IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-防汚層付き透明基板 図1
  • 特許-防汚層付き透明基板 図2
  • 特許-防汚層付き透明基板 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】防汚層付き透明基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20240501BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20240501BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20240501BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/30 D
B32B17/10
C03C17/30 B
C03C17/34 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021522858
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021112
(87)【国際公開番号】W WO2020241751
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019102404
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 英史
(72)【発明者】
【氏名】竹田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】下坂 鷹典
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159496(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119453(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/181983(WO,A1)
【文献】特開2018-198050(JP,A)
【文献】特開2019-45577(JP,A)
【文献】特開2016-141699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C03C 17/30
C03C 17/34
B05D 1/00―7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚層とを有し、
前記防汚層は-(OCF(OCFCF-(ただし、vおよびwは、それぞれ独立して1以上の整数である。)で示される2価の基を有し、
前記防汚層の表面は、要素の平均長さRSmと算術平均粗さRaが下式(I)を満たす防汚層付き透明基板。
RSm≧Ra×100+5 (I)
【請求項2】
前記防汚層の表面はスキューネスRskが-1.3~1.3である、請求項1記載の防汚層付き透明基板。
【請求項3】
下記方法で算出される前記防汚層のフッ素量余剰分が10~150である、請求項1または2記載の防汚層付き透明基板。
(フッ素量余剰分の算出方法)
蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用い、測定径:30mm、測定線:F-Kα、フィルタ:OUT、スリット:標準、分光結晶:RX35(リガク社製)、検出器:PC、PHA:100-300、ピーク角度:38.794deg.(20sec)、B.G.角度:43.000deg.(10sec)の条件で測定される、前記防汚層付き透明基板の前記防汚層中のフッ素原子強度F1と、前記防汚層付き透明基板の前記防汚層の表面を、アサヒクリン(登録商標)AE-3000(AGC社製)で湿潤させたキムワイプで拭いた後の前記防汚層付き透明基板の前記防汚層中のフッ素原子強度F2から、下式(II)によりフッ素量余剰分を算出する。
フッ素量余剰分=(F1-F2)/F2×100 (II)
【請求項4】
前記vに対する前記wの比が0.1~10である、請求項1~3のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項5】
前記算術平均粗さRaが0.01~0.15μmである、請求項1~4のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項6】
前記防汚層付き透明基板のヘイズが0.1~15.0%である、請求項1~5のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項7】
前記防汚層の表面で測定される60゜鏡面光沢度が、140%以下である、請求項1~6のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項8】
前記防汚層表面における防眩性指標値が0.1以上である、請求項1~7のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項9】
前記透明基板がガラス基板である、請求項1~8のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項10】
前記防汚層が、-(OCF(OCFCF-(ただし、vおよびwは、それぞれ独立して1以上の整数である。)で示される2価の基と反応性シリル基を有する化合物を用いて形成される層である、請求項1~9のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項11】
車載用である、請求項1~10のいずれか1項記載の防汚層付き透明基板。
【請求項12】
インストルメントパネル用である、請求項11に記載の防汚層付き透明基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚層付き透明基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル機能が搭載された表示装置、例えば、スマートフォンを代表とする携帯端末、車両等に備えられた表示装置、パーソナルコンピュータの表示装置等が広く使用されている。
【0003】
このような表示装置のなかで車両に備えられた表示装置は、車載インストルメントパネル(以下、「インパネ」とも記す。)に組み込まれて車両に搭載される。インパネに組み込まれた表示装置のカバーガラスはインパネカバーガラスと言われる。インパネカバーガラスは、表示装置の視認性を向上させるために防眩性を持たせることが一般的であり、例えば、表面に微細な凹凸構造を有している。また、指紋等の汚れを除去しやすくするために最表層を防汚層で構成することが多い。
【0004】
このような、防汚層としては、ペルフルオロアルキレン基や含フッ素ポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物を用いて形成された撥水膜が知られている。例えば、特許文献1においては、特定の構造のペルフルオロアルキレン基を有する加水分解性シラン化合物と、特定の構造の含フッ素ポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物を所定の割合で用いて撥水膜を形成することで、優れた撥水性と耐摩耗性が付与された撥水膜を得る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2018/034138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のとおり、インパネカバーガラスにおいて、防眩性を得るために表面に微細な凹凸構造を有する場合、特許文献1に記載された撥水膜では、防汚性が十分ではなく、特に一旦付着したハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性能が十分とは言えなかった。
【0007】
本発明は、防眩性と防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れる、防汚層付き透明基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する防汚層付き透明基板を提供する。
[1]透明基板と、前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚層とを有し、前記防汚層は-(OCF(OCFCF-(ただし、vおよびwは、それぞれ独立して1以上の整数である。)で示される2価の基を有し、前記防汚層の表面は、要素の平均長さRSmと算術平均粗さRaが下式(I)を満たす防汚層付き透明基板。
RSm≧Ra×100+5 (I)
[2]前記防汚層の表面はスキューネスRskが-1.3~1.3である、[1]の防汚層付き透明基板。
[3]下記方法で算出される前記防汚層のフッ素量余剰分が10~150である、[1]または[2]の防汚層付き透明基板。
(フッ素量余剰分の算出方法)
蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用い、測定径:30mm、測定線:F-Kα、フィルタ:OUT、スリット:標準、分光結晶:RX35(リガク社製)、検出器:PC、PHA:100-300、ピーク角度:38.794deg.(20sec)、B.G.角度:43.000deg.(10sec)の条件で測定される、前記防汚層付き透明基板の前記防汚層中のフッ素原子強度F1と、前記防汚層付き透明基板の前記防汚層の表面を、アサヒクリン(登録商標)AE-3000(AGC社製)で湿潤させたキムワイプで拭いた後の前記防汚層付き透明基板の前記防汚層中のフッ素原子強度F2から、下式(II)によりフッ素量余剰分を算出する。
フッ素量余剰分=(F1-F2)/F2×100 (II)
[4]前記vに対する前記wの比が0.1~10である、[1]~[3]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[5]前記算術平均粗さRaが0.01~0.15μmである、[1]~[4]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[6]前記防汚層付き透明基板のヘイズが0.1~15.0%である、[1]~[5]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[7]前記防汚層の表面で測定される60゜鏡面光沢度が、140%以下である、[1]~[6]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[8]前記防汚層表面における防眩性指標値が0.1以上である、[1]~[7]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[9]前記透明基板がガラス基板である、[1]~[8]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[10]前記防汚層が、-(OCF(OCFCF-(ただし、vおよびwは、それぞれ独立して1以上の整数である。)で示される2価の基と反応性シリル基を有する化合物を用いて形成される層である、[1]~[9]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[11]車載用である、[1]~[10]のいずれかの防汚層付き透明基板。
[12]インストルメントパネル用である、[11]の防汚層付き透明基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防汚層付き透明基板は、防眩性と防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る防汚層付き透明基板の一例の断面模式図である。
図2図1に示す防汚層付き透明基板の拡大断面図である。
図3】本発明に係る防汚層付き透明基板の別の一例の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。式(11)で表される基を基(11)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0012】
表面粗さのパラメータである、「算術平均粗さRa」、「要素の平均長さRSm」および「スキューネスRsk」は、JIS B0601-2001に規定された線粗さのパラメータであり、輪郭曲線として粗さ曲線を用いて算出される。
【0013】
「算術平均粗さRa」、「スキューネスRsk」、および「要素の平均長さRSm」は、東京精密社製SURFCOM1500SD3-12を用いてJIS B0601-2001、JIS B0632-2001、JIS B0633-2001、およびJIS B0651-2001に規定されている方法にしたがって、先端半径が2μm、円すいのテーパ角度が60度の触針を用いて測定した値である。
【0014】
「エーテル性酸素原子」とは、炭素-炭素原子間においてエーテル結合(-O-)を形成する酸素原子を意味する。
オキシフルオロアルキレン基の化学式は、その酸素原子をフルオロアルキレン基の左側に記載して表すものとする。
【0015】
「2価のオルガノポリシロキサン残基」とは、下式で表される基である。下式におけるRは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。また、g1は、1以上の整数であり、1~9であることが好ましく、1~4であるのが特に好ましい。
【化1】
【0016】
「シルフェニレン骨格基」とは、-Si(RPhSi(R-(ただし、Phはフェニレン基であり、Rは1価の有機基である。)で表される基である。Rとしては、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)が好ましい。
「ジアルキルシリレン基」は、-Si(R-(ただし、Rはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。)で表される基である。
含フッ素化合物の「数平均分子量」は、NMR分析法を用い、H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出される。
【0017】
本発明の防汚層付き透明基板は、透明基板と、前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚層とを有し、以下の(1)および(2)の特性を有する。
(1)防汚層は-(OCF(OCFCF-(ただし、vおよびwは、それぞれ独立して1以上の整数である。)で示される2価の基(以下、基(F)とも記す。)を有する。
(2)防汚層の表面は、要素の平均長さRSmと算術平均粗さRaが下式(I)を満たす。
RSm≧Ra×100+5 (I)
【0018】
本発明の防汚層付き透明基板において、防汚層とは、表面に撥水撥油性を有する層である。本発明の防汚層付き透明基板において、防汚層の表面とは、防汚層の透明基板側と反対側の主面をいい、防汚層の表面は、防汚層付き透明基板の防汚層側の主面と同じである。
【0019】
本発明の防汚層付き透明基板は、上記積層構造を有し、防汚層の構成材料が(1)の特性を有し、防汚層の表面形状が(2)の特性を有することで、防眩性と防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れる。
【0020】
本発明の防汚層付き透明基板は、透明基板と、透明基板の一方の主面上に最表層として防汚層を有し、(1)および(2)の特性を有する限り、構成は特に制限されない。本発明の防汚層付き透明基板は、(2)の特性を達成する、あるいは(1)および(2)以外の追加の特性を持たせるために、透明基板と防汚層以外に、各種機能層を有してもよい。
例えば、(2)の特性に関し、防汚層の表面形状は防汚層自体により形作られるものではなく、防汚層より透明基板側に位置する部材の防汚層側の表面形状を反映して得られる。具体的には、防汚層付き透明基板における(2)の特性は、(2)で規定する防汚層の表面形状と同様の表面形状を有する防眩層を防汚層の透明基板側に配置することにより得られる。防眩層以外の機能層については後述のとおりである。
【0021】
なお、防汚層付き透明基板における(2)の特性は、透明基板が防汚層側に(2)で規定する防汚層の表面形状と同様の表面形状を有することでも得られる。また、防眩性の観点から、本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層を有するのと反対側の表面が(2)と同様の表面形状を有していてもよい。
【0022】
本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層の構成材料が(1)を満足する、すなわち防汚層が基(F)を有することで、防汚性を有し、防汚層の表面形状に係る(2)の特性と相まって、防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れる。
【0023】
基(F)における(OCF)単位の数vおよび(OCFCF)単位の数wの上限はそれぞれ独立して200が好ましい。vおよびwはそれぞれ独立して5~200が好ましく、10~200がより好ましい。なお、添字vまたはwを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0024】
基(F)における、vに対するwの比(以下、「w/v比」と記す。)は、0.1~10であることが好ましい。w/v比は、より好ましくは0.2~5であり、さらに好ましくは0.2~2であり、特に好ましくは0.2~1.5であり、最も好ましくは0.2~0.85である。
【0025】
w/v比を10以下にすることにより、防汚層の滑り性、摩擦耐久性および耐ケミカル性(例えば、人工汗に対する耐久性)がより向上する。w/v比がより小さいほど、防汚層の滑り性および摩擦耐久性はより向上する。一方、w/v比を0.1以上にすることにより、後述する基(F)を有する防汚層形成のために用いる化合物、例えば、基(F)と反応性シリル基を有する化合物の安定性をより高めることができる。w/v比がより大きいほど、上記化合物の安定性はより向上する。
【0026】
一の態様において、上記w/v比は、好ましくは0.2~0.95であり、より好ましくは、0.2~0.9である。
【0027】
一の態様において、耐熱性の観点から、上記w/v比は、1.0以上であることが好ましく、1.0~2.0であることがより好ましい。
【0028】
防汚層は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を有し、該ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖の一部または全部が基(F)で構成されるようにして、基(F)を含むことが好ましい。基(F)を含むポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を以下、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と記す。
【0029】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)は基(F)以外の繰り返し単位として、OX(Xは、CFおよびCFCFを除く、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基である。)で示される単位(以下、単位(1)とも記す。)を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。Xの炭素数は1~6が挙げられ、2~6が好ましく、2~3が特に好ましい。Xは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。単位(1)を複数有する場合は、単位(1)は2種以上存在してもよい。
【0030】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)は、具体的には、-(OCF(OCFCF(OX-で示される。該式において、vおよびwは上記と同様にできる。qとしては0~10が好ましく、0~5がより好ましく、0が特に好ましい。
【0031】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)における各単位の繰り返し数の関係としては、(v+w)/(v+w+q)×100で示されるポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の全量に対する基(F)の割合として80モル%以上が好ましく、90モル%がより好ましく、100モル%が好ましい。また、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)における各単位の繰り返し数の合計、すなわちv+w+qとしては、2~200が好ましく、5~150がより好ましく、5~100がさらに好ましく、10~50が特に好ましい。
【0032】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)において、(OCF)、(OCFCF)、(OX)の結合順序は限定されず、ランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。好ましくは、基(F)と単位(1)がランダム、交互、ブロックに配置される。
【0033】
単位(1)としては、例えば、-OCHF-、-OCFCHF-、-OCHFCF-、-OCFCH-、-OCHCF-、-OCFCFCHF-、-OCHFCFCF-、-OCFCFCH-、-OCHCFCF-、-OCFCFCFCH-、-OCHCFCFCF-、-OCFCFCFCFCH-、-OCHCFCFCFCF-、-OCFCFCFCFCFCH-、-OCHCFCFCFCFCF-、-OCFCFCF-、-OCF(CF)CF-、-OCFCFCFCF-、-OCF(CF)CFCF-、-OCFCFCFCFCF-、-OCFCFCFCFCFCF-が挙げられる。
【0034】
さらに、防汚層は本発明の効果を損なわない範囲でポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)以外のポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を含んでもよい。防汚層が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖の全量に対する基(F)の割合としては、50モル%以上が好ましく、75モル%がより好ましく、100モル%が好ましい。
【0035】
防汚層の表面形状に関する(2)の特性における算術平均粗さRaは、基準面上にとった基準長さに含まれる粗さ曲線において、基準面からの絶対値偏差を平均した値である。要素の平均長さRSmは、基準長さにおける粗さ曲線の要素の長さの平均を表した値である。本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層の表面形状が(2)の特性を有することで、十分な防眩性を確保しながら、防汚層の構成材料の(1)の特性と相まって、防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れる。
なお、防汚層の表面における算術平均粗さRaとしては、得られる防汚層付き透明基板の防眩性を高める観点から、式(I)を満足する範囲で0.01μm以上が好ましい。また、算術平均粗さRaとしては、ヘイズを低く保つ点および耐摩耗性を維持する点から、0.15μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。
【0036】
防汚層の表面における要素の平均長さRSmは、式(I)を満足する範囲で8~25μmであることが好ましい。防汚層の表面において、要素の平均長さRSmが大きすぎると、防汚層付き透明基板の防汚層の表面におけるぎらつき指標値(Sparkle)が大きくなりやすく、小さすぎると、防汚層付き透明基板のヘイズが大きくなりやすく、また防汚層の表面における防眩性が低下しやすいためである。
【0037】
本発明の防汚層付き透明基板は、上記(1)および(2)の特性に加えて、以下の特性を有することが好ましい。
【0038】
本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層の表面のスキューネスRskが-1.3~1.3であることが好ましく、-1.0~1.0であることがより好ましい。
ここで、スキューネスRskは、二乗平均平方根高さ(Zq)の三乗によって無次元化した基準長さにおける高さZ(x)の三乗平均の値であり、凹凸形状の平均線に対する偏りを表わす指標である。
スキューネスRskが正の値(Rsk>0)であれば、凹凸形状が凹側に偏って突形状が鋭くなり、負の値(Rsk<0)であれば、凹凸形状が凸側に偏って突形状が鈍くなる傾向である。なお、スキューネスRskの値が小さい方がヘイズは低くなる。
スキューネスRskが上記範囲にあることで、本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層の表面において、防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性をより向上できる。また、本発明の防汚層付き透明基板の防汚層の表面における高い防眩性と、防汚層付き透明基板の低いヘイズの両立を可能としやすい。
【0039】
本発明の防汚層付き透明基板は、下記方法で算出される防汚層のフッ素量余剰分が10~150であることが好ましく、20~100であることがより好ましい。
(フッ素量余剰分の算出方法)
蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用い、測定径:30mm、測定線:F-Kα、フィルタ:OUT、スリット:標準、分光結晶:RX35(リガク社製)、検出器:PC、PHA:100-300、ピーク角度:38.794deg.(20sec)、B.G.角度:43.000deg.(10sec)の条件で測定される、防汚層付き透明基板の防汚層中のフッ素原子強度F1と、防汚層付き透明基板の防汚層の表面を、アサヒクリン(登録商標)AE-3000(AGC社製、CFCHOCFCFH)で、湿潤させたキムワイプ(登録商標)(パルプ紙、キムワイプS-200(日本製紙クレシア社製))で拭いた後の防汚層付き透明基板の防汚層中のフッ素原子強度F2から、下式(II)によりフッ素量余剰分を算出する。
フッ素量余剰分=(F1-F2)/F2×100 (II)
防汚層のフッ素量余剰分が上記範囲にあることで、本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層の表面において、防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性をより向上できる。
【0040】
本発明の防汚層付き透明基板は、防汚層の表面において、水の接触角が90度以上、かつ、オレイン酸の接触角が70度以上であることが好ましい。接触角は、接触角計(例えば、協和界面科学社製、DM-701)を用い、20±10℃の範囲内の条件下、1μLの液滴で測定する。防汚層の表面における異なる5ヶ所で測定を行い、その平均値を算出し、その値を防汚層の表面の接触角とする。
【0041】
本発明の防汚層付き透明基板のヘイズは、0.1~15.0%であることが好ましく、0.2~10.0%であることがより好ましく、0.5~5.0%であることが特に好ましい。ヘイズが上記範囲の下限値以上であれば、防眩性がより優れる。ヘイズが上記範囲の上限値以下であれば、表示装置の表示面に配置されたときに視認性を損ないにくい。
「ヘイズ」は、JIS K7136:2000(ISO14782:1999)に記載された方法によって測定される。
【0042】
本発明の防汚層付き透明基板において防汚層の表面で測定される光沢は、60゜鏡面光沢度(以下、「G60」とも記す。)(単位;%)が、140%以下であることが好ましく、135%以下であることがより好ましく、130%以下であることがさらに好ましい。凹凸形状を有する表面におけるG60は、防眩効果の指標である。G60が上記の上限値以下であれば、十分な防眩効果が発揮される。
【0043】
本発明の防汚層付き透明基板において、防汚層の表面に付着したクリーム状製品の除去性は、例えば、G60を指標に評価できる。具体的には、防汚層の表面にクリームを所定の方法で付着、除去した後の防汚層表面のG60をG60afterとし、クリームを付着、除去する前の状態の防汚層表面のG60をG60beforeとして、G60beforeからG60afterを引いた値をΔG60として評価できる。ΔG60が小さいほど、クリーム状製品の除去性が高いと評価できる。
防汚層付き透明基板の防汚層表面におけるG60は、例えば、JIS Z8741:1997の60゜鏡面光沢度に規定されている方法で、オールインワン光沢度計(ローポイントインスツルメンツ社製、Rhоpоint IQ)を用い、裏面側に黒色フェルトを敷いて、防汚層付き透明基板の裏面反射を消し、防汚層の平面略中央部で測定した値である。なお、上記において防汚層付き透明基板の裏面とは、防汚層付き透明基板の防汚層を有しない側の表面をいう。
【0044】
本発明の防汚層付き透明基板の防汚層表面における防眩性指標値(Diffusion)は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。防汚層表面の防眩性指標値は、0.1以上であることで、表示装置に用いた場合に、優れた防眩性を発揮する。
【0045】
防汚層付き透明基板の防汚層表面における防眩性指標値の測定は、日本電色工業株式会社製変角光度計、GC5000Lを用いて、以下の手順で行うことができる。先ず、防汚層付き透明基板の防汚層表面側から、防汚層付き透明基板の厚さ方向と平行な方向を角度0゜としたときに、角度θ=-45±0.5゜の方向(以下「角度-45°の方向」とも記す。)に、第1の光を照射する。第1の光は、防汚層付き透明基板の防汚層表面で反射される。防汚層付き透明基板の防汚層表面から角度θ’=45°の方向に反射された45゜反射光を受光し、その輝度を測定して、「45°反射光の輝度」とする。
次に、防汚層付き透明基板の防汚層表面から反射された光を受光する角度θ’を、5~85゜の範囲で変化させ、同様の操作を実施する。これにより、防汚層付き透明基板の防汚層表面で反射され5~85゜の範囲で受光される反射光の輝度分布を測定して合計し、「全反射光の輝度」とする。
次に、以下の式(i)から、防眩性指標値(Diffusion)を算定する。
防眩性指標値={(全反射光の輝度-45°反射光の輝度)/(全反射光の輝度)} (i)
【0046】
防眩性指標値は、観察者の目視による防眩性の判断結果と相関し、人の視感に近い挙動を示すことが確認されている。防眩性指標値が小さい(0に近い)ほど防眩性が劣り、逆に防眩性指標値が大きいほど良好な防眩性を有すると評価できる。
【0047】
本発明の防汚層付き透明基板の防汚層表面におけるぎらつき指標値(Sparkle)は、90以下であることが好ましい。ぎらつき指標値は、液晶ディスプレイの表示面の上に防汚層付き透明基板を防汚層表面が上になるように置き、アイシステム社製、アイスケールISC-Aを用いて測定することができる。ぎらつき指標値は、値の大きいほどぎらつきの大きいことを表わす。
【0048】
本発明の防汚層付き透明基板のヘイズ、G60、防眩性指標値、ぎらつき指標値は、上記したように、防汚層の表面のスキューネスRsk、算術平均粗さRa、要素の平均長さRSm等によって調整できる。
【0049】
上記(2)の特性で説明したとおり、防汚層の表面形状は防汚層自体により形作られるものではなく、防汚層より透明基板側に位置する部材の防汚層側の表面形状を反映して得られる。すなわち、防汚層の表面の算術平均粗さRa、要素の平均長さRSmおよびスキューネスRskは、例えば、防眩層を防汚層の透明基板側に配置し該防眩層の防汚層側の主面の形状を調整する、または、透明基板の防汚層側の主面の形状を調整することで調整できる。
【0050】
以下に、図面を参照しながら、該2つの態様の防汚層付き透明基板を、それぞれ第1の態様の防汚層付き透明基板、第2の態様の防汚層付き透明基板として、説明する。
【0051】
第1の態様の防汚層付き透明基板は、透明基板と、該透明基板の一方の主面上の最表層に配置される(1)の特性を有する防汚層と、上記透明基板と防汚層の間に配置される防眩層を有し、該防眩層の防汚層側の主面の形状が上記防汚層の表面形状に反映されて、上記防汚層の表面が(2)の特性を満たす構成である。図1に、本発明に係る第1の態様の防汚層付き透明基板10Aの一例の断面を模式的に示す。図2に、図1に示す防汚層付き透明基板10Aの拡大した断面図を示す。
【0052】
第2の態様の防汚層付き透明基板は、透明基板と、該透明基板の一方の主面上の最表層に配置される(1)の特性を有する防汚層を有し、上記透明基板の防汚層側の主面の形状が上記防汚層の表面形状に反映されて、上記防汚層の表面が(2)の特性を満たす構成である。図3に、本発明に係る第2の態様の防汚層付き透明基板10Bの拡大した断面を模式的に示す。
【0053】
(第1の態様の防汚層付き透明基板)
図1に示す防汚層付き透明基板10Aは、透明基板1と、透明基板1上に設けられた防眩層3と、防眩層3上に設けられた防汚層2を有する。防汚層2は、透明基板1の一方の主面Sa上の最表層を構成する。
ここで、防汚層2の表面2sは防汚層付き透明基板10Aの一方の表面であり、以下の説明において、防汚層付き透明基板10Aの防汚層2側の表面を、防汚層付き透明基板10Aの表面2sともいう。防汚層付き透明基板10Aの各構成要素について以下に説明する。
【0054】
<透明基板>
透明基板1は、少なくとも可視光を透過する透明な材料からなり、互いに対向する2つの主面Sa、Sbを有する板状体であれば、特に限定されない。透明基板1を構成する材料としては、例えば、ガラス、樹脂、またはそれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)が挙げられる。ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リン酸系ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0055】
透明基板1において、防眩層3が形成される主面Saは、平滑であってもよく、凹凸を有してもよい。防眩層3を設けることの有用性の点では、平滑であることが好ましい。なお、透明基板1上に設けられる防眩層3は透明基板1の主面Saの全面にわたって形成されなくても構わない。防眩層3は、防汚層2が形成される領域、例えば、タッチパネルとしての使用される場合には、少なくとも指によるタッチ操作が及ぶ領域に形成されることが好ましい。
【0056】
透明基板1の主面Sa、Sbの形状は、図示するような平坦な形状のみでなく、曲面を有する形状であってもよい。この場合、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。最近では、表示装置を備える各種機器(テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。透明基板1の主面Sa、Sbが曲面を有する形状である防汚層付き透明基板10Aは、このような表示装置の用途に有用である。特に、車載用のインストルメントパネルに組み込まれる表示装置用のカバーガラスの用途に有用である。
【0057】
透明基板1としては、透明性、機械的強度等の観点からガラス基板が好ましい。ガラス基板の製造方法は特に限定されない。ガラス基板は、所望のガラス原料を溶融炉に投入し、加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを成形し、徐冷することにより製造できる。なお、ガラス基板の成形方法は特に限定されず、例えば、フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法等により成形されたガラス基板を使用することができる。
【0058】
透明基板1の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。例えば、透明基板1としてガラス基板を用いる場合、その厚さは0.1~5mmであることが好ましく、0.2~2.5mmであることがより好ましい。
【0059】
透明基板1としてガラス基板を用いる場合には、ガラス基板の主面に強化処理がなされたガラス基板であることが好ましい。強化処理により、ガラスの強度が向上し、例えば強度を維持しながら厚みを削減することが可能となる。以下の風冷強化法による場合は、未強化ガラス基板上に防眩層3を形成し、その後、強化処理をしてもよい。
強化処理としては、風冷強化法(物理強化法)や化学強化法により、ガラス基板表面に圧縮応力層を形成させる処理が挙げられる。ガラス基板表面の圧縮応力層が、傷や衝撃に対するガラス基板の強度を向上させる。このうちガラス基板の厚みが薄く(例えば2mm未満)なった場合にも、ガラス基板を十分に強化できることから、化学強化法が好ましい。
【0060】
化学強化法では、ガラスの歪点温度以下の温度でガラス基板を溶融塩に浸漬して、ガラス基板表層のイオン(例えばナトリウムイオン)を、より大きなイオン半径のイオン(例えばカリウムイオン)へと交換する。これにより、ガラス基板表層に圧縮応力が生じる。
化学強化されたガラス基板(化学強化ガラス基板)は、例えば、表面圧縮応力(CS)が450~1200MPa、応力層深さ(DOL)が10~50μmであることが好ましい。
【0061】
防汚層付き透明基板10Aは、透明基板1と防眩層3の間に、アンダーコート層、密着層、保護層等の機能層を有していてもよい。アンダーコート層は、アルカリバリア層やワイドバンドの低屈折率層としての機能を有する。アンダーコート層としては、アルコキシシランの加水分解物(ゾルゲルシリカ)を含むアンダーコート層形成用組成物を透明基板1に塗布することによって形成される層が好ましい。
【0062】
<防眩層>
防眩層3は、防汚層2側の主面3sの形状が、防汚層2に反映されて防汚層2の表面2sを(2)の特性を満たすように構成される。
【0063】
防眩層3の防汚層2側の主面3sの形状は、例えば、(2)の特性を満たすように構成される。防眩層3の主面3sの表面形状を示す各種パラメータ、算術平均粗さRa、スキューネスRsk、および要素の平均長さRSmの値は、上に説明した防汚層の表面における値と同様にできる。防眩層3の防汚層2側の主面3sにおける、G60、防眩性指標値、ぎらつき指標値は、防汚層2の表面2sにおけるこれらの物性の好ましい範囲として説明した上記範囲となることが好ましい。
【0064】
防眩層3は、平均膜厚が15~1500nmであることが好ましい。防眩層3の平均膜厚が15~50nmの場合はヘイズを低くしたりぎらつき指標値を下げたりしやすい。防眩層3の平均膜厚が50nm以上であることで、防汚層付き透明基板10Aに十分な防眩性を付与できるためより好ましい。防眩層3の平均膜厚が1500nm以下であれば、防眩性指標値やヘイズ等の光学特性を良好な範囲で両立させやすく好ましい。
ここで、防眩層3の平均膜厚は、防眩層3の断面を、集束イオンビーム加工により処理した後、走査型顕微鏡(SEM)によって、例えば、1万倍の倍率で観察し、撮影範囲全体にわたり透明基板1と防眩層3の界面から防眩層3の表面までの厚みを測定することで計測できる。膜厚は、SEMによる撮影のデジタルデータや画像処理ソフトを用いて算出できる。
【0065】
防眩層3は、透明基板1の主面Saの全体を隙間なく覆って形成されてもよい。または、透明基板1の主面Saの一部が、防眩層3が形成されず露出した態様であってもよい。具体的には、防眩層3が島状に形成されてもよい。防眩層3の厚さが、例えば、300nm以下になると、透明基板1の主面上に、防眩層3が不連続に形成され、透明基板1の主面の一部が露出することがある。
【0066】
防眩層3の主面3sにおける表面形状は、例えば、基部の直径が1μm以上の第一の凸部と基部の直径が1μm未満の第二の凸部を有する凹凸形状であってもよい。また、上記第一の凸部どうし、または第二の凸部どうし、または第一の凸部と第二の凸部が重複した構造をしていてもよい。このような表面構造はレーザ顕微鏡測定データを画像処理ソフトにより解析することで観測できる。
【0067】
防眩層3は、例えば、防眩層形成用の液状組成物(以下、液状組成物(X1)と記す。)を、透明基板1の主面Sa上に塗布し、これを硬化させることで形成できる。防眩層3の膜厚、および防汚層2側の主面3sにおける、算術平均粗さRa、スキューネスRskおよび要素の平均長さRSmは、防眩層3の形成に用いる、液状組成物(X1)の組成、透明基板1への液状組成物(X1)の塗布条件等によって調整できる。
【0068】
防眩層3を構成する材料としては、例えば、シリカを主成分とするバインダを含有し、さらに任意に微粒子を含有する材料が挙げられる。なお、「シリカを主成分とする」とは、SiOを50質量%以上含むことを意味する。シリカを主成分とするバインダを用いた防眩層3は、化学的安定性、透明基板がガラス基板である場合の基板との密着性、耐擦傷性に優れる。
【0069】
シリカを主成分とするバインダを含有する材料からなる防眩層3を形成するための液状組成物(X1)としては、例えば、シリカ前駆体および液状媒体を含み、任意に微粒子を含有する組成物が挙げられる。
【0070】
「シリカ前駆体」とは、シロキサン結合等によりシリカを主成分とするマトリックスを形成し得る物質を意味する。シリカ前駆体としては、適宜公知のアルコキシシラン等のシラン化合物やその加水分解縮合物等を使用可能である。シリカ前駆体は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリカ前駆体は、防眩層3のクラックや膜剥がれを防止する観点から、ケイ素原子に直接結合している炭素原子を有するアルコキシシランおよびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を含むことが好ましい。また、シリカ前駆体は、防眩層3の耐摩耗強度の観点から、テトラアルコキシシランおよびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を含むことが好ましい。
【0071】
液状組成物(X1)におけるシリカ前駆の含有量は、固形分全量に対してSiO換算で30~90質量%が好ましく、40~90質量%がより好ましい。液状組成物(X1)の固形分は、液状組成物(X1)において、液状媒体等の防眩層3の成形過程で消失する成分を除く全成分の含有量の合計であり、シリカ前駆体の含有量は、上記のとおりSiO換算である。
【0072】
防眩層3を形成するための液状組成物(X1)は、必要に応じて、微粒子を含有してもよい。液状組成物(X1)が微粒子を含有することで、得られる防眩層3の表面形状を、上記特徴を有する凹凸形状としやすい。
【0073】
防眩層3の構成材料がシリカを主成分とする場合、微粒子としては、膜の屈折率上昇を抑え、反射率を下げることができる点から、球状シリカ粒子、鱗片状シリカ粒子、棒状シリカ粒子、針状シリカ粒子等のシリカ粒子が好ましい。より低いヘイズ率を得やすい点では、球状シリカ粒子が好ましい。少量で防眩効果が得られる点、防眩層3のクラックや膜剥がれを抑制できる点では、鱗片状シリカ粒子が好ましい。
【0074】
鱗片状シリカ粒子は、例えば、薄片状のシリカ1次粒子と複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が、互いに面間が平行的に配向し重なって形成されるシリカ2次粒子からなる。シリカ2次粒子は、通常、積層構造の粒子形態を有する。鱗片状シリカ粒子はシリカ1次粒子とシリカ2次粒子のいずれか一方のみからなるものでもよい。
鱗片状シリカ粒子の平均粒子径は、クラックや膜剥がれを抑制できる観点および分散液中の分散安定性の観点から0.08~0.42μmが好ましく、0.17~0.21μmがより好ましい。
【0075】
シリカ1次粒子の厚さは、0.001~0.1μmが好ましい。シリカ1次粒子の厚さが前記範囲内であれば、互いに面間が平行的に配向して1枚または複数枚重なった鱗片状のシリカ2次粒子を形成できる。シリカ1次粒子のアスペクト比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
シリカ2次粒子の厚さは、0.001~1μmが好ましく、0.005~0.5μmがより好ましい。シリカ2次粒子の厚さに対するアスペクト比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。シリカ2次粒子は、融着することなく互いに独立に存在していることが好ましい。
【0076】
鱗片状シリカ粒子は、市販のものを用いてもよく、製造したものを用いてもよい。鱗片状シリカ粒子は、粉体を用いてもよく、分散媒に分散させた分散液を用いてもよい。分散液中の鱗片状シリカ粒子の濃度は、1~80質量%が好ましい。鱗片状シリカ粒子の市販品としては、例えば、AGCエスアイテック社製のサンラブリー(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0077】
液状組成物(X1)中の微粒子の含有量は、シリカ前駆体と微粒子との合計質量(100質量%)(ただし、シリカ前駆体はSiO換算とする。)に対する微粒子の割合として、0~40質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましい。微粒子の含有量が上記範囲の上限値以下であれば、透明基板1との密着性に優れる。
【0078】
微粒子が球状シリカ粒子である場合、シリカ前駆体と微粒子との合計質量(100質量%)に対する微粒子の比率は、1~40質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
微粒子が鱗片状シリカ粒子である場合、シリカ前駆体と微粒子との合計質量(100質量%)に対する微粒子の比率は、0.5~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0079】
微粒子の比率が上記範囲の下限値以上であれば、低ぎらつき性がより優れる。微粒子の比率が上記範囲の上限値以下であれば、より低いヘイズ率が得られやすい。また、シリカ前駆体を一定以上の比率で含むことで、防眩層3と透明基板1との密着強度がより優れる。
【0080】
液状媒体は、シリカ前駆体を溶解または分散するものであり、任意成分の微粒子を分散するものが好ましく用いられる。液状媒体は、シリカ前駆体を溶解または分散する溶媒または分散媒としての機能と、微粒子を分散する分散媒としての機能の両方を有するものであってもよい。
【0081】
液状媒体は、少なくとも、沸点150℃以下の液状媒体を含むことが好ましい。沸点150℃以下の液状媒体の沸点は、50~145℃が好ましく、55~140℃がより好ましい。沸点150℃以下の液状媒体の沸点を上記の好ましい範囲とすることで、液状組成物(X1)を、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて、透明基板1の主面Sa上に塗布し焼成して防眩層3を形成する場合に、得られる防眩層3の表面形状を、上記特徴を有する凹凸形状としやすい。
【0082】
沸点150℃以下の液状媒体としては、例えば、水や、沸点150℃以下の、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、1-ペンタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等)等を使用できる。
【0083】
シリカ前駆体におけるアルコキシシラン等の加水分解に水が必要となるため、加水分解後に液状媒体の置換を行わない限り、液状媒体は少なくとも水を含む。液状媒体は、必要に応じて、沸点が150℃超の液状媒体をさらに含んでいてもよい。
【0084】
沸点が150℃超の液状媒体としては、例えば、沸点150℃超の、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。アルコール類としては、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。含窒素化合物としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。含硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0085】
液状組成物(X1)中の液状媒体の含有量は、液状組成物(X1)の固形分濃度に応じた量とされる。液状組成物(X1)の固形分濃度は、液状組成物(X1)の全量(100質量%)に対し、0.05~2質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。固形分濃度が上記範囲の下限値以上であれば、液状組成物(X1)の液量を少なくできる。固形分濃度が上記範囲の上限値以下であれば、第二の凸部を有する凹凸構造を形成しやすい。また、防眩層3の膜厚の均一性が向上する。
【0086】
沸点150℃以下の液状媒体の含有量は、液状媒体の全量に対して86質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。沸点150℃以下の液状媒体の含有量は、液状媒体の全量に対して100質量%であっても構わない。
沸点が150℃超の液状媒体を含有することで、得られる防眩層3のスキューネスRskを下げることができ、優れた防眩性と低いヘイズを両立し易い。液状媒体が沸点が150℃超の液状媒体を含有する場合、液状媒体の全量に対する沸点が150℃超の液状媒体の含有割合は、0.01~14質量%であることが好ましい。
【0087】
液状組成物(X1)は、上記各成分以外に、シリカ前駆体以外のバインダ、添加剤等を含有してもよい。シリカ前駆体以外のバインダとしては、液体媒体に溶解または分散する無機物や樹脂等が挙げられる。無機物としては、例えば、シリカ以外の金属酸化物、例えば、チタニア、ジルコニア等の前駆体が挙げられる。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等が挙げられる。
【0088】
添加剤としては、例えば、微粒子の液状組成物(X1)中で凝集を抑制するための分散剤、導電剤、紫外線吸収剤、赤外線反射剤、赤外線吸収剤、反射防止剤、レベリング性向上のための界面活性剤、耐久性向上のための金属化合物等が挙げられる。添加剤は、さらに、シリカ前駆体が有する加水分解性基等の反応性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の触媒を含んでもよい。
【0089】
分散剤としては、不飽和カルボン酸重合体、セルロース誘導体、有機酸(ただし、不飽和カルボン酸重合体を除く。)、テルペン化合物等が挙げられる。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
防眩層3は、例えば、上記各成分を含有する液状組成物(X1)を調製し、次いで液状組成物(X1)を透明基板1の主面Sa上に塗布した後、これを焼成し硬化させることで形成できる。
【0091】
液状組成物(X1)は、上記各成分を混合することによって調製できる。液状組成物(X1)の塗布温度における粘度(以下、「液粘度」とも記す。)は、0.003Pa・s以下であることが好ましく、0.001~0.003Pa・sが特に好ましい。液粘度が上記の上限値以下であれば、液状組成物(X1)を噴霧したときに形成される液滴がより微細になり、所望の表面形状の防眩層3が形成されやすい。液粘度が上記の下限値以上であれば、防眩層3の表面凹凸形状が均一となる。液状組成物(X1)の粘度は、B型粘度計により測定される値である。
【0092】
このように調製された液状組成物(X1)を、スプレーコート法により透明基板1の主面Sa上に塗布する。透明基板1上への液状組成物(X1)の塗布は、例えば、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて、液状組成物(X1)を帯電させ噴霧することにより行うことができる。これにより、透明基板1の主面Sa上に、液状組成物(X1)の塗膜が形成される。静電塗装装置は、ガン本体と、回転霧化頭とを備え、回転霧化頭を回転駆動することにより、回転霧化頭に供給された液状組成物(X1)を遠心力により霧化して放出することで、液状組成物(X1)を透明基板1の主面Saに向けて噴霧する。
【0093】
静電塗装装置は、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備えるものであれば、公知の静電塗装装置を採用できる。静電塗装ガンは、回転霧化頭を備えるものであれば、公知の静電塗装ガンを採用できる。ただし、液状組成物(X1)の塗布手段は上記の静電塗装装置に限らず、公知の塗布手段を使用することができる。
【0094】
次いで、透明基板1の主面Sa上に形成された、液状組成物(X1)の塗膜を焼成する。これにより、塗膜中の液状媒体等の揮発成分が揮発して除去され、また、塗膜中のシリカ前駆体のシリカへの転化が進行する(例えば、シリカ前駆体が、ケイ素原子に結合した加水分解性基を有するシラン化合物である場合に、加水分解性基がほぼ分解し、加水分解物の縮合が進行する)とともに膜が緻密化して、防眩層3が形成される。
【0095】
焼成は、液状組成物(X1)を透明基板1に塗布する際に透明基板1を加熱することによって塗布と同時に行ってもよく、液状組成物(X1)を透明基板1に塗布した後、塗膜を加熱することによって行ってもよい。焼成温度は、30℃以上が好ましく、例えば透明基板1がガラスである場合は100~750℃がより好ましく、150~550℃がさらに好ましい。
【0096】
以上で説明した防眩層3の形成方法によれば、液状組成物(X1)を、好ましくは、回転霧化頭を備える静電塗装装置を用いて噴霧することによって、防眩層3側の主面3sにおいて所期の表面形状を有する防眩層3を形成することができる。これは、液状組成物(X1)の液滴が、静電塗装装置以外の従来汎用されているスプレー法(例えば、特に二流体ノズルを用いる方法)を適用した場合に比べて、緩やかな速度で透明基板1上に付着し、また、付着した液滴中の液状媒体が迅速に揮発することで、液滴が透明基板1上で広がりにくく、付着した時点の形状を十分に保った状態で成膜されるためと考えられる。
【0097】
また、上記で説明した防眩層3の形成方法にあっては、液状組成物(X1)の粘度、塗布条件、焼成温度等によって、形成される防眩層3の主面3sにおける表面形状を制御できる。
【0098】
<防汚層>
防汚層2は、防汚層付き透明基板10Aの一方の最表層に位置し、基(F)を有する層である。防汚層2は、防眩層3の主面3s上に形成され、主面3sの形状に追従した表面2sを有する。防汚層2の表面2sは、(2)の特性を有する。防汚層2の表面2sにおける、表面形状を示す各種パラメータの好ましい値は上記のとおりである。
【0099】
防汚層2の厚さとしては、2~30nmが好ましく、5~20nmがより好ましい。防汚層2の膜厚が2nm以上であれば、防汚性の他、防汚層の耐擦り性に優れるものとなる。さらに、十分な撥水撥油性が発揮され、防汚層2の表面での指すべり性が良好である。防汚層2の膜厚が30nm以下であれば、防眩層3の主面3sの形状に十分に追従した表面2sとすることができ好ましい。
なお、防汚層2の表面2sにおける表面形状が、少なくとも、(2)の特性を満たす限り、防眩層3の主面3sの形状と、防汚層2の表面2sにおける表面形状は、厳密に一致しなくてもよい。
【0100】
防汚層2の厚さは、例えば、薄膜解析用X線回折計ATX-G(RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法により反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出することができる。あるいは、予め反射分光スペクトルを測定した反射防止膜を用意し、その上に防汚層2の厚さを測定するサンプルと同条件下で防汚層2を形成した後の反射分光スペクトルと防汚層2の屈折率から算出することにより求められる。
【0101】
防汚層2の撥水撥油性としては、上記に示すとおり、水の接触角が90度以上であり、かつ、オレイン酸の接触角が70度以上であることが好ましい。防汚層2は撥水撥油性を有することで、防汚性を有するとともに、良好な指滑り性を有する。防汚層2としては、AFP(Anti Finger Print)層等が挙げられる。
【0102】
防汚層2は、構成材料が基(F)を有すればよく、例えば、基(F)を含むポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と反応性シリル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」とも記す。)を用いて形成される層が好ましい。反応性シリル基としては、ケイ素原子に加水分解性基および/または水酸基が結合した基(以下、「基(Y)」とも記す。)が挙げられる。
【0103】
化合物(A)は、化合物(1)であることが好ましい。化合物(1)において、-(OCF(OCFCF(OX-が化合物(A)のポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に相当し、-Si(Rn1 3-n1が基(Y)に相当する。ZおよびQはポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と基(Y)を連結する連結基(以下、「連結基(a)」とも記す。)である。
【0104】
[A-(OCF(OCFCF(OX-]j1[-Si(Rn1 3-n1g1 (1)
ただし、式(1)中、
は、ペルフルオロアルキル基または-Q[-Si(Rn1 3-n1k1であり、
は、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基であり、
v、wは、それぞれ独立して1以上の整数であり、
qは、0~10の整数であり、
j1、g1、k1はそれぞれ、1以上の整数であり、
は、(j1+g1)価の連結基であり、
は、独立して1価の炭化水素基であり、
は、独立して加水分解性基または水酸基であり、
n1は、独立して0~2の整数であり、
は、(k1+1)価の連結基である。
【0105】
が、ペルフルオロアルキル基である場合、ペルフルオロアルキル基中の炭素数は、防汚層の耐摩擦性がより優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0106】
ペルフルオロアルキル基の具体例としては、CF-、CFCF-、CFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、CFCFCFCFCFCF-、CFCF(CF)-が挙げられる。ペルフルオロアルキル基としては、防汚層の撥水撥油性がより優れる点から、CF-、CFCF-、CFCFCF-が好ましい。
【0107】
-(OCF(OCFCF(OX-については、好ましい態様も含めて上に説明したのと同様である。以下、-(OCF(OCFCF(OX-を「PFPEa」とも記す。
【0108】
化合物(1)は、-Si(Rn1 3-n1(以下、「基(Y1)」とも記す。)を少なくとも1個有すればよい。基(Y1)の数としては、防汚層の耐摩擦性がより優れる点で、2個以上が好ましく、2~10個がより好ましく、2~5個がさらに好ましく、2または3個であることが特に好ましい。基(Y1)が1分子中に複数ある場合、複数ある基(Y1)は、同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や化合物(1)の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。
【0109】
は、1価の炭化水素基であり、1価の飽和炭化水素基が好ましい。Rの炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0110】
は、加水分解性基または水酸基である。Lにおける加水分解性基の具体例としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
としては、化合物(1)の製造がより容易である点から、炭素数1~4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物(1)を含む組成物、例えば、後述の液状組成物(X2)や蒸着用組成物の保存安定性がより優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物(1)を含む組成物の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0111】
n1は、0~2の整数である。n1は、0または1が好ましく、0が特に好ましい。Lが複数存在することによって、防汚層の基材への密着性がより強固になる。なお、本態様において基材は防眩層であり、第2の態様において基材は透明基板である。n1が1以下である場合、1分子中に存在する複数のLは同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や化合物(1)の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。n1が2である場合、1分子中に存在する複数のRは同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や化合物(1)の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。
【0112】
j1は、1以上の整数であり、防汚層の撥水撥油性がより優れる点から、1~5の整数が好ましい。Aが-Q[-Si(Rn1 3-n1k1である場合、j1は1であることが好ましい。さらに、化合物(1)を製造しやすい点から、j1は1が特に好ましい。
g1は、1以上の整数であり、防汚層の耐摩擦性がより優れる点から、2~4の整数が好ましく、2または3がより好ましく、3が特に好ましい。
【0113】
化合物(1)において、k1×j1+g1が基(Y1)の数である。この数が上記好ましい範囲となるようにk1、j1およびg1を調整する。防汚層の基材への密着性の観点からは、k1が1以上であることが好ましい。防汚層の撥水撥油性の観点からはAは、ペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0114】
化合物(1)において、Qは、(k1+1)価の連結基(a)であり、Zは、(j1+g1)価の連結基(a)である。ZおよびQは、価数が同じ場合、同じであっても異なってもよいが、同じであることが好ましい。価数が異なる場合、ZおよびQは異なるが、類似の構造を有することが好ましい。以下、Zを例に説明するが、Qについても同様にできる。
【0115】
ここで、式(1)において、連結基(a)であるZとPFPEaの切り分けについて説明する。連結基Zは、[A-(OCF(OCFCF(OX-]-中の、それぞれv個、w個、q個の(OCF)、(OCFCF)、(OX)のオキシフルオロアルキレン単位のうち、もっともAに遠い単位のフルオロアルキレン基において、酸素原子と結合しない側に結合する。該フルオロアルキレン基の酸素原子と結合しない側の末端は、フッ素原子と結合した炭素原子であって最もAに遠い炭素原子である。
【0116】
連結基(a)の価数は2以上であり、3~11が好ましく、3~6がより好ましく、3または4であることが特に好ましい。
【0117】
連結基(a)は、1つの炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有する価数3~4の連結基が好ましい。この場合、分岐した末端が基(Y)とポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と結合する。複数の分岐元素を有する連結基や価数が4を超える連結基であってもよい。なお、連結基の分岐の起点となる元素を以下、分岐元素とも記す。
【0118】
連結基(a)としては、以下の連結基(a-1)~連結基(a-5)が挙げられる。連結基(a)としては、連結基(a-1)、連結基(a-2)、連結基(a-3)が好ましい。
【0119】
連結基(a-1):アミド結合を有する基(ただし、オルガノポリシロキサン残基およびシルフェニレン骨格基を含まない)
連結基(a-2):エーテル性酸素原子を有する基(ただし、アミド結合、オルガノポリシロキサン残基およびシルフェニレン骨格基を含まない)
【0120】
連結基(a-3):炭素-炭素原子間に窒素原子またはケイ素原子を有してもよい脂肪族飽和炭化水素基
連結基(a-4):オルガノポリシロキサン残基またはシルフェニレン骨格基を有する基
連結基(a-5):連結基(a-1)~連結基(a-4)のいずれにも分類されない基
【0121】
は、本発明の効果を損なわない上記価数の基であればよい。Zの具体的な例について、基(Y1)を含む基として、基(11)および基(12)を用いて説明する。式(11)および式(12)において、Zは、基(11)、基(12)からSi(Rn1 3-n1を除いた基である。
-Q-X31(-Q-Si(Rn1 3-n1(-R31 (11)
-Q-[CHC(R32)(-Q-Si(Rn1 3-n1)]-R33 (12)
【0122】
式(11)および式(12)中の各記号の定義は、以下のとおりである。
、Lおよびn1の定義は、式(1)中の各基の定義と同義である。
【0123】
は、単結合または2価の連結基である。
2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-、-C(O)-、-Si(R-および、これらを2種以上組み合わせた基が挙げられる。
上記2価の炭化水素基としては、2価の飽和炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基であってもよい。2価の飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、例えば、アルキレン基が挙げられる。その炭素数は1~20が好ましい。また、2価の芳香族炭化水素基としては、炭素数5~20のものが好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。それ以外にも、炭素数2~20のアルケニレン基、炭素数2~20のアルキニレン基であってもよい。
上記Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。上記Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。
なお、上記これらを2種以上組み合わせた基としては、例えば、-OC(O)-、-C(O)N(R)-、アルキレン基-O-アルキレン基、アルキレン基-OC(O)-アルキレン基、アルキレン基-Si(R-フェニレン基-Si(Rが挙げられる。
【0124】
31は、炭素原子、窒素原子およびケイ素原子から選ばれる分岐元素、単結合、または2~8価のオルガノポリシロキサン残基である。
2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、後述する(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0125】
は、QおよびX31が単結合の場合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子および/またはアミド結合を有する基であり、それ以外の場合は単結合または2価の連結基である。アルキレン基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子および/またはアミド結合を有する基の炭素数は、2~20が好ましく、2~10が特に好ましい。
2価の連結基の定義は、上述したQで説明した定義と同義である。
【0126】
31は、水酸基またはアルキル基である。
アルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。
【0127】
31が単結合の場合、hは1、iは0であり、
31が窒素原子の場合、hは1~2の整数であり、iは0~1の整数であり、h+i=2を満たし、
31が炭素原子またはケイ素原子の場合、hは1~3の整数であり、iは0~2の整数であり、h+i=3を満たし、
31が2~8価のオルガノポリシロキサン残基の場合、hは1~7の整数であり、iは0~6の整数であり、h+i=1~7を満たす。
(-Q-Si(Rn1 3-n1)が2個以上ある場合は、2個以上の(-Q-Si(Rn1 3-n1)は、同一であっても異なっていてもよい。R31が2個以上ある場合は、2個以上の(-R31)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0128】
は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0129】
32は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0130】
は、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。化合物を製造しやすい点から、Qとしては、単結合および-CH-が好ましい。
【0131】
33は、水素原子またはハロゲン原子であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
【0132】
yは、1~10の整数であり、1~6が好ましい。
2個以上の[CHC(R32)(-Q-Si(Rn1 3-n1)]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0133】
以下、連結基(a)としてのZについて、基(11)を例に、hの数、すなわち基(Y1)の数に応じて以下の基(11-1)~(11-6)を用いてより具体的に説明する。
【0134】
-Qa1-Qb1-Si(Rn1 3-n1 (11-1)
-Qa2-N[-Qb2-Si(Rn1 3-n1 (11-2)
-Qa3-X34(R)[-Qb3-Si(Rn1 3-n1 (11-3)
-Qa4-C[-Qb4-Si(Rn1 3-n1 (11-4)
-Qa5-Si[-Qb5-Si(Rn1 3-n1 (11-5)
-Qa6-X35[-Qb6-Si(Rn1 3-n1 (11-6)
なお、式(11-1)~(11-6)中、R、Lおよび、n1の定義は、上述したとおりである。
【0135】
基(11-1)は、基(Y1)を1個有する場合のZの例示であり、基(11-1)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a1は、(X32s1であり、X32は、-O-、または、-C(O)N(R)-である(ただし、式中のNはQb1に結合する)。
の定義は、上述したとおりである。
s1は、0または1である。
【0136】
b1は、アルキレン基、もしくは炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を1または2以上有する基である。
【0137】
b1で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を1または2以上有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0138】
b1としては、s1が0の場合は、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCHSi(CHOSi(CHCHCH-が好ましい。(X32s1が-O-の場合は、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい。(X32s1が-C(O)N(R)-の場合は、炭素数2~6のアルキレン基が好ましい(ただし、式中のNはQb1に結合する)。Qb1がこれらの基であると化合物が製造しやすい。
【0139】
基(11-1)の具体例としては、以下の基(11-11)~(11-14)が挙げられる。下記式中、*は、PFPEaとの結合位置を表す。なお、基(11-1)中の連結基は、連結基(a-2)に分類される。基(11-12)中の連結基は、連結基(a-1)に分類され、基(11-13)中の連結基は、連結基(a-3)に分類され、基(11-14)中の連結基は、連結基(a-4)に分類される。
【化2】
【0140】
基(11-2)は、基(Y1)を2個有する場合のZの例示であり、基(11-2)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a2は、(X33s2-Qa21であり、X33は、-O-、-NH-、または、-C(O)N(R)-である。
の定義は、上述した通りである。
【0141】
a21は、単結合、アルキレン基、-C(O)-、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-もしくは-NH-を有する基である。
a21で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。
a21で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a21としては、化合物を製造しやすい点から、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCH-、-CHNHCHCH-、-CHCHOC(O)CHCH-、-C(O)-が好ましい(ただし、右側がNに結合する。)。
【0142】
s2は、0または1(ただし、Qa21が単結合の場合は0である。)である。化合物を製造しやすい点から、0が好ましい。
【0143】
b2は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基である。
b2で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b2で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b2としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0144】
2個の[-Qb2-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0145】
基(11-2)の具体例としては、以下の基(11-21)~(11-24)が挙げられる。下記式中、*は、PFPEaとの結合位置を表す。なお、基(11-21)中の連結基は、連結基(a-3)に分類される。基(11-22)、基(11-23)中の連結基は、連結基(a-2)に分類され、基(11-24)中の連結基は、連結基(a-1)に分類される。
【化3】
【0146】
基(11-3)は、基(Y1)を2個有する場合の、基(11-2)とは別のZの例示であり、基(11-3)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a3は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
a3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a3で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0147】
34は、炭素原子またはケイ素原子である。
は、水酸基またはアルキル基である。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましい。
34(R)としては、化合物を製造しやすい点から、C(OH)およびSi(Rga)(ただし、Rgaはアルキル基である。炭素数1~10のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。)が好ましい。
【0148】
b3は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
b3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b3で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b3としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCHCHCHCHCH-が好ましい。
【0149】
2個の[-Qb3-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0150】
基(11-3)の具体例としては、以下の基(11-31)~(11-33)が挙げられる。下記式中、*は、PFPEaとの結合位置を表す。ここで、基(11-31)~(11-33)中の連結基は、いずれも連結基(a-3)に分類される。
【化4】
【0151】
基(11-4)は、基(Y1)を3個有する場合のZの例示であり、基(11-4)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a4は、-[C(O)N(R)]s4-Qa41-(O)t4である。
の定義は、上述した通りである。
s4は、0または1である。
【0152】
a41は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
a41で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。
a41で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
t4は、0または1(ただし、Qa41が単結合の場合は0である。)である。
-Qa41-(O)t4-としては、化合物を製造しやすい点から、s4が0の場合は、単結合、-CHO-、-CHOCH-、-CHOCHCHO-、-CHOCHCHOCH-、-CHOCHCHCHCHOCH-が好ましく(ただし、左側がPFPEaに結合する。)、s4が1の場合は、単結合、-CH-、-CHCH-が好ましい。
【0153】
b4は、-(O)u4-Qb41である。
b41は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、-C(O)N(R)-(Rの定義は、上述した通りである。)、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有する基、もしくは、アルキレン基と該アルキレン基の(O)u4側末端に結合する-C(O)N(R)-、ジアルキルシリレン基または2価のオルガノポリシロキサン残基とを有する基である。
b41で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、-C(O)N(R)-(Rの定義は、上述した通りである。)、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有する基、もしくは、アルキレン基と該アルキレン基の(O)u4側末端に結合する-C(O)N(R)-、ジアルキルシリレン基または2価のオルガノポリシロキサン残基とを有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
u4は、0または1である。
【0154】
-Qb4-としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHCHCHCH-、-OCHCHCH-、-OSi(CHCHCHCH-、-OSi(CHOSi(CHCHCHCH-、-CHCHCHSi(CHPhSi(CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0155】
3個の[-Qb4-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0156】
基(11-4)の具体例としては、以下の基(11-41)~(11-44)が挙げられる。下記式中、*は、PFPEaとの結合位置を表す。なお、基(11-41)~(11-43)中の連結基は、連結基(a-2)に分類され、基(11-44)中の連結基は、連結基(a-1)に分類される。
【化5】
【0157】
基(11-5)は、基(Y1)を3個有する場合の、基(11-4)とは別のZの例示であり、基(11-5)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a5は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
a5で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a5で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a5としては、化合物を製造しやすい点から、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0158】
b5は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
b5で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b5で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b5としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSi(Rn1 3-n1に結合する。)。
【0159】
3個の[-Qb5-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0160】
基(11-5)の具体例としては、以下の基(11-51)~(11-52)が挙げられる。下記式中、*は、PFPEaとの結合位置を表す。なお、基(11-51)中の連結基は、連結基(a-2)に分類される。基(11-52)中の連結基は、連結基(a-3)に分類される。
【化6】
【0161】
基(11-6)は、基(Y1)をw個有する場合のZの例示であり、基(11-6)における各記号の定義は、以下のとおりである。基(11-6)中の連結基は、以下に示すとおりオルガノポリシロキサン残基を含む。したがって、基(11-6)中の連結基は、連結基(a-4)に分類される。
【0162】
a6は、-[C(O)N(R)]-Qa61である。
の定義は、上述の通りである。
vは、0または1である。
【0163】
a61は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
a61で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a61で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a61としては、化合物を製造しやすい点から、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がX35に結合する。)。
【0164】
35は、(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基である。
wは、2~7の整数である。
(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基としては、下記の基が挙げられる。ただし、下式におけるRは、上述のとおりである。
【化7】
【0165】
b6は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
b6で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b6で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b6としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい。
【0166】
w個の[-Qb6-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0167】
化合物(1)は、防汚層の撥水撥油性がより優れる点から、式(1-2)で表される化合物も好ましい。
[A-PFPEa-Q-]j3232[-Q-Si(Rn1 3-n1h32 (1-2)
式(1-2)中、A、X、m1、Q、Q、R、Lおよびn1の定義は、式(1)中および式(11)中の各基の定義と同義である。
【0168】
32は、(j32+h32)価の炭化水素基、または、炭化水素基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する炭素数2以上で(j32+h32)価の炭化水素基である。
32としては、1級の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が好ましい。
32としては、原料の入手容易性の点から、基(Z-1)~(Z-5)が好ましい。ただし、R34は、アルキル基であり、メチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0169】
【化8】
【0170】
j32は2以上の整数であり、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、2~5が好ましい。
h32は1以上の整数であり、防汚層の耐摩擦性がより優れる点から、2~4が好ましく、2または3であることがより好ましい。
化合物(1-2)において、例えば、Q、Qが共に単結合の場合は、基(Z-1)~基(Z-5)が連結基(a)に相当する。基(Z-3)は連結基(a-2)に分類され、それ以外は連結基(a-3)に分類される。
【0171】
化合物(A)としては、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の片方の末端に連結基(a)、基材と結合する箇所が多いほど密着性は向上するため、好ましくは、連結基(a-1)を介して基(Y)が2個以上連結した化合物が特に好ましい。この場合、基(Y)の数は、上記と同様に2~10個がより好ましく、2~5個がさらに好ましく、2または3個であることが特に好ましい。
【0172】
このような化合物(A)の具体例としては、化合物(1)において、Aがペルフルオロアルキル基であり、Z[-Si(Rn1 3-n1g1が、基(11-2)、基(11-4)、基(11-6)から選ばれ、連結基(a)であるZが連結基(a-1)に分類される化合物が挙げられる。Z[-Si(Rn1 3-n1g1としてより具体的には、基(11-24)、基(11-44)等が挙げられる。また、化合物(1-2)において、Aがペルフルオロアルキル基であり、Qが-C(O)N(R)-(ただし、Rは上記のとおりである)である化合物が挙げられる。
【0173】
化合物(A)の数平均分子量(Mn)は、防汚層の耐摩擦性の点から、500~20,000が好ましく、800~10,000がより好ましく、1,000~8,000が特に好ましい。
化合物(A)の数平均分子量(Mn)は、NMR分析法を用い以下の方法で得られる値である。すなわち、19F-NMR(溶媒:CDCl、内部標準:CFCl)により、PFPEaの繰り返し単位を同定するとともに、繰り返し単位の数を算出し、一分子あたりのPFPEaの分子量の平均値を算出する。次に、1H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準:TMS)により、末端基の同定および定量を行い、末端基のモル数に基づいて、化合物(A)の数平均分子量(Mn)を算出する。以下、数平均分子量を単に「Mn」で示す場合もある。
【0174】
化合物(A)の具体例としては、例えば、下記の文献に記載のものが挙げられる。
特許第4138936号公報に記載のフッ素化変性水素含有重合体。
米国特許出願公開第2010/0129672号明細書に記載の化合物。
国際公開第2011/060047号に記載のオルガノシリコン化合物。
国際公開第2011/059430号に記載のオルガノシリコン化合物。
国際公開第2012/064649号に記載の含フッ素オルガノシラン化合物。
特開2012-72272号公報に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー。
国際公開第2013/042732号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2013/121984号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2013/121985号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2013/121986号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2014/126064号に記載の化合物。
国際公開第2014/163004号に記載の含フッ素エーテル化合物。
特開2014-080473号公報に記載の含フッ素エーテル化合物。
特開2014-218639号公報に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル含有シラン化合物。
国際公開第2015/087902号に記載の含フッ素エーテル化合物。
特開2015-199906号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
特開2016-204656号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
特開2016-210854号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
特開2016-222859号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
国際公開第2017/038830号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2017/038832号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2017/187775号に記載の含フッ素エーテル化合物。
国際公開第2018/143433号に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0175】
化合物(A)の市販品としては、信越化学工業社製のKY-100シリーズ(KY-178、KY-185、X-71-195、KY-1900等)、ダイキン工業社製のオプツール(登録商標)UD509等が挙げられる。なお、防汚層2を形成する際には、化合物(A)の1種を用いても2種以上を用いてもよい。
【0176】
防汚層2を、化合物(A)を用いて形成する方法としては、ウェットコーティング法であってもドライコーティング法であってもよい。ウェットコーティング法としては、例えば、化合物(A)を含む液状組成物(以下、液状組成物(X2)と記す。)を、防眩層3の主面3sに、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等により塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。乾燥後、必要に応じて、加熱、加湿、光照射、洗浄等の後処理を行ってもよい。
【0177】
ドライコーティング法としては、例えば、化合物(A)を含む蒸着用組成物を、防眩層3の主面3sに気相蒸着させる方法が挙げられる。蒸着用組成物としては、例えば、液状組成物(X2)から液状媒体を除いた成分からなる組成物が挙げられる。気相蒸着としては、物理的蒸着法(真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法)、化学的蒸着法(熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法)、イオンビームスパッタリング法等が挙げられる。なお、密着性の高い防汚層2を得るには、ドライコーティング法により成膜を行うことが好ましい。
【0178】
化合物(A)の分解を抑制できる点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が特に好ましい。真空蒸着時には、鉄、鋼等の金属多孔体に蒸着用組成物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。液状組成物(X2)を鉄、鋼等の金属多孔体に含浸させ、液状媒体を乾燥させて、蒸着用組成物が含浸したペレット状物質を用いてもよい。蒸着後、上記同様に必要に応じて、加熱、加湿、光照射、洗浄等の後処理を行ってもよい。
【0179】
上記のとおり、本発明の防汚層付き透明基板は、防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性をより向上させる観点から、上記方法で算出される防汚層のフッ素量余剰分が10~150であることが好ましく、20~100であることがより好ましい。防汚層のフッ素量余剰分は、防汚層を形成する際の成膜条件、例えば、ウェットコーティング法における乾燥条件、ドライコーティング法における蒸着条件や、両者の方法における加熱、加湿、光照射、洗浄等の後処理の条件を調整することで、上記範囲に調整可能である。
【0180】
液状組成物(X2)は、少なくとも、化合物(A)と液状媒体を含む。液状組成物(X2)は本発明の効果を損なわない範囲で、化合物(A)以外の成膜成分を含んでもよい。成膜成分とは、反応して、またはそのままの状態で防汚層2の構成材料となる成分である。化合物(A)以外の成膜成分としては、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)以外のポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基を有する化合物、上に説明したシリカ前駆体が含有する含フッ素またはフッ素を含まない反応性シラン化合物等が挙げられる。
【0181】
成膜成分における化合物(A)の含有割合は、成膜成分全量に対して50~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、99~100質量%がさらに好ましく、99.5~100質量%が特に好ましい。
【0182】
成膜成分における化合物(A)を含む反応性シラン化合物は、反応性シラン化合物自体が含有されてもよく、反応性シラン化合物が有する反応性シリル基が加水分解性基を有する場合はその一部が加水分解反応した状態、さらに反応性シリル基がシラノール基を有する場合はそのシラノール基が、または上記加水分解反応で生成したシラノール基が部分的に(共)縮合した状態で含まれていてもよい。
【0183】
液状組成物(X2)は化合物(A)を含む成膜成分と液状媒体以外に、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、界面活性剤、化合物(A)が有する反応性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤等を含んでもよい。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0184】
液状組成物(X2)は、化合物(A)を含む成膜成分と液状媒体とを含む。液状組成物(X2)は、液状であればよく、溶液であっても分散液であってもよい。
液状組成物(X2)における化合物(A)を含む成膜成分の含有量は、液状組成物(X2)のうち、0.001~20質量%が好ましく、0.001~10質量%がより好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
【0185】
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、含フッ素有機溶媒でも非フッ素有機溶媒でもよく、両溶媒を含んでもよい。
【0186】
含フッ素有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
【0187】
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、C13H(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C13(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、CCHFCHFCF(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
【0188】
フッ素化芳香族化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0189】
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、CFCHOCFCFH(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、COCH(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、COC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、CCF(OCH)C(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
【0190】
フッ素化アルキルアミンとしては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
【0191】
フルオロアルコールとしては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
【0192】
非フッ素有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。
液状媒体は、2種以上を混合した混合媒体であってもよい。
【0193】
液状媒体の含有量は、液状組成物(X2)のうち、80~99.999質量%が好ましく、90~99.999質量%がより好ましく、99~99.99質量%が特に好ましい。
【0194】
(第2の態様の防汚層付き透明基板)
図3に示す防汚層付き透明基板10Bは、透明基板1と、透明基板1上に設けられた防汚層2を有する。防汚層2は、透明基板1の一方の主面Sa上の最表層を構成する。透明基板1は、防汚層2側の主面Saの形状が、防汚層2に反映されて防汚層2の表面2sを(2)の特性を満たすように構成される。
【0195】
防汚層付き透明基板10Bにおける防汚層2は、図1、2に示す防汚層付き透明基板10Aにおける、防汚層2と同様である。防汚層付き透明基板10Bにおける透明基板1は、防汚層2側の主面Saの構成以外は、図1、2に示す防汚層付き透明基板10Aにおける、透明基板1と同様とできる。
【0196】
透明基板1の防汚層2側の主面Saの形状は、例えば、(2)の特性を満たすように構成される。透明基板1の主面Saの表面形状を示す各種パラメータ、算術平均粗さRa、スキューネスRsk、および要素の平均長さRSmの値は、上に説明した防汚層の表面における値と同様にできる。透明基板1の防汚層2側の主面Saにおける、G60、防眩性指標値、ぎらつき指標値は、防汚層2の表面2sにおけるこれらの物性の好ましい範囲として説明した上記範囲となることが好ましい。
【0197】
透明基板1は、例えば、図1、2に示す防汚層付き透明基板10Aにおける透明基板1の防汚層2側の主面Saを上記形状に加工することで得られる。透明基板1を得るための主面Saの加工方法は特に制限されない。透明基板1の材質等に応じて加工方法が適宜選択される。
【0198】
例えば、透明基板1がガラス基板である場合、具体的には、処理を施すべき未処理の透明基板(以下、「被処理基板」)についてフロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素と、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム等との混合溶液に、被処理基板を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することで行うことができる。フロスト処理に用いる混合溶液におけるフッ化水素の含有量は5~60質量%が好ましい。また、被処理基板について一方の主面のみをフロスト処理する場合には、処理を施さない主面について、例えば、耐酸性の保護フィルムを貼付する等の前処理をした後、被処理基板の浸漬処理を行えばよい。
【0199】
また、このような化学的処理による方法以外にも、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気で被処理基板の主面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたもので磨く等の物理的処理による方法も利用できる。
【0200】
特に、フッ化水素等の薬液を用いて化学的に表面処理するフロスト処理を施す方法では、被処理基板表面におけるマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じ難いため、被処理基板に表面処理を施す方法として好ましく利用できる。
【0201】
上記のようにして被処理基板の表面に凹凸を作製した後に、さらに、表面形状を整えるために、処理面を化学的にエッチングすることが一般的に行われている。こうすることで、エッチング量によりヘイズを所望の値に調整でき、サンドブラスト処理等で生じたクラックを除去でき、またぎらつきを抑えることができる。
【0202】
エッチングとしては、フッ化水素を含有する溶液に、被処理基板を浸漬する方法が好ましく用いられる。フッ化水素以外の成分としては、塩酸、硝酸、クエン酸などを含有してもよい。これらを含有することで、ガラスに入っているアルカリ成分とフッ化水素とが反応して析出反応が局所的におきることを抑えることができ、エッチングを面内均一に進行させることができる。なお、エッチングに用いる溶液におけるフッ化水素の含有量は、5~60質量%が好ましい。
【0203】
以上、本発明の防汚層付き透明基板について、図1~3を参照しながら説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【0204】
例えば、本発明の防汚層付き透明基板は、上記各構成に加えて、印刷層、低反射層、紫外線カット層、赤外線カット層等の層をさらに有してもよい。
【0205】
<防汚層付き透明基板の用途>
本発明の防汚層付き透明基板の用途は、例えば、車両用透明部品(ヘッドライトカバー、サイドミラー、フロント透明基板、サイド透明基板、リア透明基板、インスツルメントパネル表面等)、メータ、建築窓、ショーウインドウ、ディスプレイ(ノート型パソコン、モニタ、LCD、PDP、ELD、CRT、PDA等)、LCDカラーフィルタ、タッチパネル用基板、ピックアップレンズ、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラ部品、ビデオ部品、CCD用カバー基板、光ファイバ端面、プロジェクタ部品、複写機部品、太陽電池用透明基板(カバーガラス等)、携帯電話窓、バックライトユニット部品(導光板、冷陰極管等)、液晶輝度向上フィルム(プリズム、半透過フィルム等)、有機EL発光素子部品、無機EL発光素子部品、蛍光体発光素子部品、光学フィルタ、光学部品の端面、照明ランプ、照明器具のカバー、増幅レーザ光源、反射防止フィルム、偏光フィルム、農業用フィルム等である。
【0206】
本発明の防汚層付き透明基板の用途は、防眩性と防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れる点から、輸送機の内装物品が好ましく、車載物品がさらに好ましい。車載物品は、表示装置を備える車載システム、例えば、カーナビゲーション、インストルメントパネル、ヘッドアップディスプレイ、ダッシュボード、センターコンソール、シフトノブが好ましく、特にインストルメントパネルに用いるのが好ましい。
【実施例
【0207】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によっては限定されない。例1~9のうち、例1~6は実施例であり、例7~9は比較例である。
【0208】
[防眩層形成用液状組成物の調製]
各例で使用した防眩層形成用液状組成物を以下の材料を用いて調製した。
【0209】
(シリカ前駆体)
シリカ前駆体として、テトラエトキシシランおよびプロピルトリメトキシシラン(いずれも信越シリコーン社製)を用いた。
【0210】
(鱗片状粒子分散液)
鱗片状粒子分散液としてSLV液(AGCエスアイテック社製、サンラブリーLFS HN150を解砕し、水に分散させた鱗片状シリカ粒子の分散液)を用いた。SLV液中の鱗片状シリカ粒子の平均粒子径:175nm、平均アスペクト比(平均粒子径/平均厚み):80、鱗片状シリカ粒子濃度5質量%である。
【0211】
(液状媒体)
液状媒体として、ソルミックス(登録商標)AP-11(日本アルコール販売社製;エタノール85質量%、イソプロピルアルコール10質量%、メタノール5質量%の混合溶媒。以下、「AP-11」と記す。)、ジアセトンアルコールおよびプロピレングリコールを用いた。
【0212】
(防眩層形成用液状組成物の調製)
マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、AP-11に、テトラエトキシシラン107.9g、プロピルトリメトキシシラン18.16g、SLV液78.74gを添加し、25℃にて30分間混合して混合液を得た。得られた混合液に、濃度60質量%の硝酸水溶液を、混合液の量に対して0.54質量%滴下し、さらに、60℃で60分間混合して、テトラエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、鱗片状シリカ粒子の合計のSiO換算固形分濃度が4.0質量%の防眩膜形成用液状組成物の前駆体液を得た。得られた前駆体液15.0gを、AP-11の84.52g、ジアセトンアルコールの0.30g、プロピレングリコールの0.18gを混合した混合液で希釈することでSiO換算固形分濃度0.60質量%の防眩膜形成用液状組成物を得た。
【0213】
[防汚層形成用組成物の調製]
防汚層形成用組成物として、市販品のX-71-195、KY-178、(何れも信越化学工業社製)、オプツール(登録商標)UD509(ダイキン工業社製、以下、「UD509」と記す。)を用いた。これらの市販品はいずれも、化合物(A)として、基(F)のみからなるポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)(PFPEa)を有する化合物を20質量%の割合で含有する溶液である。X-71-195およびKY-178において、w/v比は54/46であり、UD509は55/45であった。
【0214】
さらに、比較例のための防汚層形成用組成物として、基(F)を有しないポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基を有する化合物を20質量%の割合で含有する溶液である、オプツール(登録商標)DSX(ダイキン工業社製、以下、「DSX」と記す。)を用いた。なお、DSXが含有する化合物が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖は、(OCFCFCFx3(OCFCF)(x3は1以上の整数である。以下、「PFPEb」と記す。)である。
【0215】
また、以下の方法で製造した化合物(Cf)を、液状媒体としてのCOC(ノベック-7200:製品名、3M社製)に20質量%の割合で混合して、比較例のための防汚層形成用組成物(以下、「組成物(Cf)」と記す。)を調製した。
【0216】
(化合物(Cf)の製造)
国際公開第2013/121984号の例6に記載の方法にしたがい、化合物(Cf)を得た。なお、化合物(Cf)が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を、以下、「PFPEc」と記す。
【0217】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx4OCFCFOCFCFCF-C(O)NHCHCHCH-Si(OCH …(Cf)
単位数x4の平均値:7、Mn:2,900。
【0218】
[例1]
上記で得られた防眩層形成用液状組成物を、静電塗装装置(液体静電コーター、旭サナック社製)によって、洗浄、乾燥後のガラス基板(フロート法で成形したソーダライムガラス、厚さ;1.1mm)上に塗布して塗膜を形成した。静電塗装装置の静電塗装ガンとしては、回転霧化式静電自動ガン(旭サナック社製、サンベル、ESA120、カップ径70mm)を用いた。
【0219】
静電塗装装置のコーティングブース内の温度を25±1.5℃の範囲内、湿度を50±10%の範囲内に調節した。静電塗装装置のチェーンコンベア上に、あらかじめ25±1℃に加熱しておいた洗浄済みのガラス基板を、ステンレス板を介して置いた。チェーンコンベアで等速搬送しながら、ガラス基板のトップ面に、静電塗装法によって、25±1℃の範囲内の温度の防眩層形成用液状組成物を塗布した後、大気中、300℃で60分間焼成して防眩層を形成し、防眩層付き基板1を得た。
【0220】
防眩層付き基板1の製造においては、チェーンコンベアの速度、ガラス基板と静電塗装ガンの距離、防眩層形成用液状組成物の塗布量を予め調整して、最終的に得られる防汚層付き透明基板1の防汚層の表面形状のパラメータが表1に示す値となるようにした。得られた防眩層付き基板1の防眩層の上に防汚層を以下のようにして形成した。
【0221】
真空蒸着装置内に防眩層付き基板1を配置し、真空蒸着装置内を5×10-3Pa以下の圧力になるまで排気した。防眩層付き基板1の防眩層の表面に対向する距離1000mmの位置で、X-71-195の0.3gを収容した蒸着用容器を抵抗加熱によって300℃に加熱し、X-71-195中の固形分を真空蒸着させて防汚層を形成した。なお、X-71-195の温度は、300℃であった。その後、得られた防汚層付き透明基板を、温度140℃で30分間加熱(後処理)して、防汚層付き透明基板1とした。
【0222】
[例2~4]
例1において、防汚層の形成時に蒸着用容器に収容するX-71-195の量を表1に示す量に変更した以外は同様にして、例2~4の防汚層付き透明基板2~4を得た。
【0223】
[例5、6]
例1において、防汚層の形成時に蒸着用容器に収容するX-71-195を、KY-178またはUD509に変更し、蒸着用容器に収容するこれらの組成物の量を表1に示す量とした以外は同様にして、例5、6の防汚層付き透明基板5または防汚層付き透明基板6を得た。
【0224】
[例7、8]
例1において、防汚層の形成時に蒸着用容器に収容するX-71-195を、DSXまたは組成物Cfに変更し、蒸着用容器に収容するこれらの組成物の量を表1に示す量とした以外は同様にして、例7、8の防汚層付き透明基板7または防汚層付き透明基板8を得た。
【0225】
[例9]
例1において、防眩層付き基板1の製造の際に、チェーンコンベアの速度、ガラス基板と静電塗装ガンの距離、防眩層形成用液状組成物の塗布量を予め調整して、最終的に得られる防汚層付き透明基板9の防汚層の表面形状のパラメータが表1に示す値となるようにした以外は、同様にして防眩層付き基板2を製造した。得られた防眩層付き基板2の防眩層の上に、蒸着用容器に収容するX-71-195の量を表1に示す量に変更した以外は例1と同様にして防汚層を形成して防汚層付き透明基板9を得た。
【0226】
このようにして得られた、防汚層付き透明基板1~9について以下の評価を行った。結果を防汚層の材料特性を含む防汚層付き透明基板の構成等とともに表1に示す。
【0227】
(表面特性、フッ素量余剰分)
防汚層付き透明基板における防汚層の表面について、算術平均粗さRa、要素の平均長さRSm、スキューネスRsk(表1中、それぞれ「Ra」、「RSm」「Rsk」)を、それぞれ上記の方法で測定した。併せて、上記式(I)を満足するか判定を行った。表1では、式(I)を満足する場合を「○」、満足しない場合を「×」で示した。また、防汚層付き透明基板における防汚層のフッ素量余剰分を上記方法で算出した。
【0228】
(ヘイズ)
防汚層付き透明基板のヘイズ(%)を、ヘイズメーター(村上色彩研究所社製HR-100型)を用いて、JIS K7136:2000に規定されている方法に従って測定した。
【0229】
(クリーム状製品(以下、「クリーム」)の除去性)
防汚層付き透明基板について、以下のクリーム拭き取り試験を実施して、該試験の前後における、防汚層付き透明基板の防汚層の表面のG60の差を用いて評価した。
【0230】
<クリーム拭き取り試験>
清浄なガラス基板上にクリームとして花王株式会社製ニベアクリーム0.05gを載せた。次にその上に1kgの荷重を載せた底面がφ15mmのシリコン栓を載せることで、シリコン栓にクリームを転写した。続いてクリームを転写した1kgの荷重を載せたシリコン栓を、紙ウェスに80秒間載せ、余剰なクリームを除去した。続いて、1kgの荷重を載せたシリコン栓を防汚層付き透明基板の防汚層の表面に載せることで、上記防汚層の表面にクリームを転写し、評価サンプルとした。
【0231】
評価サンプルのクリーム上に、底面積が20mm×20mmで100gの荷重を載せた短冊状にカットした拭取り布(東レ株式会社製トレシーMK MK24H-CPMK)を置き移動させる拭き取り操作を30回繰り返した。
【0232】
<評価>
クリーム拭き取り試験後の防汚層表面のG60をG60afterとし、クリーム拭き取り試験前の防汚層表面のG60をG60beforeとして、G60beforeからG60afterを引いた値ΔG60を評価に用いた。G60の測定方法は上記のとおりである。該評価によればΔG60が小さいほど、クリーム状製品の除去性が高いと評価できる。表1には、G60beforeおよびΔG60を用いて以下の評価基準で判定した結果を示す。
【0233】
<評価基準>
◎;ΔG60<4
○;4≦ΔG60<6
△;6≦ΔG60<8
×;8≦ΔG60
【0234】
【表1】
【0235】
表1から実施例である例1~6では、防眩性と防汚性、特にハンドクリーム等のクリーム状製品の除去性に優れることがわかる。
なお、2019年05月31日に出願された日本特許出願2019-102404号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0236】
10A,10B…防汚層付き透明基板、1…透明基板、2…防汚層、3…防眩層。
図1
図2
図3