IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許7480777樹脂組成物、プリプレグ、積層板、多層プリント配線板及び半導体パッケージ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、積層板、多層プリント配線板及び半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20240501BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240501BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240501BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20240501BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20240501BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240501BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240501BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20240501BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240501BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08L71/12
C08K5/521
C08L63/00 Z
C08L79/00 B
C08G73/00
C08L53/02
C08K3/013
C08F299/02
C08J5/24 CEZ
B32B15/08 U
H05K1/03 610H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021512330
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2020015370
(87)【国際公開番号】W WO2020204175
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019071594
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧 貴大
(72)【発明者】
【氏名】江尻 貴子
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】内村 香奈
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊希
(72)【発明者】
【氏名】大森 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 蔵
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086330(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175325(WO,A1)
【文献】特開2009-149742(JP,A)
【文献】特開2005-008829(JP,A)
【文献】特開2000-290490(JP,A)
【文献】特開2004-182983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 299/02
C08J 5/04-5/10、5/24
C08G 73/00-73/26
B32B 15/08
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基を有するリン酸エステル系難燃剤(A)と、
両末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル誘導体(B)と、
エポキシ樹脂、シアネート樹脂及びマレイミド化合物からなる群から選択される1種以上の熱硬化性樹脂(C)と、
を含有し、
前記2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基が、2個の芳香環同士が単結合若しくは炭素数5以下の連結基によって結合されてなる2価の芳香族炭化水素基、又は2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の含有量が、樹脂成分の総和100質量部に対して、50~95質量部である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、下記一般式(A-1)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、Ra1~Ra4は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa1は、下記一般式(A-2)で表される2価の基又は2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基を示す。na1~na4は、各々独立に、0~5の整数を示し、na5は、1~5の整数を示す。)
【化2】

(式中、Ra5及びRa6は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa2は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。na6及びna7は、各々独立に、0~4の整数を示す。na8は、1~3の整数を示す。)
【請求項4】
前記(A)成分に由来するリン原子の含有量が、無機充填材を除く樹脂組成物の固形分中、0.2~5質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が有する前記エチレン性不飽和結合含有基が、(メタ)アクリロイル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の重量平均分子量(Mw)が、500~7,000である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)成分の含有量が、樹脂成分の総和100質量部に対して、5~45質量部である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C)成分として、前記マレイミド化合物を含有し、該マレイミド化合物が、N-置換マレイミド基を少なくとも2個以上有するマレイミド化合物(c1)由来の構造単位と第1級アミノ基を有するアミン化合物(c2)由来の構造単位と、を有する変性マレイミド化合物である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記変性マレイミド化合物が、下記一般式(C-2)で表される化合物である、請求項8に記載の樹脂組成物。
【化3】

(式中、Xc1及びXc4は、各々独立に、2価の有機基である。)
【請求項10】
さらに、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)、硬化促進剤(E)及び無機充填材(F)からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物とシート状繊維補強基材とを含有してなるプリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板。
【請求項13】
請求項11に記載のプリプレグ又は請求項12に記載の積層板を含有してなる多層プリント配線板。
【請求項14】
請求項13に記載の多層プリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージ。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を加熱硬化させる工程を有する積層板の製造方法であって、
前記(A)成分の融点が、50~250℃であり、
前記加熱硬化温度が、前記(A)成分の融点以上であり、
加熱硬化する前の前記樹脂組成物中における前記(A)成分が粒子形状を有する、積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、積層板、多層プリント配線板及び半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー、ルーター等のネットワークインフラ機器、大型コンピュータなどでは、使用する信号の高速化及び大容量化が年々進んでいる。これに伴い、これらの電子機器に搭載されるプリント配線板には高周波化対応が必要となり、伝送損失の低減を可能とする高周波数帯(例えば、10GHz以上)における誘電特性(低誘電率及び低誘電正接;以下、高周波特性と称することがある。)に優れる基板材料が求められている。近年、このような高周波信号を扱うアプリケーションとして、上述した電子機器のほかに、ITS分野(自動車、交通システム関連)及び室内の近距離通信分野でも高周波無線信号を扱う新規システムの実施計画及び実用化が進んでいる。したがって、今後、これらの機器に搭載するプリント配線板に対しても、低伝送損失基板材料が要求されると予想される。
【0003】
また、近年、環境問題に対する意識の高まりから、電子機器及び電子部品についても環境への配慮が不可欠となっている。従来から、プラスチック製品全般に用いられていたハロゲン系難燃剤は、最も代表的な臭素系難燃剤であるデカブロモジフェニルオキサイドが焼却時に有毒な臭素化ジベンゾダイオキシンとフランを生成させることが報告されて以来、その安全性が疑われている。したがって、環境問題への配慮の点から、従来のハロゲンを含む臭素系難燃剤を使用しないハロゲンフリー製品の導入が進められている。なお、ハロゲンフリーとは、ハロゲン原子を全く含んでいないこと、又はその含有量が極微量の場合をいい、例えば、社団法人日本電子回路工業会では、ハロゲンフリープリント配線板用銅張積層板の定義を塩素(Cl)、臭素(Br)の含有率がそれぞれ900ppm以下であり、且つ、塩素と臭素の含有率総量が1500ppm以下と定義している。
【0004】
ハロゲンフリーのプリント配線板用材料への難燃性の付与には、通常、リン含有難燃剤が使用されているが、ハロゲンフリー材料の難燃化には多量の難燃剤が必要であるため、難燃剤の誘電特性がプリント配線板自体の誘電特性に及ぼす影響が大きくなりつつある。しかし、難燃剤は、プリント配線板用材料を構成する材料の中でも誘電特性に劣る材料であるため、添加量の増大によってプリント配線板の誘電特性が不十分になることがあり、そのことがプリント配線板の誘電特性向上の障壁となっている。
【0005】
特許文献1には、優れた誘電特性を有しながらも硬化物の耐熱性及び難燃性に優れる樹脂組成物として、変性ポリフェニレンエーテル化合物、架橋型硬化剤及び難燃剤を含有し、該難燃剤が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の混合物に相溶する相溶性リン化合物と、前記混合物に相溶しない非相溶性リン化合物とを含有することを特徴とする樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-86330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年は、6GHzを超える周波数帯の電波が使用される第五世代移動通信システム(5G)アンテナ及び30~300GHzの周波数帯の電波が使用されるミリ波レーダーにも利用可能な10GHz帯以上における誘電特性がさらに改善された樹脂組成物の開発が切望されている。すなわち、樹脂組成物には、十分な難燃性を有しながらも、従来よりも一層優れた誘電特性を有することが望まれている。特許文献1の技術は、難燃性についての一定の改善が見られるものの、近年の誘電特性に対する高度な要求に対しては、十分に応えられていない。
【0008】
本発明は、このような現状に鑑み、十分な難燃性を有しながら、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現する樹脂組成物、該樹脂組成物を用いたプリプレグ、積層板、多層プリント配線板及び半導体パッケージを提供することを課題とする。
また、十分な難燃性を有しながら、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現し得る樹脂組成物に含有される成分の組み合わせを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の分子構造を有する難燃剤及びポリフェニレンエーテル誘導体を含有する樹脂組成物が、十分な難燃性を有しながら、優れた誘電特性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]~[15]に関するものである。
[1]2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基を有するリン酸エステル系難燃剤(A)と、
両末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル誘導体(B)と、
を含有する樹脂組成物。
[2]前記2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基が、2個以上の芳香環同士が単結合若しくは炭素数5以下の連結基によって結合されてなる2価の芳香族炭化水素基、又は2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基である、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記(A)成分が、下記一般式(A-1)で表される化合物である、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、Ra1~Ra4は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa1は、下記一般式(A-2)で表される2価の基又は2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基を示す。na1~na4は、各々独立に、0~5の整数を示し、na5は、1~5の整数を示す。)
【化2】

(式中、Ra5及びRa6は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa2は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。na6及びna7は、各々独立に、0~4の整数を示す。na8は、1~3の整数を示す。)
[4]前記(A)成分に由来するリン原子の含有量が、無機充填材を除く樹脂組成物の固形分中、0.2~5質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記(B)成分が有する前記エチレン性不飽和結合含有基が、(メタ)アクリロイル基である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記(B)成分の重量平均分子量(Mw)が、500~7,000である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]さらに、エポキシ樹脂、シアネート樹脂及びマレイミド化合物からなる群から選択される1種以上の熱硬化性樹脂(C)を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]前記(C)成分として、前記マレイミド化合物を含有し、該マレイミド化合物が、N-置換マレイミド基を少なくとも2個有するマレイミド化合物(c1)由来の構造単位とジアミン化合物(c2)由来の構造単位とを有する、上記[7]に記載の樹脂組成物。
[9]前記マレイミド化合物が、下記一般式(C-2)で表される変性マレイミド化合物である、上記[8]に記載の樹脂組成物。
【化3】

(式中、Xc1及びXc4は、各々独立に、2価の有機基である。)
[10]さらに、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)、硬化促進剤(E)及び無機充填材(F)からなる群から選択される1種以上を含有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物とシート状繊維補強基材とを含有してなるプリプレグ。
[12]上記[11]に記載のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板。
[13]上記[11]に記載のプリプレグ又は上記[12]に記載の積層板を含有してなる多層プリント配線板。
[14]上記[13]に記載の多層プリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージ。
[15]上記[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物を加熱硬化させる工程を有する積層板の製造方法であって、
前記(A)成分の融点が、50~250℃であり、
前記加熱硬化温度が、前記(A)成分の融点以上であり、
加熱硬化する前の前記樹脂組成物中における前記(A)成分が粒子形状を有する、積層板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、十分な難燃性を有しながら、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現する樹脂組成物、該樹脂組成物を用いたプリプレグ、積層板、多層プリント配線板及び半導体パッケージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、数値範囲の下限値及び上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値又は上限値と任意に組み合わせられる。
また、本明細書に例示する各成分及び材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
【0012】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、
2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基を有するリン酸エステル系難燃剤(A)[以下、「リン酸エステル系難燃剤(A)」又は「(A)成分」と略称することがある。]と、
両末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル誘導体(B)[以下、「ポリフェニレンエーテル誘導体(B)」又は「(B)成分」と略称することがある。]と、を含有する樹脂組成物である。
【0013】
以下、本実施形態の樹脂組成物に含有される各成分について説明する。なお、以下で説明する各成分の中にはハロゲンを含んでいてもよい成分もあるが、ハロゲンフリーの観点からは、塩素含有量及び臭素含有量は、各々、900質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。また、同様の観点から、塩素含有量と臭素含有量との総量は、1500質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。ハロゲン原子の含有量は、イオンクロマトグラフ法により測定することができる。
なお、以下の説明における「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示されるものである。
【0014】
<リン酸エステル系難燃剤(A)>
リン酸エステル系難燃剤(A)は、2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基[以下、「芳香族炭化水素基(a)」と略称することがある。]を有するリン酸エステル系難燃剤である。
本実施形態の樹脂組成物は、リン酸エステル系難燃剤(A)を含有することで、十分な難燃性を有しながらも、優れた誘電特性を発現するものとなる。その理由は定かではないが、次のように推測される。
リン酸エステル系難燃剤(A)は、分子中に2個以上の芳香環構造を含む芳香族炭化水素基を有しており、該2個以上の芳香環構造の相互作用によって分子同士が密にパッキングされた結晶性が高い構造を有し、これによって誘電特性の悪化原因の一つである分子振動が低減されたためであると考えられる。
リン酸エステル系難燃剤(A)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
芳香族炭化水素基(a)は、1価の基であっても、2価以上の基であってもよいが、2価の基であることが好ましい。芳香族炭化水素基(a)が2価の基である場合、2価の芳香族炭化水素基(a)は、2つのリン酸エステル結合を連結する2価の基(すなわち、=P(=O)-O-芳香族炭化水素基(a)-O-P(=O)=を形成する基)であることが好ましい。
【0016】
2価の芳香族炭化水素基(a)としては、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、2個以上の芳香環同士が単結合若しくは炭素数5以下の連結基によって結合されてなる2価の芳香族炭化水素基[以下、「芳香族炭化水素基(a1)」と略称することがある。]、又は、2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基[以下、「芳香族炭化水素基(a2)」と略称することがある。]であることが好ましく、芳香族炭化水素基(a1)であることがより好ましい。
【0017】
(芳香族炭化水素基(a1))
上記芳香族炭化水素基(a1)が含む2個以上の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、ベンゼン環が好ましい。
これらの芳香環から形成される芳香族炭化水素基は、置換基によって置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。上記置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~5の脂肪族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
芳香族炭化水素基(a1)としては、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、置換又は非置換のフェニレン基を含むものが好ましく、非置換のフェニレン基を含むものがより好ましい。
芳香族炭化水素基(a1)が含む2個以上の芳香環同士は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0018】
上記芳香族炭化水素基(a1)が含む炭素数5以下の連結基としては、炭素数が1~5の2価の炭化水素基、炭素数が5以下の2価のヘテロ原子含有基、炭化水素基とヘテロ原子含有基とが連結した炭素数が1~5の2価の基などが挙げられる。なお、ここでの「炭素数5以下」とは、炭素数が0である場合も含む。
炭素数1~5の2価の炭化水素基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等の炭素数1~5のアルキレン基;エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等の炭素数2~5のアルキリデン基などが挙げられる。炭素数が5以下の2価のヘテロ原子含有基としては、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基等が挙げられる。
【0019】
芳香族炭化水素基(a1)は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記一般式(A-2)で表される2価の基であることが好ましい。
【0020】
【化4】

(式中、Ra5及びRa6は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa2は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。na6及びna7は、各々独立に、0~4の整数を示す。na8は、1~3の整数を示す。)
【0021】
上記一般式(A-2)中のXa2が示す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。
a2が示す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。
a2が示す基の中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、メチレン基、イソプロピリデン基、単結合が好ましく、単結合がより好ましい。
【0022】
上記一般式(A-2)中のRa5及びRa6が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
【0023】
上記一般式(A-2)中のna6及びna7は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、0~3の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。na6又はna7が2以上の整数である場合、複数のRa5同士又は複数のRa6同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
上記一般式(A-2)中のna8は、1又は2が好ましく、1がより好ましい。na8が2以上の整数である場合、複数のXa2同士及び複数のna7同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
上記一般式(A-2)で表される2価の基は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記式(A-2-1)で表される2価の基又は下記式(A-2-2)で表される2価の基であることが好ましく、下記式(A-2-2)で表される2価の基であることがより好ましい。
【0026】
【化5】
【0027】
(芳香族炭化水素基(a2))
上記芳香族炭化水素基(a2)は、2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基である。本実施形態において、「縮合多環式芳香族炭化水素」とは、2つ以上の環構造を有する芳香族炭化水素であって、2つ又はそれ以上の環が2個以上の原子を共有する縮合環を有するものをいい、例えば、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。したがって、芳香族炭化水素基(a2)としては、これらの縮合多環式芳香族炭化水素から2個の水素原子を除いてなる2価の基が挙げられる。これらの縮合多環式芳香族炭化水素基は、置換基によって置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換基としては、上記芳香族炭化水素基(a1)が含む芳香環が有していてもよい置換基と同じものが挙げられる。
【0028】
リン酸エステル系難燃剤(A)が1分子中に有するリン原子の数は、特に限定されないが、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、1~10個が好ましく、2~5個がより好ましく、2個又は3個がさらに好ましく、2個が特に好ましい。リン酸エステル系難燃剤(A)がリン原子を2個以上有する場合、1のリン原子が形成するリン酸エステル結合と、別のリン原子が形成するリン酸エステル結合とが、上記2価の芳香族炭化水素基(a)によって連結されている縮合リン酸エステルであることが好ましい。
【0029】
リン酸エステル系難燃剤(A)としては、1価のリン酸エステルであってもよく、2価のリン酸エステルであってもよく、3価のリン酸エステルであってもよいが、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、3価のリン酸エステルであることが好ましい。
【0030】
リン酸エステル系難燃剤(A)が有するリン酸エステル基としては、アルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステル等のいずれであってもよいが、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、アリールエステルであることが好ましい。すなわち、リン酸エステル系難燃剤(A)は、芳香族リン酸エステル化合物であることが好ましい。
アリールエステルを構成するアリール基としては、置換又は非置換のフェニル基、置換又は非置換のナフチル基等が挙げられる。該アリール基の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~5の炭化水素基;ハロゲン原子などが挙げられる。これらの中でも、アリール基としては、非置換のフェニル基又は2,5-ジメチルフェニル基が好ましい。
【0031】
リン酸エステル系難燃剤(A)は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記一般式(A-1)で表される化合物であることが好ましい。
【0032】
【化6】

(式中、Ra1~Ra4は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa1は、下記一般式(A-2)で表される2価の基又は2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基を示す。na1~na4は、各々独立に、0~5の整数を示し、na5は、1~5の整数を示す。)
【0033】
【化7】

(式中、Ra5及びRa6は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xa2は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。na6及びna7は、各々独立に、0~4の整数を示す。na8は、1~3の整数を示す。)
【0034】
上記一般式(A-1)中のRa1~Ra4が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
a1~na4は、0~2の整数が好ましく、0又は2であることがより好ましい。na1~na4が2以上の整数である場合、複数のRa1同士、Ra2同士、Ra3同士又はRa4同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
a5は1~5の整数を示し、1~3の整数が好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。na5が2以上の整数である場合、複数のXa1同士及び複数のna4同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
上記一般式(A-2)中のRa5及びRa6が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(A-1)中のRa1~Ra4が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
a6及びna7は、0~4の整数を示し、0~2の整数が好ましく、0であることがより好ましい。na6又はna7が2以上の整数である場合、複数のRa5同士又は複数のRa6同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
a2が示す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。
a2が示す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。
a2が示す基の中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、メチレン基、イソプロピリデン基、単結合が好ましく、単結合がより好ましい。
a2は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記式(A-2-1)で表される2価の基又は下記式(A-2-2)で表される2価の基であることが好ましく、下記式(A-2-2)で表される2価の基であることがより好ましい。
【0037】
【化8】
【0038】
上記一般式(A-2)中のna8は1~3の整数を示し、1又は2が好ましく、1がより好ましい。na8が2以上の整数である場合、複数のXa2同士及び複数のna7同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
上記一般式(A-1)中のXa1が示す2個以上の芳香環構造を含む2価の縮合多環式芳香族炭化水素基としては、ナフタレン、アントラセン、ピレン等の縮合多環式芳香族炭化水素から2個の水素原子を除いてなる2価の基が挙げられる。これらの縮合多環式芳香族炭化水素基は、置換基によって置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。縮合多環式芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~5の脂肪族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
【0040】
リン酸エステル系難燃剤(A)としては、4,4’-ビフェノール-ジフェニルホスフェート、ビスフェノールA-ジフェニルホスフェート、4,4’-ビフェノール-ジクレジルホスフェート、ビスフェノールA-ジクレジルホスフェート、4,4’-ビフェノール-ジ(2,6-キシレニルホスフェート)、ビスフェノールA-ジ(2,6-キシレニルホスフェート)、4,4’-ビフェノール-ポリフェニルホスフェート、ビスフェノールA-ポリフェニルホスフェート、4,4’-ビフェノール-ポリクレジルホスフェート、ビスフェノールA-ポリクレジルホスフェート、4,4’-ビフェノール-ポリ(2,6-キシレニルホスフェート)、ビスフェノールA-ポリ(2,6-キシレニルホスフェート)等が挙げられる。これらの中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、4,4’-ビフェノール-ジ(2,6-キシレニルホスフェート)が好ましい。
なお、上記例示化合物における「ポリ」とは、リン酸エステル化合物を構成する2価のフェノール化合物由来の構造とリン酸由来構造とからなる繰り返し単位(例えば、上記一般式(A-1)中でいうと、na5でその構造単位数が示される構造単位)数が2以上である化合物を意味し、該化合物を含有することで上記繰り返し単位の平均値が1を超えるものを意味する場合もある。
【0041】
リン酸エステル系難燃剤(A)の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1~10μmが好ましく、0.3~5μmがより好ましく、0.5~3μmがさらに好ましく、0.8~2.5μmが特に好ましい。リン酸エステル系難燃剤(A)の平均粒子径が上記下限値以上であると、優れたハンドリング性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、樹脂組成物中における(A)成分の分散性が良好となり、優れた難燃性が得られる傾向にある。
ここで、本実施形態における平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めたとき、体積50%に相当する点の粒子径のことである。平均粒子径は、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
リン酸エステル系難燃剤(A)の平均粒子径は、公知の乾式又は湿式粉砕法を適用することで上記範囲に調整することができる。
【0042】
リン酸エステル系難燃剤(A)の融点は、特に限定されないが、50~250℃が好ましく、100~230℃がより好ましく、150~200℃がさらに好ましく、170~190℃が特に好ましい。リン酸エステル系難燃剤(A)の融点が上記下限値以上であると、(A)成分の高い結晶性によって優れた誘電特性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、樹脂組成物の加熱硬化時に(A)成分が溶融して分散性が高まり、優れた難燃性が得られる傾向にある。
なお、融点は、示差走査熱量測定(DSC測定)装置により測定することができる。
【0043】
((A)成分の含有量)
本実施形態の樹脂組成物中におけるリン酸エステル系難燃剤(A)由来のリン原子の含有量は、特に限定されないが、無機充填材を除く樹脂組成物の固形分中、0.2~5質量%が好ましく、0.3~3質量%がより好ましく、0.6~2.5質量%がさらに好ましく、1.0~2.2質量%がよりさらに好ましく、1.2~2.0質量%が特に好ましい。(A)成分の含有量が上記下限値以上であると、高周波特性の悪化を抑制しつつも、より良好な難燃性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、より良好な成形性、導体との接着性、より優れた耐熱性及び高周波特性が得られる傾向にある。
なお、本実施形態において、「樹脂成分」とは、樹脂組成物を構成する固形分のうち、後述する無機充填材等の無機化合物と、(A)成分等の難燃剤及び難燃助剤を除く、すべての成分と定義する。
また、本実施形態における固形分とは、水分、後述する溶媒等の揮発する物質以外の樹脂組成物中の成分のことをいう。すなわち、固形分は、25℃付近の室温で液状、水飴状又はワックス状のものも含み、必ずしも固体であることを意味するものではない。
【0044】
また、本実施形態の樹脂組成物中におけるリン酸エステル系難燃剤(A)の含有量は、特に限定されないが、上記と同様の観点から、樹脂成分の総和100質量部に対して、3~50質量部が好ましく、5~45質量部がより好ましく、10~40質量部がさらに好ましく、15~35質量部がよりさらに好ましく、20~30質量部が特に好ましい。
【0045】
<ポリフェニレンエーテル誘導体(B)>
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、両末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル誘導体である。
なお、本明細書において、「エチレン性不飽和結合含有基」とは、付加反応が可能な炭素-炭素二重結合を含有する置換基を意味し、芳香環の二重結合は含まないものとする。
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
エチレン性不飽和結合含有基としては、ビニル基、アリル基、1-メチルアリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、スチリル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;マレイミド基、下記一般式(B-1)で表される基等のヘテロ原子とエチレン性不飽和結合とを含む基などが挙げられる。これらの中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記一般式(B-1)で表される基が好ましい。
【0047】
【化9】

(式中、Rb1は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を示す。)
【0048】
b1が示す炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基のいずれであってもよく、直鎖状アルキル基であることが好ましい。
上記アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1が特に好ましい。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基が好ましい。
上記一般式(B-1)で表される基は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、(メタ)アクリロイル基(すなわち、上記一般式(B-1)におけるRb1が、水素原子又はメチル基である基)であることが好ましく、メタクリロイル基であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。
【0049】
なお、本明細書において、マレイミド基、上記一般式(B-1)で表される基等のように、一部に不飽和脂肪族炭化水素基を有しているが、その基全体として見たときに不飽和脂肪族炭化水素基とは言えない基は、上記「不飽和脂肪族炭化水素基」に含まれないものとする。
【0050】
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、上記一般式(B-1)で表される基を、片末端又は両末端に有するものであることが好ましい。
【0051】
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)が1分子中に有するエチレン性不飽和結合含有基の数は、特に限定されないが、2~5個が好ましく、2~3個がより好ましく、2個がさらに好ましい。エチレン性不飽和結合含有基の数が上記下限値以上であると、優れた耐熱性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、優れた流動性及び成形性が得られる傾向にある。
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、エチレン性不飽和結合含有基を両末端に有していればよく、さらに、両末端以外にもエチレン性不飽和結合含有基を有していてもよいが、両末端のみにエチレン性不飽和結合含有基を有することが好ましい。ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、両末端にメタクリロイル基を有するポリフェニレンエーテルであることが好ましい。
【0052】
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、フェニレンエーテル結合を有するものであり、下記一般式(B-2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0053】
【化10】

(式中、Rb2は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。nb1は、0~4の整数を示す。)
【0054】
上記一般式(B-2)中のRb2が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
b1は0~4の整数を示し、1又は2が好ましく、2であることがより好ましい。なお、nb1が1又は2である場合、Rb2はベンゼン環上のオルト位(但し、酸素原子の置換位置を基準とする。)に置換していることが好ましい。また、nb1が2以上の整数である場合、複数のRb2同士は同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(B-2)で表される構造単位は、下記一般式(B-2’)で表される構造単位であることが好ましい。
【0055】
【化11】
【0056】
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記一般式(B-3)で表される化合物であることが好ましい。
【0057】
【化12】

(式中、Rb2及びnb1は、上記一般式(B-2)における説明の通りである。Rb3及びRb4は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。nb2及びnb3は、各々独立に、0~4の整数を示す。nb4及びnb5は、各々独立に、0~20の整数を示し、nb4及びnb5の合計は、1~30の整数である。Xb1は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。Yb1及びYb2は、各々独立に、上記エチレン性不飽和結合含有基を示す。)
【0058】
上記一般式(B-3)中のRb3及びRb4が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(B-2)中のRb2が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
b2及びnb3は、0~4の整数を示し、0~3の整数が好ましく、2又は3が好ましい。nb2又はnb3が2以上の整数である場合、複数のRb3同士又は複数のRb4同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
b4及びnb5は、0~20の整数を示し、1~20の整数が好ましく、2~15の整数がより好ましく、3~10の整数がさらに好ましい。nb4又はnb5が2以上の整数である場合、複数のnb1同士は、同一であっても異なっていてもよい。
b4及びnb5の合計は、1~30の整数であり、2~25の整数が好ましく、5~20の整数がより好ましく、7~15の整数がさらに好ましい。
【0059】
上記一般式(B-3)中のXb1が示す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。
b1が示す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。
b1が示す基の中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、イソプロピリデン基が好ましい。
b1及びYb2が示すエチレン性不飽和結合含有基の好ましい態様については上記した通りである。
上記一般式(B-3)で表される化合物は、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、下記一般式(B-4)で表される化合物であることが好ましい。
【0060】
【化13】

(式中、nb4及びnb5は、上記一般式(B-3)における説明の通りである。Rb5及びRb6は、各々独立に、水素原子又はメチル基を示す。Xb2は、メチレン基又はイソプロピリデン基を示す。)
【0061】
〔ポリフェニレンエーテル誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)〕
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、500~7,000が好ましく、800~5,000がより好ましく、1,000~3,000がさらに好ましく、1,200~2,500が特に好ましい。(B)成分の重量平均分子量(Mw)が上記下限値以上であると、ポリフェニレンエーテルの優れた誘電特性を有し、かつ耐熱性に優れる硬化物が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、優れた成形性が得られる傾向にある。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した値であり、より詳細には実施例に記載の測定方法により求めた値である。
【0062】
ポリフェニレンエーテル誘導体(B)の合成方法は、公知のポリフェニレンエーテルの合成方法及び変性方法を適用することができ、特に限定されるものではない。
【0063】
((B)成分の含有量)
本実施形態の樹脂組成物中におけるポリフェニレンエーテル誘導体(B)の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分の総和100質量部に対して、5~80質量部が好ましく、6~45質量部がより好ましく、7~30質量部がさらに好ましく、8~20質量部が特に好ましい。(B)成分の含有量が、上記下限値以上であると、より優れた高周波特性及び低吸湿性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、より優れた耐熱性、成形性及び加工性が得られる傾向にある。
【0064】
<熱硬化性樹脂(C)>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、エポキシ樹脂、シアネート樹脂及びマレイミド化合物からなる群から選択される1種以上の熱硬化性樹脂(C)を含有することが好ましい。これらの中でも、高周波特性、導体との接着性及び難燃性の観点から、マレイミド化合物を含有することが好ましい。
熱硬化性樹脂(C)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。ここで、エポキシ樹脂は、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂、グリシジルアミンタイプのエポキシ樹脂、グリシジルエステルタイプのエポキシ樹脂等に分類される。これらの中でも、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂は、主骨格の違いによっても種々のエポキシ樹脂に分類され、上記それぞれのタイプのエポキシ樹脂において、さらに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;脂肪族鎖状エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂;ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などに分類される。
エポキシ樹脂を用いる場合、必要に応じて、エポキシ樹脂の硬化剤、硬化助剤等を併用してもよい。
【0066】
(シアネート樹脂)
シアネート樹脂としては、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エタン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、α,α’-ビス(4-シアナトフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、フェノール付加ジシクロペンタジエン重合体のシアネートエステル化合物、フェノールノボラック型シアネートエステル化合物、クレゾールノボラック型シアネートエステル化合物等が挙げられる。
シアネート樹脂を用いる場合、必要に応じて、シアネート樹脂の硬化剤、硬化助剤等を併用してもよい。
【0067】
(マレイミド化合物)
マレイミド化合物としては、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物[以下、単に「マレイミド化合物(c1)」又は「(c1)成分」と略称することがある。]及びその誘導体からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
なお、上記「その誘導体」としては、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物と、後述するジアミン化合物等のアミン化合物との付加反応物などが挙げられる。
【0068】
マレイミド化合物(c1)の具体例としては、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物であれば特に限定されないが、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ポリフェニルメタンマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等の芳香族マレイミド化合物;1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ピロリン酸バインダ型長鎖アルキルビスマレイミド等の脂肪族マレイミド化合物などが挙げられる。これらの中でも、導体との接着性及び機械特性の観点から、芳香族マレイミド化合物が好ましく、芳香族ビスマレイミド化合物がより好ましく、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドがさらに好ましい。
【0069】
マレイミド化合物(c1)としては、下記一般式(C1-1)で表される化合物が好ましい。
【0070】
【化14】

(式中、Xc1は2価の有機基を示す。)
【0071】
上記一般式(C1-1)中のXc1が示す2価の有機基としては、下記一般式(C1-2)、(C1-3)、(C1-4)又は(C1-5)で表される基が挙げられる。
【0072】
【化15】

(式中、Rc1は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。nc1は、0~4の整数を示す。)
【0073】
c1が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基がより好ましい。
c1は0~4の整数を示し、入手容易性の観点から、0~2の整数が好ましく、0であることがより好ましい。nc1が2以上の整数である場合、複数のRc1同士は同一であっても異なっていてもよい。
【0074】
【化16】

(式中、Rc2及びRc3は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xc2は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基、単結合、又は下記一般式(C1-3-1)で表される2価の基を示す。nc2及びnc3は、各々独立に、0~4の整数を示す。)
【0075】
c2及びRc3が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(C1-2)中のRc1が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
c2が示す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。該アルキレン基としては、炭素数1~3のアルキレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
c2が示す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。該アルキリデン基としては、イソプロピリデン基が好ましい。
c2及びnc3は、0~4の整数を示し、入手容易性の観点から、0~2の整数が好ましく、0又は2がより好ましい。nc2又はnc3が2以上の整数である場合、複数のRc2同士又は複数のRc3同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
c2が示す一般式(C1-3-1)で表される2価の基は以下の通りである。
【0076】
【化17】

(式中、Rc4及びRc5は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xc3は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。nc4及びnc5は、各々独立に、0~4の整数を示す。)
【0077】
c4及びRc5が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(C1-2)中のRc1が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
c3が示す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基としては、上記一般式(C1-3)中のXc2が示す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基と同じものが挙げられる。これらの中でも、高周波特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度、熱膨張係数及び難燃性の観点から、イソプロピリデン基が好ましい。
c3が示す基の中でも、炭素数2~5のアルキリデン基が好ましく、イソプロピリデン基がより好ましい。
c4及びnc5は0~4の整数を示し、入手容易性の観点から、0~2の整数が好ましく、0であることがより好ましい。nc4又はnc5が2以上の整数である場合、複数のRc4同士又は複数のRc5同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0078】
【化18】

(式中、nc6は、1~10の整数を示す。)
【0079】
c6は、入手容易性の観点から、1~5の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましい。
【0080】
【化19】

(式中、Rc6及びRc7は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を示す。nc7は、1~8の整数を示す。)
【0081】
c6及びRc7が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(C1-2)中のRc1が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
c7は1~8の整数を示し、1~3の整数が好ましく、1であることがより好ましい。
c7が2以上の整数である場合、複数のRc6同士又は複数のRc7同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0082】
上記一般式(C1-1)中のXc1としては、高周波特性の観点から、下記式(Xc1-1)~(Xc1-3)のいずれかで表される2価の基であることが好ましく、下記式(Xc1-3)で表される2価の基であることがより好ましい。
【0083】
【化20】

(波線は、マレイミド基中の窒素原子との結合位置を示す。)
【0084】
マレイミド化合物としては、有機溶媒への溶解性、相容性、導体との接着性及び高周波特性の観点から、マレイミド化合物(c1)の誘導体が好ましい。
マレイミド化合物(c1)の誘導体としては、マレイミド化合物(c1)由来の構造単位と、第1級アミノ基を有するアミン化合物[以下、単に「(c2)成分」と略称することがある。]由来の構造単位と、を有する変性マレイミド化合物[以下、「変性マレイミド化合物(X)」又は「(X)成分」と略称することがある。]であることが好ましい。
なお、変性マレイミド化合物(X)に含まれる(c1)成分由来の構造単位及び(c2)成分由来の構造単位は、各々について、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0085】
変性マレイミド化合物(X)は、(c1)成分が有するマレイミド基と(c2)成分が有する第1級アミノ基とが付加反応してなる、下記式(C-1)で表される構造を含む化合物であることが好ましい。
【化21】

(*は他の構造への結合位置を示す。)
【0086】
(c1)成分由来の構造単位としては、例えば、下記一般式(C1-6)で表される基及び下記一般式(C1-7)で表される基からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0087】
【化22】

(式中、Xc1は上記一般式(C1-1)中のXc1と同じであり、*は他の構造への結合位置を示す。)
【0088】
変性マレイミド化合物(X)中における(c1)成分由来の構造単位の含有量は、特に限定されないが、50~95質量%が好ましく、70~92質量%がより好ましく、85~90質量%がさらに好ましい。(c1)成分由来の構造単位の含有量が上記範囲内であると、高周波特性がより良好となり、且つ、良好なフィルムハンドリング性が得られる傾向にある。
【0089】
アミン化合物(c2)は、アミノ基を2個以上有する化合物が好ましく、アミノ基を2個有するジアミン化合物がより好ましい。
アミン化合物(c2)としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス〔1-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1-メチルエチル〕ベンゼン、1,4-ビス〔1-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1-メチルエチル〕ベンゼン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、3,3’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン化合物;第1級アミノ基を有するアミン変性シロキサン化合物などが挙げられる。
【0090】
これらの中でも、(c2)成分としては、有機溶媒への溶解性、(c1)成分との反応性、及び耐熱性に優れるという観点から、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、及び4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。また、高周波特性及び低吸水性に優れるという観点からは、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンが好ましい。また、導体との高接着性、伸び、破断強度等の機械特性に優れるという観点からは、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが好ましい。さらに、有機溶媒への溶解性、合成時の反応性、耐熱性、導体との高接着性に優れることに加えて、高周波特性及び低吸湿性に優れるという観点からは、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。また、低熱膨張性の観点からは、アミン変性シロキサン化合物が好ましい。
【0091】
アミン化合物(c2)としては、下記一般式(C2-1)で表される化合物が好ましい。
【0092】
【化23】

(式中、Xc4は2価の有機基を示す。)
【0093】
(c2)成分は、上記一般式(C2-1)中のXc4が、下記一般式(C2-2)で表される2価の基である芳香族ジアミン化合物[以下、「芳香族ジアミン化合物(C2-2)」と略称することがある。]を含有することが好ましい。
【0094】
【化24】

(式中、Rc11及びRc12は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン原子を示す。Xc5は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基、フルオレニレン基、単結合、又は下記一般式(C2-2-1)若しくは(C2-2-2)で表される2価の基を示す。nc8及びnc9は、各々独立に、0~4の整数を示す。)
【0095】
上記一般式(C2-2)中のRc11及びRc12が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
c5が示す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。
c5が示す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。
c8及びnc9は、0~4の整数を示し、入手容易性の観点から、0又は1が好ましい。nc8又はnc9が2以上の整数である場合、複数のRc11同士又は複数のRc12同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(C2-2)中のXc5が示す一般式(C2-2-1)で表される2価の基は以下の通りである。
【0096】
【化25】

(式中、Rc13及びRc14は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xc6は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、m-フェニレンジイソプロピリデン基、p-フェニレンジイソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。nc10及びnc11は、各々独立に、0~4の整数を示す。)
【0097】
上記一般式(C2-2-1)中のRc13及びRc14が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(C2-2)中のRc11及びRc12が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
c6が示す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基についての説明は、上記一般式(C2-2)中のXc5が示す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基についての説明と同じである。
c10及びnc11は0~4の整数を示し、入手容易性の観点から、0~2の整数が好ましく、0であることがより好ましい。nc10又はnc11が2以上の整数である場合、複数のRc13同士又は複数のRc14同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(C2-2)中のXc5が示す一般式(C2-2-2)で表される2価の基は以下の通りである。
【0098】
【化26】

(式中、Rc15は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Xc7及びXc8は、各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。nc12は、0~4の整数を示す。)
【0099】
上記一般式(C2-2-2)中のRc15が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明は、上記一般式(C2-2)中のRc11及びRc12が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基についての説明と同じである。
c7及びXc8が示す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基としては、上記一般式(C2-2)中のXc5が示す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基と同じものが例示される。これらの中でも、Xc7及びXc8としては、炭素数2~5のアルキリデン基であることが好ましく、イロプロピリデン基であることがより好ましい。
c12は0~4の整数を示し、入手容易性の観点から、0~2の整数が好ましく、0であることがより好ましい。nc12が2以上の整数である場合、複数のRc15同士は同一であっても異なっていてもよい。
【0100】
また、(c2)成分は、上記一般式(C2-1)中のXc4が、下記一般式(C2-3)で表される構造単位を含有する2価の基であるアミン変性シロキサン化合物を含有することが好ましく、上記一般式(C2-1)中のXc4が、下記一般式(C2-4)で表される2価の基である両末端アミン変性シロキサン化合物[以下、「両末端アミン変性シロキサン化合物(C2-4)」と略称することがある。]を含有することがより好ましい。
【0101】
【化27】

(式中、Rc16及びRc17は、各々独立に、炭素数1~5のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。)
【0102】
【化28】

(式中、Rc16及びRc17は、上記一般式(C2-3)中のものと同じであり、Rc18及びRc19は、各々独立に、炭素数1~5のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示す。Xc9及びXc10は、各々独立に、2価の有機基を示し、nc13は、2~100の整数を示す。)
【0103】
上記一般式(C2-3)及び(C2-4)中のRc16~Rc19が示す炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該アルキル基としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
c16~Rc19が示す置換フェニル基におけるフェニル基が有する置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数2~5のアルケニル基、炭素数2~5のアルキニル基等が挙げられる。該炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該炭素数2~5のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。該炭素数2~5のアルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
c9及びXc10が示す2価の有機基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-又はこれらが組み合わされた2価の連結基等が挙げられる。該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数1~10のアルキレン基が挙げられる。該アルケニレン基としては、炭素数2~10のアルケニレン基が挙げられる。該アルキニレン基としては、炭素数2~10のアルキニレン基が挙げられる。該アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基等の炭素数6~20のアリーレン基が挙げられる。
これらの中でも、Xc9及びXc10としては、アルキレン基、アリーレン基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
c13は、2~100の整数を示し、2~50の整数が好ましく、3~40の整数がより好ましく、5~30の整数がさらに好ましい。nc13が2以上の整数である場合、複数のRc16同士又は複数のRc17同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0104】
上記アミン変性シロキサン化合物の官能基当量は、特に限定されないが、300~3,000g/molが好ましく、400~2,000g/molがより好ましく、600~1,000g/molがさらに好ましい。
【0105】
(c2)成分としては、耐熱性及び低熱膨張性の観点から、芳香族ジアミン化合物と、アミン変性シロキサン化合物と、を併用することが好ましく、上記芳香族ジアミン化合物(C2-2)と、上記両末端アミン変性シロキサン化合物(C2-4)と、を併用することがより好ましい。
芳香族ジアミン化合物及びアミン変性シロキサン化合物の使用割合(構造単位としては含有量割合)[芳香族ジアミン化合物/アミン変性シロキサン化合物]は、特に限定されないが、質量比で、20/80~80/20が好ましく、40/60~70/30がより好ましく、50/50~65/35がさらに好ましい。
【0106】
(c2)成分由来の構造単位としては、例えば、下記一般式(C2-5)で表される基及び下記一般式(C2-6)で表される基からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【化29】

(式中、Xc4は上記一般式(C2-1)中のXc4と同じであり、*は他の構造への結合位置を示す。)
【0107】
変性マレイミド化合物(X)中における(c2)成分由来の構造単位の含有量は、特に限定されないが、5~50質量%が好ましく、8~30質量%がより好ましく、10~15質量%がさらに好ましい。(c2)成分由来の構造単位の含有量が上記範囲内であると、高周波特性に優れ、且つより良好な耐熱性、難燃性及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0108】
変性マレイミド化合物(X)中における(c1)成分由来の構造単位と、(c2)成分由来の構造単位の合計含有量は、特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%(すなわち、(c1)成分由来の構造単位及び(c2)成分由来の構造単位のみからなるもの)であることが特に好ましい。
【0109】
変性マレイミド化合物(X)中における(c1)成分由来の構造単位と、(c2)成分由来の構造単位との含有比率は、特に限定されないが、(c2)成分の-NH基由来の基(-NHも含む)の合計当量(Ta2)に対する、(c1)成分に由来するマレイミド基由来の基(マレイミド基も含む)の合計当量(Ta1)の当量比(Ta1/Ta2)が、好ましくは0.05~10、より好ましくは1~5となる含有比率である。当量比(Ta1/Ta2)が上記範囲内であると、高周波特性に優れ、且つより良好な耐熱性、難燃性及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0110】
マレイミド化合物は、高周波特性、有機溶媒への溶解性、導体との高接着性、成形性等の観点から、下記一般式(C-2)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0111】
【化30】

(式中、Xc1及びXc4は、上記一般式(c1-1)及び(c2-1)における説明の通りである。)
【0112】
(変性マレイミド化合物(X)の製造方法)
(X)成分は、(c1)成分と(c2)成分との反応物として得ることができ、例えば、(c1)成分と(c2)成分とを有機溶媒中で反応させることで製造することができる。
具体的には、(c1)成分、(c2)成分、必要によりその他の成分を合成釜に所定量仕込み、(c1)成分と(c2)成分とをマイケル付加反応[以下、「プレ反応」と略称することがある。]を行うことにより、変性マレイミド化合物(X)が得られる。
プレ反応における反応条件は特に限定されないが、ゲル化を抑制しつつ、良好な反応性及び作業性が得られるという観点からは、反応温度は50~160℃、反応時間は1~10時間が好ましい。
【0113】
プレ反応では、必要に応じて反応触媒を使用してもよい。反応触媒としては、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒;トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン類;メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン等のリン系触媒などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、反応触媒の配合量に特に制限はないが、(c1)成分及び(c2)成分の合計量100質量部に対して、例えば、0.01~5質量部である。
【0114】
また、プレ反応では、必要に応じて有機溶媒を追加又は濃縮して反応原料の固形分濃度及び溶液粘度を調整してもよい。反応原料の固形分濃度は、特に限定されないが、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。反応原料の固形分濃度が上記下限値以上であると、十分な反応速度が得られ、製造コストの面で有利となる傾向にあり、上記上限値以下であると、より良好な溶解性が得られ、撹拌効率が良くなり、ゲル化し難くなる傾向にある。
【0115】
変性マレイミド化合物(X)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、400~10,000が好ましく、1,000~5,000がより好ましく、1,500~4,000がさらに好ましく、2,000~3,000が特に好ましい。
【0116】
((C)成分の含有量)
本実施形態の樹脂組成物が熱硬化性樹脂(C)を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、高周波特性、耐熱性及び成形性の観点から、樹脂成分の総和100質量部に対して、10~95質量部が好ましく、30~90質量部がより好ましく、50~85質量部がさらに好ましく、60~80質量部が特に好ましい。
【0117】
本実施形態の樹脂組成物が熱硬化性樹脂(C)を含有する場合、ポリフェニレンエーテル誘導体(B)と熱硬化性樹脂(C)との含有割合[(B)/(C)]は、特に限定されないが、質量比で、5/95~80/20が好ましく、6/94~60/40がより好ましく、8/92~40/60がさらに好ましく、10/90~20/80が特に好ましい。上記含有割合[(B)/(C)]が、上記下限値以上であると、より優れた高周波特性及び低吸湿性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、より優れた耐熱性、成形性及び加工性が得られる傾向にある。
【0118】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)、硬化促進剤(E)及び無機充填材(F)からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。次にこれらの各成分について説明する。
【0119】
<スチレン系熱可塑性エラストマー(D)>
本実施形態の樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)を含有することにより、高周波特性、成形性、導体との接着性、はんだ耐熱性、ガラス転移温度、熱膨張係数及び難燃性のバランスが良くなる傾向にある。
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0120】
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)としては、下記一般式(D-1)で表されるスチレン系化合物由来の構造単位を有する熱可塑性エラストマーが挙げられ、スチレン由来の構造単位(すなわち、下記一般式(D-1)においてRd1が水素原子であり、nd1が0である構造単位)を有する熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0121】
【化31】

(式中、Rd1は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を示し、Rd2は、炭素数1~5のアルキル基を示す。nd1は、0~5の整数を示す。)
【0122】
d1が示す炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
d1が示す基の中でも、水素原子が好ましい。
d2が示す炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられ、該アルキル基は、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
d1は、0~5の整数を示し、0~2の整数が好ましく、0であることがより好ましい。
d1が2以上の整数である場合、複数のRd1同士は同一であっても異なっていてもよい。
【0123】
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)が有するスチレン系化合物由来の構造単位以外の構造単位としては、ブタジエン由来の構造単位、イソプレン由来の構造単位、マレイン酸由来の構造単位、無水マレイン酸由来の構造単位等が挙げられる。
上記ブタジエン由来の構造単位及び上記イソプレン由来の構造単位は、水素添加されていることが好ましい。水素添加されている場合、ブタジエン由来の構造単位はエチレン単位とブチレン単位とが混合した構造単位となり、イソプレン由来の構造単位はエチレン単位とプロピレン単位とが混合した構造単位となる。
【0124】
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)の水素添加物等が挙げられる。これらの中でも、高周波特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度及び熱膨張係数の観点から、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物が好ましい。
【0125】
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物としては、ブタジエンブロック中の炭素-炭素二重結合を完全水添してなるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)と、ブタジエンブロック中の1,2-結合部位の炭素-炭素二重結合を部分水添してなるスチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)が挙げられる。なお、SEBSにおける完全水添とは、通常、全体の炭素-炭素二重結合に対して90%以上であり、95%以上であってもよく、99%以上であってもよく、実質的に100%であってもよい。また、SBBSにおける部分水添率は、例えば、全体の炭素-炭素二重結合に対して60~85%である。
【0126】
SEBSにおいて、スチレン由来の構造単位の含有率[以下、「スチレン含有率」と略称することがある。]は、特に限定されないが、高周波特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度及び熱膨張係数の観点から、5~80質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、15~60質量%がさらに好ましく、20~50質量%が特に好ましい。
SEBSのメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、230℃、荷重2.16kgf(21.2N)の測定条件において、0.1~20g/10minが好ましく、1~15g/10minがより好ましく、2~10g/10minがさらに好ましく、3~7g/10minが特に好ましい。
【0127】
SBBSにおいて、スチレン含有率は、特に限定されないが、高周波特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度及び熱膨張係数の観点から、40~80質量%が好ましく、50~75質量%がより好ましく、55~75質量%がさらに好ましい。
SBBSのMFRは、特に限定されないが、190℃、荷重2.16kgf(21.2N)の測定条件において、0.1~10g/10minが好ましく、0.5~8g/10minがより好ましく、1~6g/10minがさらに好ましい。
【0128】
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)は、無水マレイン酸等によって酸変性されたものであってもよい。酸変性されたスチレン系熱可塑性エラストマー(D)の酸価は、特に限定されないが、2~20mgCHONa/gが好ましく、5~15mgCHONa/gがより好ましく、7~13mgCHONa/gがさらに好ましい。
【0129】
((D)成分の含有量)
本実施形態の樹脂組成物がスチレン系熱可塑性エラストマー(D)を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、樹脂成分の総和100質量部に対して、2~60質量部が好ましく、6~40質量部がより好ましく、10~30質量部がさらに好ましく、12~20質量部が特に好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(D)の含有量が上記下限値以上であると、より優れた高周波特性及び耐吸湿性が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、良好な耐熱性、成形性、加工性及び難燃性が得られる傾向にある。
【0130】
<硬化促進剤(E)>
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤(E)を含有することにより、硬化性が向上し、より優れた高周波特性、耐熱性、導体との接着性、弾性率及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が硬化促進剤(E)を含有する場合、使用する熱硬化性樹脂(C)成分の種類に合わせて好適な硬化促進剤(E)を適宜選択すればよい。
硬化促進剤(E)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0131】
(E)成分としては、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、リン系硬化促進剤、有機金属塩、酸性触媒、有機過酸化物等が挙げられる。なお、本実施形態において、イミダゾール系硬化促進剤は、アミン系硬化促進剤に分類しないものとする。
アミン系硬化促進剤としては、トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン、ジシアンジアミド等の第1級~第3級アミンを有するアミン化合物;第4級アンモニウム化合物などが挙げられる。
イミダゾール系硬化促進剤としては、メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、イソシアネートマスクイミダゾール(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂と2-エチル-4-メチルイミダゾールの付加反応物等)等のイミダゾール化合物が挙げられる。
リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン等の第3級ホスフィン;p-ベンゾキノンのトリ-n-ブチルホスフィン付加反応物等の第4級ホスホニウム化合物などが挙げられる。
有機金属塩としては、マンガン、コバルト、亜鉛等のカルボン酸塩などが挙げられる。
酸性触媒としては、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
これらの中でも、より優れた高周波特性、耐熱性、導体との接着性、弾性率及びガラス転移温度が得られるという観点から、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、リン系硬化促進剤が好ましく、ジシアンジアミド、イミダゾール系硬化促進剤、第4級ホスホニウム化合物がより好ましく、これらを併用することがさらに好ましい。このとき、有機過酸化物も併用してもよいが、硬化物の物性の観点から、有機過酸化物を含有しないことが好ましい。
【0132】
((E)成分の含有量)
本実施形態の樹脂組成物が硬化促進剤(E)を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂(C)100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~5質量部がより好ましく、0.1~3質量部がさらに好ましく、0.5~2質量部が特に好ましい。硬化促進剤(E)の含有量が上記範囲内であると、より良好な高周波特性、耐熱性、保存安定性及び成形性が得られる傾向にある。
【0133】
<無機充填材(F)>
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材(F)を含有することにより、より優れた低熱膨張性、高弾性率性、耐熱性及び難燃性が得られる傾向にある。
無機充填材(F)は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0134】
無機充填材(F)としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、クレー(焼成クレー等)、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、熱膨張係数、弾性率、耐熱性及び難燃性の観点から、シリカ、アルミナ、マイカ、タルクが好ましく、シリカ、アルミナがより好ましく、シリカがさらに好ましい。シリカとしては、例えば、湿式法で製造された含水率の高い沈降シリカと、乾式法で製造され結合水等をほとんど含まない乾式法シリカが挙げられる。乾式法シリカとしては、製造法の違いにより、破砕シリカ、フュームドシリカ、溶融シリカ(溶融球状シリカ)等が挙げられる。これらの中でも、溶融球状シリカが好ましい。
【0135】
無機充填材(F)の平均粒子径は、特に限定されないが、0.01~20μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.2~1μmがさらに好ましく、0.3~0.8μmが特に好ましい。
【0136】
本実施形態の樹脂組成物が無機充填材(F)を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、熱膨張係数、弾性率、耐熱性及び難燃性の観点から、樹脂成分の総和100質量部に対して、10~250質量部が好ましく、50~200質量部がより好ましく、80~180質量部がさらに好ましく、100~160質量部がよりさらに好ましく、120~150質量部が特に好ましい。
【0137】
無機充填材(F)を用いる場合、無機充填材(F)の分散性及び無機充填材(F)と樹脂組成物中の有機成分との密着性を向上させる目的で、必要に応じて、カップリング剤を併用してもよい。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられる。カップリング剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
カップリング剤を用いる場合、その処理方式は、樹脂組成物中に無機充填材(F)を配合した後、カップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、予め乾式又は湿式でカップリング剤によって表面処理した無機充填材を使用する方式が好ましい。この方式を採用することで、より効果的に無機充填材(F)の特長を発現させることができる。
また、無機充填材(F)は、必要に応じて、予め有機溶媒中に分散させたスラリーとして用いてもよい。
【0138】
<その他の難燃剤、難燃助剤、有機溶媒>
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、(A)成分以外の難燃剤(以下、「その他の難燃剤」ともいう)、難燃助剤及び有機溶媒からなる群から選択される1種以上を含有していてもよい。これらの成分は、各々について、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、本実施形態の樹脂組成物は、これらの成分を含有しないものであってもよい。
【0139】
(その他の難燃剤)
その他の難燃剤としては、無機系のリン系難燃剤;有機系のリン系難燃剤(但し、(A)成分を除く);水酸化アルミニウムの水和物、水酸化マグネシウムの水和物等の金属水和物などが挙げられる。なお、金属水酸化物は無機充填材にも該当し得るが、難燃性を付与し得る材料の場合には難燃剤に分類する。
無機系のリン系難燃剤としては、赤リン;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム;リン酸アミド等の無機系含窒素リン化合物;リン酸;ホスフィンオキシドなどが挙げられる。
有機系のリン系難燃剤としては、(A)成分以外の芳香族リン酸エステル、1置換ホスホン酸ジエステル及び2置換ホスフィン酸エステル;2置換ホスフィン酸の金属塩、有機系含窒素リン化合物、環状有機リン化合物等が挙げられる。ここで、「金属塩」としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、チタン塩、亜鉛塩等が挙げられる。
【0140】
(A)成分以外の芳香族リン酸エステルとしては、例えば、下記一般式(G-1)で表される芳香族リン酸エステルが挙げられ、上記2置換ホスフィン酸の金属塩としては、例えば、下記一般式(G-2)で表される2置換ホスフィン酸の金属塩が挙げられる。
【0141】
【化32】

(式中、Rg1~Rg3は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。ng1及びng2は、各々独立に、0~5の整数を示し、ng3は、0~4の整数を示す。Rg4及びRg5は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~14の芳香族炭化水素基を示す。Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、カルシウム原子、マグネシウム原子、アルミニウム原子、チタン原子又は亜鉛原子を示す。yは、1~4の整数を示す。)
【0142】
上記一般式(G-1)中のRg1~Rg3が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
g1~ng3が2以上の整数である場合、複数のRg1同士、Rg2同士又はRg3同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(G-2)中のRg4及びRg5が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
g4及びRg5が示す炭素数6~14の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基等が挙げられる。
yは金属イオンの価数を表しており、つまり、Mの種類に対応して1~4の範囲内で変化する。yが2以上の整数である場合、複数のRg4同士又は複数のRg5同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0143】
本実施形態の樹脂組成物がその他の難燃剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であり、また、50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよく、1質量部以下であってもよい。
【0144】
(難燃助剤)
難燃助剤としては、三酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛等の無機系難燃助剤などが挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物が難燃助剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、樹脂成分の総和100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。難燃助剤の含有量が上記範囲内であると、より良好な耐薬品性が得られる傾向にある。
【0145】
(有機溶媒)
本実施形態の樹脂組成物は、取り扱いを容易にするという観点及び後述するプリプレグを製造し易くする観点から、有機溶媒を含有するワニス状の樹脂組成物であってもよい。
有機溶媒としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の窒素原子含有溶媒;ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶媒;γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0146】
本実施形態の樹脂組成物が有機溶媒を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、本実施形態の樹脂組成物の固形分濃度が、30~90質量%となる量が好ましく、40~80質量%となる量がより好ましく、50~70質量%となる量がさらに好ましい。有機溶媒の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物の取り扱い性が容易となり、基材への含浸性及び製造されるプリプレグの外観が良好となる。さらに、後述するプリプレグ中の樹脂の固形分濃度の調整が容易となり、所望の厚みを有するプリプレグの製造がより容易となる傾向にある。
【0147】
<その他の成分>
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記各成分以外の樹脂材料、カップリング剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤及び滑剤からなる群から選択される1種以上[以下、「その他の成分」と略称することがある。]を含有していてもよい。これらの成分は、各々について、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、本実施形態の樹脂組成物は、これらの成分を含有しないものであってもよい。
本実施形態の樹脂組成物が上記その他の成分を含有する場合、その各々の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分の総和100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上であり、また、10質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよく、1質量部以下であってもよい。
また、本実施形態の樹脂組成物が含有する樹脂成分中における(B)成分、(C)成分、(D)成分及び(E)成分の合計含有量は、特に限定されないが、樹脂成分の総和100質量部に対して、80質量部以上が好ましく、90質量部以上がより好ましく、95質量部以上がさらに好ましい。
【0148】
<誘電特性>
本実施形態の樹脂組成物を、後述する実施例に記載の方法によって試験片とした際の10GHzにおける誘電率(Dk)は、特に限定されないが、4.5以下が好ましく、4.3以下がより好ましく、4.1以下がさらに好ましい。上記誘電率(Dk)は小さい程好ましく、その下限値に特に制限はないが、他の物性とのバランスを考慮して、例えば、2.5以上であってもよく、3.0以上であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物を、後述する実施例に記載の方法によって試験片とした際の10GHzにおける誘電正接(Df)は、特に限定されないが、0.0075以下が好ましく、0.0072以下がより好ましく、0.0070以下がさらに好ましく、0.0068以下がよりさらに好ましく、0.0066以下が特に好ましい。上記誘電正接(Df)は小さい程好ましく、その下限値に特に制限はないが、他の物性とのバランスを考慮して、例えば、0.0030以上であってもよく、0.0040以上であってもよく、0.0050以上であってもよい。
なお、誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、空洞共振器摂動法に準拠した値であり、より詳細には、実施例に記載の方法によって測定された値である。また、本明細書において、単に誘電率というとき、比誘電率を意味する。
【0149】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分及び必要に応じて併用される任意成分を公知の方法で混合することで製造することができる。この際、各成分は、上記有機溶媒中で撹拌しながら溶解又は分散させてもよい。混合順序、温度、時間等の条件は、特に限定されず任意に設定することができる。
【0150】
[プリプレグ]
本実施形態のプリプレグは、本実施形態の樹脂組成物とシート状繊維補強基材とを含有してなるものである。
該プリプレグは、本実施形態の樹脂組成物とシート状繊維補強基材とを用いて形成することができ、例えば、本実施形態の樹脂組成物を、シート状繊維補強基材に含浸又は塗工し、乾燥炉中で、80~200℃の温度で1~30分間加熱乾燥し、樹脂組成物を半硬化(Bステージ化)させることにより製造することができる。
本実施形態のプリプレグ中における樹脂組成物由来の固形分含有量は、特に限定されないが、30~90質量%が好ましく、35~80質量%がより好ましく、40~70質量%がさらに好ましく、45~60質量%が特に好ましい。固形分濃度が上記範囲内であると、積層板とした際により良好な成形性が得られる傾向にある。
【0151】
プリプレグのシート状繊維補強基材としては、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている公知のものが用いられる。シート状繊維補強基材の材質としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等の無機物繊維;ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン等の有機繊維;これらの混合物などが挙げられる。これらのシート状繊維補強基材は、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット、サーフェシングマット等の形状を有する。また、シート状繊維補強基材の厚みは特に制限されず、例えば、0.02~0.5mmのものを用いることができる。また、樹脂組成物の含浸性、積層板とした際の耐熱性、耐吸湿性及び加工性の観点から、カップリング剤等で表面処理したもの、機械的に開繊処理を施したもの等を使用できる。
【0152】
樹脂組成物をシート状繊維補強基材に含浸又は塗工させる方法としては、次のホットメルト法又はソルベント法を採用できる。
ホットメルト法は、樹脂組成物に有機溶媒を含有させず、(1)該樹脂組成物との剥離性の良い塗工紙に一旦コーティングし、それをシート状繊維補強基材にラミネートする方法、又は(2)ダイコーターによりシート状繊維補強基材に直接塗工する方法である。
一方、ソルベント法は、樹脂組成物に有機溶媒を含有させ、得られた樹脂組成物にシート状繊維補強基材を浸漬して、樹脂組成物をシート状繊維補強基材に含浸させ、その後、乾燥させる方法である。
【0153】
[積層板]
本実施形態の積層板は、本実施形態のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板である。
本実施形態の積層板は、本実施形態のプリプレグ1枚の片面若しくは両面に金属箔を配置するか、又は本実施形態のプリプレグを2枚以上重ねたものの片面若しくは両面に金属箔を配置し、次いで加熱加圧成形することによって積層板を得ることができる。金属箔を有する積層板は、金属張積層板と称されることもある。
金属箔の金属としては、電気絶縁材料用途で用いられるものであれば特に制限されないが、導電性の観点から、銅、金、銀、ニッケル、白金、モリブデン、ルテニウム、アルミニウム、タングステン、鉄、チタン、クロム、又はこれらの金属元素を1種以上含有する合金であってもよく、銅、アルミニウムが好ましく、銅がより好ましい。
【0154】
[積層板の製造方法]
本実施形態の積層板の製造方法は、本実施形態の樹脂組成物を加熱硬化させる工程を有する積層板の製造方法であって、リン酸エステル系難燃剤(A)の融点が、50~250℃であり、前記加熱硬化温度が、前記(A)成分の融点以上であり、加熱硬化する前の前記樹脂組成物中における前記(A)成分が粒子形状を有する、積層板の製造方法である。
本実施形態の積層板の製造方法によると、高い結晶性を有する(A)成分が樹脂組成物中で溶融して拡散することによって、特に優れた誘電特性と難燃性とを高度に両立させることができる。
リン酸エステル系難燃剤(A)の融点の好適な範囲は、上記した通りである。
加熱硬化温度は、(A)成分の融点以上であればよいが、生産性の観点からは、例えば、185℃以上であり、200~300℃であってもよく、220~250℃であってもよい。加熱硬化温度が上記範囲内であると、優れた誘電特性と難燃性と共に、良好な生産性が得られる傾向にある。
加熱硬化時の圧力及び時間は、特に限定されないが、例えば、圧力は0.2~10MPa、時間は0.1~5時間の範囲で実施することができる。また、加熱加圧成形は、真空プレス等を用いて真空状態を0.5~5時間保持する方法を採用してもよい。
【0155】
[多層プリント配線板]
本実施形態の多層プリント配線板は、本実施形態のプリプレグ又は本実施形態の積層板を含有してなるものである。本実施形態の多層プリント配線板は、本実施形態のプリプレグ又は積層板を用いて、公知の方法によって、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等による回路形成加工及び多層化接着加工を行うことによって製造することができる。
【0156】
[半導体パッケージ]
本実施形態の半導体パッケージは、本実施形態の多層プリント配線板に半導体素子を搭載してなるものである。
本実施形態の半導体パッケージは、例えば、本実施形態の多層プリント配線板の所定の位置に半導体チップ、メモリ等の半導体素子を公知の方法によって搭載し、封止樹脂等によって半導体素子を封止することによって製造できる。
【0157】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【実施例
【0158】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0159】
なお、各例において、重量平均分子量(Mw)は以下の方法によって測定した。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレン:TSKstandard POLYSTYRENE(Type;A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40)[東ソー株式会社製、商品名]を用いて3次式で近似した。GPCの測定条件を、以下に示す。
装置:
ポンプ:L-6200型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
検出器:L-3300型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラムオーブン:L-655A-52[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラム:ガードカラム;TSK Guardcolumn HHR-L+カラム;TSKgel G4000HHR+TSKgel G2000HHR(すべて東ソー株式会社製、商品名)
カラムサイズ:6.0×40mm(ガードカラム)、7.8×300mm(カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:30mg/5mL
注入量:20μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
【0160】
[製造例1:変性マレイミド化合物(X-1)の製造]
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積5リットルの反応容器に、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン100質量部と、両末端にアミノ基を有するシロキサン化合物(官能基当量750g/mol)5.6質量部と、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン7.9質量部と、プロピレングリコールモノメチルエーテル171質量部と、を投入し、還流させながら2時間反応させた。これを還流温度にて3時間かけて濃縮し、固形分濃度が65質量%の変性マレイミド化合物(X-1)溶液を製造した。得られた変性マレイミド化合物(X-1)の重量平均分子量(Mw)は、約2,700であった。
【0161】
[実施例1及び2、比較例1~6]
表1に記載の各成分を表1に記載の配合組成に従って、トルエン58質量部及びメチルイソブチルケトン10質量部と共に、室温で撹拌及び混合して、固形分濃度55~65質量%の樹脂組成物を調製した。
各例で得た樹脂組成物を、厚さ0.08mmのガラスクロス(Eガラス、日東紡績株式会社製)に塗工した後、150℃で5分間加熱乾燥して、樹脂組成物由来の固形分含有量が約47質量%のプリプレグを作製した。このプリプレグの上下に、厚さ18μmのロープロファイル銅箔(BF-ANP18、M面のRz:1.5μm、CIRCUIT FOIL社製)を、M面がプリプレグに接するように配置し、温度230℃、圧力3.0MPa、時間90分間の条件で加熱加圧成形して、両面銅張積層板(厚さ:0.10mm)を作製した。
【0162】
[評価方法]
各例で得られた両面銅張積層板を用いて、下記方法に従って各評価を行った。結果を表1に示す。
【0163】
(1.誘電特性)
誘電特性である誘電率及び誘電正接は、両面銅張積層板の外層銅箔を、銅エッチング液(過硫酸アンモニウムの10質量%溶液、三菱ガス化学株式会社製)に浸漬することにより除去し、長さ60mm、幅2mmに切り出したものを試験片として、空洞共振器摂動法により測定した。測定器にはアジレントテクノロジー社製のベクトル型ネットワークアナライザ「N5227A」、空洞共振器には株式会社関東電子応用開発製の「CP129」(10GHz帯共振器)、測定プログラムには「CPMA-V2」をそれぞれ使用した。測定は、周波数10GHz、測定温度25℃の条件下で行った。
【0164】
(2.難燃性)
両面銅張積層板の外層銅箔を、銅エッチング液(過硫酸アンモニウムの10質量%溶液、三菱ガス化学株式会社製)に浸漬することにより除去し、長さ127mm、幅12.7mmに切り出したものを試験片とした。次に、UL94の試験法(V法)に準拠して、垂直に保持した試験片の下端に20mm炎による10秒間の接炎を2回行ない、UL94のV法の基準に従って難燃性を評価した。
【0165】
(3.銅箔引きはがし強さの評価)
両面銅張積層板の銅箔引きはがし強さは、JIS C6481に準拠して測定した。
【0166】
【表1】

(配合組成の単位は括弧内の数値を除き質量部である。難燃剤における括弧内の数値は、無機充填材を除く樹脂組成物の固形分中における難燃剤由来のリン原子の含有量(単位;質量%)である。表中、「ND」は未測定を意味する。)
【0167】
なお、表1における各材料の略号等は、以下の通りである。
[(A)成分:難燃剤]
・A-1:下記式(A-10)で表される4,4’-ビフェノール-ビス(ジ-2,6-キシレニルホスフェート)、融点:184℃、平均粒子径:1.5μm。
【化33】
【0168】
・A-2:下記式(A-11)で表されるビスフェノールAポリフェニルホスフエ-ト。
【化34】

(mは、1.1~1.2を示す。)
【0169】
[(A’)成分:比較用難燃剤]
・A’-3:下記式(A-12)で表されるホスファゼン化合物。
【化35】
【0170】
・A’-4:下記式(A-13)で表されるホスファゼン化合物。
【化36】
【0171】
・A’-5:下記式(A-14)で表されるホスファイト化合物。
【化37】
【0172】
・A’-6:下記式(A-15)で表されるホスファイト化合物。
【化38】
【0173】
・A’-7:下記式(A-16)で表されるp-キシリレンジフェニルホスフィンオキサイド。
【化39】
【0174】
[(B)成分:ポリフェニレンエーテル誘導体]
・B-1:両末端にメタクリロイル基を有するポリフェニレンエーテル(重量平均分子量(Mw)1700)。
[(C)成分:熱硬化性樹脂]
・C-1:製造例1で調製した変性マレイミド化合物(X-1)。
[(D)成分:スチレン系熱可塑性エラストマー]
・D-1:無水マレイン酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、酸価10mgCHONa/g、スチレン含有率30%、MFR5.0g/10min(MFRの測定条件:ISO1133に準拠して、230℃、荷重2.16kgにて測定。)。
[(E)成分:硬化促進剤]
・E-1:p-ベンゾキノンのトリ-n-ブチルホスフィン付加反応物
・E-2:2-ウンデシルイミダゾール
・E-3:ジシアンジアミド
[(F)成分:無機充填材]
・球状溶融シリカ:平均粒子径:0.5μm、メチルイソブチルケトン70質量%スラリー
【0175】
表1に示した結果から明らかなように、本実施形態の樹脂組成物を用いて作製した実施例1及び2の積層板は、十分な難燃性と銅箔引きはがし強さを有しながらも、比較例1~6の積層板よりも、誘電正接が低く、高周波特性に優れていることが分かる。一方、難燃剤として、(A)成分以外のものを使用した比較例1~5の積層板、及び難燃剤を配合しなかった比較例6の積層板は、誘電正接又は難燃性のいずれかに劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明の樹脂組成物は、十分な難燃性を有しながら、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現するものであるため、該樹脂組成物を用いて得られるプリプレグ、積層板、多層プリント配線板、半導体パッケージ等は、高周波信号を扱う電子部品用途に好適である。