(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】管状成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20240502BHJP
B28B 1/20 20060101ALI20240502BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C04B28/08
B28B1/20 C
B28B1/20 D
C04B18/08 Z
(21)【出願番号】P 2020058602
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-08-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】日比野 隆治
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-192422(JP,A)
【文献】特許第6654273(JP,B1)
【文献】特開2021-75429(JP,A)
【文献】特開2007-313843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
B28B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状成形体を作製する、管状成形体の製造方法であって、
前記管状成形体は、コンクリートで形成された管状成形本体と、該管状成形本体の内周面を被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備えており、
前記被覆材は、セメント系水硬性材料を備え、
前記セメント系水硬性材料は、高炉スラグ微粉末
、フライアッシュ
、及び、水硬性セメントを含有し、
前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末の含有割合は、50質量%を超え90質量%以下であり、
前記セメント系水硬性材料における前記フライアッシュの含有割合は、5質量%を超え25質量%以下であり、
前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末及び前記フライアッシュの合計の含有割合は、75質量%以上85質量%以下であり、
コンクリートから遠心成形により前記管状成形
本体を得る遠心成形工程と、
前記被覆材を前記管状成形本体の内周面に供給することにより、前記被覆層を形成する被覆層形成工程とを備え、
前記遠心成形工程後で且つ前記被覆層形成工程前に、前記管状成形本体の前記内周面側から染み出たノロの少なくとも一部を除去する除去工程を更に備える、
管状成形体の製造方法。
【請求項2】
前記被覆材は、細骨材を更に備える、
請求項1に記載の管状成形体の製造方法。
【請求項3】
前記被覆層形成工程では、前記被覆材及び水を備える被覆スラリーを前記管状成形本体の内周面に供給することにより、前記被覆層を形成する
請求項1または2に記載の管状成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートを遠心成形用の型枠に供給して遠心力で締め固めることにより、管状成形体が製造されている。
【0003】
斯かる管状成形体は、内側に水を流通させるための導水管(特に下水道管)として用いられている。
従来の下水道管は、下水に含まれる硫酸(下水中の硫化水素に起因して発生した硫酸など)によって劣化されてしまうことがある。
このようなことから、コンクリートで形成された管状成形本体と、該該管状成形本体の内周面を被覆し、樹脂を含む被覆材とを備えた管状成形体が作製されている(例えば、特許文献1)。
管状成形本体の内周面が被覆材で覆われることにより、管状成形体は、耐硫酸性に優れたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、さらなる被覆材についてはこれまで十分に検討がなされていない。
また、コンクリート製の管状成形体に限らず、その他のコンクリート成形体に対しても耐硫酸性を付与できる被覆材が求められ得る。
【0006】
そこで、本発明は、コンクリート成形体に耐硫酸性を付与し得る被覆材で形成された被覆層を備える管状成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意研究したところ、被覆材が、セメント系水硬性材料を備え、該セメント系水硬性材料が、高炉スラグ微粉末と、フライアッシュとを適度な配合割合で含有することにより、コンクリート成形体に耐硫酸性を付与し得ることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0008】
本発明に係る被覆材は、セメント系水硬性材料を備え、
前記セメント系水硬性材料は、高炉スラグ微粉末、及び、フライアッシュを含有し、
前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末の含有割合は、50質量%を超え90質量%以下であり、
前記セメント系水硬性材料における前記フライアッシュの含有割合は、5質量%を超え25質量%以下であり、
前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末及び前記フライアッシュの合計の含有割合は、65質量%を超える。
【0009】
ここで、本発明に係る被覆材の一態様では、前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末及び前記フライアッシュの合計の含有割合は、90質量%以下である。
【0010】
本発明に係る被覆材の他の態様は、細骨材を更に備える。
【0011】
また、本発明に係る被覆材の製造方法では、前記被覆材を作製する、被覆材の製造方法であって、
前記高炉スラグ微粉末と、前記フライアッシュとを混合することにより、前記被覆材を作製する。
【0012】
さらに、本発明に係るコンクリート成形体は、コンクリートで形成されたコンクリート成形本体と、該コンクリート成形本体の表面を前記被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備える。
【0013】
また、本発明に係る管状成形体は、コンクリートで形成された管状成形本体と、該管状成形本体の内周面を前記被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備える。
【0014】
さらに、本発明に係る管状成形体の製造方法は、管状成形体を作製する、管状成形体の製造方法であって、
前記管状成形体は、コンクリートで形成された管状成形本体と、該管状成形本体の内周面を被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備えており、
コンクリートから遠心成形により前記管状成形本体を得る遠心成形工程と、
請求項1~3の何れか1項に記載の被覆材を前記管状成形本体の内周面に供給することにより、前記被覆層を形成する被覆層形成工程とを備える。
【0015】
また、本発明に係る管状成形体の製造方法の一態様は、前記遠心成形工程後で且つ前記被覆層形成工程前に、前記管状成形本体の前記内周面側から染み出たノロの少なくとも一部を除去する除去工程を更に備える。
【0016】
さらに、本発明に係る管状成形体の製造方法の他の態様の前記被覆層形成工程では、前記被覆材及び水を備える被覆スラリーを前記管状成形本体の内周面に供給することにより、前記被覆層を形成する。
【0017】
また、本発明に係るスラリーは、前記被覆材と、水とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コンクリート成形体に耐硫酸性を付与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る管状成形体の製造方法において、遠心成形用の型枠で管状成形本体の外側部分を形成した状態を示す概略断面図。
【
図2】本実施形態に係る管状成形体の製造方法において、管状成形本体の内周面にノロが溜まった状態を示す概略断面図。
【
図4】硫酸水溶液浸漬試験用の供試体の形状及び大きさを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0021】
本実施形態に係る被覆材は、セメント系水硬性材料を備える。
また、本実施形態に係る被覆材は、細骨材を更に備えることが好ましい。
さらに、本実施形態に係る被覆材は、混和剤を更に備えてもよい。
【0022】
前記セメント系水硬性材料は、高炉スラグ微粉末、及び、フライアッシュを含有する。
また、前記セメント系水硬性材料は、セメントを含有する。
さらに、前記セメント系水硬性材料は、シリカヒューム、膨張材、石膏などを含有してもよい。
【0023】
前記セメント系水硬性材料に含まれるセメントは、水硬性セメントである。
前記水硬性セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメントが挙げられる。
また、前記水硬性セメントとしては、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、アルミナセメントなども挙げられる。
【0024】
前記セメント系水硬性材料は、高炉セメントを含有することにより高炉スラグ微粉末を含有してもよい。また、前記セメント系水硬性材料は、高炉セメントに含まれる高炉スラグ微粉末とは別の高炉スラグ微粉末を含有してもよい。
また、前記セメント系水硬性材料は、フライアッシュセメントを含有することにより、フライアッシュを含有してもよい。また、前記セメント系水硬性材料は、フライアッシュセメントに含まれるフライアッシュとは別のフライアッシュを含有してもよい。
【0025】
前記高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定する高炉スラグ微粉末である。
前記高炉スラグ微粉末としては、高炉スラグ微粉末3000、高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、高炉スラグ微粉末8000が挙げられる。
【0026】
前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末の含有割合(高炉セメントに含まれる高炉スラグ微粉末、及び、高炉セメントに含まれる高炉スラグ微粉末とは別の高炉スラグ微粉末の合計の含有割合)は、50質量%を超え90質量%以下であることが重要であり、55~80質量%が好ましく、55~70質量%がより好ましい。
【0027】
前記フライアッシュは、JIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に規定するフライアッシュである。
前記フライアッシュとしては、フライアッシュI種、フライアッシュII種、フライアッシュIII種、フライアッシュIV種が挙げられる。
前記フライアッシュとしては、入手しやすいという観点から、フライアッシュI種、フライアッシュII種が好ましい。
【0028】
前記セメント系水硬性材料における前記フライアッシュの含有割合(フライアッシュセメントに含まれるフライアッシュ、及び、フライアッシュセメントに含まれるフライアッシュとは別のフライアッシュの合計の含有割合)は、5質量%を超え25質量%以下であることが重要であり、10~25質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。
【0029】
前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末及び前記フライアッシュの合計の含有割合は、65質量%を超えることが重要であり、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。
また、前記セメント系水硬性材料における前記高炉スラグ微粉末及び前記フライアッシュの合計の含有割合は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0030】
前記シリカヒュームは、JIS A6207:2016「コンクリート用シリカヒューム」に規定するシリカヒュームが挙げられる。
【0031】
前記膨張材は、JIS A6202:2017「コンクリート用膨張材」に規定する膨張材が挙げられる。
【0032】
前記石膏は、特に限定されるものではなく、前記石膏としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏などが挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る被覆材は、水に混合された際にセメント系水硬性材料と水とが分離し難くなるという観点から、細骨材を更に備えることが好ましい。
前記細骨材としては、JIS A 5308:2019「レディーミクストコンクリート」の「附属書A(規定)レディーミクストコンクリート用骨材」に規定するものが挙げられる。
前記細骨材としては、天然細骨材(自然作用によって岩石からできた砂)、天然骨材を砕いた破砕骨材(砕砂)、スラグ細骨材、人工軽量細骨材、再生骨材(コンクリートの廃材を再生したもの)などが挙げられる。
前記スラグ細骨材としては、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材などが挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る被覆材は、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、細骨材を、好ましくは50~250質量部、より好ましくは75~200質量部備える。
【0035】
前記混和剤としては、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、増粘剤、防せい剤、硬化促進剤、凝結遅延剤などが挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る被覆材の製造方法は、本実施形態に係る被覆材を作製する方法である。
本実施形態に係る被覆材の製造方法は、前記高炉スラグ微粉末と、前記フライアッシュとを混合することにより、前記被覆材を作製する。
より具体的には、本実施形態に係る被覆材の製造方法は、前記高炉スラグ微粉末と、前記フライアッシュと、前記セメントと、前記細骨材とを混合することにより、前記被覆材を作製する。
【0037】
本実施形態に係る被覆スラリーは、本実施形態に係る被覆材と水とを備える。
【0038】
本実施形態に係る被覆スラリーは、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記水を、好ましくは30~60質量部、より好ましくは40~60質量部備える。
【0039】
本実施形態に係るコンクリート成形体は、コンクリートで形成されたコンクリート成形本体と、該コンクリート成形本体の表面を、本実施形態に係る被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備える。
【0040】
前記コンクリートは、セメント、細骨材、粗骨材、及び、水を含む。
【0041】
前記コンクリートに含まれるセメントは、水硬性セメントである。
前記水硬性セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメントが挙げられる。
また、前記水硬性セメントとしては、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、アルミナセメントなども挙げられる。
【0042】
前記コンクリートに含まれる細骨材としては、JIS A 5308:2019「レディーミクストコンクリート」の「附属書A(規定)レディーミクストコンクリート用骨材」に規定するものが挙げられる。
【0043】
前記コンクリートに含まれる粗骨材としては、JIS A 5308:2019「レディーミクストコンクリート」の「附属書A(規定)レディーミクストコンクリート用骨材」に規定するものが挙げられる。
【0044】
前記コンクリートは、セメントを、好ましくは300kg/m3以上600kg/m3以下、より好ましくは350kg/m3以上540kg/m3以下で含有する。
【0045】
前記コンクリートは、細骨材を、好ましくは700kg/m3以上1000kg/m3以下、より好ましくは750kg/m3以上900kg/m3以下で含有する。
【0046】
前記コンクリートは、粗骨材を、好ましくは850kg/m3以上1150kg/m3以下、より好ましく900kg/m3以上1100kg/m3以下で含有する。
【0047】
前記コンクリートでは、水セメント比(水の質量/セメントの質量)(W/C)が、25%以上55%以下であることが好ましく、30%以上50%以下であることがより好ましい。
【0048】
前記コンクリートは、混和剤を含有してもよい。
前記コンクリートに含まれる混和剤としては、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、増粘剤、防せい剤、硬化促進剤、凝結遅延剤などが挙げられる。
【0049】
本実施形態に係るコンクリート成形体としては、例えば、管状成形体が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る管状成形体は、コンクリートで形成された管状成形本体と、該管状成形本体の内周面を、本実施形態に係る被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備える。
【0051】
前記管状成形本体としては、例えば、コンクリートが遠心成形された管状成形本体が挙げられる。
【0052】
管状成形体のサイズは、特に限定されるものではない。例えば、管状成形体の内径としては、200mm以上900mm以下であることが好ましく、400mm以上800mm以下であることがより好ましい。また、管状成形体の外径としては、300mm以上1000mm以下であることが好ましく、500mm以上1000mm以下であることがより好ましい。また、管状成形体の長さとしては、300mm以上であることが好ましく、2000mm以上3000mm以下であることがより好ましく、2000mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。
【0053】
本実施形態に係る管状成形体の製造方法は、管状成形体を作製する。
前記管状成形体は、コンクリートで形成された管状成形本体と、該管状成形本体の内周面を被覆材で被覆することにより形成された被覆層とを備える。
【0054】
本実施形態に係る管状成形体の製造方法は、コンクリートから遠心成形により前記管状成形本体を得る遠心成形工程と、本実施形態に係る被覆材を前記管状成形本体の内周面に供給することにより、前記被覆層を形成する被覆層形成工程とを備える。
【0055】
より具体的には、本実施形態に係る管状成形体の製造方法は、コンクリートから遠心成形により前記管状成形本体を得る遠心成形工程と、前記遠心成形工程後で且つ前記被覆層形成工程前に、前記管状成形本体の前記内周面側から染み出たノロの少なくとも一部を除去する除去工程と、本実施形態に係る被覆スラリーを前記管状成形本体の内周面に供給することにより、前記被覆層を形成する被覆層形成工程とを備える。
前記ノロは、スラリー状の物質(セメント及び水などからなる)である。
【0056】
前記遠心成形工程では、前記コンクリートを一回または複数回に分けて遠心成形する。
具体的には、前記遠心成形工程では、
図1に示すように、遠心成形用の筒状の型枠X内に、管状成形本体内に埋設される鉄筋(図示せず)を配置した状態で、該型枠Xを回転させつつ型枠Xの内側に前記コンクリートを供給する。そして、低速(遠心力4~8G、時間:5分~7分)、中速(遠心力10~25G、時間:3分~5分)、高速(遠心力30~55G、時間:4分~6分)の順で回転速度を変更して遠心成形する(第一遠心工程)。これにより、管状成形本体の外側部分1aが形成される。
次に、型枠Xを回転させつつ前記外側部分1aの内側に前記コンクリートを供給する。そして、低速(遠心力4~8G、時間:5分~7分)、中速(遠心力10~25G、時間:3分~5分)、高速(遠心力30~55G、時間:4分~6分)の順で回転速度を変更して遠心成形する(第二遠心工程)。これにより、管状成形本体が形成される。
そして、遠心成形工程を行った後、型枠Xの回転を停止すると、
図2に示すように、管状成形本体1bから染み出たノロ1cが管状成形本体1bの内側に溜まった状態になる。
【0057】
前記除去工程では、前記遠心成形工程後且つ前記被覆層形成工程前に前記管状成形本体1bの前記内周面側から染み出たノロ1cの少なくとも一部を除去する。
【0058】
前記被覆層形成工程では、前記被覆スラリーを前記管状成形本体の内周面に供給し、遠心成形により前記被覆層を形成する。
具体的には、前記被覆層形成工程では、
図3に示すように、前記型枠Xを低速で回転させつつ、前記型枠Xにおける前記管状成形本体1bの内周面に前記被覆スラリーを供給し、棒状の部材(いわゆる、仕上げ棒など)で被覆スラリーを均すことで、遠心成形により前記被覆層1dを形成する。
なお、棒状の部材の代わりに、板状の部材(例えば、へら等)、刷毛などを用いてもよい。
【0059】
前記被覆層の厚さは、3mm以上15mm以下であることが好ましく、5mm以上10mm以下であることがより好ましい。
【0060】
上記のように製造される管状成形体は、蒸気養生した後、型枠から取り出されることが好ましい。蒸気養生では、型枠と共に管状成形体を常温の環境に2時間以上配置する工程(前養生工程)と、該前養生工程後、型枠と共に管状成形体が配置された環境の温度を30℃/時以下の速度で昇温する工程(昇温工程)と、該昇温工程後、型枠と共に管状成形体が配置された環境の温度が65±10℃となった状態で2時間以上保持する工程(温度保持工程)と、該温度保持工程後、型枠と共に管状成形体が配置された環境の温度を常温まで降温する工程(降温工程)とが行われることが好ましい。
また、蒸気養生後、型枠から取り出された管状成形体は、所定の材齢(管状成形体作製から7日以上)まで気中養生されることが好ましい。
【0061】
なお、本発明に係る被覆材、被覆材の製造方法、コンクリート成形体、管状成形体、管状成形体の製造方法、及び、スラリーは、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る被覆材、被覆材の製造方法、コンクリート成形体、管状成形体、管状成形体の製造方法、及び、スラリーは、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明に係る被覆材、被覆材の製造方法、コンクリート成形体、管状成形体、管状成形体の製造方法、及び、スラリーは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、本実施形態に係る管状成形体の製造方法では、前記除去工程を実施したが、本発明に係る管状成形体の製造方法では、前記除去工程を実施しなくてもよい。
また、本発明に係る管状成形体の製造方法では、前記ノロと前記被覆スラリーとを混合させて被覆層を形成してもよい。
また、本発明に係る管状成形体の製造方法では、被覆材を、水と混合せずにスラリー状にせずに、前記ノロと混合させて被覆層を形成してもよい。
【実施例】
【0063】
次に、実施例、比較例、及び、試験例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0064】
(管状成形本体の作製)
以下の材料を用いて、下記表1の配合割合のコンクリートを作製した。なお、下記表1において、「W/C」は、水セメント比(水の質量/セメントの質量)を意味し、「s/a」は、細骨材率(細骨材の容積/細骨材及び粗骨材の合計容積)を意味する。
セメント(略号:C):普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
水(略号:W):上水道水
細骨材(略号:S):山砂(静岡県掛川市産)
粗骨材(略号:G):硬質砂岩砕石2005(茨城県桜川市産)
混和剤(略号:AD):ナフタレンスルホン酸系減水剤(マイティ150、花王社製)
【0065】
具体的には、混和剤と水とを混合して混和剤含有水を得た。
次に、セメント、細骨材、及び、粗骨材を強制二軸練りミキサーで15秒間空練りした後に、これらに前記混和剤含有水を加えて強制二軸練りミキサーで3分間練り混ぜることにより、コンクリートを作製した。
そして、コンクリートをφ200×300mmの中空型枠に供給し、低速(5G)2分間、中速(15G)2分間、高速(44G)7分間の順で遠心成形を行い、管状成形本体を得た。
次に、管状成形本体の内周面側から染み出たノロの大部分を除去した。
【0066】
【0067】
(被覆スラリーの作製)
以下の材料を用いて、下記表2、3の配合割合となるように材料をホバートミキサーで2分間練り混ぜて、被覆スラリーを得た。
セメント:普通ポルトランドセメント(略号:NC)(住友大阪セメント社製)
アルミナセメント(略号:AC)(AGCセラミック社製)
水(略号:W):上水道水
高炉スラグ微粉末(略号:BFS):高炉スラグ微粉末4000(日鉄スラグ製品社製)
フライアッシュ(略号:FA):碧南火力発電所品(テクノ中部社製)
細骨材(略号:S):珪砂7号(JFEミネラル社製)
【0068】
(管状成形体の作製)
前記中空型枠を低速で回転させつつ、前記中空型枠における前記管状成形本体の内周面に被覆スラリーを供給し、仕上げ棒で被覆スラリーを均して被覆層(厚さ:10mm)を形成して、管状成形体を得た。
そして、得られた管状成形体を蒸気養生した該蒸気養生では、型枠と共に管状成形体を常温で4時間保持した(前養生工程)。また、該前養生工程後、型枠と共に管状成形体が配置された環境の温度を30℃/時以下の速度で昇温し(昇温工程)、型枠と共に管状成形体が配置された環境の温度が65±10℃となった状態で2時間以上保持した(温度保持工程)。また、該温度保持工程後、型枠と共に管状成形体が配置された環境の温度を常温まで降温した(降温工程)。
蒸気養生を行った管状成形体は、材齢1日で脱型を行い、材齢28日まで気中養生を行った。なお、ここでの材齢は、管状成形体作製から起算した材齢である。
【0069】
(硫酸水溶液浸漬試験)
上記の気中養生後の管状成形体を湿式コンクリートカッターで切断し、
図4に示す供試体を作製した。
そして、該供試体の内面(管状成形体の内周面の一部)以外の5面をアクリロイル変性アクリル樹脂系接着剤でコーティングした。そして、斯かる供試体に対して、硫酸水溶液浸漬試験を行い、質量変化率を求めた。
具体的には、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術および防食技術マニュアル(発行:一般財団法人 下水道事業支援センター)」に従い、硫酸水溶液浸漬試験を行った。試験の概要としては、以下の通りである。
まず初めに、供試体の質量を測定した。
次に、斯かる供試体を硫酸水溶液(硫酸濃度:5質量%)に28日間浸漬した。硫酸水溶液に浸漬してから7日後、及び、28日後における供試体の質量を測定した。
なお、供試体の質量を測定する前に、上水道水で供試体表面に付着した硫酸水溶液を洗い流し、供試体表面に付着している水分を乾いた布で十分にふき取った。
そして、下記式により、供試体における、7日後、及び、28日後での質量変化率を求めた。
7日後の質量変化率(%) = (7日後の質量-浸漬直前の質量)/浸漬直前の質量×100
28日後の質量変化率(%) = (28日後の質量-浸漬直前の質量)/浸漬直前の質量×100
なお、以下の評価基準で評価した。
◎:7日後の質量変化率及び28日後の質量変化率の両方ともが-0.30%以上であり、且つ、7日後の質量変化率が負となっているのにも関わらず、28日後の質量変化率が正となっている場合。
〇:7日後の質量変化率及び28日後の質量変化率の両方ともが-0.30%以上である場合。
△:7日後の質量変化率及び28日後の質量変化率の一方のみが-0.30%以上である場合。
×:7日後の質量変化率及び28日後の質量変化率の両方ともが-0.30%未満である場合。
結果を下記表2、3に示す。
【0070】
【0071】
表2に示すように、実施例では、比較例に比べて管状成形体の質量が減少し難かった。
また、実施例1~8、10~13では、管状成形体の質量が一度低下しても、その後、管状成形体の質量が元の状態以上に回復していた。すなわち、実施例1~8、10~13は、自己治癒性を有するという優れた効果を発揮していた。
【0072】
【符号の説明】
【0073】
1:管状成形体、1a:外側部分、1b:管状成形本体、1c:ノロ、1d:被覆層、X:型枠。