(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】無線通信システム、管理サーバ、及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 36/14 20090101AFI20240501BHJP
H04W 48/16 20090101ALI20240501BHJP
H04W 76/19 20180101ALI20240501BHJP
H04W 84/00 20090101ALI20240501BHJP
H04W 84/18 20090101ALI20240501BHJP
【FI】
H04W36/14
H04W48/16 133
H04W76/19
H04W84/00 110
H04W84/18 110
(21)【出願番号】P 2020180567
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】玉置 真也
(72)【発明者】
【氏名】岩城 亜弥子
(72)【発明者】
【氏名】南 勝也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 友宏
(72)【発明者】
【氏名】久保 亮吾
【審査官】谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002404(WO,A1)
【文献】特開2019-033409(JP,A)
【文献】国際公開第2015/193956(WO,A1)
【文献】福永 慧,都市環境におけるUAV空中基地局群を用いた代替ネットワークの性能向上に関する検討,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2019)シンポジウム論文集 情報処理学会シンポジウムシリーズ,日本,一般社団法人情報処理学会,2019年,Vol.2019 No.1,pp.297-305
【文献】西岡 哲朗 他,モバイルデータオフローディングプロトコル(MDOP)の提案,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2014)シンポジウム論文集 情報処理学会シンポジウムシリーズ ,日本,一般社団法人情報処理学会,2014年,Vol.2014 No.1,pp.613-620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理サーバ、移動型アクセスポイント、及び無線アクセスポイントを備える無線通信システムであって、
管理サーバは、
無線端末と接続していた1つの前記無線アクセスポイントが停止したときに、
前記移動型アクセスポイントを介して前記無線端末からデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホックモードを選択すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホックモードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること、及び
選択したモードの情報を前記移動型アクセスポイントと他の前記無線アクセスポイントに送信すること、
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
移動型アクセスポイント、及び無線アクセスポイントを備える無線通信システムを管理する管理サーバであって、
無線端末と接続していた1つの前記無線アクセスポイントが停止したときに、
前記移動型アクセスポイントを介して前記無線端末からデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホックモードを選択すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホックモードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること、及び
選択したモードの情報を前記移動型アクセスポイントと他の前記無線アクセスポイントに送信すること、
を特徴とする管理サーバ。
【請求項3】
管理サーバ、移動型アクセスポイント、及び無線アクセスポイントを備える無線通信システムの通信方法であって、
無線端末と接続していた1つの前記無線アクセスポイントが停止したときに、
前記管理サーバが、
前記移動型アクセスポイントを介して前記無線端末からデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホックモードを選択すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホックモードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること、及び
選択したモードの情報を前記移動型アクセスポイントと他の前記無線アクセスポイントに送信すること、
を特徴とする通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線通信システムの通信方式切替技術に関する。
【背景技術】
【0002】
災害時に一部の無線基地局設備が使用不可能となった場合、移動型無線基地局を一時的に配備して中継を行うことが有効である。移動型無線基地局を用いて無線アドホックネットワーク(MANET:Mobile Ad-hoc Network)を構成することで、通信経路を確保する手法がある(例えば、非特許文献1を参照。)。また、移動型無線基地局を用いて蓄積転送型通信を行うDTN(Delay Tolerant Network)を構成する手法がある(例えば、非特許文献2を参照。)。さらに、MANETとDTNは移動型無線基地局の数量、移動加速度、バッテリ残量により転送時間の大小が変化するため、これらを考慮してMANETモードとDTNモードを切り替える通信方式切替アルゴリズムが提案されている(例えば、非特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Miranda, A. Molinaro, and T. Razafindralambo“A Survey on Rapidly Deployable Solutions for Post-Disaster Networks,” IEEE Communications Magazine, vol. 54, no. 4, pp. 117-123, April 2016.
【文献】Y. Shibata and N Uchida, “Delay Tolerant Network for Disaster Information Transmission in Challenged Network Environment,” IEICE Transactions on Communications, vol. E100-B, no. 1, pp. 11-16, January 2017.
【文献】H. Nishiyama, M. Ito, and N Kato, “Relay-by-Smartphone: Realizing Multihop Device-to-Device Communications,” IEEE Communications Magazine, vol. 52, no. 4, pp. 56-65, April 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献3で開示される技術は、各モードの転送時間を考慮せず、移動型無線基地局の数量、移動加速度、バッテリ残量に基づいた経験的なしきい値判定のみでMANETモードとDTNモードとを切り替えている。このため、非特許文献3で開示される技術には、データ転送時間を最小化するモードを選択することが困難という課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、移動型無線基地局を用いた中継ネットワークにおいてデータ転送時間を最小化するようにアドホックモードとDTNモードを切り替えることのできる無線通信システム、管理サーバ、及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る無線通信システムは、アドホックモードおよびDTNモードにおけるデータ転送時間を推定し、比較することとした。
【0007】
具体的には、本発明に係る無線通信システムは、管理サーバ、移動型アクセスポイント、及び無線アクセスポイントを備え、
管理サーバは、
無線端末と接続していた1つの前記無線アクセスポイントが停止したときに、
前記移動型アクセスポイントを介して前記無線端末からデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホックモードを選択すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホックモードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること、及び
選択したモードの情報を前記移動型アクセスポイントと他の前記無線アクセスポイントに送信すること、
を特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る管理サーバは、前記無線通信システムが備える管理サーバである。
【0009】
さらに、本発明に係る通信方法は、前記無線通信システムの通信方法であって、
無線端末と接続していた1つの前記無線アクセスポイントが停止したときに、
管理サーバが、
前記移動型アクセスポイントを介して前記無線端末からデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホックモードを選択すること、
前記無線端末のユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホックモードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること、及び
選択したモードの情報を前記移動型アクセスポイントと他の前記無線アクセスポイントに送信すること、
を特徴とする。
【0010】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、移動型無線基地局を用いた中継ネットワークにおいてデータ転送時間を最小化するようにアドホックモードとDTNモードを切り替えることのできる無線通信システム、管理サーバ、及び通信方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】本発明に係る無線通信システムを説明する図である。
【
図5】本発明に係る無線通信システムの動作を説明する図である。
【
図6】本発明に係る無線通信システムの動作を説明する図である。
【
図7】本発明に係る無線通信システムの無線端末の機能を説明するブロック図である。
【
図8】本発明に係る無線通信システムの無線アクセスポイントの機能を説明するブロック図である。
【
図9】本発明に係る無線通信システムの移動型アクセスポイントの機能を説明するブロック図である。
【
図10】本発明に係る無線通信システムの管理サーバの機能を説明するブロック図である。
【
図11】本発明に係る通信方法を説明するフローチャートである。
【
図12】本発明に係る通信方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
[本発明に関連する技術]
図1は、本発明の課題を説明する図である。無線アクセスポイント(AP1、AP2)及び無線端末UEからなる無線通信システム10を考える。通常運用時には無線アクセスポイントAP1と無線アクセスポイントAP2との間で無線通信を行っていないため、無線アクセスポイントAP1の通信範囲に無線アクセスポイントAP2が存在する必要はない。ただし、無線アクセスポイントAP1と無線アクセスポイントAP2とは有線等の別ネットワークで上位装置に接続され、相互間で情報の送受が可能である。無線端末UEは自身の通信範囲A
UEにある無線アクセスポイントAP1と通信していたとする。ここで、何らかの事情により無線アクセスポイントAP1が故障し、サービス断が発生したとする。無線アクセスポイントAP1の近傍には通信範囲A
2の無線アクセスポイントAP2があるが、無線端末UEはその通信範囲A
2に含まれておらず、無線アクセスポイントAP2と通信することはできない。このような状況が発生した場合、通信範囲A
moを持つ移動型アクセスポイントAPmoを用いて中継を行い、無線サービスを継続する。
【0015】
図2は、中継手法の一つであるMANETモードを説明する図である。移動型アクセスポイントAPmoが無線端末UEと無線アクセスポイントAP2の両方と通信可能な位置に移動し、無線アドホックネットワーク(MANET)を構成する。無線端末UEは無線リンクRL1で、無線アクセスポイントAP2は無線リンクRL2で移動型アクセスポイントAPmoと通信を行うことができる。このため、無線端末UEは移動型アクセスポイントAPmo及び無線アクセスポイントAP2を介して無線サービスを継続することができる。MANETモードでは、エンドツーエンド(無線端末UEと無線アクセスポイントAP2)のパスを確保して特定の端末に情報を転送する。
【0016】
無線端末UEと無線アクセスポイントAP2との間のスループットは、無線リンクRE1および無線リンクRE2の通信方式、無線品質、及び距離等に依存して決まる。例えば、無線端末UEがデータ量Bの情報を送信すると仮定し、無線リンクの全体のスループットをT1とすると、データを転送するためにB/T1だけの時間が必要となる。
【0017】
図3は、他の中継手法であるDTNモードを説明する図である。上り通信の場合、まず、移動型アクセスポイントAPが無線端末UEの近傍へ移動し、無線端末UEからデータを受信する。移動型アクセスポイントAPは当該データを蓄積するためのバッファBufを有している。次に、移動型アクセスポイントAPは、無線アクセスポイントAP2の近傍へ移動し、バッファBufから当該データを送信する。送信が終了後、下り通信を開始する。まず、移動型アクセスポイントAPは、無線アクセスポイントAP2からデータを受信してバッファBufに蓄積する。次に、移動型アクセスポイントAPは、無線端末UE近傍へ移動し、バッファBufから無線端末UEに当該データを送信する。DTNモードでは、エンドツーエンドのパスを確保せずに移動型アクセスポイントAP近傍の無線端末UEに情報を転送する。このとき、移動型アクセスポイントAP近傍に複数の無線端末UEが存在する場合は、全ての無線端末UEに情報を転送してもよいし、一部の無線端末UEのみに情報を転送してもよい。
【0018】
無線端末UEと無線アクセスポイントAP2との間のスループットは、無線リンクRL1および無線リンクRL2の通信方式、無線品質、及び距離等と移動型アクセスポイントAPの移動時間に依存して決まる。例えば、無線端末UEがデータ量Bの情報を送信し、移動型アクセスポイントAPがB以上のデータ量を蓄積するバッファBufを有していると仮定し、無線リンクRL1のスループットをT21、無線リンクRL2のスループットをT22、移動型アクセスポイントAPの移動時間をDとすると、データを転送するためにB/T21+D+B/T22だけの時間が必要となる。
【0019】
無線通信システム10は、無線端末UEの数、無線端末UEの移動加速度、移動型アクセスポイントAPのバッテリ残量、及びその他の状況に応じてMANETモードとDTNモードを切り替えて運用する。
【0020】
[課題]
MANETモードの場合、移動型アクセスポイントAPの位置や無線環境の変化によっては、無線リンク全体のスループットが低くなる可能性があり、大容量のデータを転送するために長い時間がかかる。一方,DTNモードの場合、地上車両や無人航空機などの移動型アクセスポイントAPが長距離を移動する場合に転送時間が長くなる。また、移動が物理的に不可能な場合はデータを転送することができない。また、両モードを切り替える運用の場合であっても、従来技術のように移動型アクセスポイントAPがランダム移動すれば、移動型アクセスポイントAPはいずれのモードにおいても目的ノードにデータを転送することを保証できない。
【0021】
[本発明の趣旨]
以下の実施形態で説明する無線通信システム11は、送信予定のデータ量、リアルタイム性の要否(デッドラインを守る必要のあるトラヒックの有無)、無線リンクのスループット、移動型アクセスポイントAPの移動時間、及びその他の状況を考慮した上で、移動型アクセスポイントAPをMANETとDTNの2つのモードを切り替えて動作させることとした。前記状況を考慮することで、前述した本発明に関連する技術より短時間でデータを転送が可能となる。また、無線通信システム11は、従来技術ではランダムに移動していた移動型アクセスポイントAPをあらかじめ決められた経路で移動させ、移動型アクセスポイントAPのランダム移動に起因する通信路形成の不確実性を回避する。
【0022】
[実施形態1]
図4は、本発明の実施形態である無線通信システム11を説明する図である。無線通信システム11は、
図1から
図3の無線通信システム10に対し、管理サーバ15をさらに備える。
管理サーバ15は、
無線端末UEと接続していた無線アクセスポイントAP1が停止したときに、
移動型アクセスポイントAPmoを介して無線端末UEからデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること、
無線端末UEのユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホック(MANET)モードを選択すること、
無線端末UEのユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホック(MANET)モードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること、及び
選択したモードの情報を移動型アクセスポイントAPmoと無線アクセスポイントAP2に送信すること、
を特徴とする。
【0023】
管理サーバ15は、サービス断した無線アクセスポイントAP1から管理情報を移動型アクセスポイントAPmoに引き継がせる。前記管理情報は、AP情報(アクセスポイントAP1の識別子、パスワード、及び位置)と端末情報(無線端末UEの端末識別子、QoS(Quality of Service)識別子)を含む。
【0024】
移動型アクセスポイントAPmo、無線アクセスポイントAP2、及び無線端末UEはアドホックモードおよびDTNモードに対応する。管理サーバ15は、移動型アクセスポイントAPmoと無線端末UEおよび移動型アクセスポイントAPmoと無線アクセスポイントAP2との通信においてアドホックモードまたはDTNモードの2つの通信モードを切り替える。
【0025】
図5及び
図6は、無線通信システム11の動作を説明する図である。
図5は、無線アクセスポイントAP1が稼働しているとき(無線端末UEが無線アクセスポイントAP1を介してサービスを継続しているとき)の状態を説明する図である。無線端末UEは、無線アクセスポイントAP1を介してインターネット1と通信している。ここで、無線アクセスポイントAP1は無線端末UEの端末情報を取得している。そして、管理サーバ15は、無線アクセスポイントAP1および無線アクセスポイントAP2の管理情報を取得している。
【0026】
図6は、移動型アクセスポイントAPmoが稼働しているとき(無線端末UEが移動型アクセスポイントAPmoと無線アクセスポイントAP2を介してサービスを継続しているとき)の状態を説明する図である。無線端末UEは、移動型アクセスポイントAPmoと無線アクセスポイントAP2を介してインターネット1と通信している。無線アクセスポイントAP1のサービス断が発生した場合に移動型アクセスポイントAPの位置制御および通信モード切替を行う。以下にモード切替動作の詳細を説明する。
【0027】
図7は、無線端末UEの機能を説明するブロック図である。無線端末UEは、受信部21、送信部22、通信制御部23、及び端末/キュー管理部24を備える。なお、本図では制御系の信号の流れについて記載しており、ユーザデータの流れを記載していない。
【0028】
端末/キュー管理部24は、端末識別子等の端末情報およびユーザデータトラヒックが流通するキューを管理する。
送信部22は、通信可能な無線アクセスポイントに対して端末情報を送信する。また、送信部22は、デッドラインを守る必要のあるトラヒックが存在する場合はその旨をQoS識別子として前記端末情報に含めて送信する。
通信制御部23は、通信可能な無線アクセスポイントを任意に選択して送受信を開始する。無線アクセスポイントの選択および通信方式の選択はユーザが手動で行っても構わないし、無線端末UEが自動で行っても構わない。自動で行う場合は、例えば、電界強度等の無線品質の良い無線アクセスポイントを優先的に選択することができる。ユーザデータは接続した無線アクセスポイントを介してインターネットとやり取りされる。
接続している無線アクセスポイントAP1が通信不能となり、その代替となる移動型アクセスポイントAPmoが出現した場合、無線端末UEは無線アクセスポイントAP1のAP識別子およびパスワードを引き継いだ移動型アクセスポイントAPmoに接続する。送信部22は、残りデータ転送量であるデータ量情報を移動型アクセスポイントAPmoへ送信する。受信部21は、移動型アクセスポイントAPmoからアドホックモードとDTNモードのどちらの通信モードを選択しているかを示すモード情報を受け取る。通信制御部23は、当該モード情報に指定された通信モードで移動型アクセスポイントAPmoに接続する。
【0029】
図8は、無線アクセスポイント(AP1、AP2)の機能を説明するブロック図である。無線アクセスポイント(AP1、AP2)は、第1受信部31、第1送信部32、通信制御部33、端末情報管理部34、AP情報管理部35、第2受信部36、及び第2送信部37を備える。なお、本図では制御系の信号の流れについて記載しており、ユーザデータの流れを記載していない。
【0030】
第1受信部31は、無線端末UEから端末識別子等の端末情報を受信し、端末情報管理部34に保存する。
第2送信部36は、AP情報管理部35に保存されているAP識別子、パスワード、位置等のAP情報および端末情報管理部34が保持する端末情報を管理情報として管理サーバ15へ送信する。
無線端末UEによって選択された無線アクセスポイントAPの通信制御部33は、第1送信部32を介して当該無線端末UEとの通信を開始する。
第2送信部36は、AP情報管理部35から定期的に管理サーバ15にKeep Aliveメッセージを送信することで、管理サーバ15に稼働中であることを認識させる。Keep Aliveメッセージの送信間隔は制御トラヒックの増加を抑えるために1 秒以上であることが望ましい。
無線アクセスポイントAP1が停止した場合、無線アクセスポイントAP1の稼働時通信範囲に存在する無線アクセスポイントAP2の第2受信部37は、管理サーバ15から、無線アクセスポイントAP1の保持していた管理情報および移動型アクセスポイントAPmoの通信モードであるモード情報を受け取る。無線アクセスポイントAP2は、移動型アクセスポイントAPmoが無線アクセスポイントAP2の通信範囲A2に入った後、指定された通信モードで移動型アクセスポイントAPmoに接続する。ユーザデータは無線端末UEが接続した移動型アクセスポイントAPmoおよび無線アクセスポイントAP2を介してインターネット1とやり取りされる。
【0031】
図9は、移動型アクセスポイントAPmoの機能を説明するブロック図である。無線アクセスポイントAPmoは、第1受信部41、第1送信部42、通信制御部43、端末情報管理部44、AP情報管理部45、第2受信部46、第2送信部47、品質管理部48、位置制御部49、及び第3送受信部42bを備える。なお、本図では制御系の信号の流れについて記載しており、ユーザデータの流れを記載していない。
【0032】
第2受信部47は、移動先位置を含む「制御情報」、無線アクセスポイントAP1に接続されていた無線端末UEの端末情報等の「管理情報」、無線アクセスポイントAP2および無線端末UEとの通信モードを表す「モード情報」を管理サーバ15から受信する。
位置制御部49は制御情報を、端末情報管理部44は端末の管理情報を、AP情報管理部45は無線アクセスポイントAP1の管理情報を、通信制御部43はモード情報を保存する。
位置制御部49は、制御情報に基づき、アクチュエータを駆動し、移動型アクセスポイントAPmoを管理サーバ15が決定した位置へ移動する。
端末情報管理部44は、無線アクセスポイントAP1から引き継いだ管理情報をもとに移動型アクセスポイントAPmoを無線端末UEと接続し、通信制御部43が保持するモード情報を第1送信部42aを介して無線端末UEに送信させる。
第1受信部41は、最新の端末情報を無線端末UEから受信し、端末情報管理部44が保持する管理情報を更新するとともに、当該管理情報を第2送信部46を介して管理サーバ15へ転送する。また、第1受信部41は、無線端末UEより受信したデータ量情報を第2送信部46を介して管理サーバ15へ転送する。
品質管理部48は、無線端末UEとの間のスループット、および無線アクセスポイントAP2との間のスループットを測定し、これらを品質情報として第2送信部46を介して管理サーバ15へ送信する。
【0033】
移動型アクセスポイントAPmoは、管理サーバ15から指定された通信モードで、無線端末UEおよび無線アクセスポイントAP2と接続してユーザデータを送受信する。アドホックモードの場合は、無線端末UEおよび無線アクセスポイントAP2と常時接続し、ユーザデータの転送を行う。DTNモードの場合は、移動型アクセスポイントAPmoが無線端末UEの近傍へ移動し、無線端末UEからデータを受信する。移動型アクセスポイントAPmoは受信データを蓄積するためのバッファBufを有している。移動型アクセスポイントAPmoは無線アクセスポイントAP2の近傍へ移動し、当該データを無線アクセスポイントAP2へ送信する。送信終了後、無線アクセスポイントAP2からデータを受信し、無線端末UE近傍へ移動し、無線端末UEに当該データを送信する。
移動型アクセスポイントAPmoは、例えば、地上を走行する自動車や空中を飛行する無人航空機を利用できる。
【0034】
図10は、管理サーバ15の機能を説明するブロック図である。管理サーバ15は、受信部51、送信部52、端末/AP情報管理部53、通信モード選択部54、及び計算用データベース55を備える。なお、本図では制御系の信号の流れについて記載しており、ユーザデータの流れを記載していない。
【0035】
受信部51は、AP情報および端末情報を含む管理情報を無線アクセスポイントから受信し、端末/AP情報管理部53に保存する。また、移動型アクセスポイントAPmoの稼働時には、受信部51は、移動型アクセスポイントAPmoから管理情報、データ量情報、及び品質情報を受信する。送信部52は、停止している無線アクセスポイントの管理情報を移動型アクセスポイントAPmoへ送信する。
【0036】
通信モード選択部54は、
図11に記載する処理を行う。
通信開始時はアドホックモードとする(ステップS01)。アドホックモードでは、停止した無線アクセスポイントAP1の位置を移動型アクセスポイントAPmoの移動先位置として指定する。
ユーザデータにデッドライン(リアルタイム性)が存在するかどうかを無線端末UEから得られたQoS情報をもとに判断する(ステップS02)。ユーザデータにデッドラインがある場合(ステップS02にて“Yes”)はアドホックモードを継続する(ステップS05)。一方、デッドラインがない場合(ステップS02にて“No”)はアドホックモードにおける転送時間推定値B/T1およびDTNモードにおける転送時間推定値B/T21+D+B/T22を計算する(ステップS03)。
ただし、Bは無線端末UEより得られたデータ量情報である残り転送データ量である。アドホックモードにおいて、T1は無線端末UEと無線アクセスポイントAP2との間のスループットである。なお、当該スループットは、移動型アクセスポイントAPmoで計測された品質情報である無線端末UEと移動型アクセスポイントAPmoとの間のスループットと無線アクセスポイントAP2と移動型アクセスポイントAPmoとの間のスループットの小さい方の値である。
また、DTNモードにおいて、T21は無線端末UEと移動型アクセスポイントAPmoとの間のスループット推定値、T22は無線アクセスポイントAP2と移動型アクセスポイントAPmoとの間のスループット推定値である。いずれも、例えば、接続されている通信方式における最大スループットを接続端末数で割ることによって推定する。Dは無線端末UE近傍と無線アクセスポイントAP2近傍との間の移動時間であり、移動型アクセスポイントAPmoの移動速度と地図を保存した計算用データベース55の情報から推定する。
アドホックモードの転送時間推定値とDTNモードの転送時間推定値を比較する(ステップS04)。DTNモードの方が小さい場合(ステップS04にて“No”)はDTNモードへ移行する(ステップS06)。
ステップS06では次を行う。移動型アクセスポイントAPmoを無線端末UEの近傍へ移動させ、データを受信後、無線アクセスポイントAP2の近傍へ移動させ、データを送信する。そして、転送時間推定値を実測に基づいて再計算し、更新する。そして、アドホックモードの転送時間推定値とDTNモードの転送時間推定値を比較した結果、DTNモードの方が小さくなった場合(ステップS04にて“Yes”)はDTNを継続する(ステップS06)。無線アクセスポイントAP2からデータ受信を行った後、無線端末UE近傍へ移動させてデータ送信を行う。
一方、アドホックモードの転送時間推定値とDTNモードの転送時間推定値を比較し、アドホックモードの方が小さくなった場合(ステップS04にて“Yes”)は、アドホックモードへ移行し、移動型アクセスポイントAPmoを無線アクセスポイントAP1の位置に移動する(ステップS05)。
以降これを繰り返す(ステップS03に戻る)。
【0037】
送信部52は、通信モード選択部54により選択された通信モードをモード情報として無線アクセスポイントおよび移動型アクセスポイントAPmoへ送信する。また、送信部52は、移動型アクセスポイントAPmoに移動先位置を制御情報として送信する。
【0038】
図12は、無線通信システム11の動作を説明する図である。
無線通信システム11は、無線端末UEと接続していた無線アクセスポイントAP1が停止したとき(ステップS11)に、
管理サーバ15が、
移動型アクセスポイントAPmoを介して無線端末UEからデータ量情報とリアルタイム性の要否の情報を受信すること(ステップS12)、
無線端末UEのユーザデータにリアルタイム性が必要である場合にアドホックモードを選択すること(ステップS13)、
無線端末UEのユーザデータにリアルタイム性が不要な場合に、前記データ量情報からアドホックモードおよびDTNモードでの転送時間の推定値をそれぞれ算出すること(ステップS14)、且つ該推定値が小さい方のモードを選択すること(ステップS15)、及び
選択したモードの情報を移動型アクセスポイントAPmoと無線アクセスポイントAP2に送信すること(ステップS16)、
を特徴とする。
なお、ステップS20は、上記ステップS13からS16であり、
図11で説明した通信モード選択部54の処理である。
【0039】
[効果]
無線通信システム11は、アドホックモードおよびDTNモードにおけるデータ転送時間を推定し、比較することができるため、データ転送時間の小さいモードを適切に選択することができる。
【0040】
[他の実施形態]
無線通信システム11の管理サーバ15はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1:インターネット
10、11:無線通信システム
15:管理サーバ
21:受信部
22:送信部
23:通信制御部
24:端末/キュー管理部
31:第1受信部
32:第1送信部
33:通信制御部
34:端末情報管理部
35:AP情報管理部
36:第2送信部
37:第2受信部
41:第1受信部
42a:第1送信部
42b:第3送受信部
43:通信制御部
44:端末情報管理部
45:AP情報管理部
46:第2送信部
47:第2受信部
48:品質管理部
49:位置制御部
51:受信部
52:送信部
53:端末/AP情報管理部
54:通信モード選択部
55:計算用データベース