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特許7483303ポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析する方法
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  • 特許-ポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20240508BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
G01N24/00 530K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022573742
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 KR2021017713
(87)【国際公開番号】W WO2022220365
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2021-0050041
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒョンチュル・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ホ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・キュ・オ
(72)【発明者】
【氏名】ユジン・アン
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-515245(JP,A)
【文献】特開2012-001634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0137442(US,A1)
【文献】K Suganuma et al,,NMR Analysis of Poly(Lactic Acid) via Statistical Models,Polymers (Basel),,11(4),SW,2019年04月11日,725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-G01N 24/14
C08L 101/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Oxford Journals
MDPI
PubMed
CAS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ポリ乳酸のNMRスペクトルから立体規則性(tacticity)定量データを得る段階;
2)L-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータ、およびラセミ化パラメータの三つのパラメータで仮想のポリ乳酸配列を得る段階;
3)前記段階2の仮想のポリ乳酸の立体規則性データを得る段階;
4)前記段階1の立体規則性定量データと前記段階3の仮想のポリ乳酸の立体規則性定量データの標準偏差を得る段階;
5)前記段階4の標準偏差が最小化されるL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータ、およびラセミ化パラメータを得るために前記段階2~4を繰り返す段階;および
6)前記段階5から得られたL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータから、ポリ乳酸内D含量を得る段階を含む、
ポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析する方法。
【請求項2】
前記段階1の立体規則性定量データは、前記ポリ乳酸のtetradに対するintegral intensityデータである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸のtetradは、mmm、mrm、mmr、rmm、rmr、mrr、rrm、およびrrrである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記段階1のNMRスペクトルは、ポリ乳酸の13C NMRスペクトルおよびH NMRスペクトルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記段階2のL-ラクチド比率パラメータは、乳酸繰り返し単位を生成する時、(L-乳酸)-(L-乳酸)繰り返し単位(LL)の生成確率である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記メソ-ラクチド比率パラメータは、乳酸繰り返し単位を生成する時(L-乳酸)-(D-乳酸)繰り返し単位(LD)の生成確率および(D-乳酸)-(L-乳酸)繰り返し単位(DL)の生成確率である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記段階2のラセミ化パラメータは、仮想で生成されたポリ乳酸内で全体繰り返し単位の中の任意の繰り返し単位に対してL-乳酸繰り返し単位(L)はD-乳酸繰り返し単位(D)に、D-乳酸繰り返し単位(D)はL-乳酸繰り返し単位(L)に変更される比率である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記段階3の立体規則性データは、前記段階2の仮想のポリ乳酸のtetradに対する定量データである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記段階4の標準偏差は、前記段階1のデータと前記段階3のデータの対応する各8種の定量データの差を自乗したものの合計の自乗根である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記段階4の標準偏差が0.05未満である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2021年4月16日付韓国特許出願第10-2021-0050041号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、ポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ポリ乳酸(Polylactic Acid)は生分解性特性を有していると同時に引張強度および弾性率などの機械的物性に優れた素材であって、多様な分野で広く使用されている。ポリ乳酸はホモポリマーであるが、立体規則性によって多様な構造を有することができる。ポリ乳酸は一般にラクチドの開環重合を通じて製造され、ラクチドは光学異性体が存在するため繰り返し単位内のこのような光学異性体の配列によってポリ乳酸の特性が変化することがある。
【0004】
特に、ポリ乳酸内のD-乳酸繰り返し単位はポリ乳酸の特性に多くの影響を与えるため、ポリ乳酸内の立体規則性(tacticity)の分析が重要である。従来はポリ乳酸内のD-乳酸繰り返し単位含量(以下、D含量)を分析するために、ポリ乳酸を加水分解して各単量体に分解しこれをLC(liquid chromatography)分析するか、またはポリ乳酸を加水分解して各単量体に分解しエステル化反応を通じて乳酸アルキルに転換した後、これをGC(gas chromatography)分析した。しかし、前記の方法は過程が複雑で長い時間がかかり、特に分析過程でラセミ化(racemization)が起こる可能性があって、実際分析データの信頼性が低下することがある。
【0005】
他の方法として、前記の方法と異なり、ポリ乳酸を分解せず有機溶媒に溶解させてポラリメトリー(polarimetry)を分析する方法がある。しかし、前記方法は有機溶媒でのポリ乳酸の濃度によって誤差が大きくなる問題があり、キラリティー(chirality)を有する不純物や添加剤を含む場合、誤差が発生する恐れがある。
【0006】
一方、同じD含量を有するポリ乳酸であっても原料内L-ラクチド、メソ-ラクチド、およびD-ラクチド比率が変わることがあり、これからポリ乳酸の立体規則性に差が発生し物性に影響を与えることがある。前記の方法など従来の分析方法では原料上の比率差を確認しにくかった。
【0007】
したがって、従来の方法と異なり迅速かつ正確にポリ乳酸内D含量、原料内L-ラクチド、メソ-ラクチド、およびD-ラクチドの相対的比率を分析する方法が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリ乳酸に対する特別な化学的処理なく、迅速かつ正確にポリ乳酸内D含量、原料内L-ラクチド、メソ-ラクチド、およびD-ラクチドの相対的比率を分析する方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は下記の段階を含むポリ乳酸内D含量を分析する方法を提供する:
1)ポリ乳酸のNMRスペクトルから立体規則性(tacticity)定量データを得る段階;
2)L-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータ、およびラセミ化パラメータの三つのパラメータで仮想のポリ乳酸配列を得る段階;
3)前記段階2の仮想のポリ乳酸の立体規則性データを得る段階;
4)前記段階1の立体規則性定量データと前記段階3の仮想のポリ乳酸の立体規則性定量データの標準偏差を得る段階;
5)前記段階4の標準偏差が最小化されるL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータ、およびラセミ化パラメータを得るために前記段階2~4を繰り返す段階;および
6)前記段階5から得られたL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータから、D含量を得る段階。
ポリ乳酸はラクチドの重合で製造される重合体であって、ラクチドが下記のようにL-ラクチド、メソ-ラクチド、およびD-ラクチドの立体構造を有することができるため、ポリ乳酸内の繰り返し単位もこれに起因したそれぞれの立体構造を有することができる。このような立体構造はポリ乳酸の物性に影響を与えるため、ポリ乳酸内立体構造の分析が必要である。
【化1】
【0010】
一方、NMRを用いたポリ乳酸の立体規則性(tacticity;タクティシティー)分析方法が知られている。具体的に、ポリ乳酸のNMRスペクトルを分析すれば、ポリ乳酸内の単量体の配列に関する情報を得ることができる。しかし、これからポリ乳酸内にD-乳酸繰り返し単位がどの程度存在するかは直接的に分析しにくく、その理由はそれぞれの分析されたタクティシティーに二つのポリ乳酸配列が対応するので、D-乳酸繰り返し単位の含量を計算することができないためである。
【0011】
よって、本発明は、NMRを用いたポリ乳酸の立体規則性情報に加えて、仮想のポリ乳酸配列に対する立体規則性情報を得た後、二つの立体規則性情報を互いに比較する方法で、ポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量、原料中L-ラクチド、メソ-ラクチド、D-ラクチド含量を分析する方法を特徴とする。
【0012】
よって、各段階別に本発明を詳しく説明する。
【0013】
(段階1)
本発明の段階1は、ポリ乳酸のNMRスペクトルから立体規則性(tacticity)定量データを得る段階であって、実際に分析しようとするポリ乳酸の立体規則性定量データを得る段階である。
【0014】
ポリ乳酸内に存在する乳酸繰り返し単位は、L-乳酸繰り返し単位とD-乳酸繰り返し単位が存在し、これらの配列によって異なるNMRピークが得られる。このような観点から、前記段階1の立体規則性定量データは、ポリ乳酸のtetrad intensityデータを意味する。具体的に、ポリ乳酸内4つの繰り返し単位の配列(tetrad)によってNMRピークが変わり、13C NMRとH NMRで、下記表1のようにchemical shiftが高い側から低い側に下記のピークを得ることができる(Polymers 2019、11、725)。
【表1】
【0015】
上記表1中、‘m’は二つの繰り返し単位が互いに同一であることを意味し、‘r’は二つの繰り返し単位が互いに異なることを意味する。一例として、前記‘rmr’はポリ乳酸内四つの繰り返し単位の配列が‘LDDL’であるかまたは’‘DLLD’であることを意味する。
【0016】
このような観点から、前記段階1のNMRスペクトルはポリ乳酸の13C NMRスペクトルおよびH NMRスペクトルを意味する。また、前記各ピークのintegral intensityを立体規則性(tacticity)定量データとして得ることができ、四つの繰り返し単位の配列(tetrad)によって全8種の定量データを得ることができる。また、分析のために、前記全8種のintegral intensityの合計に対する各integral intensityの比率を定量データとして得ることができる。
【0017】
(段階2)
本発明の段階2は、仮想のポリ乳酸配列を得る段階である。このために、三つのパラメータを任意に設定し、一つはL-ラクチド比率パラメータであり、他の一つはメソ-ラクチド比率パラメータであり、また他の一つはラセミ化パラメータである。
【0018】
前記‘L-ラクチド比率パラメータ’は、乳酸繰り返し単位を生成する時、(L-乳酸)-(L-乳酸)繰り返し単位(LL)の生成確率を意味する。即ち、前記‘L-ラクチド比率パラメータ’は‘(LL繰り返し単位が生成される確率)/(LL繰り返し単位が生成される確率)+(LD繰り返し単位が生成される確率)+(DL繰り返し単位が生成される確率)+(DD繰り返し単位が生成される確率))’を意味する。
【0019】
前記‘メソ-ラクチド比率パラメータ’は、乳酸繰り返し単位を生成する時、乳酸繰り返し単位を生成する時(L-乳酸)-(D-乳酸)繰り返し単位(LD)の生成確率および(D-乳酸)-(L-乳酸)繰り返し単位(DL)の生成確率を意味する。即ち、前記‘メソ-ラクチド比率パラメータ’は‘((LD繰り返し単位が生成される確率)+(DL繰り返し単位が生成される確率))/(LL繰り返し単位が生成される確率)+(LD繰り返し単位が生成される確率)+(DL繰り返し単位が生成される確率)+(DD繰り返し単位が生成される確率))’を意味する。
【0020】
例えば、前記‘L-ラクチド比率パラメータ’が0.90であり‘メソ-ラクチド比率パラメータ’が0.05であれば、乳酸繰り返し単位を生成する時、LL繰り返し単位が生成される確率が0.90であり、LDまたはDL繰り返し単位が生成される確率が0.05であり、DD繰り返し単位が生成される確率が0.05であることを意味する。
【0021】
前記(LD繰り返し単位が生成される確率)と(DL繰り返し単位が生成される確率)は本発明の目的上、影響を与えないと見なされるが、必要によって(LD繰り返し単位が生成される確率)と(DL繰り返し単位が生成される確率)間の比率をまた一つのパラメータとして導入することもできる。
【0022】
前記‘ラセミ化パラメータ’は、仮想で生成されたポリ乳酸内で全体繰り返し単位の中の任意の繰り返し単位に対してL-乳酸繰り返し単位(L)はD-乳酸繰り返し単位(D)に、D-乳酸繰り返し単位(D)はL-乳酸繰り返し単位(L)に変更される比率を意味する。例えば、前記‘ラセミ化パラメータ’が0.10である場合、仮想で生成されたポリ乳酸内で全体繰り返し単位の中の任意の10%に対してその立体倍率が反対になることを意味する。
【0023】
具体的に、任意のL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータを設定し、前記L-ラクチド比率パラメータおよびメソ-ラクチドパラメータによってL-ラクチドを意味するLL配列とメソ-ラクチドを意味するLD配列またはDL配列およびD-ラクチドを意味するDD配列を各パラメータの比率によって確率的に配列する。その次に、全体配列の中の前記ラセミ化パラメータ比率に該当する数だけの繰り返し単位を無作為に選んで、L-乳酸である場合はD-乳酸に、D-乳酸である場合はL-乳酸に変更する方式で仮想のポリ乳酸配列を得ることができる。
【0024】
一方、前記仮想のポリ乳酸配列は、繰り返し単位の長さが10,000~1,000,000であってもよい。
【0025】
(段階3)
本発明の段階3は、前記段階2の仮想のポリ乳酸の立体規則性データを得る段階である。
【0026】
前記段階2から得られた仮想のポリ乳酸配列の情報を知っているため、これから前記段階1のようなポリ乳酸の立体規則性データを得ることができる。例えば、前記段階2から得られた仮想のポリ乳酸の繰り返し単位配列がLLLDDLLLLLである場合、LLLD、LLDD、LDDL、DDLL、DLLL、LLLL、LLLLをそれぞれ一回ずつ数えて定量データを得ることができ、これは前記段階1と同様に四つの繰り返し単位の配列(tetrad)によって全8種の定量データを得ることができる。
【0027】
(段階4および5)
本発明の段階4は、前記段階1から得られたポリ乳酸のNMRスペクトルから立体規則性(tacticity)定量データと、前記段階3から得られた仮想のポリ乳酸の立体規則性データの標準偏差を得る段階である。また、本発明の段階5は、前記段階4の標準偏差が最小化されるL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータを得るために、L-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータを変化させて前記段階2~4を繰り返す段階である。
【0028】
好ましくは、前記標準偏差は、前記段階1のデータと前記段階3のデータの対応する各8種の定量データの差を自乗したものの合計の自乗根を意味する。前記標準偏差が小さいほど実際のポリ乳酸と仮想のポリ乳酸の配列が類似していると仮定することできる。
【0029】
好ましくは、前記標準偏差が0.05未満である。より好ましくは、前記標準偏差が0.01未満、または0.005未満である。一方、前記標準偏差の最小化とは、必ずしも理論的に可能な最小値ではなく、前記0.05未満である場合を含むと理解されなければならない。
【0030】
(段階6)
本発明の段階6は、前記段階5から得られたL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータから、ポリ乳酸内D含量を得る段階である。
【0031】
前記段階5を通じて前記標準偏差が最小化された仮想のポリ乳酸の配列を得たところ、これからポリ乳酸内D含量を得る段階である。この時、実際のポリ乳酸と仮想のポリ乳酸の配列が類似していると仮定することができるので、仮想のポリ乳酸内D含量を、実際のポリ乳酸内D含量として予測することができる。
【0032】
一方、前記段階5を通じて仮想のポリ乳酸の配列を知っているため、これからD含量を容易に計算することができる。
【発明の効果】
【0033】
前述のように、本発明によるポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析する方法は、ポリ乳酸に対する特別な化学的処理なく、ポリ乳酸のNMRデータと仮想のポリ乳酸を用いることによって、迅速かつ正確にポリ乳酸内D-乳酸繰り返し単位の含量を分析することができるという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施例で測定したポリ乳酸のNMRデータを示したものである。
図2】本発明の実施例で測定したポリ乳酸のNMRデータを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を下記の実施例でより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明の実施形態を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【実施例
【0036】
以下、5種のポリ乳酸を使用した。
-L175(Total Corbion社)
-LX175(Total Corbion社)
-LX575(Total Corbion社)
-2003D(NatureWorks社)
-4032D(NatureWorks社)
【0037】
1)ポリ乳酸のNMRスペクトル
前記各ポリ乳酸に対して13C NMRとH NMRをそれぞれ測定し、その結果を図1および2に示した。
【0038】
また、図1および2に示されたintegral intensityを分析し、各tetrad別に下記表2の立体規則性(tacticity)定量データを得た。
【表2】
【0039】
2)仮想のポリ乳酸配列
前記ポリ乳酸3種それぞれに対して任意のL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチドおよびラセミ化パラメータを設定し、繰り返し単位の長さが100,000になるように配列した。具体的に、L-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータによってLL配列、LD配列、DL配列およびDD配列を配列して、繰り返し単位が100,000の長さになるポリ乳酸配列を得た。その次に、全体配列の中のラセミ化パラメータ比率に該当する数だけの繰り返し単位を無作為に選んで、L-乳酸である場合はD-乳酸に、D-乳酸である場合はL-乳酸に変更した。
【0040】
得られた各仮想のポリ乳酸配列から立体規則性配列を分析し、これを前記表2の乳酸配列に合わせて分析した。これにより各得られた立体規則性定量データを前記表2のデータと比較して、標準偏差(各8種の定量データの差を自乗したものの合計の自乗根)が最小化されるようにL-ラクチド比率パラメータ、メソ-ラクチド比率パラメータおよびラセミ化パラメータを変更して仮想のポリ乳酸配列を繰り返して得た。
【0041】
標準偏差が最小化された時の仮想のポリ乳酸配列からD-乳酸単位含量を計算して、その結果を下記表3に示した。この時、D-乳酸単位含量は、仮想のポリ乳酸の総繰り返し単位数に対するD-乳酸の繰り返し単位数で計算した。
【表3】
【0042】
前記のように本発明による実施例の分析方法は、試料に対する化学的処理が省略されて分析方法が簡単であり、また化学的処理に使用される試薬などを使用しないので安定性が高い。また、Tacticityを分析することによって乳酸単位の配列を把握することができるので、同一なD含量下でもMeso-Lactideによる寄与が多いかD-Lactideによる寄与が多いか判断することができるという利点がある。
【0043】
比較例1
文献(Lee Tin Sin、Polylactic Acid A Practical Guide for the Processing、 Manufacturing、and Applications of PLA Second Edition)に提示された方法を用いて加水分解およびエステル化してL-乳酸メチルおよびD-乳酸メチルに転換し乳酸メチルの中のD-乳酸メチル含量を分析してポリ乳酸内D-乳酸単位含量を測定した。
【0044】
具体的には、ポリ乳酸試料を65℃の加熱条件下で水酸化カリウム-メタノール溶液に溶解させた。硫酸を前記溶液に投入し同一温度下で加熱した。脱イオン水とメチレンクロライドを前記溶液に投入して混合した後、二つの溶液相に分離されるように静置させた。下層溶液を採取しChiral GC-FIDを用いて分析した。
【0045】
前記結果を下記表4に示した。
【表4】
【0046】
前記比較例1の分析方法を前述の本発明の実施例の分析方法と比較すると、前記比較例1の分析方法は加水分解およびエステル化が行われなければならないので分析方法が複雑であり、また硫酸を使用しなければならないので分析者の安全性に問題があるという短所がある。また、本発明の実施例の分析方法はTacticityを分析することによって乳酸単位の配列を把握することができて、同一のD含量下でもMeso-Lactideによる寄与が多いかD-Lactideによる寄与が多いか分析することができる反面、前記比較例1の方法はこのような分析が難しい。
【0047】
比較例2
論文(Polymers 2019、11、725)を用いて統計的モデル方法で、ポリ乳酸内D-乳酸単位含量を計算した。
【0048】
具体的に、先に表2のように得られた立体規則性(tacticity)定量データに対して、前記論文Table3に記載された各変数(p1、p2、f1)の値をエクセルの検索機能で得た。この時、p1はL/(L+D)を、p2はLL/(LL+DD)を、f2は前記論文の‘Two-State’のモデルでの変数を意味する。
【0049】
前記結果を下記表5に示し、比較のために前記表3および表4の結果も共に記載した。
【表5】
【0050】
前記比較例2の分析方法を前述の本発明の実施例の分析方法と比較すれば、Single Addition Factorが高いかPair Addition Factorが高いかによってD含量がMeso-LactideからきたかD-Lactideからきたか間接的に判断することはできるが、数値で示しにくいという短所がある。また、前記比較例2の分析方法は確率論に基づいてTacticity別比率を計算するため標準偏差が比較的に大きいためD含量定量側面から正確性が低下するという短所がある。
図1
図2