(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】波長可変光源およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/068 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
H01S5/068
(21)【出願番号】P 2022556735
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2020038674
(87)【国際公開番号】W WO2022079814
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 侑祐
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-082633(JP,A)
【文献】特開2007-271925(JP,A)
【文献】特開2017-083594(JP,A)
【文献】特表2000-517122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0129361(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0163008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M×Nポート構成の多モード干渉導波路(MMI導波路)(Mは1以上の整数、Nは2以上の整数)、前記MMI導波路のNポート側にそれぞれ接続されたN個の反射型遅延線、および、前記MMI導波路のMポート側の少なくとも1つのポートに接続された光利得導波路を備えた波長可変光源における発振光を制御する方法であって、
前記N個の反射型遅延線の各々は、長さの異なる光導波路であり、
前記発振光の発振波長において、前記少なくとも1つのポートを除く、前記MMI導波路の前記Mポート側からの光の強度を検出するステップと、
前記検出された強度に基づいて、前記発振光を制御する信号を生成するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記強度は、
発振動作に寄与しないポートからの強度、または、
前記Mポート側のポートを除いた部分からの前記発振光の漏れ光の強度
であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記強度は、発振動作に寄与しない2つ以上のポートからの強度の総和によって決定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Mポート側の発振動作に寄与しない2つ以上のポートからの強度の大小関係に基づいて、前記信号が生成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記強度は、発振動作に寄与しない2つ以上のポートからの強度であって、
前記2つ以上のポートからの前記強度をそれぞれ最小化するステップ
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記信号は、前記波長可変光源の出力を変化させる光強度変調器に対する制御信号を含むことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
M×Nポート構成の多モード干渉導波路(MMI導波路)(Mは1以上の整数、Nは2以上の整数)と、
前記MMI導波路のNポート側にそれぞれ接続されたN個の反射型遅延線
であって、各々が長さの異なる光導波路である、N個の反射型遅延線と、
前記MMI導波路のMポート側の少なくとも1つのポートに接続された光利得導波路と、
発振光の発振波長において、前記少なくとも1つのポートを除く、前記MMI導波路の前記Mポート側からの光の強度を検出する受光器と、
前記受光器で検出された前記強度に基づいて、前記発振光を制御する信号を生成するコントローラと
を備えた波長可変光源。
【請求項8】
前記強度は、発振動作に寄与しない2つ以上のポートからの各発振光の強度の総和によって決定され、前記コントローラは前記総和を最小化し、または、
前記強度は、発振動作に寄与しない2つ以上のポートからの強度であって、前記コントローラは、前記2つ以上のポートからの前記強度をそれぞれ最小化するよう構成されことを特徴とする請求項7に記載の波長可変光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変光源およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長可変光源は、発振波長を一定の波長帯域の範囲内において任意に調整できる光源として広く利用されている。半導体を用いた波長可変光源の代表的なものに、波長可変レーザダイオード(TLD:Tunable Laser Diode)がある。TLDは、その小型性から光通信用の搬送波光源やガスセンシングなど広い応用範囲で用いられている。TLDを運用するにあたって、発振出力光の波長安定性が様々なシステムで重要である。発振出力光の波長安定性とは、第1に、ユーザの意図した通りの発振波長をTLDが出力し続けることである。第2に、発振出力光の波長の精度・安定度に加えて、サイドモード抑圧比(SMSR:Side-Mode Suppression Ratio)が一定以上であることが重要である。
【0003】
SMSRは、レーザ光の品質を表す指数の1つであり、レーザ出力のスペクトル強度のピーク(発振モード)と2番目のピーク(副モード)との強度比として定義される。例えば光通信においては、一般的に、無変調時でSMSRが40dB以上の光源が求められる。この理由は、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)を用いた光通信ネットワークにおいて、SMSRの劣化がそのまま隣接する他の波長チャネルに対する雑音光になり得るからである。
【0004】
TLDの発振波長を一定に保つ方法として、適当な波長フィルタへTLDからの光出力の一部を入力して、この波長フィルタからの光出力をモニタする方法が採られている。具体的には、非特許文献1に開示されているように、適当な波長周期(FSR:Free Spectrum Range)を持つエタロンにTLDからの光を入力し、エタロンからの光出力が常に一定になる様にTLDの発振波長を制御する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】石井啓之、他、” 高機能波長可変光源技術”、NTT技術ジャーナル、2007年11月、p.66
【文献】Yuta Ueda, et al., “Electro-optically tunable laser with ultra-low tuning power dissipation and nanosecond-order wavelength switching for coherent networks”, Vol. 7, No. 8 / August 2020 / Optica
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、波長可変光源においてSMSRの検査や実動作中のモニタを簡単な機構によって実現することはできなかった。非特許文献1に開示されている発振波長の制御機構は波長ロッカーとも呼ばれ、狭帯域の透過特性のエタロンを用いて高精度に波長を制御可能である。波長ロッカーを用いた手法は、レーザ光の波長を一定に保つためには有用であるが、SMSRの状態を知ることは難しい。なぜならば、上述のエタロンからの光出力はTLDの発振モードの波長を反映したものであって、発振光と比べて通常40dB程度の強度が低い副モードの出力に対して波長情報を取り出すことは難しいからである。
【0007】
TLDの発振出力光のSMSRを直接的に知るためには、光スペクトラムアナライザを利用することができる。しかしながら光スペクトラムアナライザは、回折格子の回折波長を掃引する機構が必要であって、本来の波長掃引光源としてのTLDにさらに追加の掃引機構を備えることになる。TLD性能の検査として、または、TLDの実際の運用中のモニタのために、TLDに光スペクトラムアナライザ測定を実装することは装置サイズやコストの面から現実的でない。従って波長可変光源の発振出力光におけるSMSR特性を反映して、高いSMSRを持つ出力を取り出すことができる機構と、発振出力光の制御方法が求められている。
【0008】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、SMSRを反映した発振出力光を得ることのできる波長可変光源の機構およびその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施態様は、M×Nポート構成の多モード干渉導波路(MMI導波路)(Mは1以上の整数、Nは2以上の整数)、前記MMI導波路のNポート側にそれぞれ接続されたN個の反射型遅延線、および、前記MMI導波路のMポート側の少なくとも1つのポートに接続された光利得導波路を備えた波長可変光源における発振光を制御する方法であって、前記発振光の発振波長において、前記少なくとも1つのポートを除く、前記MMI導波路の前記Mポート側からの光の強度を検出するステップと、前記検出された強度に基づいて、前記発振光を制御する信号を生成するステップとを備えることを特徴とする方法である。
【0010】
本発明のもう1つの実施態様は、M×Nポート構成の多モード干渉導波路(MMI導波路)(Mは1以上の整数、Nは2以上の整数)と、前記MMI導波路のNポート側にそれぞれ接続されたN個の反射型遅延線と、前記MMI導波路のMポート側の少なくとも1つのポートに接続された光利得導波路と、発振光の発振波長において、前記少なくとも1つのポートを除く、前記MMI導波路の前記Mポート側からの光の強度を検出する受光器と、前記受光器で検出された前記強度に基づいて、前記発振光を制御する信号を生成するコントローラとを備えた波長可変光源である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、SMSRを反映した発振出力光を得る波長可変光源の機構およびその制御方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】5×5ポートMMIを用いたRTFレーザの構成を示す模式図である。
【
図2】本開示のRTFレーザにおける波長選択フィルタ特性を示した図である。
【
図3】波長1.544μm近傍における反射率を拡大して示した図である。
【
図4】RTFレーザの反射スペクトルと縦モード条件の関係を示した図である。
【
図5】非稼働ポートの発振光の強度によるSMSR調整を説明する図である。
【
図6】隣接するfineスペクトルのピークにおける最適化を説明する図である。
【
図7】発振出力光の遮断手段を備えた波長可変光源の構成を示す図である。
【
図8】本開示の波長可変光源の変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の波長可変光源およびその制御方法は、反射型トランスバーサルフィルタ(RTF:Reflection-type Transversal Filter)を用いたRTFレーザにおいて、RTFレーザが本来的に持つフィルタ特性に着目して、複数の受光器を設けただけの簡単な構成で、SMSRの制御を実現する。RTFレーザは、近年注目されている波長可変光源の形態であって、多モード干渉(MMI:Multi-Mode Interference)導波路および複数の反射型遅延線を備えたRTFを含む。以下の説明では、簡単のためMMI導波路を単に「MMI」と呼ぶ。
【0014】
発明者らは、RTFレーザのMMIにおけるポート間の反射特性や透過特性で表される波長選択フィルタ特性が、発振波長および副モードの波長における強度差を反映し得ることに着目した。後述するようにMMIを使用するRTFレーザでは、発振動作に寄与する光利得媒体が接続されていないポートが必ず存在する。発振動作に寄与する光利得媒体が接続された稼働ポートと、発振動作に直接寄与しない非稼働ポートとの間のフィルタ特性を考慮して、MMIの複数の非稼働ポートにおける発振光の強度をモニタする。モニタされた発振光の強度が所定の関係となるようにRTFレーザを制御することで、SMSR特性を反映させた波長可変光源の制御が実現される。
【0015】
以下の説明では、まずRTFレーザの基本的な構成について述べるとともに、RTFレーザのMMIの非稼働ポートで観測される波長選択フィルタ特性に着目しながら、波長可変光源の制御機構の基本的な仕組みおよびいくつかの実施例を示す。最初に、RTFレーザにおいてSMSRを反映した信号(情報)をモニタし、RTFレーザの種々の波長制御機構にフィードバックしてSMSRを制御する仕組みを説明する。
【0016】
[RTFレーザの構成]
図1は、5×5ポートMMIを用いたRTFレーザの構成を示す模式図である。RTFレーザ100は、M×NポートMMI12の一方の側のNポートに接続されたN本の反射型遅延線13と、MMI12の他方のMポートの内の少なくとも1つのポートに接続された光利得領域(光利得導波路)11を備えている。MMI12および複数の反射型遅延線13が、反射型トランスバーサルフィルタ(RTF)10を構成する。複数の反射型遅延線の各々は、長さの異なる光導波路である遅延線13-1と端部のミラー14-1とを有しており、MMIの光利得領域11側の各ポートと端部のミラーとの間で、異なる光路長の往復光路が形成される。
【0017】
図1では、MMI12のポート3に光利得領域11が接続されており、光利得領域11の端部から発振光24が出力される。光利得領域11は、光利得領域を含む光利得導波路であり得る。ここでRTFレーザ100の発振機構についての詳細な説明は行わないが、長さの異なる複数のRTFの各々からの反射光が、MMI12のポート3において強め合うような関係となる波長においてレーザ発振が生じる。発振波長は、MMI12上の位相調整電極17、複数の反射
型遅延線13上の波長調整電極18で調整される。詳細は、例えば非特許文献2を参照されたい。
【0018】
本開示のRTFレーザ100においては、SMSRをモニタして制御するために、MMIの光利得領域11側で、発振動作のためには寄与していない(未使用だった)ポートに受光器(PD1、PD2、PD4、PD5)15-1~15-2、15-4~15-5を備えている。従来技術の波長可変光源としてのRTFレーザでは、光利得領域11からの発振光自体の波長や強度をモニタして、その波長安定性を確保していた。発明者らは、MMIにおいて発振動作には寄与していなかった、いわば非稼働ポートからの発振光の波長の光強度情報をSMSRの制御のために利用する着想を得た。受光器からの光強度信号21-1~21-5は、制御部(以下、コントローラ)16に供給される。コントローラ16は、後述するように位相調整電極17および波長調整電極18にそれぞれ制御信号22、23を供給して、後述の本開示の制御方法にしたがってSMSRを制御する。
【0019】
図1のRTFレーザ100において、MMI12は5×5ポートのものとしているが、この構成に限定されず、光利得領域側のポート数Mを1以上の整数、RTF側のポート数Nを2以上の整数として、一般にM×Nポートの構成とすることができる。また、
図1では光を発生・増幅する光利得領域11がポート3に接続されているが、その他のポートに接続されていても良い。また光利得領域11は、非特許文献2にも記載されているように、Mポート側の複数のポートに備わっていても構わない。さらに、一般に光利得領域は光吸収層としても用いることができるので、例えばMポートのすべてに光利得領域が備わっていて、発振動作に寄与しない光利得領域を受光器として用いても構わない。また、RTFレーザ100の複数の反射型遅延線の内で、1つ以上の端部(ミラー)から発振光を出力する構成であっても良い。
【0020】
図1における非稼働ポートに接続された受光器(PD1~PD5)は、RTFレーザ100を構成する基板と同一の基板にモノリシックに集積されていても良いし、基板の外部に設けられて、RTFレーザのMMIポートからの光を受け取っても良い。次に、本開示の波長可変光源の制御方法における制御動作を、RTFレーザ100における波長選択フィルタの特性に着目して、説明する。
【0021】
[RTFレーザにおけるSMSRの制御]
図2は、本開示のRTFレーザにおける波長選択フィルタ特性を示した図である。
図2における多数の波形は、
図1に示した構成のRTFレーザにおいて、光利得領域11が接続され発振動作のために稼働しているポート3(以下、稼働ポート)から見た、ポート1~5(M側)の反射スペクトルである。横軸に波長(μm)を、縦軸に反射率を示しており、#1~#5の表示によって、対応するポート1~5を示している。
【0022】
ここで留意すべきは、以下の説明における「反射率」が、稼働ポート3から見た、MM
I12および複数の反射型遅延線13からなるRTF10全体に対する反射スペクトルを表していることである。稼働ポート3については、
図2で#3のラベルで示されており、文字通り稼働ポート3における反射率を表している。稼働ポート3の反射率は、光回路で一般に使用される特定のポートにおける光の反射率と同じであって、この反射率の値から反射損失も求められる。レーザ発振を生じている状態では、理想的には稼働ポート3の反射率は1となる。
【0023】
一方、
図2の#1、#2、#4、#5のラベルで示されている波形曲線は、それぞれ、RTF10全体を見たときの、非稼働ポート1、2、4、5における反射率である。実質的には、各遅延線の端部のミラーで折り返して形成される往路・復路からなる、RTF10のすべての光路が反映された、異なるポート間の「透過特性」を表している点に留意されたい。例えば、
図2で#1のラベルで示された反射スペクトル曲線は、ポート3→ポート1間の透過特性である。
図2では、波長軸上の異なる位置にあって概ね相似した形状の波形を示している反射スペクトル#1~#5が確認できる。これらの反射スペクトルは、
図1のRTF10における異なる長さのN個の反射型遅延線による干渉状態が、MMIのM個のポートに応じて、異なるフィルタ特性として観測されることを表している。
図2のMMIの各ポートで観測される反射特性は、特定の波長においてレーザ発振を生じさせるためのRTF10全体の「波長選択フィルタ特性」を示していることに留意されたい。以下の説明では、MMIの光利得領域11側の各ポートにおいて観測される反射特性または透過特性を、簡単のため反射率または反射スペクトルと呼ぶ。
【0024】
さらに
図2を詳細に見ると、MMIの各ポートで観測される反射スペクトル#1~#5は、FSRが2nm弱の短い周期の成分と、その包絡線である長い周期の成分とから成り立っている。ここで短い周期の成分のスペクトルをfineスペクトル31、点線で示した長い周期の成分をcoarseスペクトル30と呼ぶ。fineスペクトル31およびcoarseスペクトル30は、
図1に示したN個の反射型遅延線上の波長調整電
極18に対して適当な電気信号を付与することで、それぞれ独立に調整が可能である(非特許文献2)。例えば、coarseスペクトル30の波長軸上での位置を同じ位置に保ったままで、fineスペクトル31の波長軸上の位置を制御することもできる。このとき、fineスペクトル31は、coarseスペクトル30を示した点線に内接しながらそのピーク位置をシフトするように制御される。
【0025】
図3は、波長1.544μm近傍における反射率を拡大して示した図である。
図2の横軸の1.544μm付近において、#3のラベルで示された稼働ポート3の反射率がピークを有している波長域の反射スペクトルを表している。
図1のRTFレーザでは、ポート3に光利得領域11が接続されているので、
図3の#3のfineスペクトルのピーク波長近傍において、レーザ発振が実現される。以降では、レーザ発振に寄与しているfineスペクトルにおいてそのピーク近傍で生じる発振を発振fineモードと呼ぶ。
【0026】
発振fineモードにおけるより厳密なレーザ発振波長は、共振器縦モード条件を満たす波長となる。共振器縦モード条件は、RTF10によって形成される共振器を往復した光が、共振器内で定在波を形成する条件である。
図1のRTFレーザ100の共振器としての屈折率をn、長さをLとした時、次式を満たす波長λが(mは自然数)が
縦モード条件を満たす波長λになる。
mλ=2nL 式(1)
上式の共振器縦モード条件を満たす波長は、RTF10の光導波路で構成される遅延線の数、長さ、構造、MMI導波路の構造、各部の材料の屈折率などによって決定され、位相調整電極17によって調整できる。
【0027】
図4は、RTFレーザにおいて反射スペクトルと縦モード条件の関係を示した図である。
図4の(a)は、
図3に示した波長1.544μm近傍の拡大図に対して、FSR=0.3nmの縦モード周期を重ね書きした図である。したがって、
図4の(a)に示した反射スペクトルは、
図3に示した反射スペクトルと同一である。
図4の(b)は、(a)の反射スペクトルの発振fineモード近傍の波長域で反射率が0付近の非稼働ポート1、2、4、5の反射率をさらに拡大して示した図である。
【0028】
図4の(a)では、MMIの稼働ポート3の反射スペクトル32aに対して、等間隔の線が縦モード条件を満たす波長を示している。稼働ポート3のfineスペクトル32aのピーク波長近傍では、発振縦モード線33a、33b、33cの内の、発振fineモードのピークに最も近い発振縦モード線33aが、
図1のRTFレーザ100の発振波長となる。
図4の(a)では、発振縦モード線33aより短い波長側の発振縦モード線33cが次に高い反射率を示している。
【0029】
図4の(b)では、非稼働ポートにおける反射スペクトル#1、#2、#4、#5が拡大して示されており、4つの非稼働ポートの反射率を加算した合計反射スペクトル34aも示されている。ここで、
図4の(b)の4つの非稼働ポートにおける反射スペクトルは、発振波長の
発振縦モード線33aの波長で、異なる値を持っている。縦モード条件を満たす発振状態では、発振波長の光が、4つの非稼働ポートにおいて、それぞれ
図4の(b)の反射率に対応する強度で観測されることになる。
【0030】
従来技術の例として述べた非特許文献1における波長ロッカーでは、発振波長の微調整を主に縦モード波長を制御することで実現していた。
図1に示したRTFレーザ100では、位相調整電極17に適切な電気信号を印加して式(1)における屈折率nを微調整することで、発振波長の微調整が実現される。このとき位相調整電極17への電気信号を微調整することは、
図2の波長軸上で稼働ポート3の反射スペクトルに対して発振縦モード線33a、33b、33cを調整することに相当する。
【0031】
ここでRTFレーザ100におけるSMSRについて考えると、
図4の(b)において縦モード条件の内の発振縦モード線33aの波長で発振している状態では、2つの発振縦モード線33a、33cにおける縦モード反射率差35が、SMSRを決める。発振状態においては、光利得領域に供給されるエネルギーの大部分が縦モード波長の発振波長で消費されるが、発振縦モード線33aの次に反射率の高い発振縦モード線33cの波長においても発振状態が観測される。したがって、
図4の(a)における稼働ポート3の反射率32aのピーク波長と、発振縦モード線33aが一致すれば、隣接する縦モードとの強度差である縦モード反射率差35が最大となって、SMSRが最大となる。
【0032】
上述のように、RTFレーザ100において発振縦モード線の位置を調整しても、coarseスペクトル30とともにfineスペクトルの包絡線の位置が相対的に調整されるだけで、反射スペクトル32aのピークと発振縦モード線33aが完全に一致しない場合がある。従来技術のRTFレーザは、
図4の(a)のようfineスペクトル32aのピークと発振縦モード線33aが完全に一致していない状態に相当していたと考えられる。
【0033】
発明者らは、発振縦モード線とcoarseスペクトルの相対位置を調整して、波長軸上における縦モード発振波長を調整することに加えて、SMSRを最大化するためにfineスペクトルも調整する必要があると考えた。
図4の(a)、(b)の稼働ポート3の反射スペクトル#3と、反射スペクトル#1、#2、#4、#5との間の関係からも明らかなように、fineスペクトル32aのピークの波長と、4つの非稼働ポートの反射率を加算した合計反射スペクトル34aの最小値の波長は概ね一致していることがわかる。したがって、RTFレーザ100のMMI11において、非稼働ポートで観測される発振光の波長の光の強度をモニタしながら、
図4の(b)に示した反射スペクトル#1、#2、#4、#5を調整すれば、SMSRを最大化できる。
【0034】
図5は、本開示の波長可変光源の制御方法における非稼働ポートの発振光強度によるSMSR調整を説明する図である。
図5の(a)は、縦モード発振波長の調整後にさらにfineスペクトルを調整した反射スペクトルを示している。
図5の(b)は、(a)の反射スペクトルの発振fineモード近傍の波長域で、反射率が0付近の非稼働ポート1、2、4、5の反射率をさらに拡大して示した図である。
【0035】
図5の(a)では、点線32aでfineスペクトルを調整前の稼働ポート3の反射スペクトルのみを示しており、点線32aは
図4の(a)の反射スペクトル32aと同一である。実線で示したのは、fineスペクトルを僅かに長波
長側にシフトさせて、発振fineモードのピークと、発振縦モード線33aとが完全に一致している状態を示している。この時の縦モード反射率差35は、
図4の(a)の場合よりも3倍以上の大きな値が得られており、SMSRが改善されることを期待できる。
【0036】
図5の(b)では、非稼働ポートにおける反射スペクトル#1、#2、#4、#5で示されており、4つの非稼働ポートの反射率を加算した合計反射スペクトル34bも示されている。ここで、合計反射スペクトル34bの最小点を与える波長は、発振縦モード線33aと一致している。したがって、非稼働ポート#1、#2、#4、#5における受光器15-1~15-5で検出される信号強度の総量が、所定のレーザ発振波長(発振縦モード線33a)において最小となるように、波長可変光源を制御すれば良い。
【0037】
したがって本開示の波長可変光源における発振光を制御する方法は、少なくとも1つのポートを除く、MMI導波路のMポート側からの光の強度21-1~21-5を検出するステップを含む。さらに、コントローラ16が、検出された強度に基づいて、発振光24を制御する信号22、23を生成するステップを含む。制御する信号22、23は、波長調整電極18に対して、fineスペクトルおよびcoarseスペクトルの波長軸上の位置を制御するよう動作する。
【0038】
既に説明したように、反射スペクトルの波長軸上での調整は、波長調整電極18によって実現される。波長調整電極18は、複数の反射型遅延線13上に形成された複数の電極である。波長調整電極18にどのような電圧を印加して、反射スペクトルをどのように変化させるかの具体的な方法は、本発明では何の限定も無い。すなわち、光利得導波路が接続された少なくとも1つのポートを除く、MMI導波路のMポート側からの光の強度を検出するステップと、検出された強度に基づいて、発振光を制御する信号を生成する点に、RTFレーザの波長可変光源における発振光を制御方法の特徴がある。非稼働ポートにおける反射スペクトル#1、#2、#4、#5の反射率を加算した合計反射スペクトル34bが最小となるように、波長調整電極18を制御できれば良い。
【0039】
したがって本発明は、M×Nポート構成の多モード干渉導波路(MMI導波路)(Mは1以上の整数、Nは2以上の整数)、前記MMI導波路のNポート側にそれぞれ接続されたN個の反射型遅延線、および、前記MMI導波路のMポート側の少なくとも1つのポートに接続された光利得導波路を備えた波長可変光源における発振光を制御する方法であって、前記発振光の発振波長において、前記少なくとも1つのポートを除く、前記MMI導波路の前記Mポート側からの光の強度を検出するステップと、前記検出された強度に基づいて、前記発振光を制御する信号を生成するステップとを備えることを特徴とする方法として実施できる。
【0040】
図1を再び参照すれば、受光器15-1~15-5から光強度信号21-1~21-5が、コントローラ16に供給され、コントローラ16は受信した光強度信号21-1~21-5に基づいて、波長調整電極18への制御信号23を生成する。各光強度信号は、反射スペクトル#1、#2、#4、#5の反射率に対応した電気信号であり、合計反射スペクトル34bは、これら4つの電気信号を合算したものとなる。
図1では、光強度信号21-1~21-5がコントローラ16に供給されることだけを示しており、合計反射スペクトル34bに対応した合計信号をどのようにして取得するかは何の限定もない。4つの電気信号を物理的に合算しても良いし、各電気信号をデジタル信号に変換した後は、演算処理を行って求めても良い。
【0041】
したがって本発明は、M×Nポート構成の多モード干渉導波路(MMI導波路12)(Mは1以上の整数、Nは2以上の整数)と、前記MMI導波路のNポート側にそれぞれ接続されたN個の反射型遅延線13と、前記MMI導波路のMポート側の少なくとも1つのポートに接続された光利得領域(光利得導波路)11と、発振光の発振波長において、前記少なくとも1つのポートを除く、前記MMI導波路の前記Mポート側からの光の強度を検出する受光器15-1~15-5と、前記受光器で検出された前記強度に基づいて、前記発振光を制御する信号を生成するコントローラ16とを備えた波長可変光源として実施できる。
【0042】
上述のように、本開示の波長可変光源すなわちRTFレーザ、およびその制御方法では、RTFレーザの光利得領域が接続された少なくとも1つのポートを除いた、発振動作に寄与しない非稼働ポートからの発振波長における強度を受光器で検出し、モニタしている。本開示の波長可変光源では、受光器によって得られる、非稼働ポートにおいて観測される光の強度に基づいて、コントローラを通じて波長可変光源における発振出力光を制御する信号を生成する仕組みに特徴がある。非稼働ポートに接続された受光器では、非稼働ポートにおいて表れるすべての波長の光が検出される。しかしながら、
図5の(b)の反射スペクトル#1、#2、#4、#5から明らかなように、MMI11のポート3においてレーザ発振している状態では、ポート1、2、4、5で観測される発振波長の信号強度は0.01以下であって、ポート3における発振出力光の「漏れ光」が受光器で測定されている点に留意されたい。従来技術のRTFレーザでは、発振動作に寄与している光利得領域が接続された稼働ポートからの発振光自体を検出していた点で、非稼働ポートからの発振光の強度を利用する本開示のRTFレーザと大きく相違している。コントローラからの信号によって、発振出力光のfineスペクトルおよびcoarseスペクトルの波長軸上の位置を制御することで、SMSRを最
大化するように波長可変光源が制御される。
【0043】
本開示の波長可変光源およびその制御方法について、さらにより具体的な制御方法を次の実施例において説明する。
【実施例1】
【0044】
上述の本開示の波長可変光源およびその制御方法では、非稼働ポートに接続された受光器で測定される強度信号の総量を最小化することで、発振出力光におけるSMSRを最大化するよう制御していた。SMSRの最大化は、非稼働ポートの反射スペクトルにおけるfineスペクトルを波長軸上でシフトさせ、RTFの波長選択フィルタ特性を微調整することで実現できる。ここで、RTFのスペクトルを制御する際には、そのスペクトルの波長軸上での制御方向を決定する情報が必要になる。例えば、
図4の(a)と
図5の(a)とを比較すると、ポート3の反射スペクトル32aの発振fineモードのピーク波長と縦モード波長(発振縦モード線33a)を一致させるために、fineスペクトルを長波
長側へシフトさせている。したがって、従来技術のRTFレーザにおいて位相調整電極17に適切な電気信号を印加して、発振波長の微調整を実施した後の段階で、fineスペクトルをさらに波長軸上でシフトすべき方向の情報が得られれば良い。この情報によって、
図1のRTFレーザにおけるコントローラ16による制御手順を簡素化して、SMSRの最適化をより簡単に実施できる。そこで、非稼働ポートで観測される発振出力光の強度の大小関係に着目して、RTFの反射スペクトルの波長軸上の調整方向を決定する実施例について説明する。
【0045】
ここで再び、発振波長の微調整を実施した後の
図4の(b)非稼働ポートにおける反射スペクトル#1、#2、#4、#5に注目する。稼働ポートであるポート3の反射率32aのピーク波長(概ね合計反射スペクトル34
aの最小値の波長)に対して長波
長側および短波
長側で観測される光の強度が、ポートによって異なることがわかる。
図1のRTFレーザの5×5構成のMMI12の場合であれば、
図4の(b)のようにポート3の反射率32aのピークの長波長側(例えば発振縦モード線33a)では、反射率#2、#4>反射率#1、#5の関係が成り立つ。一方で、ポート3の反射率32aのピークの短波長側(例えば発振縦モード線33c)では、逆に反射率#2、#4<反射率#1、#5の関係が成り立つ。
【0046】
例えばRTFレーザを実際に運用している際に、受光器15-1~15-5からの光の強度の関係が反射率#2、#4>反射率#1、#5の場合は、発振fineモード32aのピーク波長が所望の発振縦モードピーク波長(発振縦モード線33a)に対して短波長側に位置していると判断できる。一方で、反射率#2、#4<反射率#1、#5の場合は発振fineモード32aのピーク波長が所望の発振縦モードピーク波長(発振縦モード線33a)に対して長波長側に位置していると判断できる。与えられた縦モード波長(発振波長)に対して、受光器15-1~15-5におけるそれぞれの光の強度の大小関係を比較することで、fineモードピーク波長すなわちポート3の反射率32aを、長波長側および短波長側のどちら側にシフトすれば良いのかについて、調整方向の情報が得られる。
【0047】
上述のRTFの反射スペクトルの波長軸上の調整方向を決定は、
図1において、受光器15-1~15-5からの光強度信号をそれぞれ予め知られた大小関係に基づいて比較すれば良い。したがって、
図1のRTFレーザの構成そのままで、コントローラ16における制御信号23の決定処理を変更するだけである。上述の
図4の(b)で説明した反射スペクトル#1、#2、#4、#5のポート間の大小関係は、ポート3に光利得領域が接続された
図1のMMI11の構成におけるものであって、MMIの構成や光利得領域が接続される稼働ポートの位置によって異なる。したがって、使用しているMMIを含むRTFレーザの構成に応じて、予め非稼働ポートの内の特定のポート間で観測される発振波長の光の強度の関係を知っておけば良い。要するに、
図2で示した波長選択フィルタ特性を把握して、反射スペクトルの波長軸上の調整方向を決定できる関係を知っておけば良い。受光器での光の強度の大小関係を比較する非稼働ポートは何ら限定されず、強度を比較するポートの数も、上述の2ポートと別の2ポートとの関係だけに限られず任意である。
【実施例2】
【0048】
図4および
図5で説明したRTFレーザにおけるSMSRの基本的な制御方法では、発振fineモードのピーク近傍の発振縦モード線33aの波長における各ポートの反射率のみに着目していた。しかしながらSMSRを最適化するにあたり、coarseスペクトルとfineスペクトルの相対関係に着目すると、発振縦モード線33aから離れた隣接するfineスペクトルのピークにおいても、SMSRを最適化する上で有効な指標を見出すことができる。
【0049】
図6は、隣接するfineスペクトルのピークにおける最適化を説明する図である。
図6の(a)および(b)は、発振fineモードのピーク波長が縦モード条件を満たしている
図5の(a)および(b)の状態から、さらに隣接するfineモードの反射率をcoarseフィルタ
によって調整
し、SMSRを
最適化した状態を示す。
図5と同様に、
図6の(a)は、隣接するfineモードの反射率を調整した反射スペクトルを示している。
図6の(b)は、(a)の反射スペクトルの発振fineモード近傍の波長域で、反射率が0付近の非稼働ポート1、2、4、5の反射率を拡大して示した図である。
【0050】
図6の(b)と
図5の(b)とを比較すると、
図5の(b)では発振縦モードすなわち発振縦モード線33aの波長において、非稼働ポートの合計反射スペクトル34bは極値をとっている。しかしながら、非稼働ポートの個別の反射スペクトル#1、#2、#4、#5は極値ではない。一方で、本実施例の隣接するfineスペクトルのピークでSMSRを最適化した
図6の(b)では、非稼働ポートの合計反射スペクトル34c、および、個別の反射スペクトル#1、#2、#4、#5のすべてが、発振縦モード線33aの波長で極値を取っている。すなわち、非稼働ポートの合計反射スペクトルを最小化するだけではなく、非稼働ポートの個別の反射スペクトル#1、#2、#4、#5をそれぞれ最小化するように波長調整電極18を制御すれば良い。個別の反射スペクトル#1、#2、#4、#5をそれぞれ独立に波長軸上で制御する方法は知られており、波長調整電極18のどの電極にどのような電圧を加えるかは、波長調整電極18の仕様に依る。
【0051】
上述のSMSRの基本的な制御方法と本実施例との違いは、coarseスペクトルとfineスペクトルの相対関係を反映している点にある。
図6の(a)を参照すれば、稼働ポート3のfineスペクトルにおいて、発振縦モード線33aと一致するピークに隣接する、両側の2つのピークが同じ強度となっている。この時、稼働ポート3のfineスペクトルのピークと隣接するピークとの強度差、すなわちfineモード反射率差36が最大となっている。
図5の(a)のfineモード反射率差36と比較すれば、fineモードスペクトルの差異は明らかである。fineモード反射率差36が最大となる状態は、
図6の(b)のように非稼働ポートの個別の反射スペクトル#1、#2、#4、#5がそれぞれ最小化された状態に対応している。
図2で説明したfineスペクトル31とcoarseスペクトル30の関係から理解されるように、
図6の(a)の調整がされた状態では、coarseスペクトルとfineスペクトルのピークが一致するように調整されていることがわかる。
【0052】
図1において、受光器15-1~15-5からの光強度信号21-1~21-5について、それぞれを最小化するように波長調整電極18を制御することができる。このとき、coarseスペクトルおよびfineスペクトルが調整され、発振fineモードとは異なるモード由来(隣接するfineモード)のSMSR劣化も低減することができる。本実施例でも、
図1のRTFレーザ100の構成そのままで、コントローラ16における制御信号23の決定処理を変更するだけで良い。すなわち、波長可変光源における発振光を制御する方法で、発振動作に寄与しない2つ以上のポートからの光(反射スペクトル#1、#2、#4、#5)からの強度に基づいて、これらの強度をそれぞれ最小化するステップを実施すれば良い。
【実施例3】
【0053】
波長可変光源を利用するシステムにおいては、ユーザが求める波長と実際に出力される発振光の波長の差が一定値よりも大きい場合や、レーザ発振光のSMSRが一定値を下回ってしまう場合が生じ得る。このような状態では、その波長可変光源で意図していた波長チャネルを除いた他の波長チャネルで見ると、波長クロストークが生じており、干渉や妨害が生じていることになる。例えば光通信ネットワークにおいて、異なる波長チャネルごとに情報を搬送する波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)システムにおいては、ある波長可変光源のSMSRの劣化が、そのまま他の波長チャネルから見た際の雑音光になり得る。通信品質の低下に直結するため、波長可変光源のSMSRが一定以下になりつつある場合には、その波長可変光源からの光出力そのものを遮断することが望ましい。
【0054】
図7は、発振出力光の遮断手段を備えた波長可変光源の構成を示す図である。
図7の波長可変光源はRTFレーザ200であって、
図1に示したRTFレーザ100と基本的な構成において共通している。したがって、ここでは相違点のみを説明する。実施例3のRTFレーザ200は、RTF10、光利得領域11、受光器15~1~15-5の構成、および、位相調整電極17、波長調整電極18は、
図1のRTFレーザ100と同じである。コントローラ16-1は、
図1のRTFレーザ100のコントローラ16と共通のものでも良いし、別個の専用のものでも良い。
【0055】
本実施例のRTFレーザ200は、光利得領域11の出力側に、さらに光強度調整器19を備えている。各受光器で観測される非稼働ポートからの光強度信号21-1~21-5は、コントローラ16-1に与えられる。上述の実施例1および実施例2のように、非稼働ポートからの光強度信号21-1~21-5は、発振出力光のSMSRを反映しており、SMSRを最適化するために利用可能である。したがって、上述のRTFレーザにおけるSMSRの制御方法、実施例1および実施例2において利用される光強度信号21-1~21-5を使って、一定程度のSMSRの低下が確認された場合に、光強度調整器19でレーザ出力光を遮断または減衰させれば良い。レーザ出力光の強度をオフまたは大幅に下げることで他の波長チャネルへの影響を最小限にできる。光強度調整器19は、レーザ出力光の出力強度を可変できればどのようなものでも良い。例えば、半導体光増幅器のように光信号を増幅する機構でも良いし、電界吸収型光変調器やマッハツェンダ光変調器などの本来は光信号を生成することを目的とした光変調器でも構わない。
【0056】
上述のように本開示の波長可変光源およびその制御方法では、RTFレーザの波長選択フィルタの性質を利用し、稼働ポートと、発振動作に直接寄与しない非稼働ポートとの間のフィルタ特性に着目して、非稼働ポートで観測される発振光の波長の光の強度をモニタしている。上述のRTFレーザの波長選択フィルタ特性は、M×N構成のMMIで規定されているMポートにおいて観測される発振波長の光の強度に基づいたものであった。すなわち、
図1のMMI12において、光利得領域が接続される光導波路を含めて、光導波路が接続される「Mポート」の各々からの光を受光器でモニタしている。しかしながら、MMIでは、一定の幅に限定された光導波路が接続され、ポートとして画定される部分の他の、Mポート側の「ポートを除いた部分」からの発振光の漏れ光を含めた強度を利用しても、SMSRが反映された情報が得られる。
【0057】
図8は、本開示の波長可変光源の変形例であって、光利得領域が接続される導波路を除いたの「ポートを除いた部分」からの光も利用する形態を示す図である。図
8の変形例のRTFレーザ300において、受光器はPD A 40aとPD B 40bからなり、2つの受光器からの光強度信号41a、41bのみがコントローラ16に供給される。2つの受光器では、受光器PD A 40aで、ポート1、ポート2および漏れ光を含めた光の強度をモニタし、受光器PD B 40bで、ポート4、ポート5および漏れ光を含めた光の強度をモニタしている。すなわち、変形例のRTFレーザでは、Mポート側のポートを除いた部分からの発振光の漏れ光の強度に基づいて、SMSRを制御することになる。このような形態のRTFレーザ300でも、上述のRTFレーザにおけるSMSRの制御および実施例1~3の基本的な仕組みを適応できる。
【0058】
以上詳細に説明をしたように、本開示の波長可変光源およびその制御方法では、稼働ポートと、発振動作に直接寄与しない非稼働ポートとの間のフィルタ特性を考慮して、MMIの複数の非稼働ポートにおける発振光の波長の光強度を利用する。非稼働ポートにおけるモニタされた光強度が所望の関係となるようにRTFレーザを制御することで、SMSR特性を反映させた波長可変光源の制御が実現される。従来技術のRTFレーザで考慮されていなかった非稼働ポートに対して、受光器を追加するだけでSMSRを効果的に制御可能となる。波長可変光源においてSMSRの検査や実動作中のモニタを簡単な機構によって実現できる。