の水分含有量は、下記式によって求められる。
試料中の水分含有量(質量%)={(W1-W2)/(W1-W0)}×100
【0062】
(2)油脂含有量
上記「別添 栄養成分等の分析方法等」における「2.脂質、(4)酸分解法」に準拠して測定した。具体的には下記のとおりである。
50mL容のビーカーに、試料の適量(乾物として1~2g以下)を採取し、秤量(W(g))する。次いで、エタノール(95v/v%、特級)2mLを加えて、ガラス棒でよく混和する。次いで、塩酸(濃塩酸(特級)とイオン交換水とを容積比2:1で混ぜたもの)10mLを加えて十分に混和し、時計皿で覆って70~80℃の電気恒温水槽上で30~40分間時々かき混ぜながら加温する。放冷後、内容物を抽出管に移し、ビーカーとガラス棒をエタノール10mLで洗い、さらにエーテル(特級)25mLで洗浄し、洗液は先の抽出管に集める。栓をして軽く振って混和した後、栓をゆっくり回してエーテルのガスを抜く。再び栓をして30秒間激しく振り混ぜる。次いで、石油エーテル25mLを加え、同様にして30秒間激しく振り混ぜる。上層が透明になるまで静置した後、脱脂綿を詰めた漏斗でろ過する。ろ液はあらかじめ100~105℃の電気定温乾燥器で1時間乾燥後、デシケーター中で1時間放冷し、恒量(W0(g))を測定したフラスコに集める。管内の水層にエーテルと石油エーテル各20mLずつの混液を加え、上記と同様に操作した後、静置し、エーテル層を同様にろ過してフラスコに集める。さらに、エーテルと石油エーテル各15mLずつの混液を加え、この操作をもう一度繰り返した後、抽出管の先端、栓及び漏斗の先端をエーテル及び石油エーテルの等量混液で十分に洗いこれも集める。混液を捕集したフラスコをロータリーエバポレーターに連結し、70~80℃の溶媒留去用電気恒温水槽中で加温して溶媒を留去し、残りの混液を十分に留去する。フラスコの外側をガーゼでふき、100~105℃の電気定温乾燥器中で1時間乾燥後、デシケーターに移し、1時間放冷して秤量する。乾燥、放冷、秤量の操作を繰り返し、恒量W1(g)を求める。試料中の脂質含有量(油脂含有量)は、下記式によって求められる。
試料中の油脂含有量(g/100g)={(W1-W0)/W}×100
【0063】
(3)応力
試料を略直方体形状(高さ約7mm)に成形し、下記の測定条件で測定される応力の最大値(Peak)を「応力」とする。
<測定条件>
・測定温度:20℃
・測定機器:レオテック社製「FUDOHレオメーターRTC-3010D-CW」
・プランジャー:直径3mmの円柱状のプランジャー(金属素材)
・プランジャーの進入速度:2cm/分
・プランジャーの進入深度:3mm
【0064】
(実施例1)
ミルクチョコレート生地(カカオマス31.0質量%、粉乳26.0質量%、ココアバター22.0質量%、砂糖20.0質量%及び乳化剤1.0質量%からなる)62.0質量%と、含水ペースト(果糖41.0質量%、バター23.0質量%、生クリーム32.0質量%、ブランデー4.0質量%を、ジャケット温度を60℃に温調したオーバーミキサーで撹拌して得られる)38.0質量%とを、二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で冷却搬送しながら、分離を抑えた成形物が得られるように混練し、押出成形を行った。押出成形された混合物を、略2cm角サイズに切断し、含水油性食品(含水チョコレート)を得た。
【0065】
エクストルーダー運転条件
・原料投入温度:35℃
・冷却域の内部温度:0~5℃
・吐出温度(表面):15.0~18.0℃
ここで、「冷却域の内部温度」は上述した冷却搬送混練時の混合物の温度である。また、「吐出温度(表面)」は、エクストルーダーの吐出口から吐出される混合物の表面温度である。
【0066】
エクストルーダーにおける混合時に油の分離は発生せず、安定的な吐出と成形が可能であった。
【0067】
得られた含水チョコレートは、可塑性があり、水分含有量9.7%、油脂含有量42.6%であった。
【0068】
この含水チョコレートは、テスター(三和電気計器社製「PM3」)にて導通が確認されたことから、水系の連続相が形成されていることが確認された。
【0069】
さらに、含水チョコレートの薄片(厚さ約100μm)をカッターにて作成し、この薄片を脂肪球染色液(インビトロジェン社製「BODIPY(登録商標)」)の1,2-プロパンジオール溶液で処理し、油脂の存在状態を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。共焦点顕微鏡観察結果(×40倍)を
図1に示す。
図1において、白色部分は染色された油脂を示し、黒色部分は油脂以外の成分を示す。
図1より、油脂染色後の共焦点顕微鏡観察では、独立した油滴は殆ど観察されず、油滴が隣り合う油滴と合一し、油系の連続相が形成されていることが確認された。
【0070】
これらのことから、この含水チョコレートは、水系の連続相及び油系の連続相を含有することがわかる。また、この含水チョコレートは、良好な口どけを有していた。
【0071】
さらに、この含水チョコレートの成形物を700Wで20秒加熱し、品温を80℃に昇温させた後、撹拌した。
図2(a)は、昇温後、かつ撹拌前の状態を示す写真であり、成形物から油脂がにじみ出ていることがわかる。また、
図2(b)は、昇温、撹拌後の状態を示す写真であり、分離した油脂が全体的に見られる。
図2に示したように、昇温に伴う油脂の分離を目視で確認することができた。つまり、この含水チョコレートは本来的に非乳化(乳化しない性質)であるが、水系の連続相及び油系の連続相を含有することによって乳化と同様の安定状態(油脂の分離が防止される状態)になることがわかる。
【0072】
(実施例2)
ミルクチョコレート生地(カカオマス31質量%、砂糖23質量%、ココアバター22質量%、粉乳23質量%及び乳化剤1質量%からなる)66.7質量%と、メイオリゴG(明治フードマテリア社製、水分24%)33.3質量%とを二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で冷却搬送しながら、分離を抑えた成形物が得られるように混練し、押出成形を行った。押出成形された混合物を、略2cm角サイズに切断し、含水油性食品(含水チョコレート)を得た。
【0073】
エクストルーダー運転条件
・原料投入温度:35℃
・冷却域の内部温度:2~7℃
・吐出温度(表面):21.7℃
【0074】
得られた含水チョコレートは、水分含有量9.4%、油分含量32.3%であった。また、製造直後から28℃で1ヶ月保管後も保形性を維持しており、手で持ち上げることも容易にできた。さらに、含水チョコレートは可塑性を有していた。
【0075】
この含水チョコレートを、製造直後から23℃一定条件下にて24ヶ月保管した後、テスターにて導通を確認したところ、導通を確認することができたことから、水系の連続相が形成されていることを確認した。
【0076】
また、この含水チョコレート(24ヶ月保管後)について、実施例1と同様にして油脂染色後の共焦点顕微鏡観察をしたところ、油滴が隣り合う油脂と合一し、油系の連続相が形成されていることが確認された。
さらに、上記共焦点顕微鏡観察において撮影された画像を、画像解析ソフト「ImageJ」(バージョン:1.53a)を用いて油系の連続相の状態を解析した。分析方法は粒子解析を選択し、サイズは200pixel^2を選択した。解析により得られる「area fraction」、即ち、解析画像全体の面積に占める200pixel^2以上の面積を有する対象(隣り合う油滴同士が合一している油脂)の比率(連続相を形成する油脂の面積比率)は、10.2%であった。比率が10%以上であることから、油系の連続相を含有することが確認された。
【0077】
即ち、含水チョコレートは、製造直後から24ヶ月(720日)経過した後においても、水系の連続相と油系の連続相が混在する構造を安定的に有していた。
この含水チョコレートは、保存の前後の両方の状態において、良好な口どけを有していた。
【0078】
(実施例3)
アーモンドペースト57質量%と、含水ペースト(生クリーム16質量%、脱脂粉乳11質量%及びフルクトース16質量%を、ジャケット温度を60℃に温調したオーバーミキサーで撹拌して得られる)43質量%とを二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で冷却搬送しながら、分離を抑えた成形物が得られるように混練し、押出成形を行った。押出成形された混合物を、略2cm角サイズに切断し、アーモンド含有含水油性食品を得た。
【0079】
エクストルーダー運転条件
・原料投入温度:30℃
・冷却域の内部温度:-5℃
・吐出温度(表面):8℃
【0080】
得られた含水油性食品の写真を
図4に示す。この含水油性食品は、水分含有量9.3%、油脂含有量39.2%であり、20℃では耐熱保形性も可塑性も有しないものであった。また、この含水油性食品は、油脂の分離がなく、均一な混合と成形が可能であった。さらに、この含水油性食品は、良好な口どけを有していた。
この含水油性食品は、テスターにて導通が確認されたことから、水系の連続相が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして油脂染色後の共焦点顕微鏡観察をしたところ、油滴が隣り合う油脂と合一し、油系の連続相が形成されていることが確認された。
この含水油性食品に用いたものと同様の原料を、エクストルーダーにかけずに、常温にてハンドミキサーで混合したところ、油脂の分離が見られた。つまり、この含水油性食品は本来的に非乳化(乳化しない性質)であるが、水系の連続相及び油系の連続相が形成されることによって乳化と同様の安定状態(油脂の分離が防止される状態)になることがわかる。
【0081】
(実施例4)
市販の生チョコレートを融解し、以下のエクストルーダー条件にて、分離を抑えた成形物が得られるように冷却混練し、含水油性食品(含水チョコレート)を得た。
【0082】
エクストルーダー運転条件
・原料投入温度:35℃
・冷却域の内部温度:-5~0℃
・吐出温度(表面):15.0~18.0℃
【0083】
得られた含水チョコレートは、水分含有量15.6%、油脂含有量36.3%であり、20℃では耐熱保形性も可塑性も有しないものであった。
【0084】
この含水チョコレートは、テスターにて導通が確認されたことから、水系の連続相が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして油脂染色後の共焦点顕微鏡観察をしたところ、
図5に示すように、油滴が隣り合う油滴と合一し、油系の連続相が形成されていることが確認された。すなわち、エクストルーダー処理をした含水チョコレートは水系の連続相と油系の連続相が混在する構造を有していた。この含水チョコレートは、良好な口どけを有していた。
この含水チョコレートについて、実施例2と同様にして連続相を形成する油脂の面積比率を算出したところ16.9%であった。比率が10%以上であることから、油系の連続相を含有することが確認された。
【0085】
一方、冷却混練が施されていない市販の生チョコレートは、テスターにて導通が確認されたことから、水系の連続相が形成されていることが確認された。しかし、実施例1と同様にして更に油脂染色後の共焦点顕微鏡観察をしたところ、
図6に示すように、油滴が合一せず油滴として分散して存在していることから、油系の連続相が形成されていないことが確認された。導通チェックの結果を合わせると、水系の連続相を主体とする構造であることが確認された。
この市販の生チョコレートについて、実施例2と同様にして連続相を形成する油脂の面積比率を算出したところ7.3%であった。比率が10%未満であることから、油系の連続相を含有しないことが確認された。
【0086】
この市販の生チョコレートを70℃に昇温し、撹拌を行った。
図7(a)は、昇温後、かつ撹拌前の状態を示す写真であり、
図7(b)は、昇温、撹拌後の状態を示す写真である。
図7に示したように、この市販の生チョコレートにおいては、昇温に伴う油脂の分離は生じす、安定した乳化状態であることがわかる。このことから、エクストルーダー処理をした含水チョコレートは、市販の生チョコレートにおける通常の乳化状態とは異なる状態(即ち、水系の連続相及び油系の連続相を含有する状態)になっていることがわかる。
【0087】
これらエクストルーダー処理(冷却混練)された含水チョコレートと市販の生チョコレートの応力を測定した。測定対象のサンプルは、10℃の冷蔵庫から取り出した直後(品温10℃時)、20℃の恒温機に2時間静置した後(品温20℃時)、25℃の恒温機に2時間静置した後(品温25℃時)のものとした。結果を表1に示す。
【表1】
【0088】
表1より、水系の連続相と油系の連続相を有するエクストルーダー処理をした含水チョコレートは、水系の連続相を有するが油系の連続相を有しない市販生チョコレートの50%以下の応力であった。このことから、本発明に係る含水油性食品は、噛み出しが柔らかい食感を有することがわかる。
【0089】
(実施例5)
実施例4に用いた市販の生チョコレートを、ケンミキサーにて氷水(4℃)につけながら、分離を抑えた成形物が得られるように冷却混練し、得られた固形物を、シート成形機にて引き延ばした後、略2cm角サイズに切断した。
【0090】
得られた含水チョコレートは、水分含有量15.8%、油脂含有量36.3%であり、常温(20℃)では耐熱保形性も可塑性も有しないものであった。
【0091】
この含水チョコレートは、テスターにて導通が確認されたことから、水系の連続相が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして油脂染色後の共焦点顕微鏡観察をしたところ、
図8に示すように、油滴が隣り合う油脂と合一し、油系の連続相が形成されていることが確認された。
この含水チョコレートについて、実施例2と同様にして連続相を形成する油脂の面積比率を算出したところ13.1%であった。比率が10%以上であることから、油系の連続相を含有することが確認された。
以上のとおり、冷却混練が施された含水チョコレートは水系の連続相と油系の連続相が混在する構造を有していた。この含水チョコレートは、良好な口どけを有していた。
【0092】
また、この含水チョコレートについて応力(品温10℃時)を測定したところ、0.083kgfであり、噛み出しが柔らかい食感を有することがわかる。
【0093】
さらに、この含水チョコレートを55℃の恒温機に1昼夜保管した後、撹拌を行ったところ安定した乳化状態となった。従って、本来的に非乳化(乳化しない性質)の原料を用いる場合だけでなく、本来的に乳化する性質の原料を用いる場合においても、水系の連続相及び油系の連続相を形成できることがわかる。
【0094】
(実施例6~8)
チョコレート(株式会社明治「ブラックチョコレート」)、果糖ぶどう糖液糖(Brix値:75%)、イチゴ果汁(Brix値:65%)及び水を表2に示す配合で用いて、実施例1と同様の方法で含水油性食品(含水チョコレート)を得た。得られた含水油性食品の水分含有量と、テスターで測定した抵抗値とを表2に示す。
【0095】
【0096】
実施例6~8の含水油性食品は、テスターにて導通が確認されたことから、水系の連続相が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして、含水油性食品を油脂染色した後、共焦点顕微鏡で観察したところ、
図9(実施例6)、
図10(実施例7)及び
図11(実施例8)に示すように、油滴が隣り合う油滴と合一しており、油系の連続相が形成されていることが確認された。
【0097】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。