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  • 特許-樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20240501BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20240501BHJP
   C08F 220/22 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08L27/12
C08L25/08
C08F220/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019175328
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021050298
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】李 廷輝
(72)【発明者】
【氏名】奥 慎也
(72)【発明者】
【氏名】片桐 史章
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168676(WO,A1)
【文献】特開昭58-215411(JP,A)
【文献】特開2011-209443(JP,A)
【文献】国際公開第2010/001976(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08F、G03F、C08J3
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される残基単位及び式(2)で表される残基単位を含む樹脂(A)と、
エチレン性不飽和単量体残基単位を含む式(7)で表される残基単位を有するフッ素系樹脂(B)を含む樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子を表す。Sは-O-又は-C(O)-を表す。pは0を表す。AはC6~C19のアリール基を表す。Yはハロゲン原子を表す。kは0~(s-1)の整数を表し、sは を構成する炭素数を表す。)
【化2】
((式(2)中、Rは水素原子を表す。Sは-O-又は-C(O)-を表す。qは0を表す。AはC6~C19のアリール基を表す。はハロゲン原子を表す。jは0~(r-2)の整数を表す。mは1~(r-j-1)の整数を表し、rは を構成する炭素数を表す。Zは以下の式(3)と(6)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。)
【化3】
(式(3)、(6)中、R及びRは水素原子を表す。R~R、R27~R29はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基またはフルオロアルキル基からなる群の1種を表す。)
【化4】
(式(7)中、R30は水素原子またはメチル基からなる群の1種を表す。Rfは、末端がCFである炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキル基を表す。Rfは、炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基を表す。R31~R32は、水素原子を表す。nは1~5の整数を表す。Xは存在しないを表す。Lは 、C 又はC 10 で示される。)
【請求項2】
樹脂(A)が、式(2)で表される残基単位を5モル%以上80モル%以下含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
フッ素系樹脂(B)が、エチレン性不飽和単量体残基単位を10モル%以上95モル%以下含む請求項1乃至2いずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(A)を50wt%以上95wt%以下含み、かつ、フッ素系樹脂(B)を5wt%以上50wt%以下含む請求項1乃至3いずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
有機溶媒をさらに含む請求項1乃至4いずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の樹脂組成物の光架橋物を含む電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイスに用いるのに好適な樹脂組成物、より詳細には撥液膜用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低コストで生産性が高い全印刷法による有機電子デバイスの製造に関する技術開発が積極的に行われている。電子デバイスとして、例えば有機トランジスタの開発も進められている。この有機トランジスタは多数の工程を経て製造されるが、有機半導体膜を特定の微小領域内に形成させる工程も含まれている。この微小領域は、例えば、ソース電極及びドレイン電極を含むミクロンオーダーの矩形領域である。
【0003】
有機半導体溶液を用いたインクジェット法により微小領域内に印刷する場合、微小領域内に該溶液の液滴を滴下することになる。そのため、その微小領域外に有機半導体溶液が濡れ広がらないようにする必要がある。そのような方法として、上記の微小領域のみを親液性とし、その領域外を撥液性とすることにより該溶液の該微小領域外への濡れ広がりを防止するために膜(「隔壁」ともいう。)を設ける方法が知られている。また、該微小領域の周囲に一定の幅と厚みを有した撥液性の壁を形成する方法もあり、この壁も併せて隔壁と呼ばれている。
【0004】
隔壁形成に用いられる材料としては水や有機溶剤に対して撥液性を示す、表面張力の小さい材料が適している。また、この隔壁を印刷により形成するためには、有機溶剤に所望の材料を溶解させたインクを塗布し、乾燥させた後、常温かつ短時間の露光で光架橋により溶剤に不溶化する性質を兼ね備えた、フォトリソグラフィで隔壁形成が可能な材料が求められている。
【0005】
このような材料としてエポキシ基または水酸基を含むフッ素系共重合体樹脂の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この樹脂はアルカリ可溶性ポリマーであり水を使う必要がある。水は電子デバイスの性能を低下する原因であり、有機溶剤での溶解性が必要である。
【0006】
また、フッ素樹脂のみでは、フォトリソグラフィのプロセスにおける、露光させずに未架橋の部位を除去する際に、残渣を除去しきれずにデバイスが性能を十分に発揮できない問題があった。
【0007】
上記の背景から、有機溶剤に可溶で、常温かつ短時間の露光で光架橋させることにより溶剤に不溶化し、撥液性を示すとともに、未架橋部位を有機溶剤で除去する際に残渣が残らない樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-287251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機溶剤に可溶で、常温かつ短時間の露光で光架橋させることにより溶剤に不溶化し、かつ、撥液性を示すとともに、未架橋部位を有機溶剤で除去する際に残渣が残らない樹脂組成物、及びこれを用いた有機トランジスタ素子および電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は式(1)で表される残基単位と、式(2)で表される残基単位を含む樹脂(A)と、エチレン性不飽和単量体残基単位を含むフッ素系樹脂(B)を含む樹脂組成物。
【0011】
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子またはC1~C6のアルキル基を表す。Sは-O-又は-C(O)-を表す。pは0又は1を表す。AはC6~C19のアリール基を表す。Y1はハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。kは0~(s-1)の整数を表し、sはAを構成する炭素数を表す。)
【0012】
【化2】
(式(2)中、Rは水素原子またはC1~C6のアルキル基を表す。Sは-O-又は-C(O)-を表す。qは0又は1を表す。AはC6~C19のアリール基を表す。Y2ははハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。jは0~(r-2)の整数を表す。mは1~(r-j-1)の整数を表し、rはAを構成する炭素数を表す。Zは以下の式(3)~(6)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。)
【0013】
【化3】
(式(3)~(6)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、C1~C6のアルキル基、アリール基、またはカルボキシアルキル基からなる群の1種を表す。R~R29はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。)
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、式(1)で表される残基単位と、式(2)で表される残基単位を含む樹脂(A)と、エチレン性不飽和単量体残基単位を含むフッ素系樹脂(B)を含む。
【0016】
本発明における樹脂(A)は、上記式(1)で表される残基単位と、上記式(2)で表される残基単位を含む樹脂(B)を含む。これにより、フォトリソグラフィにおける除去工程の際に、隔壁形成の原料の残渣が残りにくい。
【0017】
式(1)中、Rは水素原子またはC1~C6のアルキル基を示す。
式(1)中、RにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
式(1)中、Sは-O-または-C(O)-を示す。
式(1)中、pは0または1を示す。
式(1)中、AはC6~C19のアリール基を示す。式(1)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
式(1)中、Yはハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。
式(1)中、Yにおけるハロゲン原子としては特に制限がなく、例えば、塩素原子、フッ素原子等が挙げられる。
式(1)中、Yにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
式(1)中、Yにおけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
式(1)中、YにおけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
式(1)中、Yにおけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
式(1)中、Yにおけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる
式(1)中、kは0~(s-1)の整数を表す。ここで、sはAを構成する炭素数を表す。
【0018】
式(2)中、Rは水素原子またはC1~C6のアルキル基を示す。
式(2)中、RにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
式(2)中、Sは-O-または-C(O)-を示す。
式(2)中、qは0または1を示す。
式(2)中、AはC6~C19のアリール基を示す。
式(2)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
式(2)中、Yはハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。
式(2)中、Yにおけるハロゲン原子としては特に制限がなく、例えば、塩素原子、フッ素原子等が挙げられる。
式(2)中、Y2におけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
式(2)中、Y2におけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
式(2)中、Y2におけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
式(2)中、Y2におけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
式(2)中、Y2におけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
式(2)中、mは1~(r-j-1)の整数を表す。ここで、rはAを構成する炭素数を表し、jは0~(r-2)の整数を表す。
式(2)中、Zは式(3)~(6)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。
【0019】
式(3)~式(6)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、C1~C6のアルキル基、アリール基、またはカルボキシアルキル基からなる群の1種を示す。
式(3)~式(6)中、R及びRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中、R及びRにおけるアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中、R及びRにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0020】
~R29はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。
【0021】
式(3)~式(6)中のR~R29におけるハロゲン原子としては特に制限がなく、例えば、塩素原子、フッ素原子等が挙げられる。
式(3)~式(6)中のR~R29におけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中のR~R29におけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中のR~R29におけるアリールエーテル基としては特に制限がなく、例えば、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、p-エチルフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中のR~R29におけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-デシル基、n-オクタデシル基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中のR~R29におけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
式(3)~式(6)中のR~R29におけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
具体的な式(3)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0023】
【化4】
【0024】
具体的な式(4)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0025】
【化5】
【0026】
具体的な式(5)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0027】
【化6】
【0028】
具体的な式(6)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0029】
【化7】
【0030】
本発明における式(1)及び式(2)の残基単位を含む樹脂(A)は芳香族基を含有し、かつ、酸クロライドと反応する水酸基、アミノ基、チオール基等を含有していなければ何ら制限なく用いることが出来る。
【0031】
樹脂(A)は、式(1)及び式(2)で表される残基単位以外に、他の単量体残基単位を含むことが好ましい。他の単量体残基単位としては、例えば、エチレン残基、プロピレン残基、エチレン・プロピレン残基、1-ブテン残基等のオレフィン類残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基等のアクリル酸アルキルエステル類残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基等のメタクリル酸アルキルエステル類残基;スチレン残基、α-メチルスチレン残基等のビニル芳香族炭化水素類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基、ピバル酸ビニル残基等のカルボン酸ビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル類残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基等のN-置換マレイミド類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基等が挙げられる。
【0032】
樹脂(A)は、式(1)で表される残基単位を10モル%以上95モル%以下含むことが好ましく、さらに好ましくは15モル%以上90モル%以下、またさらに好ましくは15モル%以上80モル%以下含む。
【0033】
樹脂(A)は、式(2)で表される残基単位を5モル%以上80モル%以下含むことが好ましく、さらに好ましくは10モル%以上50モル%以下含む。これにより、本発明の組成物をフォトリソグラフィーに使用した際に、より残渣の少ないデバイスを得ることができる。ここで特定の残基単位のモル%とは、樹脂(A)における全ての残基単位のモル数の合計に対する、特定の残基単位のモル数として表すことができる。モル数は、プロトン核磁気共鳴測定の結果に基づき計算することができる。
【0034】
樹脂(A)が、式(1)および式(2)以外に、他の単量体残基単位を含む場合、各残基単位成分の含有量は
式(1)で表される残基単位 15mol%以上90mol%以下
式(2)で表される残基単位 10mol%以上70mol%以下
その他 30mol%以上70mol%以下
であることが好ましい。
【0035】
本発明における樹脂(A)の分子量は、例えば、200~10,000,000(g/モル)のものを用いることが好ましい。得られる樹脂の溶液粘度、及び力学強度の観点から、好ましくは10,000~1,000,000(g/モル)である。
ここで、分子量とは、数平均分子量を表し、標準ポリスチレン換算のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定することができる。
【0036】
本発明における樹脂(A)は光環化性化合物をフリーデルクラフツ・アシル化反応により芳香族基含有重合体に導入することで得られる。該光環化性化合物が一定量以上導入されることで膜とした場合の平坦性が優れ、短時間で光架橋可能となるものであり、芳香族基含有共重合体のみでは平坦性に劣り、光架橋することは出来ない。
【0037】
光環化性化合物として、式(7)で表される桂皮酸クロリド化合物、式(8)で表されるフェニルエテニル安息香酸クロリド化合物、式(9)で表されるピリジニルエテニル安息香酸クロリド、下記式(10)で表されるクマリン―6-カルボン酸クロリドを例示することができる。この中で、製造が容易である桂皮酸クロリドを用いるのが好ましい。また、これらの化合物は必要に応じて2種以上を併用することも出来る。
【0038】
【化8】
【0039】
【化9】
【0040】
【化10】
【0041】
【化11】
(式(7)~(10)中、R~R29は式(3)~(6)で定義したものと同義である。)
【0042】
本発明の樹脂組成物は、エチレン性不飽和単量体残基単位を含むフッ素系樹脂(B)を含む。フッ素樹脂(B)は側差に光架橋性基を有することが好ましい。これにより、本発明の樹脂組成物が優れた光架橋性を有し、光架橋後において優れた撥液性を発現する。
【0043】
フッ素系樹脂(B)は、上記の光架橋性基をフッ素系樹脂の側鎖に含むことで光照射を受けた部位のみが選択的に不溶化する。光架橋性基としては、例えば、光二量化反応性基;メタクリロイル基、アクリロイル基、芳香族ビニル基、ビニルエーテル基などのラジカル反応性基;エポキシ基、オキセタン基などのカチオン反応性基が挙げられ、光ラジカル発生剤や光カチオン発生剤を用いる必要がなく、膜とした際に長期安定性に優れることから、光二量化反応性基が好ましい。
【0044】
光二量化反応性基としては、例えば、けい皮酸基、カルコン基、スチルベニル基、スチルバゾリル基、クマリニル基、アントラセニル基、ナフトキノニル基、アセナフチル基、マレイミジル基、フェニルシクロヘキセノニル基、テトラセニル基、ベンザゼピニル基、ナフタレノニル基等が挙げられる。これらのなかでも光に対する光架橋性基の応答性、経済性、官能基として導入のしやすさの観点から、下記の式(11)、式(12)、式(13)、式(14)からなる群より選ばれる少なくとも一つの光二量化反応性基が好ましい。
【0045】
【化12】
(式(11)中、Mは水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、C~Cのアルキル基、C~Cの1級または2級アルキルアミノ基、C~Cのアルコキシ基または単結合からなる群の1種を示し、Mは同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基または単結合からなる群の1種を表す。Nは同一または異なって水素原子またはC~Cのアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アリール基からなる群の1種を表す。但し、1つのAおよび5つのAのうち、ただ1つが単結合で他の置換基と結合していることを示すものとする。)
【0046】
【化13】
(式(12)中、Mは同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基または単結合からなる群の1種を表す。Nは同一または異なって水素原子またはC~Cのアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アリール基からなる群の1種を表す。Lは存在しないかカルボニル基を表す。但し、10個のMのうち、ただ1つが単結合で他の置換基と結合していることを示すものとする。)
【0047】
【化14】
(式(13)中、Mは同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基または単結合からなる群の1種を表す。Nは同一または異なって水素原子またはC~Cのアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アリール基からなる群の1種を表す。但し、4つのMのうち、ただ1つが単結合で他の置換基と結合していることを示すものとする。)
【0048】
【化15】
(式(14)中、Mは同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基または単結合を表す。但し、10個のMのうち、ただ1つが単結合で他の置換基と結合していることを示すものとする。)
【0049】
具体的な式(11)で表される光二量化反応性基としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0050】
【化16】
【0051】
【化17】
【0052】
具体的な式(12)で表される光二量化反応性基としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0053】
【化18】
【0054】
【化19】
【0055】
具体的な式(13)で表される光二量化反応性基としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0056】
【化20】
【0057】
具体的な式(14)で表される光二量化反応性基としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0058】
【化21】
【0059】
そして、具体的なエチレン性不飽和単量体残基単位としては、容易に合成が可能となることから、式(15)表される残基単位であることが好ましい。
【0060】
【化22】
(式(15)中、Nは同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1~C6のアルキル基、シアノ基、またはアリール基からなる群の1を表す。Dは同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基からなる群の1種を表す。Jはハロゲン原子またはアリールエーテル基を表す。)
【0061】
フッ素系樹脂(B)は、式(16)で表される残基単位、式(17)で表される残基単位、または式(18)で表される残基単からなる群の少なくとも1種を有する。
【0062】
【化23】
【0063】
【化24】
【0064】
【化25】
(式(16)、式(17)、式(18)中、R30は水素基原子、ハロゲン原子、メチル基、またはトリフルオロメチル基からなる群の1種を表す。Rfは、末端がCFである炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキル基、末端がCFである炭素数3~6の分岐状のパーフルオロアルキル基または末端がCFである炭素数3~6の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を表す。Rfは、炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基、炭素数3~6の分岐状のパーフルオロアルキレン基または炭素数1~6の環状のパーフルオロアルキレン基からなる群の1種を表す。Rfは、末端がCFである炭素数1~5の直鎖状のパーフルオロアルキル基、末端がCFである炭素数3~5の分岐状のパーフルオロアルキル基または末端がCFである炭素数3~5の環状のパーフルオロアルキル基を表す。Rfは、炭素数1~5の直鎖状のパーフルオロアルキレン基、炭素数3~5の分岐状のパーフルオロアルキレン基または炭素数3~5の環状のパーフルオロアルキレン基からなる群の1種を表す。R31~R34は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子を表す。nは1~5の整数を表す。Xは存在しないか、またはCH、OもしくはSを表す。Lは連結基を表す。)
【0065】
式(16)および式(17)における、Rf1-(CR3=CR2-X-Rf2)n-の部分の具体的構造としては、例えば、C2F5-CH=CH-C4F8-、C2F5-CH=CF-C4F8-、C2F5-CF=CH-C4F8-、C2F5-CF=CF-C4F8-、C2F5-(CH=CH-C4F8)2-、C2F5-(CH=CH-C4F8)3-、C2F5-CH=CH-C6F12-、C4F9-CH=CH-C4F8-、C4F9-CH=CH-C6F12、C6F13-CH=CH-C4F8-、C6F13-CH=CH-C6F12-、C2F5-CH=CH-C4F8-、CF3-CF=CHCH2C4F8-、CF3-CF=CHCH2C6F12-、C3F7-CF=CHCH2C4F8-、C3F7-CF=CHCH2C6F12-、C5F11-CF=CHCH2C4F8-、C5F11-CF=CHCH2C6F12-、C2F5-CH2CH=CF-C3F6-、C2F5-CH2CH=CF-C5F10-、C4F9-CH2CH=CF-C3F6-、C4F9-CH2CH=CF-C5F10-、C6F13-CH2CH=CF-C3F6-、C6F13-CH2CH=CF-C5F10-、C6F13-(CH2CH=CF-C3F6)2-、C6F13-(CH2CH=CF-C3F6)3-などが挙げられる。
【0066】
本発明において、連結基Lは、容易に合成できるため、下記一般式(19)で示されることが好ましい。
【0067】
【化26】
【0068】
ここで式(19)中、lとmの合計は2~6の整数であり、l及び/またはmが2以上のとき、-CH2CH2-の代わりに-CH=CH-構造を含んでもよい。
Qは、存在しないか、または、-OCONH-、-CONH-、-O-、-NH-、-CO-O-、-O-CO-、-NHCONH-もしくは-C6H4-である。なお、Qが-C6H4-の場合、オルト体、メタ体、パラ体が例示できるが、パラ体が好ましい。
【0069】
フッ素系樹脂(B)において、式(18)で表される残基単位中のRf3基は、末端がCF3である炭素数1~5の直鎖状のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。これにより、自己会合構造をとりやすくなる。Rf4基は、炭素数1~5の直鎖状のパーフルオロアルキレン基が好ましい。
【0070】
式(18)における、Rf3-(CF=CR5-CR4=CF-Rf4)n-の部分の具体的構造としては、例えば、CF3-CF=CH―CH=CF-C3F6-、CF3-CF=CH―CH=CF-C5F10-、C3F7-CF=CH―CH=CF-C3F6-、C3F7-CF=CH―CH=CF-C5F10-、C5F11-CF=CF―CH=CF-C5F10-、C5F11-CF=CH―CF=CF-C5F10-、C5F11-CF=CF―CF=CF-C5F10-、C5F11-CF=CH―CH=CF-C3F6-、C5F11-CF=CH―CH=CF-C5F10-、CF3-(CF=CH―CH=CF-C5F10)2-、C3F7-(CF=CH―CH=CF-C5F10)2-、C5F11-(CF=CH―CH=CF-C5F10)2-などが挙げられる。
式(18)におけるR33及び/またはR34は水素原子であることが好ましい。
【0071】
具体的な式(16)に表される残基単位としては、例えば以下の構造が挙げられる。
【0072】
【化27】
【0073】
【化28】
【0074】
【化29】
【0075】
具体的な式(17)に表される残基単位としては、例えば以下の構造が挙げられる。
【0076】
【化30】
【0077】
具体的な式(18)に表される残基単位としては、例えば以下の構造が挙げられる。
【0078】
【化31】
【0079】
【化32】
【0080】
【化33】
【0081】
フッ素系樹脂(B)は、前述のエチレン性不飽和単量体残基単位や、式(16)~(18)以外に、他の単量体残基単位を含むことが好ましい。他の単量体残基単位としては、例えば、エチレン残基、プロピレン残基、1-ブテン残基等のオレフィン類残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基等のアクリル酸アルキルエステル類残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基等のメタクリル酸アルキルエステル類残基;スチレン残基、α-メチルスチレン残基等のビニル芳香族炭化水素類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基、ピバル酸ビニル残基等のカルボン酸ビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル類残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基等のN-置換マレイミド類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基等が挙げられる。
【0082】
フッ素系樹脂(B)は、エチレン性不飽和単量体残基単位を10モル%以上95モル%以下含むことが好ましく、さらに好ましくは20モル%以上90モル%以下、またさらに好ましくは25モル%以上80モル%以下含む。
【0083】
フッ素系樹脂(B)は、式(16)~(18)で表される残基単位を5モル%以上90モル%以下含むことが好ましく、さらに好ましくは10モル%以上80モル%以下含む。これにより、本発明の組成物をフォトリソグラフィーに使用した際に、より残渣の少ないデバイスを得ることができる。ここで特定の残基単位のモル%とは、フッ素系樹脂(B)における全ての残基単位のモル数の合計に対する、特定の残基単位のモル数として表すことができる。式(16)~(18)で表される残基単位のモル数は、式(16)、式(17)、式(18)の合計のモル数である。モル数は、プロトン核磁気共鳴測定の結果に基づき計算することができる。
【0084】
フッ素系樹脂(B)が、前述のエチレン性不飽和単量体残基単位や、式(16)~(18)以外に、他の単量体残基単位を含む場合、各残基単位成分の含有量は
エチレン性不飽和単量体残基単位 10mol%以上95mol%以下
式(16)~(18)の残基単位 5mol%以上90mol%以下
その他 4mol%以上85mol%以下
であることが好ましい。
【0085】
フッ素系樹脂(B)において、例えば、重量平均分子量が2000~10,000,000(g/モル)のものを用いることが出来る。得られる樹脂の溶液粘度、および力学強度の観点から、好ましくは10,000~1,000,000(g/モル)である。該分子量は、樹脂Aと同じく、GPC測定結果を標準ポリスチレン換算で行うことで得られる。
【0086】
樹脂組成物において、樹脂(A)が50wt%以上95wt%以下含むことが好ましく、フッ素系樹脂(B)は5wt%以上50wt%以下が好ましい。
【0087】
フッ素系樹脂(B)の製造方法としては、式(16)、(17)または(18)で表される残基単位と、エチレン性不飽和単量体残基単位を含む共重合体が得られる限り如何なる製造方法をも用いることができる。具体的な製造方法としては、(i)エチレン製不飽和単量体残基単位を有するモノマーを予め合成し、それをフッ素系モノマーと共重合する方法、(ii)一旦、他の官能基を有するフッ素系ポリマーを合成してから、その官能基を反応させる方法が挙げられる。
【0088】
(i)の場合、その中でも容易に製造可能であることから、前記した式(16)、式(17)または式(18)で表される残基単位を誘導するモノマーと、前記したエチレン性不飽和モノマーとをラジカル重合する方法を用いることが好ましい。
【0089】
(ii)の場合、式(16)~式(18)で表される残基単位と、側鎖に後に化学変換可能な官能基を有する単量体から誘導される残基単位とを含む共重合体(以下、「前駆体樹脂」という)を製造する方法としては、容易に製造可能であることからラジカル重合する方法が好ましく用いられる。
【0090】
式(16)を誘導するモノマーとしては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0091】
【化34】
【0092】
【化35】
【0093】
具体的な式(17)を誘導するモノマーとしては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0094】
【化36】
【0095】
具体的な一般式(18)を誘導するモノマーとしては、例えば以下の化合物が挙げらる。
【0096】
【化37】
【0097】
【化38】
【0098】
前記ラジカル重合は公知の重合方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれも採用可能である。
【0099】
ラジカル重合を行う際のラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーピバレート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0100】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0101】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、ラジカル重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、反応の制御が容易であることから、一般的には30~150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0102】
また、前記した前駆体樹脂に含まれる光架橋性基に変換可能な官能基としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、酸クロリド基、ヒドロキシル基、エポキシ基、オキセタニル基、アジド基、クロスカップリング反応が可能なハロゲン化アリール基、フリーデルクラフツ反応が可能な芳香族基、アミノ基およびカルボキシル基等と反応可能なイソシアネート基が挙げられ、優れた反応性を有し、ラジカル共重合を阻害しないことからエポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基、酸クロリド基が好ましい。
【0103】
前記の官能基を有する具体的な単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレート、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、6-アクリルアミドヘキサン酸、4-ビニル安息香酸、アクリル酸3-ヒドロキシ-1-アダマンチル、アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、メタクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3-ヒドロキシ-1-アダマンチル、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、ビニルフェノール、N-(4-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、3-アミノスチレン、4-アミノスチレン、メタクリル酸2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル、アクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル、メタクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル、3-ヨードスチレン、4-ヨードスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、N-フェニルメタクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、N-ベンジルマレイミド、アクリル酸2-イソシアナトエチル、メタクリル酸2-イソシアナトエチル等が挙げられる。
【0104】
前駆体樹脂に含まれる官能基を光架橋性基に変換する方法としては、本発明のフッ素系樹脂が得られる限り如何なる方法を用いてもよいが、例えば、側鎖にエポキシ基を有する前駆体樹脂に対して、光架橋性基を有するカルボン酸、エステル、アミン、酸クロリド(以下、「光架橋性化合物」という)を作用させる(以下、「エポキシ変性反応」という)ことで、本発明のフッ素系樹脂を得ることができる。このとき、エポキシの開環架橋反応によるゲル化が進行しにくいことからエステル、酸クロリドを用いることが好ましく、酸クロリドを用いることが特に好ましい。
【0105】
具体的な光架橋性化合物としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0106】
【化39】
【0107】
【化40】
【0108】
エポキシ変性反応は、反応触媒を用いて実施することができる。本発明では公知の触媒であるアンモニウム塩、ホスホニウム塩、アミン、クラウンエーテル錯体等を反応触媒として使用することが出き、具体的な反応触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、18-クラウン6-エーテル/酢酸カリウム錯体、18-クラウン6-エーテル/フッ化カリウム錯体、18-クラウン6-エーテル/臭化カリウム錯体、18-クラウン6-エーテル/ヨウ化カリウム錯体等が挙げられる。触媒の添加量としては、触媒の溶液への溶解性に限界があることや経済性の問題から前駆体樹脂が含有するエポキシ1モルに対し、0.01~0.7モルが好ましく、0.1~0.5モルが更に好ましい。
【0109】
該エポキシ変性反応は、反応溶剤を用いて実施することができる。該反応溶剤はエポキシ変性反応に対して安定であれば何ら制限なく使用でき、反応に対し不活性である十分に脱水された脂肪族炭化水素溶剤、エーテル溶剤、含硫黄溶剤、アミド溶剤等が好適に用いられる。脂肪族炭化水素溶剤としてはシクロヘキサン等が、エーテル溶剤としてはジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等が、含硫黄溶剤としては、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、スルホンジメチルスルホキシド等が、アミド溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が例示される。
【0110】
該エポキシ変性反応において、反応時間低減の観点から50℃から150℃が好ましい。該エポキシ変性反応において、反応時間は特に制限はなく、例えば、1時間から30時間が挙げられる。反応率および経済性の観点から、好ましくは1時間から15時間である。
【0111】
前記した(ii)において、側鎖に後に化学変換可能な官能基を有する単量体から誘導される残基単位としてメタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルを用い、光架橋性化合物として前記したけい皮酸誘導体の酸クロリド(例えば、けい皮酸クロリド)またはけい皮酸誘導体のアリールエステルを用いて該エポキシ変性反応を行うことにより、式(11)で表される光架橋性基を有するエチレン性不飽和単量体残基単位を含む樹脂を合成することができる。
【0112】
次に、本発明の樹脂組成物を用いた隔壁のパターン形成方法について説明する。
【0113】
まず、公知の塗膜形成方法によって、基材の表面にフッ素系樹脂の塗膜を形成する。
【0114】
基材としては、その材質は特に限定されるものではないが、例えば、各種ガラス板;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリイミドの熱可塑性プラスチックシート;エポキシ樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ(メタ)アクリル樹脂等の熱硬化性プラスチックシート等を挙げることができる。
【0115】
塗膜の形成方法としては、例えば、スピンコーティング、ドロップキャスト、ディップコーティング、ドクターブレードコーティング、パッド印刷、スキージコート、ロールコーティング、ロッドバーコーティング、エアナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング、フローコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スーパーフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等を用いることが出来る。
【0116】
次に、塗膜は乾燥される。乾燥することによって、溶剤が揮発し、粘着性のない塗膜が得られる。乾燥条件は、用いる溶剤の沸点や配合割合などによっても異なるが、好ましくは50~150℃、10~2000秒間程度の幅広い範囲で使用できる。
【0117】
塗膜形成時に、印刷手法を用いて所定のパターンを形成した際は、露光を行うことでパターンが光架橋し、固定化され、隔壁を形成できる。
【0118】
塗膜形成時にパターンを形成しなかった場合は、フォトリソグラフィ技術を用いて、塗膜に所定パターンを形成できる。
【0119】
フォトリソグラフィ技術を用いる場合、まず、乾燥された塗膜に所定パターンのマスクを介して露光し、光架橋させる。
【0120】
本発明の樹脂組成物を光架橋により硬化させる際、紫外線、可視光等の放射線が用いられ、例えば、波長245~350nmの紫外線が例示される。照射量は、例えば、150~3000mJ/cm2が挙げられ、架橋度の低下を防止し、かつ、プロセスの短時間化による経済性の向上のため、好ましくは100~1000mJ/cm2である。この範囲であることで、従来技術より高い照射量の紫外線を照射することができ、結果的に照射時間が短くなる、具体的な光照射装置または光源としては、例えば、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0121】
紫外線の照射は通常大気中で行うが、必要に応じて不活性ガス中、または一定量の不活性ガス気流下で行うことも出来る。必要に応じて光増感剤を添加して光架橋反応を促進させることも出来る。用いる光増感剤には何ら制限はなく、例えば、ベンゾフェノン化合物、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ニトロフェニル化合物等が例示されるが、本発明の樹脂組成物との相溶性が高いベンゾフェノン化合物が好ましい。また、該増感剤は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0122】
その後、現像液により現像し、未露光部分を除去する。現像液としては、未硬化のフッ素系樹脂が溶解する溶剤であれば如何なるものでもよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤等を用いることができる。
【0123】
現像時間は、30~300秒間が好ましい。また現像方法は液盛り法、ディッピング法などのいずれでもよい。現像後、溶剤で洗浄を行い、圧縮空気や圧縮窒素で風乾させることによって、基材上の溶剤を除去する。続いて、ホットプレート、オーブンなどの加熱装置により、好ましくは40~150℃で、5~90分間加熱処理をすることによって、パターンが形成される。
【0124】
上記のフォトリソグラフィ工程を経て画素パターンの隔壁を形成させた後、画素内の基材表面の汚れを除去してもよい。例えば、低圧水銀灯やエキシマUV等の短波長紫外線の照射や、光アッシング処理等により基材表面を洗浄することが挙げられる。光アッシング処理とはオゾンガス存在下、短波長紫外線を照射する処理である。前記短波長紫外線とは、100~300nmの波長にメインピークを有する光である。
【0125】
このように、本発明の樹脂組成物は、有機溶剤に可溶であり、光照射により架橋され硬化し、有機溶剤によって光の照射されていない部分が除去されるネガ型レジストとして使用できる。
【0126】
本発明の樹脂組成物を隔壁として用いる際、隔壁をまたいだインクの濡れ広がりを避けるため、隔壁のインクに対する接触角は50°以上であることが好ましい。
【0127】
本発明の樹脂組成物は光架橋させることで前記の隔壁として好適に使用できる。このような隔壁は電子デバイスに搭載されることから、本発明の樹脂組成物の光架橋させた光架橋物を備えた電子デバイスを提供することできる。
【0128】
本発明の樹脂組成物は、優れた撥液特性を有し、有機トランジスタ素子、カラーフィルター、有機EL素子を製造する際の隔壁材料に用いることができる。また、本発明の樹脂組成物は前記の有機トランジスタ素子、カラーフィルター、有機EL素子を含む電子バイスに用いることができる。
【0129】
本発明の樹脂組成物を有機トランジスタに用いるとき、該有機トランジスタは、基板上にゲート絶縁層を有し、更にこのゲート絶縁層の上に有機半導体層を成膜し、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を付設することにより得られる。
【0130】
本発明の有機トランジスタは図1に示すボトムゲート-トップコンタクト型(A)、ボトムゲート-ボトムコンタクト型(B)、トップゲート-トップコンタクト型(C)、トップゲート-ボトムコンタクト型(D)のいずれの素子構造でもよい。ここで、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁層、5はソース電極、6はドレイン電極を示す。
【0131】
該有機トランジスタにおいて、用いることが出来る基材は素子を作製できる十分な平坦性を確保できれば特に制限されず、例えば、ガラス、石英、酸化アルミニウム、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;プラスチック;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属;セラミックス;コート紙;表面コート不織布等が挙げられ、これらの材料からなる複合材料又はこれらの材料を多層化した材料であっても良い。また、表面張力を調整するため、これらの材料表面をコーティングすることも出来る。
【0132】
基材として用いるプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン-1、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレンブロック共重合体等が例示される。また、上記のプラスチックを2種以上用いて積層して基材として用いることができる。
【0133】
本発明で用いることが出来る有機半導体には何ら制限はなく、N型およびP型の有機半導体の何れも使用することができ、N型とP型を組み合わせたバイポーラトランジスタとしても使用できる。また、低分子および高分子の有機半導体の何れも用いることができ、これらを混合して使用することも出来る。具体的な化合物としては、例えば式(F-1)~(F-10)等が例示される。
【0134】
【化41】
【0135】
【化42】
【0136】
【化43】
【0137】
【化44】
【0138】
【化45】
【0139】
【化46】
【0140】
【化47】
【0141】
【化48】
【0142】
【化49】
【0143】
【化50】
【0144】
本発明において、有機半導体層を形成する方法としては、有機半導体を真空蒸着する方法、または有機半導体を有機溶剤に溶解させて塗布、印刷する方法等が例示される。
【0145】
本発明の樹脂組成物は、有機溶媒をさらに含むことが好ましい。これにより塗布、印刷法に好適に用いることができる。
有機半導体層を有機溶剤に溶解させた溶液を用いて塗布、または印刷する場合の溶液濃度は有機半導体の構造および用いる溶剤により異なるが、より均一な半導体層の形成および層の厚みの低減の観点から、0.5%~5重量%であることが好ましい。この際の有機溶剤としては有機半導体が製膜可能な一定の濃度で溶解する限り何ら制限はなく、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、デカリン、インダン、1-メチルナフタレン、2-エチルナフタレン、1,4-ジメチルナフタレン、ジメチルナフタレン異性体混合物、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、メシチレン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、テトラリン、オクチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、γ-ブチロラクトン、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、グリセリン、シクロヘキサノールアセテート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、3-メトキシブチルアセテート、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、エチルアセテート、フェニルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-N-プロピルエーテル、テトラデカヒドロフェナントレン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロフェナントレン、デカヒドロ-2-ナフトール、1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトール、α-テルピネオール、イソホロントリアセチンデカヒドロ-2-ナフトール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、2,6-ジメチルアニソール、1,2-ジメチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、1-ベンゾチオフェン、3-メチルベンゾチオフェン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトフェノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、リモネン等が例示されるが、好ましい性状の結晶膜を得るためには有機半導体の溶解力が高く、沸点が100℃以上の溶剤が適しており、キシレン、イソプロピルベンゼン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、1,2-ジクロロベンゼン、3,4-ジメチルアニソール、ペンチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デカヒドロ-2-ナフトールが好ましい。また、前述の溶剤2種以上を適切な割合で混合した混合溶剤も用いることが出来る。
【0146】
有機半導体層には必要に応じて各種有機・無機の高分子若しくはオリゴマー、又は有機・無機ナノ粒子を固体若しくは、ナノ粒子を水若しくは有機溶剤に分散させた分散液として添加でき、上記絶縁層上に高分子溶液を塗布して保護膜を形成出来る。更に、必要に応じて本保護膜上に各種防湿コーティング、耐光性コーティング等を行うことが出来る。
【0147】
本発明で用いることが出来るゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極としては、アルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、ポリシリコン、シリサイド、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、クロム、白金、チタン、タンタル、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機電極、又はドープされた導電性高分子(例えば、PEDOT-PSS)等の有機電極等の導電性材料が例示され、これらの導電性材料を複数、積層して用いることもできる。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極に表面処理剤を用いて表面処理を実施することもできる。このような表面処理剤としては、例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオール等を挙げることができる。
【0148】
また、前記の基材、絶縁層または有機半導体層の上に電極を形成する方法に特に制限はなく、蒸着、高周波スパッタリング、電子ビームスパッタリング等が挙げられ、前記導電性材料のナノ粒子を水又は有機溶剤に溶解させたインクを用いて、溶液スピンコート、ドロップキャスト、ディップコート、ドクターブレード、ダイコート、パッド印刷、ロールコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スーパーフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等の方法を採用することも出来る。
【0149】
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、移動度が0.20cm/Vs以上であることが好ましい。
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、オン電流/オフ電流比が10以上であることが好ましい。
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、ソース・ドレイン間電流のヒステリシスが無いことが好ましい。
【発明の効果】
【0150】
本発明によれば、有機トランジスタ素子および電子デバイスの作成において、有機溶剤に可溶で、常温かつ短時間の露光で光架橋させることにより溶剤に不溶化、撥液性を示すとともに、未架橋部位を有機溶剤で除去する際に残渣が残らない樹脂組成物による隔壁を利用するプロセスを提供することができる。これにより、残渣の影響がなく高い性能のデバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
図1】;有機トランジスタの断面形状を示す図である。
【実施例
【0152】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0153】
実施例において、樹脂の組成、分子量、スピンコート、膜厚測定、UV照射、耐溶剤性(残膜率)、接触角、及び表面張力、撥液性評価、隔壁の形成、残渣評価については、以下に示す条件・装置で実施した。
【0154】
<樹脂の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM-ECZ400S)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析より求めた。
<分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、40℃条件下、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
<スピンコート>
ミカサ株式会社製MS―A100を用いた。
<膜厚測定>
ブルカー社製Dektak XT スタイラスプロファイラーを用いて測定した。
<UV照射>
(株)ジーエス・ユアサ コーポレーション製UV-System、CSN-40A-2を用い、UV強度4.0kW/cmの条件で、搬送速度を変えてUV照射時間を調整した。
<耐溶剤性(残膜率)>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス基材(コーニング社製Eagle XG)上に、スピンコータ―を用いて組成物の溶液を乾燥後の膜厚が500nmとなるようにスピンコート製膜し、十分に乾燥させた。この絶縁膜に100mJ/cmの紫外線を照射して組成物膜を光架橋した。この膜の厚みをブルカー社製Dektak XT スタイラスプロファイラーにより測定し、Tとした。次に、この光架橋した組成物膜がコーティングされたガラス板を組成物の良溶剤であるキシレンに1分浸漬後、取り出してホットプレート用いて100℃で1分乾燥した後の膜厚を測定してTとした。これらの膜厚測定値を用いて、残膜率(R)を下記の式により算出した。
R=T/T×100(%)
ここで、溶剤としてはm-キシレンを用いた。
残膜率が高いほどUVによる組成物の架橋度が高く、耐溶剤性に優れることを示す。一方、残膜率Rが0の場合には組成物膜が完全に溶解し、耐溶剤性に劣ることを示す。
【0155】
<接触角、及び表面張力>
液体、及び基材の表面張力をそれぞれγ、及びγとするとき、γ>γの場合には液体は基材にはじかれ、接触角θは大きくなる(例えば、接触角θ≧60)。一方、γ<γの場合には液体は基材上に濡れ広がり、接触角θは小さくなる(例えば、接触角θ<50)。
接触角は協和界面科学(株)製の接触角計ドロップマスターDM300を用いて測定した。なお、組成物の表面張力γは下記(1)~(3)の手順に従い求めた。
(1)ガラス上に組成物をスピンコートして成膜した組成物膜へγ とγ が既知である水、及びジヨードメタンの接触角θを測定した。
(ここで、γ は表面張力の分散項、γ は表面張力の極性項を表す)
(2)得られた水とジヨードメタン、それぞれの接触角をθ、θとする。下記のOwens Wendtの式を用いて組成物膜の表面張力の分散項(γ )、及び極性項(γ )を求めた。
【0156】
【数1】
【0157】
【数2】
(ここで、θ、γL1、γL1 、及びγL1 は水の接触角、表面張力、表面張力の分散項、及び、表面張力の極性項を、θ、γL2、γL2 、及びγL2 はジヨードメタンの接触角、表面張力、表面張力の分散項、及び、表面張力の極性項を、γ、γ 、及びγ は組成物膜の表面張力、表面張力の分散項、及び、表面張力の極性項を表す。)
(3)γ 、及びγ から下記の式によって組成物膜の表面張力γを求めた。
【0158】
【数3】
【0159】
<撥液性評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)上の表面張力を上記の接触角測定方法で測定した後、ガラス上にスピンコータ―を用いて組成物の溶液を乾燥後の膜厚が100nmとなるようにスピンコート製膜し、100mJ/cmの紫外線を照射した後、上記の方法で表面張力を算出、表面張力25mN/m以下は撥液性ありで判断した。
<隔壁の形成>
10cm×10cmの石英ガラスに、一辺が10ミクロンの正方形を縦に10個、横に10個配列した形状をクロムでパターニングしたマスク(隔壁形成用マスク)を用いた。基材上に印刷した厚み100nmの組成物膜上にマスクを配置し、100mJ/cmの紫外線を照射した後、未架橋部分を組成物のm-キシレンで洗浄除去することにより、膜上に50×50μmサイズの穴が100個空いた形状の隔壁を形成した。
<残渣評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス基材(コーニング社製Eagle XG)上の表面張力を上記の接触角測定方法で測定した後、ガラス上にスピンコータ―を用いて組成物の溶液を乾燥後の膜厚が100nmとなるようにスピンコート製膜し、十分に乾燥させた。この組成物膜がコーティングされたガラス板をm-キシレンに1分間洗浄後、取り出してアセトンとIPAでリンスしホットプレート用いて十分乾燥させた。乾燥したガラス板を上記の接触角測定方法で測定し下記の式を用いて表面張力差が3mN/m以下は残渣なし、3mN/m超過は残渣ありで判断した。
表面張力差 : 基材の表面張力-洗浄後の表面張力
【0160】
合成例1
反応、精製、乾燥は全てイエローライト下、又は遮光下で行った。なお、合成例において、イエローライト下又は遮光下で行ったのは、光二量化性化合物の架橋反応、及び光二量化性化合物が導入された重合体の光架橋反応を防ぐためである。
【0161】
(フッ素系樹脂前駆体の製造)
容量10mLのガラスアンプルに式(20)に表される化合物 1.58g(2.1ミリモル)、メタクリル酸メチル 0.63g(6.3ミリモル)およびメタクリル酸グリシジル 1.78g(1.8ミリモル)、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン 0.08g(0.36ミリモル)、重合開始剤としてパーヘキシルND(日油製) 0.08g(過酸化物分子として0.30ミリモル)を入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを45℃の恒温槽に入れ、8時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、2-ブタノン15gで溶解させた。このポリマー溶液を、メタノール50mL中に滴下して析出させた後、メタノール50mLで2回洗浄した。さらに30℃で8時間真空乾燥することにより、フッ素系樹脂前駆体1を1.62g得た(収率:40%)。また、H-NMR測定により、共重合体組成は、式(20)に由来する残基単位/メタクリル酸メチル残基単位/メタクリル酸グリシジル残基単位=7.9/24.1/68.0(モル%)であることを確認した。
【0162】
【化51】
【0163】
(フッ素系樹脂の製造)
容量50mLのシュレンク管を加熱乾燥後、窒素雰囲気下、フッ素系樹脂前駆体1を1g、けい皮酸クロリド0.75g、触媒としてテトラエチルアンモニウムクロリド0.25g、脱水テトラヒドロフラン10mL加え、活栓で密封した。フッ素系樹脂前駆体2が溶解するまで室温で攪拌した後、75℃のオイルバス中10時間攪拌した。得られた樹脂溶液を、メタノール50mL中に滴下して析出させた後、メタノール50mLで2回洗浄した。さらに30℃で4時間真空乾燥することにより、フッ素系樹脂を1.2g得た。また、H-NMR測定により、原料のメタクリル酸グリシジル残基単位が減少し、式(22)に表される残基単位に変換されていることを確認した。その結果、H-NMR測定によりフッ素系樹脂1の共重合組成は、式(20)に由来する残基単位/メタクリル酸メチル残基単位/式(21)に表される残基単位=8.5/26.1/65.4(モル%)であることを確認した。
【0164】
【化52】
【0165】
<光架橋性樹脂の合成>
合成例2
光架橋性樹脂の合成は特開2018-154814の方法を参照して合成した。
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に重量平均分子量28万のポリスチレン5.0g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド4.0gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートにトリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMS」という)9.0gを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートからTFMSを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム10.6gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過後、1.5Lのメタノールで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、50℃で減圧乾燥して6.8gの樹脂1を得た。
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂1(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ59モル%、及び41モル%有していることを確認した。
【0166】
【化53】
【0167】
合成例3
光架橋性樹脂の合成は特開2018-154814の方法を参照して合成した。
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管にポリスチレン-b-ポリ(エチレン・プロピレン)-b-ポリスチレン((株)クラレ製、商品名:セプトン2104) 3.0g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド6.3gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を0℃以下に冷却し、TFMS8.44gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で29時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム9.45gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過した。引き続き、本濾液をシリカゲルカラムに通して不純物を除去、脱色した後、1.5Lのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して4.9gの樹脂2を得た。
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂2(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ39モル%、及び61モル%有していることを確認した。
【0168】
【化54】
【0169】
合成例4
光架橋性樹脂の合成は特開2018-154814の方法を参照して合成した。
桂皮酸クロリドをクマリン-6-カルボン酸クロリドに変えた以外は、合成例2と同様の手法で、樹脂3を得た。
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂3(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ75モル%、及び25モル%有していることを確認した。
【0170】
【化55】
【0171】
実施例1
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例2で得られた樹脂 24mg、合成例1で得られたフッ素系樹脂 6mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0172】
実施例2
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例3で得られた樹脂 24mg、合成例1で得られたフッ素系樹脂 6mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0173】
実施例3
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例4で得られた樹脂 24mg、合成例1で得られたフッ素系樹脂6mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0174】
比較例1
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例1で得られたフッ素系樹脂30mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0175】
比較例2
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例2で得られた樹脂 30mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0176】
比較例3
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例3で得られた樹脂 30mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0177】
比較例4
空気下、2mlサンプル管に、m-キシレン2g、合成例4で得られた樹脂 30mgを加え常温で溶解させることで、組成物溶液を調製した。その後、上記の耐溶剤性、撥液性、隔壁形成、残渣評価を行った。耐溶剤性、撥液性、隔壁形成の結果は表1と残渣評価の結果は表2に示す。
【0178】
【表1】
【0179】
【表2】
図1