(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】血管新生デバイス
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20240502BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240502BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240502BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240502BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240502BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20240502BHJP
【FI】
A61L27/38
A61L27/54
A61L27/16
A61L27/44
A61L27/52
A61K35/28
(21)【出願番号】P 2021575840
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2021003991
(87)【国際公開番号】W WO2021157626
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2020019235
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】金里 脩平
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】小原田 明信
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌史
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-178180(JP,A)
【文献】特開2017-086313(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044991(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155621(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155622(WO,A1)
【文献】水井崇浩, 外9名,脂肪由来幹細胞を付加したリコンビナントペプチドの導入による 新規皮下膵島移植法の開発,第46回日本膵・膵島移植研究会 プログラム・抄録集,2019年,p. 61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は組織含有デバイスの移植部位を血管新生するためのデバイスであって、血管新生成分及びポリマーを含有する血管新生デバイスであり、
血管新生成分が間葉系幹細胞を含有し、
ポリマーが、活性カルボニル基を有
し、けん化度95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%
であり、けん化度97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有
し、
ポリマーが水性ゲルを形成している、血管新生デバイス。
【請求項2】
細胞又は組織含有デバイスと組み合わせて使用するためのデバイスであって、血管新生成分及びポリマーを含有する血管新生デバイスであり、
血管新生成分が間葉系幹細胞を含有し、
ポリマーが、活性カルボニル基を有
し、けん化度95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%
であり、けん化度97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有
し、
ポリマーが水性ゲルを形成している、血管新生デバイス。
【請求項3】
血管新生成分及びポリマーを含有する血管新生デバイスと、細胞又は組織含有デバイスとを含む組み合わせデバイスであり、
血管新生成分が間葉系幹細胞を含有し、
ポリマーが、活性カルボニル基を有
し、けん化度95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%
であり、けん化度97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有
し、
ポリマーが水性ゲルを形成している、血管新生デバイス。
【請求項4】
血管新生成分が脂肪由来幹細胞を含有する、請求項1~
3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
ポリマーが、活性カルボニル基を有
し、けん化度95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、及びシンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%
であり、けん化度97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含
有する、請求項1~
4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂(A1)が、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールを含有する、請求項1~
5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが、ジアセトンアクリルアミド単位を0.5~15モル%含有する、請求項
6記載のデバイス。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系樹脂(A2)が
、重合度100~10000を充足する、請求項1~
7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
ポリビニルアルコール系樹脂(A2)が、ピバリン酸ビニルを重合成分とする重合体のけん化物であって、ピバリン酸ビニル単位を含有する、請求項1~
8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
ポリマーが
、応力0.1kPa以上(20℃)を有する水性ゲルを形成している、請求項1~
9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
ポリマーが、応力0.1
~100kP
a(20℃)を有する水性ゲルを形成している、請求項1~
10のいずれかに記載のデバイス。
【請求項12】
ポリマーが、1ヶ月間の水への浸漬前後の体積変化率が10%以上の水性ゲルを形成している、請求項1~
11のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
ポリマーが、応力0.3kPa以上(20℃)を有し、かつ1ヶ月間の水への浸漬前後の体積変化率が20%以上の水性ゲルを形成している、請求項1~
12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
水性ゲルが、さらに、架橋剤を含有する、請求項
10~
13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
水性ゲルが、ヒドラジド化合物及びセミカルバジド化合物から選択された少なくとも1種の架橋剤を含有する、請求項
10~
14のいずれかに記載のデバイス。
【請求項16】
血管新生デバイスが、さらに、細胞培養成分を含有する請求項1~
15のいずれかに記載のデバイス。
【請求項17】
細胞培養成分が、酢酸緩衝液及びリン酸緩衝液から選択された少なくとも1種の緩衝液を含有する、請求項
16記載のデバイス。
【請求項18】
血管新生成分がポリマーの内部に存在する、請求項1~
17のいずれかに記載のデバイス。
【請求項19】
血管新生成分が、ポリマーに溶解又は分散している、請求項1~
18のいずれかに記載のデバイス。
【請求項20】
ポリマーが、スキャフォールド及び/又は癒着防止層を構成する、請求項1~
19のいずれかに記載のデバイス。
【請求項21】
皮下用である、請求項1~
20のいずれかに記載のデバイス。
【請求項22】
細胞又は組織含有デバイスが、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する免疫隔離層を有する、請求項1~
21のいずれかに記載のデバイス。
【請求項23】
細胞又は組織含有デバイスが、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する免疫隔離層を有する、請求項1~
22のいずれかに記載のデバイス。
【請求項24】
動物の体内に移植して用いられる、請求項1~
23のいずれかに記載のデバイス。
【請求項25】
皮下、筋膜下、内臓表面、腹膜内、又は腹腔内に移植して用いられる、請求項1~
24のいずれかに記載のデバイス。
【請求項26】
移植後、抜去して用いられる、請求項1~
25のいずれかに記載のデバイス。
【請求項27】
出血、炎症、及び/又は血管の破損を伴うことなく抜去して用いられる、請求項
26記載のデバイス。
【請求項28】
移植部位が皮下である、請求項
24~
27のいずれかに記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生デバイス等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞又は組織含有(例えば、細胞又は組織包埋)デバイス(本明細書において、これらをまとめて、単に「細胞含有デバイス」「細胞包埋デバイス」等ともいう)を移植する治療法が研究されている。細胞包埋デバイスとは、生細胞や生体組織等を含有し、疾患を有するヒトや動物の臓器等に代わり、代謝機能に関連するホルモンやタンパク質等の生理活性物質を患者に供給、あるいは有害物質を解毒することによって、患者の疾病を予防及び/又は治療する装置である。細胞包埋デバイスは、免疫隔離層によって生細胞や生体組織を生体の防御機構から保護できるため、生体臓器移植と比べ、免疫抑制剤の投与を不要とするため、免疫抑制剤による副作用の心配がないこと、施術が低侵襲である点で、ドナー不足を解決し得る能力を有しており優れている。
【0003】
細胞又は組織包埋デバイスには様々な形状があるが、その一例として、生細胞や生体組織を高分子重合体で包み込んだマイクロカプセル型又はマクロカプセル型の製剤(例えば、細胞製剤)を用いたものが挙げられる。これらは、高分子重合体が有する強固な架橋構造によって、その中に含有される細胞や組織を生体の防御機構から護り、更に高分子重合体が有する分子透過能を利用して、細胞や組織から分泌されるホルモン等を生体に供給することを特徴としている。
【0004】
このような細胞包埋デバイスとして、例えば、特許文献1には、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は組織包埋デバイスが開示されている。また、特許文献2には、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール樹脂(A)を成分として含む水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は組織包埋デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2018/155621
【文献】WO2018/155622
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な血管新生デバイス等を提供することにある。
【0007】
本発明者の検討によれば、上記のような細胞包埋デバイスは、デバイス内の生細胞や生体組織等に十分な酸素や栄養素が届きにくい場合がある。生細胞等に十分な酸素や栄養素が供給されないと、生細胞等がセントラルネクローシスを起こしてしまい、細胞包埋デバイスの機能が大幅に低下してしまう恐れがある。
特に血管が少ない皮下への移植でこのような問題は起きやすく、皮下が厚い大型動物ほど皮下での酸素・栄養不足がより深刻となりうる。
【0008】
このような中、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、細胞包埋デバイスの移植部位に、予め血管新生させることでこのような問題を解決しうること等を見出し、さらに、検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]
細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)の移植部位を(移植前に)血管新生(移植部位の血管新生を促進)するためのデバイスであって、血管新生成分(血管新生促進成分)及びポリマーを含有する血管新生デバイス(血管新生のためのデバイス、血管新生を促進するためのデバイス)。
[2]
細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)と組み合わせて使用するためのデバイスであって、血管新生成分(血管新生促進成分)及びポリマーを含有する血管新生デバイス(血管新生のためのデバイス、血管新生を促進するためのデバイス)。
[3]
血管新生成分(血管新生促進成分)及びポリマーを含有する血管新生デバイス[血管新生のためのデバイス、血管新生を促進するためのデバイス、細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)の移植部位を(移植前に)血管新生するためのデバイス]と、細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)[前記血管新生デバイスにより血管新生された移植部位に移植するための細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)]とを含む組み合わせデバイス(デバイス、キット、組み合わせもの)。
[4]
血管新生成分が間葉系幹細胞を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のデバイス。
[5]
血管新生成分が脂肪由来幹細胞を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のデバイス。
[6]
ポリマーがポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載のデバイス。
[7]
ポリマーが、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載のデバイス。
[8]
ポリマーが、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、及びシンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
[9]
ポリビニルアルコール系樹脂(A1)が、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールを含有する、[7]又は[8]記載のデバイス。
[10]
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが、ジアセトンアクリルアミド単位を0.5~15モル%含有する、[9]記載のデバイス。
[11]
ポリビニルアルコール系樹脂(A2)が、けん化度90モル%以上及び重合度100~10000を充足する、[7]~[10]のいずれかに記載のデバイス。
[12]
ポリビニルアルコール系樹脂(A2)が、ピバリン酸ビニルを重合成分とする重合体のけん化物であって、ピバリン酸ビニル単位を含有する、[7]~[11]のいずれかに記載のデバイス。
[13]
ポリマーが水性ゲルを形成している、[1]~[12]のいずれかに記載のデバイス。
[14]
ポリマーが、応力0.1kPa以上(例えば、0.5~100kPa)(20℃)を有する水性ゲルを形成している、[1]~[13]のいずれかに記載のデバイス。
[15]
ポリマーが、1ヶ月間の水への浸漬前後の体積変化率が10%以上の水性ゲルを形成している、[1]~[14]のいずれかに記載のデバイス。
[16]
ポリマーが、応力0.3kPa以上(例えば、0.3~90kPa)(20℃)を有し、かつ1ヶ月間の水への浸漬前後の体積変化率が20%以上(例えば、20~90%)の水性ゲルを形成している、[1]~[15]のいずれかに記載のデバイス。
[17]
水性ゲルが、さらに架橋剤を含有する、[13]~[16]のいずれかに記載のデバイス。
[18]
水性ゲルが、ヒドラジド化合物及びセミカルバジド化合物から選択された少なくとも1種の架橋剤を含有する、[13]~[17]のいずれかに記載のデバイス。
[19]
血管新生デバイスが、さらに、細胞培養成分を含有する[1]~[18]のいずれかに記載のデバイス。
[20]
細胞培養成分が、酢酸緩衝液及びリン酸緩衝液から選択された少なくとも1種の緩衝液を含有する、[19]記載のデバイス。
[21]
血管新生成分がポリマーの内部に存在する、[1]~[20]のいずれかに記載のデバイス。
[22]
血管新生成分が、ポリマーに溶解又は分散している、[1]~[21]のいずれかに記載のデバイス。
[23]
ポリマーが、スキャフォールド及び/又は癒着防止層を構成する、[1]~[22]のいずれかに記載のデバイス。
[24]
皮下用である、[1]~[23]のいずれかに記載のデバイス。
[25]
細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する免疫隔離層を有する、[1]~[24]のいずれかに記載のデバイス。
[26]
細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)が、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する免疫隔離層を有する、[1]~[25]のいずれかに記載のデバイス。
[27]
移植した[1]~[26]のいずれかに記載の血管新生デバイスを抜去した後、移植部位(抜去部位)に細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)を移植する、移植方法(ヒト及び非ヒト動物における方法)。
[28]
移植した[1]~[26]のいずれかに記載の血管新生デバイスを抜去した後、移植部位(抜去部位)に細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)を移植する、疾患又は症状(細胞又は組織に対応する疾患又は症状)の予防及び/又は治療(改善)方法(ヒト及び非ヒト動物における方法)。
[29]
血管新生デバイスを移植する(血管新生)工程を含む、[27]又は[28]記載の方法。
[30]
出血、炎症、及び/又は血管(新生した血管)の破損を伴うことなく抜去する(移植部位において、出血、炎症及び/又は血管の破損がない)、[27]~[29]のいずれかに記載の方法。
[31]
移植部位が皮下である、[27]~[30]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、新規な血管新生デバイスを提供できる。このような血管新生デバイスは、各種血管新生用途、特に、細胞又は組織含有デバイス(例えば、細胞又は組織包埋デバイス)と組み合わせて使用するためのデバイス、具体的には、細胞包埋デバイスの移植部位に、予め血管新生させるためのデバイスとして好適に利用できる。
【0011】
本発明の他の態様の血管新生デバイスでは、効率良く血管新生を行うことができる。
【0012】
本発明の他の態様の血管新生デバイスでは、抜去後、血管が新生した(特に血管が張り巡らされた)空間(移植ポケット)を形成できる。
特に、このような血管が新生したポケットは、皮下のような血管の少ない部位にも形成できるので、有用である。そのため、例えば、細胞包埋デバイスを移植する部位に、効率良く血管新生させやすく、細胞包埋デバイスの機能を大きく向上させうる。このような態様で血管新生デバイスを用いると、血管新生が進む前に生細胞や生体組織等を移植する必要がないため、セントラルネクローシスを効率良く抑制又は防止しうる。
【0013】
本発明の他の態様では、効率良く抜去しうる血管新生デバイスを提供できる。例えば、このような血管新生デバイスでは、周辺組織への癒着が少なく、抜去に伴って、形成された血管床や周辺組織を傷つけることが少ない。そのため、移植部位での出血、炎症(炎症の発生)や浸出液を防止又は抑制しうる。このように、他の態様の血管新生デバイスは、血管新生と抜去しやすさとを両立でき、極めて有用である。
【0014】
本発明者の検討によれば、血管新生できても、出血や浸出液は、細胞包埋デバイスの機能の発現を低下させやすいようである。そのため、このような他の態様の血管新生デバイスを用いることで、出血、炎症や浸出液を防止又は抑制しつつ、別途移植する細胞包埋デバイスをより一層効率良く機能させうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】分離したADSCを各マーカーで標識後、フローサイトメーターで解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<血管新生デバイス>
本発明の血管新生デバイスは、少なくとも血管新生成分及びポリマーを含有する。
【0017】
[血管新生成分]
血管新生成分(血管新生を促進する成分)は、血管新生に寄与する(促す)成分であればよく、例えば、細胞増殖因子[例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽増殖因子(FGF)、血小板由来細胞増殖因子(PDGF)]、胎盤増殖因子(Placental growth factor;PlGF)、細胞(例えば、細胞増殖因子を分泌する細胞)等が挙げられる。
【0018】
細胞としては、例えば、幹細胞類{例えば、間葉系幹細胞(MSC)[例えば、脂肪由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来幹細胞(BMSC)、胎盤由来幹細胞、臍帯由来幹細胞等]など}等が挙げられる。
【0019】
中でも間葉系幹細胞が好ましく、ADSCが特に好ましい。
【0020】
なお、血管新生成分は、特に限定されないが、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ブタ、ラット、マウス、イヌ、ネコ等)由来であることが好ましい。
【0021】
また、血管新生成分は、そのまま(例えば、細胞の状態で)含有させてもよいし、スフェロイド化や支持体に担持させてから含有させても良い。煩雑な操作を省略できる、あるいは血管新生成分(MSC等)のバイアビリティ低下を防ぐという観点から、好ましくは細胞の状態で(スフェロイド化等させることなく)含有させてもよい。
【0022】
血管新生成分は、遺伝子組換体を含む市販品を利用してもよく、血管新生成分を含む対象(哺乳動物等)から分離して利用してもよい。
【0023】
血管新生成分は、公知ないし慣用の技術を用いて分離できる。例えば、MSC(ADSC)は次のようにして分離してもよい。
【0024】
雄性7-8週齢のLewisラット(日本エスエルシー)の腹部および鼠径部皮下脂肪を採取し、リン酸緩衝液で洗浄する。その上で細切した脂肪組織を1mg/mL TypeIIコラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)と1mmol/L CaCl2・2H2Oを含むハンクス緩衝液中で、37℃で20分間、100rpmで震盪しながら酵素処理を行う。未消化の脂肪組織はさらに20分間追加で酵素処理を実施する。次に消化後の細胞・組織懸濁液を70μmナイロンメッシュを通し、残存組織を除去したろ液を20℃、350gで5分間遠心分離し、幹細胞を含む沈殿分画と脂質を多く含む成熟脂肪細胞分画とに分離する。沈殿分画をハンクス緩衝液で洗浄後、100 units/mLペニシリン-100 μg/mLストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)を含む血清含有ADSC培地(ADSC-1、コージンバイオ)で5×106細胞/mLとなるように懸濁し、T75フラスコ(培養面積75cm2)に10mL移して、湿度95%、37℃、5%CO2で初代培養を行う。培養1、2および4日目に培地交換を行い、非接着細胞を除去する。フラスコ内の細胞が50-80%コンフルエントに達するまで培養した第1継代細胞を、フラスコから剥離し単細胞化して凍結保存する。単細胞化の工程は、培地をフラスコから除去後、リン酸緩衝液(Phosphate Buffer Solution:PBS)で洗浄し、0.05%Trypsin-EDTA(Thermo Fisher Scientific)3mLを加えて、37℃3分間処理しフラスコ表面から細胞を剥離することで行う。ADSCを細胞凍結保存溶液セルバンカー1plus(日本全薬工業)に1×106細胞/mLで懸濁し、-80℃で凍結後、液体窒素中で保存する。凍結細胞は解凍後、100 units/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシンを含む血清含有ADSC培地に3.3×104細胞/mLに懸濁する。T75フラスコに10mL移して湿度95%、37℃、5%CO2で50-80%コンフルエントに達するまで培養した第二継代細胞を、フラスコから剥離・単細胞化する(剥離方法は凍結保存時のTrypsin-EDTA処理と同じ)。
【0025】
分離後に得られた細胞が目的の細胞であるかは、例えば、細胞表面マーカーに対する蛍光標識抗体と反応後、フローサイトメーターを用いて各マーカーの陽性率を調べることで確認することができる。
【0026】
典型例の結果を以下に示す。細胞を0.05%トリプシン-EDTAで剥離し回収、PBSで洗浄した後、1×10
5細胞(100 μLの0.5%牛血清アルブミンと2mmol/L EDTAを含むPBSに懸濁)を、CD29-FITC、CD44-FITC、CD45-FITC、CD90-FITC抗体(BD Biosciences)、およびCD31-FITC抗体(Gene Tex)と反応させ、フローサイトメーター(BD Accuri
TM C6、BD Biosciences)で解析した。その結果、Lewisラット脂肪組織から分離された第二継代のADSCは、ADSCの陽性マーカーであるCD29を99.8%、CD44を89.4%、CD90を91.3%の細胞で発現していることを確認した。一方、ADSCの陰性マーカーであるCD31は0.7%、CD45は2.8%の発現率に留まった(
図1)。
【0027】
血管新生成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
[ポリマー]
血管新生デバイスは、ポリマーを含有する。
このようなポリマーは、後述するように、血管新生デバイスにおいて、水性ゲル(ハイドロゲル)を形成していてもよく、血管新生成分を溶解又は分散していてもよい。
また、ポリマーは、血管新生デバイスにおいて、スキャフォールド(足場)及び/又は癒着防止層を構成(スキャフォールド(足場)及び/又は癒着防止層として機能)してもよい。
【0029】
このようなポリマーとしては、血管新生デバイスにおける存在部位・存在形態等に応じて選択できるが、例えば、構造タンパク質類(例えば、コラーゲン、エラスチン、ケラチン等)、ゼラチン、グリコサミノグリカン類(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等)、プリテオグリカン、細胞接着分子類(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン、ヒドロネクチン等)、フィブリン、フィブロイン、セリシン、アルギン酸、キトサン、アガロース、セルロース、セルロース誘導体類(例えば、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、合成ポリペプチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、デキストリン、シリコーン、ポリウレタン、フッ素樹脂類(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン等)、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0030】
ポリマーは、親水性ポリマー(又は水溶性ポリマー)であってもよい。なお、このような親水性(水溶性)ポリマーは、血管新生デバイスにおいて、架橋等により、水不溶性となっている(例えば、ゲルを形成している)場合が多い。
【0031】
ポリマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0032】
これらの中でも、特に、ポリビニルアルコール系樹脂を好適に使用できる。そのため、ポリマーは、少なくともポリビニルアルコール系樹脂を含んでいてもよい。
【0033】
以下、ポリビニルアルコール系樹脂について詳述する。
【0034】
(ポリビニルアルコール系樹脂(A))
ポリビニルアルコール系樹脂は、通常、少なくともビニルエステル系単量体を重合成分とする重合体のけん化物であってもよい。このようなポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位を有していればよく、ビニルエステル単位(又はビニルエステル系単量体由来の単位、例えば、酢酸ビニル単位、ピバリン酸ビニル単位等の後述の脂肪酸ビニルエステル由来の単位)や他の単位(例えば、後述の活性カルボニル基を有する不飽和単量体由来の単位、他の不飽和単量体由来の単位)を有していてもよい。
【0035】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、特に制限されないが、例えば、1mPa・s以上、2mPa・s以上、3mPa・s以上、5mPa・s以上等であってもよく、800mPa・s以下、500mPa・s以下、300mPa・s以下、200mPa・s以下、150mPa・s以下、100mPa・s以下、80mPa・s以下等であってもよい。
【0036】
代表的には、4質量%水溶液粘度が3~300mPa・s程度のポリビニルアルコール系樹脂を好適に使用してもよい。
【0037】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度は、例えば、JIS K6726に従って測定できる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂は、その種類や組成等に応じて選択でき、特に限定されず、完全けん化ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、けん化度97モル%以上等)であってもよく、部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、けん化度97モル%未満)であってもよい。
【0039】
なお、けん化度(平均けん化度)は、例えば、JIS K6726に従って測定できる。
【0040】
特に、ポリビニルアルコール系樹脂(A)としては、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種(特に、樹脂(A1)及び(A2)から選択された少なくとも1種)を好適に使用してもよい。
【0041】
以下、これらの樹脂について詳述する。
【0042】
(活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1))
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A1)(本明細書において、単に「変性PVA系樹脂」ともいう)としては、例えば、脂肪酸ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体を共重合し、得られた共重合体を鹸化して製造される共重合変性PVAや、公知の方法で製造されたPVAまたは変性PVA系樹脂に液状ジケテンやジケテンガス等の活性カルボニル基を有する化合物を直接接触させて得られる後変性PVAを使用することができるが、PVA系樹脂の安定性や安全性、ゲル化工程での作業性から共重合変性PVAが好ましい。
【0043】
上記共重合変性PVAを製造する際に使用される上記脂肪酸ビニルエステルとして、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましい。これらは、従来公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの各種の重合法により製造することができるが、中でもメタノール等のアルコール溶媒を用いる溶液重合が工業的に好ましい。
【0044】
また、活性カルボニル基を有する不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタアクリレート、アセトアセトキシアクリルアミド、アセトアセトキシメタクリルアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジアセトンアクリルアミドが工業的に好ましく、共重合変性PVAとしては、ジアセトンアクリルアミド変性PVAが好ましい。
【0045】
本発明において、脂肪酸ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体との共重合には、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪酸ビニルエステルや活性カルボニル基を有する不飽和単量体と共重合可能な他の不飽和単量体を用いてもよい。
【0046】
他の不飽和単量体としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等]、不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類(例えば、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等)、アミド基含有不飽和単量体(例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ビニルアセトアミド等)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、グリシジル基を有する不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等)、ラクタム基含有不飽和単量体{例えば、N-ビニルピロリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-アルキルピロリドン(例えば、N-ビニル-3-プロピル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5,5-ジメチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,5-ジメチル-2-ピロリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピロリドン)など]、N-アリルピロリドン類(例えば、N-アリル-2-ピロリドンなど)、N-ビニルピペリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-アルキルピペリドン(例えば、N-ビニル-6-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-6-エチル-2-ピペリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピペリドン)など]、N-ビニルカプロラクタム類[例えば、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-アルキルカプロラクタム(例えば、N-ビニル-7-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-7-エチル-2-カプロラクタムなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルカプロラクタムなど)]}、アルキルビニルエーテル類[例えば、C1―20アルキルビニルエーテル(例えば、メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等)]、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等)、水酸基含有不飽和単量体[例えば、C1―20モノアルキルアリルアルコール(例えば、アリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等)、C1―20ジアルキルアリルアルコール(例えば、ジメチルアリルアルコール等)、ヒドロキシC1―20アルキルビニルエーテル(例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)]、アセチル基含有不飽和単量体[例えば、C1―20アルキルアリルアセテート(例えば、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等)等]、(メタ)アクリル酸エステル類{例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-n-ブチル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキル]等}、ビニルシラン類(例えば、トリメトキシビニルシラン、トリブチルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン等)、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等]、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等]、ポリオキシアルキレンビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等)、ポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等)、α-オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、1-ヘキセン等)、ブテン類(例えば、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン等)、ペンテン類(例えば、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン等)、ヘキセン類(例えば、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等)、アミン系不飽和単量体[例えば、N,N-ジメチルアリルアミン、N-アリルプペラジン、3-ピペリジンアクリル酸エチルエステル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-6-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン、5-ブテニルピリジン、4-ペンテニルピリジン、2-(4-ピリジル)アリルアルコール等]、第四級アンモニウム化合物を有する不飽和単量体(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等)、芳香族系不飽和単量体(例えば、スチレン等)、スルホン酸基を含有する不飽和単量体(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;アリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩等)、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、アクリロイルモルホリン、ビニルエチレンカーボネート、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール等から選ばれる1種以上等が挙げられる。
【0047】
他の不飽和単量体の含有量としては特に規定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体100モルに対して10モル以下であればよい。
【0048】
また、得られた共重合変性PVAを本発明の効果を阻害しない範囲で公知の方法を用いてアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性してもよい。
【0049】
上記共重合変性PVAを製造する際に使用される重合触媒は、特に限定されないが、通常アゾ化合物や過酸化物が用いられる。
また、重合の際、脂肪酸ビニルエステルの加水分解を防止する目的で、酒石酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を添加してもよい。
また重合の終了には、特に限定されないが、重合停止剤を使用することができる。重合停止剤は、特に限定されず、例えば、m-ジニトロベンゼン等が挙げられる。
【0050】
本発明において、脂肪酸ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体との共重合の際には、重合容器の形状、重合撹拌機の種類、さらには重合温度や、重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してかまわない。
【0051】
本発明において、脂肪酸ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体との共重合体の鹸化方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又は塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。
鹸化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、鹸化温度、時間等に特に制限されない。
また、鹸化物の乾燥、粉砕、洗浄方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。
【0052】
変性PVA系樹脂として活性カルボニル基を有する不飽和単量体(例えば、ジアセトンアクリルアミド)変性PVAを用いる場合の、活性カルボニル基を有する不飽和単量体(例えば、ジアセトンアクリルアミド)単位含有量は、活性カルボニル基を有する不飽和単量体(例えば、ジアセトンアクリルアミド)変性PVA全量(単量体の総量)に対して、例えば、0.5~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、より好ましくは1~12モル%、さらに好ましくは2~10モル%(例えば、3~8モル%)である。
活性カルボニル基を有する不飽和単量体(例えば、ジアセトンアクリルアミド)単位含有量が0.5モル%以上の場合、架橋剤との反応部位が多く、血管新生デバイスとしての十分な強度(応力)を得ることができ、また、20モル%以下の場合、水への溶解性が向上する等の観点から好ましい。
【0053】
変性PVA系樹脂の鹸化度は、特に制限はないが、80モル%以上(例えば、80~99.9モル%)が好ましく、より好ましくは88モル%以上(例えば、88~99.9モル%)で、さらに好ましくは95モル%以上(例えば、95~99.9モル%)である。
【0054】
また、変性PVA系樹脂の粘度は、種々のものとすることができるが、変性PVA系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)で2~500mPa・sが好ましく、より好ましくは3~300mPa・s、さらに好ましくは5~200mPa・s(例えば、5~80mPa・s)である。
なお、上記鹸化度、4質量%水溶液粘度は、JIS K-6726に従って測定した値であってもよい。
【0055】
(シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2))
ポリビニルアルコール樹脂(A)として、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)(本明細書において、単に「高シンジオPVA系樹脂」ともいう)を好ましく用いることもできる。
高シンジオPVA系樹脂のシンジオタクティシティは、トライアッド表示で、32~40%が好ましく、33~39%がより好ましく、34~38%が特に好ましい。シンジオタクティシティが32%以上であれば水性ゲルになりやすく、40%以下であれば水性ゲルの作製が容易となる。
なおトライアッド表示のシンジオタクティシティは、高シンジオPVA系樹脂を重DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、プロトンNMR測定による水酸基のピークより求めることができる。
【0056】
高シンジオPVA系樹脂の製法は、トライアッド表示によるシンジオタクティシティが32~40%になれば特に限定されないが、従来公知の方法で得られたビニルエステル系重合体を鹸化する方法により容易に得られる。
すなわち、高シンジオPVA系樹脂は、ビニルエステル重合体の鹸化物である。
ビニルエステル系重合体の製造方法としては、ビニルエステル系単量体を重合する方法であれば特に限定されず、従来公知の方法に従って良い。
重合の際には、重合容器の形状、重合撹拌機の種類、さらには重合温度や、重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してもかまわない。重合方法としては、従来から公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の各種重合方法が可能である。重合度の制御や重合後に行う鹸化反応のこと等を考慮すると、アルコールを溶媒とした溶液重合、あるいは、水又は水及びアルコールを分散媒とする懸濁重合が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0057】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、脂肪酸ビニルエステル、非脂肪酸ビニルエステル(例えば、ギ酸ビニル、芳香族カルボン酸ビニルエステル等)等のビニルエステル等が挙げられるが、シンジオタクティシティが高いPVAが得られる等の観点から、C3-15脂肪酸ビニルエステル[例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の直鎖又は分岐鎖のC3-15脂肪酸ビニルエステル、好ましくは、C3-10脂肪酸ビニルエステル(例えば、直鎖又は分岐鎖のC3-10脂肪酸ビニルエステル等)等]、置換基(例えば、ハロゲン基)を有するC3-15脂肪酸ビニルエステル[例えば、トリフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル等]、ギ酸ビニル等が挙げられる。これらのビニルエステルは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
高シンジオPVA系樹脂の製法の一例としては、具体的には、嵩高い側鎖を有するプロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのビニルエステルを単独あるいは共重合した後、アルカリ触媒により鹸化する方法や、ギ酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニルなどの高極性のビニルエステルを単独あるいは共重合した後、アルカリ触媒により鹸化する方法が挙げられる。中でもピバリン酸ビニルを重合した後、アルカリ触媒により鹸化する方法が好適に用いられる。下記の実施例においてトライアッド表示によるシンジオタクティシティが37.1%の製造例が記載されている。37.1%よりトライアッド表示によるシンジオタクティシティを小さくすることは、例えばピバリン酸ビニルの重合に際し、酢酸ビニルを共存させてピバリン酸ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を得ることや重合温度を上げることにより達成できる。また、37.1%よりトライアッド表示によるシンジオタクティシティを大きくすることは、例えば上記製造例における重合温度を下げることにより達成できる。いずれの場合にも、得られた高シンジオPVA系樹脂を重DMSOに溶解し、プロトンNMR測定による水酸基のピークより求めることができるので、適宜32~40%の範囲にあるものを選択して本発明に使用することができる。
【0059】
また、ビニルエステル重合体には、上記したビニルエステルの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、ビニルエステルと共重合可能な他の不飽和単量体が含まれていてもよい。
他の不飽和単量体としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等]、不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類(例えば、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等)、アミド基含有不飽和単量体(例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ビニルアセトアミド等)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、グリシジル基を有する不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等)、ラクタム基含有不飽和単量体{例えば、N-ビニルピロリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-アルキルピロリドン(例えば、N-ビニル-3-プロピル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5,5-ジメチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,5-ジメチル-2-ピロリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピロリドン)など]、N-アリルピロリドン類(例えば、N-アリル-2-ピロリドンなど)、N-ビニルピペリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-アルキルピペリドン(例えば、N-ビニル-6-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-6-エチル-2-ピペリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピペリドン)など]、N-ビニルカプロラクタム類[例えば、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-アルキルカプロラクタム(例えば、N-ビニル-7-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-7-エチル-2-カプロラクタムなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルカプロラクタムなど)]}、アルキルビニルエーテル類[例えば、C1―20アルキルビニルエーテル(例えば、メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等)]、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等)、水酸基含有不飽和単量体[例えば、C1―20モノアルキルアリルアルコール(例えば、アリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等)、C1―20ジアルキルアリルアルコール(例えば、ジメチルアリルアルコール等)、ヒドロキシC1―20アルキルビニルエーテル(例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)]、アセチル基含有不飽和単量体[例えば、C1―20アルキルアリルアセテート(例えば、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等)等]、(メタ)アクリル酸エステル類{例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-n-ブチル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキル]等}、ビニルシラン類(例えば、トリメトキシビニルシラン、トリブチルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン等)、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等]、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等]、ポリオキシアルキレンビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等)、ポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等)、α-オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、1-ヘキセン等)、ブテン類(例えば、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン等)、ペンテン類(例えば、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン等)、ヘキセン類(例えば、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等)、アミン系不飽和単量体[例えば、N,N-ジメチルアリルアミン、N-アリルプペラジン、3-ピペリジンアクリル酸エチルエステル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-6-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン、5-ブテニルピリジン、4-ペンテニルピリジン、2-(4-ピリジル)アリルアルコール等]、第四級アンモニウム化合物を有する不飽和単量体(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等)、芳香族系不飽和単量体(例えば、スチレン等)、スルホン酸基を含有する不飽和単量体(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;アリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩等)、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、アクリロイルモルホリン、ビニルエチレンカーボネート、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール等から選ばれる1種以上等が挙げられる。
他の不飽和単量体の含有量としては特に規定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体100モルに対して10モル以下であればよい。
【0060】
また、重合の際には、重合触媒を用いることができる。重合触媒としては、特に限定されないが、通常アゾ系化合物や過酸化物が用いられる。
また、重合の際、脂肪酸ビニルエステルの加水分解を防止する目的で、酒石酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を添加してもよい。
【0061】
また重合の終了には、特に限定されないが、重合停止剤を使用することができる。重合停止剤は、特に限定されず、例えば、m-ジニトロベンゼン等が挙げられる。
【0062】
重合温度は、特に限定されず公知の重合温度で問題ないが、シンジオタクティシティが高いPVA系樹脂が得られやすい等の観点から、例えば-50~200℃、好ましくは-50~150℃、さらに好ましくは0~120℃等である。
【0063】
前記のようにしてビニルエステル系重合体が得られる。得られた重合体の鹸化反応方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又は塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。なお、鹸化反応の前後において、通常は、重合体のシンジオタクティシティはほとんど変動しない。
鹸化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、鹸化温度、時間等に特に制限されない。
また、鹸化物の乾燥、粉砕、洗浄方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。
【0064】
かくしてビニルエステル重合体の鹸化物、即ち、本発明における高シンジオPVA系樹脂が得られる。得られた高シンジオPVA系樹脂を本発明の効果を阻害しない範囲で公知の方法を用いてアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性してもよい。
【0065】
高シンジオPVA系樹脂の鹸化度は、好ましくは90~99.9モル%であり、より好ましくは98~99.9モル%であり、さらに好ましくは99~99.9モル%である。なお、高シンジオPVA系樹脂の鹸化度は、例えば、重DMSO溶液中でプロトンNMRを測定し求めることができる。
【0066】
高シンジオPVA系樹脂の重合度は、好ましくは100~10000であり、より好ましくは500~8000であり、さらに好ましくは1000~5000であり、ハンドリングが比較的容易でという点から、特に好ましくは1000~3000である。重合度が100以上であれば、樹脂強度(応力)が高く、保形性のある水性ゲルが作製しやすい。重合度が10000以下であれば、水溶液が取り扱い易い。なお、重合度は鹸化前の樹脂における、JIS K6725記載のベンゼン溶液、30℃におけるポリ酢酸ビニル換算の重合度である。
【0067】
(けん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3))
ポリビニルアルコール系樹脂(A)には、前記のように、鹸化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)(本明細書において、単に「完全鹸化PVA系樹脂」ともいう)を用いることもできる。
【0068】
完全鹸化PVA系樹脂の鹸化度は、97モル%以上(例えば、97~99.9モル%)が好ましく、98モル%以上(例えば、98~99.9モル%)がより好ましく、98.5モル%以上(例えば、98.5~99.9モル%)が特に好ましい。
【0069】
完全鹸化PVA系樹脂の重合度は、例えば、100~10000であり、より好ましくは500~9000であり、さらに好ましくは1000~8000であり、特に好ましくは1500~5000である。
【0070】
[架橋剤]
血管新生デバイスは、さらに架橋剤を含有してもよい。
架橋剤は、特に限定されず、ポリマーの種類等に応じて選択できる。例えば、ポリマーとして、上記変性PVA樹脂(A1)を使用する場合には、変性PVA系樹脂(A1)のカルボニル基と反応性を有する官能基(例えば、ヒドラジノ基等)を有するもの等を好適にしてもよい。
【0071】
架橋剤としては、例えば、ヒドラジド化合物等、セミカルバジド化合物等が挙げられる。なかでも、下式(1)~(3)で示される群から選ばれる官能基を分子内に2個以上有するヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物等が好適に挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
-NH-NH2 (1)
-CO-NH-NH2 (2)
-NH-CO-NH-NH2 (3)
【0072】
ヒドラジド化合物の具体例としては、例えば、カルボヒドラジド、ジカルボン酸ヒドラジド[脂肪酸ジカルボン酸ヒドラジド(例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ヘキサデカン二酸ジヒドラジド等)、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド(例えば、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’-ビスベンゼンジヒドラジド等)、脂環族ジカルボン酸ヒドラジド(例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等)、ヒドロキシル基含有ジカルボン酸ジヒドラジド(例えば、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド等)、イミノジ酢酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等]、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、クエン酸トリヒドラジド、ブタントリカルボヒドラジド、1,2,3-ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等が挙げられる。
また、セミカルバジド化合物としては、例えば、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、ビューレットリートリ(ヘキサメチレンセミカルバジド)等が挙げられる。
また、これらのヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物にアセトン、メチルエチルケトン等の低沸点ケトン類を反応させた誘導体等を用いてもよい。
【0073】
上記架橋剤の中でも、好ましくは、ジカルボン酸ヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等、より好ましくは、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等、特に好ましくはポリアクリル酸ヒドラジドが、毒性が低く、水への溶解性も高い等の観点から好適に使用され得る。
【0074】
架橋剤は、上記架橋剤の1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
架橋剤の添加量は、ポリマー(例えば、変性PVA系樹脂)100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、2~25質量部がより好ましく、3~20質量部(例えば、4~15質量部)がさらに好ましい。
1質量部以上であれば、架橋密度が高くなり血管新生デバイスとしての十分な強度(応力)を得ることができ、一方30質量部以下であれば、反応に寄与しない架橋剤の残留を抑制できる等の観点から、好ましい。
【0075】
架橋剤としてポリアクリル酸ヒドラジドを使用する場合、分子量範囲は特に限定されないが、ポリアクリル酸ヒドラジドの重量平均分子量(Mw)は、約3000~6000000が好ましく、約5000~1000000が好ましく、約8000~800000(例えば、約10000~300000、約1000~200000、約10000~100000)がさらに好ましい。
【0076】
架橋剤としてポリアクリル酸ヒドラジドを使用する場合、ポリアクリル酸ヒドラジドのヒドラジド化率は特に限定されないが、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0077】
ポリアクリル酸ヒドラジドの分子量、ヒドラジド化率は、例えば分子量が小さい場合はヒドラジド化率を高くする、分子量が大きい場合は低めにするなど本発明の効果が阻害されない範囲で適宜調整すればよい。
【0078】
[細胞培養成分]
血管新生デバイスは、細胞培養成分を含有していてもよい。
細胞培養成分としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン及びグルコース等が挙げられ、中でも、Na、K、Cl、Ca、グルコース等を含有する酢酸あるいはリン酸緩衝液等が好適に用いられる。
【0079】
細胞培養成分がNaを含有する場合、Na濃度は、好ましくは20~150mEq/L、より好ましくは80~140mEq/Lに調整してもよい。
Kを含有する場合、K濃度は、好ましくは2.5~130mEq/L、より好ましくは3.5~40mEq/Lに調整してもよい。
Clを含有する場合、Cl濃度は、好ましくは15~170mEq/L、より好ましくは100~150mEq/Lに調整してもよい。
Caを含有する場合、Ca濃度は、好ましくは0.5~5mEq/L、より好ましくは1~3mEq/Lに調整してもよい。
グルコースを含有する場合、グルコース濃度は、好ましくは1~11mM、より好ましくは3~7mMに調整してもよい。
【0080】
細胞培養成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の細胞培養培地(例えば、HBSS(ハンクス平衡塩溶液)等)、市販の保存液(例えば、Euro-Collins液、セルバンカー、UW液(University of Wisconsin solutuion)等)、細胞保護成分(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、血清アルブミン等)、雑菌の混入を阻止する成分(例えば、抗生物質等)、細胞の活性を維持する成分(例えば、ニコチンアミド等のビタミン類等)等が挙げられ、好ましくは、公知の細胞培養培地等である。
【0081】
これらは、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0082】
また、細胞培養成分は、他の成分(例えば、徐放性付与剤、等張化剤、pH調整剤など)と組み合わせて使用してもよい。
【0083】
血管新生デバイスは、さらに、これら以外の成分を含有していてもよい。例えば、血管新生デバイスは、生細胞の増殖を促進又は制御する物質である細胞増殖因子、細胞から産生される活性物質であるサイトカイン、その他の生理活性物質、血管新生デバイスへの血流を促進する血流促進物質、神経栄養因子等を含んでいてもよい。
【0084】
これらは、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0085】
細胞増殖因子としては、例えば、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン等が挙げられる。
サイトカインとしては、例えば、造血因子(例えば、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子等)、腫瘍壊死因子、インターフェロン類等が挙げられる。
【0086】
その他の生理活性物質として、例えば、アミノ酸(例えば、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等)、ビタミン類(例えば、ビオチン、パントテン酸、ビタミンD等)、血清アルブミン、抗生物質等が挙げられる。
【0087】
血流促進物質としては、例えば、シトルリン又はその塩、カプサイシン、カプサイシノイド類が挙げられる。
【0088】
神経栄養因子としては、例えば、NGF(nerve growth factor;神経成長因子)、BDNF(brain-derived neurotrophic factor;脳由来神経栄養因子)、NT-3(neurotrophin-3;ニューロトロフィン-3)、NT-4(neurotrophin-4;ニューロトロフィン-4)、GDNF(Glial-Cell Derived Neurtrophic Factor;グリア細胞株由来神経栄養因子)、ニュールツリン(neurturin)、アルテミン(artemin)、パーセフィン(persephin)等が挙げられる。
【0089】
なお、これらの成分の添加量は、特に限定されない。
【0090】
[ゲル]
血管新生デバイスにおいて、ポリマー[ポリマー中にポリマー以外の成分(例えば、血管新生成分、細胞培養成分等)を含む場合には当該成分を含むポリマー]は、特に、ゲル[特に水性ゲル(ハイドロゲル)]を形成していてもよい。このようなゲルは、ポリマーの種類に応じて、例えば、後述の架橋剤等によって架橋(ゲル架橋)したものであってもよく、ゲル形成性のポリマー(例えば、前述のポリビニルアルコール系樹脂(A2))によりゲルを形成させてもよい。
【0091】
ゲルにおいて、ポリマー濃度は、例えば、0.3~20%、好ましくは0.5~10%、より好ましくは1~8%(例えば、3~8%)であってもよい。このような範囲であれば、血管新生デバイスを動物に移植後、体内で長期にデバイス形状を保持できる等の観点から好ましい。
【0092】
また、ゲル(又は血管新生デバイス)において、架橋剤を使用する場合、架橋剤の含有量は、架橋剤の種類や所望の強度等に応じて、適宜選択できるが、例えば、ポリマー100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量以上等であってもよく、20質量部以下、好ましくは18質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下等であってもよい。
【0093】
ゲルに血管新生成分を含有させる場合、ゲルに含有させる前の血管新生成分(例えば、MSC)の生細胞全体に対する、ゲル(又は血管新生デバイス)に含まれる生存細胞数の割合は、例えば、60~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%であってもよい。
生細胞数は、例えば、Fluorescein diacetate試薬による細胞質染色およびpropidium iodideによる細胞核染色により測定(FDA/PI測定と略することもある)することができる。
【0094】
ゲルは、通常、所定の強度(応力)を有する。このような強度は、移植あるいは抜去時に容易に崩壊しない程度の応力であってもよい。ゲルの強度は、ポリマーの種類(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂の種類、4%水溶液粘度、鹸化度、変性度、シンジオタクティシティ等)、架橋剤の種類、添加量、及びゲルの固形分濃度により異なるため一概に言えないが、例えば、応力(20℃)が0.1kPa以上(例えば、0.3kPa以上)程度であってもよく、0.4kPa以上[例えば、0.5kPa以上(例えば、0.5~100kPa)]、好ましくは0.55kPa以上[例えば、0.6kPa以上(例えば、0.6~95kPa)]、より好ましくは0.65kPa以上(例えば、0.7~90kPa)、さらに好ましくは0.7kPa以上(例えば、0.7~85kPa)であってもよい。
応力(20℃)の上限値は、限定されないが、移植、留置あるいは抜去時に血管床や周辺組織を傷つけにくい等の観点から、大きすぎないのが好ましく、例えば、100kPa、95kPa、90kPa、85kPa、80kPa、75kPa、70kPa、65kPa、60kPa、55kPa、50kPa、45kPa、40kPa、35kPa、30kPa、25kPa、20kPa、15kPa、12kPa、10kPa、9kPa、8kPa等であってもよい。
なお、上記のような応力(20℃)は、移植に供するゲルが充足すればよく、移植後又は留置後(所定期間移植又は留置後、抜去時)のゲルが充足してもよい(ゲルにおいて保持されていてもよい)。
【0095】
ゲルの応力は、例えば、島津製作所製小型卓上試験機EZTest EZ-SXを用いてその使用説明書に従って測定(具体的には、後述の実施例の方法等により測定)することができる。
【0096】
ゲル(特に水性ゲル)の形状は、特に制限されないが、例えば、シート状、板状、盤状、棒状、チューブ状、ビーズ状等が挙げられる。
【0097】
ゲル(特に水性ゲル)のサイズは、移植(血管新生)部位やそのサイズ等に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、厚みにおいて0.1~10mmが好ましく、0.2~5mmがより好ましく、0.5~2mmがさらに好ましく、0.7~1.5mmが特に好ましい。
【0098】
[存在形態等]
血管新生デバイスは、血管新生成分及びポリマー(さらに他の成分)を含有する。これらの存在形態としては、特に限定されないが、通常、血管新生成分が、ポリマーの内部(血管新生デバイス外から見て内側)に存在する場合が多い。
【0099】
このような形態としては、例えば、血管新生成分がポリマー中に存在(例えば、溶解又は分散)する形態、血管新生成分の外側にポリマーが存在する形態等が挙げられ、特に、血管新生成分がポリマー中に存在する(さらにはポリマーで形成されたゲル中に存在する)のが好ましい。
【0100】
血管新生成分の溶解又は分散状態は、例えば、顕微鏡を用いた目視観察、ルシフェラーゼトランスジェニックラット由来の血管新生成分(MSC等)を利用した発光イメージングシステム等で確認することができる。発光イメージングシステムとは、生体内の目に見えない非常に微弱な発光や蛍光を超高感度冷却カメラで捉え半定量化できるアッセイ系であり、600nm以上の波長の光を多く有するホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ血管新生成分(例えば、動物由来のMSC等)を健常動物へ移植し、その体内へルシフェラーゼの基質であるルシフェリンを投与することにより発光反応が生じ、同一個体における生体反応をin vivoで経時的に観察することが可能となる。
【0101】
このような存在形態であると、血管新生成分を比較的均一に存在させやすく(又は血管新生成分の凝集を抑えやすく)、そのため、各細胞に酸素や栄養素を効率良く供給できるためか、血管新生を効率よく行いやすい(血管新生成分をバイアビリティにおいて低下させることなく十分に機能させやすい)。
【0102】
また、血管新生デバイスは、スキャフォールド(スキャフォールド機能)を有していてもよく、特に、血管新生成分がスキャフォールド中に含有されていてもよい。このようなスキャフォールドは、含有する血管新生成分(MSC等)を移植部位に固定する役割と、血管新生成分(MSC等)が当該移植部位で機能する足場としての役割を有する。
【0103】
血管新生成分(MSC等)を十分に固定化することで、血管新生成分(MSC等)の拡散を防止又は抑制でき、狙った部位に効率良く血管新生しやすい。
【0104】
また、スキャフォールド機能(足場としての役割)を十分なものとすることで、血管新生成分による血管新生促進機能を効率よく発揮しうる(例えば、血管新生成分がMSC等である場合、血管新生に必要な成長因子等の分泌が効率良く行われる)。
【0105】
なお、固定化の機能については、例えば、上述した発光イメージングシステム等で確認することができる。
【0106】
スキャフォールド(足場)としての機能については、例えば、血管新生デバイスを移植した部位のvWF(von Willebrand Factor)に関する免疫染色を実施することで確認することができる。具体的には、血管新生デバイス周囲の皮下組織を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定後、パラフィンで包埋し薄切切片を作製する。1次抗体としてanti-vWF抗体(AB7356;MerckMilliporeM)を30分、2次抗体としてEnVision System-HRP(Dako)を30分反応させ、ジアミノベンジジン(DAB)(DAKO)で発色させた後、陽性細胞数のカウントを実施することで評価可能である。
【0107】
スキャフォールドは、周辺組織に癒着しにくいこと、すなわち癒着防止能を有することが好ましい。なお、癒着防止能とは、例えば、デバイスを移植部位に留置した際、デバイスと周囲組織の癒着を防止又は抑制する機能を意味する。
【0108】
スキャフォールドが癒着防止能を有すると、血管新生後の血管新生デバイス摘出が容易になるとともに、周辺組織や新生血管の傷(損傷、破損)に起因する出血、炎症や浸出液を防ぎやすい。
【0109】
スキャフォールドは、通常、ポリマー、特に、前述のポリマーで構成してもよい。具体的には、スキャフォールドの材質としては、特に限定されないが、例えば、構造タンパク質類(例えば、コラーゲン、エラスチン、ケラチン等)、ゼラチン、グリコサミノグリカン類(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等)、プリテオグリカン、細胞接着分子類(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン、ヒドロネクチン等)、フィブリン、フィブロイン、セリシン、アルギン酸、キトサン、アガロース、セルロース、セルロース誘導体類(例えば、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、合成ポリペプチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0110】
これらの材質(ポリマー)は、単独で又は2種以上組み合わせてスキャフォールドを構成してもよい。
【0111】
これらの中でも、スキャフォールドは、特に、ポリビニルアルコール系樹脂(中でも、前述のポリビニルアルコール系樹脂(A1)~(A3)の少なくとも1種、特に(A1)及び(A2)の少なくとも1種)で構成(特に、ポリビニルアルコール系樹脂で形成されたゲルで構成)してもよい。
【0112】
このようなポリビニルアルコール系樹脂は、上記のような優れたスキャフォールド機能や癒着防止能を効率よく発揮しやすく、好適に使用しうる。
【0113】
スキャフォールドの周囲(外側、外層)にさらに癒着防止層(癒着防止能を有する層)を設けてもよい。癒着防止層は、ポリマー、特に、前述のポリマーで構成してもよい。具体的には、癒着防止層の材質としては、特に限定されないが、例えば、デキストリン、ヒアルロン酸、アルギン酸、セルロース、セルロース誘導体類(例えば、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、シリコーン、ポリウレタン、フッ素樹脂類(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン等)、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0114】
これらの材質は、単独で又は2種以上組み合わせて癒着防止層を構成してもよい。
【0115】
これらの中でも、癒着防止層は、特に、ポリビニルアルコール系樹脂(中でも、前述のポリビニルアルコール系樹脂(A1)~(A3)の少なくとも1種、特に(A1)及び(A2)の少なくとも1種)で構成(特に、ポリビニルアルコール系樹脂で形成されたゲルで構成)してもよい。
【0116】
このようなポリビニルアルコール系樹脂は、前記のような癒着防止能を効率よく発揮しやすく、好適に使用しうる。
【0117】
癒着防止層は、スキャフォールドと一体化していてもよく、スキャフォールドを構成するポリマーと同一の又は異なるポリマー、特に、同系統の(好ましくは同じ)ポリマー(又はポリマーで形成されたゲル)で構成されていてもよい。
【0118】
前記のように、血管新生成分は、代表的には、ポリマーの内部(血管新生デバイス外から見てポリマーの内部又は内側)に存在する。
【0119】
スキャフォールド(機能)や癒着防止層(癒着防止機能)との関係で、このような存在形態を例示すると、例えば、ポリマーで構成されたスキャフォールド[又はスキャフォールド機能(さらには癒着防止機能)を有するポリマー(特にゲルを形成したポリマー)]及び/又は癒着防止層[又はポリマー(特にゲルを形成したポリマー)で構成され、癒着防止機能を有する層]中に血管新生成分が含まれる場合等が挙げられる。
【0120】
代表的な血管新生デバイスでは、少なくとも、ポリマー(特にゲルを形成したポリマー)で構成されたスキャフォールド中に血管新生成分が含まれる場合が多い。このような血管新生デバイスが、癒着防止層をさらに有する場合、癒着防止層は、血管新生成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0121】
血管新生デバイスは、支持基材を含有していてもよい。
特に、ゲル(例えば、スキャフォールドを構成するゲル)は、その補強及び/又は操作性の簡便化のために、補強材として有用な支持基材を組み合わせてもよい。
【0122】
例えば、ゲル(特に水性ゲル)を薄膜シート状にする場合には、その補強及び操作性の簡便化のために、樹脂製メッシュシート等の基材(補強材)に固定してゲル化してもよい。
【0123】
支持基材の素材は、限定されるものではないが、例えば、高分子[例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、テフロン(登録商標)等]、金属等が挙げられ、生体内で分解、変質しないことが好ましいが、一定期間経過後生体内で分解されるものであってもよい。
【0124】
メッシュシートのメッシュ(網目)サイズは、透過すべき酸素、無機有機の栄養分、種々のホルモンの中で最大と想定される直径5nm程度の分子(例えば、インスリンなどのホルモンを含む生理活性物質)を透過させ、透過を阻止すべき免疫関連細胞や免疫関連物質の中で最小と想定される直径50nm程度の分子(例えば抗体、補体など)を透過させないように、通常5~100nm、好ましくは10~50nm、より好ましくは20~30nmである。
【0125】
血管新生デバイスにおいて、血管新生成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、1×100~1×105個(例えば、細胞数)/mm2が好ましく、5×100~5×104個(例えば、細胞数)/mm2がより好ましく、1×101~1×104個(例えば、細胞数)/mm2が特に好ましい。
このような含有量とすることで、十分な血管新生機能と、出血、炎症や浸出(滲出)液の抑制又は防止とを、より一層、効率良く両立させやすいようである。
【0126】
血管新生デバイス(又は血管新生デバイスを構成するゲル)は、体内への留置期間中に僅かに収縮することが好ましい。体積の収縮率(体積変化率)は特に限定されないが、1ヶ月の留置(留置前後)で10%以上[例えば、20%以上(例えば、20~90%)]収縮するのが好ましく、25%以上[例えば、30%以上(例えば、30~80%)]収縮するのがより好ましく、35%以上[例えば、40%以上(例えば、40~70%)]収縮するのが特に好ましい。
なお、留置は、所定温度(例えば、37℃)にて行ってもよい。
また、体積変化率において、留置(体内への留置)は、水中への留置(浸漬前後)のものと擬制してもよい。
すなわち、体積変化率において、1ヶ月の留置は、1ヶ月の水への留置(浸漬)としてもよい。
体積変化率は、下記式により求めることができる。
体積変化率(%)=留置[1ヶ月間の水への留置(浸漬)]後の体積÷留置[水への留置(浸漬)]前の体積×100
【0127】
このような収縮率であると、血管新生デバイスと周辺組織が離れやすくなるため、抜去しやすくなる。また、血管新生成分(MSC等)へダメージを与えにくいとともに、抜去後、別途移植する場合には、移植する細胞包埋デバイス用の移植ポケットを形成しやすくなる。
特に、前記の応力と組み合わせて収縮率(体積変化率)を調整することで、留置と抜去のしやすさとを効率(バランス)よく両立しうる。
【0128】
なお、このような収縮率は、デバイスの構成材料や物性(ポリマーの種類やゲルの強度等)、留置時間等の選択によって、調整しうる。
【0129】
[製造方法]
血管新生デバイスは、血管新生成分及びポリマー(さらには他の成分)を共存(存在)させることにより製造できる。
【0130】
具体的には、各成分の種類・形態・存在形態等に応じて、慣用の方法を利用して製造できる。
【0131】
例えば、ポリマー(さらには他の成分)を含む混合液をゲル化せしめることが好ましい。
【0132】
このようにポリマーでゲルを形成する場合、ゲルの成形(形成)方法としては、例えば、ポリマー[例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、さらには、所望により、血管新生成分(MSC等)、架橋剤、細胞培養成分等]を含む混合液[特に、水溶液(ゾル状態であってもよい)]を、ゲル化する前に目的とする形状の型に流し込む方法、得られたゲルをナイフ等で目的の形状に加工する方法等が挙げられる。
【0133】
なお、通常、ポリマー[例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、さらには、所望により、血管新生成分(MSC等)、架橋剤、細胞培養成分等]を含む混合液(特に、水溶液)は、ゲル状態に至るまでにゾル状態を経由する。そのようなゾル状態も本発明のゲル等価物として本発明の範囲内であると理解される。
【0134】
混合液[特に水溶液(ゾル状態であってもよい)]の固形分濃度は、例えば、0.3~20質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%である。このような範囲であれば、血管新生デバイスを移植後、体内で長期にデバイス形状を維持し、癒着防止能を保持できる等の観点から好ましい。
【0135】
なお、混合液の調製は、各成分を同時に混合してもよく、予めポリマー(及び必要に応じて架橋剤や細胞培養成分)を含む混合液(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液)を調製し、血管新生成分を混合して調製してもよい。
【0136】
また、その他の成分は、血管新生成分(MSC等)及び/又は細胞培養成分と一緒に、又は、別々に混合することができる。
【0137】
特に、ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶液を調製する場合、調製方法としては、特に限定されないが、例えば、該樹脂を室温の水に分散し、撹拌しながら80℃以上に昇温し、完全に溶解した後冷却する従来公知のPVAの溶解方法で調製することができる。
【0138】
架橋剤は、水溶液として用いてもよい。このような場合、架橋剤の水溶液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、該架橋剤を室温の水に分散し、室温で撹拌溶解して調製する方法や、加熱下(例えば、60℃で10分間など)で撹拌溶解し、その後は室温で放置する方法で調製することができる。
【0139】
また、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液や架橋剤の水溶液は、オートクレーブ処理、UV、γ線又はフィルター処理等、従来公知の方法で滅菌処理することが望ましく、血管新生成分との混合時またはその後の血管新生デバイスの製造では、雑菌が入らないような環境で作業や保管を行うことが望ましい。
【0140】
血管新生デバイスの作製において、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液や架橋剤(必要によりMSC及び/又は細胞培養成分を混合した状態)の混合物(又はその水溶液)は、放置してもよい。
放置温度は、血管新生成分(MSC等)の保存に適した温度であってもよい。
【0141】
ゲルを作製する際の放置時間(ゲル化のための時間、ゲル化時間)は、ポリマー(ポリビニルアルコール系樹脂等)の濃度、架橋剤の量、放置温度等により適宜選択することができるが、常温で通常は1時間~1週間程度である。1時間以上であれば、血管新生デバイスを体内に留置した際に容易に崩壊しない等の観点から、好ましい。
【0142】
血管新生デバイスの作製に変性PVA系樹脂を用いる場合、変性PVA系樹脂及び架橋剤(さらに、必要に応じてMSC及び/又は細胞培養成分を混合した)の混合液にpH緩衝液等を添加して、系のpHを低くするとゲル化時間が短縮される傾向にあり、pHを高くするとゲル化時間が長くなる傾向があり、pHを変えることにより、ゲル化時間をコントロールすることができる。
【0143】
以下に、支持基材を用いた血管新生デバイスの製造例を示す。
基材ないし基板(スライドガラス等)の上に、細胞培養成分を含むポリマー混合液又はそのゲル(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂含有水溶液又は水性ゲル)をのせ、その上にPETメッシュ(例えば、株式会社サンプラティック社製、商品名:PETメッシュシート(呼称TN120)等)等の支持基材をかぶせ、該支持基材上にポリマー混合液又はそのゲル(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂含有水溶液又は水性ゲル)に血管新生成分(MSC等)を溶解又は分散(懸濁)させて得られた混合液(溶解又は分散液(懸濁液))をのせ、ゲルローディングチップ等を用いて該混合液を支持基材上に拡げ、該混合液を挟み込むようにさらに支持基材(PETメッシュ等)をその上にかぶせ、さらに支持基材(PETメッシュ等)の上に、細胞培養成分を含むポリマー混合液又はそのゲル(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂含有水溶液又は水性ゲル)をのせ、その上から基材ないし基板(スライドガラス等)をかぶせて構築されたものから、基材ないし基板(スライドガラス等)を分離する(外す)ことで、一態様の血管新生デバイスが得られる。
【0144】
[用途等]
本発明のデバイスは、血管新生(血管新生促進)のために用いることができる。
【0145】
具体的には、本発明のデバイスは、ヒトを含む動物の体内に移植(留置)することにより、当該移植(留置)部位に血管を新生させることができる。
【0146】
移植部位は、特に限定されず、例えば、皮下、筋膜下、内臓表面(肝表面、脾表面等)、腹膜(大網等)内、腹腔内等が挙げられる。特に、移植部位は、皮下であるのが好ましい。
【0147】
皮下には、血管が少ない場合が多く、本発明のデバイスによればこのような血管が少ない部位でも効率良く血管を新生させうる。
【0148】
血管新生デバイスの移植(留置)方法は、特に限定されず、慣用ないし従来公知の方法に従ってよい。例えば、移植用機器も公知のものでよい。
【0149】
なお、血管新生デバイス[さらには後述の細胞包埋デバイス](又は移植)の対象(移植対象)は、ヒト及び非ヒト動物(例えば、犬、猫等のほ乳類)のいずれであってもよい。なお、非ヒト動物は、ペット用動物であってもよい。好ましい対象はヒトである。
【0150】
血管新生デバイスの留置期間は、移植部位等などにもよるが、例えば、移植部位に1週間以上留置することが好ましく、10日~2ヶ月留置することがより好ましく、10日~1ヶ月留置することが特に好ましい。
【0151】
このような期間留置すると、十分な血管新生効果を得やすい。また、このような十分な血管新生効果と、出血、炎症や浸出液の防止又は抑制効果とを効率よく両立しやすい。
【0152】
移植後の血管新生デバイスは、所定の留置期間を経て、通常、抜去(移植部位から抜去)する。本発明には、このような抜去方法も含まれる。
【0153】
このような抜去は、通常、出血、炎症、血管(新生した血管)の破損等を伴うことなく、行われる場合が多い。このような出血、炎症や血管の破損は、抜去部位に血液や浸出液が溜まる要因となる
【0154】
本発明では、前記のような血管新生デバイス(例えば、前記例示のポリビニルアルコール系樹脂(A1)~(A3)の少なくとも1種の使用)を選択する(さらには留置期間の選択等)等により、移植部位との癒着が生じにくいことも相まってか、このような出血、炎症、血管の破損を伴うことなく、効率良く抜去できる場合が多い。
【0155】
抜去後の移植部位には、移植ポケットが形成される。このような移植ポケットには、後述のように、引き続き、細胞包埋デバイスを移植してもよい。
【0156】
本発明には、細胞包埋デバイスを移植(留置)する方法も含まれる。
このような細胞包埋デバイスの移植は、血管新生デバイスの移植(留置)と並行しても(重なっても)よいし、並行しなくても(重複しなくても)よい。
並行させる場合、血管新生デバイスは、細胞包埋デバイスの近傍(周辺)に又は隣接させて移植させてもよい。
【0157】
特に、細胞包埋デバイスは、血管新生デバイスの抜去後、抜去した部位(移植部位、移植ポケット)に、移植(留置)してもよい。
【0158】
換言すれば、本発明の血管新生デバイスは、細胞包埋デバイスと組み合わせて使用するためのデバイス、特に、細胞包埋デバイスの移植部位を、血管新生(移植前に血管新生)するためのデバイスとして用いることができる。
【0159】
上記のように、本発明の血管新生デバイスによれば、移植部位に血管を新生できるため、細胞包埋デバイスの機能を効率良く発揮しやすい。
このような方法では、血管新生が進む前に、生細胞や生体組織等を移植する必要がないため、セントラルネクローシスを効率良く抑制ないし防止し、細胞包埋デバイスの機能を発現しやすい。また、細胞包埋デバイスの入れ替えが必要になったとしても、容易に行うことができる。
【0160】
特に、上記の通り、本発明の一態様の血管新生デバイスは、癒着が生じにくく、出血、炎症や血管の破損を伴うことなく抜去できる場合が多く、このような抜去部位に、移植することで、より一層効率良く細胞含有デバイス(細胞包埋デバイス)を機能させやすい。
【0161】
このような抜去部位を利用することで、細胞包埋デバイスは、効率良く、出血、炎症や血管の破損が生じていない移植部位に、移植できると言うこともできる。
【0162】
本発明者の検討によれば、出血、炎症や血管の破損を伴うと、移植した細胞包埋デバイスの周囲と新生した血管床の間に血液や浸出液が溜まりやすくなるようである。本発明によれば、このような現象を伴うことなく移植(留置)できるためか、新生血管を細胞包埋デバイスに有効に作用でき、細胞包埋デバイスの機能を効率よく発現しうる。
【0163】
なお、移植部位での出血、炎症や血管の破損は、例えば、血管新生デバイスの抜去(摘出)前後あるいは細胞包埋デバイスの移植前に、目視で確認することができる。
【0164】
細胞含有デバイス(細胞包埋デバイス)としては、細胞や組織そのものの他、細胞や組織を包埋するもの(以下、細胞包埋デバイスということがある)等が挙げられる。
細胞包埋デバイスとしては、特に限定されず、例えば、前記特許文献1や2に記載の細胞包埋デバイス等を使用してもよい。以下、具体的に説明する。
【0165】
細胞包埋デバイスに含まれる(例えば、包埋(封入)される)生体組成物(細胞又は組織)は、特に限定されず、デバイスの使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0166】
上記生体組成物としては、例えば、外胚葉、中胚葉又は内胚葉に由来する分化細胞や幹細胞等を用いることができる。
【0167】
分化細胞としては、例えば、表皮細胞、平滑筋細胞、骨細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、骨格筋芽細胞、膵実細胞、膵島細胞、膵内分泌細胞、膵外分泌細胞、膵管細胞、肝臓細胞(例えば、肝細胞)、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、副腎細胞、下垂体細胞、脾細胞、松果体細胞、腎臓細胞(腎細胞)、脾臓細胞、前葉細胞、成長ホルモン分泌細胞、ドパミン産生細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、神経細胞、色素細胞、脂肪細胞等を用いることができる。上記細胞は、生体から単離された細胞のみならず、後述する幹細胞から分化誘導されたものであってもよい。
【0168】
幹細胞(iPS細胞等)等の分化誘導されうる細胞については、分化誘導される細胞を移植ないしデバイスに組み込んで、移植後に生体内で分化誘導させてもよいし、分化誘導した細胞を移植ないしデバイスに組み込んで用いてもよい。
【0169】
また、幹細胞としては、組織幹細胞(例えば、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞、膵幹細胞・膵前駆細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、造血幹細胞等)、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)等を用いることができるが、これらに限らない。
【0170】
これらの細胞は、ヒト、サル、ブタ、ラット、マウス、イヌ、ネコ等の哺乳動物由来であって、患者等の生体にとって有用なホルモンやタンパク質等の生理活性物質を産生及び/又は分泌する細胞であることが好ましく、細胞の種類の選択は、移植する患者等の生体の疾患の種類によって決定することができる。また、これらの細胞がヒト細胞以外である場合、治療目的にヒト遺伝子を導入された細胞であってもよい。なお、生体にとって有用なホルモンとは、インスリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン、チロキシン、糖質コルチコイド、グルカゴン、エストラジオール、又はテストステロン等が例示される。生体にとって有用なタンパク質とは、具体的には、血液凝固因子、補体、アルブミン、グロブリン、各種酵素(代謝酵素又はアミラーゼ、プロテアーゼ、若しくはリパーゼ等の消化酵素)が例示される。その他の生理活性物質の例としては、例えばドパミンなどの神経伝達物質等が挙げられる。
【0171】
具体的に言えば、膵細胞(膵島細胞)、肝細胞、ドパミン産生細胞及びこれらの幹・前駆細胞がより好ましく、膵細胞(膵島細胞)及び膵前駆(幹)細胞がより好ましい。
【0172】
細胞包埋デバイスに使用される生体組成物は、実験室用に確立された細胞若しくは生体組織、又は生体組織から分離した細胞等のいずれであってもよいが、分化した非分裂細胞であることが好ましい。なお、該分離方法としては特に限定されず、従来公知の方法に従ってよい。また、生体組織から分離された細胞は、病原性ウィルス等の病原菌が除去されていることが望ましい。
【0173】
細胞包埋デバイスにおいて、生体組成物の含有量は、生体組成物の種類に応じて適宜変更することができる。
【0174】
投与量は、医師が患者の年齢、性別、症状、副作用等を考慮して決定するので、一概には言えないが、通常成人1人当たり約1~10のデバイスを体内に移植することができる。例えば糖尿病患者に対する場合、患者の体重1kgあたり通常1000~1000000IEQ(膵島量の国際単位:直径150μmの膵島の体積を1IEQと定義)、好ましくは5000~400000IEQ、より好ましくは10000~20000IEQの膵島を含有するデバイスを移植することができる。
【0175】
デバイスの形状は特に限定されないが、血管新生デバイスと同じ形状が好ましい。円盤状、球状、円柱状、楕円球状等を含むが、円盤状が好ましい。
【0176】
細胞包埋デバイス(細胞包埋デバイスのデバイス部)の材料は、特に限定されず、高分子(ポリマー)や金属、セラミックス等を用いることができる。
【0177】
特に、細胞包埋デバイスは、例えば、ポリマー[例えば、ポリビニルアルコール系樹脂(A)]を含有する免疫隔離層を有していてもよい。換言すれば、細胞包埋デバイスにおいて、ポリマー(ゲルを形成したポリマー)が免疫隔離層を構成(又は免疫隔離機能を有)していてもよい。
【0178】
なお、免疫隔離層(免疫隔離機能)とは、例えば、ブドウ糖;インスリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン、チロキシン、糖質コルチコイド、グルカゴン、エストラジオール、又はテストステロンなどのホルモン;血液凝固因子、アルブミン、グロブリン、各種酵素(代謝酵素又はアミラーゼ、プロテアーゼ、若しくはリパーゼ等の消化酵素)などのタンパク質;ドパミンなどの神経伝達物質等を透過しつつも、例えば、抗体、補体、又は白血球などの免疫系のタンパク質を透過しない層(機能)を意味する。
【0179】
細胞包埋デバイスは、例えば、バイオ人工臓器などであってもよい。
【0180】
特に、細胞包埋デバイスにおいて、生体組成物は、前記血管新生デバイスと同様の形態で、デバイスに含まれていてもよい。例えば、細胞包埋デバイスは、ポリマーを含んでいてもよく、当該ポリマーは、架橋剤や細胞培養成分を含んでいてもよく、特に、ゲル(水性ゲル)を形成していてもよく、当該ゲルは前記所定の強度を有していてもよい。
【0181】
好ましい態様も前記と同様であり、例えば、ポリマーの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂、特に、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A1)、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32~40%であるポリビニルアルコール系樹脂(A2)、及びけん化度が97モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(A3)から選択された少なくとも1種以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を好適に使用してもよい。
【0182】
前述の通り、樹脂(A1)や(A2)は血管新生デバイス(スキャフォールド等)を構成するポリマーとして好適であるが、このようなポリマーは、特許文献1や2にも記載の通り、意外なことに、全く異なる用途であるにもかかわらず、細胞包埋デバイス(免疫隔離層)を構成するポリマーとしても好適である。
【0183】
また、細胞包埋デバイスは、前記と同様の支持基材を含んでいてもよい。
【0184】
前記のように、本発明には、移植方法(細胞包埋デバイスの移植方法)も含まれる。このような移植方法では、前記のように、血管新生デバイスを抜去した後の移植部位(抜去部位)に細胞包埋デバイスを移植する。このような移植方法によれば、生体組成物(細胞又は組織)に対応して、各種疾患又は症状を予防ないし改善しうる。そのため、本発明には、このような疾患又は症状の予防及び/又は治療(改善)方法も含まれる。
【0185】
このような方法では、血管新生デバイスの抜去後に細胞包埋デバイスを移植するが、むろん、当該方法は、このような移植に先立って、血管新生デバイスを移植(留置)する工程(血管新生工程)を含んでいてもよい。
【0186】
症状又は疾患としては、例えば、内分泌疾患(例えば、甲状腺疾患、副甲状腺疾患、副腎疾患、下垂体疾患、松果体疾患等)、代謝疾患(例えば、オルニチン・トランスカルバミラーゼ欠損症、高アンモニア血症、高コレステロール血症、ホモシスチン尿症、糖原病、クリグラーナジャー症候群等、ウィルソン病)、糖尿病(例えば、1型糖尿病、2型糖尿病、膵性糖尿病等)、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症等)、血友病、骨疾患(例えば、骨粗鬆症)、癌(例えば、白血病等)等が挙げられる。
【0187】
なお、細胞包埋デバイスの移植(留置)期間は、特に限定されないが、例えば、10日以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上等であってもよい。
【0188】
前記のように、本発明の血管新生デバイスは、好適に細胞包埋デバイスと組み合わせて使用しうる。そのため、本発明には、前記血管新生デバイスと、細胞包埋デバイスを含む組み合わせデバイス(キット、デバイス、組み合わせもの)も包含する。
【実施例】
【0189】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、例中の「部」および「%」は、特に指定しない限り「質量部」および「質量%」を示す。
【0190】
[変性PVA系樹脂の分析]
4%水溶液粘度、鹸化度は、JIS K 6726(1994)に従って求めた。
ジアセトンアクリルアミド単位含有量(変性度)は、DMSO-d6を溶媒として1H-NMRを測定し、帰属したピークの積分値から算出した。
【0191】
[高シンジオPVA系樹脂の分析]
シンジオタクティシティ、鹸化度は、DMSO-d6を溶媒として1H-NMRを測定し、帰属したピークの積分値から算出した。
なお、トライアッド表示のシンジオタクティシティ(%)とは、4~5ppmの3本の水酸基プロトン(低磁場側からアイソタクティック[I]、ヘテロタクティック[H]、シンジオタクティック[S])比率から求めたもので、下記計算式に基づく。
トライアッド表示のシンジオタクティシティ(%)=
[S]/([I]+[H]+[S])×100
重合度は、JIS K 6726(1977)記載のベンゼン溶液、30℃におけるポリ酢酸ビニル換算の重合度を測定した。
【0192】
[完全鹸化PVA系樹脂の分析]
重合度、鹸化度は、JIS K 6726(1994)に従って求めた。
【0193】
[ポリアクリル酸ヒドラジドの分析]
重量平均分子量は、下記条件で測定したサイズ排除クロマトグラフィーにて求めた。
条件:
溶媒:50mMリン酸二水素ナトリウム水溶液
ポリマー濃度:1mg/mL
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
カラム:Shodex OHPack SB-803HQ、Shodex OHPack SB-805HQ
スタンダード:プルラン
検出器:RI
ヒドラジド化率は、チオ硫酸ナトリウム標準液を用いたI2の逆滴定で求めた。詳細な実験操作は、以下の通りである。
実験操作:
1.I2/MeOH液を調製した。
2.I2/MeOH液を0.1Mチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定した。(本測定では0.047Mであった。)
3.各ポリマーサンプルを精秤し、イオン交換水20mLに溶解した。
4.0.047M I2/MeOH液を3の溶液に2.0mL加えた。
5.0.1Mチオ硫酸ナトリウム標準液でヨウ素の逆滴定を行った。
【0194】
[水性ゲルの分析]
水性ゲルの応力は、EZTest EZ-SX(島津製作所製)を使用し、その使用説明書に従って測定した。具体的には、直径34mm×高さ17mmの水性ゲルを直径20mmの円柱治具を用い、20%押し込み時の応力(20℃)を求めた。
【0195】
また、純水100mLが入ったポリ容器に、ゲルを浸け、37℃のインキュベーターに入れた。1ヶ月後に純水からゲルを取り出し、浸漬前後の体積をノギスで測定した。得られた測定値を用いて、下記の式から体積変化率を求めた。
体積変化率(%)=浸漬後の体積(mm3)÷浸漬前の体積(mm3)×100
【0196】
[血管新生デバイスの評価]
血管新生後に膵島デバイスをラットの皮下に移植し、その膵島デバイスの機能を用いて評価した。
具体的には、膵島デバイスを移植したストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットについて、経時的に血糖値を測定して治癒効果を確認した。血糖値200mg/dl以下で○(糖尿病治癒)、200mg/dl超を×(糖尿病状態)と判定した。
【0197】
[変性PVA系樹脂の作製]
[合成例1]
撹拌機、温度計、滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、酢酸ビニル2000部、メタノール143部、ジアセトンアクリルアミド3.7部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、内温が60℃になるまで昇温した。昇温後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.16部をメタノール100部に溶解した溶液を添加し重合を開始した。フラスコ内に窒素流通を続けながら、ジアセトンアクリルアミド70.1部をメタノール46.7部に溶解した溶液を、重合開始直後から一定速度で滴下し、重合開始から210分に重合停止剤としてm-ジニトロベンゼンを添加し重合を停止した。重合終了時の収率は47.1%であった。得られた反応混合物にメタノール蒸気を加えながら、残存する酢酸ビニルを留去し、ジアセトンアクリルアミド-酢酸ビニル共重合体の35%メタノール溶液を得た。この溶液500部にメタノール70部、イオン交換水1部及び水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液29.3部を加えてよく混合し、45℃で鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノールでよく洗浄した後に乾燥し、D-PVA1を得た。4%水溶液粘度は53.4mPa・s、鹸化度は98.4モル%で、ジアセトンアクリルアミド単位は3.4モル%であった。
【0198】
[合成例2~4]
重合時の酢酸ビニル、ジアセトンアクリルアミドの仕込み量、メタノールおよび開始剤の仕込み量等の重合条件、および鹸化時の条件を変えた以外は合成例1と同様の方法で表1に示すD-PVA2~4を得た。
なお、ジアセトンアクリルアミド変性PVAの合成には従来公知の合成方法(例えば特開2015-78324号公開記載の合成方法など)を用いるとよい。
【0199】
【0200】
[高シンジオPVA系樹脂(HS-PVA)の作製]
[合成例5]
攪拌機、温度計、滴下ロ-ト及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、ピバリン酸ビニル800部、メタノール190部を仕込み、系内の窒素置換を行った後ジャケットを80℃に加熱し、還流が発生した時点で2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.07部をメタノール10部に溶解した溶液を添加し重合を開始し、6時間後に重合停止剤としてm-ジニトロベンゼンを添加し、重合を停止した。重合収率は58%であった。
得られた反応物からメタノール、ピバリン酸ビニルを除去後、アセトンを加えてポリピバリン酸ビニルを溶解し40%アセトン溶液を得た。
この40%アセトン溶液250部に水酸化カリウムの25%メタノール溶液110部とを加えてよく混合し、50℃で2時間鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、アセトン150部、水酸化カリウムの25%メタノール溶液340部中でさらに50℃で4時間鹸化反応を行った。反応後酢酸で中和し、固液分離を行い、メタノール、水で洗浄、乾燥後、30gのHS-PVA1を得た。
得られたHS-PVA1の鹸化前の重合度は1450であり、鹸化度は99.9モル%であった。また、トライアッド表示によるシンジオタクティシティは37.1%であった。
【0201】
[合成例6]
ピバリン酸ビニル800部を、ピバリン酸ビニル685部に変更し、酢酸ビニル115部を追加した以外は合成例5と同様にしてHS-PVA2を作製した。なお、モル比(ピバリン酸ビニル/酢酸ビニル)は80/20であった。得られたHS-PVA2の鹸化前の重合度は1510であり、鹸化度は99.9モル%であった。また、トライアッド表示によるシンジオタクティシティは35.7%であった。
【0202】
[合成例7]
攪拌機、温度計、滴下ロ-ト及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、ピバリン酸ビニル2000部、メタノール38部を仕込み、系内の窒素置換を行った後ジャケットを80℃に加熱し、還流が発生した時点で2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.03部をメタノール2部に溶解した溶液を添加し重合を開始し、3時間後に重合停止剤としてm-ジニトロベンゼンを添加し、重合を停止した。重合収率は17%であった。
得られた反応物からメタノール、ピバリン酸ビニルを除去後、アセトンを加えてポリピバリン酸ビニルを溶解し25%アセトン溶液を得た。
この25%アセトン溶液200部に水酸化カリウムの25%メタノール溶液54部を加えてよく混合し、50℃で2時間鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、アセトン150部、水酸化カリウムの25%メタノール溶液168部中でさらに50℃で4時間鹸化反応を行った。反応後酢酸で中和し、固液分離を行い、メタノール、水で洗浄、乾燥後、17gのHS-PVA3を得た。
得られたHS-PV3の鹸化前の重合度は4440であり、鹸化度は99.8モル%であった。また、トライアッド表示によるシンジオタクティシティは36.7%であった。
【0203】
[合成例8]
ピバリン酸ビニル2000部を、ピバリン酸ビニル1600部に変更し、酢酸ビニル268部を追加した以外は合成例7と同様にしてHS-PVA4を作製した。なお、モル比(ピバリン酸ビニル/酢酸ビニル)は80/20であった。得られたHS-PVA4の鹸化前の重合度は4530であり、鹸化度は99.9モル%であった。また、トライアッド表示によるシンジオタクティシティは35.5%であった。
【0204】
合成例5~8で作製した高シンジオPVA系樹脂の物性値を表2にまとめる。
【0205】
【0206】
[ポリアクリル酸ヒドラジド(APA)の作製]
[合成例9]
重量平均分子量約40000のポリアクリルアミド20部とイオン交換水40部を混合した水溶液にヒドラジン一水和物16部を加え、80℃で15時間反応を行った。得られた混合液にエタノールを加え、得られた沈殿物をろ過、洗浄、乾燥してAPA1を得た。重量平均分子量は約53000でヒドラジド化率は88%であった。
【0207】
[合成例10]
重量平均分子量約15000のポリアクリルアミドを使用した以外は合成例12と同様に反応を行い、APA2を得た。重量平均分子量は約22000でヒドラジド化率は80%であった。
【0208】
[合成例11]
重量平均分子量約65000のポリアクリルアミドを使用した以外は合成例12と同様に反応を行い、APA3を得た。重量平均分子量は約88000でヒドラジド化率は90%であった。
【0209】
合成例9~11で作製したポリアクリル酸ヒドラジドの物性値を表3にまとめる。
【0210】
【0211】
[ADSCの調製]
雄性7-8週齢のLewisラット(日本エスエルシー)の腹部および鼠径部皮下脂肪を採取し、リン酸緩衝液(Phosphate Buffer Solution:PBS)で洗浄した。
細切した脂肪組織を1mg/mL TypeIIコラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)と1mmol/L CaCl2・2H2Oを含むハンクス緩衝液中で、37℃で20分間、100rpmで震盪しながら酵素処理を行った。未消化の脂肪組織はさらに20分間酵素処理を行った。消化後の細胞・組織懸濁液を70μmナイロンメッシュを通して残存組織を除去したろ液を20℃、350gで5分間遠心分離し、幹細胞を含む沈殿分画と脂質を多く含む成熟脂肪細胞分画とに分けた。
沈殿分画をハンクス緩衝液で洗浄後、100 units/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)を含む血清含有ADSC培地(ADSC-1、コージンバイオ)で5×106細胞/mLとなるように懸濁し、T75フラスコ(培養面積75cm2)に10mL移して、湿度95%、37℃、5%CO2で初代培養を行った。
培養1、2および4日目に培地交換を行い、非接着細胞を除去した。フラスコ内の細胞が50-80%コンフルエントに達するまで培養した第1継代細胞を、フラスコから剥離し単細胞化して凍結保存した。単細胞化の工程は、培地をフラスコから除去後、PBSで洗浄し、0.05%Trypsin-EDTA(Thermo Fisher Scientific)3mLを加えて、37℃3分間処理しフラスコ表面から細胞を剥離することで行った。ADSCを細胞凍結保存溶液セルバンカー1plus(日本全薬工業)に1×106細胞/mLで懸濁し、-80℃で凍結後、液体窒素中で保存した。凍結細胞は解凍後、100 units/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシンを含む血清含有ADSC培地に3.3×104細胞/mLに懸濁した。
T75フラスコに10mL移して湿度95%、37℃、5%CO2で50-80%コンフルエントに達するまで培養した第二継代細胞を、フラスコから剥離・単細胞化し(剥離方法は凍結保存時のTrypsin-EDTA処理と同じ)、ADSCデバイスに用いた。
【0212】
[実施例1]
(血管新生デバイスの作製)
D-PVA1(合成例1で得られたポリマー)を6.25%含有する水溶液8.0g、APA1(合成例9で得られた架橋剤(ポリアクリル酸ヒドラジド))を5.0%含有する水溶液1.0mL、および10倍濃度ハンクス緩衝液1.0mLを含む混合液を37℃で加温し、曳糸性が発現するまでゲル化を進行させたゲルをデバイス作製に使用した。
シリコーン型(直径32mm、厚さ1mm)にゲルを流し込み37℃で約10分間静置した。ゲルの上にPETメッシュ(直径30mm)を置き、ADSC(5×105細胞)とゲルの混合物をメッシュ表面に均一に広げ、37℃で約10分間静置後、メッシュを被せたのち、型の内部をゲルで充填した。4℃、5%CO2で16時間ゲル化を進行させた。
なお、ゲル(ハイドロゲル)において、D-PVA濃度は5.0%、APA1の濃度は0.5%、上記組成に対応する応力は5.2kPa、体積変化率は約50%であった。また、ゲルにおいて、ADSCの割合は7.0×102細胞/mm2であった。
【0213】
(血管新生デバイスの移植・留置工程)
ラットの皮下に、上記血管新生デバイスを4週間留置した。デバイスの留置前の皮下組織には、出血や浸出液は認めず、肉眼でかろうじて確認できる程度の軽度の新生血管しか認められなかったが、血管新生デバイスを4週間留置した後は、皮下組織に肉眼的にしっかり認識できるぐらいの新生血管を認めた。
また、留置部位の新生血管が明らかに増加していたものの、デバイス表面と皮下組織の癒着は疎であったため剥離は極めて容易であり、デバイス抜去後も抜去部位の皮下に出血や浸出液は全く認められなかった。
そのため、その後、同部位に、各種移植(例えば、後述の膵島包埋デバイスを挿入すること)も極めて容易であった。
さらに、4週間留置後の血管新生デバイスは、その体積において50%程度まで減少していた。
なお、上記移植・留置工程は、5匹のラットについて行ったが、いずれも同様の結果(十分な血管新生、デバイス抜去後の出血・浸出液無し)を示した。
【0214】
(膵島包埋デバイス用の膵島細胞調製)
11から14週齢の雄性Lewisラット(日本エスエルシー)を膵島分離に使用した。0.8mg/mL collagenase type V(Sigma-Aldrich製)を溶解した冷ハンクス緩衝液(HBSS)をラット総胆管から注入した膵臓を、37℃で12分間消化し膵組織から膵島を分離した。Histropaque-1119(Sigma-Aldrich製)とLymphoprep(AXIS-SHIELD,Norway)を用いて濃度勾配遠心を行い、膵島を回収した。膵島は5.5mmol/Lグルコースと10%胎児ウシ血清(Fetal Bovine Serum:FBS)を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO2下で一晩培養した。
【0215】
(ゾル状態の変性PVA系樹脂及び架橋剤の水溶液の作製)
25mLチューブに合成例1で作製したD-PVA1の6.25%水溶液を8.0g入れ、そこへ10倍濃度HBSS(ハンクス平衡塩溶液)を1.0mL加え、チューブを上下に振盪させ撹拌した。
その後、遠心機(久保田商事株式会社製、商品名:ハイブリット高速冷却遠心機6200)でスピンダウンし、37℃で10分間、静置した。そこへ架橋剤として合成例9で作製したAPA1の5%水溶液を1.0mL加え、チューブを上下に15回振盪させた。遠心機でスピンダウンした上でチューブを上下に再度15回振盪させた。
その後、25℃、3000rpmで1分間遠心し、37℃で静置した。適宜得られたゾル状態の水溶液の粘度をチャックし、ゾルが滴状化する時間が3~4秒に到達し膵島包埋に最適な状態と判断されたら、チューブを温浴槽から取り出し、氷上に1分間静置した。その後、25℃、3000rpmで1分間遠心し、変性PVA系樹脂5%、架橋剤0.5%のゾルを得た。
なお、ゲル(ハイドロゲル)において、D-PVA1の濃度は5.0%、APA1の濃度は0.5%、上記組成に対応する応力は5.2kPaであった。
【0216】
(膵島包埋デバイスの作製)
スライドガラス上に、上記ディッシュ上にのせられた上記作製済みのゾルのうち160μLをのせた。その上にPETメッシュ(株式会社サンプラティック社製、商品名:PETメッシュシート(呼称TN120))をかぶせ、ゾル50μLに、上記で調製した膵島細胞から培地成分を可及的に取り除いたものを懸濁させて得られた懸濁液をPETメッシュ上に拡げ、膵島細胞の懸濁液を挟み込む様にPETメッシュをさらにその上にかぶせた。さらにPETメッシュの上に140μLのゾルをのせ、その上からスライドガラスをかぶせた。このようにして構築したゾルを湿箱の中に留置し、4℃下で48時間静置し、膵島包埋デバイス(水性ゲル)を得た。
【0217】
(膵島包埋デバイスの保存工程)
上記にて構築した膵島包埋デバイスをスライドガラスから外し、6wellプレートに5mL/wellの割合で保存培地(グルコース濃度を5.5mMに調整し、10%FBSを含有したRPMI1640培地)に浸し、4℃下で16時間程度保存した。
【0218】
(移植工程)
前記血管新生を行ったラットに、ストレプトゾトシンを注入し、糖尿病を誘発させた。当該ラットの皮下に、上記保存後の膵島包埋デバイス(水性ゲル)を留置することで移植を行った。
【0219】
(糖尿病治癒評価)
上記移植後、経時的に血糖値を測定して治癒効果を確認した。なお、血糖値200mg/dl以下で○(糖尿病治癒)、200mg/dl超を×(糖尿病状態)と判定した。
【0220】
[比較例1]
血管新生デバイスの移植・留置を行わない以外は、実施例1と同様の操作を行い、ストレプトゾトシン誘発性糖尿病ラットに膵島包埋デバイス(水性ゲル)を留置した後、糖尿病治癒評価を行った。
なお、糖尿病治癒評価は、5匹のラットについて行った。
【0221】
実施例1及び比較例1で行った糖尿病治癒評価の結果をまとめて下記表4に示す。なお、「移植前血糖値」とは、実施例1においては血管新生デバイスを抜去し、膵島デバイスを移植する直前の血糖値を意味する。
【0222】
【0223】
上記結果から明らかなように、実施例1の血管新生デバイスによれば、皮下においても、十分な血管新生を実現できた。
【0224】
しかも、このように十分な血管新生を実現できるにもかかわらず、デバイス抜去に伴って、皮下の出血や浸出液を認めることもなく、さらなる移植を効率良く行うことができ、移植デバイスによる機能(実施例1では糖尿病治癒)を効率良く発揮ないし実現できた。
【0225】
なお、本発明者は、他のデバイスによって十分な血管新生を行った後、抜去すると、出血や浸出液が認められること、また、このデバイスを抜去後に上記と同様に膵島デバイスを移植して同様の評価を行っても、糖尿病治療効果が十分に得られないことを確認している。
このことから、移植デバイスによる機能の発揮には、血管新生デバイスの抜去に伴って出血や浸出液を生じないことも重要であることがわかった。
【0226】
<他のゲルの作製>
上記の通り、合成例で得られたポリマーを含む水性ゲルを用いたデバイスは、血管新生デバイスとして有効に機能したため、さらに、このようなデバイスに使用可能な水性ゲルを作製した。
【0227】
[実施例2]
(変性PVA系樹脂の水性ゲル作製および応力測定)
合成例1で作製したD-PVA1の6.25%水溶液16.0g、合成例10で作製したAPA2の10%水溶液2.0mL、10倍濃度HBSS(ハンクス平衡塩溶液)2.0mLを混合し、直径34mmの円柱容器内に充填後、37℃で30分間静置し、さらに4℃で48時間静置することで、直径34mm×高さ17mmの水性ゲルを作製した。
得られたゲルのPVA濃度は5.0%、架橋剤濃度は0.5%で、20℃における応力は5.3kPa、体積変化率は45.5%であった。
【0228】
[実施例3~17]
下記表5に示す通り、変性PVA系樹脂や架橋剤の種類、濃度、ゲル化時間などを適宜変更した以外は、実施例1と同様に水性ゲルを作製し、応力、体積変化率を求めた。HBSSについては、10倍濃度HBSSをゲルの全質量の10質量%になるよう添加した。
なお、表において、「ADH」はアジピン酸ジヒドラジドである。
【0229】
【0230】
[実施例18]
(高シンジオPVA系樹脂の水性ゲル作製および応力測定)
合成例6のHS-PVA1を密閉容器中でイオン交換水に160℃で溶解させ、90℃に冷却してHS-PVAの6.25%水溶液を調製した。前記水溶液16.0gを40℃まで冷却後、10倍濃度HBSS(ハンクス平衡塩溶液)2.0mLとイオン交換水2.0mLを添加して、よく混合した。得られたゾルを直径34mmの円柱状容器に充填し、4℃で3時間ゲル化させることで、直径34mm×高さ17mmの水性ゲルを作製した。
得られた水溶液のPVA濃度は5.0%で、20℃における応力は0.8kPa、体積変化率は60.3%であった。
【0231】
[実施例19~24]
表6に示す通り、高シンジオPVA系樹脂の種類、濃度、ゲル化時間などを適宜変更した以外は、実施例18と同様に水性ゲルを作製し、応力、体積変化率を求めた。HBSSについては、10倍濃度HBSSをゲルの全質量の10質量%になるよう添加した。
【0232】
【0233】
[実施例25]
(完全鹸化PVA系樹脂の水性ゲル作製および応力測定)
完全鹸化PVA系樹脂1(重合度1700、鹸化度99.4モル%)の12.5%水溶液16.0gに、10倍濃度HBSS(ハンクス平衡塩溶液)2.0mLとイオン交換水2.0mLを添加して、よく混合した。得られた水溶液を-20℃で5時間凍結後、4℃で19時間解凍する操作を3回繰り返し、水性ゲルを作製した。
得られた水溶液のPVA濃度は10.0%で、20℃における応力は7.2kPa、体積変化率は69.2%であった。
【0234】
[実施例26~30]
表7に示す通り、完全鹸化PVA系樹脂の種類、濃度、凍結融解回数などを適宜変更した以外は、実施例23と同様に水性ゲルを作製し、応力、体積変化率を求めた。HBSSについては、10倍濃度HBSSをゲルの全質量の10質量%になるよう添加した。
【0235】
【0236】
[実施例31~34]
下記表8に示す通り、PVA系樹脂(変性PVA系樹脂、高シンジオPVA系樹脂)の種類、架橋剤の種類、濃度、ゲル化時間などを適宜変更した以外は、実施例1又は実施例18と同様に水性ゲルを作製し、応力、体積変化率を求めた。HBSSについては、10倍濃度HBSSをゲルの全質量の10質量%になるよう添加した。
【0237】
【0238】
上記実施例で得られたゲルを用い、実施例1と同様にして血管新生デバイスの作製、留置(移植)を行ったところ、実施例1と同様に血管新生が確認された。また、抜去も容易であり、出血や浸出液は認められなかった。さらに、移植デバイスによる機能を効率良く発揮ないし実現できた。
【0239】
以下に、得られた結果の一例を示す。すなわち、実施例1において、血管新生デバイスとして、実施例31~34で得られたデバイスを使用したこと以外は、実施例1と同様にして行った糖尿病治癒評価の結果を下記表9に示す。
なお、糖尿病治癒評価は、実施例1において、5匹のラットにおいて同様の結果が得られた(傾向が見られた)ことから、1匹のラットにおいて行った結果とした。
【0240】
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明によれば、血管新生デバイスを提供できる。このようなデバイスは、例えば、別途移植する細胞又は組織包埋デバイスが本来持つ性能を十分引きだすための血管新生デバイスとして使用可能である。