(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ウェーハ表面の改質装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20240501BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240501BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20240501BHJP
【FI】
H01L21/268 F
H01L21/304 622P
B23K26/354
(21)【出願番号】P 2020034997
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
(72)【発明者】
【氏名】稲村 雅人
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-147639(JP,A)
【文献】特開2015-216301(JP,A)
【文献】特開平01-179315(JP,A)
【文献】特開2020-131218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/268
H01L 21/304
B23K 26/354
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットから切断形成されたシリコンウェーハの表面を改質するものであって、ウェーハを載置および保持するテーブルと、改質前のウェーハの表面状態を測定する測定装置を少なくとも含むアライメント装置と、ウェーハの表面にパルスレーザを照射するレーザユニットと、レーザユニットから出射されたレーザ光をウェーハ表面の照射位置に導く光学系とを備えたウェーハ表面の改質装置において、
前記アライメント装置は、前記ウェーハのエッジ部の修復時に、前記テーブルを回転させて前記照射位置に達したウェーハの周方向位置における結晶方位に応じて、前記レーザユニットが出射するレーザ光のパルスエネルギ量を変化させるものであ
り、
前記表面状態は、うねり、粗さ、及び、表面欠陥からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記アライメント装置は、前記照射位置に達したウェーハの周方向位置における結晶方位が(100)の箇所で最も小さく、結晶方位が(110)の箇所で最も大きいパルスエネルギ密度に前記レーザユニットから照射されるレーザ光を制御するものである、ウェーハ表面の改質装置。
【請求項2】
前記パルスエネルギ量は、パルスエネルギ密度、パルス幅および照射パルスの繰り返し数の関数であることを特徴とする請求項
1に記載のウェーハ表面の改質装置。
【請求項3】
前記光学系は、レーザをウェーハに照射するときのウェーハ表面のレーザのスポット径、パルスエネルギ密度、およびパルスレーザが出射する1パルスの時間変化であるレーザプロファイルの少なくともいずれかを制御することを特徴とする請求項1
又は2に記載のウェーハ表面の改質装置。
【請求項4】
前記レーザユニットは、パルスエネルギ、繰り返し照射するパルスレーザのパルス周波数および同一照射位置に繰り返し照射するパルスの照射回数の少なくともいずれかを制御することを特徴とする請求項1ないし
3のいずれか1項に記載のウェーハ表面の改質装置。
【請求項5】
インゴットから切断形成されたシリコンウェーハの表面改質方法であって、
改質前のウェーハの表面状態をアライメント装置が測定するステップと、レーザユニットから出射されたパルスレーザを表面研磨後のウェーハの照射面に照射してウェーハの表面を溶解して改質するステップを含み、ここで、ウェーハの表面に照射されるパルスレーザのエネルギ量を、前記ウェーハの該照射面の結晶方位に応じて変化させ
、
前記表面状態は、うねり、粗さ、及び、表面欠陥からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
照射する前記パルスレーザのエネルギ量は、同一のウェーハにおいては結晶方位が(110)の位置において大きく、結晶方位が(100)において小さい、ウェーハ表面の改質方法。
【請求項6】
同一のウェーハにおいて、同一エネルギ量のパルスレーザを同一の結晶方位位置に照射するステップと、パルスレーザ照射後のウェーハの
前記表面
状態を測定するステップとをさらに含み、同一の結晶方位位置におけるパルスレーザ照射後の
前記表面
状態が予め定めた許容範囲を超えている位置があるときは、該許容範囲を超えた位置に増大したパルスレーザのエネルギ量を照射するフィードバック照射を実行するステップを追加することを特徴とする請求項
5に記載のウェーハ表面の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ表面の改質装置および方法に係り、特にウェーハの周縁部処理後に用いて好適なウェーハ表面の改質装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば引き上げにより作成された単結晶シリコンインゴッドは、所定の厚さを有するウェーハとなるようにダイヤモンドプレート等によりスライス切断される。その後、表面を滑らかにするため表面を研磨し、周縁部には所定のノッチ等の加工と角部面取りまたはR加工が施される。これらの一連の機械加工において、ウェーハ表面には微小なうねりや結晶欠陥が生じ得る。このうねりや結晶欠陥を修復するために、従来はエッチング等の化学的処理または機械研磨等の機械的処理が実施されてきた。これらの処理プロセスはプロセスが複雑であり、エッチングの場合はウェーハに実質的に表面研磨が追加されることになり、平坦度を損なう恐れがあった。
【0003】
そこで特許文献1に記載の「単結晶ウェーハの表面欠陥の修復方法」では、単結晶表面の材料を除去することなく、機械加工により生じた加工変質層を基板部分と全く同様な結晶構造に修復することを試みている。具体的には、半導体やMEMSや光学レンズに使用されている単結晶ウェーハの、表面加工変質層である表面欠陥を修復するに際して、単結晶表面にパルスレーザを1回照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】波多野睦子 他、「レーザアニールによるSi薄膜溶融、結晶化過程の実時間観測と結晶の高品質化」、表面科学、vol.24、No.6、375~382頁、2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械加工を用いて切断および研磨して製作したシリコンウェーハの表面には、微小なうねり等がありレーザを照射することでそれらを軽減できることは上記特許文献1に記載の通りである。レーザ照射方法は、処理時間や処理コストを低減できるという利点があり、ウェーハの改質に大いに期待できる。ところで、シリコンウェーハの周縁部も、シリコンインゴッドからの機械加工において、粗さやうねり、加工ダメージ等が生じており、これらについてもレーザ照射をして、粗さやうねりの除去、加工ダメージの修復、または一定の深さに転位を生じさせるようにすることが可能と考えられる。
【0007】
単結晶シリコンウェーハの周縁部(エッジ部)では、結晶方位が一定であるシリコンウェーハの表面平坦部と異なり、周方向位置に応じて結晶方位が変化している。そのため、場所ごとに加工後のダメージの状態が異なる可能性がある。また以下に詳細を記載するように、結晶方位が異なると同一量のレーザ照射でも照射の効果が異なってくる。その結果、結晶方位が場所ごとに異なっている周縁部に、同一量のレーザまたはレーザパルスを一様に照射してウェーハを修復または改質しようとしても、ウェーハの周縁部では場所により所望の効果が得られない場合がある。
【0008】
例えばエッチング後のウェーハに対してパルスレーザを照射する場合には、結晶方位によりエッチング強度(または速度)が違っている。このような均一でない表面に対して、一定の照射条件でレーザを照射してウェーハ面を改質しようとしても、吸収率の違い等に起因して、レーザ照射後のウェーハ表面を均一な処理面に修復することは困難である。上記従来技術においては、この点への考慮が不十分である。
【0009】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、表面研磨等の機械的な加工を施したウェーハの表面欠陥やうねりを、たとえエッジ部であってもできるだけ均一に修復するまたは改質することにある。本発明の他の目的は、上記目的に加え、エッジ部に起因するウェーハの破損を低減して、半導体製造における歩留まりを向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の特徴は、インゴットから切断形成されたシリコンウェーハの表面を改質するものであって、ウェーハを載置および保持するテーブルと、改質前のウェーハの表面状態を測定する測定装置を少なくとも含むアライメント装置と、ウェーハの表面にパルスレーザを照射するレーザユニットと、レーザユニットから出射されたレーザ光をウェーハ表面の照射位置に導く光学系とを備えたウェーハ表面の改質装置において、前記アライメント装置は、前記ウェーハのエッジ部の修復時に、前記テーブルを回転させて前記照射位置に達したウェーハの周方向位置における結晶方位に応じて、前記レーザユニットが出射するレーザ光のパルスエネルギ量を変化させることにある。
【0011】
そしてこの特徴において、前記アライメント装置は、前記照射位置に達したウェーハの周方向位置における結晶方位が(100)の箇所で最も小さく、結晶方位が(110)の箇所で最も大きいパルスエネルギ密度に前記レーザユニットから照射されるレーザ光を制御することが好ましい。なお、前記パルスエネルギ量は、パルスエネルギ密度、パルス幅および照射パルスの繰り返し数の関数である。
【0012】
また前記特徴において、前記光学系は、レーザをウェーハに照射するときのウェーハ表面のレーザのスポット径、パルスエネルギ密度、およびパルスレーザが出射する1パルスの時間変化であるレーザプロファイルの少なくともいずれかを制御することが望ましく、前記レーザユニットは、パルスエネルギ、繰り返し照射するパルスレーザのパルス周波数および同一照射位置に繰り返し照射するパルスの照射回数の少なくともいずれかを制御するものである。
【0013】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、インゴットから切断形成されたシリコンウェーハの表面改質方法であって、改質前のウェーハの表面状態をアライメント装置が測定するステップと、レーザユニットから出射されたパルスレーザを表面研磨後のウェーハの照射面に照射してウェーハの表面を溶解して改質するステップを含み、ここで、ウェーハの表面に照射されるパルスレーザのエネルギ量を、前記ウェーハの該照射面の結晶方位に応じて変化させることにある。
【0014】
そしてこの特徴において、照射するパルスレーザのエネルギ量は、同一のウェーハにおいては結晶方位が(110)の位置において最大であり、結晶方位が(100)において最小であることが好ましく、同一のウェーハにおいて、同一エネルギ量のパルスレーザを同一の結晶方位位置に照射するステップと、パルスレーザ照射後のウェーハの表面性状を測定するステップとをさらに含み、同一の結晶方位位置におけるパルスレーザ照射後の表面性状が予め定めた許容範囲を超えている位置があるときは、該許容範囲を超えた位置に増大したパルスレーザのエネルギ量を照射するフィードバック照射を実行するステップをさらに含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面研磨等の機械的な加工を施したウェーハ表面と同様にウェーハのエッジ部も、その場所における結晶方位に応じてレーザ照射するようにしたので、機械加工等で発生した表面欠陥やうねり等をより均一に修復または改質することが可能になる。また、面取りやR加工を施したエッジ部を均一に修復または改質するので、エッジ部に起因するウェーハの破損を低減できる。さらに、レーザ照射装置を使用する装置であるから、修復または改質装置が大型化することなく、エッチングやCMP等の方法で用いる修復または改質装置よりも簡素化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】半導体ウェーハの結晶方位を説明する図である。
【
図2】本発明に係る半導体ウェーハの表面改質装置の一例の正面図である。
【
図3】
図2の表面改質装置が備える光学系の一例を示す図である。
【
図5】標準的なパルスレーザ光照射を説明する図である。
【
図6】許容外の結果が得られた場合における、パルスレーザ光照射を説明する図である。
【
図7】ウェーハの表面改質方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るウェーハWの表面改質のいくつかの実施例について、図面を用いて説明する。なお、本発明では、いわゆるレーザアニーリングによる、加工変質層や内部ダメージの修復、ウェーハWの表面の平滑化、およびウェーハWの表層の転位層の作成を総称して、表面改質と称する。レーザアニーリングは、レーザを用いた焼きなましが原義である。レーザアニーリングをシリコンウェーハWの表面に施すとは、本発明ではパルスレーザをシリコンウェーハWの表面に照射することであり、それによりウェーハWの表層が溶解される。溶解後の冷却作用により、表面へ向かうエピタキシャル結晶の成長が促されて単結晶化が図られ、加工変質層や内部ダメージが修復される。表面の平滑化では、シリコンウェーハWにパルスレーザを照射してウェーハWの表層を溶解することは、加工変質層や内部ダメージの修復と同じである。しかし、表層の溶解時に表面張力作用により表面が平滑化されて粗さやうねりが除去されることを、特に表面の平滑化と称する。また、ウェーハWの表層への転位層の作成においては、同一個所にパルスレーザを照射し続けることにより発生する事象を利用する。すなわち、ウェーハWの表面にパルスレーザを繰り返し照射して、ウェーハWの表面に加熱と冷却を繰り返すことで、平滑でかつ一定深さの転位層が作成される。
【0018】
ここで、ウェーハWの表面にレーザアニーリングを施すときは結晶方位を考慮することが必要であることを、本発明者らは実験的研究により見出した。特に単結晶ウェーハでは、半導体回路が形成される表面部または平坦部は至る所同一の結晶方位であるが、周縁部(エッジ部)で結晶方位が単一方位を示さなくなる。ウェーハWから半導体を製造するに当たり、エッジ部からへき開が発生および進展して、半導体製造の歩留まりが低下するのを抑制するために、ウェーハWのエッジ部を均一に表面改質する必要があるが、そのためにはエッジ部の結晶方位を把握しなければならない。
【0019】
ウェーハWでは、結晶方位によりその物理的特性やウェーハWの表面処理に要する時間等が変化する。例えば、結晶方位(110)、(100)、(111)を比較した場合、エピタキシャル成長においては、結晶方位(110)において最も成長が早く、方位(100)はそれに次ぎ、方位(111)は最も成長が遅くなる。エッチング処理する場合も浸食の進み具合は同様の結果であり、結晶方位(110)が最も浸食が進み、方位(100)がそれに次ぎ、方位(111)が最も浸食されにくい。各結晶方位からのへき開に関しては、これらの場合と異なり、結晶方位(111)が最もへき開しやすく、方位(110)がこれに次ぎ、方位(100)が最もへき開しにくい。このようにウェーハWでは結晶方位に応じて異なる特性を有するので、レーザアニーリングをシリコンウェーハWに施す場合には、特にエッジ部において照射面の状態、具体的には結晶方位を考慮してパルスレーザを照射しなければならないことが判明した。
【0020】
図1に、半導体ウェーハWの一例を示す。
図1(a)は、切欠き形状の基準点であるノッチNが形成された単結晶シリコンウェーハWの上面図であり、
図1(b)はエッジ部の拡大正面図である。
図1(a)では主要点における結晶方位を併せて示す。ウェーハWは単結晶シリコンウェーハであるから、半導体回路が形成される予定の平坦な回路形成表面では、結晶方位が(100)となっている。このとき、例えばノッチ部Nとノッチ部Nとは180°反対側の反ノッチ部ANにおける、エッジ部の結晶方位が(100)になっていたとすると、これらの位置を結ぶ線に直交する位置、すなわちノッチ部Nを基準とした周方向角度φが、φ=90°、270°の位置でも、結晶方位は(100)となる。しかしその中間の位置、すなわち、φ=45°、135°、225°、315°の位置では、結晶方位が(110)に変化している。上述した結晶方位の特性から、このウェーハWのエッジ部を全周にわたって均一にレーザ照射すると、例えば斜め方向(結晶方位(110)の方向)からのへき開が起こり易くなる、またはへき開しやすくなり、半導体製造における歩留まり低下を引き起こす。なお、
図1(b)に示すように本実施例におけるウェーハWでは、ウェーハWの外径端部であって、ウェーハ端面53の近傍には、亀裂の発生を抑制する等のために、斜めに面取りされた面取り部52が形成されている。ウェーハWの端面53の加工においては、面取り52の他に角部の形成を避けるR加工を用いることもある。ウェーハWの回路形成面51にほぼ垂直な端面53と端面53の近傍の面取り面52を併せてエッジ部55と称する。
【0021】
ウェーハWの回路形成面51に半導体回路を形成する前であって表面研磨等の機械的な加工をした後のウェーハWを、エッジ部55においても均一に改質するために、レーザ照射する。その際、レーザアニーリングで用いるパルスレーザの照射量等を、ウェーハWの各照射部の結晶方位に応じて変化させる。ウェーハWのエッジ55の表面改質の一例を、
図2および
図3を用いて説明する。
【0022】
図2は、本発明によるレーザアニーリングを単結晶シリコンウェーハWに適用する改質装置100の一例を示す図であり、その正面図である。改質装置100は、ウェーハWを載置および保持するターンテーブル10を有する5軸のステージ20を備える。ウェーハWは、例えば12インチウェーハであり、既に表面研磨等が済んでいる。ターンテーブル10はθ軸の自由度を有し、ウェーハWを回転させてレーザを照射するのに用いられる。例えばウェーハWのエッジ部の改質においては、ターンテーブル10を回転させ、ターンテーブル10に搭載されたウェーハWのエッジ部の改質位置を連続的に変化させ、そこへパルスレーザ光を照射する。ステージ20は、図の左右方向にウェーハWを移動させるX軸、このX軸に直交し、紙面を貫く方向にウェーハWを移動させるY軸、X軸とY軸の双方に直交し、図で上下方向にウェーハWを移動させるZ軸の直交3軸の他に、ウェーハWのエッジ部55の表裏両面の角部に形成された2つの面取り部55の形状に応じて傾斜可能なB、C軸を備える。ステージ20がX軸、Y軸、Z軸、B軸、C軸、およびθ軸を有するので、ウェーハWの形状、特にエッジ部55の形状がどんな形状であっても、後述するレーザ照射器を照射面に適正角度で配置でき、レーザ光36を所望の改質位置である照射面に適性に連続的に照射することが可能になる。
【0023】
レーザユニット30は、ウェーハWの改質位置にパルスレーザを照射するための装置であり、レーザ光源32と、レーザ光源32が出射するパルスレーザのパルスエネルギ、パルス幅および繰り返し照射するパルスレーザの周波数または繰返し回数等の少なくともいずれかを制御する制御部34を有する。レーザ光源32は、波長355、532、785nmのパルスレーザ光36を出射可能である。本改質装置100で使用するこれらの波長は、シリコンウェーハWの吸収率を考慮したもので、吸収率が高い波長を選んでいる。なお、レーザ光36の波長はこれらに限るものではなく、ウェーハの材質等に応じて変更することは可能である。また、上記の内の1種類または2種類のみを出射するものであってもよい。
【0024】
レーザユニット30から出射された制御されたパルスレーザ光36は、光学系40を介して照射対象であるウェーハWに照射される。光学系40は、適正な焦点距離を確保および調整できるように、パルスレーザ光源32とウェーハWとの間に制御可能な1軸を有している。光学系40の典型的な例を、
図3に示す。
【0025】
図3は、光学系40の模式配置図である。図に示すように、光学系40は、いくつかのプリズム42、43とガルバノミラー44、集光レンズとしてのf-θレンズ46を有する。光学系40では、改質位置におけるパルスレーザ光36のレーザスポット径φd、パルスエネルギ密度J、パルスエネルギ密度Jの時間変化形状を示すレーザプロファイルPLの少なくともいずれかが制御または調整される。
【0026】
レーザプロファイルPLの一例を、非特許文献1から引用して
図4に示す。
図4の縦軸はエネルギ強度を示し、パルスレーザのエネルギ強度の基準量との比である比強度で表している。この
図4の例では1回のパルスは40ns程であり、時間の経過と共に急速に立上がってピークに達した後、徐々に低下している。光学系40を介することにより、ウェーハWの改質位置では、パルスエネルギ密度Jやレーザ照射時間、スポット径φdの少なくともいずれかが制御された適正な照射レーザ光36となって、所望の改質範囲に照射される。
【0027】
改質装置100はさらに、レーザ照射前および/またはレーザ照射後にウェーハWの表面を検査するためのアライメント装置110を有する。アライメント装置110は、カメラを用いて改質対象ウェーハWをステージ20の中央に配置するアライメント部112、ウェーハWのうねりや粗さ等の面状態をカメラを用いて測定するおよび/または専用の粗さ測定機等で測定する測定部114、カメラを用いてウェーハWのアライメントを制御し、およびウェーハWの表面性状測定を制御し演算する、パソコンで代表される制御演算部116を備える。
【0028】
カメラは、ウェーハWのエッジ部55上の各点の結晶方位を求める際にも使用される。例えばウェーハWにノッチNが形成されているときに、基準となる結晶方位(例えば方位(100))のノッチNからの位置ずれが予め知られていれば、ノッチNを基準(たとえば周方向角度φ=0°)にした角度座標φを用いて、各周方向位置φにおける結晶方位を、カメラの撮像画像内のノッチNの位置から判断する。ここで、結晶方位の決定には、必ずしもカメラを用いる必要は無く、改質装置100内部または外部に結晶方位測定専用のX線結晶方位測定装置を含むようにしてもよい。なお、結晶方位測定用の測定機器または測定部114のカメラを用いて結晶方位を特定した後に、結晶方位の特定結果に基づきパルスレーザをウェーハWに照射するので、アライメント部112は、ウェーハW上のレーザ照射位置を十分な精度で特定できる能力を有する。
【0029】
アライメント装置110では、ウェーハW面上にパルスレーザを照射する前後に、測定部114で面状態を測定、観察および解析し、その解析結果に基づいてレーザ照射条件にフィードバックする。その際、位相ごとに最適化を図り、結晶方位に応じたパルス強度や照射時間、照射レーザプロファイルPLを再構成している。
【0030】
図2に示した改質装置100を用いたウェーハWのエッジ部における改質の具体例を、
図5以下に説明する。
図5は、結晶方位に応じて予め設定したパルスエネルギJでパルス照射する例である。アライメント装置110を用いてもしくは事前の処理工程において、各ウェーハWについてその周方向の結晶方位の分布が既に測定されている。本例では、ウェーハWの位置の基準となるノッチN(φ=0°)の結晶方位が(100)であり、ノッチNから時計回りにφ=90°、180°、270°の位置も結晶方位が(100)である。また、ノッチNから時計回りにφ=45°、135°、225°、315°の位置は、結晶方位が(110)である。上述したように、結晶方位(110)では結晶方位(100)におけるよりも、エッチングにより浸食が大きくなっていて、表面欠陥も大きいものと予想されることやへき開しやすいことのため、結晶方位(110)でエネルギ強度をJmaxに増し、結晶方位(100)でエネルギ強度がJminに低下するようにし、その間は正弦曲線で接続した曲線分布でレーザ光36のパルスエネルギ強度を変化させている。
【0031】
このような設定でウェーハWのエッジ部55にレーザ光36をパルス照射する。なお、改質におけるパルスレーザの照射の影響は、パルスエネルギ密度Jだけではなく、パルス幅および照射パルスの繰り返し数または繰り返し周波数、スポット径等にも影響される。そこで本実施例では、パルスエネルギ密度だけは
図5に示したパルスエネルギ密度分布でウェーハWの周方向にパルスレーザを照射するが、パルス幅や照射パルスの繰り返し周波数、スポット径は一定にしている。この設定で、ウェーハWのエッジ部の照射位置に、ウェーハWの周方向位置φに応じて変化するパルスエネルギ量(パルスエネルギ密度とパルス幅と繰り返し数の関数であり、一般的にはほぼそれらの積になる)が加えられる。もちろん、パルス幅と繰り返し数または繰り返し周波数を変えることも可能である。
【0032】
レーザ光36による加熱と間欠的な照射のためにレーザ光36が照射されない時間に生じる冷却や熱のウェーハWの内部へ移動の繰り返しにより、ウェーハWの表面近傍は熱的影響を受ける。これらの関係を考慮してパルス幅と繰り返し数または繰り返し周波数を一定または可変に設定する。
【0033】
その後、照射位置に所望のアニーリング(表面改質)が施されたか否かを、アライメント装置110を用いて測定する。測定項目は、ウェーハWの照射表面のうねりや粗さ、表面欠陥等である。ウェーハWの表面のうねりや粗さが所定範囲に収まっていれば、他のウェーハWに同様の処理をする。もしウェーハWの表面粗さやうねりが、所定の許容範囲に収まっていなければ、パルスエネルギ強度を修正して再度レーザ照射する。
【0034】
なお、上記アライメント装置110を用いた測定においては、カメラや専用の測定機で周方向の各照射位置における粗さやうねりを測定している。もちろん、測定はウェーハWの周方向位置に対して連続的に測定してもよいし、結晶方位が基準方位、例えば(100)から大幅に異なっている結晶方位を持つ位置φだけ測定して、測定のスループットを向上させることもできる。
図5に示したパルスエネルギの強度変化図からも分かるように、結晶方位により変えるべきパルスエネルギ量の概略値は予め実測により得ているので、複数の異なる結晶方位の位置φにおける測定結果から概略値を参照して、照射条件の変更を判断することができる。
【0035】
ところで、同じ結晶方位を持つ異なる周方向位置に、同じパルスエネルギ量のレーザ光36を同じ時間だけ照射しても、修復が十分である位置と修復が不十分な点が生じる場合がある。そのような場合には、修復が不十分な位置に対してパルスレーザの照射量を変更する必要がある。そのような例を、
図6を用いて説明する。
【0036】
図6は、測定結果をフィードバックしてパルスエネルギ強度を変更する方法を説明する図であり、
図6(a)は、
図5と同様のウェーハWの周方向位置φに応じたレーザ光36のパルスエネルギ分布の図であり、
図6(b)はウェーハWの各部の改質状態を測定する状態を示す模式図である。
【0037】
図6(b)に示すように、結晶方位が共に(110)であるウェーハWの周方向の点A(φ=45°)、B(φ=135°)について、パルスレーザを照射した後にカメラまたは専用測定機114で表面状態を測定して信号S
A、S
Bが得られ、アライメント装置110に送られる。なおこの
図6(b)では理解しやすいようにカメラを2台描いているが、実際はウェーハWを回転させて、レーザ照射位置がカメラ位置に来たところで撮像するので、カメラは1台あれば十分である。アライメント装置110の判断の結果、信号S
Aは許容範囲内であったが、信号S
Bは許容範囲を超えていた。この場合、許容範囲外の信号S
Bが得られた位置Bに対して、強度を変更する補正をする。予めパルスエネルギ強度とウェーハWのレーザ照射面の変化の関係は求められているので、その関係を用いて要求される修正量は決定される。本実施例では、結晶方位(110)がφ=135°である位置Bで改質が不十分であったので、この部分にエネルギ強度を修正してレーザ照射する。
【0038】
つまり、ターンテーブル10を用いてθ軸周りに回転させるウェーハWの表面改質においては、許容範囲を超えた位置Bがレーザ照射位置に到達するのに同期して、レーザ光36のパルスエネルギ量を、結晶方位(110)に割り当てられていたパルスエネルギ量JmaxからJfbに増大させる。ここで、修正したエネルギ強度のパルスレーザの照射は、結晶方位(110)であるφ=135°の点のみならず、回転しているウェーハWではその前後の時間、ウェーハWにおいては周方向その両側の部分にもその位置に応じた修正量だけ増加した照射エネルギのパルスレーザを照射する。この増加したパルスレーザの照射範囲は、
図6(b)でZfbで表されている。一方、同じ結晶方位(110)であっても、測定結果が予め定めた基準を満たす位置Aおよび位置φ=225°他の位置では、パルスエネルギはJmaxのままであり、その他の位置φでは、
図5に示した基準となる照射パターンを繰り返す。
【0039】
このように結晶方位に加えてウェーハWの周方向位置φに応じてレーザ光36の照射エネルギを変化させることで、ウェーハWの表面のより均一な改質を実現できる。なお、
図5、6(a)に示したパルスエネルギ密度の変化図は、ウェーハWの周方向角度位置φと照射エネルギの関係を示す図であり、実際に照射されるレーザ光36はパルスレーザであるから、時間間隔が置かれて照射される。レーザ照射光36の出力の時間変化は、
図5に示した曲線を間欠的になぞる。
【0040】
上記ウェーハWの表面改質方法のフローチャートを、
図7に示す。事前に専用の測定機で、または表面改質装置100のアライメント装置110が備えるカメラ等を用いて、ウェーハWの表面各部のうねりや粗さを測定し、ウェーハWの周方向位置φおよび結晶方位とそれらのデータを対応付ける(ステップS710)。予め求めて置いたウェーハWの結晶方位と照射すべきパルスレーザのエネルギ量の関係を参照して、ターンテーブル10が回転して照射位置に到達するウェーハWの周方向位置φに応じたパルスエネルギ量を求める。その際使用するレーザ光の周波数等も同時に定める(ステップS720)。レーザユニット30の制御部34が、レーザ光源32から光学系40を介してウェーハWの照射面へ当該照射位置に要求される照射量を照射する(ステップS730)。アライメント装置110が有するカメラ等を含む測定装置または専用測定機を用いて、パルスレーザ照射後のウェーハWの表面を測定および検査する(ステップS740)。測定結果を判断する(ステップS750)。ウェーハWのすべての周方向位置における測定値が許容範囲なら、本ウェーハWの改質は終了する(ステップS760)。そして、次のウェーハWの測定に移る。ウェーハWの周方向の測定位置φで許容範囲外の測定値が得られたら、ステップS720に戻り、照射するパルスレーザのエネルギ量を許容範囲外であった場所について、予め求めてあるデータに基づき変更するフィードバックを施したパルスレーザ照射を実行する。以下、同じ手順を繰り返す。
【0041】
以上説明したように本発明の各実施例によれば、単結晶ウェーハWのエッジ部における改質において、エッジ部の各点の結晶方位に応じて改質に用いるパルスレーザの強度やエネルギ量を変化させているので、結晶方位に応じて異なる表面性状に対応できる。また、異なる表面性状に応じたエネルギ量を照射するので、へき開の起こりやすい点でも十分に改質でき、結晶方位の差に起因するエッジ部からのへき開や亀裂の進展を低減できる。
【符号の説明】
【0042】
10…ターンテーブル、20…ステージ、30…レーザユニット、32…レーザ光源、34…制御部、36…レーザ光、40…光学系、42、43…プリズム、44…ガルバノミラー、46…f-θレンズ、51…回路形成面、52…面取り部、53…端面、55…エッジ部またはエッジ、100…(表面)改質装置、110…アライメント装置、112…アライメント部、114…測定部、116…制御演算装置(パソコン)、AN…反ノッチ部、N…ノッチ部、W…ウェーハ、φ…(ウェーハ)の周方向角度