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  • 特許-粉体圧縮物の製造方法 図1
  • 特許-粉体圧縮物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】粉体圧縮物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 11/02 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B30B11/02 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021504122
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009019
(87)【国際公開番号】W WO2020179805
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019038909
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽生 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】神谷 哲
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-141916(JP,A)
【文献】特開2008-290145(JP,A)
【文献】特開2006-007291(JP,A)
【文献】特公平7-106473(JP,B2)
【文献】特公平7-112638(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/00 - 11/02
A23C 9/18
A23P 10/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を圧縮成形した固形状の粉体圧縮物の製造方法において、
前記粉体を第1圧縮速度で圧縮する第1圧縮工程と、
前記第1圧縮速度よりも遅い第2圧縮速度で、前記第1圧縮工程で圧縮された前記粉体の粉体圧縮物を、前記第1圧縮工程で圧縮された状態から、粉体圧縮物の目標の厚みに対応して決められた圧縮状態における粉体圧縮物の最終の厚みまで圧縮する第2圧縮工程とを有し、
前記第1圧縮速度をV 、前記第2圧縮速度をV としたときに、圧縮速度比V /V が5以上であること
を特徴とする粉体圧縮物の製造方法。
【請求項2】
前記第2圧縮工程は、前記第1圧縮工程で圧縮された状態から粉体圧縮物を圧縮した際に圧縮距離に対する粉体圧縮物の硬度の変化率が低下した状態にまで圧縮するように、前記第1圧縮工程で圧縮された状態から前記最終の厚みまでの圧縮距離と前記第2圧縮速度との組み合わせが設定されていること
を特徴とする請求項1に記載の粉体圧縮物の製造方法。
【請求項3】
前記粉体は粉乳であること
を特徴とする請求項1または2に記載の粉体圧縮物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体圧縮物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体圧縮物として、粉乳を圧縮成形した固形乳が知られている(特許文献1)。この固形乳は、温水中に投入することで速やかに溶解する溶解性が要求されるとともに、輸送適性、すなわち輸送中や携行中に割れたり崩れたりの破壊が生じないような硬度が要求されている。固形乳は、その空隙率を大きくすることで溶解性を高めることができるが、空隙率を大きくすることによって硬度の低下が生じる。そこで、溶解性と輸送適性との観点から最適な空隙率が設定されている。なお、「空隙率」とは、粉体の嵩体積中に空隙が占める体積の割合を意味する。
【0003】
粉乳をはじめとする粉体を圧縮成形する打錠機として、回転式打錠機が知られている(例えば、特許文献2を参照)。また、2つの臼孔部を有するスライドプレートを水平方向に往復動する打錠機(特許文献3を参照)が知られている。この特許文献3の打錠機では、成形ゾーンを挟んで2つの排出ゾーンが設けられており、一方の臼孔部を成形ゾーンに他方の臼部を一方の排出ゾーンにセットする第1の位置と、他方の臼孔部を成形ゾーンに一方の臼部を他方の排出ゾーンにセットする第2の位置との間でスライドプレートを往復動し、成形ゾーンにセットされた臼孔部の複数の臼孔にそれぞれ下杵と上杵とを進入させて粉体を圧縮成形し、排出ゾーンにセットされた臼孔部の複数の臼孔から粉体を圧縮成形した粉体圧縮物を押し出す構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/004190号
【文献】特開2000―95674号公報
【文献】特開2007-307592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、粉体圧縮物について同一の空隙率(圧縮圧)を維持する場合、圧縮速度が高速になるほど硬度が低下する。このため、空隙率を維持しつつ粉体圧縮物の硬度を高くするには、圧縮速度を低く抑えることが有用であると考えられる。しかしながら、圧縮速度を抑えて粉体を圧縮した場合、粉体圧縮物の製造速度が低下し、生産効率が悪くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、粉体圧縮物の生産効率の低下を抑えながら、硬度の向上を図ることができる粉体圧縮物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の粉体圧縮物の製造方法は、粉体を圧縮成形した固形状の粉体圧縮物の製造方法において、前記粉体を第1圧縮速度で圧縮する第1圧縮工程と、前記第1圧縮速度よりも遅い第2圧縮速度で、前記第1圧縮工程で圧縮された前記粉体の粉体圧縮物を、前記第1圧縮工程で圧縮された状態から、粉体圧縮物の目標の厚みに対応して決められた圧縮状態における粉体圧縮物の最終の厚みまで圧縮する第2圧縮工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1圧縮速度による第1圧縮に続けて第1圧縮速度よりも遅い第2圧縮速度で第2圧縮を行うので、第1圧縮速度による圧縮だけを行う場合に比べて、粉体圧縮物の硬度を向上することができるとともに、粉体圧縮物の生産効率の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】打錠機の構成を示す説明図である。
図2】第1圧縮の第1圧縮距離と第2圧縮の第2圧縮距離とを説明する説明図である。
図3】圧縮速度比と粉体圧縮物の硬度比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1において、実施形態にかかる打錠機10は、成形ゾーン12と、この成形ゾーン12の両側の取出ゾーン13a、13bとが設けられている。成形ゾーン12は、粉体を固形状の粉体圧縮物(以下、単に圧縮物という)14に圧縮成形するゾーンである。取出ゾーン13a、13bは、成形ゾーン12で圧縮成形された圧縮物14を回収トレー15に取り出すゾーンである。なお、図1は、打錠機10の構成を模式的に示している。
【0011】
例えば、粉体としては粉乳が用いられ、打錠機10によって圧縮物14としての固形乳が圧縮成形される。打錠機10及び圧縮成形の手法は、粉乳以外の粉体から圧縮物14を作製する場合にも有用である。粉体は、特に限定されず、金属、触媒、界面活性剤等の無機化合物、糖質、粉末油脂、タンパク質等の有機化合物、これらの混合物等を挙げることができる。また、作製される圧縮物14についても、特に限定されず、食品や薬品としての圧縮物、工業的な製品としての圧縮物等とすることができる。
【0012】
打錠機10には、スライドプレート17が水平方向(図中左右方向)にスライド自在に設けられている。このスライドプレート17は、そのスライド方向の一端側(図中左側)の第1臼部17aと、他端側(図中右側)の第2臼部17bとを有している。第1臼部17a及び第2臼部17bには、スライドプレート17の厚み方向(上下方向)に貫通した複数の臼孔18がマトリクス状にそれぞれ配されている。
【0013】
上記スライドプレート17は、図示されるように、第1臼部17aを成形ゾーン12に、第2臼部17bを取出ゾーン13bにそれぞれセットした第1スライド位置と、第2臼部17bを成形ゾーン12に、第1臼部17aを取出ゾーン13aにそれぞれセットした第2スライド位置とにスライド機構(図示省略)によってスライドされる。
【0014】
成形ゾーン12には、スライドプレート17の下方に下杵部21が配され、また上方に上杵部22が配されている。また、各取出ゾーン13a、13bには、スライドプレート17よりも上方にそれぞれ押出部24a、24bが配されている。下杵部21は、アクチュエータ26で上下動される。上杵部22と押出部24a、24bとは連結部材で連結されており、アクチュエータ27によって一体に上下動する。
【0015】
下杵部21は、その上部に複数の下杵31が立設され、上杵部22は、その下部に複数の上杵32が立設されている。下杵31及び上杵32は、臼部の複数の臼孔18にそれぞれ対応してマトリクス状に配列している。これにより、成形ゾーン12にセットされている第1臼部17aまたは第2臼部17bのいずれか一方の各臼孔18内に下杵31と上杵32とが嵌挿される。後述するように、臼孔18内において、嵌挿された下杵31の上端面と上杵32の下端面との間で粉体を圧縮物14に圧縮成形する。
【0016】
アクチュエータ26、27は、制御部34で駆動が制御される、例えばサーボモータで構成されており、下杵部21、上杵部22を上下動させる。この例ではアクチュエータ26、27としてのサーボモータの速度を変化させることで、詳細を後述するように、圧縮成形する際の圧縮速度すなわち下杵31、上杵32の移動速度を変化させている。アクチュエータ26、27としては、サーボモータに限定されず、また下杵部21、上杵部22の移動速度を変化させる手法もこれに限定されるものではない。例えば、油圧シリンダー等を用いてもよい。また、この例では、圧縮成形の際には、下杵31、上杵32の両方を互いに近づく方向に移動させるが、一方を固定し他方だけを移動させてもよい。
【0017】
打錠機10には、粉体を臼孔18に供給する漏斗36が設けられている。漏斗36は、その底面がスライドプレート17の上面に近接して配されている。この漏斗36の底面には、スライドプレート17の幅方向(スライド方向と直交する方向)に延びたスリット状の底部開口が設けられている。漏斗36は、下杵31、上杵32による圧縮成形に先立って、成形ゾーン12にセットされている臼部の上方を往復動する。この往復動の間に、漏斗36内にホッパー(図示省略)から粉体が供給されることにより、底部開口を介して一定量の粉体を臼孔18内に供給する。このように、漏斗36は、ホッパーとともに粉体供給部を構成している。成形圧縮時には、漏斗36は、下降する上杵部22、押出部24a、24bと干渉しない位置に移動する。なお、粉体を臼孔18内に供給する際には、下杵31が臼孔18に嵌挿された状態で行われる。また、漏斗36の底面がスライドプレート17の上面と摺動してもよい。
【0018】
押出部24a、24bは、その下部に複数の押出体38が立設されている。押出部24a、24bの押出体38は、上杵32と同様に、臼部の複数の臼孔18にそれぞれ対応してマトリクス状に配列されている。スライドプレート17が第1スライド位置に移動された状態では、押出部24bの押出体38が第2臼部17bの臼孔18内に挿入され、また第2スライド位置に移動された状態では、押出部24aの押出体38が第1臼部17aの臼孔18内に挿入される。これにより、押出体38で臼孔18内から圧縮成形された圧縮物14を押し出して回収トレー15に取り出す。
【0019】
打錠機10によって作製する圧縮物14の形状は、特に限定されない。圧縮物14の形状としては、例えば、円盤状、レンズ状、キューブ形状、キューブの表面に凹部や凸部を設けた形状等を挙げることができる。
【0020】
上記の打錠機10による圧縮物14の圧縮成形の手順は次の通りである。スライドプレート17が、例えば第1スライド位置に移動される。このスライドプレート17の移動後に、アクチュエータ26が駆動されて、下杵部21が上昇し、各下杵31が第1臼部17aの対応する臼孔18内にそれぞれ嵌挿されて、臼孔18の底部を塞いだ状態で停止する。この後に、漏斗36が、第1臼部17aの一端から他端(この例では右端から左端)に移動してから一端に戻るように往復動する。そして、この間に漏斗36に対して粉体が供給されることにより、漏斗36の底部開口を介して臼孔18内に一定量の粉体が供給される。
【0021】
続いて、アクチュエータ27が駆動されることによって、上杵部22と押出部24a、24bが下降する。これにより、上杵部22の各上杵32が第1臼部17aの各臼孔18にそれぞれ嵌挿される。この後に上杵部22の下降が継続されるとともに、下杵部21が再び上昇を開始する。これにより、各臼孔18内において、下杵31の上端面と上杵32の下端面との間で粉体が圧縮される。この圧縮の際には、下杵31の上端面と上杵32の下端面とが近づく圧縮速度を変化させる(切り替える)。すなわち、まず第1圧縮速度Vで第1圧縮を行い、この第1圧縮から続けて第2圧縮速度Vで第2圧縮を行う。打錠機10では、第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vが遅くされている。
【0022】
上記の下杵31と上杵32とによる粉体の圧縮により、圧縮物14が形成される。下杵31と上杵32とによる圧縮を解除することにより、圧縮物14の厚み(上下方向の長さ)が圧縮されている状態よりも膨張する。このため、打錠機10では、圧縮終了時における下杵31の上端面と上杵32の下端面との間隔すなわち圧縮を維持した状態での圧縮物14の最終の厚みは、圧縮を解除した状態での最終的な成形体である圧縮物14の目標とする厚み(以下、目標厚みという)に基づき、圧縮を解除したときの圧縮物14の膨張を考慮して決められている。
【0023】
圧縮の完了の後、下杵部21が下降され、上杵部22が上昇して、各下杵31及び各上杵32が臼孔18から抜かれる。このときに、圧縮物14は、臼孔18内に残る。
【0024】
次に、スライドプレート17が第1スライド位置から第2スライド位置に移動され、第2臼部17bが成形ゾーン12にセットされる。成形ゾーン12では、上記の第1臼部17aを用いた粉体の圧縮成形と同じ手順で、第2臼部17bを用いて、各臼孔18内で粉体から圧縮物14が圧縮成形される。
【0025】
一方、スライドプレート17が第2スライド位置に移動することにより、第1臼部17aが臼孔18内の圧縮物14とともに取出ゾーン13aにセットされる。押出部24a、24bは、上杵部22と一体に下降するから、上記のように第2臼部17bを用いて、圧縮物14を圧縮成形する際に、第1臼部17aの各臼孔18内に押出体38が挿入される。これにより、押出体38によって、第1臼部17aの各臼孔18内の圧縮物14が臼孔18から回収トレー15上に押し出される。回収トレー15は、圧縮物14が押し出された後に移動し、新たな回収トレー15が取出ゾーン13aにセットされる。
【0026】
上記のようにして、第2臼部17bを用いた圧縮成形と、第1臼部17aからの圧縮物14の取り出しが完了すると、スライドプレート17が第1スライド位置に移動する。この移動後、上記と同様な手順により、第1臼部17aを用いた圧縮成形が行われるとともに、取出ゾーン13bにセットされている第2臼部17bの各臼孔18から圧縮物14が回収トレー15上に押し出される。
【0027】
以降、同様にスライドプレート17を第1スライド位置と第2スライド位置とに交互に移動し、成形ゾーン12での粉体の圧縮成形と、取出ゾーン13aまたは取出ゾーン13bでの圧縮物14の取り出しを行う。
【0028】
上述のように、打錠機10では、まず第1圧縮速度Vで第1圧縮を行ってから、第2圧縮速度Vで第2圧縮を行う。第1圧縮及び第2圧縮の圧縮距離は、この例においては、図2(A)に示すように、第2圧縮の終了時すなわち全圧縮行程の終了時における状態を基準にしている。下杵31と上杵32とによる圧縮は、下杵31の上端面と上杵32の下端面との間の杵間隔が最終杵間隔Lとなるまで行われる。最終杵間隔Lは、全圧縮行程で圧縮された状態の圧縮物14の最終の厚みである。この最終杵間隔Lは、上述のように圧縮を解除したときに圧縮物14が膨張することを考慮して決められており、圧縮物14の目標厚みよりも小さい。
【0029】
図2(B)は、第2圧縮の開始時すなわち第1圧縮の終了時における状態を、図2(C)は、第1圧縮の開始時の状態をそれぞれ示している。図2(C)示される杵間隔(L+L+L)の状態から、図2(B)に示される杵間隔(L+L)の状態になるまでの圧縮が第1圧縮である。また、図2(B)に示される杵間隔(L+L)の状態から、図2(A)に示される最終杵間隔Lの状態になるまでの圧縮が第2圧縮である。
【0030】
第1圧縮の第1圧縮距離は、第1圧縮において杵間隔の減少する距離Lとなる。第2圧縮の第2圧縮距離は、第2圧縮において杵間隔の減少する距離Lとなる。圧縮を解除することなく第1圧縮から続けて第2圧縮を行うので、この第2圧縮距離Lは、圧縮物14を第1圧縮で圧縮された状態から最終の厚み(L)までの圧縮距離である。
【0031】
また、第1圧縮における杵間隔の変化速度が第1圧縮速度Vであり、第2圧縮における杵間隔の変化速度が第2圧縮速度Vである。なお、第1圧縮の間、第2圧縮の間に杵間隔の変化速度が変動するような場合では、平均速度を第1圧縮速度V、第2圧縮速度Vとする。
【0032】
第1圧縮の後に第1圧縮速度Vよりも遅い第2圧縮速度Vで第2圧縮を行うことで、その第1圧縮速度Vと同じ圧縮速度及び同じ圧縮距離(L+L)で圧縮を行った場合よりも、圧縮物14の硬度を高くすることができる。しかも、第2圧縮を第1圧縮に続けて行い、また第2圧縮距離Lを短くすることができるので、第1圧縮速度Vよりも遅い第2圧縮速度Vで第2圧縮を行うことによる圧縮時間の増加は小さい。したがって、圧縮物14の製造速度の低下が軽微である。
【0033】
この例では、圧縮物14の硬度を効率的に高めるために、第1圧縮で圧縮された状態から圧縮物14を圧縮した際に、圧縮距離に対する圧縮物14の硬度の変化率が低下した状態にまで圧縮するという第2圧縮条件を満たすように、第2圧縮の態様すなわち第2圧縮速度V及び第2圧縮距離Lの組み合わせを決めている。
【0034】
発明者らは、第1圧縮速度V、第1圧縮距離L、第2圧縮速度V、第2圧縮距離Lの種々の組み合わせから得られた各圧縮物を調べた結果から、第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vを小さくしたときに、第2圧縮距離Lの変化に対する圧縮物の硬度の変化率(増加率)が低下する特異的な点(以下、硬度特異点と称する)が存在することを見出した。また、発明者らは、その硬度特異点に対応する第2圧縮距離Lは、第1圧縮速度Vによって変化し、第2圧縮速度Vの影響も受けることも見出した。
【0035】
硬度特異点が存在するのは、圧縮物の内部の粉体の粒子の再配列が支配的な圧縮状態から、圧縮物の内部で塑性変形が支配的な圧縮状態に変化するためであると推察される。また、第1圧縮速度Vが大きいほど、圧縮物の内部の塑性変形に必要なエネルギーが大きくなるため、第1圧縮速度Vに応じて硬度特異点に対応する第2圧縮距離Lが変化し、またその第2圧縮距離Lが第2圧縮速度Vの影響を受けるものと推察される。
【0036】
上記の知見に基づき、上記第2圧縮条件を満たすように第2圧縮を行うことで、圧縮時間の増加を抑えながら、効率的に圧縮物14の硬度を大きく向上させている。なお、上記のような圧縮物の圧縮状態の変化は、前述の各種粉体で生じるものであり、各種粉体から圧縮物を圧縮成形する際に、第2圧縮条件を満たすように第2圧縮を行うことは有用である。
【0037】
また、第1圧縮速度Vの第2圧縮速度Vに対する比率である圧縮速度比(=V/V)を5以上とすることも好ましい。圧縮速度比を5以上とすることにより、圧縮物14の硬度を大きく増大させることができる。
【0038】
上記打錠機10の構成は、一例であり、第1圧縮と第2圧縮とで圧縮速度を変化させて圧縮できるものであれば、その構成は限定されない。また、この例では、第2圧縮において、最終厚みまで圧縮を行っているが、第2圧縮に続けて、第2圧縮速度から速度を変化させた圧縮をさらに行ってもよい。この場合、第2圧縮よりも後の圧縮で最終の厚みまで圧縮物14を圧縮する。
【実施例
【0039】
第1圧縮速度V、第1圧縮距離L、第2圧縮速度V、第2圧縮距離Lの種々の組み合わせで圧縮物14を圧縮成形する実験1~110を行い、実験1~110で作製された各圧縮物14の硬度を評価した。第1圧縮速度Vとしては、1mm/秒、10mm/秒、100mm/秒、第1圧縮距離Lとしては、5mm、10mm、第2圧縮速度Vとしては、0.25mm/秒、1mm/秒、2mm/秒、10mm/秒、50mm/秒、第2圧縮距離Lとしては、0.2mm、0.4mm、0.8mm、1.6mmとした。実験1~110には、第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vが遅い例の他に、第1圧縮速度Vと第2圧縮速度Vとが同じ例、第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vが速い例が含まれる。また、第1圧縮速度V、第1圧縮距離L、第2圧縮速度V、第2圧縮距離Lが異なる他は、各圧縮物14の作製条件は同じとした。
【0040】
表1-1~表1-3に実験1~110についての第1圧縮速度V、第1圧縮距離L、第2圧縮速度V、第2圧縮距離Lの組み合わせを示す。
【0041】
【表1-1】
【0042】
【表1-2】
【0043】
【表1-3】
【0044】
圧縮物14の材料となる粉体としては粉乳を用いた。粉乳の組成は、タンパク11.1g/100g、炭水化物57.7g/100g、脂質26.1g/100gであった。また、圧縮成形に用いた粉乳は、粉乳とその造粒物とが混合したものであり、粉乳の大きさ(粒径)は,5μm~150μm程度であり,粉乳の造粒物の大きさは,100μm~500μm程度であった。
【0045】
上記打錠機10と同様に、臼孔内において下杵と上杵との間で粉乳を圧縮成形して圧縮物14を作製した。実験1~110では、2.0gの粉乳を圧縮成形して圧縮物14とした。圧縮物14の形状は、直径20mmm、厚み(目標厚み)9.5mmの円盤状とした。この目標厚み(9.5mm)に対して、最終杵間隔L(最終厚み)を8.4mmに設定して圧縮成形を行った。
【0046】
また、参考実験R1~R6として、圧縮中に圧縮速度を変化させないで圧縮成形した圧縮物(以下、参考圧縮物という)を作製した。参考実験R1~R6についての圧縮速度V、圧縮距離Lを表2に示す。なお、参考圧縮物のその他の作製条件は、圧縮物14のものと同じである。
【0047】
【表2】
【0048】
なお、参考実験R2、R4、R6では、圧縮距離Lが10mmであるが、粉体(粉乳)を実質的に圧縮している圧縮距離(杵間隔)はそれよりも短い。また、実験1~110において、第1圧縮距離Lが10mmであるものについても、やはり粉体(粉乳)を実質的に圧縮している圧縮距離(杵間隔)はそれよりも短い。このため、実験1~110における実質的なトータルの圧縮距離と、参考実験R2、R4、R6における実質的な圧縮距離とは等しいと評価されるものであった。
【0049】
実験1~110で作製された圧縮物14の硬度を測定し、これらの圧縮物14の硬度を、圧縮速度Vと第1圧縮速度Vが等しく、かつ上記のように実質的な圧縮距離が等しい圧縮成形で作製された参考圧縮物について測定された硬度と比較した。すなわち、第1圧縮速度Vが1mm/秒の実験1、2、5、6等の圧縮物14の硬度は、圧縮速度Vが1mm/秒の参考実験R2の参考圧縮物の硬度と比較した。同様に、第1圧縮速度Vが10mm/秒の実験7、8、13、14等の圧縮物14の硬度は、圧縮速度Vが10mm/秒の参考実験R4の参考圧縮物の硬度と比較し、第1圧縮速度Vが100mm/秒の実験3、4、9,10等の圧縮物14の硬度は、圧縮速度Vが100mm/秒の参考実験R6の参考圧縮物の硬度と比較した。
【0050】
上記の比較において、実験1~110のうちで第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vを遅くして圧縮成形した各実験で作製された圧縮物14の硬度は、比較した参考圧縮物の硬度よりも高くなっていた。これにより、粉体を第1圧縮速度で圧縮した後に、この第1圧縮速度よりも遅い第2圧縮速度で、第1圧縮工程で圧縮された圧縮物14を、さらに圧縮物14の最終の厚みまで圧縮することにより、圧縮物14の硬度が向上することがわかり、圧縮成形に要する時間の増加を抑えながら圧縮物14の硬度を向上できることがわかる。
【0051】
上記の硬度の比較とは別に、壊れやすさ等の基準から、実験1~110で作製された圧縮物14の硬度を評価した。この評価結果を表1-1~表1-3の硬度評価の欄に示す。また、参考実験R1~R6で作製された圧縮物の硬度を同様に評価した評価結果を表2の硬度評価の欄に示す。評価欄の評価結果(A~D)の意味は、次の通りである。
A:硬い。手で握る、5cm程度の高さから落とすなどの衝撃を与えても割れ欠けしない。
B:ある程度硬い。手で握る、コンベアで輸送するなどしても割れ欠けしない許容硬度。
C:ある程度柔い。手で握ると、割れ欠けすることがある。
D:柔い。手で握ると、容易に割れ欠けする。
【0052】
上記のように4段階に硬度評価を行った場合に、圧縮速度Vが10mm/秒の参考実験R4で作製された参考圧縮物の硬度評価は「C」であるが、これに対応する第1圧縮速度Vが10mm/秒であり、かつ第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vが遅かった圧縮物14の硬度評価は、「A」または「B」となり、いずれも参考圧縮物よりも硬度評価が高くなった。また、圧縮速度Vが100mm/秒の参考実験R6で作製された圧縮物の硬度評価は「D」であるが、これに対応する第1圧縮速度Vが100mm/秒であり、かつ第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vが遅かった多くの圧縮物14の硬度評価が「A」ないし「C」となり、硬度評価が参考圧縮物よりも高くなった。なお、硬度評価の変化にかかわらず、第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vを遅くして圧縮成形した全ての圧縮物14について、比較した参考圧縮物よりも硬度が向上したことは、上述の通りである。
【0053】
さらに、実験1~110で作製された圧縮物14についての圧縮速度比(=V/V)と硬度比との関係を調べた。この圧縮速度比と硬度比との関係を図3に示す。硬度比は、実験1~110で作製された圧縮物14の硬度(H)の、圧縮速度Vと第1圧縮速度Vが等しく、かつ実質的な圧縮距離が等しい参考圧縮物の硬度(H)に対する比率(=H/H)とした。
【0054】
図3のグラフより、圧縮速度比が「5」以上になると、大きな硬度比、すなわち大きな硬度の増加が得られることがわかる。したがって、第1圧縮速度Vよりも第2圧縮速度Vを遅くして、圧縮速度比が「5」以上とすることは、圧縮物14の大きな硬度の増加をもたらすうえで有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0055】
10 打錠機
14 粉体圧縮物
18 臼孔
31 下杵
32 上杵

図1
図2
図3