(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240501BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240501BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240501BHJP
H01J 37/141 20060101ALI20240501BHJP
H01J 37/12 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
H01L21/30 541D
G03F7/20 504
H01J37/305 B
H01J37/141
H01J37/12
(21)【出願番号】P 2023542612
(86)(22)【出願日】2023-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2023000964
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博文
(72)【発明者】
【氏名】野村 春之
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-208038(JP,A)
【文献】特開2013-26357(JP,A)
【文献】特開2018-170435(JP,A)
【文献】特開2019-62069(JP,A)
【文献】特開2022-162802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/305
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームの各ビームをブランキング偏向する複数のブランカと、
前記マルチ荷電粒子ビームのうち、前記ブランカによってビームオフの状態になるように偏向されたビームを遮蔽する制限アパーチャ部材と、
それぞれ磁界レンズからなり、前記制限アパーチャ部材を通過したマルチ荷電粒子ビームの焦点を基板上に合わせる、2段以上の対物レンズと、
前記基板における前記マルチ荷電粒子ビームの結像状態の補正を行うn個(nは3以上の整数)の補正レンズと、
前記基板を基準として正の一定電圧が印加され、前記基板との間に電界を形成する電界制御電極と、
を備え、
前記2段以上の対物レンズは、第1対物レンズと、前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の最も下流側に配置される第2対物レンズと、を有し、
前記n個の補正レンズのうちm個(mはn≧m≧1の整数)の補正レンズは、前記第2対物レンズのレンズ磁場内に配置された磁界補正レンズであり、
前記n個の補正レンズのうち前記磁界補正レンズを除いた(n-m)個の補正レンズは、前記第2対物レンズのレンズ磁場より、前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の上流側に配置される、マルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記電界制御電極は、前記第2対物レンズのレンズ磁場内、又は、前記第2対物レンズのレンズ磁場より前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置される、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
さらに、複数段の電極を有する静電レンズで構成され、前記マルチ荷電粒子ビームを加速する加速レンズを備え、
前記(n-m)個の補正レンズは、前記加速レンズの電極を兼用する静電補正レンズを含む、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記(n-m)個の補正レンズは、前記第1対物レンズのレンズ磁場内に配置される静電補正レンズ又は磁界補正レンズを含む、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記(n-m)個の補正レンズは、前記2段以上の対物レンズのレンズ磁場の外に配置される磁界補正レンズを含む、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
前記レンズ磁場の外に配置される磁界補正レンズは、前記2段以上の対物レンズのレンズ磁場より前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の上流側、又は前記2段以上の対物レンズのレンズ磁場の間に配置される、請求項5に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項7】
前記n個の補正レンズの励起量の相互関係を設定して、前記マルチ荷電粒子ビームの結像状態の補正を行う、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記結像状態の補正は、倍率不変かつ無回転で結像高さを変える補正である、請求項7に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項9】
前記結像状態の補正は、無回転かつ結像高さ不変で倍率を変える補正である、請求項7に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項10】
前記結像状態の補正は、結像高さ不変かつ倍率不変で回転を変える補正である、請求項7に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンの作製には、電子ビーム描画装置によってレジストを露光してパターンを形成する、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、これまでの1本のビームを偏向して試料上の必要な箇所にビームを照射するシングルビーム描画装置に代わって、マルチビームを使った描画装置の開発が進められている。マルチビームを用いることで、1本の電子ビームで描画する場合に比べて多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子源から放出された電子ビームを複数の開口部を持った成形アパーチャアレイ部材に通してマルチビームを形成し、ブランキングアパーチャアレイ基板で各ビームのブランキング制御を行い、遮蔽されなかったビームが光学系で縮小され、移動可能なステージ上に載置された試料に照射される。
【0004】
電子ビーム描画装置では、各ショットのビームを対物レンズで試料上に焦点を合わせると共に、例えば静電レンズを使って、試料面の凹凸に対応するように描画中にダイナミックに焦点補正(ダイナミックフォーカス)を行い、マルチビームアレイ像の光軸方向の位置(結像高さ)を補正している。ここで、光軸とは電子ビームが放出され試料に描画されるまでの光学系の中心軸を意味する。
【0005】
しかし、ダイナミックフォーカスを行うと、試料上においてビームアレイ像に回転や倍率変動を生じ、描画位置精度が劣化してしまう。そのため、ダイナミックフォーカスに依存するビームアレイ像の回転及び倍率変動を極力低減することが求められる。
【0006】
ダイナミックフォーカスに依存するビーム像の回転及び倍率変動を抑えるために、3個の静電レンズを設けると共に、2段の対物レンズの各段のレンズ磁場中に少なくとも1つの静電レンズが配置されるようにしたマルチビーム描画装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
電子ビームを試料に照射すると、試料から二次電子が発生する。この二次電子が試料面に戻り、試料表面のレジストの広範囲が帯電することで、目標とする位置からずれた位置に電子ビームが照射されてしまうことがあった。
【0008】
二次電子を下方に(試料面方向に)押し戻す電界を形成し、二次電子の発生位置(ビーム照射位置)近傍に二次電子を戻すことで帯電領域を限定し、レジスト帯電によるビーム位置変動の補正精度を向上させる技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、この技術では、レジスト表面の帯電量は増えるため、ビーム照射位置精度の向上には限界があった。一般的に、パターンが微細になる程、対応するレジストの感度は低くなる傾向がある。そのため、パターンの微細化が進む程、レジストへのビーム照射量は増え、レジスト帯電量が増加し、要求される位置精度の実現は困難になる。
【0009】
静電レンズを試料面に対してプラスの電圧範囲で運用することが行われている(例えば特許文献3参照)。この技術を使うことで、二次電子を試料面から上方に誘導する引き上げ電界が形成され、レジスト帯電量を低減できる。
【0010】
しかし、静電レンズは、描画中に試料面高さに対応して印加電圧が変わるため、引き上げ電界が一定にならず、レジスト帯電量が変化し、描画領域全体でのビーム照射位置精度向上の妨げになるという問題があった。
【0011】
【文献】特開2013-197289号公報
【文献】特開2021-180224号公報
【文献】特開2013-191841号公報
【発明の概要】
【0012】
本発明は、二次電子を引き上げる一定の電界を形成し、描画精度を向上させることができるマルチ荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【0013】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、マルチ荷電粒子ビームの各ビームをブランキング偏向する複数のブランカと、前記マルチ荷電粒子ビームのうち、前記ブランカによってビームオフの状態になるように偏向されたビームを遮蔽する制限アパーチャ部材と、それぞれ磁界レンズからなり、前記制限アパーチャ部材を通過したマルチ荷電粒子ビームの焦点を基板上に合わせる、2段以上の対物レンズと、前記基板における前記マルチ荷電粒子ビームの結像状態の補正を行うn個(nは3以上の整数)の補正レンズと、前記基板を基準として正の一定電圧が印加され、前記基板との間に電界を形成する電界制御電極と、を備え、前記2段以上の対物レンズは、第1対物レンズと、前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の最も下流側に配置される第2対物レンズと、を有し、前記n個の補正レンズのうちm個(mはn≧m≧1の整数)の補正レンズは、前記第2対物レンズのレンズ磁場内に配置された磁界補正レンズであり、前記n個の補正レンズのうち前記磁界補正レンズを除いた(n-m)個の補正レンズは、前記第2対物レンズのレンズ磁場より、前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の上流側に配置されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二次電子を引き上げる一定の電界を形成し、描画精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図5】別の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図6】別の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図7】別の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。。
【
図8】別の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図9】別の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームでもよい。
【0018】
この描画装置は、描画対象の基板24に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部Wと、描画部Wの動作を制御する制御部Cとを備える。
【0019】
描画部Wは、電子光学鏡筒2及び描画室20を有している。電子光学鏡筒2内には、電子源4、照明レンズ6、成形アパーチャアレイ基板8、ブランキングアパーチャアレイ基板10、加速レンズ50、制限アパーチャ部材14、2段の対物レンズ16,17、磁界補正レンズ40、静電補正レンズ60、及び電界制御電極70が設けられている。対物レンズ16,17は磁界レンズである。
【0020】
ここで、対物レンズの“段”というのは、1回の結像を行うという意味であり、多くの場合、1段の対物レンズは1個のレンズで構成されるが、収差や歪を低減する為に、1段の対物レンズを、近接する2個以上の磁界レンズで構成する(つまり1回の結像を近接する2個以上の磁界レンズで行う)場合もある。
【0021】
加速レンズ50は、ブランキングアパーチャアレイ基板10と対物レンズ16との間に配置されている。加速レンズ50は、複数の回転対称電極で構成される静電レンズであり、ビーム進行方向における上流の中間電位から下流のアース電位の間で電極電位が変化する。
【0022】
制限アパーチャ部材14は加速レンズ50と対物レンズ16との間に配置されるが、対物レンズ16と対物レンズ17との間に配置する構成も可能である 。対物レンズ17は、描画装置に設けられた複数の対物レンズのうち、ビーム進行方向の最も下流側に配置されたものである。対物レンズ16は対物レンズ17よりもビーム進行方向の上流側に配置されている。このような位置関係から、対物レンズ16は上段の対物レンズ、対物レンズ17は下段の対物レンズと呼ばれる場合がある。また、対物レンズ17は、最終段の対物レンズと呼ばれる場合がある。静電補正レンズ60は、磁界レンズで構成される対物レンズ16のレンズ磁場内(すなわち、磁場中、磁場の中)に配置されている。
【0023】
対物レンズのレンズ磁場内とは、磁束密度が高い領域であり、例えば、対物レンズの磁極に囲まれた空間をいう。対物レンズの磁場(軸上磁束密度)は、対物レンズ磁極から離れると減衰する。軸上磁束密度が最大となるのは、通常、対物レンズの一組の磁極(二つの磁極)の中間付近の光軸上である。経験的に、軸上磁束密度が最大値に対し、例えば1/10より大きい領域、或いは磁束密度が極小となるまでの領域を「磁場内」とみなすことができる。
【0024】
なお、収差や歪を低減するために、1段の対物レンズを近接する2個以上の磁界レンズで構成する場合があるが、このような場合は、1つの対物レンズを構成する近接した磁界レンズの間に磁束密度が1/10以下になる、あるいは極小になるところが生じても、当該対物レンズのレンズ磁場の内か外かの境界とみなすことはなく、「磁場内」とみなされる。
【0025】
静電補正レンズ60は、微小な回転対称電界を発生して、マルチビームの結像状態を補正する。例えば、静電補正レンズ60は円筒電極で構成され、補正のための電圧が印加される。電圧印加される電極の前後に、円筒状のアース電極を配置してもよい。
【0026】
なお、円筒状やリング状の電極を分割して(例えば8極偏向器のように分割して)、これら電極群に、集束電界(回転対称電界)、偏向電界、多極子電界などを発生させる電圧を加算して印加し、レンズ、偏向器、多極子等を兼ねる構成も、レンズ効果を持つ電界を発生させるので、そのような電極群も1個の静電補正レンズに含まれる。
【0027】
磁界補正レンズ40は、磁界レンズで構成される下段の対物レンズ17のレンズ磁場内に配置されている。磁界補正レンズ40は、微小な回転対称磁界を発生して結像状態を補正する。例えば、磁界補正レンズ40は、ビーム光軸を中心軸とする、円形コイルやソレノイドコイルであり、補正のための電流が流される。対物レンズ17の磁場を乱さないようにするために、フェライト等の磁性体で磁界補正レンズ40のコイルを囲む構造にはしない。
【0028】
描画室20内には、XYステージ22が配置される。XYステージ22上には、描画対象の基板24が載置されている。描画対象の基板24は、例えば、マスクブランクスや半導体基板(シリコンウェハ)である。
【0029】
電子源4から放出された電子ビーム30は、照明レンズ6によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板8を照明する。
図2は、成形アパーチャアレイ基板8の構成を示す概念図である。成形アパーチャアレイ基板8には、縦(y方向)s列×横(x方向)t列(s,t≧2)の開口部80が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。例えば、512列×512列の開口部80が形成される。各開口部80は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。各開口部80は、同じ径の円形であっても構わない。
【0030】
電子ビーム30は、成形アパーチャアレイ基板8のすべての開口部80が含まれる領域を照明する。これらの複数の開口部80を電子ビーム30の一部がそれぞれ通過することで、
図1に示すようなマルチビーム30Mが形成される。
【0031】
ブランキングアパーチャアレイ基板10には、成形アパーチャアレイ基板8の各開口部80の配置位置に合わせて貫通孔が形成され、各貫通孔には、対となる2つの電極からなるブランカが配置される。各貫通孔を通過するマルチビーム30Mは、それぞれ独立に、ブランカに印加される電圧によって偏向される。この偏向によって、各ビームがブランキング制御される。このように、ブランキングアパーチャアレイ基板10により、成形アパーチャアレイ基板8の複数の開口部80を通過したマルチビーム30Mの各ビームに対してブランキング偏向が行われる。
【0032】
ブランキングアパーチャアレイ基板10を通過したマルチビーム30Mに対し、加速レンズ50で生成される電場が集束場として作用する。加速レンズ50は、マルチビーム30Mの加速エネルギーを上げながら、各々のビームサイズと配列ピッチを縮小して、対物レンズ16のやや上流にクロスオーバーCO1を形成させる。制限アパーチャ部材14に形成された開口の中心がクロスオーバーCO1とほぼ一致するように、制限アパーチャ部材14は配置される。ここで、ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカにより偏向された電子ビームは、その軌道が変位し制限アパーチャ部材14の開口から位置がはずれ、制限アパーチャ部材14によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材14の中心の開口を通過する。
【0033】
このように、制限アパーチャ部材14は、ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各電子ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ部材14を通過したビームが、1回分のショットの電子ビームとなる。
【0034】
制限アパーチャ部材14を通過したマルチビーム30Mに上段の対物レンズ16は作用し、成形アパーチャアレイ基板8の複数の開口部80の縮小された中間像IS1を結像させ、クロスオーバーCO2を形成させる。下段の対物レンズ17は、中間像IS1を縮小し、成形アパーチャアレイ基板8の複数の開口部80の所望の縮小率の像(ビームアレイ像)IS2を基板24の表面に結像させる。なお、縮小率とは、倍率の逆数であり、例えば、成形アパーチャアレイ基板8の複数の開口部80を電子ビーム30の一部がそれぞれ通過することで形成された電子ビームのサイズ(又はピッチ)と、基板24表面に結像された像のサイズ(又はピッチ)との比をいう。
【0035】
対物レンズを2段とすることで、高い縮小率(例えば1/200程度の倍率)を実現すると共に、最終段レンズ(対物レンズ17)下面と基板24との間に、基板24が移動可能な間隔(ワーキングディスタンス)を確保することができる。
【0036】
制限アパーチャ部材14を通過した各電子ビーム(マルチビーム全体)は、偏向器(図示せず)によって同方向にまとめて偏向され、基板24に照射される。偏向器(図示せず)はブランキングアパーチャアレイ基板10より下流に配置すればよいが、上段の対物レンズ16より下流に配置すると歪や収差が小さいという利点がある。XYステージ22が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ22の移動に追従するように偏向される。また、XYステージ22が移動して描画位置が都度変化し、マルチビームが照射される基板24表面の高さが変化する。そのため、後述する加速レンズ50内の静電補正レンズ54、磁界補正レンズ40、及び静電補正レンズ60によって、描画中に、ダイナミックにマルチビームの焦点ずれが補正(ダイナミックフォーカス)される。
【0037】
一度に照射されるマルチビームは、理想的には成形アパーチャアレイ基板8の複数の開口部80の配列ピッチに上述した所望の縮小率で除した(すなわち、倍率を乗じた)ピッチで並ぶことになる。この描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0038】
電界制御電極70は、描画中、基板24の表面に一定強度の電界を発生させ、基板24から生じた二次電子を上流に加速する。例えば、基板24をアース電位とし、電界制御電極70には正の電圧Vsを印加し、その印加電圧を描画中一定とする。二次電子は負の電荷を持つので、基板24から電界制御電極70の方向へ引き付けられる。印加電圧を一定とすることで、電界強度は一定となる。
【0039】
電界制御電極70は、ビームが通過する開口を有する。電界制御電極70が発生させる電界によるビームの収差や歪を抑えるために、電界制御電極70は、ビーム光軸を中心とする軸対称な形状とし、
図3Aに示すような円環形状の平板や、
図3Bに示すような円筒状が好ましい。
【0040】
電界制御電極70は、基板24の表面の電界を制御できれば配置場所は特に制限されないが、基板24に近い方が電界制御性は良い。例えば、電界制御電極70は、対物レンズ17の磁極(ポールピース)と同程度の高さ又は磁極と基板24との間に配置され、対物レンズ17のレンズ磁場内又はレンズ磁場の下流側にある。
図3Aは、電界制御電極70を、対物レンズ17の下流側磁極17aよりやや下流側の高さに配置する例を示している。
【0041】
対物レンズ17は、十分な結像縮小率を得るために、磁極が基板24の近くに配置されている。そのため、電界制御電極70を対物レンズ17の磁極と同程度の高さ又は磁極と基板24との間に配置することで、多くの場合、基板24の表面から20mm以内に配置される。
【0042】
図3Cに示すように、電界制御電極70の下流側に、基板24と同電位となるアース電極72を設けてもよい。アース電極72を設けることで、電界制御電極70から基板24に及ぶ電界の領域をビーム光軸付近に制限できる。電界領域の制限により、基板24の移動に伴うビーム位置変動を抑制できる。なお、対物レンズ17の下流側磁極17aの内径が小さい場合、下流側磁極17aの上流に電界制御電極70を配置し、下流側磁極17aに上記のアース電極72の機能を持たせてもよい。
【0043】
レジスト帯電による位置ずれの程度を測定するパターンを、印加電圧を順次変えて描画し、描画結果から位置ずれの程度を評価し、位置ずれの程度が少ない印加電圧を選択することで、電界制御電極70に印加する電圧Vsを決定できる。位置ずれの程度を描画パターンで評価する方法は、特開2009-260250号公報や特開2021-180224号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0044】
レジスト帯電による位置ずれの程度が少ない印加電圧は、電子ビームの加速電圧、対物レンズの構成、電界制御電極70と周辺の構造等により異なるが、通常、10V~200V程度である。
【0045】
制御部Cは、制御計算機32及び制御回路34を有している。制御計算機32は、描画データに対し複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成し、制御回路34に出力する。ショットデータには、各ショットの照射量及び照射位置座標等が定義される。制御回路34は、各ショットの照射量を電流密度で割って照射時間を求め、対応するショットが行われる際、算出した照射時間だけビームONするように、ブランキングアパーチャアレイ基板10の対応するブランカに偏向電圧を印加する。
【0046】
制御計算機32は、後述する、加速レンズ50内の静電補正レンズ54、静電補正レンズ60及び磁界補正レンズ40の励起量(静電補正レンズでは印加電圧、磁界補正レンズでは励磁電流)を連動する関係式のデータを保持しており、この関係式を用いて各補正レンズの励起量を算出する。制御回路34は、算出結果に基づいて、静電補正レンズ54,60及び磁界補正レンズ40の励起量を制御する。
【0047】
また、制御回路34は、描画中、電界制御電極70に一定の電圧Vsを印加し、基板24の表面に、二次電子引き上げ電界を形成する。
【0048】
加速レンズ50は、
図4Aに示すように、複数の円筒状やリング状の電極51、52、53を有する。上流側に位置する中間電位電極51には、成形アパーチャアレイ基板8、ブランキングアパーチャアレイ基板10と同じ電圧(電位)が印加される。下流側に位置するアース電極52にはアース電位が印加される。例えば、負電荷の電子ビームを加速する場合、中間電位電極51には-45kVが印加され、アース電極52は0Vとなる。
【0049】
中間電位電極51とアース電極52との間に位置する複数の電極53には、隣接電極間の電位差が放電耐圧を超えない範囲で収差と歪が低減されるように最適化された電圧が印加される。通常、中間電位電極51及びアース電極52は、電極53よりも(ビーム進行方向の)長さが長くなっている。
【0050】
ここで、本実施形態では、加速レンズ50の電極の一部に、マルチビームの結像状態を補正する静電補正レンズとしての機能を持たせる。すなわち、加速レンズ50の電極の一部を静電補正レンズ54に兼用する。
【0051】
例えば、
図4Bに示すように、アース電極52を筒軸方向に2分割し、上流側のアース電極52に補正電圧を印加することで、静電補正レンズ54として動作させる。マルチビームの結像状態の補正に使用しない時は、アース電位が印加される。
【0052】
あるいはまた、
図4Cに示すように、複数の電極53の少なくとも1個に、加速レンズ用の電圧と補正電圧とを加算して印加することで、静電補正レンズ54として動作させてもよい。
【0053】
加速レンズ50によるビーム加速能力は、加速レンズ入口の電位と、出口の電位とで決定される。
図4B、
図4Cに示す構成は、最上流の入口電極電位及び最下流の出口電極電位が
図4Aに示す構成と同じであるため、一部の電極の印加電圧に補正電圧を加算して静電補正レンズ54として動作させても、ビーム加速能力は変わらない。
【0054】
なお、円筒状やリング状の電極を分割して(例えば8極偏向器のように分割して)、これら電極群に、回転対称電界(集束効果と加速効果を持つ)、偏向電界、多極子電界などを発生させる電圧を加算して印加する構成のように、回転対称な電界成分を発生させる電極群も、加速レンズを構成する1個の電極と見なされる。
【0055】
静電補正レンズ54として動作する電極に補正電圧を印加すると、加速レンズと静電補正レンズのトータルのレンズ効果(ビーム集束力)は変化する。その結果、中間像IS1の結像高さと倍率は変化する。後段の対物レンズ17が中間像IS1を縮小結像するので、中間像IS1で生じた結像高さの変化は縮小され、基板24の表面におけるビームアレイ像IS2の結像高さ変化は小さくなる。つまり、静電補正レンズ54は、ある程度の結像高さ補正感度を持つが、感度は低い。中間像IS1で生じた倍率の変化(倍率の比)は、後段の対物レンズ17の結像倍率とは関係なく、そのままビームアレイ像IS2の倍率変化に伝達されるので、静電補正レンズ54の倍率補正感度は高い。静電レンズと静電補正レンズの組合せでは像の回転は生じないので、静電補正レンズ54の回転補正感度は極めて低い。
【0056】
以上のように、加速レンズ50の電極を兼用する静電補正レンズ54は、倍率補正感度は高く、結像高さ補正感度は低く、回転補正感度は極めて低い。
【0057】
対物レンズ(磁界レンズ)の磁場中に配置される静電レンズは、静電レンズ内のビームのエネルギーを変化させて、ビームが磁界レンズから受ける集束効果を変えることにより結像高さを変える。この集束効果の変化により倍率変化も生じる。回転は、静電レンズ単独では通常生じないが、レンズ磁場中に配置すると、エネルギー変化から磁界レンズ作用を介して回転も変化する。ここで、ビームを結像させるために対物レンズが発生する磁場は極めて強力であるため、静電レンズの印加電圧の小さな変化による小さなエネルギー変化に対しても、レンズ磁場全体の集束効果と回転効果は大きく変化する。
【0058】
従って 、静電補正レンズ60の、中間像IS1に対する、結像高さ補正感度、倍率補正感度、回転補正感度は高い。しかし、最終段の対物レンズ17が中間像IS1を縮小して結像させるので、高さ方向の変化は縮小される。その結果、基板24の表面のビームアレイ像IS2に対する結像高さ補正に関して、ある程度の感度を持つが、感度は低くなる。但し、倍率変化(倍率の比)と回転は変わらない。従って、対物レンズ16のレンズ磁場内に配置された静電補正レンズ60は、結像高さの補正感度は低いが、倍率と回転については高い補正感度を有する。
【0059】
磁界補正レンズは、ビーム像を回転させる効果(回転効果)を有し、この効果は、磁界補正レンズの光軸方向の位置が対物レンズの磁場の中か外かを問わず生じる。像の回転は、対物レンズ磁場の回転効果と磁界補正レンズ磁場の回転効果との単純な加算になり、両者の磁場が重なり合っても相乗効果(両者の磁場の積に比例するような回転効果)は生じないためである。
【0060】
磁界補正レンズをレンズ磁場の中に配置した場合、結像高さ補正の感度は大きくなり、付随して倍率補正効果も大きくなる。レンズ磁場の集束力は軸上磁束密度の二乗に比例するので、対物レンズの磁場と磁界補正レンズの磁場に光軸方向で重なりがあると相乗効果(両者の磁場の積に比例するような集束効果)が生じ、補正レンズ磁場の小さな変化に対して、集束力の大きな変化が得られるからである。
【0061】
従って、本実施形態のように、下段の対物レンズ17のレンズ磁場の中に配置した磁界補正レンズ40は、結像高さ、倍率及び回転の全ての補正感度が高いという特性を有する。
【0062】
なお、磁界補正レンズ40は、電界制御電極70の外側から磁界をかけることができるため、磁界補正レンズ40と電界制御電極70とで配置上の干渉(場所の取り合い)は生じない。電界制御電極70は、磁界補正レンズ40が発生させる磁界に影響を与えない。また、磁界補正レンズ40は、電界制御電極70が発生させる電界に影響を与えない。そのため、磁界補正レンズ40と電界制御電極70とを、ビーム進行方向において同じ又は近接した位置(高さ)に配置することができる。
【0063】
このように、加速レンズ50の電極を兼用する静電補正レンズ54、上段の対物レンズ16のレンズ磁場内に配置される静電補正レンズ60、及び下段の対物レンズ17のレンズ磁場内に配置される磁界補正レンズ40は、それぞれ異なる補正特性を有する(結像高さ補正感度、倍率補正感度、回転補正感度の比率が異なる)ため、これら3個の補正レンズの励起量(印加電圧、励磁電流)の相互関係を設定し、適切な関係式で連動させて制御することにより、以下の結像状態の補正を行うことができる。
・基板の表面高さ変動に対応させて、倍率不変かつ無回転で、結像高さを変える。
・基板の表面高さは一定として、無回転かつ結像高さ不変で、倍率を変える。
・基板の表面高さは一定として、結像高さ不変かつ倍率不変で、回転を変える。
上記の3種類の結像状態の補正のうち、第1番目の補正は、試料面の凹凸に対応するように描画中に行う焦点補正(ダイナミックフォーカス)で利用する。第2番目の補正は倍率の微調整に、第3番目の補正は回転の微調整に利用できる。
【0064】
結像状態の補正での励起量の連動の関係式は、上記3パターンの調整のそれぞれで異なる。励起量の関係式は、調整量(結像高さ、倍率、回転)の1次以上の多項式とすれば、十分な精度で調整できる。多項式の係数は、軌道シミュレーションで求まる。実測した、結像高さ、倍率、回転の励起量に対する依存性に基づいて係数を算出してもよい。
【0065】
また、本実施形態によれば、上述したように、電界制御電極70により、描画中に、二次電子が基板24に戻らない方向の一定強度の電界が基板24上に形成されるため、レジスト帯電量の変化が抑制され、描画精度を向上させることができる。
【0066】
従来の補正レンズの構成(例えば特開2013-197289号公報参照)のように、試料に近い側の対物レンズ17の磁場の中に静電補正レンズを配置しようとすると、電界制御電極70との場所の取り合いが生じ、電界制御電極70、または、静電補正レンズの、どちらかが配置できないという問題が生じる場合がある。あるいは、配置できたとしても、電界制御電極70と静電補正レンズとが非常に近い配置になり、描画中に変化する静電補正レンズの電界が基板24上に及び、描画中に電界を一定強度に保てず、描画精度を劣化させるという問題が生じる。さらには、描画動作中に、対物レンズ17の磁場中の電界制御電極70と静電補正レンズ電極のうち上流側に配置された電極の電圧(電位)の方が低くなると、両電極の境界付近で基板24からの二次電子が減速してビーム軌道近傍に高密度に滞留し、滞留した二次電子からのクーロン力がビーム軌道を変化させ、描画精度を劣化させるという問題が生じる。しかし、本実施形態では、最終段の対物レンズの磁場中には磁界補正レンズを配置し、静電補正レンズは最終段の対物レンズの磁場より上流側に配置しているので、このような問題は生じず、描画中に基板24上の電界を一定強度に保ちながら、焦点補正レンズによる結像状態の補正ができる。これにより、描画精度を向上させることができる。
【0067】
上記実施形態において、電界制御電極70をアース電位とし、基板24に負の電圧を印加し、その印加電圧を描画中一定とし、二次電子引き上げ電界を形成してもよい。形成された電界により、二次電子は、基板24から電界制御電極70の方向(上流方向)へ引き付けられる。
【0068】
また、基板24に負の一定電圧を印加し、対物レンズ17の下流側磁極17aをアース電位として電界制御電極の機能を持たせてもよい。
【0069】
図1に示す描画装置は、対物レンズ16のレンズ磁場内に静電補正レンズ60を配置していたが、
図5に示すように、静電補正レンズ60を省略し、対物レンズ16のレンズ磁場内に磁界補正レンズ42を配置してもよい。
【0070】
対物レンズ16の磁場内に配置された磁界補正レンズ42は、結像高さ補正量が後段の対物レンズ17により縮小されるので、ある程度の結像高さ補正感度を持つが、感度は低い。倍率補正効果は後段レンズに影響されず高い。また、磁界補正レンズは、対物レンズの磁場の中か外かに関係なく回転補正感度は高い。このように、対物レンズ16のレンズ磁場内に配置された磁界補正レンズ42は、結像高さの補正感度は低く、倍率及び回転の補正感度は高い。
【0071】
そのため、それぞれ異なる補正特性を有する静電補正レンズ54及び磁界補正レンズ40,42の励起量を、関係式に基づいて連動させて制御することで、上記実施形態と同様の結像状態の補正を行うことができる。
【0072】
磁界補正レンズ42は、対物レンズ16のレンズ磁場内でなく、対物レンズ16、17のレンズ磁場の外に配置してもよい。例えば、
図6に示すように、対物レンズ16、17の上流側の、レンズ磁場の外に磁界補正レンズ42を配置する。レンズ磁場の外に配置した磁界補正レンズ42は、フェライト等の磁性体でコイルを囲ってもよい。
【0073】
磁界型の対物レンズの磁場(軸上磁束密度)は、対物レンズ磁極から離れると減衰する。経験的に、軸上磁束密度が、その最大値に対して1/10以下となる領域を「磁場の外」とみなすことができる。
【0074】
本実施形態では、磁界補正レンズ42は、加速レンズ50と対物レンズ16との間に配置されているが、磁界補正レンズ42の位置は、対物レンズ16,17の磁場の外側で、かつ、ブランキングアパーチャアレイ基板10より下流側であればよく、例えば、加速レンズ50を囲むようにコイルを配置し、それを磁界補正レンズ42としてもよい。
【0075】
磁界補正レンズをレンズ磁場の外に配置すると、集束力の変化は非常に小さくなり、結像高さ及び倍率の補正感度は非常に低くなる。従って、対物レンズ16、17のレンズ磁場の外に配置された磁界補正レンズ42は、結像高さ及び倍率の補正感度が非常に低く、回転の補正感度は高い。
【0076】
そのため、それぞれ異なる補正特性を有する静電補正レンズ54及び磁界補正レンズ40,42の励起量を、関係式に基づいて連動させて制御することで、上記実施形態と同様の結像状態の補正を行うことができる。
【0077】
磁界補正レンズ42の位置は、対物レンズ16、17の上流側の、レンズ磁場の外に限定されず、
図7に示すように、2段の対物レンズ16、17の間の、レンズ磁場の外に配置してもよい。
【0078】
例えば、2つの対物レンズ16,17の励磁方向(集束磁界の方向)を逆としている場合、両者の間に磁束密度が0となる箇所が生じるので、その付近に磁界補正レンズ42を配置する。
【0079】
2つの対物レンズ16,17の励磁方向が同じ場合でも、両者の間に磁束密度が十分減衰する領域(例えば、軸上磁束密度が最大値の1/10以下になる領域)が生じる場合が多いので、その付近に磁界補正レンズ42を配置する。
【0080】
マルチビームの結像状態の補正に使用する3個の補正レンズのうち、対物レンズ17のレンズ磁場よりもビーム進行方向の上流側(外側)に配置される2個の補正レンズの構成や配置場所については、様々な組み合わせが可能である。
【0081】
例えば、
図8に示すように、加速レンズ50と対物レンズ16との間であって、対物レンズ16、17の上流側の、レンズ磁場の外に配置された磁界補正レンズ42と、対物レンズ16のレンズ磁場内に配置された静電補正レンズ60と、対物レンズ17のレンズ磁場内に配置された磁界補正レンズ40を使用してマルチビームの結像状態を補正してもよい。この例では、加速レンズ50の電極は静電補正レンズとして利用しない。
【0082】
図8に示す描画装置において、対物レンズ16のレンズ磁場内に、静電補正レンズ60に代えて磁界補正レンズを配置してもよい。また、磁界補正レンズ42の位置は、2段の対物レンズ16、17の間の、レンズ磁場の外であってもよい。
【0083】
図9に示すように、対物レンズ16のレンズ磁場内に配置された静電補正レンズ60、61と、対物レンズのレンズ磁場内に配置された磁界補正レンズ40とを使用して、マルチビームの結像状態を補正してもよい。この例では、加速レンズ50の電極は静電補正レンズとして利用しない。
【0084】
図9に示す描画装置において、対物レンズ16のレンズ磁場内に配置する2個の補正レンズは、1個の静電補正レンズ及び1個の磁界補正レンズでもよく、2個の磁界補正レンズでもよい。
【0085】
対物レンズ磁場内の補正レンズの各補正感度を詳細に検討すると、磁界補正レンズの回転補正感度を除き、補正感度は、補正レンズ位置での対物レンズ磁場強度(磁束密度)と、補正レンズ位置でのビーム軌道値(光軸からの距離)に依存する。また、どの補正感度か(結像高さ補正感度、倍率補正感度、回転補正感度のどれか)によって、その依存性は異なる。従って、同じ対物レンズ16のレンズ磁場内であっても、2個の補正レンズの位置をビーム光軸方向にずらして配置すれば、各位置での磁場強度や軌道値は異なるので、異なる補正感度が得られる。その結果、
図9に示す描画装置で、各補正レンズの励起量を、関係式に基づいて連動させて制御することで、
図1の描画装置と同様の結像状態の補正を行うことができる。
【0086】
なお、対物レンズ磁場中に複数の静電補正レンズを配置した場合、近接する静電補正レンズ間で電位差が生じると、静電補正レンズの境界付近に二次電子が滞留し、滞留した二次電子によるクーロン力でビーム位置が不安定になる可能性がある。しかし、
図9に示す描画装置のように、上段の対物レンズ16の磁場内に配置される場合、基板24からの二次電子は、下段の対物レンズ17の磁場を通過した後、拡がって散乱し、上段の対物レンズ16の磁場内への到達量は減るので、ビーム位置不安定性は小さく、問題とならない事が多い。ビーム位置不安定性が問題となる場合は、上述したように補正レンズの一部または全部を磁界補正レンズとすればよい。
【0087】
これまで示した描画装置では、3個の補正レンズを用いる構成を説明したが、n個(nは3以上の整数)の補正レンズを用いて、結像状態を補正してもよい。
【0088】
また、下段の対物レンズ17の磁場中にはm個(mはn≧m≧1の整数)の磁界補正レンズを配置してもよい。この場合、n個の補正レンズのうち、対物レンズ17の磁場中に配置したm個の磁界補正レンズ以外の(n-m)個の補正レンズは、対物レンズ17の磁場よりビーム進行方向の上流側に配置される。
【0089】
また、これまで示した描画装置では2段の対物レンズを用いる構成を説明したが、3段以上の対物レンズを用いる場合も、描画中に二次電子を引き上げる一定の電界を形成しながら結像状態の補正ができるので、描画精度を向上させることができる。
【0090】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0091】
2 電子光学鏡筒
4 電子源
6 照明レンズ
8 成形アパーチャアレイ基板
10 ブランキングアパーチャアレイ基板
14 制限アパーチャ部材
16、17 対物レンズ
20 描画室
22 XYステージ
24 基板
40 磁界補正レンズ
50 加速レンズ
60 静電補正レンズ
70 電界制御電極
【要約】
二次電子を引き上げる一定の電界を形成し、描画精度を向上させられるマルチ荷電粒子ビーム描画装置を提供する。マルチ荷電粒子ビーム描画装置は、それぞれ磁界レンズからなり、マルチ荷電粒子ビームの焦点を基板上に合わせる、2段以上の対物レンズと、前記基板における前記マルチ荷電粒子ビームの結像状態の補正を行うn個(nは3以上の整数)の補正レンズと、前記基板を基準として正の一定電圧が印加され、前記基板との間に電界を形成する電界制御電極と、を備える。前記2段以上の対物レンズは、第1対物レンズと、前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の最も下流側に配置される第2対物レンズと、を有する。前記n個の補正レンズのうちm個(mはn≧m≧1の整数)の補正レンズは、前記第2対物レンズのレンズ磁場内に配置された磁界補正レンズである。前記n個の補正レンズのうち前記磁界補正レンズを除いた(n-m)個の補正レンズは、前記第2対物レンズのレンズ磁場より、前記マルチ荷電粒子ビームの進行方向の上流側に配置される。