(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20240502BHJP
H01L 33/04 20100101ALI20240502BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/04
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020059321
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岸野 利彦
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-226906(JP,A)
【文献】特開2008-130877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0207043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/46
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型窒化物半導体トンネル接合層の上に、前記p型窒化物半導体トンネル接合層とトンネル接合を形成する、第1n型不純物濃度及び第1厚さを有する第1n型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第1n型窒化物半導体層の上に、窒素雰囲気で、第2n型不純物濃度及び第2厚さを有する第2n型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第2n型窒化物半導体層の上に、水素雰囲気で、第3n型不純物濃度及び第3厚さを有する第3n型窒化物半導体層を形成する工程と、
を備え、
前記第2n型不純物濃度及び前記第3n型不純物濃度は、前記第1n型不純物濃度よりも小さく、
前記第1n型窒化物半導体層を形成する工程において、第1温度で、前記第1n型窒化物半導体層を形成し、
前記第3n型窒化物半導体層を形成する工程において、前記第1温
度よりも低い温度で、前記第3n型窒化物半導体層を形成する、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
p型窒化物半導体トンネル接合層の上に、前記p型窒化物半導体トンネル接合層とトンネル接合を形成する、第1n型不純物濃度及び第1厚さを有する第1n型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第1n型窒化物半導体層の上に、窒素雰囲気で、第2n型不純物濃度及び第2厚さを有する第2n型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第2n型窒化物半導体層の上に、水素雰囲気で、第3n型不純物濃度及び第3厚さを有する第3n型窒化物半導体層を形成する工程と、
を備え、
前記第2n型不純物濃度及び前記第3n型不純物濃度は、前記第1n型不純物濃度よりも小さく、
前記第1n型窒化物半導体層を形成する工程において、第1温度で、前記第1n型窒化物半導体層を形成し、
前記第3n型窒化物半導体層を形成する工程において、前記第1温度と同じかそれよりも低い温度で、前記第3n型窒化物半導体層を形成し、
前記p型窒化物半導体トンネル接合層は、p型GaN層であり、
前記第1n型窒化物半導体層は、n型GaN層又はn型AlGaN層である
、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
p型窒化物半導体トンネル接合層の上に、前記p型窒化物半導体トンネル接合層とトンネル接合を形成する、第1n型不純物濃度及び第1厚さを有する第1n型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第1n型窒化物半導体層の上に、窒素雰囲気で、第2n型不純物濃度及び第2厚さを有する第2n型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第2n型窒化物半導体層の上に、水素雰囲気で、第3n型不純物濃度及び第3厚さを有する第3n型窒化物半導体層を形成する工程と、
を備え、
前記第2n型不純物濃度及び前記第3n型不純物濃度は、前記第1n型不純物濃度よりも小さく、
前記第1n型窒化物半導体層を形成する工程において、第1温度で、前記第1n型窒化物半導体層を形成し、
前記第3n型窒化物半導体層を形成する工程において、前記第1温度と同じかそれよりも低い温度で、前記第3n型窒化物半導体層を形成し、
前記第2n型窒化物半導体層を形成する工程における温度は、前記第1n型窒化物半導体層を形成する工程における温
度よりも低い
、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第3厚さは、前記第2厚さよりも大きい、請求項1
~3のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記第2厚さは、10nm以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1n型不純物濃度は、1×10
19/cm
3以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2n型不純物濃度及び前記第3n型不純物濃度は、1×10
18/cm
3以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第3n型窒化物半導体層を形成する工程における温度は、前記第2n型窒化物半導体層を形成する工程における温度と同じかそれよりも高い、請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1n型窒化物半導体層を形成する工程の前に、
基板の上に、1以上のn型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記1以上のn型窒化物半導体層の上に、発光層を形成する工程と、
前記発光層の上に、前記p型窒化物半導体トンネル接合層を形成する工程と、を備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記発光層は第1発光層であり、
前記第3n型窒化物半導体層を形成する工程の後に、
前記第3n型窒化物半導体層の上に、第2発光層を形成する工程と、
前記第2発光層の上に、1以上のp型窒化物半導体層を形成する工程と、を備える、請求項9に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、トンネル接合層を備える窒化物半導体発光素子が記載されている。トンネル接合層は、p型不純物濃度が比較的高いp型半導体層とn型不純物濃度が比較的高いn型半導体層とを有する。特許文献1では、トンネル接合層の一部としてN2キャリアガスを用いてSi濃度4×1020cm-3以上のn++-GaN層を形成した後、H2キャリアガスを用いてSi濃度8×1018cm-3のn-GaN層を形成し、続いてn-GaNコンタクト層を形成している。特許文献2では、窒素キャリアガスを用いてSi濃度1×1020cm-3のn型In0.25Ga0.75Nトンネル接合層を形成した後、Si濃度1×1020cm-3のn型GaN蒸発抑制層を形成し、その後、水素キャリガスを用いてSi濃度1×1019cm-3のn型GaN層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-157667
【文献】特開2008-130877
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、信頼性の向上した窒化物半導体素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、窒化物半導体素子の製造方法は、型窒化物半導体トンネル接合層の上に、前記p型窒化物半導体トンネル接合層とトンネル接合を形成する、第1n型不純物濃度及び第1厚さを有する第1n型窒化物半導体層を形成する工程と、前記第1n型窒化物半導体層の上に、窒素雰囲気で、第2n型不純物濃度及び第2厚さを有する第2n型窒化物半導体層を形成する工程と、前記第2n型窒化物半導体層の上に、水素雰囲気で、第3n型不純物濃度及び第3厚さを有する第3n型窒化物半導体層を形成する工程と、を備え、前記第2n型不純物濃度及び前記第3n型不純物濃度は、前記第1n型不純物濃度よりも小さく、前記第1n型窒化物半導体層を形成する工程において、第1温度で、前記第1n型窒化物半導体層を形成し、前記第3n型窒化物半導体層を形成する工程において、前記第1温度よりも低い温度で、前記第3n型窒化物半導体層を形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様の製造方法によれば、信頼性の向上した窒化物半導体素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3A】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示す模式断面図である。
【
図3B】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示す模式断面図である。
【
図3C】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示す模式断面図である。
【
図3D】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示す模式断面図である。
【
図3E】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示す模式断面図である。
【
図3F】本発明の一実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の変形例の窒化物半導体素子の模式断面図である。
【
図5】本発明の変形例の窒化物半導体素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】実験例の原子間力顕微鏡による観察像である。
【
図7】比較例の原子間力顕微鏡による観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態について説明する。なお、各図面中、同じ要素には同じ符号を付している。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態の窒化物半導体素子1の模式断面図である。
図1に示す窒化物半導体素子1は、発光素子である。本実施形態の窒化物半導体素子1は、p型窒化物半導体トンネル接合層43と、第1n型窒化物半導体層51と、第2n型窒化物半導体層52と、第3n型窒化物半導体層53とを有する。窒化物半導体素子1は、基板10と、第1積層部20と、発光層30と、第2積層部40と、第3積層部50と、n側電極81と、p側電極82とを有することができる。
【0010】
基板10の材料は、例えば、サファイア、シリコン、SiC、GaNなどである。基板10と第1積層部20の間にバッファ層を設けてもよい。
【0011】
第1積層部20と発光層30と第2積層部40と第3積層部50とを含む半導体積層体は、窒化物半導体からなる複数の半導体層が積層された積層体である。窒化物半導体は、InxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)からなる化学式において組成比x及びyをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含み得る。半導体積層体において、第1積層部20と、発光層30と、第2積層部40と、第3積層部50とは、基板10の側からこの順に配置されている。
【0012】
第1積層部20は、1以上のn型窒化物半導体層を含む。n型窒化物半導体層としては、シリコン(Si)又はゲルマニウム(Ge)等のn型不純物を含有する窒化物半導体からなる層が挙げられる。n型窒化物半導体層を構成する窒化物半導体は、例えばGaNであり、インジウム(In)、アルミニウム(Al)を含んでいてもよい。例えば、Siをn型不純物として含むn型窒化物半導体層のn型不純物濃度(Si濃度)は、1×1018/cm3以上1×1020/cm3以下である。第1積層部20は、アンドープの層を含んでいてもよい。アンドープの層は、n型不純物及びp型不純物を意図的にドープしていない層である。アンドープの層のn型不純物及びp型不純物の濃度は、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)等の分析結果において検出限界を越えない濃度である。アンドープの層がn型不純物及び/又はp型不純物を意図的にドープした層と隣接している場合は、その隣接層からの拡散等によって、アンドープの層にn型不純物及び/又はp型不純物が含まれる場合がある。
【0013】
第1積層部20は、例えば、GaN層21と、n型GaN層22と、多層膜23とを含むことができる。GaN層21は、アンドープの層である。GaN層21の厚さは、2μm以上5μm以下とすることができる。GaN層21は省略してもよい。n型GaN層22は、n型不純物としてSiを含む。n型GaN層22のn型不純物濃度は、1×1018/cm3以上1×1019/cm3以下とすることができる。n型GaN層22の厚さは、3μm以上7μm以下とすることができる。多層膜23は、アンドープのGaN層とアンドープのInGaN層のペアを複数積層した膜である。多層膜23の合計厚さは、30nm以上300nm以下とすることができる。
【0014】
発光層30は、第1積層部20と第2積層部40との間に設けられている。発光層30は、例えば、複数の井戸層と複数の障壁層とを有する多重量子井戸構造を有する。複数の井戸層には、例えば、InGaNを用いる。複数の障壁層には、例えば、GaNを用いる。発光層30は、その全体がアンドープの層であってもよく、その少なくとも一部にn型不純物及び/又はp型不純物を含有してもよい。発光層30が発する光は、紫外光又は可視光であってよい。発光層30は、例えば青色の光(ピーク波長430nm以上490nm以下)を発することができる。
【0015】
第2積層部40は、1以上のp型窒化物半導体層を含む。p型窒化物半導体層としては、マグネシウム(Mg)等のp型不純物を含有する窒化物半導体からなる層が挙げられる。p型窒化物半導体層を構成する窒化物半導体は、例えばGaNであり、In及び/又はAlを含んでいてもよい。例えば、Mgをp型不純物として含むp型窒化物半導体層のp型不純物濃度(Mg濃度)は、5×1019/cm3以上5×1020/cm3以下である。第2積層部40は、アンドープの層を含んでいてもよい。
【0016】
第2積層部40は、例えば、p型AlGaN層41と、GaN層42と、p型窒化物半導体トンネル接合層43とを含むことができる。p型AlGaN層41は、p型不純物としてMgを含む。p型AlGaN層41のp型不純物濃度は、5×10
19/cm
3以上5×10
20/cm
3以下とすることができる。p型AlGaN層41の厚さは、2nm以上20nm以下とすることができる。GaN層42は、アンドープの層である。GaN層42の厚さは、20nm以上200nm以下とすることができる。GaN層42のように、p型窒化物半導体トンネル接合層43とその下方のp型窒化物半導体層の間に、p型窒化物半導体トンネル接合層43とp型窒化物半導体層と比較して抵抗の高い高抵抗層を設けることで、第2積層部40の積層方向と交差する方向(
図1における横方向)における電流の拡散を促進することができる。GaN層42のような高抵抗層の厚さは、p型窒化物半導体トンネル接合層43の厚さよりも大きくすることができる。
【0017】
p型窒化物半導体トンネル接合層43は、p型不純物を含む。p型窒化物半導体トンネル接合層43は、例えばp型不純物としてMgを含むp型GaN層である。p型窒化物半導体トンネル接合層43のp型不純物濃度及び厚さは、後述する第1n型窒化物半導体層51とトンネル接合が可能となるように設定する。
【0018】
第3積層部50は、第1n型窒化物半導体層51と、第2n型窒化物半導体層52と、第3n型窒化物半導体層53とを有する。これらのn型窒化物半導体層としては、Si又はGe等のn型不純物を含有する窒化物半導体からなる層が挙げられる。これらのn型窒化物半導体層を構成する窒化物半導体は、例えばGaNであり、In及び/又はAlを含んでいてもよい。
【0019】
第1積層部20が有するn型窒化物半導体層は、その上に他の半導体層が設けられていないnコンタクト面を有する。そのnコンタクト面の表面にn側電極81が設けられている。n側電極81は第1積層部20が有するn型窒化物半導体層に電気的に接続している。p側電極82は、第3積層部50の表面に設けられている。p側電極82は第3積層部50の第3n型窒化物半導体層53に電気的に接続している。すなわち、n側電極81は発光層30の一方の側に位置する半導体層と電気的に接続しており、p側電極82は発光層30の他方の側に位置する半導体層と電気的に接続している。
【0020】
p側電極82とn側電極81との間に、順方向電圧を印加する。このとき、第2積層部40のp型窒化物半導体層と第1積層部20のn型窒化物半導体層との間には順方向電圧が印加され、発光層30にホールおよび電子が供給されることで発光層30が発光する。
【0021】
p側電極82に正電位が、n側電極81にp側電極82よりも低い電位(例えば負電位)が印加されたとき、p型窒化物半導体トンネル接合層43と、第1n型窒化物半導体層51との間には逆方向電圧が印加されることになる。そのため、p型窒化物半導体トンネル接合層43と、第1n型窒化物半導体層51との間の電流はトンネル効果を利用する。つまり、p型窒化物半導体トンネル接合層43の価電子帯に存在する電子を、第1n型窒化物半導体層51の伝導帯にトンネリングさせることで電流を流す。
【0022】
このようなトンネル効果を得るために、高濃度でp型不純物がドープされたp型窒化物半導体トンネル接合層43と、高濃度でn型不純物がドープされた第1n型窒化物半導体層51とによりpn接合を形成する。p型窒化物半導体トンネル接合層43と第1n型窒化物半導体層51に含まれる各導電型不純物の濃度が高いほど、p型窒化物半導体トンネル接合層43と第1n型窒化物半導体層51との界面に形成される空乏層の幅を狭くすることができる。そして、その空乏層の幅が狭いほど、電圧印加時に、p型窒化物半導体トンネル接合層43の価電子帯の電子が空乏層をトンネリングし、第1n型窒化物半導体層51の伝導帯に移動しやすくなる。
【0023】
例えば、Siをn型不純物として含む第1n型窒化物半導体層51のSi濃度は、5×1019/cm3以上2×1021/cm3以下である。例えば、Mgをp型不純物として含むp型窒化物半導体トンネル接合層43のMg濃度は、1×1020/cm3以上5×1021/cm3以下である。このようなp型窒化物半導体トンネル接合層43と第1n型窒化物半導体層51とが形成する空乏層の幅は、例えば、5nm以上8nm以下である。
【0024】
図2は、本実施形態の窒化物半導体素子の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すとおり、本実施形態の窒化物半導体素子の製造方法は、p型窒化物半導体トンネル接合層形成工程S103と、第1n型窒化物半導体層形成工程S104と、第2n型窒化物半導体層形成工程S105と、第3n型窒化物半導体層形成工程S106とを有する。窒化物半導体素子の製造方法は、工程S103の前に、1以上のn型窒化物半導体層形成工程S101と、発光層形成工程S102と、をさらに有することができる。
図3A~
図3Fは、本実施形態の窒化物半導体素子1の製造方法を示す模式断面図である。
【0025】
窒化物半導体素子1が含有する前述した各窒化物半導体層は、圧力および温度の調整が可能な炉内においてMOCVD(metal organic chemical vapor deposition)法により、基板10上にエピタキシャル成長される。各窒化物半導体層は、炉内にキャリアガス及び原料ガスを導入することで形成することができる。キャリアガスとしては、水素(H2)ガス、または窒素(N2)ガスを用いることができる。N源の原料ガスとしては、アンモニア(NH3)ガスを用いることができる。Ga源の原料ガスとしては、トリメチルガリウム(TMG)ガス、またはトリエチルガリウム(TEG)ガスを用いることができる。In源の原料ガスとしては、トリメチルインジウム(TMI)ガスを用いることができる。Al源の原料ガスとしては、トリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いることができる。Si源の原料ガスとしては、モノシラン(SiH4)ガスを用いることができる。Mg源の原料ガスとしては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)ガスを用いることができる。
【0026】
まず、基板10の上に1以上のn型窒化物半導体層を形成する(工程S101)。
図3Aに示すように、1以上のn型窒化物半導体層を有する第1積層部20を形成することができる。第1積層部20として、GaN層21と、n型GaN層22と、多層膜23とをこの順に積層する。基板10上にGaN層21を形成する前に、基板10の表面にバッファ層を形成してもよい。
【0027】
次に、
図3Bに示すように、1以上のn型窒化物半導体層の上に、発光層30を形成する(工程S102)。
【0028】
次に、発光層30の上に、p型窒化物半導体トンネル接合層43を形成する(工程S103)。
図3Cに示すように、発光層30の上に、p型窒化物半導体トンネル接合層43を含む第2積層部40を形成することができる。第2積層部40として、p型AlGaN層41と、GaN層42と、p型窒化物半導体トンネル接合層43とをこの順に積層する。p型窒化物半導体トンネル接合層43として、例えば、2×10
20/cm
3の濃度でMgがドープされたGaN層を厚さ20nmで形成する。
【0029】
p型窒化物半導体トンネル接合層43のp型不純物濃度及び厚さは、後述する第1n型窒化物半導体層51とトンネル接合が可能となるように設定する。p型窒化物半導体トンネル接合層43のp型不純物濃度は、5×1019/cm3以上1×1021/cm3以下とすることができる。p型窒化物半導体トンネル接合層43のp型不純物濃度は、発光層30からp型窒化物半導体トンネル接合層43までの間にあるいずれの層のp型不純物濃度よりも高くすることができる。p型窒化物半導体トンネル接合層43の厚さは、2nm以上30nm以下とすることができる。p型窒化物半導体トンネル接合層43を構成する窒化物半導体としては、例えば、GaN、InGaN、又はAlGaNが挙げられる。p型窒化物半導体トンネル接合層43を構成する窒化物半導体は例えばGaNとすることができる。
【0030】
発光層30の形成工程よりも後の各窒化物半導体層の形成工程における温度は、発光層30への影響を考慮して、比較的低温であることが好ましい。発光層30がInGaN層を含む場合は、それより後の各窒化物半導体層の形成工程における温度は、1000℃未満が好ましく、950℃以下がより好ましく、800℃以上であってよい。各窒化物半導体層の形成工程における温度は、基板10の温度とすることができる。p型窒化物半導体トンネル接合層43を形成した後、基板10と各半導体層からなるウェハーを炉から一旦取り出してもよい。炉から取り出したウェハーを洗浄した後で、ウェハーを反応装置の炉内に戻してもよい。
【0031】
次に、
図3Dに示すように、p型窒化物半導体トンネル接合層43の上に、第1n型窒化物半導体層51を形成する(工程S104)。第1n型窒化物半導体層51は、p型窒化物半導体トンネル接合層43とトンネル接合を形成する。第1n型窒化物半導体層51は、第1n型不純物濃度及び第1厚さを有する。第1n型窒化物半導体層51は、p型窒化物半導体トンネル接合層43と接して形成することができる。
【0032】
第1n型窒化物半導体層51は、炉内に、キャリアガスと原料ガスとを導入することで形成する。キャリアガスとしては、窒素ガスまたは水素ガスを用いることができる。第1n型窒化物半導体層51の形成工程における温度は、1000℃未満が好ましく、950℃以下がより好ましく、800℃以上であってよい。第1n型窒化物半導体層51として、例えば、1×1020/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ30nmで形成する。
【0033】
第1n型窒化物半導体層51の第1n型不純物濃度及び第1厚さは、p型窒化物半導体トンネル接合層43とトンネル接合が可能となるように設定する。例えば、以下に挙げる第1n型不純物濃度及び第1厚さにより、トンネル接合を可能とすることができる。第1n型不純物濃度は、第2n型窒化物半導体層52の第2n型不純物濃度及び第3n型窒化物半導体層53の第3n型不純物濃度のいずれよりも高くすることができる。第1n型不純物濃度は、1×1019/cm3以上とすることができる。第1n型不純物濃度は、2×1021/cm3以下とすることができる。例えば、Siをn型不純物として含む第1n型窒化物半導体層51のSi濃度は、5×1019/cm3以上2×1021/cm3以下である。第1厚さは、2nm以上30nm以下とすることができる。
【0034】
第1n型窒化物半導体層51を構成する窒化物半導体としては、例えば、GaN、InGaN、又はAlGaNが挙げられる。第1n型窒化物半導体層51を構成する窒化物半導体は、GaN又はAlGaNとすることができる。これにより、第1n型窒化物半導体層51を構成する窒化物半導体がInGaNである場合と比較して、発光層30からの光の吸収を低減することができる。第1n型窒化物半導体層51を構成する窒化物半導体は、GaNとしてもよい。第1n型窒化物半導体層51は、比較的高濃度にn型不純物を含有させるため結晶性の悪化が懸念されるが、GaNであれば結晶性の悪化の程度を小さくすることができる。
【0035】
次に、
図3Eに示すように、第1n型窒化物半導体層51の上に、第2n型窒化物半導体層52を形成する(工程S105)。第2n型窒化物半導体層52は、第2n型不純物濃度及び第2厚さを有する。
【0036】
第2n型窒化物半導体層52は、炉内に、キャリアガスと原料ガスとを導入することで形成する。第2n型窒化物半導体層52は、窒素雰囲気で形成する。本開示における窒素雰囲気とは、炉内に導入されるガスにおけるN2の割合が99.9体積%以上であることを指す。また、後述するとおりH2が存在すると窒化物半導体の横方向成長が促進されるため、炉内に導入されるガスにおけるH2の割合は0.01体積%以下であることが好ましい。例えば、キャリアガスとして窒素ガスを用いることで、炉内を窒素雰囲気とすることができる。第2n型窒化物半導体層52の形成工程における温度は、1000℃未満が好ましく、950℃以下がより好ましく、800℃以上とすることができる。第2n型窒化物半導体層52の形成工程における温度は、第1n型窒化物半導体層51の形成工程における温度と同じかそれよりも低いことが好ましい。これは、第2n型不純物濃度は第1n型不純物濃度よりも小さいためである。不純物濃度が大きいほど結晶性や表面のモフォロジーが悪化しやすく、形成時の温度が高いほど結晶性やモフォロジーが良好なものとなりやすい。このため、第2n型窒化物半導体層52は第1n型窒化物半導体層51よりも低い温度で成長させてよく、これにより発光層30の特性悪化の可能性を低減することができる。第1n型窒化物半導体層51の形成工程から後述する第3n型窒化物半導体層53の形成工程にかけて、徐々に温度を上昇させてもよい。第2n型窒化物半導体層52として、例えば、5×1018/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ20nmで形成する。
【0037】
第2n型窒化物半導体層52の第2n型不純物濃度は、第1n型窒化物半導体層51の第1n型不純物濃度よりも小さい。これにより、第2n型窒化物半導体層52の結晶性を向上し、次に成長する第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上させることができる。第2n型不純物濃度は、1×1018/cm3以上とすることができる。第2n型窒化物半導体層52に意図的にn型不純物をドープすることで、第2n型窒化物半導体層52の抵抗を低減することができるため、得られる窒化物半導体素子1の駆動電圧を低減することができる。第2n型不純物濃度は、第1n型不純物濃度よりも小さく、且つ、1×1020/cm3以下とすることができる。例えば、Siをn型不純物として含む第2n型窒化物半導体層52のSi濃度は、1×1018/cm3以上1×1020/cm3以下である。第2厚さは第1厚さより小さくてもよい。第2厚さは、10nm以上とすることができ、40nm以下とすることができる。
【0038】
第2n型窒化物半導体層52を構成する窒化物半導体としては、例えば、GaN、InGaN、又はAlGaNが挙げられる。第2n型窒化物半導体層52を構成する窒化物半導体は、GaN又はAlGaNであることが好ましく、GaNであることがより好ましい。第2n型窒化物半導体層52がn型GaN層であることにより、次に形成する第3n型窒化物半導体層53の結晶性を向上することができる。
【0039】
次に、
図3Fに示すように、第2n型窒化物半導体層52の上に、第3n型窒化物半導体層53を形成する(工程S106)。第3n型窒化物半導体層53は、第3n型不純物濃度及び第3厚さを有する。第1n型窒化物半導体層51と、第2n型窒化物半導体層52と、第3n型窒化物半導体層53とは、連続して形成することができる。
【0040】
第3n型窒化物半導体層53は、炉内に、キャリアガスと原料ガスとを導入することで形成する。第3n型窒化物半導体層53は、水素雰囲気で形成する。本開示における水素雰囲気とは、炉内に導入されるガスにおけるH2の割合が60体積%以上であることを指す。例えば、キャリアガスとして水素ガスを用いることで、炉内を水素雰囲気とすることができる。第3n型窒化物半導体層53の形成工程における温度は、1000℃未満が好ましく、950℃以下がより好ましく、800℃以上とすることができる。第3n型窒化物半導体層53の形成工程における温度は、第1n型窒化物半導体層51の形成工程における温度と同じかそれよりも低いことが好ましい。これにより、発光層30の特性悪化の可能性を低減することができる。第3n型窒化物半導体層53を形成する工程における温度は、第2n型窒化物半導体層52を形成する工程における温度と同じかそれよりも高くすることができる。第3n型窒化物半導体層53として、例えば、5×1018/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ80nmで形成する。
【0041】
第3n型窒化物半導体層53の第3n型不純物濃度は、第1n型窒化物半導体層51の第1n型不純物濃度よりも小さい。これにより、第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上させることができる。第3n型窒化物半導体層53に意図的にn型不純物をドープすることで、第3n型窒化物半導体層53の抵抗を低減することができるため、得られる窒化物半導体素子1の駆動電圧を低減することができる。第3n型不純物濃度は、1×1018/cm3以上とすることができる。第3n型不純物濃度は、第1n型不純物濃度よりも小さく、且つ、1×1020/cm3以下とすることができる。例えば、Siをn型不純物として含む第3n型窒化物半導体層53のSi濃度は、1×1018/cm3以上1×1020/cm3以下である。
【0042】
第3厚さは、10nm以上とすることができ、500nm以下とすることができる。第3n型窒化物半導体層53の第3厚さは、第2n型窒化物半導体層52の第2厚さよりも大きくしてもよい。これにより、第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上させることができる。同様の理由から、第3厚さは第1厚さよりも大きくしてもよい。
【0043】
第3n型窒化物半導体層53を構成する窒化物半導体としては、例えば、GaN、InGaN、又はAlGaNが挙げられる。第3n型窒化物半導体層53を構成する窒化物半導体は、GaN又はAlGaNであることが好ましく、GaNであることがより好ましい。第3n型窒化物半導体層53がn型GaN層であることにより、結晶性を向上させることができる。
【0044】
次に、半導体積層体の一部を除去して、第1積層部20の一部を露出させる。そして、
図1に示すように、第3積層部50の上にp側電極82が形成され、第1積層部20の露出された表面にn側電極81が形成される。n側電極81及びp側電極82として、まずITO電極等の透光性電極81A及び82Aを形成し、その後、金属電極81B及び82Bを形成することができる。これにより、
図1に示す窒化物半導体素子1を得ることができる。
【0045】
第3n型窒化物半導体層53の上に、さらに別の半導体層を形成してもよい。
図4は、変形例の窒化物半導体素子2の模式断面図である。
図5は、変形例の窒化物半導体素子2の製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、窒化物半導体素子2は、第1発光層30Aと第2発光層30Bを有する。p型窒化物半導体トンネル接合層43及び第1n型窒化物半導体層51は、第1発光層30Aと第2発光層30Bに挟まれる位置に配置されている。第2発光層30Bの上には、1以上のp型窒化物半導体層を含む第4積層部60が配置されている。p側電極82は、第4積層部60に接続されている。
図5に示すように、窒化物半導体素子2の製造方法は、第3n型窒化物半導体層53の上に第2発光層30Bを形成する工程S107と、第2発光層30Bの上に1以上のp型窒化物半導体層を形成する工程S108と、を有する。
【0046】
第1発光層30Aの発光のピーク波長と第2発光層30Bの発光のピーク波長は、同じであってもよく、異なっていてもよい。第1発光層30Aの発光ピーク波長および第2発光層30Bの発光ピーク波長は、例えば、430nm以上540nm以下である。第1発光層30A及び第2発光層30Bは、青色光や緑色光を発する。第1発光層30Aの上に第2発光層30Bを積層することで、1つの発光層を有する発光素子に比べて、単位面積当たりの出力を高くすることができる。
【0047】
本実施形態の窒化物半導体素子1のように、トンネル接合を利用する場合、不純物濃度の比較的高い窒化物半導体層を形成する。このような窒化物半導体層は、不純物濃度が高いために平坦性が悪化しやすい。また、発光層30の後に形成するため、発光層30が熱ダメージにより劣化しない程度の低い温度で形成することが好ましく、この点からも平坦性が悪化しやすい。本実施形態によれば、第1n型窒化物半導体層51に続いて、第2n型窒化物半導体層52と第3n型窒化物半導体層53とを形成することにより、第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上することができる。第2n型窒化物半導体層52は窒素雰囲気で形成し、第3n型窒化物半導体層53は水素雰囲気で形成する。形成時の雰囲気の相違により、第2n型窒化物半導体層52の方が三次元的な結晶成長がなされ、第3n型窒化物半導体層53の方が横方向成長が促進された結晶成長がなされる。第1n型窒化物半導体層51の荒いモフォロジー上に第2n型窒化物半導体層52を成長することで、その荒いモフォロジーの凹凸部上にそれより細かいスケールで三次元的な結晶成長がなされ、これにより大きな凹凸部が少なくなると推測される。その結果、その後に形成する第3n型窒化物半導体層53によって凹凸部を横方向成長で埋め込むような成長を行う際に、平坦化が容易になると考えられる。このように第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上させることで、第3n型窒化物半導体層53の平坦性悪化に起因する耐圧特性の低下やリークの発生を抑えることができる。これにより、信頼性の向上した窒化物半導体素子を得ることができる。
【0048】
実験例として、第3n型窒化物半導体層53までを形成し、その表面を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。実験例では、第1n型窒化物半導体層51として、1×1020/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ30nmで形成し、第2n型窒化物半導体層52として、5×1018/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ20nmで形成し、第3n型窒化物半導体層53として、5×1018/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ80nmで形成した。また、比較例として、第2n型窒化物半導体層52を形成せずに5×1018/cm3の濃度でSiがドープされたGaN層を厚さ100nmで形成した以外は上述の実験例と同じとして各窒化物半導体層を形成し、そのSiドープGaN層の表面をAFM像で観察した。
【0049】
図6に、実験例のAFMによる観察像を示し、
図7に、比較例のAFMによる観察像を示す。
図6及び
図7はいずれも、1辺2.0μmの正方形の領域の観察像である。
図6及び
図7に示すように、第2n型窒化物半導体層52を形成した方がピットが少ない表面状態であった。すなわち、第2n型窒化物半導体層52を形成することにより、第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上可能であることがわかった。このように第3n型窒化物半導体層53の平坦性を向上させることで、信頼性の向上した窒化物半導体素子を得ることができる。
【0050】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態及び実施例について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。本発明の上述した実施形態を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての形態も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の窒化物半導体素子の製造方法は、各種照明器具、車両搭載用照明、ディスプレイ等の窒化物半導体素子を用いる各種の分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1、2 窒化物半導体素子
10 基板
20 第1積層部、21 GaN層、22 n型GaN層、23 多層膜
30 発光層、30A 第1発光層、30B 第2発光層
40 第2積層部、41 p型AlGaN層、42 GaN層、43 p型窒化物半導体トンネル接合層
50 第3積層部、51 第1n型窒化物半導体層、52 第2n型窒化物半導体層、53 第3n型窒化物半導体層
60 第4積層部
81 n側電極、81A 透光性電極、81B 金属電極
82 p側電極、82A 透光性電極、82B 金属電極