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特許7481738白金担持モリブデン酸化物触媒、ならびにその触媒を利用した一酸化炭素およびメタノールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】白金担持モリブデン酸化物触媒、ならびにその触媒を利用した一酸化炭素およびメタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/652 20060101AFI20240502BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20240502BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20240502BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20240502BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20240502BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
B01J23/652 A
C07C31/04
C07C1/12
C01B32/40
B01J37/34
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020093711
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021186732
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年5月29日タワーホール船堀において開催された公益社団法人石油学会第62回年会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月18日長崎大学において開催された一般社団法人触媒学会第124回触媒討論会で発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「酸素欠損型モリブデン酸化物のプラズモン光反応場を利用した革新的 CO2 変換反応の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】楠 和樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘巳
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230854(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230855(WO,A1)
【文献】特開2018-076261(JP,A)
【文献】特開2010-029846(JP,A)
【文献】特表2003-518721(JP,A)
【文献】TOYAO, Takashi et al.,Heterogeneous Pt and MoOx Co-Loaded TiO2 Catalysts for Low-Temperature CO2 Hydrogenation To Form CH3OH,ACS Catal.,米国,American Chemical Society,2019年07月25日,Vol. 9, No. 9,pp. 8187-8196,DOI: 10.1021/acscatal.9b01225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 32/00-32/991
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン三酸化物を含むMo酸化物と、
前記Mo酸化物に担持された白金粒子と、を具備し、
前記モリブデン三酸化物が、酸素欠陥を有し、
前記Mo酸化物を一般式:H MoO 3-y で表すとき、
0<x<2.0、かつ
0.2≦y≦0.8を満たし、
二酸化炭素の還元により一酸化炭素およびメタノールの少なくとも一方を生成させる反応を促進する、酸化チタンを含まない、白金担持Mo酸化物触媒。
【請求項2】
前記Mo酸化物が、アモルファス構造を有する、請求項1に記載の白金担持Mo酸化物触媒。
【請求項3】
可視光の照射下で前記Mo酸化物の表面プラズモン共鳴が誘起される、請求項1または2に記載の白金担持Mo酸化物触媒。
【請求項4】
前記Mo酸化物に担持された前記白金粒子の質量が、前記Mo酸化物の質量の0.1%以上、5%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の白金担持Mo酸化物触媒。
【請求項5】
前記白金粒子が、白金以外の金属元素M1を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の白金担持Mo酸化物触媒。
【請求項6】
前記Mo酸化物が、モリブデン以外の金属元素M2を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の白金担持Mo酸化物触媒。
【請求項7】
請求項1に記載の白金担持Mo酸化物触媒および水素の存在下で、二酸化炭素の脱酸素反応を行い、一酸化炭素およびメタノールの少なくとも一方を生成させる工程を有する、一酸化炭素/メタノールの製造方法。
【請求項8】
300℃以下の雰囲気で前記脱酸素反応を行う、請求項に記載の一酸化炭素/メタノールの製造方法。
【請求項9】
前記脱酸素反応を前記Mo酸化物の表面プラズモン共鳴が誘起される可視光の照射下で行う、請求項7または8に記載の一酸化炭素/メタノールの製造方法。
【請求項10】
150℃以下の雰囲気で前記脱酸素反応を行う、請求項に記載の一酸化炭素/メタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金担持モリブデン酸化物触媒、ならびにその存在下で、二酸化炭素を還元して一酸化炭素およびメタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油などの化石燃料の消費に伴う大量の二酸化炭素(CO)排出による地球温暖化が年々深刻化している。そこで、地球温暖化の解決に向けて、二酸化炭素の排出抑制および削減に関する研究が世界規模で活発に推進されている。例えば、二酸化炭素を炭素源として触媒技術により一酸化炭素(CO)やメタノール(CHOH)などに変換することができれば、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素を基礎化成品として化学的に固定化することが可能になる。
【0003】
一般的に、一酸化炭素やメタノールは、次のような方法により製造されている。例えば、一酸化炭素は天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)に含まれるメタン、すなわち化石燃料を原料として、下記式(1)に示す水蒸気改質反応により得られた合成ガスを、精製、分離することで得られる。水蒸気改質反応は、ニッケル(Ni)系の触媒を用いて、高圧下、600℃以上の高温下で行われる。
【0004】
CH + HO → CO + 3H ;ΔH298 =206kJ/mol (1)
【0005】
また、一酸化炭素の製造方法としては、下記式(2)に示す逆水性ガスシフト反応による製造方法も挙げられる。吸熱反応であるために、一般に400℃以上の高温が必要となる。
【0006】
CO + H → CO + HO ;ΔH298 =41.2kJ/mol (2)
【0007】
一方、メタノールは、一般的に上記の式(1)に示す水蒸気改質反応で生じたCOとHとを高温(240~300℃)、高圧(50~100atm)で反応させることにより製造されている。
【0008】
このように、一般的な一酸化炭素やメタノールの製造方法では、原料として化石燃料が多く用いられており、さらに高温、高圧の条件が必要となる。そのため、近年、さらに温和な条件で、二酸化炭素から一酸化炭素やメタノールへの変換を行うことを目的とした様々な研究が行われている。また、大気中に存在する二酸化炭素や、発電所から大量に排出される二酸化炭素を原料として利用することが検討されている。
【0009】
例えば、一酸化炭素の合成方法としては、触媒としてパラジウム担持水素ドープ型タングステン酸化物(Pd/HWO3-x)を用いる方法(非特許文献1)、Pd/HWO3-x表面の一部を銅(Cu)で修飾した触媒を用いる方法(非特許文献2)などが可視光照射下での合成方法として報告されている。
【0010】
また、二酸化チタン(TiO)上に白金(Pt)とモリブデン酸化物(MoO)を担持した触媒(Pt/MoO/TiO)を用いて、二酸化炭素と水素との混合ガスからメタノールを合成する方法(非特許文献3)、銅/酸化亜鉛(Cu/ZnO)系触媒に種々の元素を添加した触媒を用いて、二酸化炭素と水素との混合ガスからメタノールを合成する方法(特許文献1)などが報告されている。
【0011】
一方、非特許文献4および特許文献2では、白金が担持されたモリブデン三酸化物(Pt/MoO)を触媒として可視光照射下でスルホキシドの脱酸素反応によりスルフィドを合成する方法が報告されている。
【0012】
ところで、Pt/MoOを高温で水素還元処理すると表面プラズモン共鳴を発現し、紫外光域から赤外光域にかけた光吸収を示すようになる(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2014-057925号公報
【文献】特開2018-076261号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Li et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2019, 11, 5610-5615
【文献】Li et al., J. Am. Chem. Soc., 2019, 141, 14991-14996
【文献】Toyao et al., ACS Catal., 2019, 9, 8187-8196
【文献】Kuwahara et al., J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 9203-9210
【文献】Cheng et al., J. Am. Chem. Soc., 2016, 138, 9316-9324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、二酸化炭素の還元反応により一酸化炭素またはメタノールを製造することが検討されているが、二酸化炭素の還元反応を十分に温和な条件で効率的に進行させる活性の高い触媒は現在のところ報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一側面は、モリブデン三酸化物を含むMo酸化物と、前記Mo酸化物に担持された白金粒子と、を具備し、二酸化炭素の還元により一酸化炭素およびメタノールの少なくとも一方を生成させる反応を促進する、白金担持Mo酸化物触媒に関する。
【0017】
本発明の他の側面は、前記白金担持Mo酸化物触媒および水素の存在下で、二酸化炭素の脱酸素反応を行い、一酸化炭素およびメタノールの少なくとも一方を生成させる工程を有する、一酸化炭素/メタノールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温和な条件で効率的に二酸化炭素を還元して一酸化炭素を製造することができる。また、本発明によれば、温和な条件で効率的に二酸化炭素を還元してメタノールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】白金担持Mo酸化物触媒の紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)吸収スペクトルである。
図2】白金担持酸化物触媒を昇温還元(H-TPR)して得られたシグナルである。
図3】白金担持Mo酸化物触媒のX線回折(XRD)スペクトルである。
図4】白金担持Mo酸化物触媒のX線光電子分光(XPS)スペクトルである。
図5】白金担持Mo酸化物触媒の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
図6】二酸化炭素の脱酸素反応における生成物の生成量の経時変化を示す図である。
図7】二酸化炭素の脱酸素反応における生成物の選択率の経時変化を示す図である。
図8】白金担持Mo酸化物触媒の水素還元処理温度と、二酸化炭素の転化率および生成物の選択率との関係を示す図である。
図9】白金担持Mo酸化物触媒の水素還元処理温度と、水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)、ならびに生成物の収量との関係を示す図である。
図10】可視光照射下と暗所における白金担持Mo酸化物触媒の活性の相違を示す図である。
図11】金属担持Mo酸化物触媒を用いた可視光照射下での二酸化炭素の脱酸素反応の結果を示す図である。
図12】白金担持酸化物触媒を用いた可視光照射下での二酸化炭素の脱酸素反応の結果を示す図である。
図13】水素還元処理温度による白金担持Mo酸化物触媒の可視光照射下での触媒活性の相違を示す図である。
図14】可視光照射下における、白金担持Mo酸化物触媒の水素還元処理温度と、水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)、ならびに一酸化炭素生成量との関係を示す図である。
図15】発光ダイオード(LED)による光照射下での二酸化炭素の脱酸素反応の結果を示す図である。
図16】白金担持Mo酸化物触媒のUV-Vis-NIR吸収スペクトルと、LEDの波長との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[白金担持Mo酸化物触媒]
本発明の実施形態に係る白金担持Mo酸化物触媒は、モリブデン三酸化物(MoO)を含むMo酸化物と、Mo酸化物に担持された白金(Pt)粒子とを具備する。白金担持Mo酸化物触媒は、二酸化炭素の還元により一酸化炭素およびメタノールの少なくとも一方を生成させる反応を促進する。水素の存在下では、二酸化炭素の脱酸素反応により高い収率でメタノールが生成する。
【0021】
白金担持Mo酸化物触媒中のMoOは、酸素欠陥を有してもよい。酸素欠陥は、二酸化炭素の脱酸素反応の活性点となり得る。酸素欠陥は、Pt粒子が担持されたモリブデン三酸化物(Pt/MoO)を適切な条件で水素還元処理すると生成する。Pt粒子上で開裂してPtに吸着した水素原子がMoO中にスピルオーバーし、水素原子とMoO中の酸素原子とが結合することにより生成したHOが脱離する。このときに、MoOに形成される酸素欠陥と、MoOに導入される水素原子と電子とを還元処理条件により制御することで、より高活性な白金担持Mo酸化物触媒が得られる。
【0022】
白金担持Mo酸化物触媒のMoOに酸素欠陥が導入されていることは、X線回折(XRD)、X線光電子分光法(XPS)、ラマン分光などにより確認することができる。白金担持Mo酸化物触媒は、室温付近で水素還元処理を施した場合にはMoOの斜方晶系結晶に近い構造を示す。還元温度が上がるにつれて、一般式:HMoO3-yで表されるアモルファス構造をとるようになる。還元温度が300℃以上になると、二酸化モリブデン(MoO)の単斜晶系結晶に近い構造をとる。すなわち、白金担持Mo酸化物触媒に含まれるMo酸化物は、水素還元処理の条件により、MoOの他に、MoO、HMoO3-yなどを含む。
【0023】
Ptは、例えば、銅(Cu)やニッケル(Ni)のような金属に比べて水素を開裂する能力が高い。よって、室温付近から200℃程度の比較的低温での水素還元処理によっても水素を開裂し、MoOへの酸素欠陥導入を可能にする。
【0024】
白金担持Mo酸化物触媒および水素の存在下で二酸化炭素の脱酸素反応を行うとき、Mo酸化物はHMoO3-yで表され、かつアモルファス構造を有することが好ましい。このような触媒を用いることで、二酸化炭素の転化率と、生成する一酸化炭素およびメタノールの選択性が高くなる。
【0025】
Mo酸化物をHMoO3-yで表すとき、xはPt粒子によって開裂し、Mo酸化物に吸着もしくは吸収された水素ドープ量を表す。また、yは導入された酸素欠陥量を表す。ここで、水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)は、熱重量測定(Thermo Gravimetry:TG)により求められる値である。空気中および窒素ガス中において温度を変化させたときの白金担持Mo酸化物触媒の質量変化を測定した値を基に、次の式(3)および式(4)からxとyの値を求めることができる。
【0026】
(空気中での測定)
MoO3-y + O2(air) → MoO + 1/2xHO (3)
【0027】
(窒素中での測定)
MoO3-y → MoO3-y-x/2 + 1/2xHO (4)
【0028】
水素還元温度の上昇とともに、水素ドープ量(x)は減少し、酸素欠陥量(y)は増加する。白金担持Mo酸化物触媒内に酸素欠陥が適度に導入され、二酸化炭素の脱酸素反応において生成する一酸化炭素およびメタノールの収率が高くなる点で、水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)は、0<x<2.0、かつ0.1≦y<1を満たすことが好ましい。また、yは0.1以上、0.9以下であることがより好ましい。特に触媒活性が高くなることから、yは0.2以上、0.8以下であることがさらに好ましい。
【0029】
好ましい水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)を得るために、Mo酸化物に担持されたPt粒子の質量は、Mo酸化物の質量の0.1%以上、5%以下であることが好ましく、1%以上、4%以下であることがより好ましい。
【0030】
白金担持Mo酸化物触媒のPt粒子には、Pt以外の金属元素M1を含有させてもよい。すなわち、白金粒子は白金を主成分とする合金粒子であってもよい。主成分とは合金の50質量%を超える成分をいう。M1としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)などが挙げられる。なかでも、Pt粒子がPtのみからなる場合と同等以上の高い触媒活性が維持されることから、Cuが好ましい。M1は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、担体となるMo酸化物は、Mo以外の金属元素M2を含んでもよい。M2としては、例えば、タングステン(W)、ルビジウム(Rb)、セリウム(Ce)、セシウム(Cs)、バナジウム(V)、レニウム(Re)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)などが挙げられる。なかでも、Mo酸化物が金属元素としてMoのみを含む場合と同等以上の高い触媒活性が維持されることから、W、VおよびCrが好ましい。M2は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
白金担持Mo酸化物触媒は、酸化チタンを含まないことが望ましい。酸化チタンによって、白金担持Mo酸化物触媒の二酸化炭素の還元反応(すなわち一酸化炭素および/またはメタノールの生成反応)に対する活性が低下することがある。
【0033】
[表面プラズモン共鳴]
MoOに酸素欠陥を導入すると、酸化物中の電子密度が増大し、バンド構造の変化に伴って、表面プラズモン共鳴が発現し得る。表面プラズモン共鳴が発現していることは、例えば、紫外可視近赤外(Ultra Violet-Visible-Near InfraRed:UV-Vis-NIR)吸収スペクトルなどにより確認することができる。室温付近から300℃までの温度で水素還元処理して酸素欠陥を導入した白金担持Mo酸化物触媒は、紫外領域から赤外領域にかけて光吸収を示すことがあり、特に500nm~600nmにかけて表面プラズモン共鳴に由来する強い光吸収を示すことがある。これは、可視光の照射下で、白金担持Mo酸化物触媒中のMo酸化物の表面プラズモン共鳴が誘起されることを意味している。300℃を超える高温で水素還元処理を施すと、白金担持Mo酸化物触媒はMoOの単斜晶系結晶に近い構造をとるため、表面プラズモン共鳴を発現しにくくなる。したがって、白金担持Mo酸化物触媒は、表面プラズモン共鳴を発現し得る状態において特に高活性である。
【0034】
白金担持Mo酸化物触媒が、Mo酸化物以外の担体、例えば酸化チタンを含むとき、Mo酸化物が酸化チタン上に高分散することにより、表面プラズモン共鳴が発現しにくくなる場合がある。したがって、白金担持Mo酸化物触媒は、酸化チタンなどを含まないことが好ましい。
【0035】
[二酸化炭素の脱酸素反応]
白金担持Mo酸化物触媒の存在下で、二酸化炭素の脱酸素反応によって一酸化炭素およびメタノールの少なくとも一方が生成する反応は、次のようなメカニズムによると考えられる。白金担持Mo酸化物触媒に二酸化炭素を接触させると、二酸化炭素の一方の酸素原子がMoOの酸素欠陥に吸着し、配位する。これにより二酸化炭素の脱酸素反応が起こり、一酸化炭素が生成する。二酸化炭素の分圧が高圧の条件下では、さらに一酸化炭素がPt粒子上に移動し、Pt粒子上で開裂して生成した水素原子が一酸化炭素に逐次的に付加することでメタノールが生成する。すなわち、メタノールは一酸化炭素を中間物質として生成する。また、反応系内の水素が酸素欠陥を失った白金担持Mo酸化物触媒のPt粒子上で開裂すると、生成した水素原子はMoO中にスピルオーバーし、MoO中の酸素原子とHOを生成して脱離する。この反応により、再びMoOに酸素欠陥が導入され、白金担持Mo酸化物触媒の高活性が再現される。
【0036】
以下、本発明の実施形態に係る白金担持Mo酸化物触媒および一酸化炭素/メタノールの製造方法に関し、より詳細に説明する。
【0037】
[白金担持Mo酸化物触媒の調製]
白金担持Mo酸化物触媒は、担体となるMoOの表面にPt粒子を固定化することによって得られる。
MoOの調製方法は、特に限定されず、例えば、七モリブデン酸六アンモニウム(AHM)を、大気雰囲気下で焼成した後、粉砕することによって調製することができる。焼成条件は特に限定されないが、焼成を十分に行うためには、焼成温度を400℃~600℃、焼成時間を1時間以上とすることが好ましい。
【0038】
MoOの表面にPt粒子を固定化する方法は、特に限定されない。例えば、水中にMoOを分散させ、白金前駆体を溶解させた水溶液および還元剤を加えた後、攪拌することにより固定化することができる。その後、濾過または遠心分離し、水で洗浄後、真空乾燥することによって白金担持Mo酸化物触媒が得られる。
【0039】
Pt粒子の質量は、Mo酸化物の質量の0.1%以上、5%以下であることが好ましく、1%以上、4%以下であることがより好ましい。このとき、Pt/MoOは高い触媒活性を示す。Pt粒子の平均粒子径は、1nm~10nmであることが好ましい。Pt粒子の平均粒子径は、例えばPt粒子10個を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して最大径を平均化することによって求めることができる。平均粒子径を前記範囲内とすることにより、Pt粒子表面で開裂した水素原子が担体であるMoOにスピルオーバーしやすくなり、触媒活性が向上する。また、Pt粒子の凝集による反応面積の低下も抑制される。
【0040】
MoOの水中への分散量は、水1000gに対して1g~50gとすることが、反応効率の点から好ましい。MoO粒子が水中に分散しやすく、Pt粒子が凝集しにくくなる。
【0041】
白金前駆体としては、塩化白金(II)(PtCl)、塩化白金(IV)(PtCl・5HO)、塩化白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)、テトラクロロ白金(II)酸カリウム(KPtCl)、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム(KPtCl)、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム(NaPtCl)、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム(NaPtCl)、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム((NHPtCl)、ヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム((NHPtCl)、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)、硝酸テトラアンミン白金(II)、塩化テトラアンミン白金(II)などが用いられる。なかでも、白金前駆体水溶液へのMoOの溶解が抑制される点で、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウムおよびテトラクロロ白金(II)酸アンモニウムが好ましい。
【0042】
白金前駆体の水溶液中における濃度は、MoOの分散量から適宜設定することができる。MoOの表面に固定化されるPt粒子の粒子径をより小さくするためには、白金前駆体の濃度を、0.1mmol/L~100mmol/Lとすることが好ましい。MoO表面に十分な量のPt粒子が固定化される点で、1gのMoOに対する白金前駆体の量は、5μmol~250μmol、より好ましくは100μmol~200μmolである。
【0043】
還元剤は、白金前駆体水溶液に含まれるPtイオンを還元し、MoO上にPt粒子を固定化する働きを有している。このような還元剤としては、尿素、アンモニア、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ホウ素カリウム(KBH)、アンモニアボラン(NHBH)、ヒドラジン(N)、ギ酸ナトリウム(HCOONa)、アスコルビン酸(C)などの化学還元剤が挙げられる。なかでも、MoO上に固定化したPt粒子をより小さくできる点で、尿素が好ましい。還元剤の量は、特に限定されず、MoOの分散量、白金前駆体水溶液の濃度、用いる還元剤の種類などにより適宜決定することができるが、1molの白金に対して、1mol~100molであればよい。
【0044】
白金前駆体の水溶液および還元剤を加えた後の撹拌時の温度は、特に制限されないが、室温~100℃であることが好ましく、反応効率の点から60℃~100℃であることが、さらに好ましい。撹拌時間は、撹拌時の温度によって設定すればよいが、5分~600分であることが好ましい。
【0045】
白金担持Mo酸化物触媒がPt粒子にPt以外の金属元素M1を含む場合、すなわち、Pt粒子が合金を主成分とする合金粒子である場合には、例えば、最初にMoOの表面に金属元素M1を固定化させたのち、Pt粒子を固定化させることにより調製される。金属元素M1の固定化は、例えば、Pt粒子の固定化と同様に、水中にMoOを分散させ、金属元素M1の前駆体を溶解させた水溶液および還元剤を加えた後、攪拌することによって行われる。濾過し、水で洗浄後、真空乾燥することによって得られる生成物(M1/MoO)に、続いてPt粒子を固定化させればよい。これにより、例えば、PtとCuとの合金粒子を担持させたPtCu/MoOなどが得られる。金属元素M1を2種以上含ませる場合には、同様に、金属元素M1の前駆体を用いた金属元素M1の固定化を2回以上繰り返せばよい。
【0046】
金属元素M1の前駆体としては、金属元素M1の各種塩(例えば、塩化物、塩化酸化物、塩化水酸化物、臭化物、臭化酸化物、よう化物、よう化酸化物、硝酸化物、硫酸化物など)、カルボニル化合物、および酸化物などが用いられる。
合金中の金属元素M1の含有量は、金属としてPtのみを担持させた場合と同等以上の高い触媒活性を得るために、50モル%以下であることが好ましい。
【0047】
また、白金担持Mo酸化物触媒の担体となるMo酸化物がMo以外の金属元素M2を含む場合には、最初にMoと金属元素M2とを含む酸化物を調製し、その後、得られる酸化物の表面にPt粒子を固定化させる。Moと金属元素M2とを含む酸化物は、例えば、MoOの調製方法と同様の方法で、Moの前駆体と金属元素M2の前駆体とを混合し、大気雰囲気下で焼成した後、粉砕することによって調製することができる。その後、得られた酸化物(例えば一般式:M20.05Mo0.95で表される。)を水中に分散させた後、前記した方法と同様にしてPt粒子を固定化する。これにより、例えば、Pt/W0.05Mo0.95z、Pt/V0.05Mo0.95、Pt/Cr0.05Mo0.95などが得られる。金属元素M2を2種以上含ませる場合には、同様に、酸化物を調製するときに、Moの前駆体とともに2種以上の金属元素M2の前駆体を混合してから焼成すればよい。
【0048】
Moの前駆体としては、七モリブデン酸六アンモニウム(AHM)などが用いられる。また、金属元素M2の前駆体としては、金属元素M2の各種塩(例えば、塩化物、塩化酸化物、塩化水酸化物、臭化物、臭化酸化物、よう化物、よう化酸化物、硝酸化物、硫酸化物、アンモニウム塩など)、カルボニル化合物、および酸化物などが用いられる。
酸化物中、金属元素M2の含有量は、Moのみを担体に含む場合と同等以上の高い触媒活性を得るために、Moおよび金属元素M2の合計の50モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0049】
[白金担持Mo酸化物触媒の水素還元処理]
Pt/MoOのMoOが水素還元され得ることは、例えば、昇温還元測定(Temperature Programmed Reduction:H-TPR)などにより確認することができる。すなわち、白金担持Mo酸化物触媒に水素還元処理を施すと、MoOに酸素欠陥が導入される。
【0050】
水素還元処理は、例えば、10kPa~101.3kPaの水素分圧下で行われる。水素ガスは、単独で還元雰囲気に流通させてもよく、不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンガスなど)と任意の割合で混合して流通させてもよい。
【0051】
水素還元処理温度は、室温~300℃の範囲とすることが好ましい。前記範囲の温度で処理された白金担持Mo酸化物触媒は、二酸化炭素の脱反応の触媒として用いたときに高い触媒活性を示す。すなわち、原料となる二酸化炭素の転化率、生成する一酸化炭素およびメタノールの選択率や収率が高くなる。また、前記範囲で水素還元処理された白金担持Mo酸化物触媒は、可視光の照射下で、表面プラズモン共鳴を発現し得る。特に、水素還元処理温度は、200℃~300℃の範囲とすることが好ましい。水素還元処理時間は、処理温度によって適宜決定されるが、0.5時間~48時間であることが好ましく、特に0.5時間~2時間とすることが好ましい。
【0052】
[二酸化炭素の脱酸素反応]
本発明の実施形態に係る一酸化炭素/メタノールの製造方法においては、白金担持Mo酸化物触媒と水素との存在下、二酸化炭素の脱酸素反応を行う。
【0053】
二酸化炭素の脱酸素反応は、例えば、反応容器に白金担持Mo酸化物触媒を入れ、二酸化炭素ガスと水素ガスとを導入することにより行われる。反応は気相で行ってもよく、液相で行ってもよい。反応容器としては、特に限定されないが、気相反応においては、例えば、閉鎖系ガラス製セルなどが用いられる。また、反応を標準大気圧より高い圧力下で行う場合や、液相反応においては、例えば、閉鎖系ステンレス製耐圧反応容器などが用いられる。
【0054】
液相で反応を行う場合、溶媒としては、1,4-ジオキサン;テトラヒドロフラン;ジメチルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド;アセトニトリル;n-ヘキサン、n-オクタンなどの鎖式炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタンなどの環式炭化水素;ベンゼン、p-キシレンなどの芳香族炭化水素;エタノール、n-ブタノールなどの飽和アルコール;水などが用いられる。また、白金担持Mo酸化物触媒および溶媒の使用量は、白金担持Mo酸化物触媒および溶媒の種類、反応容器の容量、反応条件などにより適宜決定される。溶媒の使用量は溶媒への触媒の分散性の観点から、触媒100mgに対して10mL~200mLとすることが好ましく、特に20mL~50mLとすることが好ましい。
【0055】
反応容器に二酸化炭素ガスと水素ガスとを導入する前に、白金担持Mo酸化物触媒の予備還元を行ってもよい。予備還元は、例えば反応容器に白金担持Mo酸化物触媒を封入し、水素ガス流通下で昇温することにより行われる。予備還元は、例えば、1kPa~2MPaの水素分圧下で行われるが、常圧以下の水素分圧下で行うことが好ましい。水素ガスは、還元雰囲気に単独で流通させてもよく、不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンガスなど)と任意の割合で混合して流通させてもよい。流通させる水素の量は、白金担持Mo酸化物触媒の量や水素分圧、使用する反応器の体積などにより適宜決定することができるが、1gの白金担持Mo酸化物触媒を予備還元する場合、10mL/分~1000mL/分とすることが好ましい。予備還元処理温度は、酸素欠陥の導入を目的とした水素還元処理温度以下であればよく、室温~300℃の範囲であることが好ましい。予備還元処理時間は、処理温度によって適宜決定されるが、0.5時間~2時間とすることが好ましい。
【0056】
二酸化炭素の脱酸素反応における二酸化炭素ガスおよび水素ガスの導入方法は特に限定されない。例えば、気相反応においては、反応容器に任意の圧力で二酸化炭素ガスおよび水素ガスで流入させればよい。また、反応を加圧下で行う場合や、液相反応においては、二酸化炭素ガスおよび水素ガスを反応容器内に封入もしくは流通させて反応を行えばよい。封入や流通の方法は特に限定されず、任意の圧力で封入すればよい。
【0057】
一酸化炭素およびメタノールを生成させる工程において、どちらがより選択的に生成するのかは反応条件、反応時間などにより異なる。例えば、加圧条件下では、一旦生成した一酸化炭素が時間経過とともにメタノールに変化していく。しかし、一般的に、二酸化炭素の分圧と、水素の分圧との合計が、例えば0.1MPa以上、2.0MPa以下、好ましくは0.1MPa以上、1.0MPa以下のときには、一酸化炭素が選択的に生成する。0.5MPa以上、200MPa以下、好ましくは1.0MPa以上、200MPa以下のより高圧の条件では、メタノールの選択性が高くなる。
一酸化炭素を選択的に生成させたいときは、二酸化炭素の分圧は、好ましくは0.1MPa以上、2.0MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上、1.0MPa以下である。また、メタノールの選択性を高めたいときは、二酸化炭素の分圧は、好ましくは0.5MPa以上、200MPa以下、より好ましくは1.0MPa以上、200MPa以下である。
【0058】
本発明の実施形態に係る一酸化炭素/メタノールの製造方法においては、二酸化炭素の脱酸素反応を300℃以下の雰囲気で行うことが好ましい。より好ましくは250℃以下である。また、反応を促進する観点からは、二酸化炭素の脱酸素反応を150℃以上で行うことが好ましく、200℃以上で行うことがより好ましい。前記温度範囲においては、酸素欠陥を有する白金担持Mo酸化物触媒が脱酸素反応によって酸素欠陥を失ったとしても、反応系中に存在する水素によって再度水素還元され、酸素欠陥を有する活性の高い触媒となり得る。
【0059】
反応時間は、反応温度、触媒の種類などに応じて適宜調整することができるが、1時間~48時間とすることが好ましい。
【0060】
反応終了後、生成物は、例えば、ガス分離膜などを用いて分離すればよい。脱酸素反応の生成物の分析は、例えば、気体生成物はメタナイザー付きガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器(GC-FID)により行われる。液体生成物は反応溶液に外部標準試薬(例えば、1-ブタノールなど)を加えた後、同様にメタナイザー付きGC-FIDにより分析される。
【0061】
二酸化炭素の脱酸素反応に用いた白金担持Mo酸化物触媒は、反応液から濾過あるいは遠心分離などの方法により回収される。回収された触媒は、洗浄、乾燥させた後、再利用することができる。前記した水素還元処理を行って再度還元させることにより、再び未使用の触媒と同様に高い活性を示すようになる。
【0062】
[可視光照射下での反応]
MoOに酸素欠陥を導入すると、白金担持Mo酸化物触媒は、紫外領域から赤外領域にかけて光吸収を示すことがあり、特に500nm~600nmにかけて表面プラズモン共鳴に由来する強い光吸収を示すことがある。このような場合、二酸化炭素の脱酸素反応を、光照射下でより穏やかな条件で効率的に行うことが可能である。
【0063】
光照射下での二酸化炭素の脱酸素反応は、透光性を有する反応容器中、キセノンランプ、水銀ランプ、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)ランプなどの光源を用いて、光を照射しながら行われる。照射する光は、紫外線、可視光線、赤外線のいずれでもよく、波長としては、例えば、200nm~2000nmとすることができる。400nm~1000nmとすることが好ましい。特に、Mo酸化物の表面プラズモン共鳴が誘起される可視光の照射下で脱酸素反応を行うことが好ましい。光の波長は、適当な短波長カットフィルターおよび長波長カットフィルターを用いることで調整することができる。
【0064】
光照射下での二酸化炭素の脱酸素反応においては、暗所での反応に比べて白金担持Mo酸化物触媒の触媒活性が高くなるため、低温、例えば、150℃以下の雰囲気でも反応が進行する。また、触媒活性が高くなるため、反応時間を短くすることもできる。反応温度および反応時間は、照射する光の波長などにより、適宜選択することができる。
【0065】
このように、本発明の実施形態に係る白金担持Mo酸化物触媒は、光エネルギーを化学エネルギーに変換することが可能な光触媒として機能する。そのため、本発明の実施形態に係る一酸化炭素/メタノールの製造方法においては、光を利用した効率的なメタノールおよび一酸化炭素の製造が可能となる。
【0066】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
製造例1~7においては、白金担持Mo酸化物触媒を、製造例8~13においては、モリブデン三酸化物以外の担体を用いた白金担持触媒を、製造例14~15においては、白金以外の担持金属を用いたモリブデン三酸化物触媒を、それぞれ調製した。
【0068】
[製造例1]
<Pt/MoOの調製>
七モリブデン酸六アンモニウム(AHM)(和光純薬工業株式会社製)1.25gを、大気雰囲気下、450℃で4時間焼成し、モリブデン三酸化物(MoO)を調製した。
得られたMoO1.0gを水100gに分散させ、テトラクロロ白金(II)酸カリウム(KPtCl)(ナカライテスク株式会社製)水溶液(35mmol/L)4.5mL、尿素0.2gを加え、95℃で6時間攪拌した。攪拌終了後、反応液から遠心分離により生成物を取り出し、水で洗浄した後、真空乾燥させて粉末状のPt/MoO約0.8gを得た。MoOに担持されたPt粒子の質量は、Mo酸化物の質量の1.8%であった。
【0069】
[製造例2]
<Pt/HMoO3-y(100)の調製>
製造例1で得られたPt/MoOに対して、101.3kPaの水素分圧下、100℃で0.5時間、水素還元処理を行い、Pt/HMoO3-y(100)を調製した。
【0070】
[製造例3]
<Pt/HMoO3-y(200)の調製>
水素還元処理を200℃で行った以外は製造例2と同様にして、Pt/HMoO3-y(200)を調製した。
【0071】
[製造例4]
<Pt/HMoO3-y(300)の調製>
水素還元処理を300℃で行った以外は製造例2と同様にして、Pt/MoO(300)を調製した。
【0072】
[製造例5]
<Pt/HMoO3-y(400)の調製>
水素還元処理を400℃で行った以外は製造例2と同様にして、Pt/MoO(400)を調製した。
【0073】
[製造例6]
<PtCu/HMoO3-y(300)の調製>
製造例1で得られたMoO1.0gを、水100gに分散させ、銅前駆体である硝酸銅(II)三水和物(ナカライテスク株式会社製)水溶液(15.4mmol/L)1.6mL、尿素0.2gを加え、95℃で6時間攪拌した。攪拌終了後、反応液から遠心分離により生成物を取り出し、水で洗浄した後、真空乾燥させて粉末状のCu/MoO約0.9gを調製した。
【0074】
得られたCu/MoO1.0gを、水100gに分散させ、テトラクロロ白金(II)酸カリウム(KPtCl)(ナカライテスク株式会社製)水溶液(35mmol/L)4.5mL、尿素0.2gを加え、95℃で6時間攪拌した。PtとCuとのモル比は、Pt:Cu=6:1であった。攪拌終了後、反応液から遠心分離により生成物を取り出し、水で洗浄した後、真空乾燥させて粉末状のPtCu/MoO約0.8gを得た。
次いで、製造例4と同様にしてPtCu/MoOを水素還元処理し、酸素欠陥が導入されたPtCu/HMoO3-y(300)を調製した。
【0075】
[製造例7]
<Pt/W0.05Mo0.95(300)の調製>
七モリブデン酸六アンモニウム(AHM)(和光純薬工業株式会社製)1.0gと、タングステン前駆体であるパラタングステン酸アンモニウム(和光純薬株式会社製)78mgとを乳鉢を混合した後、大気雰囲気下、450℃で4時間焼成し、W0.05Mo0.95約1.0gを調製した。
【0076】
得られたW0.05Mo0.951.0gを、水100gに分散させ、テトラクロロ白金(II)酸カリウム(KPtCl)(ナカライテスク株式会社製)水溶液(35mmol/L)4.5mL、尿素0.2gを加え、95℃で6時間攪拌した。WとMoとのモル比は、W:Mo=5:95であった。攪拌終了後、反応液から遠心分離により生成物を取り出し、水で洗浄した後、真空乾燥させて粉末状のPt/W0.05Mo0.95約0.8gを得た。
次いで、製造例4と同様にしてPt/W0.05Mo0.95を水素還元処理し、酸素欠陥が導入されたPt/W0.05Mo0.95(300)を調製した。
【0077】
[製造例8]
<Pt/WO、Pt/WO(200)、Pt/WO(300)の調製>
触媒担体として、MoOの代わりに、可視光を吸収する三酸化タングステン(WO)(株式会社高純度化学研究所製)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pt/WO約1.0gを得た。
次いで、製造例3および製造例4と同様にして、得られたPt/WOの水素還元処理を行い、Pt/WO(200)およびPt/WO(300)を調製した。
【0078】
[製造例9]
<Pt/TiO、Pt/TiO(200)、Pt/TiO(300)の調製>
触媒担体として、MoOの代わりに、可視光を吸収する二酸化チタン(TiO)(P25、日本アエロジル株式会社製)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pt/TiO約1.0gを得た。
次いで、製造例3および製造例4と同様にして、得られたPt/TiOの水素還元処理を行い、Pt/TiO(200)およびPt/TiO(300)を調製した。
【0079】
[製造例10]
<Pt/SiO、Pt/SiO(200)、Pt/SiO(300)の調製>
触媒担体として、MoOの代わりに、アモルファスシリカ(ヒュームドシリカ、アルドリッチ社製)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pt/SiO約1.0gを得た。
次いで、製造例3および製造例4と同様にして、得られたPt/SiOの水素還元処理を行い、Pt/SiO(200)およびPt/SiO(300)を調製した。
【0080】
[製造例11]
<Pt/V(200)、Pt/V(300)の調製>
触媒担体として、MoOの代わりに、五酸化バナジウム触媒(V)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pt/V約1.0gを得た。
次いで、製造例3および製造例4と同様にして、得られたPt/Vの水素還元処理を行い、Pt/V(200)およびPt/V(300)を調製した。
【0081】
[製造例12]
<Pt/γ-Al、Pt/γ-Al(300)の調製>
触媒担体として、MoOの代わりに、酸化アルミニウム(γ-Al)(JRC-ALO-4、触媒学会参照触媒)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pt/γ-Al約1.0gを得た。
次いで、製造例4と同様にして、得られたPt/γ-Alの水素還元処理を行い、Pt/γ-Al(300)を調製した。
【0082】
[製造例13]
<Pt/ZrO(300)の調製>
触媒担体として、MoOの代わりに、酸化ジルコニウム(ZrO)(RC-100、第一稀元素化学工業株式会社製)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pt/ZrO約1.0gを得た。
次いで、製造例4と同様にして、得られたPt/ZrOの水素還元処理を行い、Pt/ZrO(300)を調製した。
【0083】
[製造例14]
<Pd/HMoO3-y(200)、Pd/HMoO3-y(300)の調製>
金属前駆体として、KPtClの代わりに、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム(NaPdCl)(ナカライテスク株式会社製)を用いること以外は製造例1と同様にして、Pd/MoO約0.8gを得た。
次いで、製造例3および製造例4と同様にして、得られたPd/MoOの水素還元処理を行い、酸素欠陥が導入されたPd/HMoO3-y(200)およびPd/HMoO3-y(300)を調製した。
【0084】
[製造例15]
<Cu/MoO(200)、Cu/MoO(300)の調製>
製造例6で得られたCu/MoOの水素還元処理を製造例3および製造例4と同様にして行い、Cu/MoO(200)およびCu/MoO(300)を調製した。
【0085】
[製造例16]
<MoO(300)の調製>
製造例1で得られたMoOの水素還元処理を製造例4と同様にして行い、MoO(300)を調製した。
【0086】
製造例で調製した触媒の構造や触媒能について、次の評価を行った。
【0087】
(1)UV-Vis-NIR
製造例1~4で調製した触媒について、UV-Vis-NIR吸収スペクトルを測定した。測定は、UV-2600(株式会社島津製作所製)に積分球付属装置ISR-2200(株式会社島津製作所製)を接続して実施した。参照試料として硫酸バリウム(BaSO)粉末を用いた。測定結果を図1に示す。
【0088】
Pt/MoO(未還元)はほとんど光吸収を示さなかった。一方、水素還元処理を行ったPt/HMoO3-y(100)、Pt/HMoO3-y(200)およびPt/HMoO3-y(300)は、可視光域から赤外光域の広い範囲において光吸収を示した。特に、水素還元処理を100℃、200℃で行ったPt/HMoO3-y(100)およびPt/HMoO3-y(200)は、590nm付近を最大吸収波長とする幅広い光吸収を示した。光照射によって表面プラズモン共鳴が誘起されたためと考えられる。
【0089】
(2)H-TPR
製造例1、製造例8、製造例9、製造例10および製造例12で調製した水素還元処理を施していない触媒について、H-TPR測定を行った。測定は、BELCATII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、Arで希釈して濃度を5体積%としたHを30mL/分で流通させながら、昇温速度5℃/分で実施した。水素消費は熱伝導検出器(TCD)で検出した。測定結果を図2に示す。
【0090】
図2中、縦軸は、TCDで検出したシグナルの強度を示す。いずれの触媒においても少量の水素の取り込みが確認されたが、特にMoOを担体としたPt/MoOには136℃付近で多量の水素が取り込まれることがわかった。MoOが136℃付近で水素還元されることが明らかになった。
【0091】
(3)XRD
製造例1~5で調製した触媒について、XRDによる測定を行った。装置としてUltimaIV(株式会社リガク製)を用い、加速電圧40kV、放電電流40mVで測定を実施した。図3に、得られた触媒のXRDパターンを示す。
【0092】
Pt/MoO(未還元)およびPt/HMoO3-y(100)はMoOの斜方晶系結晶に近い構造を示した。一方、水素還元処理を200℃、300℃で行ったPt/HMoO3-y(200)およびPt/HMoO3-y(300)はMoOに由来するピークをほとんど示さず、アモルファス状であることがわかった。水素還元処理を400℃にして得られたPt/HMoO3-y(400)は、Pt/HMoO3-y(300)に比べてMoOの単斜晶系結晶に近い構造であった。以上の結果より、水素還元処理温度によって白金担持Mo酸化物触媒の構造が変化することが確認された。
【0093】
(4)TG
製造例1~5で調製した触媒について、水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)をTGにより求めた。測定は、Thermo plus EVOII(株式会社リガク製)を用い、50mL/分の窒素気流中または大気気流中、昇温速度10℃/分で実施した。
【0094】
Pt/MoO(未還元)はx=0、y=0;Pt/HMoO3-y(100)はx=1.91、y=0.02;Pt/HMoO3-y(200)はx=1.15、y=0.28;Pt/HMoO3-y(300)はx=0.35、y=0.74;Pt/HMoO3-y(400)はx=0.02、y=1.04であった。水素還元温度の上昇に伴い、水素ドープ量(x)は減少し、酸素欠陥量(y)が増加する傾向があることが明らかになった。
【0095】
(5)XPS
製造例1~4で調製した触媒について、XPSによる測定を行った。装置としてESCA-3400(株式会社島津製作所製)を用い、MgKα線(1253.6eV)を線源として測定を実施した。結果を図4に示す。
【0096】
水素還元処理前のPt/MoO(未処理)には、Mo6+のみが存在していたが、水素還元処理後のPt/HMoO3-y(100)、Pt/HMoO3-y(200)およびPt/HMoO3-y(300)には、Mo6+以外にMo5+およびMo4+が存在していた。このことから、水素還元処理により、Pt/MoOに酸素欠陥が導入されたことが確認された。また、水素還元処理温度が高くなるほどMo4+の割合が増加したことから、水素還元温度が高くなるにつれて、酸素欠陥の導入量が増加することも確認された。
【0097】
(6)TEM
製造例3で調製したPt/HMoO3-y(200)をTEMで観察した。TEMはH-800(株式会社日立製作所製)を用い、加速電圧200kVで測定を実施した。撮影した写真を図5に示す。Mo酸化物上に、平均粒子径2.4nmのPt粒子が高分散し、固定化されていることが確認された。
【0098】
製造例で調製した触媒を用いて、二酸化炭素の脱酸素反応を行った。
[実施例1]
製造例4および製造例8~16で調製した300℃で水素還元処理した触媒を用いて二酸化炭素の脱酸素反応を行った。触媒50mgと、溶媒である1,4-ジオキサン15mLとを、ステンレス製耐圧反応容器に入れ、二酸化炭素ガスおよび水素ガスを導入後、暗所下、200℃で20時間反応させた。二酸化炭素の分圧は1MPa、水素の分圧は3MPaとした。
反応終了後、生成物の分析をメタナイザー付きガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器(GC-FID)によって行った。分析結果から求めた二酸化炭素の転化率(%)、生成したメタノール、一酸化炭素およびメタンの選択率、担持金属量基準の全生成物に対する触媒回転数(TON)を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
MoOを単独で用いた場合には二酸化炭素の脱酸素反応がほとんど進行しなかった。一方、製造例4で調製したPt/HMoO3-y(300)を用いた場合には、MoO以外の担体にPtを担持させた触媒およびMoOにPt以外の金属を担持させた触媒を用いた場合と比較して、特異的に高い二酸化炭素の転化率およびメタノールの選択率が得られた。
【0101】
[実施例2]
製造例4で調製したPt/HMoO3-y(300)を触媒として用いて、実施例1と同様にして二酸化炭素の脱酸素反応を行った。反応時間を120時間として、生成物の収量と選択率の経時変化を分析した。結果を図6および図7に示す。
【0102】
図6および図7より、反応初期には高かった一酸化炭素の生成量および選択率は、反応時間が長くなるにつれて低下し、メタノールの生成量および選択率が高くなることが明らかになった。
【0103】
[実施例3]
製造例4で調製したPt/HMoO3-y(300)を触媒として用いて、表2に示す条件下で反応を行い、二酸化炭素から一酸化炭素およびメタノールが生成するメカニズムについて分析した。
【0104】
【表2】
【0105】
二酸化炭素の分圧を1.0MPa、水素の分圧を3.0MPaとした反応系と異なり、水素を導入せずに二酸化炭素の分圧を1.0MPaとした低圧条件下では、二酸化炭素の転化率が低く、一酸化炭素のみが生成してメタノールは生成しなかった。一方、二酸化炭素を導入せず、一酸化炭素の分圧を0.1MPa、水素の分圧を3.0MPaとした系では、転化率およびメタノールの選択率が高くなった。以上の結果より、白金担持Mo酸化物触媒を用いた二酸化炭素の脱酸素反応において、メタノールは一酸化炭素を経由して生成するものと推察される。また、一酸化炭素からメタノールを生成する反応は、高圧条件下でより進行しやすいと考えられる。
【0106】
[実施例4]
製造例1~5で調製した触媒を用いて、実施例1と同様にして二酸化炭素の脱酸素反応を行った。二酸化炭素の転化率および生成物の選択率を求めた結果を図8に示す。また、触媒の水素還元温度、生成物の収量、上記で求めた各触媒の水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)との相関関係を図9に示す。
【0107】
図8および図9より、水素還元処理が上昇するにつれて酸素欠陥量が増加し、それに伴い、メタノールの収量が増加することがわかった。Pt/HMoO3-y(200)およびPt/HMoO3-y(300)が特に高い触媒活性を示し、これらの触媒を用いることにより、メタノールの選択率も高くなった。
【0108】
一方、水素還元処理を400℃で行ったPt/HMoO3-y(400)では、Pt/HMoO3-y(300)に比べて触媒活性が低下することが明らかになった。Pt/HMoO3-y(400)の構造は、アモルファス構造を有するPt/HMoO3-y(300)と比較してMoOの単斜晶系結晶の構造に近いことから、構造の変化が触媒活性低下の原因になっているものと考えられる。
【0109】
[実施例5]
製造例4、製造例6および製造例7の触媒を用いて、実施例1と同様にして二酸化炭素の脱酸素反応を行った。
【0110】
白金担持Mo酸化物触媒は、Pt粒子にPt以外の金属元素を含むPtCu/MoO3(300)、担体となるMo酸化物がMo以外の金属元素を含むPt/W0.05Mo0.95(300)などであっても、Pt/HMoO3-y(300)と同様に、二酸化炭素の脱酸素反応において高い活性を示した。また、PtCu/MoO3(300)を用いたときには、Pt/HMoO3-y(300)を用いたときと比較して一酸化炭素の生成量が約1.2倍増加した。Pt/W0.05Mo0.95(300)を用いたときには、Pt/HMoO3-y(300)を用いたときと比較してメタノールの生成量が約1.2倍増加した。
【0111】
[実施例6]
製造例3で調製したPt/HMoO3-y(200)を用いて、二酸化炭素の脱酸素反応を行った。触媒100mgを石英製反応器に入れ、二酸化炭素ガスおよび水素ガスを導入後、暗所および可視光(>450nm)の照射下、140℃で2時間反応させた。二酸化炭素の分圧は0.5atm、水素の分圧は0.5atmとした。可視光の照射装置としては、キセノンランプを用いた。触媒1gあたりの一酸化炭素の生成量(mmol)の経時変化を図10に示す。
【0112】
暗所での反応に比べ、可視光照射下では、一酸化炭素の生成量が約2倍に向上することが確認できた。200℃で水素還元処理したPt/HMoO3-y(200)が可視光照射下で表面プラズモン共鳴に由来する強い光吸収を示し、触媒活性が向上したものと考えられる。
【0113】
[実施例7]
製造例3、製造例8~10、製造例14~15で調製した200℃で水素還元処理した触媒を用いて、実施例6と同様にして可視光照射下で二酸化炭素の脱酸素反応を行った。1gの触媒あたりの一酸化炭素の生成量(mmol)の経時変化を図11および図12に示す。
【0114】
図11および図12より、担体をMoO3とし、かつPtを担持させた白金担持Mo酸化物触媒が、水素還元処理されることにより、光照射下で高い活性を有する触媒となることが確認できた。
【0115】
[実施例8]
製造例2~4で調製した触媒を用いて、実施例6と同様にして可視光照射下で二酸化炭素の脱酸素反応を行った。触媒1gあたりの一酸化炭素の生成量(mmol)の経時変化を図13に示す。また、水素還元温度と、一酸化炭素の生成量(mmol)、各触媒の水素ドープ量(x)および酸素欠陥量(y)との相関関係を図14に示す。
【0116】
白金担持Mo酸化物触媒は、200℃で水素還元処理を行ったときに、光照射下で最も高い活性を示すことが明らかになった。
【0117】
[実施例9]
製造例3で調製したPt/HMoO3-y(200)を触媒として、照射装置としてキセノンランプに代えて発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)ランプ(緑、赤、青)を用いた以外は実施例6と同様にして、二酸化炭素の脱酸素反応を行った。触媒1gあたりの一酸化炭素の生成量(mmol)の経時変化を図15に示す。また、Pt/HMoO3-y(200)のUV-Vis-NIR吸収スペクトル、各LEDの波長および各LEDを照射したときの一酸化炭素の生成量の増加率を図16に示した。なお、生成量の増加率は、暗所における反応時の生成量と比較して求められる値である。
【0118】
一酸化炭素の生成量は、照射した光がLED(緑)のときに最も高く、LED(赤)、LED(青)の順に低くなった。これは、Pt/HMoO3-y(200)のUV-Vis-NIR吸収スペクトルのLED(緑)、LED(赤)およびLED(青)の各波長における吸光度の高い順と一致していることが図16より確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の一酸化炭素/メタノールの製造方法は、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の基礎化成品への効率的な変換などに利用が可能である。
図1
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