(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー
(51)【国際特許分類】
C08G 18/65 20060101AFI20240507BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20240507BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20240507BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08G18/65 011
C08G18/44
C08G18/73
C08G18/75
(21)【出願番号】P 2021516260
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017687
(87)【国際公開番号】W WO2020218507
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-09-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019083088
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019083089
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山下 亮
(72)【発明者】
【氏名】大原 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 光治
(72)【発明者】
【氏名】山中 貴之
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】小出 直也
【審判官】近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0031157(KR,A)
【文献】国際公開第2014/144839(WO,A1)
【文献】特開2017-128675(JP,A)
【文献】国際公開第2014/104134(WO,A1)
【文献】特開2015-143316(JP,A)
【文献】特開2018-104486(JP,A)
【文献】特開2013-95895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L75/00-75/16, C08K3/00-13/08, C08G18/00-18/87, B29C48/00-48/96, B32B27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート化合物(I)と、
エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーであって、
該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、
該イソシアネート化合物(I)中の該イソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量が80モル%以上であり
、
該ポリオール(III)に含まれる下記式(A)で表される直鎖状の繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(A)」と称す。)と下記式(B)で表される繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(B)」と称す。)とを含む共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、
該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比(但し、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比)であり、
該共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上、5,000以下である熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【化1】
上記式(A)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,5-ペンタンジオールのいずれか1種以上と炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
上記式(B)は、炭素数8~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
【請求項2】
前記ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):前記イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):前記脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が、0.97≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.03の当量比である請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項3】
前記繰り返し単位(B)が、1,12-ドデカンジオール、1,10-デカンジオール、1,9-ノナンジオール、及び1,8-オクタンジオールのいずれか1種以上と炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位である請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項4】
前記イソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又はイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1から3のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項5】
イソシアネート化合物(I)と、
エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーであって、
該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、
該イソシアネート化合物(I)中の該イソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量が80モル%以上であり
、
該ポリオール(III)に含まれる下記式(A)で表される直鎖状の繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(A)」と称す。)と下記式(B)で表される繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(B)」と称す。)とを含む共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、
該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比(但し、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比)であり、
該共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上、5,000以下であり、
該熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー中のバイオマス資源の含有率が10質量%以上である熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【化1A】
上記式(A)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,5-ペンタンジオールのいずれか1種以上と炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
上記式(B)は、炭素数8~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
【請求項6】
前記ポリオール(III)の原料ジオール中の非可食植物由来のバイオマス資源の含有率が10質量%以上である請求項
5に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを、JIS K6301(2010)に準じ、幅10mm、長さ100mm、厚み50μmの短冊状の試験片とし、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM-III-100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃及び40℃にて、相対湿度55%で引張試験を実施し、該試験片を100%伸長した時点での応力(100%モジュラス)において、23℃で測定した100%モジュラスに対する40℃で測定した100%モジュラスの強度比(百分率)が70%以上であり、且つ
当該熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーよりなるフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出し、精密天秤で試験片の重量を測定した後、試験溶媒としてオレイン酸を50mlを入れた容量250mlのガラス瓶に投入して、80℃の窒素雰囲気下の恒温槽にて16時間静置し、試験後、試験片を取り出して、表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出した時の質量変化率が40%以下である請求項1から
6のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを150℃~220℃においてJIS 7210(ISO1133)に準じて、2.16kgの荷重で測定した場合のメルトマスフローレート(MFR)が0.05~150g/10分である請求項1~
7のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項9】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が5万~50万である請求項1~
8のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項10】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である分子量分布(Mw/Mn)が1.5~3.5である請求項1~
9のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【請求項11】
イソシアネート化合物(I)と、
エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する方法であって、
該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、
該イソシアネート化合物(I)中の該イソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量が80モル%以上であり
、
該ポリオール(III)に含まれる下記式(A)で表される直鎖状の繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(A)」と称す。)と下記式(B)で表される繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(B)」と称す。)とを含む共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、
該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)、該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)、該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比となるように反応させることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法。
【化2】
上記式(A)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,5-ペンタンジオールのいずれか1種以上と炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
上記式(B)は、炭素数8~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
【請求項12】
前記イソシアネート化合物(I)、前記脂肪族アルコール(II)及び前記ポリオール(III)を無溶剤で急速攪拌して十分に混合した後、連続して混合、反応させ押出しする装置に供給し、連続的に前記熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する請求項
11に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法。
【請求項13】
請求項1から
10のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、及び滑材よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の添加剤とを含むことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物。
【請求項14】
請求項1から
10のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は請求項
13に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物を用いて得られる厚み30μm~2mmの熱可塑性ポリウレタンフィルム状物。
【請求項15】
請求項
14に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルム状物を用いて得られる自動車外装用フィルム、内・外装用加飾用フィルム、又は内装用合成皮革シート。
【請求項16】
請求項1から
10のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は請求項
13に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物を成形して得られる衣料用フィルム。
【請求項17】
請求項1から
10のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は請求項
13に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物を溶融紡糸して得られるポリウレタン弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種用途において求められる温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つというと特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性及び風合いに優れた無黄変熱可塑性ポリウレタンフィルム及び成形物を提供し得る熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー、及び環境対応のバイオマス資源由来の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー、この熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法、並びにこれらを用いた熱可塑性ポリウレタンフィルム状物、衣料用フィルム、ポリウレタン弾性繊維、自動車外装用フィルム、内装用合成皮革シート等に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー(TPU)は鎖延長剤となる短鎖ジオールとジイソシアネートの反応によって出来たハードセグメントと、ポリオールとジイソシアネートの反応によって出来たソフトセグメントから構成されるブロックコポリマーである。TPUでは、この2つのセグメントはお互いに相溶せずにミクロ相分離した状態で存在し、水素結合を主とする分子間凝集力により結晶相を形成するハードセグメントドメインとソフトセグメントドメイン主体の弱い分子間力(ファンデルワールス力)によって運動性の高いマトリックスからなる高次構造を形成している(非特許文献1、第147頁)。
【0003】
TPUは一般のエラストマーの特徴である、
1)ゴムのような加硫工程が無く成形加工できる
2)幅広い硬度や弾性が得られる
3)自己補強性があり着色が容易
4)リサイクルが可能である
といった全ての特徴を有するが(非特許文献1、第145頁)、単に熱可塑性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂は上記4項目を満たさないものもある。
【0004】
TPUは、他の熱可塑性樹脂(TPE)、例えばポリエステル系(TPEE)、ポリアミド系(TPAE)、スチレン系(SBC)、オレフィン系(TPO)、塩ビ系(TPVC)と比較して、優れた機械強度、弾性特性、耐摩耗性、耐油性等の特性を持つ。このため、TPUから押出成形により製造されるフィルム、シート、チューブ、パイプ等の成形品や、射出成形等により得られる種々の成形品は、種々の用途に用いられている。例えば、押出成形品の用途では耐圧及び消防ホース、搬送及び丸ベルト、キーボード、ホットメルトフィルム、遮水シート、エアーベルト、救命具等が挙げられる。射出成形品の用途ではキャスター、ギア、電気プラグ、スノーチェーン、スポーツシューズ、時計バンドなどが挙げられる。
【0005】
TPUは一般的にジイソシアネート化合物、短鎖ジオール、及び長鎖ジオールを反応させて得られる。中でもイソシアネート化合物として芳香族系の4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、鎖延長剤として1,4-ブタンジオール(14BG)を原料として用いたTPUが、最も広く使用されている。
【0006】
長鎖ジオールにはポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネートジオール系がある。ポリエステル系は機械強度、耐摩耗性に優れるが耐加水分解性が劣る。ポリエーテル系は耐加水分解性、抗菌性、低温柔軟性に優れるが、耐熱性、耐薬品性、耐候性が劣る。ポリカーボネート系は耐加水分解性、耐熱性、耐候性は優れるが、粘度が高く使いにくい欠点を持つ。
【0007】
よって、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの要求特性によってポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールから適宜選択される。耐久性がより重要な熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーにはポリカーボネートジオールが用いられる。しかし、1,6-ヘキサンジオールのホモポリカーボネートジオールを構造単位として有する熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは耐薬品性が不十分であり、また用途によっては弾性率等の機械物性や透明性が不十分である。
【0008】
また、近年は地球環境保護と持続的成長を図るために、化石資源の使用量を削減し炭酸ガスの排出を抑えるバイオマス資源を用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが熱望されている。
バイオマス資源を用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーでは、バイオマス資源のコハク酸を原料としたバイオマス資源のポリエステルポリオールを用いるのが一般的に知られているが、これらは耐加水分解性等の耐久性や耐薬品性が低く、使用分野が制限されるという課題があった。
【0009】
近年、バイオマス資源のポリエステルポリオールの代わりに、バイオマス資源のポリエーテルポリオール、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を用いるのも提供されている。しかし、これらはポリエステルポリオールを用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーと比較して耐加水分解性や柔軟性は改善されるものの、耐薬品性、耐熱性及び耐候性が劣る。
【0010】
さらに、これらのバイオマス資源は人類の食糧問題と競合する可食のとうもろこしを用いているものがほとんどであり、食糧問題と競合しない、非可食のバイオマス資源から作られる、地球環境に最も優しく、且つ諸物性の優れる無黄変熱可塑性樹脂エラストマーが望まれる。
【0011】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、また、近年、自動車のインパネや自動車外装表面などの基材保護を目的としたフィルム、自動車内装用の合成皮革フィルム、衣料の透湿防水フィルムや防水フィルム、芯地接着剤等のホットメルト接着剤や防水目止めテープ、並びにスポーツ用品ではスポーツシューズ、アウトドアスポーツ衣料、ゴルフボールの表皮材などにも用いられているが、温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つという特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐光性、耐薬品・耐汚染性等の耐久性や透明性、風合い等が優れるものがさらに重要となっている。
【0012】
特許文献1には、芳香族基を有する鎖延長剤を用いることを特徴とし1,6-ヘキサンジオールに由来したポリカーボネートジオールをベースとした、室温以上で形状記憶性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが提案されている。
【0013】
特許文献2には、柔軟性、強度、耐水性を改善したポリウレタンエラストマーとして、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール及び芳香族ポリイソシアネート化合物を反応させて得られる主剤と、1,4-ブタンジオール等の硬化剤とを用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが提案されている。
【0014】
特許文献3には、1,10-デカンジオールなどの長鎖の直鎖状ジオールに由来したポリカーボネートジオールをベースとした、耐薬品性、低温特性のバランスが良好なポリウレタンが提案されている。特許文献3には、本発明の効果に寄与する具体的な熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの組成については明示されていない。
【0015】
特許文献4には、同じくリアフェンダーなどの自動車向けの積層フィルムの施工において3次元曲面への密着性や追従性を維持するために、基材として用いる熱可塑性ポリウレタンフィルムの応力緩和性が重要であることが記載されている。
【0016】
特許文献5には、ポリカーボネートベースの熱可塑性ポリウレタンフィルムとウレタンアクリレート系のトップコート層および感圧型接着剤よりなる、主に耐候性および耐熱性に優れたペイントプロテクションフィルム向けの積層フィルムが提案されている。特許文献5には、本発明の効果に寄与する具体的なポリカーボネートジオールの構造について示唆する記載はない。
【0017】
【文献】特開2004-59706号公報
【文献】特開2015-081278号公報
【文献】特開2014-185320号公報
【文献】特開2005-272558号公報
【文献】特開2018-053193号公報
【0018】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーにあっては、各種用途において求められる温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つというと特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性や風合いの更なる向上が求められている。さらに地球温暖化抑制等の環境保護の観点から、バイオマス資源由来の高機能な無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが求められており、特に非可食植物由来のものが強く求められている。これらの特殊な機械特性や耐薬品性等の耐久性の両立は、薄いフィルムやシート、及び繊維の場合は、変色、欠損、破断等により使用出来ない状態となるため、特に重要である。
【0019】
特許文献1や特許文献2等で提案される従来の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーでは、柔軟性と耐久性の両立が困難であった。特許文献1ではポリカーボネートをベースとする事で耐久性を向上する事は出来るものの、柔軟性や耐衝撃性に劣るものであった。
【0020】
特許文献2ではポリカーボネートとポリアルキレンエーテルグリコールをブレンドする事で得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの柔軟性を向上させているが、ポリアルキレンエーテルグリコールとして用いているポリテトラメチレンエーテルグリコールの結晶性が高いため、透明性や低温における柔軟性に欠け、かつ耐久性もポリカーボネートジオール単独使用に劣り、不十分であった。
【0021】
特許文献3では、ポリカーボネートジオールとして1,10-デカンジオール由来のものを用いたポリウレタンが提案されているが、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを目的とした具体的な組成や効果は明示されていない。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、各種用途において求められる温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つというと特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性や風合いに優れた無黄変熱可塑性ポリウレタンフィルム及び成形物を提供し得る熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー、環境対応のバイオマス資源由来の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー、この熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法、並びにこれらを用いた熱可塑性ポリウレタンフィルム状物、衣料用フィルム、ポリウレタン弾性繊維、自動車外装用フィルム、内・外装加飾フィルム、内装用合成皮革シートを提供することを目的とする。
【0023】
本発明者は、特定の共重合ポリカーボネートジオール、特定のポリイソシアネート及び特定の脂肪族アルコールを特定の比率で用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが、上記課題を解決することができることを見出した。
【0024】
本発明は、以下を要旨とする。
【0025】
[1] イソシアネート化合物(I)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーであって、
該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、
該水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)に含まれる炭素数12以下の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上であり、
該ポリオール(III)に含まれる下記式(A)で表される直鎖状の繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(A)」と称す。)と下記式(B)で表される繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(B)」と称す。)とを含む共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、
該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比(但し、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比)であり、
該共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上、5,000以下である熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0026】
【0027】
上記式(A)は、炭素数3~5の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
上記式(B)は、炭素数6~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
【0028】
[2] 前記ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):前記イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):前記脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が、0.97≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.03の当量比である[1]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0029】
[3] 前記イソシアネート化合物(I)に含まれる前記イソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量が80モル%以上である[1]又は[2]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0030】
[4] 前記繰り返し単位(B)が、炭素数8~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位である[1]から[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0031】
[5] 前記繰り返し単位(A)が、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,5-ペンタンジオールのいずれか1種以上と炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位である[1]から[4]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0032】
[6] 前記繰り返し単位(B)が、1,12-ドデカンジオール、1,10-デカンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-オクタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールのいずれか1種以上と炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位である[1]から[5]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0033】
[7] 前記1分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である[1]から[6]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0034】
[8] 前記脂肪族アルコール(II)が、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である[1]から[7]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0035】
[9] イソシアネート化合物(I)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーであって、
該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、
該水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)に含まれる炭素数12以下の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上であり、
該ポリオール(III)に含まれる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、
該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比(但し、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比)であり、
該共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上、5000以下であり、
該熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー中のバイオマス資源の含有率が10質量%以上である熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0036】
[10] 前記ポリオール(III)の原料ジオール中の非可食植物由来のバイオマス資源の含有率が10質量%以上である[9]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0037】
[11] 前記熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを、JIS K6301(2010)に準じ、幅10mm、長さ100mm、厚み約50μmの短冊状の試験片とし、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM-III-100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃及び40℃にて、相対湿度55%で引張試験を実施し、該試験片を100%伸長した時点での応力(100%モジュラス)において、23℃で測定した100%モジュラスに対する40℃で測定した100%モジュラスの強度比(百分率)が70%以上であり、且つ
当該熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーよりなるフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出し、精密天秤で試験片の重量を測定した後、試験溶媒としてオレイン酸を50mlを入れた容量250mlのガラス瓶に投入して、80℃の窒素雰囲気下の恒温槽にて16時間静置し、試験後、試験片を取り出して、表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出した時の質量変化率が40%以下である[1]から[10]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー。
【0038】
[12] イソシアネート化合物(I)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する方法であって、
該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、
該水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)に含まれる炭素数12以下の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上であり、
該ポリオール(III)に含まれる下記式(A)で表される直鎖状の繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(A)」と称す。)と下記式(B)で表される繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(B)」と称す。)とを含む共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、
該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)、該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)、該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比となるように反応させることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法。
【0039】
【0040】
上記式(A)は、炭素数3~5の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
上記式(B)は、炭素数6~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
【0041】
[13] 前記イソシアネート化合物(I)、前記脂肪族アルコール(II)及び前記ポリオール(III)を無溶剤で急速攪拌して十分に混合した後、連続して混合、反応させ押出しする装置に供給し、連続的に前記熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する[12]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法。
【0042】
[14] [1]から[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、及び滑材よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の添加剤とを含むことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物。
【0043】
[15] [1]から[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は[14]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物を用いて得られる厚み30μm~2mmの熱可塑性ポリウレタンフィルム状物。
【0044】
[16] [15]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルム状物を用いて得られる自動車外装用フィルム、内・外装用加飾用フィルム、又は内装用合成皮革シート。
【0045】
[17] [1]から[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は[14]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物を成形して得られる衣料用フィルム。
【0046】
[18] [1]から[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は[14]に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物を溶融紡糸して得られるポリウレタン弾性繊維。
【発明の効果】
【0047】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーによれば、各種用途において求められる温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つという特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性や風合いに優れた無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー及び環境対応のバイオマス資源由来の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー及びその成形物が提供される。
なお、本発明において、「耐久性」とは耐薬品性、耐候性、その他様々の化学的、物理的影響に対する抵抗性能を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0049】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの原料化合物]
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造に用いる原料化合物について以下に説明する。
【0050】
<イソシアネート化合物(I)>
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造原料として使用されるイソシアネート化合物(I)は、該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であればよく、各種公知の脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0051】
イソシアネート化合物(I)としては、特に、イソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量が80モル%以上であるものが、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが、透明性及び耐摩耗性の物性に優れたものとなるので好ましい。
【0052】
イソシアネート化合物(I)としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及びダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1-メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1-メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)及び1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(1,4-H6XDI)などの脂環族ジイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0053】
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合はイソシアネート基を2個含有するイソシアネート化合物を主成分として好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、最も好ましくは98モル%以上含むことが好ましい。主成分のイソシアネート化合物が90モル%未満では、機械物性、耐薬品性等の諸物性が低下することもある。
【0054】
イソシアネート化合物(I)は、イソシアネート基を1個含有するイソシアネート化合物も、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が大きく変わらない範囲で併用することは可能である。イソシアノート基を1個含有するイソシアネート化合物を併用する場合、その割合は、イソシアネート化合物(I)中に5モル%以下が好ましく、さらに好ましくは3モル%以下であり、最も好ましくは1モル%以下である。イソシアネート基を1個含有するイソシアネート化合物が5モル%を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの分子量が低下し、耐薬品性等の耐久性が低下する。
【0055】
イソシアネート化合物(I)は、イソシアネート基を3個以上含有するイソシアネート化合物も、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が大きく変わらない範囲で併用することは可能である。イソシアネート基を3個以上含有するイソシアネート化合物を併用する場合、その割合は、イソシアネート化合物(I)中に3モル%以下が好ましく、さらに好ましくは1モル%以下であり、最も好ましくは0.5モル%以下である。イソシアネート基を3個以上含有するイソシアネート化合物が3モル%を超えると、架橋により得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が悪化したり、成形がうまく出来なくなるか、あるいはゲル化を起こして重合できなくなる。
【0056】
イソシアネート化合物(I)としては、芳香環を有するイソシアネート化合物も、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が大きく変わらない範囲で併用することは可能である。芳香環を有するイソシアネート化合物を併用する場合、その割合は、イソシアネート化合物(I)中に10モル%以下が好ましく、さらに好ましくは5モル%以下であり、最も好ましくは1モル%以下である。芳香環を有するイソシアネート化合物が10モル%を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの耐候性が悪化し、耐久性が低下する。
【0057】
これらの中でも、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械特性、耐久性および工業的に安価に多量に入手が可能な点で、イソシアネート化合物(I)としては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好まく、さらに好ましくは4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンが、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの耐候性、耐光性、透明性、耐摩耗性、耐薬品性等の諸物性がバランス良く優れる点でより好ましい。
また、環境対応のバイオマス資源の点からはバイオマス資源の1,5-ペンタンジイソシネートが好ましい。
【0058】
<水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)>
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造原料として使用される水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)は、炭素数12以下の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上のものであって、鎖延長剤として作用し、イソシアネート基と反応する活性水素を少なくとも2個有する低分子量化合物ポリオールから選ばれる。
以下、「官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)」を「鎖延長剤(II)」と記載する場合がある。
【0059】
水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)は、炭素数12以下の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上であればよく、各種公知の官能基が水酸基のみである脂肪族アルコールを用いることができる。水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)の具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖ジオール類;2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ヘプタンジオール、1,4-ジメチロールヘキサン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ダイマージオール等の分岐鎖を有するジオール類;ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のエーテル基を有するジオール類;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジヒドロキシエチルシクロヘキサン等の脂環構造を有するジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類等が挙げられる。
【0060】
これらの鎖延長剤(II)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合は、以下に示す好適なジオール類を主成分として、鎖延長剤(II)中に好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは98モル%以上含有するようにすることが好ましい。主成分が鎖延長剤(II)中に70モル%未満では、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械物性等の諸物性が低下することもある。
【0061】
上記鎖延長剤(II)の中でも、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのソフトセグメントとハードセグメントの相分離性に優れることによる柔軟性と23℃から40℃の温度範囲における弾性率の比が大きく、耐薬品性等の耐久性が優れる点、工業的に安価に多量に入手が可能な点で、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の直鎖脂肪族ジオールが好ましく、中でも1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールがより好ましく、鎖延長剤(II)中のこれらの好ましい直鎖脂肪族ジオール類の含有量が90モル%以上であることが好ましい。鎖延長剤(II)として側鎖を有するジオールを用いると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのハードセグメントの凝集力が低下して、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械物性等の諸物性が低下することがある。これらの直鎖ジオール類の中では物性のバランスの点で1,4-ブタンジオールがさらに好ましい。また、環境対応のバイオマス資源由来の観点からはバイオマス資源由来の1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールがさらに好ましく、物性のバランスの点で、バイオマス資源由来の1,4-ブタンジオールが最も好ましい。
【0062】
官能基が水酸基のみであり、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満の脂肪族アルコール(II)は、水酸基を1個含有する脂肪族モノアルコール化合物も、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が大きく変わらない範囲で併用することは可能である。水酸基を1個含有する脂肪族モノオール化合物を併用する場合、その割合は、脂肪族アルコール(II)中に5モル%以下が好ましく、さらに好ましくは3モル%以下であり、最も好ましくは1モル%以下である。脂肪族モノオール化合物が5モル%を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの分子量が低下し、耐薬品性等の耐久性が低下する。
【0063】
官能基が水酸基のみであり、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満の脂肪族アルコール(II)は、水酸基を3個以上含有するグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール化合物も、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が大きく変わらない範囲で併用することは可能である。水酸基を3個以上含有する脂肪族アルコール化合物を併用する場合、その割合は、脂肪族アルコール(II)中に3モル%以下が好ましく、さらに好ましくは1モル%以下であり、最も好ましくは0.5モル%以下である。水酸基を3個以上含有する脂肪族アルコールが1モル%を超えると、架橋により得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が悪化したり、成形がうまく出来なくなるか、あるいはゲル化を起こして重合できなくなる。
【0064】
さらに、官能基が水酸基のみであり、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満の脂肪族アルコール(II)は、芳香族基を有するアルコール、あるいは水酸基以外の活性水素化合物、例えばアミノ基、カルボキシル基等を含む化合物も、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性が大きく変わらない範囲で併用することは可能である。これらを併用する場合、その割合は、脂肪族アルコール(II)に対して5モル%以下が好ましく、さらに好ましくは3モル%以下であり、最も好ましくは1モル%以下である。これらの脂肪族アルコール(II)以外の化合物が5モル%を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの耐候性、色相、加水分解等の耐久性が低下する。
【0065】
<水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)>
(共重合ポリカーボネートジオール(IIIA))
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造原料として用いる水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)は、以下の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)をポリオール(III)中に80モル%以上含有するものである。
【0066】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)は、下記式(A)で表される直鎖状の繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(A)」と称す。)と下記式(B)で表される繰り返し構造単位(以下、「繰り返し単位(B)」と称す。)を有し、水酸基価から求めた数平均分子量が500以上、5,000以下であるものである。
【0067】
【0068】
上記式(A)は、炭素数3~5の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
上記式(B)は、炭素数6~20の炭化水素系ジオールと炭酸エステルとのエステル交換反応生成物に由来する構造単位を表す。
【0069】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造原料として繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)を有する特定の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を用い、この共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と特定のイソシアネート化合物(I)と特定の鎖延長剤(II)が特定の組成比である本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、各種用途において求められる温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つという特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性や風合いに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー成形物を得ることができる。
【0070】
繰り返し単位(A)の式(A)のR1は炭素数は3~5の炭化水素基であり、繰り返し単位(A)は、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の原料ジオールとして、炭素数3~5の炭化水素系ジオールを用いることで、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に導入することができる。
【0071】
繰り返し単位(A)は、特に直鎖状の1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールに由来するものであることが、工業的入手性、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いたフィルムや成形物の物性が優れるなどの観点から好ましい。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの物性の中で耐薬品性がより重要な用途の場合は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールが特に好ましく、機械物性の高さを兼ね備えた1,4-ブタンジオールが最も好ましい。また、環境対応のバイオマス資源由来の観点からは、バイオマス資源由来の1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0072】
繰り返し単位(B)の式(B)のR2の炭素数は6~20、好ましくは8~12、特に好ましくは10であり、繰り返し単位(B)は共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の原料ジオールとして、炭素数6~20、好ましくは8~12、特に好ましくは10の炭化水素系ジオールを用いることで、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に導入することができる。
【0073】
繰り返し単位(B)の原料ジオールとしては、直鎖状の1,12-ドデカンジオール、1,10-デカンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-オクタンジオール及び1,6-ヘキサンジオール等が例示される。また、環境対応のバイオマス資源の観点からはバイオマス資源由来の1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールが好ましく、さらに得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いた成形物の機械物性及び耐薬品性、そして非可食植物由来であることから1,10-デカンジオールが最も好ましい。
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)のバイオマス資源由来原料の好適含有量については後述する。
【0074】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)には、繰り返し単位(A)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。繰り返し単位(B)についても1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)には、本発明の効果を損なわない範囲において、繰り返し単位(A)及び繰り返し単位(B)以外の繰り返し単位が、例えば全繰り返し単位中に20モル%以下含まれていてもよい。
【0075】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に含まれる繰り返し単位(A)に対する繰り返し単位(B)のモル比率(繰り返し単位(B)/繰り返し単位(A)、「モル比率(B)/(A)」と称す場合がある。)は0.03~99であることが好ましく、特に0.05~19であることが好ましく、とりわけ0.10~10であることが好ましい。上記範囲よりも繰り返し単位(A)が多く、繰り返し単位(B)が少ないと、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いたフィルムや成形物の透明性や柔軟性が劣る傾向がある。逆に繰り返し単位(A)が少なく、繰り返し単位(B)が多いと、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いたフィルムや成形物の機械強度や耐薬品性が低下する傾向がある。
【0076】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)のモル比率(B)/(A)は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0077】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)以外共重合ポリカーボネートジオール、例えば原料ジオールとして1,3-プロパンジオールと1,4-ブタンジオールを用いた共重合ポリカーボネートジオールでは、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーにした時に、ポリウレタンの特性である柔軟性が低下する。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の代わりにホモポリカーボネートジオール、例えば原料ジオールとして1,6-ヘキサンジオールのみを用いたホモタイプでは、その結晶性に起因して得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの透明度が低下するので物性バランスが不十分となる上に、使用用途も制限されて好ましくない。
【0078】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量は500以上、5,000以下であることが、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械特性の観点から好ましい。数平均分子量が500未満では熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーから得られる成形物の硬度が高すぎ、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの特徴である柔軟性が失われる。数平均分子量が5,000を超えると、得られる成形物の弾性率が下がりすぎ、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの特徴である弾性回復性も悪化する。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の数平均分子量は800以上、4,000以下が好ましく、1,000以上、3,000以下がより好ましい。
【0079】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量(Mn)は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0080】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価は、下限は通常22.4mg-KOH/g、好ましくは28.1mg-KOH/g、より好ましくは37.4mg-KOH/gで、上限は通常224.4mg-KOH/g、好ましくは140.3mg-KOH/g、より好ましくは112.2mg-KOH/gである。
【0081】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0082】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造原料としての共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)は、1種のみを用いてもよく、繰り返し単位やそのモル比、物性等の異なるものを2種以上用いてもよい。
【0083】
(共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の製造方法)
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)は、繰り返し単位(A)を導入するための炭素数3~5のジヒドロキシ化合物、好ましくは炭素数3~5の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、好ましくは1,4-ブタンジオールの1種又は2種以上と、繰り返し単位(B)を導入するための炭素数6~20、好ましくは8~12の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物、例えば1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の1種又は2種以上とを、前述の好適なモル比率(B)/(A)となるように原料ジヒドロキシ化合物として用い、これらのジヒドロキシ化合物と炭酸エステルであるカーボネート化合物とを、触媒の存在下に常法に従って重合反応させることにより製造することができる。
【0084】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の製造に使用可能なカーボネート化合物としては、本発明の効果を損なわない限り限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。これらは1種であっても複数種であってもよい。このうち反応性の観点からジアリールカーボネートが好ましい。
【0085】
カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0086】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を製造する場合には、重合を促進するために必要に応じてエステル交換触媒を用いることができる。
エステル交換触媒としては、一般にエステル交換能があるとされている化合物であれば制限なく用いることができる。
【0087】
エステル交換触媒の例を挙げると、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の長周期型周期表(以下、単に「周期表」と記載する。)第1族金属(水素を除く)の化合物;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表第2族金属の化合物;チタン、ジルコニウム等の周期表第4族金属の化合物;ハフニウム等の周期表第5族金属の化合物;コバルト等の周期表第9族金属の化合物;亜鉛等の周期表第12族金属の化合物;アルミニウム等の周期表第13族金属の化合物;ゲルマニウム、スズ、鉛等の周期表第14族金属の化合物;アンチモン、ビスマス等の周期表第15族金属の化合物;ランタン、セリウム、ユーロピウム、イッテルビウム等ランタナイド系金属の化合物等が挙げられる。これらのうち、エステル交換反応速度を高めるという観点から、周期表第1族金属(水素を除く)の化合物、周期表第2族金属の化合物、周期表第4族金属の化合物、周期表第5族金属の化合物、周期表第9族金属の化合物、周期表第12族金属の化合物、周期表第13族金属の化合物、周期表第14族金属の化合物が好ましく、周期表第1族金属(水素を除く)の化合物、周期表第2族金属の化合物がより好ましく、周期表第2族金属の化合物がさらに好ましい。周期表第1族金属(水素を除く)の化合物の中でも、リチウム、カリウム、ナトリウムの化合物が好ましく、リチウム、ナトリウムの化合物がより好ましく、ナトリウムの化合物がさらに好ましい。周期表第2族金属の化合物の中でも、マグネシウム、カルシウム、バリウムの化合物が好ましく、カルシウム、マグネシウムの化合物がより好ましく、マグネシウムの化合物がさらに好ましい。これらの金属化合物は主に、水酸化物や塩等として使用される。塩として使用される場合の塩の例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物塩;酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等のカルボン酸塩;炭酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸やトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸塩;リン酸塩やリン酸水素塩、リン酸二水素塩等のリン含有の塩;アセチルアセトナート塩;等が挙げられる。触媒金属は、さらにメトキシドやエトキシドの様なアルコキシドとして用いることもできる。
【0088】
エステル交換触媒としては、これらのうち、好ましくは、周期表第2族金属から選ばれた少なくとも1種の金属の酢酸塩や硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、アルコキシドが用いられ、より好ましくは周期表第2族金属の酢酸塩や炭酸塩、水酸化物が用いられ、さらに好ましくはマグネシウム、カルシウムの酢酸塩や炭酸塩、水酸化物が用いられ、特に好ましくはマグネシウム、カルシウムの酢酸塩が用いられ、最も好ましくは酢酸マグネシウムが用いられる。
【0089】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の製造において、カーボネート化合物の使用量は、特に限定されないが、通常ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対するモル比率で、下限が好ましくは0.35、より好ましくは0.50、さらに好ましくは0.60であり、上限は好ましくは1.00、より好ましくは0.98、さらに好ましくは0.97である。カーボネート化合物の使用量が上記上限超過では得られる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の末端基が水酸基でないものの割合が増加したり、分子量が所定の範囲とならない場合がある。カーボネート化合物の使用量が前記下限未満では所定の分子量まで重合が進行しない場合がある。
【0090】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を製造するにあたって、前述のエステル交換触媒を用いる場合、その使用量は、得られるポリカーボネートジオール中に残存しても性能に影響の生じない量であることが好ましい。
【0091】
エステル交換触媒の使用量は、原料ジヒドロキシ化合物の質量に対する金属の質量比として、上限が500質量ppmであることが好ましく、100質量ppmであることがより好ましく、50質量ppmであることがさらに好ましく、10質量ppmであることが特に好ましい。一方、下限は十分な重合活性が得られる量として、0.01質量ppmであることが好ましく、0.1質量ppmであることがより好ましく、1質量ppmであることがさらに好ましい。
【0092】
エステル交換反応の際の反応温度は、実用的な反応速度が得られる温度であれば任意に採用することができる。通常反応温度の下限は70℃であることが好ましく、100℃であることがより好ましく、130℃であることがさらに好ましい。反応温度の上限は、通常250℃であることが好ましく、230℃であることがより好ましく、200℃であることがさらに好ましい。反応温度を上記上限以下とすることにより、得られるポリカーボネートジオールが着色したり、エーテル構造が生成するなどの品質上の問題が生じるのを防ぐことができる。
【0093】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を製造するエステル交換反応の全工程を通じて反応温度を180℃以下とすることが好ましく、170℃以下とすることがより好ましく、160℃以下とすることがさらに好ましい。全工程を通じて反応温度を180℃以下とすることにより、条件によって着色し易くなるのを防ぐことができる。
【0094】
反応は常圧で行なうこともできるが、エステル交換反応は平衡反応であり、生成する軽沸成分を系外に留去することで反応を生成系に偏らせることができる。従って、通常、反応後半には、減圧条件を採用して軽沸成分を留去しながら反応することが好ましい。或いは、反応の途中から徐々に圧力を下げて生成する軽沸成分を留去しながら反応させていくことも可能である。特に反応の終期において減圧度を高めて反応を行うと、副生したモノアルコール、フェノール類および環状カーボネートなどを留去することができるので好ましい。
この際の反応終了時の反応圧力は、上限が10kPaであることが好ましく、5kPaであることがより好ましく、1kPaであることがさらに好ましい。
軽沸成分の留出を効果的に行うために、反応系へ、窒素、アルゴンおよびヘリウムなどの不活性ガスを流通しながら該反応を行うこともできる。
【0095】
エステル交換反応の際に低沸のカーボネート化合物やジヒドロキシ化合物を使用する場合は、反応初期はカーボネート化合物やジヒドロキシ化合物の沸点近辺で反応を行い、反応が進行するにつれて、徐々に温度を上げて、さらに反応を進行させる、という方法も採用可能である。このようにすることで、反応初期の未反応のカーボネート化合物の留去を防ぐことができる。
【0096】
さらにこれら原料の留去を防ぐ目的で、反応器に還流管をつけて、カーボネート化合物とジヒドロキシ化合物を還流させながら反応を行うことも可能である。この場合、仕込んだ原料が失われず試剤の量比を正確に合わせることができる。
【0097】
重合反応は、バッチ式または連続式で行うことができるが、製品の安定性等から連続式で行うことが好ましい。使用する装置は、槽型、管型および塔型のいずれの形式であってもよく、各種の攪拌翼を具備した公知の重合槽等を使用することができる。装置昇温中の雰囲気は特に制限はないが、製品の品質の観点から、窒素ガス等の不活性ガス中、常圧または減圧下で行うのが好ましい。
【0098】
重合反応は、生成する共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の分子量を測定しながら、目的の分子量となったところで終了する。重合に必要な反応時間は、使用するジヒドロキシ化合物、カーボネート化合物、および触媒の使用の有無および種類により大きく異なるので、一概に規定することは出来ないが、通常50時間以下であることが好ましく、20時間以下であることがより好ましく、10時間以下であることがさらに好ましい。
【0099】
重合反応の際に触媒を用いた場合、通常得られた共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)には触媒が残存し、残存する触媒により、ポリウレタン化反応の制御が出来なくなる場合がある。この残存する触媒の影響を抑制するために、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルのリン系化合物等の触媒失活剤を添加し、エステル交換触媒を不活性化することが好ましい。さらには触媒失活剤添加後、後述のように加熱処理等により、エステル交換触媒を効率的に不活性化することができる。
【0100】
エステル交換触媒の不活性化に使用されるリン系化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸などの無機リン酸や、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニルなどの有機リン酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0101】
前記リン系化合物の使用量は、特に限定はされないが、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルであればよい。リン系化合物の使用量は具体的には、使用されたエステル交換触媒1モルに対して上限が好ましくは5モル、より好ましくは2モルであり、下限が好ましくは0.8モル、より好ましくは1.0モルである。これより少ない量のリン系化合物を使用した場合は、反応生成物中のエステル交換触媒の不活性化が十分でなく、得られる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造用原料として使用する時、該共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)のイソシアネート基に対する反応性を十分に低下させることができない場合がある。この範囲を超えるリン系化合物を使用すると得られる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)が着色してしまう可能性がある。
【0102】
リン系化合物を添加することによるエステル交換触媒の不活性化は、室温でも行うことができるが、加熱処理するとより効率的である。この加熱処理の温度は、特に限定はされないが、上限が好ましくは180℃、より好ましくは150℃、さらに好ましくは120℃、特に好ましくは100℃であり、下限は、好ましくは50℃、より好ましくは60℃、さらに好ましくは70℃である。これより低い温度の場合は、エステル交換触媒の不活性化に時間がかかり効率的でなく、不活性化の程度も不十分な場合がある。180℃を超える温度では、得られる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)が着色することがある。
【0103】
リン系化合物と反応させる時間は特に限定するものではないが、通常1~5時間である。
【0104】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に残存する触媒量は、ポリウレタン化反応の制御の観点から金属換算量で100質量ppm以下、特に10質量ppm以下であることが好ましい。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に残存する触媒量は、必要な触媒量として金属換算量で0.01質量ppm以上、特に0.1質量ppm以上、とりわけ5質量ppm以上であることが好ましい。
【0105】
反応生成物は、該生成物中のポリマー末端に水酸基を有さない不純物、フェノール類、原料ジヒドロキシ化合物、カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネートおよび添加した触媒などを除去する目的で精製してもよい。
【0106】
精製は、軽沸化合物については、蒸留で留去する方法が採用できる。蒸留の具体的な方法としては、減圧蒸留、水蒸気蒸留および薄膜蒸留など特にその形態に制限はなく、任意の方法を採用することが可能であるが、中でも薄膜蒸留が効果的である。
【0107】
薄膜蒸留条件としては特に制限はないが、薄膜蒸留時の温度は、上限が250℃であることが好ましく、200℃であることが好ましく、下限が120℃であることが好ましく、150℃であることがより好ましい。
薄膜蒸留時の温度の下限を上記の値とすることにより、軽沸成分の除去効果が十分となる。薄膜蒸留時の温度の上限を250℃とすることにより、薄膜蒸留後に得られる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)が着色するのを防ぐことができる。
【0108】
薄膜蒸留時の圧力は、上限が500Paであることが好ましく、150Paであることがより好ましく、70Paであることがさらに好ましく、60Paであることが特に好ましい。薄膜蒸留時の圧力を上記上限値以下とすることにより、軽沸成分の除去効果が十分に得られる。
【0109】
薄膜蒸留直前の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の保温の温度は、上限が250℃であることが好ましく、150℃であることがより好ましく、下限が80℃であることが好ましく、120℃であることがより好ましい。
薄膜蒸留直前の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の保温の温度を上記下限以上とすることにより、薄膜蒸留直前の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の流動性が低下するのを防ぐことができる。この保温の温度を上記上限以下とすることにより、薄膜蒸留後に得られる共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)が着色するのを防ぐことができる。
【0110】
生成した共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)から、水溶性の不純物を除くために、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を水、アルカリ性水、酸性水およびキレート剤溶解溶液などで洗浄してもよい。その場合水に溶解させる化合物は任意に選択できる。
【0111】
原料として例えばジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートを使用した場合、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の製造中にフェノール類が副生する。フェノール類は一官能性化合物なので、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際の阻害因子となる可能性がある上、フェノール類によって形成されたウレタン結合は、その結合力が弱いために、その後の工程等で熱によって解離してしまい、イソシアネートやフェノール類が再生されて不具合を起こす可能性がある。また、フェノール類は刺激性物質でもあるため、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中のフェノール類の残存量は、より少ない方が好ましい。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中のフェノール類の残存量は、具体的には共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に対する質量比として好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、中でも100ppm以下であることが好ましい。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中のフェノール類を低減するためには、前述するように共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の重合反応の圧力を絶対圧力として1kPa以下の高真空としたり、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の重合反応後に薄膜蒸留等を行ったりすることが有効である。
【0112】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中には、製造時の原料として使用したカーボネート化合物が残存することがある。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中のカーボネート化合物の残存量は限定されるものではないが、少ないほうが好ましく、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に対する質量比として上限が好ましくは5質量%、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは1質量%である。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)のカーボネート化合物含有量が多すぎるとポリウレタン化の際の反応を阻害する場合がある。一方、その下限は特に制限はないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0質量%である。
【0113】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)には、製造時に使用したジヒドロキシ化合物が残存する場合がある。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中のジヒドロキシ化合物の残存量は、限定されるものではないが、少ないほうが好ましく、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に対する質量比として1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下である。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中のジヒドロキシ化合物の残存量が多いと、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーとした際のソフトセグメント部位の分子長が不足し、所望の物性が得られない場合がある。
【0114】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中には、製造の際に副生した環状のカーボネート(環状オリゴマー)を含有する場合がある。例えば繰り返し単位(B)の原料ジヒドロキシ化合物として2,2-ジアルキル-1,3-プロパンジオールを用いた場合、5,5-ジアルキル-1,3-ジオキサン-2-オンもしくはさらにこれらが2分子ないしそれ以上で環状カーボネートとなったものなどが生成して共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中に含まれる場合がある。より具体的には、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを用いた場合、5,5-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オンもしくはさらにこれらが2分子ないしそれ以上で環状カーボネートとなったものなどが生成して共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中に含まれる場合がある。これらの化合物は、ポリウレタン化反応においては副反応をもたらす可能性があり、また濁りの原因となるため、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の重合反応の圧力を絶対圧力として1kPa以下の高真空にしたり、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の合成後に薄膜蒸留等を行ったりしてできる限り除去しておくことが好ましい。共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)中に含まれる5,5-ジアルキル-1,3-ジオキサン-3-オン等の環状カーボネートの含有量は、限定されないが、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)に対する質量比として好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0115】
(共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)以外のポリオール)
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際のポリウレタン形成反応においては、物性に影響の無い範囲で共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と必要に応じてそれ以外のポリオールを併用してもよい。ここで、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)以外のポリオールとは、通常のポリウレタン製造の際に用いるものであれば特に限定されず、例えばポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレンエーテルグリコール、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)以外のポリカーボネートポリオールが挙げられる。
【0116】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸等の脂肪族二塩基酸や無水フタル酸等の芳香族二塩基酸と脂肪族グリコールを脱水縮合して得られるものが例示される。ポリアルキレンポリオールエーテルグリコールとしては、酸化エチレンや酸化プロピレンを付加重合して得られるポリ(オキシエチレン)グリコール、ポリ(オキシプロピレン)グリコール、並びにテトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)が例示される。その他、ポリオレフィン系ポリオール等、全ての公知のポリオールが併用可能である。
ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールは耐加水分解性等の耐久性が十分ではない。ポリアルキレンエーテルグリコールは耐候性や耐薬品性の耐久性が十分ではない。これらは、物性に影響のない範囲でポリオール(III)中に、20モル%以下で加えることも出来る。
【0117】
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)以外のポリオールは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
本発明で用いるポリオール(III)は、水酸基価から求めた数平均分子量が300~10,000であり、好ましくは500~5,000、さらに好ましくは800~3,000である。
【0119】
(ポリオール(III)中の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の割合)
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造に用いるポリオール(III)、即ち、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)以外のポリオールとの合計に対する共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有割合は、80モル%以上であり、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、最も好ましくは98~100モル%である。ポリオール(III)中の共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有割合が少ないと、本発明の特徴である、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いたフィルム状物や成形物の温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つというと特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性や風合いに優れるという物性が失われる可能性がある。
【0120】
併用するポリオールとしてバイオマス資源由来のものを用いると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのバイオマス資源度が上がるので好ましい。例えば、バイオマス資源由来のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリトリメチレンエーテルグリコール、バイオコハク酸、バイオセバシン酸、バイオイタコン酸等のバイオマス資源のジカルボン酸とジオールを反応させて得られるポリエステルポリオール等が例示されるが、非可食植物由来の観点ではひまし油から製造されるバイオセバシン酸を用いたものがさらに好ましい。
【0121】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー]
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、イソシアネート化合物(I)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)と、水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーであって、該イソシアネート化合物(I)に含まれるイソシアネート基を2個含有する脂肪族イソシアネート化合物及びイソシアネート基を2個含有する脂環族イソシアネート化合物の含有量の和が90モル%以上であり、該脂肪族アルコール(II)に含まれる炭素数12以下の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上であり、該ポリオール(III)に含まれる前記繰り返し単位(A)と前記式(B)で表される繰り返し単位(B)とを含む共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の含有量が80モル%以上であり、該ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):該イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):該脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比(但し、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比)であり、該共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上、5,000以下である熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーである。
【0122】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのポリオール(III)の水酸基当量(EIII)、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)、脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)の比率は、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比であることを特徴とする。
【0123】
水酸基当量は、ポリオールあるいは脂肪族アルコール中の水酸基1個あたりの化学式量である。
イソシアネート当量は、イソシアネート化合物中のイソシアネート基1個あたりの化学式量である。
(EI)/((EII)+(EIII))の値が0.95未満の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、耐薬品性や耐熱性等の諸物性が不十分である。(EI)/((EII)+(EIII))が1.05を超える熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、部分的に架橋構造を有していたり、未反応のイソシアネート基が空気中や水槽の水分と反応してアミノ基になる割合が多くなるため、成形性に問題が生じたり、ゲルに起因するフィッシュアイが多くなったり、黄色くなり易かったり、また機械強度の伸度等も不十分になることもある。(EI)/((EII)+(EIII))の下限は0.97以上が好ましく、さらに好ましくは0.99以上である。(EI)/((EII)+(EIII))の上限は1.04以下が好ましく、さらに好ましくは1.03以下である。
【0124】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの(EI)/((EII)+(EIII))の値は、重合時の各成分の質量比の他に、通常400MHz以上のNMR(核磁気共鳴スペクトル)装置の測定で確認することが出来る。
【0125】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、同時にポリオール(III)の水酸基当量(EIII):イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が、1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比となる。つまり、ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)/脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)比率は、整数値で示すと2/1、3/2、4/3、5/4、5.5/1となり、その間の当量比も含む。
【0126】
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)が2.0未満では、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械強度が不十分となり破断強度が低下したり、弾性特性が低下したり、また耐熱性が不十分となる。また、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)が5.5を超えると、温度が変わった時の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの弾性率の差が大きくなり、また破断伸度が低下したり弾性率が高すぎたりして弾性特性が低下したり、低温での柔軟性も不十分となる。
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)は、諸物性と各種耐久性のバランスから2.5~5.0が好ましく、2.5~4.5がさらに好ましい。
【0127】
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0未満では熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの強度が不十分であり、4.5を超えると柔軟性が不十分となる。
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)は、強度と柔軟性のバランスから1.5~4.0が好ましく、1.5~4.0がより好ましい。
【0128】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの(EI)、(EII)(EIII)の当量比は、通常400MHz以上のNMR(核磁気共鳴スペクトル)装置による測定で確認することが出来る。
【0129】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー中のバイオマス資源の含有率が10質量%以上であることが好ましい。
バイオマス資源の含有率が10%未満では、地球温度化に寄与する効果が不十分であり、地球環境環に十分優しいとは言えない。この値は好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、最も好ましくは50質量%以上であり、通常95質量%以下である。
【0130】
本発明でいうバイオマス資源とは、植物の光合成作用で太陽の光エネルギーがデンプン、糖、及びセルロースなどの形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体、並びに植物体または動物体を加工してできる製品等である。
【0131】
この中でも、より好ましいバイオマス資源としては、植物資源である。植物資源としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、ソバ、大豆、油脂、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥および食品廃棄物等が挙げられる。
【0132】
この中でも、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、ソバ、大豆、油脂、古紙および製紙残渣等の植物資源が好ましく、より好ましくは木材、稲わら、籾殻、古米、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、芋、油脂、古紙および製紙残渣であり、最も好ましくはトウモロコシ、サトウキビ、キャッサバおよびサゴヤシである。
【0133】
そしてこれらのバイオマス資源は、特に限定はされないが、例えば、酸およびアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理並びに物理的処理等の公知の前処理および糖化の工程を経て炭素源へ誘導される。
【0134】
特に限定はされないが、その工程には、通常、例えば、バイオマス資源をチップ化する、削るおよび擦り潰す等の前処理による微細化工程が含まれる。必要に応じて、更にグラインダーまたはミルで粉砕工程が含まれる。
【0135】
こうして微細化されたバイオマス資源は、更に前処理および糖化の工程を経て炭素源へ誘導される。その具体的な方法としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸または燐酸等の強酸による酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、超臨界流体処理および酸化剤処理等の化学的方法や、微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的方法、並びに微生物または酵素処理による加水分解等の生物学的処理が挙げられる。
【0136】
前記のバイオマス資源から誘導される炭素源としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース、ペントサン、サッカロース、澱粉、セルロース等の2糖または多糖類、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノクチン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸およびセラコレン酸等の脂肪酸、並びにグリセリン、マンニトール、キシリトールおよびリビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が挙げられる。これらの中でも、グルコース、マルトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、トレハロースおよびセルロースが好ましい。
【0137】
種々あるバイオマス資源の中でも人類の食糧問題と競合せず、動物愛護の観点でも望ましい、非可食植物由来のバイオマス資源を用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが最も好ましい。該熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの原料ポリオールの原料ジオール中の非可食植物由来の含有量は10質量%以上であることが好ましい。非可食植物由来のバイオマス資源としては、非可食性の草、樹木、アブラヤシの搾りかす及び空果房、トウゴマ、トウモロコシの芯及び茎葉、バガス、大豆及び菜種の搾りかす及び空鞘、食品加工残差あるいは、それらバイオマスからの抽出物(ひまし油等の植物油脂、セルロース、グルコース等)が挙げられ、非可食植物由来のジオールとしてはひまし油由来の1,10-デカンジオール、トウモロコシの芯及び茎葉等由来の1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。ただし、近年はとうもろこしの生育に多量の水が使用されるため、人類の水不足問題のと競合の観点から、とうもろこしの非可食由来よりも、生育時に少量の水しか必要としないトウゴマから得られるひまし油由来の方がより好ましい。
【0138】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの原料ポリオールの原料ジオール中の非可食植物由来の含有率が10質量%未満では、地球温暖化に寄与する効果が不十分であり、この割合はさらに好ましくは30質量%以上、最も好ましくは50質量%以上であり、通常95質量%以下である。
【0139】
また、本発明のバイオマス資源の含有率が10質量%以上の熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂を得るためには、前記ポリオール(III)、前記イソシアネート化合物(I)、前記脂肪族アルコール(II)のいずれにバイオマス資源の成分を使用しても良いが、前記ポリオール(III)の原料ジオール中にバイオマス資源の成分を使用するのが好ましい。本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは質量組成比としてポリオール(III)が最も高比率のためバイオマス資源含有率を高める事が出来る。
【0140】
さらに前記ポリオール(III)の原料ジオール中のバイオマス資源が非可食植物由来で含有率が10質量%以上のもの好ましく、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、最も好ましくは50質量%以上である。
【0141】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造原料に占めるバイオマス資源の植物由来の含有率を上げるには、
1) イソシアネート化合物(I)としてはバイオマス資源由来の1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを用いる。
2) 脂肪族アルコール(II)としてバイオマス資源由来のエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,10-デカンジオールを用いる。
3) 共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)として、バイオマス資源由来のエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,10-デカンジオールを共重合成分として用いたものを用いる。
方法が挙げられる。
【0142】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いて、温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つというと特殊な機械物性を有し、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに優れた透明性及び風合いに優れた無黄変熱可塑性ポリウレタンフィルム及び成形物を得るためには、特に1,10-デカンジオールとして非可食植物由来のひまし油から製造されるものを用いることが好ましい。
【0143】
また、前述の通り、ポリオール(III)として、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と共に他のポリオールを併用する場合、併用するポリオールとしてバイオマス資源由来のものを用いると、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのバイオマス資源度が上がるので好ましい。ただし、バイオマス資源由来のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)やポリトリメチレンエーテルグリコールの使用量を増やすと、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの耐薬品性や耐黄変性等の耐久性が悪化する。また、バイオコハク酸、バイオセバシン酸、バイオイタコン酸等のバイオマス資源のジカルボン酸とジオールとを反応させて得られるポリエステルポリオール等を使用すると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの耐加水分解性等の耐久性が悪化する。従って、これらのバイオマス資源由来のポリオールは、限られた範囲で使用しなければならない。
【0144】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのバイオマス資源度を上げる方法として、ポリオール(III)、特に共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の原料ジオール中のバイオマス資源の非可食植物由来ジオールの含有率が10モル%以上であるものを用いることは本発明に好適である。バイオマス資源の非可食植物由来ジオールとして特に好ましい1,10-デカンジオールは鎖延長剤として使用すると得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械物性が低下する傾向にあるため、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の構成成分として使用するのが好ましい。ポリオール(III)、特に共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)の原料ジオール中のバイオマス資源の非可食植物由来ジオールの含有率はより好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上で、50モル%以上が最も好ましく、上限は好ましくは95モル%以下である。
【0145】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの分子量は、製造される本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの用途に応じて適宜調整され、特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として5万~50万であることが好ましく、10万~30万であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が上記下限よりも小さいと十分な強度や硬度、耐久性が得られない場合があり、上記上限よりも大きいと成形性、加工性などハンドリング性を損なう傾向がある。
【0146】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの分子量分布(Mw/Mn)は1.5~3.5が好ましく、さらに好ましくは1.7~3.0であり、最も好ましいのは1.8~2.5である。分子量分布が3.5を超えると成形性が不十分となる。分子量分布を1.5未満にするには特別な精製処理をする必要があり経済性に問題がある。分子量分布もGPCで測定することが出来る。
【0147】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの常温の引張試験による100%伸長時の弾性率は1MPa~20MPaが好ましく、さらに好ましくは2MPa~15MPaである。フィルムやシート等の用途で用いる場合、この弾性率は3MPa~10MPaが特に好ましい。100%伸長時の弾性率が1MPa未満では、機械強度が不十分であり破断強度が低い。100%伸長時の弾性率が15MPaを超えると機械強度が不十分であり破断伸度が低く、弾性特性も低い。引張試験による100%伸長時の弾性率はJIS K6301(2010)に準じて測定することが出来る。
【0148】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのデュロメータ硬さはショアA70~ショアD80が好ましく、さらに好ましくはショアA75~ショアD65である。フィルムやシート等の用途ではショアA80~ショアD65が特に好ましい。柔軟性が特に求められる場合はショアA80~ショアA95が特に好ましい。ショアA70未満ではカッティングがうまく出来なかったり、乾燥時に融着起きやすくなることがあり、成形時の脱型性が良くないこともある。ショアD80を超えると弾性特性が不十分となる。ショア硬度は硬度計で測定することが出来る。
【0149】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの溶融粘度は、フィルム、シート用途では重要であり、通常の成形温度である150℃~220℃においてJIS 7210(ISO1133)に準じて、メルトマスフローレート測定装置(立山科学工業製、装置名:メルトインデクサー)を用いて、2.16kgの荷重にて、メルトマスフローレート(MFR)を測定した場合、0.05~150g/10分が好ましく、さらに好ましくは0.1~100g/10分である。溶融粘度が0.05g/10分より小さくなると流動し難く、成形温度を上げる必要がある。また150g/10分を超えると流動し過ぎるので成形温度を下げる必要がある。また、成形時に樹脂の耐熱性に起因して溶融粘度の変化の程度が大きくなると、フィルムやシートを均一な厚みで成形するのが難しくなる。
【0150】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの黄色度(YI)は10以下が好ましく、さらに好ましくは5以下、最も好ましいのは3以下である。黄色度(YI)が10を超えると、厚みの薄いフィルムやシートでも黄色に見えて良くない。YIはJIS K7373に記載の方法で測定することが出来る。
【0151】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いた成形物等の透明性は通常ヘイズメーターや目視試験で測定することが出来る。本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いた成形物は優れた透明性を有する。
【0152】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、これを用いてJIS K6301(2010)に準じ、幅10mm、長さ100mm、厚み約50μmの短冊状とした試験片を切り出し、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM-III-100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃及び40℃にて、相対湿度55%で引張試験を実施した時の試験片を100%伸長した時点での応力(100%モジュラス)が、23℃で測定した100%モジュラスに対する40℃で測定した100%モジュラスの強度比の百分率(以下、「40℃(100%M)/23℃(100%M)」と称す場合がある。)が70%以上であり、且つ以下の方法で測定した耐オレフィン酸性の質量変化率が40%以下の耐薬品性を併せ持つことが、特に後述する用途において好ましい。
<耐オレイン酸性>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出し、精密天秤で試験片の質量を測定した後、試験溶媒としてオレイン酸を50mlを入れた容量250mlのガラス瓶に投入して、80℃の窒素雰囲気下の恒温槽にて16時間静置する。試験後、試験片を取り出して、表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出する。
【0153】
40℃(100%M)/23℃(100%M)が70%未満では、当該温度で高張力が異なるため、温度による機械物性が異なり適切ではなく、また弾性回復性も悪化する傾向である。特に衣料用途の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーから得られるフィルムや弾性繊維等では、体温に近い40℃で高張力が異なると着心地や風合いに影響が出るので好ましくない。40℃(100%M)/23℃(100%M)はより好ましくは75%以上である。
【0154】
耐オレフィン酸性の質量変化率は人間の汗の成分であるオレイン酸への耐久性を示しており、後述する人体に直接触れる用途、例えば衣料用フィルム、シート、衣料向け弾性繊維、自動車内装材向け合成皮革シート及び加飾フィルムでは特に重要である。この値が40%を超えるとこれらの用途で熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが分解して機械物性が悪化したり、黄変が起きて使えなくなる。この質量変化率は35%以下がさらに好ましく、最も好ましくは30%以下である。
【0155】
また、これらの物性に加えて本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーから得られる成形物の外観(透明性)も、後述の試験方法で1、つまり透明性が優れることが重要である。透明性の評価が2あるいは3、つまり透明性が高くないと適用用途が制限されたり、また経時変化で機械強度が変わりやすくなるので取り扱い難くなる。
【0156】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーはポリオールとして共重合ポリカーボネートジオールを使用しているもののホモポリカーボネートに近い適度な結晶性を有するため、40℃(100%M)/23℃(100%M)が70%以上で、耐オレイン酸性の質量変化率が40%以下であると同時に透明性に優れた成形物を与えることが出来る。
【0157】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造方法]
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、前述のイソシアネート化合物(I)と官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)と共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)とを、前述の所定の割合で用いること以外は、一般的に実験的ないし工業的に用いられる通常のポリウレタン化反応により製造することができる。
【0158】
ここで、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造に当たり、溶剤を用いると、成形時に溶剤を除去する工程が必要となるため工業的に有利ではない。また溶剤は環境への負荷が大きいため、反応は無溶剤(溶剤の不存在下)で行うことが好ましい。
【0159】
例えば、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)とイソシアネート化合物(I)及び鎖延長剤(II)を150℃から210℃の範囲でワンショットで連続的に反応(一段法)させることにより、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを効率よく製造することができる。
【0160】
また、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と過剰のイソシアネート化合物(I)とをまず反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを製造し、さらに鎖延長剤(II)と反応させて(二段法)重合度を上げて、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造することもできる。
【0161】
無溶剤での熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの好ましい製造方法としては、イソシアネート化合物(I)、水酸基価から求めた数平均分子量が300未満であって、官能基が水酸基のみである脂肪族アルコール(II)及び水酸基価から求めた数平均分子量が300以上、10,000以下であるポリオール(III)を無溶剤で急速攪拌して十分に混合した後、連続して混合、反応させ押出しする装置に供給し、連続的に熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する方法が挙げられる。
【0162】
<鎖停止剤>
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際には、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤を少量添加使用することもできる。
鎖停止剤としては、一個の水酸基を有するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族モノオール類が例示される。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0163】
<触媒>
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際に、ウレタン化反応のために触媒を使用してもよい。ウレタン化反応触媒としては、例えば、有機スズ系化合物、有機亜鉛系化合物、有機ビスマス系化合物、有機チタン系化合物、有機ジルコニウム系化合物、アミン系化合物等を挙げることができる。ウレタン化反応触媒は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ウレタン化反応触媒を使用する場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの質量に対して、0.1~100質量ppmとなるように調整することが推奨される。0.1質量ppm以上のウレタン化反応触媒を使用すれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを成形した後も、当初の分子量が充分に高い水準で維持され、成形物でも、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー本来の物性が効果的に発揮されやすくなる。
【0164】
前記ウレタン化反応触媒の中でも、有機スズ系化合物が好ましい。有機スズ系化合物としては、例えば、スズ含有アシレート化合物、スズ含有メルカプトカルボン酸塩等が挙げられ、具体的には、オクチル酸スズ、モノメチルスズメルカプト酢酸塩、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズモノオクチレート、モノブチルスズモノアセテート、モノブチルスズマレイン酸塩、モノブチルスズマレイン酸ベンジルエステル塩、モノオクチルスズマレイン酸塩、モノオクチルスズチオジプロピオン酸塩、モノオクチルスズトリス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、モノフェニルスズトリアセテート、ジメチルスズマレイン酸エステル塩、ジメチルスズビス(エチレングリコールモノチオグリコレート)、ジメチルスズビス(メルカプト酢酸)塩、ジメチルスズビス(3-メルカプトプロピオン酸)塩、ジメチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジステアレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレイン酸塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジブチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸)、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸アルキルエステル)塩、ジブチルスズビス(3-メルカプトプロピオン酸アルコキシブチルエステル)塩、ジブチルスズビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチルスズ(3-メルカプトプロピオン酸)塩、ジオクチルスズマレイン酸塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、ジオクチルスズビス(3-メルカプトプロピオン酸)塩等が挙げられる。
【0165】
特に本発明に従って、脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物(I)を原料として使用する場合は、芳香族イソシアネート化合物より反応性が低いため、スズ系等の触媒を使用するのが好ましく、特に反応性の低い4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いる場合は触媒を使用することがさらに好ましい。
【0166】
特に反応性の低い4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いる場合は触媒を使用した場合でも、重合後の硬化発現が遅いので、20℃~120℃の温度で10時間以上熟成させるのが好ましい。熟成を十分に実施しないと熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの重合度が十分に上がらず、諸物性が悪化することがある。
【0167】
<一段法>
一段法による工業的な製造方法として、特開2004-182980号公報他に記載されている公知の方法が適用できる。例えば単軸または多軸スクリュー型押出機、あるいはスタティックミキサーに共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)、鎖伸長剤(II)およびイソシアネート化合物(I)並びに必要に応じて他の成分を、同時またはほぼ同時に連続的に供給して150~220℃、好ましくは160~210℃で連続溶融重合させて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する方法が挙げられる。
【0168】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際にイソシアネート化合物(I)、鎖延長剤(II)及びポリオール(III)を無溶剤系で急速攪拌して十分に混合した後、前記の単軸または多軸スクリュー型押出機、あるいはスタティックミキサー連続して供給して連続的に熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する方法は、反応性の低い脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物を用いる場合は有効である。前記イソシアネート化合物(I)、鎖延長剤(II)、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)は相溶性が良好ではないため、特に反応性が遅い場合は反応が進行する前に成分が分離を起こしやすく均一な熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造するのが難しいので、事前に急速攪拌機で強制的に混合するのが好ましい。
【0169】
<二段法>
二段法は、プレポリマー法ともよばれ、主に以下の方法がある。
共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)と、過剰のイソシアネート化合物(I)とを、イソシアネート化合物(I)/ポリオール(III)の反応当量比が1を超える量から10.0以下で反応させて、分子鎖末端がイソシアネート基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに鎖延長剤(II)を加えることにより熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する方法。
【0170】
二段法は無溶剤でも溶剤共存下でも実施することができる。
二段法による熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造は以下に記載の(1)~(3)のいずれかの方法によって行うことができる。
(1) 溶剤を使用せず、まず直接イソシアネート化合物(I)と共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)とを反応させてプレポリマーを合成し、そのまま鎖延長反応に使用する。
(2) (1)の方法でプレポリマーを合成し、その後溶剤に溶解し、以降の鎖延長反応に使用する。
(3) 初めから溶剤を使用し、イソシアネート化合物(I)と共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)とを反応させ、その後鎖延長反応を行う。
【0171】
(1)の方法の場合には、鎖延長反応にあたり、鎖延長剤(II)を溶剤に溶かしたり、溶剤に同時にプレポリマー及び鎖延長剤(II)を溶解したりするなどの方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを溶剤と共存する形で得ることが重要である。
【0172】
前記製法の中で、溶融成形性および力学的特性に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する場合、実質的に溶剤の不存在下で溶融重合することが好ましく、多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合法がより好ましい。連続溶融重合法で得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、一般に、80~130℃の固相重合で得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーに比べて、強度の点において優れている。また、一段法による場合は、押出機に反応成分のすべてを同時またはほぼ同時に供給するだけで、極めて簡単に目的とする熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを連続して製造することができるので好ましい。
【0173】
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの製造には必要に応じて、触媒や安定剤等を添加することもできる。例えばイソシアネート化合物(I)の安定性を高めて生産の安定性を図るために市販のトリフェニルホスファイト(TPP)等を添加する方法もある。
【0174】
<反応モル比>
上記いずれの製造方法による場合においても、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際のウレタン化反応には、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)の水酸基当量(EIII)、脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)、鎖延長剤(II)の水酸基当量(EII)が、0.95≦(EI)/((EII)+(EIII))≦1.05の当量比となるように反応させる。
【0175】
前述の通り、この当量比の値が0.95未満では、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、耐薬品性や耐熱性等の諸物性が不十分である。この当量比が1.05を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、部分的に架橋構造を有していたり、未反応のイソシアネート基が空気中や水槽の水分と反応してアミノ基になる割合が多くなるため、成形性に問題が生じたり、ゲルに起因するフィッシュアイが多くなったり、黄色くなり易かったり、また機械強度の伸度等も不十分になることもある。この当量比の下限は0.97以上が好ましく、さらに好ましくは0.99以上である。またこの当量比の上限は1.04以下が好ましく、さらに好ましくは1.03以下である。
【0176】
好ましくは、上記いずれの製造方法による場合においても、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造する際のウレタン化反応には、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)を含むポリオール(III)、脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物(I)及び鎖延長剤(II)を、ポリオール(III)の水酸基当量(EIII):イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI):脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が、1.0:2.0~5.5:1.0~4.5の当量比となるように反応させる。
【0177】
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)が2.0未満では、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの機械強度が不十分となり破断強度が低下したり、弾性特性が低下したり、また耐熱性が不十分となる。また、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)が5.5を超えると、温度が変わった時の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの弾性率の差が大きくなり、また破断伸度が低下したり弾性率が高すぎたりして弾性特性が低下したり、低温での柔軟性も不十分となる。
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、イソシアネート化合物(I)のイソシアネート当量(EI)は、諸物性と各種耐久性のバランスから2.5~5.0が好ましく、2.5~4.5がさらに好ましい。
【0178】
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)が1.0未満では熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの強度が不十分であり、4.5を超えると柔軟性が不十分となる。
ポリオール(III)の水酸基当量(EIII)を1としたとき、脂肪族アルコール(II)の水酸基当量(EII)は、強度と柔軟性のバランスから1.5~4.0が好ましく、1.5~4.0がより好ましい。
【0179】
[添加剤]
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーは、安定剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤(HALS)及び滑材よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の添加剤をコンパウンドさせた組成物は樹脂の安定性が向上するので好ましい。また、内部離型剤、外部離型剤、充填剤、可塑剤、着色剤(染料、顔料)、難燃剤、架橋剤、反応促進剤、補強剤等を、用途によって本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの特性を損なわない範囲で、添加、混合して熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物として用いることができる。
【0180】
内部離型剤としては、例えば、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸塩、シリコンオイル等が挙げられる。脂肪酸アミドとしては、例えば、カプロン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、長鎖脂肪酸とアルコールとのエステル等が挙げられ、具体的には、ソルビタンモノラウレート、ブチルステアレート、ブチルラウレート、オクチルパルミテート、ステアリルステアレート等が挙げられる。脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、リンデン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸等が挙げられる。脂肪酸塩としては、例えば、前記脂肪酸の金属(例えばバリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等)塩が挙げられる。
【0181】
充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、白亜、硫酸カルシウム、粘土、カオリン、シリカ、ガラス、ヒュームドシリカ、マイカ、珪灰石、長石、アルミニウムシリケート、カルシウムシリケート、アルミナ、アルミナ三水和物等のアルミナ水和物、ガラス微小球、セラミック微小球、熱可塑性樹脂微小球、バライト、木粉、ガラス繊維、カーボンファイバー、マーブルダスト、セメントダスト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン、チタン酸塩、これらの組合せ等が挙げられる。充填剤は、好ましくはタルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、ガラス、ガラス繊維、アルミナ、二酸化チタンまたはこれらの組合せであり、より好ましくはタルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維またはこれらの組合せである。充填剤として、Zweifel Hansらの文献「プラスチック添加剤ハンドブック(Plastics Additives Handbook)」Hanser Gardner Publications, Cincinnati, Ohio、5版、17章、901-948ページ(2001)に記載されているものを使用できる。
【0182】
可塑剤としては、例えば、鉱油、アビエチン酸エステル、アジピン酸エステル、アルキルスルホン酸エステル、アゼライン酸エステル、安息香酸エステル、塩素化パラフィン、クエン酸エステル、エポキシド、グリコールエーテルおよびそのエステル、グルタル酸エステル、炭化水素油、イソ酪酸エステル、オレイン酸エステル、ペンタエリスリトール誘導体、リン酸エステル、フタル酸エステル、ポリブテン、リシノール酸エステル、セバシン酸エステル、スルホンアミド、トリメリト酸エステル、ピロメリト酸エステル、ビフェニル誘導体、ステアリン酸エステル、ジフランジエステル、フッ素含有可塑剤、ヒドロキシ安息香酸エステル、イソシアン酸エステル付加物、多環芳香族化合物、天然製品誘導体、シロキサン系可塑剤、タール系製品、チオエステル、チオエーテル、これらの組合せ等が挙げられる。熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物中の可塑剤の含有量は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~5質量%である。可塑剤として、George Wypychの文献「可塑剤のハンドブック(Handbook of Plasticizers)」ChemTec Publishing, Toronto- Scarborough, Ontario(2004)に記載されているものを使用できる。
【0183】
着色剤(染料、顔料)としては、例えば、無機顔料、例えば、金属酸化物(例えば酸化鉄、酸化亜鉛、二酸化チタン)、混合金属酸化物、カーボンブラック、これらの組合せ等;有機顔料、例えば、アントラキノン、アンタントロン、アゾ化合物、モノアゾ化合物、アリールアミド、ベンゾイミダゾロン、BONAレーキ、ジケトピロロピロール、ジオキサジン、ジスアゾ化合物、ジアリリド化合物、フラバントロン、インダントロン、イソインドリノン、イソインドリン、モノアゾ塩、ナフトール、β-ナフトール、ナフトールAS、ナフトールレーキ、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、ピラントロン、キナクリドン、キノフタロン、これらの組合せ等;無機顔料および有機顔料の組合せ;等が挙げられる。熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物中の着色剤の含有量は、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.25~2質量%である。着色剤としては、Zweifel Hansらの文献「プラスチック添加剤ハンドブック(Plastics Additives Handbook)」Hanser Gardner Publications, Cincinnati, Ohio、5版、15章、813-882ページ(2001)に記載されているものを使用できる。
【0184】
酸化防止剤としては、例えば、アルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、アラルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化p-フェニレンジアミン、テトラメチル-ジアミノジフェニルアミン等の芳香族アミンまたはヒンダードアミン;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等のフェノール化合物;1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン;テトラキス[(メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン(例えば、IRGANOX(商標)1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);アクリロイル修飾フェノール;オクタデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシシンナメート(例えば、IRGANOX(商標)1076、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);亜リン酸エステル;亜ホスホン酸エステル;ヒドロキシルアミン;ベンゾフラノン誘導体;これらの組合せ;等が挙げられる。熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物中の酸化防止剤の含有量は、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0.0001~2.5質量%、さらに好ましくは0.001~1質量%、特に好ましくは0.001~0.5質量%である。酸化防止剤として、Zweifel Hansらの文献「プラスチック添加剤ハンドブック(Plastics Additives Handbook)」Hanser Gardner Publications, Cincinnati, Ohio、5版、1章、1-140ページ(2001)に記載されているものを使用できる。
【0185】
UV安定剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、アリールエステル、オキサニリド、アクリル酸エステル、ホルムアミジン、カーボンブラック、ヒンダードアミン、ニッケルクエンチャー、ヒンダードアミン、フェノール化合物、金属塩、亜鉛化合物、これらの組合せ等が挙げられる。熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物中のUV安定剤の含有量は、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0.01~3質量%、さらに好ましくは0.1~2質量%、特に好ましくは0.1~1質量%である。UV安定剤として、Zweifel Hansらの文献「プラスチック添加剤ハンドブック(Plastics Additives Handbook)」Hanser Gardner Publications, Cincinnati, Ohio、5版、2章、141-426ページ(2001)に記載されているものを使用できる。
【0186】
熱安定剤としては、例えば、リン系熱安定剤が挙げられ、その市販品としては、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名:イルガフォス38、同126、同P-EPQ等、旭電化工業社製の商品名:アデカスタブPEP-4C、同11C、同24、同36等が挙げられる。リン系熱安定剤を使用する場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物中の熱安定剤の含有量は、好ましくは0.05~1質量%である。
【0187】
難燃剤としては、例えば、ポリブロモジフェニルエーテル、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン等のハロゲン系の有機難燃剤;リン系の有機難燃剤;窒素系の有機難燃剤;三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤;等が挙げられる。
【0188】
架橋剤としては、例えば、アルキル過酸化物、アリール過酸化物、ペルオキシエステル、ペルオキシカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシケタール、環式過酸化物等の有機過酸化物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン系化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トルアクリルホルマール等の分子内に炭素-炭素二重結合を複数個(好ましくは3個以上)有するラジカル架橋剤等が挙げられる。架橋剤として、Zweifel Hansらの文献「プラスチック添加剤ハンドブック(Plastics Additives Handbook)」Hanser Gardner Publications, Cincinnati, Ohio、5版、14章、725-812ページ(2001)に記載されているものを使用できる。中でも、ラジカル架橋剤が好ましく、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トルアクリルホルマールがより好ましく、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートがさらに好ましい。
【0189】
これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0190】
これらの添加剤の添加量は、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーに対する質量比として、下限が、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.1質量%、上限は、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは1質量%である。添加剤の添加量が少な過ぎるとその添加効果を十分に得ることができず、多過ぎると熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いたフィルムや成形物の加工の過程で析出したり、濁りを発生したりする場合がある。
【0191】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーに他の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー、塩化ビニル系、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリジオレフィン系、ポリエステル系、アミド系、シリコン系等の他の熱可塑性エラストマーをコンパウンドして使用することも出来る。
【0192】
[用途]
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーよりなる成形物は、温度による弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つというと特殊な機械物性を有し、低温加熱時の柔軟性(伸縮性)に優れ、同時に耐候性、耐薬品性等の各種耐久性並びに透明性や風合いに優れた特徴を持つので、これらの特性が要求される各種用途に使用することが出来る。
【0193】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物は成形することによって、前記特徴を有する成形物を得ることができる。
【0194】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物の成形方法は特に限定されるものではなく、熱可塑性重合体に対して一般に用いられている各種の成形方法を使用することができる。例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形、ロール加工などの任意の成形法を採用することができ、樹脂板、フィルム、シート、チューブ、ホース、ベルト、ロール、合成皮革、靴底、自動車部品、エスカレーターハンドレール、道路標識部材、繊維等の種々の形状の成形品を製造できる。
【0195】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの用途としては、より具体的には、食品、医療分野で用いる空圧機器、塗装装置、分析機器、理化学機器、定量ポンプ、水処理機器、産業用ロボット等におけるチューブやホース類、スパイラルチューブ、消防ホース等が挙げられる。また、丸ベルト、Vべルト、平ベルト等のベルトとして、各種伝動機構、紡績機械、荷造り機器、印刷機械等に用いられる。また、履物のヒールトップや靴底、カップリング、パッキング、ポールジョイント、ブッシュ、歯車、ロール等の機器部品、スポーツ用品、レジャー用品、時計のベルト等に使用できる。さらに自動車部品としては、オイルストッパー、ギアボックス、スペーサー、シャーシー部品、内装品、タイヤチェーン代替品等に使用できる。また、キーボードフィルム、自動車用フィルム等のフィルム、カールコード、ケーブルシース、ベロー、搬送ベルト、フレキシブルコンテナー、バインダー、合成皮革、ディピンイング製品、接着剤等に使用できる。
【0196】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー又は熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー組成物の成形物は、厚さ30μm~2mmのフィルム、シート等のフィルム状物、例えば衣料用、あるいはスポーツ・アウトドア衣料、鞄及び靴向けの透湿防水フィルム、防水フィルム用途に好適である。衣料用は40℃、つまり皮膚と接触する体温付近と室温(約23℃)での弾性率の差が小さく、一定の抗張力を持つことで優れた着心地や風合いを与えると共に、汗に含まれるオレイン酸等の耐薬品性が優れるのが好ましい。また、衣料向け弾性繊維も同様に好適である。弾性繊維はポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維等と混紡して用いられたり、また短繊維を融着させた不織布としても用いられる。現在、衣料向けにはSpandexと呼ばれるエーテルポリオールを用いた弾性繊維が用いられているが、これは耐候性、耐薬品性等の耐久性が劣るので、本発明の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを溶融紡糸した弾性繊維は上記課題を解決できる。また、自動車外装用の塗料保護フィルム、外装、内装用の加飾フィルム、及び内装用合成皮革シートも好適である。これらの用途では適度な範囲の機械物性に加えて、オレイン酸等への優れた耐薬品性等の耐久性、さらに透明性が必要である。
【0197】
さらに樹脂の使用量が多い、衣料用途、自動車用途では、特に地球環境保護、地球温暖化防止が強く求められており、バイオマス資源由来の原料を用いた本発明の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーはこれらの課題を解決できるため好適である。さらに、前記バイオマス資源が、人類の食糧問題との競合を避けられ、動物愛護の視点でも望ましい非可食植物由来である熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーが最も求められている。
【0198】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを用いた熱可塑性ポリウレタンフィルムやこの熱可塑性ポリウレタンフィルムを含む積層フィルムは、更には自動車や船舶、航空機の表面や建材に使用されるマーキングフィルム、自動車内外装に使用される加飾フィルム、各種樹脂や金属、ガラス面に使用される装飾フィルム等にも使用できる。
【実施例】
【0199】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0200】
〔評価方法〕
以下の実施例及び比較例における各種の評価方法は下記の通りである。
【0201】
[ポリカーボネートジオールの評価方法]
<水酸基価・数平均分子量>
JIS K1557-1に準拠して、アセチル化試薬を用いた方法にてポリカーボネートジオールの水酸基価を測定した。また、水酸基価から、下記式(1)により数平均分子量を求めた。
数平均分子量=2×56.1/(水酸基価×10-3) …(1)
【0202】
<繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とのモル比率>
ポリカーボネートジオールをCDCl3に溶解し、400MHz 1H-NMR(日本電子株式会社製AL-400)を測定し、各成分のシグナル位置より、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル比率(B)/(A)を求めた。
【0203】
<フェノール類含有量>
ポリカーボネートジオールをCDCl3に溶解して400MHz 1H-NMR(BRUKER製AVANCE400)を測定し、各成分のシグナルの積分値より算出した。その際の検出限界は、フェノールの質量として100ppmである。
【0204】
<マグネシウム含有量>
ポリカーボネートジオールを約0.1g秤り採り、4mLのアセトニトリルに溶解した後、20mLの純水を加えてポリカーボネートジオールを析出させ、析出したポリカーボネートジオールをろ過にて除去した。ろ過後の溶液を純水で所定濃度まで希釈し、金属イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。溶媒として使用するアセトニトリルの金属イオン濃度をブランク値として測定し、溶媒分の金属イオン濃度を差し引いた値をポリカーボネートジオールの金属イオン濃度とした。測定条件は以下の表1に示す通りである。分析結果と予め作成した検量線を使用してマグネシウムイオン濃度を求めた。
【0205】
【0206】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムと熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの評価方法]
<熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの分子量>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムをジメチルアセトアミドに溶解し、濃度が0.14質量%になるようにジメチルアセトアミド溶液とした。GPC装置〔東ソー社製、製品名「HLC-8220」(カラム:TskgelGMH-XL・2本)〕を用いて、該ジメチルアセトアミド溶液を注入し、標準ポリスチレン換算で、熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0207】
<溶融粘度>
JIS 7210(ISO1133)に準じて、メルトマスフローレート測定装置(立山科学工業製、装置名:メルトインデクサー)を用いて、2.16kgの荷重にて、メルトマスフローレート(MFR)を測定した。溶融粘度は190℃の条件下で測定した。
【0208】
<硬度>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのペレットを用いて測定した。加熱プレス機(東洋精機製作所製、製品名「ミニテストプレス」)のプレートの上にフッ素樹脂シート、溶融成形用の金型の順に設置した。溶融成形用の金型は4cm×4cm×厚さ2mmを用いた。金型にペレットを入れ、さらにその上からフッ素樹脂シートで覆った。加熱プレス機のプレートを用いて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを溶融した(圧力:1MPa×温度:180℃×時間:5分間)。溶融後に加熱プレス機の圧力設定を徐々に上げ、最大で10MPaで5分間加熱し成形した。その後、加熱プレス機の圧力を下げて金型を取り出し、冷却用プレス機(東洋精機製作所製、製品名「ミニテストプレス」)に設置して急冷(圧力10MPa×時間2分)することで1cm×4cm×厚さ2cmの熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのシートを得た。JIS K6253(2012)に準じ、厚さ2mmの熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのシートを3枚重ね、厚さ6mmの試験片とした。ゴム硬度計〔テフロック社製、型番「GS-719N (A-TYPE)」〕を用いて、該ゴム硬度計の加圧版を該試験片に接触させ、10秒後の測定値[ショアA硬度]を読み取った。接触点が6mm以上離れた位置で5回測定し、その平均値を算出した。
【0209】
<色相(YI)>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムについて、測色色差計ZE-6000(日本電色工業製)を使用して、12V、20Wのハロゲンランプを光源として用い、照射時間5秒による反射光を検出してJIS K7373に基づくD65光源2度視野の条件でYIを測定した。
【0210】
<外観(透明性)>
上記の熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのシート(溶融成形による4cm×4cm×厚さ2mmのシート状のサンプル)を通して、3人の評価員により、シートの背後の側の文字を目視で確認することによりシートの透明性を確認した。評価1は、シートが透明で文字がクリアーに見える。評価2は、シートに濁りがあり文字がはっきり見えない。評価3は、シートが白く文字がほぼ見えない。最終判定は3人の評価員の多数決で決めた。この値は1が透明性に優れるが、2、3は不透明で十分な外観とは言えない。
【0211】
<引張試験>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのフィルムから、JIS K6301(2010)に準じ、幅10mm、長さ100mm、厚み約50μmの短冊状とした試験片を切り出し、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM-III-100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃又は40℃にて、相対湿度55%で引張試験を実施し、試験片が100%伸長した時点での応力:100%モジュラスを測定した。23℃で測定した100%モジュラス(23℃(100%M))に対する40℃で測定した100%モジュラス(40℃(100%M))の比率の百分率を40℃(100%M)/23℃(100%M)として算出した。
【0212】
<耐オレイン酸性>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出した。精密天秤で試験片の質量を測定した後、試験溶媒としてオレイン酸を50mlを入れた容量250mlのガラス瓶に投入して、80℃の窒素雰囲気下の恒温槽にて16時間静置した。試験後、試験片を取り出して、表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出した。質量変化率が0%に近いほうが耐オレイン酸性が良好であることを示す。
【0213】
<耐エタノール性>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出した。精密天秤で試験片の質量を測定した後、試験溶媒としてエタノール50mlを入れた内径10cmφのガラス製シャーレに投入して約23℃の室温にて1時間浸漬した。試験後、試験片を取り出して紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出した。質量変化率が0%に近いほうが耐エタノール性が良好であることを示し、20%以下、特に15%以下が好ましい。
【0214】
<熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー中のバイオマス資源の含有率>
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを、ASTM D6866試験規格に記載の放射性炭素(14C)測定による炭素含有率試験により測定した。
【0215】
〔ポリカーボネートジオールの製造と評価〕
[合成例1]
攪拌機、留出液トラップ、及び圧力調整装置を備えた5Lガラス製セパラブルフラスコに石化由来の1,4-ブタンジオール(以下「1,4BD」と称する場合がある):1065.2g、非可食植物(ひまし油)由来の1,10-デカンジオール(以下「1,10DD」と称する場合がある):280.9g、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と称する場合がある):2653.9g、酢酸マグネシウム4水和物水溶液:7.2mL(濃度:8.4g/L、酢酸マグネシウム4水和物:60mg)を入れ、窒素ガス置換した。攪拌下、内温を160℃まで昇温して、内容物を加熱溶解した。その後、2分間かけて圧力を24kPaまで下げた後、フェノールを系外へ除去しながら90分間反応させた。次いで、圧力を9.3kPaまで90分間かけて下げ、さらに0.7kPaまで30分間かけて下げて反応を続けた後に、170℃まで温度を上げてフェノール及び未反応のジヒドロキシ化合物を系外へ除きながら60分間反応させて、ポリカーボネートジオール含有組成物を得た。その後、0.85質量%リン酸水溶液:2.8mLを加えて酢酸マグネシウムを失活させて、ポリカーボネートジオール含有組成物を得た。
【0216】
得られたポリカーボネートジオール含有組成物を約20g/分の流量で薄膜蒸留装置に送液し、薄膜蒸留(温度:170℃、圧力:53~67Pa)を行った。薄膜蒸留装置としては、直径50mm、高さ200mm、面積0.0314m2の内部コンデンサー、ジャケット付きの柴田科学株式会社製、分子蒸留装置MS-300特型を使用した。
【0217】
薄膜蒸留で得られたポリカーボネートジオールのフェノール類の含有量は100質量ppm以下であった。また、マグネシウムの含有量は100質量ppm以下であった。
この合成例1で製造されたポリカーボネートジオールを「PCD1」と称する。
このPCD1の性状及び物性の評価結果を表2に示す。
【0218】
【0219】
[市販のポリオール]
ε-カプロラクトンを原料として製造されたポリカプロラクトン(株式会社ダイセル製
「プラクセル(登録商標)」 グレード:PCL220、数平均分子量(Mn):2000)を比較例のポリオールとした。このポリカプロラクトンを「PCL」と称する。
【0220】
〔熱可塑性ポリウレタンフィルムの製造と評価〕
[実施例1]
攪拌機を備えた押出成型機の貯槽に、あらかじめ80℃に加熱したPCD1と4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下「H12MDI」と称する場合がある)および1,4-ブタンジール(以下「1,4BD」と称する場合がある)を、PCD1の水酸基当量(EIII):H12MDIのイソシアネート当量(EI):1,4BDの水酸基当量(EII)の比が1.00:3.28:2.30((EI)/((EII)+(EIII))=0.995)となるように用い、更にウレタン化触媒としてネオスタンU-830(以下U-830、日東化成株式会社製)をPCD1とH12MDIの合計質量に対し2質量ppm仕込んだ。次いで定量ポンプにより2000rpmの回転数のミキサーで全成分を急速混合させた後、同軸方向に回転する二軸スクリュー押出機に機内重合温度を140℃から220℃の範囲で連続的に供給した。この時の回転速度を250rpm、押出機内での滞留時間を1分から3分に制御した。ダイ出口で連続的に押し出されるストランドを水中で冷却してペレタイザーで切断した。ペレットはその後、100℃で24時間乾燥させた。
【0221】
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーのペレットを50mmφのインフレーション用ダイを取り付けた短軸押出機を用いて、シリンダー温度とダイス温度共に200℃で連続的に厚さ150μmのフィルムを成形した。この時のフィルム巻き取り速度を6m/分とした。
【0222】
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムについて、前述の評価を行い、結果を表3に示した。
【0223】
[実施例2、比較例1]
用いる原料を表3に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムを得、同様に評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0224】
【0225】
表3より次のことが分かる。
【0226】
ポリオールとして、ポリカプロラクトンを用いた比較例1では、40℃(100%M)/23℃(100%M)はPCD1を用いた実施例1と同様に高く優れるものの、耐薬品性能が極めて低い。
【0227】
これに対して、ポリオールとして、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)を有する共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と脂環族イソシアネート化合物と鎖延長剤を所定の割合で反応させて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造した実施例1,2では、40℃(100%M)/23℃(100%M)が高く、また、透明性が1で合格であり、かつ耐薬品性にも優れる。
【0228】
[実施例3]
熱電対を設置し、攪拌機を具備したセパラブルフラスコに、あらかじめ80℃に加温したPCD1 67.70gと、1,4-BD 6.10gと、脱水N,N-ジメチルホルムアミド235.41gと、ウレタン化触媒(ネオスタンU-830)370mgを入れた。このセパラブルフラスコを55℃に設定されたオイルバスに浸し、セパラブルフラスコ内を窒素雰囲気下で加温しつつ、60rpmで1時間程度攪拌した。PCD1が溶媒に溶解した後、H12MDIを23.50g添加した。反応熱による内温上昇がおさまり温度低下が始まってから、30分後に、H12MDIを約1gずつ追添加していった。H12MDIの追添加を繰り返し、最終的に合計26.10gのH12MDIを添加し、ポリウレタン溶液を得た。
【0229】
得られたポリウレタン溶液を500μmのアプリケーターでフッ素樹脂シート(フッ素テープニトフロン900、厚さ0.1mm、日東電工株式会社製)上に塗布し、50℃で5時間、100℃で0.5時間、真空条件100℃で0.5時間、80℃で15時間の順で乾燥させて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムを得た。
【0230】
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムについて、前述の評価を行い、結果を表4に示した。
【0231】
[比較例2、3]
用いる原料を表4に示す通りに変更した以外は実施例3と同様にして熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーフィルムを得、同様に評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0232】
比較例2でポリオールとして用いたHD-PCDとは、ジオール原料として1,6-ヘキサンジオールのみを用いたホモポリカーボネートジオールである。
【0233】
【0234】
表4より次のことが分かる。
【0235】
ポリオールとしてHD-PCDを用いた比較例2では、40℃(100%M)/23℃(100%M)が小さい、すなわち23℃と40℃の温度において100%モジュラスの差が大きく、温度が変わると安定したエラストマー性能を発揮できず用途が限定されてしまう。また、オレイン酸、エタノールへの浸漬試験においていずれの薬品に対しても質量増加率が大きく、人が頻繁に触れる部材への使用、あるいは消毒が必要な用途において耐久性が不十分である。
【0236】
これに対して、ポリオールとして、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)を有する共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)であるPCD1を用い、共重合ポリカーボネートジオール(IIIA)と脂環族イソシアネート化合物と鎖延長剤を所定の割合で反応させて熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを製造した実施例3では、40℃(100%M)/23℃(100%M)はそれぞれ78.4%、94.1%と高い。これは40℃においても23℃と100%モジュラスの値の差が小さく温度変化に対して物性が影響を受けにくいことを示している。また、耐薬品性についても比較例2に対して優れている。特に人の皮脂や汗に含まれるオレイン酸に対して優れた耐薬品性を示し、人が触る部材に好適に適用することが可能である。
【0237】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年4月24日付で出願された日本特許出願2019-083088及び日本特許出願2019-083089に基づいており、その全体が引用により援用される。