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  • 特許-細胞の回収方法および検出方法 図1
  • 特許-細胞の回収方法および検出方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】細胞の回収方法および検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
G01N33/48 P
G01N33/48 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020021345
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021128014
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長岡 正人
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104556(WO,A1)
【文献】カナダ国特許出願公開第03096533(CA,A1)
【文献】The Membrane-Active Tri-Block Copolymer Pluronic F-68 Profoundly Rescues Rat Hippocampal Neurons from Oxygen-Glucose Deprivation-Induced Death through Early Inhibition of Apoptosis,The Journal of Neuroscience,2013年,Vol.33, No.30,pp.12287-12299,DOI: 10.1523/JNEUROSCI.5731-12.2013
【文献】Roles of Magnesium and Calcium Ions in Cell-to-Substrate Adhesion,Experimental Cell Research,1972年,Vol.74, No.1,pp.51-60,DOI: 10.1016/0014-4827(72)90480-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
C12N 1/00 - 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む懸濁液を、当該細胞を保持可能な保持部を設けた細胞保持手段に導入する工程と、
誘電泳動力を用いて、前記保持部に前記細胞を保持させる工程とを含む、細胞の回収方法であって、
前記懸濁液の分散媒が、二価金属イオンおよび非イオン界面活性剤を共に含む等張液である、
前記回収方法。
【請求項2】
細胞を含む懸濁液を、当該細胞を保持可能な保持部を設けた細胞保持手段に導入する工程と、
誘電泳動力を用いて、前記保持部に前記細胞を保持させる工程と、
前記保持された細胞を検出する工程とを含む、細胞の検出方法であって、
前記懸濁液の分散媒が、二価金属イオンおよび非イオン界面活性剤を共に含む等張液である、
前記検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる細胞を回収し検出する方法に関する。特に本発明は試料中に含まれる細胞を誘電泳動力を用いて回収し、当該回収した細胞を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれる細胞の機能解析や性状改変などを行なう際、当該細胞の操作を電気物理的刺激により行なうことがある。前記操作を行なうためには、細胞を保持可能な保持部表面に対して、導電性高分子もしくは金属によるコーティングまたは成膜処理を行ない、基材表面の導電性を高める処理が必要である。また前記保持部に導入する試料の分散媒も、細胞への影響が低く、かつ電気伝導度が低い緩衝液とする必要がある。さらに細胞を前記導電性を高めた保持部表面に安定に接着させるために、当該表面を細胞接着性高分子により修飾させたり、電解重合法により導電性高分子膜を形成させたり、蒸着法などにより棒状の導電性構造体膜を形成させたりしている。
【0003】
例えば、試料中に含まれる細胞の回収を、当該細胞1個が入る微細孔を設けた細胞保持手段に前記試料を導入し、誘電泳動力を利用して前記細胞を1細胞単位で微細孔内に保持させて行なう場合、前記微細孔表面に細胞接着性高分子であるポリ-L-リジンを修飾して前記細胞の微細孔への保持力を向上させ、かつ前記試料の分散媒を電気伝導率の低い糖を含む緩衝液として誘電泳動することで、微細孔に前記細胞を保持させ回収する。回収した細胞は、例えば当該細胞の表面タンパク質に対する標識抗体分子を用いて検出できる(特許文献1および非特許文献1)。細胞の微細孔への保持力を向上させる方法としては、前述したポリ-L-リジンを用いた方法の他にも、オレイン酸を末端に有する化合物を修飾する方法が知られており、当該方法は細胞の種類に依存せず安定に生細胞を保持できる(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、前述した回収および検出方法では試料の分散媒として、生理的な緩衝液よりも電気伝導率の低い緩衝液を用いている。そのため、微細孔への細胞保持力が低下または消失するおそれがあった。また標識抗体分子を用いて検出する際、抗原抗体間の相互作用が生理的な緩衝液と比較して弱まるため、検出感度が低くなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-100940号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Morimoto et al.,PLoS ONE,10(6):e0130418(2015)
【文献】Kato et al.,BioTechniques,35,1014-1021(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、試料中に含まれる細胞を、当該細胞を保持可能な保持部を設けた細胞保持手段に、誘電泳動力を用いて安定的に保持させて回収する方法、および前記保持した細胞を高精度に検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明の第一の態様は、
細胞を含む懸濁液を、当該細胞を保持可能な保持部を設けた細胞保持手段に導入する工程と、
誘電泳動力を用いて、前記保持部に前記細胞を保持させる工程とを含む、細胞の回収方法であって、
前記懸濁液の分散媒が、二価金属イオンおよび非イオン界面活性剤を含む等張液である、前記回収方法である。
【0010】
また本発明の第二の態様は、
細胞を含む懸濁液を、当該細胞を保持可能な保持部を設けた細胞保持手段に導入する工程と、
誘電泳動力を用いて、前記保持部に前記細胞を保持させる工程と、
前記保持された細胞を検出する工程とを含む、細胞の検出方法であって、
前記懸濁液の分散媒が、二価金属イオンおよび非イオン界面活性剤を含む等張液である、前記検出方法である。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、懸濁液中に含まれる細胞を、細胞を保持可能な保持部を設けた細胞保持手段に、誘電泳動力を用いて保持させる際、当該懸濁液の分散媒を二価金属イオンおよび非イオン界面活性剤を含む等張液とすることを特徴としている。
【0013】
本発明において、細胞を含む懸濁液の分散媒に含ませる二価金属イオンは、タンパク質間の相互作用を安定化させる効果がある。そのため前記保持部への細胞接着性向上、および前記保持部に保持された細胞の検出精度の向上に寄与する。分散媒に含ませる二価金属イオンの例として、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガン(II)イオン、カルシウムイオンがあげられる。なお前記金属イオンは単独で含ませてもよく、複数種類を混合して含ませてもよい。本発明において分散媒に含ませる二価金属イオンの好ましい例として、マグネシウムイオンがあげられる。分散媒に含ませる二価金属イオンの濃度に特に限定はない。一例として、二価金属イオンとしてマグネシウムイオンを用いる場合、0.5mM以上2mM以下の範囲とすればよい。二価金属イオンを分散媒に含ませるには、水溶性の二価金属塩(二価金属イオンがマグネシウムイオンを用いる場合は、塩化マグネシウムなど)を添加して含ませればよい。
【0014】
本発明において、細胞を含む懸濁液の分散媒に含ませる非イオン界面活性剤は、前記保持部への夾雑物質の非特異的な接着を抑制する効果がある。そのため前記保持部への細胞接着性向上に寄与する。分散媒に含ませる非イオン界面活性剤に特に限定はなく、一例として、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween 20、Tween 80(以上、商品名)、n-オクチル-β-D-グルコシド、n-オクチル-β-D-チオグルコシド、ポロキサマーがあげられる。中でもポロキサマーの一つである、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(商品名:Pluronic F-68)は、分散媒に含ませる非イオン界面活性剤の好ましい例である。分散媒に含ませる非イオン界面活性剤の濃度は、非特異的な接着を抑制できる範囲で適宜設定すればよい。例えば、細胞がiPS細胞であり、非イオン界面活性剤としてPluronic F-68を用いる場合、懸濁液中に0.05%(w/v)以上含ませるとよく、0.1%(w/v)以上含ませると好ましく、0.3%(w/v)以上含ませるとより好ましく、1.0%(w/v)以上含ませるとさらにより好ましい。
【0015】
本発明において、細胞を含む懸濁液の分散媒は等張液である。なお本明細書において等張液とは、前記細胞内溶液の浸透圧と等しいまたは略等しい溶液のことを指す。具体的には280mOsm以上310mOsm以下の範囲とするとよく、好ましくは290mOsm以上300mOsm以下の範囲である。等張液にするための化合物は、水に可溶であり、細胞培養用途に利用できるほど細胞への傷害性が低く、かつ電気伝導率が低いものであれば、いかなる化合物でもよい。前記化合物の好ましい例として、細胞へのダメージの少ない、スクロース、マンニトール、キシリトールなどの糖類が挙げられる。なお等張液にするための化合物は単独でも複数種類混合してもよく、また用いる濃度も適宜設定してよい。
【0016】
細胞を含む懸濁液の分散媒に、中性付近を維持可能な緩衝剤をさらに添加すると、細胞へのダメージが軽減できる点で好ましい。なお本明細書において中性付近とは、例えばpH6.8以上7.8以下、好ましくはpH7.2以上7.6以下である。前記緩衝剤は、水に可溶であり、前述した中性付近を維持でき、かつ細胞培養用途に利用できるほど細胞への傷害性が低い化合物であれば特に限定はない。前記化合物の一例として、2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)が挙げられる。緩衝剤としてHEPESを用いる場合、分散媒への添加濃度は、終濃度として0.1mM以上10mM以下、好ましくは1mM以上5mM以下、さらに好ましくは2mM以上3mM以下である。
【0017】
本発明において、細胞を含む懸濁液の分散媒の電気伝導率は200μS/cm以下であると好ましく、150μS/cm以下であるとより好ましい。
【0018】
本発明により保持部に保持された細胞は、顕微鏡を用いて明視野像を直接観察することで検出してもよく、当該細胞の表面および/または内部に発現している物質に対する標識抗体や、当該細胞の表面タンパク質と親和性を有した標識レクチンなどを用いて検出してもよい。一例として、前記細胞がiPS細胞である場合、蛍光色素などで標識した、抗TRA-1-60抗体、抗SSEA-4抗体、またはBC2LCNを用いて検出すればよい。
【0019】
細胞保持手段は、少なくとも1つの細胞保持部を有した構造体であればよく、細胞保持部の例として、細胞を保持可能な凹部または貫通孔や、細胞を固定可能な材料で被覆した平面または凸部があげられる。細胞保持の確実性の観点から凹部または貫通孔が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、前記懸濁液中に含まれる細胞の電気的な操作、細胞表面の特異的な分子の検出、および細胞の基材への安定的な接着を同時に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例2で用いた細胞保持手段を示した図である。(a)は分解図であり、(b)は正面図である。
図2図1に示す細胞保持手段を用いた、誘電泳動力による保持部への細胞保持を示した図。(a)は交流電圧印加前(誘電泳動力なし)の、(b)は交流電圧印加後(誘電泳動力あり)の、それぞれ明視野像写真である。
図3】二価金属イオン添加の有無による、蛍光標識抗体による染色強度を比較した結果を示した図。
図4】非イオン界面活性剤添加の有無による、保持部への細胞接着性を比較した結果を示した図。
図5】二価金属イオン添加の有無による、保持部への細胞接着性を比較した結果を示した図。
【実施例
【0022】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1 分散媒の調製
表1の#1から#5に示す組成からなる水溶液をそれぞれ調製後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターで濾過滅菌し調製した。調製した分散媒は使用するまで4℃で保管した。
【0024】
【表1】
【0025】
実施例2 細胞保持手段への細胞保持
実施例1で調製した分散媒のうち#2を用いて細胞を懸濁後、細胞保持手段に設けた保持部への細胞保持を試みた。
【0026】
(1)細胞懸濁液の調製
(1-1)ヒトiPS細胞株である201B7株(iPSアカデミアジャパンより購入)をiMatrix(ニッピ社製)がコートされたポリスチレンプレート上で、StemFit AK02N培地(味の素社製)を用いて培養した。
(1-2)培養後の細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で一度洗浄後、Accutase溶液(Sigma-Aldrich社製)で剥離処理した。
(1-3)剥離した細胞を1000rpmで5分間遠心分離することで回収した。
(1-4)回収した細胞を分散媒#2で洗浄し、遠心分離で回収後、再度分散媒#2に懸濁させることで細胞懸濁液を調製した。
【0027】
(2)誘電泳動力による細胞保持
以下に示す方法で(1)で調製した細胞懸濁液を細胞保持手段に導入し、誘電泳動力を用いて当該手段に設けた保持部への保持を試みた。なお本実施例では細胞保持手段として、図1に示す細胞保持装置100を用いた。図1に示す細胞保持装置100は、
貫通孔11aを有した平板状の遮光部材11と、貫通孔12aを有した平板状の絶縁体12と、導入口13a、排出口13bおよび貫通部13cを有した平板状のスペーサ13とからなる細胞導入保持手段10と、
細胞導入保持手段10を上下方向に密着して挟むよう設けた電極21・22と、
電極21・22同士を接続する導線30と、
電極21・22に信号を印加する信号発生器40とを備えている。
遮光部材11が有する貫通孔11aと絶縁体12が有する貫通孔12aとは互いに同一の寸法および形状であり、かつそれぞれの貫通孔の位置が一致するよう遮光部材11および絶縁体12を設けている。貫通孔11a、貫通孔12aおよび遮光部材11の下部に密着して設けた電極基板21により保持部50が構成され、導入口13aから細胞を含む液体を導入すると、貫通部13cを通じて保持部50へ細胞60が導入される。電極22はスペーサ13上部に密着して設けている。
(2-1)図1に示す基板100に設けた導入口13aから、(1)で調製した細胞懸濁液を導入し、信号発生器40から電極21・22へ周波数1MHzの交流電圧を10分間印加することで誘電泳動力を発生させ、細胞60を保持部50へ導入した。
(2-2)保持部50に保持された細胞を、位相差顕微鏡(CKX53:オリンパス社製)を用いてCMOSカメラで撮影し、誘電泳動力による細胞の移動を観察した。
【0028】
位相差顕微鏡下での明視野像観察結果を図2に示す。交流電圧印加前は、保持部50以外の部分に、多数の細胞60が観察された(図2(a))が、交流電圧印加後は、ほぼすべての細胞60が保持部50に移動した(図2(b))。以上の結果から、#2の分散媒で細胞を懸濁させても誘電泳動力を用いた細胞保持ができることが示された。
【0029】
実施例3 分散媒の違いによる細胞検出への影響
(1)実施例2(1-1)から(1-3)に記載の方法で取得した培養iPS細胞をPBSで洗浄後、病理組織固定剤(マイルドホルム10N:富士フイルム和光純薬社製)を添加し、室温で10分間静置することで細胞固定を行なった。
【0030】
(2)PBSで洗浄後、0.2%(v/v)Triton X-100(商品名)を含むPBS溶液を添加し、室温で2分間静置することで細胞膜透過処理を行なった。
【0031】
(3)PBSで3回洗浄後、1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS溶液(BSA/PBS溶液)を添加し、室温で1時間静置することで非特異的反応の抑制処理を行なった。
【0032】
(4)BSA/PBS溶液の除去後、Alexa Fluor 488標識抗SSEA-4抗体(BioLegend社製)、Alexa Fluor 488標識抗TRA-1-60抗体(Merck社製)またはFITC標識rBC2LCNレクチン(富士フイルム和光純薬社製)、および核染色試薬である2-(4-amidinophenyl)-1H-indole-6-carboxamidine(DAPI)を、BSA/PBS溶液で希釈した溶液を添加し、室温で2時間静置することで標識処理を行なった。
【0033】
(5)PBSで3回洗浄後、実施例1で調製した分散媒#1もしく#2またはPBSを添加し、室温で1時間静置した。
【0034】
(6)PBSで3回洗浄後、共焦点定量イメージサイトメーター(CQ1:横河電機社製)を用いて核染色試薬および標識マーカー由来の蛍光画像を撮像し、PBSを添加したときの蛍光強度を100%とした相対的蛍光強度を算出した。
【0035】
結果を図3に示す。二価金属イオンであるマグネシウムイオンを添加した分散媒#2では、全てのマーカーでPBSと同等の蛍光強度を有していた。一方、二価金属イオンを添加しない分散媒#1では、rBC2LCNを用いたとき蛍光強度が低下した。このことから二価金属イオンを含まない分散媒で細胞を懸濁させると、当該細胞の検出に悪影響を与える可能性があることがわかる。
【0036】
実施例4 分散媒の違いによる細胞接着への影響(その1)
(1)評価用基板の作製
(1-1)1cm×1cmのITO被覆ガラス基板に対して、超音波洗浄機用洗剤(1%(v/v)コンタミノンUS:富士フィルム和光純薬社製)、超純水、100%エタノールの順で超音波洗浄を行なった。なお超音波洗浄はいずれも、37kHz、600Wの条件で20分間行なった。
(1-2)超音波洗浄後、0.1mMホスホン酸誘導体(11-AUPA)/エタノール溶液中に一晩浸漬した。11-AUPAは、炭素数11の炭化水素基の末端にリン酸基とアミノ基とを有したホスホン酸誘導体であり、同仁化学研究所社製のものを用いた。
(1-3)基板を乾燥させ余分な溶液を除去後、120℃で2時間加熱処理を行ない、11-AUPAを脱水縮合により固定化させた。
(1-4)100%エタノール中で超音波洗浄を行ない、未反応物の除去と表面洗浄を行なった。
(1-5)基板をPBSで洗浄後、細胞接着性分子(SUNBRIGHT OE-040CS:油化産業社製、末端にNHS基を有したオレイン酸-PEG化合物)をPBSに0.1mM含ませた溶液を添加し、一晩反応させることで、前記細胞接着性分子を基板に固定化し、評価用基板を得た。
【0037】
(2)細胞接着性評価
(2-1)(1)で作製した評価用基板をPBSで洗浄後、実施例2(1-1)から(1-3)に記載の方法で取得した培養iPS細胞をStemFit AK02N培地、または1%(w/v)BSAもしくは1%(w/v)Pluronic F-68を含むStemFit AK02N培地で懸濁させた液を播種した。
(2-2)COインキュベーター内で37℃で10分間静置し、細胞を評価用基板に接着させた。
(2-3)評価用基板をPBSで洗浄し、接着しなかった細胞を除去後、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所社製)を1/10の濃度で添加した培地中で2時間培養し、450nmの吸光度で当該基板に接着した細胞数を定量的に評価した。
【0038】
結果を図4に示す。分散媒に非イオン界面活性剤であるPluronic F-68を添加することで、StemFit AK02N培地のみを用いたときと比較し、評価用基板への細胞接着性が向上した。一方、非イオン界面活性剤の代わりにBSAを分散媒に添加すると、StemFit AK02N培地のみを用いたときと比較し、評価用基板への細胞接着性は低下した。このことから細胞懸濁液の分散媒に非イオン界面活性剤を含ませることで、評価用基板への夾雑物質の非特異的な接着が抑制され、評価用基板への細胞接着率が向上することがわかる。
【0039】
実施例5 分散媒の違いによる細胞接着への影響(その2)
実施例4(2-1)で播種する細胞懸濁液の分散媒を、StemFit AK02N培地、または分散媒#1から#4のいずれかにした他は、実施例4と同様な方法で評価用基板への細胞接着性を評価した。
【0040】
結果を図5に示す。二価金属イオンおよび非イオン性界面活性剤を含む分散媒(分散媒#2および分散媒#4)を用いたときは、StemFit AK02N培地を用いたときと比較し、細胞接着性が向上した。一方、非イオン界面活性剤は含む一方、二価金属イオンは含まない分散媒(分散媒#1および#3)を用いたときは、StemFit AK02N培地を用いたときと比較し、細胞接着性が低下した。このことから細胞懸濁液の分散媒に非イオン界面活性剤とともに二価金属イオンも含ませることで、タンパク質間の相互作用を安定化し、評価用基板への細胞接着率が向上することがわかる。
【符号の説明】
【0041】
100:細胞保持装置
10:細胞導入保持手段
11:遮光部材
12:絶縁体
11a、12a:貫通孔
13:スペーサ
13a:導入口
13b:排出口
13c:貫通部
21・22:電極基板
30:導線
40:信号発生器
50:保持部
60:細胞
図1
図2
図3
図4
図5