(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ゴム材料の物性推定方法、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G02B 21/36 20060101AFI20240507BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G02B21/36
G01N33/44
(21)【出願番号】P 2019183172
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-07-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】長谷山 美紀
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和加奈
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏明
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151771(JP,A)
【文献】斉藤直輝、他,電子顕微鏡画像および配合量を用いたゴム材料の特性曲線の推定に関する検討,映像情報メディア学会技術報告,2019年02月12日,Vol. 43, No. 5,P. 261-264
【文献】Toru SHIIBASHI et al.,“Direct observation of individual polymer molecules by electron microscopy.”,KOBUNSHI RONBUNSHU,1989年,Vol. 46, No. 8,p.473-479,https://www.jstage.jst.go.jp/article/koron1974/46/8/46_8_473/_pdf/-char/ja,DOI: 10.1295/koron.46.473
【文献】斉藤直輝、他,複数の条件で撮像された走査型電子顕微鏡画像を用いたゴム材料の物性値推定に関する検討,映像情報メディア学会技術報告,2017年08月29日,Vol. 41 No. 29,P. 31-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/36
G01N 33/00-33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像を取得することと、
前記取得した画像から、該画像の特徴を示す指標を算出することと、
前記算出した指標に基づいて、非線形回帰モデルにより前記ゴム材料の物性を推定することと
を含み、
前記非線形回帰モデルは、前記算出した指標を入力すると、前記ゴム材料の物性値に対応する値を出力するように学習済みであ
り、
前記物性値は、ムーニー粘度、ΔG
*
、破断伸び、破断強度、破壊エネルギー、M300、摩耗、70℃tanδ、0℃tanδのいずれかを含む、
ゴム材料の物性推定方法。
【請求項2】
前記ゴム材料の配合物の配合量を表す配合指標を算出すること、
をさらに含み、
前記ゴム材料の物性を推定することは、前記算出した画像の特徴を表す指標及び前記算出した配合指標に基づいて前記ゴム材料の物性を推定することを含む、
請求項1に記載の物性推定方法。
【請求項3】
前記非線形回帰モデルは、SVR(Support Vector Regression)によって構築される、
請求項1又は2に記載の物性推定方法。
【請求項4】
前記ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像は、互いに異なる撮像条件で撮像した複数の画像を含み、
前記画像の特徴を示す指標を算出することは、前記複数の画像について指標を算出することを含み、
前記ゴム材料の物性を推定することは、前記異なる撮像条件ごとに前記ゴム材料の物性を推定することと、前記推定されたゴム材料の物性のうち、信頼性の高いものを選択することと、前記選択された前記ゴム材料の物性を統合することと、
を含む、
請求項1から3のいずれかに記載の物性推定方法。
【請求項5】
前記推定されたゴム材料の物性のうち、信頼性の高いものを選択することは、前記非線形回帰モデルの予測区間幅に基づいて前記推定されたゴム材料の物性を選択することを含む、
請求項4に記載の物性推定方法。
【請求項6】
前記顕微鏡は、電子顕微鏡である、
請求項1から5のいずれかに記載の物性推定方法。
【請求項7】
ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像を取得する画像取得部と、
前記取得した画像から、該画像の特徴を示す指標を算出する指標算出部と、
前記算出した指標に基づいて前記ゴム材料の物性を推定する物性推定部と、
を備え、
前記物性推定部は、非線形回帰モデルにより前記ゴム材料の物性を推定し、
前記非線形回帰モデルは、前記算出した指標を入力すると、前記ゴム材料の物性値に対応する値を出力するように学習済みであ
り、
前記物性値は、ムーニー粘度、ΔG
*
、破断伸び、破断強度、破壊エネルギー、M300、摩耗、70℃tanδ、0℃tanδのいずれかを含む、
ゴム材料の物性推定システム。
【請求項8】
ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像を取得することと、
前記取得した画像から、該画像の特徴を示す指標を算出することと、
前記算出した指標に基づいて非線形回帰モデルにより前記ゴム材料の物性を推定することと
をコンピュータに実行させ、
前記非線形回帰モデルは、前記算出した指標を入力すると、前記ゴム材料の物性値に対応する値を出力するように学習済みであ
り、
前記物性値は、ムーニー粘度、ΔG
*
、破断伸び、破断強度、破壊エネルギー、M300、摩耗、70℃tanδ、0℃tanδのいずれかを含む、
ゴム材料の物性推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の物性推定方法、システム及びプログラム
に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、合成ゴムの重合工程で得られたゴム重合体の物性をニューラルネットワークによって推定する方法を開示する。該方法では、合成ゴムの重合工程の運転条件とゴム重合体の物性とを予めニューラルネットワークに学習させておく。運転条件は、例えば供給モノマーの濃度、温度等である。ゴム状重合体の物性は、例えばムーニー粘度や溶液粘度等である。実際の運転下で計測した運転状況の計測値をニューラルネットワークに入力することにより、ニューラルネットワークから物性の推定値を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される方法では、ニューラルネットワークを予め作成する必要がある。このため、運転条件ごとに得られた合成ゴムの物性を実際に計測しなければならない。つまり、信頼性の高いニューラルネットワークを作成するための負担が大きい。また、この方法では、運転条件が不明の合成ゴムの物性を推定することは困難である。よって、新しいアプローチによるゴム材料の物性推定方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、効率的にゴム材料の物性を推定する方法、システム及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るゴム材料の物性推定方法は、以下のことを含む。
・ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像を取得すること。
・前記取得した画像から、該画像の特徴を示す指標を算出すること。
・前記算出した指標に基づいて、非線形回帰モデルにより前記ゴム材料の物性を推定すること。
【0007】
上記ゴム材料の物性推定方法は、前記ゴム材料の配合物の配合量を表す配合指標を算出すること、をさらに含み、前記ゴム材料の物性を推定することは、前記算出した画像の特徴を表す指標及び前記算出した配合指標に基づいて前記ゴム材料の物性を推定することを含んでもよい。
【0008】
上記ゴム材料の物性推定方法において、前記非線形回帰モデルは、SVR(Support Vector Regression)により構築されてもよい。
【0009】
上記ゴム材料の物性推定方法において、前記ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像は、互いに異なる撮像条件で撮像した複数の画像を含み、前記画像の特徴を示す指標を算出することは、前記複数の画像について指標を算出することを含み、前記ゴム材料の物性を推定することは、前記異なる撮像条件ごとに前記ゴム材料の物性を推定することと、前記推定されたゴム材料の物性のうち、信頼性の高いものを選択することと、前記選択されたゴム材料の物性を統合することとを含んでもよい。
【0010】
上記ゴム材料の物性推定方法において、前記推定されたゴム材料の物性のうち、信頼性の高いものを選択することは、前記非線形回帰モデルの予測区間幅に基づいて前記推定されたゴム材料の物性を選択することを含んでもよい。
【0011】
上記物性推定方法において、前記顕微鏡は、電子顕微鏡であってもよい。
【0012】
本発明の一側面に係るゴム材料の物性推定システムは、画像取得部と、指標算出部と、物性推定部とを備える。画像取得部は、ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像を取得する。指標算出部は、前記取得した画像から、該画像の特徴を示す指標を算出する。物性推定部は、前記算出した指標に基づいて前記ゴム材料の物性を推定する。前記物性推定部は、非線形回帰モデルにより前記ゴム材料の物性を推定する。
【0013】
本発明の一側面に係るゴム材料の物性推定プログラムは、以下のことをコンピュータに実行させる。
・ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像を取得すること。
・前記取得した画像から、該画像の特徴を示す指標を算出すること。
・前記算出した指標に基づいて、非線形回帰モデルにより前記ゴム材料の物性を推定すること。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像の特徴を示す指標から、ゴム材料の物性を効率的に推定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】2通りのゴム材料の物性を示す曲線のグラフ。
【
図2】電子顕微鏡により撮像されたゴム材料の画像の例。
【
図3】実施形態に係る推定方法の概要を説明する図。
【
図4】実施形態に係る推定方法の手順を示すフローチャート。
【
図5】構築された非線形モデルの予測区間幅を示す図。
【
図7】実施形態に係るシステムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るゴム材料の物性推定方法について説明する。
<1.物性推定方法の概要>
ゴム材料は、弾性を有する高分子化合物であり、典型的には、複数の配合物が共に混練されることにより生成される。配合物の種類としては、例えばモノマー(ブタジエン、スチレン等)、フィラー(シリカ、カーボン等)及び架橋剤等が挙げられる。生成されるゴム材料の物性は、例えば配合物の種類及び配合量(割合)により変化する。従来は、目的とする物性を持つゴム材料を生成するため、配合物の種類や配合量といったパラメータを変更しつつゴム材料を生成し、生成されたゴム材料の物性を計測してパラメータの妥当性を検証することが繰り返されていた。
【0017】
ゴム材料の示す物性は、混練方法によってもまた変化する。本発明者らは、配合物の種類及び配合量は同一であるが、配合物を加える順番や加硫時間等の混練方法がそれぞれ異なる2通りのゴム材料P1、Q1について、引張力に対するひずみを計測した。
図1は、その結果を基に作成した応力-ひずみ曲線のグラフであり、横軸は応力、縦軸はひずみである。
図1に示すように、ゴム材料P1、Q1の物性を示す曲線は、互いに異なる。このように、異なる物性を示すゴム材料は、構造も互いに異なると考えられる。すなわち、ゴム材料の物性や構造には、配合物のみならず混練方法も影響を及ぼす。しかし、配合物を加える順番や加硫時間等の組合せが無数に存在するため、混練方法を定量化し、ゴム材料の物性推定に利用することは容易ではない。
【0018】
一方、ゴム材料を顕微鏡により撮像した画像からは、ゴム材料の構造に関する特徴を抽出し得る。
図2は、2万倍でゴム材料が撮像された走査型電子顕微鏡の画像である。
図2の画像では、グレースケールで表された明暗により特定の配合物を判別することができる。例えば、カーボンの凝集体が相対的に暗いエリアとして画像に現れる一方、シリカの凝集体が相対的に明るいエリアとして現れる。すなわち、ゴム材料が撮像された画像には、フィラー凝集体のサイズや、フィラー凝集体間の距離、フィラーのポリマー相に対する分布(分配)等の情報が含まれる。
【0019】
本発明者らは、鋭意検討の結果、画像の特徴を示す指標に基づいてゴム材料の物性を推定する方法を見出した。この方法によれば、ゴム材料そのものに現れる特徴を指標化して物性を推定することになるので、混練方法を定量化することなく効率的にゴム材料の物性を推定することが可能となる。
【0020】
<2.物性推定方法>
以下、ゴム材料の具体的な物性推定方法について説明する。
図3は、本実施形態に係るゴム材料の物性推定方法の概要を示す図である。
図3には、一例として、配合物の配合量が予め判明しているゴム材料1の物性を推定する場合が示されている。また、
図4は、本実施形態に係るゴム材料の物性推定方法の手順を示すフローチャートである。
【0021】
まず、ゴム材料1を撮像した画像を取得する(ステップS1)。撮像されるゴム材料1の部位は限定されないが、外部空間との境界となる表面の部位よりは内側の部位であることが好ましい。顕微鏡は、本実施形態では走査型電子顕微鏡(SEM)であるが、これに限定されず、その他の種類の電子顕微鏡(TEM、STEM等)及び光学顕微鏡等から適宜選択することができる。画像を撮像する機器の分解能の例として、好ましくは135nm/pixel(1画素当たりの撮像される対象物の長さ)の範囲が挙げられる。また、撮像する倍率の例として、好ましくは2500~40000倍の範囲が挙げられる。
【0022】
本実施形態で取得する画像は、8ビットグレースケール画像であり、画素密度は1536×1024である。画像は、同一のゴム材料1について、互いに異なる撮像条件で撮像した複数の画像を含むことが好ましい。構造に関する情報を適切に捉えることができる撮像条件はゴム材料によって異なっているため、様々な撮像条件で撮像された画像を物性推定に利用する方が、物性の推定により有効となるためである。撮像条件とは、例えば倍率や顕微鏡のモードである。本実施形態では、以下の表1に示す条件1~条件8までの8つの撮像条件ごとに撮像された画像を取得する。
【表1】
【0023】
画像の画素密度及びグレースケールのビット数は、上述した数値に限定されず、適宜選択することができる。また、撮像条件及び条件数は、表1に示すものに限定されず、実施の形態に応じて適宜設定することができる。
【0024】
ゴム材料1の内部構造を撮像した画像には、例えば、フィラー凝集体を含む配合物間の距離、配合物の分配、及びフィラー凝集体のサイズ等、ゴム材料1の物性に相関を持つ情報が現れる。物性に相関を持つ情報は、輝度値の変化と分布の特徴として現れる。従って、画像の特徴を抽出することで、抽出された特徴に相関するゴム材料1の物性を推定することが可能となる。ここで、ゴム材料1の物性は、未加硫であれば例えばムーニー粘度及びΔG*、加硫済みであれば例えば破断伸び、破断強度、破壊エネルギー、M300、摩耗、70℃tanδ、0℃tanδ等であり得る。
【0025】
本実施形態では、画像の特徴を示す指標として、2つの画素の組における輝度値の関係(濃度共起行列に関する特徴)、輝度値の変化(Gabor-Wavelet変換に関する特徴)、及び周辺画素の輝度値の大小関係を表現可能な特徴(Adaptive Local Binary Pattern)といった3種類のテクスチャ特徴量を画像からそれぞれ算出する(ステップS2)。各特徴量の次元数は、濃度共起行列に関する特徴が9、Gabor-Wavelet変換に関する特徴が56、Adaptive Local Binary Patternが22である。指標としての特徴量は、87次元となる。
【0026】
ところで、ゴム材料1の配合物の配合量に関する情報が利用できる場合は、画像の特徴を示す指標と、配合量の情報とを共に用いることでゴム材料1の物性推定の精度がより向上する。本実施形態では、ゴム材料1に含まれている天然ゴム、カーボン、シリカ等のM種類の材料の配合量を並べたベクトルを、配合物の配合量に関する配合指標として算出(取得)する(ステップS3)。配合指標は、M次元のベクトルとなる。
【0027】
ここで、テクスチャ特徴量及び配合指標に対して特徴選択を施して、物性の推定に有効な特徴量を選択する。より具体的には、訓練データ及びそれに対応する真の物性値を入力として、特徴選択アルゴリズムを適用して特徴選択を行う。採用する特徴選択アルゴリズムは特に限定されないが、例えばRReliefFアルゴリズムを使用することができる。特徴選択を行うことで、各指標に含まれる複数の特徴量から、よりゴム材料1の物性に寄与度の高い特徴量の組合せを選択することができる。また、演算量を減らすことができる。
【0028】
ステップS4では、ステップS2で算出された画像の特徴を示す指標と、ステップS3で取得された配合指標に対して、上述の特徴選択によって選択された特徴量を並べた特徴ベクトルxを取得する。
【0029】
続いて、ステップS4で算出した特徴ベクトルxを説明変量、物性値を目的変量として回帰によるモデルを構築する。ここで、従来は特徴ベクトルxと物性値との関係を線形であると仮定して回帰モデルを構築していた。しかしながら、一般的に特徴ベクトルxと物性値との線形関係が認められる事例は限られており、線形回帰モデルでは物性の推定精度に限界があった。これに対し、非線形回帰によって物性の推定を行うと、よりゴム材料1の実態を反映したモデルを構築できると考えられる。しかし、非線形回帰モデルは線形回帰モデルに比べて一般にモデル構造が複雑であり、パラメータの決定の自由度が制限され、演算負荷が大きい。また、回帰モデルの学習に使用できるデータの数に限界がある場合もある。これらのことにより、適切な非線形回帰モデルを構築するのは容易ではなかった。
【0030】
上述の問題を解決するために、本実施形態では、物性を推定するために構築する推定器としてSVR(Support Vector Regression)を採用する。具体的には、訓練データを用いて構築した式(1)のモデルの通りに、テストデータの物性の推定結果yを算出する(ステップS5)。
【数1】
ただし、βは重みベクトルを表し、Φ(・)は特徴ベクトルを高次元なユークリッド空間へ射影する関数を表す。さらに、bはバイアスを表す。SVRでは、重みベクトルβを以下の制約付き最適化問題を解くことで求める。
【0031】
【数2】
s.t.
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0032】
なお、式(1)で表されるモデルは、撮影条件ごとに構築されることが好ましい。本実施形態では、表1の条件1~8に対応する訓練データを用いて、それぞれのモデルを構築するためのパラメータを算出する。これらのモデルを用いて、対応する撮像条件のテストサンプルについてそれぞれ物性を推定する。すなわち、同一のゴム材料1について複数の推定結果が取得される。以下の処理では、複数の推定結果から精度の高い最終的な推定結果を得るため、推定結果の信頼性を評価し、信頼性の高い推定結果のみを選択して統合する。
【0033】
本実施形態では、推定結果の信頼性の評価手法として非線形回帰モデルの予測区間幅による評価を行う。テストサンプルについて推定された物性が、式(1)の回帰モデルに対する予測区間幅cに収まると仮定すれば、予測区間幅cがより小さい回帰モデルの方が、テストサンプルについての物性推定精度がより高いと考えられる(
図5参照)。また、本発明者らの実験でもこのことが裏付けられている(実施例参照)。ただし、
図5に表される回帰曲線及び予測区間幅は、式に基づいて正確に表されたものではない。
【0034】
このことにより、続くステップS6ではテストサンプルの物性値の推定結果の予測区間幅を算出する。予測区間幅の算出は、以下の手順に従って行う。まず、i番目の訓練サンプルの特徴ベクトル及び推定値をそれぞれz
i及びy(ハット)
iとするとき、式(3)のようにi番目の訓練サンプルに対する予測誤差E
iを算出する。
【数7】
【0035】
続いて、式(3)により得られた訓練サンプルに対する予測誤差Eiに対してクラスタリングを行う。本実施形態では、クラスタリング手法としてfuzzy c-meansアルゴリズムを用いる。なお、fuzzy c-meansアルゴリズムとは、J.C.Bezdek, R.Ehrlich, and W.Full, "FCM: The Fuzzy C-Means clustering algorithm"に記載のアルゴリズムである。ただし、クラスタリングの手法はこれに限定されない。
【0036】
さらに、
図6に示す経験分布関数を構築し、これに基づいて予測区間の下限値及び上限値を算出する。具体的には、i番目の訓練サンプルにおけるk(=1,2,…,K;Kはクラスタ数)番目のクラスタに対する帰属確率μ
ik及び訓練サンプルの予測誤差E
iを予測誤差E
iの昇順にソートした結果をそれぞれμ(チルダ)
ik(j=1,2,…,N)及びE(チルダ)
jとするとき、以下の式(4)及び(5)に基づいて、k番目のクラスタにおける信頼率100×(1-α)%の予測区間の下限値PIC
k
L及び上限値PIC
k
Uをそれぞれ算出する。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0037】
さらに、i番目の訓練サンプルの予測結果y
iに対する予測区間の下限値PI
i
L及び上限値PI
i
Uを以下の式(8)及び(9)に基づいて算出する。
【数13】
【数14】
【0038】
上述のように算出された訓練サンプルの予測区間の下限値及び上限値を用いて、特徴ベクトルxを用いてテストサンプルに対する予測区間の下限値及び上限値をそれぞれ推定するため、式(1)で表されるSVRによる回帰モデルを構築する。
【0039】
以上により算出されたテストサンプルに対する予測区間の上限値及び下限値に基づいて、以下の式(10)に基づいてテストサンプルの予測区間幅cを算出する。
【数15】
【数16】
【0040】
以上の処理により算出した推定結果の予測区間幅cが小さい順に信頼性が高い結果として選択する。選択する推定結果の数は、例えば対象となるゴム材料1の種類等、実施の形態に応じて適宜設定することができる。
【0041】
次に、選択された推定結果の統合を以下の手順に従って行う。推定結果の統合には適宜公知の手法を用いることができる。本実施形態では、以下に説明するようにDempster-Shaferの理論(DS理論)を用いる。
【0042】
まず、訓練サンプルの真の物性値に対してクラスタリングを施し、T個のクラスに分割する。本実施形態では、H.S. Park and C.H. Jun, "A simple and fast algorithm for k-medoids clustering"に記載されたk-medoidアルゴリズムによるクラスタリングを施す。ここで、クラスk(=1,2,…,T)に属する訓練サンプルの物性値の最大値及び最小値をそれぞれLk及びUKとするとき、クラスkに属する訓練サンプルの物性値の範囲を[Lk-c1×Rk,Uk+c1×Rk]と定義する。ただし、Rk=Uk-Lk,c1∈[0,1]である。続いて、各クラスに対する確率密度関数を求める。
【0043】
具体的には、まずクラスkにおける物性値の範囲をS個の区間に分割する。上記で分割したクラスkの範囲内の各区間における確率密度p
ks(s=1,2,…,S)を一列に並べたベクトル
【数17】
を、式(11)の制約付き最適化問題を解くことで算出する。
【数18】
s.t.
【数19】
【数20】
【数21】
ただし、N
kはクラスkに属する訓練サンプル数、x
klはクラスkに属するl(=1,2,…,N
k)番目の訓練サンプルの真の物性値である。また、
【数22】
上述のように推定した確率密度p
kを用いて、Gaussian Process回帰により補完を行い、クラスkに対する確率密度関数を算出する。
【0044】
このように算出した各クラスの確率密度関数を用いて、統合する推定結果ごとに基本確率割当関数(BPA)を構築する。具体的には、まずj(=1,2,…,E;Eは統合する推定結果数)番目の推定結果に対して上記の確率密度関数を用いて取得した、クラスkの確率密度をw
jkとするとき、これらを降順にソートする。このとき得られたソート結果をw(ハット)
j1,w(ハット)
j2,…,w(ハット)
jT,及びこれらの確率密度に対応するクラスをC
j1,C
j2,…,C
jTとする。本実施形態では、条件
【数23】
を満たす場合、以下の式(12)の通りにj番目の推定結果のBPA関数
【数24】
を構築する。
【数25】
【数26】
【数27】
ここで、式(12)で定義されるBPA関数は、
【数28】
とするとき、以下の式(13)で表される条件を満たしている必要がある。
【数29】
【0045】
本実施形態では、式(12)のように構築したBPA関数に対して、式(13)の条件 を満たすように正規化を施す。以上の手法により統合する推定結果ごとにBPA関数m j(・)を構築する。
【0046】
続いて、DS理論に基づいてBPA関数m
j(・)を結合する。DS理論では、T個のクラスタを表すθ
t(t∈{1,2,…,T})で構成されている識別空間Θ={θ
1,θ
2,…,θ
T}を考える。このとき、識別空間Θのべき集合P(Θ)は、2
T個の要素を含む集合であり、以下のように定義される。
【数30】
【0047】
ここで、選択されたs(∈{1,2,…,S};Sは統合対象の推定結果数)番目の推 定結果のBPA関数をm
s(D)(D∈P(Θ))とするとき、DS理論では、Dempst erの結合規則により、式(15)に基づいて複数のBPA関数を結合し、m(Y)を得 ることが可能である。
【数31】
(15)
ただし、Z
Sはs番目の情報源におけるべき集合P(Θ)の部分集合を表し、「丸囲みの+」はBPA関数の結合演算子を表す。
【0048】
さらに、本実施形態では、最終推定結果を選択された推定結果の加重平均を算出することで求める。具体的には、式(15)で結合されたBPA関数m(・)を用いて、式(16)で算出されるpignistic確率Pr
pig(θ
t)(t∈{1,2,…,T})を重みとして利用することで最終的な予測結果を算出する。
【数32】
ただし、|D|は集合Dの要素数を表す。本実施形態では、予測区間幅に基づき選択された推定結果の中で、Pr
pig(・)が最も高いクラスタに属する結果の平均値を算出することで、最終的な推定結果を算出する(ステップS7)。
【0049】
<3.物性推定システム>
以下では、一実施形態に係るゴム材料1の物性推定システム100について説明する。
図7は、一実施形態に係るゴム材料1の物性推定システム100の構成を示すブロック図である。ゴム材料1の物性を推定するための物性推定システム100は、例えば汎用的なコンピュータ110に所定のプログラム20をインストールすることにより構成される。プログラム20は、物性推定システム100に上述の処理S1~S7を実行させるプログラムであり、例えば、LANやインターネット等の通信ネットワーク8を介して別の装置から、又はCD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体10から取得される。
【0050】
図7に示すように、コンピュータ110は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成されており、各種情報をユーザーに対し表示する。また、入力部12は、マウスやキーボード、タッチパネル、操作ボタン等で構成されており、コンピュータ110に対するユーザーからの操作を受け付ける。
【0051】
記憶部13は、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置から構成されており、プログラム20が格納されている。制御部14は、プロセッサ(CPU)、ROMおよびRAM等から構成される。制御部14は、記憶部13内のプログラム20を読み出して実行することにより、画像取得部14A、指標算出部14B、物性推定部14C及び学習部14Dとして動作する。各部14A~14Dの動作の詳細は、後述する。通信部15は、コンピュータ110を通信ネットワーク8や顕微鏡等の外部機器に接続する通信インターフェースとして機能する。
【0052】
記憶部13には、訓練データが保存されている。訓練データは、データの収集状況に応じて、適宜更新されてもよい。学習部14Dは、訓練データから式(1)で表されるモデルを構築するためのパラメータや、確率密度関数を推定するためのパラメータを算出する。算出されたパラメータは、対応する撮像条件と関連付けられて記憶部13に保存される。パラメータの算出及び保存は、訓練データの更新時等、適宜行われてよい。また、学習部14Dは、特定の物性の推定に有効なテクスチャ特徴量を選択するための特徴選択を行い、物性と選択された特徴量とを関連付け、記憶部13に保存する。
【0053】
画像取得部14Aは、ステップS1の処理を行う。具体的には、通信部15等を介して顕微鏡からゴム材料1を撮影した画像を取得し、撮像条件と関連付けて記憶部13に格納する。
【0054】
本実施形態に係る指標算出部14Bは、記憶部13から画像を読み出し、濃度共起行列に関する特徴、Gabor-Wavelet変換に関する特徴、及び周辺画素の輝度値の大小関係を表現可能な特徴を指標として算出する。つまり、指標算出部14Bは、ステップS2の処理を行う。
【0055】
また、本実施形態に係る指標算出部14Bは、入力部12等を介してゴム材料1の材料の配合に関する情報の入力を受け付ける。入力された情報は、所定の形式で記憶部13又はRAMに記憶され、指標算出部14Bによって配合指標として取得される。つまり、指標算出部14Bは、ステップS3の処理を行う。
【0056】
物性推定部14Cは、特徴ベクトルを算出する。また、記憶部13から学習部14Dによって算出されたパラメータを適宜読み出して、特徴ベクトルからゴム材料1の物性値を推定する。つまり、物性推定部14Cは、上述のステップS4~S7の処理を行う。最終的な推定結果は、表示部11等を介して出力される。
【0057】
<4.特徴>
本発明の一実施形態に係る方法では、ゴム材料そのものに現れる特徴(構造)を画像で 捉え、画像の特徴を指標化して物性を推定する。このため、各種の計測を行う負担が削 減され、ゴム材料の物性推定が効率化される。また、混練方法や配合物の情報が不明な ゴム材料や、これまでにない新しい種類のゴム材料に対しても、その物性を推定するこ とができる。また、これまで明確でなかったゴム材料の配合物、構造、及び物性との相 関が定量的に評価され得る。これにより、目標とする物性を有するゴム材料の配合物、 配合量、混練条件等の情報を効率的に取得し得る。すなわち、ゴム材料の開発において 、人の経験や勘に頼って行われることが多かった作業を定量化することができ、開発の 効率化が期待される。
【0058】
本発明の一実施形態に係る方法では、非線形回帰を用いて物性の推定を行う。これによ り、説明変量(画像の特徴量及び配合指標)と目的変量(物性値)との非線形構造を考 慮して物性を推定することが可能となる。また、非線形回帰の手法としてのSVRは、 訓練サンプル数が少ない場合においても高精度な非線形回帰を実現でき、物性の推定に 有効である。
【0059】
本発明の一実施形態に係る方法によれば、同じゴム材料を異なる条件で撮像した画像を 共に物性推定に利用することができる。また、データ形式が異なる複数の画像であって も、共に物性推定に利用することができる。つまり、収集したデータを無駄なく物性推 定に活用することができる。
【0060】
本発明の一実施形態に係る方法では、画像の特徴を示す指標として濃度共起行列に関す る特徴、Gabor-Wavelet変換に関する特徴、及び周辺画素の輝度値の大小関係を表現可 能な特徴といった、テクスチャ特徴を算出する。このため、ゴム材料の配合量の情報が 判明している場合、これらの画像特徴量に相関の強い配合量の情報が特定でき、より多 くの観点からゴム材料の物性を推定できる可能性がある。
【0061】
本発明の一実施形態に係る方法では、ゴム材料の物性推定結果の統合を行う前に、信頼 性の高い推定結果を選別し、統合の対象となる結果を限定している。このため、精度が 低い推定結果によって物性推定の精度が低下することが抑制される。さらに、推定結果 の統合にはDS理論に基づく方法を適用することで、統合対象となる推定結果の信頼性 を考慮しながら統合することが可能であるため、物性推定の精度が向上する。
【0062】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。そして、以下に示す変形例は、適宜組合せが可能である。
【0063】
<5-1>
上記実施形態では、画像の特徴を示す指標として、濃度共起行列に関する特徴、Gabor-Wavelet変換に関する特徴、及び周辺画素の輝度値の大小関係を表現可能な特徴を算出した。しかしながら、画像の特徴を示す指標はこのような指標に限定されず、例えば機械学習を利用して算出された指標が用いられてもよい。例えば、画像の特徴を示す指標として、画像を入力、特徴量を出力とするニューラルネットワーク等を利用し、いずれかの層で出力される値を指標として選択してもよい。
【0064】
<5-2>
上記実施形態では、特徴ベクトルxのSVRを行うことによりゴム材料1の物性を推定した。しかしながら、ゴム材料1の物性を推定する方法はこれに限られず、非線形回帰モデルによる限り、実施の形態に応じて適宜変更することができる。例えば、カーネル部分最小二乗回帰(KPLS回帰)、カーネル主成分回帰(KPCR)、及び畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等による非線形回帰によってもゴム材料1の物性を推定することができる。
【0065】
<5-3>
上記実施形態の物性推定システム100は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータ110であったが、物性推定システム100を構成するハードウェアはこれに限定されない。例えば、指標算出部14B、物性推定部14C及び学習部14Dのうち少なくとも1つの機能は、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(field-programmable gate array)、及びASIC(application specific integrated circuit)等を適宜用いて実現してもよい。また、プログラム20は、ステップS1~S7全てをコンピュータ110に実行させるが、少なくとも一部のステップを別のコンピュータやデバイス、インターネットを介して提供されるサービス等に分散して実行させてもよい。同様に、訓練データを用いた各パラメータの算出も、別のコンピュータやデバイス、インターネットを介して提供されるサービス等に分散して実行させてもよい。
【0066】
<5-4>
ステップS3を行う順序は、上記実施形態の順序に限定されない。例えばステップS1,S2のいずれかの前に行われてもよい。また、ステップS1,S2のいずれかと並行して行われてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、以下の実施例は、あくまでも本発明の例示に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0068】
以下の実施例1~9に係る方法を用いて、ゴム材料の複数のサンプルについて物性の推定を行い、推定精度について評価した。推定する対象の物性は、Zaとした。ゴム材料の画像は、表1に示す条件ごとに撮像した。なお、本実験で用いた画像には、撮像条件が異なる顕微鏡画像が含まれており、同一のサンプルにおいて同じ撮像条件で撮像された画像が複数存在したり、他のサンプルには存在する撮像条件で撮像された画像が存在しないサンプルが存在する。
【0069】
実施例1~9に係る方法は、以下で説明するように、撮像条件の考慮の有無、特徴量として算出するパラメータ、推定器の構築手法、予測区間幅による選択の有無、及び推定結果の統合方法がそれぞれ異なる。例えば、実施例2に係る方法以外では同一のサンプルについて異なる撮像条件ごとに推定器を構築した。一方、実施例2に係る方法では、同一のサンプルについて異なる撮像条件で撮像した画像を全て使用した推定器を構築した。また、推定器の構築手法としては、実施例1~8に係る方法ではSVRを用いたのに対し、実施例9に係る方法ではCNNを用いた。
実施例1:画像の撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、予測区間幅が小さい結果を選択し、DS理論による統合を行った。つまり、上記実施形態に係る方法によりゴム材料の物性を推定した。
実施例2:画像の撮像条件を考慮せずにSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、予測区間幅が小さい結果を選択し、DS理論による統合を行った。
実施例3:撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標のみに基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、予測区間幅が小さい結果を選択し、DS理論による統合を行った。
実施例4:撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、その平均値を算出して結果を統合した。
実施例5:撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、その予測区間幅を重みとする加重平均を算出することで推定結果を統合した。
実施例6:撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果から、予測区間幅が最も小さい結果を信頼性の高い結果として選択し、統合は行わなかった。
実施例7:撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、予測区間幅が小さい結果を選択し、これらの平均値を算出することで推定結果の統合を行った。
実施例8:撮像条件を考慮してSVRによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、選択は行わず、DS理論による統合を行った。
実施例9:撮像条件を考慮してCNNによる推定器を構築した。画像の特徴を示す指標及び配合指標に基づく特徴ベクトルを算出した。算出された推定結果に対し、予測区間幅が小さい結果を選択し、DS理論による統合を行った。なお、CNNはXceptionによるモデルを利用した。
【0070】
推定精度は、ゴム材料のサンプルごとの公差検定を行うことで評価した。評価指標としては、以下の式(17)に示す平均絶対誤差(MAE)、及び式(18)に示す平均絶対誤差率(MAPE)を用いた。
【数33】
【数34】
ただし、Mはテスト画像の総数、P(ハット)
m(m=1,2,…,M)はm番目のテスト画像に対して推定された物性値、P
mはm番目のテスト画像に対する実際の物性値を表す。
【0071】
また、SVRによる推定器のパラメータは、H. Kaneko and K. Funatsu, "Fast optimization of hyperparameters for support vector regression models with highly predictive ability"に記載の、SVRのパラメータ探索を高速化した手法により決定した。また、予測区間を算出する際の信頼率は50%(α=1/2)とした。さらに、予測区間幅により選択する推定結果数、及びDS理論による統合を行う際に決定する必要があるパラメータは、推定結果が最も高精度となる値に設定した。
【0072】
<実験結果>
実施例1~9に係る方法それぞれについて、MAEを及びMAPEを算出すると、結果は以下の表2に示すようになった。
【表2】
【0073】
表2から分かるように、実施例1に係る推定方法ではMAPEが最小となった。このことから、撮像条件ごとに推定器を構築し、物性を推定する方が、より物性推定の精度が高まると言える。また、複数の推定結果に対し、予測区間幅による選択を行うと、より物性推定の精度が高まると言える。さらに、選択された推定結果をDS理論により統合すると、単に推定結果の平均を利用する方法よりも物性推定の精度が高まると言える。
【0074】
また、実施例1及び実施例9に係る結果を比較すると、非線形回帰の手法としてCNNを用いるよりもSVRを用いる方が推定精度が高いと言える。この理由としては、上述の実験で利用した学習のためのサンプル数が、CNNによる学習に充分ではなかったことが考えられる。従って、学習のために利用可能なサンプル数が限られている場合は、SVRによる推定手法の方が、CNNによる推定手法よりも推定精度が高いと言える。なお、CNNによる推定方法の推定精度は、学習に使用するサンプル数次第では、上述の実験結果よりもさらに向上する可能性がある。
【符号の説明】
【0075】
1 ゴム材料
100 物性推定システム
110 コンピュータ