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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】細胞分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240501BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240501BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240501BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0775
C12N5/09
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019181181
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2020174660
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2019080779
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅越 綾
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131561(JP,A)
【文献】特開2006-223195(JP,A)
【文献】特開2018-087316(JP,A)
【文献】特開2005-295969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メトキシエチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、N-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位を含むブロック共重合体のみを被覆した細胞培養器材に2種類以上の細胞を播種する工程と、
前記細胞培養器材から前記ブロック共重合体に非接着の細胞を除く工程と、
前記細胞培養器材を下限臨界溶解温度(LCST以下に冷却して前記ブロック共重合体に接着した細胞を回収する工程と、
を含んでなることを特徴とする細胞分離方法であって、
播種する細胞が、TIG3-20細胞、TIG3-60細胞、A549細胞、PC9細胞、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞、ヒト歯髄由来間葉系幹細胞、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞、ヒト肝癌由来細胞及び/又はヒト結腸腺癌細胞であって、
前記N-イソプロピルアクリルアミドの被覆量が0.1~20.0μg/cmであ方法。
【請求項2】
前記細胞培養器材の形状が、ディッシュ、プレート又はフラスコであることを特徴とする請求項1に記載の細胞分離方法。
【請求項3】
前記ブロック共重合体に接着した細胞を回収した後に、当該細胞に対して前記N-イソプロピルアクリルアミドの被覆量が前回と同量以上の前記細胞培養器材を用いて、請求項1または2のいずれかに記載の方法を繰返すことを特徴とする細胞分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療やテーラーメード治療などの被検体由来の細胞が必要な分野において、目的細胞を効率よく分離・検出・培養する技術が必要とされる。これまでに目的細胞を分離する方法として、蛍光標識された抗体を目的細胞の表面タンパク質に修飾して分離するフローサイトメトリーや、磁気標識された抗体を目的細胞の表面タンパク質に修飾して外部磁場で分離する磁気細胞分離法など、イムノアフィニティに関する技術が主流である。しかし、使用する抗体などの試薬が高価であり、ランニングコストが高いという課題がある。また、イムノアフィニティ技術は細胞の表面タンパク質に抗体を修飾することで細胞にダメージを与えてしまう課題もある。将来的な再生医療分野等の発展のためには、安価に目的細胞を低侵襲で分離できる細胞分離技術が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、目的細胞を低侵襲で分離できる細胞分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、以上の点を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明の一態様は、下限臨界溶解温度(LCST)を示すセグメントを含むブロック共重合体を被覆した細胞培養器材に2種類以上の細胞を播種する工程と、前記細胞培養器材から前記ブロック共重合体に非接着の細胞を除く工程と、前記細胞培養器材をLCST以下に冷却して前記ブロック共重合体に接着した細胞を回収する工程と、を含んでなることを特徴とする細胞分離方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、安価に目的細胞を低侵襲で分離できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一態様について詳細に説明するが、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0008】
LCSTとは下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)であり、この温度よりも低い温度では高分子が水に溶解して透明の溶液になるが、この温度よりも高い温度では不溶化して白濁するか沈殿が生じ、相分離する温度である。
【0009】
ブロック共重合体は、2種類以上の繰り返し単位からなる重合体で、それぞれ同種の繰り返し単位からなる高分子鎖が、1本の鎖の中に結合している重合体をいう。
【0010】
下限臨界溶解温度(LCST)を示すセグメントを含むブロック共重合体は、特に限定はないが、重合が容易なことから、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含む構造であることが好ましい。下限臨界溶解温度(LCST)を示すセグメントの繰返し単位(以下、「LCST繰返し単位」ということがある)とその水に対するLCSTは、例えば、N-エチルアクリルアミド(LCST=72℃)、N-シクロプロピルアクリルアミド(LCST=46℃)、N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=22℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST=28℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(LCST=35℃)、N,N-ジエチルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-シクロプロピルメタクリルアミド(LCST=59℃)、N-イソプロピルメタクリルアミド(LCST=44℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=28℃)、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST=35℃)、N-メチル-N-エチルアクリルアミド(LCST=56℃)、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=23℃)、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=20℃)、またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(LCST=47℃)等が例示できる。LCSTの上限は、細胞培養温度は一般的に高温ではタンパク質変性に伴う細胞へのダメージが発生することから42℃が好ましく、40℃がより好ましい。また、LCSTの下限は、低温での細胞活性の低下を避ける為に、10℃が好ましく、20℃がより好ましい。LCST繰返し単位としては、その繰り返し単位を1種類のみ用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、ブロック共重合体が温度変化によって親水性/疎水性の程度が変化する性質(以下、「温度応答性」ということがある)を有するのであれば、LCST繰返し単位の他に、異なる繰返し単位を含んでも良い。
【0011】
ブロック共重合体を構成するセグメントの数は2以上であればよく、3以上であっても構わない。ブロック共重合体中のLCST繰返し単位の構成割合は、5~95mol%であることが好ましく、30~90mol%であることがより好ましく、40~80mol%であることがさらに好ましい。ブロック共重合体を構成するセグメントには、温度応答性及び細胞培養器材への被覆性を向上させるために、LCSTを示すセグメントのほかに、0℃~50℃の範囲にLCSTを持たない、HLB値(グリフィン法)が9以上20以下の範囲にある親水性重合体セグメントと、0℃~50℃の範囲にLCSTを持たない、HLB値(グリフィン法)が0以上9未満の範囲にある疎水性重合体セグメントをさらに含んでいることが好ましい。これらのセグメントは、特開2018-087316号公報に記載されたセグメントを用いることができる。
【0012】
細胞培養器材へのブロック共重合体の被覆方法として特に限定はないが、例えば特開2018-087316号公報に記載された定法を用いることができる。ブロック共重合体のLCSTを示すセグメントの被覆量は、0.1μg/cm以上20.0μg/cm以下の割合で被覆されることが好ましく、0.2μg/cm以上10.0μg/cm以下の割合で被覆されることがより好ましい。被覆量の測定は定法に従えばよく、例えば、天秤を用いた秤量を利用すればよい。なお、細胞培養器材の形状としては、ディッシュ、プレート又はフラスコが例示できる。
【0013】
細胞培養用器材には、ブロック共重合体の表面にさらに細胞外マトリックスを被覆してもよい。細胞外マトリックスの種類は特に限定は無く、例えば、コラーゲン、アテロコラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、プロテオグリカン、グルコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、ゼラチン、ラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ナイドジェン1,2等を主成分として含有するマトリゲルを用いてもよく、これらを一種又は二種以上用いてもよい。また、これら細胞外マトリックスのセグメントであってもよい。
【0014】
細胞の種類(以下、「細胞種」ということがある)は2種類以上であれば特に限定はなく、3種類以上であってもよい。用いる細胞種の組合せは特に限定はないが、線維芽細胞及び/又は上皮細胞は好適に本発明に用いられる。それ以外にも、血球系細胞、神経系や内臓系を構築する細胞といった異種細胞種が混合した状態や、間葉系幹細胞などの分化能を有した細胞の分化状態が異なる状態に対しても本発明を用いることは可能であるが、接着細胞であることが好ましい。また、ヒト以外の細胞であってもよく、例えば、マウスやハムスター、ウサギやサルといった哺乳類由来の細胞や、昆虫由来の細胞であってもよい。さらに継代数の異なる同種細胞であってもよい。
【0015】
培地は特に限定はなく、イーグル最小必須培地(MEM)などの基礎培地にウシ胎児血清等の血清や抗生物質などが添加された培地を用いてもよいし、細胞外マトリックスが添加された無血清培地を用いてもよい。培地中の血清濃度や細胞外マトリックス濃度は特に限定はなく、各々の細胞種で細胞分離に適した濃度を用いればよい。例えば、牛胎児由来血清の濃度であれば1~30vol%が好ましく、5~20vol%がより好ましい。
【0016】
本発明の細胞分離方法は、上述したブロック共重合体を被覆した細胞培養器材に2種類以上の細胞を播種する工程(以下、「播種工程」ということがある)と、前記細胞培養器材から前記ブロック共重合体に非接着の細胞を除く工程(以下、「除去工程」ということがある)と、前記細胞培養器材をLCST以下に冷却して前記ブロック共重合体に接着した細胞を回収する工程(以下、「回収工程」ということがある)と、を含んでなる。
【0017】
播種工程では、一部の細胞種が接着しない又は接着率が低くなるよう、ブロック共重合体の被覆量、培地中の血清濃度、培養時間の調整などを一つ又は組み合わせて行う。ただし、培養時間に関しては、30分間~12時間とすることが好ましく、1時間から3時間がより好ましい。
【0018】
除去工程では、非接着の細胞を、例えばピペッターを用いて培地ごと回収する方法が例示できる。非接着の細胞除去後はLCST以上から42℃以下のPBS又は培地(血清を含んでいても良い)を先述の細胞培養器材に加えて洗浄してもよい。
【0019】
回収工程では、ブロック共重合体に残存した細胞を回収する。冷却する方法は特に限定はなく、冷所で冷却しても良いし、冷却した培地で培地交換することで冷却しても良い。冷却する温度はLCST以下の温度であれば特に限定はないが、残存した細胞の回収を促すため、LCSTより2℃以上低い温度が好ましく、LCSTより4℃以上低い温度がより好ましい。冷却時間は、40分未満が好ましく、20分未満がより好ましく、10分未満がさらに好ましい。冷却後は細胞培養器材から剥離した細胞を回収することができるが、細胞培養器材からの剥離が不完全な場合は、ピペッティングやタッピング、振とうなどの物理的衝撃を加えてもよい。
【0020】
回収工程で回収した細胞は、さらに本発明の細胞分離方法を繰り返すことで、さらに細胞を分離・精製することができる。二回目の細胞分離を行う際は、一回目の細胞分離の際よりもブロック共重合体のLCSTを示すセグメントの被覆量を同量以上とした細胞培養器材を用いることが好ましい。三回目の細胞分離を行う際は、二回目の細胞分離の際よりもブロック共重合体のLCSTを示すセグメントの被覆量を同量以上とすることが好ましい。例えば3種類の細胞a、b、c(ブロック共重合体への接着性 c>b>a)を培養する場合において、一回目の操作で非接着細胞aを分離し、冷却処理でb及びcの混合物を回収できる。さらに二回目の操作でブロック共重合体のLCSTを示すセグメントの被覆量を上げた細胞培養器材を用いることで、非接着細胞bを分離し、冷却処理でcの混合物を回収できる。
【実施例
【0021】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0022】
<ブロック共重合体の合成>
100mL2口フラスコに2-メトキシエチルアクリレート(MEA,HLB値=13.5)0.650g(5mmol)を加え、さらにシアノメチルドデシルカルボナトを31.8mg(100μmol)とアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)と1,4-ジオキサン10mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
1回目の加熱撹拌後、上記にn-ブチルアクリレート(BA,HLB値=6.9)3.845g(30mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)と1,4-ジオキサン5mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で48時間加熱撹拌した。
2回目の加熱撹拌後、上記にN-イソプロピルアクリルアミド(IPAAm,LCST=32℃、HLB値=7.6)7.355g(65mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)と1,4-ジオキサン35mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で48時間加熱撹拌した。
3回目の加熱撹拌後、反応液を水で再沈精製し、減圧乾燥することで黄色固体を得た。
得られた黄色固体をクロロホルムに溶解し、分液ロートを用いクロロホルム相を回収した。回収したクロロホルム相をエバポレーターで濃縮し、ヘキサンで再沈精製した。沈殿物をろ過で回収し、減圧乾燥することで、ブロック共重合体poly(MEA-BA-IPAAm)を5.805g得た。得られたブロック共重合体の組成比はMEA/BA/IPAAm=5/26/69(mol%)であり、数平均分子量Mnは8.5万、分子量分布Mw/Mnは1.78であった。
【0023】
<ブロック共重合体の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM-ECZ400S/L1)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(1H-NMR)スペクトル分析より求めた。
<ブロック共重合体の分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製 HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー製 TSKgel SuperAWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む2,2,2-トリフルオロエタノールを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(Sigma-Aldrich社製)を用いた。
<細胞培養器材のLCSTを示すセグメントの被覆量>
ブロック共重合体を被覆した細胞培養器材のLCSTを示すセグメント(IPAAm)の被覆量はIPAAmセグメントの被覆量を全反射型フーリエ変換型赤外分光(ATR/FT-IR)法により解析した。解析には被覆量が既知のサンプルから作成した検量線を用い、単位面積当たりのLCSTを示すセグメントの被覆量(μg/cm)で評価した。
【0024】
<播種した細胞数の計測>
播種する細胞の数は血球計算盤を用いて計測した。血球計算盤の四隅の1mm区画内の全細胞を数え、全細胞数を(区画中の全生細胞の平均値)×希釈倍率×培地量(mL)×10000で算出した。
<細胞種の割合解析>
予め、細胞の種類ごとに、色素の異なるCellTrackerTM(Themofisher Scientific社製)を用い、細胞を染色した。混合済みの染色した細胞の懸濁液を細胞培養器材に播種し、37℃、5%CO条件で所定の時間培養後、非接着の細胞を培地ごと除去した後の培養器材上の残存細胞を、対物レンズ10倍の共焦点定量イメージサイトメーターCQ1(横河電機社製)を用い画像撮影を行った。画像解析はImageJを用い、一例として、CellTrackerTM Blue CMACで染色した細胞は色相124~255、CellTrackerTM Green CMFDAで染色した細胞は色相60~100、CellTrackerTM Orange CMTMRで染色した細胞は色相0~30で各細胞の面積を割り出し、細胞当たりの染色面積で割ることで、細胞種の割合を解析した。
【0025】
実施例1
2.0wt%のブロック共重合体の2-メトキシエタノール溶液を調製した。IWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)の中央にブロック共重合体/2-メトキシエタノール溶液を100μL加え、スピンコータ―(ミカサ社製、商品名MS-B200)を用いて、回転数2,000rpm、回転時間60秒の条件でスピンコートすることで、ブロック共重合体を被覆した細胞培養器材(1)を調製した。器材培養面のIPAAmセグメントの被覆量は5.8μg/cmであった。
調製した細胞培養器材(1)を用いてTIG3-20細胞(CellTrackerTM blue CMACで染色済み)とA549細胞(CellTrackerTM Green CMFDAで染色済み)とPC9細胞(CellTrackerTM ORANGE CMTMR)を1×10個ずつ含む細胞懸濁液を播種した。培地はD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを用い、37℃、5%CO条件で1時間共培養した。ブロック共重合体に非接着の細胞を培地ごと除去した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表1に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれ、PC9細胞の比率が75.7%の細胞懸濁液を回収できた。
【0026】
実施例2
4.0wt%のブロック共重合体の2-メトキシエタノール溶液を用いたことは実施例1記載の方法でブロック共重合体を被覆した細胞培養器材(2)を調製した。器材培養面のIPAAmセグメントの被覆量は13.3μg/cmであった。
細胞培養器材(2)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で培養した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表1に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれ、PC9細胞の比率が89.4%の細胞懸濁液を回収できた。
【0027】
比較例1
細胞培養器材としてIWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で培養した。非接着細胞除去後の残存細胞率を表1に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行ったが、細胞が剥がれなかった。
【0028】
比較例2
細胞培養器材としてセルシード社製UpCellR(φ6cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で培養した。非接着細胞除去後の残存細胞率を表1に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれたが、細胞分離されていない細胞懸濁液の回収となった。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例3
細胞培養器材(1)を用いて、実施例1と同様の方法で培養した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表2に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで、PC9細胞の比率が76.3%の細胞懸濁液を回収した。
回収したPC9細胞の比率が高い細胞懸濁液を細胞培養器材(2)に播種した。培地はD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを用い、37℃、5%CO条件で1時間共培養した。ブロック共重合体に非接着の細胞を培地ごと除去した。
非接着細胞除去後の残存細胞率を表2に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで、PC9細胞の比率が95.0%の細胞懸濁液を回収できた。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例4
0.4wt%のブロック共重合体の2-メトキシエタノール溶液を調製した。IWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)の中央にブロック共重合体/2-メトキシエタノール溶液を100μL加え、スピンコータ―(ミカサ社製、商品名MS-B200)を用いて、回転数2,000rpm、回転時間60秒の条件でスピンコートすることで、ブロック共重合体を被覆した細胞培養器材(3)を調製した。器材培養面のIPAAmセグメントの被覆量は0.5μg/cmであった。
調製した細胞培養器材(3)を用いてヒト骨髄由来間葉系幹細胞(CellTrackerTM ORANGE CMTMRで染色済み)とRAMOS細胞(CellTrackerTM Green CMFDAで染色済み)を1×10個ずつ含む細胞懸濁液を播種した。培地はD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを用い、37℃、5%CO条件で1時間共培養した。ブロック共重合体に非接着の細胞を培地ごと除去した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表3に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれ、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の比率が99.0%の細胞懸濁液を回収できた。
【0033】
【表3】
【0034】
実施例5
1.5wt%のブロック共重合体の2-メトキシエタノール溶液を調製した。IWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)の中央にブロック共重合体/2-メトキシエタノール溶液を100μL加え、スピンコータ―(ミカサ社製、商品名MS-B200)を用いて、回転数2,000rpm、回転時間60秒の条件でスピンコートすることで、ブロック共重合体を被覆した細胞培養器材(4)を調製した。器材培養面のIPAAmセグメントの被覆量は4.0μg/cmであった。
調製した細胞培養器材(4)を用いてヒト歯髄由来間葉系幹細胞(CellTrackerTM ORANGE CMTMRで染色済み)とヒト脂肪由来間葉系幹細胞(CellTrackerTM Green CMFDAで染色済み)を1×10個ずつ含む細胞懸濁液を播種した。培地はD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを用い、37℃、5%CO条件で1時間共培養した。ブロック共重合体に非接着の細胞を培地ごと除去した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表4に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれ、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞の比率が85.2%の細胞懸濁液を回収できた。
【0035】
【表4】
【0036】
実施例6
2.5wt%のブロック共重合体の2-メトキシエタノール溶液を調製した。IWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)の中央にブロック共重合体/2-メトキシエタノール溶液を100μL加え、スピンコータ―(ミカサ社製、商品名MS-B200)を用いて、回転数2,000rpm、回転時間60秒の条件でスピンコートすることで、ブロック共重合体を被覆した細胞培養器材(5)を調製した。器材培養面のIPAAmセグメントの被覆量は6.9μg/cmであった。
調製した細胞培養器材(5)を用いてヒト肝癌由来細胞HepG2(CellTrackerTM ORANGE CMTMRで染色済み)とヒト結腸腺癌細胞HCT116(CellTrackerTM Green CMFDAで染色済み)を1×10個ずつ含む細胞懸濁液を播種した。培地はD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを用い、37℃、5%CO条件で1時間共培養した。ブロック共重合体に非接着の細胞を培地ごと除去した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表5に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれ、ヒト結腸腺癌細胞HCT116の比率が98.1%の細胞懸濁液を回収できた。
【0037】
【表5】
【0038】
実施例7
1.0wt%のブロック共重合体の2-メトキシエタノール溶液を調製した。IWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)の中央にブロック共重合体/2-メトキシエタノール溶液を100μL加え、スピンコータ―(ミカサ社製、商品名MS-B200)を用いて、回転数2,000rpm、回転時間60秒の条件でスピンコートすることで、ブロック共重合体を被覆した細胞培養器材(6)を調製した。器材培養面のIPAAmセグメントの被覆量は2.6μg/cmであった。
調製した細胞培養器材(6)を用いてTIG3-20細胞(CellTrackerTM ORANGE CMTMRで染色済み)とTIG3-60細胞(CellTrackerTM Green CMFDAで染色済み)を1×10個ずつ含む細胞懸濁液を播種した。培地はD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを用い、37℃、5%CO条件で1時間共培養した。ブロック共重合体に非接着の細胞を培地ごと除去した。非接着細胞除去後の残存細胞の割合を表6に示す。残存細胞を含む細胞培養器材へ4℃に冷却した培地を加え、10分放置後にピペッティングを行うことで細胞が剥がれ、TIG3-20細胞の比率が83.3%の細胞懸濁液を回収できた。
【0039】
【表6】