(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】多孔フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 5/32 20060101AFI20240501BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20240501BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240501BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B5/32
C08J9/00 A
B32B27/30 Z
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2020056568
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-004771(JP,A)
【文献】特開2018-001450(JP,A)
【文献】特開2014-087948(JP,A)
【文献】特開2010-171003(JP,A)
【文献】特開2000-072908(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも多孔層(I)及び多孔層(II)を有する多孔フィルムであり、
前記多孔層(II)が前記多孔フィルムの両面側の表面層を構成し、且つ、前記多孔層(I)が中層である少なくとも2種3層の構造を有し、
前記多孔層(I)は、ポリオレフィン系樹脂及びビニル芳香族エラストマーを含み、且つ、前記ビニル芳香族エラストマーが前記ポリオレフィン系樹脂のマトリクス中にドメインを形成する海島構造を有し、
前記多孔層(II)は、β晶活性を有し
、
パームポロメーターにより測定した前記多孔フィルムの平均細孔径が0.050μm以下であ
り、且つ、最大細孔径が0.80μm以下である多孔フィルム。
【請求項2】
前記多孔フィルムの断面にて測定される、前記多孔層(I)の平均孔径と前記多孔層(II)の平均孔径との差が1.0μm以上である、請求項1に記載の多孔フィルム。
【請求項3】
温度230℃、荷重2.16kgにおいて測定した前記ビニル芳香族エラストマーのメルトフローレートが1.0g/10分以下である、請求項1又は2に記載の多孔フィルム。
【請求項4】
前記多孔層(II)がβ晶核剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【請求項5】
厚みが50~300μmであり、且つ、透気度が300秒/dL以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【請求項6】
少なくとも一軸方向に延伸された延伸フィルムである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の多孔フィルムを用いた医療用包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの多孔層を有する多孔フィルムに関する。
【0002】
多数の微細な空孔を有する多孔フィルムは、衣類・衛生材料等に使用する透湿防水性フィルム、水処理に使用する各種フィルター、電子機器の断熱材、住宅・建材等に使用する断熱フィルムあるいは電池等に使用する電池用セパレータ等各種分野で幅広く利用されている。
また、医療用包装材の分野においては、高圧蒸気や酸化エチレンガスによる滅菌処理を伴う場合があるため、包装後も内外に通気性を有する多孔フィルムや不織布が使用されている。
【0003】
従来、ディスポーサブル注射器や注射針等の医療器具は、ブリスター包装等の包装体に収納した後、高圧蒸気や酸化エチレンガス・放射線照射により滅菌処理される。このように医療用包装材は、前記滅菌処理を行うため、特に汎用性の高い高圧蒸気や酸化エチレンガス滅菌において、十分な通気性が必要とされる。具体的には、滅菌処理に必要なガス及び径0.0004μmの水蒸気を透過させる通気性が必要とされており、多孔フィルムや不織布が医療用包装材として有用である。
更に、医療用包装材においては、滅菌処理後に各種細菌の包装材内部への侵入を防ぐ菌バリア性を有する必要があるため、多孔フィルムや不織布の多孔構造は微細であることが好ましく、各種細菌の通過を可能とするような粗大な孔径が存在しないことが望ましいとされている。
【0004】
ところで、多孔フィルムや不織布を医療用包装材として使用する際には、主にヒートシールにて医療器具を包装する。そのため多孔フィルムや不織布には、剥離時にヒートシール部分と非ヒートシール部分の境界でフィルムが裂けるエッジ切れや、ヒートシール部分と非ヒートシール部分の境界で繊維が裂ける繊維裂けの課題がある。
【0005】
このような多孔フィルムを用いた医療用部材として、例えば特許文献1には、表地、第一接着剤層、透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、第二接着剤層及び裏地の順に積層一体化されてなる積層布帛において、前記表地及び裏地はポリエステル系繊維を主体として構成されており、前記第一及び第二接着剤層は、何れも透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物から構成されており、更に前記第一及び第二接着剤層のうち、一方は全面状に形成され、他方は非全面状に形成されていることを特徴とする洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛について開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ポリオレフィン系多孔フィルムとポリオレフィン系繊維層とを含んでなる多孔性積層体であり、121℃で30分熱処理した後の透湿度が150g/m2・h以上であり、121℃で30分熱処理した後の熱収縮率が長手方向及び幅方向ともに5%以下である多孔性積層体について開示されている。
このように特許文献1及び2では、多孔質フィルムに繊維部材を複合化することで、優れた強度と菌バリア性を両立できるとしている。
【0007】
更に、例えば特許文献3には、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマー25~75質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物にて形成され、前記ポリプロピレン樹脂を主成分として含む海部と、前記ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを主成分として含む島部とからなる海島構造を有する微多孔フィルムであって、前記ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーの230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0~0.1g/10分であることを特徴とする二軸延伸微多孔フィルムが開示されており、プロピレン樹脂に対し特定のエラストマーを添加し、多孔化することで、均一な多孔構造を形成でき、医療用部材として好適に使用できるとしている。
【0008】
一方、ヒートシール後剥離時の繊維裂けを防ぐ方法として、例えば特許文献4には、少なくとも1つの多孔性不織ウェブを含んでなる気体透過性シート材料であって、フラッシュ紡糸網状フィラメント不織布シート、スパンボンド-フィルム-スパンボンド複合シート、スパンボンド-メルトブローン-スパンボンド複合シート、スパンレースポリエステル/木材パルプ複合シート、及び紙よりなる群から選択される、気体透過性シート材料と、その少なくとも1つの面を被覆するポリマーコーティングとを含んでなるコーティングされた多孔性シート材料であって、コーティングされたシート材料の気体透過性が、コーティングのない同等のシート材料の気体透過性に実質的に等しい、コーティングされた多孔性シート材料が開示されており、不織布とコーティングされた多孔質シートの複合化部材により、ヒートシール後剥離時の繊維裂けを防いでいる。
【0009】
また、特許文献5には、少なくとも、直鎖状低密度ポリエチレン、ビカット軟化点が20~50℃であり且つ密度が0.900g/cm3未満であるオレフィン系共重合体、及び無機充填剤を含む原料より形成され、未延伸フィルムを延伸することにより多孔質化して製造されたことを特徴とする袋体構成部材用多孔質フィルムが開示されており、多孔質フィルムに使用される樹脂の密度を調整することでヒートシール後の剥離時におけるエッジ切れを改良している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-224405号公報
【文献】特開2015-163465号公報
【文献】特開2016-216726号公報
【文献】特開2009-196362号公報
【文献】特開2013- 1435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、加工時のヒートシール性が良好で、ヒートシール後のエッジ切れを防止し、且つ、滅菌処理後に滅菌状態を維持する菌バリア性にも優れた、多孔フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は下記[1]~[10]に関する。
[1]少なくとも多孔層(I)及び多孔層(II)を有する多孔フィルムであり、前記多孔層(I)は、ポリオレフィン系樹脂及びビニル芳香族エラストマーを含み、且つ、前記ビニル芳香族エラストマーが前記ポリオレフィン系樹脂のマトリクス中にドメインを形成する海島構造を有し、前記多孔層(II)は、β晶活性を有し、且つ、前記多孔フィルムの少なくとも一面側の表面層を構成し、パームポロメーターにより測定した前記多孔フィルムの平均細孔径が0.050μm以下である多孔フィルム。
【0013】
[2]前記多孔フィルムの断面にて測定される、前記多孔層(I)の平均孔径と前記多孔層(II)の平均孔径との差が1.0μm以上である、前記[1]に記載の多孔フィルム。
[3]温度230℃、荷重2.16kgにおいて測定した前記ビニル芳香族エラストマーのメルトフローレートが1.0g/10分以下である、前記[1]又は[2]に記載の多孔フィルム。
[4]前記多孔層(II)がβ晶核剤を含む、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【0014】
[5]最大細孔径が0.80μm以下である、前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
[6]厚みが50~300μmであり、且つ、透気度が300秒/dL以下である、前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
[7]少なくとも一軸方向に延伸された延伸フィルムである、前記[1]~[6]のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【0015】
[8]前記多孔層(I)が中層である、前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
[9]前記多孔層(II)が前記多孔フィルムの両面側の表面層を構成し、且つ、前記多孔層(I)が中層である少なくとも2種3層の構造を有する、前記[1]~[8]のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
[10]前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の多孔フィルムを用いた医療用包装材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加工時のヒートシール性が良好で、ヒートシール後のエッジ切れを防止し、且つ、滅菌処理後に滅菌状態を維持する菌バリア性にも優れた、多孔フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例3の多孔フィルムのTD方向の断面を走査型電子顕微鏡にて撮影した断面像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
なお、本明細書において、数値の記載に関する「A~B」という用語は、「A以上B以下」(A<Bの場合)又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0019】
[多孔フィルム]
本実施形態の一例に係る多孔フィルム(以下、「本発明のフィルム」とも称する。)は、少なくとも多孔層(I)及び多孔層(II)を有する多孔フィルムであり、
前記多孔層(I)は、ポリオレフィン系樹脂及びビニル芳香族エラストマーを含み、且つ、前記ビニル芳香族エラストマーが前記ポリオレフィン系樹脂のマトリクス中にドメインを形成する海島構造を有し、前記多孔層(II)は、β晶活性を有し、且つ、前記多孔フィルムの少なくとも一面側の表面層を構成し、パームポロメーターにより測定した前記多孔フィルムの平均細孔径が0.050μm以下であるものである。
本発明のフィルムは、特定の樹脂材料により形成された海島構造を有する多孔層(I)と、β晶活性を有する多孔層(II)とを備え、且つ、パームポロメーターにより測定した平均細孔径を0.050μm以下に調整しているため、優れたヒートシール性と、ヒートシール後の剥離時のエッジ切れ防止性と、菌バリア性とを兼ね備えている。
また、本発明の多孔フィルムは、ガス等の発泡剤を用いずに、延伸に伴う多孔化により多孔層を形成することができることから環境適合性が高い。
【0020】
<多孔フィルムの平均細孔径>
本発明のフィルムの平均細孔径(以下、平均細孔径を「MFP径」とも称する。)は、0.050μm以下である。本発明においては多孔フィルムの平均細孔径を0.050μm以下とすることで、微細な多孔構造を形成することができ、ウィルスや細菌に対する菌バリア性を向上させることができる。また、ヒートシール後の剥離時のエッジ切れ防止性も向上させることができる。前記観点から、本発明のフィルムのMFP径は、好ましくは0.001~0.050μm、より好ましくは0.005~0.045μm、更に好ましくは0.010~0.040μmである。
【0021】
<多孔フィルムの最大細孔径>
本発明のフィルムの最大細孔径(以下、当該最大細孔径を「BP径」とも称する。)は、好ましくは0.80μm以下、より好ましくは0.65μm以下、更に好ましくは0.50μm以下である。本発明のフィルムの最大細孔径を0.80μm以下とすることで、各種細菌に対する菌バリア性が向上し、更に高圧蒸気滅菌時にも内部に水滴が侵入することを防ぐことができる。前記観点から、本発明のフィルムのBP径は、好ましくは0.10~0.80μm、より好ましくは0.15~0.65μm、更に好ましくは0.20~0.50μmである。
【0022】
本発明のフィルムのMFP径及びBP径は、JIS K3832:1990に準拠したバブルポイント法にて、パームポロメーター(PMI社製、500PSIタイプ)を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
なお、本発明のフィルムのMFP径及びBP径は、後述する多孔層(I)及び多孔層(II)を設けることで上記の範囲に調整することができる。
【0023】
<多孔層(I)>
前記多孔層(I)は、ポリオレフィン系樹脂及びビニル芳香族エラストマーを含み、且つ、前記ビニル芳香族エラストマーが前記ポリオレフィン系樹脂のマトリクス中にドメインを形成する海島構造を有するものである。本発明においては、ポリオレフィン系樹脂とビニル芳香族エラストマーによる海島構造を形成して多孔化することにより、多孔層(I)中に形成される孔の径を多孔層(II)よりも大孔径とすることができる。
なお、多孔層(I)の孔径は、前記ポリオレフィン系樹脂及び前記ビニル芳香族エラストマーの種類や含有量の選択、多孔フィルムの延伸条件の選択等により、制御することができる。
【0024】
〔多孔層(I)形成用樹脂組成物〕
前記多孔層(I)は、ポリオレフィン系樹脂及びビニル芳香族エラストマーを含む樹脂組成物(以下、「多孔層(I)形成用樹脂組成物」とも称する。)から形成される。
(ポリオレフィン系樹脂)
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えばエチレンや、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン又は1-デセン等のα-オレフィンを重合した単独重合体又は共重合体が挙げられ、これらの中でも、ポリプロピレン系樹脂又はポリエチレン系樹脂を用いることが好ましく、多孔フィルムの耐熱性の観点から、ポリプロピレン系樹脂を使用することがより好ましい。
なお、本発明においては、ポリオレフィン系樹脂として、前記単独重合体又は共重合体を2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
(ポリエチレン系樹脂)
前記ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等が挙げられる。
【0026】
(ポリプロピレン系樹脂)
前記ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)又は、プロピレンと、エチレンや、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン又は1-デセン等のα-オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体等が挙げられる。
前記ポリプロピレン系樹脂としては、これの中でも、機械的強度を向上させる観点から、ホモポリプロピレンが好ましい。
【0027】
前記ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が、好ましくは80~99%、より好ましくは83~98%、更に好ましくは85~97%である。アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、本発明のフィルムの機械的強度が良好になる。
一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0028】
前記ポリプロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが、好ましくは1.5~10.0、より好ましくは2.0~8.0、更に好ましくは2.0~6.0である。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、良好な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定される。
【0029】
また、前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、好ましくは0.5~15g/10分、より好ましくは1.0~10g/10分である。前記ポリプロピレン系樹脂のMFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。
なお、本発明においてMFRはJIS K7210-1:2014に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した値を指す。
【0030】
前記ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0031】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば商品名「ノバテックPP」、「WINTEC」(日本ポリプロ株式会社製)、「バーシファイ」、「ノティオ」、「タフマーXR」(三井化学株式会社製)、「ゼラス」、「サーモラン」(三菱ケミカル株式会社製)、「住友ノーブレン」、「タフセレン」(住友化学株式会社製)、「プライムポリプロ」、「プライム TPO」(株式会社プライムポリマー製)、「Adflex」、「Adsyl」、「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー株式会社製)、「インスパイア」(ダウ・ケミカル日本株式会社)等市販されている商品を使用できる。
【0032】
多孔層(I)形成用樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の含有量は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、通常、90質量%以下である。多孔層(I)形成用樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の含有量が前記範囲内であれば、ビニル芳香族エラストマーがポリオレフィン系樹脂のマトリクス中にドメインを形成する海島構造を得やすくなると共に、本発明のフィルムの機械的強度が良好になる。
【0033】
(ビニル芳香族エラストマー)
前記ビニル芳香族エラストマーとは、スチレン成分を基材とした熱可塑性エラストマーの1種で、軟質成分(例えばブタジエン成分)と硬質成分(例えばスチレン成分)との連続体からなる共重合体である。
前記ビニル芳香族エラストマーを構成する共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。ブロック共重合体としては、線状ブロック構造や放射状枝分れブロック構造等種々のものが知られているが、本発明においては、いずれの構造の共重合体を用いてもよい。
【0034】
本発明に用いることができる前記ビニル芳香族エラストマーに特に制限はないが、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。
【0035】
前記ビニル芳香族エラストマーの中でも、効率的に多孔層(I)形成用樹脂組成物中にビニル芳香族エラストマーを分散させる観点から、ポリオレフィン系樹脂、とりわけポリプロピレン系樹脂との相溶性が高い、エチレン成分、ブチレン成分が含有されているものが好ましく、中でも、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)がより好ましい。
【0036】
前記ビニル芳香族エラストマーについて、温度230℃、荷重2.16kgにおいて測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1.0g/10分以下、より好ましくは0.8g/10分以下、更に好ましくは0.5g/10分以下である。通常、多孔層(I)形成用樹脂組成物中に分散した前記ビニル芳香族エラストマーは、樹脂との粘度差によってその形状が変化するが、MFRが前記範囲内であれば、その形状が球状になり易い。球状分散したドメインは、アスペクト比が大きいドメインとは異なり、その後の延伸工程によって得られる多孔構造の均一性が高くなり易く、物性安定性に優れるので好ましい。また、前記ビニル芳香族エラストマーのMFRが前記範囲内であることにより、延伸工程時において、高い弾性率を有するマトリックスと低い弾性率のドメイン界面部分に応力が集中しやすくなるため、開孔起点が生じやすく、多孔化し易いという特徴を有する。
【0037】
前記ビニル芳香族エラストマーのスチレン含有量は、好ましくは10~40質量%、より好ましくは10~35質量%である。前記ビニル芳香族エラストマー中のスチレン含有量が10質量%以上であることにより、多孔層(I)形成用樹脂組成物中に効果的にドメインを形成することができ、スチレン含有量が40質量%以下であることにより、過度に大きいドメインの形成を抑制することができる。
【0038】
多孔層(I)形成用樹脂組成物全量中の前記ビニル芳香族エラストマーの含有量は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%、更に好ましくは20~35質量%である。前記多孔層(I)形成用樹脂組成物中の前記ビニル芳香族エラストマーの含有量が10質量%以上であると、延伸による多孔化が生じやすくなり、孔径の増大が望めるため好ましい。一方、前記ビニル芳香族エラストマーの含有量が40質量%以下であると、延伸に伴う多孔構造の過度な粗大化を防ぎ、機械特性を向上させることができる。
【0039】
(その他の材料)
多孔層(I)形成用樹脂組成物は、前記ポリオレフィン系樹脂、ビニル芳香族エラストマー以外の成分として、例えば前記ポリオレフィン系樹脂以外の他の樹脂を混合しても良い。
【0040】
前記他の樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0041】
また、前述した成分のほか、一般的に配合される添加剤を適宜添加できる。
前記添加剤としては、成形加工性、生産性及び本発明のフィルムの諸物性を改良、調整する目的で添加される、耳等のトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、抗菌剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。
【0042】
本発明のフィルムは、前記添加剤の中でも、無機系の金属粒子からなる抗菌剤をいずれかの多孔層に含むことが好ましい。前記抗菌性を有する金属粒子としては、銅や亜鉛、銀が知られているが、これら金属粒子の中でも抗菌性の観点で特に銀粒子が好ましい。
【0043】
抗菌剤として用いる金属粒子の平均粒子径は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.9μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。平均粒子径が1.0μm以下であると、粗大孔径の発生を防ぐことができ、抗菌性の発現に十分な粒子の比表面積を有することができる。なお、本発明において金属粒子の平均粒子径は、多孔フィルムの断面SEM像より粒子径を10個測定し、それらの値から算出した平均値、又はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を使用して測定した値を指す。
【0044】
前記多孔層(I)形成用樹脂組成物が前記抗菌剤等の添加剤を含有する場合、その含有量は、多孔層(I)形成用樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~3質量部、より好ましくは0.01~1.5質量部である。抗菌剤等の添加剤の含有量が前記範囲内であると、フィルムの強度等を維持したまま、抗菌性等の特性をフィルムに付与することが可能になる。
【0045】
<多孔層(II)>
本発明の多孔フィルムにおける多孔層(II)は、β晶活性を有し、且つ、前記多孔フィルムの少なくとも一面側の表面層を構成するものである。本発明においては、前記多孔層(II)がβ晶活性を有するため微細な多孔構造の形成が可能となる。
より詳細には、延伸前の多孔層(II)を形成する樹脂組成物(以下「多孔層(II)形成用樹脂組成物」とも称する。)がβ晶を生成していれば、その後に延伸を施すことで微細、且つ、均一な孔が多く形成されるため、各種細菌の侵入を防ぐ菌バリア性及びヒートシール適正を確保することができる。また、本発明においては、微細な多孔構造を有する多孔層(II)を設けることで、熱による包装部材への加工処理後、剥離時にエッジ切れが発生することを抑制することができる。
なお、本発明においては、前述した大孔径の多孔層(I)を設けることで、高圧蒸気や酸化エチレンガスによる滅菌処理の際に内部に水蒸気やガスが到達しやすくなり、滅菌処理が容易となり、更に、滅菌処理後に各種細菌から包装内部の滅菌状態を維持する菌バリア性を付与することができる。
【0046】
多孔層(II)にβ晶活性を付与する方法としては、例えば前記多孔層(II)形成用樹脂組成物としてポリプロピレン系樹脂を用い、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法、特許第3739481号に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、多孔層(II)形成用樹脂組成物にβ晶核剤を添加する方法等が挙げられ、これらの中でも、多孔層(II)形成用樹脂組成物にβ晶核剤を添加する方法が好ましい。
【0047】
〔多孔層(II)形成用樹脂組成物〕
本発明のフィルムを構成する多孔層(II)を形成する樹脂組成物、すなわち、多孔層(II)形成用樹脂組成物としては、形成される多孔層(II)がβ晶活性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、多孔層(II)形成用樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含み、β晶活性を有する樹脂組成物を挙げることができる。
前記多孔層(II)形成用樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、中でも、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。延伸前の無孔膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細、且つ、均一な孔が多く形成されることから耐熱性にも優れた微多孔膜とすることができる。
【0048】
前記多孔層(II)形成用樹脂組成物中に含まれる、多孔層(II)形成用樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70~99.9999質量%、更に好ましくは80~99.999質量%、より更に好ましくは90~99.99質量%である。多孔層(II)形成用樹脂としてβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を用いた場合において、前記範囲の含有量とすることにより耐熱性に優れ、且つ微細な孔を有する多孔フィルムとすることができる。
【0049】
多孔層(II)のβ晶活性は、延伸前の膜状物において多孔層(II)形成用樹脂(例えばポリプロピレン系樹脂)がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。
前記多孔層(II)のβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、本発明のフィルムの示差熱分析を行い、多孔層(II)形成用樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断することができる。具体的には、示差走査型熱量計で本発明のフィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時に多孔層(II)形成用樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断している。
【0050】
また、前記多孔層(II)のβ晶活性度は、検出される多孔層(II)形成用樹脂(例えばポリプロピレン系樹脂)のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算することにより求められる。
β晶活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
具体的に、ホモポリプロピレンの場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上175℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
また、例えばエチレンが1~4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算できる。
【0051】
前記多孔層(II)のβ晶活性度は大きい方が好ましく、β晶活性度は好ましくは20%以上、より更に好ましくは40%以上、更に好ましくは60%以上である。多孔層(II)が20%以上のβ晶活性度を有すれば、延伸前の膜状物中においても多孔層(II)形成用樹脂のβ晶が多く生成することを示し、延伸により微細且つ均一な孔が多く形成され、結果として、透気性能に優れた多孔フィルムとすることができる。β晶活性度の上限値は特に限定されないが、β晶活性度が高いほど前記効果がより有効に得られるので100%に近いほど好ましい。
【0052】
前記多孔層(II)のβ晶活性度は、多孔フィルムについてそのままDSC測定を行うと、前記層(II)に由来するβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)、及び結晶融解熱量(ΔHmα)が正確に見積もれないおそれがある。そのため、本発明の層(II)部分のみを剥離しDSCを測定し、β晶活性度を算出する。
また、剥離が困難である場合は、DSC測定によって積層体全体における前記層(II)に由来するΔHmβを算出するとともに、積層体全体における前記多孔層(II)の積層比を算出し、以下の計算式より、本発明の規定するβ晶活性度を算出することができる。
なお、積層比の算出は、特に限定されるものではないが、光学顕微鏡、電子顕微鏡等による断面観察により算出することができる。
β晶活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+(ΔHmα*積層体全体における前記多孔層(II)の積層比(%)))〕×100
なお、後述する実施例及び比較例のβ晶活性度は上記式に基づいて算出した。
【0053】
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施した本発明のフィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。具体的には、多孔層(II)形成用樹脂(例えばポリプロピレン系樹脂)の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成、成長させた多孔フィルムについてX線回折測定を行い、多孔層(II)形成用樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性が有ると判断することができる。
ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0054】
(β晶核剤)
本発明において多孔層(II)はβ晶核剤を含むことが好ましい。すなわち、多孔層(II)にβ晶活性を付与する方法としては、前述のとおり多孔層(II)形成用樹脂組成物にβ晶核剤を添加してβ晶活性を得る方法が好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に、効率的に多孔層(II)形成用樹脂のβ晶の生成を促進させることができる。
前記β晶核剤としては、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成、成長を増加させるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アミド化合物(例えば、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド);テトラオキサスピロ化合物(例えば、3,9-ビス[4-(N-シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン);キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウム等に代表されるカルボン酸のアルカリ又はアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム又はナフタレンスルホン酸ナトリウム等に代表される芳香族スルホン酸化合物;二又は三塩基カルボン酸のジ又はトリエステル類;フタロシアニンブルー等に代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物又は塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物等が挙げられる。これらのβ晶核剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化株式会社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」が挙げられる。
また、β晶核剤の添加されたポリプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」等が挙げられる。
【0056】
前記多孔層(II)形成用樹脂組成物中に添加するβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類又は多孔層(II)形成用樹脂(例えばポリプロピレン系樹脂)の組成等により適宜調整することができるが、多孔層(II)形成用樹脂100質量部に対し、好ましくは0.0001~5.0質量部、より好ましくは0.001~3.0質量部、更に好ましくは0.01~1.0質量部である。β晶核剤の含有量が0.0001質量部以上であれば、製造時に十分に多孔層(II)形成用樹脂のβ晶を生成、成長させ、十分なβ晶活性が確保でき、フィルム化した際にも十分なβ晶活性が確保でき、所望の透気性能も得られる。一方、β晶核剤の含有量が5.0質量部以下であると、製造コストと得られる効果とのバランスが良くなり、また、フィルム表面へのβ晶核剤のブリード等がなくなるため好ましい。
【0057】
(その他の材料)
多孔層(II)形成用樹脂組成物は、前記多孔層(I)形成用樹脂組成物と同様に、例えば前記ポリオレフィン系樹脂以外の他の樹脂を混合しても良く、また、前述した成分のほか、一般的に配合される添加剤を適宜添加できる。
前記のとおり多孔層(II)は、本発明のフィルムの少なくとも一面側の表面層を構成することから外気や菌と接触しやすいため、前記その他の材料の中でも抗菌剤及び酸化防止剤を含有することが好ましい。多孔層(II)形成用樹脂組成物が抗菌剤を含有することにより、多孔層(II)の微細孔径に伴う菌バリア性に加え、仮に細菌が表面及び膜内部に付着、侵入した際には、抗菌剤の効果により菌の増殖を阻止できる。更に、金属粒子からなる抗菌剤を使用することで、延伸多孔時において金属粒子周囲より樹脂と粒子の応力差に伴う微細な孔形成が期待できる。
【0058】
抗菌剤としては、前記多孔層(I)形成用樹脂組成物において例示した化合物を好適に用いることができ、具体的には、無機系の金属粒子からなる抗菌剤が好ましく、銅や亜鉛、銀の粒子が好ましい。
【0059】
また、酸化防止剤としては、特に制限はなく、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられ、これらの中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン酸系酸化防止剤との併用が好ましい。
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されないが、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレン-ビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド)、ジエチル((3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル)メチル)ホスフェート等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0060】
リン系酸化防止剤としては、特に限定されないが、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル)エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)(1,1-ビフェニル)-4,4’-ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記多孔層(II)形成用樹脂組成物が前記抗菌剤又は酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、多孔層(II)形成用樹脂100質量部に対して、それぞれ、好ましくは0.001~3質量部、より好ましくは0.01~1.5質量部である。抗菌剤又は酸化防止剤の含有量がそれぞれ前記範囲内であると、フィルムの強度等を維持したまま、抗菌性や酸化防止性をフィルムに付与することが可能になる。
【0062】
<多孔フィルムの層構成>
本発明のフィルムは、前記多孔フィルムの少なくとも一面側の表面層が多孔層(II)であれば特に制限はなく、多孔層(I)及び多孔層(II)を有する2層構成だけでなく、3層、4層、5層、それ以上の多層構成であってもよく、中でも、多孔層(II)が少なくとも一面側の表面層であり、且つ、多孔層(I)が中層であることがより好ましく、前記多孔層(II)が多孔フィルムの両面側の表面層であり、且つ、前記多孔層(I)が中層である、少なくとも2種3層の構造[多孔層(II)/多孔層(I)/多孔層(II)]であることが更に好ましい。本発明のフィルムが前記層構成を有することにより、本発明のフィルムの菌バリア性及びヒートシール性が更に向上する。なお、本発明においては、前記多孔層(I)及び前記多孔層(II)以外の他の層を備えていてもよい。
【0063】
<多孔層(I)及び多孔層(II)の平均孔径及び平均孔径の差>
本発明のフィルムは、多孔構造が互いに異なる多孔層(I)及び多孔層(II)を有するが、前記多孔フィルムの断面にて測定される前記多孔層(I)の平均孔径と前記多孔層(II)の平均孔径との差は1.0μm以上であることが好ましい。
前記の通り、多孔層(II)はβ晶活性を有するため微細な多孔構造が形成される一方、多孔層(I)はポリオレフィン系樹脂とビニル芳香族エラストマーによる海島構造の形成により多孔層(II)よりも大孔径化された多孔構造が形成されることになるが、この際、前記多孔層(I)の平均孔径と前記多孔層(II)の平均孔径との差を1.0μm以上とすると、特に優れたヒートシール性、ヒートシール後のエッジ切れ防止性及び菌バリア性を具備することができる。これらの観点、及び通気特性を確保する観点から、多孔層(I)の平均孔径と多孔層(II)の平均孔径との差は、好ましくは1.5~10.0μm、より好ましくは1.7~7.0μm、更に好ましくは1.8~6.5μm、より更に好ましくは2.0~6.0μmである。
【0064】
また、多孔層(I)の平均孔径は、本発明のフィルムの通気特性を確保する観点から、好ましくは3.0~10.0μm、より好ましくは3.5~8.0μm、更に好ましくは4.0~7.0μmである。
一方、多孔層(II)の平均孔径は、本発明のフィルムの菌バリア性を向上させる観点から、好ましくは0.01~3.0μm、より好ましくは0.05~2.0μm、更に好ましくは0.1~1.0μmである。
【0065】
上記平均孔径は、本発明のフィルムをTD方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡にて撮影し、各空孔の孔径の最大値を10点測定し、それぞれ算出した平均値から求められ、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。なお本明細書において、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
多孔層(I)及び多孔層(II)の平均孔径並びに平均孔径差を上記範囲に調整する方法としては、多孔層(I)及び多孔層(II)を形成する樹脂組成物の種類及び含有量の選択、本発明のフィルムの延伸条件の選択する方法等が挙げられる。
【0066】
<多孔フィルム、多孔層(I)及び多孔層(II)の厚み>
本発明のフィルムの厚みは、好ましくは50~300μm、より好ましくは60~275μm、更に好ましくは65~250μmである。厚みが50μm以上であれば、ハンドリング性に優れ、十分な強度を確保でき、また、厚みが300μm以下であれば、十分な通気特性を確保できる。
【0067】
本発明の延伸前フィルムの各層の厚みの割合(積層比)は特に制限されるものではなく、多孔層(I)と多孔層(II)との厚み比は、用途、目的に応じて適宜調整することができる。前記多孔層(I)と前記多孔層(II)との厚み比[(I):(II)]は、好ましくは1:1~1:0.025、より好ましくは1:0.5~1:0.05である。なお、多孔層(I)が2層以上ある場合の「多孔層(I)の厚み」とは、複数の多孔層(I)の合計の厚みを意味し、多孔層(II)が2層以上ある場合の「多孔層(II)の厚み」とは、複数の多孔層(II)の合計の厚みを意味する。
前記多孔層(I)と前記多孔層(II)との厚み比が前記範囲内であると、透気度と機械特性とのバランスが良好であり、医療包装材料として好適な多孔フィルムを得ることできる。
前記多孔層(I)及び前記多孔層(II)の厚み及び厚み比は、延伸前の無孔膜状物の厚みや延伸条件等を変更することにより調整することができる。
【0068】
本発明のフィルム(延伸後のフィルム)中の多孔層(I)の厚みは、好ましくは5~290μm、より好ましくは10~280μmである。多孔層(I)の厚み割合及び本発明のフィルム中の多孔層(I)の厚みが前記範囲であれば、本発明のフィルムは上述の透気度を有することができる。
【0069】
本発明のフィルムの総厚みに対する多孔層(I)の厚み割合は、好ましくは50~97%、より好ましくは55~96%、更に好ましくは60~95%である。
【0070】
一方、本発明のフィルム中の多孔層(II)の厚みは、好ましくは1~100μm、より好ましくは2~50μmである。また、本発明のフィルムの総厚みに対する多孔層(II)の厚み割合は、好ましくは3~50%、より好ましくは4~45%、更に好ましくは5~40%である。
多孔層(II)の厚み割合及び本発明のフィルム中の多孔層(II)の厚みが前記範囲であれば、透気度の悪化を防ぐことができ、高圧蒸気や酸化エチレンガスによる滅菌処理が容易となる。
【0071】
<多孔フィルムの空孔率>
本発明のフィルムの空孔率は多孔構造を規定する要素であり、本発明のフィルムにおける多孔層の空間部分の割合を示す数値である。本発明のフィルムの空孔率は、好ましくは55%以上、より好ましくは57%以上、更に好ましくは60%以上であり、上限については特に定めないが、本発明のフィルムの強度の観点から、通常は80%である。空孔率が55%以上であれば、十分な通気特性を確保することができる。
【0072】
なお、空孔率の測定方法は以下のとおりである。
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出する。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0073】
<多孔フィルムの透気度>
本発明のフィルムの透気度は、好ましくは300秒/dL以下、より好ましくは280秒/dL以下、更に好ましくは260秒/dL以下である。本発明のフィルムの透気度が300秒/dL以下であると、高圧蒸気や酸化エチレンガスによる滅菌処理の際に内部に水蒸気やガスが到達しやすくなり、滅菌処理が容易となる。本発明においては、微細な多孔構造の多孔層(II)の他に、前記層(II)よりも大孔径の多孔層(I)を有することで、透気度を300秒/dL以下とすることができる。なお、透気度はフィルムの厚みによって変化することから、本発明においては、フィルムの厚みが50~300μmであり、且つ、透気度は、300秒/dL以下であることが好ましく、280秒/dL以下であることがより好ましく、260秒/dL以下であることが更に好ましい。
【0074】
透気度は本発明のフィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には1dLの空気が本発明のフィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。したがって、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方が本発明のフィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方が本発明のフィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。
なお、連通性とは積層本発明のフィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。透気度(秒/dL)は、JIS P 8117:2009に準拠して測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0075】
<フィルムの製造方法>
以下、本発明のフィルムの製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明の多孔フィルムを製造する方法の一例であり、本発明のフィルムは、かかる製造方法により製造される多孔フィルムに限定されるものではない。
本実施形態の一例に係る多孔フィルムの製造方法(以下、「本発明のフィルム製造方法」とも称する。)は、例えば、多孔層(I)及び多孔層(II)を形成する樹脂組成物を混練する工程、混練により得られた組成物を多層に製膜する工程、及び多層に製膜した未延伸フィルムを延伸する工程を有する製造方法により製造する方法が挙げられる。なお、前記工程以外の他の工程や処理を更に行ってもよい。
【0076】
〔混練工程〕
混練工程においては、前記多孔層(I)及び前記多孔層(II)を形成する、それぞれの樹脂組成物の融点以上、分解温度未満の温度条件下で押出機等を用いて、混練する工程である。混錬に用いる機械に特に制限はなく、例えば単軸押出機、二軸押出機、及び多軸押出機等、公知の押出機を用いることができる。また、設備構造及び必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、水分や低分子量物質を除去してもよい。
混練時の温度はそれぞれの樹脂組成物の融点以上、分解温度未満の温度であれば特に制限はないが、好ましくは180~300℃である。
【0077】
〔製膜工程〕
製膜工程においては、前記混練工程により得られた多孔層形成用樹脂組成物を加熱溶融した後、多層状に製膜する。
前記多孔層形成用樹脂組成物を加熱溶融する方法としては、例えばTダイ法、インフレーション法等を挙げることができ、中でもTダイ法を採用することが好ましい。実用的には、Tダイから多孔層形成用樹脂を溶融押出してキャストロールによりキャスト成形するのが好ましい。
【0078】
フィルム状に製膜する具体的な方法としては、Tダイ法を採用する場合、Tダイからそれぞれ押出されたシート状の溶融樹脂を積層し、回転するキャストロール(チルロール、キャストドラム)上に密着させながら引き取り、シート状物に成形する方法が挙げられる。なお、キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置等をキャストロールに付けてもよい。
【0079】
混練物を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上である。多孔層(I)及び多孔層(II)形成用樹脂の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の増加が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の積層無孔膜状物を得ることが好ましい。
【0080】
得られる積層無孔膜状物(未延伸フィルム)の厚み(両端部を除いた有効部分の厚み)は、好ましくは100~700μm、より好ましくは150~600μm、更に好ましくは200~500μmである。
未延伸フィルムの厚みが100μm以上であれば、フィルムが薄すぎることに起因する延伸時の破断が生じ難くなる。一方、未延伸フィルムの厚みが700μm以下であれば、フィルムが剛直になり過ぎて延伸を行いにくくなることを防ぐことができる。なお、前記未延伸フィルムは、上記の層構成(多孔層(I)及び(II))のみだけでなく、他の層を組み合わせた構成であってもよい。
【0081】
〔延伸工程〕
延伸工程では、前記製膜工程で得られた積層無孔膜状物を一軸延伸又は二軸延伸する。本発明のフィルムは、少なくとも一軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましく、本発明のフィルムの孔径を調整しやすい観点から、二軸方向に延伸されたフィルムであることがより好ましい。
本発明において、一軸方向への延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。また、二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。
本発明のフィルムを作製する場合には、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御し易いという観点から、とりわけ逐次二軸延伸が好ましい。
なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0082】
また、逐次二軸延伸を用いる場合、用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって延伸温度を適宜調整することが可能なため、多孔構造の制御が比較的容易であり、機械強度や収縮率等他の諸物性とのバランスがとりやすく好ましい。
【0083】
縦延伸における延伸温度は、好ましくは10~140℃、より好ましくは15~130℃、更に好ましくは20~120℃である。縦延伸における延伸温度が10℃以上であれば延伸時の破断が抑制され、均一な延伸を行うことができるため好ましい。一方、縦延伸における延伸温度が140℃以下であれば効率よく空孔形成を行うことができる。
【0084】
縦延伸倍率は任意に選択できるが、一軸延伸あたりの延伸倍率は、好ましくは1.1~10倍、より好ましくは1.5~8.0倍、更に好ましくは1.5~6.0倍である。一軸延伸あたりの延伸倍率が1.1倍以上であることで白化が進行して、延伸による多孔化が十分に生じる。一方、10倍以下とすることで、フィルムの破断が抑制され、安定的に多孔フィルムを得ることができる。
【0085】
横延伸温度は、好ましくは100~160℃、より好ましくは110~150℃である。前記横延伸温度が前記範囲内であると、縦延伸時に生じた空孔を変形することなく、十分な空孔率を有することができる。
【0086】
横延伸倍率は、任意に選択できるが、好ましくは1.1~10倍であり、より好ましくは1.5~9.0倍、更に好ましくは1.5~8.0倍である。規定した横延伸倍率で延伸することによって、縦延伸時に生じた空孔が拡大されて多孔層の空孔率を増加することができ、十分な通気性を有することができる。
更に、本発明のフィルムには、本発明を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、更にはミシン目加工等を施すことができ、用途に応じて本発明のフィルムを数枚重ねることも可能である。
【0087】
<医療用包装材>
本発明の医療用包装材(以下「本発明の包装材」とも称する。)は、本発明のフィルムを用いたものである。より具体的に本包装材は、基材層及びシーラント層を有するものであることが好ましく、前記基材層及びシーラント層の少なくとも1層が本発明のフィルムにより構成されていることが好ましい。
【0088】
本発明の包装材の具体例としては、注射器、カテーテル及び各種薬液の蓋材等の医療用器具を収容する医療用包装材が挙げられ、これらは100℃を超える高い温度での蒸気滅菌処理や、酸化エチレンガスによる滅菌処理が施されるが、本発明の包装材は、多孔構造有する本発明のフィルムを使用することで、かかる滅菌処理を包装後に行うことができ、滅菌状態を長く維持することができる。
【実施例】
【0089】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明のフィルムについて更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例及び比較例により、何ら制限を受けるものではない。
【0090】
<ポリプロピレン系樹脂(A)>
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ株式会社製)
【0091】
<ビニル芳香族エラストマー(B)>
・B-1;スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(グレード名;SEPTON1001、スチレン含有量:35質量%、MFR:0.1g/10分[230℃、2.16kg荷重]株式会社クラレ製)
・B-2;スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(グレード名;SEPTON1020、スチレン含有量:36質量%、MFR:<0.1g/10分[230℃、2.16kg荷重]株式会社クラレ製)
・B-3;スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEPTON8004、数平均分子量:118,000、重量平均分子量:125,000、スチレン含有量:31質量%、MFR:<0.1g/10分[230℃、2.16kg荷重]、株式会社クラレ製)
【0092】
<β晶核剤(C)>
・C-1:3,9-ビス[4-(N-シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
・C-2:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(NU-100、新日本理化株式会社製)
【0093】
<酸化防止剤(D)>
・D-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASFジャパン株式会社製)
【0094】
<抗菌剤(E)>
・E-1:銀粒子添加ポリエチレン(MB-PP003、MFR:7[230℃、2.16kg荷重]、平均粒子径:0.01μm、東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)
【0095】
<実施例1>
ポリプロピレン系樹脂(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-1)30質量部、抗菌剤(E-1)1質量部を混合して、二軸押出機にて230℃で溶融押出することで混合物1を得た。
また、ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(C-1)0.2質量部、酸化防止剤(D-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで混合物2を得た。
【0096】
その後、リップ開度1mmのTダイで中間層側押出機に前記混合物1、表裏層側押出機に前記混合物2を用いて成形を行い、キャストロール(設定温度127℃)に導かれて2種3層の積層無孔膜状物を得た。
次いで、得られた積層無孔膜状物について縦延伸機を用いて、20℃に設定したロール間において、ドロー比50%を掛け、次に120℃に設定したロール間において、ドロー比100%(総縦延伸倍率3.0倍)を掛けて縦延伸を行った。
縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械株式会社製)にて、予熱温度150℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度150℃で横方向に3.0倍延伸した後、155℃で熱処理を行い、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムについて下記評価を行い、結果を表1に示した。なお、実施例1における多孔層(II)のβ晶活性度は84%であった。
【0097】
<実施例2>
ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(C-2)0.2質量部、酸化防止剤(D-1)0.1質量部、抗菌剤(E-1)1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで混合物3を得た。次いで、溶融押出時に表裏層側押出機に混合物3を用いて2種3層の積層無孔膜状物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、縦延伸、及び横延伸を行い、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムについて下記評価を行い、結果を表1に示した。なお、実施例2における多孔層(II)のβ晶活性度は88%であった。
【0098】
<実施例3>
ポリプロピレン系樹脂(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-2)15質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-3)15質量部、抗菌剤(E-1)1質量部を混合して、二軸押出機にて230℃で溶融押出することで混合物4を得た。
また、ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(C-1)0.2質量部、酸化防止剤(D-1)0.1質量部、抗菌剤(E-1)1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで混合物5を得た。
【0099】
その後、リップ開度1mmのTダイで中間層側押出機に前記混合物4、表裏層側押出機に前記混合物5を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて2種3層の積層無孔膜状物を得た。
次いで、得られた積層無孔膜状物について縦延伸機を用いて、20℃に設定したロール間において、ドロー比50%を掛け、120℃に設定したロール間において、ドロー比150%(総縦延伸倍率3.8倍)を掛けて縦延伸を行った。
縦延伸後のフィルムは、実施例1と同様の方法で、横延伸を行い、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムについて下記評価を行い、結果を表1に示した。なお、実施例3における多孔層(II)のβ晶活性度は87%であった。
なお、実施例3で得られた多孔フィルムのTD方向の断面を走査型電子顕微鏡にて撮影した断面像を
図1に示す。
図1中、表面層は多孔層(II)であり、中層は多孔層(I)である。
【0100】
<比較例1~5>
表1に記載の原料配合比にて混合物を作製し、実施例1と同様の方法で積層無孔膜状物を得た。その後、得られた積層無孔膜状物について、所定の倍率にて実施例1と同様の方法で縦延伸、横延伸を行い、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムについて下記評価を行い、結果を表1に示した。なお、比較例4における多孔層(II)のβ晶活性度は88%であり、比較例5における多孔層(II)のβ晶活性度は85%であった。
【0101】
<評価>
実施例及び比較例で得られた多孔フィルムに関し、以下の方法にて、フィルム厚み、平均孔径、平均細孔径、最大細孔径、空孔率、透気度、及びヒートシール性を測定した。
【0102】
(1)フィルム厚み
1/1000mmのダイアルゲージを用いて無作為に10点測定して、その平均値を厚みとした。
【0103】
(2)平均孔径
得られた多孔フィルムについて、TD方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。多孔層(I)及び多孔層(II)に関して、撮影されたSEM写真によって映し出された各空孔の孔径の最大値を10点測定し、それぞれ算出した平均値を平均孔径とした。多孔層(I)及び多孔層(II)でそれぞれ算出した平均孔径の差を平均孔径差とした。
【0104】
(3)平均細孔径(MFP径)、最大細孔径(BP径)
多孔フィルムのMFP径及びBP径は、パームポロメーター(PMI社製、500PSIタイプ)を用いて、JIS K3832:1990に準拠したバブルポイント法により測定した。
【0105】
(4)空孔率
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、この値から下記式に基づいて空孔率を算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0106】
(5)25℃における透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P8117:2009に準拠して透気度を測定した。測定機器として、デジタル型王研式透気度専用機(旭精工株式会社製)を用いた。
【0107】
(6)ヒートシール性評価
蓋を外した樹脂製広口瓶(材質:高密度ポリエチレン、100mL、アズワン)に対し多孔質フィルムを設置し、160℃に設定したホットプレートと500g荷重下で10秒間接触させることでヒートシール加工を行った。ヒートシール後、剥離時にヒートシール性を以下評価方法で判定した。
G(Good):ヒートシール後、剥離時にフィルムがエッジ切れを生じない。
B(Bad) :ヒートシール後、剥離時にフィルムがエッジ切れを生じる。
【0108】
【0109】
前記実施例1~3の多孔フィルムは、所定の多孔層(I)及び多孔層(II)を有し、且つ、平均細孔径が特定範囲に調整されたことで、ヒートシール性及び菌バリア性に優れ、且つ、ヒートシール後の剥離時もエッジ切れを生じることなく良好な加工特性を示した。
また、前記多孔層(I)及び多孔層(II)が、所定の材料により形成されている、或いは所定の性質を有していることにより、本発明のフィルムは、互いに異なる平均孔径を有する多孔構造を具備する。
より具体的には、本発明のフィルムは、前記多孔層(II)の微細な多孔構造により、ヒートシール性、菌バリア性及びヒートシール後の剥離時のエッジ切れ防止性を有し、また、多孔層(I)の大孔径の多孔構造により、優れた通気性、連通性を有することができ、優れた滅菌処理効果を奏する。
更に、前記実施例1~3の多孔フィルムは、平均細孔径及び最大細孔径が所定範囲に調整されたことで内部への細菌の侵入を防止しながら、透湿防水性により内部への水滴の侵入を防止し、且つ、水蒸気や各種ガスを十分に透過することができるため、優れた滅菌処理効果を奏し、各種細菌やウィルスに対する更に優れた菌バリア性が期待できる。
一方で比較例1~3及び5の多孔フィルムでは、ヒートシール面に粗大な多孔構造を有するためにヒートシール後の剥離時に、エッジ切れを生じた。
また、比較例4の多孔フィルムでは孔径が微細な層しか有していないため、透気特性が悪化し、高圧蒸気や酸化エチレンガスによる水蒸気やガスを十分に透過できない問題を生じる虞があり、滅菌処理に適さない。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のフィルムは、衣類、衛生材料等に使用する透湿防水性フィルム及び高圧蒸気や酸化エチレンガスによる滅菌処理を伴う医療包装用途に好適に使用することができる。