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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】水性樹脂分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240507BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L33/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017532200
(86)(22)【出願日】2017-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2017021195
(87)【国際公開番号】W WO2017213192
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2016114142
(32)【優先日】2016-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016122702
(32)【優先日】2016-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【復代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】原口 辰介
(72)【発明者】
【氏名】田中 基巳
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】▲吉▼澤 英一
【審判官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-355655(JP,A)
【文献】特開2005-42031(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072321(WO,A1)
【文献】特開2018-104620(JP,A)
【文献】特開2002-308921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C08F2/00-2/60
C09D1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基及びその無水物、アミノ基、エポキシ基、イソシアナト基、スルホニル基から選択される反応性基を有する変性オレフィン系重合体であるオレフィン重合体(A)と、下記一般式(1)で表されるラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、水酸基価が、1~200mgKOH/gである重合体(C)とが、水性媒体に分散しており、水性樹脂分散体(D)に含まれる前記重合体(C)と前記オレフィン系重合体(A)の比率(固形分、(C)/(A))が0.5~2である水性樹脂分散体(D)(但し、前記オレフィン重合体(A)が水酸基を有する場合を除く。):
【化1】
(一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは炭素数3~5の直鎖又は分岐のアルキレン基である。nは1~20の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)においてnが1である、請求項1に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項3】
前記オレフィン重合体(A)と前記重合体(C)とを含む粒子が水性媒体に分散している、請求項1または2に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項4】
前記重合体(C)に含まれる前記ラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位の割合が、前記重合体(C)の0.01~50質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項5】
前記オレフィン重合体(A)が塩素原子を含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項6】
前記重合体(C)が、酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含む重合体(IC)であり、前記重合体(IC)の酸価が1~9mgKOH/gであり、前記オレフィン重合体(A)と前記重合体(IC)の含有量(質量比)が、オレフィン重合体(A):重合体(IC)=10:90~90:10である請求項1~5のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項7】
さらに、界面活性剤(E)を含有し、該界面活性剤(E)の含有量が、前記重合体(IC)100質量部に対して3質量部以下である、請求項6に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項8】
前記酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)がアクリル酸またはメタクリル酸である、請求項6または7に記載の水性樹脂分散体(D)。
【請求項9】
前記オレフィン重合体(A)と前記重合体(IC)とを含む粒子が水性媒体に分散している、請求項6~8のいずれか一項に記載の水性樹脂分散体(D)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体やプロピレン-α-オレフィン共重合体などのポリオレフィンは安価であり、しかも、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れていることから、広い分野で使用されている。しかしながら、ポリオレフィンは、分子中に極性基を持たないため極性が低く、塗装や接着が困難な場合が多いことから、改善が望まれていた。
【0003】
そこで、ポリオレフィンの成形体表面を薬剤などで化学的に処理する方法や、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などによって成形体表面を酸化処理する方法等、種々の検討が行われてきている。しかしながら、これらの方法では、特殊な装置が必要であるばかりでなく、塗装性や接着性の改良効果が十分ではなかった。
【0004】
また、比較的簡便な方法でポリオレフィン、例えばプロピレン系重合体に良好な塗装性や接着性を付与するための工夫として、いわゆる塩素化ポリプロピレンや酸変性プロピレン-α-オレフィン共重合体、酸変性塩素化ポリプロピレン等の変性ポリオレフィンを、ポリオレフィンの成形体表面に、表面処理剤、接着剤或いは塗料等として塗布する方法が知られている。変性ポリオレフィンは、通常、有機溶媒の溶液、又は水分散体などの形態で塗布されるが、安全衛生及び環境汚染の面から、水分散体が好ましく用いられる。
【0005】
塗料としての性能、貯蔵安定性を向上させるため、変性ポリオレフィンとラジカル重合性重合体を複合化させた水性樹脂分散体の開発が行われている。例えば、特許文献1、2には、オレフィン系重合体に親水性高分子がグラフト結合されたグラフト共重合体の水性樹脂分散体と、界面活性剤を含むビニル系単量体との混合物を乳化重合する方法が記載されている。また、特許文献3には、変性ポリオレフィンと界面活性剤をビニル系単量体に溶解させ、水に分散した後に乳化重合を行い、水性樹脂組成物を得る方法が記載されている。さらに、特許文献4及び5には、オレフィン系樹脂をビニル系単量体由来の界面活性剤を用いて乳化することにより水性樹脂組成物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-46777号公報
【文献】特開2013-133417号公報
【文献】特開2006-036920号公報
【文献】特開2011-246616号公報
【文献】特開2011-246572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び5に記載の方法では、ビニル単量体から得られるラジカル重合性重合体がポリプロピレン系基材への接着性を阻害し、ポリプロピレン基材への接着性が不十分であった。
【0008】
本発明の目的は、ポリプロピレン基材への密着性に優れた塗膜を形成できる水性樹脂分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、オレフィン重合体(A)と、下記一般式(1)で表されるラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含む重合体(C)とが、水性媒体に分散している水性樹脂分散体(D)である。
【0010】
【化1】
【0011】
一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは炭素数3~5の直鎖又は分岐のアルキレン基である。nは1~20の整数である。
【0012】
本発明は、さらに、オレフィン重合体(A)と、酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含む重合体(IC)とが、水性媒体に分散しているオレフィン系水性樹脂分散体(ID)であって、前記重合体(IC)の酸価が1~9mgKOH/gであり、前記オレフィン系水性樹脂分散体(ID)中の前記オレフィン重合体(A)と前記重合体(IC)の含有量(質量比)が、オレフィン重合体(A):重合体(IC)=10:90~90:10のオレフィン系水性樹脂分散体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリプロピレン基材への密着性に優れた塗膜を形成できる水性樹脂分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水性樹脂分散体(D)は、オレフィン重合体(A)と、前記一般式(1)で表されるラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含む重合体(C)とが、水性媒体に分散している分散体である。
【0015】
本発明の水性樹脂分散体(ID)は、オレフィン重合体(A)と、酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含む重合体(IC)とが、水性媒体に分散しているオレフィン系水性樹脂分散体(ID)(以下、単に「水性樹脂分散体(ID)」とも称する。)であって、前記重合体(IC)の酸価が1~9mgKOH/gであり、前記オレフィン系水性樹脂分散体(ID)中の前記オレフィン重合体(A)と前記重合体(IC)の含有量(質量比)が、オレフィン重合体(A):重合体(IC)=10:90~90:10である。
【0016】
<オレフィン重合体(A)>
オレフィン重合体(A)とは、主な構成単位としてオレフィンを含む重合体をいい、オレフィンの単独重合体や共重合体等のオレフィン系重合体(A1)(以下、「重合体(A1)」とも称する。)等を示す。
【0017】
[オレフィン系重合体(A1)]
前記オレフィン系重合体(A1)(重合体(A1))としては、反応性基を有さないオレフィン系重合体(A11)(以下、「重合体(A11)」とも称する。)や、反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12)(以下、「重合体(A12)」とも称する。)等が挙げられる。
【0018】
前記重合体(A1)の好ましい態様としては、下記(1)~(3)を満たすプロピレン系重合体が挙げられる。
(1)構成単位が炭素数4以下のオレフィン単量体からなる重合体である。
(2)プロピレン含有率が50モル%以上の重合体である。なお、プロピレン含有率は、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。
(3)融点(Tm)が125℃以下の重合体である。なお、Tmは、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。さらに、Tmは、好ましくは60℃以上である。
【0019】
(反応性基を有さないオレフィン系重合体(A11))
前記反応性基を有さないオレフィン系重合体(A11)(重合体(A11))としては、公知の各種オレフィン系重合体及びオレフィン系共重合体を用いることができる。具体的には、特に限定されないが、以下のポリオレフィンを挙げることができる。エチレン又はプロピレンの単独重合体;エチレン及びプロピレンの共重合体;エチレン及び/又はプロピレンと、その他のコモノマー(例えば、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、シクロペンテン、シクロヘキセン、及びノルボルネンなどの炭素数4以上のα-オレフィンコモノマー)との共重合体;前記その他のコモノマーから選択される2種以上からなる共重合体;炭素数2以上のα-オレフィンモノマーと、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体;炭素数2以上のα-オレフィンモノマーと、芳香族ビニルモノマーなどのコモノマーとの共重合体又はその水素添加体;共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物等。なお、単に「共重合体」という場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0020】
前記炭素数2以上のα-オレフィンモノマーは、炭素数2~4のα-オレフィンモノマーが好ましい。さらに、重合体(A11)は、前記ポリオレフィンを塩素化した塩素化ポリオレフィンであってもよい。その場合、塩素化ポリオレフィンの塩素化度は、通常5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。また塩素化度は、通常40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0021】
前記重合体(A11)の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、塩素化プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)などが挙げられる。これらの重合体(A11)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記重合体(A11)は、プロピレン単独重合体、又は、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体が好ましく、これらは塩素化されていてもよい。重合体(A11)は、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、又は塩素化プロピレン-ブテン共重合体がより好ましい。また、前記重合体(A11)は、塩素原子を含まないものであることがさらに好ましく、塩素原子を含まない、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体が特に好ましい。
【0023】
また、前記重合体(A11)は、その構成単位としてプロピレンを含有するプロピレン系重合体が好ましい。該プロピレン系重合体中のプロピレンの含有率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。通常、プロピレンの含量が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向にある。
【0024】
前記重合体(A11)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて測定し、各々のポリオレフィンの検量線で換算した場合に、5,000~500,000であることが好ましい。下限値のより好ましい値は10,000、さらに好ましくは20,000、特に好ましくは30,000である。上限値のより好ましい値は300,000である。Mwが5,000より高くなるほどべたつき度合いが小さくなり、基材への密着性が増す傾向がある。また、Mwが500,000より低くなるほど粘度が低下し、水性樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。なお、GPC測定は、オルトジクロロベンゼンなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0025】
また、前記重合体(A11)の融点(Tm)は、125℃以下が好ましい。下限値の好ましい値は60℃以上である。また、上限値のより好ましい値は100℃以下であり、さらに好ましい値は90℃以下である。融点が60℃以上であれば、樹脂にベタツキが生じることがなく、塗料として用いる場合に取扱いが容易となる。また、融点が125℃以下であれば、乾燥や焼付けに高い温度を必要としないため好ましい。
【0026】
前記重合体(A11)の製造方法は、本発明の要件を満たす重合体を製造できる方法であれば特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。製造方法としては、例えばラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合などが挙げられる。これらは、リビング重合的であってもよい。
【0027】
また、配位重合の場合は、例えばチーグラー・ナッタ触媒により重合する方法や、シングルサイト触媒により重合する方法が挙げられる。好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般にシングルサイト触媒が、配位子のデザインにより分子量分布や立体規則性分布をシャープにすることができる点が挙げられる。シングルサイト触媒としては、例えばメタロセン触媒、ブルックハート型触媒を用いることができる。メタロセン触媒としては、C1対称型、C2対称型、C2V対称型、CS対称型などの対称型を有するものが知られている。本発明においては、重合するポリオレフィンの立体規則性に応じて、適切な対称型のメタロセン触媒を選択して用いればよい。
【0028】
また、重合は、溶液重合、スラリー重合、バルク重合、気相重合などいずれの形態でもよい。溶液重合やスラリー重合の場合、溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ハロゲン化炭化水素;エステル類;ケトン類;エーテル類などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、トルエン、キシレン、ヘプタン、及びシクロヘキサンがより好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、重合体(A11)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0029】
(反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12))
前記反応性基を有する変性オレフィン系重合体(A12)(重合体(A12))としては、重合時にオレフィンと反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A12a)や、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をオレフィン系重合体にグラフト重合したグラフト重合体(A12b)等が挙げられる。
【0030】
前記共重合体(A12a)は、オレフィンと、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα、β-不飽和カルボン酸又は無水物とを共重合したものが挙げられる。共重合体(A12a)の具体例としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共重合体(A12a)の製造方法としては、前記重合体(A11)に関して述べた方法を同様に用いることができる。
【0031】
グラフト重合体(A12b)は、オレフィン系重合体に、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合することにより得られる。該オレフィン系重合体としては、上述の重合体(A11)を使用することができる。また、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物における反応性基としては、カルボキシル基及びその無水物、アミノ基、エポキシ基、イソシアナト基、スルホニル基、水酸基などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基及びその無水物が好ましい。反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸又はその無水物、イタコン酸又はその無水物、クロトン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称であり、他もこれに準ずる。
【0032】
前記グラフト重合体(A12b)の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、アクリル酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、アクリル酸変性エチレン-プロピレン共重合体及びその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン-ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
グラフト重合に用いるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤から適宜選択して使用することができ、例えば有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。前記有機過酸化物としては、ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類;ジ(t-ブチル)パーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートなどのパーオキシエステル類等を挙げることができる。前記アゾニトリルとしては、アゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾイルパーオキシド及びt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ラジカル重合開始剤と、グラフト重合体(A12b)のグラフト共重合単位の使用割合は、通常、ラジカル重合開始剤:グラフト共重合単位=1:100~2:1(モル比)の範囲であり、好ましくは1:20~1:1の範囲である。グラフト重合の反応温度は、通常50℃以上であり、好ましくは80~200℃の範囲である。グラフト重合の反応時間は、通常2~20時間程度である。
【0035】
グラフト重合体(A12b)の製造方法は、本発明の要件を満たす重合体を製造できる方法であれば特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。製造方法としては、例えば、溶液中で加熱攪拌して製造する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して製造する方法、押し出し機で加熱混練して製造する方法等が挙げられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、前記重合体(A11)の製造方法において例示した溶媒を同様に用いることができる。
【0036】
前記反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をオレフィン系重合体にグラフト重合したグラフト重合体(A12b)中の反応性基の含有量は、オレフィン系重合体1g当たり0.01~1mmol、すなわち0.01~1mmol/gの範囲であることが好ましい。より好ましい下限値は0.05mmol/gであり、さらに好ましくは0.1mmol/gである。より好ましい上限値は0.5mmol/gであり、さらに好ましくは0.3mmol/gである。反応性基の含有量が0.01mmol/gより多くなるほど、親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にある。また、反応性基の含有量が1mmol/gより少なくなるほど、ポリプロピレン基材に対する密着性が増す傾向にある。
【0037】
前記グラフト重合体(A12b)中の反応性基が、カルボキシル基またはその無水物、スルホニル基のような酸性基である場合、該酸性基を塩基性化合物で中和することにより、水性樹脂分散体(D)の機械安定性が良好となる傾向にある。前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基;トリエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、トリエタノールアミン、モルフォリン、ピリジンなどの有機塩基等が挙げられる。塩基性化合物による中和率は、水への分散性が得られれば1~100モル%の範囲で特に限定されないが、50モル%以上であることが好ましい。中和率が低いと水への分散性が低下する。
【0038】
本発明において、オレフィン重合体(A)は水性樹脂分散体の形態で用いてもよい。水性樹脂分散体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、オレフィン重合体(A)、水、及び水以外の溶媒の混合物を調製した後、該混合物から該溶媒を除去することにより分散体とする方法や、オレフィン重合体(A)が溶融する温度以上で該重合体を溶融させた後に水を添加して分散体とする方法などが挙げられる。
【0039】
また、前記オレフィン重合体(A)の水性樹脂分散体は、界面活性剤を含有させて分散させる方法や、オレフィン重合体に水溶性の高分子をグラフト結合させたグラフト共重合体を用いて分散させる方法によって製造してもよい。耐水性に優れることから、後者が好ましい。
【0040】
前記水以外の溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-メトキシプロパノール、2-エトキシプロパノールが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
このようなオレフィン重合体(A)の水性樹脂分散体としては、例えば、スーパークロン(登録商標)シリーズ(日本製紙(株)製)、アウローレン(登録商標)シリーズ(日本製紙(株)製)、ハードレン(登録商標)シリーズ(東洋紡(株)製)、アプトロック(登録商標)シリーズ(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0042】
<重合体(C)>
重合体(C)は、ラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含有する。
【0043】
[ラジカル重合性単量体(B)]
本発明に係るラジカル重合性単量体(B)は、下記一般式(1)で表される。重合体(C)にラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含有することで、得られる塗膜のポリプロピレン基材への密着性が優れる傾向にある。
【0044】
【化2】
【0045】
一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは炭素数3~5の直鎖又は分岐のアルキル基である。nは1~20の整数であり、1であることが好ましい。
【0046】
ラジカル重合性単量体(B)としては、例えば、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシブチル、アクリル酸ポリプロピレングリコール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレン基材への密着性が優れることから、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチルが好ましい。
【0047】
ラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含む重合体(C)の水酸基価は、1~200mgKOH/gが好ましい。前記水酸基価は、1~160mgKOH/gがより好ましく、1~100mgKOH/gがさらに好ましい。水酸基価が100mgKOH/g以下である場合には、ポリプロピレン基材への密着性がより向上する傾向にある。なお、水酸基価は、下式によって計算される。
水酸基価(mgKOH/g)=(f×M1/Mw/M2×〔KOH〕×1,000)
f:水酸基含有単量体の水酸基の数
〔KOH〕:KOHの分子量
M1:水酸基含有単量体の質量(g)
M2:重合体(C)の合計質量(g)
Mw:水酸基含有単量体の分子量(数平均分子量)
【0048】
重合体(C)に含まれるラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位の割合は、好ましくは0.01~50質量%である。前記含有割合は、より好ましくは0.05~40質量%、さらに好ましくは0.1~30質量%である。前記含有割合が50質量%以下であれば、ポリプロピレン基材への密着性が向上する傾向にある。また、前記含有割合が0.01質量%以上であれば、耐水性が向上する傾向にある。
【0049】
重合体(C)は、ラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位の他に、該ラジカル重合性単量体(B)以外のビニル系単量体由来の構成単位を有していてもよい。このようなビニル系単量体としては、ラジカル重合性単量体(B)との重合性に優れるものが好ましい。ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体;スチレンやα-メチルスチレンなどの芳香族系単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系単量体;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、耐候性及び耐溶剤性の点から、(メタ)アクリル系単量体及び芳香族系単量体が好ましい。(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等;炭素原子数6~12のアリール基またはアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸ベンジル等;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレンオキサイドの付加物等;フッ素原子を含有する炭素原子数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、例えば(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パ-フルオロエチルエチル等を挙げることができる。また、芳香族系単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
これらの中でも、ポリプロピレン基材への密着性の点から、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸ブチル、スチレン、メタクリル酸シクロヘキシルが好ましく、アクリル酸ブチルがより好ましい。
【0051】
水性樹脂分散体(D)の溶剤安定性の観点から、重合体(C)には、酸性基を含有したラジカル重合性単量体由来の構成単位が含まれてもよい。この酸性基を含有したラジカル重合性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有重合性単量体;2-メタクロイロキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有重合性単量体;スチレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩含有重合性単量体が挙げられる。これらの中でも、重合安定性の観点から、カルボキシル基含有重合性単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
<重合体(IC)>
重合体(IC)は、酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含有する。重合体(IC)にラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含有することで、得られる水性樹脂分散体(ID)が溶剤安定性に優れる傾向にある。
【0053】
[酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)]
酸性基を含有するラジカル重合性単量体(IB)(以下、単に「ラジカル重合性単量体(IB)」とも称する。)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有重合性単量体;2-メタクロイロキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有重合性単量体;スチレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩含有重合性単量体が挙げられる。これらの中でも、重合安定性の観点から、カルボキシル基含有重合性単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
本発明において、ラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含有する重合体(IC)の酸価は、1~9mgKOH/gである。前記酸価は、1.5~8mgKOH/gであることが好ましく、2~7mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が9mgKOH/gより大きい場合には、ポリプロピレン基材への密着性が低減する傾向にある。また、酸価が1mgKOH/gよりも小さい場合には、粒子安定性が低減する傾向にある。なお、本発明において、重合体(IC)の酸価は、下式より計算される値である。
【0055】
酸価(mgKOH/g)=(f×M1/Mw/M2×〔KOH〕×1,000)
f:ラジカル重合性単量体(IB)の酸性基の数
〔KOH〕:KOHの分子量
M1:ラジカル重合性単量体(IB)の質量(g)
M2:重合体(IC)の合計質量(g)
Mw:ラジカル重合性単量体(IB)の分子量(数平均分子量)
【0056】
重合体(IC)中のラジカル重合性単量体(IB)の含有量(固形分)は、0.01~5質量%であることが好ましい。前記含有量は、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.01~2質量%であることがさらに好ましい。ラジカル重合性単量体(IB)の含有量が5質量%以下であれば、ポリプロピレン基材への密着性が向上する傾向にある。また、ラジカル重合性単量体(IB)の含有量が0.01質量%以上であれば、粒子安定性が向上する傾向にある。
【0057】
本発明のラジカル重合性単量体(IB)は、重合前や重合後に塩基性化合物で中和されていてもよい。製造安定性の観点から、重合後に塩基性化合物で中和することが好ましい。中和することにより、得られる重合体(IC)の機械安定性や溶剤安定性が向上する傾向にある。前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基;トリエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、トリエタノールアミン、モルフォリン、ピリジンなどの有機塩基等が挙げられる。塩基性化合物による中和率は、機械安定性や溶剤安定性が得られれば、1~100モル%の範囲で特に限定されないが、50モル%以上であることが好ましい。中和率が低いと、機械安定性や溶剤安定性が低下する場合がある。
【0058】
重合体(IC)は、ラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位の他に、該ラジカル重合性単量体(IB)以外のビニル系単量体由来の構成単位を有していてもよい。このようなビニル系単量体としては、ラジカル重合性単量体(IB)との重合性に優れるものが好ましい。ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体;スチレンやα-メチルスチレンなどの芳香族系単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系単量体;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。
【0059】
これらの中でも、耐候性及び耐溶剤性の点から、(メタ)アクリル系単量体及び芳香族系単量体が好ましい。(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等;炭素原子数6~12のアリール基またはアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸ベンジル等;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレンオキサイドの付加物等;フッ素原子を含有する炭素原子数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、例えば(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パ-フルオロエチルエチル等を挙げることができる。また、芳香族系単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
これらの中でも、ポリプロピレン基材への密着性の点から、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、スチレンが好ましく、アクリル酸ブチルがより好ましい。
【0060】
また、水性樹脂分散体とメラミン樹脂とイソシアネート等の架橋剤とを混合し、塗料組成物としたときに、塗膜性能が向上することから、重合体(IC)は、水酸基含有ビニル系単量体を含むことが好ましい。水酸基含有ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。水酸基含有ビニル系単量体の含有量(固形分)は、重合体(IC)中に0.01~50質量%であることが好ましい。
【0061】
<水性樹脂分散体(D)>
本発明において、水性樹脂分散体(D)とは、オレフィン重合体(A)及び重合体(C)が水性媒体に分散している樹脂分散体をいう。
【0062】
水性樹脂分散体(D)中では、オレフィン重合体(A)と重合体(C)は別々の粒子として分散していてもよく、オレフィン重合体(A)及び重合体(C)の両方を含む粒子として分散していてもよい。水性樹脂分散体の安定性の観点から、好ましくは後者である。
【0063】
水性樹脂分散体(D)の粒子構造は、一般的なゲル包埋法で作製した超薄切片をRuOにて染色を行い、透過電子顕微鏡を用いて観測することができる。
【0064】
前記水性媒体は、水及び/又は水以外の溶媒を含む。水以外の溶媒としては、前記オレフィン重合体(A)の水性樹脂分散体に関して例示したものを挙げることができる。
【0065】
水性樹脂分散体(D)に含まれる重合体(C)とオレフィン系重合体(A)の比率(固形分、(C)/(A))は、0.5~2であることが好ましい。この範囲内において、前記比率が大きくなるほど水性樹脂分散体(D)を安定に製造することができ、水性樹脂分散体(D)の貯蔵安定性が向上する。また、前記範囲内において、前記比率が小さくなるほど塗膜の初期密着性が良好となる。
【0066】
水性樹脂分散体(D)には、貯蔵安定性を向上させる目的で界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、各種のアニオン性、カチオン性、もしくはノニオン性の界面活性剤、または高分子界面活性剤を用いることができる。さらに、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、いわゆる反応性界面活性剤も使用することができる。これらの中でも、得られる水性樹脂分散体(D)の貯蔵安定性向上の点から、アニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、反応性界面活性剤であるアデカリアソープSR(商品名、(株)ADEKA製)や、非反応性界面活性剤であるネオコールSW-C(商品名、第一工業製薬(株)製)を用いることができる。
【0067】
また、界面活性剤(固形分)は、重合体(C)100質量部(固形分)に対し、3質量部以下の割合で含有されていることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましい。界面活性剤の含有割合を3質量部以下とすることにより、水性樹脂分散体(D)の貯蔵安定性が向上する。また、耐水性を損なうことがなく、塗料組成物に用いた場合における安定性を維持することができる。
【0068】
[水性樹脂分散体(D)の製造方法]
本発明に係る水性樹脂分散体(D)の製造方法は特に限定されないが、オレフィン系重合体(A)の水性樹脂分散体中で重合体(C)の原料単量体を重合させる方法や、オレフィン系重合体(A)と重合体(C)の原料単量体を溶解させて、水性樹脂分散体とした後に重合させる方法などが挙げられる。原料単量体の重合性の観点から、好ましくは前者である。
【0069】
さらに、水性樹脂分散体(D)の製造方法としては、本発明の効果を損なわない限り、一括重合及び/又は滴下重合を用いることができる。ここで、一括重合とは、一度に単量体全量を仕込んで重合する方法である。また、滴下重合とは、単量体を少しずつ滴下して重合する方法である。重合安定性及びプロピレン基材に対する密着性の観点から、一括重合が好ましい。一括重合は、例えば、オレフィン系重合体(A)の水性樹脂分散体と、オレフィン系重合体(A)の質量の0.5~2倍の重合体(C)の原料であるラジカル重合性単量体(B)とを混合した後に、開始剤によりラジカル重合することにより行うことができる。滴下重合は、例えば、オレフィン系重合体(A)に、ラジカル重合下で重合体(C)の原料であるラジカル重合性単量体(B)を滴下することにより行うことができる。
【0070】
重合反応に用いる開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用されるものを使用することができる。具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}及びその塩類;2,2’-アゾビス(2-メチルプロピンアミジン)及びその塩類;2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
本発明では、さらに還元剤を添加して、レドックス系重合反応を行ってもよい。本発明の好ましいラジカル重合方法は、水溶性開始剤を用いて重合を行う方法や、開始剤として有機過酸化物を用いて、還元剤として硫酸第一鉄やイソアスコルビン酸等を用いたレドックス反応により重合を行う方法である。
【0072】
重合反応を行う際は、分子量調整剤として、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
【0073】
重合反応が完結した後、冷却して、水性樹脂分散体を取り出す際には、異物やカレットの混入を防止するため、濾過操作を行うことが好ましい。濾過方法については公知の方法を使用することができ、例えばナイロンメッシュ、バグフィルター、濾紙、金属メッシュ等を用いることができる。
【0074】
<オレフィン系水性樹脂分散体(ID)>
本発明において、オレフィン系水性樹脂分散体(ID)とは、前記オレフィン重合体(A)と前記重合体(IC)とが、水性媒体に分散している樹脂分散体をいう。
【0075】
水性媒体とは、水及び/又は水以外の溶媒である。水以外の溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-メトキシプロパノール、2-エトキシプロパノールが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
水性樹脂分散体(ID)は、オレフィン重合体(A)と、ラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含む重合体(IC)とが水性媒体に分散した水性樹脂分散体であればよい。したがって、該水性樹脂分散体は、オレフィン重合体(A)と重合体(IC)が別々の粒子として分散した水性樹脂分散体であっても、オレフィン重合体(A)と重合体(IC)を同一粒子内に含む粒子が分散した水性樹脂分散体であってもよい。水性樹脂分散体の粒子安定性の観点から、好ましくは後者である。
【0077】
本発明において、水性樹脂分散体(ID)中のオレフィン重合体(A)と重合体(IC)の含有量(固形分の質量比)は、オレフィン重合体(A):重合体(IC)=10:90~90:10である。前記比率は、オレフィン重合体(A):重合体(IC)=20:80~90:10であることが好ましく、オレフィン重合体(A):重合体(IC)=30:70~90:10であることがより好ましい。オレフィン重合体(A)の比率が、上記下限値よりも少ない場合には、ポリプロピレン基材への密着性が低下する傾向にある。また、オレフィン重合体(A)の比率が、上記上限値よりも多い場合には、機械安定性が低下する傾向にある。なお、水性樹脂分散体(ID)に含まれる重合体(IC)の含有量とは、該重合体(IC)を構成する各単量体の合計含有量を意味する。
【0078】
水性樹脂分散体(ID)は、貯蔵安定性を向上させる目的で界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、各種のアニオン性、カチオン性、もしくはノニオン性の界面活性剤、または高分子界面活性剤を用いることができる。さらに、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、いわゆる反応性界面活性剤も使用することができる。これらの中でも、得られる水性樹脂分散体の貯蔵安定性向上の点から、アニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、反応性界面活性剤であるアデカリアソープSR(商品名、(株)ADEKA製)や、非反応性界面活性剤であるネオコールSW-C(商品名、第一工業製薬(株)製)を用いることができる。
【0079】
また、界面活性剤(固形分)は、重合体(IC)100質量部(固形分)に対し、3質量部以下の割合で含有されていることが好ましく、2質量部以下の割合であることがより好ましい。界面活性剤の含有量を3質量部以下とすることにより、水性樹脂分散体の貯蔵安定性が向上する。また、界面活性剤の含有割合を2質量部以下とすることによって、耐水性を損なうことなく、塗料組成物に用いた場合における安定性を維持することができる。
【0080】
[水性樹脂分散体(ID)の製造方法]
水性樹脂分散体(ID)の製造方法は特に限定されないが、オレフィン系重合体(A)の水性樹脂分散体中でラジカル重合性単量体(IB)を含むラジカル重合性単量体を重合させて、重合体(IC)を得る方法や、オレフィン系重合体(A)とラジカル重合性単量体(IB)を含むラジカル重合性単量体とを溶解させて、水性樹脂分散体とした後に重合させる方法などが挙げられる。ラジカル重合性単量体の重合性の観点から、好ましくは前者である。
【0081】
水性樹脂分散体(ID)のより好ましい製造方法は、オレフィン系重合体(A)の水性樹脂分散体の存在下に、ラジカル重合性単量体(IB)とビニル系単量体の80~100質量%を一括で供給し、水溶性開始剤を用いて重合を行う方法や、有機過酸化物とチオ硫酸ナトリウム等の還元剤を用いたレドックス開始剤により重合を行う方法である。
【0082】
開始剤としては、一般的にラジカル重合に用いられるものを使用することができる。具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}及びその塩類;2,2’-アゾビス(2-メチルプロピンアミジン)及びその塩類;2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
また本発明では、得られる水性樹脂分散体の重合率の点から、重合温度を50℃以上とすることが好ましい。この場合、開始剤として重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、イソアスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤を、水溶性のラジカル重合触媒と組み合わせて用いることが好ましい。
【0084】
重合時間は30分間以上とすることが好ましい。重合時間が30分間未満である場合には、ラジカル重合性単量体が十分に重合せず、重合率が劣る傾向にある。また、重合時間は3時間以下とすることが好ましい。重合時間が3時間を越える場合には、重合時にカレットが多量に発生し、製造安定性が劣る傾向にある。
【0085】
さらに本発明では、重合反応を行う際に、分子量調整剤として、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
【0086】
重合反応が完結した後、冷却して、水性樹脂分散体を取り出す際には、異物やカレットの混入を防止するために、濾過を行うことが好ましい。濾過方法としては公知の方法を使用することができ、例えば、ナイロンメッシュ、バグフィルター、濾紙、金属メッシュ等を用いることができる。
【0087】
本発明の水性樹脂分散体(D)及び水性樹脂分散体(ID)は、プライマー、塗料、接着剤、インキバインダー、ポリオレフィンと異種材料との相溶化剤等に用いることができ、特に塗料、接着剤、インキバインダーとして有用である。用途としては、自動車内装用・外装用等の自動車用塗料、携帯電話・パソコン等の家電用塗料、建築材料用塗料、ヒートシール剤等を挙げることができる。これらの中でも、プラスチック基材、特にポリプロピレン基材用のプライマー塗料として特に好ましい。
【0088】
本発明に係る水性樹脂分散体を塗料に用いる場合、塗料組成物の構成成分としては、本発明により得られる水性樹脂分散体の他に、無機充填剤、樹脂ビーズ、造膜助剤、基材濡れ剤、基材湿潤剤、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、着色剤、消泡剤、増粘剤などの各種添加剤が必要に応じて含まれてもよい。これら添加剤としては、公知のものを用いることができる。
【0089】
また、前記塗料組成物には、乾燥速度を上げる目的または仕上がり感の良好な表面を得る目的で、有機溶媒を造膜助剤として配合することができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール類及びそのエーテル類等が挙げられる。
【実施例
【0090】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。なお、実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。また、水性樹脂分散体の各評価は、以下に示す方法で行った。
【0091】
<水性樹脂分散体の評価>
1.初期密着性
(塗料の作製)
水性樹脂分散体の固形分に対し、造膜助剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル60部、及び基材濡れ剤としてTEGO(登録商標) WET KL-245(商品名、EVONIK社製)とBYK-345(商品名、ビックケミー・ジャパン(株)製)とを3部ずつ加え、ホモディスパー攪拌機(商品名:ポリトロンPT-3100、(株)セントラル科学貿易製)を用いて、700rpmにて5分間攪拌した。室温で一日放置した後、300メッシュを用いて濾過を行うことにより、水性塗料を得た。
【0092】
次に、ポリプロピレン樹脂(商品名:TSOP-6、JPP(株)製)から成形した厚さ3mmの基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。この基板に、得られた水性塗料を乾燥膜厚が20μmとなるようにスプレー塗布し、10分間室温でセッティングした後、セーフベンドライヤー中、80℃の雰囲気で30分間乾燥させて塗膜を形成した。これを室温で1日静置して、試験片を得た。
【0093】
次いで、試験片の塗膜面に、基材に達するように縦横1mm間隔で各11本の切り込みを入れて100個の碁盤目を作った。そして、この碁盤目上にセロハン粘着テープを貼りつけた後、該粘着テープを急激に剥がした後の塗膜の状態を観察し、剥離された塗膜のマス(剥離マス)の数を確認した。初期密着性は、下記の評価基準に基づき評価した。
○(Excellent):100マス中、剥離マスが0~9マスである。
△(Average):100マス中、剥離マスが10~19マスである。
×(Bad):100マス中、剥離マスが20~100マスである。
【0094】
2.耐水性(質量減少率)
ガラス基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。該ガラス基板上に、得られた水性樹脂分散体を乾燥膜厚が100μmとなるように塗布した。そして、セーフベンドライヤー中、90℃の雰囲気で30分間乾燥させて塗膜を形成した。これを室温で1日静置し、ガラス基板から塗膜を剥離して、試験片を得た。
作製した試験片を10mm×10mmに切断し、質量(初期質量:W1)が1gとなるようにサンプル瓶に入れた。サンプル瓶に水100mlを投入した後、40℃で10日間恒温器にて保管した。保管後、試験片を取り出して質量(40℃10日間後の質量:W2)を測定し、質量減少率を以下の計算式より算出した。
質量減少率(質量%)={(W1(g)-W2(g))/W1(g)}×100
○(Excellent):質量減少率が2.0質量%以下
△(Average):質量減少率が2.1質量%以上、3.0質量%以下
×(Bad):質量減少率が3.1質量%以上
【0095】
3.溶剤安定性
本発明の水性樹脂分散体に、該水性樹脂分散体の固形分に対して20質量%の2-エチルヘキサノールを加え、ホモディスパー攪拌機(商品名:ポリトロンPT-3100、(株)セントラル科学貿易製)を用いて5分間撹拌した。得られた水性樹脂分散体について、粒ゲージで凝集物の有無を観察した。溶剤安定性を下記評価基準で評価した。この溶剤安定性は水性樹脂分散体の分散安定性を示すものである。
○(Excellent):凝集物なし。
△(Average):凝集物が発生するが、凝固までは至らず。
×(Bad):凝固した。
【0096】
4.水性樹脂分散体の粒子構造観察
水性樹脂分散体を湯浴で溶解したアガロースゲルに添加して冷却固化した後、約1mm角の大きさに切り出し、含浸している水をエポキシ樹脂に置換した。次いで、ゼラチンカプセル中で重合硬化し、ウルトラミクロトームで厚さ70nmの超薄切片を作製した。得られた超薄切片について、透過電子顕微鏡(商品名:H-7600、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、加速電圧80kVにて観察を行った。
【0097】
<水性樹脂分散体(D)の製造>
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、オレフィン重合体(A)としてアプトロック(登録商標)BW-5683(三菱ケミカル(株)製:固形分29.6%)を336.7部、脱イオン水を119.6部、界面活性剤としてアデカリアソープSR-1025(商品名、(株)ADEKA製:固形分25%)を8.0部仕込み、30℃に昇温した。
次いで、ラジカル重合性単量体(B)として、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル5.2部、その他のビニル系単量体としてアクリル酸ブチル94.8部を入れて、60℃に昇温し、1時間保持した。さらに、開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油(株)製、固形分69%):0.02部と、還元剤として、硫酸第一鉄:0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA):0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物:0.08部、脱イオン水:1部を添加し、重合を開始した。
重合の発熱ピークを検出した後、パーブチル(登録商標)H69:0.03部、及び脱イオン水:10.0部を15分間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で30分間熟成し、水性樹脂分散体(D)を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性、耐水性及び溶剤安定性の評価を行った。評価結果を表1に示した。なお、表1に示す質量部は全て固形分の質量部を示す。
【0098】
[実施例2]
攪拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、オレフィン重合体(A)としてアプトロック(登録商標)BW-5683(三菱ケミカル(株)製:固形分29.6%)を336.7部、脱イオン水を119.6部、界面活性剤としてアデカリアソープSR-1025(商品名、(株)ADEKA製:固形分25%)を8.0部仕込み、30℃に昇温した。
次いで、ラジカル重合性単量体(B)として、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル10.4部、その他のビニル系単量体としてアクリル酸ブチル89.6部を入れて、60℃に昇温し、1時間保持した。さらに、開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油(株)製、固形分69%):0.02部と、還元剤として、硫酸第一鉄:0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA):0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物:0.08部、脱イオン水:1部を添加し、重合を開始した。
重合の発熱ピークを検出した後、パーブチル(登録商標)H69:0.03部、及び脱イオン水:10.0部を15分間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で30分間熟成し、水性樹脂分散体(D)を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性、耐水性及び溶剤安定性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
なお、得られた水性樹脂分散体(D)の粒子構造を所定の透過電子顕微鏡を用いて解析したところ、オレフィン重合体(A)と重合体(C)とを含む粒子が観察された。
【0099】
[実施例3~6、比較例1、2]
ラジカル重合性単量体(B)、その他のビニル系単量体、及び界面活性剤並びにその配合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性、耐水性及び溶剤安定性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
なお、表1中の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。
HPMA:メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル
4HBA:アクリル酸4-ヒドロキシブチル
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
BA:アクリル酸ブチル
【0102】
表1に示すように、本発明の実施例1~6に係る水性樹脂分散体は、オレフィン重合体(A)と、前記一般式(1)中のRが水素原子又はメチル基であり、Xが炭素数3又は4の直鎖又は分岐アルキレン基であり、nが1であるラジカル重合性単量体(B)由来の構成単位を含む重合体(C)とを含有する。さらに、該水性樹脂分散体においては、それらがオレフィン重合体(A)と重合体(C)の両方を含む粒子として分散しているため、得られた塗膜は、初期密着性と耐水性に優れていた。
一方、比較例1、2に係る水性樹脂分散体は、ラジカル重合性単量体(B)として、前記一般式(1)中のXが炭素数2の直鎖アルキル基であるビニル系単量体を含むものであるため、得られた塗膜は、初期密着性が劣っていた
【0103】
<オレフィン系水性樹脂分散体(ID)の製造>
[実施例7]
攪拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、オレフィン重合体(A)としてアプトロックBW-5635(商品名、三菱ケミカル(株)製、固形分30.0%)を333.3部、脱イオン水を119.6部、界面活性剤としてアデカリアソープSR-1025(商品名、(株)ADEKA製:固形分25%)を8.0部仕込み、30℃で保持した。
次いで、ラジカル重合性単量体(IB)としてメタクリル酸0.5部、ビニル系単量体として、アクリル酸4-ヒドロキシブチル10.4部、メタクリル酸イソブチル44.6部、及びアクリル酸ブチル44.6部を入れて、50℃で1時間保持した。
さらに、開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油(株)製)0.02部及び、脱イオン水を1.0部、硫酸鉄・7水和物0.002部、エチレンジアミン四酢酸0.00027部、エリソルビン酸ナトリウム0.08部を投入し、重合を開始した。
重合の発熱ピークを検出した後、パーブチルH69:0.03部及び脱イオン水10.0部を15分間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で30分間熟成し、次いで、30℃まで冷却した。その後、ジメチルエタノールアミン0.5質量部を添加して30分間撹拌し、系内を中和した。このようにして、平均粒子径150nmの水性樹脂分散体(ID)を得た。得られた水性樹脂分散体について、初期密着性及び溶剤安定性の評価を行った。評価結果を表2に示した。なお、表2に示す質量部は全て固形分の質量部である。
【0104】
[実施例8~14]
オレフィン重合体(A)に対する、ラジカル重合性単量体(IB)、ビニル系単量体、界面活性剤及びアミンの配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例7と同様にして水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について、実施例7と同様に各評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0105】
なお、表2中の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
iBMA:メタクリル酸イソブチル
DMEA:ジメチルエタノールアミン
【0106】
【表2】
【0107】
表2に示すように、本発明の実施例7~12に係る水性樹脂分散体では、ラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含有する重合体(IC)の酸価が1~9mgKOH/gであるため、初期密着性及び溶剤安定性に優れていた。なお、実施例13及び14に係る水性樹脂分散体では、ラジカル重合性単量体(IB)由来の構成単位を含有する重合体(IC)の酸価が低いため、実施例7~12に係る水性樹脂分散体に比して溶剤安定性が劣っていた。