(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】シイノトモシビタケ由来の発光関連遺伝子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20240507BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20240507BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240507BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20240507BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240507BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240507BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240507BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240507BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12N5/04
C12N5/10
C12N15/52 Z
C12N15/53
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N15/82 Z
(21)【出願番号】P 2023102058
(22)【出願日】2023-06-21
【審査請求日】2023-10-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構/NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 健治
(72)【発明者】
【氏名】長部 謙二
(72)【発明者】
【氏名】圓谷 徹之
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-043461(JP,A)
【文献】特開2011-188787(JP,A)
【文献】特表2014-500011(JP,A)
【文献】特表2020-505028(JP,A)
【文献】Database UniProtKB/TrEMBL [online], ID: A0A8H6WUE9_9AGAR, 22-FEB-2023 version 5 uploaded, [検索日 2023.11.28], Luciferase, Mycena venus,https://rest.uniprot.org/unisave/A0A8H6WUE9?format=txt&versions=5
【文献】Database UniProtKB/TrEMBL [online], ID: A0A8H6Y9W0_9AGAR, 22-FEB-2023 version 5 uploaded, [検索日 2023.11.28], Luciferase, Mycena sanguinolenta,https://rest.uniprot.org/unisave/A0A8H6Y9W0?format=txt&versions=5
【文献】MITIOUCHKINA et al.,Nature Biotechnology,2020年,Vol. 38, No. 8,p.944-946,DOI: 10.1038/s41587-020-0500-9
【文献】KE et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences,2020年,Vol. 117, No. 49,p.31267-31277,DOI: 10.1073/pnas.2010761117
【文献】TERANISHI et al,Mushroom Science and Biotechnology,2019年,Vol. 27, No. 2,p. 61-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7で表されるアミノ酸配列、若しくは、配列番号7で表されるアミノ酸配列の22番目及び241番目に相当するアミノ酸がそれぞれロイシン(L)、アスパラギン酸(D)であり、全体として配列番号7で表されるアミノ酸配列と91%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;配列番号8で表されるアミノ酸配列、若しくは、配列番号8で表されるアミノ酸配列の6番目及び82番目に相当するアミノ酸がそれぞれアラニン(A)、バリン(V)であり、全体として配列番号8で表されるアミノ酸配列と91%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;又は、配列番号9で表されるアミノ酸配列、若しくは、配列番号9で表されるアミノ酸配列の84番目及び206番目に相当するアミノ酸がそれぞれグルタミン(Q)、イソロイシン(I)であり、全体として配列番号9で表されるアミノ酸配列と91%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;を含む、ルシフェリンを酸化し発光させる機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含み、
前記タンパク質のルシフェリンを酸化し発光させる機能は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質よりも高い、
核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸を組み込んだ、発現用ベクター。
【請求項3】
植物発現用ベクターである、請求項2に記載の発現用ベクター。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸を含む、非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項5】
植物細胞である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項6】
カルスである、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項7】
植物体である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項8】
請求項3に記載の発現用ベクターを用いて、植物細胞、カルス又は植物体を形質転換することを含む、非ヒトトランスジェニック生物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の核酸を含む、発現カセット。
【請求項10】
請求項9に記載の発現カセットが、
配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、コーヒー酸とマロニルCoAからヒスピジンが生成される反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を含む、発現カセット;
配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ヒスピジンの3位の炭素にヒドロキシ基を付加する機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を含む、発現カセット;及び
配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、カフェオイルピルビン酸からコーヒー酸を生成する機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を含む、発現カセット;
から選択される少なくとも1つと、プラスミド内でタンデムに配置される発現カセット。
【請求項11】
請求項9に記載の発現カセットと、
配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、コーヒー酸とマロニルCoAからヒスピジンが生成される反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を含む、発現カセット;
配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ヒスピジンの3位の炭素にヒドロキシ基を付加する機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を含む、発現カセット;及び
配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、カフェオイルピルビン酸からコーヒー酸を生成する機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を含む、発現カセット;
から選択される少なくとも1つの発現カセットとの組み合わせ
物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シイノトモシビタケ由来の発光関連遺伝子をコードする核酸、該核酸を含むベクター、該核酸を含むトランスジェニック生物、及びトランスジェニック生物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の一部には、発光バクテリア、ホタル等の、自ら光を生成し放射する能力を有するもの、すなわち生物発光を行うものが存在する。生物発光は、ルシフェラーゼ又は発光タンパク質の働きによって生じることが分かっている。ルシフェラーゼとは、発光物質を酸化して発光させる酵素の総称であり、ルシフェラーゼにより酸化される発光物質を総称してルシフェリンという。しかし生物によりルシフェラーゼやルシフェリンは全く違ったものであり、発光反応機構も異なる。発光タンパク質としては、オワンクラゲ由来のイクオリンが知られる。イクオリンは、緑色蛍光タンパク質と複合体を形成し、周囲のカルシウム濃度に応じて発光することが知られる。
【0003】
生物発光を行う生物のうち、発光キノコについて、その発光メカニズムは、長い間解明されていなかったが、2015年に発光キノコの1種であるシロヒカリタケのルシフェリンの構造が明らかとなり(非特許文献1)、次いで、ルシフェラーゼの構造及び発光メカニズムが明らかとなった(非特許文献2及び特許文献1)。さらに、シロヒカリタケの発光関連遺伝子を植物に導入することで、植物の生存に大きな影響を与えることなく、植物自体が保有するコーヒー酸を発光物質前駆体として該植物を発光させることができることが明らかとなり、これにより、自家発光植物が構築された(非特許文献3)。植物への発光関連遺伝子の導入は、発光バクテリア等の遺伝子について行われてきたが、シロヒカリタケの遺伝子を用いることで、発光バクテリアの遺伝子と比較して、より強い発光が見られることが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】K. V. Purtov, et al., Angew. Chem. Int. Ed., Vol. 54, pp.8124-8128 (2015)
【文献】A. A. Kotlobay, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 115, pp. 12728-12732 (2018)
【文献】T. Mitiouchkina, et al., Nature Biotechnology, Vol. 38, pp. 944-946 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光植物は、その外観からインテリアとしての有用性がある。また、自家発光する発光植物は、電力等を必要としないことから、環境にやさしい照明としての用途も期待できる。しかしながら、現在のところ、発光植物の発光強度は、照明器具の代替として使用可能なレベルとはいい難く、より強く発光する発光植物が望まれる。
【0007】
本発明は、既知の発光関連遺伝子よりも強い発光を生物(特に植物)に付与することが可能な、新規の発光関連遺伝子(核酸、発現用ベクター)を提供することを目的とする。また、本発明は、該発光関連遺伝子を導入したトランスジェニック生物、及び該トランスジェニック生物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1]配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;
配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;
配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;及び
配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;
から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む、核酸。
[2]配列番号1で表されるアミノ酸配列においてp.T6A、p.P22L、p.E82V、p.P84Q、p.V206I及びp.N241Dから選択される少なくとも1つの変異を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含む、[1]に記載の核酸。
[3]配列番号7~9のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含む、[2]に記載の核酸。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の核酸を組み込んだ、発現用ベクター。
[5]植物発現用ベクターである、[4]に記載の発現用ベクター。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の核酸を含む、トランスジェニック生物。
[7]植物細胞である、[6]に記載のトランスジェニック生物。
[8]カルスである、[6]に記載のトランスジェニック生物。
[9]植物体である、[6]に記載のトランスジェニック生物。
[10][5]に記載の発現用ベクターを用いて、植物細胞、カルス又は植物体を形質転換することを含む、トランスジェニック生物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核酸、これを組み込んだ発現用ベクター及び、これを用いたトランスジェニック生物の製造方法により、既知の発光関連遺伝子よりも強い発光を生物(特に植物)に付与することが可能である。また、本発明のトランスジェニック生物は、既知の発光関連遺伝子を含む植物より、強い発光を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】発光キノコのコーヒー酸を介した発光メカニズムを示す概略図である。
【
図2】実施例2において、cDNAをルシフェラーゼ遺伝子増幅用プライマーを用いて増幅した増幅産物の電気泳動写真である。
【
図3】実施例2において、3’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。
【
図4】実施例2において、5’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。
【
図5】実施例3において、cDNAをヒスピジンシンターゼ遺伝子増幅用プライマーを用いて増幅した増幅産物の電気泳動写真である。
【
図6】実施例3において、3’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。矢印で示すバンドが目的の増幅産物である。
【
図7】実施例3において、ネステッドPCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。矢印で示すバンドが目的の増幅産物である。
【
図8】実施例3において、5’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。矢印で示すバンドが目的の増幅産物である。
【
図9】実施例3で得られたヒスピジンシンターゼ遺伝子の全長コーディング領域の電気泳動写真である。矢印で示すバンドが全長コーディング領域である。
【
図10】実施例4において、ヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子増幅用プライマーを用いた3’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。矢印で示すバンドが目的の増幅産物である。
【
図11】実施例4において、5’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。
【
図12】実施例4において、ヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子の全長コーディング領域の電気泳動写真である。
【
図13】実施例5において、カフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ遺伝子増幅用プライマーを用いた3’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。矢印で示すバンドが目的の増幅産物である。
【
図14】実施例5において、カフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ遺伝子の5’RACE PCRで得られた増幅産物の電気泳動写真である。矢印で示すバンドがカフェオイルピルピン酸ヒドロラーゼ遺伝子由来の増幅産物である。
【
図15】実施例7において、シイノトモシビタケ由来の発光関連遺伝子又はヤコウタケ等由来の発光関連遺伝子を含む発現プラスミドを含むアグロバクテリウムを感染させた、ベンサミアナタバコ葉上の部位の発光強度を示す写真である。Aが明視野で撮像した写真、Bが暗視野で撮像した写真である。
【
図16】実施例8において、シイノトモシビタケルシフェラーゼ、ヤコウタケルシフェラーゼ、シロヒカリタケルシフェラーゼの遺伝子を含む発現プラスミドをそれぞれ含むアグロバクテリウムを感染させた、ベンサミアナタバコ葉上の部位の発光強度を示す写真である。Aが明視野で撮像した写真、Bが暗視野で撮像した写真である。
【
図17】実施例8において、シイノトモシビタケルシフェラーゼ、ヤコウタケルシフェラーゼ、シロヒカリタケルシフェラーゼの遺伝子を含む発現プラスミドをそれぞれ含むアグロバクテリウムを感染させた、ベンサミアナタバコ葉上の各部位の発光強度を示すグラフである。
【
図18】実施例9において、野生型ルシフェラーゼ、変異体1~3をそれぞれ導入した大腸菌の培養液10μL当たりのルシフェラーゼタンパク質を検出した、イムノブロットメンブレンの写真である。
【
図19】実施例9における、野生型ルシフェラーゼ、変異体1~3をそれぞれ導入した大腸菌の、3-ヒドロキシヒスピジン存在下での、ルシフェラーゼタンパク質量あたりの発光活性を示すグラフである。
【
図20】シイノトモシビタケルシフェラーゼの野生型と変異体1~3のアミノ酸配列の配列アラインメントである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び図面に記載される化学式は、特に記載がない限り、あらゆる幾何学異性体及び光学的異性体を含むものとする。本明細書において「シイノトモシビタケ(由来)の」とは、シイノトモシビタケから直接単離されたタンパク質、核酸等のみを指すものでなく、これらを解析して人工的に合成されたタンパク質、核酸等も包含するものとする。
【0012】
1.発光関連遺伝子(核酸)
1-1 概要
本発明の第1の実施形態は、配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;及び配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む、核酸である。より具体的には、本実施形態は、シイノトモシビタケのルシフェラーゼ(Luz)(配列番号1)又はその変異体、ヒスピジンシンターゼ(HispS)(配列番号2若しくは3)又はその変異体、ヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ(H3H)(配列番号4若しくは5)又はその変異体、及びカフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ(CPH)(配列番号6)又はその変異体から選択されるタンパク質に関する発光関連遺伝子に関する。
【0013】
非特許文献1において明らかにされた通り、発光キノコ(非特許文献1ではシロヒカリタケ(Neonothopanus nambi))の発光は、
図1に概説される機序によって生じる。発光キノコの発光物質ルシフェリンは、3-ヒドロキシヒスピジンである。3-ヒドロキシヒスピジンは、コーヒー酸がHispSの存在下でマロニルCoAと反応することで生成したヒスピジンが、さらに、H3Hの働きでヒドロキシル化することで生成する。この3-ヒドロキシヒスピジンが、Luzの働きで酸化されることで、緑色光を発する。この際に生じるオキシルシフェリンから、CPHの働きにより、再度コーヒー酸が生成される。このように、発光キノコでは、発光関連物質が循環的に使用されることから、生体内に蓄積する量が微小であり、これが、発光関連物質と発光機序の解明を困難にしてきた要因であった。
【0014】
本発明者らは、シイノトモシビタケの発光関連酵素、Luz、HispS、H3H、CPH及びこれらの遺伝子を同定した。本発明者らは、鋭意検討の結果、これらの発光関連酵素をコードする発光関連遺伝子について、植物に導入することで、既知の発光キノコの発光関連遺伝子を導入するよりも、植物に強い発光を生じさせることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
1-2 定義
「核酸」とは、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)を指すが、本明細書においては、特に記載のない限り、DNAを指すものとする。
【0016】
本明細書において、「シイノトモシビタケ(Mycena lux-coeli)」とは、ハラタケ目クヌギタケ科クヌギタケ属に属するキノコの一種である。本明細書において「発光キノコ」とは、担子菌門に属し、かつ自発発光する生物全般を指す。発光キノコとしては、例えば、シイノトモシビタケ、シロヒカリタケ(Neonothopanus nambi)、ナラタケ(Armillaria mellea)、Mycena citricolor、オニナラタケ(Armillaria ostoyae)、ヤコウタケ(Mycena chlorophos)、ワダゲナラタケ(Armillaria gallica)、ワサビタケ(Panellus stipticus)、Omphakotus olearius等が知られる。
【0017】
本明細書において、「発光関連遺伝子」とは、コーヒー酸からのルシフェリンの生合成経路に関与する酵素、ルシフェリンを酸化して発光させる酵素、及び酸化後のルシフェリンからのコーヒー酸の生成に関与する酵素の遺伝子を指す。より具体的には、ルシフェラーゼ(Luz)、ヒスピジンシンターゼ(HispS)、ヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ(H3H)及びカフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ(CPH)の遺伝子を指す。本明細書において、「ルシフェリン」とは、ルシフェラーゼの働きにより酸化され、発光する物質を指し、より具体的には3-ヒドロキシヒスピジンを指す。「ルシフェラーゼ(Luz)」とは、発光物質を発光させる働きを有する酵素の総称であるが、本明細書においては、3-ヒドロキシヒスピジンを酸化し発光させる酵素を指す。「ヒスピジンシンターゼ(HispS)」とは、コーヒー酸とマロニルCoAからのヒスピジンの生合成を触媒する酵素を指す。「コーヒー酸」は、リグニン生合成の中間体であり、リグニンを含む植物のほとんどに存在する物質として知られる。「ヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ(H3H)」は、ヒスピジンの3位の炭素へのヒドロキシ基の付加を触媒する酵素である。ここで生成される3-ヒドロキシヒスピジンが、ルシフェリンとして機能する、すなわち、Luzにより酸化されて発光する。「カフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ(CPH)」は、3-ヒドロキシヒスピジンが酸化したオキシルシフェリンからのコーヒー酸の生成を触媒する酵素である。ここで生成されたコーヒー酸は、再びルシフェリンの生合成に使用される。
【0018】
本明細書において、「配列同一性」とは、2つのアミノ酸配列または塩基配列にギャップを導入して、またはギャップを導入しないで整列させた場合の、最適なアラインメントにおいて、オーバーラップする全アミノ酸配列(翻訳開始点となるアミノ酸を含む)または塩基配列(開始コドンを含む)に対する同一アミノ酸または塩基の割合(パーセンテージ)を意味し、式(1)によって算出する。配列同一性は、この分野で汎用されているアルゴリズムであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いて容易に調べることができる。例えばBLASTは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)やKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)などのウェブサイトから誰でも利用可能であり、デフォルトのパラメーターを用いて容易に配列同一性を調べることができる。
配列同一性(%)=一致数(ギャップ同士は無視する)/短いほうの配列長(ギャップを含まない長さ)×100・・・式(1)
【0019】
本明細書において、遺伝子変異は以下のように表記する。遺伝子変異を核酸レベルで表記する場合、塩基置換は「c.65C>T」のように記載する。「c.」は、codingDNAの略である。「c.65C>T」は、65番目のシトシンがチミンに置換される変異を示す。一方、遺伝子変異をタンパク質レベルで表記する場合、ミスセンス変異は、「p.P22L」のように記載する。「p.」は、proteinの略である。「p.P22L」は、22番目のプロリンがロイシンに置換される変異を示す。
【0020】
1-3 シイノトモシビタケの発光関連遺伝子又はその変異体
本実施形態の核酸は、シイノトモシビタケの発光関連遺伝子又はその変異体を含む核酸である。
【0021】
1-3-1 ルシフェラーゼ(Luz)
本実施形態の核酸は、シイノトモシビタケ由来のLuz(以下、本項において、単に「Luz」とも称する)をコードする核酸を選択的に含む。本実施形態において、Luzとは、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ルシフェリンを酸化する機能を有するタンパク質を指す。
【0022】
本発明者らは、後述の実施例2に示す通り、シイノトモシビタケのルシフェラーゼ遺伝子(以下、「luz」とも称する)を同定した(配列番号10)。luzの塩基配列(配列番号10)は、Luzのアミノ酸配列(配列番号1)をコードする。
【0023】
本発明者らは、野生型luz(配列番号10)にランダム変異を加えて、それぞれ植物に導入し、野生型luzよりも強い発光が見られる変異体を選別した。その結果、配列番号1のアミノ酸配列において、p.P22L及びp.N241Dの変異を有するアミノ酸配列(配列番号7)、p.T6A及びp.E82Vの変異を有するアミノ酸配列(配列番号8)、p.P84Q及びp.V206Iの変異を有するアミノ酸配列(配列番号9)を有する変異体Luzが、野生型Luzよりも植物に強い発光能を付与することが示された(
図19、20)。したがって、本実施形態において、Luzは、野生型であっても変異体であってもよいが、より強い発光能を植物に付与する変異体とすることが好ましい。
【0024】
本実施形態において、Luzは、p.T6A、p.P22L、p.E82V、p.P84Q、p.V206I及びp.N241Dから選択される少なくとも1つの変異を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。これらの変異は、Luz遺伝子(luz、配列番号10)の塩基配列においては、それぞれ、c.16A>G、c.65C>T、c.245A>U、c.251C>A、c.616G>A及びc.721A>Gの変異に相当する。さらに、Luzは、配列番号7(配列番号1にp.P22L及びp.241Dの変異を有する)、配列番号8(配列番号1にp.T6A及びp.E82Vの変異を有する)及び配列番号9(配列番号1にp.P84Q及びp.V206Iの変異を有する)のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むことがより好ましい。上記の変異を有するLuzは、野生型と比較して、植物に導入することで、該植物により強い発光能を付与することが可能である。
【0025】
1-3-2 ヒスピジンシンターゼ(HispS)
本実施形態の核酸は、シイノトモシビタケ由来のHispS(以下、本項において、単に「HispS」とも称する)をコードする核酸を選択的に含む。本実施形態において、HispSは、配列番号2若しくは3に示すアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、コーヒー酸とマロニルCoAからヒスピジンが生成される反応を触媒する機能を有するタンパク質を指す。
【0026】
本発明者らは、後述の実施例3に示す通り、シイノトモシビタケのヒスピジンシンターゼ遺伝子(以下、「hisps」とも称する)の2つの配列を同定した(配列番号11及び12)。シイノトモシビタケのhispsの2つの塩基配列(hisps1(配列番号11)及びhisps2(配列番号12))は、それぞれHispSの2つのアミノ酸配列(HispS1(配列番号2)及びHispS2(配列番号3))をコードする。
【0027】
本実施形態において、HispSは、配列番号2若しくは3のアミノ酸配列を有するタンパク質に限らず、変異を有していてもよい。特に、野生型と比較して、植物に導入した際に、該植物に強い発光能を付与することができる変異を有することが好ましい。
【0028】
1-3-3 ヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ(H3H)
本実施形態の核酸は、シイノトモシビタケ由来のH3H(以下、本項において、単に「H3H」とも称する)をコードする核酸を選択的に含む。本実施形態において、H3Hは、配列番号4若しくは5に示すアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ヒスピジンの3位の炭素にヒドロキシ基を付加する機能を有するタンパク質を指す。
【0029】
本発明者らは、後述の実施例4に示す通り、シイノトモシビタケのヒスピジン-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子(以下、「h3h」とも称する)の2つの配列を同定した(配列番号13及び14)。シイノトモシビタケのh3hの2つの塩基配列(h3h(配列番号13)及びh3h(配列番号14))は、それぞれHispSの2つのアミノ酸配列(H3H1(配列番号4)及びH3H2(配列番号5))をコードする。
【0030】
本実施形態において、H3Hは、配列番号4若しくは5のアミノ酸配列を有するタンパク質に限らず、変異を有していてもよい。特に、野生型と比較して、植物に導入した際に、該植物に強い発光能を付与することができる変異を有することが好ましい。
【0031】
1-3-4 カフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ(CPH)
本実施形態の核酸は、シイノトモシビタケ由来のCPH(以下、本項において、単に「CPH」とも称する)をコードする核酸を選択的に含む。本実施形態において、CPHは、配列番号6に示すアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、オキシルシフェリンからコーヒー酸を生成する機能を有するタンパク質を指す。
【0032】
本発明者らは、後述の実施例4に示す通り、シイノトモシビタケのカフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ遺伝子(以下、「cph」とも称する)の配列を同定した(配列番号15)。シイノトモシビタケのcphの塩基配列(配列番号15)は、CPHのアミノ酸配列(CPH(配列番号6))をコードする。
【0033】
本実施形態において、CPHは、配列番号6のアミノ酸配列を有するタンパク質に限らず、変異を有していてもよい。特に、野生型と比較して、植物に導入した際に、該植物に強い発光能を付与することができる変異を有することが好ましい。
【0034】
2.発光関連遺伝子発現用ベクター
本発明の第2の実施形態は、発現用ベクターである。本実施形態の発現用ベクターは、「1.発光関連遺伝子(核酸)」の項に記載の核酸を含む、ことを特徴とする。
【0035】
発現ベクターの種類は、目的生物への遺伝子導入に適したものであれば特に限定されず、適宜選択することが可能である。例えば、プラスミド、ファージ等を使用することができる。発現ベクターは、特に、植物への導入に適したもの、すなわち、植物発現用ベクターとすることが好ましい。植物発現用ベクターとしては、植物の形質転換に適したベクターであれば、特に限定されないが、アグロバクテリウムにベクターを導入した後、該アグロバクテリウム植物に感染させる、バイナリーベクター法に適したベクターを使用することができる。植物形質転換用のバイナリーベクターは、例えば、pBIシリーズ(インプランタイノベーションズ社)、pBGシリーズ(インプランタイノベーションズ社)、pRIシリーズ(タカラバイオ社)、pCambiaシリーズ(abcam社)、pLC41(GenBankLC215698)、pIG121Hm(GenBank: AB489142.1)、pGWB2(GenBank:AB289765.1)等の既知のベクターを使用することができる。
【0036】
発現用ベクターには、以下の遺伝子のうち、少なくとも1つが含まれる。
Luz遺伝子:配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
HispS遺伝子:配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
H3H遺伝子:配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
CPH遺伝子:配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する。
【0037】
好ましくは、発現用ベクターには、上記のLuz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子のうち2以上の遺伝子が含まれる。より好ましくは、発現用ベクターには、Luz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子の全てが含まれる。本実施形態の発現ベクターは、上記のLuz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子のうち1以上を含んでいればよく、例えば、シイノトモシビタケ由来の上記遺伝子の1~3つに代えて、ヤコウタケ等の同種遺伝子(オルソログ)を含んでいてもよい。
【0038】
さらに、発現用ベクターには、ホスホパンテテイン転移酵素(PPTase)遺伝子が含まれることが好ましい。4’-ホスホパンテテインは、パントテン酸からの補酵素A(CoA)生合成経路における中間体であって、PPTaseは、4’-ホスホパンテテインから4’-デホスホコエンザイムAを生成する反応を触媒することで、CoA生合成に関与する。CoAは、コーヒー酸からのヒスピジン生合成に必要とされる成分であることから、発光関連遺伝子(Luz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子)、特にHispS遺伝子に加えて、PPTaseが有効に作用することで、生物により強い発光能が付与され得る。PPTase遺伝子は、ほぼすべての真核生物に存在する遺伝子である。本実施形態で使用される場合、PPTase遺伝子の由来生物は発光キノコである必要はなく、いずれの由来生物のものを使用してもよい。例えば、Aspergillus属等の真菌由来のPPTase遺伝子を使用することができる。
【0039】
発現用ベクターに組み込まれる遺伝子は、それぞれ、上流にプロモーター配列、下流にターミネーター配列を付加した発現カセットとして組み込まれることが好ましい。プロモーターとしては、目的とする遺伝子の発現を促進する機能を有していれば特に限定されないが、例えば、35S(カリフラワーモザイクウイルス由来)+POD5’(シロイヌナズナ由来)プロモーター、35S+COR47(シロイヌナズナ由来)プロモーター、ユビキチン10プロモーター(シロイヌナズナ由来)、セストラムイエローリーフカーリングウィルスプロモーター、CaMV35Sプロモーター(カリフラワーモザイクウイルス由来)、ユビキチンプロモーター(例えばトウモロコシ由来)、NOS(アグロバクテリウム由来)プロモーター、ルビスコ(Rubisco)プロモーター、アクチンプロモーター等を使用できる。ターミネーターとしては、特に限定されないが、例えば、HSPターミネーター(シロイヌナズナ由来)、ノパリンシンターゼターミネーター(アグロバクテリウム由来)、ジーン7ターミネーター(アグロバクテリウム由来)等を使用できる。
【0040】
なお、発現させるべき遺伝子が複数種ある場合、全ての遺伝子を同一の発現用ベクターに組み込む必要はなく、2種以上の発現ベクターを調製して目的の生物に同時にあるいは連続的に導入してもよい。
【0041】
発現用ベクターとしては、例えば、配列番号17で表される塩基配列を有するプラスミドを使用することができる。前記プラスミドは、具体的には、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のBamHIサイトに、hisps1(配列番号11)、コウジカビPPTase遺伝子(配列番号16)、cph(配列番号15)、h3h1(配列番号13)及びluz(配列番号11)の発現カセットを5’末端側からこの順にタンデムに組み込んだプラスミドである。前記プラスミドにおける各遺伝子、プロモーター、ターミネーターの位置は、表1に示す通りである。発現用ベクターは、抗生物質耐性遺伝子等のスクリーニングマーカー等を含んでいてもよい。
【0042】
【0043】
3.生物発光能を有するトランスジェニック生物
本発明の第3の実施形態は、トランスジェニック生物である。本実施形態のトランスジェニック生物は、「1.発光関連遺伝子(核酸)」の項に記載の核酸を含む、ことを特徴とする。より具体的には、本実施形態のトランスジェニック生物は、シイノトモシビタケ由来の発光関連遺伝子により形質転換された生物を指す。好ましくは、本実施形態のトランスジェニック生物は、「2.発光関連遺伝子発現用ベクター」の項に記載の発現用ベクターの導入により得られる。好ましくは、本実施形態のトランスジェニック生物は、暗所で視認可能な程度に生物発光が見られる。
【0044】
形質転換の対象となる生物に導入される核酸には、以下の遺伝子のうち、少なくとも1つが含まれる。
Luz遺伝子:配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
HispS遺伝子:配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
H3H遺伝子:配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
CPH遺伝子:配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する。
【0045】
好ましくは、形質転換の対象となる生物に導入される核酸には、上記のLuz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子のうち2以上の遺伝子が含まれる。より好ましくは、形質転換の対象となる生物に導入される核酸には、Luz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子の全てが含まれる。前記核酸は、上記のLuz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子のうち1以上を含んでいればよく、例えば、シイノトモシビタケ由来の上記遺伝子の1~3つに代えて、ヤコウタケ等の同種遺伝子(オルソログ)を含んでいてもよい。さらに、前記核酸には、PPTase遺伝子が含まれることが好ましい。
【0046】
本実施形態のトランスジェニック生物の生物種は、特に限定されず、植物、動物、微生物等のいずれであってもよい。トランスジェニック生物に導入される発光遺伝子は、コーヒー酸からのルシフェリンの生合成に関与する遺伝子であるが、コーヒー酸は、リグニンの生合成の中間体であり、ほぼすべての植物に存在することが知られる。そのため、形質転換の対象となる生物を植物とすることで、形質転換後の生物は、発光物質(ルシフェリン)又はその前駆体を別途添加することを要さず、自発発光することが可能となる。したがって、本実施形態のトランスジェニック生物は、植物とすることが好ましい。なお、植物以外の生物の場合、別途、コーヒー酸、ヒスピジン及び/又は3-ヒドロキシヒスピジンを生物に付与することで、生物発光させることが可能である。
【0047】
植物の場合、形質転換の対象となる植物の種類は、コーヒー酸を生合成するものであれば特に限定されず、単子葉類、双子葉類、コケ植物、シダ植物、藻類、樹木類等のいずれであってもよい。例えば、ベンサミアナタバコ、ペチュニア、バラ、カーネーション、ユリ、ダリア、コチョウラン、キク、トルコギキョウ、シクラメン、スターチス、シンビジウム,ガーベラ、デンドロビウム、チューリップ、ペラルゴニウム、カトレア、トレニア、イネ、トウモロコシ、ワタ、ナタネ、トマト、ポプラ、トウヒ、カラマツ、スギ等を形質転換することができる。形質転換前の植物は、野生型であってもよく、また、変異体であってもよい。変異体の場合、例えば、野生型と比較してコーヒー酸の含有量の多いものを使用してもよい。
【0048】
形質転換の対象となる植物の状態は、特に限定されず、分化又は未分化の植物細胞の状態であってもよく、カルスの状態であってもよく、また、種子や植物体の状態であってもよい。本明細書において、「カルス」とは、本明細書において、「カルス」とは、未分化の植物細胞塊を指す。また、本明細書において、「植物体」とは、根、茎、葉、花、子葉、胚軸、葯等の各器官に分化した状態の植物を指す。また、本明細書において「種子」とは、完熟種子、未熟種子を指す。植物体の場合、遺伝子(核酸)を導入する対象は、根、茎、葉、花、子葉、胚軸、葯等のいずれの器官であってもよいが、特に、葉又は茎とすることが好ましい。
【0049】
形質転換において対象生物に目的の遺伝子を導入する手法は、特に限定されず、パーティクルガン法、エレトロポレーション法、アグロバクテリウム法等を使用することができる。植物の場合は、特にアグロバクテリウム法を使用することができる。形質転換は、一過性であっても、安定性であってもよい。
【0050】
4.生物発光能を有するトランスジェニック生物の製造方法
本発明の第4の実施形態は、トランスジェニック生物の製造方法である。より具体的には、本実施形態の方法は、「2.発光関連遺伝子発現用ベクター」の項に記載の発現用ベクターのうち、植物発現用ベクターを用いて、植物細胞、カルス又は植物体を形質転換することを含む、ことを特徴とする。
【0051】
本実施形態の方法において、形質転換の対象となる生物は植物である。植物の種類は、コーヒー酸を生合成するものであれば特に限定されず、単子葉類、双子葉類、コケ植物、シダ植物、藻類等のいずれであってもよい。形質転換前の植物は、野生型であってもよく、また、変異体であってもよい。変異体の場合、例えば、野生型と比較してコーヒー酸の含有量の多いものを使用してもよい。形質転換の対象となる植物の状態は、分化又は未分化の植物細胞、カルス、又は植物体の状態である。植物体の場合、遺伝子(核酸)を導入する対象は、根、茎、葉、花等のいずれの器官であってもよいが、特に、葉又は茎とすることが好ましい。
【0052】
形質転換において植物にベクターを導入する手法は、特に限定されず、パーティクルガン法、エレトロポレーション法、アグロバクテリウム法等のいずれを使用してもよい。特に、アグロバクテリウム法の使用が好ましい。アグロバクテリウム法は、発現用ベクター(バイナリーベクター)を導入したアグロバクテリウムを植物に感染させて、植物の形質転換を行う方法である。アグロバクテリウムの感染は、例えば、植物細胞、カルス又は植物体の所望の部位に、アグロバクテリウムを含む培地を接触させることで達成し得る。
【0053】
本実施形態の方法で使用される発現用ベクターには、以下の遺伝子のうち、少なくとも1つが含まれる。
Luz遺伝子:配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
HispS遺伝子:配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
H3H遺伝子:配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する;
CPH遺伝子:配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を有する。
【0054】
好ましくは、発現用ベクターには、上記のLuz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子のうち2以上の遺伝子が含まれる。より好ましくは、形質転換の対象となる生物に導入される核酸には、Luz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子の全てが含まれる。前記発現用ベクターは、上記のLuz遺伝子、HispS遺伝子、H3H遺伝子及びCPH遺伝子のうち1以上を含んでいればよく、例えば、シイノトモシビタケ由来の上記遺伝子の1~3つに代えて、ヤコウタケ等の同種遺伝子(オルソログ)を含んでいてもよい。さらに、前記発現用ベクターには、PPTase遺伝子が含まれることが好ましい。
【0055】
なお、発現させるべき遺伝子が複数種ある場合、全ての遺伝子を同一の発現用ベクターに組み込む必要はなく、2種以上の発現ベクターを調製して目的の生物に同時に又は連続的に導入してもよい。アグロバクテリウムを使用する場合、2種以上の発現ベクターを、それぞれ他のアグロバクテリウムに導入し、全てのアグロバクテリウムを同時に又は連続的に植物に感染させることができる。あるいは、2種以上の発現ベクターを同じアグロバクテリウムに同時に又は連続的に導入し、導入後のあるアグロバクテリウムを植物に感染させてもよい。
【0056】
上記方法により得られたトランスジェニック生物(植物細胞、カルス又は植物体)は、少なくともその一部が、もともと体内に含まれるコーヒー酸を用いて自発発光を行うことができる。
【0057】
5.植物を発光させる方法
本発明の第5の実施形態は、植物を発光させる方法である。本実施形態の方法は、具体的には「4.生物発光能を有するトランスジェニック生物の製造方法」の項に記載の方法で製造されたトランスジェニック生物(植物)を発光させる方法である。前記トランスジェニック生物は、ルシフェリン前駆体であるコーヒー酸を含み、かつ、コーヒー酸からルシフェリンを生合成する機能、ルシフェリンを酸化する機能、さらにオキシルシフェリンからコーヒー酸を再生する機能を有することから、通常の栽培により、自発発光させることが可能である。
【0058】
本実施形態の方法は、植物の発光を強めるために、植物にコーヒー酸、ヒスピジン及び/又は3-ヒドロキシヒスピジンを植物に供給する工程を含んでいてもよい。また、本実施形態の方法は、植物の発光を強めるために、蛍光色素(蛍光タンパク質)を植物に供給する工程を含んでいてもよい。発光能を有する細胞近傍に適切な蛍光色素を存在させることで、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を生じさせ、より強い光とすることが可能となる。かつ/あるいは、発光能を有する細胞近傍に適切な蛍光色素を存在させることで、FRETにより、ルシフェリンの発光波長(520nm)とは異なる所望の波長の光を発生させることが可能となる。
【実施例】
【0059】
実施例1:シイノトモシビタケのRNA抽出
シイノトモシビタケ発光子実体0.05gからIsogen(ニッポンジーン)を用いてRNAを抽出し、50μLの水に溶解して、RNA液を調製した。
【0060】
実施例2:ルシフェラーゼcDNAのクローニング
RNA液1μLと下記リンカーオリゴdTプライマー(配列番号18)、逆転写酵素SuperScriptIII(ThermoFisher)を用いて逆転写反応を行い、逆転写産物を得た。
リンカーオリゴdTプライマー ACTCGAATTCACGCGGCCGCATTTTTTTTTTTTTTT (配列番号18)
【0061】
前記逆転写産物をTE緩衝液で2.5倍希釈して、そのうち1μLをテンプレートとしてPCR反応を行った。プライマーは、ルシフェラーゼの保存領域として既知の配列に基づいて、以下の通りに設計した。
フォワードプライマー CGCCTTCCCGAGAAACGCAGGTGG (配列番号19)
リバースプライマー AGTCATGGTAGTCGTGCATATG (配列番号20)
PCR産物について、常法に従って、アガロースゲル電気泳動を行い、ゲルグリーン(Biotium社)染色を行うことで、DNA断片を確認した(
図2)。
【0062】
常法に従ってDNA断片の配列を決定し、配列番号21のフォワードプライマーを設計した。上記逆転写反応物を鋳型として、下記フォワードプライマー及び前記リンカーオリゴdTプライマーを用いて3’RACE PCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図3)。
フォワードプライマー CAACACGTCGAACCGGAATT (配列番号21)
【0063】
5’側cDNA末端の配列を得るために、5’RACEを行った。具体的には、まず、得られたDNA断片の配列から、下記のリバースプライマー(配列番号22)を設計した。
リバースプライマー GAATATGGCCTCCGCATGAA (配列番号22)
RNA液1μLと該リバースプライマーを用いて逆転写反応を行い、生成したcDNAを精製し、ターミナルトランスフェラーゼ(タカラバイオ)を用いて3’末端にオリゴdAを付加した。
【0064】
得られたDNA断片の配列から、もう1つのリバースプライマー(配列番号23)を設計した。
リバースプライマー CGACGTGTTGGTTCAACTGT (配列番号23)
オリゴdAを付加したcDNAについて、該プライマーと前記リンカーオリゴdTプライマーとを用いて、PCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図4)。最終的に、全長コーディング領域(luz(配列番号10))のcDNA配列が得られた。
【0065】
実施例3:ヒスピジンシンターゼ(HispS)cDNAのクローニング
Hispの保存領域として既知の配列に基づいて、以下の通りにプライマーを設計した。
フォワードプライマー TTCGCTCTCATGCTGGCCGTCTGG (配列番号24)
リバースプライマー AGGGTCGCTGTGCCGATATCCTGCAT (配列番号25)
実施例2で調製した逆転写反応物を鋳型として、上記プライマーセットを用いてPCR反応を行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図5)。
【0066】
常法に従って、前記DNA断片の配列決定を行い、3’側cDNA末端の配列を得るために、さらに下記フォワードプライマー(配列番号26)を設計した。上記逆転写反応物を鋳型として、下記フォワードプライマー、前記リンカーオリゴdTプライマーを用いて3’RACE PCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図6)。
フォワードプライマー GGCTGTAGGCGAAAACCATCCTTA (配列番号26)
【0067】
HispSの保存領域として既知の配列に基づいて、もう1つのフォワードプライマー(配列番号27)を設計した。
フォワードプライマー GAYRTNGGNCCNCARVYNGTNGC (配列番号27)
前記PCR産物を鋳型として、下記プライマーと前記リンカーオリゴdTプライマーとを用いてネステッドPCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図7)。
【0068】
さらに、5’側cDNA末端の配列を得るために、実施例2と同様に5’RACEを行った。常法に従ってDNA断片の配列を決定し、下記の2つのリバースプライマー(配列番号28、29)を設計した。
逆転写用リバースプライマー AGGGGAACTGCCTTCAGATT (配列番号28)
リバースプライマー GCTGATGAGGTGAAGAGGTA (配列番号29)
リンカーオリゴdTプライマーと逆転写用リバースプライマー(配列番号28)を用いて、RNA液からの逆転写反応を行い、得られた逆転写産物を鋳型として、リンカーオリゴdTプライマーとPCR用のリバースプライマー(配列番号29)を用いて、PCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図8)。
【0069】
常法にしたがって、5’、3’非翻訳領域の配列決定を行い、各配列に基づいて下記プライマーセット(配列番号30、31)を設計した。
フォワードプライマー TTCAAGCCCAACCATAACTGCAGCACAGGT (配列番号30)
リバースプライマー CACAAAACGTGAAATGAAAATTGTACAAAACAATCAAGCAGAAGA (配列番号31)
前記逆転写反応物をテンプレートとして、上記プライマーセットを用いてPCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図9)。その結果、全長コーディング領域のcDNA配列が得られた。この中には、2種類の配列(hisps1、hisps2(配列番号11、12))が含まれていた。
【0070】
実施例4:ヒスピジン3ヒドロキシラーゼ(H3H)cDNAのクローニング
H3Hの保存領域として既知の配列から、下記フォワードプライマー(配列番号32)を設計した。
フォワードプライマー TTYVRVGAYTAYCAYCCRCGNTT (配列番号32)
実施例2と同様に調製した逆転写反応物を鋳型として、上記フォワードプライマーと前記リンカーオリゴdTプライマーを用いて3’RACEを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図10)。これにより、3’側コーディング領域末端を含むcDNA断片を得た。
【0071】
cDNAの5’末端の配列を得るために、上記と同様に5’RACEを行った。常法に従ってDNA断片の配列を決定し、下記の2つのリバースプライマー(配列番号33、34)を設計した。
逆転写用リバースプライマー TCTTCTAGCCCCATTCCGAA (配列番号33)
PCR用リバースプライマー AAGTGTGGGAAGCGATGCAT (配列番号34)
リンカーオリゴdTプライマーと逆転写用リバースプライマー(配列番号33)を用いて、RNA液からの逆転写反応を行い、得られた逆転写産物を鋳型として、リンカーオリゴdTプライマーとPCR用のリバースプライマー(配列番号34)を用いて、PCRを行った。常法に従って、PCR産物のDNA断片を確認した(
図11)。
【0072】
得られたDNA断片より、常法に従って、5’側及び3’側の非翻訳領域の配列を決定し、該配列に基づいて全長cDNA増幅用のプライマーセット(配列番号35、36)を設計した。
フォワードプライマー ACCCTCTCATATGTCTCCCATCCGCACACA (配列番号35)
リバースプライマー GAGAGCTCAGGGCTAGTGCAAGTCAT (配列番号36)
上記プライマーセットを用いて、RNA液からのRT-PCRを行い、DNA断片を得た(
図12)。この中には、2種類の配列(h3h1、h3h2(配列番号13、14))が含まれていた。
【0073】
実施例5:カフェオイルピルビン酸ヒドロラーゼ(CPH)cDNAのクローニング
H3Hの保存領域として既知の配列から、下記のフォワードプライマー(配列番号37)を設計した。
フォワードプライマー TCNCARTGGTGTTTYTCNAARRGNTT (配列番号37)
前記逆転写反応物を鋳型として、前記フォワードプライマーとリンカーオリゴdTプライマーを用いて3’RACEを行い、3’側コーディング領域末端を含むcDNA断片を得た(
図13)。
【0074】
常法に従ってcDNA断片の配列を決定し、得られた配列の5’側cDNA末端の配列を得るために、上記と同様5’RACEを行った。得られたDNA断片の配列から逆転写用とPCR用のリバースプライマーを作成し、5’RACEを行い、5’側コーディング領域末端を含むcDNA断片を得た(
図14)。
逆転写用リバースプライマー AGAGGCGGTTTCTTCACGAA (配列番号38)
PCT用リバースプライマー GAATATCTGGTCGGAGGTGT (配列番号39)
最終的に、全長コーディング領域(cph(配列番号15))のcDNA配列が得られた。
【0075】
実施例6:植物発現ベクター構築
(1)HispS発現カセット
HispS1のコーディング領域(配列番号11)をクローニングしたプラスミド(pCR-Blunt II-TOPO、ThermoFisher)を鋳型として、HispSのコーディング領域を増幅するプライマーセット(配列番号40、41)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片をIn-fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した(プラスミド1)。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGCCTTTACCTTCCGAATTCACCTCCCTC (配列番号40)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGCGGAGGTGAGTAATCACTTCTCCATGTATTGTT (配列番号41)
【0076】
(2)コウジカビホスホパンテテイン転移酵素(PPTase)発現カセット
コウジカビPPTaseのアミノ酸配列をもとに、植物コドンに最適化したコーディング配列を合成した(配列番号16)。PPTaseのコーディング領域を増幅するプライマーセット(配列番号42、43)を設計し、これを用いて前記コーディング配列を鋳型としてPCRを行い、DNA断片を得た。
フォワードプライマー AAATCAAGATTAACTATGCAACCACCTCAAGACGA (配列番号42)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGAGCTCTTATTTTAAGCATTGAC (配列番号43)
さらに、カリフラワーモザイクウイルス35SプロモーターとシロイヌナズナCOR47の5’非翻訳領域(Yamasaki et al., J. Biosci. Bioeng, 125, 124-130, 2018)を含む断片を有するプラスミド(pBluescript-35S-COR47-FLuc-HSP)を鋳型として、この断片を増幅するプライマーセット(配列番号44、45)を用いてPCRを行い、DNA断片を得た。
フォワードプライマー GGCCAGTGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGT (配列番号44)
リバースプライマー AGTTAATCTTGATTTGATTAAAAGT (配列番号45)
【0077】
これらの断片を、pRI201-ANのHindIIIとSacIサイトに、In-fusion HD Cloning Kitを用いて同時に挿入した。得られたプラスミドからPPTase発現ユニットを増幅するプライマーセット(配列番号46、47)を用いてPCRを行い、得られた断片をIn-fusion HD Cloning Kitを用いてプラスミド1のBamHIサイトに挿入した(プラスミド2)。
フォワードプライマー TGCGGCCGCTGGATCGTCGACTCTAGATTAGCCTTTTC (配列番号46)
リバースプライマー CGAATTCCCGGGATCCAGCGGCCGCAGGTA (配列番号47)
【0078】
(3)CPH発現カセット
前記逆転写反応物を鋳型として、CPHのコーディング領域(配列番号15)を増幅するプライマーセット(配列番号48、49)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片をIn-fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGTCTCCCATCCGCACACA (配列番号48)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGTCAGGGCTAGTGCAAGTCAT (配列番号49)
【0079】
得られたプラスミドからCPHの発現ユニットを増幅するプライマーセット(配列番号50、51)を用いてPCRを行い、得られた断片をIn-fusion HD Cloning Kitを用いてプラスミド2のBamHIサイトに挿入した(プラスミド3)。
フォワードプライマー TGCGGCCGCTGGATCAAGCTTGCATGCCTGCAGGT (配列番号50)
リバースプライマー CGAATTCCCGGGATCCAGCGGCCGCAGGTA (配列番号51)
【0080】
(4)H3H発現カセット
H3H1のコーディング領域(配列番号13)をクローニングしたプラスミド(pCR-Blunt II-TOPO)を鋳型として、H3Hのコーディング領域を増幅するプライマーセット(配列番号52、53)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片をIn-fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGTCAACCGACGCAGA (配列番号52)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGCGTCGAATCTGATTGGAGA (配列番号53)
【0081】
得られたプラスミドからH3Hの発現ユニットを増幅するプライマーセット(配列番号54、55)を用いてPCRを行い、得られた断片をIn-fusion HD Cloning Kitを用いてプラスミド3のBamHIサイトに挿入した(プラスミド4)。
フォワードプライマー TGCGGCCGCTGGATCAAGCTTGCATGCCTGCAGGT (配列番号54)
リバースプライマー CGAATTCCCGGGATCCAGCGGCCGCAGGTA (配列番号55)
【0082】
(5)Luz発現カセット
Luzのコーディング領域(配列番号10)をクローニングしたプラスミド(pRSETB)を鋳型として、Luzのコーディング領域を増幅するプライマーセット(配列番号56、57)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片をIn-fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGGAAATCAGCTGGACGAC (配列番号56)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGCTAGATGCTCCCATCAATGG (配列番号57)
【0083】
得られたプラスミドからLuzの発現ユニットを増幅するプライマーセット(配列番号58、59)を用いてPCRを行い、得られた断片をIn-fusion HD Cloning Kitを用いてプラスミド4のBamHIサイトに挿入した(プラスミド5)。
フォワードプライマー TGCGGCCGCTGGATCAAGCTTGCATGCCTGCAGGT (配列番号58)
リバースプライマー CGAATTCCCGGGATCCAGCGGCCGCAGGTA (配列番号59)
プラスミド5は、配列番号17に示す塩基配列を有する。具体的には、シイノトモシビタケ由来のHispS、コウジカビ由来のPPTase、シイノトモシビタケ由来のCPH、シイノトモシビタケ由来のH3H及びシイノトモシビタケ由来のLuzの発現カセットがタンデムに配置された構造を有する。
【0084】
(6)ヤコウタケのHisP、CPH、H3H及びLuz発現カセット
比較対象用に、ヤコウタケの発光関連遺伝子のクローニングを行った。シイノトモシビタケ由来のLuz、HispS、H3H及びCPHのコーディング領域に代えて、ヤコウタケのLuz、HispS、H3H及びナラタケのCPH(それぞれ配列番号60、61、62及び63のアミノ酸配列を有する)のコーディング領域(それぞれ配列番号64、65、66及び67)の発現カセットを使用した以外は、(1)~(5)と同様に植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)に各発現カセットを挿入し、プラスミド5’を調製した。
【0085】
実施例7:アグロバクテリウムを介した植物発現用ベクターのベンサミアナタバコ葉への一過的導入(1)
実施例6で調製したプラスミド5を、アグロバクテリウムGV3101系統に導入し、50μg/mLカナマイシン、12.5μg/mLゲンタマイシンを含むLB液体培地で培養した。集菌後、50mM塩酸マグネシウム、5mMモルフォリノエタンスルホン酸、200μMアセトシリンゴン(pH5.7)に、OD
500が0.2となるよう懸濁した。18℃、4時間静置後、菌懸濁液をシリンジにとり、シリンジの先端をベンサミアナタバコの葉裏に押し当て、ピストンを押して、気孔を通して菌懸濁液を葉肉細胞の間隙に導入した。3日以上経過後、発光の観察を行った。比較対象として、プラスミド5に代えて、実施例6(6)で調製したヤコウタケの発光関連遺伝子を発現するプラスミド5’を用いた。その結果、シイノトモシビタケ由来の発光関連遺伝子が、ヤコウタケ由来の発光関連遺伝子よりも強い発光能を植物に付与することが確認できた(
図15)。
【0086】
実施例8:アグロバクテリウムを介した植物発現用ベクターのベンサミアナタバコ葉への一過的導入(2)
(1)シイノトモシビタケLuz発現プラスミドの調製
Luzのコーディング領域(配列番号10)をクローニングしたプラスミド(pRSETB)を鋳型として、Luzのコーディング領域を増幅するプライマーセット(配列番号56、57)を用いてPCRを行い、シイノトモシビタケLuz遺伝子を増幅した。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGGAAATCAGCTGGACGAC (配列番号56)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGCTAGATGCTCCCATCAATGG (配列番号57)
得られた増幅産物をNdeI、SacIで処理して、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した。
【0087】
(2)ヤコウタケLuz発現プラスミドの調製
ヤコウタケ発光子実体よりRNAを抽出し、リンカーオリゴdTプライマーを用いて逆転写後、下記プライマーセット(配列番号68、69)を用いてPCRを行い、ヤコウタケLuz遺伝子を増幅した。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGGTCCAACTCACCCGAAC (配列番号68)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGATCCTTCGCCCACACTTCCA (配列番号69)
得られた増幅産物をNdeI、SacIで処理して、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した。
【0088】
(3)シロヒカリタケLuz発現プラスミドの調製
プラスミドp305-FBP_4(配列番号70、AddGeneより入手)をテンプレートとして、下記のプライマーセット(配列番号71、72)を用いてPCRを行い、シロヒカリタケLuz遺伝子を増幅した。
フォワードプライマー CACTGTTGATACATATGCGTATAAATATCTCTCTGTC (配列番号71)
リバースプライマー CTTCATCTTCATAAGTCATTTGGCATTCTCGACGAT (配列番号72)
得られた増幅産物をNdeI、SacIで処理して、植物形質転換用プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ)のNdeI、SacIサイトに挿入した。
【0089】
(4)HispS、PPTase、H3H、CPH発現プラスミドの調製
シイノトモシビタケ由来のHispS、H3H、CPHをコードする遺伝子の発現カセットに代えて、ヤコウタケのHispS(配列番号61)、ヤコウタケのH3H(配列番号62)、及びナラタケのCPH(配列番号63)をコードする各遺伝子(配列番号65、66及び67)の発現カセットを組み込んだ以外は、実施例6の(1)~(4)と同様にして、HispS、PPTase、H3H、CPH発現プラスミド(プラスミド4’)を調製した。
【0090】
(5)アグロバクテリウムを介した一過性導入
(1)~(4)で調製した発現プラスミドを、それぞれアグロバクテリウムに導入した。各種Luz発現プラスミドを導入したアグロバクテリウムを、それぞれプラスミド4’を導入したアグロバクテリウムと組み合わせて、ベンサミアナタバコ葉に共感染させた。感染7日後に、ベンサミアナタバコ葉の発光像をイメージアナライザーLAS-1000(富士フイルム社、露光10秒)で撮影し、Fusion FX7 Edgeソフトウェア(Vivilber社)で発光を定量化した。
図16は、ベンサミアナタバコ葉上の、シイノトモシビタケLuz、ヤコウタケLuz及びシロヒカリタケLuzの遺伝子を導入したアグロバクテリウムの感染箇所を、明視野及び暗視野で観察した写真である。
図17は、各感染箇所の発光量を定量化したグラフである。シイノトモシビタケLuz遺伝子を導入したアグロバクテリウムを感染させた箇所の発光量は、他のLuz遺伝子を導入した例と比較して非常に高くなった。
【0091】
実施例9:高光度化ルシフェラーゼ変異体の形成
pRI201-ANプラスミドに、実施例2で得られたシイノトモシビタケLuz遺伝子を挿入したものをテンプレートに、下記のプライマーセット(配列番号73、74)を用いてPCRを行い、シイノトモシビタケLuz遺伝子を増幅した。
フォワードプライマー AGAGGTAATACCATATGGAAATCAGCTGGACGAC (配列番号73)
リバースプライマー ATGGATCCTAGATGCTCCCATCAATGG (配列番号74)
増幅DNA断片をNdeIとBamHI制限酵素で処理後、ポリヒスチジン配列を付加したpColdIVプラスミド(タカラバイオ社)のNdeIとBamHIサイトにライゲーションした。これを野生型シイノトモシビタケLuz発現プラスミドとした。
【0092】
変異導入は、rTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)の推奨反応条件の反応系に、160μMの塩化マンガンを加えて行った。pRI201-ANプラスミドにシイノトモシビタケLuz遺伝子を挿入したものをテンプレートに、以下のプライマーセット(配列番号75、76)を用いてPCRを行い、シイノトモシビタケLuz遺伝子を増幅した。
フォワードプライマー CCGAAAGGCACACTTAATTATTAAGAGGTAATACCATATG (配列番号75)
リバースプライマー CTAGATCAATGGTGATGGTGATGATGGGATCC (配列番号76)
増幅DNA断片をNdeIとBamHI制限酵素で処理後、ポリヒスチジン配列を付加したpColdIVプラスミドのNdeIとBamHIサイトにライゲーションした。このライゲーションしたプラスミドを大腸菌に導入して、LBプレートに蒔き、コロニーが形成された後にナイロン膜に移し取った。ナイロン膜を0.2mMIPTGを含むLBプレート上に置き、15℃で一晩置いた。このプレートに10μM 3-ヒドロキシヒスピジンを含む6mL PBS(タカラバイオ社)を注ぎ、イメージアナライザーLAS-3000(富士フイルム社)で、感度:スーパー、5分露光の条件で発光映像を取得した。得られた像から、強い発光を示す大腸菌を選抜した(1次スクリーニング)。
【0093】
1次スクリーニング後の各大腸菌株を1mL LB液体培地で一晩培養し、培養液にIPTGを0.5mMとなるよう加えて15℃で一晩置いた。培養液10μLを取って90μLのPBS、0.5% Triton X-100と1μLの100μM 3-ヒドロキシヒスピジンを加え、プレートリーダーSH-9000(コロナ電気社)で発光を検出した(露光10秒、全波長)。標準用として、野生型シイノトモシビタケLuz発現プラスミドを導入した大腸菌についても同様の測定を行った。各培養液の発光検出は、n=3で実施した。
【0094】
各培養液10μLについて、イムノブロットを行い、相対的なタンパク質量を測定した。常法に従って、各培養液について、SDS-PAGEを行い、ゲルからメンブレンにタンパク質を転写した。メンブレンを、1次抗体(抗ポリヒスチジン抗体(Abcam社))、2次抗体(HRP標識抗ウサギIgG抗体(プロメガ社))と順に反応させ、基質(テトラメチルベンジジン(TMB))溶液を用いて発色させた。イメージアナライザー(Fusion Fx(Vilber Bio Imaging社製))を用いて、各バンドの発色度合いを数値化した。野生型シイノトモシビタケLuz発現プラスミドを導入した大腸菌についても同様の測定を行い、得られたLuzのバンドのタンパク質量を「1」として、各変異体Luzのタンパク質量を各バンドの発色強度から算出した(相対的タンパク質量)。
図18に、野生型と、特に発色の強かった変異体1、2及び3の各Luzのイムノブロットメンブレンの写真を示す。
【0095】
それぞれのプラスミドについて、発現タンパク質量当たりの発光活性を算出した結果、野生型シイノトモシビタケLuzと比較して高い発光活性を示す3つの変異体(Luz変異体1、2及び3)が得られた。
図19に、各Luzの発現タンパク質量当たりの発光活性(発光強度/相対的タンパク質量)を示す。Luz変異体1、2及び3において、野生型と比較してタンパク質量当たりの発光活性が高くなることが示された。
【0096】
常法にしたがって、Luz変異体1、2及び3のアミノ酸配列を決定した。
図20に、野生型シイノトモシビタケLuz(配列番号1)及び変異体1、2及び3(配列番号7~9)のアミノ酸配列のアラインメントを示す。変異体1、2及び3は、それぞれ独立に2箇所の変異を有していた。
【要約】
【課題】既知の発光関連遺伝子よりも強い発光を生物(特に植物)に付与することが可能な、新規の発光関連遺伝子(核酸、発現用ベクター)を提供する。
【解決手段】配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号1で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;配列番号2若しくは3で表されるアミノ酸配列又は配列番号2若しくは3で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;配列番号4若しくは5で表されるアミノ酸配列又は配列番号4若しくは5で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;及び配列番号6で表されるアミノ酸配列又は配列番号6で表される配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列;から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む、核酸。
【選択図】なし
【配列表】