(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】環状リン酸エステルを含む二次電池用電解液
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240508BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240508BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240508BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/587
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2022501839
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2021005056
(87)【国際公開番号】W WO2021166771
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020024251
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】ゼン チフェン
(72)【発明者】
【氏名】尚 睿
(72)【発明者】
【氏名】チェン ウェンティン
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110590848(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0272607(US,A1)
【文献】特開平09-223516(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093411(WO,A1)
【文献】安川栄起,4.2 次世代電解質材料,電気化学および工業物理化学,2003年,71(2),p.131-134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒とアルカリ金属塩とを含む二次電池用電解液であって、
前記有機溶媒が、
以下に示す式(1)で表されるリン原子と酸素原子を含む5員環構造を有する環状リン酸エステルを含み、
【化1】
(式中、Xは、酸素原子又は窒素原子を表し;Yは、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基を表す。);
共溶媒として、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(FEMC)をさらに含み、
全溶媒中における前記環状リン酸エステルの割合が、30~100mol%であり、
前記電解液の組成が、前記アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が5mol以上であ
り、
前記アルカリ金属塩が、リチウム塩又はナトリウム塩であり、前記アルカリ金属塩を構成するアニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミド([N(FSO
2
)
2
]
-
)である、
該電解液。
【請求項2】
前記環状リン酸エステルが、以下の構造を有する化合物
である、請求項1に記載の二次電池用電解液。
【化2】
【請求項3】
前記二次電池が、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池である、請求項1
又は2に記載の二次電池用電解液。
【請求項4】
正極、負極、及び、請求項1
又は2に記載の二次電池用電解液を備える二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池である、
請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極が、リチウム元素を有する金属酸化物、ポリアニオン系化合物、又は硫黄系化合物より選択される活物質を含む、
請求項5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極が、炭素材料、金属リチウム、又はリチウムと合金を形成し得る物質より選択される活物質を含む、
請求項5に記載の二次電池。
【請求項8】
ナトリウムイオン二次電池である、
請求項4に記載の二次電池。
【請求項9】
前記正極が、遷移金属酸化物である、
請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記負極が、ハードカーボンである、
請求項8に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性の高い二次電池用電解液、及び当該電解液を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度を有するリチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンなどの小型携帯機器用途に加えて、電気自動車や電力蓄電用途などの大型蓄電池としての大規模な普及が期待されている。近年は、低コストで製造できる二次電池が求められるようになっている。そのため、二次電池の高エネルギー密度化を目指し、リチウムイオン電池の派生型や、リチウムと比較して安価で資源が豊富なナトリウムを用いるナトリウムイオン電池などのさまざまな二次電池の研究が活発に行われている。
【0003】
しかしながら、従来、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池等の二次電池では、実用に耐えうる電池特性を得るために可燃性の有機電解液を用いなければならなかった。かかる可燃性の有機電解液の使用に起因するリチウムイオン電池の発火・爆発事故が多く報告され、二次電池の市場・用途拡大の大きな阻害要因となっている。また、ナトリウムイオン電池では、過充電等によってナトリウム金属が生成し得るが、かかるナトリウム金属は、極めて反応性が高く発火等の危険性が懸念されている。かかる安全性の問題の大部分は、溶媒としての揮発性と可燃性の高い有機カーボネートの使用と、電解質の塩としての化学的に不安定な六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などが主として用いられていることに起因する。
【0004】
一方で、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸ジエチルエチル(DEEP)などの有機リン酸エステルが不燃性の特性を有するものの、これらの有機リン酸エステルは、グラファイトアノードの表面に安定した固体電解質界面(SEI)膜を形成できず、最初の充電プロセス中にグラファイトの剥離や連続的な電解質分解を引き起こすことが知られている。これら有機リン酸エステルは、あくまで微量の添加剤としてのみ用いられ、主溶媒として用いることは困難であった。
【0005】
これに対し、本願発明者らは、リン酸トリメチル等の難燃性溶媒に高濃度のアルカリ金属塩を電解液に添加することにより、電解液として機能し得ることを報告している(非特許文献1)。しかし、かかる高濃度塩を含む電解液は、高コスト、高粘度、湿潤性の低さなどの課題も有する。したがって、通常の低濃度電解質(例えば1M以下)の条件であっても、炭素質アノード等を不働態化できSEI膜を形成可能な不燃性電解液は、これまでに実現されていないのが現状である。それゆえ、高い熱的安定性を有し、かつ電気化学的安定性を備えた不燃性電解液の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Wangら、Nat. Energy、3 、22-29 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、高濃度の電解質を用いることなく、発火リスクに対応し得る安全性(難燃性)を有し、かつ優れた電池特性を提供可能な二次電池用電解液を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、特定の構造を有する環状リン酸エステルを溶媒として用いることで、アルカリ金属塩の添加量を抑えつつ、電極表面における不働態被膜(SEI膜)形成能力と難燃性を両立させ得る二次電池用電解液が得られることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一態様において
<1>有機溶媒とアルカリ金属塩とを含む二次電池用電解液であって、前記有機溶媒が、リン原子と酸素原子を含む5員環構造を有する環状リン酸エステルを含み、前記電解液の組成が、前記アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が5mol以上である、該電解液;
<2>前記環状リン酸エステルが、以下に示す式(1)で表される、上記<1>に記載の二次電池用電解液
【化1】
(式中、Xは、酸素原子又は窒素原子を表し;Yは、置換基を有してしてもよい1つ又は2つのアルキル基を表す。);
<3>Yが、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基である、上記<2>に記載の二次電池用電解液;
<4>前記環状リン酸エステルが、以下の構造を有する化合物から選択される、上記<1>に記載の二次電池用電解液;
【化2】
<5>前記アルカリ金属塩が、リチウム塩又はナトリウム塩である、上記<1>~<4>のいずれか1に記載の二次電池用電解液;
<6>前記アルカリ金属塩を構成するアニオンが、フルオロスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、パーフルオロエタンスルホニル基、及びヘキサフルオロホスフェート基よりなる群から選択される1以上の基を含むアニオンである、上記<1>~<5>のいずれか1に記載の二次電池用電解液;
<7>前記アニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミド([N(FSO
2)
2]
-)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)イミド([N(CF
3SO
2)(FSO
2)]
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(CF
3SO
2)
2]
-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([N(C
2F
5SO
2)
2]
-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)イミド([N(C
2F
5SO
2)(CF
3SO
2)]
-)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF
6
-)である、上記<6>に記載の二次電池用電解液;
<8>全溶媒中における前記環状リン酸エステルの割合が、10~100mol%である、上記<1>~<7>のいずれか1に記載の二次電池用電解液;
<9>共溶媒として、アルキルカーボネート又はハロゲン原子を含有するアルキルカーボネートをさらに含む、上記<1>~<8>のいずれか1に記載の二次電池用電解液;
<10>前記共溶媒が、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(FEMC)である、上記<9>に記載の二次電池用電解液;及び
<11>前記二次電池が、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池である、上記<1>~<10>のいずれか1項に記載の二次電池用電解液
を提供するものである。
【0010】
別の態様において、本発明は、
<12>正極、負極、及び、上記<1>~<11>のいずれか1に記載の二次電池用電解液を備える二次電池;
<13>リチウムイオン二次電池である、上記<12>に記載の二次電池;
<14>前記正極が、リチウム元素を有する金属酸化物、ポリアニオン系化合物、又は硫黄系化合物より選択される活物質を含む、上記<13>に記載の二次電池;
<15>前記負極が、炭素材料、金属リチウム、又はリチウムと合金を形成し得る物質より選択される活物質を含む、上記<13>に記載の二次電池;
<16>ナトリウムイオン二次電池である、上記<12>に記載の二次電池;
<17>前記正極が、遷移金属酸化物である、上記<16>に記載の二次電池;及び
<18>前記負極が、ハードカーボンである、上記<16>に記載の二次電池
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二次電池用電解液によれば、アルカリ金属塩の添加量を抑えつつ、電極表面における不働態被膜(SEI膜)形成能力と難燃性を両立させることができる。
【0012】
従来、負極の安定作動のためには炭酸エステル系溶媒を用いることが必須とされていたが、本発明の二次電池用電解液を用いた電池では、優れたサイクル特性を有し、電圧耐性も十分に高い。したがって、本発明の二次電池用電解液を用いることで、電池の過充電などが行われた場合でも、発火の危険性を回避することができ、安全性が高くかつ長寿命化等の優れた電池特性を有する二次電池を構築可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1aは、実施例で調製した電解液についてのLSV測定結果を示すグラフである。
図1bは、実施例で調製した電解液についての可燃性試験を示す画像である。
【
図2】
図2aは、実施例で調製した電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
図2bは、当該コイン電池のサイクル試験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例で調製した電解液を用いたコイン電池(Al|Li)についてのクロノアンペロメトリー(CA)測定の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、CA測定後のアルミニウム電極のXPS測定の結果を示すチャートである。
【
図5】
図5は、実施例で調製した電解液を用いたコイン電池(NMC|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例で調製した電解液を用いたコイン電池(LNMO|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
【
図7】
図7は、支持塩をLiPF
6とした電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
【
図8】
図8は、TFEP単独溶媒(100mol%)とした電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の25℃における充放電曲線を示すグラフである。
【
図9】
図9は、TFEP単独溶媒(100mol%)とした電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の45℃における充放電曲線を示すグラフである。
【
図10】
図10は、TFEPとEMCの混合溶媒(TFEP:EMC=2:8)の電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
【
図11】
図11は、TFEPとDMCの混合溶媒(TFEP:DMC=2:8)の電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
【
図12】
図12は、TFEPとDMCの混合溶媒(TFEP:DMC=1:1)の電解液を用いたコイン電池(グラファイト|Li)の充放電曲線を示すグラフである。
【
図13】
図13は、本発明のLiFSI/TFEP/FEMC電解液と商用LiPF
6/EC/DMC電解液の総合性能の比較を示すチャートである。
【
図14】
図14は、DMAP/EMC電解液(支持塩:LiFSI)を用いた黒鉛|Liハーフセルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図15】
図16は、DMAP/EMC電解液(支持塩:LiPF
6)を用いた黒鉛|Liハーフセルの充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0015】
1.電解液
本発明の二次電池用電解液は、有機溶媒として特定の構造を有する環状リン酸エステルを含み、低濃度のアルカリ金属塩を含むことを特徴とする。これにより、優れた電池特性と難燃性を両立させることができる。
【0016】
(1)溶媒
本発明の二次電池用電解液に含まれる有機溶媒は、リン原子と酸素原子を含む5員環構造を有する環状リン酸エステルを含むものである。かかる環状リン酸エステルは、アノード(負極)に不働態被膜(SEI膜)を形成し得る溶媒として従来用いられていたエチレンカーボネート等の炭酸エステルに類似する環状構造と、不燃性物質(だが不働態被膜を形成できない)として知られているリン酸エステルの構造を融合した分子構造を有することを特徴とする。かかる分子構造を有することにより、上述のとおり、不働態被膜(SEI膜)形成能のよる優れた電池特性とともに、その難燃性による安全性を同時に有するという、従来は達成されていなかった機能を提供することができる。
【0017】
より具体的には、当該環状リン酸エステルは、以下に示す式(1)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【化3】
【0018】
ここで、式中、Xは、酸素原子又は窒素原子を表し、Yは、置換基を有してしてもよい1つ又は2つのアルキル基を表す。例えば、酸素原子は原子価が2の元素であるから、Xが酸素原子の場合には、Yが1つのアルキル基である。この場合、「X-Y」はアルコキシ基(-O-Y)を形成する。また、窒素原子は原子価が3の元素であるから、Yが窒素原子の場合には、Yは1つのアルキル基でもよいし、2つのアルキル基であってもよい。すなわち、Yが1つのアルキル基の場合、「X-Y」はアルキルアミノ基(-NH-Y)を形成し、Yが2つのアルキル基の場合、「X-Y」はジアルキルアミノ基(-N(Y)2)を形成する。
【0019】
本明細書中において、「アルキル基」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~20個(C1~20)、炭素数3~15個(C3~15)、炭素数5~10個(C5~10)である。炭素数を指定した場合は、その数の範囲の炭素数を有する「アルキル」を意味する。例えば、C1~8アルキルには、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル等が含まれる。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルコシ基、アリールアルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0020】
本明細書中において、「アルコキシ基」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した構造であり、例えば直鎖状、分枝状、環状又はそれらの組み合わせである飽和アルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、シクロプロピルメトキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロプロピルエチルオキシ基、シクロブチルメチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロプロピルプロピルオキシ基、シクロブチルエチルオキシ基又はシクロペンチルメチルオキシ基等が好適な例として挙げられる。
【0021】
本明細書において、ある官能基について「置換基を有していてもよい」と定義されている場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらの置換基にはさらに置換基が存在していてもよい。このような例として、例えば、ハロゲン化アルキル基、ジアルキルアミノ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0022】
式(1)におけるYは、好ましくは、炭素数1~10、より好ましくは、炭素数1~5のアルキル基であることができる。典型的には、Yは、直鎖状のアルキル基であることが好ましい。Xが窒素原子の場合、Yは2つ存在することができ、この場合の2つのYは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、炭素数1~10、より好ましくは、炭素数1~5のアルキル基であることができる。
【0023】
好ましい態様において、Yのアルキル基は、任意の位置において1以上のハロゲン原子で置換されていることもできる。この場合、Yは、ハロゲン化アルキル基(ハロアルキル基)となる。かかるハロゲン化アルキル基の電気求引性によって、より優れた電池特性が得られる。本明細書中において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味する。置換の位置としては、Yのアルキル基の末端において1以上のハロゲン原子で置換されていることが好ましい。当該ハロゲン原子は、好ましくはフッ素であり、この場合、ハロゲン化アルキル基は、フルオロアルキル基である。好ましくは、Yは、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基であり、より好ましくは、炭素数1~10のフルオロアルキル基である。特に、末端にパーフルオロメチル基を有するアルキル基が好ましい。
【0024】
式(1)で表される環状リン酸エステルの好ましい具体例としては、以下の化合物(TFEP)が挙げられる。ただし、これに限定されるものではない。当該化合物は、Xが酸素原子であり、Yがトリフルオロエチル基となっている例である。
【化4】
【0025】
さらに、式(1)で表される環状リン酸エステルの好ましい別の具体例としては、以下の化合物(DMAP)を挙げることができる。ただし、これに限定されるものではない。当該化合物は、Xが窒素原子であり、2つのYがそれぞれメチル基となっている例である。
【化5】
【0026】
好ましい態様において、本発明の二次電池用電解液は、共溶媒として、アルキルカーボネート又はハロゲン原子を含有するアルキルカーボネートをさらに含むことができる。かかるアルキルカーボネートとしては、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(FEMC)を挙げることができる。
【0027】
本発明の二次電池用電解液は、場合により、上記以外の他の溶媒を含む混合溶媒とすることも可能である。かかる他の溶媒としては、例えば、エチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類;メトキシプロピオニトリルのニトリル類;酢酸メチル等のエステル類;トリエチルアミン等のアミン類;メタノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;含フッ素アルカン等を用いることができる。例えば、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、及びスルホラン等の非プロトン性有機溶媒を用いることもできる。
【0028】
本発明の二次電池用電解液において、環状リン酸エステルは、好ましくは10~100mol%、より好ましくは30~100mol%の割合で存在する。特に好ましくは、環状リン酸エステルが単一溶媒(すなわち、100mol%)として用いられる。
【0029】
(2)アルカリ金属塩
また、本発明の二次電池用電解液は、所定量のアルカリ金属塩を含む。ただし、本発明では、非特許文献1のような従来の難燃性溶媒の場合に必要とされていた高濃度のアルカリ金属塩を要することなく、より低い濃度のアルカリ金属塩の添加量で優れた電池特性を提供することができるという点でも特徴を有する。
【0030】
具体的には、本発明の二次電池用電解液中におけるアルカリ金属塩と溶媒の混合比は、アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が5mol以上であり、好ましくは、6mol以上であり、より好ましくは7mol以上である。溶媒量の上限については、正極・負極における電気化学的反応が進行する限り特に制限はされないが、例えば、アルカリ金属塩1molに対して溶媒12mol以下であり、好ましくはアルカリ金属塩1molに対して溶媒10mol以下であることができる。
【0031】
本発明の二次電池用電解液において用いられるアルカリ金属塩は、好ましくは、リチウム塩、ナトリウム塩である。本発明の電解液を用いる二次電池の種類に応じて、例えば、二次電池がリチウムイオン電池の場合にはリチウム塩が好ましく、二次電池がナトリウムイオン電池の場合にはナトリウム塩が好ましい。また、2種類以上のアルカリ金属塩を組み合わせた混合物を用いることもできる。
【0032】
当該アルカリ金属塩を構成するアニオンは、好ましくはフルオロスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、パーフルオロエタンスルホニル基、及びヘキサフルオロホスフェート基よりなる群から選択される1以上の基を含むアニオンである。例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミド([N(FSO2)2]-)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)イミド([N(CF3SO2)(FSO2)]-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(CF3SO2)2]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)2]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)(CF3SO2)]-)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)が好適である。
【0033】
したがって、当該アルカリ金属塩の具体例としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド)(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)イミド、又はリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6);或いは、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、ナトリウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)イミド、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)、ナトリウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド)(NaBETI)、ナトリウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)イミド、又はナトリウムヘキサフルオロホスフェート(NaPF6)が挙げられる。
【0034】
特に好ましいアルカリ金属塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)又はナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)である。これらの塩は、カチオン-アニオン相互作用が弱く、高濃度とした場合でも高いイオン電導性を有するためである。
【0035】
これらアルカリ金属塩に加えて、当該技術分野において公知の支持電解質を含むことができる。そのような支持電解質は、例えば、二次電池がリチウムイオン電池である場合には、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiNO3、LiCl、Li2SO4及びLi2S等及びこれらの任意の組み合わせから選択されるものが挙げられる。
【0036】
(3)その他の成分
また、本発明の二次電池用電解液は、その機能の向上等の目的で、必要に応じて他の成分を含むこともできる。しかしながら、本発明の二次電池用電解液は、塩単体として50℃以下の融点を有する常温溶融塩を含有しないことが好ましい。そのような溶融塩の具体例としては、イミダゾリウム塩やテトラフルオロホウ酸塩が挙げられる。本発明の二次電池用電解液は、そのような溶融塩を添加せずとも、既に十分なイオン電導性を有するからである。より好ましくは、本発明の二次電池用電解液は、電解液が有機溶媒とアルカリ金属塩のみからなる。
【0037】
他の成分としては、例えば、従来公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性およびサイクル特性を改善するための特性改善助剤が挙げられる。
【0038】
過充電防止剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソールおよび2,6-ジフルオロアニオール等の含フッ素アニソール化合物が挙げられる。過充電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
当該電解液が過充電防止剤を含有する場合、電解液中の過充電防止剤の含有量は、0.01~5質量%であることが好ましい。電解液に過充電防止剤を0.1質量%以上含有させることにより、過充電による二次電池の破裂・発火を抑制することがさらに容易になり、二次電池をより安定に使用できる。
【0040】
脱水剤としては、例えば、モレキュラーシーブス、芒硝、硫酸マグネシウム、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウムアルミニウム等が挙げられる。本発明の電解液に用いる溶媒は、前記脱水剤で脱水を行った後に精留を行ったものを使用することもできる。また、精留を行わずに前記脱水剤による脱水のみを行った溶媒を使用してもよい。
【0041】
高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための特性改善助剤としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N,N-ジメチルメタンスルホンイミド、N,N-ジエチルメタンスルホンイミド等の含硫黄化合物;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物;フルオロ炭酸エチレン(FEC)、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物が挙げられる。これら特性改善助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。電解液が特性改善助剤を含有する場合、電解液中の特性改善助剤の含有量は、0.01~5質量%であることが好ましい。
【0042】
2.二次電池
本発明の二次電池は、正極及び負極と、上述の二次電池用電解液を備えるものである。当該二次電池は、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池であることができる。リチウムイオン二次電池の場合、本発明の二次電池は、作動電圧が2.3V以上であることが好ましい。ナトリウムイオン二次電池の場合、本発明の二次電池は、作動電圧が2V以上であることが好ましい。
【0043】
(1)負極
本発明の二次電池における負極としては、当該技術分野において公知の電極構成を用いることができる。例えば、二次電池がリチウムイオン電池の場合には、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む電極が挙げられる。このような負極活物質としては、公知のリチウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができ、例えば、天然グラファイト(黒鉛)、高配向性グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite;HOPG)、非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。さらに他の例として、リチウム金属、金属窒化物のような金属化合物、リチウムと合金を形成し得る物質が挙げられる。例えば、リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、天然グラファイト(黒鉛)、高配向性グラファイト(HOPG)、非晶質炭素等の炭素質材料炭素質材料を用いることができる。二次電池の電圧とエネルギー密度を高め、機器駆動に必要な直列数を減らすという観点から、負極の作動電位が、金属リチウム電位に対して0.5Vより低い負極を用いることが望ましい。
【0044】
二次電池がナトリウムイオン電池の場合には、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む電極を用いることができる。このような負極活物質としては、公知のナトリウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができ、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。また、ナトリウムイオン金属、又はナトリウムイオン元素を含む合金、金属酸化物、金属窒化物等を用いることもできる。なかでも、負極活物質としては、乱れた構造を持つハードカーボン等の炭素質材料が好ましい。
【0045】
上記負極は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料および結着材(バインダ)の少なくとも一方を含有し、負極合材として負極集電体に付着させた形態であるものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質および結着材(バインダ)を有する負極とすることができる。粉末状の負極活物質を用いて負極を形成する方法としては、ドクターブレード法や圧着プレスによる成型方法等を用いることができる。
【0046】
導電性材料としては、例えば、炭素材料、金属繊維等の導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料を使用することができる。炭素材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等を使用することができる。また、芳香環を含む合成樹脂、石油ピッチ等を焼成して得られたメソポーラスカーボンを使用することもできる。
【0047】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂、或いは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを好ましく用いることができる。負極集電体としては、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0048】
(2)正極
本発明の二次電池の正極としては、当該技術分野において公知の電極構成を用いることができる。例えば、二次電池がリチウムイオン電池の場合には、正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等の1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)やピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(Li2S)などが挙げられる。具体例としては、高容量電極または高電圧電極として用いられるLiNixMnyCozO2(x+y+z=1)(NMC)、LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)(NCA)やLiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)を挙げることができる。当該正極には、導電性材料や結着剤を含有してもよい。二次電池がナトリウムイオン電池の場合にも、同様に公知の正極活物質を用いることができる。
【0049】
導電性材料及び結着剤(バインダ)としては、上記負極と同様のものを用いることができる。
【0050】
正極集電体金属としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等を用いることができる。
【0051】
(3)セパレータ
本発明の二次電池において用いられるセパレータとしては、正極層と負極層とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリイミド等の樹脂からなる多孔質シートや、不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等の多孔質絶縁材料等を挙げることができる。
【0052】
(4)形状等
本発明の二次電池の形状は、正極、負極、及び電解液を収納することができれば特に限定されるものではないが、例えば、円筒型、コイン型、平板型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0053】
なお、本発明の電解液及び二次電池は、二次電池としての用途に好適ではあるが、一次電池として用いることを除外するものではない。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0055】
1.環状リン酸エステルの合成
[1-1.TFEPの合成]
電解液の溶媒となる環状リン酸エステルとして、以下の構造を有する2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-1,3,2-ジオキサホスホラン2-オキシド(TFEP)を合成した。
【化6】
【0056】
2,2,2-トリフルオロエタノール(21.07g、210.6 mmol)及びトリエチルアミン(18.65g、184.3 mmol)を、氷水浴中の無水テトラヒドロフラン(THF、250 mL)に添加した。次に、2-クロロ-1,3,2-ジオキサホスホラン2-オキシド(25 g、175.5mmol)を上記混合物に30分間にわたって滴下し、反応混合物を一晩撹拌した。その後、トリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去し、THFをロータリーエバポレーターにより除去した。真空蒸留(130℃、0.4mbar)後、無色のオイル状の生成物(22.4 g、収率62.1%)を得た。得られたTFEPは、使用前に少なくとも2日間、4Åモレキュラーシーブ上に保管した。
1H NMR (CDCl3, ppm): λ 4.56-4.42 (m, 6H); 13C NMR (CDCl3, ppm): λ 124.6-120.2 (CF3), 66.5 (OCH2CH2O), 64.6 (OCH2)
【0057】
[1-2.DMAPの合成]
電解液の溶媒となる環状リン酸エステルとして、以下の構造を有する2-(ジメチルアミノ)-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オキシド(DMAP)を合成した。
【0058】
ジメチルアミン(72.0 ml、124 mmol)を、氷水浴中の無水テトラヒドロフラン(THF、250 ml)に加えた。次に、2-クロロ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オキシド(10g、70 mmol)とTHF(50 ml)の混合物を上記混合物に30分間にわたって滴下し、一晩混合した。その後、ジメチルアミン塩酸塩を濾過により除去し、THFをロータリーエバポレーターにより除去した。オイル状の生成物からエーテル溶媒を使ってDMAPを抽出した。ロータリーエバポレーターによってエーテル溶媒を除去し、DMAPを得た。
1H NMR (CDCl3, ppm): δ 4.1-4.2 (OCH2CH2O), 2.8 (6H); 13C NMR (CDCl3, ppm): δ 66.5 (OCH2CH2O), 36.5 (CH3)
【0059】
δ
2.電解液の調製
LiFSI塩(日本触媒株式会社)及び、共溶媒の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(FEMC)(ハロカーボンプロダクツ社)は、リチウム電池グレードの市販品をそのまま用いた。アルゴンガスを充填したグローブボックス内で、LiFSIをTFEP/FEMC混合溶媒(体積比で1:3)に溶解し、電解液を調製した。塩と溶媒のモル比は1:8とし、モル濃度は0.95Mとした。
【0060】
比較例として、FEMCのみにLiFSIを溶解させた電解液(モル比で1:8、濃度は0.98M)を調製した。また、同様に比較例として、従来の1.0M LiPF6を含有するEC/DMC電解液の市販品を購入した(岸田化学株式会社)。
【0061】
3.電極の調製
電極材料の天然グラファイト、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC)、LiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)は、それぞれSECカーボン、豊島製作所、および宝泉株式会社から購入した。NMC又はLNMOを、N-メチルピロリドン(NMP、和光)中のポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ)及びアセチレンブラック(AB、Li-400、デンカ)と混合して、カソードを作製した。重量比は、活物質:AB:PVdFを80:10:10とした。また、天然グラファイトをNMP中のPVdFと混合して、アノードを調製した(重量比は、グラファイト:PVdF=90:10)。ドクターブレードを使用して、スラリーをカソード用のAl箔集電体およびアノード用のCu箔集電体にコーティングした。 次に、得られた電極を60℃のオーブンで2時間乾燥させ、その後、使用前に真空下120℃でさらに乾燥させた。活物質の質量負荷は、カソードで3~4mg/cm2、アノードで1.4~2mg/cm2とした。
【0062】
4.電気化学的測定の条件
LSV測定(Linear Sweep Voltammetry)は、Pt又はAlディスクを作用電極とし、リチウム金属を参照電極及び対電極とした3電極セルを用いて行った。サイクリックボルタンメトリー測定(CV)は、グラファイトアノード、作用電極としてNMC又はLNMOカソード、参照/対向電極としてリチウム金属を用いた2電極コインセルを用いて、0.1mVs-1のスキャンレートで行った。LSV測定とCV測定のいずれにおいても、VMP3ポテンシオスタット(BioLogic社)を用いた。グラファイト|Li、NMC|Li、及びLNMO|Liハーフセルは、いずれもグラスファイバーセパレータを使用した2032型コインセルとした。定電流充放電試験及びレート能力試験は、TOSCAT-3100充放電ユニット(Toyo System Co.)を用いて行った。充放電測定は、定電圧モードを使用せずに同じCレートで行った。電気化学インピーダンス分光法(EIS)は、10mHz~1MHzの周波数範囲で10mVの振幅の開回路電位で3及び100サイクル後に行った。
【0063】
5.電解液の酸化安定性の評価
上記2.で調製した電解液の酸化安定性を、Pt電極を用いたLSV測定により評価した。
図1aに示すように、比較例の1.0M LiPF
6を含有するEC/DMC電解液は、0.02mAcm
-2における4.4Vの酸化電位を示したが、本発明の0.95M LiFSIを含有するTFEP/FEMC電解液は最大4.9Vまで安定であり、高電位正極にも有用であることが分かった。また、イオン電導度と粘度の温度依存性を測定した結果、TFEP/FEMC電解液の値(それぞれ、2.19mScm
-1、6.20mPa)は、EC/DMC電解液と同等の値を有し、電池用途に要求される特性を満たしていることが分かった。
【0064】
6.電解液の難燃性の評価
上記2.で調製した電解液について、可燃性試験を行った。
図1bに示すように、従来のEC/DMC電解液は、非常に揮発性かつ可燃性であり、すぐに発火し、トーチを外した後も燃焼が続いた。自己消火時間(SET)は、68±3s/gであった。FEMC単独の電解液も、
図1cに示すように、可燃性であった。これに対し、本発明のTFEP/FEMC電解液は、全く発火せず、SETはゼロ(s/g)であった。この結果は、環状リン酸エステルTFEPを含む本発明の電解液の優れた不燃性を示している。
【0065】
7.グラファイト負極へのリチウム挿入挙動の評価
上記2.で調製した3種類の電解液を用いて作製したグラファイト|Liコイン電池の充放電曲線を
図2aに示す。FEMCのみの電解液に基づくセルは、連続的な電解液分解及び/又は溶媒共挿入により0.9Vで長いプラトーを示したが、これはグラファイト表面にSEI層を形成できないことを示している(
図2aの上段)。一方、 本発明のTFEP/FEMC電解液では、0.05~0.25Vの領域でいくつかの電圧プラトーが観察され(
図2aの下段)、EC/DMC電解液(
図2aの中段)とほぼ同じ充放電曲線が得られた。これは、Li-グラファイトインターカレーション化合物による連続的な段階形成に特徴的なものであり、完全にリチウム化されたグラファイト(LiC
6)の理論容量(372mAhg
-1)とほぼ等しいといえる。
【0066】
さらに、本発明のTFEP/FEMC電解液の初期クーロン効率は84.6%で、EC/DMC電解液(85.4%)とほぼ同じであった。最初の充電中に約1Vで観察された小さなプラトーは、安定したSEI膜を形成するTFEPの不可逆的な分解によるものと考えられる。実際、
図2bに示すように、C/2のレートで400サイクルにわたって、TFEP/FEMC電解液のサイクル特性(91.4%)は、EC/DMC電解液(80.8%)に比べて大幅に改善した。また、2Cのレートにおいても、TFEP/FEMC電解液の平均クーロン効率は99.85%であり、60%の容量維持率を示した。
【0067】
また、本発明のTFEP/FEMC電解液中で充放電を行ったグラファイト電極の表面をX線光電子分光(XPS)を用いて調べた結果、TFEPの分解により生成したリンを含む化合物が検出された。したがって、TFEPがSEI膜形成に寄与していることが実証された。
【0068】
8.正極アルミニウム集電体の腐食抑制
上記2.で調製したLiFSI/FEMC電解液及びLiFSI/TFEP/FEMC電解液中において、アルミニウム電極のクロノアンペロメトリー(CA)測定を行った結果を
図3に示す。保持電位はリチウム基準4.9Vとした。LiFSI/FEMC電解液を用いた場合、時間とともに電流値が増加した。測定後のアルミニウム電極の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から、酸化腐食の痕跡が確認された。これは、LiFSI塩を用いた場合に一般的に観察される現象であり、リチウムイオン電池の劣化を引き起こす副反応である。一方、LiFSI/TFEP/FEMC電解液を用いた場合、電流値は一時的に上昇するもののその後減少に転じた。測定後のアルミニウム電極のSEM画像より、腐食の痕跡は確認されなかった。以上より、TFEP溶媒を用いることで、LiFSIに起因するアルミニウムの酸化腐食を抑制できることが明らかとなった。
【0069】
上記CA測定後のアルミニウム電極のXPS測定の結果を
図4に示す。商用のLiPF
6/EC/DMC電解液では、フッ化アルミニウム(AlF
3)やフッ化リチウム(LiF)の生成が確認された。これらはLiPF
6塩に由来するものであり、一般的に腐食抑制に寄与する不働態被膜成分であるとされている。一方、LiFSI塩を含むFEMC電解液ではAlF
3が生成しなかった。したがって、上記CA測定で観察されたように、アルミニウムの腐食が起こったと考えられる。それに対し、LiFSI/TFEP/FEMC電解液では、LiPF
6塩を用いた場合と同様にLiFとAlF
3の生成が確認され、TFEPがアルミニウムの不働態化をも可能にすることが実証された。
【0070】
8.正極への適用
本発明のLiFSI/TFEP/FEMC電解液と商用のLiPF
6/EC/DMC電解液を用いて作製したLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(NMC)|Liコイン電池の充放電曲線を
図5に示す。充電カットオフ電圧は4.5Vとし、初回3サイクルをC/10レート、それ以降をC/2レートとした。商用LiPF
6/EC/DMC電解液ではサイクルに伴う容量の劣化が観測され、200サイクル後の容量維持率は28.3%であった。一方、本発明のLiFSI/TFEP/FEMC電解液を用いた場合、200サイクル後の容量維持率は86.5%であり、長期の安定充放電サイクルが可能であった。これは、当該電解液が高い酸化安定性とアルミニウム不働態化機能の双方を有しているためである。
【0071】
本発明のLiFSI/TFEP/FEMC電解液を更に高い電圧を示すLiNi
0.5Mn
1.5O
4(LNMO)|Liコイン電池に適用した場合の充放電曲線を
図6に示す。充電カットオフ電圧は4.9Vとし、初回3サイクルをC/10レート、それ以降をC/2レートとした。200サイクル後の容量維持率は70%であり、安定した充放電サイクルが可能であった。
【0072】
9.LiPF
6
を用いたTFEP/FEMC電解液の充放電測定
上記2.で調製したTFEP/FEMC電解液について、支持塩をLiFSIからLiPF
6に変えた電解液(塩:溶媒のモル比は1:8)を調製し、グラファイト|Liコイン電池の充放電測定を行った結果を
図7に示す。C/20レートで測定した。LiPF
6塩を用いた場合も同様の充放電曲線が観測され、グラファイト電極にSEI被膜が形成されたことが分かる。したがって、本発明のTFEP溶媒によるSEI被膜形成効果は、支持塩の種類にかかわらず現れることが実証された。
【0073】
10.共溶媒を用いないTFEP電解液の充放電測定
上記2.で調製したTFEP/FEMC電解液について、FEMCを用いずに、TFEP単独溶媒(100mol%)とした電解液(塩:溶媒のモル比は1:8)を調製し、グラファイト|Liコイン電池の充放電測定を行った結果を
図8及び
図9に示す。C/20レートとし、温度は25℃または45℃とした。共溶媒としてFEMCを用いたときと比べて高粘度であるため、分極が大きくなり、得られる容量は小さいが、可逆的な充放電サイクルが可能であることが分かった。したがって、本発明のTFEP溶媒は共溶媒の存在の有無にかかわらず使用可能であることが実証された。
【0074】
11.共溶媒を変更したTFEP電解液の充放電測定
上記2.で調製したTFEP/FEMC電解液について、共溶媒をFEMC以外の溶媒とした電解液(塩:溶媒のモル比は1:8)を調製し、グラファイト|Liコイン電池の充放電測定を行った結果を
図10~12に示す。共溶媒として、エチルメチルカーボネート(EMC)又はジメチルカーボネート(DMC)を用いた。
図10はTFEP:EMC=2:8の混合溶媒、
図11はTFEP:DMC=2:8の混合溶媒、
図12はTFEP:DMC=1:1の混合溶媒とした。C/20レートとし、温度は25℃とした。FEMCを用いた場合と比較して、初回不可逆容量は大きいが、2サイクル目以降は可逆的な充放電が可能になることが分かった。したがって、本発明のTFEP溶媒はさまざまな共溶媒とともに使用可能であることが実証された。
【0075】
12.電解液の総合性能の比較
上記2.で調製したLiFSI/TFEP/FEMC電解液と商用のLiPF
6/EC/DMC電解液の総合性能の比較を
図13に示す。本発明のLiFSI/TFEP/FEMC電解液は、電位窓、安全性及び充放電サイクル特性において商用電解液を大きく上回っている。また、イオン伝導度、粘度及び熱安定性についても商用電解液と同等の性能となっている。以上より、本発明のLiFSI/TFEP/FEMC電解液は、商用有機電解液に対して総合的な優位性がある。
【0076】
13.DMAP電解液の充放電測定
さらに、TFEPを上記1.で合成したDMAPに替えた電解液について、充放電測定を行った。上記2.と同様の手順でDMAP/EMC電解液(DMAP:EMC=1:3)を調製し、黒鉛|Liハーフセルについて黒鉛負極の充放電可逆性を測定した結果を
図14~15に示す。
図14では支持塩としてLiFSIを用い、
図15では支持塩としてLiPF
6を用いた。この結果、アルキルアミノ基を有する環状リン酸エステル化合物であるDMAPを用いた場合でも、上記TFEPと同様に可逆的な充放電が可能であることが実証された。また、支持塩としてLiFSIだけでなく、LiPF
6を用いた場合も同様に機能し得ることも示された。これらの結果は、本発明の環状リン酸エステル電解液の汎用性を示すものである。