(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】多層構造体及びそれを含むスタンドアップパウチ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20240501BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240501BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240501BHJP
B65D 30/16 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B27/28 102
B32B27/32 E
B65D65/40 D
B65D30/16 Z
(21)【出願番号】P 2020516761
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012090
(87)【国際公開番号】W WO2020196184
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019055059
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】大浦 滉平
(72)【発明者】
【氏名】中西 伸次
(72)【発明者】
【氏名】高塚 芽衣
(72)【発明者】
【氏名】松村 嘉尚
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-198826(JP,A)
【文献】特開2004-243562(JP,A)
【文献】特開2016-203634(JP,A)
【文献】特開2009-102651(JP,A)
【文献】特開平10-025349(JP,A)
【文献】特開平07-179625(JP,A)
【文献】特開平03-178435(JP,A)
【文献】特開平03-076646(JP,A)
【文献】特開2019-177909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B65D 30/16
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護層、エチレン-ビニルアルコール系共重合体層、及びヒートシール樹脂層を有する多層構造体であって、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層と上記ヒートシール樹脂層の間に、ポリプロピレン系樹脂を含有する中間層を有し、上記中間層が、数平均分子量が100~3000であり、軟化点が60℃以上170℃未満である炭化水素系樹脂をさらに含
み、上記中間層の厚みが20~100μmであることを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
上記炭化水素系樹脂の含有量が、上記中間層を構成する樹脂組成物全量に対して、1~30重量%であることを特徴とする請求項1記載の多層構造体。
【請求項3】
上記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレンであることを特徴とする請求項1または2記載の多層構造体。
【請求項4】
上記中間層の片面にヒートシール樹脂層が隣接することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項5】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層の少なくとも片面にポリアミド系樹脂層が隣接することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項6】
全厚が30μm以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の多層構造体を含むスタンドアップパウチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体及びそれを含むスタンドアップパウチに関し、さらに詳しくは低い水蒸気透過度とヒートシール強度を両立し、かつレトルト処理後のガスバリア性の変化率が小さい包装材料等が得られる多層構造体及び当該多層構造体を含むスタンドアップパウチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レトルト処理(例えば、120℃で30分間の熱水処理)は、食品のロングライフ化に伴い、広く知られた殺菌技術の一つとなった。食品及び飲料等のレトルト包装材料は、レトルト処理後の保管時に、内容物への臭い移りや酸化劣化を防ぐために、高い酸素バリア性を有することが求められている。
【0003】
また、従来、食品及び飲料等のレトルト包装材料として、瓶や缶が用いられてきたが、廃棄のし易さ等の顧客利便性の観点から、多層構造体を用いた軟包装の開発が行われてきている。特に、商品陳列性の良い自立性包装袋(以下、「スタンドアップパウチ」と称することがある。)が普及してきている。スタンドアップパウチを構成する多層構造体としては、内容物を充填した際に自立できる剛性と、内容物の劣化防止の観点から酸素バリア性を備えたものが多数存在する。
【0004】
上記スタンドアップパウチを構成する多層構造体としては、例えば、無軸延伸ポリプロピレン(以下、「CPP」と称することがある。)等のポリプロピレンを主成分とするヒートシール樹脂層に、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称することがある。)延伸フィルム、ナイロン(以下、「Ny」と称することがある。)延伸フィルム及びアルミニウム箔(以下、「AL箔」と称することがあり、「AL箔」はバリア層として使用される。)から選択される少なくとも1種を貼合わせることによって得られる、PET延伸フィルム/Ny延伸フィルム/AL箔/CPP、または、PET延伸フィルム/AL箔/Ny延伸フィルム/CPPまたはPET延伸フィルム/AL箔/CPPの層構成を有する多層構造体等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、AL箔をバリア層とするスタンドアップパウチを食品の包装材料として使用した場合、電子レンジを使用できないという問題があり、AL箔を使用しないスタンドアップパウチへの要望が高まっている。
【0006】
この問題を解決するスタンドアップパウチとして、例えば、特許文献1では、保護層と、該保護層の一方の面に、ポリアミド系樹脂層、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称することがある。)層及びヒートシール樹脂層を有し、該ポリアミド系樹脂層と該EVOH層が隣接している積層材を含むことを特徴とするレトルト用スタンドアップパウチが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のスタンドアップパウチは、輸送時における耐落袋性(スタンドアップパウチが落下により瞬間的な屈曲衝撃を受けた場合に、スタンドアップパウチを構成する多層構造体に亀裂が生じ、場合によっては当該多層構造体が割れ、内容物が漏れないという性質)に関しては改善の余地がある。
【0008】
スタンドアップパウチの耐落袋性を改善するための技術として、例えば、特許文献2では、保護層とヒートシール樹脂層との間に、EVOH層を有し、上記ヒートシール樹脂層を構成する樹脂組成物が、熱可塑性エラストマーを含有し、かつ上記ヒートシール樹脂層における上記熱可塑性エラストマーの濃度が、保護層側に対して反対側表面層が保護層側表面層よりも低濃度であることを特徴とするスタンドアップパウチ用多層構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-203634号公報
【文献】特開2017-226145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載のスタンドアップパウチは、EVOHをバリア層に含む多層構造体を用いた際の耐落袋性を改善するために、エラストマー成分をヒートシール樹脂層に配合させている。しかしながら、本発明者らの検討によると、エラストマー成分を含有することによるスタンドアップパウチの水蒸気透過度の上昇は無視できず、商品包装後に内容物への悪影響、例えば、内容物の水分がスタンドアップパウチ外へ抜けることによる内容物の品質劣化が懸念される。すなわち、特許文献2に記載のスタンドアップパウチは、水蒸気透過度が高く、改善の余地がある。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、低い水蒸気透過度とヒートシール強度を両立し、かつレトルト処理後のガスバリア性の変化率が小さいスタンドアップパウチ等が得られる多層構造体を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、エチレン-ビニルアルコール系共重合体層とヒートシール樹脂層の間の中間層を形成し、当該中間層に対し、ポリプロピレン系樹脂と、特定の炭化水素系樹脂とを含むことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は下記<1>~<7>に関するものである。
<1> 保護層、エチレン-ビニルアルコール系共重合体層、及びヒートシール樹脂層を有する多層構造体であって、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層と上記ヒートシール樹脂層の間に、ポリプロピレン系樹脂を含有する中間層を有し、上記中間層が、数平均分子量が100~3000であり、軟化点が60℃以上170℃未満である炭化水素系樹脂をさらに含むことを特徴とする多層構造体。
<2> 上記炭化水素系樹脂の含有量が、上記中間層を構成する樹脂組成物全量に対して、1~30重量%であることを特徴とする<1>記載の多層構造体。
<3> 上記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレンであることを特徴とする<1>または<2>記載の多層構造体。
<4> 上記中間層の片面にヒートシール樹脂層が隣接することを特徴とする<1>~<3>のいずれかに記載の多層構造体。
<5> 上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層の少なくとも片面にポリアミド系樹脂層が隣接することを特徴とする<1>~<4>のいずれかに記載の多層構造体。
<6> 全厚が30μm以上であることを特徴とする<1>~<5>のいずれかに記載の多層構造体。
<7> <1>~<6>のいずれかに記載の多層構造体を含むスタンドアップパウチ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低い水蒸気透過度とヒートシール強度を両立し、かつレトルト処理後のガスバリア性の変化率が小さいスタンドアップパウチが得られる多層構造体を提供することができる。
【0015】
すなわち、本発明によれば、低い水蒸気透過度を備えることにより、内容物への悪影響、例えば、内容物の品質劣化を抑制することができ、且つ、充分なヒートシール強度を備えることにより、耐落袋性に優れ、更に、レトルト処理後のガスバリア性の変化率が小さく、保存安定性に優れたスタンドアップパウチが得られる多層構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の多層構造体の一実施形態の構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の多層構造体を含むスタンドアップパウチの一実施形態を示す全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0018】
なお、本発明において、スタンドアップパウチの内容物を収容する側、すなわちヒートシール側を「内側」といい、その反対側を「外側」という。
また、以下の説明において、「上」、「下」、「左」、「右」等の語は、図面の方向に対応する便宜的なものである。
【0019】
また、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい、「シート」とは、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう(日本工業規格JISK6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0020】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、保護層、バリア層、中間層及びヒートシール樹脂層を有する。
例えば、好ましい一実施形態としては、
図1及び
図2に示すように、本発明の多層構造体は、スタンドアップパウチ等に用いられる多層構造体10であり、多層材4が保護層1と積層されて構成される。また、多層材4は、バリア層2と中間層3aとヒートシール樹脂層3bとを有し、バリア層2は、ポリアミド系樹脂層2aとEVOH層2bを有する。
【0021】
以下、各層について説明する。
<保護層>
本発明で用いる保護層は、本発明の多層構造体の基本素材である。よって、本発明で用いる保護層としては、機械的、物理的、化学的等に優れた強度を有し、さらに、耐突き刺し性、耐熱性、防湿性、耐ピンホール性、透明性等に優れた樹脂のフィルムないしシートを使用することが好ましい。
【0022】
具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン樹脂等のポリアミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、その他の強靭な樹脂等から得られるフィルムないしシートを使用することができる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。中でも、ポリエステル系樹脂から得られるフィルムないしシートが好ましく、ポリエチレンテレフタレートから得られるフィルムないしシートがより好ましい。
【0023】
上記樹脂のフィルムないしシートとしては、未延伸フィルム、或いは一軸方向または二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれのものでも使用することができる。
【0024】
保護層の厚みは、5~100μmであることが好ましく、10~50μmであることがより好ましい。保護層の厚みが厚すぎると、コストが上昇してしまう傾向があり、逆に、保護層の厚みが薄すぎると、強度、耐突き刺し性等が低下してしまう傾向がある。
【0025】
また、保護層には、必要に応じて適宜印刷層を設けることができる。印刷層としては、例えば、溶剤と、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系等のバインダー樹脂と、体質顔料等の各種顔料と、可塑剤、乾燥剤、安定剤等とを配合してなるインキにより形成される層が挙げられる。
【0026】
印刷層には、文字、絵柄等を印刷することができる。印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法を用いることができる。また、保護層の表面を、予め前処理としてコロナ処理またはオゾン処理を施すことにより、印刷層の密着性を向上させることができる。印刷層は、通常、保護層の内側面に設ける。
【0027】
<バリア層>
本発明で用いるバリア層は、EVOH層を有する。バリア層は、レトルト処理後における酸素バリア性の回復を早める観点から、さらに、ポリアミド系樹脂層を有することが好ましい。
【0028】
(EVOH層)
EVOH層はEVOHからなる層であってもよく、EVOH以外の任意の成分が含まれたEVOH樹脂組成物からなる層であってもよい。EVOH樹脂組成物において、EVOHの含有量は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70~100重量%である。
【0029】
EVOHは、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン-ビニルエステル系共重合体)をケン化することにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができるが、一般的にはメタノール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。このようにして製造されるEVOHは、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主な構造単位とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0030】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物処理効率が良い点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0031】
EVOHにおけるエチレン含有率は、ISO 14663に基づいて測定した値で、20~60モル%であることが好ましく、より好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有率が低すぎる場合は、高湿下の酸素バリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆にかかる含有率が高すぎる場合は、酸素バリア性が低下する傾向がある。
【0032】
EVOHにおけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値で、90~100モル%であることが好ましく、より好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には酸素バリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0033】
また、EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、0.5~100g/10分であることが好ましく、より好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が低下する傾向があり、かかるMFRが小さすぎる場合には、溶融粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0034】
EVOHには、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。上記コモノマーとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;不飽和カルボン酸またはその塩、その部分アルキルエステル、その完全アルキルエステル、そのニトリル、そのアミド若しくはその無水物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。
【0035】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0036】
以上のような変性物の中でも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOHは、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOHが好ましい。
【0037】
EVOHには、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般的にEVOHに配合できる配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤等が含有されていてもよい。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。
【0038】
上記熱安定剤は、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で使用され、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩等が挙げられる。
【0039】
また、EVOHは、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、かかる他のEVOHとしては、エチレン含有率が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)が異なるもの、共重合成分が異なるもの、変性量が異なるもの(例えば、1,2-ジオール構造単位の含有量が異なるもの)等を挙げることができる。
【0040】
また、EVOH層は、レトルト処理耐性の観点から、ポリアミド系樹脂を含有したEVOH樹脂組成物により構成されることが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOHの水酸基及び/またはエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、レトルト処理時のEVOHの溶出を防止することができる。ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができ、例えば、後述のポリアミド系樹脂層に用いられるものと同様のものを用いることができる。EVOH層において、EVOH樹脂組成物全量に対するポリアミド系樹脂の含有量は、1~30重量%が好ましく、3~25重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましい。
【0041】
EVOH層の厚み(Te)としては、1~35μmであることが好ましく、より好ましくは5~30μm、特に好ましくは8~25μmである。厚み(Te)が薄すぎると酸素バリア性が低下する傾向があり、厚み(Te)が厚すぎるとレトルト処理後の酸素バリア性の回復速度が低下する傾向がある。なお、EVOH層が複数層の場合は、複数のEVOH層の厚みの和が、上記範囲内であればよい。
【0042】
(ポリアミド系樹脂層)
ポリアミド系樹脂層は、ポリアミド系樹脂からなる層であってもよく、ポリアミド系樹脂以外の任意の成分が含まれたポリアミド系樹脂組成物からなる層であってもよい。ポリアミド系樹脂組成物において、ポリアミド系樹脂の含有量は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70~100重量%である。
【0043】
本発明で用いるポリアミド系樹脂層を構成するポリアミド系樹脂としては、公知のポリアミド系樹脂を用いることができる。例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。
【0044】
また、ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族共重合ポリアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-フェニレン・3-4'-ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族共重合ポリアミド、非晶性ポリアミド、上記のポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等のカルボキシル基やアミノ基で末端を変性した末端変性ポリアミド等の共重合ポリアミド系樹脂が挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。
【0045】
本発明で用いるポリアミド系樹脂層は、本発明の効果がより効率よく得られる点で、ポリカプラミド(ナイロン6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)の少なくとも一種を含有することが好ましく、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、及びポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)を含有することがより好ましく、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)を含有することが特に好ましい。
【0046】
本発明で用いるポリアミド系樹脂層の厚み(Tp)としては、1~100μmであることが好ましく、より好ましくは1~80μm、さらに好ましくは3~60μm、特に好ましくは5~40μmである。なお、本発明で用いるポリアミド系樹脂層は、単数層、複数層のいずれであってもよく、複数層の場合は、ポリアミド系樹脂層の総厚み(Tpt)としては、2~120μmであることが好ましく、より好ましくは5~90μm、特に好ましくは10~80μmである。
【0047】
ポリアミド系樹脂層が複数層の場合は、同一のポリアミド系樹脂により形成されたものであってもよく、異なるポリアミド系樹脂により形成されたものであってもよい。
【0048】
ポリアミド系樹脂層の厚み(Tp)が厚すぎると、本発明の多層構造体をスタンドアップパウチとして用いた場合、スタンドアップパウチ全体の厚みが厚くなってしまうことで、スタンドアップパウチ全体の剛性が大きくなりすぎるために、易開封性が低下する傾向や消費者が使用時に手を切る傾向がある。さらには、レトルト処理時にポリアミド系樹脂層で多量の吸水が生じてしまうために、レトルト処理後の酸素バリア性の回復速度が遅くなる傾向がある。
【0049】
なお、本発明における開口性とは、スタンドアップパウチに食品等を充填する際において、包装袋口が空気等のガス吹き付けに対して容易に開口し、自動包装に対応できる特性をいう。
【0050】
<中間層>
本発明の多層構造体は、EVOH層とヒートシール樹脂層の間に中間層を有する。特に本発明では、中間層は、ポリプロピレン系樹脂を含有し、さらに、数平均分子量が100~3000であり、軟化点が60℃以上170℃未満である炭化水素系樹脂を含有することが重要である。
【0051】
[ポリプロピレン系樹脂]
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン〔プロピレン単独重合体〕、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体またはブロック共重合体等が挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。中でも、より一層水蒸気透過度を向上させる観点から、ポリプロピレン系樹脂としてホモポリプロピレンを含有することが好ましい。
【0052】
中間層を構成する樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂の含有量は、中間層を構成する樹脂組成物全量に対して、60~99重量%であることが好ましく、より好ましくは70~97重量%、さらに好ましくは80~95重量%である。ポリプロピレン系樹脂の含有量が当該範囲より少ない場合は、レトルト処理時にポリプロピレン系樹脂が溶出してしまう可能性がある。
【0053】
[炭化水素系樹脂]
本発明で用いる炭化水素系樹脂は、数平均分子量が100~3000で且つ軟化点が60℃以上170℃未満の炭化水素系樹脂である。このような炭化水素系樹脂は、通常、常温(23℃)で液体または固体の熱可塑性樹脂に属する。
【0054】
炭化水素系樹脂としては、具体的には、ロジン系樹脂(ロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等の変性ロジン、変性ロジンのグリセリンエステルやペンタエリスリトールエステル等のロジンエステル等)やテルペン系樹脂(テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂)等の天然炭化水素樹脂;石油樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール系樹脂(アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等)、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂等の合成炭化水素樹脂等が挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。
【0055】
上記石油樹脂とは、石油ナフサ等の熱分解により副生する不飽和炭化水素モノマーを含有する留分を重合したものを意味し、具体的には、脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)、芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)、脂肪族/芳香族系石油樹脂(C5/C9系石油樹脂)、脂環族系石油樹脂(水添系石油樹脂)に分類される。
【0056】
脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)とは、石油ナフサ分解油のC5留分の精製成分を重合して得られた合成樹脂であり、具体例としては、クイントン100シリーズ(日本ゼオン社製)、エスコレッツ1000シリーズ(エクソンモービル社製)などが挙げられる。
【0057】
芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)とは、石油ナフサ分解油のC9留分の精製成分を重合して得られた合成樹脂であり、具体例としては、ペトコール(東ソー社製)、日石ネオポリマー(新日本石油社製)などが挙げられる。
【0058】
脂肪族/芳香族系石油樹脂(C5/C9系石油樹脂)とは、上記C5留分とC9留分をブレンドした原料を共重合して得られた合成樹脂であり、具体例としては、ペトロタック(東ソー社製)、トーホーハイレジン(東邦化学工業社製)、クイントン100シリーズ(日本ゼオン社製)、エスコレッツ2000シリーズ(エクソンモービル社製)などが挙げられる。
【0059】
脂環族系石油樹脂には、上記の芳香族系石油樹脂、または脂肪族/芳香族系石油樹脂を水素添加して得られた水添系石油樹脂及びC5留分から抽出されたジシクロペンタジエンを主原料に合成して得られた合成樹脂がある。
中でも上記の芳香族系石油樹脂、または脂肪族/芳香族系石油樹脂を水素添加して得られた水添系石油樹脂が代表的であり、具体例としては、アルコン(荒川化学工業社製)、アイマーブ(出光興産社製)、エスコレッツ5000シリーズ(エクソンモービル社製)などが挙げられる。
かかる水添系石油樹脂の場合には、水添率によって樹脂の極性が異なり、主に水添率90%以上の完全水添型と水添率90%未満の部分水添型に2種類に分類される。前者の具体例としては、アルコンPグレード(荒川化学工業社製)、アイマーブPタイプ(出光興産社製)などが挙げられ、後者の具体例としては、アルコンMグレード(荒川化学工業社製)、アイマーブSタイプ(出光興産社製)などが挙げられる。
【0060】
また、水素添加以外の方法で得られる脂環族系石油樹脂としてはC5留分から抽出されたジシクロペンタジエンを主原料に合成して得られた合成樹脂の具体例としては、クイントン1000シリーズ(日本ゼオン社製),マルカレッツMシリーズ(丸善石油化学社製)が挙げられる。
【0061】
本発明においては、中間層を構成する樹脂組成物の透明性や色調などの外観や無臭性を向上させる点で、石油樹脂を用いることが好ましく、さらには脂環族系石油樹脂を用いることが好ましく、特には水添系石油樹脂を用いることが好ましい。
また、水添系石油樹脂の水添率については、特に限定されないが、完全水添型の水添系石油樹脂を用いることが好ましい。
【0062】
炭化水素系樹脂の数平均分子量としては、通常100~3000、好ましくは300以上1500未満、特に好ましくは400以上1000未満である。数平均分子量が小さすぎる場合、溶融混合の際に原料投入部で液体になりやすく、特に粘度が低い液体になると、混合不良をおこしやすくなり、分散不良によってフィルム透明性が低下するおそれがある。また、数平均分子量が大きすぎる場合、EVOHと分離しやすくなり、ひいては成形品において、目ヤニやスジなど外観不良の原因となるおそれがある。
なお、上記数平均分子量は、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で得られるポリスチレン換算値により算出することができる。
【0063】
炭化水素系樹脂の軟化点としては、通常60℃以上170℃未満、好ましくは95℃以上160℃未満、特に好ましくは110℃以上150℃未満である。軟化点が低すぎる場合、炭化水素系樹脂が成形品から溶出しやすくなるといった問題も生じやすい。軟化点が高すぎる場合は、溶融混合の際に炭化水素系樹脂の未溶融部分が残存してフィルム成形物にフィッシュアイなどの異物が発生するおそれがある。
なお、軟化点の測定方法としては、JIS K2207(環球法)に準拠した方法を用いることができる。
【0064】
炭化水素系樹脂の色相としては、ガードナーナンバーが通常3以下、好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。ガードナーナンバーが3を超えると、樹脂組成物の黄色度が強くなり外観特性が低下する恐れがある。
また、水添系石油樹脂の場合には、ハーゼンナンバーが通常200以下、好ましくは150以下、特に好ましくは100以下である。ハーゼンナンバーが200以下のものを用いると、外観特性に優れた無色透明な樹脂組成物を得ることができる。
なお、色相の測定方法としては、JIS K0071-1(ハーゼンナンバー)、JIS K0071-2(ガードナーナンバー)に準拠した方法を用いることができる。
【0065】
炭化水素系樹脂の常温での形態としては、例えば、粉末状、塊状、フレーク状、ペレット状(粒状)、液状などが挙げられるが、特に限定しない。混合時の作業性や計量性の観点からは、フレーク状、ペレット状が好ましく、特にペレット状が好ましい。
【0066】
中間層を構成する樹脂組成物中の炭化水素系樹脂の含有量は、当該樹脂組成物全量に対して、1~30重量%であることが好ましく、より好ましくは3~25重量%、さらに好ましくは5~20重量%である。かかる含有量が多すぎる場合、中間層の機械的強度が低下し、スタンドアップパウチとして用いた場合は全体の強度も低下する傾向がある。一方、かかる含有量が少なすぎる場合、水蒸気透過度が上昇する傾向がある。
【0067】
中間層を構成する樹脂組成物中に炭化水素系樹脂を含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、ドライブレンド法、溶融混練法等が挙げられる。
【0068】
なお、中間層は、ポリプロピレン系樹脂及び炭化水素系樹脂以外の任意の成分が含まれた層であってもよい。
【0069】
本発明で用いる中間層は、単層ないし多層で使用することができる。また、中間層の厚みとしては、5~100μmが好ましく、より好ましくは15~70μm、さらに好ましくは20~50μmである。かかる厚みが薄すぎると水蒸気透過度が上昇する傾向があり、厚すぎると耐落袋性が低下する傾向がある。
【0070】
<ヒートシール樹脂層>
本発明で用いるヒートシール樹脂層は、熱によって溶融し相互に融着し得る層である。
【0071】
本発明で用いるヒートシール樹脂層を構成する樹脂としては、従来公知のヒートシール性を有する樹脂(ヒートシール樹脂)を用いることが可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン系樹脂(ホモポリプロピレン〔プロピレン単独重合体〕、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体またはブロック共重合体等)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、これらポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸、その他の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。
中でも、本発明の多層構造体をスタンドアップパウチとして用いる場合、スタンドアップパウチに充分な自立性を付与するという観点から、フィルム自体に靱性のある直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)またはポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0072】
ヒートシール樹脂層は、ヒートシール樹脂以外の任意の成分が含まれた層であってもよい。ヒートシール樹脂層を構成する樹脂組成物に含まれる任意の成分としては、各種物性(例えば、耐落袋性)を改善する目的で、熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。中でも、オレフィン系熱可塑性エラストマーが特に好ましく、オレフィン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレン系樹脂とを含むことがより好ましい。
また、ヒートシール樹脂層を構成する樹脂組成物は、炭化水素系樹脂を含んでいてもよい。炭化水素系樹脂の具体例は、上記中間層に用いられる炭化水素系樹脂と同様である。
【0073】
ヒートシール樹脂層を構成する樹脂組成物中のヒートシール樹脂の含有量は、当該樹脂組成物全量に対して、60~99重量%であることが好ましく、より好ましくは70~95重量%、さらに好ましくは75~90重量%である。かかる含有量が多すぎる場合、充分な柔軟性が得られず耐落袋性が低下する傾向があり、含有量が少なすぎる場合は充分なシール強度が得られない傾向がある。
【0074】
ヒートシール樹脂層を構成する樹脂組成物中の熱可塑性エラストマーの含有量は、当該樹脂組成物全量に対して、5~40重量%であることが好ましく、より好ましくは10~30重量%、さらに好ましくは15~25重量%である。かかる含有量が多すぎる場合、融点が低下し充分な耐熱性を得られない傾向があり、含有量が少なすぎる場合、充分な柔軟性が得られず耐落袋性が悪化する傾向がある。
【0075】
本発明で用いるヒートシール樹脂層は、単層ないし多層で使用することができる。また、ヒートシール樹脂層の厚みとしては、1~150μmが好ましく、より好ましくは3~100μm、さらに好ましくは5~55μmである。かかる厚みが薄すぎるとシール部分のシール強度が低下する傾向があり、厚すぎると剛性が大きくなり、スタンドアップパウチとして用いた場合は食品等を充填する際の開口性が低下する傾向がある。
【0076】
<接着樹脂層>
本発明の多層構造体は、接着樹脂層を有してもよい。接着樹脂層は、各層の接着強度を高めるために設けられる。接着樹脂層が適切に配置されていない場合、わずかな力で各層が剥離してしまい、スタンドアップパウチとしての使用に耐えられなくなる傾向がある。当該接着樹脂層は、任意の位置に設けられる。
【0077】
接着樹脂層を構成する接着樹脂としては、公知のものを使用できる。接着樹脂としては、例えば、カルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。当該変性ポリオレフィン系重合体は、不飽和カルボン酸またはその無水物を、ポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られる。
【0078】
当該変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられ、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0079】
接着樹脂層の厚みとしては、1層あたり1~30μmであることが好ましく、より好ましくは2~20μm、特に好ましくは3~10μmである。
【0080】
<接着剤層>
本発明の多層構造体は、2種類の層を貼り合わせる際に用いられる接着剤層を有してもよい。接着剤層にはドライラミネート用接着剤を用いることができる。ドライラミネート用接着剤としては、二液硬化型ウレタン系接着剤、ポリエステルウレタン系接着剤、ポリエーテルウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられる。これらは単独で、或いは二種以上を併用することができる。また、これらの接着剤を用いて保護層とバリア層を貼り合わせる方法として、ドライラミネート法がある。
【0081】
上記接着剤の中では、優れた接着力を有し、かつ、ウレタン結合によって接着力が低下し難い二液硬化型ウレタン系接着剤を用いることが好ましい。
二液硬化型ウレタン系接着剤は、主剤と硬化剤からなるものであり、好ましくはポリエステルポリオールと多官能ポリイソシアネートからなる二液硬化型ウレタン系接着剤が挙げられる。この多官能ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)が挙げられる。
【0082】
接着剤層の厚みは特段の制限はないが、レトルト処理後であっても充分な密着力を保持するために、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、2μm以上であることが特に好ましい。
【0083】
<他の樹脂層>
本発明の多層構造体は、上記した層以外に、さらに他の樹脂層を有してもよく、また、他の樹脂層が積層される位置は任意である。
【0084】
他の樹脂層を構成する樹脂としては、公知のものを使用できる。このような樹脂としては、例えば、ポリアラミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。
【0085】
<層構成>
本発明の多層構造体においては、EVOH層の少なくとも片面にポリアミド系樹脂層が隣接していることが好ましく、EVOH層の両面にポリアミド系樹脂層が隣接していることがより好ましい。EVOH層とポリアミド系樹脂層とを隣接させることで、レトルト処理後の酸素バリア性の回復速度が速くなる傾向がある。
【0086】
本発明の多層構造体の層構成としては、例えば、保護層/ポリアミド系樹脂層/EVOH層/中間層/ヒートシール樹脂層、保護層/EVOH層/ポリアミド系樹脂層/中間層/ヒートシール樹脂層、保護層/ポリアミド系樹脂層/EVOH層/ポリアミド系樹脂層/中間層/ヒートシール樹脂層等が挙げられる。
上記層構成において、本発明の多層構造体は、接着樹脂層、接着剤層を任意に有することができる。
【0087】
これらの中でも、耐落袋性の観点から、保護層/接着剤層/ポリアミド系樹脂層/EVOH層/ポリアミド系樹脂層/接着樹脂層/中間層/ヒートシール樹脂層、または保護層/接着剤層/ポリアミド系樹脂層/EVOH層/ポリアミド系樹脂層/接着剤層/中間層/ヒートシール樹脂層が好ましい。
【0088】
<層厚み>
本発明の多層構造体の全厚は、30μm以上が好ましく、30~700μmがより好ましく、50~450μmがさらにより好ましく、70~300μmが特に好ましい。全厚が薄すぎると、多層構造体をスタンドアップパウチとして用いる場合、スタンドアップパウチが自立性を保持するための剛性が得られない傾向がある。また、全厚が厚すぎると、スタンドアップパウチの剛性が高くなり過ぎ、スタンドアップパウチに食品等を充填する際の開口性が低下する傾向がある。
【0089】
また、多層材の厚みは、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、1~150μmであることが好ましく、より好ましくは5~145μm、特に好ましくは10~140μmである。
【0090】
EVOH層の厚み(Te)とポリアミド系樹脂層の厚み(Tp)との比(Te/Tp)としては、0.02~10であることが好ましく、より好ましくは0.05~5、特に好ましくは0.1~1.0である。かかる厚み比が上記範囲である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。なお、各層が複数層の場合は、当該層厚みの和が、上記範囲内であればよい。
【0091】
EVOH層の厚み(Te)と、ヒートシール樹脂層及び中間層の合計厚み(Th)との比(Te/Th)としては、0.05~0.8であることが好ましく、より好ましくは0.1~0.5、特に好ましくは0.2~0.4である。かかる厚み比が上記範囲である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。なお、各層が複数層の場合は、当該層厚みの和が、上記範囲内であればよい。
【0092】
ヒートシール樹脂層(Th1)と中間層(Th2)の厚み比(Th1/Th2)としては、0.05~20であることが好ましく、より好ましくは0.1~10、特に好ましくは0.2~5である。かかる厚み比が上記範囲である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【0093】
<多層構造体の製造方法>
本発明の多層構造体は、例えば、(1)保護層に、バリア層(ポリアミド系樹脂層、EVOH層)、中間層及びヒートシール樹脂層を有する多層材を積層する方法、(2)保護層に、バリア層(ポリアミド系樹脂層、EVOH層)、中間層、ヒートシール樹脂層を順次積層する方法、(3)保護層、バリア層(ポリアミド系樹脂層、EVOH層)、中間層及びヒートシール樹脂層のうちの任意の層を積層しておき、残りの層を積層する方法等によって得られる。
【0094】
まず、バリア層(ポリアミド系樹脂層、EVOH層)、中間層及びヒートシール樹脂層を有する多層材、とりわけ、ポリアミド系樹脂層、EVOH層、中間層及びヒートシール樹脂層がこの順に積層されてなる多層材(ポリアミド系樹脂層/EVOH層/中間層/ヒートシール樹脂層)の製造方法について説明する。
【0095】
多層材の積層は、溶融成形法、ウエットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤ラミネーション法、押出ラミネーション法、共押出ラミネーション法、インフレーション法等で行うことができる。中でも、溶剤を使用しないという環境面、別工程でラミネートを実施する必要がないというコスト面から溶融成形法が好ましい。
【0096】
かかる溶融成形法としては、公知の手法が採用可能である。例えば、押出成形法(T-ダイ押出、チューブラーフィルム押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150~300℃の範囲から、適宜選択される。
【0097】
多層材は、上記<層構成>の箇所で述べたように接着樹脂層と接着剤層を任意に有することができるが、これらの層を有する場合も上記と同様の方法で多層材を製造することができる。
【0098】
続いて、保護層と多層材を積層する方法について説明する。
保護層と多層材を積層する方法としては、通常の包装材料を製造するときに使用する積層法、例えば、ウエットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤ラミネーション法、押出ラミネーション法、共押出ラミネーション法、インフレーション法等で行うことができる。
【0099】
上記の積層を行う際に、必要ならば、例えば、その積層する基材の表面に、コロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等の前処理を任意に施すことができる。
【0100】
また、ドライラミネートするときには、例えば、ビニル系、アクリル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、エポキシ系等をビヒクルの主成分とする溶剤型、水性型、エマルジョン型等のラミネート用接着剤等を使用することができる。
【0101】
その際に、接着助剤として、例えば、イソシアネート系接着助剤、ポリエチレンイミン系接着助剤、その他のアンカーコート剤等を任意に使用することができる。
【0102】
また、上記において、押出ラミネーション法による場合は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸、その他等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂等を溶融押出ラミネート用樹脂として使用することができる。
【0103】
なお、複数種の保護層と多層材(例えば、保護層/保護層/多層材)の構成も可能である。また、保護層/多層材/保護層の構成も可能である。保護層同士の積層についても、上記と同様の方法で積層させることができる。
【0104】
<多層構造体の用途>
本発明の多層構造体は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料として好適に用いることができる。包装体の形状は、例えば、ボトル、袋、スタンドアップパウチ等任意の形状が可能である。
本発明の多層構造体は、加熱殺菌処理後のガスバリア性が優れるため、レトルト処理を行なう包装材料として有用であり、スタンドアップパウチ用、とりわけレトルト処理に用いられるスタンドアップパウチ用として特に有用である。
【0105】
[スタンドアップパウチ]
本発明の多層構造体を用いてなるスタンドアップパウチは、胴部及び胴部に対して垂直方向に設けられた底部を有し、内容物を充填した際に自立できる剛性を有する。
【0106】
<スタンドアップパウチの構成>
図2は、本発明の多層構造体を用いたスタンドアップパウチの一例を示す全体斜視図である。本発明のスタンドアップパウチ5は、表裏二枚の胴部フィルム6,6と底部フィルム7からなっている。胴部フィルム6及び底部フィルム7は、可撓性を有したフィルムであり、本発明の多層構造体を所望の大きさに切り取ったものである。本発明の多層構造体は、多層材側が内側に位置するように、すなわち保護層側が外側に位置するように配置される。
【0107】
二枚の胴部フィルム6,6の下部の間に底部フィルム7が折り畳まれた状態で挿入され、胴部フィルム6,6の下部縁部と底部フィルム7の周縁部がシールされることにより底部シール部8が形成され、重ねられた胴部フィルム6,6の左右の縁部がシールされることによりサイドシール部9が形成される。これにより、内容物が充填された状態で、底部フィルム7が拡開しスタンドアップパウチ5になる。
【0108】
本発明においては、スタンドアップパウチ5の上部が開口した状態で、この開口部から所望の飲食品等の内容物を充填する。次いで、上方の開口部をヒートシールして天シール部等を形成して包装半製品を製造し、その後、該包装半製品を、加圧加熱殺菌処理等のレトルト処理を施して、種々の形態からなるレトルト包装食品を製造することができる。
【0109】
本発明のスタンドアップパウチは、任意の位置に継ぎ口を設けたり、意匠を付与したりすることも可能である。
【0110】
スタンドアップパウチ5の寸法としては、継ぎ口等を含まない多層構造体部分の寸法にて、例えば、幅Wが50~1000mm、好ましくは100~500mm、特に好ましくは100~200mm、高さHが50~1000mm、好ましくは100~500mmであり、特に好ましくは150~300mm、底部の奥行きDが10~500mm、好ましくは20~300mm、特に好ましくは30~100mmである。
【0111】
高さHと幅Wの比(H/W)は、例えば、0.2~10であり、好ましくは1~5であり、特に好ましくは1より大きく2以下である。当該比(H/W)がかかる範囲内にある場合、スタンドアップパウチ5の視認性や陳列効率が良くなる傾向がある。上記寸法は、スタンドアップパウチ5を構成する胴部フィルム6及び底部フィルム7のサイズを調整することにより所望の寸法とすることができる。なお、自立式のスタンドアップパウチとするために、底部フィルムは折り畳まれた状態で挿入されるが、スタンドアップパウチの自立状態では、底部フィルムは折り畳まれた状態から開いた状態となる。
【0112】
底部フィルム7自体は長方形であるが、スタンドアップパウチ5の底部の奥行きDを上記範囲内とするために、底部フィルム7はヒートシール部位を調整することにより略楕円形状に形成される。かかる底部フィルム7が形成する略楕円形のサイズは、長径を胴部フィルム6の幅と同じサイズとし、短径は10~500mm、好ましくは20~300mm、特に好ましくは30~100mmとする。かかる短径は通常上記底部奥行きDの1~1.5倍である。
【0113】
次に、本発明のスタンドアップパウチの具体的な製造方法について説明する。
<スタンドアップパウチの製造方法>
スタンドアップパウチを形成するために、本発明の多層構造体を所定の幅にスリットし、胴部フィルム、底部フィルムを形成する。
図2に示したように、二枚の胴部フィルム6,6を多層材側が対向するように重ね、底部フィルム7を二枚の胴部フィルム6,6の下部の間に挟み込んで、底部と左右側辺をシールし、それぞれ底部シール部8、左右のサイドシール部9を形成し、天部、即ち上部が開口したスタンドアップパウチ5を形成する。この際に、少なくとも一方のサイドシール部9に、長手方向にシール部に囲まれた未シール部からなる空隙部を複数形成する。
【0114】
次に、上記空隙部に空気を圧入する。空気封入部を形成する方法を簡単に説明する。形成された空隙部の長手方向端部に、空気を圧入するための圧入孔を形成する。この圧入孔は、胴部フィルム6を貫通する孔であればよい。圧入孔から空気を圧入するために、別の圧入ノズルを圧入孔に当接し、空隙部に空気を圧入しながら、目的の空気量に到達したら、圧入孔よりずらした位置で、シールして空気封入部を形成する。その後、圧入孔をシールする。即ち、ヒートシール層により、圧入孔が塞がれ空気封入部が形成される。
【0115】
このように形成されたスタンドアップパウチは、自立性を向上させ、かつ内容物が使用されて中身が減少しても、サイドシールの折れや包装袋の腰砕け等による変形が生じないものであり、反面、空気封入部と空気封入部の間で折り曲げることができるために、包装袋を減容化して保存することができる。また、使用後廃棄する場合でも、空気封入部と空気封入部との間を折り曲げ、折り畳んで包装袋を減容化できる。
【0116】
なお、本発明の多層構造体を用いたスタンドアップパウチは、上記胴部フィルム、底部フィルムの少なくとも一部に本発明の多層構造体を用いることにより得られる。本発明の効果をより効果的に得られる点で、上記胴部フィルム、底部フィルムの全部において本発明の多層構造体を用いた、本発明の多層構造体からなるスタンドアップパウチが最も好ましい。
【0117】
<スタンドアップパウチの内容物>
本発明の多層構造体を用いたスタンドアップパウチに充填包装される内容物としては、例えば、調理食品、水産練り製品、冷凍食品、煮物、餅、液体スープ、調味料、飲料水、その他等の各種の飲食品、具体的には、例えば、カレー、シチュー、スープ、ミートソース、ハンバーグ、ミートボール、しゅうまい、おでん、お粥等の流動食品、ゼリー状食品、調味料、水、その他等の各種の飲食品等を挙げることができる。特に本発明においては、内容物が液体を含む場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0119】
[使用材料]
多層構造体の材料として、以下の材料を用いた。なお、「PET」はポリエチレンテレフタレートを、「Ny」はナイロンを、「EVOH」はエチレン-ビニルアルコール系共重合体を、「PP」はポリプロピレンを、「PE」はポリエチレンを各々意味する。
【0120】
(保護層)
・PET1:フタムラ化学社製「FE2001A」
【0121】
(バリア層〔ポリアミド系樹脂層、EVOH層〕)
・Ny1:宇部興産社製「1022B」(ナイロン6)
・Ny2:三菱瓦斯化学社製「S6011」(ポリアミドMXD6)
・EVOH:エチレン含有量;29モル%、ケン化度;99.7モル%、MFR;6.1g/10分(230℃、荷重2160g)のEVOH
【0122】
(中間層、ヒートシール樹脂層)
・PP1:ホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製「ノバテックPP EA7AD」)90重量%+炭化水素系樹脂(荒川化学工業社製「P-115」(水素化石油炭化水素樹脂)数平均分子量710 軟化点115℃)10重量%の混合物
・PP2:ブロックポリプロピレン(日本ポリプロ社製「ノバテックPP BC6DRF」)80重量%+熱可塑性エラストマー(三井化学社製「タフマー A1085S」(プロピレン-αオレフィン共重合体))20重量%の混合物
・PE:ポリエチレン(日本ポリプロ社製「ノバテックLL UF240」)
【0123】
(接着樹脂層)
・Tie:LyondellBasell社製「Plexar PX6002」
【0124】
(接着剤層)
・Adh:ドライラミネーション用接着剤(主剤:東洋モートン社製「TM-242A」、硬化剤:東洋モートン社製「CAT-RT37L」、上記主剤:上記硬化剤:酢酸エチル=17:1.5:19.2)
【0125】
[実施例1]
インフレーション多層フィルム成形機を用いて、Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(45μm)/PP2(10μm)の多層材を得た。
<多層構造体の製造>
(製膜条件)
Ny1層・・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
EVOH層・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
Ny2層・・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:260℃)
Tie層・・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
PP1層・・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
PP2層・・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
PE層・・・・・・・40mmφ単軸押出機(バレル温度:240℃)
ダイス・・・・・・・スパイラルダイ(ダイ温度:230℃)
フィルム折幅・・・・600mm
【0126】
PET1(12μm)に、上記で得られた多層材を、Adhを用いて、固形分として3g/m2塗布し、ドライラミネートすることによって、多層構造体を作製した。多層構造体を40℃にて48時間エージングした。
【0127】
得られた多層構造体の構造は、PET1(12μm)/Adh(3μm)/Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(45μm)/PP2(10μm)であった。得られた多層構造体の全厚みは115μmであった。
【0128】
[実施例2]
実施例1と同様にして、Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny1(5μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(35μm)/PP2(20μm)の多層材を作製した。
【0129】
実施例1と同様にして、PET1(12μm)にAdhを3g/m2塗布し、上記で得られた多層材を積層させ、多層構造体を得た。
【0130】
得られた多層構造体の構造は、PET1(12μm)/Adh(3μm)/Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny1(5μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(35μm)/PP2(20μm)であった。得られた多層構造体の全厚みは120μmであった。
【0131】
[実施例3]
実施例1と同様にして、Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny1(5μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(25μm)/PP2(30μm)の多層材を作製した。
【0132】
実施例1と同様にして、PET1(12μm)にAdhを3g/m2塗布し、上記で得られた多層材を積層させ、多層構造体を得た。
【0133】
得られた多層構造体の構造は、PET1(12μm)/Adh(3μm)/Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny1(5μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(25μm)/PP2(30μm)であった。得られた多層構造体の全厚みは120μmであった。
【0134】
[比較例1]
実施例1と同様にして、Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP2(55μm)の多層材を作製した。
【0135】
実施例1と同様にして、PET1(12μm)にAdhを3g/m2塗布し、上記で得られた多層材を積層させ、多層構造体を得た。
【0136】
得られた多層構造体の構造は、PET1(12μm)/Adh(3μm)/Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP2(55μm)であった。得られた多層構造体の全厚みは115μmであった。
【0137】
[比較例2]
比較例1において、PP2(55μm)に代えてPP1(55μm)を用いた多層材を作製した以外は同様にして多層構造体を得た。
【0138】
得られた多層構造体の構造は、PET1(12μm)/Adh(3μm)/Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PP1(55μm)であった。得られた多層構造体の全厚みは115μmであった。
【0139】
[比較例3]
実施例3において、PP1(25μm)に代えてPE(25μm)を用いた多層材を作製した以外は同様にして多層構造体を得た。
【0140】
得られた多層構造体の構造は、PET1(12μm)/Adh(3μm)/Ny1(10μm)/EVOH(20μm)/Ny1(5μm)/Ny2(10μm)/Tie(5μm)/PE(25μm)/PP2(30μm)であった。得られた多層構造体の全厚みは120μmであった。
【0141】
[多層構造体評価]
(レトルト処理後の酸素透過度(酸素バリア性))
上記実施例及び比較例で得られた各多層構造体を用い、スタンドアップパウチ(幅140mm×高さ180mm×底部の短径60mm、底部の奥行き58mm)を作製した。スタンドアップパウチ作製に用いた製袋機は、TOTANI社製「BH-60D」であり、サイドシール、サイド及びボトムの交点のポイントシール部分は220℃に、ボトムシールは230℃に設定した。
【0142】
得られた各スタンドアップパウチに、水300mLを充填させ、各スタンドアップパウチ中に空気がなるべく入らないように注意しながら、上辺をヒートシールした。
【0143】
次に、水を充填した各スタンドアップパウチを、浸漬式熱水処理装置(日阪製作所社製)を用いて、120℃で30分間熱水処理を実施した後、熱水処理装置より取り出して水を捨てた後、酸素ガス透過量測定装置(モコン社製、OX-TRAN 2/21)を用いて、5日後の酸素透過度(23℃、内部100%RH、外部50%RH)を測定した。なお、酸素透過度(cc/pkg・day・air)のpkgは、Packageの略称であり、酸素透過度の測定対象がスタンドアップパウチ全体であることを意味し、airは酸素透過度の測定に使用したガスが空気(酸素分圧0.2atm)であることを示している。
【0144】
(水蒸気透過度)
上記(レトルト処理後の酸素透過度(酸素バリア性))と同様の条件で、水300mLを充填した各スタンドアップパウチを作製した。
【0145】
次に、水を充填した各スタンドアップパウチを、浸漬式熱水処理装置(日阪製作所社製)を用いて、120℃で30分間熱水処理を実施した後、熱水処理装置より取り出して23℃、50%RH雰囲気下で保存し、一定時間毎に重量増加量を測定し、重量の経時変化を評価し、水蒸気透過度(WVTR〔g/m2・day〕)を算出した。
また、得られた水蒸気透過度の値より、1年間におけるスタンドアップパウチの重量変化率(年重量変化率)を算出した。年重量変化率は、例えば、以下の式により算出されるものであり、かかる年重量変化率は、内容物への悪影響の点から数値が小さいほど好ましい。
年重量変化率=[WVTR(g/m2・day)×スタンドアップパウチ表面積(m2)×365(day)/内容物重量(g)]×100(%)
なお、本実施例では、スタンドアップパウチ表面積は0.066m2、内容物重量(水)300gである。
【0146】
(ヒートシール性)
ヒートシールテスター(井元製作所社製、型式IMC-A043)を用いて、シール圧力0.1MPa、シール時間1秒間、シール幅を10mm、シール温度は210℃または250℃とし、各多層材のヒートシール樹脂層が重なるようにしてシールした。シールしたフィルムを15mm幅に切り出し、チャック間距離を30mm、引張速度を300mm/minとしてオートグラフ(島津製作所社製、型式AGS-5kNX)を用いて、T字剥離強度を測定し、ヒートシール性を評価した。なお、レトルト食品のヒートシール強度は、実用上、23N/15mm以上が求められることから、23N/15mmを基準に評価した。
(評価基準)
○:23N/15mm以上
×:23N/15mm未満
【0147】
【0148】
表1の結果より、実施例1~3の多層構造体を用いて作製されたスタンドアップパウチは、低い水蒸気透過度を有し、例えば、内容物の水分がスタンドアップパウチ外へ抜けることによる内容物の品質劣化を防止することができ、さらにヒートシール性も優れ、耐落袋性に優れることが分かった。
他方、比較例1~3の多層構造体を用いて作成されたスタンドアップパウチは、水蒸気透過度に劣り、内容物の水分がスタンドアップパウチ外へ抜けることによる内容物の品質劣化が生じやすく、または、ヒートシール性が劣り、耐落袋性に劣ることが分かった。
また、表1の結果より、実施例1~3の多層構造体は、熱水処理を終えてからの酸素透過度が低く、酸素バリア性に優れることが分かった。
【0149】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の多層構造体は、低い水蒸気透過度と充分なヒートシール性とを両立することから、加熱処理される食品、飲料、化粧品、医薬品等の包装材料、とりわけスタンドアップパウチ用として好適である。
【符号の説明】
【0151】
1 保護層
2 バリア層
2a ポリアミド系樹脂層
2b EVOH層
3a 中間層
3b ヒートシール樹脂層
4 多層材
5 スタンドアップパウチ
6 胴部フィルム
7 底部フィルム
8 底部シール部
9 サイドシール部
10 多層構造体