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特許74809251,6-ヘキサンジオール組成物、ポリマー、硬化性樹脂組成物及び塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】1,6-ヘキサンジオール組成物、ポリマー、硬化性樹脂組成物及び塗料
(51)【国際特許分類】
   C07C 31/20 20060101AFI20240501BHJP
   C07C 31/22 20060101ALI20240501BHJP
   C07C 31/24 20060101ALI20240501BHJP
   C09D 167/02 20060101ALI20240501BHJP
   C08G 63/181 20060101ALI20240501BHJP
   C12P 7/18 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
C07C31/20 Z
C07C31/22
C07C31/24
C09D167/02
C08G63/181
C12P7/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023563853
(86)(22)【出願日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2023025827
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2022117127
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】堤 大士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正紀
(72)【発明者】
【氏名】重廣 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】北田 満
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-009923(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104312417(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103059310(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C09D
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,6-ヘキサンジオール及びアルカリ金属元素を含有する1,6-ヘキサンジオール組成物であって、
前記組成物の総量に対する前記アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmの範囲であり、
三価又は四価のアルコールをさらに含有し、前記1,6-ヘキサンジオール組成物の総量に対する前記アルコールの含有量が0.1~2,000質量ppmの範囲である1,6-ヘキサンジオール組成物。
【請求項2】
前記アルコールが三価の脂肪族アルコールである請求項1記載の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【請求項3】
前記アルコールがグリセリンである請求項2記載の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【請求項4】
微生物を用いてバイオマス資源から請求項1又は2に記載の1,6-ヘキサンジオール組成物を生産する方法
【請求項5】
請求項1又は2記載の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーがポリエステルである請求項5記載のポリマー。
【請求項7】
請求項5記載のポリマーを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7記載の硬化性樹脂組成物を含有する塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,6-ヘキサンジオール組成物、ポリマー、硬化性樹脂組成物及び塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
1,6-ヘキサンジオール(1,6-HD)組成物は、ポリエステル、ポリウレタン等のポリマーの製造のために有用な中間生成物である。1,6-ヘキサンジオール組成物は一般的に、(1)アジピン酸若しくはアジピン酸含有フィード流の水素化によって、(2)ヒドロキシカプロン酸若しくはそのエステルの水素化によって、又は(3)カプロラクトンの水素化によって製造可能である。
【0003】
1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリマーの用途としては、塗料、接着剤等が挙げられる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-196900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物としたときに、硬化不良を起こすことなくポットライフを延長できる1,6-ヘキサンジオール組成物、ポリマー、硬化性樹脂組成物及び塗料を提供することを目的とする。また本発明は、酸化重合型硬化性樹脂組成物としたときに、硬化促進助剤を配合しなくとも、又は、配合量を減らしても、硬化(乾燥)時間を遅延させることなく維持できる1,6-ヘキサンジオール組成物、ポリマー、硬化性樹脂組成物及び塗料を提供することを目的とする。
なお本明細書において、ポットライフとは、混合物の可使時間を意味し、例えば、熱硬化性樹脂組成物の50℃条件下におけるゲル化までの時間等を指す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルカリ金属元素を特定量含有する1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリエステル等のポリマーを含有する熱硬化性樹脂組成物においては、硬化不良を起こすことなくポットライフを延長できることを見出し、本発明を完成した。また前記ポリマーを含有する、酸化重合型硬化性樹脂組成物においては、硬化促進助剤を配合しなくとも、又は、配合量を減らしても、硬化(乾燥)時間を遅延させることなく維持できることを見出し、本発明を完成した。
さらに、本発明者らは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物中の三価又は四価のアルコールが、熱硬化性樹脂組成物のポットライフに影響することや、場合によってはポリエステル等のポリマーの合成に影響することも見出した。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明を提供するものである。
[1]1,6-ヘキサンジオール及び1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方又は両方、及びアルカリ金属元素を含有する1,6-ヘキサンジオール組成物であって、 前記組成物の総量に対する前記アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmの範囲である1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0008】
[2]三価又は四価のアルコールをさらに含有し、前記1,6-ヘキサンジオール組成物の総量に対する前記アルコールの含有量が0.1~2,000質量ppmの範囲である[1]の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0009】
[3]前記アルコールが三価の脂肪族アルコールである[2]の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0010】
[4]前記アルコールがグリセリンである[3]の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0011】
[5]1,6-ヘキサンジオール組成物がバイオマス資源から誘導されたことを特徴とする[1]~[4]のいずれかの1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0012】
[6][1]~[5]のいずれかの1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマー。
【0013】
[7]前記ポリマーがポリエステルである[5]のポリマー。
【0014】
[8][5]または[6]のポリマーを含有する硬化性樹脂組成物。
【0015】
[9][8]記載の硬化性樹脂組成物を含有する塗料。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmであるため、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリエステル等のポリマーを含有する熱硬化性樹脂組成物においては、硬化不良を起こすことなくポットライフを延長でき、前記ポリマーを含有する酸化重合型硬化性樹脂組成物においては、硬化促進助剤を配合しなくとも、又は、配合量を減らしても、硬化(乾燥)時間を遅延させることなく維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1,6-ヘキサンジオール組成物>
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物(以下、単に組成物ということがある)は、1,6-ヘキサンジオール及び1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方又は両方、及びアルカリ金属元素を含有し、組成物の総量に対する前記アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmの範囲である。
【0018】
<<1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール誘導体>>
本発明の組成物に含まれる1,6-ヘキサンジオールは、未変性の1,6-ヘキサンジオールであることが好ましいが、1,6-ヘキサンジオール誘導体であってもよい。即ち本発明の組成物は、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方を少なくとも含有する。
【0019】
本発明の組成物に含まれる1,6-ヘキサンジオール誘導体は、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれる1,6-ヘキサンジオールが有する二つの水酸基のうちの一方又は両方を変性させた化合物である。ここで、1,6-ヘキサンジオールが有する水酸基を変性する方法としては、水酸基を変性する公知の方法が使用でき、例えばエーテル化反応、エステル化反応、(メタ)アクリル酸による変性等が挙げられる。
【0020】
前記1,6-ヘキサンジオール誘導体としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、1,6-ヘキサンジオールモノアクリレートモノメタクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールモノビニルエーテル等のビニルエーテル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;6-プロピルオキシ-1-ヘキサノール、1,6-ジプロポキシ-ヘキサン、1,6-ヘキサンジオールメチルエーテル、1,6-ジメトキシヘキサン等の脂肪族アルキルエーテル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;プロピル6-ヒドロキシヘキサノエート、ジ-n-プロピルアジペート、メチル6-ヒドロキシカプロエート、ジメチルアジペート等の脂肪酸エステル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基、メタクリロイル基の一方又は両方を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0022】
本発明の組成物において、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方の合計含有量は、好ましくは95.00~99.99質量%、より好ましくは96.00~99.99質量%、 更に好ましくは99.00~99.99質量%である。アルカリ金属元素の合計含有量、必要に応じて三価又は四価のアルコールの含有量を上記範囲内としつつ、1,6-ヘキサンジオール組成物の純度を上記範囲内とすることにより、本発明の効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方の合計含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法により測定される値である。
【0023】
<<アルカリ金属元素>>
本発明の組成物に含まれるアルカリ金属元素は特に限定されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、ナトリウム、カリウムが好ましい。
【0024】
本発明の組成物に含まれるアルカリ金属元素の存在状態は特に限定されず、アルカリ金属単体、アルカリ金属化合物、アルカリ金属イオン等でも良い。
アルカリ金属化合物の具体例として、上記のアルカリ金属元素と酢酸、リン酸、硝酸等の酸の金属塩等が挙げられる。
【0025】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方又は両方の合計含有量)は、上限は好ましくは5,000質量ppm以下である。前記合計含有量の下限は特に限定されず、好ましくは1質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは500質量ppm以上、特に好ましくは800質量ppm以上である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素、カリウム金属元素の合計含有量)は、1~5,000質量ppmであるが、好ましくは100~5,000質量ppm、より好ましくは500~5,000質量ppm、さらに好ましくは800~5,000質量ppmである。アルカリ金属の合計含有量が上記範囲内であれば、前記効果が発揮されると共に、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られたポリエステル等のポリマーを使用した硬化性樹脂組成物において、硬化(乾燥)性が良好である。
本明細書において、アルカリ金属の合計含有量は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP―MS)法により測定される値である。
【0026】
<<三価又は四価のアルコール>>
本発明の組成物は三価又は四価のアルコールをさらに含有しても良い。三価又は四価のアルコールとして、具体的には、ペンタエリスリトール、ヘキサンテトロール、2,-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(ペンタエリスリトール)、ベンゼントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセリン、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール(トリメチロールエタン)、2―エチル―2―ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(トリメチロールプロタン)、3-ヒドロキシエチル-3-メチル-1,5-ペンタンジオール(トリエチロールエタン)、3―エチル-3-ヒドロキシエチル-1,5-ペンタンジオール(トリエチロールプロパン)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上述した中でも、三価の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数3~10の三価の脂肪族アルコールがさらに好ましく、炭素数3~8の三価の脂肪族アルコールが特に好ましく、グリセリンが最も好ましい。本発明の組成物がこれらアルコールを含有することで、本発明の組成物を原料とするポリマーを含有する熱硬化性樹脂組成物とした場合に、硬化不良を起こすことなくポットライフを延長できる。また本発明の組成物を原料とするポリマーを含有する酸化重合型硬化性樹脂組成物とした場合に、硬化促進助剤を配合しなくとも、又は、配合量を減らしても、硬化(乾燥)時間を遅延させることなく維持できる。
【0027】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、三価又は四価のアルコールの含有量は、上限は好ましくは2,000質量ppm以下である。前記含有量の下限は特に限定されず、好ましくは0.1質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上、更に好ましくは100質量ppm以上、特に好ましくは500質量ppm以上である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。つまり、三価又は四価のアルコールの含有量は、好ましくは0.1~2,000質量ppm、より好ましくは10~2,000質量ppm、更に好ましくは100~2,000質量ppm、特に好ましくは500~2,000質量ppmである。
三価又は四価のアルコールの含有量が上記範囲内であれば、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させてポリエステル等のポリマーを合成する際に、三価又は四価のアルコールによるポリマー鎖の分岐構造の量を調節でき本発明の効果を得ながらゲル化を好適に抑制できる。
本明細書において、三価又は四価のアルコールの含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC―MS)法により測定される値である。
【0028】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、アルカリ金属元素の合計含有量が上記範囲内となるように製造すればよい。例えば、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物は、アルカリ金属の合計含有量が1質量ppm未満であるため、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物に、例えば酢酸、リン酸、硝酸などの酸とアルカリ金属の金属塩を添加し、アルカリ金属の合計含有量が上記範囲内となるようにすればよい。
同様に、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物は、三価又は四価のアルコールの含有量が0.1質量ppm未満であるため、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物に三価又は四価のアルコールを添加し、三価又は四価のアルコールの含有量が上記範囲内となるようにすればよい。
【0029】
本発明の組成物に含まれるアルカリ金属元素の含有量を前記範囲とすることで、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリエステル等のポリマー、該ポリマーを含有する硬化性樹脂組成物(特に、熱硬化性樹脂組成物または酸化重合型硬化性樹脂組成物)において、前記効果が発揮される理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0030】
熱硬化性樹脂組成物は、ポリエステル等のポリマーを含有する主剤、および硬化剤を少なくとも含有し、スルホン酸系などの酸硬化触媒を任意でさらに含有する。熱硬化性樹脂組成物中に(原料である1,6-ヘキサンジオール組成物由来の)アルカリ金属元素が適正量含まれることで、酸硬化触媒が適度に中和され、硬化不良を起こすことなく、ポットライフ延長が可能となる。
【0031】
また、三価又は四価のアルコールの含有量を0.1~2,000質量ppmとすることでポリエステル等のポリマーの分岐度の増大を抑制でき、更なるポットライフ延長が可能となる。
【0032】
酸化重合型硬化性樹脂組成物では、硬化促進用のコバルト、マンガン、鉄といったドライヤーが使用されるが、硬化促進助剤、いわゆる補助ドライヤーも併用される。硬化促進助剤としてはカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属;ジルコニウム、鉛等の重金属;からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、種々のカルボン酸との金属塩(金属石鹸)が挙げられる。
一方、1,6-ヘキサンジオール組成物中にアルカリ金属が含まれることで、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリエステル等のポリマー、該ポリマーを含有する酸化重合型硬化性樹脂組成物でもアルカリ金属が含まれることとなる。したがって、硬化促進助剤を配合しなくとも、又は、配合量を減らしても、硬化(酸化重合)反応が促進され、乾燥時間を遅延させることなく維持できることとなる。
【0033】
<バイオマス資源から誘導された1,6-ヘキサンジオール組成物>
近年、環境意識が高まっており、地球温暖化に影響を及ぼす石油由来原料ではなく、植物等のバイオマス資源由来の原料が望まれている。バイオマス資源とは、動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源であり、好ましい資源としては、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバ、大豆、おから、バガス、植物油、油脂、古紙、製紙残渣などの植物資源である。これらのバイオマス資源は、一般に、窒素元素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの多くのアルカリ金属、アルカリ土類金属を含有する。またバイオマス資源からコリネ菌、大腸菌などの微生物を利用してバイオマス資源由来の原料を得る方法も開示されており、本発明においても、例えば、特開2020-114227号公報に記載の製造方法により得られたバイオマス資源由来の1,6-ヘキサンジオール組成物等のバイオマス資源から誘導された1,6-ヘキサンジオール組成物を好適に使用できる。微生物による発酵を利用する場合には、発酵を効率的に進めるために、通常、発酵液の水素イオン濃度(pH)を中和剤により調整する。中和剤や培養液中に多くのアルカリ金属、アルカリ土類金属を含有する。また、特開2020-114227号公報に記載の製造方法により得られたバイオマス資源由来の1,6-ヘキサンジオールには、不純物として三価又は四価のアルコールが混入することが本発明者らの鋭意検討の結果判明した。これら不純物は不必要なものとしてコストの許す限り、精製方法を駆使して取り除かれる。しかしながら、アルカリ金属は、1,6-ヘキサンジオールと共存させる成分として不必要なものでなく、特定量の共存はむしろ、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られたポリエステル等のポリマーを硬化性樹脂組成物に用いた場合の前記効果を発揮させる必須の成分であることが本発明者らの鋭意研究の結果判明した。また、三価又は四価のアルコールについても、前記の通り、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られたポリエステル等のポリマーを硬化性樹脂組成物に用いた場合に、不純物として取り除かなくてもある特定の範囲であれば、ポットライフに影響が出ない、短くならないことが本発明者らの鋭意研究の結果判明した。公知の精製方法の組み合わせにより、アルカリ金属の合計含有量、三価又は四価のアルコールの含有量が上記範囲内の1,6-ヘキサンジオール組成物を得ることができる。
【0034】
<ポリマー>
本発明のポリマーは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られる。前記ポリマーは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有する重合体であれば特に限定されず、オリゴマーも含む。ポリマーとして、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテル、前記エポキシ基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体を原料とするエポキシ系ポリマー、前記(メタ)アクリロイル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体を原料とするアクリル系ポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
なかでも、前記効果がより好適に発揮されやすいという理由から、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルが好ましく、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルがより好ましく、ポリエステル、ポリウレタンが更に好ましく、ポリエステルが特に好ましい。
なお、本発明のポリマーは、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有すると共に、1,6-ヘキサンジオール組成物由来のアルカリ金属を含有し、更に、必要に応じて三価又は四価のアルコール由来の構造単位を有する。ここで、1,6-ヘキサンジオール組成物に必要に応じて含まれる三価又は四価のアルコールは、重合中にポリマー骨格に取り込まれる。
【0035】
本発明のポリマー100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位の含有量は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは20~100質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、ポリマー中の各構造単位の含有量は、NMRにより測定される。
【0036】
本発明のポリマーにおいて、アルカリ金属の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方又は両方合計含有量)は、好ましくは0.1~5,000質量ppm、より好ましくは0.2~5,000質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0037】
本発明のポリマー100質量%中の三価又は四価のアルコール由来の構造単位の含有量は、好ましくは0.01~2,000質量ppm、より好ましくは0.02~2,000質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0038】
前記ポリマーは、変性されていてもよい。変性としては、特に限定されず、例えば、1,6-ヘキサンジオール誘導体において説明した変性等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、(メタ)アクリル酸による変性が好ましい。特に、前記ポリマーがポリエステルの場合、(メタ)アクリル酸による変性が施されていることが好ましい。
【0039】
本発明のポリマーの重量平均分子量(Mw)は、2,000~1,000,000であることが好ましく、3,000~50,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、ポリマーの重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。なお、ポリマーがポリエステルの場合は、重量平均分子量(Mw)は後述する条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0040】
以下においては、前記ポリマーのうち、ポリエステルについて詳細を説明するが、前記ポリマーは、ポリエステルに限定されるものではない。
【0041】
<<ポリエステル>>
本発明のポリエステルは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られる。
具体的には、本発明のポリエステルは、カルボン酸とアルコールとを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体であり、アルコールとして、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物が用いられる。従って、本発明のポリエステルは、カルボン酸とアルコールとの重縮合反応により得られる反応生成物(重縮合物)であり、本発明のポリエステルは、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有すると共に、1,6-ヘキサンジオール組成物由来のアルカリ金属を含有し、更に、必要に応じて三価又は四価のアルコール由来の構造単位を有する。
【0042】
本発明のポリエステルは、ポリエステルポリオールであることが好ましい。
ポリエステルポリオールとしては、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール等が挙げられる。縮合系ポリエステルポリオールは、例えば、低分子多価アルコール(エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール、(1,3-又は1,4-)ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1-トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,5-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオール、ソルビトール等の糖類等)と、多価塩基性カルボン酸(グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、オリゴマー酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘクサンジカルボン酸等)との反応生成物である。ラクトン系ポリエステルポリオールは、例えば、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、ε-メチル-ε-カプロラクトン等のラクトンを開環重合して得られるポリカプロラクトンポリオールである。
【0043】
前記カルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族多価カルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘクサンジカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸;オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸;酢酸、プロピオン酸、2-エチルヘキサン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の脂肪族モノカルボン酸;安息香酸、p-タ―シャリーブチル安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸等の芳香族モノカルボン酸;大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸等、各種動植物油由来脂肪酸;及び、これらの無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、芳香族多価カルボン酸やその無水物、動植物油由来脂肪酸が好ましく、無水フタル酸、大豆油脂肪酸がより好ましい。
【0044】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物以外に使用できるアルコールは、水酸基(アルコール性水酸基又はフェノール性水酸基)を有する化合物であれば特に限定されない。前記アルコールとしては、エタノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール等の脂肪族モノアルコール;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン等の脂肪族ポリオール;フェノール、クレゾール、ビスフェノール―A等の芳香族モノ/多価フェノール;及び、これらのエチレンオキサイド伸長物、水添化脂環族等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪族ポリオールが好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンがより好ましい。
【0045】
前記アルコール100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物の含有量は、好ましくは1~100質量%、より好ましくは10~100質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0046】
本発明のポリエステルは、公知のポリエステルの製造方法により得ることができる。具体的には、反応温度150~280℃で、生成する水を系外へ取り除きながら、前記カルボン酸と前記アルコールを反応させる製造方法にて合成できる。また、合成時に反応触媒、酸化防止剤等を併用しても構わない。
【0047】
本発明のポリエステル100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位の含有量は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~70質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、ポリエステル中の各構造単位の含有量は、NMRにより測定される。
【0048】
本発明のポリエステルにおいて、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方または両方の合計含有量)は、好ましくは0.1~3,500質量ppm、より好ましくは0.2~3,500質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0049】
本発明のポリエステル100質量%中の三価又は四価のアルコール由来の構造単位の含有量は、好ましくは0.01~1,400質量ppm、より好ましくは0.02~1,400質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0050】
本発明のポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、2,000~120,000であることが好ましく、3,000~50,000であることがより好ましい。
【0051】
本発明のポリマーは、様々な用途に使用できる。具体的には、塗料、インキ、接着剤等のコーティング用途、不織布、繊維、紙等のバインダー用途、自動車部品、電化製品などの筐体、スポーツ用品等のプラスチック構造材用途、防振材、制振材等のゴム用途など、広範囲な用途に使用できる。
【0052】
本発明のポリエステルは、様々な用途に使用できる。具体的には、塗料、インキ、接着剤等のコーティング用途、不織布、繊維、紙等のバインダー用途、自動車部品、電化製品などの筐体、スポーツ用品等のプラスチック構造材用途、防振材、制振材等のゴム用途など、広範囲な用途に使用できる。
【0053】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のポリマー(好ましくは本発明のポリエステル)を含有する。本明細書において、硬化性樹脂組成物は、本発明のポリマー(好ましくは本発明のポリエステル)を含有し、硬化可能な組成物であれば限定されない。硬化方式としても、特に限定されず、本発明の硬化性樹脂組成物としては、例えば、熱により硬化する熱硬化性樹脂組成物、エネルギー線により硬化するエネルギー線硬化性樹脂組成物、酸化重合により硬化する酸化重合型硬化性樹脂組成物、水分と化学反応して硬化する湿気硬化性樹脂組成物等が挙げられる。なかでも、熱硬化性樹脂組成物、酸化重合型硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0054】
本発明の硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の本発明のポリマー(好ましくは本発明のポリエステル)の含有量は、好ましくは20~99.99質量%、より好ましくは50~99.9質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
ここで、本発明のポリマーの含有量は、複数の本発明のポリマーを含有する場合は合計含有量を意味する。他の成分の含有量も同様である。
【0055】
本発明の硬化性樹脂組成物において、アルカリ金属の合計含有量(好ましくはナトリウム金属及びカリウム金属のいずれか一方または両方の合計含有量)は、好ましくは0.02~3,496.5質量ppm、より好ましくは0.1~3,496.5質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0056】
以下においては、前記硬化性樹脂組成物のうち、熱硬化性樹脂組成物、酸化重合型硬化性樹脂組成物について詳細を説明するが、前記硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物、酸化重合型硬化性樹脂組成物に限定されるものではない。
【0057】
<<熱硬化性樹脂組成物>>
本発明の熱硬化性樹脂組成物の一例としては、本発明のポリマー(好ましくはポリエステル)を含有する主剤と、硬化剤とを含む組成物が挙げられる。この組成物は、熱硬化性の硬化物全般に用いられ、焼付硬化の塗料、印刷インキ、成形品等の用途に適用できる。
【0058】
前記主剤は本発明のポリマー(好ましくはポリエステル)以外のその他樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、本発明のポリマー以外のその他のポリオール樹脂等が挙げられる。これらその他の樹脂を用いる場合には、主剤が含有する樹脂成分100質量%中、前記本発明のポリマー(好ましくはポリエステル)を20質量%以上用いることが好ましく、50質量%以上用いることがより好ましい。
【0059】
熱硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の主剤の含有量は、好ましくは20~99.9質量%、より好ましくは50~90質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0060】
熱硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の本発明のポリマー(好ましくは本発明のポリエステル)の含有量は、好ましくは20~99.9質量%、より好ましくは50~90質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0061】
前記硬化剤は、前記本発明のポリマー(好ましくはポリエステル)と硬化反応を生じ得る成分を含有していればよく、このような成分としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート樹脂、レゾール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。硬化剤の成分は硬化性樹脂組成物の用途や使用環境、所望の硬化物物性等に応じて適宜選択されるが、主剤として本発明のポリマー(好ましくは本発明のポリエステル)を用いる限り、いずれの硬化剤を用いた場合であっても、本発明の効果は充分に発揮される。なかでも、アミノ樹脂が好ましい。
【0062】
前記アミノ樹脂の具体例としては、例えば、メラミン、尿素及びベンゾグアナミンのうち少なくとも1種とホルムアルデヒド類とから合成されるメチロール化アミノ樹脂;前記メチロール化アミノ樹脂のメチロール基の一部又は全部をメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等の低級一価アルコールによって、アルキルエーテル化したもの等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、メラミンが好ましく、ブチル化メラミンがより好ましい。
【0063】
熱硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の硬化剤の含有量は、好ましくは0.1~80質量%、より好ましくは1~50質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0064】
熱硬化性樹脂組成物は、硬化触媒(酸硬化触媒)を含有してもよい。
前記硬化触媒としては、例えば、p-トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸化合物や、これらの中和塩などの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、ドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0065】
熱硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の硬化触媒の含有量は、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0066】
<<酸化重合型硬化性樹脂組成物>>
本発明の酸化重合型硬化性樹脂組成物の一例としては、本発明のポリマー(好ましくはポリエステル)と、硬化促進剤とを含む組成物が挙げられる。この組成物は、酸化重合型の硬化物全般に用いられ、酸化重合性の塗料、印刷インキ、成形品等の用途に適用できる。
【0067】
酸化重合型硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の本発明のポリマー(好ましくはポリエステル)の含有量は、好ましくは20~99.99質量%、より好ましくは50~99.9質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0068】
前記硬化促進剤(ドライヤー)としては、コバルト、マンガン、鉄等の複数の価数を取り得る重金属と2-エチルヘキサン酸(オクチル酸)、ネオデカン酸などの種々のカルボン酸との金属塩(金属石鹸)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、コバルト塩が好ましく、2-エチルヘキサン酸コバルトがより好ましい。
【0069】
酸化重合型硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の硬化促進剤の含有量は、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0070】
酸化重合型硬化性樹脂組成物は、硬化促進助剤(補助ドライヤー)を含有してもよい。硬化促進助剤(補助ドライヤー)としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属;及びジルコニウム、鉛等の重金属;からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、2-エチルヘキサン酸(オクチル酸)、ネオデカン酸等の種々のカルボン酸との金属塩(金属石鹸)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0071】
本発明では、硬化促進助剤の含有量を低減しても乾燥時間を遅延させることなく維持できる。酸化重合型硬化性樹脂組成物において、組成物100質量%中の硬化促進助剤の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。
【0072】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記成分に加えて、顔料、顔料分散剤、マッティング剤、レベリング剤、乾燥抑制剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、有機溶剤等を含有してもよい。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら各成分の配合割合や、配合物の種類は硬化性樹脂組成物の用途や所望の性能によって適宜調整される。本発明の硬化性樹脂組成物は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。本発明の硬化性樹脂組成物が二液型である場合、前記各種の添加剤は、主剤又は硬化剤のどちらか一方又は両方に添加することができる。
【0073】
<塗料>
本発明の塗料は、本発明の硬化性樹脂組成物を少なくとも含有し、顔料等のその他任意成分を適宜含有してもよい。本発明の硬化性樹脂組成物の中でも、上述の熱硬化性樹脂組成物は、焼付塗料等として使用でき、上述の酸化重合型硬化性樹脂組成物は、酸化重合型塗料等として使用できる。
本発明の塗料を製造する方法は、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物及びその他任意成分をホモディスパー等の各種のミキサーで混合する方法が挙げられる。
【0074】
本発明の塗料は常法により被塗物に塗布、乾燥・硬化させることにより塗膜を得ることができる。ここで、本発明の塗料を塗工することが可能な基材(被塗物)としては、例えば、鉄鋼、プラスチック、木材、コンクリート等が挙げられる。本発明の塗装(塗膜)は、例えば、家電や自動車部品、建材等の各種金属、プラスチック部品、金属成型品用のプレコートメタルや、製缶用途、家具などの木工品、床、壁などのコンクリート材等、幅広い用途に用いることができる。
【0075】
なお、本明細書において「~」の表記は、「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。また、本明細書において、ある特性などについて、複数の数値範囲が「~」の表記により開示されている場合、各数値範囲の上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。例えば、ある化合物の含有量について、0.001~500質量ppm、0.05~250質量ppmの2つの数値範囲が開示されている場合、0.001~500質量ppm、0.05~250質量ppm以外にも、0.001~250質量ppm、0.05~500質量ppmの数値範囲も開示されていることを意味する。
【実施例
【0076】
以下、実施例と比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1:1,6-ヘキサンジオール組成物1(1,6-HD組成物1)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが500質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更にグリセリン800質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物1を得た。
【0078】
(実施例2:1,6-ヘキサンジオール組成物2(1,6-HD組成物2)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、ナトリウムが995質量ppmになるように酢酸ナトリウムを添加し、更にグリセリン300質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物2を得た。
【0079】
(実施例3:1,6-ヘキサンジオール組成物3(1,6-HD組成物3)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが998質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更にグリセリン1,900質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物3を得た。
【0080】
(実施例4:1,6-ヘキサンジオール組成物4(1,6-HD組成物4)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが998質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更に3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール1,900質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物4を得た。
【0081】
(実施例5:1,6-ヘキサンジオール組成物5(1,6-HD組成物5)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが998質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更にペンタエリスリトール1,900質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物5を得た。
【0082】
(製造例1)(遺伝子組み換え大腸菌の作成)
シトロバクター・フレウンディ(Citrobacter freundii)由来のグリセロールデヒドラターゼα、β、γサブユニット遺伝子、及びデヒドラターゼ再活性因子遺伝子をpACYC184(ニッポンジーン社)のBamHI、HindIII制限酵素切断サイト間に導入したプラスミドAを作成した。
4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸アルドラーゼとしてエシェリヒア・コリ由来のHpaI遺伝子、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸4-デヒドラターゼとしてエシェリヒア・コリ由来のHpcG遺伝子、6-ヒドロキシ-3,4-デヒドロ-2-オキソヘキサン酸3-レダクターゼとしてシロイヌナズナ(アラビドプシス・タリアナ)由来のNADPH-dependent oxidoreductase 2-alkenal reductase(GenBank:CAC01710.1)遺伝子、6-ヒドロキシ-2-オキソヘキサン酸2-レダクターゼとしてラクトコッカス・ラクティスのPanE遺伝子、2,6-ジヒドロキシ-ヘキサン酸CoA-トランスフェラーゼかつ6-ヒドロキシヘキサノイル-CoA-トランスフェラーゼとしてクロストリジウム・ディフィシル由来のHadA遺伝子をpUC19(ニッポンジーン社)のマルチクローニングサイト(MCS)のBamHI、EcoRI制限酵素切断サイト間に導入したプラスミドBを作成した。
2-ヒドロキシイソカプロイル-CoAデヒドラターゼのα、βサブユニット遺伝子としてクロストリジウム・ディフィシル由来のHadB、HadC遺伝子、2-ヒドロキシイソカプロイル-CoAデヒドラターゼ活性化酵素としてクロストリジウム・ディフィシル由来のHadI遺伝子、6-ヒドロキシ-2,3-デヒドロ-ヘキサノイル-CoA2,3-レダクターゼとしてトレポネーマ・デンティコラ由来のtrans-2-enoyl-CoA reductase(GenBank: AE017248)遺伝子、6-ヒドロキシヘキサン酸1-レダクターゼとしてノカルジア・イオウェンシス由来のカルボン酸還元酵素(GenBank:AAR91681.1)遺伝子、6-ヒドロキシヘキサナール1-レダクターゼとしてロドコッカス属由来の6-ヒドロキシヘキサン酸デヒドロゲナーゼ(GenBank:AAN37489.1)遺伝子をpCOLADuet-1(Novagen社)にHadB、HadC、HadI遺伝子をMCS1にそれ以外の遺伝子をMCS2に導入したプラスミドCを作成した。
本項における遺伝子とは各酵素をコードする終止コドンを含んだオープンリーディングフレームを指し、各遺伝子はその上流にT7プロモーターとリボソーム結合サイトを含んだ配列を、下流にT7ターミネーターを含んだ配列が存在するような様態でそれぞれプラスミドに導入される。各遺伝子は適切な発現誘導によってT7RNAポリメーラーゼが発現するようなホスト株のエシェリヒア・コリ内で大量発現されることができる。
プラスミドA, B, Cを順次ケミカルコンピテントセル化したBL21 Star(DE3)(Invitrogen社)にヒートショック法によって形質転換させ、適当な抗生物質を含んだLBプレート上で選抜した。その結果、プラスミドA, B, Cを全て含んだBL21 Star(DE3)株を取得した。
これにより、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸アルドラーゼ(特許6680671号公報の図中の2A)、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸4-デヒドラターゼ(特許6680671号公報の図中の2B)、6-ヒドロキシ-3,4-デヒドロ-2-オキソヘキサン酸3-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の2C)、6-ヒドロキシ-2-オキソヘキサン酸2-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の2D)、2,6-ジヒドロキシ-ヘキサン酸CoA-トランスフェラーゼ(特許6680671号公報の図中の2E)、2,6-ジヒドロキシ-ヘキサノイル-CoA2-デヒドラターゼ(特許6680671号公報の図中の2F)、6-ヒドロキシ-2,3-デヒドロ-ヘキサノイル-CoA2,3-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の2G)、6-ヒドロキシヘキサノイル-CoA-トランスフェラーゼ(特許6680671号公報の図中の4F3)、6-ヒドロキシヘキサン酸1-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の5R)、及び6-ヒドロキシヘキサナール1-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の5S)からなる1,6-ヘキサンジオール経路の10酵素をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリを作成した。
【0083】
(実施例6:1,6-ヘキサンジオール組成物6(1,6-HD組成物6)の調製)
オートクレーブ滅菌した培地(炭素源:グルコース、グリセリン、窒素源:酵素抽出物、無機塩類:リン酸カリウム、水酸化カリウム、ビタミンB12、抗生物質:カルベニシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、pH:7.0、前記成分の中で、グルコース、グリセリンがバイオマス資源由来の原料である)に前記エシェリヒア・コリを植菌し、30℃で2~3時間、好気性条件下で培養を行った。その後、エシェリヒア・コリの600nmにおける光学密度が0.3~0.6となったところでイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを終濃度0.5mM、硫酸鉄(II)を終濃度10μMとなるように加え、更に30℃で3時間培養を行い、1,6-HD経路の酵素を発現させた。発現後、炭素源(グルコース、グリセリン)を適当量加え、培養器内を窒素雰囲気下とすることで嫌気性条件下とした。この条件下で30℃、48時間培養を行い、1,6-ヘキサンジオールを生産させた。培養液を、4℃、20分間遠心を行い、上清を回収後、適当なポアサイズが0.2~0.4μmのメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、ろ液として1,6-ヘキサンジオール組成物を得た。
【0084】
〔1,6-ヘキサンジオール組成物の精製〕
<工程(a):陽イオンを除去するイオン交換>
1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれる陽イオンを除去した。工程(a)はバッチ式にて陽イオン交換を行った。陽イオン交換樹脂と接触させる温度は40℃に設定し、1,6-ヘキサンジオール組成物中に、陽イオン交換樹脂として三菱ケミカル社製DIAION SK1BHを加え、1時間撹拌させた。撹拌後、濾過を行い、ろ液として1,6-ヘキサンジオール組成物Aを得た。
<工程(b):陰イオンを除去するイオン交換>
1,6-ヘキサンジオール組成物A中に含まれる陰イオンを除去した。工程(b)はバッチ式にて陰イオン交換を行った。陰イオン交換樹脂と接触させる温度は40℃に設定し、1,6-ヘキサンジオール組成物中に、陰イオン交換樹脂として三菱ケミカル社製DIAION SA10AOHを加え、3時間撹拌させた。撹拌後、濾過を行い、ろ液として1,6-ヘキサンジオール組成物Bを得た。
【0085】
<工程(c):水を除去する工程>
1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれる水を除去した。工程(c)の装置として、薄膜式蒸留器を使用した。ジャケット温度を70℃に設定し、1,6-ヘキサンジオール含有組成物を連続的に導入し、頂部から水分を留出させた。水分の留出と同時に、底部から脱水された1,6-ヘキサンジオール組成物Cを缶出液として連続的に抜き出した。この1,6-ヘキサンジオール組成物C中の水分濃度は0.020質量%(200質量ppm)であった。
【0086】
<工程(d):低沸点成分の蒸留分離>
1,6-ヘキサンジオール組成物Cに含まれる1,6-ヘキサンジオールよりも低沸点の成分を連続蒸留塔で除去した。工程(d)の蒸留塔として、オルダーショウ蒸留塔を使用した。工程(c)で得られた1,6-ヘキサンジオール組成物Cを蒸留塔に連続的に供給して、塔頂温度を240℃の一定の温度に制御した。塔頂部から連続留出を行い、塔底から連続抜き出しを行い、1,6-ヘキサンジオール組成物C中の低沸点成分の除去を行い、塔底から1,6-ヘキサンジオールよりも低沸点の成分を除去した1,6-ヘキサンジオール組成物Dを取り出した。
【0087】
<工程(e):高沸点成分の蒸留分離>
1,6-ヘキサンジオール組成物D中に含まれる1,6-ヘキサンジオールよりも高沸点の成分を連続蒸留塔で除去した。工程(e)の蒸留塔として、オルダーショウ蒸留塔を使用した。工程(d)で得られた1,6-ヘキサンジオール組成物Dを蒸留塔に連続的に供給して、塔底温度を260℃で一定となるように制御した。塔底から連続抜き出しを行い、1,6-ヘキサンジオール組成物D中の高沸点成分の除去を行った。塔頂から1,6-ヘキサンジオールよりも高沸点の成分を除去した1,6-ヘキサンジオール組成物E(1,6-HD組成物 6)を得た(塔頂留出液)。
【0088】
得られた1,6-HD組成物 6の分析結果を以下に示した。なお、グリセリンの含有量はGC分析、カリウム金属元素及びナトリウム金属元素の含有量はICP-MS分析にて測定した。
グリセリン:800質量ppm
カリウム金属元素:3,080質量ppm
ナトリウム金属元素:1,890質量ppm
GC分析詳細
・装置:Agilent 社製GC-MS (GC7890B/MSD5977B)
・カラム:Agilent J&W GC Column-DB-1
・キャリアガス:He
・流速: 0.966mL/min
・線速度: 99.5cm/sec
・注入量: 1μL
・スプリット比: 50
・カラム温度: 75℃(hold: 2min)―10℃/min(昇温速度、22.5min) ―300℃(Hold: 5.5min)
・検出器:FID
【0089】
(比較例1:1,6-ヘキサンジオール組成物7(1,6-HD組成物7)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールそのものを、1,6-ヘキサンジオール組成物7とした。
【0090】
(比較例2:1,6-ヘキサンジオール組成物8(1,6-HD組成物8)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、グリセリン800質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物8を得た。
【0091】
(比較例3:1,6-ヘキサンジオール組成物9(1,6-HD組成物9)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppmであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、ナトリウム元素が3,500質量ppmになるように酢酸ナトリウムを添加、更にカリウム元素が3,500質量ppmになるように酢酸カリウムを添加、更にグリセリン800質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物9を得た。
【0092】
前記実施例、比較例により得られた1,6-ヘキサンジオール組成物の分析結果を表1および2に示した。
また、表1および2において、カリウム金属元素、ナトリウム金属元素の検出限界はそれぞれ0.003質量ppm、三価又は四価のアルコールの検出限界は1質量ppmであった。表1および2において、1,6-ヘキサンジオール組成物中に酢酸カリウムを添加したものを○、添加していないものを-とした。酢酸ナトリウム、グリセリン、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ペンタエリスリトールについても同様である。また、表中「アルコール」とあるのは三価又は四価のアルコールを指し、本実施例ではグリセリン、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール又はペンタエリスリトールの含有量を記載する。


































【0093】
【表1】









【0094】
【表2】
















【0095】
<ポリエステル合成例>
(ポリエステル樹脂(A-1)の合成)
攪拌棒、温度センサー、精留管を有するフラスコに、1,6-HD組成物 1 276.9質量部、ネオペンチルグリコール67.2質量部、トリメチロールプロパン124.5質量部、無水フタル酸500.4質量部、大豆油脂肪酸415.4質量部を仕込み、乾燥窒素をフラスコ内にフローさせ攪拌しながら210~230℃に加熱し、脱水縮合反応を行った。酸価が8.0mgKOH/gとなったところで反応を停止し、150℃まで冷却後、キシレンを滴下して固形分60質量%に希釈して、ポリエステル樹脂A-1溶液を得た。得られたポリエステル樹脂A-1の重量平均分子量(Mw)は19,300、水酸基価は30mgKOH/g、酸価は8.0mgKOH/gであった。
(ポリエステル樹脂A-2~9の合成)
1,6-HD組成物 2~9に関しても同様の手法でポリエステル樹脂A-2~9を合成した。
【0096】
前記実施例、比較例により得られたポリエステルの分析結果を表3及び表4に示した。なお、ポリエステルの酸価、水酸基価はJIS K 0070-1992に準拠して測定した。
【0097】
【表3】













【0098】
【表4】

【0099】
<焼付(アミノ樹脂硬化)塗料の作成と物性評価>
前記ポリエステルA-1 300質量部、硬化剤のアミノ樹脂としてブチル化メラミンAMIDIR L-117-60 75質量部、硬化触媒としてNACURE 5225(ドデシルベンゼンスルホン酸) 0.75質量部を配合し、焼付塗料A-1サンプルを調製した。前記ポリエステルをA-2~A-9に変更した以外は同様にして、焼付塗料A-2~A-9サンプルを調製した。
各焼付塗料サンプルに関して、50℃でのゲル化までの時間(ポットライフ)を測定、また、SPCC鋼板上にバーコーターで塗装、150℃×20分で硬化を行い、塗膜の鉛筆硬度をJIS K5600-5-4-1999に準じて測定した。評価結果を表5及び表6に示した。
【0100】
【表5】





【0101】
【表6】
【0102】
表5及び表6より、アルカリ金属の合計含有量が5,000質量ppmを超える1,6-ヘキサンジオール組成物を用いたポリエステルを使用した比較例3では、塗膜の硬度が6B以下と硬化しなかった。また、アルカリ金属元素の合計含有量が1質量ppm未満の1,6-ヘキサンジオール組成物を用いたポリエステルを使用した比較例1、2では、ポットライフを充分に延長できなかった。一方、アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmである1,6-ヘキサンジオール組成物を用いたポリエステルを使用した実施例では、硬化不良を起こすことなくポットライフを延長できることが分かった。
【0103】
<酸化重合型(ドライヤー硬化)塗料の作成と物性評価>
上記ポリエステルA-1 300質量部にコバルトドライヤー(DICNATE Co-OCTOATE 12%)を下記表にある質量部配合し、酸化重合型塗料A-1サンプルを調製した。前記ポリエステルA-1をA-2~A-8に変更した以外は同様にして、酸化重合型塗料A-2~A-7サンプルを調製した。
比較例1の酸化重合型塗料サンプルA-7-1に対して、硬化促進助剤(補助ドライヤー)として、カリウムドライヤー(DICNATE K-OCTOATE 17%)を配合したもの(比較例1-2)も用意した。
調製した塗料用組成物に関して、SPCC鋼板上にバーコーターで塗装し、乾燥時間(タックフリーとなるまでの時間)、室温1日乾燥後の塗膜の鉛筆硬度をJIS K5600-5-4-1999に準じて測定した。評価結果を表7及び表8に示した。
















【0104】
【表7】
【0105】
【表8】

【0106】
表7及び表8より、アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmである1,6-ヘキサンジオール組成物を用いたポリエステルを使用した実施例では、硬化促進助剤(補助ドライヤー)を配合しなくとも、硬化促進助剤(補助ドライヤー)を配合した石油化学品の1,6-HD組成物を用いた系(比較例1-2)と同様に短時間で硬化(乾燥時間(タックフリー)2時間程度、硬化後の鉛筆硬度3B程度)できることが分かった。
一方、アルカリ金属元素の合計含有量が1質量ppm未満の1,6-ヘキサンジオール組成物を用いたポリエステルを使用した比較例1および2では、硬化促進助剤(補助ドライヤー)を配合した石油化学品の1,6-HD組成物を用いた系(比較例1-2)や、アルカリ金属の合計含有量が1~5,000質量ppmである1,6-ヘキサンジオール組成物を用いたポリエステルを使用した実施例よりも硬化(乾燥)時間が長くなった。
【0107】
本明細書の実施例において、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
測定装置;東ソー株式会社製HLC-8320GPC
カラム;東ソー株式会社製TSKgel4000HXL、TSKgel3000HXL、TSKgel2000HXL、TSKgel1000HXLを直列に接続して使用した。
検出器;RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製マルチステーションGPC-8020modelII
測定条件;カラム温度40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 0.1ml/分
標準;単分散ポリスチレン
試料;樹脂固形分換算で0.2%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【要約】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物においては、硬化不良を起こすことなくポットライフを延長でき、酸化重合型硬化性樹脂組成物においては、硬化促進助剤を配合しなくとも、又は、配合量を減らしても、硬化(乾燥)時間を遅延させることなく維持できる1,6-ヘキサンジオール組成物、これを用いたポリマー、硬化性樹脂組成物及び塗料を提供することを目的とする。また本発明は、 1,6-ヘキサンジオール及び1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方又は両方、及びアルカリ金属元素を含有し、組成物の総量に対する前記アルカリ金属元素の合計含有量が1~5,000質量ppmの範囲である1,6-ヘキサンジオール組成物に関する。