(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】真空成膜装置及び真空成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20240501BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20240501BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C23C14/56 J
C23C14/04 A
C23C14/24 G
(21)【出願番号】P 2020069170
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-02-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 修司
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179703(WO,A1)
【文献】実公昭41-010661(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 14/04
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材を走行させる基材走行手段と、シート状のマスク材を走行させるマスク材走行手段と、シート状の基材にシート状のマスク材を連続して密着させる密着手段と、真空処理室内でマスク材を密着させた基材の部分が順次巻き掛けられる複数個のキャンローラと、真空処理室内でキャンローラに対峙して設けられ、各キャンローラに夫々巻き掛けられた基材の部分に対してマスク材越しに成膜する成膜ユニットとを有する真空成膜装置において、
各キャンローラにて、キャンローラに巻き掛けられた基材の部分に対して成膜ユニットによる成膜が開始される位置を成膜開始位置、成膜が終了する位置を成膜終了位置として、一のキャンローラの成膜終了位置から、成膜が終了した基板の部分が次に案内される他のキャンローラの成膜開始位置までシート状の基材が案内される間に、シート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離する剥離手段を更に備え、一旦剥離されたシート状の基材とシート状のマスク材とが他のキャンローラの成膜開始位置に達する前に再度密着されるように構成したことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
請求項1記載の真空成膜装置であって、真空処理室内に、夫々の回転軸をXY平面上に平行に位置させて複数個のキャンローラが並設されるものにおいて、
XY平面に直交する方向をZ軸方向とし、剥離手段が、互いに隣接するキャンローラの間でZ軸方向上下に間隔を置いて設けられる一対のガイドローラを有し、上方に位置するガイドローラにシート状基材が、下方に位置するガイドローラにシート状のマスク材が夫々巻き掛けられるように構成したことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項3】
真空処理室内でシート状の基材とシート状のマスク材とを走行させ、シート状の基材にシート状のマスク材を密着させた後、キャンローラに巻き掛けて周回させ、このキャンローラに対峙して設けられた成膜ユニットによりキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対してマスク材越しに成膜する真空成膜方法において、
シート状の基材に成膜しようとする薄膜の膜厚を目標膜厚とし、同一のキャンローラを複数回または異なるキャンローラを順次周回したときに目標膜厚に達するように成膜する工程と、
キャンローラにて、キャンローラに巻き掛けられた基材の部分に対して成膜ユニットによる成膜が開始される位置を成膜開始位置、成膜が終了する位置を成膜終了位置として、一のキャンローラの成膜終了位置から
、成膜が終了した基板の部分が次に案内されるキャンローラの成膜開始位置までシート状の基材が案内される間に、シート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離
し、一旦剥離されたシート状の基材とシート状のマスク材とが次に案内されるキャンローラの成膜開始位置に達する前に再度密着させる工程を含むことを特徴とする真空成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理室内でシート状の基材とシート状のマスク材とを走行させ、シート状の基材にシート状のマスク材を密着させた後、キャンローラに巻き掛けて周回させ、このキャンローラに対峙して設けられた成膜ユニットにより、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対してマスク材越しに成膜するための真空成膜装置及び真空成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属箔製または樹脂製のシート状の基材は可撓性を有し、加工性も良いことから、その一方の面や両面に、真空雰囲気で所定の金属膜や酸化物膜等の所定の薄膜を単体または多層で成膜したりして電子部品や光学部品とすることが知られている。このような真空成膜装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバ(真空処理室)を備える。真空チャンバ内には、シート状の基材を繰り出す繰出ローラと、成膜済みの基材を巻き取る巻取ローラと、繰り出されたシート状の基材の部分が巻き掛けられるキャンローラと、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して成膜する成膜ユニットとが設けられている。
【0003】
ここで、シート状の基材への成膜時には、基材の成膜面にその成膜範囲を制限するマスク材を密着させ、マスク材越しに成膜する場合がある。このような場合、上記真空成膜装置に、例えば特許文献2記載のものを適用することが考えられる。即ち、真空処理室内に、シート状のマスク材を繰り出すマスク材用の繰出ローラと、シート状のマスク材を巻き取るマスク材用の巻取ローラと、シート状の基材とシート状のマスク材とを密着させるプラテンローラ(密着手段)と、シート状の基材からこれに密着するシート状のマスク材を剥離する剥離ローラとを更に設ける。そして、夫々繰り出されたシート状の基材とマスク材とが重ね合わされた後、プラテンローラでマスク材を基材に向けて押し付け密着させ、これをキャンローラに案内してキャンローラを周回する間にマスク材越しに成膜する。成膜後には、剥離ローラを起点にシート状のマスク材とシート状の基材とを互いに異なる方向に引っ張ることで(即ち、剥離ローラにおけるシート状の基材とマスク材との抱角を変えることで)、シート状の基材からシート状のマスク材が剥離される。
【0004】
ところで、上記真空成膜装置を用い、シート状の基材をその厚さが数十μmの金属箔(例えば、銅製)、シート状のマスク材をその厚さが数十μmのもの(例えば、銅製や合成樹脂製)とし、真空蒸着法によりアルミニウムやリチウムといった金属膜を所定の膜厚(数μm~十数μmの範囲)で成膜すると、剥離ローラによりシート状の基材からシート状のマスク材を剥離するときに、シート状の基材が破断する場合があることが判明した。そこで、本発明者は、鋭意研究を重ね、次のことを知見するのに至った。即ち、蒸着源から蒸着材料を飛散させて、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分にマスク材越しに成膜すると、蒸着材料は、基材の成膜面だけでなく、マスク材の表面や板厚方向に沿うその側面にも付着、堆積する。成膜後、剥離ローラによりシート状の基材からシート状のマスク材を剥離する際、シート状の基材にはせん断力が作用するが、このときのせん断力は、アルミニウムやリチウムといった金属膜を所定の膜厚で成膜するための成膜時間が長くなるのに従い次第に大きくなり、これに起因して、蒸着材料が付着したマスク材の側面直下の位置にてシート状の基材が破断することを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-146553号公報
【文献】特開2013-211383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の知見を基になされたものであり、シート状の基材にマスク材越しに所定の膜厚で成膜する場合に、シート状の基材からこれに密着させたシート状のマスク材を剥離する時、シート状の基材の破損を防止できるようにした真空成膜装置及び真空成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の真空成膜装置は、シート状の基材を走行させる基材走行手段と、シート状のマスク材を走行させるマスク材走行手段と、シート状の基材にシート状のマスク材を連続して密着させる密着手段と、真空処理室内でマスク材を密着させた基材の部分が順次巻き掛けられる複数個のキャンローラと、真空処理室内でキャンローラに対峙して設けられ、各キャンローラに夫々巻き掛けられた基材の部分に対してマスク材越しに成膜する成膜ユニットとを有し、各キャンローラにて、キャンローラに巻き掛けられた基材の部分に対して成膜ユニットによる成膜が開始される位置を成膜開始位置、成膜が終了する位置を成膜終了位置として、一のキャンローラの成膜終了位置から、成膜が終了した基板の部分が次に案内される他のキャンローラの成膜開始位置までシート状の基材が案内される間に、シート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離する剥離手段を更に備え、一旦剥離されたシート状の基材とシート状のマスク材とが他のキャンローラの成膜開始位置に達する前に再度密着されるように構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、真空処理室内に、夫々の回転軸をXY平面上に平行に位置させて複数個のキャンローラが並設されているような場合、XY平面に直交する方向をZ軸方向とし、剥離手段が、互いに隣接するキャンローラの間でZ軸方向上下に間隔を置いて設けられる一対のガイドローラを有し、上方に位置するガイドローラにシート状基材が、下方に位置するガイドローラにシート状のマスク材が夫々巻き掛けられる構成を採用することができる。
【0009】
また、上記課題を解決するために、真空処理室内でシート状の基材とシート状のマスク材とを走行させ、シート状の基材にシート状のマスク材を密着させた後、キャンローラに巻き掛けて周回させ、このキャンローラに対峙して設けられた成膜ユニットによりキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対してマスク材越しに本発明の成膜する真空成膜方法は、シート状の基材に成膜しようとする薄膜の膜厚を目標膜厚とし、同一のキャンローラを複数回または異なるキャンローラを順次周回したときに目標膜厚に達するように成膜する工程と、キャンローラにて、キャンローラに巻き掛けられた基材の部分に対して成膜ユニットによる成膜が開始される位置を成膜開始位置、成膜が終了する位置を成膜終了位置として、一のキャンローラの成膜終了位置から、成膜が終了した基板の部分が次に案内されるキャンローラの成膜開始位置までシート状の基材が案内される間に、シート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離し、一旦剥離されたシート状の基材とシート状のマスク材とが次に案内されるキャンローラの成膜開始位置に達する前に再度密着させる工程を含むことを特徴とする。
【0010】
以上によれば、シート状の基材に成膜しようとする薄膜の膜厚を目標膜厚とし、例えば、真空処理室内に複数個のキャンローラを設けると共に、各キャンローラに対峙させて成膜ユニットを夫々設け、全てのキャンローラを経たときに目標膜厚に達するように各成膜ユニットによりマスク材越しに所定の薄膜を成膜する。そして、一の成膜ユニットによるシート状の基材に対する成膜終了位置から次の成膜ユニットによるシート状の基材の部分に対する成膜開始位置までシート状の基材が案内される間(例えば、一のキャンローラから他のキャンローラにシート状の基材が案内される間)に、シート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離し、言い換えると、剥離手段によりシート状の基材からシート状のマスク材を剥離するときにシート状の基材に作用するせん断力が大きくなる前に一旦剥離する。これにより、シート状の基材に例えばアルミニウムやリチウムといった金属膜を所定の膜厚(目標膜厚)で成膜する場合でも、シート状のマスク材の剥離に伴うシート状の基材の破損を可及的に防止することができる。
【0011】
なお、本発明は、単一のキャンローラの周囲に複数個の成膜ユニットが周方向に所定間隔で配置されている真空成膜装置にも適用できる。このような場合には、一の成膜ユニットによるシート状の基材に対する成膜終了位置から次の成膜ユニットによるシート状の基材に対する成膜開始位置までの間でシート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離できれば、その構成は問わない。また、本発明は、単一のキャンローラに対峙させて単一の成膜ユニットが配置され、所謂逆転成膜によりシート状の基材の一方の面に所定の薄膜を成膜する真空成膜装置にも適用できる。即ち、繰出ローラからシート状の基材を繰り出し、単一の成膜ユニットによりキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して成膜し、巻取ローラで成膜済みのシート状の基材を一旦巻き取り、その後に、巻取ローラからシート状の基材を再度繰り出し、単一の成膜ユニットによりキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して更に成膜し、繰出ローラで成膜済みのシート状の基材を巻き取るようにして成膜するものにも適用できる。この場合、単一の成膜ユニットが、上記にいう「一の成膜ユニット」と「次の成膜ユニット」を兼用し、例えば、一旦巻き取ったシート状の基材を巻取ローラから繰り出した後、キャンローラに巻き掛けられるまでの間にシート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の真空成膜装置を示す模式図。
【
図2】本発明の他の実施形態の真空成膜装置の一部を拡大して示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、シート状の基材Swを厚さが10μmで銅製のもの、シート状のマスク材Smを厚さが10μmで合成樹脂(例えば、PET)製のもの、蒸着材料をアルミニウムやリチウムといった金属とし、シート状の基材Swの幅方向両側にシート状のマスク材Smを密着させて真空蒸着法によりシート状の基材Swの一方の面に金属膜を成膜する場合を例に本発明の真空成膜装置及び真空成膜方法の実施形態を説明する。以下において、キャンローラの軸線方向が水平方向に一致する姿勢でキャンローラが成膜チャンバ(真空処理室)Vc1内に収容されているものとし、キャンローラの軸線が位置する平面をXY平面、XY平面に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、上、下といった方向は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す
図1を基準とする。
【0014】
図1を参照して、真空成膜(蒸着)装置DM
1は、中央の成膜チャンバVc1と、成膜チャンバVc1のY軸方向(
図1中、左右方向)両側に夫々連設される第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3とを備える。特に図示して説明しないが、成膜チャンバVc1と各搬送チャンバVc2,Vc3とには、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ等で構成される真空ポンプユニットからの排気管が夫々接続され、真空雰囲気を形成できるようになっている。成膜チャンバVc1と、各搬送チャンバVc2,Vc3との互いに向かい合う側壁には、シート状のマスク材Smが密着されたシート状の基材Swの通過を許容する透孔h1~h4が夫々開設されている。また、成膜チャンバVc1と、各搬送チャンバVc2,Vc3との両側壁間の隙間には、この隙間を通過するシート状のマスク材Smが密着されたシート状の基材Swの部分を覆うようにしてロードロックバルブLvが設けられている。これにより、真空雰囲気中にて一貫してシート状の基材Sw及びシート状のマスク材Smが搬送できると共に成膜チャンバVc1と各搬送チャンバVc2,Vc3とを互いに隔絶できる。なお、この種の真空成膜(蒸着)装置DM
1に利用されるロードロックバルブLvとしては公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0015】
Y軸方向一方(
図1中、左側)に位置する第1の搬送チャンバVc2には、成膜前のシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが夫々巻回される第1及び第2の各繰出ローラWr1,Wr2が設けられ、第1の搬送チャンバVc2外に設けられるモータM11,M12により夫々回転駆動されるようになっている。なお、シート状の基材Swの幅方向両側に、これより幅狭のシート状のマスク材Smを夫々密着させるために、第2の繰出ローラWr2は、本来、第1の搬送チャンバVc2内に別々に設けられるが、これらは同一の構成を持つことから、以下においては、本実施形態の説明を簡素化する目的でシート状の基材Swの幅方向一側にシート状のマスク材Smを密着させるものを例に説明する。第1の搬送チャンバVc2内にはまた、シート状の基材Swとシート状のマスク材SmとをZ軸方向上下に重ねて密着させる密着手段としての上下一対のプラテンローラPr1,Pr2と、プラテンローラPr1,Pr2に第1及び第2の各繰出ローラWr1,Wr2から繰り出されたシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとを案内するガイドローラGr1,Gr2とが設けられている。
【0016】
Y軸方向他方(
図1中、右側)に位置する第2の搬送チャンバVc3には、成膜済みのシート状の基材Swとシート状の基材Swから剥離されたシート状のマスク材Smを巻き取る第1及び第2の巻取ローラUr1,Ur2が設けられ、第2の搬送チャンバVc3外に設けられるモータM21,M22により回転駆動されるようになっている。第2の搬送チャンバVc3内にはまた、Z軸方向で近接配置した上下一対の分離用のガイドローラSe1,Se2が設けられ、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが互いに逆方向に巻き掛けられて、シート状の基材Swからシート状のマスク材Smを分離するようになっている。そして、分離用のガイドローラSe1,Se2で分離されたシート状の基材Swとシート状のマスク材SmとがガイドローラGr3,Gr4を介して第1及び第2の巻取ローラUr1,Ur2に夫々案内されて巻き取られるようになっている。
【0017】
成膜チャンバVc1には、夫々の回転軸ArをXY平面上に平行に位置させて複数個(本実施形態では、4個)のキャンローラCr1~Cr4がY軸方向に等間隔で並設され、各キャンローラCr1~Cr4が成膜チャンバVc1外に設けられるモータM3により夫々回転駆動されるようになっている。本実施形態では、回転駆動される第1の繰出ローラWr1、各キャンローラCr1~Cr4及び第1の巻取ローラUr1が基材走行手段を、第2の繰出ローラWr2、各キャンローラCr1~Cr4及び第2の巻取ローラUr2がマスク材走行手段を構成する。成膜チャンバVc1にはまた、各キャンローラCr1~Cr4のZ軸方向下方に夫々対峙させて、真空蒸着法によりシート状の基材Swの一方の面にマスク材Sm越しに成膜する成膜ユニットFu1~Fu4が設けられている。成膜ユニットFu1~Fu4としては、特に図示して説明しないが、例えば蒸着材料を収容する直方体状の収容箱を備え、収容箱のシート状の基材Swの部分との対向面(即ち、鉛直方向の上面)にスリット状の放出開口が設けられているもの(所謂ラインソース)等、公知のものが利用でき、また、各キャンローラCr1~Cr4としては、これに巻き掛けられて周回する間にシート状の基材Swを冷却できるものであり、これ自体も公知のものであるため、これ以上の説明は省略する。
【0018】
成膜チャンバVc1には、互いに隣接する各キャンローラCr1~Cr4の間でZ軸方向上下に間隔を置いて一対の剥離用のガイドローラPg1,Pg2が設けられ、Z軸方向上方に位置するガイドローラPg1にシート状の基材Swが、下方に位置するガイドローラPg2にシート状のマスク材Smが夫々巻き掛けられるようにしている。これにより、例えば、シート状のマスク材Smが密着したシート状の基材Swが、成膜チャンバVc1に設けたガイドローラGr5,Gr6を介して、最上流側のキャンローラCr1に案内されてこれを周回すると、剥離用の各ガイドローラPg1,Pg2によりシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが互いに異なる方向に引っ張られることで(即ち、キャンローラCr1~Cr4におけるシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの抱角を変えることで)、両者が一旦剥離される。そして、ガイドローラPg1を周回したシート状の基材Swと、ガイドローラPg2を周回したシート状のマスク材Smとがこれに隣接するキャンローラCr2に夫々案内されて、互いに再度重ね合わされて密着し、この状態でキャンローラCr2を周回するようになる。本実施形態では、一対の剥離用のガイドローラPg1,Pg2が剥離手段を構成する。最後に、最下流側のキャンローラCr4を経た、シート状のマスク材Smが密着したシート状の基材Swは、成膜チャンバVc1に設けたガイドローラGr7を介して第2の搬送チャンバVc3へと案内される。以下に、シート状の基材Swに対するマスク材Sm越しの成膜方法を説明する。
【0019】
上記真空蒸着装置DM1にて、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとを走行させながら、シート状の基材Swの一方の面にマスク材Sm越しに成膜する場合、成膜ユニットFu1~Fu4に顆粒状やインゴット状の蒸着材料を充填する。また、第1の搬送チャンバVc2にて、第1の繰出ローラWr1にシート状の基材Swが、第2の繰出ローラWr2にシート状のマスク材Smが夫々巻回され、その両先端部が各ガイドローラGr1,Gr2を介してプラテンローラPr1,Pr2に案内される。そして、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの先端部をガイドローラGr5,Gr6を経て、各キャンローラCr1~Cr4及び剥離用のガイドローラPg1,Pg2に順次巻き掛けた後、ガイドローラGr7を介して第2の搬送チャンバVc3に案内する。そして、第2の搬送チャンバVc3にて、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの先端部が分離用のガイドローラSe1,Se2で夫々逆方向に巻き掛けられ、ガイドローラGr3,Gr4を介して第1及び第2の巻取ローラUr1,Ur2に夫々固定される。その後、成膜チャンバVc1、第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3が夫々所定圧力まで真空排気される。
【0020】
次に、成膜ユニットFu1~Fu4に夫々設けたヒータ(図示せず)を作動して蒸着(金属)材料が加熱され、これにより、各成膜ユニットFu1~Fu4にて蒸着材料が気化し始める。次に、モータM11,M12,M21,M22,M3を夫々回転駆動して、シート状の基材Swを一定の速度で走行させる。これにより、各キャンローラCr1~Cr4を周回する間にシート状の基材Swの一方の面にマスク材Sm越しに成膜される。このとき、シート状の基材Swに成膜しようとする金属膜の膜厚を目標膜厚とし、4個のキャンローラCr1~Cr4を経たときに目標膜厚に達するように各成膜ユニットFu1~Fu4での蒸着レートや各キャンローラCr1~Cr4の回転数が制御される(言い換えると、シート状の基材Swへの成膜を4回に分けて行う)。このとき、各キャンローラCr1~Cr4にて、これに巻き掛けられて周回するシート状の基材Swに成膜ユニットFu1~Fu4から飛散する蒸着材料が到達し始める位置が成膜開始位置Sp、蒸着材料がもはや到達しなくなる位置が成膜終了位置Epとなる。そして、剥離手段Pg1,Pg2を設けたことで、例えば最上流側のキャンローラCr1からこれに隣接するキャンローラCr2にシート状の基材Swが案内される間(言い換えると、一の成膜ユニットFu1~Fu3によるシート状の基材Swに対する成膜終了位置Epから次の成膜ユニットFu2~Fu4によるシート状の基材Swに対する成膜開始位置Spまでの間)にシート状の基材Swからシート状のマスク材Smが一旦剥離され、これが、下流側の各キャンローラCr2~Cr4を経る毎に繰り返される。成膜されたシート状の基材Swは、第2の搬送チャンバVc3内にて分離用のガイドローラSe1,Se2でシート状のマスク材Smが分離された後、第1の巻取ローラUr1に巻き取られ、分離されたシート状のマスク材Smは、第2の巻取ローラUr2に巻き取られる。そして、第2の搬送チャンバVc3を大気開放した後、成膜処理済みのシート状の基材Swが回収される。
【0021】
以上の実施形態によれば、シート状の基材Swからシート状のマスク材Smを一旦剥離する。言い換えると、剥離手段Pg1,Pg2によりシート状の基材Swからシート状のマスク材Smを剥離するときにシート状に基材Swに作用するせん断力が大きくなる前に一旦剥離される。これにより、シート状の基材Swに例えばアルミニウムやリチウムといった金属膜を所定の膜厚(目標膜厚)で成膜する場合でも、シート状のマスク材Smの剥離に伴うシート状の基材Swの破損を可及的に防止することができる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、キャンローラCr1~Cr4を4個設け、各キャンローラCr1~Cr4に対峙させて成膜ユニットFu1~Fu4を設けたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、キャンローラCr1~Cr4の数やその配置は上記のものに限定されるものではない。また、成膜ユニットについても、互いに隣接する2個キャンローラに対して1個の成膜ユニットで成膜するようにしてもよい。
【0023】
例えば、他の実施形態に係る真空成膜(蒸着)装置DM
2は、
図2に示すように、中央の成膜チャンバVc1内に単一のキャンローラCr10が設けられ、キャンローラCr10の周囲には、例えば2個の成膜ユニットFu10,Fu20が周方向に所定間隔で配置されている。キャンローラCr10の周囲にはまた、周方向で各成膜ユニットFu10,Fu20の間に位置させて、シート状のマスク材Smのみが巻き掛けられるガイドローラPg10が設けられている。これにより、例えば、一の成膜ユニットFu10によるシート状の基材Swに対する成膜終了位置Epから、次の成膜ユニットFu20によるシート状の基材Swに対する成膜開始位置Spまでの間でシート状の基材Swからシート状のマスク材Smが一旦剥離される。また、特に図示して説明しないが、単一のキャンローラに対峙させて単一の成膜ユニットが配置され、所謂逆転成膜によりシート状の基材の一方の面に所定の薄膜を成膜する真空成膜装置にも本発明は適用できる。即ち、繰出ローラからシート状の基材を繰り出し、単一の成膜ユニットによりキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して成膜し、巻取ローラで成膜済みのシート状の基材を一旦巻き取り、その後に、巻取ローラからシート状の基材を再度繰り出し、単一の成膜ユニットによりキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して更に成膜し、繰出ローラで成膜済みのシート状の基材を巻き取るようにして成膜するものにも適用できる。この場合、単一の成膜ユニットが、上記にいう「一の成膜ユニット」と「次の成膜ユニット」を兼用し、例えば、一旦巻き取ったシート状の基材を巻取ローラから繰り出した後、キャンローラに巻き掛けられるまでの間にシート状の基材からシート状のマスク材を一旦剥離すればよい。
【0024】
更に、上記実施形態では、剥離手段として、剥離用のガイドローラPg1,Pg2を設けるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、互いに密着したシート状の基材Swとマスク材Smとを一旦剥離できるものであれば、その形態を問わず、例えばピールプレートを用い、シート状のマスク材Smが密着したシート状の基材Swを折り返して両者を剥離することもできる。
【0025】
また、上記実施形態では、シート状の基材Swの幅方向両側にシート状のマスク材Smを密着させて真空蒸着法によりシート状の基材Swの一方の面に金属膜を成膜する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、シート状の基材Swの両面にシート状のマスク材Smを夫々密着させ、シート状の基材Swの両面に交互に金属膜を夫々成膜するものにも本発明は適用することができる。このような場合、
図1に示す実施形態のものを参照して説明すると、更に他の実施形態に係る真空成膜装置(図示せず)では、第1の搬送チャンバVc2に、成膜前のシート状の基材Swと、その一方の面に密着されるシート状のマスク材Smに加えて、その他方の面に密着される他のシート状のマスク材(図示せず)が巻回される他の繰出ローラ(図示せず)が更に設けられると共に、第2の搬送チャンバVc3に、他のシート状のマスク材を巻き取る他の巻取ローラ(図示せず)が更に設けられる。また、更に他の実施形態に係る真空成膜装置(図示せず)では、
図1に示す実施形態でいうところの剥離用のガイドローラPg2が、Y軸方向に等間隔で並設される各キャンローラ(図示せず)で構成されると共に、各キャンローラのZ軸方向上方に夫々対峙させて、真空蒸着法によるシート状の基材Swの一方の面にマスク材Sm越しに成膜する成膜ユニット(図示せず)が設けられる。そして、上記実施形態と同様に、互いに隣接する各キャンローラの間でZ軸方向上下に間隔を置いて剥離用の他のガイドローラ(図示せず)が更に設けられ、他のガイドローラにシート状のマスク材Smが巻き掛けられるようにしている。
【0026】
以上によれば、シート状の基材Swの両面にシート状のマスク材Smが夫々密着された後、最上流側のキャンローラ(
図1でいうところのキャンローラCr1)に案内されてこれを周回する間に、シート状の基材Swの一方の面にマスク材越しに成膜され、次のキャンローラ(
図1でいうところの剥離用のローラPg1)に、他方の面にマスク材が密着した状態のシート状の基材Swが案内されてシート状の基材Swの他方の面にマスク材越しに成膜されると共に、剥離用の各ガイドローラPg2によりシート状の基材Swの一方の面から一方のシート状のマスク材Smが一旦剥離される。そして、更に次のキャンローラ(
図1でいうところの剥離用のローラPg2)に、シート状の基材SwとガイドローラPg2を周回したシート状のマスク材Smとが夫々案内されて、互いに再度重ね合わされて密着し、この状態でキャンローラCr2を周回し、その間に成膜される。このような構成を採用すると、シート状の基材Swの両面に比較的厚い膜厚で成膜するような場合に、膜応力を相殺できるため、シート状の基材Swの変形に纏わる問題の発生を防止できて生産物の品質向上に寄与し、有利である。
【符号の説明】
【0027】
DM1,DM2…真空蒸着装置(真空成膜装置)、Ar…回転軸、Cr1~Cr4…キャンローラ(基材走行手段,マスク材走行手段)、Fu1~Fu4,Fu10~Fu30…成膜ユニット、Pg1,Pg2,Pg10,Pg20…剥離用のガイドローラ(剥離手段)、Pr1,Pr2…プラテンローラ(密着手段)、Sm…シート状のマスク材、Sw…シート状の基材、Sp…成膜開始位置、Ep…成膜終了位置、Ur1…第1の巻取ローラ(基材走行手段)、Ur2…第2の巻取ローラ(マスク材走行手段)、Vc1…成膜チャンバ(真空処理室)、Wr1…第1の繰出ローラ(基材走行手段)、Wr2…第2の繰出ローラ(マスク材走行手段)。