(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】透明ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
C03B20/00 A
C03B20/00 C
(21)【出願番号】P 2020158804
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】足立 浩一
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-295825(JP,A)
【文献】特開平09-048623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0095583(US,A1)
【文献】特開2016-069275(JP,A)
【文献】特開2004-131380(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0085056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C01B 33/113 - 33/193
C03B 1/00 - 3/00
C03C 1/00 - 1/10
C03C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、平均粒径50μm以下のシリカ微粉体を造粒して製造した平均粒径100μm以上の造粒シリカ粉体と、を混合する混合ステップ、及び前記混合したシリカ粉体を1700℃以上にて溶融する溶融ステップ、を含む、透明ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記平均粒径50μm以下のシリカ微粉体の鉄含有量が1ppm以下である、請求項1に記載の透明ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、前記造粒シリカ粉体との混合割合が、重量比で1:6以上、6:1以下である、請求項1又は2に記載の透明ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記造粒シリカ粉体が、平均粒径50μm以下のシリカ微粒子と、分散媒と、バインダーと、を混合し、シリカ微粒子分50質量%以下のスラリーを調製し、該調製したスラリーを噴霧乾燥して造粒したものである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透明ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記噴霧乾燥温度が100℃以上350℃以下である、請求項4に記載の透明ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記分散媒は、鉄の含有量が1ppm以下の水である、請求項4又は5に記載の透明ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記バインダーは親水性の有機バインダーである、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の透明ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒シリカ粉体を用いた透明ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバーや半導体産業において使用される各種ガラス製の治具・ルツボ等については、半導体の高集積化に伴い、その構成ガラス材料の純度に関して非常に厳しい管理が行われている。これらの用途に適用される高純度なガラス製品の製造方法としては、従来、アルコキシシランを出発原料とし、これを加水分解し、ゾル-ゲル法と称されるプロセスによりシリカゲル粉末を得、次いでこれを焼成して石英ガラス粉末とした後、溶融ガラス化して、目的とする所望の石英ガラス製品を製造する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、透明性が求められる石英ガラス製品で、度々溶融ガラス化の際に石英ガラス内に泡が発生し、石英ガラス製品内部に発生した泡が残る事により、石英ガラスの透明性が失われる、すなわち透明なガラスが得られないという問題が発生していた。ここでいう透明なガラスとは、物体の表面や内部で可視光線が散乱しない、そして可視光線が物体を構成する物質に吸収されないガラスで、ガラスを通した向こう側がくすみなく見えるガラスを言う。
【0004】
そこで、石英ガラスを透明化する方法として特許文献1、2に記載されている、合成シリカ微粉末を鋳込み成形、乾式プレス成形などの手段を用いて一旦成形体とし、それを減圧雰囲気中で1700℃以上の温度に加熱溶融して透明石英ガラスを得る方法や、特許文献3に記載されている、比較的粒度の粗い合成シリカ粉末を成形することなく耐熱性容器に充填し、そのまま減圧雰囲気中で加熱溶融し、透明石英ガラスとする製造方法がある。
【0005】
また、特許文献4に記載されている、シリカ微粉末を造粒した球状顆粒を用いて、粉末の充填性を良くし、荷重を印加した状態で減圧下で溶融し、更に熱間静水圧プレス処理する透明石英ガラスの製造方法が、従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-275438号公報
【文献】特開平1-270530号公報
【文献】特開平2-014840号公報
【文献】特開平9-295825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、シリカ微粉末を成形体とした後に減圧雰囲気中で加熱溶融する製造方法、並びに比較的粒度の粗いシリカ粉末を成形することなく、耐熱性容器に充填し、そのまま減圧雰囲気中で加熱溶融する製造方法では、1mm以上の大きな気泡が残る場合があった。そのため、シリカ微粉末を造粒した球状顆粒に対し荷重を印加した状態で減圧下溶融し、更に熱間静水圧プレス処理するような処理が溶融後に更に必要となり、溶融する前後で一つ以上工程を追加する必要が生じることから、追加の労力とノウハウを要する製造方法となっている。
【0008】
本発明は、溶融時に気泡が発生し得るシリカ微粉体を造粒した造粒シリカ粉体を用いて石英ガラスを製造した際に、気泡が残らないようにできる、透明石英ガラスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シリカ微粒子を造粒して製造した造粒シリカ粉体と、比較的大きな粒径のシリカ粉体とを併存させて、溶融することで、気泡の発生が抑えられた透明ガラスを製造できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、平均粒径50μm以下のシリカ微粉体を造粒して製造した平均粒径100μm以上の造粒シリカ粉体と、を混合する混合ステップ、及び前記混合したシリカ粉体を1700℃以上にて溶融する溶融ステップ、を含む、透明ガラスの製造方法。
[2]前記平均粒径50μm以下のシリカ微粉体の鉄含有量が1ppm以下である、[1]に記載の透明ガラスの製造方法。
[3]前記平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、前記造粒シリカ粉体との混合割合が、重量比で1:6以上6:1以下である、[1]又は[2]に記載の透明ガラスの製造方法。
[4]前記造粒シリカ粉体が、平均粒径50μm以下のシリカ微粒子と、分散媒と、バインダーと、を混合し、シリカ微粒子分50質量%以下のスラリーを調製し、該調製したスラリーを噴霧乾燥して造粒したものである、[1]乃至[3]のいずれかに記載の透明ガラスの製造方法。
[5]前記噴霧乾燥温度が100℃以上350℃以下である、[4]に記載の透明ガラスの製造方法。
[6]前記分散媒は、鉄の含有量が1ppm以下の水である、[4]又は[5]に記載の透明ガラスの製造方法。
[7]前記バインダーは親水性の有機バインダーである、[4]乃至[6]のいずれかに記載の透明ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、気泡の発生が抑えられた透明ガラスを、気泡を除去する工程を必要とする事なく製造する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0013】
本発明の一形態は、平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、平均粒径50μm以下のシリカ微粉体を造粒して作った平均粒径100μm以上の造粒シリカ粉体と、を混合する混合ステップ、及び前記混合したシリカ粉体を1700℃以上にて溶融する溶融ステップ、を含む、透明ガラスの製造方法である。
従来、シリカ微粉末を原料として用い成形体とした後、加熱溶融する透明ガラスの製造方法や、比較的粒度の粗いシリカ粉末を成形することなくそのまま耐熱性容器に充填し、加熱溶融する透明ガラスの製造方法では、1mm以上の大きな気泡が残る場合があった。そのため、気泡を除去するための処理が必要であった。本実施形態により、そのような処理をしなくても気泡の発生を抑制した透明ガラスを提供することが可能となり、製造効率を向上させることができる。
【0014】
混合ステップは、平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、平均粒径50μm以下のシリカ微粉体を造粒して作った平均粒径100μm以上の造粒シリカ粉体と、を混合するステップである。
平均粒径100μm以上のシリカ粉体と、平均粒径100μm以上の造粒シリカ粉体と、の混合割合は特に限定されず、通常重量比で1:6以上6:1以下であり、好ましくは1:3以上3:1以下である。造粒粉体の割合を増やすと流動性がよくなるため、取り扱い性がよくなり、一方泡の発生を防ぐためには造粒粉体の割合を減らすことにより、泡の少ない透明ガラスが容易に得ることができる。
平均粒径100μm以上のシリカ粉体は特に限定されず、天然シリカ粉体であっても、合成シリカ粉体であってもよい。またその形状も特に限定されず、一般的に破砕形状のものであるがこれに限られず、円形度を向上させた球形状の粒子であってもよい。そして純度を重視する場合には、合成シリカ粉体の方が高純度品が得られやすいため、より好ましい。
【0015】
シリカ粉体は、例えばアルコキシシランを原料とする、いわゆるゾル-ゲル法と呼ばれる方法により得ることができる。ゾル-ゲル法によるアルコキシシランの加水分解は、周知の方法に従ってアルコキシシランと水を反応させることによって行われる。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の、4官能、炭素数1~4の低級アルコキシシラン或いはそのオリゴマーが、加水分解が速やかに行われるため好ましい。
【0016】
シリカ粉体を、篩などを用いて平均粒径100μm以上に分級することで、平均粒径100μm以上のシリカ粉体とすることができる。平均粒径の上限は特に限定されないが、通常200μm以下、好ましくは150μm以下である。
なお、本明細書において造粒前のシリカ粉体の平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-2300(株式会社島津製作所製)で測定されたメディアン径(D50)を意味する。
【0017】
造粒シリカ粉体は、平均粒径50μm以下のシリカ微粉体を造粒して製造する。造粒シリカ粉体の原料となる平均粒径50μm以下のシリカ微粉体は、鉄含有量が1ppm以下であることが、ガラスの透明化の観点から好ましい。
鉄などの金属不純物分析はICP-MSや蛍光X線分析などで分析を行うことができる。
【0018】
造粒の方法は特に限定されず、例えば原料シリカ微粉体をスラリー化し、バインダーを加えて噴霧造粒する方法があげられる。スラリー化する際の分散媒は通常水であるが、造粒の際の分散媒として使用できるものであれば、これに限られない。分散媒としては、鉄の含有量が1ppm以下であることが好ましい。
なお、造粒したシリカ粉体の平均粒子径は、造粒状態を壊すことなく測定できる点から粒子画像分析装置を用いて測定するとよい。
【0019】
バインダーは特に限定されず、有機バインダーや無機バインダーなどを用いることができ、親水性の有機バインダーであることが好ましく、例えばアクリルポリマー、ポリビニルピロリドンが挙げられる。バインダーを用いる際には、原料シリカ100質量部に対し通常3質量部以上10質量部の割合で用いる。バインダーを使用することにより、造粒シリカ粉体の強度が高くなりシリカ微粉末の残量が低減することから、造粒シリカ粉末を80質量%以上の収率で回収することができるようになる。
【0020】
噴霧は公知のスプレー(噴霧器)を用いればよく、特に限定されない。造粒した造粒シリカ粉体は、乾燥させてもよく、噴霧乾燥を一度に行うスプレードライヤーのような噴霧乾燥装置を用いてもよい。噴霧乾燥装置を用いる場合、噴霧乾燥温度は100℃以上350℃以下であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以下であることがより好ましい。
【0021】
造粒シリカ粉体の好ましい製造方法は、平均粒径50μm以下のシリカ微粒子と、分散媒と、バインダーと、を混合し、シリカ微粒子分50質量%以下、好ましくは40質量%以下のスラリーを調製し、該調製したスラリーを噴霧乾燥して造粒する方法である。スラリー中のシリカ微粒子は通常10質量%以上であり30質量%以上であることが好ましい。
【0022】
造粒したシリカ粉体は、通常1000℃以上1300℃以下で焼成する。焼成温度は好ましくは1100℃以上1250℃以下であり、焼成時間は通常30時間以上60時間以下である。焼成の際の雰囲気は特に限定さないが、乾燥空気雰囲気化で行うことが好ましい。乾燥空気としては露点-40℃以下であることが好ましい。
【0023】
造粒シリカ粉体を、篩などを用いて平均粒径100μm以上に分級することで、平均粒径100μm以上の造粒シリカ粉体とすることができる。平均粒径の上限は特に限定されないが、通常200μm以下、好ましくは150μm以下である。
【0024】
混合ステップで混合した混合シリカ粉体は、鉄含有量が10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1ppm以下、更に好ましくは0.01ppm以上、特に好ましくは0.001ppm以下である。シリカ粉体の鉄含有量が上記範囲であることで、シリカ粉体を溶融しガラス化した際に、ガラスが結晶化せずに透明になりやすく、またガラスが割れにくくなる。
【0025】
溶融ステップは、前記混合したシリカ粉体を1700℃以上にて溶融することで、透明ガラスとするステップである。
ガラスの溶融は、通常真空溶融法や酸水素溶融法などで溶融するが特に限定されるものではない。溶融は1700℃以上で行えばよく、例えば真空溶融法であれば、黒鉛ルツボに混合したシリカ粉末を秤取し、タッピングにより表面を平坦にした黒鉛ルツボを真空加熱炉内で1780℃、1時間加熱した後、冷却し、ガラス化する方法を一例として挙げることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-2300(株式会社島津製作所製)で測定した平均粒径5μmのシリカ微粉体と、超純水と、シリカ微粉体に対して5wt%のオリコックスKC-115VP(共栄社化学株式会社製)とを混合し、シリカ微粉体濃度33wt%のスラリーを作成した。そのスラリーを、スプレードライヤー設備を用い、平均粒径150μmのシリカ粉体に造粒した。この粒子径は、粒子画像分析装置「モフォロギG3」(Malvern Panalytical社)を用いて測定した。
【0028】
この造粒したシリカ粉体と、平均粒径150μmのシリカ粉体とを質量比1:1で混合した混合シリカ粉体45gを容量50ccの黒鉛ルツボに秤取し、タッピングにより表面を平坦にした。そして、この黒鉛ルツボを真空加熱炉内で1780℃、1時間加熱した後、冷却し、円柱状のシリカ溶融ガラスインゴットを得た。得られたインゴット中の気泡を、ルーペを用いて観察し、無気泡状態で透明なガラス層中に形成された直径0.5mm以下の気泡の数をカウントした。直径0.5mmを超える気泡は生じておらず、透明であった。
【0029】
[実施例2]
実施例1で製造した造粒シリカ粉体と、平均粒径150μmのシリカ粉末とを質量比5:1で混合した混合シリカ粉体を、実施例1と同じ方法で溶融し、円柱状のシリカ溶融ガラスインゴットを得た。実施例1と同様の方法で気泡を確認したところ、直径0.5mmを超える気泡が全く見られず、透明であった。
【0030】
[比較例1]
実施例1で製造した造粒シリカ粉体のみを、実施例1と同じ方法で溶融し、円柱状のシリカ溶融ガラスインゴットを得た。実施例1と同様の方法で気泡を確認したところ、0.5mm以上の気泡が数えきれない程ガラスインゴットの中央部に集まっており、中央部は白くてガラスの向こう側が全く見えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本実施形態の製造方法で得られる透明ガラスは、気泡の発生を抑制できることから、無気泡を求められる用途である半導体治具やシリカガラスルツボなどの各種ガラス製品の材料に利用できる。